IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-マイクロ流路チップ 図1
  • 特許-マイクロ流路チップ 図2
  • 特許-マイクロ流路チップ 図3
  • 特許-マイクロ流路チップ 図4
  • 特許-マイクロ流路チップ 図5
  • 特許-マイクロ流路チップ 図6
  • 特許-マイクロ流路チップ 図7
  • 特許-マイクロ流路チップ 図8
  • 特許-マイクロ流路チップ 図9
  • 特許-マイクロ流路チップ 図10
  • 特許-マイクロ流路チップ 図11
  • 特許-マイクロ流路チップ 図12
  • 特許-マイクロ流路チップ 図13
  • 特許-マイクロ流路チップ 図14
  • 特許-マイクロ流路チップ 図15
  • 特許-マイクロ流路チップ 図16
  • 特許-マイクロ流路チップ 図17
  • 特許-マイクロ流路チップ 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220531BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20220531BHJP
   C08F 214/18 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
C12M1/34 A
B81B1/00
C08F214/18
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019542320
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034244
(87)【国際公開番号】W WO2019054500
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017177979
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】田口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井手 正迪
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/084191(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/047827(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/120698(WO,A2)
【文献】特開2002-069246(JP,A)
【文献】特開2005-125280(JP,A)
【文献】Anal. Chem.,2002年09月01日,Vol.74, No.17,pp.4566-4569
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口と、前記複数の開口をつなぐ内部空間が形成されており、前記内部空間に接する面の少なくとも一部が、下記(1)、(3)、又は(5)のいずれかの含フッ素共重合体からなるマイクロ流路チップ。
(1)テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が65~100モル%である共重合体。
(3)ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とフッ化ビニリデンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%である共重合体。
(5)テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%である共重合体。
【請求項2】
前記含フッ素共重合体のタイプAデュロメータ硬度が80以下である、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記含フッ素共重合体のヤング率が10MPa以下である、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記含フッ素共重合体のニフェジピン吸収率が30%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記含フッ素共重合体のBayK8644吸収率が10%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記含フッ素共重合体が、前記(1)又は(5)のいずれかの含フッ素共重合体であって、テトラフルオロエチレンに基づく単位を50~80モル%有する共重合体であり、酸素の透過係数が1.0~390×10-10[cm3・cm/(cm2・s・cmHg)]、かつ二酸化炭素の透過係数が5.0~1900×10-10[cm3・cm/(cm2・s・cmHg)]である、請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記含フッ素共重合体が、該共重合体に対して、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%有する、請求項1~のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
少なくとも第1の基板と第2の基板と第3の基板がこの順に積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように、表面から裏面に貫通する貫通溝が形成され、
前記複数の貫通孔と前記貫通溝は前記内部空間を形成し、
前記第1の基板、第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも1つが前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記貫通溝に臨む面、前記第2の基板の貫通溝の内壁面、並びに前記第3の基板の前記貫通溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体でコーティングされている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように有底の溝が形成され、
前記複数の貫通孔と前記有底の溝は前記内部空間を形成し、
前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも1つが前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記溝に臨む面、並びに前記第2の基板の溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が、前記含フッ素共重合体でコーティングされている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、かつ前記複数の貫通孔を繋ぐように配置された有底の溝が形成され、前記第2の基板孔も溝も有さず、
前記複数の貫通孔と前記有底の溝は前記内部空間を形成し、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面、前記有底の溝の底面及び内壁面、並びに前記第2の基板の前記有底の溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面、前記有底の溝の底面及び内壁面、及び前記第2の基板の前記有底の溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体でコーティングされている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔と有底の溝が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように配置された有底の溝を有し、前記第1と第2の基板の間に、前記貫通孔を塞がないように配置されたフィルムを有し、
前記複数の貫通孔と前記有底の溝は前記内部空間を形成し、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面前記有底の溝の底面及び内壁面、並びに前記第2の基板の前記溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面、前記有底の溝の底面及び内壁面、並びに前記第2の基板の前記溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が、前記含フッ素共重合体でコーティングされている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項12】
前記フィルムが、コラーゲン、ポリジメチルシロキサン、又はCF=CFX(Xはフッ素原子、塩素原子、又はCFである。)に基づく単位を5~99モル%含む含フッ素共重合体からなる、請求項11に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項13】
前記基板の波長400nmにおける透過率が80%以上である、請求項8~12のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項14】
前記基板のヘイズ値が50%以上である、請求項8~13のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項15】
前記内部空間が、細胞を収容する収容部を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項16】
前記内部空間に細胞を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項17】
前記内部空間に細胞を含んだ状態における細胞培養面の伸びが1.0~25.0%である、請求項16に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路として使用できる内部空間を設けたマイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
