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特許7081419液滴吐出装置、ギャップ調整方法及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】液滴吐出装置、ギャップ調整方法及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 451
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018175288
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020044738
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】筒井 亮太
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125974(JP,A)
【文献】特開2009-066902(JP,A)
【文献】特開2013-202990(JP,A)
【文献】特開2010-274598(JP,A)
【文献】特開2014-226911(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076086(WO,A1)
【文献】特開2010-142978(JP,A)
【文献】特開2019-166697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を記録媒体に吐出する液滴吐出装置であって、
前記記録媒体に吐出された複数の液滴の付着状態を示すデータから当該液滴の相対的な位置関係を示す位置関係データを取得するデータ取得部と、
前記位置関係データから、前記複数の液滴の飛翔時間差を算出する時間差算出部と、
当該液滴の吐出口から前記記録媒体までの距離であるギャップと、前記飛翔時間差と、を関連付けて記憶する関係性プロファイルデータを参照し、前記飛翔時間差に基づいて前記ギャップを推定するギャップ推定部と、
推定されたギャップが適切なギャップであるか否かを判定するギャップ判定部と、
ギャップ判定部による判定の結果に基づいて、前記ギャップを適切な状態に調整するための前記吐出口の位置の移動を制御するギャップ調整制御部と、
を備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、前記記録媒体の液滴付着面における複数の液滴の距離を前記位置関係データとして取得する、
請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記記録媒体に付着した液滴の付着状態を示すデータを、当該記録媒体に形成された画像から読み取る画像読取装置を備え、
前記データ取得部は前記画像読取装置から受け取ったデータから前記位置関係データを取得する、
請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記複数の液滴は、少なくとも第一の液滴と第二の液滴であって、
前記第一の液滴の飛翔速度は、前記第二の液滴の飛翔速度よりも速く、
前記時間差算出部は、前記第一の液滴と前記第二の液滴の前記位置関係データから、当該第一の液滴と第二の液滴の飛翔時間の差を前記飛翔時間差として算出する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ギャップ推定部は、
前記複数の液滴に含まれる前記第一の液滴と前記第二の液滴を複数回吐出したときの各位置関係データにより算出される飛翔時間差の平均値に基づいて前記ギャップを推定する、
請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記ギャップ推定部は、
前記複数の液滴に含まれる前記第一の液滴と前記第二の液滴を複数回吐出したときの各位置関係データにより算出される飛翔時間差の偏差に基づいて前記ギャップを推定する、
請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
液滴を記録媒体に吐出する液滴吐出装置における、前記液滴の吐出口と前記記録媒体との距離であるギャップを調整するギャップ調整方法であって、
前記記録媒体に吐出された複数の液滴の付着状態を示すデータから当該液滴の相対的な位置関係を示す位置関係データを取得し、
前記位置関係データから、前記複数の液滴の飛翔時間差を算出し、
当該液滴の吐出口から前記記録媒体までの距離であるギャップと、前記飛翔時間差と、を関連付けて記憶する関係性プロファイルデータを参照し、前記飛翔時間差に基づいて前記ギャップを推定し、
推定されたギャップが適切なギャップであるか否かを判定し、
前記判定の結果に基づいて、前記ギャップを適切な状態に調整するための前記吐出口の位置の移動を制御する、
ことを特徴とするギャップ調整方法。
【請求項8】
液滴を記録媒体に吐出する液滴吐出部と、前記記録媒体を搬送する搬送部と、を備え、
前記記録媒体に対して前記液滴を吐出して画像を形成する画像形成装置であって、
前記液滴吐出部は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置である、
