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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-31
(45)【発行日】2022-06-08
(54)【発明の名称】電動機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20220601BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220601BHJP
【FI】
H02P21/24
H02M7/48 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018165908
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020039227
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】小澤 孝英
(72)【発明者】
【氏名】西村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】ニナウェ プラティク
(72)【発明者】
【氏名】原田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊哉
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-050285(JP,A)
【文献】特開2017-229200(JP,A)
【文献】特開2016-163364(JP,A)
【文献】特開2008-167554(JP,A)
【文献】特開2010-172167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、
前記ベクトル制御部は、
前記電流検出器により検出された三相電流を二相電流に変換する3/2相変換部と、
静止座標系上の二相電流指令値と前記3/2相変換部によって変換された静止座標系上の前記二相電流との偏差に基づいて指令電圧ベクトルを決定する出力電圧決定部と、
前記指令電圧ベクトルから前記インバータの出力電圧と前記電動機のロータの位相を算出する出力電圧/角度算出部と、
前記ロータの位相から前記ロータの角速度を算出する速度演算部と、
前記ロータの角速度から目標出力電圧値を決定する目標出力電圧決定部と、
前記目標出力電圧値と前記インバータの出力電圧との偏差に基づいて位相補正量を決定する位相補正量決定部と、
前記ロータの位相に前記位相補正量を加算して前記ロータの位相を補正する位相補正部と、
前記インバータの出力電圧の変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに、更新停止信号を出力する電圧変動検出部と、
回転座標系上の磁化電流指令値を決定する目標磁化電流決定部と、
前記ロータの角速度と角速度指令値との偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値を決定する目標トルク電流決定部と、
前記磁化電流指令値および前記トルク電流指令値を、前記補正されたロータの位相に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値に変換する回転/静止座標変換部と、
前記指令電圧ベクトルを三相電圧指令値に変換する2/3相変換部とを備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、
前記ベクトル制御部は、
前記電流検出器により検出された三相電流を二相電流に変換する3/2相変換部と、
静止座標系上の二相電流指令値と前記3/2相変換部によって変換された静止座標系上の前記二相電流との偏差に基づいて指令電圧ベクトルを決定する出力電圧決定部と、
前記指令電圧ベクトルから前記インバータの出力電圧と前記電動機のロータの位相を算出する出力電圧/角度算出部と、
前記ロータの位相から前記ロータの角速度を算出する速度演算部と、
前記ロータの角速度から目標出力電圧値を決定する目標出力電圧決定部と、
前記目標出力電圧値と前記インバータの出力電圧との偏差に基づいて位相補正量を決定する位相補正量決定部と、
前記ロータの位相に前記位相補正量を加算して前記ロータの位相を補正する位相補正部と、
前記二相電流指令値と、対応する前記二相電流との偏差である第1の偏差および第2の偏差をそれぞれを検出する第1の偏差検出部および第2の偏差検出部と、
前記第1の偏差と前記第2の偏差から偏差指標値を算出し、前記偏差指標値が変動偏差しきい値よりも大きいときに、更新停止信号を出力する過渡状態検出部と、
回転座標系上の磁化電流指令値を決定する目標磁化電流決定部と、
前記ロータの角速度と角速度指令値との偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値を決定する目標トルク電流決定部と、
前記磁化電流指令値および前記トルク電流指令値を、前記補正されたロータの位相に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値に変換する回転/静止座標変換部と、
前記指令電圧ベクトルを三相電圧指令値に変換する2/3相変換部とを備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
前記目標磁化電流決定部は、前記磁化電流指令値として0を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記ベクトル制御部は、複数のローパスフィルタをさらに備え、
