(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】インクジェット用顔料分散剤、インクジェット用水性顔料分散物、インクジェット用水性インク組成物、及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/326 20140101AFI20220602BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220602BHJP
C09C 1/36 20060101ALI20220602BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D17/00
C09C1/36
C09C3/06
(21)【出願番号】P 2020548093
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030841
(87)【国際公開番号】W WO2020059338
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018175751
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】玉國 史子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 祥平
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046598(JP,A)
【文献】特開2011-219650(JP,A)
【文献】特開2013-194226(JP,A)
【文献】特開2007-131753(JP,A)
【文献】特開2018-131509(JP,A)
【文献】特開平05-009405(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132380(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/151725(WO,A1)
【文献】国際公開第1992/022612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
C41J 2/01
B41M 5/00
C08F 12/06
C08F 20/10
C08G 18/00
C09C 1/36
C09C 3/06
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーを含むインクジェット用顔料分散剤であって、
前記ポリビニル化合物構造部中、下記式(1)又は下記式(2)で表される構成成分の含有量の合計が30質量%以下であり、
前記ポリビニル化合物構造部が酸性基を有し、前記ポリウレタン構造部が酸性基を有さず、前記ポリマーの酸価が80mgKOH/gを超える、インクジェット用顔料分散剤。
【化1】
前記式(1)及び(2)中、R
1a及びR
1bは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。A
1は-O-又は-NR
A-を示す。R
Aは水素原子または置換基を示す。L
1a及びL
1bは芳香族基、ベンジル基又は炭素数4以上のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記ポリマーの酸価が90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、請求項1記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項3】
前記ポリマー中に占める前記ポリビニル化合物構造部の割合が70質量%以下である、請求項1又は2記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン構造部が、下記式(3)、下記式(4)、及び下記式(5)で表される構成成分の少なくとも1種を含有する、請求項1~3のいずれか1項記載のインクジェット用顔料分散剤。
【化2】
前記式(3)、(4)、及び(5)中に示された環構造は芳香族環又は脂肪族環を示す。L
3~L
5は単結合又は2価の連結基を示す。X
3、X
4及びX
5は-O-*、-NHCO-*を示し、*はポリマー中に組み込まれるための連結部位を示す。R
3~R
5は置換基を示す。nは0以上の整数である。A
5は-N=又は-CH=を示す。Zは単結合又は2価の連結基を示す。L
3~L
5及びZが2価の連結基の場合、該2価の連結基はウレタン結合を有さず、かつ環構造を有しない。
【請求項5】
前記ポリマーがポリビニル化合物構造部にカルボキシ基を有する、請求項1~4のいずれか1項記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項6】
白色顔料の分散剤として用いる、請求項1~5のいずれか1項記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項7】
前記白色顔料が酸化チタンである、請求項6記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項8】
前記酸化チタンがシリカ、アルミナ及び有機物の少なくとも1種により表面処理されている、請求項7記載のインクジェット用顔料分散剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載のインクジェット用顔料分散剤と、顔料と、水性媒体とを含有するインクジェット用水性顔料分散物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項記載のインクジェット用顔料分散剤と、顔料と、水性媒体とを含有するインクジェット用水性インク組成物。
【請求項11】
請求項10記載のインクジェット用水性インク組成物を、インクジェット方式により記録媒体上に付与することを含む、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用顔料分散剤、インクジェット用水性顔料分散物、インクジェット用水性インク組成物、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙等の記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などの記録方法がある。
インクジェット記録方法は、印刷版を必要とせず、画像形成部のみにインクを吐出して記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率的に使用でき、ランニングコストが安い。更に、インクジェット記録方法は印刷装置も従来の印刷機に比べ比較的低コストで、小型化も可能であり、騒音も少ない。このように、インクジェット記録方法は他の画像記録方式に比べて種々の利点を兼ね備えている。
【0003】
インクジェットプリンターの水性インクには、色材として染料が用いられてきた。しかし染料を用いた水性インクでは、画像のにじみが生じやすく、また耐光性及び耐水性の向上にも制約があった。これらの欠点を克服するために、近年では色材として顔料を用いた水性インクが用いられている。顔料を用いた水性インクでは、顔料を水性媒体中に安定的に分散させる必要がある。そのため、水性インク及びその原料となる顔料分散物は、顔料分散剤を用いて顔料の分散性と分散安定性を高めている。この顔料分散剤として、顔料に対し吸着性を有する構造部(顔料吸着性部)と、水性媒体との親和性の高い構造部(水性媒体親和性部)とを併せ持つポリマーが用いられている。
【0004】
顔料の分散剤については多くの報告がある。例えば特許文献1には、側鎖にビニル重合体由来の構造を有し、酸価が20~80である、特定構造のポリウレタンを含有する顔料分散剤が記載されている。特許文献1には、この顔料分散剤をインクジェット記録用水性インクの顔料分散剤として用いることにより、得られるインクを顔料分散性に優れ、吐出安定性に優れたものとすることができ、また、形成した印刷物の耐擦過性も高められることが記載されている。
また、特許文献2には、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル系単量体を、メルカプト基一つと水酸基を二つ含有する連鎖移動剤の存在下で重合させた疎水性ポリマージオールと、(メタ)アクリル酸を上記の連鎖移動剤の存在下で重合させた親水性ポリマージオールと、有機ジイソシアネートとを反応させた構造の、カルボキシル基を含有するアクリル-ウレタン樹脂が記載されている。特許文献2によれば、この樹脂を顔料と塩基性物質とを含有するインクジェット記録用水性インクの調製に用いることにより、得られる水性インクを高温長時間の保存においても優れた貯蔵安定性を有し、着色画像の発色性にも優れたものにできるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/169840号
