(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】周面発光型の熱可塑性樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
G02B 6/00 20060101AFI20220603BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220603BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20220603BHJP
F21V 8/00 20060101ALI20220603BHJP
G09F 13/00 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
G02B6/00 326
G02B6/02 391
G02B6/036
F21V8/00 355
G09F13/00 H
(21)【出願番号】P 2019509312
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2018010622
(87)【国際公開番号】W WO2018180644
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/013681
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
(72)【発明者】
【氏名】菅原 敏晃
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓志
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-057924(JP,A)
【文献】特表2015-507763(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190138(WO,A1)
【文献】特開2013-058334(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001589(WO,A1)
【文献】特開2012-103617(JP,A)
【文献】国際公開第2016/064940(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00
G02B 6/02
G02B 6/036
F21V 8/00
G09F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを主材料とするコア層(1)と、このコア層(1)の熱可塑性エラストマーよりも屈折率の小さい熱可塑性樹脂を主材料とする第一クラッド層(2)を少なくとも有し、かつ、これらコア層(1)と第一クラッド層(2)の各樹脂材料にそれぞれ光拡散剤が添加されており、第一クラッド層(2)の全光線透過率が70%未満であって、前記第一クラッド層(2)の樹脂材料に対して添加されている光拡散剤の割合は重量比で0.05~1.5%である一方、
コア層(1)の樹脂材料に対して添加されている光拡散剤の割合は重量比で0.5ppm~10ppmであり、
前記コア層(1)と前記第一クラッド層(2)の間には、前記第一クラッド層(2)と同じ樹脂材料を主材料とし、かつ、樹脂材料に光拡散剤が添加されていない第二クラッド層(3)が形成されており、
前記第一クラッド層(2)に対する前記第二クラッド層(3)の厚みの比率が50%~150%であり、かつ、前記第一クラッド層(2)と前記第二クラッド層(3)の合計厚みが0.15mm~0.4mmであることを特徴とする周面発光型の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
コア層(1)の樹脂材料に対しブルーイング剤が重量比で0.1ppm~10ppmの割合で添加されていることを特徴とする
請求項1に記載の周面発光型の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
第一クラッド層(2)の厚みが0.1~0.3mmであることを特徴とする
請求項1または2に記載の周面発光型の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項4】
コア層(1)の主材料がアクリル系熱可塑性エラストマーであり、第一クラッド層(2)の主材料がフッ素系樹脂であることを特徴とする
請求項1~3の何れか一つに記載の周面発光型の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項5】
コア層(1)及び第一クラッド層(2)に添加される光拡散剤として酸化チタンまたは硫酸バリウムが使用されていることを特徴とする
請求項1~4の何れか一つに記載の周面発光型の熱可塑性樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体の改良、詳しくは、装飾対象物の形状に沿わせて、或いは線状に形成される装飾文字や装飾模様に合わせて柔軟に屈曲させて使用することができ、更に発光性能にも優れ、光源から遠い部位での発光色の黄変も抑制される周面発光型の熱可塑性樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、飾り具やイルミネーション、電飾看板等の多くの光装飾品に線状発光体が利用されているが、線状発光体として古くから使用されているネオンライトは、本体が可撓性の乏しいガラス管から構成されているため、直線状の発光体を屈曲させて壁面の湾曲部に沿わせたり、装飾文字や装飾模様を描いたりすることができない。
