(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】燃料電池の空気側電極用触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20220601BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220601BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20220601BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220601BHJP
【FI】
H01M4/90 B
H01M4/90 X
H01M4/86 B
B01J23/745 M
H01M4/90 Z
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018068917
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】390011877
【氏名又は名称】富士化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】磯邉 清
(72)【発明者】
【氏名】世良 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 浩史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 友和
(72)【発明者】
【氏名】吉元 光児
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119289(JP,A)
【文献】特開2016-085925(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167407(WO,A1)
【文献】特開2014-091061(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を含
み、
前記鉄含有粒子の粒子径が、0.1~10nmであり、
前記複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、C-O基に由来する吸収のピークが
観察され、O-H基、C=O基及び701cm
-1
付近のFe-O基に由来する吸収のピー
ク高の相対比は、それぞれ、C-O基に由来する吸収のピーク高の0.1以下であり、
前記鉄含有粒子が、Fe
3
O
4
及びFe
2
O
3
の少なくとも一方を含み、
前記複合体においては、粒子径が10nm以下の前記鉄含有粒子が、粒子径が0.1~
100μmの前記グラフェンオキサイドに担持され、一次粒子が凝集した粒子状態を形成
しており、
前記複合体における鉄の含有量は、鉄元素換算で、0.1~50質量%である、燃料電池の空気側電極用触媒。
【請求項3】
請求項
1に記載の空気側電極用触媒を含む空気側電極と、
燃料側電極と、
前記空気側電極と前記燃料側電極との間にこれらと対向配置された電解質層と、
を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の空気側電極用触媒、当該空気側電極用触媒を含む燃料電池用の空気側電極、及び当該空気側電極を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載される燃料電池として、水素ガスなどの気体燃料や、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどの液体燃料を使用する燃料電池が知られている。燃料電池は、電解質層と、電解質層の両側にそれぞれ積層されるアノードおよびカソードとを備える単位セルが複数積層されたスタック構造として構成されている。
【0003】
燃料電池として、例えば、アニオン交換膜からなる電解質層と、電解質層を挟んで対向配置される燃料側電極および酸素側電極とを備え、燃料側電極には燃料側流路を介して燃料が供給され、また、酸素側電極(空気側電極)には酸素側流路を介して酸素が供給される燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の出力を高めつつ、燃料電池の繰り返しの使用に対する耐久性を向上させるためには、酸素が供給される空気側電極に用いられる、空気側電極用触媒の酸素還元活性及び耐久性の向上が求められる。
【0006】
現在、燃料電池の空気側電極用触媒としては、白金担持カーボン(Pt/C)が用いられている。しかしながら、空気側電極用触媒として白金担持カーボン(Pt/C)を用いた燃料電池では、さらなる高出力化と耐久性向上の両立が難しいという問題がある。
【0007】
また、燃料電池では、電解質層を透過した燃料が空気側電極で酸化することで、逆電流を発生させ、燃料電池の出力を低下させることがある。白金担持カーボン(Pt/C)は、燃料酸化性が強いため、燃料の逆流による出力低下を抑制することが難しいという問題を有している。
【0008】
本発明は、燃料電池の出力を高めつつ、燃料電池の繰り返しの使用に対する耐久性を向上させ、さらに燃料の逆流による出力低下を効果的に抑制することができる、燃料電池の空気側電極用触媒を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該空気側電極用触媒を含む燃料電池用の空気側電極、及び当該空気側電極を備える燃料電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、鉄含有粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を空気側電極用触媒に用いることにより、燃料電池の出力を高めつつ、燃料電池の繰り返しの使用に対する耐久性を向上させ、さらに燃料の逆流による出力低下を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより、完成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池の出力を高めつつ、燃料電池の繰り返しの使用に対する耐久性を向上させ、さらに燃料の逆流による出力低下を効果的に抑制することができる、燃料電池の空気側電極用触媒を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該空気側電極用触媒を含む燃料電池用の空気側電極、及び当該空気側電極を備える燃料電池を提供することもできる。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 鉄含有粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を含む、燃料電池の空気側電極用触媒。
