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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】観察装置、観察方法、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20220531BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/17 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018035106
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019148773
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100171848
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 涼子
(72)【発明者】
【氏名】道畑 正岐
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-242189(JP,A)
【文献】特開2007-199572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/74
G01B 11/00 - 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周期的な構造的パターンが形成された基板と、前記基板を一方側から所定波長の照明光で照明する光源部と、前記基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明変更部とを備え、前記照明変更部によって、基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで空間周波数をシフトさせたn対の拡張光学応答分布とを実現する照明状態として、前記光パターンを2n+1通りに設定する照明装置と、
前記基板の近傍に配置された観察対象によって形成される像を撮影する撮像系と、
前記撮像系によって得た像信号を演算処理することによって観察対象の像を再構築する演算処理装置とを備え、
前記演算処理装置は、前記光源部によって前記基板を一方側から2n+1通りの前記光パターンで照明した状態で得た像から、前記基本光学応答分布と、前記n対の拡張光学応答分布とを取得し、前記基本光学応答分布と、前記n対の拡張光学応答分布とを統合したものに基づいて観察対象の像を再構築する、観察装置。
【請求項2】
前記一対の拡張光学応答分布は、前記基本光学応答分布に対して光の回折限界に相当する空間周波数幅の半値を越えてシフトしている、請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記演算処理装置は、2対以上の拡張光学応答分布を取得する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項4】
前記照明変更部は、前記基板を機械的に振動させる超音波発生器を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項5】
前記照明変更部は、前記光源部からの前記照明光の前記基板の一方側への入射角を調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項6】
前記照明変更部は、前記照明光の前記基板の一方側への入射角を変化させつつ前記基板の近傍に形成される光パターンを変化させて、全体で前記光学応答分布に対応する空間周波数のすべてをカバーし所定以上のパターン変化が得られるような角度の組み合わせを選択する、請求項5に記載の観察装置。
【請求項7】
前記n対の拡張光学応答分布は、回折限界に対応する広がりを有する空間周波数帯域同士が離間しないように設定される、請求項に記載の観察装置。
【請求項8】
2n+1通りの前記光パターンに対応する空間周波数の成分を予め確認することによって照明条件を決定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項9】
所定の周期的な構造的パターンが形成された基板を一方側から所定波長の照明光で照明し、前記基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明装置と、前記基板の近傍に配置された観察対象によって形成される像を撮影する撮像系とを用いた観察方法であって、
前記照明装置によって、基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで空間周波数をシフトさせたn対の拡張光学応答分布とを実現する照明状態として、前記光パターンの状態を2n+1通りに設定し、
前記撮像系によって得た像信号を演算処理することによって、前記照明装置によって前記基板を一方側から照明した状態で得た像から、前記基本光学応答分布と、前記n対の拡張光学応答分布とを取得し、前記基本光学応答分布と、前記n対の拡張光学応答分布とを統合したものに基づいて観察対象の像を再構築する、観察方法。
【請求項10】
所定の周期的な構造的パターンが形成され、観察対象が近接して配置される基板と、
前記基板を一方側から所定波長の照明光で照明する光源部と、
前記基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明変更部と
を備え、
前記照明変更部によって、基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで空間周波数をシフトさせたn対の拡張光学応答分布とを実現する照明状態として、前記光パターンを2n+1通りに設定する、照明装置。
【請求項11】
