IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許70815962-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンの製造方法、ならびに2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンの製造方法、ならびに2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/10 20060101AFI20220531BHJP
   C07C 19/10 20060101ALI20220531BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20220531BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20220531BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
C07C17/10
C07C19/10
C07C21/18
C07C17/25
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019526772
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2018022409
(87)【国際公開番号】W WO2019003896
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017125139
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 英史
(72)【発明者】
【氏名】古田 昇二
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-520017(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162336(WO,A1)
【文献】特表2010-513437(JP,A)
【文献】特表2005-510549(JP,A)
【文献】特表2003-502298(JP,A)
【文献】特開平10-237003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/10
C07C 19/10
C07C 21/18
C07C 17/25
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200~750nmの波長の光の照射下で、四塩化炭素、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む溶媒の存在下で液相にて、1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと塩素を反応させて2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを得る、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンの製造方法。
【請求項2】
前記1,1,1,2-テトラフルオロプロパンの1モルに対して、前記塩素を0.01~3.00モルの割合で用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと塩素との反応を、0~100℃の温度で行う、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと塩素との反応を、ゲージ圧で、0.00~1.00MPaの圧力で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと塩素との反応を、蛍光灯またはLEDランプの照射下で行う、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒を、前記1,1,1,2-テトラフルオロプロパンと前記塩素の合計量に対して1~4000質量%の割合で用いる、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法により2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを得、前記得られた2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを塩基および/または触媒の存在下で脱塩化水素反応させる2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンおよび/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを製造する方法、ならびに2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CH=CF-CF、HFO-1234yf)は、温室効果ガスである1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)に代わる新しい冷媒として、近年大きな期待が寄せられている。
【0003】
1234yfの製造方法として、特許文献1には、1,2-ジクロロ-2-フルオロプロパン(CHCClFCHCl、HCFC-261ba)を塩素化して1,1,1,2-テトラクロロ-2-フルオロプロパン(CHCClFCCl、HCFC-241bb)を得、該241bbをフッ素化して2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(CFCFClCH、HCFC-244bb)を得、得られた244bbを脱塩化水素反応させて1234yfを得る方法が記載されている。
【0004】
特許文献1においては、原料である261baから3段階の反応により1234yfを得ており、生産性の点で改善が望まれていた。特に、244bbを効率よく製造することで1234yfを生産性よく製造する方法が望まれていた。
【0005】
また、244bbの構造異性体である3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(CFCHFCHCl、HCFC-244eb)からも、244bbと同様に脱塩化水素反応により1234yfが得られる。そのため、244ebを効率よく製造できれば、1234yfを生産性よく製造することができる。
【0006】