項2. 前記鉄含有粒子の粒子径が、0.1~10nmである、項1に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項3. 前記複合体の一次粒子の粒子径が、0.1~100μmである、項1又は2に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項4. 前記複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、O-H基、C=O基及び701cm-1付近のFe-O基に由来する吸収が実質上観測されず、C-O基に由来する吸収が観測される、項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項5. 前記複合体は、鉄の含有率が0.1~50重量%である、項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項6. 前記鉄含有粒子が、Fe3O4及びFe2O3の少なくとも一方を含む、項1~5のいずれか1項に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項7. 前記複合体において、前記鉄含有粒子は、前記グラフェンオキサイドに担持されている、項1~6のいずれか1項に記載の燃料電池の空気側電極用触媒。
項8. 項1~7のいずれか1項に記載の空気側電極用触媒を含む、燃料電池用の空気側電極。
項10. 項1~8のいずれか1項に記載の空気側電極用触媒を含む空気側電極と、
燃料側電極と、
前記空気側電極と前記燃料側電極との間にこれらと対向配置された電解質層と、
を備える、燃料電池。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドのMALDI、 FT-ICR-MS分析の結果を示すデータである。
【
図2】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドの紫外可視吸収スペクトルである。
【
図3】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドの粉末X線回折(XRD)測定の結果を示すデータである。
【
図4】実施例において、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体の合成に使用した装置の写真および模式図である。
【
図5】実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの赤外吸収スペクトル(IR:ATR法)である。
【
図6】実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bの赤外吸収スペクトル(IR:ATR法)である。
【
図7】実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cの赤外吸収スペクトル(IR:ATR法)である。
【
図8】実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体AのXRDスペクトルである。
【
図9】実施例2で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体BのXRDスペクトルである。
【
図10】実施例3で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体CのXRDスペクトルである。
【
図11】実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面のX線光電子分光測定(XPS)の結果を示すデータである。
【
図12】実施例2で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bの表面のX線光電子分光測定(XPS)の結果を示すデータである。
【
図13】実施例3で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cの表面のX線光電子分光測定(XPS)の結果を示すデータである。
【
図14】走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)により、実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面を観察して得られた、鉄原子のマッピング画像である。
【
図15】走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)により、実施例2で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bの表面を観察して得られた、鉄原子のマッピング画像である。
【
図16】走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)により、実施例3で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cの表面を観察して得られた、鉄原子のマッピング画像である。
【
図17】走査型電子顕微鏡(SEM)により、実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面を観察した画像である。
【
図18】走査型電子顕微鏡(SEM)により、実施例2で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bの表面を観察した画像である。
【
図19】走査型電子顕微鏡(SEM)により、実施例3で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cの表面を観察した画像である。
【
図20】実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,C、白金担持カーボン(Pt/C)を、それぞれ空気側触媒として用いた3電極型セルについて、酸素還元活性(電流値(A/g))と電位との関係を示すグラフである。
【
図21】実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,C、白金担持カーボン(Pt/C)を、それぞれ空気側触媒として用いた3電極型セルについて、酸素還元活性(活性維持率(%))と充放電回数との関係を示すグラフである。
【
図22】実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,C、白金担持カーボン(Pt/C)を、それぞれ空気側触媒として用いた3電極型セルについて、ヒドラジン酸化活性(質量活性(A/g))と電位との関係を示すグラフである。
【
図23】本発明の燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.空気側電極用触媒
本発明の空気側電極用触媒は、燃料電池の空気側電極に用いられる触媒であって、鉄含有粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を含むことを特徴としている。以下、本発明の空気側電極用触媒について、詳述する。
【0014】
鉄含有粒子とグラフェンオキサイドとの複合体(以下、単に「複合体」ということがある。)において、鉄含有粒子は、鉄元素を含む粒子である。複合体において、当該鉄含有粒子は、好ましくは、グラフェンオキサイドに担持されている。また、複合体において、当該鉄含有粒子は、グラフェンオキサイドの表面に均一性高く分散されていることが好ましい。複合体に含まれる、鉄含有粒子は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0015】
