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特許7082753電子回路、及び、ノイズフィルタの設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】電子回路、及び、ノイズフィルタの設置方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/06 20060101AFI20220602BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20220602BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20220602BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20220602BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20220602BHJP
   H03H 7/09 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F27/245 155
H01F27/25
H01F27/06 103
H01F37/00 A
H01F37/00 T
H01F17/06 A
H03H7/09 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018004738
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019125670
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 正
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-165173(JP,A)
【文献】特開平09-283350(JP,A)
【文献】国際公開第2014/126220(WO,A1)
【文献】特開2012-210106(JP,A)
【文献】実開昭61-151310(JP,U)
【文献】国際公開第2017/170818(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0089243(US,A1)
【文献】特開平07-066046(JP,A)
【文献】特開昭61-201404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 27/24
H01F 27/25
H01F 27/06
H01F 41/02
H01F 37/00
H03H 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタと、磁場の発生源と、を備えた電子回路であって、
前記巻コアは巻回されたコイルを備え、前記コイルにより前記巻コアの周方向に磁束が生じる構成であり、
前記磁場の発生源により磁場が発生する空間に、前記ノイズフィルタが配置されており、
前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向が、前記巻コアの軸方向に平行であることを特徴とする電子回路。
【請求項2】
前記磁場が発生する空間において、前記巻コアの中点における磁束密度は0.005T(テスラ)以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記磁場の発生源がトランスまたは磁石であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子回路。
【請求項4】
ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタの設置方法であって、
前記巻コアは巻回されたコイルを備え、前記コイルにより前記巻コアの周方向に磁束が生じる構成であり、
前記ノイズフィルタの周囲に磁場の発生源を有し、前記磁場の発生源により生じる磁場中に前記ノイズフィルタが配置され、前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向と、前記巻コアの軸方向とが、平行になるように、前記巻コアを設置することを特徴とするノイズフィルタの設置方法。
【請求項5】
前記磁場による、前記巻コアの中点における磁束密度が0.005T(テスラ)以上であることを特徴とする請求項4に記載のノイズフィルタの設置方法。
【請求項6】