前記複数のローパスフィルタは、前記出力電圧決定部と出力電圧/角度算出部との間、または前記回転/静止座標変換部と前記出力電圧決定部との間に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記ベクトル制御部は、電圧送信セレクタをさらに備え、
前記電圧送信セレクタは、前記出力電圧/角度算出部と位相補正量決定部との間に配置されており、前記更新停止信号を受けると、前記出力電圧/角度算出部から前記位相補正量決定部への、前記インバータの出力電圧の送信を遮断するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記ベクトル制御部は、位相送信セレクタをさらに備え、
前記位相送信セレクタは、前記出力電圧/角度算出部と前記速度演算部および前記位相補正部との間に配置されており、前記更新停止信号を受けると、前記出力電圧/角度算出部から前記速度演算部および前記位相補正部への、前記ロータの位相の送信を遮断するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータや誘導モータなどの電動機を駆動する駆動装置に関し、特にインバータの出力電流に基づいてベクトル制御を行なう駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般に用いられているモータの制御方法としては、指令周波数に対応する電圧を出力することにより、電動機磁束を一定に保つV/F制御や、インバータの出力電流を励磁電流とトルク電流に分解し、負荷に見合ったモータ電流を流せるように励磁電圧とトルク電圧を制御するベクトル制御が挙げられる。
【0003】
V/F制御は高速な演算を必要とせず、簡易な構成でモータを制御することが出来る。しかし、このV/F制御では、フィードバック情報が乏しいため、個々のモータの特性に合わせた高効率な制御は期待出来ない。また、モータロータの位置を検出しないため、同期機の場合はモータロータが脱調する可能性もある。
【0004】
一方、同期機の脱調を防止し、且つ、高価な位置センサを使用することなく同期機を制御することが出来る制御方式として、センサレスベクトル制御がある。このセンサレスベクトル制御の制御ブロックを図8に示す。インバータ110の出力電流は、電流検出器112により検出され、この検出された三相電流は、3/2相変換部117、静止/回転座標変換部118により、回転座標系上の二相電流Id,Iqに変換された後、磁化電圧制御部122およびトルク電圧制御部121に入力される。磁化電圧制御部122は、現在の磁化電流Idと磁化電流指令値Id*との偏差が0となるような磁化電圧指令値Vd*をPI演算により求める。トルク電圧制御部121は、現在のトルク電流Iqとトルク電流指令値Iq*との偏差が0となるようなトルク電圧指令値Vq*をPI演算により求める。
【0005】
目標トルク電流決定部124は、外部から入力された角速度指令値ω*と現在の角速度ωとの偏差が0となるようにPI演算を行なってトルク電流指令値Iq*を決定する。現在の角速度ωは、電圧指令値Vd*,Vq*およびフィードバック電流Id,Iqに基づき、軸誤差推定器129および微分器132によって求められる。磁化電流指令値Id*は、モータモデルを用いて算出された理想的な磁化電流である。電圧指令値Vd*,Vq*は、回転/静止座標変換部135および2/3相変換部136を経て固定座標系上の3相電圧指令値に変換された後、インバータ110に送られる。
【0006】
この図8に示すセンサレスベクトル制御は、位置センサを用いずに、フィードバックされたモータ電流からロータの位置を推定する制御方式である。この制御方式は、モータモデルに基づいて負荷の状態に見合った最適な制御をしているため、モータの効率を最大限に発揮させることが出来る。
【0007】
しかしながら、センサレスベクトル制御では、フィードバックされたモータ電流から電圧指令値を高速周期で演算する必要がある。また、モータモデルが必要なため、モータMの巻線抵抗やリアクタンス等の多くのモータ定数を制御に用いる必要がある。正確なモータ定数を把握するためには手間がかかる上、それら巻線抵抗およびリアクタンスの温度依存も考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-256496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、従来のV/F制御だけではなし得なかった高効率化や最適トルク制御を実現しつつ、従来のセンサレスベクトル制御で必要とされたモータの巻線抵抗やリアクタンスなどのモータ定数を使用せずにモータを駆動することができ、従来のセンサレスベクトル制御より複雑な演算を必要としないセンサレスベクトル制御を実現することができる電動機の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、前記ベクトル制御部は、前記電流検出器により検出された三相電流を二相電流に変換する3/2相変換部と、静止座標系上の二相電流指令値と前記3/2相変換部によって変換された静止座標系上の前記二相電流との偏差に基づいて指令電圧ベクトルを決定する出力電圧決定部と、前記指令電圧ベクトルから前記インバータの出力電圧と前記電動機のロータの位相を算出する出力電圧/角度算出部と、前記ロータの位相から前記ロータの角速度を算出する速度演算部と、前記ロータの角速度から目標出力電圧値を決定する目