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特許7082894加熱調理用油脂組成物、およびそれを用いて揚げ物を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】加熱調理用油脂組成物、およびそれを用いて揚げ物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220602BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20220602BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20220602BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/013
A23L5/10 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018066502
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019176743
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】野村 蘭
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-039021(JP,A)
【文献】特開2003-339317(JP,A)
【文献】特開2016-101138(JP,A)
【文献】特開2006-020549(JP,A)
【文献】特開2018-046798(JP,A)
【文献】特開2018-046797(JP,A)
【文献】特開平07-016052(JP,A)
【文献】特開2000-333604(JP,A)
【文献】特開平09-163929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で、0.1~1重量%含有するフライ調理用油脂組成物。
【請求項2】
ソフトなサクミの衣の揚げ物のためのフライ調理用油脂組成物である、請求項1に記載のフライ調理用油脂組成物。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、重合度2のジグリセリン脂肪酸エステルである請求項1または2に記載のフライ調理用油脂組成物。
【請求項4】
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとを、0.4~1重量%含有する請求項1、2または3に記載のフライ調理用油脂組成物。
【請求項5】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で0.1~1重量%含有するフライ調理用油脂組成物を用いて調理することを特徴とする、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物の調理に用いることでソフトなサクミの衣の揚げ物を製造できる加熱調理用油脂組成物、およびそれを用いてソフトなサクミの衣の揚げ物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調理品が冷めても揚げたての衣の食感を維持できる加熱調理用油脂組成物が研究されていた。たとえば、このような加熱調理用油脂組成物として、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤として有機酸モノグリセリド及び/又はHLB6~14のポリグリセリン脂肪酸エステルとを0.05~0.5重量%含有し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該乳化剤の比率が1:1~5である加熱調理用油脂組成物が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
このような加熱調理用油脂組成物を用いて調理した場合、調理品が冷めた場合も揚げたての衣の食感を維持することができるが、従来は、ある程度の力を入れて噛むことで衣が砕けるようなハードなサクミ(衣が硬く、クリスピーで、カリカリ・ガリガリとした食感)が好まれていたため、ハードなサクミの衣となっていた。しかしながら、近年、消費者のニーズの多様化が進み、比較的小さな力で衣を噛み砕くことができるソフトなサクミ(衣が脆く、ほぼ抵抗なく噛み砕くことができる軽い食感)が好まれる傾向にあり、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造できる加熱調理用油脂組成物が所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4516363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造することができる加熱調理用油脂組成物、およびそれを用いてソフトなサクミの衣の揚げ物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度の低いポリグリセリン脂肪酸エステル、具体的には、重合度が2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、加熱調理用油脂組成物に含有させることで、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は以下の(1)ないし(4)のフライ調理用油脂組成物を要旨とする。
(1)本発明に係るフライ調理用油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で、0.1~1重量%含有する。
(2)上記フライ調理用油脂組成物において、ソフトなサクミの衣の揚げ物のためのフライ調理用油脂組成物であるように構成することができる。
(3)上記フライ調理用油脂組成物において、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、重合度2のジグリセリン脂肪酸エステルであるように構成することができる。
(4)上記フライ調理用油脂組成物において、前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとを、0.4~1重量%含有するように構成することができる。
【0008】
