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  • 特許-硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/047 20060101AFI20220531BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220531BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20220531BHJP
【FI】
H01F1/047
C22C38/00 303A
B22F1/00 W
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020045526
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2020161819
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2019052957
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】上田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】謝 駿
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-122823(JP,A)
【文献】米国特許第04305764(US,A)
【文献】特開昭61-179504(JP,A)
【文献】A.M.Gabay 他,Structure and permanent magnet properties of ZR1-xRxFe10Si2 alloys with R=Y,La,Ce,Pr and Sm,Journal of Alloys and Compounds,2016年,683,271-275
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/047
C22C 38/00
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:50原子%以上60原子%以下、
Zr:5原子%以上15原子%以下、
Si:30原子%以上40原子%以下、
を含む硬磁性化合物。
【請求項2】
前記硬磁性化合物はCoを含有し、Feの含有量を100原子%としたとき、Fe中の28原子%以下がCoである、請求項1に記載の硬磁性化合物。
【請求項3】
前記硬磁性化合物はNiを含有し、Feの含有量を100原子%としたとき、Fe中の15原子%以下がNiである、請求項1又は2に記載の硬磁性化合物。
【請求項4】
原子%で示すFe及びZr及びSiの含有量が、合計で100%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)である請求項1に記載の硬磁性化合物。
【請求項5】
前記硬磁性化合物におけるFeが、51原子%以上54原子%以下である請求項1から4のいずれかに記載の硬磁性化合物。
【請求項6】
前記硬磁性化合物におけるZrが、10原子%以上13原子%以下である請求項1から5のいずれかに記載の硬磁性化合物。
【請求項7】
前記硬磁性化合物におけるSiが、34原子%以上37原子%以下である請求項1から6のいずれかに記載の硬磁性化合物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の硬磁性化合物を含む永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B磁石を代表とする希土類系永久磁石は、産業機器用モーター、自動車用モーター、発電機、情報機器、家電製品、オーディオ機器など幅広い製品に用いられている。しかし、希土類系永久磁石の原料である希土類元素は、原料の産出地が限定されているなどの理由から供給が安定しておらず、今後の市場が拡大していく中で価格変動や安定供給において将来的な資源リスクを抱えている。よって、この資源リスクを回避し将来需要に対して安定的に永久磁石を供給するためには、できるだけ希土類元素を用いない永久磁石が求められる。
【0003】
希土類元素を用いない硬磁性化合物として、Zr-Fe-Si系の化合物がいくつか知られている。例えば非特許文献1によれば、組成式がZrFe10Siの化合物で16.9kOeの高い異方性磁場が報告されている。また、非特許文献2によれば、Feが63原子%、Zrが25原子%、Siが12原子%の組成比の化合物で高い磁気異方性(異方性定数K=1.2MJ/m)が報告されている。そのほか、既知の化合物として、ZrFeSi化合物(非特許文献3)が報告されている。しかし、非特許文献3に記載された化合物は結晶磁気異方性の大きい硬磁性化合物ではなく、非特許文献1および2に記載された化合物も硬磁性化合物ではあるが、保磁力発現の報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of Alloys and Compounds Volume 657, February 2016, Pages 133-1375.
【文献】Physica Status Solidi - Rapid Research Letters, Volume 12, Issue 2, December 2017, 1700221.
