(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】立体造形物の製造装置及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20220531BHJP
B29B 9/14 20060101ALI20220531BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20220531BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20220531BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220531BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220531BHJP
B29K 105/14 20060101ALN20220531BHJP
B33Y 70/10 20200101ALN20220531BHJP
【FI】
B29C64/314
B29B9/14
B29B11/16
B29C64/153
C08K7/02
C08L101/00
B29K105:14
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2018120561
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018047520
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 重徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 康之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】鴨田 紀一
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-040811(JP,A)
【文献】特開2004-148601(JP,A)
【文献】特開平04-212810(JP,A)
【文献】特開2013-063641(JP,A)
【文献】特表2017-527474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/00-9/16
B29B 11/00-11/16
B29C 48/00-48/96
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造装置であって、
繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子が収容されている供給槽と、前記供給槽から前記立体造形用樹脂粒子を供給する立体造形用樹脂粒子供給手段とを有し、
前記立体造形用樹脂粒子は、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向しており、
前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子群と、前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子群とを含み、
前記樹脂粒子の高さが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項2】
立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造方法であって、
繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子を用いて立体造形物を造形する工程を含み、
前記立体造形用樹脂粒子は、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向しており、
前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子群と、前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子群とを含み、
前記樹脂粒子の高さが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項3】
立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造方法であって、
前記立体造形用樹脂粒子として、繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子を用いて立体造形物を造形する工程と、
前記樹脂粒子における繊維状物質を、前記硬化層を積層する際の積層する高さ方向に揃えて造形する第1の造形工程と、
を含み、
前記樹脂粒子の高さが、5μm以上500μm以下であることを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記樹脂粒子における繊維状物質を、前記硬化層を積層する際の積層面に平行な方向に揃えて造形する第2の造形工程を含む、請求項3に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子、及びその製造方法、並びに立体造形物の製造への適用に関する。
【背景技術】
【0002】
立体造形物を製造する方式として、粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式が知られている。この方式は金属、無機物、樹脂等の立体造形用粉末を積層し、各層毎もしくは複数層毎に、立体造形用粉末粒子を光、若しくは熱源により設定された形状パターンに造型粉末を溶着させ、立体造形物を作製する方法である。
PBF方式としては、選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective laser sintering)方式や、マスクを使い平面状にレーザーを当てるSMS(selective mask sintering)方式などが知られている。また、上記方式以外にも、インクを用い熱源を照射するHSS(high speed sintering)方式、バインダー成分を吐出し造形物を造形した後焼結するBJ(Binder jetting)方式などが知られている。
立体造形物を製造する際に用いられる樹脂の粉末としては、重合法等で作られる球形の樹脂粉末、あるいは凍結粉砕法等で作られる不定形の樹脂粉末が広く用いられている。
また略円筒状の樹脂粉末も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、機能や特性の異方性が付与された樹脂粒子、例えば特定方向の強度を向上させた樹脂粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
本発明の樹脂粒子は、
繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子であって、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、機能や特性の異方性が付与された樹脂粒子、例えば特定方向の強度を向上させた樹脂粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、柱状の樹脂粒子の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、柱状の樹脂粒子の他の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、立体造形用樹脂粒子として使用する場合に、柱状の樹脂粒子の繊維状物質の配向方向が、硬化層を積層する際の積層する高さ方向(Z方向)に揃っていることを説明する模式図である。
【
図4】
図4は、立体造形用樹脂粒子として使用する場合に、柱状の樹脂粒子の繊維状物質の配向方向が、硬化層を積層する際の積層面に平行な方向(XY方向)に揃っていることを説明する模式図である。
【
図5】
図5は、立体造形用樹脂粒子における柱状の樹脂粒子の繊維状物質の配向方向が、Z方向とXY方向とのいずれかに揃っていることを説明する模式図である。
【
図6】
図6は、繊維状物質を含有する樹脂を延伸することによって、繊維状物質の配向方向を同じ方向に揃えていることを説明する模式図である。
【
図7】
図7は、カット長を短く設定して作製した柱状の樹脂粒子を示す写真である。
【
図8】
図8は、カット長を長く設定して作製した柱状の樹脂粒子を示す写真である。
【
図9】
図9は、樹脂粒子の柱状の形状の一例を示す写真である。
【
図10C】
図10Cは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。
【
図10D】
図10Dは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図10E】
図10Eは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図10F】
図10Fは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図10G】
図10Gは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図10H】
図10Hは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図10I】
図10Iは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
造型物の強度を向上する為に、樹脂粉末にガラスファイバー、カーボンファイバーなどの繊維状物質を混合、添加することは知られている。
しかし、ガラスファイバー、カーボンファイバーなどの繊維状物質を樹脂粉末に混合、添加しようとすると、樹脂粉末を成膜して積層するときに繊維の長手方向は、積層面に平行な方向(平面のXY方向)に沿って積層されてしまうことがわかった。