【文献】特開2005-239947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット記録方法では、一般的には紙媒体等の白色の記録媒体が用いられ、この記録媒体上に画像部を形成するために、通常は、赤、青及び黄の3色又はそれに黒を加えた4色のインクが用いられている。しかし近年では、着色された記録媒体を用いて、この記録媒体上へ画像形成する要求が高まっている。この場合はインクとして、上記の着色インクに加えて白色インクも用いられる。また、透明又は薄色の記録媒体上に画像を形成する場合、記録媒体上の着色インクを付与する領域に予め白色インクを適用して(いわゆる白押さえ)、形成された画像の鮮鋭度を高めることが行われる。このような着色記録媒体又は透明もしくは薄色記録媒体に適用する白色インクには、高い隠蔽性が要求される。
【0007】
白色インクの色材である白色顔料としては、一般的に金属酸化物が使用されている。この金属酸化物からなる白色顔料により高い隠蔽性を実現するためには、白色顔料の粒径をある程度大きくする必要がある。しかし、金属酸化物からなる白色顔料は総じて比重が大きい傾向にあり、粒径の大きな白色顔料を分散させた白色インクは、顔料が沈降しやすく、顔料が一旦沈降してしまうと再分散することが困難であるという問題がある。
本発明者らが上記各特許文献記載の顔料分散剤をはじめ従来の顔料分散剤について検討した結果、これらの顔料分散剤を白色インクにおける顔料分散剤として適用しても、近年要求される高度な保存安定性(分散安定性)を十分に満足することができず、また、この白色インクを実際にインクジェット方式で吐出した場合には、吐出した後、しばらく放置して再度吐出した際の吐出率(ノズルの放置-回復性)にも劣る傾向にあることがわかってきた。
そこで本発明は、粒径がより大きな顔料に適用したり比重がより高い顔料に適用したりしても、顔料の水性媒体中への分散性を十分に高めて保存安定性に優れた顔料分散物及び水性インク組成物を提供することができ、この水性インク組成物をインクジェット記録方法に適用した場合にノズルの放置-回復性も十分に高めることができるインクジェット用顔料分散剤を提供することを課題とする。また本発明は、この顔料分散剤の作用により水性媒体中に顔料を分散してなるインクジェット用水性顔料分散物及びインクジェット用水性インク組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明は、このインクジェット用水性インク組成物を用いた画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーを含むインクジェット用顔料分散剤であって、
上記ポリビニル化合物構造部中、下記式(1)又は下記式(2)で表される構成成分の含有量の合計が30質量%以下であり、上記ポリマーの酸価が80mgKOH/gを超える、インクジェット用顔料分散剤。
【化1】
上記式(1)及び(2)中、R
1a及びR
1bは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。A
1は-O-又は-NR
A-を示す。R
Aは水素原子または置換基を示す。L
1a及びL
1bは芳香族基、ベンジル基又は炭素数4以上のアルキル基を示す。
〔2〕
上記ポリマーの酸価が90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、〔1〕記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔3〕
上記ポリマー中に占める上記ポリビニル化合物構造部の割合が70質量%以下である、〔1〕又は〔2〕記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔4〕
上記ポリウレタン構造部が、下記式(3)、下記式(4)、及び下記式(5)で表される構成成分の少なくとも1種を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれか記載のインクジェット用顔料分散剤。
【化2】
上記式(3)、(4)、及び(5)中に示された環構造は芳香族環又は脂肪族環を示す。L
3~L
5は単結合又は2価の連結基を示す。X
3、X
4及びX
5は-O-*、-NHCO-*を示し、*はポリマー中に組み込まれるための連結部位を示す。R
3~R
5は置換基を示す。nは0以上の整数である。A
5は-N=又は-CH=を示す。Zは単結合又は2価の連結基を示す。L
3~L
5及びZが2価の連結基の場合、この2価の連結基はウレタン結合を有さず、かつ環構造を有しない。
〔5〕
上記ポリマーがポリビニル化合物構造部にカルボキシ基を有する、〔1〕~〔4〕のいずれか記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔6〕
白色顔料の分散剤として用いる、〔1〕~〔5〕のいずれか記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔7〕
上記白色顔料が酸化チタンである、〔6〕記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔8〕
上記酸化チタンがシリカ、アルミナ及び有機物の少なくとも1種により表面処理されている、〔7〕記載のインクジェット用顔料分散剤。
〔9〕
〔1〕~〔8〕のいずれか記載のインクジェット用顔料分散剤と、顔料と、水性媒体とを含有するインクジェット用水性顔料分散物。
〔10〕
〔1〕~〔8〕のいずれか記載のインクジェット用顔料分散剤と、顔料と、水性媒体とを含有するインクジェット用水性インク組成物。
〔11〕
〔10〕記載のインクジェット用水性インク組成物を、インクジェット方式により記録媒体上に付与することを含む、画像形成方法。
【0009】
本明細書においてポリビニル化合物構造部とは、ビニル基を有する化合物が重合してなるポリマーにより形成された構造部を意味する。本明細書において「ビニル基」は、通常よりも広義の意味で用いる。すなわち、炭素-炭素二重結合を有する基をすべて包含する意味に用いる。一例を挙げると、「CH2=CH-」の他、「CH2=CRB-」(RBは置換基)も本明細書ではビニル基に含まれるものとする。
本明細書において、特に断りがない限り、特定の符号で表示された置換基、連結基、繰り返し単位等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時もしくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット用顔料分散剤は、粒径がより大きな顔料に適用したり比重がより高い顔料に適用したりしても、顔料の水性媒体中への分散性を十分に高めて保存安定性に優れた水性顔料分散物及び水性インク組成物を提供することができる。また、本発明のインクジェット用水性顔料分散物及びインクジェット用水性インク組成物は、上記の水性インクジェット用顔料分散剤の作用により顔料の分散安定性に優れ、保存安定性に優れている。さらに本発明のインクジェット用水性インク組成物は、インクジェット記録方法におけるノズルの放置-回復性も十分に高めることができる。また、本発明の画像形成方法によれば、インクジェット方式により高精度の画像を繰り返し安定して形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のインクジェット用顔料分散剤、インクジェット用水性顔料分散物、インクジェット用水性インク組成物、及び画像形成方法について、好ましい実施形態を順に説明する。
【0012】
[インクジェット用顔料分散剤]
本発明のインクジェット用顔料分散剤(以下、「本発明の分散剤」とも称す。)は、ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーを含む。このポリマーを構成するポリビニル化合物構造部中、下記式(1)又は(2)で表される構成成分の含有量は30質量%以下であり、上記ポリマーの酸価は80mgKOH/gを超える。
本発明の分散剤を構成するポリマー(以下、「本発明のポリマー」とも称す。)において、ポリウレタン構造部は顔料に対する吸着性の構造部として機能することが好ましく、ポリビニル化合物構造部は水性媒体との親和性の高い構造部として機能することが好ましい。
【0013】
【0014】
式(1)及び(2)において、R1a及びR1bは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。このアルキル基の炭素数が3又は4の場合、直鎖でも分岐を有してもよい。
R1a及びR1bは水素原子又はメチルが好ましい。
【0015】
A1は-O-又は-NRA-を示す。RAは水素原子または置換基を示す。RAが置換基の場合、この置換基としては、後述するR2として採り得る置換基が挙げられる。
