(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】コンパウンド及びタブレット
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20220531BHJP
B29C 45/02 20060101ALI20220531BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20220531BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20220531BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20220531BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220531BHJP
H01F 1/42 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C08G59/68
B29C45/02
C08G59/62
C08K3/10
C08K5/101
C08L63/00 B
H01F1/42
(21)【出願番号】P 2019556499
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2017043194
(87)【国際公開番号】W WO2019106813
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】前田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】小坂 正彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201386(JP,A)
【文献】特開2011-012125(JP,A)
【文献】特開2003-261745(JP,A)
【文献】特開2016-153513(JP,A)
【文献】特開2007-091813(JP,A)
【文献】特開2008-214428(JP,A)
【文献】特開昭55-082147(JP,A)
【文献】特開2001-214035(JP,A)
【文献】特開2012-67262(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010403(WO,A1)
【文献】特開2017-107935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/68
B29C 45/02
C08G 59/62
C08K 3/10
C08K 5/101
C08L 63/00
H01F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含み、
前記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み、
前記ワックスがモンタン酸エステルを含み、
前記金属元素含有粉の含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上である、
インダクタに用いられる、コンパウンド。
【請求項2】
前記結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のコンパウンド。
【請求項3】
前記金属元素含有粉がFeアモルファス合金粉を含む、請求項1又は2に記載のコンパウンド。
【請求項4】
前記イミダゾール系化合物が、炭素数8以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項5】
トランスファー成形に用いられる、請求項1~
4のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のコンパウンドを用いて形成されたタブレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンド及びタブレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末及び樹脂組成物を含むコンパウンドは、金属粉末の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1及び2参照)。
【0003】
インダクタは、高周波成分を通しにくいため、フィルタ及び電源回路でのノイズ除去、平滑化等に用いられる。インダクタの構造上の分類としては、巻線型、積層型、薄膜型等が挙げられ、DC-DCコンバータ等の大電流用途では巻線型のインダクタが用いられることが多い。近年、電子機器の高密度実装化に伴い、インダクタにおいても小型化が求められているが、この小型化によって、インダクタのコア(磁性材料から成るコア)の体積が減少してしまうため、直流重畳特性(直流電流負荷時のインダクタンス)の悪化を招きやすくなっている。したがって、小型化した場合でも、直流重畳特性の悪化を招かないインダクタが求められている。
【0004】
下記の特許文献3には、磁性体モールド樹脂(樹脂に磁性体粉末を分散させたもの)でコイルを封止する構造のモールドコイルに関する技術が開示されており、優れた直流重畳特性が得られる(同文献の段落[0011])とされている。また、下記の特許文献4には、軟磁性合金粉末を用いた封止ムラの発生を招かないインダクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-31786号公報
【文献】特開平8-273916号公報
【文献】特開2009-260116号公報