鉄含有粒子において、鉄は、鉄原子及び/又は鉄化合物として含まれている。鉄含有粒子に含まれる鉄の価数は、特に制限されず、好ましくは0価、2価、及び3価の少なくとも1つであり、より好ましくは2価及び3価の少なくとも1つである。鉄含有粒子において、鉄は、2価の鉄酸化物及び3価の鉄酸化物の少なくとも一方として存在していることが好ましい。
【0016】
燃料電池の出力を高めつつ、燃料電池の繰り返しの使用に対する耐久性を向上させ、さらに燃料の逆流による出力低下を効果的に抑制する観点から、鉄含有粒子は、Fe3O4及びFe2O3の少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、鉄含有粒子において、鉄は、Fe2O3及びFe3O4の少なくとも一方として含まれていることが好ましい。
【0017】
前記の観点から、複合体において、鉄含有粒子の粒子径は、好ましくは0.1~10nm程度、より好ましくは0.5~5nm程度、さらに好ましくは1~4nm程度である。鉄含有粒子の粒子径は、複合体について、粉末X線回折(XRD)を測定した結果から導き出した値である。
【0018】
前記の観点から、複合体における鉄の含量は、鉄元素換算で、例えば、0.1~50重量%程度、好ましくは0.5~40重量%程度、より好ましくは2~30重量%程度、さらに好ましくは5~20重量%が挙げられる。複合体における鉄の含量は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体の表面に関する元素分析測定結果から算出される。
【0019】
複合体に含まれるグラフェンオキサイドは、グラフェンの酸化物である。グラフェンオキサイドとしては、例えば、市販品やグラファイトもしくはグラフェンを酸化することにより製造されたものを用いることができ、好ましくは、グラファイトを酸化することにより製造されたもの(例えば、グラファイトを硫酸や過マンガン酸カリウム等を用いて酸化して、製造されたもの)である。
【0020】
グラフェンオキサイドの市販品としては、例えば、酸化グラフェン懸濁液、酸化グラフェン粉末、酸化グラフェン、還元的酸化グラフェン、高比表面積グラフェンナノパウダーとして販売されているものを用いることができ、具体的には、Sigma Aldrich社などから市販されているものを使用することができる。なお、グラファイトを、硫酸を用いて酸化した場合には、得られるグラフェンオキサイドには、微量の硫黄が存在する。このため、当該グラフェンオキサイドを用いて製造された、複合体中にも、通常、微量の硫黄が存在する。複合体には、硫黄が含まれていてもよい。
【0021】
グラフェンオキサイドの製造に用いられるグラファイトは、複合体に適しているものであれば、いずれのものを用いてもよい。グラファイトの形状としては、例えば、球状グラファイト、粒状グラファイト、鱗状グラファイト、鱗片状グラファイト、及び粉末グラファイトを使用することができ、鉄含有粒子の担持のしやすさや触媒活性から、鱗状グラファイト、鱗片状グラファイトの使用が好ましい。具体的には、ナカライテスク社製の粉末グラファイト、イーエムジャパン社の高比表面積グラフェンナノパウダーなど、市販されているものを使用することができる。当該グラファイトの一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。
【0022】
複合体の一次粒子径は、実質的に、グラフェンオキサイドの一次粒子径に対応する。よって、複合体において、グラフェンオキサイドの一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。また、複合体の一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。複合体は、通常、層状構造を有している。これらの粒子径は、走査型顕微鏡(SEM)画像によって確認することができる。
【0023】
複合体の原料となるグラフェンオキサイドは、NaNO3などの酸化助剤を作用させることにより、含酸素官能基の比率を変化させたものであってもよい。
【0024】
複合体においては、通常、上記ナノサイズ(例えば、10nm以下)の鉄含有粒子が、ミクロンサイズ(例えば、0.1~100μm)のグラフェンオキサイドに担持されており、この一次粒子が凝集した粒子状態を形成している。
【0025】
複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、O-H基、C=O基及び701cm-1付近のFe-O基に由来する吸収が実質上観測されず、C-O基に由来する吸収が観測されるものであることが好ましい。具体的には、複合体のIRスペクトルにおいて、C-O基(エポキシ基)に由来する吸収(1035cm-1付近の吸収)が存在し、O-H基(ヒドロキシ基)に由来する吸収(3000cm-1~3800cm-1の範囲のブロードな吸収)、C=O基(カルボニル基)に由来する吸収(1700cm-1付近のシャープな吸収)及びFe-O基(鉄と酸素との結合)に由来する吸収(701cm-1付近の吸収)が実質的に存在しないことが好ましい。ここで、実質的に存在しないとは、C-O基(エポキシ基)に由来する吸収のピーク高に対する、これらの吸収のピーク高の相対比が、0.1以下であることを意味する。このようなスペクトルが観察される複合体においては、グラフェンオキサイドに結合した酸素原子は、主にエポキシ基として存在していると考えられる。なお、複合体には、ヒドロキシ基やカルボニル基が含まれていてもよい。
【0026】
複合体は、磁性を示さないことが好ましい。本発明において、複合体の磁性の有無は、複合体がネオジウム磁石(φ10mm×2mm)に吸着されないことで確認することができる。
【0027】
本発明の空気側電極用触媒は、前記の複合体とは異なる物質を含んでいてもよいが、実質的に前記の複合体により構成されていることが好ましい。すなわち、本発明の空気側電極用触媒は、前記の複合体からなることが好ましい。
【0028】
本発明の空気側電極用触媒の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、以下の「2.空気側電極用触媒の製造方法」の欄に記載の方法により、製造することができる。
【0029】
2.空気側電極用触媒の製造方法
本発明の空気側電極用触媒の製造方法は、以下の工程1及び工程2を備えていることを特徴としている。以下、本発明の製造方法について、詳述する。
工程1:鉄含有粒子の原料としての鉄化合物と、グラフェンオキサイドとを、不活性溶媒中で混合して懸濁液を調製する工程。
工程2:懸濁液に紫外光を含む光を照射する工程。
【0030】
(工程1)
工程1は、鉄含有粒子の原料とする鉄化合物と、グラフェンオキサイドとを、不活性溶媒中で混合して懸濁液を調製する工程である。
【0031】