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置、ギャップ調整方法及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に液体インクを吐出して画像を形成する液体吐出装置を含む画像形成装置が知られている。当該画像形成装置は、いわゆるインクジェトプリンタと呼ばれる。インクジェットプリンタは、液体インクを液滴として吐出する機能を備える「ヘッド」と、ヘッドに対して記録媒体を移動させる搬送機能を備える搬送機構と、を少なくとも備える。インクジェットプリンタにおける画像形成処理において、記録媒体と、ヘッドが備える液体吐出口(ノズル口)との重力方向の距離は、非常に重要である。当該距離は「ギャップ」と呼ばれることもある。本明細書では、ヘッドのノズルと記録媒体との乖離量に相当する距離について「ギャップ」と表記する。
【0003】
インクジェットプリンタのギャップは、記録媒体の厚さや撓み、又はヘッドや搬送機構の使用による経時的変化によって、適切な状態から変動することがある。ギャップが狭くなると、記録媒体の詰まり(ジャム)の原因になる。また、ギャップが広くなると、記録媒体に対する液滴の着弾位置の精度が低くなる。すなわち、ギャップが適切ではない状態で画像形成処理を実行すると、形成される画像の品質(画質)が低くなる。すなわち、インクジェットプリンタにおいて、ギャップを最適な状態で維持することは重要である。
【0004】
ギャップを最適な状態で維持するには、ギャップが適切な状態から変動していることを検知し、この検知に基づいて所定のタイミングで適切なギャップになるように調整すればよい。ギャップ調整に係る従来技術として、ヘッドから規定の距離に配置されているセンサに対して液滴を吐出して飛翔時間を計測し、これに基づいて算出したヘッドとセンサの離間距離によって、ギャップを調整する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、ギャップを調整するために液滴の飛翔時間を計測するセンサを必要とする。また、特許文献1に開示されている技術では、記録媒体への画像形成処理における液滴の吐出を実行しているときは、記録媒体が搬送によって移動するので離間距離を算出することができない。すなわち、従来技術によれば、ギャップを調整するための専用のセンサなどを必要とする構成が複雑になる、また、画像形成処理(印刷処理)を実行している最中にギャップを調整することはできない、という課題がある。
【0006】
本発明は、簡易な構成により、ヘッドと記録媒体にギャップを調整できる液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、前記記録媒体に吐出された複数の液滴の付着状態を示すデータから当該液滴の相対的な位置関係を示す位置関係データを取得するデータ取得部と、前記位置関係データから、前記複数の液滴の飛翔時間差を算出する時間差算出部と、当該液滴の吐出口から前記記録媒体までの距離であるギャップと、前記飛翔時間差と、を関連付けて記憶する関係性プロファイルデータを参照し、前記飛翔時間差に基づいて前記ギャップを推定するギャップ推定部と、推定されたギャップが適切なギャップであるか否かを判定するギャップ判定部と、ギャップ判定部による判定の結果に基づいて、前記ギャップを適切な状態に調整するための前記吐出口の位置の移動を制御するギャップ調整制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構成により、ヘッドと記録媒体にギャップを調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る画像形成装置の実施形態であるインクジェットプリンタの構成図。
図2】本実施形態に係る液滴の吐出速度と着弾位置の関係の例を示す図。
図3】本発明に係るギャップ調整方法で用いるデータを生成する装置の構成を示す図。
図4】本実施形態に係る液滴の速度を位置の関係を説明する図。
図5】本実施形態に係る関係性プロファイルデータの例を示す図。
図6】本実施形態に係るインクジェットプリンタの機能構成を示す図。
図7】本発明に係るギャップ調整方法の処理の流れを示すフローチャート。
図8】本実施形態に係る液滴の吐出速度と着弾位置の関係の別の例を示す図。
図9】本実施形態に係る関係性プロファイルデータの別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る液滴吐出装置、ギャップ調整方法及び画像形成装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
【0011】
[本発明の要旨]
本発明は、ヘッドから吐出された液滴同士が記録媒体に対して「着弾する位置の相対的な関係」(液滴の位置関係)と、「ヘッドと記録媒体の距離(ギャップ)との相関関係」を予め把握しておき、二つの液滴が着弾した位置(液滴の位置関係)からギャップを推定し、推定結果に基づいてギャップを調整することを要旨の一つとする。
【0012】
本発明に係る液滴吐出装置は、記録媒体に形成された画像の質を検査するための画像検査機能を活用して、画像形成処理により記録媒体に着弾した複数の液滴の位置関係(液滴の距離)を検出する。当該液滴吐出装置は、この検出結果から液滴同士の飛翔時間差を算出し、算出した飛翔時間差に基づいて、予め把握してある「ギャップ」と「飛翔時間差」との相関関係を示す「関係性プロファイルデータ」を用いて、ギャップを推定する。本発明によれば、ギャップを調整するための特殊なセンサや機能を設けることなくギャップの調整を行うことができる。また、本発明によれば、記録媒体への画像形成処理の実行中において、吐出された液滴に基づいてギャップを推定することができるので、搬送中の記録媒体において、撓みなどが生じて液滴着弾面が変位しても、これに対応してギャップの変動も検出できる。したがって、画像形成処理を実行している最中であっても、ギャップの調整をすることができる。