【文献】特開2014-013803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記インダクタ等に用いられる従来のコンパウンドでは、流動性、金型からの離型性、成形バリの低減、及び、成形品の機械的強度といった特性を全て高水準で達成することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高めることが可能なコンパウンド、及びこのコンパウンドを用いて得られるタブレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るコンパウンドは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含み、上記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み、上記ワックスがモンタン酸エステルを含み、上記金属元素含有粉の含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上である。
【0009】
本発明の一側面においては、上記結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0010】
本発明の一側面においては、上記金属元素含有粉がFeアモルファス合金粉を含んでもよい。
【0011】
本発明の一側面においては、上記イミダゾール系化合物が、炭素数8以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物を含んでもよい。
【0012】
本発明の一側面に係るコンパウンドは、インダクタに用いられてもよい。
【0013】
本発明の一側面に係るコンパウンドは、トランスファー成形に用いられてもよい。
【0014】
本発明の別の一側面に係るタブレットは、上記本発明の一側面に係るコンパウンドを用いて形成されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高めることが可能なコンパウンド、及びこのコンパウンドを用いて得られるタブレットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係るコンパウンドは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含む。本実施形態に係るコンパウンドにおいては、上記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み、上記ワックスがモンタン酸エステルを含む。本実施形態に係るコンパウンドにおける上記金属元素含有粉の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として90質量%以上である。本実施形態に係るコンパウンドは、上記構成を有することにより、流動性及び金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であると共に、機械的強度に優れた成形品を形成することができる。本実施形態に係るコンパウンドは、インダクタの材料(例えば磁心)として好適に用いることができる。
【0018】
本実施形態に係るコンパウンドの用途は、インダクタの磁心に限定されない。コンパウンドに含まれる金属元素含有粉の組成又は組合せに応じて、コンパウンドの電磁気的特性又は熱伝導性等の諸物性を自在に制御し、コンパウンドを様々な工業製品又はそれらの原材料に利用することができる。コンパウンドを用いて製造される工業製品は、例えば、自動車、医療機器、電子機器、電気機器、情報通信機器、家電製品、音響機器、及び一般産業機器であってよい。例えば、コンパウンドが金属元素含有粉としてFe-Si-Cr系合金又はフェライト等の軟磁性粉を含む場合、コンパウンドは、上述のインダクタ(例えばEMIフィルタ)の材料(例えば磁心)として利用されてよい。コンパウンドが金属元素含有粉として永久磁石を含む場合、コンパウンドはボンド磁石の原材料として利用されてよい。コンパウンドが金属元素含有粉として鉄と銅とを含む場合、コンパウンドから形成された成形体(例えばシート)は、電磁波シールドとして利用されてよい。
【0019】
以下、本実施形態に係るコンパウンドの構成要素、製造方法の必要項目等について順に説明する。
【0020】
[樹脂組成物]
樹脂組成物は、樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と金属元素含有粉とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、ワックス、カップリング剤又は難燃剤等である。本実施形態に係るコンパウンドにおいて、樹脂組成物は、樹脂としてのエポキシ樹脂、硬化剤としてのフェノール樹脂、硬化促進剤としてのイミダゾール系化合物、及び、ワックスを少なくとも含有する。さらに、上記エポキシ樹脂は、結晶性エポキシ樹脂を含み、上記ワックスは、モンタン酸エステルを含む。
【0021】
樹脂組成物は、金属元素含有粉の結合剤(バインダー)としての機能を有し、コンパウンドから形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、金属元素含有粉の間に充填され、金属元素含有粉を互いに結着する。成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物が金属元素含有粉同士をより強固に結着して、成形体の機械的強度が向上する。また、樹脂組成物がワックスを含むため、金属元素含有粉とワックスを含む樹脂組成物とを混合することで、金属元素含有粉表面にワックス及びワックス以外の樹脂組成物の他の成分を付着・形成させることができる。ワックス及び樹脂組成物の他の成分は金属元素含有粉の表面全体を被覆していてもよく、金属元素含有粉の表面を部分的に被覆していてもよい。金属元素含有粉表面に形成されたワックス及び樹脂組成物の他の成分は、金型中で高圧成形された際に金属元素含有粉間に充填され、金属元素含有粉を互いに結着し、タブレットとすることができる。タブレットは、その後の加熱・加圧を含む成形工程を経ることで硬化体となり、樹脂組成物は強固なバインダーとしての機能を果たす。上記タブレットをインダクタの材料として用いた場合、タブレットは上記成形工程を経てインダクタ部品のコイルの周囲を囲む硬化体となる。
【0022】
(ワックス)