標出力電圧決定部と、前記目標出力電圧値と前記インバータの出力電圧との偏差に基づいて位相補正量を決定する位相補正量決定部と、前記ロータの位相に前記位相補正量を加算して前記ロータの位相を補正する位相補正部と、前記インバータの出力電圧の変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに、更新停止信号を出力する電圧変動検出部と、回転座標系上の磁化電流指令値を決定する目標磁化電流決定部と、前記ロータの角速度と角速度指令値との偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値を決定する目標トルク電流決定部と、前記磁化電流指令値および前記トルク電流指令値を、前記補正されたロータの位相に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値に変換する回転/静止座標変換部と、前記指令電圧ベクトルを三相電圧指令値に変換する2/3相変換部とを備えていることを特徴とする駆動装置である。
【0011】
一態様では、インバータと、該インバータの出力電流を検出する電流検出器と、該インバータへの電圧指令値を決定するベクトル制御部とを備えた電動機の駆動装置であって、前記ベクトル制御部は、前記電流検出器により検出された三相電流を二相電流に変換する3/2相変換部と、静止座標系上の二相電流指令値と前記3/2相変換部によって変換された静止座標系上の前記二相電流との偏差に基づいて指令電圧ベクトルを決定する出力電圧決定部と、前記指令電圧ベクトルから前記インバータの出力電圧と前記電動機のロータの位相を算出する出力電圧/角度算出部と、前記ロータの位相から前記ロータの角速度を算出する速度演算部と、前記ロータの角速度から目標出力電圧値を決定する目標出力電圧決定部と、前記目標出力電圧値と前記インバータの出力電圧との偏差に基づいて位相補正量を決定する位相補正量決定部と、前記ロータの位相に前記位相補正量を加算して前記ロータの位相を補正する位相補正部と、前記二相電流指令値と、対応する前記二相電流との偏差である第1の偏差および第2の偏差をそれぞれを検出する第1の偏差検出部および第2の偏差検出部と、前記第1の偏差と前記第2の偏差から偏差指標値を算出し、前記偏差指標値が変動偏差しきい値よりも大きいときに、更新停止信号を出力する過渡状態検出部と、回転座標系上の磁化電流指令値を決定する目標磁化電流決定部と、前記ロータの角速度と角速度指令値との偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値を決定する目標トルク電流決定部と、前記磁化電流指令値および前記トルク電流指令値を、前記補正されたロータの位相に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値に変換する回転/静止座標変換部と、前記指令電圧ベクトルを三相電圧指令値に変換する2/3相変換部とを備えていることを特徴とする駆動装置である。
【0012】
一態様では、前記目標磁化電流決定部は、前記磁化電流指令値として0を出力することを特徴とする。
一態様では、前記ベクトル制御部は、複数のローパスフィルタをさらに備え、前記複数のローパスフィルタは、前記出力電圧決定部と出力電圧/角度算出部との間、または前記回転/静止座標変換部と前記出力電圧決定部との間に配置されていることを特徴とする。
一態様では、前記ベクトル制御部は、電圧送信セレクタをさらに備え、前記電圧送信セレクタは、前記出力電圧/角度算出部と位相補正量決定部との間に配置されており、前記更新停止信号を受けると、前記出力電圧/角度算出部から前記位相補正量決定部への、前記インバータの出力電圧の送信を遮断するように構成されていることを特徴とする。
一態様では、前記ベクトル制御部は、位相送信セレクタをさらに備え、前記位相送信セレクタは、前記出力電圧/角度算出部と前記速度演算部および前記位相補正部との間に配置されており、前記更新停止信号を受けると、前記出力電圧/角度算出部から前記速度演算部および前記位相補正部への、前記ロータの位相の送信を遮断するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
ベクトル制御部は、出力電圧決定部で決定された指令電圧ベクトルから直接ロータの角度情報(位相)を取得する。取得したロータの角度情報は、位相補正部で補正され、補正されたロータの角度情報は、回転/静止座標変換へ直接反映される。したがって、各制御でのパラメータ調整が容易になり、従来のセンサレスベクトル制御より複雑な演算を必要としないセンサレスベクトル制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。
図2図1に示すインバータを詳細に示す模式図である。
図3図3(a)および図3(b)は、同期モータの等価回路を示す図である。
図4】モータがある理想的な制御状態にあるときのベクトル図である。
図5】出力電流Ioutがq軸に対して位相進みであるときのベクトル図である。
図6】出力電流Ioutがq軸に対して位相遅れであるときのベクトル図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。
図8】従来のセンサレスベクトル制御の制御ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。この駆動装置は、電動機としてのモータMを駆動するインバータ装置(電力変換装置)であり、図1に示すようにインバータ10およびベクトル制御部11を含む複数の要素から構成されている。すなわち、駆動装置は、モータMに供給される電圧を生成するインバータ10と、インバータ10への電圧指令値を決定するベクトル制御部11と、インバータ10からモータMに供給される電流を検出する電流検出器(電流計)12とを備えている。