【0013】
[画像形成装置の実施形態]
まず、本発明に係る液滴吐出装置を含む画像形成装置の実施形態について説明する。図1は、液滴吐出装置の実施形態であるインクジェットプリンタ100の概略的な構成を示す図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、画像形成部110と、制御部120と、を備えている。
【0014】
画像形成部110は、液体インクを液滴として吐出する液滴吐出部であるヘッド111と、記録媒体に形成された画像を検査する機能を備える画像検査装置112と、記録媒体であるシート116を搬送する搬送部を構成するアンワインダー113およびリワインダー115と、画像が形成されたシート116を乾燥させる乾燥装置114と、を備えている。
【0015】
本実施形態に係る記録媒体であるシート116は、連長のシート部材であって、例えば、ロール紙である。なお、本実施形態は、ロール紙を記録媒体の実施形態(シート116)として説明する。なお、本発明を適用可能な記録媒体はロール紙に限定されるものではなく、ヘッド111から吐出される液滴によって画像が形成される素材からなり、液滴の着弾位置を読取ることができるものであればよい。
【0016】
インクジェットプリンタ100には、画像形成処理におけるヘッド111の動作のさせ方によって、複数の方式がある。例えば、記録媒体であるシート116を動かし(搬送し)、シート116の搬送方向と直交する方向にヘッド111を動かしながら、ヘッド111からシート116に対して液体インクを吐出する「シリアルヘッド方式」である。また、シート116の幅寸法をカバーするようにヘッド111を幅方向に並べて固定し、シート116を動かしながら所定の位置のヘッド111から所定のタイミングで液滴を吐出する「ラインヘッド方式」である。本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の説明は、「ラインヘッド方式」を例とする。
【0017】
ヘッド111は、シート116の移動方向(搬送方向)と直交する方向(シート116の幅方向)においてブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)のそれぞれの色の液体インクを吐出するノズル口が配列されて液体途吐出部を構成する。ヘッド111が備える所定のノズル口が所定のタイミングで液体インクを液滴として吐出する動作は、制御部120から制御信号に基づいて制御される。ヘッド111は、例えば、ブラックのインクを吐出するヘッド111a、シアンのインクを吐出するヘッド111b、マゼンダのインクを吐出するヘッド111c、イエローのインクを吐出するヘッド111dを含んでいる。
【0018】
ヘッド111は、シート116の幅方向に配列された状態で固定されていて、シート116は、搬送機構によってヘッド111に対して図1中の矢印A方向に移動する。これらヘッド111の移動とシート116の移動を行いながら、制御部120が所定のタイミングでヘッド111への吐出動作を実行するように制御する。これによって、シート116の画像形成面において画像が形成される。なお、シート116は、ヘッド111の直下を通過するように搬送される。
【0019】
また、ヘッド111は、制御部120からの制御信号(T2)に応じて、液滴吐出方向におけるシート116との乖離量を調整する機構を備える。したがって、ヘッド111は、制御部120からの制御信号(T2)によって、図1におけるZ軸方向において、位置を可変することができる。これによって、後述するギャップを調整する。
【0020】
アンワインダー113およびリワインダー115は、制御部120からの制御信号(T2)によって動作をし、シート116を所定の速度で搬送する。アンワインダー113およびリワインダー115の動作は制御部120によって同期するように制御される。
【0021】
ヘッド111よりも搬送方向下流側には乾燥装置114が配置されている。乾燥装置114は、シート116に形成された画像を乾燥させて定着させる。
【0022】
乾燥装置114によってシート116に定着した画像は、画像検査装置112によって検査される。画像検査装置112は、いわゆるスキャナであって、例えば、CIS(コンタクトイメージセンサ)を用いた画像読取部によって構成される。画像読取部は、シート116の幅方向(主走査方方向)の長さ(幅)をカバーするように、複数のCISが配列されている。この複数のCISの直下を、画像形成処理を経たシート116が搬送される。これによって、当該シート116に形成されている画像が、CISよって読み取られる。このCISが読み取った画像に基づいて、検査用画像データが生成される。そして、検査用画像データは、画像検査装置112から制御部120に送信される。図1では、画像検査装置112から制御部120に送信される検査用画像データを示すデータ信号を符号T1で示している。
【0023】
制御部120は、インクジェットプリンタ100の動作全体を制御するためのハードウェアを備え、このハードウェアと協働して、後述する制御を実行するソフトウェアによって後述する各種の処理機能を提供する。制御部120は、画像検査装置112からの信号(T1)によって検査用画像データを受信し、この検査用画像データを解析することによって、ヘッド111とシート116とのギャップを推定するための、液滴間の距離を検出する。