本実施形態では、ワックスは金属元素含有粉及びワックス以外の樹脂組成物の他の成分と共に混合することで、金属元素含有粉表面に付着・形成される。ワックス及び樹脂組成物の他の成分は金属元素含有粉の表面全体を被覆していてもよく、金属元素含有粉の表面を部分的に被覆していてもよい。また、ワックスは、硬化促進剤の一部又は全部を溶解していることが好ましい。これによりコンパウンド及びタブレットの熱的な経時劣化を抑制することが可能である。ワックスは、加熱・加圧を含む成形工程の際に液状化し、コンパウンドに流動性を付与して成形性を向上すると共に、金属元素含有粉及び樹脂組成物の他の成分から分離して金型との離型性を高める離型材の働きを有する。ワックスの液状化に伴い、ワックスに溶解していた硬化促進剤が樹脂組成物の硬化を促進し、ワックスは樹脂組成物の他の成分から分離して、ワックス以外の樹脂組成物が強固なバインダーとしての機能を果たす。
【0023】
本実施形態で用いるワックスは、少なくともモンタン酸エステル(モンタンワックス)を含む。モンタンワックスは、他のワックスと比較して、コンパウンドの流動性及び離型性を向上させる効果が高いと共に、成形バリを低減する効果及び成形体の機械的強度を向上させる効果にも優れている。
【0024】
ワックスは、モンタンワックス以外の他のワックスを含んでいてもよい。他のワックスとしては、例えば、ステアリン酸、12-オキシステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアエン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの変性物からなるポリエーテル類;シリコーンオイル、シリコングリース等のポリシロキサン類;フッ素系オイル、フッ素系グリース、含フッ素樹脂粉末等のフッ素化合物;並びに、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナバワックス、マイクロワックス等のワックス類;などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
モンタンワックスの市販品としては、例えば、リコワックスE、リコワックスOP、リコルブE、リコルブWE40(以上、クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名)が挙げられる。ポリエチレンワックスの市販品としては、例えば、リコルブH12、リコワックスPE520、リコワックスPED191(以上、クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名)が挙げられる。アマイドワックスの市販品としては、例えば、リコルブFA1(クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名)、DISPARLON6650(楠本化成株式会社製、商品名)が挙げられる。
【0026】
ワックスは、コンパウンドの流動性、離型性、成形時の温度及び圧力、並びにワックスの融点等、コンパウンドの設計において要求される事項に応じて、適宜選択されてよい。これらの要求をより一層満たす観点から、ワックスは、上記の中でもリコワックスE(滴点82℃、溶融粘度30mPa・s(100℃))が特に好ましい。
【0027】
本実施形態に係るコンパウンドにおけるワックスの含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは0.3~1.2質量%、より好ましくは0.4~1.0質量%、さらに好ましくは0.5~0.9質量%であってよい。ワックスの含有量が0.3質量%以上である場合、コンパウンドの流動性及び離型性を向上させる効果、成形バリを低減する効果、並びに成形体の機械的強度を向上させる効果がより高水準で得られ易い。ワックスの含有量が1.2質量%以下である場合、ワックスが多すぎることによりコンパウンドの成形性及び成形体の機械的強度が低下することを抑制し易い。ただし、ワックスの含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。なお、本明細書において、コンパウンドの全質量とは、有機溶媒等の揮発性成分を除く成分(不揮発性成分)の全質量を意味する。
【0028】
(エポキシ樹脂)
本実施形態で用いるエポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよいが、少なくとも結晶性エポキシ樹脂を含む。結晶性のエポキシ樹脂は、分子量が比較的低いにもかかわらず、比較的高い融点を有し、かつ流動性に優れる。また、エポキシ樹脂は、結晶性エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(非結晶性エポキシ樹脂)を含んでいてもよい。
【0029】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)としては、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。入手可能な結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、GK-4292(融点:120℃、溶融粘度:0.14Pa・s(150℃))、GK-5079(融点:78℃、溶融粘度:0.08Pa・s(150℃))、GK-4299(融点:90℃、溶融粘度:0.19Pa・s(150℃))、GK-8001(融点:115℃、溶融粘度:0.18Pa・s(150℃))、GK-4137(融点:80℃、溶融粘度:0.06Pa・s(150℃))、YDC-1312(融点:138~145℃、溶融粘度:0.01Pa・s(150℃))、YSLV-80XY(融点:75~85℃、溶融粘度:0.01Pa・s(150℃))、YSLV-120TE(融点:115~125℃、溶融粘度:0.1Pa・s(150℃))、(以上、新日鉄住金化学株式会社製、商品名)、YX-4000(融点:105℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))、YX-4000H(融点:105℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))、YL4121H(融点:105℃、溶融粘度:0.15Pa・s(150℃))、YX-8800(融点:109℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