【0003】
そのため、従来においては、端面から光を入射して線状発光体として使用できるプラスチック製の周面発光型導光棒も開発されているが(特許文献1~3参照)、コア層に曲げ弾性率の大きい透明樹脂を使用すると導光棒が固くなってしまい、導光棒を大きく湾曲させて使用することができないという問題があった。
【0004】
そこで、本件出願人は、以前にコア層にアクリル系熱可塑性エラストマーを使用した軟質導光棒を開発し、特許出願も行っているが、この軟質導光棒においては、発光性能の更なる改良が必要であるだけでなく、発光色の黄変(光源から遠い部位になるほど発光色が黄味がかる現象)を抑制する手段も必要となった。
【0005】
一方、従来においては、上記導光棒の発光色の黄変を抑制するために、コア層やクラッド層の樹脂材料に少量のブルーイング剤を添加して導光棒の発光色を若干青色寄りにする技術は知られていたものの、光源から近い部位から遠い部位にかけての発光色の色度変化を小さく抑える技術については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000―131530号公報
【文献】特開2009―276651号公報
【文献】特開2013―57924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、光装飾の方法や固定される対象物に合わせて柔軟に屈曲させて使用できるだけでなく、発光輝度も全体的に向上させることができ、しかも、光源から遠い部位での発光色の黄変も抑制できる周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、熱可塑性エラストマーを主材料とするコア層1と、このコア層1の熱可塑性エラストマーよりも屈折率の小さい熱可塑性樹脂を主材料とする第一クラッド層2とを少なくとも有する熱可塑性樹脂成形体において、これらコア層1と第一クラッド層2の各樹脂材料にそれぞれ光拡散剤を添加すると共に、第一クラッド層2の全光線透過率を70%未満とした点に特徴がある。
【0010】
また本発明においては、発光性能を高めるために上記コア層1の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.5ppm~10ppmの割合で添加するのが好ましい。
【0011】
また本発明では、発光色の黄変を抑制するために上記コア層1の樹脂材料に対しブルーイング剤を重量比で0.1ppm~10ppmの割合で添加することが好ましい。なお本明細書中において「ブルーイング剤」とは、黄色の波長域の可視光を吸収する青色系または紫色系の着色剤のことを意味する。
【0012】
また本発明においては、発光性能を高めるために上記第一クラッド層2の厚みを0.1~0.3mmにすると共に、この第一クラッド層2の樹脂材料に対し光拡散剤を重量比で0.05~1.5%の割合で添加するのが好ましい。
【0013】
また本発明では、発光性能および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂成形体とするために上記コア層1の主材料にアクリル系熱可塑性エラストマーを使用すると共に、第一クラッド層2の主材料にフッ素系樹脂を使用するのが好ましい。
【0014】
また本発明においては、発光性能を高めるために上記コア層1及び第一クラッド層2に添加する光拡散剤として酸化チタンまたは硫酸バリウムを使用するのが好ましい。
【0015】
また更に本発明では、発光性能を高めるために上記コア層1と第一クラッド層2の間に第一クラッド層2と同じ樹脂材料を主材料とし、かつ、樹脂材料に光拡散剤が添加されていない第二クラッド層3を形成するのが好ましい。
【0016】
また上記第二クラッド層3を形成する場合には、発光性能をより高めるために第一クラッド層2に対する第二クラッド層3の厚みの比率を50%~150%にすると共に、第一クラッド層2と第二クラッド層3の合計厚みを0.15mm~0.4mmとし、更に第一クラッド層2の樹脂材料に対し光拡散剤を重量比で0.05~1.5%の割合で添加するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体において、コア層の材料にアクリル系熱可塑性エラストマーを使用したことにより、軟質の導光棒を構成することができるため、導光棒を大きく屈曲させて被装飾物に固定したり、装飾文字や模様模様を形成したりすることができる。これにより従来使用できなかった用途でも導光棒を使用することが可能となる。
【0018】
しかも、本発明の熱可塑性樹脂成形体は、コア層とクラッド層の樹脂材料にそれぞれ光拡散剤を添加して構成したことによって、導光棒の発光輝度を全体的に向上させることが可能となり、また光源から近い部位から遠い部位で起こる発光色の色度変化(白色から黄色への変化)を小さく抑えて発光色の黄変を抑制することも可能となる。
【0019】