【0024】
また、制御部120は、液滴間の距離から、液滴同士の飛翔時間の差(飛翔時間差)を算出する処理を実行し、予め記憶しているプロファイルデータに基づいて、ヘッド111とシート116のギャップを推定する。また、制御部120は、推定したギャップに基づいて、ヘッド111の位置を調整する制御信号(T2)をヘッド111に出力し、ギャップを調整する動作を制御する。
【0025】
なお、図1では、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100として、画像検査装置112を内部に備える構成を例示している。しかし、本発明に係る液滴吐出装置の実施形態として、本発明を適用可能な構成は、これに限定はされない。例えば、インクジェットプリンタ100から排出されたシート116の画像形成面を読み取る画像読取装置を別体で設ける構成でもよい。この場合、当該画像読取装置から検査用画像データを受け取るようにすればよい。
【0026】
[ギャップ調整方法の前提]
次に、本発明に係るギャップ調整方法の前提について説明する。まず、ギャップ調整方法で用いるギャップの推定の前提となる「着弾する位置の相対的な関係(液滴の位置関係)」について説明をする。図2は、記録媒体であるシート116に対してヘッド111から吐出された液滴1111が着弾した様子の一例を示している。図2中の矢印は、シート116の搬送方向を例示しているので、シート116は当該矢印方向に対して搬送速度Vpで移動していると仮定する。ヘッド111は、複数のノズル(液滴吐出口)を備えている。
【0027】
図2(a)は、同一のノズルから所定の時間間隔を設けて2回の吐出動作を実行した様子を示している。1回目の吐出動作が行われてから2回目の吐出動作が行われるまでの「時間」を「吐出時間差」とする。同一のノズルからの吐出動作は、理想状態では同じ動作であるから、いずれのノズルから吐出された液滴であっても、ノズルから吐出されてからシート116に着弾するまでの時間(「飛翔時間」とする。)は、理想状態では同じ時間になる。
【0028】
1回目の吐出動作と2回目の吐出動作の間に、シート116は搬送速度Vpで副走査方向に移動している。したがって、理想状態では、吐出時間差に相当する距離だけシート116は移動し、1回目の吐出動作に係る液滴と、2回目の吐出動作に係る液滴の、シート116の搬送方向における距離はシート116の移動距離と同じになる。
【0029】
言い換えると、図2(a)に示すように、各液滴の着弾位置は、搬送方向において異なる位置になり、液滴1111aおよび液滴1111bのように異なる位置に着弾する。なお、本実施形態は、同一ノズルからの吐出動作に吐出時間差を設けることに限定されるものではなく、異なるノズルから図2(a)の例示のように着弾させることができれば、異なるノズルの吐出動作であっても、以下において説明するギャップ調整方法は同様である。
【0030】
図2(b)は、図2(a)中の領域Bを拡大した図である。シート116の搬送速度Vpは既知の数値である。また、ノズルからの液滴1111aおよび液滴1111bの吐出速度は理想状態では同一であるから、液滴1111aおよび液滴1111bの飛翔時間は同じである。したがって、液滴1111aおよび液滴1111bのシート116上の距離を搬送速度Vpで除算して得られる時間は、吐出時間差と等しくなるはずである。
【0031】
すなわち、先に着弾した第一の液滴である液滴1111aと、後に着弾した第二の液滴である液滴1111bの搬送方向の距離(X)を検出し、この距離と搬送速度Vpとの基づいて得られる時間(着弾時間差)は、液滴1111aと液滴1111bの吐出時間差は、同じになるはずである。
【0032】
搬送速度Vpと、搬送速度Vpに応じて生ずる液滴1111aと液滴1111bの搬送方向の距離と、液滴1111aと液滴1111bの着弾時間の差の関係は、以下の式1によって表すことができる。
【0033】
【数1】
【0034】
なお、式1において、「Δt」は液滴1111aと液滴1111bの着弾時間差である。「ΔX」は、液滴1111aと液滴1111bの搬送方向軸上の距離である。「Vp」は、シート116の副走査方向における搬送の速度である。
【0035】
しかしながら、ヘッド111が備えるどのノズルであっても、毎回の吐出動作が全く同一になることはなく、液滴の飛翔速度は若干揺らぐことになる。したがって、制御部120が所定の吐出時間差をもって液滴1111aと液滴1111bを吐出させたとしても、式1において算出される着弾間差「Δt」と、吐出時間差(td)は同じになず、飛翔時間差Δtf分だけずれることになる。以上に基づけば、少なくとも「液滴1111aと液滴1111b」の搬送方向軸上の距離である。「ΔX」を検出すれば、これら2つの液滴に係る着弾時間差「Δt」が求まり、その「Δt」は飛翔時間差「Δtf」に影響されることになる。
【0036】
なお、本実施形態の説明では、各液滴がシート116に着弾したときの形状が真円であるものと仮定し、各液滴の距離を各円の中心の距離としている。
【0037】
各液滴の距離である「ΔX」は、液滴1111aと液滴1111bのシート116上の着弾位置を二次元座標系で特定するならば、その座標における副走査方向(搬送方向)の軸上の座標成分の差に相当する。例えば、シート116の搬送方向の軸をX軸とし、搬送方向に直交する方向であってシート116の面方向である主走査方向の軸をY軸とする。この場合、液滴1111aの座標p1がp1(x1,y1)、液滴1111bの座標p2がp2(x2,y2)で表すことができる。これらを前提にすれば、「ΔX」は、以下の式2によって表すことができる。