L1a及びL1bは芳香族基、ベンジル基又は炭素数4以上のアルキル基を示す。このうち炭素数4以上のアルキル基は、炭素鎖中に-O-、-S-及び-NR2-の少なくとも1つを含んでいてもよく、このような構造も本発明で規定する「炭素数4以上のアルキル基」に含まれる。ここで、R2は水素原子又は置換基を示し、R2が炭素原子を含む場合、この炭素原子は「炭素数4以上のアルキル基」の炭素数には含まれないものとする。
また、L1a及びL1bとして採り得る炭素数4以上のアルキル基は、置換基を有してもよい。この置換基としては、例えば芳香族基が挙げられる。L1a及びL1bとして採り得る炭素数4以上のアルキル基が置換基を有する場合、この置換基が有する炭素原子は「炭素数4以上のアルキル基」の炭素数には含まれないものとする。
L1a及びL1bとして採り得る炭素数4以上のアルキル基は、炭素数が通常は20以下である。
R2が置換基の場合、この置換基は、例えば、炭化水素基である。この炭化水素基の炭素数は、例えば1~20が好ましく、1~12でもよく、1~8でもよい。R2が炭化水素基の場合、環状の基でもよいし、鎖状の基でもよい。この炭化水素基は、例えばアルキル基である。このアルキル基は直鎖でもよく、分岐を有してもよい。
式(1)及び(2)で表される構成成分は、解離性基を有しないことがより好ましい。解離性基とは、水素原子を有し、この水素原子が塩基の作用により解離する基を意味する。解離性基の具体例としては、フェノール性水酸基、メルカプト基、カルボキシ基、ホスホニル基、ホスホリル基、スルホ基、及びホウ酸基を挙げることができる。
【0016】
本発明のポリマーを構成するポリビニル化合物構造部中、上記式(1)又は(2)で表される構成成分の含有量は、30質量%以下であり、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。また、本発明のポリマーを構成するポリビニル化合物構造部中の上記式(1)又は(2)で表される構成成分の含有量は、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらにより好ましく、5質量%以下が特に好ましく、ポリビニル化合物構造部中に上記式(1)又は(2)で表される構成成分が含まれない、すなわち0質量%であることが最も好ましい。
このように、ポリビニル化合物構造部中の上記式(1)又は(2)で表される構成成分の含有量を一定量以下とすることにより、ポリビニル化合物構造部中において顔料と親和性の高い疎水性構造の割合を抑えることができ、ポリビニル化合物構造部を水性媒体親和性部として効果的に機能させることができる。
【0017】
本発明のポリマーの酸価は80mgKOH/gを超える。このような酸価のポリマーとすることにより、顔料表面にポリマーが吸着した状態で、酸性基を有する部分同士の電荷反発が効果的に働き、顔料の分散性をより高めることができる。本発明のポリマーの酸価は90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましい。
本発明のポリマーを、水性媒体中への溶解性を高め、また水性媒体中においてポリマーが有する酸性基の電荷反発を効果的に引きだして顔料分散剤として用いるため、通常は、ポリマーが有する酸性基をアルカリで中和した塩の状態として用いる。すなわち、本発明において「ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーを含むインクジェット用顔料分散剤」とは、「インクジェット用顔料分散剤」が、「ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマー」が有する酸性基を中和して塩の状態としたポリマーにより構成されていることを含む意味である。
また、上述した本発明のポリマーの酸価は、酸性基が塩の状態で測定されるものではなく、酸性基が水素原子を有する形態において測定されるもの(中和前酸価)である。例えば、本発明のポリマーの酸価は、ポリマーの溶液のpHを0.1MのHCl水溶液によりpH5以下の酸性にした状態で測定することができる。
ポリマーの酸価は、JIS K0070に準拠して測定し、1mmol/g=56.1mgKOH/gとして換算することにより算出される。
【0018】
本発明のポリマーはポリビニル化合物構造部が酸性基を有する形態が好ましい。このような構造とすることにより、ポリウレタン構造部を顔料吸着性基とし、また、ポリビニル化合物構造部を水性媒体親和性部として、より効果的に機能分離させることができる。結果、ポリビニル化合物構造部の電荷反発に加え、ポリビニル化合物構造部が水性媒体中へと伸びやすくなってポリビニル化合物構造部の立体反発も効果的に働き、顔料の分散性をより効果的に高めることができる。
本発明において酸性基とは、解離性のプロトンを有する置換基であり、pKaが11以下の置換基である。酸性基のpKaは、J.Phys.Chem.A2011,115,6641-6645に記載の「SMD/M05-2X/6-31G*」方法に従って求めることができる。酸性基としては、例えば、カルボキシ基、ホスホニル基、ホスホリル基、スルホ基、及びホウ酸基等の酸性を示す基を挙げることができ、カルボキシ基が好ましい。
ポリウレタン構造部は酸性基を有しないことが好ましく、解離性基を有しないことがより好ましい。
【0019】
本発明のポリマー中に占めるポリビニル化合物構造部の割合は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に設定することができる。顔料分散性をより高める観点からは、ポリマー中に占めるポリビニル化合物構造部の割合を70質量%以下とすることが好ましく、65質量%以下とすることがより好ましい。また、同様の観点から、ポリマー中に占めるポリビニル化合物構造部の割合は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。
【0020】
本発明のポリマーを構成するポリウレタン構造部は、下記式(3)~(5)のいずれかで表される構成成分の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0021】
【0022】
式(3)~(5)中に示された環構造は芳香族環又は脂肪族環を示す。これらの環は単環である。芳香族環は芳香族炭化水素環でもよく、芳香族ヘテロ環でもよく、芳香族炭化水素環が好ましい。式(3)~(5)中に示された環構造の環構成原子数は3~10が好ましく、4~8がより好ましく、5又は6がさらに好ましく、6が特に好ましい。
L3~L5は単結合又は2価の連結基を示す。L3~L5が2価の連結基である場合、この2価の連結基はウレタン結合を有しない。また、L3~L5は環構造を有しない。L3~L5として採り得る2価の連結基は、例えば、分子量が10~300の2価の連結基とすることができる。L3~L5として採り得る2価の連結基は、アルキレン基が好ましい。このアルキレン基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキレン基の炭素数は1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0023】
X3、X4及びX5は-O-*、-NHCO-*を示し、*はポリマー中に組み込まれるための連結部位を示す。すなわち、X3、X4及びX5はウレタン結合の一部を構成する基である。
【0024】
R3~R5は置換基を示し、nは0以上の整数である。nの上限値は、上記環構造の環構成原子が有することができる置換基の最大数である。R3~R5として採り得る置換基はアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、又はアルキニル基が好ましい。
R3~R5として採り得る置換基が炭素鎖を有する場合、この炭素鎖は、炭素鎖中に-O-、-S-及び-NR2-の少なくとも1つを含んでいてもよい。R2は上述したR2と同義である。
R3~R5として採り得るアルキル基及びアルコキシ基は、炭素数が1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、さらに好ましくはメチルである。
R3~R5として採り得るアルケニル基及びアルキニル基は、炭素数が2~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましい。
nは0~8が好ましく、0~6がより好ましく、0~4がさらに好ましく、0~3が特に好ましい。
【0025】
A5は-N=又は-CH=を示す。
【0026】
式(3)~(5)のいずれかで表される構成成分は、いずれも酸性基を有しないことが好ましく、解離性基を有しないことがより好ましい。
【0027】
