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特許7083113流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/20 20060101AFI20220603BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20220603BHJP
   C23F 13/22 20060101ALI20220603BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
C23F13/20 A
C23F13/02 A
C23F13/02 B
C23F13/02 L
C23F13/22
E04G23/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019126972
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021011614
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人土木学会 土木学会認定 CPDプログラム,土木学会第73回年次学術講演会p.685-p.686 平成30年8月1日発行 [刊行物等]北海道大学札幌キャンパス 平成30年度土木学会全国大会 第73回年次学術講演会 平成30年8月30日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 永手
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】増田 清人
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(72)【発明者】
【氏名】松久保 博敬
(72)【発明者】
【氏名】平間 昭信
(72)【発明者】
【氏名】金子 泰明
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066655(JP,A)
【文献】特開2009-215579(JP,A)
【文献】特開平09-031673(JP,A)
【文献】特開2017-179467(JP,A)
【文献】特開2017-179526(JP,A)
【文献】国際公開第2019/038989(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0246348(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00-13/22
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来る、
ことを特徴とする流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム。
【請求項2】
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記切り替え後、切り替えた床版ユニットに起電力が生じていると判断されたとき、前記起電力付加手段の投入をオフする接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来る、
ことを特徴とする流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム。
【請求項3】
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記切り替え後、切り替えた床版ユニットに起電力が生じていると判断されたとき、前記起電力付加手段の投入をオフする接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来、前記記憶部により、過去のそれぞれの床版ユニットの前記起電力のチェック状況、起電力付加手段の投入状況が記憶される、
ことを特徴とする流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム。
【請求項4】
前記起電力付加手段は、乾電池で構成された、
ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の電気防食法の1つである流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気防食工法とは、鉄筋に電気を流し、前記鉄筋の腐食速度を制御する工法を指標する。
鉄筋に電気が流れると、電位が変化し、その電位の変化量(これを復極量という)に応じて、腐食速度が制御されるのである。
【0003】
ところで、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食反応を抑制する電気防食工法の一つに、流電陽極方式がある。一般に電気防食工法は構造物外部に取り付けられた陽極から、内部の鉄筋に電流を供給することで鉄筋の腐食速度を抑制する工法であり、特に前記流電陽極方式の電気防食工法は、陽極と鉄筋の電位差を起電力とし電流を供給するコンクリート構造物中の腐食した鉄筋に対する補修工法である。
【0004】
この流電陽極方式には前記鉄筋に電流を強制的に流すための外部電源装置の設置が不要であり、もって前記外部電源装置の維持管理が不要であるというメリットがあるが、環境変化(温度、水分など)の影響を受けやすく防食電流量の調整が難しいことから防食効果が変動するとの課題が指摘されていた。