【0038】
【数2】
【0039】
式1および式2から明らかなように、2つの液滴の位置関係を検出することができれば液滴1111aと液滴1111bの着弾時間の差である「Δt」を算出することができる。このΔtは、ヘッド111とシート116とのギャップと相関する。したがって、2つの液滴の位置関係を検出することで、ヘッド111とシート116とのギャップを推定することができる。
【0040】
[液滴飛翔状態観測装置の実施形態]
上記のように、2つの液滴の位置関係からヘッド111とシート116とのギャップを推定するためには、液滴の飛翔速度差とギャップとの相関に関するプロファイルを事前に把握する必要がある。図3は、本実施形態に係る制御部120において用いられる、「液滴飛翔時間」と「ヘッド111とシート116の距離(ギャップ)」との「関係性プロファイルデータ」を取得するための液滴飛翔状態観測装置の例を示している。
【0041】
図3に示す観測装置200は、観測制御部210と、ヘッド駆動部220と、光源駆動部230と、ヘッド部240と、光源部250と、カメラ部260と、を備えている。なお、関係性プロファイルデータを取得するために用いる装置の構成は、これに限定されるものではない。
【0042】
観測制御部210は、観測装置200の動作を制御し、関係性プロファイルデータを生成して、記憶する情報処理装置である。また、観測制御部210において記憶された関係性プロファイルデータは、液滴吐出装置であるインクジェットプリンタ100の制御部120に移動して記憶させることができるデータである。
【0043】
ヘッド駆動部220は、観測制御部210からの制御信号に基づいてヘッド部240の吐出動作を制御する。より詳しくは、ヘッド駆動部220は、観測制御部210からの制御信号に基づいてノズル駆動信号を生成して、ヘッド部240と光源駆動部230に対し出力する。
【0044】
光源駆動部230は、ヘッド駆動部220が出力するノズル駆動信号に同期して、光源部250を所定のタイミングで点灯するように、光源部250の動作を制御する。
【0045】
ヘッド部240は、すでに説明をしたヘッド111と同様の構成を備えるものである。ヘッド部240は、複数のノズルを備えていて、ヘッド駆動部220からのノズル駆動信号に基づいて、各ノズルから液体を液滴として吐出する。
【0046】
光源部250は、光源駆動部230の制御に基づいて、所定のタイミングで点灯し、ヘッド部240から吐出された液滴241に光を当てる。
【0047】
カメラ部260は、ヘッド部240から吐出された液滴241を撮影し、取得した画像データを観測制御部210に送信する。
【0048】
次に、観測装置200の動作の流れについて説明する。まず、観測制御部210が、所定のタイミングにおいて、ヘッド駆動部220に対して動作開始の指示をする。すると、ヘッド駆動部220がノズル駆動信号を生成して、ヘッド部240と光源駆動部230にノズル駆動信号を出力する。これによって、ヘッド部240は、ノズル駆動信号に基づいて液滴241を吐出する。このとき、光源駆動部230は、ノズル駆動信号に同期して発光波形を光源部250に対して出力する。したがって、光源駆動部230は、液滴241の吐出に同期して光源部250を点灯させる。
【0049】
カメラ部260は、光源部250からの光を受けた液滴241の影を、液滴241の飛翔方向に対する垂直方向から撮影する。カメラ部260が撮影した画像は、観測制御部210に順次送られる。光源駆動部230の発光波形に対してディレイをかけることによって、任意のタイミングにおける液滴241の飛翔状態の画像を撮影することができる。
【0050】
観測制御部210において、種々の駆動信号を生成するようにヘッド駆動部220の動作を制御すれば、ヘッド部240から吐出される各液滴の吐出速度に基づく液滴241の飛翔速度と、この飛翔速度に対応する液滴241の位置との相関を示すデータを取得することができる。
【0051】
[吐出後の液滴位置の時間変化]
図4は、観測装置200のヘッド部240のノズルから吐出された液滴241の位置が経時的に変化する様子を例示している。ここではヘッド部240が備えるある1つのノズルから液滴241が吐出されたと仮定し、吐出時間差(td)を設けて同じノズルから2回の吐出動作をした場合を例示している。先に吐出されたものを液滴241aとし、後に吐出されたものと液滴241bとする。
【0052】
液滴241aの初速(吐出速度)よりも、液滴241bの初速(吐出速度)が遅い速度であると仮定する。インクジェットプリンタ100のヘッド111とシート116の距離(ギャップ)に対応する距離を「PGAP」とする。この場合、液滴241aがPGAPを通過するまで時間と、液滴241bがPGAPを通過するまで時間は異なる。すなわち、液滴241aがPGAPに到達するまで時間よりも液滴241aがPGAPに到達するまでの時間の方が遅い。この場合、ヘッド部240から吐出された液滴241(液滴241a、液滴241b)の、ヘッド部240からの距離(ヘッド部240のノズル口からの距離)は、以下の式3および式4によって表される。なお、式3は、液滴241aによってヘッド部240からの距離を算出する式である。また、式4は、液滴241bによってヘッド部240からの距離を算出する式である。
【0053】
【数3】
【0054】
【数4】
【0055】
式3に含まれる「a」は、液滴241aの加速度である。また、式4に含まれる「a」は、液滴241bの加速度である。