))(以上、三菱ケミカル株式会社製、商品名)、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM-091、エピクロンHM-101、エピクロンN-730A、エピクロンN-740、エピクロンN-770、エピクロンN-775、エピクロンN-865、エピクロンHP-4032D、エピクロンHP-7200L、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-7200H、エピクロンHP-7200HH、エピクロンHP-7200HHH、エピクロンHP-4700、エピクロンHP-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンHP-5000、エピクロンHP-6000、及びN500P-2(以上、DIC株式会社製、商品名)、NC3000、NC3000-L、NC3000-H、NC3100、CER3000-L、NC2000-L、XD1000、NC7000-L、NC7300-L、EPPN-501H、EPPN-501HY、EPPN-502H、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、CER-1020、EPPN-201、BREN-S、BREN-10S(以上、日本化薬株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記エポキシ樹脂の中でも、コンパウンドの流動性及び形成体の機械的強度をより向上できることから、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が好適であり、市販品としてはNC3000-H、YX-4000Hが好適である。
【0031】
本実施形態に係るコンパウンドにおけるエポキシ樹脂の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは1.5~3.5質量%、より好ましくは2.0~3.5質量%、さらに好ましくは2.5~3.0質量%であってよい。エポキシ樹脂の含有量が1.5質量%以上である場合、コンパウンドの流動性及び成形体の機械的強度がより向上し易い。エポキシ樹脂の含有量が3.5質量%以下である場合、成形体の磁気特性が良好となり易い。ただし、エポキシ樹脂の含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0032】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する。フェノール樹脂としては特に制限はないが、一般的に、低温から室温硬化タイプのフェノール樹脂で硬化させたエポキシ樹脂は、ガラス転移点が低く軟らかい硬化物となる傾向にある。その結果、コンパウンドから形成された成形体も軟らかくなり易い。そのため、フェノール樹脂としては、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化タイプのフェノール樹脂を用いることが好ましく、フェノールノボラック樹脂を用いることがより好ましい。フェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易いため、耐熱性及び機械強度に優れた成形体(インダクタ等)を製造することができる。
【0033】
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、759、又は日立化成株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0035】
フェノール樹脂は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0036】
樹脂組成物において、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するフェノール樹脂中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.8~1.2当量、さらに好ましくは0.9~1.1当量であってよい。フェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する傾向がある。また、フェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなったり、硬化物の充分な弾性率が得られなかったりする。一方、フェノール樹脂中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成された成形体の硬化後の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、フェノール樹脂中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0037】
樹脂組成物は、フェノール樹脂以外の他の硬化剤を含んでもよい。他の硬化剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等の低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤、並びに、芳香族ポリアミン、酸無水物、及びジシアンジアミド(DICY)等の加熱硬化型硬化剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態に係るコンパウンドにおけるフェノール樹脂の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは0.6~2.5質量%、より好ましくは0.8~2.2質量%、さらに好ましくは1.0~2.0質量%であってよい。フェノール樹脂の含有量が0.6質量%以上である場合、成形体の機械的強度がより向上し易い。フェノール樹脂の含有量が2.5質量%以下である場合、成形体の磁気特性が良好となり易い。ただし、使用するエポキシ樹脂に対する当量に依存して、フェノール樹脂の含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0039】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる成分である。本実施形態で用いる硬化促進剤は、イミダゾール系化合物(イミダゾール系硬化促進剤)を含む。イミダゾール系化合物としては、例えば、アルキル基置換イミダゾール、及び、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。イミダゾール系化合物を用いることで、流動性及び離型性が良好なコンパウンドが得られる。また、上記コンパウンド及びそれを用いたタブレットは、高温・高湿な環境下においても長期保存安定性を示すことができる。さらに、上記コンパウンド又はタブレットをインダクタの材料として用いた場合、得られるインダクタは、優れた機械的特性を示す。