【0005】
その一例として、かぶりコンクリートの電気抵抗が高いことにより、想定した防食電流が流れない場合の対応が難しい場合があることなどが指摘されている。
【0006】
外部電源方式であれば、外部電源装置を用いて直接電流量を制御することができるが、大がかりな外部電源装置が必要となると共に、その維持管理のためのコストと時間を要するものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第WO2016/002897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本件発明者は、外部電源方式の電気防食工法を採用せず、流電陽極方式の電気防食工法を基本採用することとし、その上で流電陽極方式の電気防食工法の難点を解消するシステムを創案するに至ったものである。
【0009】
従来、鉄筋腐食が激しい場合や、かぶりコンクリートが乾燥し、高抵抗である場合には流電陽極方式の電気防食工法では起電力不足となり、有意な防食効果が得られなかった。
そして、現状では、このような流電陽極方式電気防食工法の起電力不足を解消する技術は創案されてはいなかった。
【0010】
しかし、本発明では、鉄筋腐食が激しい場合や、かぶりコンクリートが乾燥し、高抵抗である場合においても、前記流電陽極方式電気防食工法の回路に例えば取り付け取り外し可能な乾電池などを接続することで起電力をアップさせる補助を行い、もって有意な防食効果を簡単に得ることが出来る流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来る、
ことを特徴とし、
または、
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記切り替え後、切り替えた床版ユニットに起電力が生じていると判断されたとき、前記起電力付加手段の投入をオフする接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来る、
ことを特徴とし、
または、
床版が複数枚の床版ユニットで構成され、前記複数枚の床版ユニットには、床版ユニット内に埋設された鉄筋と、床版ユニットに設けられた陽極と、前記鉄筋と前記陽極とを接続する導線とを備え、前記陽極と前記鉄筋の電位差を起電力として鉄筋に電流を供給して、前記床版ユニット中の腐食した鉄筋に対する補修を行う流電陽極方式の電気防食工法における前記起電力の補助システムであり、
前記起電力の補助システムは、起電力付加手段と制御装置を有し、
前記制御装置は、起電力チェック手段と前記起電力付加手段の導線への接続切り替えを行うスイッチと表示部を有し、
前記起動チェック手段は、前記複数枚の床版ユニットそれぞれについて前記起電力が発生しているか否かをチェックし、前記スイッチは、前記起電力チェック手段が所定の床版ユニットに起電力が生じていないと判断したとき、前記起電力が生じていないと判断した床版ユニットの前記導線に起電力補助電流となる起電力付加手段を投入する接続切り替えを行い、前記切り替え後、切り替えた床版ユニットに起電力が生じていると判断されたとき、前記起電力付加手段の投入をオフする接続切り替えを行い、前記表示部は、前記起電力チェック手段による複数枚の床版ユニットの起電力のチェック状況、前記起電力付加手段の投入状況が監視出来、前記記憶部により、過去のそれぞれの床版ユニットの前記起電力のチェック状況、起電力付加手段の投入状況が記憶される、
ことを特徴とし、
または、
前記起電力付加手段は、乾電池で構成された、
ことを特徴とするものである。
【0012】
例えば、起電力としては、乾電池の他に、光起電力による太陽電池、化学反応による化学電池、電磁誘導による発電機、ゼーベック効果による熱電変換デバイスなど挙げられる。
【0013】
また、陽極材としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの金属が挙げられる。その形成方法として代表的なものに亜鉛アルミ擬合金の金属溶射方法が挙げられる。
【0014】
陽極材の形成方法としては、例えば、コンクリート表面に接着層としてポリマーセメントモルタル層を設け、更に粗面形成材として大粒子径の粒子を含む樹脂(例えば、平均粒子径100μmのケイ砂を含むエポキシ樹脂)等を塗布後、金属溶射にて陽極材を形成すればよい。更に、溶射皮膜を保護するために封孔処理を施してもよい。封孔処理剤としては有機系樹脂が使用でき、例えばエポキシ樹脂が挙げられる。これらの上に更に耐久性を付与する目的で保護塗膜を形成させることもできる。このような材料は任意の組み合わせで使用できるが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄筋腐食が激しい場合や、かぶりコンクリートが乾燥し、高抵抗である場合においても、前記流電陽極方式の電気防食工法における回路に例えば取り付け取り外し可能な乾電池などを接続することで起電力をアップさせて起電力の補助を行い、もって有意な防食効果を得ることが出来るとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】流電陽極方式の電気防食工法の概略構成を説明する説明図である。
図2】本発明で使用した試験体の概略構成を説明する説明図である。
図3】本発明の概略構成を説明する説明図である。
図4】本発明の概略構成を説明するブロック図である。