したがって、本発明により、従来の周面発光型導光棒にあった柔軟性の問題を解決できるだけでなく、コア層とクラッド層に添加した光拡散剤の作用を利用して発光性能および色ムラが改善された装飾用途または表示用途に適した周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態の熱可塑性樹脂成形体を表す全体斜視図である。
【
図2】本発明の第一実施形態の熱可塑性樹脂成形体の製造方法を表す工程説明図である。
【
図3】本発明の第二実施形態の熱可塑性樹脂成形体を表す拡大端面図である。
【
図4】本発明の熱可塑性樹脂成形体の発光輝度試験の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の熱可塑性樹脂成形体の発光色の色度変化試験の結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性の試験結果をサンプル単位でまとめたグラフである。
【
図7】本発明の熱可塑性樹脂成形体の耐衝撃性の試験結果を温度条件単位でまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
『第一実施形態』
次に、本発明の第一実施形態について
図1及び
図2に基づいて説明する。なお図中、符号Fで指示するのものは、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体であり、符号1で指示するものは、コア層である。また符号2で指示するものは、第一クラッド層である。
【0022】
「熱可塑性樹脂成形体の構成及び使用方法」
[1]熱可塑性樹脂成形体の基本構成について
まず熱可塑性樹脂成形体の基本構成について説明する。本実施形態では、
図1に示すように、熱可塑性エラストマーを主材料とするコア層1の周囲に、この熱可塑性エラストマーよりも屈折率の小さい熱可塑性樹脂を主材料とする第一クラッド層2を形成して軟質導光棒型の熱可塑性樹脂成形体Fを構成している。またコア層1と第一クラッド層2の各樹脂材料にはそれぞれ所定量の光拡散剤を添加すると共に、第一クラッド層2に対する光拡散剤の添加は、第一クラッド層2の全光線透過率が70%未満となるように行っている。
【0023】
[2]熱可塑性樹脂成形体の使用方法について
また上記熱可塑性樹脂成形体Fについては、
図1に示すように熱可塑性樹脂成形体Fの一端若しくは両端に光源を配置して端面に光を入射することにより、熱可塑性樹脂成形体Fの周面を発光させて使用する。なお本実施形態の熱可塑性樹脂成形体Fは、コア層1と第一クラッド層2に所定量の光拡散剤を添加しているため、光拡散剤が添加されていないものよりも発光ムラや発光色の黄変を抑えた状態で発光させることができる。
【0024】
[3]コア層について
次に上記熱可塑性樹脂成形体Fの各構成要素について説明する。まず上記コア層1の材料に関しては、本実施形態ではアクリル系熱可塑性エラストマーを使用している。具体的には、アクリル系熱可塑性エラストマーとして、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)が結合した構造、すなわち、(a1)-(a2)-(a1)の構造(構造中の「-」は、化学結合を示す)を少なくとも有する、アクリル系ブロック共重合体の使用が好ましい。ここで、(a2)の両端の(a1)の分子量、組成などは同じであってもよいし、相互に異なっていてもよい。また(a1)-(a2)で表されるジブロック体を更に含んでいてもよい。
【0025】
なお上記メタクリル酸エステル単位となるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチルなどを挙げることができ、これらのメタクリル酸エステルの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
【0026】
また、上記アクリル酸エステル単位となるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ベンジルなどを挙げることができ、これらのアクリル酸エステルの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよく、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ベンジル、またはアクリル酸n-ブチル及びアクリル酸ベンジルから構成されていることが好ましい。アクリル酸n-ブチルとアクリル酸ベンジルの共重合体の場合には、その質量比(アクリル酸n-ブチル/アクリル酸ベンジル)は50/50~90/10の範囲にあることが好ましく、60/40~80/20の範囲にあることがより好ましい。
【0027】
そして、コア層の材料としては、これらの中でも特に曲げ弾性率(ASTM D790)が50~500MPaである、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルのブロック共重合体(以下、MMA-BAブロック共重合体と記載)の使用が好ましい。またコア層1の主材料に関しては、製造時における第一クラッド層2との共押出成形を考慮して、温度190℃・荷重5kgの試験条件下におけるMFRが2~10g/minの樹脂を使用することが好ましい。
【0028】
[4]第一クラッド層について