薬品などの動物に対する毒性評価などを行う試験では、細胞を生きた状態で収容し、流路を通じてそこに薬剤を供給して細胞を培養しながら薬剤と接触させて観察、評価を行うデバイスが必要とされている。特許文献1には、動物実験薬剤の機能評価などを行う際に、内部に流路を有するマイクロ流体デバイスを用い、流路内に薬剤と細胞を供給して培養する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/104541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、マイクロ流体デバイスの材料は特に考慮されておらず、段落0083にはポリジメチルシロキサン等の一般的な重合体が例示されている。
しかし、このようなデバイスの材料は、生体のような柔らかさや、細胞の状態を外部から観察するために透明性が必要とされるほかに、薬剤の評価を行う際に、デバイスにおける流路を形成する材料が薬剤を吸収したり、薬剤と反応したりする場合には、正確な評価ができない。
【0005】
本発明は、薬品などの動物に対する毒性評価などに使用されるマイクロ流体デバイスとして好適である、デバイスにおいて流路を形成する材料が柔らかさや透明性を有し、かつ薬剤の非吸収性に優れる、流路として使用できる内部空間を設けたマイクロ流路チップ(以下、単に、チップともいう。)の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するためのものであり、以下の態様を有する。
[1]複数の開口と、前記複数の開口をつなぐ内部空間が形成されており、前記内部空間に接する面の少なくとも一部が、CF=CFX(Xはフッ素原子、塩素原子、又はCFである。)に基づく単位を、共重合体の全単位に対して、5~99モル%含む含フッ素共重合体からなるチップ。
[2]前記内部空間が、細胞を収容する収容部を含む、[1]のチップ。
[3]少なくとも第1の基板と第2の基板と第3の基板がこの順に積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように、表面から裏面に貫通する貫通溝が形成され、
前記第1の基板、第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも1つが前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記貫通溝に臨む面、前記第2の基板の貫通溝の内壁面、並びに前記第3の基板の前記貫通溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体でコーティングされている、[1]又は[2]のチップ。
[4]前記複数の貫通孔と前記貫通溝で形成される内部空間が、細胞を収容する収容部を含む、[3]のチップ。
【0007】
[5]少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように有底の溝が形成され、
前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも1つが前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記溝に臨む面、並びに前記第2の基板の溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が、前記含フッ素共重合体でコーティングされている、[1]又は[2]のチップ。
[6]前記複数の貫通孔と前記有底の溝で形成される内部空間が、細胞を収容する収容部を含む、[5]のチップ。
【0008】
[7]少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔が形成され、貫通孔と貫通孔を繋ぐように配置された有底の溝を有し、前記第2の基板には孔も溝も有さず、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体からなるか、又は、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記溝に臨む面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体でコーティングされている、[1]又は[2]のチップ。
[8]少なくとも第1の基板と第2の基板が積層され、前記第1の基板には複数の貫通孔と有底の溝が形成され、前記第2の基板には前記第1の基板の複数の貫通孔をつなぐように配置された有底の溝を有し、前記第1と第2の基板の間に、前記貫通孔を塞がないように配置されたフィルムを有し、
前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記有底の溝に臨む面前記第2の基板の前記溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が前記含フッ素共重合体からなるか、又は、前記第1の基板の複数の貫通孔の内壁面及び前記第2の基板の前記溝の底面及び内壁面のうち少なくとも一部が、前記含フッ素共重合体でコーティングされている、[1]又は[2]のチップ。
【0009】
[9]上記[8]に記載のフィルムが、コラーゲン、ポリジメチルシロキサン、又はCF=CFX(Xはフッ素原子、塩素原子、又はCFである。)に基づく単位を5~99モル%含む含フッ素共重合体からなる、[8]のチップ。
[10]前記含フッ素共重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を50~80mo%有する共重合体であり、酸素の透過係数が1.0~390×10-10[cm3*cm/(cm2*s*cmHg)]、かつ二酸化炭素の透過係数が5.0~1900×10-10[cm3*cm/(cm2*s*cmHg)]である、[1]~[9]のいずれかのチップ。
[11]前記含フッ素共重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を50~70mo%含む共重合体であり、タイプAデュロメータ硬度が80以下であり、ヤング率が1.5MPa以下、ニフェジピン吸収率が30%以下、BayK8644吸収率が10%以下であり、チップの内部空間を目視で確認できる、[1]~[10]のいずれかのチップ。
【0010】
[12]前記CF=CFXに基づく単位が、テトラフルオロエチレンに基づく単位、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位、又はクロロトリフルオロエチレンに基づく単位である、[1]~[11]のいずれかのチップ。
[13]前記含フッ素共重合体が、さらに、プロピレンに基づく単位、エチレンに基づく単位、フッ化ビニリデンに基づく単位、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種を、重合体が含む全単位に対して、1~95モルを含む、[1]~[12]のいずれかのチップ。
[14]前記含フッ素共重合体が、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が65~100モル%である共重合体、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とエチレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が80~100モル%である共重合体、
ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とフッ化ビニリデンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%である共重合体、
クロロトリフルオロエチレンに基づく単位とエチレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が80~100モル%である共重合体、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%である共重合体、又は
テトラフルオロエチレンに基づく単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%である共重合体、のいずれかである、[1]~[13]のいずれかのチップ。
【0011】
[15]前記含フッ素共重合体が、該共重合体に対して、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%有する、[1]~[14]のいずれかのチップ。
[16]前記含フッ素共重合体が、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が65~100モル%であり、
テトラフルオロエチレンに基づく単位/プロピレンに基づく単位のモル比が30/70~70/30であり、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含む、[1]~[15]のいずれかのチップ。
【0012】
[17]前記含フッ素共重合体が、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してこれらの合計が50~100モル%であり、
テトラフルオロエチレンに基づく単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位のモル比が5/95~95/5であり、
下式(III)で表される単量体IIIに基づく単位を0.1~20mol%含む、[1]~[16]のいずれかのチップ。
CR1112=CF-Q-R13-CO-Z ・・・(III)
(式(III)中、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子又はフッ素原子であり、Qは単結合又はエーテル性酸素原子であり、R13はフルオロアルキレン基又は2以上のフルオロアルキレン基の少なくとも片末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基であり、-Zは-OH、-OR14、-NR1516、-NR17NR18H、又はNR19OR20であり、R14はアルキル基であり、R15、R16、R17、R18、R19、R20はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。)
[18]前記内部空間に細胞を含む、[1]~[17]のいずれかのチップ。
[19]前記含フッ素共重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を50~70モル%含む共重合体であり、前記内部空間に細胞を含んだ状態における細胞培養面の伸びが1.0~25.0%である、[18]のチップ。