図5】従来方式と本発明方式の電位分布を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システムにつき説明する。
【0018】
(実験例)
まず、本件発明者は、腐食が激しく、かぶりの乾燥した鉄筋モルタル試験体を作製し、流電陽極方式の電気防食工法による起電力が不足する状況を再現することから開始した。
【0019】
使用した鉄筋1は長さ120mm、φ16mmの磨き丸鋼とし、両端部10mm部分にリード線を接続後、防水処理のためテープで被覆した。これにより、電気化学測定の被測定面積は50.24cm2となる。
【0020】
そして、質量パーセント濃度10%の塩化ナトリウム水溶液を鉄筋1に噴霧し、全面を腐食させた。さらに、この鉄筋1をかぶり42mmとなるように100mm×100mm×200mmのモルタル2中に埋設した。モルタル2には1m3あたり17kgの塩化ナトリウムを添加した。試験体3の作製後、該試験体3を40℃の乾燥炉で24時間乾燥させ、かぶりの含水率を下げた。
【0021】
次に、前記作製した試験体3表面に亜鉛やアルミニウムを材料とする陽極4を設置し、モルタル2内部の鉄筋1とを導線5で接続した。すなわち、従来方式の流電陽極方式電気防食工法の回路構成を作製した。
【0022】
また、前記の流電陽極方式の電気防食工法の回路、すなわち、陽極4と鉄筋1とを導線5で接続する回路間に、取り付け取り外し可能な例えば1.5Vの乾電池6を1つ介在させ、起電力を補助する構成である本件発明方式の流電陽極方式の電気防食工法を実施出来る試験体3とした。
【0023】
次に、前記試験体3の表面に亜鉛やアルミニウムを材料とする陽極4を設置し、モルタル2内部の鉄筋1と導線5で接続するのみの従来方式の流電陽極方式の電気防食工法、および前記試験体3表面に亜鉛やアルミニウムを材料とする陽極4を設置し、モルタル2内部の鉄筋1と導線5で接続すると共に、該導線5で接続する回路間に、取り付け取り外し可能な例えば1.5Vの乾電池6を介在させ、起電力を補助する本件発明方式の流電陽極方式の電気防食工法を実施し、双方の防食効果を観察するため、各々の通電電流密度、復極量を測定した。
【0024】
尚、通電電流密度は、24時間以上、双方の流電陽極方式電気防食工法を継続した後に、値が安定した状態で測定した。そして、復極量は、双方の流電陽極方式電気防食工法において導線5内の通電をOffとし、直後のInstantOff電位と24時間経過後のOff電位の差と定義した。各種電気化学測定は、飽和銀-塩化銀電極を照合電極に用いた。
【0025】
(実験結果)
(通電電流量すなわち通電電流密度の比較)
従来方式の通電電流密度は33.4μA/cm2、本件発明方式の通電電流密度は80.5μA/cm2であった。このように、本件発明方式では従来方式より通電電流密度が増加したことが認識できる。すなわち、通電電流量が増加していることが認識できる。
【0026】
(復極量の比較)
従来方式の復極量は85mV、本件発明方式の復極量は142mVであった。このように本件発明方式では従来方式より復極量が増加したことが認識できる。
【0027】
(実験の考察)
図5左には、従来方式の鉄筋-陽極間の電位分布を、図5右には、本件発明方式の電位分布を示す。鉄筋電位をEcorr[V vs.SSE]、陽極電位をEano[V vs.SSE]、鉄筋の分極抵抗をRcorr[Ω・cm2]、単位面積当たりのかぶりの電気抵抗をRcon[Ω・cm2]とすれば、従来方式での通電電流密度ipro[A/cm2]および鉄筋の復極量ΔE[V]は次式の通りである。
【0028】
本実験での試験体3は、乾燥により、かぶりの電気抵抗は大きいと考えられるが、鉄筋1表面の腐食により鉄筋1の分極抵抗は小さいと考えられる。従来法での通電電流密度33.4μA/cm2は、かぶりが乾燥しているにも関わらず、流電陽極方式の電気防食工法としては一般的な通電電流密度であった。
【0029】
起電力が一定の場合、通電電流密度は式(1)に表される通り、鉄筋1の分極抵抗、かぶりの電気抵抗および陽極の分極抵抗の和で決定される。したがって、鉄筋1表面の分極抵抗が非常に小さいため、かぶりが乾燥しているにもかかわらず一般的な通電電流密度が得られたと推測される。また、通電電流密度が一般的な値であるにもかかわらず、復極量は小さくなった。
【0030】
起電力が一定の場合、復極量は式(2)に表される通り、鉄筋1の分極抵抗、かぶりの電気抵抗および陽極の分極抵抗の和と鉄筋の分極抵抗の比で決定される。したがって、本試験体3の鉄筋1表面の分極抵抗が小さく、復極量が小さくなったと推測される。
【0031】
次に、乾電池の起電力をEcell[V]とすれば、本件発明方式での通電電流密度i*pro[A/cm2]および鉄筋1の復極量ΔE* [V]は次の通りである。
【0032】
式(3)、(4)より、乾電池で起電力が補助されたことにより、通電電流量、復極量ともに増加している。本実験例でも同様の傾向が見られ、通電電流量および復極量が増加することが示された。本実験例で用いた陽極4の電位が-1.3V(vs.SSE)、鉄筋1の電位が-0.3V(vs.SSE)、電池の起電力が1.5Vであるから、式(1)~(4)より、従来方式を本発明方式に変更することで、復極量、通電電流密度ともに1.9倍になると考えられる。
【0033】
本実験例での実測値は、復極量は2.4倍、通電電流密度は1.7倍になることが確認された。計算結果と試験体3を用いての実測値に著しい相違はないが、数値の違いはオームの法則の線形仮定を逸脱しているためであると考えらえる。