上記第一クラッド層2の材料に関しては、屈折率がコア層1よりも小さいフッ素系樹脂の使用が好ましく、本実施形態ではETFE(エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体)やEFEP(ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体)を使用している。但し、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂やその他の樹脂を使用することもできる。また第一クラッド層2の主材料には、コア層1との共押出成形を考慮して、融点が230℃以下の樹脂を使用するのが好ましい。
【0029】
なお上記第一クラッド層2にPVDFを使用する場合には、コア層1のアクリル系熱可塑性エラストマーに対する相溶性が高いため、使用時に第一クラッド層2とコア層1の剥離が生じ難くなるメリットがある。一方、上記フッ素系樹脂としてETFEを使用する場合には、ETFEの伸度(350~450%)の方がPVDFの伸度(200~300%)よりも大きく、またETFEの曲げ弾性率(800~1000MPa)の方がPVDFの曲げ弾性率(1400~1800MPa)よりも小さくなるため、熱可塑性樹脂成形体Fを曲げたときにクラッド層にシワが生じ難くなる。またETFEはPVDFに比べて可視光線透過率も高いため、発光輝度の減衰率を低く抑えることもできる。なお上記伸度の各数値はASTM D638による計測値であり、上記曲げ弾性率の各数値はASTM D790による計測値である。
【0030】
[5]光拡散剤について
上記コア層1及び第一クラッド層2に添加する光拡散剤に関しては、本実施形態では粉末状の酸化チタンを使用しているが、硫酸バリウムを使用することもできる。また光拡散剤の添加量に関しては、コア層1の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.5ppm~10ppmの割合となるように添加するのが好ましい。また第一クラッド層2の厚みを0.1~0.3mm(好ましくは0.2mm~0.3mm)とする場合には、第一クラッド層2の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.05~1.5%の割合となるように添加するのが好ましい。
【0031】
[6]ブルーイング剤について
また本実施形態では、上記コア層1に対しブルーイング剤(青色顔料や紫色顔料)を添加することによって熱可塑性樹脂成形体Fの発光色の黄変を抑制している。なおブルーイング剤の添加量については、コア層1の樹脂材料に対しブルーイング剤が重量比で0.1ppm~10ppmの割合となるように添加することが好ましい。
【0032】
[7]熱可塑性樹脂成形体の形状について
また本実施形態では、熱可塑性樹脂成形体Fを丸棒型の形状としているが、角形断面や複雑な断面形状の棒状に成形することもできる。また熱可塑性樹脂成形体Fの形状には、断面形状の縦横比が大きい板状のものも含まれる。
【0033】
「熱可塑性樹脂成形体の製造方法」
次に上記熱可塑性樹脂成形体Fの製造方法について説明する。まず
図2に示すように押出成形機の金型からコア層とクラッド層を同時に押出し、これらを一体化させた状態で冷却賦形を行った後、所定長さに切断して製造を行う。なお製造に際しては、コア層の主材に温度190℃・荷重5kgの試験条件下におけるMFRが2~10g/10minのアクリル系熱可塑性エラストマーを使用し、クラッド層の主材に融点が230℃以下のフッ素系樹脂を使用して、270℃以下の成形温度で共押出成形を行うのが好ましい。
【0034】
『第二実施形態』
「熱可塑性樹脂成形体の構成」
[1]導光棒の基本構成について
次に本発明の第二実施形態について
図3に基づいて以下に説明する。なお図中、符号3で指示するのものは、第二クラッド層である。本実施形態では、コア層1と第一クラッド層2の間に第二クラッド層3を形成して軟質導光棒型の熱可塑性樹脂成形体Fを構成している。そしてコア層1と外側の第一クラッド層2の各樹脂材料にそれぞれ光拡散剤を添加している。また第二クラッド層3の主材料には、第一クラッド層2と同じ樹脂材料を使用し、樹脂材料に光拡散剤を添加せずに使用している。このような構成を採用することで熱可塑性樹脂成形体Fの均一発光性を向上させることができる。
【0035】
なお上記コア層1の主材料となる樹脂材料や、第一クラッド層2の主材料となる樹脂材料(第二クラッド層3と同じ樹脂材料)の条件に関しては、第一実施形態と同様である。また光拡散剤の材料や、コア層1の樹脂材料に対する光拡散剤の添加量、製造方法等の条件も第一実施形態と同様である。
【0036】
[2]クラッド層の厚みと光拡散剤の添加量について
一方、クラッド層の厚みに関しては、第一クラッド層2に対する第二クラッド層3の厚みの比率を50%~150%とし、第一クラッド層2と第二クラッド層3の合計厚みが0.15mm~0.4mmとなるようにするのが好ましい。そして、この厚みで形成される第一クラッド層2の樹脂材料に対し光拡散剤を重量比で0.05~1.5%の割合となるように添加するのが好ましい。なお本実施形態においても、第一クラッド層2に対する光拡散剤の添加は、第一クラッド層2と第二クラッド層3の二層の全光線透過率が70%未満となるように行うのが好ましい。