一方、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(CFCHFCH、HFC-254eb)を脱水素化して一段階の反応で1234yfを得る方法が知られている(特許文献2を参照)。しかしながら、該反応は、高温反応であり、かつ高価な触媒が必要とされるため、特許文献2による1234yfの製造方法は、経済的に有利な方法とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5482665号公報
【文献】特許第5886841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記観点からなされたものであって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を製造するのに有利な原料である2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)および/または3-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244eb)を工業的に入手可能な材料から、生産性よく製造する方法、および、それにより、効率的に1234yfを得る経済的に有利な製造方法の提供を目的とする。
【0009】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1234yf」においては「1234yf」)を用いることがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[11]の構成を有する244bbおよび/または244ebの製造方法、および1234yfの製造方法を提供する。
[1]1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HFC-254eb)と塩素(Cl)を反応させて244bbおよび/または244ebを得る、244bbおよび/または244ebの製造方法。
[2]前記254ebの1モルに対して、前記塩素を0.01~3.00モルの割合で用いる[1]の製造方法。
[3]前記254ebと塩素との反応を、0~100℃の温度で行う、[1]または[2]の製造方法。
[4]前記254ebと塩素との反応を、ゲージ圧で、0.00~1.00MPaの圧力で行う、[1]~[3]のいずれかの製造方法。
[5]前記254ebと塩素との反応を、200~750nmの波長の光の照射下で行う、[1]~[4]のいずれかの製造方法。
[6]前記254ebと塩素との反応を、蛍光灯またはLEDランプの照射下で行う、[1]~[5]のいずれかの製造方法。
[7]前記254ebと塩素との反応を、溶媒の存在下で液相にて行う、[1]~[6]のいずれかの製造方法。
[8]前記溶媒が、四塩化炭素、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)、CF(CFCF(ただし、式中nは、3~6の整数を表す。)で表される炭素数5~8の直鎖パーフルオロアルキル化合物、ヘキサクロロアセトン、244bbおよび244ebからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[7]の製造方法。
[9]前記溶媒を、前記254ebと前記塩素の合計量に対して1~4000質量%の割合で用いる、[7]または[8]の製造方法。
[10]前記254ebと塩素との反応を気相にて行う、[1]~[6]のいずれかの製造方法。
[11][1]~[10]のいずれかの製造方法により244bbおよび/または244ebを得、前記得られた244bbおよび/または244ebを塩基および/または触媒の存在下で脱塩化水素反応させる1234yfの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1234yfを製造するのに有利な原料である244bbおよび/または244ebを、工業的に入手可能な254ebから、生産性よく製造できる。さらに、本発明によれば、これにより得られる、244bbおよび/または244ebを用いることにより1234yfを経済的に有利な方法で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[244bbおよび/または244ebの製造方法]
本発明の244bbおよび/または244ebの製造方法(「第1の実施形態」)は、254ebを塩素と反応させる塩素化反応により行われる。254ebの塩素化反応により244bbおよび/または244ebを得る反応は、下式(1)で示される反応(以下、反応(1)ともいう。)である。
【0013】
本明細書において、244bbおよび/または244ebとは、244bbのみ、244ebのみ、244bbおよび244ebの場合のいずれかである。本明細書において塩素は、分子状態の塩素(Cl)をいう。
【0014】
【化1】
【0015】
第1の実施形態で得られる244bbおよび/または244ebは、環境負荷が少ない冷媒として有用な1234yfを、効率よく生産するための原料として有用である。
【0016】
<254ebの製造>
第1の実施形態に用いる254ebは、含フッ素化合物の製造原料または中間体として知られる公知の化合物であり、公知の方法により製造できる。254ebは、例えば、下式(2)に示されるとおり、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFCF=CCl、CFO-1214ya)に触媒の存在下で水素を反応させることで製造可能である。なお、この反応は、1214yaから、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFCF=CHCl、HCFO-1224yd)、や1234yfを製造する際の還元反応系に含まれる。
【0017】
式(2)で示される反応の出発物質である1214yaは公知の製造方法により製造することができる。1214yaの製造方法としては、例えば、特許第5582036号明細書に記載の方法が挙げられる。
【0018】
なお、1224ydは二重結合上の置換基の位置により、幾何異性体であるZ体とE体が存在する。本明細書中では特に断らずに化合物名や化合物の略称を用いた場合には、Z体およびE体から選ばれる少なくとも1種を示し、化合物名や化合物の略称の後ろに(E)または(Z)を付した場合には、其々の化合物のE体またはZ体であることを示す。例えば、1224yd(Z)および1224yd(E)は、それぞれ1224ydのZ体およびE体を示す。
【0019】
【化2】
【0020】
1214yaを水素と反応させて還元させる上記反応には、水素化触媒が用いられる。水素化触媒としては、パラジウム触媒が好ましく、パラジウム触媒は担体に担持して用いることが好ましい。パラジウム触媒としてはパラジウム単体のみならず、パラジウム合金であってもよい。また、パラジウムと他の金属との混合物やパラジウムと他の金属とを担体に別々に担持させた複合触媒であってもよい。パラジウム合金触媒としては、パラジウム/白金合金触媒やパラジウム/ロジウム合金触媒などが挙げられる。