立体造形物を製造する方法においては、積層間の密着性の観点からXY方向の強度は高くなりやすいが、それに比べ積層する高さ方向(Z方向)の強度は低い。樹脂粉末に繊維状物質を混合・添加したとしても、繊維状物質の繊維方向がXY方向を向いているため、XY方向の強度は増すが、Z方向の強度向上には繋がらない。
また繊維状物質を含有させた樹脂粉末を用いて造形しても、樹脂粉末が積層される際、特に方向性を持たずランダムな方向に配置されるため、繊維状物質の配向方向もランダムな方向を向いて造形される。したがって、立体造形物全体としては強度の向上が期待できるが、例えば、ある特定の方向の強度を向上させた立体造形物の提供は困難である。
本発明者らは、検討を重ねた結果、例えば、ある特定方向の強度を高めるために使用することができる繊維状物質を含有する樹脂粒子として、以下の構成の樹脂粒子が有効であることを見出した。
さらに、この樹脂粒子を立体造形物を製造する材料である立体造形用樹脂粒子として使用すれば、立体造形物のある特定の方向の強度、特に立体造形物を構成する造形層の高さ方向(Z方向)の強度を向上させることができることがわかった。
【0008】
(樹脂粒子)
本発明の樹脂粒子は、繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子である。
樹脂粒子における繊維状物質の配向方向は同じ方向に揃っており、繊維状物質は、柱状の樹脂粒子の軸方向に配向している。
樹脂粒子は、繊維状物質と樹脂とを含有し、さらに必要に応じてその他の成分を含有する。
樹脂粒子の製造方法についての詳しい説明は後述するが、本発明では、例えば、次のようにして繊維状物質が、柱状の樹脂粒子の軸方向に配向している。
樹脂と繊維状物質とを含有する樹脂粒子用形成材料を繊維状に延伸する。すると、樹脂繊維が延伸方向に配向する。それに伴い、樹脂中の繊維状物質も樹脂繊維に沿って配向する。これにより、繊維状物質は、柱状の樹脂粒子の軸方向に配向する。
ここで、柱状の樹脂粒子の軸方向とは、柱状形状を形成するために、樹脂を延伸した方向に対応している。
【0009】
繊維状物質が柱状の樹脂粒子の軸方向に配向している本発明の樹脂粒子は、この特徴ゆえ、機能や特性の異方性が付与された樹脂粒子となる。
ここで、機能や特性の異方性を有するとは、例えば、Z方向とXY方向で化学的、物理的な性質が異なることをいう。より具体的には、Z方向とXY方向で異なる機械的強度を示す、あるいは金属系繊維物質であれば、Z方向とXY方向で異なる電気伝導性や熱伝導性を示すなどをいう。
この特徴を利用し、例えば、本発明の樹脂粒子は、ある特定方向の強度を高めるという目的で使用することができる。
【0010】
<樹脂粒子の適用分野>
本発明の樹脂粒子の適用分野は特に制限はなく、どのような分野にも使用可能であるが、より好ましい態様として、立体造形物を製造する材料である立体造形用樹脂粒子として使用することが挙げられる。
本発明の樹脂粒子は、立体造形用樹脂粒子として使用する他、例えば、表面収縮剤、スペーサー、滑剤、塗料、砥石、添加剤、二次電池セパレーター、食品、化粧品、衣服等において使用することができる。さらに、自動車、精密機器、半導体、航空宇宙、医療等の分野において用いられる材料や金属代替材料としても使用することができる。
【0011】
<柱状の形状>
柱状とは柱体の形状をいう。
柱状形状は、例えば、SEM(日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM-7800FPRIME)を用いて150倍の倍率で写真撮影したSEM画像中の樹脂粒子において、以下のように判定される。
第一の面と、第二の面と、側面と、を有し、且つSEMで観察される範囲において第一の面、及び第二の面の外周領域の全てが側面に沿って延伸した形状を有するものとする。
樹脂粒子の形状が、柱体であることにより、例えば、本発明の樹脂粒子を立体造形用樹脂粒子として使用する場合に、造形層を形成するときに、樹脂粒子を隙間なく詰めることができ、得られる立体造形物の強度を向上させることができる。
柱体としては、向かい合う面を有することが好ましい。向かい合う面は傾斜がついていてもよいが、例えば、生産性や立体造形物の製造に適用した際における立体造形時の安定性の観点から、平行で互いに傾斜がついていないものがより好ましい。なお、柱体は、角部の平滑化処理などがなされることで、樹脂粒子の流動性をさらに向上させてもよい。
【0012】
柱状の形状例を
図9に示す。
図9は、柱体の一例を示す写真である。なお、
図9は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察による写真である。
図9に示すように、柱体21は、第一の面22と、第二の面23と、側面24とを有する。第一の面22は、第一の対向面22aと、側面24に沿って延伸した形状である第一の面の外周領域22bと、を有する。第一の面の外周領域22bは、曲面を介して第一の対向面22aと連続する面であり、第一の対向面22aと略直交する。第二の面23は、第一の対向面22aと対向する第二の対向面23aと、側面24に沿って延伸した形状である第二の面の外周領域23bと、を有する。第二の面の外周領域23bは、曲面を介して第二の対向面23aと連続する面であり、第二の対向面23aと略直交する。側面24は、第一の面22、及び第二の面23に隣接する。また、側面24上に、第一の面の外周領域22b、及び第二の面の外周領域23bが延伸している。
なお、第一の面の外周領域22bおよび第二の面の外周領域23b(以降、「外周領域」とも称する)の形状は、側面24とSEM画像上で区別可能な形状であればよく、外周領域の一部が側面24と一体化している形状、外周領域が側面24と接している形状、及び外周領域と側面24との間に空間が存在する形状等を含む。また、第一の面の外周領域22bおよび第二の面の外周領域23bは、側面24の面方向と略同一の面方向となるように設けられていることが好ましい。
なお、
図9に示すように、第一の面の外周領域22bおよび第二の面の外周領域23bは、側面24に沿って延伸してなり、側面24上に位置する。また、第一の面の外周領域22bおよび第二の面の外周領域23bと、側面24と、の接続領域近辺を覆う第一の面および第二の面の特徴的な構造は、ボトルキャップ形状とも称する。
【0013】
また、例えば、略円柱体の樹脂粉末において、底面と上面を有する柱体形状を有するが、嵩密度を高めるため、頂点を持たないことが好ましい。頂点とは、柱体の中に存在する角の部分をいう。
柱体粒子の形状について、
図10Aから
図10Iを用いて説明する。
図10Aは、円柱体の一例を示す概略斜視図である。
図10Bは、
図10Aの円柱体の側面図である。
図10Cは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。
図10Dから
図10Iは、いずれも円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【0014】
図10Aに示す円柱体を、側面から観察すると、
図10Bに示すように長方形の形状を有しており、角の部分、すなわち、頂点が4箇所存在する。この端部に頂点を持たない形状の一例が
図10Cから
図10Iである。柱体粒子の頂点の有無の確認は、柱体粒子の側面に対する投影像から判別することができる。例えば、柱体粒子の側面に対して走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて観察し、二次元像として取得する。この場合、投影像は4辺形となり、各々隣り合う2辺によって構成される部位を端部とすると、隣り合う2つの直線のみで構成される場合は、角が形成され頂点を持つことになり、
図10Cから
図10Iのように端部が円弧によって構成される場合は端部に頂点を持たないことになる。
【0015】
本発明においては、柱状の樹脂粒子の軸方向に垂直な方向に形成されている樹脂粒子の面を樹脂粒子の底面とする。また、底面と底面に向かい合う面との距離を樹脂粒子の高さとする。ここで、底面は、柱状の樹脂粒子の軸方向に対し略垂直な方向で形成されていれば、厳密に垂直でなくてもよい。例えば、略垂直とは、90°±30°程度をいう。
底面の形状としては、特に制限はなく、例えば、以下で記載するように、略円形、略角形などが挙げられる。また、略円形は、略真円形であっても、略楕円形であってもよい。
本発明においては、底面において直径又は長径に相当する直線を最大径という。例えば、略真円形における直径、略楕円形における長径、略四角形における長辺をいう。
柱状形状であるか否かは、例えば、SEM(日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM-7800FPRIME)を用いて150倍の倍率で写真撮影したSEM画像中の樹脂粒子の観察から、判定できる。
なお、SEM(走査型電子顕微鏡)の倍率は樹脂粒子の大きさにより適宜変更可能である。
柱状の樹脂粒子の最大径や高さは、柱状の樹脂粒子を、例えば、100個観察した時の平均値として求めることができる。
【0016】
-略柱体形状-
柱体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、略円柱、略角柱などの立体形状が挙げられる。例えば、本発明の樹脂粒子を立体造形用樹脂粒子として使用する場合には、立体造形用樹脂粒子を成膜した際に粉末の充填密度が高いほうが、立体造形物の強度も高くなるため、樹脂粒子の形状は、略円柱、略角柱の形状であることが好ましい。
樹脂粒子の形状が特に略円柱形状、あるいは略角柱形状である場合について、以下説明する。
略円柱の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第一の対向面と第二の対向面の形状が略真円である略真円柱体、略楕円である略楕円柱体などが挙げられる。これらの中でも、略真円柱体が好ましい。なお、略円柱体の円部分は、一部が欠けていてもよい。また、略円とは、長径と短径との比(長径/短径)が、1以上10以下であるものを意味する。
第一の対向面と第二の対向面の面積の大きさが多少ずれていてもよいが、大きい面と小さい面との円の直径の比(大きい面/小さい面)としては、1.5倍以下が好ましく、形が統一されている方が密度を詰めることができる点から、1.1倍以下がより好ましい。