【0013】
本発明のマイクロ流路チップは、流路を形成する材料が柔らかさや透明性を有し、かつ薬剤非吸収性に優れる、流路として使用できる内部空間を有し、流路の薬剤非吸収性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のチップの第1の態様の模式斜視図である。
図2図1のチップの模式断面図である。
図3図1のチップを分解した3つの基体の模式平面図である。
図4】本発明のチップの第3の態様を示す模式断面図である。
図5図4のチップを分解した2つの基体の模式平面図である。
図6】本発明のチップの第5の態様を示す模式断面図である。
【0015】
図7図6のチップを分解した模式平面図である。
図8】本発明のチップの第7の態様を示す模式断面図である。
図9図8のチップを分解した模式平面図である。
図10】本発明のチップの第7、第8の態様の具体例構造を示す。
図11】実験例1の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図12】比較例1の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図13】実験例2の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【0016】
図14】実験例3の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図15】実験例4の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図16】実験例5の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図17】実験例6の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図18】実験例7の薬剤非吸収性の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「単量体に基づく単位」とは、単量体1分子が重合することで直接形成される原子団と、前記原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。
「ペルフルオロアルキレン基」とは、アルキレン基の炭素原子に共有結合する水素原子がすべてフッ素原子に置換された基を意味する。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
【0018】
<第1の態様>
図1は、本発明のチップの第1の態様を示す模式斜視図であり、図2図1のチップの模式断面図である。1~3は第1~第3の基板をそれぞれ示す。図3はチップを第1~第3の基板に分解した模式平面図である。本態様において、第1~第3の基板は含フッ素共重合体からなる。
本態様のチップは第1の基板1と第2の基板2と第3の基板3がこの順に積層されている。第1の基板1には2個の貫通孔S1、S2が形成されている。貫通孔S1、S2の第2の基板2と反対側の開口端が開口H1、H2である。1aは貫通孔S1の内壁面、1bは貫通孔S2の内壁面を示す。
【0019】
第2の基板2には、表面から裏面に貫通する貫通溝S3が設けられている。貫通溝S3は、第1の基板1と第2の基板2を積層したときに、貫通溝S3が貫通孔S1、S2をつなぐように設けられている。第3の基板3の表面と裏面は平坦面である。符号1cは第1の基板1の貫通溝S3を臨む面を示し、3aは第3の基板3の貫通溝S3を臨む面を示す。
第1~第3の基板1~3が積層されたチップにおいて、貫通孔S1、S2と貫通溝S3とで形成される空間が開口H1、H2をつなぐ内部空間Sである。
本態様のチップは、内部空間S内で細胞を培養する容器として使用できる。この場合、内部空間Sは細胞を収容する収容部(不図示)を含む。例えば、第3の基板3の貫通溝S3を臨む面3aの面上に収容部を設ける。
【0020】
チップの大きさは限定されないが、第1の基板1の表面において、2つの開口H1、H2の中心を通る方向を長さ、前記長さ方向に直交する方向を幅、長さ方向と幅方向とに直交する方向を厚さとすると、例えばチップの長さは10~100mm、幅は10~100mm、厚さは100~20,000μmである。2つの開口H1、H2をつなぐ内部空間Sの合計の容積は、例えば10~2,000μLである。
開口H1、H2の内径は、例えば100~3,000μmである。
第1~第3の基板1~3のそれぞれの厚さは、互いに同じであってもよく、異なってもよい。各基板の厚さは、例えば200~10,000μmが好ましい。
【0021】
第1~第3の基板は、内部を観察しやすい点で透明が好ましい。例えば、各基板の透過率は波長400nmにおいて80%以上が好ましい。
同様に、JIS-K-7136に準じてヘイズメーターで測定したヘイズ値が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることがより好ましい。
第1~第3の基板のうち少なくとも1つは、柔軟性を有することが好ましい。チップが柔軟性を有すると、必要に応じてチップを変形させて、内部空間内の細胞に機械力を付与できる。例えば培養中の細胞に、臓器の動きを模倣した振動を与えることができる。例えば、基板のタイプAデュロメータ硬度は80以下が好ましく、60以下がさらに好ましい。
【0022】
本態様のチップは、例えば以下の方法で製造できる。
含フッ素共重合体からなるフィルムを3枚用意し、第1~第3の基板として使用する。第1の基板1には表面から裏面に貫通する2個の貫通孔S1、S2を設ける。第2の基板2には表面から裏面に貫通する貫通溝S3を設ける。第3の基板3は加工しない。
貫通溝S3が2個の貫通孔S1、S2をつなぐように、上から第1の基板1、第2の基板2、第3の基板3の順に積層し、基板どうしを液密に接着してチップを得る。
基板どうしを接着する方法は、加熱して基板どうしを熱融着する方法、基板どうしを重ね合わせ、さらに紫外線照射、放射線照射、電子線照射又は加熱して架橋する方法、基板の間に接着剤層を設ける方法、接着面をコロナ放電照射、プラズマ照射、紫外線照射、オゾン暴露、塩基暴露などにより活性化させた後に重ね合わせる方法、又はこれらの方法を2つ以上組み合わせた方法が例示できる。
【0023】
本態様のチップは、細胞を入れる場合には事前に滅菌処理をする。チップを滅菌する方法としては、チップに対して紫外線照射、放射線照射、電子線照射、コロナ放電照射、プラズマ照射、オゾン暴露、塩基暴露、蒸気加圧滅菌(オートクレーブ)等の処理を施す方法、エチレンオキサイドなどの殺菌性気体を含む環境にチップを入れる方法が例示できる。
【0024】
チップの、内部空間に接する面は、そのまま使用してもよいが、細胞の接着性が制御できるような表面改質をしてもよい。例えば、少なくとも細胞の収容部となる面を、細胞の接着性が向上するように表面改質する。また、細胞を収容しない面を、細胞や薬剤の接着を抑制するように表面改質する。
表面改質の方法としては、内部空間に接する面に対して、紫外線照射、放射線照射、電子線照射、コロナ放電照射、プラズマ照射、オゾン暴露、塩基暴露等の処理を施す方法、又は親水性もしくは撥水性の化合物を用いて流路表面をコーティングする方法が例示できる。親水性又は撥水性の化合物としては、リン脂質ポリマー、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレア、ポリウレタン、アガロース、キトサン、アルブミン、ポリジメチルシロキサン、ペルフルオロポリエーテルが例示できる。これらの化合物は流路表面との接着性向上できる点で、化学構造の一部分、特に主鎖末端がシランカップリング基等に官能基化されていることが好ましい。例えば、ダウコーニング社商品名、2634コーティングが挙げられる。
また、タンパク質やペプチドのコーティング処理もあげられる。タンパク質、ペプチドの例としては、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、アルブミン、RGDペプチドなどが挙げられるがこれに限定されない。これらの方法を2つ以上組み合わせることも例示できる。
【0025】
細胞の種類は限定されない。細胞の形態は細胞単体であっても、複数の細胞が集まった細胞塊であってもよい。又は、何種類かの細胞が一定のパターンで集合した構造単位を有し、全体としてまとまった役割を持つ生体組織であってもよい。細胞塊が生体組織の水準まで分化しているか否かは限定されない。また細胞塊が成熟した細胞により構成されるか否かは限定されない。細胞塊、生体組織の形状は限定されない。
【0026】
本態様で用いられる含フッ素共重合体は、CF=CFX(Xはフッ素原子、塩素原子、又はCFである)に基づく単位Aを5~99モル%含む。含フッ素共重合体は単位A以外に単位Bを含む。含フッ素共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。
含フッ素共重合体の全単位に対して、単位Aは薬剤非吸収と透明性を両立させる点から10~90モル%が好ましく、80~20モル%がより好ましい。
単位Aとしては、テトラフルオロエチレンに基づく単位(以下、TFE単位という)、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位(以下、HFP単位という)、クロロトリフルオロエチレンに基づく単位(以下、CTFE単位という)が例示できる。
含フッ素共重合体は、単位Bとして、プロピレンに基づく単位(以下、P単位という)、エチレンに基づく単位(以下、E単位という)、フッ化ビニリデンに基づく単位(以下、VdF単位という)、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位(以下、PAVE単位という)からなる群の1種以上を含むことが好ましい。
【0027】
本態様で用いられる含フッ素共重合体は、一般的なラジカル重合法により製造される。高い透明性を得るためには、含フッ素共重合体の組成分布が小さいことが好ましく、その方法として、重合中に消費される原料の反応速度に応じて、それぞれの原料を後添加することにより、重合中の原料組成比の変化を小さくする方法が挙げられる。さらに必要に応じて、ヨウ素単体又はヨウ素化合物存在下にラジカル重合するヨウ素移動重合法などのリビングラジカル重合法を用いることにより、含フッ素共重合体の組成分布を小さくすることができ、高い透明性が得られる。