【0040】
イミダゾール系化合物は、炭素数8以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物であることが好ましく、炭素数10以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物であることがより好ましい。炭素数8以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物を用いることで、より良好な流動性を有するコンパウンドが得られ易いと共に、得られる成形体の機械的強度をより一層向上できる傾向がある。
【0041】
イミダゾール系化合物の市販品としては、例えば、2MZ-H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ-PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、C11Z-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN、C11Z-CNS、2P4MHZ、TPZ、SFZ(以上、四国化成工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
樹脂組成物は、イミダゾール系化合物以外の他の硬化促進剤を含んでいてもよい。他の硬化促進剤は、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる成分であれば特に限定されず、周知の硬化促進剤であってよい。
【0043】
本実施形態に係るコンパウンドにおける硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の質量の合計100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の質量の合計に対する硬化促進剤の含有量が0.001質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の含有量が5質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0044】
本実施形態に係るコンパウンドにおけるイミダゾール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3.0質量部、より好ましくは0.6~3.0質量部、さらに好ましくは0.7~2.5質量部、特に好ましくは0.8~2.0質量部であってよい。イミダゾール系化合物の含有量が0.1質量部以上である場合、十分な硬化促進効果が得られ易いと共に、成形体の機械的強度がより向上し易い。イミダゾール系化合物の含有量が3.0質量部以下である場合、コンパウンドの保存安定性がより向上し易い。ただし、イミダゾール系化合物の含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0045】
(カップリング剤)
カップリング剤は、樹脂組成物と金属元素含有粉との密着性を向上させ、コンパウンドから形成される成形体(インダクタ等)の可撓性及び機械的強度を向上させることができる。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、エポキシ系のシランカップリング剤及び酸無水物系のシランカップリング剤が好ましい。コンパウンドは、上記のうち一種のカップリング剤を備えてよく、上記のうち複数種のカップリング剤を備えてもよい。
【0046】
本実施形態に係るコンパウンドにおけるカップリング剤の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは0.1~0.7質量%、より好ましくは0.2~0.6質量%、さらに好ましくは0.3~0.5質量%であってよい。カップリング剤の含有量が0.1質量%以上である場合、成形体の可撓性及び機械的強度がより向上し易い。カップリング剤の含有量が0.7質量%以下である場合、コンパウンドのブロッキングを起こしにくい。ただし、イミダゾール系化合物の含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0047】
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記のうち一種の難燃剤を備えてよく、上記のうち複数種の難燃剤を備えてもよい。
【0048】
[金属元素含有粉]
金属元素含有粉は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属元素含有粉は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe-Cr系合金、Fe-Ni-Cr系合金等)であってよい。金属化合物とは、例えば、フェライト等の酸化物であってよい。金属元素含有粉は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属元素含有粉は、金属元素以外の元素を含んでもよい。金属元素含有粉は、例えば、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属元素含有粉は、磁性粉であってよい。