【0016】
図2は、図1に示すインバータ10を詳細に示す模式図である。インバータ10は、電力変換部としてのインバータ回路10Aと、このインバータ回路10Aを駆動するゲートドライバ10Bとから基本的に構成されている。インバータ回路10Aでは、直流電力(例えば、商用電源を全波整流して得られる直流電源からの直流電力)が供給される正極ラインPと負極ラインNとの間に3組の上下アームが並列に接続されており、各相の上下アームにはスイッチング素子(IGBT)S1~S6とダイオードD1~D6とからなる逆並列回路が組み込まれている。記号C1はコンデンサである。これらスイッチング素子S1~S6、ダイオードD1~D6、およびコンデンサC1によりインバータ回路10Aが構成されている。ゲートドライバ10Bは、ベクトル制御部11から送られる電圧指令値に従った電圧が生成されるように、インバータ回路10Aのスイッチング素子S1~S6を駆動する。
【0017】
電流検出器12は、インバータ10からモータMに供給される三相電流Iu,Iv,Iwを計測する。その計測値は、ゲイン調整器15によって増幅された後、ベクトル制御部11に入力される。なお、ゲイン調整器15は省略することもできる。なお、三相電流Iu,Iv,Iwの計測は、任意の2相の電流を計測し、式Iu+Iv+Iw=0から残りの電流を求めてもよい。ベクトル制御部11は、三相電流Iu,Iv,Iwおよび外部から入力される角速度指令値に基づいて三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。さらに、ベクトル制御部11は、これら三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応したPWM信号を生成し、このPWM信号をゲートドライバ10Bに送る。ゲートドライバ10Bは、三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM信号に基づいてゲートドライブPWM信号を生成し、6個のスイッチング素子S1~S6は、ゲートドライブPWM信号に基づいて動作(オン、オフ)される。このように、インバータ10はベクトル制御部11からの三相電圧指令値に基づいた電圧を生成し、これをモータMに印加する。
【0018】
図1に示すように、ベクトル制御部11は、電流検出器12により検出された三相電流Iu,Iv,Iwを二相電流Iα_r,Iβ_rに変換する3/2相変換部17と、静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dと3/2相変換部17によって変換された静止座標系上の二相電流Iα_r,Iβ_rとの偏差に基づいて指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを決定する出力電圧決定部18と、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dからインバータ10の出力電圧Vt_dとモータMのロータ(図示せず)の位相(角度)θを算出する出力電圧/角度算出部22と、ロータの位相θからロータの角速度ωcを算出する速度演算部26と、角速度ωcから目標出力電圧値Vdemを決定する目標出力電圧決定部27と、目標出力電圧値Vdemと出力電圧Vt_dとの偏差に基づいて位相補正量Δθを決定する位相補正量決定部32と、ロータの位相θに位相補正量Δθを加算してロータの位相θを補正する位相補正部33と、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力する電圧変動検出部31と、回転座標系上の磁化電流指令値Im_dを決定する目標磁化電流決定部39と、ロータの角速度ωcと角速度指令値ωdとの偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値It_dを決定する目標トルク電流決定部38と、磁化電流指令値Im_dおよびトルク電流指令値It_dを、位相補正部33によって補正されたロータの位相θ’に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dに変換する回転/静止座標変換部35と、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する2/3相変換部36とを備えている。
【0019】
ベクトル制御部11は、出力電圧決定部18と出力電圧/角度算出部22との間に配置された複数のローパスフィルタ21a,21bと、回転/静止座標変換部35と出力電圧決定部18との間に配置された複数のローパスフィルタ22a,22bと、電圧送信セレクタ25aと、位相送信セレクタ25bとをさらに備えている。電圧送信セレクタ25aは、出力電圧/角度算出部22と位相補正量決定部32との間に配置されており、位相送信セレクタ25bは、出力電圧/角度算出部22と、速度演算部26および位相補正部33との間に配置されている。
【0020】
