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特許7082989スチレン系樹脂の製造方法及びスチレン系樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂の製造方法及びスチレン系樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/08 20060101AFI20220602BHJP
   C08F 4/6192 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C08F12/08
C08F4/6192
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019557339
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018044100
(87)【国際公開番号】W WO2019107525
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2017232084
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017232080
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】横田 清彦
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185075(JP,A)
【文献】特開2013-189560(JP,A)
【文献】特開2013-203877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/00-12/36
C08F 4/00-4/82
C08L 25/00-25/18
C08K 5/00-5/59
C08J 5/00
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体床連続重合で製造するシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法であって、
中心金属として、チタンを有し、下記式(2)で示されるハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と、一般式(1)で示される化合物(B)と、下記一般式(c11)及び/又は一般式(c12)で表される酸素含有化合物(c1)である化合物(C)とを含む触媒の存在下で、下記一般式(4)で表される化合物(E)を触媒としてさらに用い、1以上のビニル芳香族モノマーを付加重合させる工程を有し、
得られるスチレン系樹脂のハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分であるチタン2.5~12質量ppmである、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
((R13-Q-Y)k-Z-(R2j-k (1)
[式中、R1は、ハロゲン原子、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のチオアルコキシ基、炭素数6~30のチオアリールオキシ基、アミノ基、アミド基、又はカルボキシル基を示す。複数のR1は相互に同一でも異なっていてもよい。また、複数のR1は、必要に応じて結合して環構造を形成していてもよい。Qは周期律表第14族の元素を、Yは酸素を示し、Zは、アルミニウムを示す。R2は炭化水素基を示す。jは金属元素Zの価数の整数を示し、kは、1~(j-1)の整数を示す。]
3 MU a-1 b (2)
[式中、R 3 はπ配位子を示す。Mはチタンを示し、Uはモノアニオン配位子を示す。複数のUは互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合していてもよい。Lはルイス塩基、aはMの価数、bは0,1又は2を示す。Lが複数の場合、Lは互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化1】

[上記一般式(c11)及び(c12)において、R 18 ~R 24 はそれぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、R 18 ~R 22 は互いに同一でも異なっていてもよく、R 23 及びR 24 は互いに同一でも異なっていてもよい。Z 1 ~Z 5 はそれぞれ周期律表13族元素を示し、Z 1 ~Z 3 は互いに同一でも異なっていてもよく、Z 4 及びZ 5 は互いに同一でも異なっていてもよい。g,h,s及びtはそれぞれ0~50の数であり、(g+h)及び(s+t)はそれぞれ1以上である。]
6 m Al(OR 7 n 2 3-m-n (4)
[式中、R 6 及びR 7 は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X 2 はハロゲン原子を示す。また、m、nは0<m≦3、0≦n<3、m+n≦3である。]
【請求項2】
下記一般式(3):
4 pAl(OR5q1 2-p-qH (3)
で表される化合物(D)を触媒としてさらに用いる、請求項1に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[式中、R4及びR5は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す。また、p、qは0<p≦2、0≦q<2、p+q≦2である]
【請求項3】
前記スチレン系樹脂の残留アルミニウム分が70~800質量ppmである、請求項1又は2に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属を基準として、水素をモル比で0~20倍加える、請求項1~のいずれか一項に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
【請求項5】
脱灰処理を行わない、請求項1~のいずれか一項に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法により得られるスチレン系樹脂を射出成形してなる、射出成形体の製造方法
【請求項7】
射出成形体の残留チタン分が2.5~12質量ppmである、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む、請求項6に記載の射出成形体の製造方法
【請求項8】
射出成形体の残留アルミニウム分が70~800質量ppmである、請求項6又は7に記載の射出成形体の製造方法
【請求項9】
射出成形体がトリフェニルメタンを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法
【請求項10】
射出成形体がトリフェニルメタンを10質量ppm以上含む、請求項に記載の射出成形体の製造方法
【請求項11】
射出成形体がさらに酸化防止剤を含む、請求項10のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法
【請求項12】
前記酸化防止剤がリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項11に記載の射出成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂の製造方法及びスチレン系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(以下、「SPS樹脂」と略す場合がある。)は、優れた耐熱性、耐薬品性、成形加工性等を有することが知られている。これらの優れた性質を利用して、電気・電子部品、自動車部品、機械部品及び工業部品等における射出成形体の実用化が注目を集めている。
【0003】
特許文献1及び2にはシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を主成分とする延伸フィルムが開示されている。特許文献1及び2に開示されるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、特定量の残留金属分を有し、具体的には特許文献3に記載の方法により製造されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平03-070746号公報
【文献】特開平03-109453号公報
【文献】特開平01-294705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献3に記載の製造方法は、実質的にはラボスケールのバッチ式で実施されている。そのため、品質の良いスチレン系樹脂を大量に効率よく製造することができず、より効率よく大量に高品質のスチレン系樹脂を製造する方法が望まれている。特許文献1及び2には、磁気テープ等に利用するためのフィルムにおいて、残留アルミニウム分や残留チタン分を低減することが記載されているが、脱灰洗浄処理の工程が必要とされていて効率が悪い。
SPS樹脂の上述した優れた性質、特に耐熱性、中でも長期耐熱性に優れた射出成形体及びその原料となるSPS樹脂を効率よく製造することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、特定化合物の組み合わせを触媒として用い、かつ前記触媒のうち特定の金属化合物に由来する遷移金属分を特定量とする製造方法により、上記課題を解決することを見出した。また、前記の遷移金属分が特定量である射出成形体が、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記[1]~[18]に関する。
[1]中心金属として、周期律表第3~5族の金属及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種を有するハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と、一般式(1)で示される化合物(B)と、酸素含有化合物(c1)及び遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)の少なくとも1種から選択される化合物(C)とを含む触媒の存在下で、1以上のビニル芳香族モノマーを付加重合させる工程を有し、
得られるスチレン系樹脂のハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分が1.5~12質量ppmである、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
((R13-Q-Y)k-Z-(R2j-k (1)
[式中、R1は、ハロゲン原子、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のチオアルコキシ基、炭素数6~30のチオアリールオキシ基、アミノ基、アミド基、又はカルボキシル基を示す。複数のR1は相互に同一でも異なっていてもよい。また、複数のR1は、必要に応じて結合して環構造を形成していてもよい。Qは周期律表第14族の元素を、Yは第16族の元素を示し、Zは、第2族~第13族の金属元素を示す。R2は炭化水素基を示す。jは金属元素Zの価数の整数を示し、kは、1~(j-1)の整数を示す。]
[2]前記ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)が下記式(2)で示される、上記[1]に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