【0056】
また、式3に含まれる「va,0」は、液滴241aの初速度である。また、式4に含まれる「vb,0」は、液滴241bの初速度である。
【0057】
また、式3に含まれる「Pa,0」は、液滴241aの初期位置である。また、式4に含まれる「Pb,0」は、液滴241bの初期位置である。
【0058】
また、式4に含まれる「td」は、液滴241aと液滴241bの吐出時間の差である。
【0059】
ここで、液滴241aと液滴241bの加速度(aとa)をゼロと仮定する。また、液滴241aと液滴241bの初期位置(Pa,0とPb,0)は、ゼロとしてよいので、式3および式4は、それぞれ、式5および式6のようになる。
【0060】
【数5】
【0061】
【数6】
【0062】
式5および式6を、液滴241aの飛翔時間tと液滴241bの飛翔時間tについて書き直すと、以下の式7および式8のようになる。
【0063】
【数7】
【0064】
【数8】
【0065】
式7および式8に基づいて、液滴241aと液滴241bがヘッド部240のノズル口からの所定の距離にある位置Pを通過する時間差「Δt(P)」を算出する式は、以下の式9のようになる。
【0066】
【数9】
【0067】
式9から明らかなように、液滴241aと液滴241bが同一のノズルから所定の時間間隔を空けて複数回吐出した場合であっても、異なるノズルから同じタイミング(td=0)で複数の吐出をした場合であっても、これら複数の液滴において式9の関係性は成立する。したがって、本発明に係るギャップ調整方法において用いられるギャップの推定は、同一のノズルから時間差を設けて複数回の吐出動作を行う場合に限定されるものではなく、複数の異なるノズルからの吐出動作を行う場合においても適用できる。
【0068】
なお、実際には液滴の飛翔形状に応じて上記の式3と式4の加速度(a、a)は変化する。そこで、図4に示したす観測装置200を用いて、ΔtとPとの相関について実験的に取得し、「液滴飛翔時間」と「ギャップ」と相関関係を示すデータを把握し、これに基づいて、液滴の着弾時間差(Δt)からギャップ(P)の相関関係を示す「関係性プロファイルデータ」の関係性プロファイルデータを算出することができる。
【0069】
[関係性プロファイルデータ]
次に、ヘッド111とシート116との間のギャップの相関を示す関係性プロファイルデータについて図5を用いて説明する。図5(a)は、図4に例示した観測装置200を用いる実験を行うことで求めることができる速度の異なる液滴のそれぞれにおけるギャップ「P」と液滴が着弾するまでの時間「Δt」との相関を例示したグラフである。図5(b)は、図5(a)に示される相関に基づいて得られる「関係性プロファイルデータ」の例を示すグラフである。
【0070】
まず、観測装置200を用いることで、ヘッド部240から吐出された液滴241aと液滴241bが距離(ギャップP)に到達するまで(着弾するまで)の時間(すなわち、飛翔時間)を取得することができる。図5(a)では、横軸をヘッド部240からの距離「P」、縦軸を飛翔時間「t」としている。図5(a)に示すように、ヘッド部240からの距離(ギャップP)が長くなると、液滴241aと液滴241bのそれぞれにおける飛翔時間が長くなる。また、ヘッド部240からの距離(ギャップP)が長くなると、液滴241aと液滴241bの飛翔時間の差である着弾時間差「Δt」は長くなる。
【0071】
この図5(a)のグラフに基づけば、ギャップPと着弾時間差Δtの相関を取得することができる。この相関を示すデータである「関係性プロファイルデータ」は、観測装置200の観測制御部210において生成され、その後、インクジェットプリンタ100の制御部120に移される。
【0072】
[制御部120の機能ブロック]
ここで、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の制御部120について説明する。図6は制御部120の機能ブロック図である。制御部120は、一般的な情報処理装置と同様に、演算処理を実行するプロセッサと、演算処理の内容を規定するプログラムを記憶する記憶部などのハードウェアにより構成されている。記憶部に記憶されているプログラムを用いてプロセッサを実行することで、後述する各機能が実現される。
【0073】
図6に示すように、制御部120は、データ取得部121と、時間差算出部122と、ギャップ推定部123と、ギャップ判定部124と、ギャップ調整制御部125と、関係性プロファイルデータ記憶部126と、を有する。
【0074】
データ取得部121は、画像検査装置112がシート116の画像形成面から読み取った検査用画像データを受け取り、複数の液体のうち、特定の2つの液滴の付着状態を示すデータを算出する。このデータは、シート116の液滴付着面における位置関係を示す位置関係データである。データ取得部121は、式2に基づく演算処理を実行して、位置関係データとしての距離(ΔX)を算出する。
【0075】
データ取得部121は、位置関係データとしての距離(ΔX)を複数回算出して、その平均値を、後段の処理に用いる距離(ΔX)としてもよい。また、データ取得部121は、複数回算出した距離(ΔX)の偏差を位置関係データとして用いるようにしてもよい。
【0076】
時間差算出部122は、データ取得部121において算出された位置関係データを用いて、式1に基づき着弾時間差「Δt」を算出する。
【0077】