【0021】
担体としては、活性炭、金属酸化物(アルミナ、ジルコニア、シリカ等)等が挙げられ、活性、耐久性、反応選択性の点から、活性炭が好ましい。活性炭としては、植物原料(木材、木炭、果実殻、ヤシ殻等)、鉱物質原料(泥炭、亜炭、石炭等)等から得られたものが挙げられ、触媒耐久性の点から、植物原料から得られたものが好ましく、ヤシ殻活性炭が特に好ましい。
【0022】
1214yaを水素と反応させる還元反応は気相で行われる。具体的には、反応管に触媒担持担体を充填して触媒層を形成し、該触媒層に1214yaガスと水素ガスを流通させることで行われる。反応時の触媒層の温度は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。1214yaと水素の割合は適宜調整される。1214yaガスと水素ガスに、窒素ガス、希ガス等からなる希釈ガスを加えて反応に供してもよい。
【0023】
なお、上記還元反応における条件は、必ずしも254ebの選択率を高くする条件でなくてもよい。原料の1214yaから目的生成物である254ebを製造する際に得られる中間生成物としての1224ydおよび1234yfは、それぞれ単離して有価物として使用できるため、1224yd、1234yfおよび254ebの合計の選択率を高くする条件で反応を行うことが好ましい。具体的には、1,1,1-トリフルオロプロパン(CFCHCH、HFC-263fb)等の254ebの過還元体の生成が抑制される条件で反応を行うことが好ましい。
【0024】
なお、転化率は、反応に使用した原料の全量に対する、反応で消費された原料の量の割合(モル%)をいい、選択率は、生成物の全量に対する、目的生成物の生成した量の割合(モル%)をいう。
【0025】
1214yaを水素と反応させて得られる反応生成物から、通常の分離方法により、例えば、蒸留により254ebを単離して、第1の実施形態の原料として使用する。なお、第1の実施形態には、必要に応じて、254ebと、1214ya、1224yd、1234yf等の不純物とからなり、組成物全量に対して254ebを10質量%以上含有する254eb組成物を用いてもよい。ただし、上記254eb組成物が含有する1214ya、1224ydおよび1234yfはそれぞれ取り出して有価物として使用することが好ましい。
【0026】
また、254eb組成物が263fbを含む場合、263fbは以下の塩素化反応および脱塩化水素反応により1234yfとの分離が困難な3,3,3-トリフルオロプロペン(CFCH=CH、HFO-1243zf)を生成することから上記254eb組成物から除去されることが好ましい。このような観点から、254eb組成物における組成物全量に対する254ebの含有量は、85質量%以上100質量%未満が好ましく、90質量%以上99質量%以下がより好ましい。
【0027】
<244bbおよび/または244ebの製造>
第1の実施形態は、254ebを塩素と反応させて、反応(1)により、244bbおよび/または244ebを製造する方法である。第1の実施形態において、出発物質である254ebとしては、前述の方法で得られた254ebを用いることができる。なお、254ebの入手方法はこれに限定されない。
【0028】
目的生成物である244bbおよび/または244ebにおける、244bbおよび244ebの合計量に対する各化合物の割合は特に限定されない。すなわち、第1の実施形態において、目的生成物である244bbおよび/または244ebは、244bbの単体、244ebの単体、244bbと244ebのいかなる混合割合の混合物であってもよい。本明細書において、「244bbおよび/または244ebの選択率」とは、244bbと244ebの合計選択率を意味する。
【0029】
第1の実施形態で得られる244bbおよび/または244ebを、後述の脱塩化水素反応による1234yfの製造方法の原料として使用する場合、244bbおよび244ebのいずれも脱塩化水素反応により1234yfとなることから、両者を混合物として得た場合に、特に両者を分離しなくてもよい。ただし、以下に説明する副生物と、244bbおよび244ebを蒸留等の通常の方法で分離する場合、244bbおよび244ebは沸点差があることから容易に分離される。その場合、244bbおよび244ebは単体として得られてもよい。
【0030】
ここで、254ebの塩素化反応においては、反応(1)とともに、反応(1)で得られる244bbおよび/または244ebがさらに塩素化される副反応が生起して、2,3-ジクロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-234bb)、3,3-ジクロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-234ea)、2,3,3-トリクロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-224ba)、1,1,1-トリクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-224eb)、1,1,1,2-テトラクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(CFC-214bb)等の過塩素化体が副生することがある。これらの過塩素化体が副生する反応は、以下の反応式で示される。
【0031】
【化3】
【0032】
第1の実施形態における、254ebの塩素化反応は、244bbおよび/または244ebの選択率を高めるために、このような反応(1)に伴う副反応を抑制する条件で行うことが好ましい。なお、上記過塩素化体のうち、234bb、234ea、224baおよび224ebはさらに脱塩化水素することで1214yaまたは1224ydの製造が可能であり、副生物として多少生成されてもよい。しかしながら、214bbについては有用性が小さいため、生成量は少ない方が好ましい。したがって、第1の実施形態における、254ebの塩素化反応は、214bbの生成量が少なくなる条件で行うことが特に好ましい。
【0033】
塩素化反応は液相で行われてもよく、気相で行われてもよい。以下、塩素化反応を液相で光照射下に行う場合を例にして説明する。
【0034】
第1の実施形態において、用いる254ebと塩素の割合、例えば、上記反応器に供給される254ebと塩素の割合は、反応を活性化する観点、副生成物、特には214bbの生成を抑制する観点、244bbおよび/または244ebの選択率を上げる観点ならびに254ebからの244bbおよび/または244ebの収率の観点から、254ebの1モルに対して塩素(Cl)0.01~3.00モルが好ましく、0.10~2.00モルがより好ましく、0.20~1.60モルがさらに好ましく、0.50~1.50モルが最も好ましい。