また、本発明は以下の(5)のソフトなサクミを揚げ物に付与する方法を要旨とする。
(5)本発明に係るソフトなサクミの衣の揚げ物を製造する方法は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で0.1~1重量%含有するフライ調理用油脂組成物を用いて揚げ調理をする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る加熱調理用油脂組成物の実施形態について説明する。本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物は、ソフトなサクミの衣の揚げ物を製造することが可能な加熱調理用油脂組成物に関する。ここで、「ソフトなサクミ」とは、従来好まれていたハードなサクミ(ある程度の力を入れることで衣が噛み砕けるような、衣が硬く、クリスピーで、カリカリ・ガリガリとした食感)に対して、比較的小さな力で衣を砕くことができるサクミ(衣が脆く、ほぼ抵抗なく衣を噛み砕くことができる軽い食感)を意味する。
【0011】
ここで、従来は、揚げ物の衣に硬さを付与し、サクミの感覚(サクサクとした食感)を強調させる方向で技術開発が行われてきた。ハードなサクミ(衣が硬く、クリスピーで、カリカリ・ガリガリとした食感)の方がサクミを強く感じやすいからである。その一方、サクミ付与のために揚げ物の衣をやわらかくする思想は、揚げ物をしなっとした食感にするとの印象から、これまでほとんどなされてこなかった。本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物は、近年の消費者ニーズの多様化により、比較的小さな力で衣を噛み砕くことができるソフトなサクミ(衣が脆く、ほぼ抵抗なく噛み砕くことができる軽い食感)が好まれる傾向があることから、このようなソフトなサクミを付与できる加熱調理用油脂組成物を鋭意研究し見出したものである。なお、本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物は、主に、フライ調理(揚げ調理)に用いることができるものであるが、揚げ調理に限定されず、炒め調理、焼き調理、電子レンジ調理等の種々の加熱調理に使用することができる。
【0012】
本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物は、加熱調理用油脂を主成分として含有する。このような加熱調理用油脂は、特に限定がなく、食用として用いられるものであればよい。たとえば、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、パーム油、米油、小麦胚芽油、オリーブ油、ゴマ油、ラード、牛脂、魚油等、およびこれらの高オレイン酸油、それらの分別油、硬化油、エステル交換油等が挙げられる。また、これらの中から選ばれる1種、または2種以上の油脂を混合してもよい。さらには、これらの油の中で、通常140~240℃程度で行われるフライ調理に適した油脂であることが好ましい。
【0013】
また、本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物は、乳化剤として、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルおよび重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノレイン酸とをエステル結合したものである。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、W/O乳化能や水溶性成分の油脂中への分散性に優れ、加工食品の品質改良用の添加剤として広く利用されている。
【0014】
重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルは、重合度が2~4であるポリグリセリンと脂肪酸とがエステル結合したものである。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、重合度が2のジグリセリン、重合度が3のトリグリセリン、重合度が4のテトラグリセリンが挙げられる。特に、ポリグリセリンの重合度は低いほど、ソフトなサクミを付与する傾向にあり、この観点から、重合度2のジグリセリンを有するジグリセリン脂肪酸エステルが好適である。
【0015】
また、本実施形態に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、たとえば炭素数6~24の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数8~18の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数18の直鎖の不飽和脂肪酸が挙げられる。たとえば、具体的にはオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸の群から選ばれる1種または2種以上の脂肪酸が挙げられる。
【0016】
このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、一般にエステル化反応等の方法で製造することができるが、市販の乳化剤としても販売されており、たとえば、ジグリセリンモノオレイン酸(理研ビタミン、ポエムDO-100V)、テトラグリセリンペンタオレイン酸(阪本薬品工業、SYグリスターPO3S)、テトラグリセリントリステアリン酸(阪本薬品工業、SYグリスターTS-3S)等が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、加熱調理用油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で、好ましくは1:5~10の重量比率で、より好ましくは1:7~8の重量比率で含有している。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとの重量比率が1:4以下となるとサクミの質(ハードなサクミか、ソフトなサクミかという質)がハードになる傾向に強く、また、重量比率が1:12よりも大きくなると、調理品が冷えた場合にサクミが弱くなり、しなっとして湿気たような食感となってしまう傾向にあるためである。
【0018】