3MUa-1b (2)
[式中、R3はπ配位子を示す。Mは周期律表第3~5族の金属及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種を示し、Uはモノアニオン配位子を示す。複数のUは互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合していてもよい。Lはルイス塩基、aはMの価数、bは0,1又は2を示す。Lが複数の場合、Lは互いに同一でも異なっていてもよい。]
[3]前記ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属がチタンである、上記[1]または[2]に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[4]前記得られるスチレン系樹脂中のハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分がチタンである、上記[3]に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[5]下記一般式(3):
4 pAl(OR5q1 2-p-qH (3)
で表される化合物(D)を触媒としてさらに用いる、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[式中、R4及びR5は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す。また、p、qは0<p≦2、0≦q<2、p+q≦2である。]
[6]下記一般式(4):
6 mAl(OR7n2 3-m-n (4)
で表される化合物(E)を触媒としてさらに用いる、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[式中、R6及びR7は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X2はハロゲン原子を示す。また、m、nは0<m≦3、0≦n<3、m+n≦3である。]
[7]前記化合物(B)が、一般式(1)中のZがアルミニウムである化合物である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[8]前記スチレン系樹脂の残留アルミニウム分が70~800質量ppmである、上記[7]に記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[9]粉体床連続重合で製造する、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[10]前記ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属を基準として、水素をモル比で0~20倍加える、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[11]脱灰処理を行わない、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法。
[12]上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の製造方法により得られるスチレン系樹脂を射出成形してなる、成形体。
[13]残留チタン分が1.5~12質量ppmである、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む射出成形体。
[14]残留アルミニウム分が70~800質量ppmである、上記[13]に記載の射出成形体。
[15]トリフェニルメタンを含む、上記[13]または[14]に記載の射出成形体。
[16]トリフェニルメタンを10質量ppm以上含む、上記[15]に記載の射出成形体。
[17]さらに酸化防止剤を含む、上記[13]~[16]のいずれか1つに記載の射出成形体。
[18]前記酸化防止剤がリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む、上記[17]に記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、長期耐熱性に優れた射出成形体とするのに最適なSPS樹脂を連続法で効率よく大量生産することができる。得られたSPS樹脂を射出成形してなる成形体は、従来のSPS樹脂を射出成形してなる成形体よりも長期耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、特定化合物の組み合わせを触媒として用い、かつ前記触媒のうち特定の金属化合物に由来する遷移金属分を特定量とするSPS樹脂の製造方法により、上記課題を解決することを見出した。また、SPS樹脂中の触媒に由来する金属分、特にチタン分やアルミニウム分を特定の範囲内とすることで射出成形体としたときの耐熱性、特に長期耐熱性が優れることを見出した。以下、詳細に説明する。
本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましい。
【0009】
[シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法]
本発明のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の製造方法は、中心金属として、周期律表第3~5族の金属及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種を有するハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と、一般式(1)で示される化合物(B)と、酸素含有化合物(c1)及び遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)の少なくとも1種から選択される化合物(C)とを含む触媒の存在下で、1以上のビニル芳香族モノマーを付加重合させる工程を有し、得られるスチレン系樹脂のハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分が1.5~12質量ppmであることを特徴とする。
((R13-Q-Y)k-Z-(R2j-k (1)
[式中、R1は、ハロゲン原子、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のチオアルコキシ基、炭素数6~30のチオアリールオキシ基、アミノ基、アミド基、又はカルボキシル基を示す。複数のR1は相互に同一でも異なっていてもよい。また、複数のR1は、必要に応じて結合して環構造を形成していてもよい。Qは周期律表第14族の元素を、Yは第16族の元素を示し、Zは、第2族~第13族の金属元素を示す。R2は炭化水素基を示す。jは金属元素Zの価数の整数を示し、kは、1~(j-1)の整数を示す。]
【0010】
本発明の製造方法においては、触媒として、中心金属として、周期律表第3~5族の金属及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種を有するハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と、一般式(1)で示される化合物(B)と、酸素含有化合物(c1)及び遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)の少なくとも1種から選択される化合物(C)とを用いることを要する。以下、まず触媒について詳述する。
【0011】
<ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)>
ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)は、中心金属が、周期律表第3~5族の金属、及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種である、ハーフメタロセン系遷移金属化合物である。
当該ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)は、例えば、一般式(2)
3MUa-1b (2)
[式中、R3はπ配位子を示す。Mは周期律表第3~5族の金属及びランタノイド系遷移金属から選ばれる少なくとも1種を示し、Uはモノアニオン配位子を示す。複数のUは互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合していてもよい。Lはルイス塩基、aはMの価数、bは0,1又は2を示す。Lが複数の場合、Lは互いに同一でも異なっていてもよい。]
で表される構造を有するものである。この一般式(2)において、R3はπ配位子であり、好ましくは、置換又は無置換の(以下、(置換)と示すことがある)シクロペンタジエニル基、(置換)インデニル基、シクロペンタジエニル基が縮合結合している多員環の少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニル基を示す。このような縮合多環式シクロペンタジエニル基としては、例えば一般式(i)~(iii)で表される縮合多環式シクロペンタジエニル基の中から選ばれたものを挙げることができる。
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、R12,R13及びR14はそれぞれ、水素原子,ハロゲン原子,炭素数1~20の脂肪族炭化水素基,炭素数6~20の芳香族炭化水素基,炭素数1~20のアルコキシ基,炭素数6~20のアリールオキシ基,炭素数1~20のチオアルコキシ基,炭素数6~20のチオアリールオキシ基,アミノ基,アミド基,カルボキシル基又はアルキルシリル基を示す。各R12,各R13及び各R14はそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。c,d,e及びfは、1以上の整数を示す。]
中でも、以下の一般式(iv)~(vi)で表される縮合多環式シクロペンタジエニル基の中から選ばれたものを好ましくは挙げることができる。
【0014】
【化2】
【0015】
[式中、R15,R16及びR17はそれぞれ、水素原子又はメチル基を示し、各R15,各R16及び各R17は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0016】
これらの中で、触媒活性及び合成が容易な点から、4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基類が好適である。このR3の具体例としては、4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;2-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,2-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,3-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,2,3-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,2,3,4,5,6,7-ヘプタメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,2,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;1,3,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基;オクタヒドロフルオレニル基;1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニル基;9-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニル基;9-メチル-オクタヒドロフルオレニル基などが挙げられる。