また、リビングラジカル重合法により含フッ素共重合体の分子量分布が小さくなるため、金型への粘着の原因となる低分子量成分を少なくすることができ、細胞に悪影響を与える可能性のある離型剤の金型への塗布を減らす、又は無くすことができる。特に、細い溝や小さい孔を有するチップの基板を金型で作る場合、離型性が悪いと金型から剥がす際に変形や損傷が生じるため、ヨウ素移動重合法などのリビングラジカル重合法を用いることは有用である。
【0028】
好ましい含フッ素共重合体として、以下の(1)~(6)が例示できる。
(1)TFE単位とP単位を有し、全単位に対して、TFE単位とP単位の合計が65~100モル%である共重合体(以下、TFE-P系共重合体という)。(2)TFE単位とE単位を有し、全単位に対して、TFE単位とE単位の合計が80~100モル%である共重合体(以下、TFE-E系共重合体という)。(3)HFP単位とVdF単位を有し、全単位に対して、HFP単位とVdF単位の合計が50~100モル%である共重合体(以下、HFP-VdF系共重合体という)。(4)CTFE単位とE単位を有し、全単位に対して、CTFE単位とE単位の合計が80~100モル%である共重合体(以下、CTFE-E系共重合体という)。(5)TFE単位とPAVE単位を有し、全単位に対してTFE単位とPAVE単位の合計が50~100モル%である共重合体(以下、TFE-PAVE系共重合体という)。(6)TFE単位とHFP単位を有し、全単位に対してTFE単位とHFP単位の合計が50~100モル%である共重合体(以下、TFE-HFP系共重合体という)。
【0029】
(1)TFE-P系共重合体としては以下の(1-1)、(1-2)が例示できる。
(1-1)TFE単位とP単位の合計が65~100モル%であり、TFE単位/P単位のモル比が30/70~70/30、好ましくは45/55~65/35、より好ましくは50/50~60/40である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
TFE単位及びP単位以外の他の単位としては、下記の他の単量体に基づく単位が例示できる。
他の単量体:モノフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、ジクロロジフルオロエチレン等のフッ素化オレフィン;エチレン、1-ブテン、イソブチレン等の炭化水素オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル)、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、トリフルオロスチレン
他の単位の含有量は、全単位に対して、35モル%以下が好ましく、33モル%以下がより好ましく、31モル%以下がさらに好ましい。
また、ヨウ素原子の含有量は、共重合体の全質量に対して0.01~1.5質量%が好ましく、0.01~1.0質量%がより好ましい。
【0030】
(1-2)TFE単位とP単位と下式(I)で表される単量体Iに基づく単位Iの1種以上を含み、TFE単位とP単位と単位Iの合計が98~100モル%である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
CR=CR-R-CR=CR ・・・(I)
(式(I)中、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はメチル基であり、Rは、炭素原子数1~10のパーフルオロアルキレン基又は前記パーフルオロアルキレン基の両末端、片末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基である。)
単量体Iとしては、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CH=CH(CFCH=CHが例示できる。
全単位に対する単位Iの含有量は0.1~1.5モル%が好ましく、0.15~0.8モル%がより好ましく、0.15~0.6モル%がさらに好ましい。
TFE単位/P単位のモル比は30/70~99/1が好ましく、30/70~70/30がより好ましく、40/60~60/40がさらに好ましい。
【0031】
TFE単位、P単位及び単位I以外の他の単位としては、下記の含フッ素系単量体又は非フッ素系単量体に基づく単位が例示できる。
含フッ素系単量体としてはフッ化ビニル、ペンタフルオロプロピレン、パーフルオロシクロブテン、CH=CHCF、CH=CHCFCF、CH=CHCFCFCF、CH=CHCFCFCFCF、CH=CHCFCFCFCFCFが例示できる。
非フッ素系単量体としては、イソブチレン、ペンテン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニルが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、2.0モル%以下が好ましく、1.0モル%以下がより好ましく、0.5モル%以下が特に好ましい。
また、共重合体の全質量に対してヨウ素原子は0.01~1.5質量%が好ましく、着色が抑制できる点から0.01~1.0質量%がより好ましい。
【0032】
(2)TFE-E系共重合体としては以下の(2-1)、(2-2)が例示できる。
(2-1)TFE単位とE単位の合計が80~100モル%であり、TFE単位/E単位のモル比が75/25~30/70、好ましくは70/30~45/65、より好ましくは70/30~50/50である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
TFE単位及びE単位以外の他の単位としては、国際公開第2017/082417号の段落0014に記載の単量体(2)~(7)に基づく単位が例示できる。
全単位に対して、他の単位は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、8モル%以下がさらに好ましい。
【0033】
(2-2)TFE単位とE単位と下式(II)で表される単量体IIに基づく単位IIの1種以上を含み、TFE単位とE単位と単位IIの合計が100モル%である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
CH=CY(CF・・・(II)
(式(II)中、Y及びYはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり、nは2~8の整数である。)
【0034】
単量体IIとしては、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFHが例示できる。nは2~8であり、3~7が好ましく、4~6がより好ましい。
全単位に対する単位IIの含有量は2.6~6.0モル%が好ましく、2.8~5.0モル%がより好ましく、3.0~5.0モル%がさらに好ましく、3.3~4.5モル%が特に好ましい。
TFE単位/E単位のモル比は51/49~60/40が好ましく、52/48~57/43がより好ましく、53/47~55/45がさらに好ましい。
【0035】
(3)HFP-VdF系共重合体としては以下の(3-1)、(3-2)が例示できる。
(3-1)HFP単位とVdF単位の合計が50~100モルであり、VdF単位/HFP単位のモル比が60/40~95/5、好ましくは70/30~90/10、より好ましくは75/25~85/15である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
HFP単位及びVdF単位以外の他の単位としては、下記の他の単量体に基づく単位が例示できる。
他の単量体としては、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、エチレン、エチリデンノルボルネン、クロトン酸ビニルが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0036】
(3-2)HFP単位とVdF単位とTFE単位の合計が50~100モルであり、VdF単位/TFE単位/HFP単位のモル比が50/5/45~65/30/5、好ましくは50/15/35~65/25/10、より好ましくは50/20/30~65/20/15である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
HFP単位、VdF単位及びTFE単位以外の他の単位としては、前記(3-1)の他の単量体に基づく単位が例示できる。
全単位に対して、他の単位は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0037】
(4)CTFE-E系共重合体としては以下の(4-1)が例示できる。
(4-1)CTFE単位とE単位の合計が80~100モル、好ましくは85~100モル%、より好ましくは90~100モル%であり、E単位/CTFE単位のモル比が68/32~14/86、好ましくは55/45~35/65である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
CTFE単位及びE単位以外の他の単位としては、国際公開第2014/168076号の段落0025に記載されている単量体に基づく単位が例示できる。
全単位に対して、他の単位は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい。
【0038】
(5)TFE-PAVE系共重合体としては以下の(5-1)、(5-2)、(5-3)が例示できる。
(5-1)TFE単位とPAVE単位の合計が50~100モルであり、TFE単位/PAVE単位のモル比が20/80~80/20、好ましくは50/50~80/20である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(メトキシエチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシエチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)が例示できる。
TFE単位及びPAVE単位以外の他の単位としては、前記(3-1)の他の単量体に基づく単位、HFP、VdFが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0039】