前記基板には、複合的な周期を有する光パターンを生成する構造的パターンが形成されている、請求項10に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の回折限界以上の分解能をもつ解像を実現できる観察装置、観察方法、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回折限界を超える超解像を可能にする構造照明顕微鏡として、光源から得られた2つの光束を試料の測定面上で干渉させて試料に対して定在波照明を行うとともに、2つの光束のうち一方の光路を変化させ位相差を持たせることにより定在波照明をシフトさせるものが公知となっている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、別の構造照明顕微鏡として、周期的グレーティングを形成した基板上に蛍光サンプルを配置し、基板の裏面から周期的グレーティングを照明するとともに蛍光を結像させるレンズを用い、入射角度を変化させて対応する複数の画像を集めるものが公知となっている(例えば非特許文献1)。
【0004】
特許文献1の構造照明顕微鏡では、定在波照明を用いるので、回折限界で規定される解像サイズの1/2倍程度の分解能が限界となる。また、非特許文献1の構造照明顕微鏡では、一般的にノイズに弱く実環境への適用が困難とされる逐次的収束演算をすることが前提となっており、確度の高い像を迅速に得ることが容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-225563号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】A. Sentenac, et al., "Subdiffraction resolution in total internal reflection fluorescence microscopy with a grating substrate", OPTICS LETTERS, Vol. 33, No. 3, pp. 255 -257, 2008
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、回折限界の1/2倍程度を超える分解能の実現が可能であり、逐次的収束演算によらないで直接的に対象像を演算できる観察装置、観察方法、及び照明装置を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため観察装置は、所定の周期的な構造的パターンが形成された基板と、基板を一方側から所定波長の照明光で照明する光源部と、基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明変更部とを備える照明装置と、基板の近傍に配置された観察対象によって形成される像を撮影する撮像系と、撮像系によって得た像信号を演算処理することによって観察対象の像を再構築する演算処理装置とを備え、演算処理装置は、光源部によって基板を一方側から照明した状態で得た像から、基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで所定空間周波数をシフトさせた一対以上の拡張光学応答分布とを取得する。ここで、拡張光学応答分布は、撮像系の回折限界で規定される解像サイズ未満に対応する空間周波数帯域も含んだものである。
【0009】
上記観察装置では、演算処理装置が光源部によって基板を一方側から照明した状態で得た像から基本光学応答分布と一対以上の拡張光学応答分布とを取得するので、これらの光学応答分布から、回折限界で規定される解像サイズの1/2倍程度以下の高い分解能で観察対象の像を演算することができる。
【0010】
本発明の具体的な側面によれば、上記観察装置において、一対の拡張光学応答分布は、基本光学応答分布に対して光の回折限界に相当する空間周波数幅の半値を越えてシフトしている。
【0011】
本発明の別の側面によれば、演算処理装置は、複数対の拡張光学応答分布を取得する。この場合、回折限界を越えて達成される限界の分解能に至るまで連続的な解像度の確保が容易になる。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、照明変更部は、基板を機械的に振動させる超音波発生器を有する。この場合、観察対象に対して基板を高速で相対移動させることができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、照明変更部は、光源部からの照明光の基板の一方側への入射角を調整する。この場合、観察対象に対して基板を移動させないで、近傍(例えば基板の他方側)に形成される光パターンを変化させることができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、照明変更部は、照明光の基板の一方側への入射角を変化させつつ基板の近傍に形成される光パターンを変化させて、全体で拡張光学応答分布に対応する空間周波数のすべてをカバーし所定以上のパターン変化が得られるような角度の組み合わせを選択する。この場合、観察対象の像の演算に必要な照明光の入射角を実現することができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、照明変更部は、n対の拡張光学応答分布を含む光パターンを形成する場合、観察対象に対する基板による照明状態を2n+1通りに設定する。この場合、2n+1個の光学応答分布から、n対の拡張光学応答分布がそれぞれサポートする空間周波数帯域を解像結果に反映でき、最も高い空間周波数を有する拡張光学分布まで広範囲に亘って解像力を得ることができる。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、n対の拡張光学応答分布は、回折限界に対応する広がりを有する空間周波数帯域同士が離間しないように設定される。この場合、回折限界のサイズ以下の対象空間周波数領域において切れ目のない画像を取得することができる。
【0017】