【文献】Physica B: Condensed Matter, Volume 233, Issue 1, April 1997, Pages 26-36.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、できるだけ希土類元素を用いず、結晶磁気異方性の大きい硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の限定的でない例示的な硬磁性化合物は、
Fe:50原子%以上60原子%以下、
Zr:5原子%以上15原子%以下、
Si:30原子%以上40原子%以下、
を含む化合物である。
ある実施形態において、前記硬磁性化合物はCoを含有し、Feの含有量を100原子%としたとき、Fe中の28原子%以下がCoである。
ある実施形態において、前記硬磁性化合物はNiを含有し、Feの含有量を100原子%としたとき、Fe中の15原子%以下がNiである。
【0007】
ある実施形態において、前記硬磁性化合物は原子%で示すFe及びZrおよびSiの含有量が合計で100%(ただし、不可避的不純物は含有してもよい)である。
【0008】
ある実施形態において、前記硬磁性化合物におけるFeが51原子%以上54原子%以下である。
【0009】
ある実施形態において、前記硬磁性化合物におけるZrが10原子%以上13原子%以下である。
【0010】
ある実施形態において、前記硬磁性化合物におけるSiが34原子%以上37原子%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施形態によると、できるだけ希土類元素を用いず、結晶磁気異方性の大きい硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の合金の断面を極Kerr顕微鏡で撮影した光学顕微鏡像である。
図2】実施例1の合金の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像である。
図3】実施例1の合金を振動試料型磁力計で測定した室温での磁化曲線である。
図4A】実施例1の合金中に存在する硬磁性化合物の電子線回折像である。
図4B】実施例1の合金中に存在する硬磁性化合物の電子線回折像である。
図5】比較例1の合金の断面を極Kerr顕微鏡で撮影した光学顕微鏡像である。
図6】比較例1の合金の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像である。
図7】比較例1の合金を振動試料型磁力計で測定した室温での磁化曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者は、Zr-Fe-Si系の複数の組成について検討を行った結果、Fe、Zr、Siの各元素を適正な組成範囲とすることによって結晶磁気異方性の大きい硬磁性化合物が得られ、永久磁石に好適な磁気特性が得られることを見出した。本開示における組成範囲の硬磁性化合物を含む合金で室温において保磁力が発現する。なお、Feの一部をCoやNiに置換することが磁性材料で一般的に行なわれるが、本実施例においても、結晶構造に影響を与えない範囲でFeの一部をCoやNiに置換することが可能である。後の実施例に示すように、CoはFe中の28原子%以下を置換できる。NiはFe中の15原子%以下を置換できる。
【0014】
<組成の限定理由について>
(硬磁性化合物)
Feの含有量は50原子%以上60原子%以下、Zrの含有量は5原子%以上15原子%以下、Siの含有量は30原子%以上40原子%以下である。この適正組成範囲を逸脱すると本開示の硬磁性化合物が期待できず、本開示で示すような保磁力のある磁化曲線は期待できない。好ましくは、本開示の硬磁性化合物は、原子%で示すFe及びZr及びSiの含有量が、合計で100%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)である。また、Co及びNiを含有する場合、好ましくは、本開示の硬磁性化合物は、原子%で示すFe及びZr及びSi及びCo及びNiの含有量が、合計で100%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)である。
【0015】
例えば、前記適正組成範囲からSi含有量だけがわずかに低下し、Feが57%、Zrが14%、Siが29%の組成になるとZrFeSi化合物(例えば非特許文献3に開示)が出現し、この化合物では室温において高い結晶磁気異方性が発現せず保磁力は発現しない。
【0016】
また、例えば、前記適正組成範囲からSi含有量が低下、Zr含有量が増加し、Feが55%、Zrが21%、Siが24%の組成になるとZrFe16Si化合物が出現し、この化合物でも同様に室温において高い結晶磁気異方性が発現せず保磁力は発現しない。
【0017】
また、例えば、前記適正組成範囲からFe含有量が低下、Zr含有量が増加し、Feが40%、Zrが20%、Siが40%の組成になるとZrFeSi化合物が出現し、この化合物でも同様に室温において高い結晶磁気異方性が発現せず保磁力は発現しない。
【0018】