(5-2)TFE単位とPAVE単位と下式(III)で表される単量体IIIに基づく単位IIIの1種以上を含み、TFE単位とPAVE単位と単位IIIの合計が50~100モル%である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
CR1112=CF-Q-R13-CO-Z ・・・(III)
(式(III)中、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子又はフッ素原子であり、Qは単結合又はエーテル性酸素原子であり、R13はフルオロアルキレン基又は2以上のフルオロアルキレン基の少なくとも片末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基であり、-Zは-OH、-OR14、-NR1516、-NR17NR18H、又はNR19OR20であり、R14はアルキル基であり、R15、R16、R17、R18、R19、R20はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。)
13がフルオロアルキレン基である場合、その炭素原子数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0040】
13がエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基である場合、その炭素原子数は2~10が好ましく、2~6がより好ましい。エーテル性酸素原子は、フルオロアルキレン基の片末端、炭素-炭素結合間又はその両方に存在する。
13がエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基である場合、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
14の炭素原子数は1~6が好ましく、1又は2がより好ましい。
15、R16、R17、R18、R19、R20は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素原子数1もしくは2のアルキル基がより好ましい。
-Zは-OR14がより好ましい。
【0041】
単量体IIIとしては、
CF=CFO(CFCOOCH、CF=CFO(CFCOOCH
CF=CFO(CFCOOCH、CF=CFO(CFCOOCH
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCOOCH
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCOOCH
CF=CFO(CFO(CFCOOCH
CF=CFO(CFO(CFCOOCH
CH=CFCFOCF(CF)COOCH
CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHが例示できる。
【0042】
単位IIIの-Q-R13-CO-Zは、波長150~300nmの光の照射により、-CO-Zが脱離する反応が生じ、-Q-R13・ラジカルが生じ、2つの-Q-R13・ラジカルが反応することにより、分子間の架橋構造(-Q-R13-R13-Q-)が形成される。
全単位に対する単位IIIの含有量は0.01~100モル%が好ましく、0.1~20モル%がより好ましく、0.1~5モル%がさらに好ましい。
TFE単位/PAVE単位のモル比は5/95~95/5が好ましく、20/80~80/20がより好ましく、50/50~70/30がさらに好ましい。
TFE単位とPAVE単位と単量体III以外の他の単位としては、国際公開第2015/098773号の段落0041に記載されている単位(4)が例示できる。
全単位に対して、他の単位は、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0043】
本例の含フッ素重合体の1g当たりの、-CO-Zで表される基の含有量は0.1~4mmol/gが好ましく、0.1~3mmol/gがより好ましく、0.3~1mmol/gがさらに好ましい。
本例の含フッ素重合体をフィルム状に成形する場合、含フッ素重合体の、サイズ排除クロマトグラムにより算出される、ポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量は1,000~1,000,000が好ましく、5,000~300,000がより好ましく、10,000~50,000がさらに好ましい。重量平均分子量/数平均分子量の値は1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0044】
(5-3)TFE単位とPAVE単位の合計が50~100モルであり、TFE単位/PAVE単位のモル比が92/8~99/1、より好ましくは95/5~99/1である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
TFE単位及びPAVE単位以外の他の単位としては、前記(3-1)の他の単量体に基づく単位、HFP、VdFが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0045】
(6)TFE-HFP系共重合体としては以下の(6-1)が例示できる。
(6-1)TFE単位とHFP単位の合計が50~100モルであり、TFE単位/HFP単位のモル比が96/4~87/13、好ましくは95/5~85/15である共重合体。ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
TFE単位及びHFP単位以外の他の単位としては、前記(3-1)の他の単量体に基づく単位、VdFが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0046】
前記に挙げた含フッ素共重合体のなかで、透明性の点で好ましいのはTFE-P系共重合体、TFE-E系共重合体、CTFE-E系共重合体、又はTFE-PAVE系共重合体であり、TFE-PAVE系共重合体が特に好ましい。
柔軟性の点で好ましいのはTFE-P系共重合体、HFP―VdF系共重合体、又はTFE-PAVE系共重合体であり、HFP―VdF系共重合体が特に好ましい。
また、流路を流れる流体が水を主成分とする場合、含フッ素共重合体と水との屈折率の差が小さいほうが、流路と流体の界面における光の散乱と屈折が抑制され、流路内部を観察しやすいため、TFE-P系共重合体、TFE-E系共重合体、HFP―VdF系共重合体、TFE-PAVE系共重合体が好ましく、TFE-PAVE系共重合体が特に好ましい。
【0047】
本態様で用いられる含フッ素共重合体からなるフィルムは、含フッ素共重合体を単独で使用し、又は含フッ素共重合体を含む含フッ素共重合体組成物を調製し、型を用いて成形する方法で製造できる。例えば、含フッ素共重合体又は含フッ素共重合体組成物を、必要に応じて加熱して流動できるようにし、必要に応じて加圧して型に流し込み、又は型の表面に塗布し、その後に硬化させる方法で製造できる。型の材質は限定されない。例えば金属製の型(金型とも呼ぶ)、フォトリソグラフィを用いたシリコン基板とレジスト樹脂からなる型、これらの型や成形体からエポキシ樹脂などを用いて形状を転写された型などが挙げられる。硬化方法は、冷却する方法、又は紫外線照射、放射線照射、電子線照射又は加熱して架橋させる方法が例示できる。フィルムの硬化の程度は、チップの使用時に流動しない程度であればよい。フィルムは必要に応じてドリル、刃もしくはレーザーを用いた加工法、又はマイクロブラスト法により加工できる。
【0048】
含フッ素共重合体組成物は、必要に応じて溶媒及び添加剤を含んでもよい。
前記に挙げた含フッ素共重合体のなかで、特にフィルム状に成形しやすい点で好ましいのはTFE-P系共重合体、TFE-E系共重合体、CTFE-E系共重合体、又はTFE-PAVE系共重合体であり、TFE-P系共重合体又はTFE-E系共重合体が特に好ましい。
また、TFE-P系共重合体や前記(5-1)はゴムとしての物性等の必要に応じて公知の架橋剤、架橋助剤等と混合し、加硫して用いることも好ましい。
【0049】
本態様のチップは、2つの開口と、前記開口をつなぐ内部空間が形成されており、内部空間内で細胞を培養できる。また内部空間に接する面は含フッ素共重合体からなっており、薬剤非吸収性に優れる。特に薬剤としては疎水性の低分子化合物の非吸収性に優れる。疎水性の指標である、オクタノール/水分配係数logPが0以上、特に好ましくは3以上の疎水性低分子化合物の非吸収性に優れる。従って、本態様のチップは、細胞を用いて種々の薬剤の評価試験を行う培養容器として好適であり、試験の精度を向上できる。必要に応じて、内部空間に接する面の、少なくとも細胞の収容部となる面上に、フィブロネクチン又はそのゲル、コラーゲン又はそのゲル、ゼラチン又はそのゲル等のタンパク質層を設けてもよい。
【0050】
また、前記内部空間に細胞培養に適したフィルム、例えば細胞などの観察又は測定の対象物が流れない程度の大きさの孔が空いた多孔体を設けて収容部とし、そこに対象物を乗せることもできる。多孔体としては、ビトリゲル(Vitrigel、Cell Transplantation 2004年13巻4号463-473ページにて定義される)等のコラーゲンからなる膜、Sylgard(ダウコーニング社商品名)等のポリジメチルシロキサンから作製される多孔膜、Falcon(コーニング社商品名)等のポリエチレンテレフタレートからなる多孔膜、日本特開2002-335949号公報の手法により作製される疎水性溶媒に溶解する高分子からなるハニカム構造体フィルム、VECELL(ベセル社商品名)等の延伸ポリテトラフルオロエチレン多孔膜、エスパンシオーネ(KBセーレン社商品名)等のポリウレタン不織布、などが挙げられる。
本態様において、第1~第3の基板をそれぞれ構成する含フッ素共重合体の種類は同じでもよく、異なってもよい。特に、チップ全体を1種の含フッ素共重合体で形成すると、均一性に優れるため光の散乱や屈折が抑制され、細胞などの観察がしやすい点で好ましい。
【0051】
前記含フッ素共重合体は、チップに用いたときに細胞に負荷を与えず細胞の培養等が適切に行えることから、気体透過性が良好であることが好ましい。気体透過性は、「JIS K7126-1:2006」のガス透過試験・差圧法を用いて測定した気体の透過係数で評価できる。本発明では、含フッ素共重合体の酸素透過係数が、1.0~390×10-10[cm・cm/(cm・s・cmHg)、以下では、この単位を省略する場合がある。]が好ましく、1.0~100×10-10がより好ましい。二酸化炭素透過係数は、5.0~1900×10-10[cm・cm/(cm・s・cmHg)、以下では、この単位を省略する場合がある。]が好ましく、5.0~1000×10-10がより好ましい。