上記目的を達成するため観察方法は、所定の周期的な構造的パターンが形成された基板を一方側から所定波長の照明光で照明し、基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明装置と、基板の近傍に配置された観察対象によって形成される像を撮影する撮像系とを用いた観察方法であって、撮像系によって得た像信号を演算処理することによって、光源部によって基板を一方側から照明した状態で得た像から、基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで空間周波数をシフトさせた一対以上の拡張光学応答分布とを取得し、基本光学応答分布と、一対以上の拡張光学応答分布とに基づいて観察対象の像を再構築する。
【0018】
上記目的を達成するため照明装置は、所定の周期的な構造的パターンが形成され、観察対象が近接して配置される基板と、基板を一方側から所定波長の照明光で照明する光源部と、基板の近傍における光パターンの状態を変化させる照明変更部とを備え、光源部によって基板を一方側から照明することで、基板の近傍において基本光学応答分布と、当該基本光学応答分布を挟んで空間周波数をシフトさせた一対以上の拡張光学応答分布との取得を可能にする。
【0019】
本発明の具体的な側面によれば、上記照明装置において、基板には、複合的な周期を有する光パターンを生成する構造的パターンが形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の観察装置について基本構造を説明するブロック図である。
図2】(A)及び(B)は、基板の構造の一例を説明する断面図である。
図3】(A)~(E)は、図2(A)及び2(B)に示す基板の製造方法を説明する概念図である。
図4】(A)は、観察装置による解像度向上を説明する図であり、(B)は、参考図であり、(C)及び(D)は、変形例及び修正した手法をそれぞれ説明する図である。
図5図1に示す観察装置の動作の概要を説明する図である。
図6】照明条件の決定について具体的手法を説明する図である。
図7】実際の計測について具体的手法を説明する図である。
図8】(A)~(C)は、シミュレーション1の条件等を説明するチャートである。
図9】シミュレーション1の解像結果を説明するチャートである。
図10】(A)及び(B)は、シミュレーション2の条件等を説明するチャートである。
図11】シミュレーション2の解像結果を説明するチャートである。
図12】旧来的顕微鏡に相当する比較例による解像を説明するチャートである。
図13】(A)は、第1検討例の基板構造を示し、(B)及び(C)は、対応する照明強度分布と照明強度分布のフーリエ変換とをそれぞれ示す。
図14】(A)は、第2検討例の基板構造を示し、(B)及び(C)は、対応する照明強度分布と照明強度分布のフーリエ変換とをそれぞれ示す。
図15】(A)は、第3検討例の基板構造を示し、(B)及び(C)は、対応する照明強度分布と照明強度分布のフーリエ変換とをそれぞれ示す。
図16】(A)及び(B)は、シミュレーション3の結果を説明する図である。
図17】(A)は、基板の形状を説明する断面図である。(B)及び(C)は、基板上における照明強度分布と、照明強度分布のフーリエ変換とをそれぞれ示す。(D)は、基板上に一対の散乱体を配置した場合の観察画像を示す。
図18】(A)は、図17(D)に示す観察画像から得た光学応答分布を逆フーリエ変換等して空間領域に戻したものを示す。(B)及び(C)は、従来型の顕微鏡装置による解像を説明する図である。
図19】(A)は、評価に用いた基板の断面構造を示し、(B)は、試料に対する照明強度分布を示し、(C)は、超解像のシミュレーション結果を示す。
図20】(A)は、評価に用いた別の基板の断面構造を示し、(B)は、試料に対する照明強度分布を示し、(C)は、超解像のシミュレーション結果を示す。
図21】(A)は、評価に用いたさらに別の基板の断面構造を示し、(B)は、試料に対する照明強度分布を示し、(C)は、超解像のシミュレーション結果を示す。
図22】第2実施形態の観察装置の基本構造を説明するブロック図である。
図23】変形例の観察装置を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、図1等を参照して、本発明に係る第1実施形態の観察装置について説明する。本観察装置100は、構造照明顕微鏡であり、照明装置10と、撮像部20と、演算処理部80とを備える。図1の観察装置100は、例えばx方向の1次元の観察を可能にするものであるが、xy方向の2次元の観察を可能にするものとできる。
【0023】
照明装置10は、ステージ部41と、光源部42と、支持部43とを備える。ステージ部41は、試料載置用の基板50と、基板50を支持する本体46とを有する。基板50は、本観察装置100の構造照明顕微鏡に特有のものであり、高周波格子基板となっている。基板50の構造については後述するが、基板50の一方面である表面50a上には、蛍光サンプル等である観察対象としての試料SAが載置されている。試料(観察対象)SAは、蛍光を発生するものに限らず、例えば照明光に対して透過特性を有するであってもよい。本体46に付随する超音波発生器48aによって基板50を例えばx方向に機械的に振動させることができる。超音波発生器48aは、照明変更部の一例であり、駆動回路48bに駆動されて動作する。超音波発生器48aにより、表面50aの近傍に配置された試料SAに対して基板50をx方向に高速で相対移動させることができる。光源部42は、LEDその他の単色光源であり、基板50の他方面である裏面50bを均一化されたコリメート光によって均一に照明する。光源部42には、図示を省略しているが、均一化光学系が組み込まれている。支持部43は、照明変更部の一例であり、光源部42の姿勢を調整することができ、光源部42からの照明光LIの基板50の裏面50bへの入射角θを調整することができる。このため、支持部43は、チルト機構や角度センサーを有している。
【0024】
撮像部20は、撮像系であり、結像レンズ61と、センサー部62とを備える。結像レンズ61は、拡大光学系である。センサー部62は、CMOSセンサーその他の撮像素子とできるが、これに限るものではない。センサー部62は、駆動回路63に駆動されて動作する。