略円柱体の直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下が好ましい。なお、略円柱体の円形部分が略楕円形である場合は、直径とは、長径を意味する。
略円柱体の高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下が好ましい。
略角柱の底面における長辺の長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下が好ましい。
略角柱の高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上500μm以下が好ましい。
柱体の底面と底面に向き合う面との距離(高さ)を形成する辺は、切断時に樹脂が軟化し、つぶれた状態(例えば、円柱形ではたる型)も本発明の範囲に含まれるが、弧を描くもの同士で空間を空けてしまうため、粉末を密に詰めることができる点から、辺が直線状になっているものが好ましい。
【0017】
<樹脂粒子の樹脂成分>
樹脂粒子の樹脂成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、本発明の樹脂粒子を立体造形用樹脂粒子として使用する場合には、立体造形用樹脂粒子における樹脂粒子の樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂とは、熱をかけると可塑化し溶融するものをいう。熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂を用いることができる。結晶性樹脂は、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定した場合に、融解ピークを有するものを意味する。
【0018】
結晶性樹脂としては、結晶制御された結晶性熱可塑性樹脂が好ましく、熱処理、延伸、結晶核材、超音波処理等、外部刺激の方法により、結晶サイズや結晶配向が制御されている結晶性熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0019】
結晶性熱可塑性樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱し、結晶性を高めるアニーリング処理や、より結晶性を高めるために結晶核剤を添加し、その後アニーリング処理する方法がある。また、超音波を当てることにより結晶性を高めることや、溶媒に溶解しゆっくりと揮発させることにより結晶性を高める方法が挙げられる。さらにまた、外部電場印加処理による結晶性成長等の工程を経ること、もしくは、延伸することにより高配向、高結晶にしたものを粉砕、裁断等の加工を施す方法などが挙げられる。
【0020】
アニーリングとしては、樹脂をガラス転移温度から50℃高い温度にて3日間加熱し、その後、室温までゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0021】
延伸としては、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶解液を伸ばす。この際、溶融液は、1倍以上10倍以下程度に延伸し繊維にする。延伸は、樹脂ごと溶融粘度ごとに最大の延伸倍率を変えることができる。
【0022】
超音波としては、グリセリン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)溶媒を樹脂に対して5倍ほど加えた後、融点より20℃高い温度まで加熱し、超音波発生装置(ヒールシャー社製、ultrasonicator UP200S)にて24kHz、振幅60%での超音波を2時間与えることにより行うことができる。その後、室温にてイソプロパノールの溶媒で洗浄後、真空乾燥することが好ましい。
【0023】
外部電場印加処理としては、樹脂をガラス転移温度以上にて過熱した後に600V/cmの交流電場(500ヘルツ)を1時間印加した後にゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0024】
立体造形用樹脂粒子として使用する際、例えば、PBF方式では、結晶層変化についての温度幅(温度窓)が大きな方が、立体造形物作製時の反り返りを抑制できるために好ましい。結晶層変化は、融解開始温度と冷却時の再結晶点間の差が大きな樹脂粉末の方が、造形性がよくなるため、より差がある方が好ましい。
【0025】
<<樹脂粒子の樹脂の種類>>
樹脂粒子を構成する樹脂としては、上述したように、特に限定されないが、例えば、立体造形用樹脂粒子として使用する場合は、熱可塑性樹脂のうち、結晶性樹脂を用いることが好ましい。
結晶性樹脂の種類としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM、融点:175℃)、ポリイミド、フッ素樹脂等のポリマーなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
熱可塑性樹脂には、上記ポリマー以外に、難燃化剤や可塑剤、熱安定性添加剤や結晶核剤等の添加剤、非結晶性樹脂等のポリマー粒子を含んでいてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0026】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン(PP、融点:180℃)などが挙げられる。
前記ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド410(PA410)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66、融点:265℃)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12);半芳香族性のポリアミド4T(PA4T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T、融点:300℃)、ポリアミド10T(PA10T)などが挙げられる。これらの中でも、PA9Tは、ポリノナメチレンテレフタルアミドとも呼ばれ、炭素が9つのジアミンにテレフタル酸モノマーから構成され、一般的にカルボン酸側が芳香族であるため半芳香族と呼ばれる。さらには、ジアミン側も芳香族である全芳香族としてp-フェニレンジアミンとテレフタル酸モノマーとからできるアラミドと呼ばれるものも本発明のポリアミドに含まれる。
前記ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET、融点:260℃)やポリブチレンテレフタレート(PBT、融点:218℃)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。耐熱性を付与するため一部テレフタル酸やイソフタル酸が入った芳香族を含むポリエステルも本発明に好適に用いることができる。
前記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点:343℃)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。前記ポリエーテル以外にも、結晶性ポリマーであればよく、例えば、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。PA9Tのように融点ピークが2つあるものを用いてもよい。
【0027】
<繊維状物質>
繊維状物質としては、例えば、セルロース系繊維、たんぱく質系繊維、鉱物系繊維、金属系繊維、炭素系繊維、珪酸塩系繊維、高分子系繊維等が挙げられる。
【0028】
<その他の成分>
また、柱状の樹脂粒子には、任意の流動化剤、粒度化剤、強化剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。流動化剤の含有量としては、樹脂粒子表面上を覆うために十分な量であればよく、例えば、柱状の樹脂粒子に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。流動化剤としては、10μm未満の体積平均粒径を有する粒状無機材料を好適に用いることができる。
【0029】
<柱状の樹脂粒子の好ましい態様>
本発明の樹脂粒子の好ましい態様としては、下記第1の樹脂粒子、または下記第2の樹脂粒子が挙げられる。
本発明において、第1の樹脂粒子とは、軸方向に垂直な方向に形成されている樹脂粒子の面を樹脂粒子の底面とし、底面と底面に向かい合う面との距離を樹脂粒子の高さとした場合に、樹脂粒子の底面における最大径が樹脂粒子の高さより大きい樹脂粒子をいう。
第1の樹脂粒子の好ましい態様としては、最大径に対する高さの比(高さ/最大径)が0.05倍以上0.7倍以下の樹脂粒子が挙げられる。
一方、本発明において、第2の樹脂粒子とは、樹脂粒子の高さが樹脂粒子の底面における最大径より大きい樹脂粒子をいう。
第2の樹脂粒子の好ましい態様としては、最大径に対する高さの比(高さ/最大径)が1.1倍以上15倍以下の樹脂粒子が挙げられる。
【0030】
<立体造形物の製造への適用:立体造形用樹脂粒子としての使用>
上記本発明の樹脂粒子は、立体造形物を製造する材料である立体造形用樹脂粒子として使用することが好ましい。
立体造形用樹脂粒子としては、上述した第1の樹脂粒子または第2の樹脂粒子を用いるのがより好ましい。
本発明の立体造形用樹脂粒子の好ましい態様としては、上述した第1の樹脂粒子からなる第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子からなる第2の樹脂粒子群とを有する。
本発明の立体造形用樹脂粒子は、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを含んでいれば、その保管や使用形態は問わない。例えば、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混在させずに、それぞれ別々に第1の樹脂粒子群からなる立体造形用樹脂粒子と第2の樹脂粒子群からなる立体造形用樹脂粒子という形態で保管し、それぞれ別々に使用してもよい。あるいは、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混合させて、両樹脂粒子群が混合された立体造形用樹脂粒子という形態で使用してもよい。