前記磁場の発生源がトランスまたは磁石であることを特徴とする請求項4または5に記載のノイズフィルタの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流中のノイズを抑制するためのノイズフィルタを備えた電子回路、及びノイズフィルタの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に示すように電源201、インバータ202、電子機器203等を含む電子回路では、電源201側のコンバータ部から発生する高周波スイッチングノイズ、モータ等の電子機器203から発生する高電圧パルス性ノイズ等のノイズがあり、誤動作の原因となる。このようなノイズによる誤動作を防ぐため、電源201とインバータ202及び電子機器203との間にノイズフィルタ10が挿入されている。ノイズフィルタ10として、例えば、コモンモードチョークコイルが使用される。
【0003】
コモンモードチョークコイルは、例えば、2本の電線が用いられる単相電源用のものや、3本の電線が用いられる三相電源用のものがある。図3は三相電源用のノイズフィルタ10の一般的な構成を示す図である。このノイズフィルタ10は、それぞれ3つの電源側の入力端子101aと電子機器側の出力端子101bを有し、その間に、ノーマルモードノイズを低減する相間コンデンサC11,C12,C13,C21,C22,C23と、コモンモードノイズを低減するコモンモードチョークコイル5と、接地コンデンサC31,C32,C33とが配置されている。
【0004】
図4はコモンモードチョークコイル5の一例を示す。このコモンモードチョークコイル5は、例えば特開2000-340437号に記載されるように、環状磁心1と、環状磁心1に巻回された複数のコイルL1,L2,L3により構成されている。コモンモードチョークコイル5は、電源経路を流れるコモンモードノイズに対して大きなインピーダンスを示し、各コイルL1,L2,L3によるインダクタンスと接地コンデンサC31,C32,C33により電源からのコモンモードノイズを減衰させ、入力端子の各相間に接続された相間コンデンサC11,C12,C13と、出力端子の各相間に接続された相間コンデンサC21,C22,C23と、各コイルの漏洩インダクタンスによって、入力端子へのノーマルモードノイズを減衰させ、電源及び電子機器のノイズが相互に侵入するのを防止する。
【0005】
このコモンモードチョークコイルのコアには、高い透磁率を持つナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなるコアが用いられている。
ナノ結晶軟磁性合金として、特公平7-74419号は、一般式:(Fe1-a100-x-y-z-αCuSiM’α(ただし、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb,W,Ta,Zr,Hf,Ti及びMoからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a,x,y,z及びαはそれぞれ0≦a≦0.5,0.1≦x≦3,0≦y≦30,0≦z≦25,5≦y+z≦30及び0.1≦α≦30を満たす。)により表される組成有し、組織の少なくとも50%が100nm以下の平均粒径を有する微細な結晶粒からなり、残部が実質的に非晶質であるFe基のナノ結晶軟磁性合金を開示している。
通常、ナノ結晶軟磁性合金は薄帯状に製造される。そして、この薄帯を巻き回した巻コアがコモンモードチョークコイルのコアとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-340437号
【文献】特公平7-74419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ノイズフィルタ用のコアに要求される特性として、インダクタンス特性がある。コアのインダクタンスが小さいと、ノイズを十分に低減させることができないという問題が起こる。
しかし、コアが要求されるインダクタンスの範囲を満たしていても、ノイズフィルタの設置状況により、そのコアを用いたノイズフィルタがノイズを十分に低減できないことがあった。
【0008】
本発明の課題は、ノイズフィルタのノイズの低減効果を確保できる電子回路、および、ノイズフィルタの設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における第1の形態は、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタと、磁場の発生源と、を備えた電子回路であって、
前記磁場の発生源により磁場が発生する空間に、前記ノイズフィルタが配置されており、
前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向が、前記巻コアの軸方向に平行であることを特徴とする。
前記磁場が発生する空間において、前記巻コアの中点における磁束密度は0.005T(テスラ)以上とすることができる。
また、前記磁場の発生源がトランスまたは磁石とすることができる。
また、本発明における第2の形態は、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタの設置方法であって、