【0025】
演算処理部80は、コンピューターすなわち演算処理装置であり、観察装置100の動作状態を統括的に制御している。演算処理部(演算処理装置)80は、撮像部(撮像系)20によって得た画像に対して各種のデジタル画像処理を行うことができ、特に得られた信号に対してフーリエ変換、フーリエ変換後の情報に対し、各種演算処理を行うことができ、超解像画像の再構築を行う。演算処理部80は、基板50越しに試料(観察対象)SAを照明しつつ計測する際に、基板50による試料SAの照明状態をシフトさせ又は変更する。また、演算処理部80は、測定の準備として、照明装置10について予め照明データベースを作成し、基板50に適合する照明条件を決定する。
【0026】
図2(A)は、基板50の構造の一例を説明する断面図である。基板50は、高周波格子基板であり、光透過性を有する薄板状の本体51に、所定周期間隔で所定幅及び所定深さの金属ストライプ層52が形成されている。金属ストライプ層52は、遮光によって照明光LIの光パターン又は照明パターンを形成する遮光パターン層である。金属ストライプ層52は、基板50において構造的パターンを形成するものである。金属ストライプ層52の周期間隔等は、後に詳述するが、基本光学応答分布を挟んで所定空間周波数をシフトさせた複数対の拡張光学応答分布の取り込みを可能にするものとなっている。本体51は、照明光LIの波長に応じて光透過性を有する材料で形成され、具体的にはSiO、Si等で形成される。金属ストライプ層52は、照明光LIの波長に応じて遮光性を有する材料で形成され、具体的にはAu等で形成される。
【0027】
図2(B)は、基板50の構造の別例を説明する断面図である。この場合、基板50は、光透過性を有する薄板状の本体51に、所定周期間隔で所定幅及び所定深さの金属ストライプ層52が形成され、金属ストライプ層52の中央に本体51まで貫通する溝54が形成されている。
【0028】
図3(A)~3(E)は、図2(A)及び2(B)等に示す基板50の製造方法を説明する図である。まず、図3(A)に示すように、本体51となるべきSiO、Si等が形成された平板59を準備する。本体51の表裏面は鏡面に加工されている。次に、図3(B)に示すように、公知の半導体製造プロセスを利用して平板59の片面側にレジストマスクを形成後、このレジストマスクを利用して空間周期的な溝158を形成する。その後、図3(C)に示すように、蒸着その他の手法によって溝158をAuその他の材料で充填し、不要な部分を除去することによって、金属ストライプ層52を形成する。図3(C)は、図2(A)に示す基板50に対応する。一方、図3(C)の工程で溝158の壁面にAuその他の材料を薄く蒸着すれば、薄い金属ストライプ層152を両側に形成した溝54を有する構造を得ることができる。なお、金属ストライプ層152間の溝54は、図3(C)の工程で得た金属ストライプ層52の中央領域をレジストマスクを利用して除去することによっても形成できる。図3(D)は、図2(B)に示す基板50に対応する。その後、溝54をSiO等で充填して充填部56を形成することもできる。この場合、基板50の表面50aを平滑面とすることができる。
【0029】
以下、図1に示す観察装置100による超解像画像の取得手法の概要について説明する。インコヒーレント結像系では、遠隔場で用いられる強度分布d(x)は、照明強度分布i(x)、光応答分布s(x)、及び光学伝達関数psf(x)を用いて、以下の式1により表される。
d(x)=psf(x)*(i(x)・s(x)) … (1)
高周波格子基板である基板50の表面50aにおける照明の強度分布は、一般的に単一の正弦波で表されず、強度分布が以下の式2のように定数iと、振幅mθ,jのn個の正弦波との和で表されると考える。式1のフーリエ変換は、d(x)、psf(x)、及びs(x)のフーリエ変換を、それぞれD(f)、PSF(f)、及びS(f)として、以下の式3で表される。ここで、fは空間周波数を意味し、fは、照明分布の空間周波数を意味する。また、θは、照明光LIの光軸AXに対する傾斜角であり、後述する光学コントラスト法を用いないで基板50をシフトさせる場合、0又は一定値に保たれる。
【0030】
式3の第1項以降は、フーリエ変換後の光応答分布S(f)を正負の方向に空間周波数領域で移動したものである。したがって、基板50による構造照明を試料に照射することで、回折限界以上の周波数成分を回折限界以下に移動させることができるといえる。光応答分布S(f)を求めるには、構造照明を例えばx方向に2n回シフトさせた合計2n+1枚の試料像を取得し計算処理を施すことで、逐次的収束演算のような間接的な手法を用いることなく、直接的に試料像を取得することができ、拡大された周波数領域で試料を観察することが可能になる。
【0031】
図4(A)は、高周波格子基板である基板50を用いて構造照明を行うことによって得られる光学応答分布を説明する概念図である。基板50上すなわち基板50近傍に試料(観察対象)SAをセットすることで基板50の表面50aに形成された所定の空間周期的強度分布をもつ照明を試料SAに入射させると、空間周波数領域において照明分布の周波数分だけ高周波数方向と照明分布の周波数分だけ低周波数方向とに移動した光学応答分布が得られる。具体的には、基本光応答分布S(f)の他に、2対の拡張光学応答分布S(f+f),S(f+f),S(f-f),S(f-f)が示されている。これらの光学応答分布の円C+2,C+1,C,C-1,C-2の大きさは、光の回折限界に相当する空間周波数幅又は情報領域であり、各光学応答分布によって解像可能な空間周波数帯域と考えることができる。また、これらの光学応答分布の円C-2,C-1,C+1,C+2の元の円Cからのシフト量は、照明分布の空間周波数に相当し、式3のf=f,f,-f,-fに対応するものとなっている。ここで、光学応答分布S(f+f),S(f+f),S(f),S(f-f),S(f-f)は、互いに重畳する部分を有して配置されており、空間周波数帯域同士又は情報領域同士が離間しないように設定される。