Zは単結合又は2価の連結基を示す。Zが2価の連結基の場合、この2価の連結基はウレタン結合を有しない。また、Zは環構造を有しない。Zとして採り得る2価の連結基は、例えば、分子量が10~300の2価の連結基を採用することができる。Zとして採り得る2価の連結基は、アルキレン基が好ましい。このアルキレン基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキレン基の炭素数は1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0028】
本発明のポリマーを構成するポリウレタン構造部中、上記式(3)~(5)のいずれかで表される構成成分の含有量は合計で、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
また、ポリウレタン構造部のすべてが、上記式(3)~(5)のいずれかで表される構成成分により構成されていることも好ましい。すなわち、ポリウレタン構造部を構成するジイソシアネート成分とジオール成分のすべてが、上記式(3)~(5)のいずれかで表される構成成分であることも好ましい。
本発明のポリマー中、ポリウレタン構造部の含有量は、顔料分散性をより高める観点から30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。また同様の観点から、本発明のポリマー中、ポリウレタン構造部の含有量は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0029】
本発明のポリマーは、ポリマー1分子中にポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とをそれぞれ、少なくとも1つずつ有していればよい。ポリマー1分子中にポリビニル化合物構造部を複数有していたり、ポリウレタン構造部を複数有していたりすることも好ましく、両構造部をそれぞれ複数有していてもよい。
本発明のポリマーにおいて、ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部の配置については、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されない。例えば、(a)ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とからなるブロックコポリマーとすることができる。また、(b)ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部のいずれか一方の構造部(X)に他方の構造部(Y)がグラフト鎖として結合しているグラフトポリマーの形態とすることもできる。また、(c)(b)のグラフト鎖にさらに別のXが結合したり、このグラフト鎖に結合したXがさらに別のYと結合したりした形態とすることもできる。
本発明において「グラフトポリマー」という場合、一方の構造部(X)に他方の構造部(Y)がグラフト鎖として結合した形態を広く意味し、このグラフト鎖にさらに別の鎖が結合していたり、グラフト鎖を介して架橋構造が形成されてたりしていても「グラフトポリマー」に含まれるものとする。したがって、例えば、上記(c)はグラフトポリマーである。
ポリマー1分子中にポリビニル化合物構造部を複数有する場合、複数のポリビニル化合物構造部は互いに同じ構造でもよく、異なる構造でもよい。また、ポリマー1分子中にポリウレタン構造部を複数有する場合、複数のポリウレタン構造部は互いに同じ構造でもよく、異なる構造でもよい。合成の簡便性の観点からは、複数のポリビニル化合物構造部は互いに同じ構造であり、複数のポリウレタン構造部も互いに同じ構造であることが好ましい。
ここで、「互いに同じ構造」とは、(i)構成成分の種類、(ii)構成成分のモル比、(iii)構成成分の配置(ランダム又はブロック) のすべてが同じであることを意味する。
本発明のポリマーにおいて、ポリビニル化合物構造部の重量平均分子量(Mw)は、例えば、1000~20000とすることができる。また、ポリウレタン構造部のMwは、例えば、3000~30000とすることができる。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値を意味する。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0030】
つづいて、本発明の分散剤を適用する顔料について説明する。
<顔料>
本発明の分散剤を適用する顔料としては、通常の有機顔料又は無機顔料を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、又は多環式顔料が好ましい。
アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料が挙げられる。
多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。
染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートが挙げられる。
【0031】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック等が挙げられる。これらの中でも、酸化チタン、カーボンブラックが好ましい。
【0032】
上記カーボンブラック顔料のDBP吸収量は特に制限されないが、色調と印画濃度の観点から、30ml/100g以上200ml/100g以下であることが好ましく、50ml/100g以上150ml/100g以下であることがより好ましい。尚、DBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0033】
また上記カーボンブラック顔料のBET比表面積は特に制限されないが、印画濃度と保存安定性の観点から、30m2/g以上450m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以上400m2/g以下であることがより好ましい。
【0034】
カーボンブラック顔料としては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
具体例としては例えば、Raven1250、Raven1200、Raven1190 ULTRA、Raven1170、Raven1255、Raven1080ULTRA、Raven1060ULTRA、Raven1040、Raven1035、Raven1020、Raven1000、Raven900、Raven890、Raven850、Raven780ULTRA、Raven860Ultra、Raven520、Raven500、Raven450、Raven460、Raven415、Raven14、Conductex7055 Ultra(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Black Pearls L、Regal99、Regal350、MONARCH280、MONARCH120(以上、キャボット社製)、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、Printex U、Printex V、Printex140U、Printex140V、Printex300、Printex25、Printex200、PrintexA、PrintexG、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black4、Special Black550、Special Black 350、Special Black250、Special Black100、NEROX3500、NEROX1000、NEROX2500(以上、エボニックデグッサ社製)、No.10、No.20、No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.85、No.95、No.260、MA7、MA8、MA11、MA77、MA100、MA220、MA230、MA600(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0035】
さらに、本発明に用いることができる顔料の具体例として、特開2007-100071号公報の段落番号0142~0145に記載の顔料が挙げられる。
【0036】
有機顔料及びカーボンブラックの粒径は、10~200nmが好ましく、80~150nmがより好ましく、90~120nmがさらに好ましい。ここで、顔料の粒径は体積平均粒径を意味する。
有機顔料及びカーボンブラックの粒径を200nm以下とすることにより、水性インク組成物に用いた際の色再現性が向上しうる。また、顔料分散物中の顔料の粒径を10nm以上とすることにより、水性インク組成物に用いた際の耐光性が向上しうる。
無機顔料、特に白色インクに使用される無機顔料の粒径は、150~400nmが好ましく、200~300nmがより好ましい。