ベクトル制御部11の基本的動作は次の通りである。電流検出器12によって検出された三相電流Iu,Iv,Iwは、二相電流(ベクトル)Iα_r,Iβ_rに変換される。変換された二相電流Iα_r,Iβ_rと、対応する目標値(二相電流指令値Iα_d,Iβ_d)との偏差がなくなるようにPI制御が行なわれ、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dが求められる。求められた二相の指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。そして、各相の電圧指令値に対応したPWM信号が生成され、このPWM信号はインバータ10のゲートドライバ10Bに送られる。ベクトル制御部11は、CPU(中央演算処理装置)または専用の処理装置から構成することができる。
【0021】
次に、図1を参照してベクトル制御部11について詳細に説明する。電流検出器12によって検出された三相電流Iu,Iv,Iwは3/2相変換部17に送られ、ここで静止座標系上の三相電流Iu,Iv,Iwは静止座標系上の二相電流Iα_r,Iβ_rに変換される。二相電流Iα_r,Iβ_rは出力電圧決定部18に入力される。
【0022】
二相電流Iα_r,Iβ_rの目標値である二相電流指令値Iα_d,Iβ_dは、回転/静止座標変換部35から出力電圧決定部18に入力される。過渡的な変動の高周波成分を含んだ二相電流指令値Iα_d,Iβ_dは、ローパスフィルタ22a,22bをそれぞれ通過して出力電圧決定部18に送られる。ローパスフィルタ22a,22bは、上記信号に含まれる高周波成分を除去する。これにより、過渡的な変動が除去された二相電流指令値Iα_d,Iβ_dが出力電圧決定部18に入力される。
【0023】
出力電圧決定部18は、二相電流指令値Iα_d,Iβ_dと、対応する二相電流Iα_r,Iβ_rとの偏差に基づいて指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを決定する。具体的には、出力電圧決定部18は、PI演算を実行して、二相電流指令値Iα_d,Iβ_dとの偏差をなくすための指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dを決定する。指令電圧ベクトルVα_dは、αβ静止座標系におけるα軸上のベクトルであり、指令電圧ベクトルVβ_dは、α軸に直交するβ軸上のベクトルである。指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、出力電圧決定部18から出力電圧/角度算出部22および2/3相変換部36に入力される。
【0024】
過渡的な変動の高周波成分を含んだ指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、ローパスフィルタ21a,21bをそれぞれ通過して出力電圧/角度算出部22に送られる。ローパスフィルタ21a,21bは、上記信号に含まれる高周波成分を除去する。これにより、過渡的な変動が除去された指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dが出力電圧/角度算出部22に入力される。
【0025】
出力電圧/角度算出部22は、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dからインバータ10の出力電圧Vt_dとモータMのロータの位相(角度)θを算出する。出力電圧Vt_dは、αβ軸上の指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dの信号を合成して得ることができる。したがって、出力電圧Vt_dおよび位相θは以下の式から求めることができる。
Vt_d=√(Vα_d+Vβ_d) (1)
θ=tan-1(Vα_d/Vβ_d) (2)
【0026】
出力電圧Vt_d(上記(1)式で得られた算出値)は出力電圧/角度算出部22から電圧変動検出部31に送られる。さらに、出力電圧Vt_dは、出力電圧/角度算出部22から電圧送信セレクタ25aを通過して位相補正量決定部32に送られる。ロータの位相θは、位相送信セレクタ25bを通過して速度演算部26および位相補正部33に送られる。速度演算部26は、ロータの位相θからロータの角速度ωcを算出する。具体的には、角速度ωcは、位相θの時間変化(微分演算)から求められる。角速度ωcは、目標出力電圧決定部27および目標トルク電流決定部38に入力される。
【0027】
目標出力電圧決定部27は、角速度ωcから目標出力電圧値Vdemを決定する。目標出力電圧値Vdemは、理想的な制御状態にあるときのインバータ10の出力電圧に等しい。より具体的には、目標出力電圧決定部27には、目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの関係を示すV/ωパターンが予め記憶されている。このV/ωパターンは、現在のロータの角速度ωcに対応する目標出力電圧値Vdemを決定するための、角速度ωcと目標出力電圧値Vdemとの対応関係を定義する。V/ωパターンは、目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの関係を示す関数またはテーブルデータとして目標出力電圧決定部27に記憶されている。目標出力電圧決定部27は、V/ωパターンに基づいて、現在の角速度ωcに対応する目標出力電圧値Vdemを決定する。なお、公知の式ω=2πFを用いて、角速度ωcから周波数Fを求めることができるので、目標出力電圧値Vdemと周波数Fとの関係を示すV/Fパターンを目標出力電圧決定部27に記憶させてもよい。
【0028】