前記ノイズフィルタの周囲に磁場の発生源を有し、前記磁場の発生源により生じる磁場中に前記ノイズフィルタが配置され、前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向と、前記巻コアの軸方向とが、平行になるように、前記巻コアを設置することを特徴とする。
前記磁場が発生する空間において、前記巻コアの中点における磁束密度は0.005T(テスラ)以上とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ノイズフィルタのノイズの低減効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】巻コアの軸方向と空間内の磁場の磁力線の方向とが平行な状態を示す図である。
図2】電子回路の模式図である。
図3】三相電源用のノイズフィルタの回路図の一例である。
図4】コモンモードチョークコイルの一例を示す図である。
図5】巻コアの軸方向と空間内の磁場の磁力線の方向とが垂直な状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、コアが要求されるインダクタンスの範囲を満たしていても、ノイズフィルタの設置状況により、そのコアを用いたノイズフィルタがノイズを十分に低減できない現象がなぜ起こるのか、その原因を調査した。その結果、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアは、置かれた環境の磁場の状態により、インダクタンスが大きく低下することを突き止めた。
また、その対策として、図1に示すように、置かれた環境の磁場の磁力線の方向が、巻コアの軸方向に平行となるようにノイズフィルタを配置した場合、巻コアのインダクタンスの低下が抑制されて、ノイズのフィルタリング能力を保持しやすいことを知見した。
つまり、置かれた環境の磁場の磁力線の方向が、巻コアの軸方向と垂直の場合はインダクタンスが低下するが、両者が平行となるようにノイズフィルタを配置した場合には、インダクタンスの低下を抑制できることを本発明者は知見した。この原因については次のように推察される。巻コアの軸方向に対して垂直方向に外部磁界が印加される(外部磁場の磁力線の方向が巻コアの軸方向に対して垂直方向)と、コアの周方向に流れる磁束が発生する。コアのインダクタンスは、コアの周方向での磁束の量に影響を受けるが、この発生した磁束によりコアが磁気飽和を起こして、インダクタンスが低下するものと考えられる。一方、巻コアの軸方向と外部磁界の磁力線の方向とが平行の場合は、コアの周方向への磁束は発生しないため、インダクタンスの増減が少ないと考えられる。
【0013】
つまり、本発明は、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタと、磁場の発生源と、を備えた電子回路であって、
前記磁場の発生源により磁場が発生する空間に、前記ノイズフィルタが配置されており、
前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向が、前記巻コアの軸方向に平行であることを特徴とする。
なお、本発明において、前記磁場の磁力線の方向とは、巻コアを配置しない状態での磁力線の方向を挿すものとする。
なお、インダクタンスの低下防止のために、巻コアの軸方向と磁場の磁力線の方向とが平行であることを特徴とするが、この平行とは、完全な平行のみを言うのではなく、相対的な角度の誤差が40°以下であれば良い。なお、この角度の誤差は30°以下であることが好ましく、更には20°以下、10°以下、5°以下、3°以下、1°以下の順で、好ましい。
また、巻コアの中点とは、巻コアの径方向の中心であって、巻きコアの高さ方向の中心である。
【0014】
前記磁場による、巻コアの中点における磁束密度は0.005T(テスラ)以上であることが好ましい。これにより、本発明におけるノイズの抑制効果を維持できる。
さらには、磁束密度が0.01T以上、さらには0.02T以上であっても、ノイズの抑制効果を維持できる。
磁束密度の上限は特に限定されないが、電子回路が安定動作できるためには空間内の磁束密度が0.3T以下にすべきであり、その観点から、0.3Tを上限とすることが好ましい。
【0015】
本発明のノイズフィルタを備えた電子回路は、特に、10MHz以下のノイズの低減効果を確保しやすい。稼動する周波数が、5MHz以下である場合にさらにノイズの低減効果を確保しやすく、1MHz以下、500kHz以下、100kHz以下、50kHz以下の順で、さらに低減効果を確保しやすい。
【0016】
また、本発明は、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアを用いたノイズフィルタの設置方法であって、