【実施例】
【0037】
[効果の実証試験(i)]
次に本発明の効果の実証試験(i)について説明する。まず本試験では、製造条件(コア層への光拡散剤及びブルーイング剤の添加、光拡散剤の添加量、クラッド層の構成)の異なる複数のサンプル(下記比較例1~3並びに実施例1~5)を作製し、これらの各サンプルについて、発光性能(発光輝度及び減衰率)、発光色の色度変化の評価を行った。なお本試験では、光拡散剤として粉末状の酸化チタンを使用した。以下に比較例1~3並びに実施例1~5の各サンプルの製造条件について記載する。
【0038】
「比較例1」
この比較例1では、丸棒状の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と厚み0.24mmの第一クラッド層から構成した。またコア層の主材料には、温度190℃・荷重2.16kgの試験条件下におけるMFRが3.1g/10min、曲げ弾性率が400MPaのMMA-BAブロック共重合体を使用し、第一クラッド層の主材料には、融点192℃、伸度417%、曲げ弾性率959MPa、温度297℃・荷重5kgの試験条件下におけるMFRが78.6g/10minのETFEを使用して、熱可塑性樹脂成形体を共押出成形により作製した。またコア層には光拡散剤を添加せず、第一クラッド層にのみ光拡散剤を、第一クラッド層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.065%の割合となるように添加した。なお第一クラッド層の全光線透過率は65.2%であった。
【0039】
「比較例2」
この比較例2では、丸棒状の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と厚み0.1mmの第二クラッド層及び厚み0.11mmの第一クラッド層から構成した。またコア層の主材料には、比較例1と同じMMA-BAブロック共重合体を使用し、また第二クラッド層と第一クラッド層の主材料には、比較例1の第一クラッド層と同じETFEを使用して、熱可塑性樹脂成形体を共押出成形により作製した。またコア層には光拡散剤を添加せず、第一クラッド層にのみ光拡散剤を、第一クラッド層2の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で1.3%の割合となるように添加した。なお第一クラッド層と第二クラッド層の二層の全光線透過率は24.5%であった。
【0040】
「比較例3」
この比較例3では、ブルーイング剤である青色顔料及び紫色顔料を、コア層の樹脂材料に対し各顔料が重量比で1ppmの割合となるようにそれぞれ添加し、また酸化防止剤を、コア層の樹脂材料に対し酸化防止剤が重量比で0.1%の割合となるように添加した。なお第一クラッド層と第二クラッド層の二層の全光線透過率は24.5%であり、その他の条件は比較例2と同様である。
【0041】
「実施例1」
この実施例1では、丸棒状の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と厚み0.24mmの第一クラッド層から構成した。またコア層の主材料には、温度190℃・荷重2.16kgの試験条件下におけるMFRが3.1g/10min、曲げ弾性率が400MPaのMMA-BAブロック共重合体を使用し、第一クラッド層の主材料には、融点192℃、伸度417%、曲げ弾性率959MPa、温度297℃・荷重5kgの試験条件下におけるMFRが78.6g/10minのETFEを使用して、熱可塑性樹脂成形体を共押出成形により作製した。
【0042】
またコア層には、光拡散剤をコア層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で1ppmの割合となるように添加した。一方、第一クラッド層には、光拡散剤を、第一クラッド層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.065%の割合となるように添加した。またコア層にはブルーイング剤である青色顔料及び紫色顔料を、コア層の樹脂材料に対し各顔料が重量比で1ppmの割合となるようにそれぞれ添加し、また酸化防止剤を、コア層の樹脂材料に対し酸化防止剤が重量比で0.1%の割合となるように添加した。なお第一クラッド層の全光線透過率は65.2%であった。
【0043】
「実施例2」
この実施例2では、丸棒状の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と厚み0.1mmの第二クラッド層及び厚み0.12mmの第一クラッド層を形成して構成した。またコア層の主材料には、実施例1と同じMMA-BAブロック共重合体を使用し、また第二クラッド層と第一クラッド層の主材料には、実施例1の第一クラッド層と同じETFEを使用して、熱可塑性樹脂成形体を共押出成形により作製した。またコア層には、光拡散剤をコア層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.5ppmの割合となるように添加した。
【0044】