また、加熱調理用油脂組成物では、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計量が、加熱調理用油脂組成物中の0.1~1重量%となるように含有されている。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計量が0.1~1重量%の範囲においては、その合計量が多いほど、ソフトなサクミを揚げ物に付与しやすい傾向にある。
【0019】
(実施例)
以下に、本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物を、下記表2~4に示す条件(試験例1~23)で調製し、各条件で調製した加熱調理用油脂組成物を用いて、コロッケ、天ぷら(えび天)、鶏のから揚げを調理し、各揚げ物の衣のサクミを「サクミの度合」と「サクミの質」で評価した。なお、サクミの評価は、10名の専門パネラーが、下記に説明する方法で行い、その平均値を評価点数として表示している。
【0020】
(サクミの度合)
ここで、「サクミの度合」とは、度合の評価点数が高いほど、歯切れが良く、サクサクとした食感となり、一方、度合の評価点数が低いほど、水分または油分が多いと感じられたり、しなっとして湿気たような食感、あるいは衣に引きがあり、歯切れが悪い食感を有したりすることを示す。本実施例においては、下記表1に示すように、「サクミの度合」は、下記表1に示すように、「5:非常にサクミがある」、「4:サクミがある」、「3:ややサクミがある」、「2:ややしなっている」、「1:しなっとしている」の5段階で評価した。
【0021】
(サクミの質)
また、「サクミの質」は、ソフト(衣が脆く、ほぼ抵抗なく噛み砕くことができる軽い食感)と、ハード(衣が硬く、クリスピーで、カリカリ・ガリガリとした食感)を指標として、下記表1に示すように、「AA:ソフト」、「A:ややソフト」、「B:ややハード」、「C:ハード」の4段階で評価した。
【0022】
【表1】
【0023】
また、本実施例においては、主成分の油脂として、キャノーラ油(昭和産業)を用いた。また、乳化剤として、以下の乳化剤を用いた。
・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル;阪本薬品工業、SYグリスターCR-ED
・重合度2のポリグリセリン脂肪酸エステル(ジグリセリンモノオレイン酸);理研ビタミン、ポエムDO-100V
・重合度4のポリグリセリン脂肪酸エステル(テトラグリセリントリステアリン酸);阪本薬品工業、SYグリスターTS-3S
・重合度5のポリグリセリン脂肪酸エステル(ペンタグリセリントリオレイン酸);太陽化学、サンソフトA-173E
【0024】
以下に、コロッケ、天ぷら、鶏のから揚げの各揚げ物における官能評価結果を表示する。
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
上記表2~4に示すように、揚げ物の種類に関わらず、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、重合度5のペンタグリセリントリオレイン酸を用いた試験例1,10,17では、揚げ直後および放冷2時間後においてサクミの度合の評価点数は高かったが(サクミの度合の平均値が3よりも大きかった)が、サクミの質が「C」または「B」となっており、サクミの質がハードになることが分かった。また、重合度が4のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合(試験例2,11,18)と比べて、重合度が2のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合(たとえば試験例3,12,19)では、サクミの度合の評価点数が高くなるとともに、サクミの質もソフトになることが分かった。
【0028】
さらに、上記表2~4に示すように、揚げ物の種類に関わらず、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの重量比率が1:5~1:12である実施例(試験例2~8,11~15,18~22)においては、重量比率が1:4である実施例(試験例9,16,23)と比べて、サクミの質がソフトになる(サクミの質がA以上となる)ことが分かった。また、揚げ物の種類に関わらず、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの重量比率が1:5~1:10である実施例(試験例2~7,11~14,18~21)においては、重量比率が1:12である実施例(試験例8,15,22)と比べて、サクミの質がよりソフトになり(サクミの質が「AA」となり)、また、放冷2時間後もサクミを維持しやすい(放冷2時間後のサクミの度合が3よりも大きくなる)ことが分かった。
【0029】
また、上記表2~4に示すように、本実施例においては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計量が、当該加熱調理用油脂組成物中に0.1~1重量%となるよう含有させて行っているが、その中でも特に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計量が0.4~1重量%である実施例(試験例5,6,13,20)では、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計量が0.4未満の他の実施例と比べて、揚げ直後も放冷2時間後においても、サクミの度合の評価点数が高くなる(サクミの度合が4よりも大きくなる)ことが分かった。
【0030】
以上のように、本実施形態に係る加熱調理用油脂組成物では、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:5~12の重量比率で0.1~1重量%含有することで、揚げ物の衣にソフトなサクミを付与することができる。特に、重合度が2のジグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合にサクミの質をよりソフトにすることができる。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと、重合度2~4のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、加熱調理用油脂組成物中に0.4~1重量%含有させることで、揚げ物の衣にソフトなサクミを付与できることに加え、揚げ物の衣にサクサクとした食感をより付与することができる。