【0035】
塩素化反応における、反応温度は、反応速度を上げる観点から、0~100℃が好ましく、5~60℃がより好ましい。反応圧力は、反応器内の圧力に相当する。反応器内の圧力は、効率良く製造できるため、0.00~1.00MPaが好ましく、0.05~0.50MPaがより好ましい。生産性を向上させるため、加圧条件で反応を行うことが好ましい。本明細書において、圧力は、特に記載しない限りゲージ圧のことである。
【0036】
254ebの塩素化反応(以下、単に「塩素化反応」ともいう。)は、反応速度を上げる観点から、光照射下で行うことが好ましい。照射に用いる光の波長は、200~750nmが好ましく、250~730nmがより好ましい。200nm以上の波長をもつ光であれば副生物の生成反応が十分に抑制でき、750nm以下の波長をもつ光であれば反応が十分進行する。なお、照射に用いる光には、200nm未満の波長の光や750nmを超える波長の光が含まれていてもよい。
【0037】
塩素化反応において、原料に200~750nmの波長の光の照射を効率よく行える光源としては、例えば、蛍光灯、LEDライト、白熱灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプなどが挙げられる。発熱が大きい光源は、反応器の内温を低く保つのが困難になるため好ましくない。内温が高いと内圧が上昇し、反応器の耐圧を上げる必要がありコスト面で不利である。また、内温が高いと、副反応が起こり易くなる。発熱が小さい光源としては、蛍光灯やLEDライトが好ましい。
【0038】
塩素化反応を液相で行う場合、原料に光を照射する方法としては、反応時間を通して、原料と、必要に応じて用いられる溶媒、および生成物を含む反応液全体に均一に光を照射できる方法であれば、特に制限されない。
【0039】
例えば、ジャケットを装着した光源を、反応液中に挿入し、反応液内部から反応液中の原料に対して光を照射する方法等が挙げられる。該ジャケットの材質は、少なくとも上記反応に有用な波長の光を透過し、反応液に含まれる成分に対して不活性であり、またこれらの成分により腐食されにくい材質であることが好ましい。また、光源が熱を発生する場合には、反応温度によっては、上記ジャケットは冷却手段を有することが好ましい。
【0040】
塩素化反応において、254ebと塩素は、それぞれ別々に反応器に供給されてもよく、予め混合された状態で供給されてもよい。溶媒を用いる場合、該溶媒としては、原料成分(254ebと塩素)を溶解することが可能であり、かつ原料成分に対して不活性であって、蒸留等によって目的生成物(244bbおよび/または244eb)との分離が容易である溶媒が、特に制限なく挙げられる。
【0041】
溶媒として、具体的には、四塩化炭素、CFC-113、CF(CFCF(ただし、式中nは、3~6の整数を表す。)で表される炭素数5~8の直鎖パーフルオロアルキル化合物およびヘキサクロロアセトン等のパーハロ化合物を挙げることができる。また、目的生成物である244bbおよび/または244ebを溶媒として用いてもよく、副生する234bb、234ea、224ba、224ebおよび214bbを溶媒として用いてもよい。溶媒としては、これらの化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
溶媒は、第1の実施形態においては、低コストで、目的生成物と分離が容易な四塩化炭素や、分離の必要性のない244bbおよび/または244ebが好ましい。
【0043】
塩素化反応に用いる溶媒の量は、生成する244bbおよび/または244ebを溶解できれば特に制限されないが、具体的には、原料成分(254ebと塩素の合計量)に対して1~4000質量%、好ましくは50~3000質量%の量が好ましい。
【0044】
反応器の材質としては、反応液に含まれる成分に対して不活性で、これらの成分により腐食されにくい材質であれば特に制限されない。反応器の材質としては、例えば、鉄、ニッケル、これらを主成分とする合金、ガラス、樹脂等を挙げることができる。耐圧性と耐腐食性の観点から、反応器の内面が樹脂でライニングされた上記合金製の反応容器が好ましい。
【0045】
塩素化反応は、半連続式、バッチ式、連続式のいずれの方法で行ってもよい。反応時間は、各方式により一般的な方法で適宜調整することができる。反応器への原料の供給は、成分毎に各所定量を供給する方法でもよいし、各成分を各所定量含む混合物として供給する方法でもよい。塩素を塩素ガスとして反応器に供給する場合、塩素ガスの供給は、必要に応じて窒素等の不活性ガスで希釈して行ってもよい。
【0046】
半連続式の場合において、原料は反応中に原料の各成分として、または原料の各成分を混合した混合物として、一定の速度で添加して供給される。原料の添加は、断続的であってもよいし、連続的であってもよい。バッチ式の場合は、原料は反応前に反応器に溶媒などとともに仕込まれ、反応に供される。
【0047】
連続式の場合は、原料は、例えば、溶媒を仕込んだ反応器の下部から反応中に連続的に供給される。連続式の場合は、反応終了後の生成物は反応器上部から、例えば、オーバーフロー等により連続的に取り出す。
【0048】
塩素化反応に際しては、半連続式、バッチ式、連続式のいずれの方法においても、通常の方法、装置等を用いて、撹拌することが好ましい。
【0049】
塩素化反応を気相で行う場合、液相で行う場合と異なる点は、溶媒を使用しない点、温度および/または圧力を気相の条件とする点等である。塩素化反応を気相で行う場合の条件として、例えば、圧力0.00~1.00MPa、温度0~100℃の条件が挙げられる。
【0050】
上記のようにして、254ebを塩素と反応させる塩素化反応により得られる反応生成物は、目的生成物である244bbおよび/または244eb、未反応原料、溶媒、過塩素化体等の副生成物等を含有する。
【0051】
得られる生成物から目的生成物である244bbおよび/または244ebを分離する方法としては、例えば、アルカリで洗浄することにより塩素を除去した後、蒸留によって溶媒および副生成物を除去する方法などの通常の分離方法が挙げられる。また、蒸留により244bbおよび/または244ebの精製を行うことができ、蒸留を繰り返し行うことで所望の純度の244bbまたは244eb、あるいは、所望の純度の244bbおよび244ebを得ることができる。
【0052】
[1234yfの製造方法]
本発明の1234yfの製造方法(「第2の実施形態」)は、第1の実施形態の方法により244bbおよび/または244ebを得、得られた244bbおよび/または244ebを塩基および/または触媒の存在下で脱塩化水素反応させる方法である。244bbおよび/または244ebを塩基および/または触媒の存在下で脱塩化水素させる反応は、下式(3)で示される反応(以下、反応(3)ともいう。)である。