一方、第二クラッド層には光拡散剤を添加せず、第一クラッド層にのみ光拡散剤を、第一クラッド層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で1.3%の割合となるように添加した。またコア層にはブルーイング剤である青色顔料及び紫色顔料を、コア層の樹脂材料に対し各顔料が重量比で1ppmの割合となるようにそれぞれ添加し、また酸化防止剤を、コア層の樹脂材料に対し酸化防止剤が重量比で0.1%の割合となるように添加した。なお第一クラッド層と第二クラッド層の二層の全光線透過率は18.2%であった。
【0045】
「実施例3」
この実施例3においては、コア層に光拡散剤を、コア層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で0.8ppmの割合となるように添加した。なおその他の条件は実施例2と同様である。
「実施例4」
この実施例4においては、コア層に光拡散剤を、コア層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で1ppmの割合となるように添加した。なおその他の条件は実施例2と同様である。
「実施例5」
この実施例5においては、コア層に光拡散剤を、コア層の樹脂材料に対し光拡散剤が重量比で3ppmの割合となるように添加した。なおその他の条件は実施例2と同様である。
【0046】
以下に比較例1~3及び実施例1~5の各サンプルの製造条件をまとめた表を示す。
【表1】
【0047】
<発光性能の評価>
次に上記比較例1~3並びに実施例1~5のサンプルについて、寸法を長さ1000mm、直径6.3mmとして、光源からの距離が100~900mmの部位の発光輝度を100mm間隔で測定した。なお本試験では、発光輝度の測定を、サンプルの被測定部位から垂直方向に600mm離れた位置に分光放射輝度計(CS-2000コニカミノルタ製)を配置して行った。また光源には、駆動電流20mA、輝度25cd/m
2、指向特性30°のものを使用した。測定条件をまとめた表を以下に示す。
【表2】
【0048】
そして、上記測定結果をグラフ化した
図4を見ても分かるように、クラッド層が一層から成る形態において、実施例1の熱可塑性樹脂成形体の方が比較例1の熱可塑性樹脂成形体よりも発光輝度が全体的に大きくなっていることが確認できた。またクラッド層が二層から成る形態においても、実施例2~5の熱可塑性樹脂成形体の方が比較例2及び3の熱可塑性樹脂成形体よりも全体の発光輝度が大きくなっていることも確認できた。下記表に発光輝度と減衰率の詳細なデータを示す(輝度の単位はcd/m
2)。
【表3】
【0049】
<発光色の色度変化の評価>
次に上記比較例1~3並びに実施例1~5のサンプルについて、光源から近い側から遠い側にかけての発光色の色度変化を調べたところ、
図5に示すようにクラッド層が一層から成る形態において、実施例1の熱可塑性樹脂成形体の方が比較例1の熱可塑性樹脂成形体よりも発光色の黄変が抑制されていることが確認できた。またクラッド層が二層から成る形態においても、実施例2~5の熱可塑性樹脂成形体の方が比較例2及び3の熱可塑性樹脂成形体よりも発光色の黄変が抑制されていることが確認できた。
【0050】
なお上記発光色の色度変化の評価は、CIE色度図を用いて光源からの距離が100~900mmの部位の発光色を100mm間隔で測定し、最小のx値・y値(青色寄りの座標)から最大のx値・y値(黄色寄りの座標)への変化の大きさを比較して行った。色度変化量の詳細なデータを下記に示す。下記表からも分かるように実施例5以外は光源に近い部位のx値・y値が最小で、光源から遠い部位のx値・y値が最大となっている。
【表4】
【0051】
[効果の実証試験(ii)]
次に本発明の効果の実証試験(ii)について説明する。本試験では、コア層とクラッド層に使用する材料、及び製法が異なる複数のサンプル(下記比較例4・5並びに実施例6)を作製し、これらの各サンプルについて、落球試験を行って試験後における各サンプルの発光性能(発光輝度)の評価を行った。なお本試験では、光拡散剤として粉末状の酸化チタンを使用した。以下に比較例4・5並びに実施例6の各サンプルの製造条件について説明する。
【0052】
「比較例4」
この比較例4では、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と第一クラッド層から成る外径3.5mmの丸棒状に構成した。またコア層の材料には、ポリマーポリオールとしてポリオキシプロピレントリオールとポリオキシプロピレンジオールを使用し、ヒドロキシ基反応性多官能化合物としてヘキサメチレンジイソシアネートを使用した。また第一クラッド層の材料には、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を使用した。そして第一クラッド層を構成するチューブ内に、コア層の材料を混合した状態で充填して加熱硬化させることにより、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を作製した。
【0053】
「比較例5」