【0052】
また、水蒸気の透過性は、「JIS K7129:2008」の水蒸気透過試験・モコン法を用いて測定した透過係数で評価できる。本発明では、含フッ素共重合体の水蒸気透過係数が、0.1~18[g・mm/(m・24h) 、以下では、この単位を省略する場合がある。]が好ましく、0.1~2がより好ましい。各透過係数がこの範囲であると、気体透過性が良好であるとともに、チップ内部空間の水などの液体の揮発が抑制できるため、チップとして好適に用いることができる。
このような含フッ素共重合体としては、TFE単位を50~80モル%含有する共重合体が好ましい。中でも前記TFE-P系共重合体又はTFE―PAVE系共重合体が好ましく、前記(1-2)又は前記(5-2)の共重合体が特に好ましい。
【0053】
前記含フッ素共重合体は、チップに用いたときに柔軟性を有し細胞に適切な振動を与えられることから次の硬度とヤング率を有するものが好ましい。硬度はタイプAデュロメータ硬度80以下が好ましく、60以下がさらに好ましい。ヤング率は10MPa以下が好ましく、5.0MPa以下がさらに好ましく、3.0MPa以下が特に好ましい。
【0054】
前記含フッ素共重合体は、チップに用いたときに薬剤を吸収しにくく各種評価試験を適切に行えることから、特定の薬剤に対する非吸収性にも優れることも好ましい。例えば、高血圧・狭心症治療剤であるニフェジピンや、カルシウムチャネル阻害作用を持つBay K8644の非吸収性に優れることが好ましい。非吸収性の測定方法としては、参考文献(Biochemical and Biophysical Research Communications 482 (2017) 323-328)に記載された方法が挙げられる。ニフェジピン吸収率は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。Bay K8644の吸収率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0055】
なお、硬度を下げて柔軟性を向上させると、含フッ素共重合体が薬剤を吸収しやすくなる傾向がある。また、チップに用いる場合はチップの内部空間を目視で確認できる透明性が必要である。硬度、ヤング率、薬剤非吸収性、透明性を兼ね備えるためには、含フッ素共重合体としては、TFE単位を50~70モル%含有する共重合体が好ましい。中でも前記TFE-P系共重合体又はTFE―PAVE系共重合体が好ましく、前記(1-2)又は前記(5-2)の共重合体が特に好ましい。
【0056】
<第2の態様>
本発明のチップの第2の態様は、図1に示す形状のチップの、内部空間Sに接する面の全部に含フッ素共重合体をコーティングしたものである。図示していないが、貫通孔S1の内壁面1a、貫通孔S2の内壁面1b、第1の基板1の貫通溝S3に臨む面1c、貫通溝S3の内壁面2b、及び第3の基板3の貫通溝S3に臨む面3aの全面に含フッ素共重合体の被覆層が存在する。
第1~第3の基板、及び被覆層は、内部を観察しやすい点で透明が好ましく、好ましい態様は第1の態様と同様である。また硬度についても第1の態様と同様である。
被覆層の厚さは0.1~200μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。被覆層の厚さが前記範囲の下限値以上であると薬剤非吸収性に優れる。上限値以下であると流路の形状を保ちやすい。
【0057】
含フッ素共重合体は第1の態様と同様のものを用いることができる。本態様では、含フッ素共重合体と溶媒を含む含フッ素共重合体組成物を調製し、コーティング液として用いる。含フッ素共重合体組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としてはペルフルオロポリエーテル等が挙げられる。
前記に挙げた含フッ素共重合体のなかで、被覆層を形成するのに好ましいのはTFE-P系共重合体、HFP―VdF系共重合体、CTFE-E系共重合体、又はTFE-PAVE系共重合体であり、TFE-P系共重合体とTFE-PAVE系共重合体が特に好ましい。
【0058】
チップの材質は限定されない。透明なフィルムを成形できる材料が好ましい。また柔軟性を有する材料が好ましい。
チップの材料としては、被覆層とは異なる含フッ素共重合体、ポリシロキサン系ポリマー(ポリジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン等)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリオレフィン、アクリル樹脂、アクリルゴム、スチレン樹脂、スチレンゴム、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エピクロルヒドリンゴム、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、熱可塑性エラストマー、珪酸ガラスが例示できる。
【0059】
本態様のチップは、例えば以下の方法で製造できる。
透明なフィルムを3枚用意し、第1の態様のチップと同様に加工し、積層し、接着して本体を得る。次いで、本体内の内部空間に接する面にコーティング液を塗布して、含フッ素共重合体の被覆層を形成する。又は、3枚のフィルムを積層する前に、各フィルムの、内部空間に接する面となる部分に、含フッ素共重合体の被覆層を形成してもよい。例えば、まず、透明なフィルムを3枚用意し、第1の態様のチップと同様に加工する。第1の基板1となるフィルムの、貫通孔S1の内壁面1a、貫通孔S2の内壁面1b及び貫通溝S3に臨む面1cにコーティング液を塗布して、含フッ素共重合体の被覆層を形成する。第2の基板2となるフィルムの、貫通溝S3の内壁面2bにコーティング液を塗布して、含フッ素共重合体の被覆層を形成する。
【0060】
第3の基板3となるフィルムの、貫通溝S3に臨む面3aにコーティング液を塗布して、含フッ素共重合体の被覆層を形成する。その後、これら3枚のフィルムを、第1の態様と同様の方法で積層し、接着して本態様のチップを得る。
本態様においても第1の態様と同様の効果が得られる。本態様は第1の態様に比べて、本体の材質の自由度が高いため、コストをより低減することができる。
【0061】
<第3の態様>
図4は、本発明のチップの第3の態様を示す模式断面図であり、図5はチップを第1の基板と第2の基板に分解した模式平面図である。本態様が第1の態様と異なる点は、第1の態様のチップが3枚の基板の積層体であったのに対して、本態様のチップは2枚の基板の積層体であり、第3の基板3を用いない点、及び第1の態様においては第2の基板2には貫通溝S3を設けるのに対して、本態様では第2の基板12に有底溝S13を設ける点である。本態様において、第1の基板及び第2の基板は含フッ素共重合体からなる。
本態様のチップは第1の基板11と第2の基板12とが積層されている。第1の基板11には2個の貫通孔S11、S12が形成されている。貫通孔S11、S12の第2の基板12と反対側の開口端が開口H11、H12である。符号11aは貫通孔S11の内壁面、11bは貫通孔S12の内壁面を示す。
【0062】
第2の基板12には、有底溝S13が設けられている。有底溝S13は、第1の基板11と第2の基板12を積層したときに、有底溝S13が貫通孔S11、S12をつなぐように設けられている。符号11cは第1の基板11の有底溝S13を臨む面を示し、12bは有底溝S13の底面を示す。
第1の基板11と第2の基板12が積層されたチップにおいて、貫通孔S11、S12と有底溝S13とで形成される空間が開口H11、H12をつなぐ内部空間Sである。
本態様のチップは、内部空間S内で細胞を培養する容器として使用できる。この場合、内部空間Sは細胞を収容する収容部(不図示)を含む。例えば、有底溝S13の底面12b上に細胞を収容する収容部(不図示)収容部を設ける。
【0063】
本態様のチップは、例えば以下の方法で製造できる。
含フッ素共重合体からなるフィルムを2枚用意し、第1、第2の基板として使用する。第1の基板11には表面から裏面に貫通する2個の貫通孔S11、S12を設ける。第2の基板12には有底溝S13を設ける。
有底溝S13が2個の貫通孔S11、S12をつなぐように、第1の基板11と第2の基板12を積層し、基板どうしを液密に接着してチップを得る。
【0064】
<第4の態様>
本態様が第2の態様と異なる点は、図4に示す形状のチップ、内部空間Sに接する面の全部に含フッ素共重合体をコーティングしたものである。図示していないが、貫通孔S11の内壁面11a、貫通孔S12の内壁面11b、第1の基板11の有底溝S13に臨む面11c、有底溝S13の内壁面12a、及び有底溝S13の底面12bの全面に含フッ素共重合体の被覆層が存在する。
【0065】
<第5の態様>
図6は本発明のチップの第5の態様を示す模式断面図である。図7はチップを第1の基板と第2の基板に分解した模式平面図である。本態様が第3の態様と異なる点は、第3の態様の第2の基板が有底溝を有するのに対して、本態様の第2の基板表面は表面と裏面は平坦である点と、第3の態様の第1の基板が貫通孔だけでなく貫通孔をつなぐように有底溝を有す点である。各基板の好ましい態様、製造方法は、第1の態様及び第3の態様と同様である。
【0066】
<第6の態様>
本発明のチップの第6の態様は、図6に示す形状の本体の、内部空間に接する面の全部に含フッ素共重合体をコーティングしたものである。各基板の好ましい態様、コーティング法、製造方法は第2の態様及び第4の態様と同様である。
【0067】
<第7の態様>
図8は本発明のチップの第7の態様を示す模式断面図であり、図9はこのチップを第1の基板と第2の基板に分解した模式平面図である。本態様が第5の態様と異なる点は、第5の態様の第2の基板が平坦であるのに対して、本態様の第2の基板は貫通孔をつなぐように配置された有底溝を有する点と、第1の基板と第2の基板の間に、貫通孔を塞がないように配置されたフィルムを有する点である。各基板の好ましい態様、製造方法は第1の態様、第3の態様及び第5の態様と同様である。
【0068】
<第8の態様>
本発明のチップの第8の態様は、図8に示す形状のチップの、内部空間に接する面の全部に含フッ素共重合体をコーティングしたものである。各基板の好ましい態様、コーティング法、製造方法は第2の態様、第4の態様及び第6の態様と同様である。
【0069】