【0017】
Mは周期律表第3~5族の金属、又はランタノイド系遷移金属である。これらの金属としては、スカンジウム及びイットリウムなど周期律表第3族金属、チタン,ジルコニウム及びハフニウムなどの周期律表第4族金属、ランタノイド系遷移金属,ニオブ及びタンタルなどの周期律表第5族金属が挙げられる。触媒活性の点から、周期律表第3族金属又は第4族金属が好適であり、スカンジウム、イットリウム、チタンを好ましくは用いることができる。中でもハンドリングの観点からチタンがより好適である。
Uはモノアニオン配位子を示し、具体的には水素原子,ハロゲン原子,炭素数1~20の脂肪族炭化水素基,炭素数6~20の芳香族炭化水素基,炭素数1~20のアルコキシ基,炭素数6~20のアリールオキシ基,炭素数1~20のチオアルコキシ基,炭素数6~20のチオアリールオキシ基,アミノ基,アミド基,カルボキシル基及びアルキルシリル基などが挙げられる。複数のUは互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに任意の基を介して結合していてもよい。Uの具体例としては、水素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子,メチル基,ベンジル基,フェニル基,トリメチルシリルメチル基,メトキシ基,エトキシ基,フェノキシ基,チオメトキシ基,チオフェノキシ基,ジメチルアミノ基,ジイソプロピルアミノ基などを挙げることができる。Lはルイス塩基を示し、aはMの価数,bは0,1又は2である。
【0018】
一般式(2)で表されるハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)としては、上記例示のR3,M及びUの中から、それぞれ任意に選択された基を有する化合物を好ましく用いることができる。
一般式(2)で表されるハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)としては、例えば、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリクロリド、1,2,3-トリメチルインデニルチタニウムトリクロリド、4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;4,5,6,7-テトラヒドロインデニルトリメトキシド;1-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;2-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;2-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;2-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;2-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,2-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,2-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,2-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,2-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,3-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,3-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,3-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,3-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,2,3-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,2,3-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,2,3-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,2,3-トリメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,2,3,4,5,6,7-ヘプタメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,2,3,4,5,6,7-ヘプタメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,2,3,4,5,6,7-ヘプタメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,2,3,4,5,6,7-ヘプタメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,2,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,2,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,2,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,2,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;1,3,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリクロリド;1,3,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメチル;1,3,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリベンジル;1,3,4,5,6,7-ヘキサメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデニルチタニウムトリメトキシド;オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリクロリド;オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリメチル;オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリベンジル;オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリメトキシド;1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリクロリド;1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリメチル;1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリベンジル;1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリメトキシド;9-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリクロリド;9-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリメチル;9-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリベンジル;9-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレニルチタニウムトリメトキシド;9-メチル-オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリクロリド;9-メチル-オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリメチル;9-メチル-オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリベンジル;9-メチル-オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリメトキシドなど、及びこれらの化合物におけるチタニウムを、ジルコニウム又はハフニウムに置換したもの、あるいは他の族又はランタノイド系列の遷移金属元素の類似化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。触媒活性の点からイットリウム化合物、スカンジウム化合物、チタニウム化合物が好適である。中でもハンドリングの観点からチタニウム化合物が好適である。
【0019】
<一般式(1)で示される化合物(B)>
一般式(1)を再度下記に記載する。
((R13-Q-Y)k-Z-(R2j-k (1)
[式中、R1は、ハロゲン原子、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のチオアルコキシ基、炭素数6~30のチオアリールオキシ基、アミノ基、アミド基、又はカルボキシル基を示す。複数のR1は相互に同一でも異なっていてもよい。また、複数のR1は、必要に応じて結合して環構造を形成していてもよい。Qは周期律表第14族の元素を、Yは第16族の元素を示し、Zは、第2族~第13族の金属元素を示す。R2は炭化水素基を示す。jは金属元素Zの価数の整数を示し、kは、1~(j-1)の整数を示す。]
【0020】
中でも、次のものが好ましく用いられる:
(1)Qが炭素であり、Yが酸素であり、Zがアルミニウムである,
(2)3個のR1のうち、少なくとも1つが炭素数6~30の芳香族炭化水素基である,
(3)3個のR1のすべてが炭素数1以上の炭化水素基である,
(4)3個のR1のすべてが炭素数6~30の芳香族炭化水素基、好ましくはフェニル基である,または
(5)R2が炭素数2以上のアルキル基である。
特に、化合物(B)が、一般式(1)中のZがアルミニウムである化合物であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)で示される化合物(B)は、該一般式で表される構造を持つものであればその製造方法は特に問わないが、一般式(R13-C-OR33で表される化合物(b1)と、一般式Z(R2jで表される化合物(b2)とを反応させることにより得られたものが好適に用いられる。
ここで、R1,Z,j及びR2は上記した通りである。R33は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、炭素数1~30のチオアルコキシ基、炭素数6~30のチオアリールオキシ基、アミノ基、アミド基又はカルボキシル基を示す。R1及びR33はそれぞれ相互に同一でも、異なっていてもよい。また、R1及びR33はそれぞれ必要に応じて結合し、環構造を形成してもよい。
【0022】