【0031】
<<第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群>>
本発明の立体造形用樹脂粒子は、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とからなる樹脂粒子群を有するのが好ましい。
第1の樹脂粒子群は、樹脂粒子の底面における最大径が樹脂粒子の高さより大きい樹脂粒子からなる。第2の樹脂粒子群は、樹脂粒子の高さが樹脂粒子の底面における最大径より大きい樹脂粒子からなる。
樹脂粒子の底面における最大径が樹脂粒子の高さより大きい、第1の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、例えば、
図1の模式図で示される。第1の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、
図1で示すように、重力的に自然に、柱体の底面が下になるため、繊維状物質は、高さ方向(Z方向)に配向されている。このため、この柱状の樹脂粒子を成膜して形成した硬化層を積層し立体造形物を造形する場合、繊維状物質は、積層する高さ方向(Z方向)に揃っている。これにより、立体造形物を構成する造形層の高さ方向(Z方向)の強度を向上させることができる。
【0032】
樹脂粒子の高さが樹脂粒子の底面における最大径より大きい、第2の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、例えば、
図2の模式図で示される。第2の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、
図2で示すように、重力的に自然に、柱体は横に倒れ、柱体の側面が下になるため、繊維状物質は、面に平行な方向(XY方向)に配向されている。このため、この柱状の樹脂粒子を成膜して形成した硬化層を積層し立体造形物を造形する場合、繊維状物質は、積層する面に平行な方向(XY方向)に揃っている。これにより、立体造形物を構成する造形層の積層面に平行な方向(XY方向)の強度を向上させることができる。
【0033】
第1の樹脂粒子群の樹脂粒子は、最大径に対する高さの比(高さ/最大径)が0.05倍以上0.7倍以下の樹脂粒子であることが好ましい。
0.7倍以下であれば、繊維状物質を、積層する高さ方向(Z方向)に配向させたい場合に、積層する面に平行な方向(XY方向)に配向させる場合と明確に差をつけることができる。
第2の樹脂粒子群の樹脂粒子は、最大径に対する高さの比(高さ/最大径)が1.1倍以上15倍以下の樹脂粒子であることが好ましい。
1.1倍以上であれば、繊維状物質を、積層する面に平行な方向(XY方向)に配向させたい場合に、積層する高さ方向(Z方向)に配向させる場合と明確に差をつけることができる。
【0034】
柱状の樹脂粒子の最大径や高さは、以下のようにして求めることができる。
例えば、SEM(日本電子株式会社製走査電子顕微鏡JSM-7800FPRIME)を用いて150倍の倍率で写真撮影したSEM画像中の立体造形用樹脂粒子における樹脂粒子の観察から、測定する。
最大径及び高さは、柱状の樹脂粒子100個の測定結果をもとに、その平均値として求める。
【0035】
上述したように、本発明の立体造形用樹脂粒子は、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを含んでいれば、その保管や使用形態は問わない。例えば、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混在させずに、それぞれ別々に第1の樹脂粒子群からなる立体造形用樹脂粒子と第2の樹脂粒子群からなる立体造形用樹脂粒子という形態で保管し、それぞれ別々に使用してもよい。
第1の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、
図3で示すように、繊維状物質の配向方向が、硬化層を積層する際の積層する高さ方向(Z方向)に揃っている。
第2の樹脂粒子群に属する樹脂粒子は、
図4で示すように、繊維状物質の配向方向が、硬化層を積層する際の積層面に平行な方向(XY方向)に揃っている。
また、本発明の立体造形用樹脂粒子は、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混合させて、両樹脂粒子群が混合された立体造形用樹脂粒子という形態で使用してもよい。
両樹脂粒子群が混合された立体造形用樹脂粒子は、
図5で示すように、繊維状物質の配向方向が、Z方向とXY方向とのいずれかに揃っている。
この場合、第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混合割合を変えることにより、立体造形物を構成する、造形層の高さ方向(Z方向)の強度を向上させるか、造形層の積層面に平行な方向(XY方向)の強度を向上させるか、適宜調整することができる。
尚、造形層の高さ方向(Z方向)の強度を向上させたい場合には、第1の樹脂粒子群を多くし、第2の樹脂粒子群は、第1の樹脂粒子群に対し、例えば、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下に抑えるとよい。このように繊維状物質がZ方向に配向している第1の樹脂粒子群を多く用いて造形することで、得られた立体造形物は、造形層の高さ方向(Z方向)の強度が高いものとなる。
また、造形層の積層面に平行な方向(XY方向)の強度を向上させたい場合には、第2の樹脂粒子群を多くし、第1の樹脂粒子群は、第2の樹脂粒子群に対し、例えば、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下に抑えるとよい。このように繊維状物質がXY方向に配向している第2の樹脂粒子群を多く用いて造形することで、得られた立体造形物は、造形層の積層面に平行な方向(XY方向)の強度が高いものとなる。
【0036】
<<柱状の樹脂粒子の割合>>
本発明の立体造形用樹脂粒子は、上記繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子(第1の樹脂粒子及び第2の樹脂粒子)を含んでいればよく、必要に応じて、繊維状物質を含有しない柱状の樹脂粒子や、非柱状、いわゆる不定形の樹脂粒子等を含んでもよい。
立体造形用樹脂粒子に含まれる上記繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子の含有量(個数基準)は、立体造形用樹脂粒子に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
柱状の樹脂粒子の含有量の具体的な算出方法は、次の手順で行われる。
SEM(走査型電子顕微鏡)を用い150倍の倍率で写真撮影し、撮影して得た画像から立体造形用樹脂粒子の個数および柱状の樹脂粒子の個数を求め、柱体の樹脂粒子の個数を立体造形用樹脂粒子の個数で除算して100を乗算することで算出する。
なお、SEM(走査型電子顕微鏡)の倍率は立体造形用樹脂粒子の大きさにより適宜変更可能である。また、SEM画像から立体造形用樹脂粒子の個数および柱状の樹脂粒子の個数を求める際、本発明では、立体造形用樹脂粒子および柱状の樹脂粒子における最長部が5μm以上であるもののみ、個数を数える対象とする。また、柱状の樹脂粒子の含有量を算出する際における立体造形用樹脂粒子の個数は100個以上であるとする。
【0037】
<<立体造形用樹脂粒子の物性>>
本発明の立体造形用樹脂粒子は、下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことが好ましい。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。 上記(1)~(3)は、同一の立体造形用樹脂粒子について、異なる視点から特性を規定したものであり、上記(1)~(3)は互いに関連している。
【0038】
[条件(1)の示差走査熱量測定による溶解開始温度の測定方法]
条件(1)の示差走査熱量測定(DSC)による溶解開始温度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、DSC-60A等)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を測定する。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を測定する。なお、吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、直線から-15mW下がった時点での温度である。
[条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定方法]
条件(2)の示差走査熱量測定(DSC)による結晶化度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JISK7121)に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量(融解熱量)を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd1)を求めることができる。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd2)を求めることができる。
[条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法]