目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの関係は、目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの比が一定となる関係でもよいし、負荷トルクがモータの回転速度の二乗に比例するポンプやファンなどを駆動する場合は、目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの比が、二乗低減トルク特性に沿った二乗低減カーブで表されてもよい。V/ωパターンは、従来のV/F制御と同様の手法に従って、モータMの定格電圧と定格周波数とから設定することができる。
【0029】
目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの比が一定となるV/ωパターンに基づいて、目標出力電圧値Vdemを決定する場合には、電動機の定格電圧および定格周波数のみが必要となり、電動機の巻線抵抗やリアクタンスなどのモータ定数は不要である。目標出力電圧値Vdemと角速度ωcとの比が一定となるV/ωパターン以外のパターンで目標出力電圧値Vdemを決定したい場合は、目標出力電圧決定部27に記憶されているV/ωパターンに従って目標出力電圧値Vdemを決定することもできるので複雑な演算が不要である。従って、複雑な演算を行わずに安定して電動機のセンサレス駆動を実現することができる。
【0030】
目標出力電圧値Vdemは、目標出力電圧決定部27から出力され、位相補正量決定部32に入力される。位相補正量決定部32は、目標出力電圧値Vdemと、出力電圧/角度算出部22から入力される出力電圧Vt_dとの偏差をなくすための位相補正量Δθを決定する。位相補正量Δθは、位相補正量決定部32から位相補正部33に入力される。位相補正部33は、出力電圧/角度算出部22から入力されるロータの位相θに位相補正量Δθを加算してロータの位相θを補正する。補正された位相は、位相θ’として位相補正部33から出力され、回転/静止座標変換部35に入力される。位相θ’は、回転座標系上の電流指令値Im_d,It_dをαβ静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dへ変換するための角度情報として使用される。本明細書において、回転座標系とは、ロータの永久磁石による磁束の方向をd軸とし、d軸に直交する軸をq軸としたdq回転座標系のことである。
【0031】
出力電圧決定部18から出力される指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは電気的な情報の為、機械的時定数に比べ応答速度が速く、一時的に変動が大きくなる場合がある。この変動が大きくなった時に、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dから算出した電圧(出力電圧Vt_d)、角度情報(位相θ)を基にセンサレス制御(位相補正)を行うと、この変動の影響でモータMが脱調し、モータMの駆動が行えないおそれがある。
【0032】
そこで本実施形態では、出力電圧Vt_dを算出した後、電圧変動検出部31にて、出力電圧Vt_dの時間変化を検出する。電圧変動検出部31は、出力電圧Vt_dの変化が大きく過渡状態と判断した場合は、更新停止信号を出力する。具体的には、電圧変動検出部31は、出力電圧Vt_dの変動量を変動電圧しきい値と比較し、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力し、出力電圧Vt_dの変動量が変動電圧しきい値よりも小さいときは更新停止信号を出力しない。この更新停止信号は、電圧送信セレクタ25aおよび位相送信セレクタ25bに入力される。
【0033】
電圧変動検出部31から出力された更新停止信号を受けると、電圧送信セレクタ25aが作動し、出力電圧/角度算出部22から位相補正量決定部32への出力電圧Vt_dの送信を遮断する。結果として、位相補正量決定部32での出力電圧Vt_dの更新が停止される。同様に、電圧変動検出部31から出力された更新停止信号を受けると、位相送信セレクタ25bが作動し、出力電圧/角度算出部22から速度演算部26および位相補正部33への位相θの送信を遮断する。結果として、速度演算部26および位相補正部33での位相θの更新が停止される。この様にすることで、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dの過渡的な変動に起因するモータMの脱調を防止できる。
【0034】
回転/静止座標変換部35には、目標磁化電流決定部39と目標トルク電流決定部38とが接続されている。目標磁化電流決定部39は、磁化電流指令値Im_dを決定する。具体的には、目標磁化電流決定部39は、磁化電流指令値Im_dとして0を出力する。この目標磁化電流決定部39はPI制御部ではなく、磁化電流指令値Im_dとして0を単に出力するように構成されている。目標トルク電流決定部38は速度制御部であり、ロータの角速度ωcと角速度指令値ωdとの偏差に基づいて回転座標系上のトルク電流指令値It_dを決定する。角速度指令値ωdは、モータMに要求される所望の角速度であり、ベクトル制御部11の外部から目標トルク電流決定部38に入力される。
【0035】
具体的には、目標トルク電流決定部38は、ベクトル制御部11の外部から入力される角速度指令値ωdと、ロータの角速度ωcとの偏差をなくすためのトルク電流指令値It_dをPI演算により求める。目標トルク電流決定部38は、角速度指令値ωdが現在の角速度ωcよりも大きければ(すなわち、ωd>ωcであれば)、トルクを増やして増速させるためにより大きなトルク電流指令値It_dを出力する。一方、角速度指令値ωdが現在の角速度ωcよりも小さければ(すなわち、ωd<ωcであれば)、トルクを減らして減速させるためにより小さなトルク電流指令値It_dを出力する。