本開示における硬磁性化合物は、高い結晶磁気異方性を有し、前記硬磁性化合物を含む合金は永久磁石として好適な保磁力を発現する。前記硬磁性化合物は、磁気Kerr効果顕微鏡(Kerr顕微鏡)による観察で確認できる。とくに、観察表面と垂直方向の磁化成分のみを検出する極Kerr顕微鏡を用いて、表面の反磁場に打ち勝った垂直方向の磁化成分による磁区模様が確認できれば、高い結晶磁気異方性を有した硬磁性化合物であると確認できる。このKerr顕微鏡観察と、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)あるいは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による組成分析の結果を合わせて見ることで、前記硬磁性化合物の組成を確認できる。
【実施例
【0019】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、それらに限定されるものではない。
<実施例1>
合金の仕込み組成がおよそZr10Fe50Si40(原子%)となるように各元素を秤量し、アーク溶解装置を用いて合金化した。得られた合金を、石英管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後、Arガスフローを行いながら加熱炉において1050℃で24時間の熱処理を行い、実施例1の合金を得た。熱処理は一般に、合金の結晶構造を安定化させるために有効である。
【0020】
実施例1の合金を破砕し、樹脂含浸した後、表面研磨を行い観察表面を得た。この観察面を極Kerr顕微鏡で観察した。
【0021】
図1は極Kerr顕微鏡での観察結果を示す。構造は均一ではないが、図1中の矢印p1で示した領域が迷路状の磁区コントラストを示し、硬磁性化合物であると確認できる。
【0022】
図2は、図1と同じ視野をSEMで観察した反射電子像を示す。磁区コントラストを示した硬磁性化合物に対応する、図2中の領域p1の組成をEDXで分析した。その結果、Zr11.5Fe53.0Si35.5(原子%)であった。なお、図2中の他の領域として、p2の領域ではFeSiが確認され、p3の領域ではZrFeSi化合物が確認された。
【0023】
図3に、実施例1の合金を粉砕して粉末とし、振動試料型磁力計(VSM)で磁化曲線を測定した結果を示す。なお測定は室温(23℃±2℃)で行った。以下のVSM測定も同様である。保磁力のあるヒステリシス曲線が確認され、その保磁力は213kA/mであった。この保磁力は、磁区コントラストを示した硬磁性化合物に起因するものと推察される。なお、この磁化曲線における磁化の値は合金中に含まれる全ての化合物を含んだ状態での重量磁化であるため、前記硬磁性化合物単独の磁化量ではない。
【0024】
図4Aおよび図4Bは、実施例1の合金の中に生成したZr11.5Fe53.0Si35.5(原子%)の組成を有する硬磁性化合物相から、集束イオンビーム加工装置(FIB装置)を用いて数十μmサイズの微小結晶を複数摘出し、それらの一部領域の厚さを100~200nmに薄片加工した後、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像した電子線回折像である。
【0025】
図4Aは、電子線の入射方向が前記硬磁性化合物の磁化容易軸方向と平行となる条件で撮像した分析検体Aの電子線回折像である。また図4Bは、電子線の入射方向が前記硬磁性化合物の磁化容易軸方向に対して直交する条件で撮像した分析検体Bの電子線回折像である。
【0026】
図4Aの電子線回折パターンは2回対称性を示しており、お互いに直交関係にある2つの結晶面が存在すると判る。回折像上で各結晶面に対応するスポット間の距離RとRは長さが異なり、それらに対応する面間隔が2つの結晶面で異なることを示す。
【0027】
図4B図4Aと同スケールで撮像した回折像であるが、前記硬磁性化合物の磁化容易軸と平行方向の結晶面に対応する回折スポット間の距離RはRやRに比べてさらに短い。これらの電子線回折パターンが示す対称性から、前記硬磁性化合物の結晶系は少なくとも六方晶、正方晶、立方晶ではない。前記硬磁性化合物は、a軸、b軸、c軸の格子定数が互いに異なり、かつ、a軸とb軸が直交している結晶格子である。
【0028】
<実施例2および3>
合金の仕込み組成がおよそZr13Fe47Si40(原子%)、およびZr13Fe50Si37(原子%)となるように秤量した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2および3の合金を作製した。得られた合金を実施例1と同様に極Kerr顕微鏡、SEM-EDXによって分析し、その磁気特性をVSMで評価した。
【0029】
実施例2、3の合金はいずれも実施例1と同様に磁区コントラストを示す硬磁性化合物を含み、その組成はZr11.7Fe52.5Si35.8(原子%)、Zr11.4Fe52.9Si35.7(原子%)であった。
【0030】
また、実施例1と同様VSMで磁化曲線を測定した結果、磁化曲線において保磁力が発現した。その保磁力は実施例2の合金で143kA/m、実施例3の合金で118kA/mであった。
【0031】