条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法としては、二次元検出器を有するX線解析装置(例えば、Bruker社、Discover8等)を使用し、室温にて2θ範囲を10~40に設定し、得られた粉末をガラスプレート上に置き、結晶化度を測定(Cx1)することができる。次に、DSC内において、窒素雰囲気化にて10℃/minで加熱し、融点より30℃高い温度まで昇温し、10分間保温した後、10℃/min、-30℃まで冷却後のサンプルを室温に戻し、Cx1と同様にして、結晶化度(Cx2)を測定することができる。
【0039】
<<立体造形用樹脂粒子の用途>>
本発明の立体造形用樹脂粒子は、粒度、粒度分布、熱移動特性、溶融粘度、嵩密度、流動性、溶融温度、及び再結晶温度のようなパラメータについて適切なバランスを有する。したがって、SLS方式、SMS方式、HSS方式、MJF方式(Multi Jet Fusion)、又はBJ法などの樹脂粉末を用いた各種立体造形方法において好適に使用される。
【0040】
<樹脂粒子の製造方法>
本発明の樹脂粒子を製造する製造方法は、延伸工程と、樹脂粒子形成工程とを含む。
さらに樹脂粒子形成工程が、第1の樹脂粒子製造工程、及び第2の樹脂粒子製造工程の少なくともいずれかの工程を含むとより好ましい。
延伸工程は、樹脂と繊維状物質とを含有する樹脂粒子用形成材料を繊維状に延伸する工程である。
樹脂粒子形成工程は、延伸工程により得られた繊維状の樹脂粒子用形成材料を柱状の樹脂粒子を形成するように裁断して、柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向した柱状の樹脂粒子を形成する工程である。
第1の樹脂粒子製造工程は、樹脂粒子形成工程において、裁断幅を調整することにより、樹脂粒子の底面における最大径が樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子を製造する工程である。
第2の樹脂粒子製造工程は、樹脂粒子形成工程において、裁断幅を調整することにより、樹脂粒子の高さが樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子を製造する工程である。
【0041】
以下、樹脂粒子の製造方法について、さらに詳しく説明する。
延伸工程では、樹脂と繊維状物質とを含有する樹脂粒子用形成材料からなる樹脂溶液を延伸する。延伸された樹脂繊維に沿って樹脂中の繊維状物質も同一方向に配向する。このようにして延伸することで、繊維状の樹脂粒子用形成材料を得る。
図6に、繊維状物質を含有する樹脂を延伸することによって、繊維状物質の配向方向が同一方向に配向する様子を示す。
次に、この形成された繊維状の樹脂粒子用形成材料を裁断し、柱状の樹脂粒子を得る。この裁断する際に、裁断幅を変えて裁断する。それにより、柱状の樹脂粒子の最大径に対する高さの比(高さ/最大径)が異なる少なくとも2つの樹脂粒子群(第1の樹脂粒子からなる第1の樹脂粒子群及び第2の樹脂粒子からなる第2の樹脂粒子群)を得る。
図7にカット長を短く設定して作製した第1の樹脂粒子群に属する柱状の樹脂粒子の写真を示す。また、
図8にカット長を長く設定して作製した第2の樹脂粒子群に属する柱状の樹脂粒子の写真を示す。
尚、裁断する工程では、形成された繊維状の樹脂粒子用形成材料を、複数まとめて、一つに束ね一体化(一本化)し、この一体化された状態の繊維状の樹脂粒子用形成材料に対して裁断を行なってもよい。安定して裁断を行うには、繊維状の樹脂粒子用形成材料を幾つかまとめて一体化させた状態で裁断する方が好ましい。
【0042】
延伸工程では、例えば、押し出し加工機を用い、予め樹脂と繊維状物質を乾式混合し、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶解液を伸ばすことが好ましい。樹脂溶解液は、1倍以上10倍以下に延伸し繊維化することが好ましく、2倍以上6倍以下に延伸し繊維化することがより好ましい。延伸の倍率が低いと繊維状物質の方向性を揃わせるのが難しくなる。延伸倍率が高すぎると延伸時に樹脂繊維が切れることがある。この時、押出し加工機のノズル口の形状により繊維断面の形状を決めることができる。例えば、断面を円形形状とする場合は、ノズル口も円形形状であることが好ましい。なお、この工程により、樹脂粒子中の繊維状物質の方向が揃い、樹脂の結晶性も制御することができる。
【0043】
樹脂粒子形成工程において、繊維状の樹脂粒子用形成材料を一体化して裁断する際は、例えば、以下のようにして行う。
繊維状の樹脂粒子用形成材料を同方向に複数並べて配置して一体化させる。一体化させる方法としては、加熱しながら加圧することでシート状に一体化させる方法、繊維に水を付与して冷却し、氷中に繊維を固定して一体化させる方法などが挙げられるが、加熱しながら加圧することでシート状に一体化させる方法が好ましい。この一体化する工程により、繊維状の樹脂粒子用形成材料を固定化させることができる。加熱しながら加圧することでシート状に一体化させる場合、付加する熱は、用いる樹脂の種類により異なるが、融点以下であることが好ましく、また、融点より100℃低い温度以上であることが好ましい。また、付加する圧力は、10MPa以下であることが好ましい。なお、上記の熱、及び圧力は、次の裁断する工程を経ると一体化していた各繊維が分離する範囲であることが好ましい。また、「加熱しながら加圧する」とは、加熱する工程と加圧する工程を同時に行う場合が好ましいが、加熱する工程後、予熱が残っている状態において加圧する工程を後から行う場合など、加熱する工程と加圧する工程を同時に行わない場合であってもよい。また、一体化した繊維状の樹脂粒子用形成材料の形状はシート状に限らず、次の裁断する工程が適切に行われる範囲であれば特に形状は限定されない。また、繊維状の樹脂粒子用形成材料を複数並べる際の方向は、完全に同一の方向でなくても、略同一の方向であればよい。
なお、延伸工程により得られた繊維状の樹脂粒子用形成材料の断面形状が円形である場合、一体化する工程で加熱しながら加圧することで、繊維状の樹脂粒子用形成材料の一部又は全部が変形して断面形状が多角形となる場合がある。それにより、多角形の断面を有する一体化した繊維状の樹脂粒子用形成材料が作製される。
【0044】
裁断する工程は、一体化工程で作製した一体化した繊維状の樹脂粒子用形成材料を連続的に裁断して裁断物である柱状の樹脂粒子を作製することが好ましい。裁断する手段としては、ギロチン方式といった上刃と下刃が共に刃物になっている裁断装置、押し切り方式と呼ばれる下側の板と上刃で裁断していく裁断装置、及びCO2レーザー等を用いて裁断する裁断装置などを用いることができる。これら裁断装置を用いて、一体化した繊維状の樹脂粒子用形成材料を繊維状物質の配向方向と垂直な裁断面を有するように裁断することができる。なお、裁断装置のカット幅は、5.0μm以上300.0μm以下であることが好ましい。ただしカット幅が狭くなると生産性が低下すると共に、樹脂粒子中に含まれる繊維状物質の繊維長も短くなるため、Z方向の強度向上に寄与しなくなり好ましくない。また、裁断装置のカット速度は、特に制限はないが、10spm(shots per minute)以上1,000spm以下であることが好ましい。
【0045】
裁断する工程では、一体化する工程で繊維状の樹脂粒子用形成材料をまとめ、繊維状物質の位置、方向を固定した状態で裁断を行うため、樹脂粒子の裁断幅、裁断方向を均一にすることが可能となる。それにより、均一な柱状の樹脂粒子を得ることができる。例えば、裁断する際、一体化する工程を含んでいないと、従来のように、繊維状の樹脂粒子用形成材料を可動式のクランプで固定して裁断手段に向かって移動させ裁断することになる。このようにして柱状の樹脂粒子を形成すると、繊維状の樹脂粒子用形成材料が十分に固定化されていないため、柱状の樹脂粒子の裁断幅、裁断方向にはばらつきが生じる。裁断幅、及び裁断方向がばらつくため、大きさや形状にばらつきのある柱状の樹脂粒子が生成されてしまう可能性もある。また、円柱状の樹脂を斜め方向に切断されたような、想定していない形状の柱状の樹脂粒子が生成されてしまう可能性もある。したがって、裁断する際は、繊維状の樹脂粒子用形成材料を一体化し、その後裁断するのがより好ましい。
尚、裁断方向のばらつきは少ない方が好ましく、切断角度としては70°以上が好ましい。
【0046】
(立体造形物の製造装置、製造方法)
上記本発明の樹脂粒子を立体造形用樹脂粒子として使用する具体的態様について、以下説明する。
本発明の立体造形物の製造装置は、上述した本発明の立体造形用樹脂粒子を用いて、該立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する装置である。
本発明の立体造形物の製造方法は、上述した本発明の立体造形用樹脂粒子を用いて、該立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する方法である。
尚、本発明の立体造形物の製造装置は、上述した本発明の立体造形用樹脂粒子が収容されている供給槽と、該供給槽から立体造形用樹脂粒子を供給する立体造形用樹脂粒子供給手段とを有する。
本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形物の製造方法を実施することと同義であるので、本発明の製造装置の説明を通じて本発明の製造方法の詳細についても明らかにする。
本発明の立体造形物の製造装置は、立体造形物を造形する手段として、例えば、立体造形用樹脂粒子を含む層を形成する層形成手段と、層に電磁照射して溶融させる溶融手段と、を有する。層形成工程と溶融工程とを繰り返し立体造形物を造形する。尚、必要に応じて、本発明の立体造形物の製造装置は、その他の手段を有してもよい。
【0047】
層形成手段としては、例えば、ローラ、ブレード、ブラシ等、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
溶融手段としての電磁照射源としては、例えば、CO2レーザー、赤外照射源、マイクロウエーブ発生器、放射加熱器、LEDランプ等、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
【0048】
ここで、
図11を用いて、上記の立体造形用樹脂粒子を用いる立体造形物の製造装置について説明する。