【0053】
【化4】
【0054】
反応(3)の出発物質は、244bbの単体、244ebの単体、または、244bbと244ebのいずれかの混合割合の混合物である。
【0055】
ここで、反応(3)を行うのに用いる原料(以下、「反応(3)の原料」ともいう)は、244bbの単体、244ebの単体、または、244bbと244ebのいずれかの混合割合の混合物の他に不純物を含まないものが概念上好ましい。しかしながら、反応(3)の原料は、経済性の観点からは、第1の実施形態において、244bbおよび/または244ebの副生物として生成される過塩素化体等の不純物を含んでもよい。
【0056】
過塩素化体のうち234bb、234ea、224baおよび224ebは、反応(3)により244bbおよび/または244ebが脱塩化水素反応する条件下で、式(4)または式(5)に示すとおり脱塩化水素して1224ydまたは1214yaを生成する。具体的には、234bbおよび/または234eaから1224ydが、224baおよび/または224ebから1214yaがそれぞれ生成する。また、214bbは、244bbおよび/または244ebの脱塩化水素反応を阻害しない。
【0057】
【化5】
【0058】
【化6】
【0059】
反応(3)の原料が、244bbおよび/または244ebと、それ以外の不純物を含む場合、不純物と244bbおよび/または244ebの総量に対する244bbおよび/または244ebの割合は、85質量%以上100質量%未満が好ましく、90質量%以上99質量%以下がより好ましい。
【0060】
反応(3)の原料は、244bbおよび/または244ebを主成分とし、234bb、234ea、224baおよび224ebから選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでもよい。反応(3)の原料は、さらに、214bbを含んでもよい。この場合、不純物である234bb、234ea、224ba、224ebおよび214bbの総量の割合は、効率よく1234yfを製造するために、上記不純物と244bbおよび/または244ebの総量に対して、0モル%超15モル%以下が好ましく、0.1モル%以上7モル%以下がより好ましい。
【0061】
第2の実施形態における、反応(3)の脱塩化水素反応は、従来公知の方法で行うことができる。反応(3)は、例えば、特許第5482665号公報記載の方法により、触媒の存在下、気相で行うことができる(以下、(A)法)。反応(3)は、塩基の存在下、気相または液相中で行うことができる(以下、(B)法)。
【0062】
(A)法における触媒として具体的には、活性炭、ニッケル触媒(例えば、ニッケルメッシュ)、またはこれらを組み合わせたもの等を挙げることができる。その他の触媒としてはパラジウム担持カーボンやパラジウム担持アルミナなどが用いられる。なお、これらの触媒は反応器に固定床や流動床といった形で充填されて用いられる。
【0063】
(A)法において、反応温度は、反応時の圧力条件により適宜調整される。(A)法における、反応の圧力条件については、例えば、反応時間の短縮等の目的で加圧を必要とする場合には、1.0MPa以下の加圧条件、反応器内の内圧で常圧~1.0MPaの反応圧条件とすることが可能である。工業的な実施のしやすさの点から、圧力調整を行わずに常圧で反応を行うことが好ましい。(A)法を常圧で行う場合の反応温度は、200~700℃とすることが好ましく、250~650℃がより好ましい反応温度である。なお、244bbにおいては、反応温度は400~650℃が好ましく、450~600℃がより好ましい。244ebにおいては、反応温度は250~500℃が好ましく、300~400℃がより好ましい。
【0064】
(A)法は、バッチ式、連続流通式のどちらで行うことも可能であるが、製造効率の点で連続流通式が好ましい。なお、反応時間は各様式により一般的な方法で適宜調整することができる。また、(A)法に際しては、通常の方法、装置等を用いて、撹拌の操作を加えることが好ましい。
【0065】
(A)法は通常気相で実施される。この反応に用いられる気相反応器の材質としては、通常のもの、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金であるハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、モネル(登録商標)やフッ素系ポリマーでライニングされた金属、ガラス等の材質を挙げることができる。
【0066】
(B)法における塩基としては、反応(3)の脱塩化水素反応が実行可能な塩基であれば、特に限定されない。塩基は、金属水酸化物、金属酸化物および金属炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。塩基は、1種であっても2種以上の併用であってもよい。
【0067】
金属水酸化物としては、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属水酸化物などが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムが好ましく、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0068】
金属酸化物としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物などが挙げられる。アルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウムが好ましく、アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウムが好ましい。また、金属酸化物は、1種の金属の酸化物であってもよく、2種以上の金属の複合酸化物であってもよい。
【0069】
金属炭酸塩としては、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはラジウムの炭酸塩が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはフランシウムの炭酸塩が挙げられる。
【0070】
上記塩基としては、金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの併用がより好ましい。
【0071】
244bbおよび/または244ebに対する塩基の割合は、244bbおよび/または244ebの転化率および1234yfの選択率を向上させる観点から、244bbおよび/または244ebの1モルに対して0.2~3.0モルが好ましく、0.5~2.5モルがより好ましい。
【0072】