また、実施例1~3と同様の作製方法を用いて、合金の仕込み組成をZr:7~20(原子%)、Fe:40~56(原子%)、Si:32~45(原子%)の範囲内で変えた複数の合金を作製し、分析した。その結果、保磁力を発現した合金中において出現した硬磁性化合物の組成は、EDXによる測定値で、Zr:11.1~11.9(原子%)、Fe:52.3~53.3(原子%)、Si:35.2~36.1(原子%)であった。
【0032】
以上の検討によると、硬磁性化合物の組成は必ずしも仕込み組成とは一致しない。また、EDXの分析結果によると、ある程度の拡がりを持った組成範囲において保磁力が発現した。
【0033】
EDXで確認された測定値の拡がりを考慮すると、Zr5~15(原子%)、Fe:50~60(原子%)、Si:30~40(原子%)の組成範囲は、保磁力を発現する硬磁性化合物として有望であると考えられる。さらに、Zr10~13(原子%)、Fe:51~54(原子%)、Si:34~37(原子%)の組成範囲は、保磁力を発現する硬磁性化合物として極めて有望であると考えられる。
【0034】
なお、Feの一部をCoやNiに置換することが磁性材料では一般的に行われるが、本実施例においても、結晶構造に影響を与えない範囲でFeの置換は可能であると考えられる。
【0035】
<実施例4>
合金の仕込み組成がおよそZr11.5Fe38Co15Si35.5(原子%)となるように秤量した以外は実施例1と同様の方法で、実施例4の合金を作製した。
【0036】
実施例4の合金をVSMで測定した結果、実施例1と同様の効果が得られ、保磁力が発現した。
【0037】
また、実施例4の合金中に生成した硬磁性化合物の組成はZr11.5Fe38.1Co15.2Si35.7(原子%)であった。これは、Zr11.5(Fe0.72Co0.2853.4Si35.7と表記し直すと、実施例1~3の硬磁性化合物で言うところのFe(含有量が52.4原子%)を100(原子%)としたとき、Feの28(原子%)がCoで置換された組成である。
【0038】
<実施例5>
合金の仕込み組成がおよそZr11.5Fe38Ni15Si35.5(原子%)となるように秤量した以外は実施例1と同様の方法で、実施例5の合金を作製した。
【0039】
実施例5の合金をVSMで測定した結果、実施例1と同様の効果が得られ、保磁力が発現した。
【0040】
また、実施例5の合金中に生成した硬磁性化合物の組成はZr11.8Fe44.3Ni7.7Si35.9(原子%)であった。これは、Zr11.8(Fe0.85Ni0.1552Si35.9と表記し直すと、実施例1~3の硬磁性化合物で言うところのFe(含有量が52原子%)を100(原子%)としたとき、Feの15(原子%)がNiで置換された組成である。
【0041】
<比較例1>
実施例1、2、3の合金において確認した硬磁性化合物の組成は、既に知られているZr-Fe-Si系の化合物の中ではZrFeSi化合物に近い。そこで比較実験として、合金の仕込み組成がおよそZr14Fe57Si29(原子%)となるように秤量した以外は実施例1と同様の方法で比較例1の合金を作製した。
【0042】
図5に、得られた合金を実施例1と同様に極Kerr顕微鏡で観察した結果を示す。実施例1と異なり、比較例1の合金ではどの領域においても磁区模様が確認できなかった。
【0043】
図6にはその観察面のSEMによる反射電子像を示す。実施例1と異なり、どの領域においても単一の化合物のみが生成されており、例えばp4に示す領域の組成をEDXによって分析した結果、Zr14.3Fe57.2Si28.5(原子%)であった。
【0044】
別途実施したXRDによる結晶構造評価による分析結果も合わせて、比較例1の合金を構成する化合物は、非特許文献3に記載のZrFeSi化合物であることを確認した。この化合物の組成は実施例1から3の合金中に確認された硬磁性化合物とは近いが、材料として明らかに異なる。
【0045】
図7に、比較例1の合金を粉砕して粉末とし、VSMで磁化曲線を測定した結果を示す。図7の磁化曲線では、ある程度の磁化があり磁性化合物としての特性はみられるが、保磁力については確認されなかった。これらのことから、この化合物は硬磁性化合物ではなく、実施例1から3の合金中に確認された本開示の硬磁性化合物と組成は近いが、化合物として明らかに異なる。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に、比較例1および実施例1から3までの分析、測定結果のまとめを示す。実施例1~3の合金において出現した磁性化合物は、およそZr11.5Fe53Si35.5(原子%)組成を有し、極Kerr顕微鏡観察で磁区模様が確認されたことから硬磁性化合物であり、保磁力を発現した。一方、比較例1の合金において出現した磁性化合物(ZrFeSi)は、Zr14.3Fe57.2Si28.5(原子%)組成であり、極Kerr顕微鏡観察で磁区模様は確認されず、保磁力も発現しなかった。以上の結果より、実施例1から3の合金中に存在する硬磁性化合物は、既に知られているZrFeSi化合物とは異なる化合物であると判った。
【0048】
本開示により得られた硬磁性化合物およびそれを含む永久磁石は、モーターなどに利用できる可能性がある。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7