このように光学応答分布の円又は空間周波数帯域同士を重畳させつつ配置することで、旧来の光学顕微鏡に対応する基本光学応答分布S(f)に制限されず最も外側の光学応答分布S(f+f)からS(f-f)にかけての空間周波数域に亘って試料像を再生できる。これらの光学応答分布は、定在波で構造照明を行う場合のような制限がなく、これまでの通常顕微鏡で得られる光学応答分布よりも空間周波数領域をさらにEx拡張したものとなる。つまり、高周波格子基板である基板50を用いて構造照明を行うことによって、構造照明の空間周波数に応じて、特に高い空間周波数側での光学応答分布に起因して、解像可能限界以下の広い範囲で連続的に空間周波数情報が得られる。結果的に、これまでの通常顕微鏡で達成されていた回折限界で規定される解像サイズの分解能を遙かに越えた解像範囲での超解像画像を得ることがでる。また、図4(B)は、定在波型の構造照明の場合における光学応答分布を示しており、かかる場合において元の光学応答分布Sよりも最大2倍高い空間周波数領域で計測を行えるが、これと比較しても、図4(A)に示す提案構造照明は、遥かに高い空間周波数での超解像画像を得ることができ、基本的には照明光LIの波長を考慮する必要がない。
【0032】
図4(C)は、基板50の構造をより簡単化した変形例を説明する図である。この場合、図4(A)に示す拡張光学応答分布S(f+f),S(f-f)が現れていない。つまり、高周波格子基板である基板50の構造を簡単化して空間周波数fに相当する周期性を無くしたものとなっている。これにより、光学応答分布が現れていない空間周波数領域BLについては、試料情報が得られず、試料像の再構築ができなくなると考えられる。ただし、この場合、拡張光学応答分布S(f+f),S(f-f)が基本光応答分布S(f)に対して光の回折限界に相当する空間周波数幅の半値を越えてシフトしており、図4(B)に示す定在波型の構造照明の場合に比較して、特に高い空間周波数域において照明光LIの波長を考慮することなく超解像画像を得ることができる。
【0033】
図4(D)は、基板50の構造をより複雑化した例を示す。この場合、基板50による構造照明の空間周波数としてf,f,fが設定され、図4(A)に示す場合よりも空間周波数の値が大きなより高分解の領域をカバーするものとなっている。
【0034】
以上の図4(A)、4(C)、及び4(D)では、1次元の試料像について超解像を行う場合を説明したが、基板50にx方向だけでなくy方向にも同様の空間周期的構造を形成することによって、2次元の試料像についても同様の手法で超解像を行うことができる。
【0035】
図5は、図1に示す観察装置100の動作の概要を説明する図である。演算処理部(演算処理装置)80は、測定前の事前準備として、照明装置10について予め照明データベースを作成する(ステップS11)。なお、演算処理部80が単独で照明データベースを作成する必要はなく、オペレーターの支援下で照明データベースを作成してもよい。照明データベースは、第1に、高周波格子基板である基板50に対して近接場顕微鏡(NSOM: Near field Scanning Optical Microscopy)を用い、基板50の表面50aを実際に計測することで式1の照明強度分布i(x)に相当するものを得ることができるが、厳密結合波理論(RCWA: Rigorous Coupled-Wave Analysis)を用いて得た照明強度分布を用いてもよい。照明データベースの作成後、演算処理部80は、照明装置10による照明条件を決定する(ステップS12)。照明装置10による照明条件は、例えばS(f+f),S(f+f),S(f),S(f-f),S(f-f)といった2n+1個で一組の光学応答分布を計算するために、強度分布d(x)が異なる2n+1個の照明パターンを形成するための手法を含んでおり、照明パターンの形成手法には、(1)基板50を機械的に振動させる場合と、(2)基板50の裏面50b側への照明光LIの入射角を調整して照明分布を変化させる場合(以下、光学的コントラスト法とも呼ぶ)とがある。照明条件が決定した場合、演算処理部80は、観察装置100に実際の計測を行わせる(ステップS13)。この際、演算処理部80は、基板50による試料SAの照明状態をシフトさせ又は変更しつつ撮像部(撮像系)20によって、構造照明下にある試料SAの像を取り込む。構造照明下の試料像に対する信号又は遠隔場分布は、照明条件の変更の種類に対応して2n+1個得られる。演算処理部80は、構造照明下の試料像に対する信号又は遠隔場分布に対してフーリエ変換、光応答分布への変換等を含む各種処理を行って試料像の再構築を行う。
【0036】
以下、構造照明下の試料像に対する信号又は遠隔場分布から試料SAの実像に対応する本光応答分布を得る方法について説明する。既述のように、構造照明下の試料像として2n+1個の遠隔場分布が得られている。得られた遠隔場分布をDφ0~Dφ2nとすると、構造照明の空間周期分移動した拡張光学応答分布S(f+f),S(f-f)は、既述の式3をn+1個含む以下の式4から計算することができる。ここで、H(f)は、既述の式3における点像分布関数psf(x)のフーリエ変換値である光学伝達関数に相当している。
このように、2n+1個の遠隔場分布Dφ0~Dφ2nから光学応答分布S(f),S(f-f)、S(f+f),…,S(f-f),S(f+f)を得ることができる。演算処理部80により、これらの光学応答分布S(f),S(f-f)、S(f+f),…,S(f-f),S(f+f)を空間周波数領域にて統合し、逆フーリエ変換をかけて空間領域に戻すことで、試料像の再構築が可能となり、構造照明の空間周期分だけ高空間周波数領域まで分解できる試料像を得ることができる。
【0037】
図6は、図5に示すステップS12における照明条件の決定について、具体的手法を説明する図である。この場合、照明パターンの形成手法として、基板50の裏面50b側への照明光LIの入射角θを調整する場合を示している。基板50を機械的に振動させる場合ついては、基板50の移動量の調整で足り、移動量の制御が容易でないが照明条件の変更自体は容易である。
【0038】