ギャップ推定部123は、関係性プロファイルデータ記憶部126に予め記憶されている関係性プロファイルデータを、時間差算出部122が算出した着弾時間差「Δt」と用いて参照し、対応するヘッド111からの距離「P」を推定する。関係性プロファイルデータは、着弾時間差「Δt」と距離「P」とが関連付けられたデータ構造を有する。したがって、着弾時間差「Δt」が決まれば距離「P」を特定することができる。なお、関係性プロファイルデータには、離散的な着弾時間差「Δt」に対して、各々対応する距離「P」が関連付けられているので、関係性プロファイルデータに示されていない着弾時間差「Δt」の場合は、近似値を用いて対応する距離「P」を推定する。
【0078】
なお、ギャップ推定部123は、時間差算出部122において算出された複数の液滴組の着弾時間差「Δt」の平均値に基づいて、関係性プロファイルデータを参照し、ギャップを推定してもよい。
【0079】
また、ギャップ推定部123は、時間差算出部122において算出された複数の液滴組の着弾時間差「Δt」の偏差に基づいて、関係性プロファイルデータを参照し、ギャップを推定してもよい。
【0080】
ギャップ判定部124は、ギャップ推定部123において、推定されたギャップが調整を必要とする状態になっているか否かを判定する。具体的には、算出されたギャップがある値の範囲内にあるか否かを判定する。この判定の結果において、ある値の範囲を超えていれば、適切な状態になるようにギャップ調整制御部125に調整指示を通知する。
【0081】
ギャップ調整制御部125は、ギャップ調整判定部からの調整指示に基づいて、ヘッド111の位置を制御する。ヘッド111は、シート116との距離を可変可能とする構成を備えている。したがって、ギャップが狭くなり過ぎているときは、ギャップを広げる方向にヘッド111を移動させる。逆に、ギャップが広くなりすぎているときは、ギャップを狭める方向にヘッド111を移動させる。
【0082】
関係性プロファイルデータ記憶部126は、図4において示した観測装置200を用いて取得した、図5(a)に示したデータを記憶する。関係性プロファイルデータ記憶部126は、ギャップ推定部123からの参照により着弾時間差「Δt」から距離「P」を推定するための処理に用いられる。
【0083】
[ギャップ調整方法の第一実施形態]
次に、本発明に係るギャップ調整方法の第一実施形態について説明する。インクジェットプリンタ100において実行されるギャップ調整方法の処理ステップについて、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0084】
まず、画像検査装置112からデータ取得部121が画像データを取得する(S701)。続いて、データ取得部121において、特定の2つの液滴の距離を算出する(S702)。
【0085】
続いて、データ取得部121において算出された液滴間の距離のデータを時間差算出部122が受け取り、式1に基づく演算処理を実行して、着弾時間差(Δt)を算出する(S703)。
【0086】
続いて、ギャップ推定部123が、時間差算出部122から着弾時間差(Δt)を受け取り、関係性プロファイルデータ記憶部126を参照して、着弾時間差(Δt)から現在のギャップを推定する(S704)。
【0087】
続いて、ギャップ判定部124から、ギャップ推定部123から推定されたギャップを受け取り、このギャップが予め規定する条件(適用幅など)に合致するか否かを判定する(S705)。S705は、例えば、予めギャップの上限値と下限値を規定しておき、これらを閾値として、この閾値を超えるまたは下回る、のいずれかに該当する否かを判定する処理である。
【0088】
S705において、上限値を上回る、または下限値を下回る、のいずれかに該当すると判定されたとき(S705/YES)、ギャップ調整制御部125に対して、ギャップ調整量を指示する制御信号を出力するように通知する。ギャップ調整制御部125は、この通知に基づいてヘッド111に対して位置を移動させて調整するように制御する(S706)。
【0089】
S705において、上限値を上回る、または下限値を下回る、のいずれにも該当しないと判定されたとき(S705/NO)、ギャップの調整を行わずに処理を終了する。
【0090】
以上のように、本実施形態に係るギャップ調整方法によれば、インクジェットプリンタ100が備える画像検査装置112を利用して画像の形成に用いられる液滴のシート116上の着弾位置から、ギャップを推定することができる。そして、液滴の着弾位置から推定されたギャップに基づいて、ギャップの調整をすることができる。したがって、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100を用いた液滴調整方法によれば、簡易な方法により、ヘッド111とシート116のギャップの調整を行うことができる。
【0091】
[ギャップ調整方法の第二実施形態]
次に、本発明に係るギャップ調整方法の第二実施形態について説明する。インクジェットプリンタ100において画像が形成されるシート116は、搬送方向において撓むこともある。その様子を図8に例示する。図8において、シート116は、液滴1111が着弾する着弾面が変動している。このようなシート116のバタツキがあると、ギャップがシート116の搬送度合いによって継続的に変動することになる。本実施形態に係るギャップ調整方法は、このようなシート116のバタツキに対応するものである。
【0092】
シート116がギャップ方向において変動するようなバタツキがあると、液滴1111を吐出する度に、ヘッド111とシート116の距離(ギャップ)が異なる状態になる。