白色インクに使用される無機顔料の粒径を150nm以上とすることにより、水性インク組成物に用いた際の隠蔽性が向上しうる。
【0037】
本発明の分散剤は、なかでも白色顔料(酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛等)の水性媒体中への分散剤として好適である。白色顔料は一般に、隠蔽性等を向上させるために粒径が比較的大きなものを用い、また比重も大きい傾向になる。それゆえ白色顔料は一般に分散安定性に劣る傾向にある。本発明の分散剤は、このような白色顔料に適用しても、顔料の分散安定性を効果的に高めることができる。
本発明の分散剤を適用する白色顔料は、酸化チタンであることがより好ましい。酸化チタンの粒子形状は特に制限されず、粒状及び針状等のいずれの形状であってもよい。
酸化チタンの結晶構造は特に制限されず、ルチル型(正方晶)、アナターゼ型(正方晶)及びブルッカイト型(斜方晶)のいずれであってもよい。
酸化チタンは気相法又は液相法で製造することができる。
酸化チタンは、良好な分散性を得る観点から、表面処理されていることが好ましい。表面処理は、粒子の少なくとも一部又は全部が処理されていればよい。酸化チタンの表面処理は特に制限されず、例えば、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、ジルコニア及び酸化マグネシウム等の無機物の少なくとも1種による表面処理、並びに、チタンカップリング剤、シランカップリング剤及びシリコーンオイル等の有機物による表面処理等が挙げられる。隠蔽性を向上する点からは、白色顔料とする酸化チタンはシリカ、アルミナ及び有機物の少なくとも1種により表面処理された酸化チタンが好ましい。
【0038】
[インクジェット用水性顔料分散物]
本発明のインクジェット用水性顔料分散物(以下、「本発明の分散物」とも称す。)は、本発明の分散剤と、顔料と、水性媒体とを含有する。
本発明の分散物はさらに、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分の例としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂、界面活性剤、pH調整剤、無機塩、有機塩等が挙げられる。
本発明の分散物を構成する各成分について詳説する。
【0039】
<水性媒体>
本発明の分散物に用いる水性媒体(以下、水性媒体(a)という。)は、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合液である。
水の量に特に制限はなく、水の含有量は、本発明の分散物中、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が特に好ましい。上記水の含有量の上限は特に限定しないが、本発明の分散物中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
水性媒体(a)に含有されうる上記水溶性有機溶媒は、20℃において水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましい。この水溶性有機溶媒として、例えば、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、アミド化合物、二トリル化合物、スルホン化合物が挙げられる。
【0041】
これらのうちアルコール化合物としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、イソブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンが挙げられる。
また、ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが挙げられる。
エーテル化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びポリオキシプロピレングリセリルエーテルが挙げられる。
アミド化合物としては、例えば、ジメチルホルムアミド、及びジエチルホルムアミドが挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリルが挙げられる。
スルホン化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、及びスルホランが挙げられる。
【0042】
水溶性有機溶媒の含有量は、本発明の分散物中、3~50質量%が好ましく、4~45質量%がより好ましく、5~40質量%が更に好ましい。
本発明の分散物は、水溶性有機溶媒を、1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の分散物が、水溶性有機溶媒を2種以上併用する場合、上記含有量は、水溶性有機溶媒の合計含有量をいう。
本発明の分散物中の水性媒体(a)の含有量は、20~90質量%が好ましく、25~80質量%がより好ましく、30~75質量%がさらに好ましく、35~70質量%が特に好ましい。
【0043】
<顔料>
本発明の分散物に含まれる顔料は、本発明の分散剤において説明したものと同じである。
本発明の分散物中、顔料の含有量は、例えば5~80質量%とすることができ、10~75質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましく、25~65質量%がさらに好ましい。
【0044】
本発明の分散物において、顔料の含有量と本発明の分散剤の含有量の比は、顔料が水性媒体(a)中に安定的に分散できれば特に制限はない。通常は、顔料:本発明の分散剤=1:0.01~1:2(質量比)であり、顔料:本発明の分散剤=1:0.01~1:1.5(質量比)であることが好ましく、顔料:本発明の分散剤=1:0.02~1:1(質量比)であることがより好ましく、顔料:本発明の分散剤=1:0.02~1:0.5(質量比)であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の分散物の粘度は、通常は2~100mPa・sであり、3~50mPa・sであることがより好ましい。
なお、本明細書において、粘度は、粘度計を用い、25℃で測定した値を意味する。粘度計としては、例えば、VISCOMETER TV-22型粘度計(東機産業(株)製)を用いることができる。
【0046】
本発明の分散物のpHは、pH6~11が好ましく、pH7~10がより好ましく、pH7~9がさらに好ましい。
【0047】
<インクジェット用水性顔料分散物の調製>
本発明の分散物は、例えば、少なくとも水性媒体(a)と、顔料と、本発明の分散物とを混合して分散処理することにより、本発明の水性顔料分散物を得ることができる。この分散処理は、各種の混合機を用いて行うことができる。混合機として例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ―、ブレードミキサ―、ロールミル、ニーダー、ディスクミル等が挙げられる。
【0048】
本発明の分散物中に分散している有機顔料及びカーボンブラックの粒径は、80~120nmであることが好ましく、90~110nmであることがより好ましい。本発明の分散物中の顔料の粒径は体積平均粒径を意味する。また本発明の分散物中に分散している無機顔料(例えば白色インクに使用される酸化チタンの粒径)は、180~350nmが好ましく、200~300nmがより好ましい。
【0049】
[インクジェット用水性インク組成物]
本発明のインクジェット用水性インク組成物(以下、「本発明のインク組成物」とも称す。)は、本発明の分散物そのものでもよいが、通常は本発明の分散物を原料として用いて調製される。より詳細には、少なくとも本発明の分散物と、水性媒体(以下、水性媒体(b)という。)とを混合することにより、本発明のインク組成物を調製することが好ましい。本発明のインク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、乾燥防止剤(膨潤剤)、着色防止剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート剤等の添加剤を混合してもよい。混合方法に特に制限はなく、通常用いられる混合方法を適宜に選択し、本発明のインク組成物を得ることができる。
【0050】
水性媒体(b)は水性媒体(a)と同義であり、好ましい態様も同じである。本発明のインク組成物中、水性媒体の含有量(水性媒体(a)と(b)の含有量の合計)は、インク安定性、吐出信頼性の観点から、10~99質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
【0051】
本発明のインク組成物中、顔料濃度は、画像濃度の観点から、0.5~25質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましい。