工程1において、原料として使用される、鉄化合物としては、後述の工程2を経て、前述の鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を形成できるものであれば、特に制限されない。鉄化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
原料とする鉄化合物の具体例としては、0価、2価又は3価の鉄化合物であり、例えば、塩化鉄、臭化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、過塩素酸鉄等の鉄と無機酸との塩;ギ酸鉄、酢酸鉄、トリフルオロ酢酸鉄、プロピオン酸鉄、シュウ酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、酒石酸鉄、ステアリン酸鉄、安息香酸等の鉄とカルボン酸との塩;メタンスルホン酸鉄、トリフルオロメタンスルホン酸鉄、エタンスルホン酸鉄、ベンゼンスルホン酸鉄、パラスルホン酸鉄等の鉄とスルホン酸との塩;水酸化鉄;フェノール鉄;ヘキサシアン酸鉄ナトリウム、ヘキサシアン酸鉄カリウム、ヘキサシアン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム等の鉄複塩;アセチルアセトナート鉄錯体、鉄カルボニル化合物等の鉄錯体であり得、好ましくは、塩化鉄、臭化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、鉄とカルボン酸との塩、水酸化鉄、フェノール鉄、アセチルアセトナート鉄錯体又は鉄カルボニル化合物であり、より好ましくは、塩化鉄、硫酸鉄、酢酸鉄、水酸化鉄、アセチルアセトナート鉄錯体又は鉄カルボニル化合物であり、最も好ましくは、塩化鉄、硫酸鉄、酢酸鉄又は鉄カルボニル化合物である。
【0033】
また、グラフェンオキサイドとしては、前述の「1.空気側電極用触媒」の欄に記載したものを使用することができる。
【0034】
鉄化合物とグラフェンオキサイドとの混合割合は、特に制限されず、目的とする鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体の組成に応じて、適宜設定することができる。例えば、前述のように、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体の表面に関する元素分析測定結果から算出される鉄の含有率が、0.1~50重量%となるようにする観点からは、グラフェンオキサイド100質量部に対して、鉄化合物を100質量部程度使用すればよい。
【0035】
不活性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;水;又はこれらの混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類、アルコール類、アミド類、水又はこれらの混合溶媒などが挙げられ、さらに好ましくは、テトラヒドロフラン、エタノール、ジメチルホルムアミド、水又はこれらの1種以上の混合溶媒などが挙げられる。
【0036】
(工程2)
工程2は、工程1で調製した懸濁液に紫外光を含む光を照射する工程である。工程2において、懸濁液には、紫外光のみを照射してもよいし、紫外光に加えて、可視光、赤外光などの他の波長の光をさらに照射してもよい。紫外光を含む光としては、例えば、水銀灯の光(例えば高圧水銀灯光)などを使用することができる。
【0037】
工程2で懸濁液に照射する光の波長としては、紫外光を含む波長であれば、特に制限されず、例えば100~800nm程度、好ましくは180~600nm程度が挙げられる。
【0038】
また、工程2において、紫外光を含む光を照射して反応を進行させる際の温度としては、光の波長や照射時間等に応じて適宜調整すればよいが、通常、0℃~50℃程度、好ましくは10℃~30℃程度、より好ましくは20℃~30℃が挙げられる。
【0039】
また、工程2において、紫外光を含む光を照射する時間としては、光の波長や温度等に応じて適宜調整すればよいが、通常、1分間~24時間程度、好ましくは10分間~10時間程度、より好ましくは30分間~5時間程度が挙げられる。
【0040】
工程2により、懸濁液中に、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体が生成し、当該複合体を空気側電極用触媒として用いることができる。
【0041】
本発明の製造方法おいて、工程1及び工程2は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)の雰囲気下に行うことが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法においては、工程2の後に、さらに、得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を単離する工程を備えていてもよい。単離工程は、常法によって行うことができる。例えば、得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を、濾取、洗浄、乾燥して単離することができる。
【0043】
3.燃料電池
本発明の燃料電池は、前述した本発明の空気側電極用触媒を含む空気側電極と、燃料側電極と、空気極と燃料側電極との間にこれらと対向配置された電解質層とを備えることを特徴としている。以下、
図23を参照しながら、本発明の燃料電池について詳述する。
【0044】
図23において、燃料電池1は、燃料電池セルSを備えており、燃料電池セルSは、燃料側電極2、空気側電極3および電解質層4を備え、燃料側電極2および空気側電極3が、それらの間に電解質層4を挟んで、対向配置されている。換言すれば、燃料電池セルSは、電解質層4と、電解質層4を挟んで対向配置される燃料側電極2および空気側電極3とを備えている。
【0045】
燃料側電極2は、電解質層4の一方の面に対向接触されている。この燃料側電極2は、例えば、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により、形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒粒子を用い、その触媒粒子を、直接、燃料側電極2として形成してもよい。
【0046】
燃料側電極2に用いられる触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)第8~10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素、さらには亜鉛(Zn)などの金属単体や、それらの合金などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、鉄族元素が挙げられ、より好ましくは、ニッケルが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0047】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。
【0048】
触媒を触媒担体に担持させる場合、触媒と触媒担体との総量に対して、触媒担体の担持割合は、例えば、20重量%以上、好ましくは、40重量%以上であり、また、例えば、80重量%以下、好ましくは、60重量%以下である。
【0049】