まず、演算処理部80は、初期値としてk=0とし、基板50の裏面50bに対する照明光LIの照明角度を例えば傾斜角ゼロの初期値に設定する(ステップS21)。その後、演算処理部80は、照明装置10によって基板50を照明し、撮像部(撮像系)20によって得た基板像を取り込み、画像処理により基板像に含まれる空間周波数の種類(n)を判定する(ステップS22)。ここで、種類の数nは、図4(A)に例示する光学応答分布のパターン数に対応する。基板像に含まれる空間周波数の種類(n)は、例えば空間周波数のピークパターン(所定の閾値以上のピークの組合せ)が異なればよいが、ピークパターンが同じでもピーク強度つまり照明分布が大きく異なればよい。演算処理部80は、判定した空間周波数の種類(n)が新パターンであるか否かを判断し(ステップS23)、新パターンである場合、新たな空間周波数の種類(n)を記憶部に格納するとともにkに1加算してk=k+1とし(ステップS24)、kが2n+1以上となったか否かを判断する(ステップS25)。ステップS23で新パターンでないと判断した場合、演算処理部80は、照明光LIの光軸AXに対する傾斜角を別の候補角に変更し(ステップS31)、撮像部20によって得た基板像を取り込み、画像処理により基板像に含まれる空間周波数の種類を判定する(ステップS22)。また、ステップS25でkが2n+1以上となっていないと判断した場合、演算処理部80は、照明光LIの光軸AXに対する傾斜角を別の候補角に変更し(ステップS32)、撮像部20によって得た基板像を取り込み、画像処理により基板像に含まれる空間周波数の種類を判定する(ステップS22)。以上の処理を繰り返して、ステップS25でkが2n+1以上となった場合であって、結果的に空間周波数の種類の数がnを越えている場合、演算処理部80は、これまでのkに対応する照明パターン、つまり新パターンを与えた照明光LIの光軸AXに対する傾斜角度を1セットとして記憶部に保管する(ステップS26)。
【0039】
図7は、図5に示すステップS13における実際の計測について、具体的手法を説明する図である。この場合、照明パターンの形成手法として、基板50の裏面50b側への照明光LIの入射角θを調整する場合を示している。まず、基板50上に試料SAを配置する(ステップS41)。その後、演算処理部80は、図6のステップS26で保管した傾斜角度のセットを読み出し、それらの中から1つの傾斜角を選択する(ステップS42)。次に、演算処理部80は、ステップS42で得た傾斜角となるように、照明変更部である支持部43を介して光源部42の姿勢を調整し、光源部42からの照明光LIの基板50の裏面50bへの入射角θをステップS42で選択した傾斜角に設定する(ステップS43)。次に、演算処理部80は、撮像部20を動作させて基板50によって照明された試料SAの画像を取り込んで記憶部に保管する(ステップS44)。その後、保管した試料SAの画像が規定数に達したか否かを判断し(ステップS45)、試料SAの画像が規定数に達していない場合、演算処理部80は、図6のステップS26で保管した傾斜角度のセットのうちこれまでに採用していない新たな傾斜角を選択する(ステップS51)。その後は、新たな傾斜角に対応するように照明変更部である支持部43を介して光源部42の姿勢を調整し(ステップS43)、新たな傾斜角の照明光LIを基板50に入射させ基板50上の試料SAの画像を取り込む(ステップS44)。こうして、保管した試料SAの画像が規定数に達した場合(ステップS45でY)、k(≧2n+1)個の照明傾斜角に対応する試料像が得られ、これらk個の試料像から式4等を利用して試料像の再構築を行う(ステップS46)。
【0040】
なお、k(>2n+1)個の試料像から式4等を利用して試料像の再構築を行う際には、(1)より照明パターンの変化の多いものから順に、必要数の照明パターンを選定する方法と、(2)全て又はこれに準じた照明パターンを使う方法とがある。全ての照明パターンを使う場合、全ての照明パターンに対応する試料像を得た後、例えば試料像の組合せを変更しながら試料像の再構築を複数回行うことができる。この際、平均化その他の統計的処理を行うこともできる。
【0041】
〔シミュレーション1〕
図8(A)~8(C)、及び図9は、図4(A)に示す光学応答分布の組合せパターンに基づいて像構築を行う場合を説明する。図8(A)は、試料SAに対応する解像評価チャートを示す。図8(A)に示す評価対象又は処理対象は、左側で空間周波数が高く構造周期が60nmとなっており、右側で空間周波数が低く構造周期が300nmとなっている。
【0042】
図8(B)は、試料SAに対する照明強度分布を示す。図8(B)に示すように、基板50の構造周期は、200nm及び100nmを複合したものである。シミュレーションの条件としては、照明光の波長を400nmとした。また、撮像部20の結像レンズ61の開口数NAを0.95としており、光の回折限界は257nmとなる。
【0043】
図8(C)は、図8(A)に示す試料SAを図8(B)に示す構造周期で照明することによって得た遠隔場画像であり、5枚(2×2+1枚)の遠隔場画像に対応するパターンが示されている。ここで、照明のx方向のシフトは30nm単位としている。この場合、広帯域に亘って観察画像が変化して相対差が生じることが分かる。
【0044】
図9は、図8(C)に示す遠隔場画像から式4を利用して得た光学応答分布を逆フーリエ変換等して空間領域に戻したものを示す。図4(A)に示す光学応答分布S(f+f),S(f+f),S(f),S(f-f),S(f-f)の複合によって、全空間周波数帯域に亘って解像が可能であることが分かる。つまり、ピーク間隔から分かるように、73nmから回折限界に対応する257nmまでの解像が可能である。
【0045】
図10(A)及び10(B)、並びに図11は、図4(B)に示す光学応答分布の組合せパターンに基づいて像構築を行う場合を説明する。評価対象又は処理対象は、図8(A)に示すものと同じであり、説明を省略する。図10(A)は、試料SAに対する照明強度分布を示す。図10(A)に示すように、基板50の構造周期は、100nmとなっている。シミュレーションの条件としては、照明光の波長を400nmとした。また、撮像部20の結像レンズ61の開口数NAを0.95としており、光の回折限界は257nmとなる。