図10に第7及び第8の態様の具体的構造を示す。第1の基板の内部空間と第2の基板の内部空間が上下に独立して存在し、異なる薬剤を混合せずにチップに流すことができる。
図10(a)の左側図、右側図は、それぞれ、第1基体、第2基体の平面図である。図10(b)は第1基体と第2基体とを積層した状態の平面図ある。図10(c)は、第1基体と第2基体とを積層した状態の断面図である。
【0070】
<変形例>
第1~8の態様においては、チップの内部空間に接する面の全部を含フッ素共重合体からなる面としたが、内部空間に接する面の少なくとも一部を含フッ素共重合体からなる面とすることができる。チップ内で薬剤と接触する面の一部を含フッ素共重合体からなる面とすることにより、チップ内で薬剤が吸収されるのを低減させる効果が得られる。薬剤の非吸収性により優れる点からは、チップ内で薬剤と接触する面の全部が含フッ素共重合体からなる面であることがより好ましい。
チップの内部空間に接する面の一部のみが含フッ素共重合体からなる面である場合、残りの面は、下記他の材料からなる基板が露出した面(露出面)であることが好ましい。
【0071】
他の材料としては、薬剤の吸収が少ない点で、珪酸ガラス、ステンレス鋼、シクロオレフィンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンが好ましい。透明性の点で珪酸ガラス、シクロオレフィンポリマーがより好ましい。
例えば、第1の態様において、第1の基板1と第3の基板3を珪酸ガラスで構成し、第2の基板2を第1の態様と同様に含フッ素共重合体で構成する。
珪酸ガラスからなる基板は市販品から入手できる。
この態様のチップの製造方法は、まず、第1の基板1となるガラスフィルムに貫通孔S1、S2を設ける。第2の基板2は第1の態様と同様に貫通溝S3を設ける。第3の基板3となるガラスフィルムは加工しない。次いで、これら3枚のフィルムを積層し、接着してチップを得る。
【0072】
例えば、第2の態様において、第1の基板1及び第3の基板3を珪酸ガラスで構成し、第2の基板2をポリシロキサン系ポリマーで構成し、第2の基板2の貫通溝S3の内壁面2bにのみ含フッ素共重合体の被覆層を設ける。
この態様のチップの製造方法は、まず、第1の基板1となるガラスフィルムに貫通孔S1、S2を設ける。第2の基板2は第2の態様と同様に貫通溝S3を設け、その内壁面2bにコーティング液を塗布して含フッ素共重合体の被覆層を形成する。第3の基板3となるガラスフィルムは加工しない。次いで、これら3枚のフィルムを積層し、接着してチップを得る。
【0073】
例えば、第3の態様において、第1の基板11を珪酸ガラスで構成し、第2の基板12を第3の態様と同様に含フッ素共重合体で構成する。
この態様のチップの製造方法は、まず、第1の基板11となるガラスフィルムに貫通孔S11、S12を設ける。第2の基板12は第3の態様と同様に有底溝S13を設ける。次いで、これら2枚のフィルムを積層し、接着してチップを得る。
【0074】
例えば、第4の態様において、第1の基板11を珪酸ガラスで構成し、第2の基板12をポリシロキサン系ポリマーで構成し、第2の基板12の有底溝S13の内壁面12a、及び有底溝S13の底面12bにのみ含フッ素共重合体の被覆層を設ける。
この態様のチップの製造方法は、まず、第1の基板11となるガラスフィルムに貫通孔S11、S12を設ける。第2の基板12は第4の態様と同様に有底溝S13を設け、その内壁面12a及び底面12bにコーティング液を塗布して含フッ素共重合体の被覆層を形成する。次いで、これら2枚のフィルムを積層し、接着してチップを得る。
【0075】
珪酸ガラスからなる基板に貫通孔を設ける方法としてはレーザー、マイクロブラスト、又はエッチングによる加工法が例示できる。
珪酸ガラスからなる基板を用いる場合、基板どうしを接着させる方法は、基板どうしを重ね合わせ、さらに紫外線照射、放射線照射、電子線照射又は加熱して架橋させる方法、基板の間に接着剤層を設ける方法、接着面をコロナ放電照射、プラズマ照射、紫外線照射、オゾン暴露、塩基暴露により活性化させた後に重ね合わせる方法、及びこれらの方法を2つ以上組み合わせた方法が例示できる。
【0076】
第1~8の態様においては、開口を2個設けたが、開口の数は複数であればよく、限定されない。1つの内部空間が3個以上の開口をつないでもよい。開口の形状は任意の形状とできる。開口はチップの上面に限らず、下面又は側面に設けてもよく、これらを組み合わせてもよい。
第1、第2の態様において、第3の基板の第2の基板側の面は平坦面としたが、この面に有底の溝を設けてもよい。又は第3の基板に貫通溝を設け、第2の基板とは反対側に第4の基板を設けてもよい。第4の基板の第3の基板側の面は平坦面でもよく、有底の溝を形成してもよい。
例えば、非特許文献(Dongeun Huh、他著、“Microfabrication of human organs-on-chips”、NATURE PROTOCOLS、vol.8、no.11、2013年、pp.2135-2157)に記載の構造のチップを含フッ素共重合体により作製できる。
また、前記非特許文献に記載の方法により、細胞をチップ内で培養できる。
【0077】
細胞をチップ内で培養する場合、前記のとおり必要に応じてチップを変形させて、内部空間内の細胞に機械力を付与し、臓器の動きを模倣した振動を与えることがある。このとき、振動を与えるためには細胞培養面の伸びが必要だが、伸び過ぎると細胞が変形に耐えられず死んでしまうことがある。チップの内部空間に細胞を含んだ状態においては、細胞培養面の伸びは1.0~25.0%が好ましく、1.0~10.0%がより好ましく、1.0~7.0%が特に好ましい。
このような含フッ素共重合体としては、TFE単位を50~70モル%含有する共重合体が好ましい。中でも前記TFE-P系共重合体が好ましく、前記(1-2)の共重合体が特に好ましい。
【0078】
また、細胞を培養する場合、内部空間の細胞接着性が良好であることが好ましい。中でも、前記TFE-P系共重合体又はTFE―PAVE系共重合体が好ましく、前記(1-2)又は前記(5-2)の共重合体がより好ましく、前記(5-2)の共重合体が特に好ましい。また前記(1-2)は適切な架橋や表面処理を行うことにより細胞接着性を向上させることができる。
所望の形状の基板を作製する方法は、3Dプリンタを用いた方法でもよい。
また、3Dプリンタを用いて1枚の基板に内部空間の全部が形成されたチップを作製してもよい。
【実施例
【0079】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
<薬剤非吸収性の評価方法>
[1.0μMナイルレッド水溶液の調製]
ナイルレッド(東京化成工業社製)をエタノールに溶解させ、さらにイオン交換水を加えて1.0μMナイルレッド水溶液(エタノール0.03質量%含む)を調製した。
[試験フィルムの作製]
評価対象のフィルムを1.0μMナイルレッド水溶液に室温(25℃)で1時間浸漬させた後、イオン交換水の入った容器に移して1分間攪拌し、取り出したフィルムの表面の水滴を窒素ガスで吹き飛ばしたものを試験フィルムとした。
【0081】
[蛍光顕微鏡による断面観察]
試験フィルムを凍結用包埋剤(サクラファインテック社製)に入れ、クリオスタット(Leica社製)を用いて-20℃で凍結し、切削して60μ厚の凍結切片を得た。粘着テープを用い、得られた凍結切片をスライドガラスへ貼り付けた後、蛍光顕微鏡システム(Thermo Fisher Scientific社商品名、EVOS、FL Auto)を用いてサンプル断面の蛍光像(赤色)と位相像を観察した。蛍光顕微鏡システムは、Light=35/100、露光時間=320ms、GAIN=12.0dbに設定した。
【0082】
図11~18に示す蛍光像の写真において、白い部分が赤色の蛍光が観察された部分である。白い部分が少ない方が、薬剤(1.0μMナイルレッド水溶液)の吸収が少ないことを意味する。
【0083】
(実験例1)
国際公開第2015/098773号の製造例3と同様の手順で、CF=CFOCFCFCFCOOCHに基づく単位が1.2モル%、CF=CFOCFCFCFに基づく単位が25.4モル%、テトラフルオロエチレンに基づく単位が73.5モル%である含フッ素共重合体P1を得た。サイズ排除クロマトグラムにより算出される、ポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量は100,000であり、重量平均分子量/数平均分子量の値は1.5であった。
【0084】
含フッ素共重合体P1を熱プレスにより100μm厚フィルムとし、照射面に3mm厚の合成石英板を有する容器に入れ、窒素雰囲気下、200W低圧水銀ランプ(セン特殊光源製、EUV200GL-31オゾンレスタイプ、波長中心254nm)を用いて紫外線照射を1時間行い、無色透明な含フッ素架橋フィルムQ1を得た。フィルムからランプまでの距離は25mmであった。
前記の方法で、含フッ素架橋フィルムQ1の薬剤非吸収性を評価した。結果を図11に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。
【0085】
(比較例1)
無色透明なポリジメチルシロキサン架橋体フィルム(ダウコーニング社商品名、Sylgard、184)Q2の薬剤非吸収性を評価した。結果を図12に示す。500μm厚のフィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光が見られた。試験フィルムは目視では赤く着色していた。
【0086】
(実験例2)
実験例1の含フッ素共重合体P1を、n-C13H(AGC社商品名、アサヒクリンAC-2000)に溶解させ、10質量%の含フッ素共重合体P1溶液を得た。
比較例1のポリジメチルシロキサン架橋体フィルムQ2を、含フッ素共重合体P1溶液に浸漬させて引き上げる操作を5回繰り返してコーティングした。次いで、室温(25℃)で2時間静置して乾燥し、実験例1と同じ条件で両面1時間ずつ紫外線照射し、無色透明な含フッ素共重合体被覆フィルムQ3を得た。
含フッ素共重合体被覆フィルムQ3の薬剤非吸収性の評価結果を図13に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。位相像から測定した、含フッ素共重合体P1の被覆層の最も薄い箇所の厚みは12μmであった。
【0087】
(実験例3)
日本特許第5321580号公報の実施例に従って、TFE単位が56モル%、P単位が44モル%である含フッ素共重合体P2を合成した。