図11は、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造装置を示す概略図である。
【0049】
図11に示すように、造形装置1は、立体造形用樹脂粒子(以下、造形用の樹脂粉末ともいう)Pを収容する収容手段の一例としての供給槽11、供給槽11に収容されている樹脂粉末Pを供給するローラ12、ローラ12によって供給された樹脂粉末Pが配され、レーザーLが走査されるレーザー走査スペース13、電磁線としてのレーザーLの照射源である電磁照射源18、及び電磁照射源18によって照射されたレーザーLをレーザー走査スペース13の所定位置へ反射させる反射鏡19を有する。また、造形装置1は、供給槽11、及びレーザー走査スペース13に収容される樹脂粉末Pをそれぞれ加熱するヒータ11H,13Hを有する。
【0050】
反射鏡19の反射面は、電磁照射源18がレーザーLを照射している間、3D(three-dimensional)モデルの2次元データに基づいて、移動する。3Dモデルの2次元データは、3Dモデルを所定間隔でスライスしたときの各断面形状を示す。これにより、レーザーLの反射角度が変わることで、レーザー走査スペース13のうち、2次元データによって示される部分に、選択的にレーザーLが照射される。レーザーL照射位置の樹脂粉末は、溶融し、焼結して層を形成する。すなわち、電磁照射源18は、樹脂粉末Pから造形物の各層を形成する層形成手段として機能する。
【0051】
また、造形装置1の供給槽11、及びレーザー走査スペース13には、ピストン11P,13Pが設けられている。ピストン11P,13Pは、層の造形が完了すると、供給槽11、及びレーザー走査スペース13を、造形物の積層方向に対し上、又は下方向に移動させるように移動する。これにより、供給槽11からレーザー走査スペース13へ、新たな層の造形に用いられる新たな樹脂粉末Pを供給することが可能になる。
【0052】
造形装置1は、反射鏡19によってレーザーの照射位置を変えることにより、樹脂粉末Pを選択的に溶融させるが、本発明はこのような実施形態に限定されない。本発明の樹脂粉末は、選択的マスク焼結(SMS:Selective Mask Sintering)方式の造形装置においても好適に用いられる。SMS方式では、例えば、樹脂粉末の一部を遮蔽マスクによりマスクし、電磁線が照射され、マスクされていない部分に赤外線などの電磁線を照射し、選択的に樹脂粉末を溶融することにより造形する。SMSプロセスを用いる場合、樹脂粉末Pは、赤外吸収特性を増強させる熱吸収剤、又は暗色物質などを1種以上含有することが好ましい。熱吸収剤、又は暗色物質としては、カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びセルロースナノファイバーなどが例示される。SMSプロセスについては、例えば、米国特許第6,531,086号明細書に記載されているものを好適に用いることができる。
【0053】
次に、本発明の立体造形物の製造方法の実施形態について、
図12~
図13を用いて説明する。
図12A、
図12B、
図13A、及び
図13Bは、立体造形物の製造方法を説明するための概念図である。
供給槽11に収容された樹脂粉末Pは、ヒータ11Hによって加熱される。供給槽11の温度としては、樹脂粒子Pをレーザー照射により溶融するとき反り返りを抑制する点では、樹脂粒子Pの融点以下のなるべく高い温度が好ましいが、供給槽11での樹脂粉末Pの溶融を防ぐ点では、樹脂粉末Pの融点より10℃以上低いことが好ましい。
図12Aに示すように、造形装置1のエンジンは、供給工程の一例として、ローラ12を駆動して、供給槽11の樹脂粉末Pをレーザー走査スペース13へ供給して整地することで、1層分の厚さTの粉末層を形成する。このとき樹脂粒子の形状、分布によって、
図3、
図4、あるいは
図5のように積層される。レーザー走査スペース13へ供給された樹脂粉末Pは、ヒータ13Hによって加熱される。レーザー走査スペース13の温度としては、樹脂粒子Pをレーザー照射により溶融するときに反り返りを抑制する点では、なるべく高い方が好ましいが、レーザー走査スペース13での樹脂粉末Pの溶融を防ぐ点では、樹脂粉末Pの融点より5℃以上低温であることが好ましい。
【0054】
造形装置1のエンジンは、3Dモデルから生成される複数の二次元データの入力を受け付ける。
図12Bに示すように、造形装置1のエンジンは、複数の二次元データのうち最も底面側の二次元データに基づいて、反射鏡19の反射面を移動させつつ、電磁照射源18からレーザーを照射させる。レーザーの出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、10ワット以上150ワット以下が好ましい。レーザーの照射により、粉末層のうち、最も底面側の二次元データによって示される画素に対応する位置の樹脂粉末Pが溶融する。レーザーの照射が完了すると、溶融した樹脂は硬化して、最も底面側の二次元データが示す形状の焼結層が形成される。
【0055】
焼結層の厚みTとしては、特に限定されないが、平均値として、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上が更に好ましい。また、焼結層の厚みTとしては、特に限定されないが、平均値として、500μm未満が好ましく、300μm未満がより好ましく、200μm未満が更に好ましい。
【0056】
図13Aに示すように、最も底面側の焼結層が形成されると、造形装置1のエンジンは、レーザー走査スペース13に1層分の厚さTの造形スペースが形成されるように、ピストン13Pによりレーザー走査スペース13を1層分の厚さT分降下させる。また、造形装置1のエンジンは、新たな樹脂粉末Pを供給可能とするため、ピストン11Pを上昇させる。続いて、
図13Aに示すように、造形装置1のエンジンは、ローラ12を駆動して、供給槽11の樹脂粉末Pをレーザー走査スペース13へ供給して整地することで、1層分の厚さTの粉末層を形成する。
【0057】
図13Bに示すように、造形装置1のエンジンは、複数の二次元データのうち最も底面側から2層目の二次元データに基づいて、反射鏡19の反射面を移動させつつ、電磁照射源18からレーザーを照射させる。これにより、粉末層のうち、最も底面側から2層目の二次元データによって示される画素に対応する位置の樹脂粉末Pが溶融する。レーザーの照射が完了すると、溶融した樹脂は硬化して、最も底面側から2層目の二次元データが示す形状の焼結層が、最も底面側の焼結層に積層された状態で形成される。
【0058】
造形装置1は、上記の供給工程と、層形成工程と、を繰り返すことで、焼結層を積層させる。この焼結された造形層を積層し、複数の二次元データのすべてに基づく造形が完了すると、3Dモデルと同形状の立体造形物が得られる。
繊維状物質を含む柱状の樹脂粒子は、レーザーや赤外線など柱状の樹脂粒子を溶融するエネルギーを与えられることによって溶融し、積層間隔中にある他の柱状の樹脂粒子と溶融合着し、更には先に造形された下層の造形層と溶融合着する。このため、繊維状物質の配向している方向性をほぼ維持しながら、上層へと造形層が積層され造形が進行していく。
【0059】
<立体造形物の製造方法の具体的実施形態>
立体造形物の製造方法として、好ましい実施形態を以下に説明する。
本発明の立体造形物の製造方法は、上述した本発明の立体造形用樹脂粒子を用いて、該立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する。
本発明の立体造形物の製造方法は、樹脂粒子における繊維状物質を、硬化層を積層する際の積層する高さ方向に揃えて造形する第1の造形工程を含む。
これにより、立体造形物を構成する造形層の高さ方向(Z方向)の強度を向上させることができる。
さらに、本発明の立体造形物の製造方法は、樹脂粒子における繊維状物質を、硬化層を積層する際の積層面に平行な方向に揃えて造形する第2の造形工程を含むことが好ましい。
これにより、立体造形物を構成する造形層の積層面に平行な方向(XY方向)の強度を向上させることができる。
【0060】
<立体造形物>
立体造形物は、本発明の立体造形物の製造方法により好適に製造される。
その結果得られた本発明の立体造形物は、立体造形物内の繊維状物質の方向を観察した場合、以下の特徴を示す。
つまり、本発明の立体造形物は、第1の方向と、第1の方向に直交する第2の方向の2つの方向に配向している繊維状物質の割合が、立体造形物内の全繊維状物質に対して、90%以上であり、より好ましくは、95%以上である。
ここで、立体造形物内の繊維状物質の方向を観察は、収束イオンビームで断面を切り出しSEM観察で確認することができる。
観察する領域は、例えば、立体造形物に対し、ランダムに選んだ50箇所の立体造形物の断面積を対象にする。
その領域において、繊維状物質の配向方向を観察する。第1の方向と、第2の方向との差は90°である。それぞれの方向に対し±30°は、同一方向の範囲内であるとする。
第1の方向と第2の方向とに配向している繊維状物質の数を測定し、また、それらの方向に該当しない繊維状物質の数も測定する。より具体的には、立体造形物の造形層を積層する高さ方向(Z方向)と造形層の積層面に平行な方向(XY方向)とに配向している(±30°以内の略Z方向、略XY方向に配向しているものも含む)繊維状物質の数を測定する。また、Z方向とXY方向に該当しない方向に配向している繊維状物質の数も測定する。そして、立体造形物内の全繊維状物質に対する、第1の方向と第2の方向とに配向している繊維状物質の割合を求める。この割合は、観察した50箇所の平均値で算出する。
尚、本発明では、第1の方向と第2の方向とに配向している繊維状物質の割合は、立体造形物からランダムに選んだ50箇所の平均値を求めることにより、立体造形物全体の値としてみなすこととする。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