【0036】
トルク電流指令値It_dおよび磁化電流指令値Im_dは、回転座標系上の電流指令値であり、回転/静止座標変換部35に入力される。トルク電流指令値It_dおよび磁化電流指令値Im_dは、回転/静止座標変換部35で、位相θ’に基づいて、静止座標系上の二相電流指令値Iα_d,Iβ_dに変換される。二相電流指令値Iα_d,Iβ_dは、出力電圧決定部18に入力され、ここで上述のように指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dが決定される。
【0037】
上述のように指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、出力電圧決定部18から出力電圧/角度算出部22および2/3相変換部36に入力される。二相の指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dは、2/3相変換部36により三相(u相、v相、w相)の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。インバータ10は、上述のように、三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に従って電圧を生成する。
【0038】
以上のように、ベクトル制御部11は、出力電圧決定部18で決定された指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dから直接ロータの角度情報(位相θ)を取得する。取得したロータの角度情報は、位相補正部33で補正され、補正されたロータの角度情報(位相θ’)は、回転/静止座標変換へ直接反映される。したがって、各制御でのパラメータ調整が容易になり、従来のセンサレスベクトル制御より複雑な演算を必要としないセンサレスベクトル制御を実現することができる。
【0039】
ここで、ベクトル制御部11が永久磁石型同期モータを制御する場合について説明する。
dq回転座標系において、ロータの永久磁石による磁束の方向をd軸とし、d軸に直交する軸をq軸とすると、モータMの等価回路は図3(a)および図3(b)に示すようになる。図3(a)および図3(b)において、Rは巻線抵抗を表し、Ldはd軸方向のインダクタンスを表し、Lqはq軸方向のインダクタンスを表し、ωは角速度を表し、Eは誘起電圧を表している。
【0040】
図3(a)はd軸の方向に電流Idが流れたときの等価回路を示し、図3(b)はq軸の方向に電流Iqが流れたときの等価回路を示す。図3(a)および図3(b)により、電圧方程式は次のように表される。
Vd=Id・R+pLdId-ωLqIq (3)
Vq=Iq・R+pLqIq+ωLdId+E (4)
ここで、pは時間微分(d/dt)を表す。図3(a)および図3(b)に示す記号jは虚数単位を表している。干渉成分jωLqIq,jωLdIdをdq軸(モータ軸)上に表すと、ベクトルの方向が変換されて記号jがとれるので、記号jは式(3)および式(4)は表されていない。なお、式(3)および式(4)において、誘起電圧Eは、角速度ωと永久磁石による鎖交磁束Ψとの積である。
【0041】
図4は、モータMがある理想的な制御状態にあるときのベクトル図である。理想的な制御状態にあるとき、インバータ10の出力電流Ioutの位相はq軸に一致する。出力電圧Vt_dは、インダクタンス成分(L)があるため、出力電流Ioutに対して位相遅れが生じる。理想的な制御状態にあるときの出力電圧Vt_dを目標出力電圧値Vdemとし、出力電圧Vt_dの位相に一致する軸をT軸とし、T軸に垂直な軸をM軸とする。MT軸はインバータ10を制御する制御軸である。
【0042】
次に、位相補正量Δθを決定するプロセスについて説明する。説明の簡略化のために、同期モータがSPMモータ(表面磁石型モータ、Surface Permanent Magnet motor)である場合を考える。SPMモータの場合は、インバータ10からの出力電流Ioutがd軸に垂直に流れるときが最も運転効率がよくなる。したがって、d軸上の電流Idが0のときを理想の制御状態とする。
【0043】
インバータ10の出力電圧Vt_dは、式(3)および式(4)より次のように求められる。
Vt_d(→)=Vd(→)+Vq(→) (5)
Vt_d=Id・R+pLdId-ωLqIq
+Iq・R+pLqIq+ωLdId+ωΨ (6)
ただし、記号(→)はベクトルを表している。
【0044】
モータMが安定して運転している場合、上記式(6)の微分項は無視することができるので、上記式(6)は、
Vt_d=Id・R-ωLqIq+Iq・R+ωLdId+ωΨ
=Id・R+Iq・R+ω(LdId-LqIq+Ψ) (7)
と表される。
さらに、ベクトルIoutは、ベクトルIdとベクトルIqとの合成であるので、上記式(7)は、
Vt_d=Iout・R+ω(LdId-LqIq+Ψ) (8)
と表される。
図4に示す状態においては、Id=0であるので、Iq=Ioutとなる。したがって、式(8)は次のように表される。
Vout=Iq・R-ωLqIq+ωΨ (9)
【0045】
図5は、出力電流Ioutがq軸に対して位相進みであるときのベクトル図である。出力電流Ioutの位相がq軸より進んでいるとき、d軸にマイナスの電流が流れる(Id<0)。出力電流Ioutの位相がq軸より進んでおり、かつ出力電流Ioutが、図4に示す出力電流Ioutと同じ大きさのとき、出力電圧Vt_dの大きさは、理想的な制御状態にあるときの目標出力電圧値Vdem(図4参照)よりも小さくなる。