前記ノイズフィルタの周囲に磁場の発生源を有し、前記磁場の発生源により生じる磁場中に前記ノイズフィルタが配置され、前記巻コアの中点における前記磁場の磁力線の方向と、前記巻コアの軸方向とが、平行になるように、前記巻コアを設置することを特徴とする。
磁場の磁力線の方向と巻コアの軸方向との相対的な角度の誤差、磁場の磁束密度、巻コアの形態、電子回路が稼動する周波数等との関係は、上記と同様である。
【0017】
以下に、さらに詳細に本発明を説明する
先ず、本発明で用いられるナノ結晶軟磁性合金について説明する。
ナノ結晶軟磁性合金は、ナノ結晶化が可能な非晶質合金を熱処理することで得られる。ナノ結晶化が可能な非晶質合金としては、例えば、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)(ただし、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、a,x,y,z,α,β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5,0.1≦x≦3,0≦y≦30,0≦z≦25,5≦y+z≦30、0≦α≦20,0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。)により表される組成の合金を使用することができる。好ましくは、上記一般式において、a,x,y,z,α,β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1,0.7≦x≦1.3,12≦y≦17,5≦z≦10,0.1≦α≦5,0≦β≦1及び0≦γ≦1を満たす範囲である。さらに好ましくは、a=0,0.8≦x≦1.2,13≦y≦16.5,6≦z≦9,1.0≦α≦4,β=0及びγ=0を満たす組成である。これらの組成の合金は、高い透磁率と低い保磁力を兼ね備えた巻磁心を得やすい。
前記組成の合金を、融点以上に溶融し、単ロール法等により、急冷凝固することで、長尺状の非晶質合金薄帯を得ることができる。この非晶質合金薄帯を、巻き回して巻コア材とする。その後、結晶化開始温度以上の温度で熱処理することで巻コア材はナノ結晶化され、その結果、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯からなる巻コアが得られる。
【0018】
非晶質合金薄帯を巻きまわす際、積み重ねられる薄帯の間は、僅かな隙間や他の物質が存在してもよい。巻コア材に占める非晶質合金薄帯の占積率は、例えば70%~90%程度である。占積率は、内径、外径、高さから算出される巻コアの体積、巻コアの重量と、非晶質合金薄帯の比重から計算でき、巻コアの重量を、巻コアの体積と非晶質合金薄帯の比重の積で割った値のパーセンテージの数値として算出される数値である。
【0019】
ナノ結晶化の熱処理は、磁場を印加しながら熱処理してもよいし、磁場を印加しない状態で熱処理してもよく、既知の熱処理方法を適用できる。
ナノ結晶化された合金薄帯は、少なくとも50体積%、さらには少なくとも80体積%が、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。合金の微細結晶粒以外の部分は主に非晶質である。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%であってもよい。
【0020】
本発明において、磁場の発生源とは、例えば、0.005T以上の磁場を発生させる、発電所における変圧器のトランスや、大型モータや類似の機械を使用する環境で使われている磁石(永久磁石、電磁石)が該当する。
【0021】
本発明において、巻コアのインダクタンスの測定は以下の方法で行った。
磁界中でのインダクタンスの測定は、磁場中熱処理炉の磁場発生装置を用いて、均一磁界が印加される空間をつくり、その空間に巻コアを配置して測定した。
磁場測定:Lake Shore 410 Gaussmeter
AL値測定:HEWLETT PACKARD 4284A
測定条件:Im=4.1mA 、周波数10kHz、100kHz、1MHz
磁場強度:0.03T、0.06T
インダクタンス(実効自己インダクタンス)は、LCRメータ(Agilent Technologies, Inc.製4284A)で測定した。
【実施例
【0022】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施形態に縛られるものではない。
(実施例1)
原子%で、Cu:1%、Nb:3%、Si:15%、B:7%、残部Fe及び不可避不純物からなる合金溶湯を単ロ-ル法により急冷し、幅50mm、厚さ14μmと18μmのFe基非晶合金薄帯を得た。示差走査熱量計(DSC)での測定により、この合金の結晶化開始温度は500℃であった。このFe基非晶合金薄帯を、それぞれ、幅15mmにスリット(裁断)した後、外径31mm、内径21mmに巻回し(高さ15mm)、巻コア材を作製した。