【0046】
図10(B)は、図8(A)に示す試料SAを図10(A)に示す構造周期で照明することによって得た遠隔場画像であり、3枚(2×1+1枚)の遠隔場画像に対応するパターンが示されている。ここで、照明のx方向のシフトは30nm単位としている。この場合、高周波数成分側で観察画像が変化して相対差が生じることが分かる。
【0047】
図11は、図10(B)に示す遠隔場画像から式4を利用して得た光学応答分布を逆フーリエ変換等して空間領域に戻したものを示す。図4(A)に示す光学応答分布S(f+f),S(f-f)の欠落によって、133nmから回折限界に対応する257nmに至る前の領域AR1で解像できていないことが分かる。この領域AR1は、図4(C)中の空間周波数領域BLに対応する。
【0048】
図12は、構造周期を無くした基板50によって試料SAに一様な平面波を入射させた場合に得られる遠隔場画像であり、回折限界に対応する257nmよりも大きな構造領域(図面右側の領域)のみで解像できていることが分かる。
【0049】
〔シミュレーション2〕
以下では、周期的な構造を有する具体的な基板50によって形成される構造照明について検討する。
【0050】
図13(A)は、第1検討例の基板構造を示し、図3(B)に対応する断面形状を有する。この基板(高周波格子基板)は、SiOを基材とし、溝幅が100nm、溝深さが100nm、溝間隔が100nmとなっている。図13(B)は、AA'断面の照明強度分布を示し、図13(C)は、照明強度分布のフーリエ変換を示す。以上の計算に際しては、RCWA法を用い、高周波格子基板上の電場強度分布を調べた。この際、波長を400nmとし、基板裏面への照明光の入射角θを0°とし、入力メッシュサイズを5nmとした。図13(C)において、波数0の両側に周期200nmに相当する一対のピークが現れている。
【0051】
図14(A)は、第2検討例の基板構造を示し、図2(A)に対応する断面形状を有する。この基板(高周波格子基板)は、SiOを基材とし、溝幅が100nm、溝深さが100nm、溝間隔が100nmとなっており、溝にAuが充填されている。図14(B)は、図14(A)の構造による照明強度分布を示し、図14(C)は、照明強度分布のフーリエ変換を示す。以上の計算に際しては、図13(A)等で説明したRCWA法を用い、基板(高周波格子基板)以外は同一条件とした。図14(B)において、遮光効果が生じている領域A23は、図14(A)の溝充填領域A21に対応する。また、散乱光が増大している領域A24は、図14(A)の溝充填領域の上端境界域A22に対応する。
【0052】
図15(A)は、第3検討例の基板構造を示し、図2(B)に対応する断面形状を有する。この基板(高周波格子基板)は、SiOを基材とし、横幅25nmの一対のAu層に挟まれた溝幅が50nm、溝深さが100nm、基材の溝間隔が100nmとなっている。図15(B)は、図15(A)の構造による照明強度分布を示し、図15(C)は、照明強度分布のフーリエ変換を示す。以上の計算に際しては、図13(A)等で説明したRCWA法を用い、基板(高周波格子基板)以外は同一条件とした。図15(B)において、強度増大が生じている領域A33は、図15(A)の溝領域A31に対応する。図15(C)において、高周波情報に対応する周期66nmに相当するピークが現れている。
【0053】
〔シミュレーション3〕
図16(A)及び16(B)は、基板50の裏面50bに入射させる照明光LIの入射角θ(光軸AXに対する傾斜角度)を傾斜させつつ、基板50の上方10nmの位置における電場強度分布を計算した結果を示す。図16(A)は、図2(B)の基板50に対応し、横幅25nmの一対のAu層に挟まれた溝幅が50nm、溝深さが100nm、基材の溝間隔が100nmとなっている。図16(B)は、図2(A)の基板50に対応し、溝幅が50nm、溝間隔が交互に30nm、70nmとなっており、溝にAuが充填されている。図16(A)の場合、最大で30nmのシフトが生じ、図16(B)の場合、最大で25nmのシフトが生じているが、波形が大きく変化しており、照明光LIの傾斜によって照明パターンをx方向に機械的にシフトさせることは容易でないことが分かる。
【0054】
〔シミュレーション4〕
以下、光学的コントラスト法、つまり基板50の裏面50b側への照明光LIの入射角を調整することによって照明分布又は照明波形を変化させつつ空間周波数のシフトを生じさせた光学応答分布を得る手法について説明する。
【0055】
図17(A)は、基板50の形状を説明する断面図である。基板50は、80nmの周期と、200nmの周期とを有するものであり、Auを充填した溝幅が50nmで、溝間隔が交互に30nm,70nmとなっている。
【0056】
図17(B)は、基板50上における照明強度分布を示し、単なるシフトでない様々なピーク強度又は分布パターンが得られている。図17(C)は、照明強度分布のフーリエ変換を示す。また、図17(D)は、基板50上に2つの理想散乱体PAをx方向に55nm離して配置した場合の観察画像又は遠隔場画像を示す。ここで、照明光LIの波長を400nmとし、基板裏面への照明光の入射角θを6°単位で36°まで変化させ、入力メッシュサイズを5nmとした。また、結像レンズ61の開口数NAを0.95とした。光の回折限界は257nmとなる。
【0057】
図18(A)は、図17(D)に示す観察画像又は遠隔場画像から式4を利用して得た光学応答分布を逆フーリエ変換等して空間領域に戻したものを示す。グラフの中央に2つの理想散乱体PAに対応するピークが現れており、粒子間隔55nmの判別が可能であることが分かる。この間隔55nmは、回折限界の約1/5倍となっている。
【0058】
図18(B)は、構造照明がない平面波を2つの理想散乱体PAに入射させた一般的な顕微鏡による解像結果を示し、図18(C)は、定在波を用いる従来型の構造照明を用いて2つの理想散乱体PAを観察した場合の解像結果を示す。図18(C)に示すように、定在波型の構造照明を用いることで、解像度は向上すると考えられるが、55nmの粒子間隔を分解できないことが分かる。