式(1)の化合物として、具体的には、アルコール類,エーテル類,アルデヒド類,ケトン類,カルボン酸類,カルボン酸エステル類から選ばれた少なくとも1種(b1)と、アルミニウム化合物(b2)との反応生成物が挙げられる。より好ましくはアルコール類(b1)とアルミニウム化合物(b2)との反応生成物である。この場合においても、(1)(R13における3個のR1のうち、少なくとも1つが炭素数6~30の芳香族炭化水素基である,(2)(R13における3個のR1のすべてが炭素数1以上の炭化水素基である、(3)(R13における3個のR1のすべてが炭素数1~30の脂肪族炭化水素基である、(4)(R13における3個のR1のすべてが炭素数6~30の芳香族炭化水素基、好ましくはフェニル基である,または(5)R2が炭素数2以上のアルキル基であることが好ましい。具体的には、R1がすべてフェニル基であり、Qが炭素,Yが酸素,Zがアルミニウムであり、k=1であり、R2がイソブチル基であるものが好ましくは挙げられる。即ち、トリフェニルメタノール(b1)とトリイソブチルアルミニウム(b2)との反応生成物が最も好ましい。
【0023】
化合物(b1)との化合物(b2)との反応条件としては特に制限はないが、次のような条件が好ましく選ばれる。配合比については、モル比で、化合物(b1):化合物(b2)が好ましくは1:0.01~1:100、より好ましくは1:0.5~1:50の範囲であり、特に好ましくは1:0.8~1:10である。反応温度は好ましくは-80℃~300℃、より好ましくは-10℃~50℃である。
反応時に使用する溶媒も制限はないが、トルエン、エチルベンゼン等重合時に使用される溶媒が好ましく用いられる。
【0024】
さらには、一般式(1)で示される化合物(B)としてではなく、化合物(b1)と化合物(b2)とを直接触媒合成の場に、又は重合の場に投入してもよい。即ち、この場合は、触媒成分としては、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と、化合物(b1)及び化合物(b2)ということになる。
【0025】
<化合物(C)>
化合物(C)は、酸素含有化合物(c1)及び遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)の少なくとも1種から選択される。中でも、酸素含有化合物(c1)が好適である。
【0026】
[酸素含有化合物(c1)]
酸素含有化合物としては、たとえば、下記一般式(c11)及び/又は一般式(c12)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
【0027】
上記一般式(c11)及び(c12)において、R18~R24はそれぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、具体的にはメチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,各種ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基及び各種オクチル基が挙げられる。R18~R22は互いに同一でも異なっていてもよく、R23及びR24は互いに同一でも異なっていてもよい。Z1~Z5はそれぞれ周期律表13族元素を示し、具体的にはB,Al,Ga,In及びTlが挙げられるが、中でもB及びAlが好適であり、Alがより好適である。Z1~Z3は互いに同一でも異なっていてもよく、Z4及びZ5は互いに同一でも異なっていてもよい。g,h,s及びtはそれぞれ0~50の数であるが、(g+h)及び(s+t)はそれぞれ1以上である。g,h,s及びtとしてはそれぞれ1~20の範囲が好ましく、特に1~5の範囲が好ましい。
上記酸素含有化合物としては、アルキルアルミノキサンが好ましい。具体的な好適例としては、メチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサン、及びイソブチルアルミノキサンが挙げられる。
【0028】
[遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)]
遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物(c2)としては、複数の基が金属に結合したアニオンとカチオンとからなる配位錯化合物又はルイス酸を挙げることができる。複数の基が金属に結合したアニオンとカチオンとからなる配位錯化合物としては様々なものがあるが、例えば下記一般式(c21)又は(c22)で表される化合物を好適に使用することができる。
([L2i+y([M33 u(u-v)-z (c21)
([L3-H]i+y([M43 u(u-v)-z (c22)
【0029】
式(c21)または(c22)において、L2は後述のM5,R25266又はR27 3Cであり、L3はルイス塩基、M3及びM4はそれぞれ周期律表の第5族~第15族から選ばれる金属である。M5は周期律表の第1族及び第8族~第12族から選ばれる金属であり、M6は周期律表の第8族~第10族から選ばれる金属である。X3はそれぞれ水素原子,ジアルキルアミノ基,アルコキシ基,アリールオキシ基,炭素数1~20のアルキル基,炭素数6~20のアリール基,アルキルアリール基,アリールアルキル基,置換アルキル基,有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。但し、複数のX3は互いに同一でも異なっていてもよい。R25及びR26はそれぞれシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基又はフルオレニル基を示し、R27はアルキル基またはアリール基を示す。vはM3,M4の原子価を示し1~7の整数、uは2~8の整数、iは[L2]及び[L3-H]のイオン価数を示し1~7の整数、yは1以上の整数であり,z=y×i/(u-v)である。
【0030】
3及びM4の具体例としては、B,Al,Si,P,As又はSbを、M5の具体例としてはAg,Cu,Na,Li等を、M6の具体例としてはFe,Co,Ni等を挙げることができる。X3の具体例としては、例えば、ジアルキルアミノ基としてジメチルアミノ基,ジエチルアミノ基など、アルコキシ基としてメトキシ基,エトキシ基,n-ブトキシ基など、アリールオキシ基としてフェノキシ基,2,6-ジメチルフェノキシ基,ナフチルオキシ基など、炭素数1~20のアルキル基としてメチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,n-オクチル基,2-エチルヘキシル基など、炭素数6~20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基としてフェニル基,p-トリル基,ベンジル基,ペンタフルオロフェニル基,3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル基,4-tert-ブチルフェニル基,2,6-ジメチルフェニル基,3,5-ジメチルフェニル基,2,4-ジメチルフェニル基,1,2-ジメチルフェニル基など、ハロゲンとしてF,Cl,Br,I、有機メタロイド基としてペンタメチルアンチモン基,トリメチルシリル基,トリメチルゲルミル基,ジフェニルアルシン基,ジシクロヘキシルアンチモン基,ジフェニルホウ素基などが挙げられる。R25及びR26で表される置換シクロペンタジエニル基の具体例としては、メチルシクロペンタジエニル基,ブチルシクロペンタジエニル基及びペンタメチルシクロペンタジエニル基などが挙げられる。
【0031】
本発明において、複数の基が金属に結合したアニオンとしては、具体的にはB(C654 ,B(C6HF44 ,B(C6234 ,B(C6324 ,B(C64F)4 ,B[C6(CF3)F44 ,B(C654 ,PF6 ,P(C656 ,Al(C6HF44 などが挙げられる。金属カチオンとしては、Cp2Fe+,(MeCp)2Fe+,(tBuCp)2Fe+,(Me2Cp)2Fe+,(Me3Cp)2Fe+,(Me4Cp)2Fe+,(Me5Cp)2Fe+,Ag+,Na+,Li+などが挙げられる。上記式中、Cpはシクロペンタジエニル基を、Meはメチル基を、Buはブチル基をそれぞれ示す。その他カチオンとしては、ピリジニウム,2,4-ジニトロ-N,N-ジエチルアニリニウム,ジフェニルアンモニウム,p-ニトロアニリニウム,2,5-ジクロロアニリニウム,p-ニトロ-N,N-ジメチルアニリニウム,キノリニウム,N,N-ジメチルアニリニウム,N,N-ジエチルアニリニウムなどの窒素含有化合物、トリフェニルカルベニウム,トリ(4-メチルフェニル)カルベニウム,トリ(4-メトキシフェニル)カルベニウムなどのカルベニウム化合物、CH3PH3 +,C25PH3 +,C37PH3 +,(CH32PH2 +,(C252PH2 +,(C372PH2 +,(CH33PH+,(C253PH+,(C373PH+,(CF33PH+,(CH34+,(C254+,(C374+等のアルキルホスホニウムイオン,及びC65PH3 +,(C652PH2 +,(C653PH+,(C654+,(C252(C65)PH+,(CH3)(C65)PH2 +,(CH32(C65)PH+,(C252(C652+などのアリールホスホニウムイオンなどが挙げられる。
【0032】
一般式(c21)及び(c22)の化合物の中で、具体的には、下記のものを特に好適に使用できる。
一般式(c21)の化合物としては、例えば、テトラフェニル硼酸フェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルフェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸デカメチルフェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸アセチルフェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ホルミルフェロセニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸シアノフェロセニウム,テトラフェニル硼酸銀,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸銀,テトラフェニル硼酸トリチル,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチル,ヘキサフルオロ砒素酸銀,ヘキサフルオロアンチモン酸銀,テトラフルオロ硼酸銀などが挙げられる。
【0033】
一般式(c22)の化合物としては、例えば、テトラフェニル硼酸トリエチルアンモニウム,テトラフェニル硼酸トリ(n-ブチル)アンモニウム,テトラフェニル硼酸トリメチルアンモニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリエチルアンモニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリ(n-ブチル)アンモニウム,ヘキサフルオロ砒素酸トリエチルアンモニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ピリジニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸ピロリニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸N,N-ジメチルアニリニウム,テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルジフェニルアンモニウムなどが挙げられる。
【0034】
ルイス酸としては、例えばB(C653,B(C6HF43,B(C6233,B(C6323,B(C64F)3,B(C653,BF3,B[C6(CF3)F43,PF5,P(C655,Al(C6HF43なども用いることができる。
【0035】