燃料側電極2の厚みは、例えば、10μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、200μm以下、好ましくは、100μm以下である。
【0050】
また、燃料側電極2の形成については、特に制限されないが、例えば、膜電極接合体を形成する。膜電極接合体は、公知の方法により形成することができる。具体的には、例えば、電解質層4の厚み方向一方側の面(以下、単に一方面とする。)の表面に、上記触媒と、イオン交換樹脂とを含む燃料側電極2を形成する。燃料側電極2の形成においては、例えば、まず、上記触媒とイオン交換樹脂とを混合し、必要によりアルコールやエーテルなどの適宜の溶媒を添加して粘度を調整することにより、上記触媒の分散液(燃料側電極インク)を調製する。次いで、その分散液を、電解質層4の一方面の表面に塗布および乾燥させる。これにより、電解質層4の一方面に燃料側電極2を形成することができる。
【0051】
なお、この方法においては、燃料電池1が、アニオン交換型燃料電池として構成されて
いる場合には、イオン交換樹脂として、好ましくは、アニオン交換樹脂が挙げられる。
【0052】
また、燃料側電極2において、触媒の担持量は、例えば、0.05mg/cm2以上、好ましくは、0.1mg/cm2以上であり、例えば、10mg/cm2以下、好ましくは、5mg/cm2以下である。
【0053】
この燃料側電極2では、後述するように、供給される液体燃料に含まれる、少なくとも水素を含有する化合物(以下、「燃料化合物」という。)と、電解質層4を通過した水酸化物イオン(OH-)とを反応させて、電子(e-)と窒素(N2)と水(H2O)とを生成させる。
【0054】
空気側電極3は、電解質層4の他方の面に対向接触されている。本発明において、空気側電極3は、本発明の空気側電極用触媒を含むことを特徴としている。空気側電極3は、本発明の空気側電極用触媒を含む多孔質電極とすることができる。
【0055】
空気側電極3の厚みは、例えば、10μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、150μm以下である。
【0056】
空気側電極3の形成法は、特に制限されないが、前述の燃料側電極2と同様にして、例えば、電解質層4の厚み方向他方側の面(以下、単に他方面とする。)の表面に、空気側電極用触媒と、イオン交換樹脂とを含む空気側電極3を形成する。空気側電極3を形成においては、例えば、まず、空気側電極用触媒とイオン交換樹脂とを混合し、必要によりアルコールやエーテルなどの適宜の溶媒を添加して粘度を調整することにより、上記金属触媒の分散液(空気側電極インク)を調製する。次いで、その分散液を、電解質層4の他方面の表面に塗布および乾燥させる。これにより、電解質層4の他方面に空気側電極3を形成することができる。
【0057】
なお、この方法においては、燃料電池1が、アニオン交換型燃料電池として構成されている場合には、イオン交換樹脂として、好ましくは、アニオン交換樹脂が挙げられる。
【0058】
また、空気側電極3において、空気側電極用触媒の担持量は、例えば、0.05mg/cm2以上、好ましくは、0.1mg/cm2以上であり、例えば、10mg/cm2以下、好ましくは、5mg/cm2以下である。
【0059】
この空気側電極3では、後述するように、供給される酸素(O2)と、水(H2O)と、外部回路13を通過した電子(e-)とを反応させて、水酸化物イオン(OH-)を生成させる。
【0060】
電解質層4は、アニオン交換型の高分子電解質層(アニオン交換膜)、または、カチオン交換型の高分子電解質層(カチオン交換膜)、から形成されている。好ましくは、アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0061】
アニオン交換膜としては、アニオン成分(例えば、水酸化物イオン(OH-)など)が移動可能な媒体であれば、特に限定されず、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0062】
アニオン交換膜を形成する固体高分子としては、例えば、ポリスチレンおよびその変性体などの炭化水素系の固体高分子膜などが挙げられる。また、アニオン交換膜を形成する固体高分子のガラス転移温度(Tg)は、例えば、80~200℃、好ましくは、100~200℃である。
【0063】
また、アニオン交換膜を形成する固体高分子は、その分子構造において、架橋構造を有していてもよい。
【0064】
また、アニオン交換膜は、市販品として入手可能であり、例えば、セレミオン(旭硝子社製)、ネオセプタ(アストム社製)などが挙げられる。
【0065】
燃料電池セルSは、さらに、燃料供給部材5および酸素供給部材6を備えている。燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2に対向接触されている。そして、この燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に液体燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この燃料側流路7は、その上流側端部および下流側端部に、燃料供給部材5を貫通する供給口9および排出口8がそれぞれ連続して形成されている。
【0066】
また、酸素供給部材6も、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、空気側電極3に対向接触されている。そして、この酸素供給部材6にも、空気側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この酸素側流路10にも、その上流側端部および下流側端部に、酸素供給部材6を貫通する供給口11および排出口12がそれぞれ連続して形成されている。
【0067】
また、図示しないが、燃料電池1においては、必要に応じて、燃料供給部材5と燃料側電極2との間、および、酸素供給部材6と空気側電極3との間に、公知のガス拡散層を積層することができる。
【0068】
そして、この燃料電池1は、実際には、上記した燃料電池セルSが、複数積層されるスタック構造として形成される。そのため、燃料供給部材5および酸素供給部材6は、実際には、両面に燃料側流路7および酸素側流路10が形成されるセパレータとして構成される。
【0069】
なお、図示しないが、この燃料電池1には、導電性材料によって形成される集電板が備えられており、集電板に備えられた端子から燃料電池1で発生した起電力を外部に取り出すことができるように構成されている。
【0070】
また、試験的(モデル的)には、この燃料電池セルSの燃料供給部材5と酸素供給部材6とを外部回路13によって接続し、その外部回路13に電圧計14を介在させて、発生する電圧を計測することもできる。
【0071】
燃料化合物を含む液体燃料は、改質などを経由することなく、直接供給される。
【0072】