また、本発明のインク組成物中に分散している有機顔料及びカーボンブラックの粒径は、80~120nmであることが好ましく、90~110nmであることがより好ましい。インク組成物中の顔料の粒径は体積平均粒径を意味する。また本発明のインク組成物中に分散している無機顔料、特に白インクに使用される酸化チタンの粒径は、180~350nmが好ましく、200~300nmがより好ましい。
【0052】
本発明のインク組成物が含有しうる上記界面活性剤は、例えば表面張力調整剤として用いることができる。
上記界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0053】
本発明においては、インクの打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール誘導体(アセチレングリコール系界面活性剤)がより好ましい。
上記アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
【0054】
上記界面活性剤は、インクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20~60mN/mに調整できる範囲の量で含有させることが好ましく、より好ましくはインク組成物の表面張力を20~45mN/m、更に好ましくは25~40mN/mに調整できる範囲の量で含有させる。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、水性インク組成物を用いて25℃の条件下で測定される。
【0055】
本発明のインク組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は特に限定されないが、水性インク組成物中、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1~10質量%であり、更に好ましくは0.2~3質量%である。
【0056】
本発明のインク組成物の粘度には特に限定はないが、25℃での粘度が、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
【0057】
本発明のインク組成物のpHは、分散安定性の観点から、pH6~11が好ましい。後述のインクセットとする場合は、酸性化合物等を含む処理剤との接触によってインク組成物が高速で凝集することが好ましいため、pH7~10がより好ましく、pH7~9がさらに好ましい。
【0058】
[画像形成方法]
本発明の画像形成方法は、本発明のインク組成物を、インクジェット方式により記録媒体上に付与することを含む。
本発明の画像形成方法は好ましくは、
処理剤を記録媒体上に付与する処理剤付与工程と、
処理剤付与工程後の記録媒体上に、顔料を含む本発明のインク組成物をインクジェット方式により付与して画像を形成するインク付与工程とを含む。
【0059】
<処理剤>
上記処理剤は、本発明のインク組成物と接触することでインク組成物を凝集させる凝集誘導成分(略して「凝集成分」ともいう。)を含有する。この凝集成分としては、酸性化合物、多価金属塩及びカチオン性ポリマーから選ばれる成分が挙げられ、凝集成分が酸性化合物であることが好ましい。処理剤は、凝集成分の他に、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
上記処理剤は、通常は水溶液の形態である。
【0060】
- 酸性化合物 -
酸性化合物は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物を凝集(固定化)することができるものであり、固定化剤として機能する。例えば、酸性化合物を含む処理剤を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与した状態で、この記録媒体にインク組成物を着滴すれば、インク組成物を凝集させることができ、インク組成物を記録媒体上に固定化することができる。
【0061】
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、シュウ酸、酢酸、安息香酸が挙げられる。揮発抑制と溶媒への溶解性の両立という観点から、酸性化合物は分子量35以上1000以下の酸が好ましく、分子量50以上500以下の酸がさらに好ましく、分子量50以上200以下の酸が特に好ましい。また、pKa(in H2O、25℃)としては、インクにじみ防止と光硬化性の両立という観点から、-10以上7以下の酸が好ましく、1以上7以下の酸がより好ましく、1以上5以下の酸が特に好ましい。
pKaはAdvanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(1994-2014 ACD/Labs)による計算値、あるいは文献値(例えばJ.Phys.Chem.A 2011,115,6641-6645等)に記載の値を用いることができる。
【0062】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価又は3価の酸性化合物が特に好ましい。
処理剤には、酸性化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
処理剤が酸性化合物を含む水溶液である場合、処理剤のpH(25℃)は、0.1~6.8であることが好ましく、0.1~6.0であることがより好ましく、0.1~5.0であることがさらに好ましい。
【0064】
処理剤が凝集成分として酸性化合物を含む場合、処理剤中の酸性化合物の含有量は、40質量%以下が好ましく、15~40質量%がより好ましく、15質量%~35質量%がさらに好ましく、20質量%~30質量%が特に好ましい。処理剤中の酸性化合物の含有量を15~40質量%とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
【0065】
処理剤が凝集成分として酸性化合物を含む場合、処理剤の記録媒体への付与量としては、インク組成物を凝集させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、酸性化合物の付与量が0.5g/m2~4.0g/m2となるように処理剤を付与することが好ましく、0.9g/m2~3.75g/m2となるように処理剤を付与することが好ましい。
【0066】
- 多価金属塩 -
処理剤としては、凝集成分として多価金属塩の1種又は2種以上を含む形態も好ましい。凝集成分として多価金属塩を含有させることで、高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)の塩、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)の塩、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)の塩、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0067】
処理剤が凝集成分として多価金属塩を含む場合、処理剤中の多価金属塩の含有量としては、凝集効果の観点から、1~10質量%が好ましく、より好ましくは1.5~7質量%であり、更に好ましくは2~6質量%の範囲である。
【0068】
- カチオン性ポリマー -
また、処理剤としては、凝集成分として1種又は2種以上のカチオン性ポリマーを含有することも好ましい。カチオン性ポリマーとしては、カチオン性基として、第一級~第三級アミノ基、又は第四級アンモニウム塩基を有するカチオン性モノマーの単独重合体や、このカチオン性モノマーと非カチオン性モノマーとの共重合体又は縮重合体として得られるものが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、水溶性ポリマー又は水分散性ラテックス粒子のいずれの形態で用いてもよい。
カチオン性ポリマーの好ましい具体例として、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、又はポリアリルアミン及びその誘導体などのカチオン性ポリマーを挙げることができる。
【0069】
上記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理剤の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理剤をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、1,000~500,000の範囲が好ましく、1,500~200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは2,000~100,000の範囲である。重量平均分子量は、1000以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理剤をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0070】