【0046】
図6は、出力電流Ioutがq軸に対して位相遅れであるときのベクトル図である。出力電流Ioutの位相がq軸より遅れているとき、d軸にプラスの電流が流れる(Id>0)。出力電流Ioutの位相がq軸より遅れており、かつ出力電流Ioutが、図4に示す出力電流Ioutと同じ大きさのとき、出力電圧Vt_dの大きさは、理想的な制御状態にあるときの目標出力電圧値Vdem(図4参照)よりも大きくなる。したがって、出力電圧Vt_dが目標出力電圧値Vdemと等しくなるための位相補正量Δθを決定することで、出力電流Ioutの位相を制御することが可能となる。
【0047】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
図7は、本発明の他の実施形態に係る駆動装置を示すブロック図である。この駆動装置は、電動機としてのモータMを駆動するインバータ装置(電力変換装置)であり、図7に示すようにインバータ10およびベクトル制御部11を含む複数の要素から構成されている。すなわち、駆動装置は、モータMに供給される電圧を生成するインバータ10と、インバータ10への電圧指令値を決定するベクトル制御部11と、インバータ10からモータMに供給される電流を検出する電流検出器(電流計)12とを備えている。
【0048】
本実施形態のベクトル制御部11は、電圧変動検出部31を備えておらず、代わりに二相電流指令値Iα_df,Iβ_dfと、対応する二相電流Iα_r,Iβ_rとの偏差である第1の偏差Iα_errおよび第2の偏差Iβ_errをそれぞれ検出する第1の偏差検出部40bおよび第2の偏差検出部40cを備えている。ベクトル制御部11は、後述する偏差指標値I_Errが変動偏差しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力する過渡状態検出部40aをさらに備えている。
【0049】
第1の偏差検出部40bは、3/2相変換部17と回転/静止座標変換部35に接続され、3/2相変換部17から出力された電流Iα_rと、回転/静止座標変換部35から出力された電流指令値Iα_dfが第1の偏差検出部40bに入力される。第2の偏差検出部40cも3/2相変換部17と回転/静止座標変換部35に接続され、3/2相変換部17から出力された電流Iβ_rと、回転/静止座標変換部35から出力された電流指令値Iβ_dfが第2の偏差検出部40cに入力される。
【0050】
偏差検出部40b,40cは、二相電流指令値Iα_df,Iβ_dfと、対応する二相電流Iα_r,Iβ_rとの偏差である第1の偏差Iα_errおよび第2の偏差Iβ_errをそれぞれ検出する。具体的には、第1の偏差検出部40bは、電流Iα_rと、電流指令値Iα_dfとの偏差(すなわち第1の偏差Iα_err)を検出する。第2の偏差検出部40cは、電流Iβ_rと、電流指令値Iβ_dfとの偏差(すなわち第2の偏差Iβ_err)を検出する。第1の偏差Iα_errは、第1の偏差検出部40bから過渡状態検出部40aに送られ、第2の偏差Iβ_errは、第2の偏差検出部40cから過渡状態検出部40aに送られる。
【0051】
過渡状態検出部40aは、第1の偏差Iα_errと第2の偏差Iβ_errから偏差指標値I_Errを算出する。過渡状態検出部40aは、偏差指標値I_Errが大きく過渡状態と判断した場合は、更新停止信号を出力する。具体的には、過渡状態検出部40aは、偏差指標値I_Errを所定の変動偏差しきい値と比較し、偏差指標値I_Errが変動偏差しきい値よりも大きいときに更新停止信号を出力し、偏差指標値I_Errが変動偏差しきい値よりも小さいときは更新停止信号を出力しない。この更新停止信号は、電圧送信セレクタ25aおよび位相送信セレクタ25bに入力される。偏差指標値I_Errは以下の式から求めることができる。
I_Err=√(Iα_err+Iβ_err) (10)
【0052】
過渡状態検出部40aから出力された更新停止信号を受けると、電圧送信セレクタ25aが作動し、出力電圧/角度算出部22から位相補正量決定部32への出力電圧Vt_dの送信を遮断する。結果として、位相補正量決定部32での出力電圧Vt_dの更新が停止される。同様に、過渡状態検出部40aから出力された更新停止信号を受けると、位相送信セレクタ25bが作動し、出力電圧/角度算出部22から速度演算部26および位相補正部33への位相θの送信を遮断する。結果として、速度演算部26および位相補正部33での位相θの更新が停止される。この様にすることで、指令電圧ベクトルVα_d,Vβ_dの過渡的な変動に起因するモータMの脱調を防止できる。
【0053】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0054】
10 インバータ
11 ベクトル制御部
12 電流検出器
17 3/2相変換部
18 出力電圧決定部
21a,21b,22a,22b ローパスフィルタ
22 出力電圧/角度算出部
25a 電圧送信セレクタ
25b 位相送信セレクタ
26 速度演算部
27 目標出力電圧決定部
31 電圧変動検出部
32 位相補正量決定部
33 位相補正部
35 回転/静止座標変換部
36 2/3相変換部
38 目標トルク電流決定部
39 目標磁化電流決定部
40a 過渡状態検出部
40b 第1の偏差検出部
40c 第2の偏差検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8