(B)法は気相または液相で行われる。(B)法が気相で行われる場合、原料を気相として固相の塩基または塩基と溶媒を含む塩基溶液に接触させる。(B)法が液相で行われる場合、上記塩基は反応が行われる液相中に存在する。以下、(B)法を液相で行う場合について説明する。
【0073】
(B)法は塩基と溶媒の存在下の液相中で行われることが好ましい。溶媒としては、上記塩基の所定量を溶解できかつ上記脱塩化水素反応に寄与しない溶媒であれば特に制限されない。上記塩基に対する溶解性が高く、脱塩化水素反応に対して不活性であるため、上記塩基を溶解する溶媒としては水が好ましい。すなわち、(B)法において塩基は、好ましくは塩基の水溶液として用いられる。塩基の水溶液としては、アルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、水酸化ナトリウムの水溶液または水酸化カリウムの水溶液がより好ましい。
【0074】
溶媒と塩基の総質量に対する塩基の質量の割合は、10~55質量%となる量が好ましく、20~50質量%がより好ましい。塩基の量が上記下限値以上であれば、十分な反応速度が得られやすく、2層分離による目的生成物の分離を行いやすい。上記上限値以下であれば、塩基が十分に溶解されやすく、金属塩が析出しにくいため、工業的なプロセスにおいて有利になりやすい。
【0075】
(B)法においては、例えば、塩基を溶媒に溶解させた溶液、244bbおよび/または244eb、および必要に応じて用いる他の反応に関与する化合物を、反応器に供給し、反応を実施する。生成した1234yfを含む組成物は、反応器から回収するが、必要に応じて、冷却器を経由して冷却する。さらに、必要に応じて脱水塔に通して水分を取り除いたものを、生成物として回収するのが好ましい。
【0076】
反応器としては、液相反応での脱塩化水素反応に用いる公知の反応器が好ましい。反応器の材質としては、鉄、ニッケル、これらを主成分とする合金、ガラス等が挙げられる。必要に応じて、樹脂ライニング、ガラスライニング等のライニング処理を反応器に行ってもよい。また、反応系において原料や生成物、塩基、溶媒等が均一に分布している状態で反応が行われるように、反応器に撹拌手段を設け、撹拌しながら反応を行うことが好ましい。
【0077】
(B)法において、反応温度は、反応器内の温度であり、40~120℃が好ましく、50~110℃がより好ましい。反応温度を上記範囲にすることにより、反応速度および244bbおよび/または244ebの転化率および1234yfの選択率が向上し、副生成物を抑制しやすい。なお、244bbにおいては、反応温度は60~120℃が好ましく、80~110℃がより好ましい。244ebにおいては、反応温度は40~80℃が好ましく、50~70℃がより好ましい。
【0078】
(B)法において、反応中の反応器内の圧力は、0.00~10.00MPaが好ましく、0.05~5.00MPaがより好ましく、0.15~2.00MPaがさらに好ましい。反応器内の圧力は、反応温度における244bbおよび/または244ebの蒸気圧以上であることが好ましい。
【0079】
(B)法は、半連続式、バッチ式、連続式のいずれの方法でも実行可能である。なお、反応時間は各方式により一般的な方法で適宜調整することができる。反応時間は、出発物質である244bbおよび/または244ebの転化率および1234yfの選択率を制御しやすいため、バッチ式であれば1~50時間が好ましく、連続式であれば1~3000秒間が好ましい。
【0080】
(B)法は、反応に影響を与えない範囲で、相間移動触媒の存在下に行ってもよい。反応に影響を与えない範囲で、テトラグライム等の水溶性有機溶媒を用いてもよい。反応速度を上げるために、相間移動触媒を用いることが好ましい。
【0081】
相間移動触媒としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級アルソニウム塩、スルホニウム塩、クラウンエーテルなどが挙げられ、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級アルソニウム塩、スルホニウム塩が好ましく、第4級アンモニウム塩がより好ましい。
【0082】
第4級アンモニウム塩としては、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(TOMAC)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0083】
第4級アルソニウム塩としては、トリフェニルメチルアルソニウムクロリドが好ましい。スルホニウム塩としては、ドデシルメチルエチルスルホニウムクロリドが好ましい。
【0084】
クラウンエーテルとしては、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6などが挙げられる。
【0085】
相間移動触媒の使用量は、244bbおよび/または244ebの100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~5.0質量部がより好ましく、0.1~3.0質量部がさらに好ましい。相間移動触媒の量が上記範囲内であると、十分な反応速度が得られやすい。上記範囲外であると反応促進効果は得られにくく、コスト面で不利になりやすい。相間移動触媒を使用する場合、予め相間移動触媒を244bbおよび/または244ebに混合しておき、244bbおよび/または244ebとの混合液の状態で反応器に供給することが好ましい。
【0086】
相間移動触媒を使用する場合の、反応工程、反応装置、および反応器の材質は、相間移動触媒を使用しない場合と同様であってよい。また、塩基の濃度、使用量、および反応温度などの反応条件も、相間移動触媒を使用しない場合と同様であってよい。
【0087】
(B)法は、例えば、244bbおよび/または244eb、塩基、必要に応じて溶媒、さらに必要に応じて相間移動触媒などの反応に関与する化合物を反応器に供給し、これらが均一になるように撹拌し、所望の温度条件、圧力条件にすることで進行させうる。
【0088】
塩基を溶媒に溶解した溶液として、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液等を用いた場合、反応系は水相と有機相に分離する。そのような場合は、相間移動触媒の代わりに、例えば、テトラグライム等の水溶性有機溶媒を用いて、塩基を含む水相と有機相とを相溶化することにより、(B)法を行うことができる。水溶性有機溶媒を用いる場合は、反応系中の反応に関与する化合物を均一な状態にするために、撹拌を十分に行うのが好ましい。
【0089】
第2の実施形態において(A)法は、244bbおよび/または244ebの転化率が高く、1234yfの選択率も高い。(B)法は、(A)法に比べて、244bbおよび/または244ebの転化率はやや低いが、1234yfの選択率は高く、さらに反応温度を低く設定できる。