金属元素含有粉は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属元素含有粉は、例えば、Fe-Si系合金、Fe-Si-Al系合金(センダスト)、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Cu-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Co系合金(パーメンジュール)、Fe-Cr-Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd-Fe-B系合金(希土類磁石)、Sm-Fe-N系合金(希土類磁石)、Al-Ni-Co系合金(アルニコ磁石)及びフェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種からなる磁性粉であってよい。フェライトは、例えば、スピネルフェライト(Mn-Znフェライト及びNi-Znフェライト等)、六方晶フェライト、又はガーネットフェライトであってよい。金属元素含有粉は、Cu-Sn系合金、Cu-Sn-P系合金、Cu-Ni系合金、又はCu-Be系合金等の銅合金であってもよい。金属元素含有粉は、上記の元素及び組成物のうち一種を含んでよく、上記の元素及び組成物のうち複数種を含んでもよい。
【0049】
金属元素含有粉は、Fe単体であってもよい。金属元素含有粉は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe-Si-Cr系合金、又はNd-Fe-B系合金であってよい。コンパウンドが、金属元素含有粉としてFe単体及びFe系合金のうち少なくともいずれかを含む場合、高い占積率を有し、かつ磁気特性に優れる成形体をコンパウンドから作製し易い。金属元素含有粉は、Feアモルファス合金粉であってもよい。コンパウンドが、金属元素含有粉としてFeアモルファス合金粉を含む場合、磁気特性により一層優れる成形体をコンパウンドから作製し易い。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2-08、KUAMET-6B2(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、株式会社神戸製鋼所製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
【0050】
また、コンパウンドをインダクタの材料として用いる場合、Feアモルファス合金粉の粒子径は、成形対象であるインダクタの形状及びコイルへの充填性を妨げなければ特に制限はないが、以下の条件の少なくとも1つを満たすとさらに好ましい。Feアモルファス合金粉は、以下の条件のうち、より多くの条件を満たすほど好ましい。
【0051】
<第1の条件>Feアモルファス合金粉として、少なくとも、粒度分布に二つのピーク(以下、第1ピーク及び第2ピークという)を持つこと。ここで、粒子径の大小関係は「第1ピーク>第2ピーク」とする。
<第2の条件>第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/2以下(好ましくは1/3以下)であること。また、下限値としては、第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/10程度以上であってよい。これは、粒子径が小さくなるにつれて粒子の表面積が増加し、かえって流動性を阻害してしまうからであり、その限界が1/10程度と推定されるからである。
<第3の条件>第2ピークと第1ピークの強度比(存在率の比:第2ピークの強度/第1ピークの強度)が0.2以上かつ0.6以下(好ましくは0.25以上かつ0.4以下)であること。強度比は、例えば、略0.3であってよい。
<第4の条件>第1ピークの粒子径がほぼ22μmを中心に分散していること。
<第5の条件>粒度分布のD90%がほぼ60μm以下であること。
【0052】
金属元素含有粉の形状は、特に限定されない。個々の金属元素含有粉は、例えば、球状、扁平形状、又は針状であってよい。金属元素含有粉は、含有元素が異なる複数種の金属元素含有粉を含んでよく、平均粒子径が異なる複数種の金属元素含有粉を含んでもよい。
【0053】
本実施形態に係るコンパウンドにおける金属元素含有粉の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、90質量%以上であり、好ましくは92質量%以上であり、さらに好ましくは94質量%以上であってよい。また、金属元素含有粉の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは99.8質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは96質量%以下であってよい。金属元素含有粉の含有量が90質量%以上である場合、磁気特性に優れる成形体を作製し易く、インダクタ特性に優れたインダクタを形成できると共に、成形体の機械的強度がより向上する。金属元素含有粉の含有量が99.8質量%以下である場合、コンパウンドの流動性及び成形体の機械的強度がより向上し易い。ただし、金属元素含有粉の含有量が上記上限値を超える場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0054】
本実施形態に係るコンパウンドにおける樹脂組成物の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~6質量%である。このような含有量とすることでコンパウンド及びタブレットの成形性(流動性)、得られるインダクタの高強度化及びインダクタ特性を全て高水準で達成し易い。
【0055】
[コンパウンドの製造方法]
コンパウンドを製造する工程は、金属元素含有粉表面に樹脂組成物を付着・形成させることができればいかなる手法も適用可能である。例えば、金属元素含有粉と樹脂組成物とを加熱しながら混合することで、樹脂組成物が金属元素含有粉の表面に付着して金属元素含有粉を被覆し、コンパウンドを得ることができる。樹脂組成物は、前述した通りエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びイミダゾール系化合物を含むが、これらをワックスと共に加熱しながら混練することで樹脂を軟化させ、金属元素含有粉の表面にワックス及び樹脂組成物の他の成分を付着・形成させることができる。ワックスを含む均質な樹脂組成物を金属元素含有粉の表面に形成させることで、成形性(流動性)、離型性に優れ、成形バリの発生が少ないコンパウンド、及びそれから得られるタブレットを得ることができる。