燃料化合物としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、例えば、ジメチルエーテルなどのエーテル類、例えば、ヒドラジン(NH2NH2)、水加ヒドラジン(NH2NH2・H2O)、炭酸ヒドラジン((NH2NH2)2CO2)、硫酸ヒドラジン(NH2NH2・H2SO4)、モノメチルヒドラジン(CH3NHNH2)、ジメチルヒドラジン((CH3)2NNH2、CH3NHNHCH3)、カルボンヒドラジド((NHNH2)2CO)などのヒドラジン類、例えば、尿素(NH2CONH2)、例えば、イミダゾール、1,3,5-トリアジン、3-アミノ-1,2,4-トリアゾールなどの複素環類、例えば、ヒドロキシルアミン(NH2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH2OH・H2SO4)などのヒドロキシルアミン類などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ヒドラジン類が挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0073】
なお、燃料化合物は、必要により、水に溶解して調製することができる。
【0074】
また、液体燃料は、好ましくは、添加剤を含有している。
【0075】
添加剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウムなどのアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ラジウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などの電解質などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アルカリ金属水酸化物が挙げられ、より好ましくは、水酸化カリウムが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0076】
液体燃料が添加剤を含有すれば、電解質層4がイオン交換基を有しない場合において、後述する水酸化物イオン(OH-)の移動を促進することができる。
【0077】
添加剤の添加量は、燃料化合物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上であり、また、例えば、35質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0078】
そして、酸素供給部材6の酸素側流路10に酸素(空気)を供給しつつ、燃料供給部材5の燃料側流路7に上記した液体燃料を供給すれば、空気側電極3においては、次に述べるように、燃料側電極2で発生し、外部回路13を介して移動する電子(e-)と、水(H2O)と、酸素(O2)とが反応して、水酸化物イオン(OH-)を生成する。生成した水酸化物イオン(OH-)は、親水性高分子膜からなる電解質層4を、空気側電極3から燃料側電極2へ移動する。そして、燃料側電極2においては、電解質層4を通過した水酸化物イオン(OH-)と、液体燃料とが反応して、電子(e-)が生成する。生成した電子(e-)は、燃料供給部材5から外部回路13を介して酸素供給部材6に移動され、空気側電極3へ供給される。このような燃料側電極2および空気側電極3における電気化学的反応によって、起電力が生じ、発電が行われる。
【0079】
そして、このような電気化学的反応には、燃料側電極2において、液体燃料に水酸化物イオン(OH-)を直接反応させる一段反応と、液体燃料を、水素(H2)と窒素(N2)とに分解した後に、分解により生成した水素(H2)に水酸化物イオン(OH-)を反応させる二段反応との2種類の反応がある。
【0080】
例えば、液体燃料としてヒドラジン(NH2NH2)を用いた場合には、一段反応は、燃料側電極2、空気側電極3および全体として、次の反応式(1)~(3)で表すことができる。
(1) NH2NH2+4OH-→4H2O+N2+4e- (燃料側電極)
(2) O2+2H2O+4e-→4OH- (空気側電極)
(3) NH2NH2+O2→2H2O+N2 (全体)
また、二段反応は、燃料側電極2、空気側電極3および全体として、次の反応式(4)~(7)で表すことができる。
(4) NH2NH2→2H2+N2 (分解反応;燃料側電極)
(5) H2+2OH-→2H2O+2e- (燃料側電極)
(6) 1/2O2+H2O+2e-→2OH- (空気側電極)
(7) H2+1/2O2→H2O (全体)
【0081】
なお、この燃料電池1の運転条件は、特に限定されないが、例えば、燃料側電極2側の加圧が200kPa以下、好ましくは、100kPa以下であり、空気側電極3側の加圧が200kPa以下、好ましくは、100kPa以下であり、燃料電池セルSの温度が0~120℃、好ましくは、20~80℃として設定される。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【0083】
本発明の燃料電池の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源や、携帯電話機などの通信端末における電源などが挙げられる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0085】
[合成例1]グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)の合成(NaNO3添加なし)
500cm3の一口ナスフラスコに濃硫酸(98%、キシダ化学社製)(130cm3)とグラファイト(Graphite flakes、ナカライテスク社製)(1.0g)を加え、室温(約20℃)で、15分間攪拌した。次に、KMnO4(ナカライテスク社製)(4.0g)を加え、室温(約20℃)で約4日間攪拌し、淡紫色の懸濁液を得た。
【0086】
次に、ビーカーに氷(100cm3)を入れ、上記淡紫色の懸濁液をゆっくりと注ぎ入れた。さらにビーカーを氷浴で冷やしながら、30%H2O2水溶液(キシダ化学社製)(約5cm3)をゆっくり加え、淡緑色の懸濁液を得た。得られた懸濁液を遠心管に小分けに入れ、遠心分離(日立工機株式会社、CR20G)(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を5%塩酸で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。さらに、上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)する操作を2度行った。上澄み液を除去し、得られた沈殿物を水で約250cm3になるように希釈し、グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)を合成した。
【0087】
[合成例2]グラフェンオキサイド懸濁液(1-2)の合成(NaNO3添加あり)
500cm3の一口ナスフラスコに濃硫酸(98%、キシダ化学社製)(150cm3)、グラファイト(Graphite flakes、ナカライテスク社製)(1.5g)、硝酸ナトリウム(キシダ化学社製)(0.75g)を加え、室温(約20℃)で15分間攪拌した。次に、0℃に冷やし、KMnO4(ナカライテスク社製)(6.0g)を加え30分攪拌した。室温(約20℃)にし、約4日間攪拌し、淡紫色の懸濁液を得た。
【0088】