処理剤が凝集成分としてカチオン性ポリマーを含む場合、処理剤中のカチオン性ポリマーの含有量としては、凝集効果の観点から、1~50質量%が好ましく、より好ましくは2~30質量%であり、更に好ましくは2~20質量%の範囲である。
【0071】
<記録媒体>
上記記録媒体に特に制限はなく、紙媒体である浸透性記録媒体でもよく、また、塗工紙(コート紙)に代表される低浸透性記録媒体でもよく、プラスチック、金属、ガラス等の非浸透記録媒体であることも好ましい。本発明の水性インク組成物は、低浸透性又は非浸透性の記録媒体上に画像部を形成した場合であっても、素早く乾燥させることができ、所望の画像を高速かつ高精度に形成することができる。
本発明において「低浸透性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05~0.5mL/m2・ms1/2である記録媒体を意味する。また、本発明において「非浸透性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m2・ms1/2未満である記録媒体を意味する。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機社製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0072】
非浸透性基材としては特に制限はないが、樹脂基材が好ましい。樹脂基材としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂をシート状に成形した基材が挙げられる。樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、又は、ポリイミドを含むことが好ましい。
【0073】
樹脂基材は、透明な樹脂基材であってもよく、着色された樹脂基材であってもよく、少なくとも一部に金属蒸着処理等がなされていてもよい。
樹脂基材の形状は、特に限定されない。樹脂基材は、通常はシート状の樹脂基材であり、被記録媒体の生産性の観点から、巻き取りによってロールを形成可能なシート状の樹脂基材であることがより好ましい。
樹脂基材の厚さとしては、10μm~200μmが好ましく、10μm~100μmがより好ましい。
【0074】
樹脂基材は、表面エネルギーを向上させる観点から、表面処理がなされていてもよい。
表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS-10S)等を用いて行なうことができる。
コロナ処理の条件は、樹脂基材の種類、インクの組成等、場合に応じて適宜選択すればよい。一例として、下記の処理条件が挙げられる。
・処理電圧:10~15.6kV
・処理速度:30~100mm/s
【0075】
<処理剤付与工程>
処理剤付与工程では、上記処理剤が記録媒体上に付与される。処理剤は通常は水溶液の状態で記録媒体上に付与される。処理剤の記録媒体上への付与は、公知の液体付与方法を特に制限なく用いることができ、スプレー塗布、塗布ローラー等の塗布、インクジェット方式による付与、浸漬などの任意の方法を選択することができる。
具体的には、例えば、ホリゾンタルサイズプレス法、ロールコーター法、カレンダーサイズプレス法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるナイフコーター法;ゲートロールコーター法などのトランスファーロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、リバースロールコーター法、スクイズロールコーター法などに代表されるロールコーター法;ビルブレードコーター法、ショートデュエルコーター法;ツーストリームコーター法などに代表されるブレードコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;キャストコーター法;グラビアコーター法;カーテンコーター法;ダイコーター法;ブラシコーター法;転写法などが挙げられる。
また、特開平10-230201号公報に記載の塗布装置のように、液量制限部材を備えた塗布装置を用いることで、塗布量を制御して塗布する方法であってもよい。
【0076】
処理剤を付与する領域は、記録媒体全体に付与する全面付与であっても、インク付与工程でインクが付与される領域に部分的に付与する部分付与であってもよい。本発明においては、処理液の付与量を均一に調整し、細線や微細な画像部分等を均質に記録し、画像ムラ等の濃度ムラを抑える観点から、塗布ローラー等を用いた塗布によって記録媒体の画像形成面の全体に付与する全面付与が好ましい。
【0077】
処理剤の付与量を上記範囲に制御して塗布する方法としては、例えば、アニロックスローラーを用いた方法が挙げられる。アニロックスローラーとは、セラミックが溶射されたローラー表面をレーザーで加工しピラミッド型や斜線、亀甲型などの形状を付したローラーである。このローラー表面に付けられた凹みの部分に処理液が入り込み、紙面と接触すると転写されて、アニロックスローラーの凹みで制御された塗布量にて塗布される。
【0078】
<インク付与工程>
インク付与工程では、上記インク組成物がインクジェット方式により記録媒体上に付与される。
インクジェット方式による画像形成では、エネルギーを供与することにより、記録媒体上にインク組成物を吐出し、画像部を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法が適用できる。
【0079】
インクジェット方式には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等のいずれであってもよい。
また、インクジェット方式で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。さらに上記インクジェット方式により記録を行う際に使用するインクノズル等についても特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
なお、インクジェット方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0080】
またインクジェット方式として、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の一辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
【0081】
上記処理剤付与工程とインク付与工程の実施順は特に制限はないが、画像品質の観点から、処理剤付与工程後にインク付与工程が行われる態様であることが好ましい。すなわちインク付与工程は、処理剤が付与された記録媒体上に本発明のインク組成物を付与する工程であることが好ましい。
【0082】
高精細印画を形成する観点から、インクジェット方式により吐出されるインク組成物の液滴量が1.5~8.0pLであることが好ましく、1.5~5.0pLであることがより好ましい。吐出されるインク組成物の液滴量は、吐出条件を適宜に調整して調節することができる。
【0083】
<インク乾燥工程>
本発明の画像形成方法は、必要に応じて、記録媒体上に付与されたインク組成物中の溶媒(例えば、水、前述の水系媒体など)を乾燥除去するインク乾燥工程を備えていてもよい。インク乾燥工程は、インク溶媒の少なくとも一部を除去できれば特に制限はなく、通常用いられる方法を適用することができる。
【0084】
<熱定着工程>
本発明の画像形成方法は、必要により、上記インク乾燥工程の後に、熱定着工程を備えることも好ましい。熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。熱定着工程として、例えば、特開2010-221415号公報の段落<0112>~<0120>に記載の熱定着工程を採用することができる。
【0085】
<インク除去工程>
本発明のインクジェット記録方法は、必要に応じて、インクジェット記録用ヘッドに付着した水性インク組成物(例えば、乾燥により固形化したインク固形物)をメンテナンス液により除去するインク除去工程を含んでいてもよい。メンテナンス液及びインク除去工程の詳細は、国際公開第2013/180074号に記載されたメンテナンス液及びインク除去工程を好ましく適用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
[調製例1] ポリマーP-1の合成、及びポリマーP-1を含む顔料分散剤の調製