含フッ素共重合体P2を、1,2,4-トリメチルベンゼン40質量%とCFCHOCFCFH(AGC社商品名、アサヒクリンAE-3000)60質量%からなる混合溶媒へ溶解させ、10質量%の含フッ素共重合体P2溶液を得た。
比較例1のポリジメチルシロキサン架橋体フィルムQ2を、含フッ素共重合体P2溶液に浸漬させて引き上げる操作を3回繰り返してコーティングした。次いで、170℃の送風式オーブンで1時間加熱乾燥して、無色透明な含フッ素共重合体被覆フィルムQ4を得た。
含フッ素共重合体被覆フィルムQ4の薬剤非吸収性の評価結果を図14に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。位相像から測定した、含フッ素共重合体P2の被覆層の最も薄い箇所の厚みは22μmであった。
【0088】
(実験例4)
VdF単位とTFE単位とHFP単位からなる共重合体P3(ダイキン工業社商品名、ダイエルG-901)の無色透明な550μm厚フィルムQ5の薬剤非吸収性の評価結果を図15に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。
【0089】
(実験例5)
TFE-E系共重合体とHFP-VdF系共重合体とのブロック共重合体である、含フッ素熱可塑性エラストマーP4(タイガースポリマー社製品名:タイガーフロン)の無色透明な1.0mm厚チューブQ6の薬剤非吸収性の評価結果を図16に示す。チューブの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。
【0090】
(実験例6)
国際公開第2017/082417号の例2に従って、E単位が47.3モル%、TFE単位が52.7モル%である含フッ素共重合体P5を合成した。
含フッ素共重合体P5を熱プレスして、100μm厚の無色透明な含フッ素共重合体フィルムQ7を得た。含フッ素共重合体フィルムQ7の薬剤非吸収性の結果を図17に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。
【0091】
(実験例7)
国際公開第2017/057512号の実施例5に従って、TFE単位が56モル%、P単位が43.8モル%、CF=CFO(CFOCF=CFに基づく単位が0.2モル%でヨウ素を0.5質量%含む含フッ素共重合体P6を合成した。
含フッ素共重合体P6を熱プレスして、560μm厚の無色透明な含フッ素共重合体フィルムQ8を得た。含フッ素共重合体フィルムQ8をJIS-K-7136に準じ、ヘイズメーターで測定したところ、ヘイズ値は10%であった。含フッ素共重合体フィルムQ8の薬剤非吸収性の結果を図18に示す。フィルムの内部にナイルレッドに由来する蛍光は見られなかった。試験フィルムは目視でも無色透明のままであった。
【0092】
(実験例8)
CTFE単位とE単位からなる含フッ素共重合体P7(ソルベイスペシャルティポリマーズ社商品名、ヘイラー6014)の粉体を熱プレスし、67μm厚の無色透明な含フッ素共重合体フィルムQ9を得た。薬剤非吸収性の評価の試験フィルムは目視で無色透明のままであった。
【0093】
(実験例9)
実験例7で合成した含フッ素共重合体P6の100質量部に対して、パーカドックス14(化薬アクゾ社製)の1質量部、トリアリルイソシアヌレートの3質量部、及びステアリン酸カルシウムの1質量部を均一に混練し、150℃で20分間プレス加硫させ、含フッ素共重合体フィルムQ10を得た。前記フィルムのタイプAデュロメータ硬度は58、ヤング率は1.4MPaであった。
なお、硬度はJIS K6253-3に準じて測定した。ヤング率はテンシロン(A and D社製)シリーズを用い、8号ダンベル(幅3mm, 長さ10mm)で引っ張り速度10[mm/min]の条件で3回測定を行い、平均値を用いた。
【0094】
参考文献(Biochemical and Biophysical Research Communications 482 (2017) 323-328)に記載された方法を参照し、薬剤としてニフェジピンとBay K8644を用い、96wellプレート(AGCテクノグラス社製)に厚み2mm、直径6.5mmとなるよう打ち抜いた比較例1で用いたポリジメチルシロキサン架橋体を入れ、1μMの薬剤溶液250uLを添加した。3時間まで継時的に液中の薬剤濃度を測定し、吸収量を算出した。コントロールとして何も入れないwell(TCPS)を用いた。
前記含フッ素共重合体フィルムQ10も同様にディスクを作製し、同様の方法で薬剤の吸収量を算出した。ニフェジピンはポリジメチルシロキサン架橋体では3時間後に4割の薬剤が溶液中から無くなったが、含フッ素共重合体フィルムQ10では1割に留まった。Bay K8644はポリジメチルシロキサン架橋体では3時間後に2割の薬剤が消失したが、含フッ素共重合体フィルムQ10では消失はほとんどなかった。
【0095】
(実験例10)
実験例1で得た含フッ素架橋フィルムQ1をJIS K7126-1:2006に準じて測定したところ、酸素の透過係数は1.7×10-9]、二酸化炭素の透過係数は4.0×10-9であった。水蒸気の透過係数をJIS K7129:2008に準じて測定したところ、透過係数は1.0であった。
同様にして、実験例9で得た含フッ素共重合体からなるフィルムQ10を前記同様に気体透過定数を測定したところ、酸素の透過係数は2.0×10-10、二酸化炭素の透過係数は10.0×10-10であった。
【0096】
(実施例1)
実験例1に記載の含フッ素重合体P1を用い、熱プレスにより0.6mm厚フィルムを作製し、実験例1と同じ条件で紫外線照射して含フッ素架橋フィルムQ10を得た。これから20mm×40mmの長方形フィルム3枚を刃により切り出した。1枚目には照射面側からポンチにより直径2mmの貫通孔を2つ形成した(孔中心間距離は20mm)。2枚目には1枚目と同じ位置に同様の操作で貫通孔を2つ形成し、さらに刃を用いて、これらの貫通孔間をつなぐ線幅1mmの貫通溝を形成した。1枚目と2枚目の貫通孔の位置が一致するように2枚を重ね合わせた。さらに3枚目を、照射面が2枚目側とは反対側となるように2枚目の下に置き、長方形の4頂点が重なり合うように積層した。真空減圧下、100℃で3時間加熱して3枚を接着し、2つの開口をつなぐ内部空間を有するチップ構造体を作製した。
【0097】
(実施例2)[細胞培養試験]
前記含フッ素共重合体フィルムQ10を金型成型し、高さ0.2mmで幅1.0mmの有底の溝を持つ厚み1.5mmのフィルムを作製した。所定の位置を2mmφの生研トレパン(貝印社製)で打ち抜いたフィルムを第一の基板とし、貫通孔を空けないフィルムを第二の基板として溝中心の溝が向かい合うように積層した。
前記第一と第二の基板の間に、図10のように中心の溝を隔てるように厚み10μmのPDMS(ポリジメチルシロキサン)フィルムを挟み、PDMS糊を塗布して積層してチップを作製した。チップをUVで30分間殺菌し、送液ポートからシリンジを介してフィブロネクチン溶液を注入しPDMS膜をコーティングした。送液ポートからシリンジを介してPBSを注入しPDMS膜を洗浄した。送液ポートからシリンジを介して培養液に懸濁したGFP発現HUVEC(血管内皮細胞)を注入し、温度37℃、5%CO環境下で16時間培養した。
【0098】
16時間培養後の細胞(HUVEC)を顕微鏡観察したところ、位相差像及びGFP蛍光画像において細胞が明瞭に観察可能であった。また、細胞収容部を伸縮させ、細胞に伸展刺激を与えたところ、細胞に対して5%程度の伸展刺激を行うことが可能であった。
このことから、生体に近い環で評価を行える生体模倣チップに必要な薬剤非収着性、細胞非毒性、細胞観察性、柔軟性を備えており、生体模倣チップとして好適に使用できることが分かった。
【0099】
(実施例3)
前記ポリジメチルシロキサン架橋体フィルムQ2をシリコン基板とレジスト樹脂からなる型を用いて成形し、高さ0.2mmで幅1.0mmの有底の溝を持つ厚さ6mmのフィルムを作製した。このフィルムに実験例2と同様に含フッ素共重合体P1をコーティングし、含フッ素共重合体被覆フィルムQ13を得た。ただし、UV照射は大気下で行った。実施例2において、有底の溝を持つフィルムQ10の代わりに有底の溝を持つフィルムQ13を用い、厚み10μmのPDMSフィルムの代わりにコラーゲンビトリゲル(AGCテクノグラス社商品名)フィルムを用い、PDMS糊を塗布せずに積層して30℃で圧着させ、チップを作製した。ビトリゲル上では細胞を育てることができるため、生体模倣チップとして好適に使用できることが分かった。
【0100】
(実験例4)
大気下でUV照射を行った以外、実験例1と同様に含フッ素架橋フィルムQ1を得た。これをポリスチレン製シャーレ中に入れ、フィルムQ1上でヒト胎児肺由来線維芽細胞であるTIG-3細胞を3日間培養した。細胞接着は良好であった。
【0101】
以上の結果より、含フッ素共重合体P1、P3~P7からなるフィルムQ1、Q5~Q9は薬剤非吸収性に優れており、薬剤の評価試験に用いられるチップの基板として好適に使用できる。
ポリジメチルシロキサン架橋体フィルムQ2は薬剤を吸収するが、このフィルム上に、含フッ素共重合体P1の被覆層を設けた含フッ素共重合体被覆フィルムQ3、及び含フッ素共重合体P2の被覆層を設けた含フッ素共重合体被覆フィルムQ4は、薬剤非吸収性に優れており、薬剤の評価試験に用いられるチップの基板として好適に使用できる。
【0102】
なお、2017年9月15日に出願された日本特許出願2017-177979号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0103】
1:第1の基板、2:第2の基板、3:第3の基板、H1、H2、H11、H12:開口、S:内部空間、S1、S2、S11、S12:貫通孔、S3:貫通溝、S13:有底の溝(有底溝)、1a、1b、11a、11b:貫通孔の内壁面、1c:貫通溝を臨む面、2a:貫通溝の内壁面、3a:貫通溝を臨む面、11c:有底の溝を臨む面、12a:有底の溝の内壁面、12b:有底の溝の底面、21:第1の基板、22:第2の基板、S21、S22:貫通孔、S23:有底溝、21a、21b:貫通孔の内壁面、21c:有底溝の底面、H21、H22:開口、31:第1の基板、32:第2の基板、33:フィルム、S31、S32、S33、S34:貫通孔、S35:有底溝、31a、31b、31c、31d:貫通孔の内壁面、32a:有底溝の内壁面、32b:有底溝の底面、H31、H32、H33、H34:開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18