【0090】
第2の実施形態で得られる生成物には、目的生成物である1234yfの他に、未反応の244bbおよび/または244eb、副生成物等が含まれる。目的生成物である1234yf以外の成分は、蒸留して分離する等の方法により、容易に除去することができる。
【0091】
なお、反応(3)を行うに際して、原料として、244bbおよび/または244ebと、234bb、234ea、224ba、224eb、214bb等の不純物を含む組成物を用いた場合、234bbおよび/または234eaからは、反応(4)により1224ydが、224baおよび/または224ebからは、反応(5)により1214yaが、それぞれ副生成物として生成される。このような、副生物としての1224ydおよび1214ya、さらには、原料に含まれる不純物、例えば、214bb等についても、1234yfと蒸留により容易に分離できる。
【0092】
本発明の製造方法によれば、工業的に入手可能な254ebから、工業的に実施可能な方法で、244bbおよび/または244ebを製造できる。また、244bbおよび/または244ebを原料として、地球温暖化係数の小さい冷媒として有用な1234yfを、工業的に実施可能な経済的に有利な方法で、高い転化率および選択率で製造することができる。
【実施例
【0093】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例1~6が244bbおよび/または244ebの製造における実施例であり、例7~9が1234yfの製造における実施例である。
【0094】
[分析条件]
以下の各種化合物の製造において、得られた反応組成物の組成分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。カラムは、DB-1(商品名、アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ60m×内径250μm×厚み1μm)を用いた。
【0095】
[254ebの製造例]
触媒担持担体を充填した触媒層を有するU字型の反応管と、これを浸漬する塩浴を備えた反応装置を用いて、1214yaに水素を反応させた。触媒担持担体として活性炭の100質量部に対して、0.5質量部のパラジウムを担持させた、パラジウム触媒担持活性炭を用いた。触媒層における触媒担持担体の充填密度は0.73g/cmとした。
【0096】
塩浴の温度を調整して80℃に加熱した触媒層に、1214yaガス、水素ガス、および窒素ガスを、総量のモル比が水素/1214ya/窒素=1/1/2となるように流通させて、反応管の出口から反応組成物を回収した。触媒層に対する1214yaの接触時間は18秒とし、1214yaの線速度uは7cm/秒とした。
【0097】
回収した反応組成物は、1214ya、1224yd、1234yf、254eb等を含有していた。該反応組成物より、蒸留により254ebを得た。
【0098】
[例1]
上記製造例で得られた254ebを、塩素化して244bbおよび244ebを製造した。
【0099】
まず、光源からの光を透過する石英管およびジャケットを取り付けたステンレス製オートクレーブ(内容積6.9リットル)を、20℃に冷却した。このオートクレーブ(以下、反応器と示す。)内に、四塩化炭素(CCl)を2336gと254ebを103g入れた後、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39(製品名)、出力40W;出射光の波長400~750nm)からの可視光を照射しながら、塩素ガスを毎分3.2gの流量で反応器内に導入した。反応の進行に伴い、反応熱が生じるとともに、反応器内の温度は23.8℃に上昇した。上記流量塩素ガスを2分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して0.10モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が20℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.045MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.045MPaであった。
【0100】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物1を回収し、GC分析を行った。
【0101】
[例2]
例1で用いたものと同じ反応器を20℃に保ち、反応器内に、溶媒として2336gの四塩化炭素(CCl)を入れ、254ebを103g入れた。その後に、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39、出力40W)からの可視光を照射しながら、毎分3.2gの流量で塩素ガスを反応器内に供給した。反応の進行に伴って反応熱が生じるとともに、反応器内の温度(反応温度)は22.6℃に上昇した。上記流量塩素ガスを10分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して0.50モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が20℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.045MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.085MPaであった。
【0102】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物2を回収し、GC分析を行った。
【0103】
[例3]
例1で用いたものと同じ反応器を20℃に保ち、そこに四塩化炭素(CCl)を2336gと254ebを103g入れた後、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39、出力40W)からの可視光を照射しながら、塩素ガスを毎分3.2gの流量で反応器内に導入した。反応の進行に伴い、反応熱が生じるとともに、反応器内の温度は23.8℃に上昇した。上記流量塩素ガスを20分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して1.00モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が20℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.045MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.125MPaであった。