作製した巻コア材に対して、熱処理を行い、ナノ結晶軟磁性合金の薄帯が巻かれた巻コアを得た。厚さ18μmのFe基非晶合金薄帯を用いた巻コア材は、次のパターン1とパターン3の磁場印加と温度のパターンで熱処理した。厚さ14μmのFe基非晶合金薄帯を用いた巻コア材は、次のパターン2の磁場印加と温度のパターンで熱処理した。
【0023】
[パターン1]:60分で450℃まで昇温し、240分かけて最高温度570℃まで昇温した。その後、この最高温度で60分保持した後、240分かけて100℃まで降温し、その後、加熱せず炉内に保持したまま室温まで放冷した。この間、磁場は印加していない。
[パターン2]:280分で500℃まで昇温し、磁束密度が0.1Tとなるよう巻コアの軸方向に磁場を印加し、30分かけて最高温度570℃まで昇温した。その後、この最高温度で30分保持した後、磁場を切り60分かけて300℃まで降温し、その後、加熱せず炉内に保持したまま室温まで放冷した。
[パターン3]:磁束密度が0.2Tとなるよう巻コアの軸方向に磁場を印加し、その状態から120分で450℃まで昇温し、90分保持し、120分かけて530℃まで上昇し、更に40分かけて最高温度570℃まで昇温した。その後、この最高温度で50分保持した後、磁場を切り60分かけて300℃まで降温し、その後、加熱せず炉内に保持したまま室温まで放冷した。
【0024】
パターン1~3により得られた巻コアのインダクタンスを測定した。
先ず、磁場を意図的に印加しない空間内で、インダクタンスを測定した。
次に、磁束密度が0.03Tと0.06Tとなるように磁場を印加した空間内で、巻コアのインダクタンスを測定した。その際、空間内への巻コアの設置は、巻コア1の軸方向が空間内の磁場の磁力線の方向2に対して平行にした場合(図1)と垂直にした場合(図5)との、2つのパターンで行った。(巻コアの中点でも同様)
インダクタンスを測定する周波数は、10kHz、100kHz、1MHzとした。この周波数は、ノイズフィルタにおけるノイズの周波数に相当する。
測定結果を表1に示す。また、表1に、磁束密度が0Tから0.03Tに変化した場合の変化率δ0.03と、磁束密度が0Tから0.06Tに変化した場合の変化率δ0.06の算出結果を記載する。
【0025】
【表1】
【0026】
巻コアのインダクタンスは、変化率δ0.06が、変化率δ0.03に対して、パターン1の1MHzで測定した場合を除いて、大きい。つまり、空間の磁束密度が大きくなるほど、巻コアのインダクタンスの変化は大きくなる傾向がある。
【0027】
巻コアの軸方向を磁場の磁力線の方向に対して平行にして測定したインダクタンスの変化率δ0.03及びδ0.06は、垂直にして測定したインダクタンスの変化率δ0.03及びδ0.06よりも格段に小さい。つまり、巻コアの軸方向を空間内の磁場の磁力線の方向に対して平行にして設置したノイズフィルタは、使用環境において磁場が印加される状態に変わったとしても、インダクタンスの変化が少ないので、電子回路のノイズの低減効果を維持できる。また、使用環境での印加される磁場の磁束密度が異なっていても、巻コアが同程度のインダクタンス特性を持つので、ノイズのフィルタ性能を十分確保できる。
【0028】
周波数別に見ると、巻コアの軸方向を磁場の磁力線の方向に対して垂直にして測定したインダクタンスの変化率δ0.03及びδ0.06は、周波数が大きいほど、大きくなる傾向がある。
対して、巻コアの軸方向を磁場の磁力線の方向に対して平行にして測定したインダクタンスの変化率δ0.03及びδ0.06は、熱処理のパターンにより異なる。無磁場中で熱処理したパターン1の巻コアは、10kHz、100kHzで測定したインダクタンスはさほど変化率δ0.03及びδ0.06とも大きくないが(絶対値で10%以下)、1MHzで測定したインダクタンスは、25%を超える値となる。一方、磁場中で熱処理した、パターン2及び3の巻コアは、10kHz、100kHz、1MHzで測定した全てのインダクタンスで変化率δ0.03及びδ0.06が小さい(絶対値で10%以下)。つまり、巻コアの軸方向を磁場の磁力線の方向に対して平行になるようノイズフィルタを設置する場合、無磁場中で熱処理した巻コアの方が、広い周波数帯においてノイズを除去する効果を確保しやすい。
【0029】
なお、Fe基非晶合金薄帯の厚さが18μmのものを用いた熱処理パターン1および3でのインピーダンスに対し、14μmのものを用いた熱処理パターン2のインピーダンスは、100kHz以下において、インピーダンスの変化率δ0.03及びδ0.06が大きくなる傾向にある。つまり、インダクタンスの最適化にはFe基非晶合金薄帯の厚さも考慮する必要がある。
【符号の説明】
【0030】
1:巻コア、2:磁場の磁力線の方向、5:コア、10:ノイズフィルタ、101a:入力端子、101b:出力端子、C:コンデンサ、L:コイル、201:電源、202:インバータ、203:電子機器
図1
図2
図3
図4
図5