【0059】
〔シミュレーション5〕
以下、構造照明や照明条件を適宜変更し、構造照明とこれによって達成される超解像とについて検証を行った結果を説明する。
【0060】
図19(A)は、評価に用いた基板50の断面構造を示しており、Auを充填した溝幅及び溝深さが50nmで、溝間隔が50nmとなっている。また、基板50の材料はSiであり、照明光として波長1600nmの近赤外光を用いた。図19(B)は、試料SAに対する照明強度分布を示す。図19(C)は、照明強度分布の機械的なシフトを想定した超解像のシミュレーション結果を示す。なお、評価対象は、図8(A)に示すものと同じであり、シミュレーション1と同様であるので、説明を省略する。図19(C)から明らかなように、100nm周期の情報を検出できていると認められ、回折限界1027nmに対して離間はしているが,100nmスケールの空間周波数帯域といった回折限界を大きく超越した形状情報を解像できており、通常顕微鏡では原理的に取得不可能な高周波領域でのハイパスフィルタ処理を可能にすると解釈できる。なお、従来顕微鏡、従来構造照明顕微法(定在波タイプ)では、その解像力は依然、波長が支配因子であったが、本実施形態の手法では、解像原理が本質的に異なっており、基板構造が支配因子であることを意味し、これまで光学的解像の最も重要因子であった波長といった制限を打破できていることが大きな特徴である。つまり、波長の比較的長い近赤外領域での100nmスケールの超解像は、従来手法の延長線上では考えられず、その応用用途も含め、本実施形態による手法の大きな特徴の一つである。
【0061】
図20(A)は、評価に用いた別の基板50の断面構造を示しており、横幅25nmの一対のAu層に挟まれた溝幅が50nm、溝深さが100nm、基材の溝間隔が100nmとなっている。また、基板50の材料はSiOであり、照明光として波長400nmの紫外側可視光を用いた。図20(B)は、試料SAに対する照明強度分布を示す。図20(C)は、照明強度分布の機械的なシフトを想定した超解像のシミュレーション結果を示す。なお、評価対象は、図8(A)に示すものと同じである。図20(C)から明らかなように、空間周波数領域の全体に亘って解像が達成されていることが分かり、理論分解能53nmを達成していると言える。すなわち、通常顕微鏡回折限界256nm、通常構造照明顕微鏡理論限界解像力112nmに対して、大きく超越した50nmスケールの解像が実現できている。
【0062】
図21(A)は、評価に用いたさらに別の基板50の断面構造を示しており、Auを充填した溝幅が50nm、溝間隔が交互に30nm、70nmとなっている。また、基板50の材料はSiOであり、照明光として波長400nmの光を用いた。図21(B)は、試料SAに対する照明強度分布を示す。図21(C)は、コントラスト変調法又は光学的コントラスト法(入射角θの調整)を想定した超解像のシミュレーション結果を示す。なお、評価対象は、図8(A)に示すものと同じである。図21(C)から明らかなように、空間周波数領域の全体に亘って解像が達成されていることが分かり、理論分解能53nmに近い分解能を達成していると言える。
【0063】
以上から明らかなように、第1実施形態の観察装置100では、演算処理装置である演算処理部80が光源部42によって基板50を一方側から照明した状態で得た像から基本光学応答分布と一対以上の拡張光学応答分布とを取得するので、これらの光学応答分布から、回折限界で規定される解像サイズの1/2倍程度以下の高い分解能で観察対象の像を演算することができる。
【0064】
〔第2実施形態〕
以下、本発明に係る第2実施形態の観察装置等について説明する。なお、第2実施形態に係る観察装置は、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0065】
図22に示すように、本実施形態の場合、光源部142に組み込んだ照明光学系が結像レンズを兼ねており、光源部142の光学系から分岐した位置にセンサー部62を配置した構造となっている。これにより、基板50上の試料SAからの反射光又は蛍光の戻り光を観察光として検出することになる。
【0066】
以上では、実施形態に係る観察装置等について説明したが、本発明に係る観察装置は上記のものには限られない。例えば、図23に示すような2次元タイプの基板250を用いることができる。この場合、例えば角φを固定し、照明光LIの照射方向θを必要回数変化させて撮像を行い、得られた画像から角φ方向の画像を再構成する。角φを乗除に変化させて照射方向θを変化させる同様の手法で画像を再構成すれば、試料の2次元的な画像が得られる。
【0067】
以上では、光源部42にLEDを用いているが、LEDに代えて例えばレーザーダイオードその他のレーザー光源を用いることができる。
【0068】
図22では、基板50を下側から照明し、基板50の下側において試料像を得ているが、基板50を上側から照明し、基板50の上側において試料像を得ることもできる。この場合、基板50は、反射パターンを形成する照明となる。
【0069】
基板50は、単なる透過又は反射型のパターンを有するものに限らず、エッジで強調を行うものであってもよく、プラズモン共鳴等を用いて信号増強を行うものであってもよい。
【0070】
図7のステップS46で試料像の再構築を行う際には、光応答分布S(f),S(f+f2),S(f+f1),…を用いるので、一般的なFFTと同様に各種フィルタリング処理を併せて行った画像を得ることもできる。
【符号の説明】
【0071】
10…照明装置、 20…撮像部、 41…ステージ部、 42…光源部、 43…支持部、 46…本体、 48a…超音波発生器、 48b…駆動回路、 50…基板、 50a…表面、 50b…裏面、 51…本体、 52…金属ストライプ層、 54…溝、 56…充填部、 59…平板、 61…結像レンズ、 62…センサー部、 63…駆動回路、 80…演算処理部、 100…観察装置、 AX…光軸、 SA…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23