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン(265g)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。そこへ、V-601(ラジカル重合開始剤、和光純薬社製)(0.4g)、及びメチルエチルケトン(50g)からなる混合溶液と、メチルメタクリレート(150g)、メタクリル酸(150g)、及び3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(12.5g)からなるモノマー溶液とを、4時間で滴下が完了するように等速で滴下した。モノマー溶液の滴下完了後、更に6時間攪拌し、ポリビニル化合物V-1の50質量%メチルエチルケトン溶液を得た。
続いて、温度計、撹拌装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた3ツ口フラスコに、上記ポリビニル化合物V-1のメチルエチルケトン溶液(80g、固形分50質量%)、1,4-ベンゼンジメタノール(20.5g)、イソホロンジイソシアネート(39.5g)、及びメチルエチルケトン(25g)を仕込み、窒素気流化で70℃まで昇温した。そこへネオスタンU-600(0.17g)を加え、8時間撹拌し、得られた反応混合物に2-プロパノール(45g)およびメチルエチルケトン(38g)を加え、更に3時間撹拌し、ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーP-1のメチルエチルケトン溶液を得た。このポリマーP-1の酸価(中和前酸価)は99mgKOH/gであった。
【0088】
次いで、ポリマーP-1のメチルエチルケトン溶液200gに1-メトキシ-2-プロパノール(100g)およびプロピレングリコール(100g)を加え十分に撹拌し、次いでメチルエチルケトンを留去した後、70℃に加熱し、50質量%水酸化カリウム水溶液(16g)を加え2時間撹拌することによってカルボキシ基を中和し、ポリマーP-1を含む顔料分散剤P-1の溶液を得た。
【0089】
[調製例2~14] ポリマーP-2~P-14の合成、及びポリマーP-2~P-14を含む顔料分散剤の調製
ポリマーP-1の合成において、使用する原料を下表に示す構造と対応したものに変更したこと以外は、ポリマーP-1と同様にして、ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーP-2~P-14を合成した。
得られたポリマーP-2~P-14を、上記と同様にして水酸化カリウムによる中和処理に付し、ポリマーP-2~P-14を含む顔料分散剤P-2~P-14の溶液をそれぞれ得た。
【0090】
[比較調製例1~4] ポリマーCP-1~CP-4の合成、及びポリマーCP-1~CP-4を含む顔料分散剤の調製
ポリマーP-1の合成において、使用する原料を下表に示す構造と対応したものに変更したこと以外は、ポリマーP-1と同様にして、ポリビニル化合物構造部とポリウレタン構造部とを有するポリマーCP-1~CP-4を合成した。
得られたポリマーCP-1-CP-4を、上記と同様にして水酸化カリウムによる中和処理に付し、ポリマーCP-1~CP-4を含む顔料分散剤CP-1~CP-4の溶液をそれぞれ得た。
【0091】
ポリマーP-1~P-14、並びにポリマーCP-1~CP-4のMwはいずれも、5000~80000の範囲内にあった。また、ポリマーP-1~P-14、並びにポリマーCP-1~CP-4の合成に用いたポリビニル化合物のMwはいずれも1000~20000の範囲内にあった。
【0092】
【0093】
【0094】
上記表中の「ポリビニル化合物(PV)」および「ポリウレタン(PU)」の欄の各構成成分に付した数値は質量比を示す。
【0095】
[水性顔料分散物の調製]
レディーミル モデルLSG-4U-08(アイメックス社製)を使用し、下記の通り水性顔料分散物を調製した。
ジルコニア製の容器に、酸化チタン粉末(PF690:石原産業製、体積平均粒径210nm、アルミナ、シリカ及び有機物処理品)45質量部、上記で合成した各顔料分散剤の30質量%溶液7.5質量部、超純水47.5質量部を投入した。更に、0.3mmφジルコニアビーズ(TORAY製トレセラムビーズ)400質量部を加えて、スパチュラで軽く混合した。
ジルコニア製容器を装置にセットし、回転数1000rpmで1.5時間分散処理した。分散処理終了後、ろ布でろ過してビーズを取り除いた。こうして、上記で合成した顔料分散剤P-1~P-14及びCP-1~CP-4のいずれかを顔料分散剤とする、顔料濃度が45質量%の水性顔料分散物をそれぞれ得た。得られた水性顔料分散物のpHは8.3であった。
【0096】
[試験例1] 保存安定性(分散安定性)試験
上述の方法により得られた水性顔料分散物10mLを、サンプル瓶(サイズ:1.6cmφ×高さ10cm)に詰めて密閉し、室温(25℃)または60℃で1週間静置した後、水性顔料分散物の分散状態について、下記のように評価を行った。
マイクロピペッターを用いて、サンプル瓶内の液面から300μLをサンプル瓶内の液の静置状態が乱れないように静かに採取した。採取した液の固形分質量を測定し、下記式により分散性を算出し、算出値を下記評価基準に当てはめ保存安定性を評価した。
分散性(%)=100×(1週間静置後の固形分質量)/(静置前の水性顔料分散物の固形分質量)
<保存安定性評価基準>
AA:分散性が90%以上
A:分散性が85%以上90%未満
B:分散性が80%以上85%未満
C:分散性が70%以上80%未満
D:分散性が70%未満
結果を下表に示す。
【0097】
[水性インク組成物の調製]
下記配合比(単位:質量部)で各成分を混合し、得られた混合液をADVANTEC社製ガラスフィルター(GS-25)でろ過した後、ミリポア社製フィルター(ポリフッ化ビニリデン膜、孔径5μm)でろ過し、水性インク組成物を調製した。得られた水性インク組成物のpHは8.1であった。
【0098】
<インク組成物の配合比>
・上記で調製した顔料分散物:20質量部
・プロピレングリコール:24質量部
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤):0.5質量部
・イオン交換水:インク組成物全体で100質量部となる量
【0099】
[試験例2] インクジェット吐出における放置-回復性試験(1)
固定してあるリコー社製GELJET GX5000プリンターヘッドで解像度1200×1200dpi、打滴量3.5pLの吐出条件にてライン方式で、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(FE2001、厚み12μm、フタムラ化学(株)製)上にノズルチェックパターン画像を描画した。充填したインクが、吐出開始時に96本の全ノズルから吐出していることを確認した後、記録ヘッドノズル部の環境を25℃、相対湿度50%の環境に保ち、30分間放置した。その後、再び上記と同種の別の記録媒体上に、上記と同じノズルチェックパターン画像を1枚描画した(ここでの画像を、「30分放置後画像サンプル」とする。)
【0100】
30分放置後画像サンプルについて、光学顕微鏡によりノズルチェックパターン画像でノズルの抜け(画像抜け)を観察し、下記計算式により吐出率を算出し、算出値を下記評価基準に当てはめ「放置-回復性」を評価した。
吐出率(%)=100×(30分放置後画像サンプル形成時の吐出ノズル数)/(初期画像サンプル形成時の吐出ノズル数)
<放置-回復性評価基準>
AA:吐出率が95%以上
A:吐出率が90%以上95%未満
B:吐出率が85%以上90%未満
C:吐出率が80%以上85%未満
D:吐出率が80%未満
結果を下表に示す。
【0101】
[試験例3] インクジェット吐出における放置-回復性試験(2)
上記[試験例2]において、初期画像サンプルを形成後、記録ヘッドノズル部の環境を25℃、相対湿度50%の環境に保ち、15時間放置したこと以外は、試験例2と同様にして、また同様の評価基準で、放置-回復性を評価した。
結果を下表に示す。
【0102】
【0103】
上記表2に示されるように、顔料分散剤を構成するポリマーの酸価が本発明で規定するよりも低い場合、この顔料分散剤を用いて調製した水性顔料分散物は分散安定性に劣るものとなった。また、この顔料分散剤を用いて調製した水性インクは、インクジェット方式による画像形成における放置-回復性にも劣っていた(比較例1及び3)。また、ポリビニル化合物構造部に顔料に対する吸着性を示す構成成分が多量に存在する場合にも、この顔料分散剤を用いて調製した水性顔料分散物は分散安定性に劣り、この顔料分散剤を用いて調製した水性インクは、インクジェット方式による画像形成における放置-回復性に劣る結果となった(比較例2及び4)。
これに対し、本発明の顔料分散剤を用いて調製した水性顔料分散物は分散安定性に優れ、また、本発明の顔料分散剤を用いて水性インクを調製することにより、インクジェット方式による画像形成における放置-回復性も高められることがわかった(実施例1~14)。つまり、本発明の顔料分散剤を用いることにより、インクジェット方式で、高精度の画像形成を安定して形成できることがわかった。