【0056】
混練方法は、ニーダー又は攪拌機による混練方法を用いることができる。混練では、金属元素含有粉、エポキシ樹脂等の樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤、イミダゾール系化合物等の硬化促進剤、ワックス、及びカップリング剤等を槽内で混練してよい。金属元素含有粉及びカップリング剤を槽内に投入して混合した後、樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及びワックスを槽内へ投入して、槽内の原料を混練してもよい。また、樹脂、硬化剤、ワックス、及びカップリング剤を槽内で混練した後、硬化促進剤を槽内に入れて、さらに槽内の原料を混練してもよい。予め樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及びワックスの混合粉(樹脂混合粉)を作製して、続いて、金属元素含有粉とカップリング剤とを混練して金属混合粉を作製して、続いて、金属混合粉と上記の樹脂混合粉とを混練してもよい。
【0057】
ニーダーによる混練時間は、槽の容積、コンパウンドの製造量にもよるが、例えば、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましい。またニーダーによる混練時間は、120分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、40分以下であることがさらに好ましい。混練時間が5分未満である場合、混練が不十分であり、コンパウンドの成形性が損なわれ、コンパウンドの硬化度にばらつきが生じ易い。混練時間が120分を超える場合、例えば、槽内で樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂及びフェノール樹脂)の硬化が進み、コンパウンドの流動性及び成形性が損なわれ易い。槽内の原料を加熱しながらニーダーで混練する場合、加熱温度は樹脂組成物の組成に依るので限定されない。加熱温度は、例えば、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が上記の範囲内である場合、槽内の樹脂組成物が軟化して金属元素含有粉の表面を被覆し易く、混練中の樹脂組成物の硬化が抑制され易い。
【0058】
[タブレットの製造方法]
コンパウンドを所定の金型に充填して加圧により成形することで、タブレットを形成することができる。タブレットの形状及び寸法は、特に制限はない。例えば、タブレットが円柱状である場合、タブレットの直径は5mm以上であってよく、タブレットの高さ(長さ)は5mm以上であってよい。タブレットを作製する際の成形圧力は、例えば、500MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、2000MPa以上であるとさらに好ましい。
【0059】
[インダクタの製造方法]
コンパウンド又はタブレットは、トランスファー成形等の工程を経てインダクタを形成することができる。成形圧力は、高圧成形であるほど、高強度となり好適となる。トランスファー成形の場合、500~2500MPaの成形圧で成形することが好ましく、量産性及び金型寿命も考慮した場合、1400~2000MPaの成形圧で成形することがより好ましい。圧縮成形体の密度は、コンパウンドの粒子の真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下であってよい。コンパウンド又はタブレットの圧縮成形体の密度がコンパウンドの粒子の真密度に対して75%以上86%以下であると、磁気特性が良好で、機械強度が高いインダクタを製造することができる。
【0060】
[インダクタに好適な樹脂硬化物のガラス転移温度]
樹脂組成物が硬化してなる樹脂硬化物のガラス転移温度は、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上である。樹脂硬化物のガラス転移温度が150℃以上であることで、高温で過酷な環境下においても強度の低下が少ない優れたインダクタが得られ易い。なお、本発明で言うガラス転移温度は、動的粘弾性測定において、tanδがピークになる温度のことを示す。
【0061】
[コンパウンド硬化体の曲げ強度]
コンパウンドが硬化してなる硬化体の150℃の温度における曲げ強度は、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは43MPaであり、さらに好ましくは45MPa以上である。硬化体の150℃の温度における曲げ強度が40MPa以上であると、高温において機械強度の高いインダクタを得ることができる。なお、曲げ強度は、100mm×10mm×3mmの棒状に成型した成形体の3点曲げ試験によって測定することができる。
【0062】
[保存安定性]
本実施形態に係るコンパウンドは、優れた保存安定性を有する。本発明で言う保存安定性とは、所定時間保管されたコンパウンドを用いて作製したインダクタ(熱処理後の圧縮成形体)の曲げ強度及び抗折強度の変動が、小さいこととを言う。保管される環境が苛酷であればあるほど、また保管時間が長くなればなるほど保存安定性が高いと言える。実施用上の環境を想定した場合、例えば、40℃/90%-RHの高温高湿環境で5日ほどの保存安定性が示せれば実施用上好適であり、2週間ほどの保存安定性が示せれば実際の製品の量産上問題ない水準となる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
[コンパウンド及びタブレットの作製]
Feアモルファス合金としてKUAMET6B2(エプソンアトミックス株式会社製、商品名)517gと、カルボニル鉄粉末としてSQ-I(BASF株式会社製、商品名)423gと、シランカップリング剤としてKBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)4.75gとを二軸加圧ニーダーの槽に入れ、室温(約25℃)で20分間混練した。