SPS樹脂の製造方法には金属触媒が用いられるため、製造時の触媒由来の金属、例えばアルミニウムやチタンがSPS樹脂中に残留する。十分な触媒活性を得るため多量の触媒を必要とする場合に、コストの上昇と上記残留金属が問題となる。
スチレン系樹脂の製造は「バッチ法」と「連続法」とに分けられる。「バッチ法」は「連続法」に比べて用いる触媒量を抑えることができるが、一度の製造時に得られるスチレン系樹脂量は少なく、エネルギー面等から経済性に劣る。一方「連続法」は高いエネルギー効率で大量のスチレン系樹脂を得ることができる反面、「バッチ法」に比べてある程度の触媒量を必要とする。
【0036】
本発明者等は鋭意検討したところ、特定の金属化合物の組み合わせを触媒として用いた場合に触媒活性を高めることができると同時に、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分を1.5~12質量ppmにまで抑制したスチレン系樹脂を製造することができることを見出した。さらに、本発明者等は、遷移金属分を前記範囲内とすることによって、従来のSPS樹脂の射出成形体よりも優れた長期耐熱性を有する射出成形体が得られることを見出した。本発明によれば、残留金属量を上記範囲に抑制しながらも連続法での製造が可能となり、商業的に有利にスチレン系樹脂を製造することができる。
【0037】
具体的には、上述した通り、ハンドリング性の側面からハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属がチタンであることが好ましいため、本発明の製造方法によれば、得られるスチレン系樹脂中のハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分がチタンであり、残留チタン分が1.5~12質量ppmにまで抑制されたスチレン系樹脂を製造することができる。本発明の製造方法によれば、より好ましくは、化合物(B)由来の金属、例えばアルミニウム分を70~800質量ppmにさらに抑えたスチレン系樹脂を製造することができる。
【0038】
本発明者等は、本発明の製造方法により得られる、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分、例えばチタン分が1.5~12質量ppmに抑制されたスチレン系樹脂は、長期耐熱性が要求される射出成形体に最適であることを見出した。さらに、本発明の製造方法の好ましい側面によれば、化合物(B)由来の金属、例えばアルミニウム分が70~800質量ppmに抑制されたスチレン系樹脂を得ることができ、この範囲とすることでより長期耐熱性に優れた射出成形体が得ることができる。
ここで本発明で言及する「長期耐熱性」とは、JIS K 7226:1998に準拠して求められる耐熱性の度合いを示す。具体的には、暴露温度150~180℃の範囲において、各暴露温度で引張強度が初期強度の50%となる破壊到達時間を求める。破壊到達時間を暴露温度の逆数値に対してプロットするアレニウスプロットから、温度指数(TI)を求める。
【0039】
本発明の製造方法により得られるスチレン系樹脂は、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分を好ましくは11質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは8質量ppm以下含む。ここで、上述した通り、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属としては具体的にはチタンが挙げられる。
また、本発明の製造方法により得られるスチレン系樹脂は、好ましくは化合物(B)由来の金属分を800質量ppm未満、より好ましくは700質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下含む。上述した通り、一般式(1)由来の金属としては、具体的にはアルミニウムが挙げられる。
本発明の製造方法の製造効率をさらに高め、かつ射出成形体の優れた長期耐熱性を確保する観点からは、本発明の製造方法により得られるスチレン系樹脂は、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分を2.5質量ppm以上含み、さらに一般式(1)で示される化合物(B)由来の金属分を115質量ppm以上含むことがより好ましい。
生産量や得られるスチレン系樹脂の性質により変動するものの、一般的に、バッチ法により得られるスチレン系樹脂は、連続法に比べ少ない16質量ppm程度の残留アルミニウム分と、0.025質量ppm程度の残留チタン分を有し得る。一方で、連続法のように効率よく製造することは難しい。
【0040】
本発明の製造方法においては、上記化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)に加えて、以下の化合物(D)及び/または化合物(E)も触媒として用いることができる。
<化合物(D)>
化合物(D)は下記一般式(3)で表される化合物である。
4 pAl(OR5q1 2-p-qH (3)
[式中、R4及びR5は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す。また、p、qは0<p≦2、0≦q<2、p+q≦2である。]
【0041】
一般式(3)で示される化合物(D)として、ジアルキルアルミニウムヒドリド化合物やモノアルキルアルミニウムヒドリド化合物が好ましい。
具体的にはジメチルアルミニウムヒドリド,ジエチルアルミニウムヒドリド,ジ-n-プロピルアルミニウムヒドリド,ジイソプロピルアルミニウムヒドリド,ジ-n-ブチルアルミニウムヒドリド,ジイソブチルアルミニウムヒドリド等のジアルキルアルミニウムヒドリド、メチルアルミニウムクロロヒドリド,エチルアルミニウムクロロヒドリド,n-プロピルアルミニウムクロロヒドリド,イソプロピルアルミニウムクロロヒドリド,n-ブチルアルミニウムクロロヒドリド,イソブチルアルミニウムクロロヒドリド等のアルキルアルミニウムハロヒドリド、エチルアルミニウムメトキシヒドリド,エチルアルミニウムエトキシヒドリド等のアルキルアルミニウムアルコキシヒドリド等が挙げられる。中でも触媒活性の観点から、ジイソブチルアルミニウムヒドリドが好ましい。
【0042】
<化合物(E)>
化合物(E)は下記一般式(4)で表される化合物である。
6 mAl(OR7n2 3-m-n (4)
[式中、R6及びR7は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示し、X2はハロゲン原子を示す。また、m、nは0<m≦3、0≦n<3、m+n≦3である。]
一般式(4)で示される化合物(E)として、触媒活性の観点から、トリアルキルアルミニウムやジアルキルアルミニウム化合物が好ましい。
具体的にはトリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム,トリ-n-プロピルアルミニウム,トリイソプロピルアルミニウム,トリ-n-ブチルアルミニウム,トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド,ジエチルアルミニウムクロリド,ジ-n-プロピルアルミニウムクロリド,ジイソプロピルアルミニウムクロリド,ジ-n-ブチルアルミニウムクロリド,ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムメトキシド,ジエチルアルミニウムエトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシド等が挙げられ、中でもトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法においては上述した通り、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)、一般式(1)で示される化合物(B)及び化合物(C)と、必要に応じて化合物(D)及び/または化合物(E)を組み合わせて触媒として用いることができる。用いられる触媒の調製方法に特に制限はないが、以下のような順序で触媒調製することができる。
【0044】
(1)各成分の接触順序
(i)ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を用いる場合は、例えば、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と化合物(C)とを接触させ、ここに化合物(B)を接触させる方法、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)と化合物(B)とを接触させ、ここに化合物(C)を接触させる方法、化合物(B)と化合物(C)とを接触させ、ここにハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)成分を接触させる方法、又は上記3成分を同時に接触させる方法が挙げられる。
【0045】
(ii)さらに上記3成分に加えて、化合物(D)及び/または化合物(E)の組み合わせを用いる場合、化合物(D)及び/または化合物(E)の接触順序は問わない。すなわち、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に化合物(D)及び/または化合物(E)を接触させてから用いてもよく、化合物(B)に化合物(D)及び/または化合物(E)を接触させてから用いてもよく、また化合物(C)に化合物(D)及び/または化合物(E)を接触させてから用いてもよい。あるいは、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A),化合物(C),化合物(D)及び/または化合物(E)を予め接触させた後、化合物(B)成分を接触させる方法でもよい。
【0046】
(iii)化合物(B)として化合物(b1)と化合物(b2)を用いる場合も、上記(i)~(ii)の場合と同様に各成分を接触させる順序は問わないが、(b1)成分と(b2)成分については、他の成分を接触させる前に予め接触させておくのが好適である。
【0047】
(2)各成分の割合
(i)ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A),化合物(B)及び化合物(C)を用いる場合
化合物(B)は、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)成分1モルに対し、化合物(B)がアルミニウム化合物の場合は、アルミニウム原子のモル比で0.5~1,000、好ましくは1~100の範囲で選ばれる。
ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)成分と化合物(C)のモル比は、化合物(C)として酸素含有化合物を用いる場合、通常化合物(A)1モルに対し、化合物(C)が有機アルミニウム化合物の場合は、アルミニウム原子のモル比で1~10,000、好ましくは、10~1,000の範囲で選ばれる。また化合物(C)成分として遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物を用いる場合、通常化合物(A)1モルに対し、化合物(C)がホウ素化合物の場合は、ホウ素原子のモル比で0.5~10、好ましくは、0.8~5の範囲で選ばれる。
(ii)化合物(B)として、化合物(b1)及び化合物(b2)を用いる場合、モル比で、化合物(b1):化合物(b2)が好ましくは1:0.01~1:100,より好ましくは、1:0.5~1:50の範囲であり、特に好ましくは1:0.8~1:10である。(b2)成分は、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)1モルに対し、(b2)成分がアルミニウム化合物の場合は、アルミニウム原子のモル比で好ましくは0.5~10,000、より好ましくは0.5~1,000の範囲であり、最も好ましくは、1~1,000の範囲で選ばれる。