(実施例1:第1の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を850質量部と、ガラスファイバーを150質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が60μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社製)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅30μmとなるように調整して裁断した。これを実施例1の立体造形用樹脂粒子とした。実施例1の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径60μm、高さ30μmであった。
【0063】
(実施例2:第1の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を850質量部と、カーボンファイバーを150質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が40μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるカーボンファイバーとしては、商品名:XN-100-01Z(日本グラファイトファイバー(株)製)、線径10μmのカーボンファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅20μmとなるように調整して裁断した。これを実施例2の立体造形用樹脂粒子とした。実施例2の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径40μm、高さ20μmであった。
【0064】
(実施例3:第1の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を850質量部と、ガラスファイバーを150質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が100μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅8μmとなるように調整して裁断した。これを実施例3の立体造形用樹脂粒子とした。実施例3の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径100μm、高さ8μmであった。
【0065】
(実施例4:第1の樹脂粒子群の作製)
実施例1において、カット幅40μmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の立体造形用樹脂粒子を得た。実施例4の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径60μm、高さ40μmであった。
【0066】
(実施例5:第1の樹脂粒子群の作製)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を700質量部と、ガラスファイバーを300質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が60μmとなるように調整した。
ここで、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂としては、商品名:HT P22PF(VICTREX社製)、融点:343℃、ガラス転移温度:143℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅30μmとなるように調整して裁断した。これを実施例5の立体造形用樹脂粒子とした。実施例5の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径60μm、高さ30μmであった。
【0067】
(実施例6:第1の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を900質量部と、ガラスファイバーを100質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が150μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅6μmとなるように調整して裁断した。これを実施例6の立体造形用樹脂粒子とした。実施例6の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径150μm、高さ6μmであった。
但し、実施例6の立体造形用樹脂粒子は、所望の柱状形状とならない場合も含まれており、柱状の樹脂粒子の作製精度は、他の実施例に比べると劣るものとなっていた。尚、下記表に示す結果は、所望の柱状形状となった樹脂粒子に対して行った。
【0068】
(実施例7:第2の樹脂粒子群の作製)
実施例1において、カット幅420μmとなるようにカット速度150spm(shots per minute)となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の立体造形用樹脂粒子を得た。実施例7の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径60μm、高さ420μmであった。
【0069】
(実施例8:第2の樹脂粒子群の作製)
実施例2において、カット幅200μmとなるように調整した以外は、実施例2と同様にして、実施例8の立体造形用樹脂粒子を得た。実施例8の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径40μm、高さ200μmであった。
【0070】
(実施例9:第2の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を850質量部と、ガラスファイバーを150質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が100μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社製)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅125μmとなるように調整して裁断した。これを実施例9の立体造形用樹脂粒子とした。実施例9の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径100μm、高さ125μmであった。
【0071】
(実施例10:第2の樹脂粒子群の作製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を900質量部と、ガラスファイバーを100質量部とを乾式混合した。その後、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が30μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。また、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバーとしては、商品名:ECS03-167S(セントラルグラスファイバー株式会社製)、線径9μmのガラスファイバーを用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅420μmとなるように調整して裁断した。これを実施例10の立体造形用樹脂粒子とした。実施例10の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径30μm、高さ420μmであった。
【0072】
(実施例11:第2の樹脂粒子群の作製)
実施例10において、カット幅520μmとなるように調整した以外は、実施例10と同様にして、実施例11の立体造形用樹脂粒子を得た。実施例11の立体造形用樹脂粒子の柱状の樹脂粒子の大きさは、最大径30μm、高さ520μmであった。
【0073】
(実施例12:第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群との混合)
実施例1の立体造形用樹脂粒子と実施例7の立体造形用樹脂粒子を60:40の割合で混合し実施例12の立体造形用樹脂粒子とした。
【0074】
(実施例13:第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群との混合)
実施例2の立体造形用樹脂粒子と実施例8の立体造形用樹脂粒子を75:25の割合で混合し実施例13の立体造形用樹脂粒子とした。
【0075】
(比較例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を900質量部用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が60μmとなるように調整した。
ここで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂としては、商品名:ノバデュラン5020(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃の樹脂を用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅60μmとなるように調整して裁断した。
この樹脂粉末850質量部に、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバー(商品名:セントラルグラスファイバー株式会社 ECS03-167S 線径9μm)150質量部を乾式混合して比較例1の立体造形用樹脂粒子とした。
【0076】
(比較例2)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を700質量部用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状である押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて繊維状に立体造形用樹脂溶解液を伸ばした。繊維は4倍延伸させることで繊維径(直径)が60μmとなるように調整した。