【0065】
別途、結晶性エポキシ樹脂としてNC3000-H(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、商品名、エポキシ当量290、軟化点70℃、溶融粘度0.03Pa・s(150℃))34.3gと、フェノール樹脂(硬化剤)としてHP-850N(フェノールノボラック樹脂、日立化成株式会社製、商品名、水酸基当量108)12.8gと、硬化促進剤としてC11Z-CN(1-(2-シアノエチル)-2-ウンデシルイミダゾール、四国化成工業株式会社製、商品名)0.343gと、ワックスとしてリコワックスE(モンタン酸エステル、クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名)8.0gとをプラスチック容器内で混合したものを上記のニーダーの槽に加え、槽内の温度が80℃になるように加温して30分間、混練した。
【0066】
得られたコンパウンドの塊を自然冷却し、粉砕してコンパウンド粉とした。コンパウンド粉を直径13mm、高さ13mmの成形用金型に入れて2000MPaの加圧を行い、円柱状のタブレットを得た。
【0067】
(実施例2~4)
表1に示したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、ワックス、シランカップリング剤、金属元素含有粉の組み合わせ及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンド及びタブレットを作製した。実施例2及び4で用いたエポキシ樹脂は、結晶性エポキシ樹脂であるYX-4000H(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、商品名、エポキシ当量192、軟化点105℃、溶融粘度0.003Pa・s(150℃))である。また、実施例3及び4では、Feアモルファス合金としてAW2-08(エプソンアトミックス株式会社製、商品名)を追加で用いた。
【0068】
(比較例1~3)
表1に示したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、ワックス、シランカップリング剤、金属元素含有粉の組み合わせ及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンド及びタブレットを作製した。比較例1で用いたエポキシ樹脂は、非結晶性のエポキシ樹脂であるEXA4750(ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC株式会社製、商品名、エポキシ当量162、軟化点86℃、溶融粘度0.045Pa・s(150℃))である。比較例2で用いた硬化促進剤は、PX-4PB(テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート、日本化学工業株式会社製、商品名)である。比較例3で用いたワックスは、カルナバワックス(東亜化成株式会社製、商品名:カルナバワックス微粉末タイプ)である。
【0069】
[流動性の評価]
実施例及び比較例で得られたタブレットを用いてトランスファー成形した際の流動性を、スパイラルフローにより評価した。100gのタブレットをトランスファー試験機に仕込み、金型温度150℃、成形圧力5MPa、成形時間180秒の条件でトランスファー成形し、その際のスパイラルフロー量をmm単位で測定した。スパイラルフロー量とは、上記金型に形成された渦巻き曲線(アルキメデスのスパイラル)状の溝内において、液化したタブレットが流れる長さ(液化したタブレットの流動距離)である。加熱により液化したタブレットが流動し易いほど、スパイラルフロー量は大きい。つまり、流動性に優れたタブレット(コンパウンド)のスパイラルフロー量は大きい。トランスファー試験機としては、株式会社小平製作所製の100KNトランスファー成型機(PZ-10型)を用いた。結果を表2に示す。
【0070】
[離型性の評価]
スパイラルフローで得られた成形品をスパイラルフロー測定用金型から剥がした際の離型状態を目視にて確認し、離型性が良好であるものをA、離型性が悪いものをBと評価した。結果を表2に示す。
【0071】
[成形バリの評価]
スパイラルフローで得られた成形品のバリの状態を目視で確認し、バリが最も大きい部分の染みだし幅をmm単位で測定した。結果を表2に示す。
【0072】
[硬化体の強度評価]
実施例及び比較例で得られたコンパウンドを、油圧プレス機を用いて2000MPaの成形圧力にて長さ100mm×幅10mm×厚さ2mmの板形状の圧縮成形体に成形した。得られた板形状の圧縮成形体を窒素ガス(N2)雰囲気下、180℃の温度にて10分間加熱することで硬化させ、強度評価用の試験片(硬化体)を作製した。次に、試験片に厚み方向の加重を印加して、試験片が破断したときの加重の最大値から破断強度(MPa)を算出した。結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
表2に示した結果から分かるように、実施例1~4のコンパウンド及びタブレットは、比較例1~3のコンパウンド及びタブレットと比較して、いずれもスパイラルフローが大きく流動性に優れ、離型性が良好であり、成形バリの量が少なく、得られる硬化体の強度も高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係るコンパウンド及びそれを用いて作製したタブレットは、トランスファー成形性に優れ、成形バリが少なく離型性にも優れる。本発明に係るコンパウンド及びそれを用いて作製したタブレットを用いて得られるインダクタは、強度が高く耐久性に優れる。このようなコンパウンド及びタブレットを用いることによって、良好な生産性で、耐久性に優れる高性能なインダクタを提供することが可能となり、その工業的価値は高い。また、本発明に係るコンパウンド及びタブレットは、インダクタだけでなく、電磁波シールド、ボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用することができる。