(iii)上記3成分に加えて、化合物(D)及び/または化合物(E)を用いる場合
化合物(D)及び/または化合物(E)の配合量については、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)1モルに対し、化合物(D)及び/または化合物(E)がアルミニウム化合物の場合は、アルミニウム原子のモル比で0.5~1,000、好ましくは、1~100の範囲で選ばれる。
【0048】
(3)各成分の接触条件
触媒成分の接触については、窒素等の不活性気体中、重合温度以下で行なうことができる。一例として、-30~200℃の範囲で行うことができる。
【0049】
次に、上記触媒を用いて実際にスチレン系重合体を製造する工程について詳述する。本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、上述した重合用触媒を用いて、スチレン類単独重合、スチレン類と他のスチレン類との共重合(すなわち、異種のスチレン類相互の共重合)を好適に行うことができる。
【0050】
<モノマー>
スチレン類は特に限定されず、スチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-プロピルスチレン、p-イソプロピルスチレン、p-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-フェニルスチレン、o-メチルスチレン、o-エチルスチレン、o-プロピルスチレン、o-イソプロピルスチレン、m-メチルスチレン、m-エチルスチレン、m-イソプロピルスチレン、m-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン等のアルキルスチレン類、p-メトキシスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン等のアルコキシスチレン類、p-クロロスチレン、m-クロロスチレン、o-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、o-ブロモスチレン、p-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、o-フルオロスチレン、o-メチル-p-フルオロスチレン等のハロゲン化スチレン、更にはメシチルスチレン、トリメチルシリルスチレン、ビニル安息香酸エステル、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
中でもスチレン、アルキルスチレン類、ジビニルベンゼンが好ましく、スチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼンがより好ましい。
本発明においては、上記スチレン類は一種類を単独で用いてもよいし、二種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0051】
<重合条件>
1.予備重合
本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、上記重合用触媒を用いて、まず予備重合を行ってもよい。予備重合は、上記触媒に、例えば少量のスチレン類を接触させることにより行うことができるが、その方法には特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。
予備重合に用いるスチレン類は特に限定されず、上述したものを用いることができる。予備重合温度は、通常-20~200℃、好ましくは-1℃~130℃である。予備重合において、溶媒としては、不活性炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、モノマーなどを用いることができる。
【0052】
2.本重合
本重合における重合方法については特に制限はなく、スラリー重合法,粉体床重合,溶液重合法,気相重合法,塊状重合法または懸濁重合法等の任意の方法での連続重合法を採用することができる。中でも、工業的規模での製造の観点から、粉体床連続重合を行なうことが好ましい。
触媒の各成分とモノマーとの接触順序についても制限はない。すなわち、上述したように触媒の各成分を予め混合して触媒を調製したのち、モノマーを投入する方法でもよい。あるいは、触媒の各成分を予め混合して触媒を調製するのでなく、触媒の各成分とモノマーとを任意の順序で重合の場に投入する方法でもよい。
好ましい実施形態としては、上記化合物(B)、または化合物(b1)及び化合物(b2)成分以外の成分、即ち、(A)成分,(C)成分,(D)成分、(E)成分を予め混合する。一方で、モノマーと化合物(B)成分、またはモノマーと化合物(b1)及び化合物(b2)とを別に混合しておき、両者を重合直前に混合することにより、重合を行なわせる方法が挙げられる。
【0053】
本発明では、より好ましくは粉体床連続重合装置を使用して、上記触媒の存在下でスチレンモノマーの重合を行う。ここで、触媒活性を高めるために、重合場に水素を添加することができる。ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属を基準として、モル比で例えば0~20倍、好ましくは0~15倍、より好ましくは0~10倍、さらに好ましくは0.1~10倍の水素を反応系に加えることができる。重合時に反応系に水素を供給することで、重合触媒の活性を高めて使用量を抑えることができる。そのため、製造されるスチレン系樹脂中の残留金属量、例えば残留アルミニウム分や残留チタン分を射出成形体にした場合の長期耐熱性の観点から、好ましい範囲へ低下させることができる。
但し、添加水素量がハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)の中心金属基準で20倍を超えると、リフロー耐熱性に劣るため好ましくない。
なお、本発明のスチレン系樹脂の製造方法においては触媒の組み合わせ及び/または水素添加により触媒活性が高いため、得られるスチレン系樹脂中の残留金属分が低い。そのため、脱灰処理等を別途行う必要がなく、エネルギー的に有利であり、大量生産に適している。
【0054】
重合時に溶媒を用いる場合には、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等の炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等が溶媒として挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、種類によっては、重合に用いるモノマー自体を重合溶媒として使用することができる。
【0055】
重合反応における触媒の使用量は、モノマー1モル当たり、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)が通常0.1~500マイクロモル、好ましくは0.5~100マイクロモルの範囲となるように選択すると、重合活性および反応器効率の面から有利である。
重合時の圧力は、通常、ゲージ圧で常圧~196MPaの範囲が選択される。反応温度は、通常、-50~150℃の範囲である。
重合体の分子量の調節方法としては、各触媒成分の種類、使用量、重合温度の選択および水素の導入などが挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法により得られるスチレン系樹脂は、高度なシンジオタクチック構造を有するSPS樹脂である。本明細書において「シンジオタクチック」とは、隣り合うスチレン単位におけるフェニル環が、重合体ブロックの主鎖によって形成される平面に対して交互に配置(以下において、シンジオタクティシティと記載する)されている割合が高いことを意味する。
タクティシティは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量同定できる。13C-NMR法により、連続する複数の構成単位、例えば連続した2つのモノマーユニットをダイアッド、3つのモノマーユニットをトリアッド、5つのモノマーユニットをペンタッドとしてその存在割合を定量することができる。
本発明において、「高度なシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂」とは、ラセミダイアッド(r)で通常75モル%以上、好ましくは85モル%以上、又はラセミペンタッド(rrrr)で通常30モル%以上、好ましくは50モル%以上のシンジオタクティシティを有するポリスチレン、ポリ(炭化水素置換スチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体若しくは混合物、又はこれらを主成分とする共重合体を意味する。
【0057】
ポリ(炭化水素置換スチレン)としては、ポリ(メチルスチレン),ポリ(エチルスチレン),ポリ(イソプロピルスチレン),ポリ(tert-ブチルスチレン),ポリ(フェニル)スチレン,ポリ(ビニルナフタレン)及びポリ(ビニルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)及びポリ(フルオロスチレン)等が、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)及びポリ(エトキシスチレン)等を挙げることができる。
上記の構成単位を含む共重合体のコモノマー成分としては、上記スチレン系重合体のモノマーの他、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー;環状オレフィンモノマー、環状ジエンモノマー、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸及びアクリロニトリル等の極性ビニルモノマーが挙げられる。
【0058】
上記スチレン系重合体のうち特に好ましいものとして、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、ポリ(p-tert-ブチルスチレン)、ポリ(p-クロロスチレン)、ポリ(m-クロロスチレン)、ポリ(p-フルオロスチレン)を挙げることができる。
さらにはスチレンとp-メチルスチレンとの共重合体、スチレンとp-tert-ブチルスチレンとの共重合体、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体等を挙げることができる。
【0059】
本発明の製造方法により得られるSPS樹脂は、成形時の樹脂の流動性及び得られる成形体の強度の観点から、重量平均分子量が1×104以上1×106以下であることが好ましく、50,000以上500,000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が1×104以上であれば、十分な強度を有する成形品を得ることができる。一方、重量平均分子量が1×106以下であれば成形時の樹脂の流動性にも問題がない。
本明細書において、重量平均分子量とは、特段の記載がない限り、東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8321GPC/HT)、東ソー株式会社製GPCカラム(GMHHR-H(S)HT)を用い、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いて145℃でゲル浸透クロマトグラフィー測定法により測定し、標準ポリスチレンの検置線を用いて換算した値である。単に「分子量」と略すことがある。
【0060】
<成形体>