【0034】
(実際の現地での実施例)
本件発明方式の有効性の確認のため、流電陽極方式の電気防食工法が適用されている実際の現場での2つの橋梁(以下、橋梁1、橋梁2)に対し、従来方式による復極量と本件発明方式による復極量を測定した。また、通電電流密度も併せて測定した。
【0035】
すると、従来方式での通電電流密度は橋梁1、2のそれぞれで、213μA/m2、95.8μA/m2であった。両橋梁とも通電電流密度が非常に小さいことから、式(1)より、かぶりの電気抵抗が大きく、流電陽極方式の電気防食工法の適用において起電力が不足している状態であると推察される。
【0036】
次に従来方式での復極量は橋梁1、2のそれぞれで14mV、1mVであった。これも通電電流密度と同様に、かぶりの電気抵抗が高く、やはり流電陽極方式の電気防食工法の適用において起電力が不足しているためと推察される。
【0037】
そこで、橋梁1、2に対し流電陽極方式の電気防食工法が適用されている回路間に1.5V乾電池6を介在させて、本件発明方式の流電陽極方式電気防食工法を行った。
【0038】
すると、本件発明方式での通電電流密度は橋梁1が1580μA/m2、橋梁2が542μA/m2であった。次に本件発明方式での復極量は橋梁1が57mV、橋梁2が45mVであった。
【0039】
式(3)、(4)に示す通り、乾電池6の接続により、流電陽極方式電気防食工法の適用において起電力が増加し、その結果、通電電流密度、復極量が増加したと考えられる。このことから、実際の現場における実施例においても、外部電源の付加、すなわち乾電池を回路内に介在させることによって本件発明方式により起電力の補助が可能であることが確認されたのである。
【0040】
尚、コンクリート内部において、カソード反応で発生した水酸基イオンは鉄筋付近に残留するため、鉄筋周りのpHが上がることによる再不働態化が期待できる。よって、防食電流が増加することで鉄筋周りの環境が改善され、小さい起電力によっても防食電流が流れるようになれば、本件発明方式による流電陽極方式の電気防食工法において、取り付け取り外し可能な乾電池を取り外し、従来の流電陽極方式単体での防食に移行することもできると考えられる。
【0041】
また、適用する鉄筋コンクリート構造物の防食電流密度に応じて、取り付け取り外し可能な乾電池を増減することにより、求める防食効果を得ることも可能となるものである。
【0042】
ここで、本件発明者は、実際の現場で流電陽極方式の電気防食工法における起電力補助システムを構築した。
図4において、符号7は橋梁を示し、符号9は制御装置を示す。該制御装置9は、橋梁下に設置されている。
【0043】
ここで、橋梁7の床版8は、流電陽極方式の電気防食工法による防食が施された複数枚の床版ユニット10が長手方向につながれて構成されている。
そして、前記それぞれの床版ユニット10内には、流電陽極方式の電気防食工法の回路が設置されており、該流電陽極方式の電気防食工法を構成する回路は前記橋梁下の制御装置9に接続されている。
【0044】
制御装置9には前記床版ユニット10内の流電陽極方式の電気防食工法を構成する回路において、起電力が発生しているか否かをチェックする起電力チェック手段11が設けられている。具体的には、該起電力チェック手段11は、流電陽極方式の電気防食工法を構成する回路である陽極4と鉄筋1とを接続する導線5において、前記導線5に電流が流れているか否かを計測する電流計などを用いて構成される。
【0045】
そして、前記起電力チェック手段11によって所定の床版ユニット10には電流が流れていない、すなわち、起電力が生じていないと判断された場合には、起電力付加手段12が投入される。
【0046】
ここで、起電力付加手段12は、通常1.5V乾電池を前記導線5内に付加する装置で構成され、この起電力付加手段12は、スイッチの切り替えによって、複数の床版ユニット10内に構成されたそれぞれの流電陽極方式の電気防食工法を構成する回路に付加できるよう構成されている。
【0047】
前記起電力付加手段12を構成する1.5V乾電池の個数は何ら限定されるものではなく、1個でもかまわないし、複数個を並列に接続したものでもかまわない。
【0048】
尚、制御装置9内にはディスプレイなどの表示部13が設けられており、この表示部13によって、それぞれの床版ユニット10の起電力のチェック状況、起電力付加手段12の投入状況がリアルタイムで監視でき、また記憶手段14に記憶された過去のそれぞれの床版ユニット10の起電力のチェック状況、起電力付加手段12の投入状況が閲覧出来るように構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本件発明方式の基となる流電陽極方式では、外部電源方式とは異なり、一般的に言われている完全防食復極量100mVを満足することは難しいとされている。
加えて、適用するコンクリート構造物の鉄筋の腐食状態や、かぶりコンクリートの含水状態で復極量が異なり、得られる防食効果が不確定であるとも言われている。
しかしながら、今後、本発明方式を用いて、防食効果を補助することにより、確実に求められる防食効果が達成できると思われる。
【符号の説明】
【0050】
1 鉄筋
2 モルタル
3 試験体
4 陽極
5 導線
6 取り付け取り外し可能な乾電池
7 橋梁
8 床版
9 制御装置
10 床版ユニット
11 起電力チェック手段
12 起電力付加手段
13 表示部
14 記憶手段
図1
図2
図3
図4
図5