次に、ビーカーに氷(100cm3)を入れ、上記淡紫色の懸濁液をゆっくりと注ぎ入れた。さらにビーカーを氷浴で冷やしながら、30%H2O2水溶液(キシダ化学社製)(約10cm3)をゆっくり加え、黄土色の懸濁液を得た。得られた懸濁液を遠心管に小分けに入れ、遠心分離(日立工機株式会社、CR20G)(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を5%塩酸で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。さらに、上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)する操作を2度行った。上澄み液を除去し、得られた沈殿物を水で約450cm3になるように希釈し、グラフェンオキサイド懸濁液(1-2)を合成した。
【0089】
[実施例1]鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの合成
図4(a)に示す構成の装置を用いて、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を合成した。
図4(a)(b)に示すように、本装置は、硬質ガラス製の容器(1)に、撹拌子及び、不活性ガスの導入口(3)及び導出口(4)を備えている。また、硬質ガラス製の容器(1)の内部に、石英ガラス製の冷却ジャケット(5)で覆った100W高圧水銀灯(セン特殊光源株式会社、HL100CH-4)(2)を備えている。冷却ジャケット(5)には循環型冷却装置が接続されており、冷却水が流れる。
【0090】
容器(1)(100cm3)の内部を窒素ガス雰囲気下とし、グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)(50cm3)に酢酸鉄(II)(Aldrich社製、300mg)水溶液(60cm3)を加え、室温で約20分間攪拌した。流水冷却下、高圧水銀灯(2)(セン特殊光源株式会社製、HL100GL-1)を用いて、室温にて光照射反応を2時間行った。照射した光の波長は、180~600nmである。また、光照射中、冷却ジャケット(5)には20℃の冷却水を流し続けた。光照射により、懸濁液は茶色から黒色に変化した。得られた混合物を遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をエタノールで洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をろ過し、アセトンで洗浄した。デシケータにて減圧乾燥を行い、黒色固体の鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A(452mg)を得た。得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aを実施例1の空気側電極用触媒Aとした。
【0091】
[実施例2]鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bの合成
図4に示す構成の装置を用いて、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を合成した。容器(1)(300cm
3)の内部を窒素ガス雰囲気下とし、グラフェンオキサイド懸濁液(1-2)(100cm
3)に酢酸鉄(II)(Aldrich社製、500mg)水溶液(200cm
3)を加え、室温で約20分間攪拌した。流水冷却下、高圧水銀灯(セン特殊光源株式会社製、HL100GL-1)を用いて、室温にて光照射反応を2時間行った。照射した光の波長は、180~600nmである。また、光照射中、冷却ジャケット(5)には20℃の冷却水を流し続けた。光照射により、懸濁液は茶色から黒色に変化した。得られた混合物を遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をエタノールで洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をろ過し、アセトンで洗浄した。デシケータにて減圧乾燥を行い、黒色固体の鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体B(936mg)を得た。得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Bを実施例2の空気側電極用触媒Bとした。
【0092】
[実施例3]鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cの合成
図4に示す構成の装置を用いて、鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体を合成した。容器(1)(300cm
3)の内部を窒素ガス雰囲気下とし、グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)(100cm
3)に硫酸鉄(II)7水和物(和光純薬工業株式会社製、556mg)水溶液(200cm
3)を加え、室温で約20分間攪拌した。流水冷却下、高圧水銀灯(セン特殊光源株式会社製、HL100GL-1)を用いて、室温にて光照射反応を2時間30分行った。照射した光の波長は、180~600nmである。また、光照射中、冷却ジャケット(5)には20℃の冷却水を流し続けた。光照射により、懸濁液は茶色から黒色に変化した。得られた混合物を遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をエタノールで洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をろ過し、アセトンで洗浄した。デシケータにて減圧乾燥を行い、黒色固体の鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体C(883mg)を得た。得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Cを実施例3の空気側電極用触媒Cとした。
【0093】
<鉄含有率の測定>
各複合体における鉄元素の含有率を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)によって測定した。各複合体の鉄含有率の結果を以下に示す。
【0094】
【0095】
<赤外吸収スペクトルの測定>
実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,Cについて、それぞれ、FT-IR Spectrometer FT/IR-6200(日本分光株式会社製)を用いて、赤外吸収スペクトル(IR)をATR測定により行った。それぞれの赤外吸収スペクトルを
図5~7に示す。
【0096】
図5~7のスペクトルにおいては、原料であるグラフェンオキサイド(GO)の赤外吸収スペクトルで確認されたO-H基に由来する、3000-3800cm
-1のブロードな吸収、並びにC=O基に由来する1700cm
-1付近の吸収が消失し(C-O基に由来する吸収のピーク高に対する、これらの吸収のピーク高の相対比が0.1以下である)、C-O基に由来する1035cm