【0093】
すでに説明をしたとおり、インクジェットプリンタ100は、制御部120に記憶されている関係性プロファイルデータにより、液滴1111の着弾位置の距離に基づいて、ギャップを推定することができる。したがって、複数の液滴の着弾位置の距離が、例えば、液滴1111aと液滴1111bの距離をΔX、液滴1111aと液滴1111bの距離をΔX、とした場合、このΔXとΔXの平均値を算出するなどして、シート116の撓みなどにより生ずるギャップの変動のバラツキを平準化し、この平均値に基づいて関係性プロファイルデータを参照してギャップを推定することができる。
【0094】
これによって、シート116の液滴着弾面が変動したとしても、画像形成処理において着弾した液滴の距離の平均値などを用いて、ギャップを推定し、調整することができる。なお、複数の液滴間の距離の変動を前提にしてギャップを調整する方法として、平均値を用いる他にも、バラツキ幅の上限値を用いて関係性プロファイルデータを参照し、ギャップを推定して調整することもできる。
【0095】
また、複数の液滴同士の着弾位置から複数の距離を算出し、それら距離の偏差を算出し、この距離の偏差に基づいて、ギャップの偏差を算出して、当該ギャップを調整してもよい。
【0096】
[ギャップ調整方法の第三実施形態]
次に、本発明に係るギャップ調整方法の第三実施形態について説明する。インクジェットプリンタ100において液滴を吐出するヘッド111は、ヘッド駆動信号に基づいて吐出動作をし、同じヘッド駆動信号を用いた場合、液滴の吐出状態(吐出速度や着弾位置)は同じになるはずである。しかしながら、ヘッド111における吐出動作にもバラツキが生ずることがある。本実施形態に係るギャップ調整方法は、このようなヘッド111の出力特性のバラツキに対応するものである。
【0097】
図9は、ヘッド111の出力特性におけるバラツキが生じた場合に備える関係性プロファイルデータを説明するためのグラフである。
【0098】
図4に示した観測装置200のヘッド部240に複数の異なる吐出駆動信号を与えて、吐出駆動信号の違いによりヘッド部240の出力特性のバラツキを擬似的に生じさせる。出力特性をばらつかせた状態で、ヘッド部240から吐出される液滴の着弾時間差とギャップを示す関係性プロファイルデータを、ヘッド部240の出力特性毎に取得する。これをヘッド111の出力特性のバラツキに適用できるように、図9(a)のように、ヘッド111の出力をマイナス方向に変化させた場合の関係性プロファイルデータ、標準的な関係性プロファイルデータ、プラス方向に変化させた場合の関係性プロファイルデータ、を取得する。なお、図9(a)におけるPv-(Δt)は、マイナス方向のバラツキを想定した関係性プロファイルデータを示している。また、Pv0(Δt)は、標準的な関係性プロファイルデータを示している。また、Pv+(Δt)は、プラス方向のバラツキを想定した関係性プロファイルデータを示している。
【0099】
図9(a)に示す様に、ヘッド111の出力にバラツキが生ずると、2つの異なる液滴の速度がそれぞれ変化するので、着弾時間差「Δt」とギャップとの関係性は変動する。これに基づいて、図9(b)に示すように、ヘッド111とギャップにより規定される着弾時間差「Δt」とヘッド111の出力特性との相関関係を示す出力特性別データを取得することができる。
【0100】
インクジェットプリンタ100において、図2に示したような画像形成を実行するときに、事前にヘッド111の出力を意図的に変えたものに基づく液滴の距離に関するデータを取得しておく。これに基づいて図9(b)に示した出力特性別データを参照して、Δtから出力特性を特定し、特定した出力特性に基づいて、図9(a)に示した関係性プロファイルデータを特定する。この特定された関係性プロファイルデータを用いて、液滴の着弾時間差(Δt)からギャップを推定することで、画像形成処理の最中であっても、ギャップを推定し、調整することができる。
【0101】
以上説明をした本実施形態に係るインクジェットプリンタ100において実行される液滴調整方法によれば、予めインクの吐出タイミング、吐出の強さ、インクを吐出するノズルなどの調整や変更をして、複数の関係性プロファイルを取得しておくことができる。その結果、実際にインクジェットプリンタ100を動作させて画像形成処理を実行している最中であっても、ギャップのばらつき、ヘッドの出力ばらつきなどに対応し、ギャップを最適な状態に調整することができるので、良好な画像を形成することができる。
【0102】
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0103】
100 :インクジェットプリンタ
110 :画像形成部
111 :ヘッド
112 :画像検査装置
113 :アンワインダー
114 :乾燥装置
115 :リワインダー
116 :シート
120 :制御部
121 :データ取得部
122 :時間差算出部
123 :ギャップ推定部
124 :ギャップ調整判定部
125 :ギャップ調整制御部
126 :関係性プロファイルデータ記憶部
200 :観測装置
210 :観測制御部
220 :ヘッド駆動部
230 :光源駆動部
240 :ヘッド部
241 :液滴
250 :光源部
260 :カメラ部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0104】
【文献】特開2010-274598号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9