【0104】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物3を回収し、GC分析を行った。反応組成物3をアルカリで洗浄することにより塩素を除去した後、蒸留によって溶媒および副生成物を除去することで、純度99.9%の244bbと99.9%の244ebを得た。
【0105】
[例4]
例1で用いたものと同じ反応器を20℃に保ち、そこに四塩化炭素(CCl)を2336gと254ebを103g入れた後、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39、出力40W)からの可視光を照射しながら、塩素ガスを毎分3.2gの流量で反応器内に導入した。反応の進行に伴い、反応熱が生じるとともに、反応器内の温度は23.8℃に上昇した。上記流量塩素ガスを30分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して1.50モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が20℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.045MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.165MPaであった。
【0106】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物4を回収し、GC分析を行った。
【0107】
[例5]
例1で用いたものと同じ反応器を20℃に保ち、そこに四塩化炭素(CCl)を2336gと254ebを103g入れた後、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39、出力40W)からの可視光を照射しながら、塩素ガスを毎分3.2gの流量で反応器内に導入した。反応の進行に伴い、反応熱が生じるとともに、反応器内の温度は23.8℃に上昇した。上記流量塩素ガスを40分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して2.00モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が20℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.045MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.198MPaであった。
【0108】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物5を回収し、GC分析を行った。
【0109】
[例6]
例1で用いたものと同じ反応器を50℃に保ち、そこに四塩化炭素(CCl)を2430gと254ebを103g入れた後、LEDランプ(三菱電機社製、LHT42N-G-E39、出力40W)からの可視光を照射しながら、塩素ガスを毎分3.2gの流量で反応器内に導入した。反応の進行に伴い、反応熱が生じるとともに、反応器内の温度は52.8℃に上昇した。上記流量塩素ガスを20分間導入し、すなわち、254ebの1モルに対して1.00モルの割合の塩素を導入し、反応器内の温度が50℃で一定になるまで光照射を継続した。反応器内の圧力は、塩素供給前の圧力が0.075MPa、塩素供給後の圧力、すなわち反応圧力が0.165MPaであった。
【0110】
反応終了後、得られた反応液を炭酸水素カリウムの20質量%水溶液と混合して中和し、次いで分液操作を行った。静置後、分離した下層から反応組成物6を回収し、GC分析を行った。
【0111】
例1~6の反応条件、得られた反応組成物1~6のGC分析結果を、表1に示す。
表1中、254ebの転化率は、反応器に供給した254eb量に対する、反応で消費された254eb量の割合であり、モル換算値(単位:モル%)である。また、各化合物の選択率は、反応組成物の全量に対する各化合物の割合であり、モル換算値(単位:モル%)である。
【0112】
【表1】
【0113】
表1からわかるように、例1~6によれば、高選択率で目的とする244bbと244ebを得ることができる。
【0114】
[例7]
1/2インチ半径のSUS316製の気相反応容器に触媒として活性炭(8.50g)を充填した。反応容器に予備加熱器を取り付け、温度を450℃に保った。この気相反応器に、上記例3で得られた244bbを温度65℃に保ったシリンダーから、マスフローコントローラー、予備加熱器を経由して供給した。シリンダーから、マスフローコントローラーを経て予備加熱器までのラインにおける温度は244bbが凝縮するのを防ぐため65℃に保たれた。
【0115】
上記気相反応器に供給された244bbは、気相反応器を通過(通過時間:60秒)しながら反応温度450℃の条件下、活性炭触媒に接触することで脱塩酸されて、1234yfとなる。この1234yfを含む反応組成物を上記気相反応器の取出口から回収した。回収した反応組成物のGC分析を行った結果、244bbの転化率は95%であり、1234yfの収率は85%であり、選択率は89%であった。
【0116】
[例8]
熱電対及び撹拌翼を取り付けた0.1Lの反応器を恒温槽内に設置し、80℃に保った。この反応器に、48質量%KOH水溶液を61g、上記例3で得られた244bbを40g、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を0.85g加え、反応器を閉止し、圧力試験を行った。400rpmで撹拌翼を回転させ、3時間反応を行った後に、恒温槽から反応器を取り出して氷水により0℃に冷却して反応を停止させ、反応組成物を回収した。回収した反応組成物のGC分析を行った結果、244bbの転化率は61%であり、1234yfの収率は61%であり、選択率は100%であった。
【0117】
[例9]
熱電対及び撹拌翼を取り付けた0.1Lの反応器を恒温槽内に設置し、60℃に保った。この反応器に、40質量%KOH水溶液を60g、上記例3で得られた244ebを32g、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を0.69g加え、反応器を閉止し、圧力試験を行った。400rpmで撹拌翼を回転させ、30分反応を行った後に、恒温槽から反応器を取り出して氷水により0℃に冷却して反応を停止させ、反応組成物を回収した。回収した反応組成物のGC分析を行った結果、244ebの転化率は99%であり、1234yfの収率は99%であり、選択率は100%であった。
【0118】
例7によれば、高価な金属触媒を用いることなく、高転化率、高選択率で目的とする1234yfを得ることができる。また、例8、9によれば、高価な金属触媒を用いることなく、低い反応温度で、高転化率、高選択率で目的とする1234yfを得ることができる。