ここで、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂としては、商品名:HT P22PF(VICTREX社製)、融点:343℃、ガラス転移温度:143℃の樹脂を用いた。
その後、形成した繊維を同方向に並べて配置し、融点より50℃低い温度で加熱しながら10MPaの圧力を付加することでシート状に一体化させた。なお、シート状に一体化した各繊維の断面形状は略多角形であった。更に、シート状に一体化させた繊維を、押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用い、カット幅60μmとなるように調整して裁断した。
この樹脂粉末850質量部に、繊維状物質(繊維状フィラー)であるガラスファイバー(商品名:セントラルグラスファイバー株式会社 ECS03-167S 線径9μm)300質量部を乾式混合して比較例2の立体造形用樹脂粒子とした。
【0077】
(実施例1~13、比較例1~2)
<樹脂粒子の積層方向>
各実施例、及び比較例で得られた立体造形用樹脂粒子を用いて、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)の供給床中に得られた立体造形用樹脂粒子を加え、立体造形物の製造を行った。設定条件は、0.15mmの層平均厚みで造形層を形成した。積層された造形層中の柱状の樹脂粒子300個の繊維の方向を確認した。
なお、繊維の方向は粉末粒子のカット面を基準に±45°までを考慮してZ方向の割合を判断した。
【0078】
<造形物の強度>
次にSLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)の供給床中に得られた立体造形用樹脂粒子を加え、立体造形物の製造を行った。
設定条件は、0.15mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力を設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より-3℃の温度を部品床温度に使用した。SLS方式造形装置にて、レーザー走査スペース13の中心部に、XY平面方向(
図11におけるローラ12が進行する平面方向)に長辺が向いた5個の引張試験標本(XY造形物)と、Z軸方向(
図11におけるローラ12が進行する平面に垂直な方向)に長辺が向いた5個の引張試験標本(Z造形物)を造形した。各々の造形物の間隔は5mm以上である。引張試験標本は、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 多目的犬骨様試験標本(標本は、80mm長さ、4mm厚さ、10mm幅の中心部分を有する)である。造形時間は、50時間に設定した。
なお、引張試験における試験速度は、50mm/分間にて一定とした。また、引張強度は、それぞれの引張試験標本について5回試験を行い、得られた測定値の平均値とした。
【0079】
【0080】
実施例1から6に示すようにZ方向の引張り強度は比較例1のZ方向の引張り強度と比べて大きく向上している。実施例7から10では繊維状物質が主としてXY方向に配置されるため、XY方向の引張り強度が大きく向上している。実施例5では樹脂にPEEKを用いたが、樹脂の違いに関わらず、比較例2と比較してZ方向の引張り強度は高い結果が得られた。実施例12、13は第1の樹脂粒子群と第2の樹脂粒子群とを混合して使用したが、Z方向に揃う粒子の割合に応じてZ方向の引張り強度が大きくなる結果となった。
尚、実施例11の立体造形用樹脂粒子は、表1の結果で示すように、XY方向の強度は向上しているものの、粒子の大きさが500μmよりも大きいため造形物の端部において精度が他の実施例のものに比べると劣るものとなっていた。
【0081】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子であって、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向していることを特徴とする樹脂粒子である。
<2> 前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子は、前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子である、前記<1>に記載の樹脂粒子である。
<3> 前記第1の樹脂粒子は、前記最大径に対する前記高さの比(高さ/最大径)が0.05倍以上0.7倍以下である、前記<2>に記載の樹脂粒子である。
<4> 前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子は、前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子である、前記<1>に記載の樹脂粒子である。
<5> 前記第2の樹脂粒子は、前記最大径に対する前記高さの比(高さ/最大径)が1.1倍以上15倍以下である、前記<4>に記載の樹脂粒子である。
<6> 前記樹脂粒子における樹脂成分が、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、及びポリエーテルエーテルケトンのいずれかから選択される、前記<1>から<5>のいずれかに記載の樹脂粒子である。
<7> 前記樹脂粒子は、立体造形物を製造する材料である立体造形用樹脂粒子として用いられる、前記<1>から<6>のいずれかに記載の樹脂粒子である。
<8> 繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子の製造方法であって、
樹脂と繊維状物質とを含有する樹脂粒子用形成材料を繊維状に延伸する延伸工程と、
前記延伸工程により得られた繊維状の樹脂粒子用形成材料を柱状の樹脂粒子を形成するように裁断して、前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向した柱状の樹脂粒子を形成する樹脂粒子形成工程と、
を含むことを特徴とする樹脂粒子の製造方法である。
<9> 前記樹脂粒子形成工程が、裁断幅を調整することにより、前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子を製造する第1の樹脂粒子製造工程、及び前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子を製造する第2の樹脂粒子製造工程の少なくともいずれかの工程を含む、前記<8>に記載の樹脂粒子の製造方法である。
<10> 立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造装置であって、
繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子が収容されている供給槽と、前記供給槽から前記立体造形用樹脂粒子を供給する立体造形用樹脂粒子供給手段とを有し、
前記立体造形用樹脂粒子は、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向しており、
前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子群と、前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子群とを含む、
ことを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<11> 立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造方法であって、
繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子を用いて立体造形物を造形する工程を含み、
前記立体造形用樹脂粒子は、
前記柱状の樹脂粒子の軸方向に繊維状物質が配向しており、
前記軸方向に垂直な方向に形成されている前記樹脂粒子の面を前記樹脂粒子の底面とし、前記底面と前記底面に向かい合う面との距離を前記樹脂粒子の高さとした場合に、
前記樹脂粒子の底面における最大径が前記樹脂粒子の高さより大きい第1の樹脂粒子群と、前記樹脂粒子の高さが前記樹脂粒子の底面における最大径より大きい第2の樹脂粒子群とを含む、
ことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<12> 立体造形用樹脂粒子の硬化層を積層して、立体造形物を造形する立体造形物の製造方法であって、
前記立体造形用樹脂粒子として、繊維状物質を含有する柱状の樹脂粒子からなる樹脂粒子群を有する立体造形用樹脂粒子を用いて立体造形物を造形する工程と、
前記樹脂粒子における繊維状物質を、前記硬化層を積層する際の積層する高さ方向に揃えて造形する第1の造形工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<13> さらに、前記樹脂粒子における繊維状物質を、前記硬化層を積層する際の積層面に平行な方向に揃えて造形する第2の造形工程を含む、前記<12>に記載の立体造形物の製造方法である。
<14> 繊維状物質を含有する立体造形物であって、
立体造形物内の前記繊維状物質の方向を観察した場合、第1の方向と、前記第1の方向に直交する第2の方向の2つの方向に配向している前記繊維状物質の割合が、前記立体造形物内の全繊維状物質に対して、90%以上であることを特徴とする立体造形物である。
【0082】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の樹脂粒子、前記<8>から<9>に記載の樹脂粒子の製造方法、前記<10>に記載の立体造形物の製造装置、前記<11>から<13>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法、及び前記<14>に記載の立体造形物によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1 造形装置
11 供給槽
11H ヒータ
11P ピストン
12 ローラ
13 レーザー走査スペース
13H ヒータ
13P ピストン
18 電磁照射源
19 反射鏡