本発明においては、上記製造方法により得られたスチレン系樹脂を射出成形して成形体を得ることができる。本発明のスチレン系樹脂を射出成形してなる成形体は、本発明の製造方法により得られるスチレン系樹脂の性質に基づく以下の特徴を有し得る。
【0061】
本発明のSPS樹脂の射出成形体は、上述した通り、触媒として用いる化合物由来の金属分を含み得る。具体的には、本発明のSPS樹脂の射出成形体は、ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する遷移金属分として、1.5~12質量ppmのチタンを含み得る。上記チタン分の上限値は好ましくは11質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは8質量ppm以下である。
本発明のSPS樹脂の射出成形体は、さらに化合物(B)由来の金属としてアルミニウムを含み得る。具体的には、本発明のSPS樹脂成形体は、70~800質量ppm以下のアルミニウム分を含み得る。該アルミニウム分は800質量ppm未満、より好ましくは700質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下である。
本発明のSPS樹脂の射出成形体は触媒由来の金属分が抑制されているため、長期耐熱性に優れる。
【0062】
本発明のSPS樹脂の射出成形体はさらにトリフェニルメタンを含み得る。トリフェニルメタンは上述した製造方法において触媒として用いられる化合物由来の成分である。本発明のスチレン系樹脂中のトリフェニルメタン量は、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは20質量ppm以上、さらに好ましくは30質量ppm以上、特に好ましくは40質量ppm以上である。一方、トリフェニルメタン量の上限値は250質量ppm以下であることが好ましい。
本発明のスチレン系樹脂中のトリフェニルメタン量が10質量ppm以上であれば、十分な触媒量でタクティシティの高いシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を得ることができる。
【0063】
本発明の製造方法により得られるSPS樹脂に、本発明の目的を阻害しない範囲で一般に使用されている熱可塑性樹脂,ゴム状弾性体,酸化防止剤,無機充填剤,架橋剤,架橋助剤,核剤,可塑剤,相溶化剤,着色剤及び/または帯電防止剤等を添加して、SPS樹脂を含む射出成形体とすることもできる。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、アタクチック構造のポリスチレン,アイソタクチック構造のポリスチレン,AS樹脂,ABS樹脂などのスチレン系重合体をはじめ、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル,ポリカーボネート,ポリフェニレンオキサイド,ポリスルホン,ポリエーテルスルホンなどのポリエーテル,ポリアミド,ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリオキシメチレンなどの縮合系重合体、ポリアクリル酸,ポリアクリル酸エステル,ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系重合体、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリ4-メチルペンテン-1,エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン、あるいはポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリフッ化ビニリデンなどの含ハロゲンビニル化合物重合体など、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0065】
ゴム状弾性体としては、様々なものが使用可能である。例えば、天然ゴム,ポリブタジエン,ポリイソプレン,ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR),水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB),スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS),水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS),スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR),水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP),スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS),水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS),スチレン-ブタジエンランダム共重合体,水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体,スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体,スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPR),エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(ABS),メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS),メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS),オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS),アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS),ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体、又はこれらを変性したゴムなどが挙げられる。
これらの中で、特に、SBR、SBS、SEB、SEBS、SIR,SEP、SIS、SEPS、コアシェルゴム又はこれらを変性したゴム等が好ましく用いられる。
【0066】
変性されたゴム状弾性体としては、例えば、スチレン-ブチルアクリレート共重合体ゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPR),エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などを、極性基を有する変性剤によって変性を行ったゴム等が挙げられる。
これらの中で、特にSEB,SEBS,SEP,SEPS,EPR,EPDMを変性したゴムが好ましく用いられる。具体的には、無水マレイン酸変性SEBS,無水マレイン酸変性SEPS,無水マレイン酸変性EPR,無水マレイン酸変性EPDM,エポキシ変性SEBS,エポキシ変性SEPSなどが挙げられる。これらのゴム状弾性体は、1種又は2種用いてもよい。
【0067】
本発明の製造方法により得られるSPS樹脂に上記した熱可塑性樹脂及び/又は(変性)ゴム状弾性体を添加する場合は、SPS樹脂、熱可塑性樹脂及び/又は(変性)ゴム状弾性体の合計量を100質量%とした際に、SPS樹脂が好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上となる範囲で熱可塑性樹脂及び/又は(変性)ゴム状弾性体を添加することが好ましい。
【0068】
酸化防止剤としては様々なものがあるが、特にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(モノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト等のモノホスファイトやジホスファイト等のリン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ジホスファイトとしては、一般式
【化4】

(式中、R30及びR31はそれぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基,炭素数3~20のシクロアルキル基あるいは炭素数6~20のアリール基を示す。)
で表されるリン系化合物を用いることが好ましい。
【0069】
上記一般式で表されるリン系化合物の具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト;ジオクチルペンタエリスリトールジホスファイト;ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト;ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
また、フェノール系酸化防止剤としては既知のものを使用することができ、その具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノール;2,2'-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール);2,2'-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール);2,2'-メチレンビス〔4-メチル-6-(α-メチルシクロヘキシル)フェノール〕;1,1-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン;2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);1,1,3-トリス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン;2,2-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4-n-ドデシルメルカプトブタン;エチレングリコール-ビス〔3,3-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブチレート〕;1,1-ビス(3,5-ジメチル-2-ヒドロキシフェニル)-3-(n-ドデシルチオ)-ブタン;4,4'-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール);1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン;2,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロン酸ジオクタデシルエステル;n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート;テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。硫黄系酸化防止剤としては種々のものが用いられ、例えばビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル等が挙げられる。
上記リン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤の他に、アミン系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤などを単独で、あるいは混合して用いることができる。特に本発明の射出成形体は、酸化防止剤がリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤の3種類を組み合わせて使用することがより好ましい。