-1付近の吸収が残ったままである。これらのことから、各複合体においては、原料であるグラフェンオキサイドのカルボキシル基と水酸基が消失し、エポキシ基は残存していることが分かる。また、さらに、Fe-O基に由来する701cm
-1の吸収は実質的に存在しない(C-O基に由来する吸収のピーク高に対する、この吸収のピーク高の相対比が0.1以下である)。なお、図に記載の合成例1GO,合成例2GOで示したグラフェンオキサイドIRデータは、懸濁液1-1、1-2を乾燥させて測定したデータである。
【0097】
<粉末X線回折測定>
実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,Cについて、それぞれ、デスクトップX線回折装置MiniFlex600((株)リガク社製)を用いて、粉末X線回折(XRD)測定を行った。それぞれのXRDスペクトルを
図8~10に示す。
【0098】
図8~10に示されるように、各複合体について2θ=20°以上の領域における、鉄による結晶性のシャープな回折シグナルは現れていない。ブロードなシグナルのみ観測されることから鉄含有粒子は、非常に細かく、約3nm以下のナノ粒子として、グラフェンオキサイドに存在していることが考えられる。なお、
図10の2θ=42°に見られるシグナルはグラフェンオキサイドの(100)面によるものである。
【0099】
<X線光電子分光測定(XPS)の測定>
実施例1~3で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,Cについて、X線光電子分光(XPS)を、オミクロン社製、 B002431(X線源Al-Kα:hν = 1486.6eV、幅=0.85eV、 出力 250W)を用いて、導電性カーボンテープに試料を圧着させ測定を行なった[5.0x10
-7Torr以下の減圧条件下、エネルギー掃引間隔;0.1eV、取り込み時間;0.2sec及び積算回数;20回(複合体A,B)、160回(複合体C)とした]。それぞれのXPSスペクトルを
図11~13に示す。
【0100】
図11~13から、各複合体は、Fe
3O
4及びFe
2O
3の両方又はいずれかの一方を含んでいることが分かる。
【0101】
<走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による分析>
実施例1~3で得られた各鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体A,B,Cの表面について、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡SU6600及びブルッカー社製の付属装置(ブルッカーASX QUANTAX XFlash 5060FQ:エネルギー分散型分光法)を用いて、それぞれSEM画像(
図17~19)および鉄原子のマッピング画像(
図14~16)の観察、元素分析を行った。試料はいずれも炭素テープに貼付けて、測定を行った。
【0102】
また、
図17~19の走査型電子顕微鏡画像から、各複合体は、鱗片状及び/又は板状の一次粒子が凝集した粒子を形成し、一次粒子の直径は0.2μm~40μmであることが確認された。
【0103】
図14~16から、複合体には、鉄原子が、均一性高く分散して担持されていることが分かる。
【0104】
[酸素還元活性の評価]
回転リングディスク電極(Pine社、Rotating Ring-Disk Electrode:RRDE)を用いて、酸素還元の活性を測定した。各触媒(実施例1~3で得られた空気側電極用触媒、白金担持カーボン(Pt/C)触媒)と、アイオノマー(ALDRICH Chemistry、Nafion溶液、274704)を有機溶媒中に分散して調製したインクを、グラッシーカーボン上に滴下し、測定電極(担持量0.51μg/mm
2)とした。なお、インクは、触媒5mg、アイオノマー(0.5重量%)0.15ml、有機溶媒0.85mlを混合して調製した。そして、実施例または比較例の触媒を用いて得られた測定電極を用いて、酸素で飽和した1mol/L水酸化カリウム水溶液を入れた3電極型セルを作製した。3電極型セルにおいて、参照電極には、水銀-水銀酸化物電極(Hg/HgO)、カウンター電極には、白金線を用いた。測定温度は、30℃で、回転数は、900rpmとした。走査速度は、0.001V/sとし、高電位から低電位に向けて走査した。得られた酸素還元活性(電流値(A/g))と電位との関係を示すグラフを
図20に示す。なお、触媒の代わりに、合成例1のグラフェンオキサイド(GO)を用いて測定電極を作製し、同様にして得られた酸素還元活性(電流値(A/g))と電位との関係もグラフに示す。
【0105】
[酸素還元活性の耐久性の評価]
回転リングディスク電極(Pine社、Rotating Ring-Disk Electrode:RRDE)を用いて、酸素還元活性の耐久性を測定した。各触媒(実施例1~3で得られた空気側電極用触媒、白金担持カーボン(Pt/C)触媒)と、アイオノマー(ALDRICH Chemistry、Nafion溶液、274704)を有機溶媒中に分散して調製したインクを、グラッシーカーボン上に滴下し、測定電極(担持量0.51μg/mm
2)とした。なお、インクは、触媒5mg、アイオノマー(0.5重量%)0.15ml、有機溶媒0.85mlを混合して調製した。そして、実施例または比較例の触媒を用いて得られた測定電極を用いて、酸素で飽和した1mol/L水酸化カリウム水溶液を入れた3電極型セルを作製した。3電極型セルにおいて、参照電極には、水銀-水銀酸化物電極(Hg/HgO)、カウンター電極には、白金線を用いた。測定温度は、30℃で、回転数は、900rpmとした。走査速度は、0.05V/sとし、-0.324Vから0.076V vs. Hg/HgOの電位範囲で10000サイクル走査した。得られた酸素還元活性(活性維持率(%))と充放電回数との関係を示すグラフを
図21に示す。
【0106】
[ヒドラジン酸化活性の評価]
回転ディスク電極(Pine社、Rotating Disk Electrode:RDE)を用いて、ヒドラジン酸化の活性を測定した。各触媒(実施例1~3で得られた空気側電極用触媒、白金担持カーボン(Pt/C)触媒)と、アイオノマー(ALDRICH Chemistry、Nafion溶液、274704)を有機溶媒中に分散して調製したインクを、グラッシーカーボン上に滴下し、測定電極(担持量0.51μg/mm
2)とした。なお、インクは、触媒5mg、アイオノマー(0.5重量%)0.15ml、有機溶媒0.85mlを混合して調製した。そして、実施例または比較例の触媒を用いて得られた測定電極を用いて、アルゴンで飽和した1mol/L水酸化カリウム+0.1wt%水加ヒドラジン水溶液を入れた3電極型セルを作製した。3電極型セルにおいて、参照電極には、水銀-水銀酸化物電極(Hg/HgO)、カウンター電極には、白金線を用いた。測定温度は、30℃で、回転数は、2500rpmとした。走査速度は、0.01V/sとし、高電位から低電位に向けて走査した。得られたヒドラジン酸化活性(質量活性(A/g))と電位との関係を示すグラフを
図22に示す。
【符号の説明】
【0107】
1 燃料電池
2 燃料側電極
3 空気側電極
4 電解質層