この比較例5では、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と第一クラッド層から成る外径3.0mmの丸棒状に構成した。またコア層の材料には、重合性モノマー(重量比で100:1の、n-ブチルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートとの混合液)に、重合開始剤としてビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを加えたものを使用した。また第一クラッド層の材料には、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を使用した。そして押出し機でチューブ状に成形した第一クラッド層内に、コア形成材料を加圧充填して重合させることにより、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を作製した。
【0054】
「実施例6」
この実施例6では、周面発光型の熱可塑性樹脂成形体を、コア層と第一クラッド層から成る外径3.5mmの丸棒状に構成した。またコア層の主材料には、温度190℃・荷重2.16kgの試験条件下におけるMFRが3.1g/10min、曲げ弾性率が400MPaのMMA-BAブロック共重合体を使用し、第一クラッド層の主材料には、融点192℃、伸度417%、曲げ弾性率959MPa、温度297℃・荷重5kgの試験条件下におけるMFRが78.6g/10minのETFEを使用して、熱可塑性樹脂成形体を共押出成形により作製した。
【0055】
<落球試験について>
次に上記落球試験の方法について説明する。本試験では、200mmに切断した各サンプルを、任意の温度(常温・-30℃・80℃)に約3時間放置した後、このサンプルの中央部に、質量約1040gの鋼球(サイズ2 1/2インチ)を306mmの高さから落下させて衝撃を与えた。なお試験は、厚さ約30mmの鉄板上に試料を設置して行った。
【0056】
<発光性能の評価>
次に発光性能の評価方法について説明する。上記落球試験を行った各サンプルにおける落下点前、落下点、落下点後の部位の発光輝度を測定した。なお本試験では、発光輝度の測定を、サンプルの被測定部位から垂直方向に600mm離れた位置に分光放射輝度計(CS-2000コニカミノルタ製)を配置して行った。また光源には、駆動電流20mA、輝度25cd/m2、指向特性30°のものを使用した。
【0057】
そして、各サンプルの発光輝度を測定した結果、
図6及び
図7に示されるように、-30℃条件下の落球試験後のサンプルにおいて、実施例6のサンプルの方が比較例4のサンプルよりも、落下点後の部位における発光輝度が明らかに大きいことが確認できた。なお外観面においても、-30℃条件下の落球試験後において、実施例6のサンプルは落下点にへこみが生じただけだったのに対し、比較例4のサンプルは落下点に内部損傷による白化が見られた。
【0058】
一方、80℃条件下の落球試験後のサンプルにおいては、実施例6のサンプルの方が比較例5のサンプルよりも、落下点後の部位における発光輝度が明らかに大きいことが確認できた。なお外観面においても、80℃条件下の落球試験後において、実施例6のサンプルは落下点にへこみが生じただけだったのに対し、比較例5のサンプルは落下点に内部損傷による白化が見られた。
【0059】
以上の実証試験(ii)の結果により、コア層の主材料にアクリル系熱可塑性エラストマーを使用し、第一クラッド層の主材料にフッ素系樹脂を使用して共押出成形により製造した実施例6のサンプルの方が、その他の材料・製法を採用した比較例4・5のサンプルよりも衝撃による外観悪化や発光性能の低下が起き難いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、光装飾の方法や固定される対象物に合わせて柔軟に屈曲させて使用できるだけでなく、発光輝度も全体的に向上させることができ、しかも、光源から遠い部位での発光色の黄変も抑制できることから、発光性能及び耐衝撃性に優れた周面発光型の熱可塑性樹脂成形体、特に導光棒として好適に使用できる。
【0061】
かかる導光棒としては、自動車内装用照明装置、具体的には、車両のインストルメントパネル周り、カーオディオ・カーナビ周り、ドアパネル、コンソールボックス、ピラーに設置する補助照明として使用できる。その他、カーテシーランプ、マップランプ、ルームランプ、フロアランプ、フットランプ、天井ランプ、ドアランプに適用することもできる。
【0062】
また、自動車外装用照明装置、例えば自動車用ヘッドランプやテールランプ、ブレーキランプ、サイドマーカーランプ、ナンバープレートランプなどにも適用することもできる。また、太陽光の伝送、車載用配線・移動体配線・FA機器配線等の光信号伝送、液面レベルセンサー、感圧センサー等の光学センサー、内視鏡等のイメージガイド、光学機器のライトガイトにも適用することもできる。
【0063】
その他、携帯電話、デジカメ、腕時計、パチンコ台、スロット台、自動販売機、犬の首輪、装飾具、交通標識、洗面台、シャワー、浴槽の湯温表示機、OA機器、家庭用電気製品、光学機器、各種建材、階段、手すり、電車のホーム、屋外看板、バリアフリー空間等のイルミネーションや照明、液晶表示部のバックライト、可変表示体、美術館や博物館向けの熱線や紫外線カット照明におけるライトガイド等としても好適に使用することができる。また、この光伝送体に光源を組み合わせて、照明装置として各種のイルミネーションや照明設備にも使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 コア層
2 第一クラッド層
3 第二クラッド層
F 熱可塑性樹脂成形体