【0070】
上記の酸化防止剤は、前記のSPS100質量部に対し、通常、0.005~5質量部である。ここで酸化防止剤の配合割合が0.005質量部未満であると分子量低下が著しく、一方、5質量部を超えると酸化防止剤のブリード或いは機械的強度、外観等に影響があるため、いずれも好ましくない。酸化防止剤として複数種の酸化防止剤を組成物中に含む場合には、合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。酸化防止剤の配合量は、SPS100質量部に対し、より好ましくは0.01~4質量部、さらに好ましくは0.02~3質量部である。
【0071】
無機充填剤は、繊維状であってもよいし、粒状又は粉状であってもよい。
繊維状無機充填材としてはガラス繊維,炭素繊維,アルミナ繊維等が挙げられる。粒状,粉状無機充填材としてはタルク,カーボンブラック,グラファイト,二酸化チタン,シリカ,マイカ,炭酸カルシウム,硫酸カルシウム,炭酸バリウム,炭酸マグネシウム,硫酸マグネシウム,硫酸バリウム,オキシサルフェート,酸化スズ,アルミナ,カオリン,炭化ケイ素,金属粉末等が挙げられる。
【0072】
相溶化剤としては、例えば、SPSと上記した熱可塑性樹脂やゴム状弾性体と相溶性又は親和性を有し、かつ極性基を有する重合体が挙げられる。具体的には、酸無水物で変性したゴム、例えば無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、無水マレイン酸変性SEB、無水マレイン酸変性SEP、無水マレイン酸変性EPR、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、末端カルボン酸変性ポリスチレン、末端エポキシ変性ポリスチレン、末端オキサゾリン変性ポリスチレン、末端アミン変性ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン系アイオノマー、スチレン-メチルメタクリレートグラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-メチルメタクリレートグラフトポリマー、酸変性アクリル-スチレン-グラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-スチレングラフトポリマー、ポリブチレンテレフタレート-ポリスチレングラフトポリマー、さらには、無水マレイン酸変性シンジオタクチックポリスチレン、フマル酸変性シンジオタクチックポリスチレン、グリシジルメタクリレート変性シンジオタクチックポリスチレン、アミン変性シンジオタクチックポリスチレン等の変性スチレン系ポリマー、(スチレン-無水マレイン酸)-ポリフェニレンエーテルグラフトポリマー、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、フマル酸変性ポリフェニレンエーテル、グリシジルメタクリレート変性ポリフェニレンエーテル、アミン変性ポリフェニレンエーテル等の変性ポリフェニレンエーテル系ポリマー等が挙げられる。これらの相溶化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。相溶化剤の添加量は特に限定されないが、SPS樹脂100重量部に対し、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0073】
核剤としては、アルミニウムジ(p-tert-ブチルベンゾエート)をはじめとするカルボン酸の金属塩、メチレンビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウムをはじめとするリン酸の金属塩、タルク、フタロシアニン誘導体等、公知のものから任意に選択して用いることができる。具体的な商品名としては、株式会社ADEKA製のアデカスタブNA-10、アデカスタブNA-11、アデカスタブNA-21、アデカスタブNA-30、アデカスタブNA-35、大日本インキ化学工業株式会社製のPTBBA-AL等が挙げられる。なお、これらの核剤は一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。核剤の配合量は特に限定されないが、SPS樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.04~2質量部である。
【0074】
離型剤としては、ポリエチレンワックス,シリコーンオイル,長鎖カルボン酸,長鎖カルボン酸金属塩等公知のものから任意に選択して用いることができる。なお、これらの離型剤は一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。離型剤の配合量は特に限定されないが、SPS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.2~1質量部である。
【0075】
本発明のスチレン系樹脂成形体の製造方法としては射出成形方法のうち任意のものを適用できる。
例えば、まず上記SPS樹脂と、必要に応じて上記各種成分とを添加した組成物を得る。射出成形は、所定形状の金型を用いて上記組成物を成形することができる。
本発明のスチレン系樹脂成形体は上述した通り優れた長期耐熱性を有するため、当該性質の求められる自動車用センサー、ハウジング、コネクター、大型自動車用排気ブレーキの電磁弁、発熱を伴うLEDディスプレイ部品、車載照明、信号灯、非常灯、端子台、ヒューズ部品、高電圧部品などの用途に好ましくは用いることができる。
【実施例
【0076】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0077】
(1)残留アルミニウム分及び残留チタン分の測定方法
下記の各実施例及び比較例で得られるポリマー中の残留アルミニウム分及び残留チタン分を、蛍光X線測定法を用いて、定量化した。
1.装置
PANalitical製のMagiX-PW2403を蛍光X線装置として用い、測定時にPRガス(Ar:CH4=90:10)を使用した。
2.方法
加熱圧縮成形機(王子機械株式会社製、AJHC-37)にて大きさが約45mmφ,厚み2mmの圧縮プレートを試料から作製し、上記蛍光X線分析装置を用いて、以下の表Aに示す条件にて目的元素(残留アルミニウム、残留チタン)の蛍光X線強度を測定し、あらかじめ作成登録された検量線より元素濃度を求めた(検量線:標準試料の濃度とX線強度の検量線を指す)。測定結果は下記表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
(2)トリフェニルメタン量の測定方法
下記の各実施例及び比較例で得られるポリマー2gをクロロホルム100mLで還流抽出し、メタノール200mLを加えて再沈した。溶液を濾過し、濾液を乾固した後、クロロホルムを加えて5mL溶液にした。この試料をガスクロマトグラフ(Agilent Technologies社製,Agilent6850)にて、カラムBPX-5(15m×0.25mm,膜厚0.25μm)、オーブン温度を10℃/分の速度で100℃(0min)から350℃(10min)まで昇温、インジェクション温度350℃,ディテクション温度350℃,検出器FID,キャリアガスHe,線速40cm/sec,注入量1.0μL,スプリット1/10の条件で測定して、トリフェニルメタン量を定量した。測定結果は下記表1に示す。
【0080】
(3)耐熱性試験
1.耐熱性試験に使用する射出成形品用樹脂組成物の製造方法
下記の各実施例および比較例で作製したシンジオタクチックポリスチレン90重量%及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーSEBS(株式会社クラレ製 セプトン8006)10重量%からなる組成物100重量部に対して、
無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル(PPE)を3重量部、
酸化防止剤としてIrgnox1010(BASF社製)を0.6重量部、PEP-36(株式会社ADEKA製)を0.6重量部、及びSUMILIZER TP-D(住友化学株式会社製)0.6重量部
核剤としてアデカスタブNA-11(株式会社ADEKA製)を0.6重量部、並びに
離形剤としてSH 200CV-13,000CS(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.3重量部
を配合して、ヘンシェルミキサーでドライブレンドした。続いて、二軸スクリュー押出機を用いて、ガラス繊維03JA-FT164G(オーウェンスコーニング ジャパン株式会社製)30重量%をサイドフィードしながら樹脂組成物を混練し、ペレットを作製した。上記PPEとしては、国際公開WO96/16997の実施例2(1)に記載の方法により得られるものを用いた。
2.耐熱性試験に使用する射出成形品の作製方法
上記1で得られたペレットを用いて日精樹脂工業株式会社製射出成形機ES1000(樹脂温度300℃、金型表面温度150℃)により、ASTM D638 TypeI 引張試験片の成形品を得た。
3.耐熱性(長期熱暴露)試験
長期熱暴露に対する耐熱性を、JIS K 7226:1998に準拠して行った。
具体的には、上記2により得られた試験片を、150℃、160℃、170℃、180℃において、それぞれ4000時間、3000時間、1500時間、1000時間、試験片をオーブンに入れて暴露処理を行った。各暴露温度に於いて所定時間毎に試験片をオーブンから取り出し、引張試験に供して、暴露処理前後での引張強度の保持率を求めた。引張試験はASTMD638に準拠して実施した。
各暴露温度に於いて、縦軸を引張強度保持率、横軸を処理時間としたグラフ上に測定値をプロットして近似曲線を作成し、引張強度保持率50%を示す水平線と交わる点から破壊到達時間を求めた。
各暴露温度に於ける破壊到達時間を暴露温度の逆数値に対してプロットするアレニウスプロットから、温度指数(TI)を得た。これにより得た実施例、比較例の温度指数を表1に示す。本発明においては、温度指数TIが125℃より低い場合には長期耐熱性なしと判断した。
【0081】
実施例1~4及び比較例
<スチレン系樹脂の製造方法>
本発明にかかるスチレン系樹脂の製造方法を具体的に説明する。
清掃したダブルヘリカル翼を有する完全混合槽型反応器(内径550mm,高さ1155mm,内容積254リットル)を90℃まで昇温し、真空中にて3時間乾燥させた。次いで、窒素ガスにより反応器を復圧後、80℃まで降温した。予め乾燥窒素ガスを流通処理して充分乾燥させたSPSパウダー60kgをこの反応器に投入し、さらに窒素気流下で2時間乾燥させた。続いて攪拌を開始し、反応器内の温度を70℃に調節した。その後、スチレンモノマー及び触媒の投入を開始した。各触媒の比率及び添加水素量は下記表1に示す通りである。表中、「SM」とはスチレンモノマーを示す。
上記スチレンモノマー及び触媒の投入と同時に、不活性溶媒として、n-ペンタンの反応器内への供給を開始した。n-ペンタンは直ちに気化し、ダブルヘリカル翼での攪拌と相まって、内容物の良好な流動状態を作り出した。槽の低部から間歇的に生成パウダー(SPS樹脂)を排出した。
【0082】
【表2】
【0083】
比較例から以下のことがわかる。ハーフメタロセン系遷移金属化合物(A)に由来する金属分、すなわちチタン分が本願範囲外となると、長期耐熱性に劣る結果となる。
【0084】
用いた触媒種を以下に示す。
ハーフメタロセン触媒(A):オクタヒドロフルオレニルチタニウムトリメトキシド
化合物(b1):トリフェニルメタノール
化合物(b2):トリイソブチルアルミニウム
化合物(C):メチルアルミノキサン
化合物(E):トリイソブチルアルミニウム
化合物(D):ジイソブチルアルミニウムヒドリド