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特許7083628ベーカリー製品用コーティング材、及びベーカリー製品用コーティング材用組成物、並びにベーカリー製品、及びベーカリー製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】ベーカリー製品用コーティング材、及びベーカリー製品用コーティング材用組成物、並びにベーカリー製品、及びベーカリー製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 15/08 20060101AFI20220606BHJP
   A21D 13/24 20170101ALI20220606BHJP
   A21D 13/28 20170101ALI20220606BHJP
【FI】
A21D15/08
A21D13/24
A21D13/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017226187
(22)【出願日】2017-11-24
(65)【公開番号】P2019092456
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】高見 陽子
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142557(JP,A)
【文献】特開2011-120510(JP,A)
【文献】特開2015-002691(JP,A)
【文献】特開2000-041591(JP,A)
【文献】特開2002-045118(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02362555(GB,A)
【文献】特開平10-014554(JP,A)
【文献】メープルシュガードーナツ* by lovechi [クックパッド] 簡単おいしいみんなのレシピが354万品,2006.10.04[online], retrieved on2021.06.28, retrieved from the internet:<URL:https://cookpad.com/recipe/287452 >
【文献】Double Glazed Baked Funfetti Donuts -Lovin' From The Oven,2012.8.20[online], retrieved on 2021.06.28, retrievedfrom the internet:<URL:https://lovintheoven.com/double-glazed-baked-funfetti-donuts/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を水以外の組成中80.0~95.0質量%含有し、ベーカリー製品の少なくとも一部を被覆する第1の層用のコーティング材と、
水と、スクロースを水以外の組成中85.0~99.9質量%含有し、前記第1の層に積層される第2の層用のコーティング材と、
を備える、ベーカリー製品用コーティング材。
【請求項2】
前記第1の層は、トレハロースを含有する、請求項1に記載のベーカリー製品用コーティング
【請求項3】
前記第2の層は、増粘剤を含有する、請求項1または2に記載のベーカリー製品用コーティング
【請求項4】
水と、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を水以外の組成中80.0~95.0質量%含有する第1のコーティング材用組成物と、
水と、スクロースを水以外の組成中85.0~99.9質量%含有する第2のコーティング材用組成物と、からなり、
前記第1のコーティング材用組成物からなる第1の層と、前記第2のコーティング材用組成物からなる第2の層と、を積層するための、ベーカリー製品用コーティング材用組成物。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のベーカリー製品用コーティング材、又は、請求項4記載のベーカリー製品用コーティング材用組成物からなるベーカリー製品用コーティング材によって、少なくとも一部が被覆された、ベーカリー製品。
【請求項6】
水と、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を水以外の組成中80.0~95.0質量%含有する第1のコーティング材で、ベーカリー製品の少なくとも一部を被覆する被覆工程と、
水と、スクロースを水以外の組成中85.0~99.9質量%含有する第2のコーティング材を、前記第1のコーティング材に積層する積層工程と、
を少なくとも有するベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品用コーティング材に関する。より詳しくは、所定の構造を呈するベーカリー製品用コーティング材、及びベーカリー製品用コーティング材用組成物、並びに前記ベーカリー製品用コーティング材又は前記ベーカリー製品用コーティング材用組成物を用いたベーカリー製品、及び該ベーカリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類、ドーナツ類、菓子類等のベーカリー食品の仕上げとして、表面を高濃度の糖水溶液等で被覆するコーティング方法が行われている。このコーティング方法には、パン類、ドーナツ類、菓子類等にてりや艶を与えて外観上の商品価値を上げる他、各種味付け等の効果がある。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1では、ベーカリー食品用上掛け組成物100質量部中、(A)0.01質量部以上5質量部以下の冷水懸濁タイプの乳化剤又は0.3質量部以上8質量部以下の冷水懸濁タイプの粉末油脂又は0.01質量部以上3質量部以下の前記乳化剤と0.3質量部以上4質量部以下の前記粉末油脂、(B)カルシウム塩由来のカルシウムが0.01質量部以上1質量部以下となる冷水に溶かしたとき懸濁する冷水分散タイプのカルシウム塩、(C)1質量部以上10質量部以下の冷水に溶解しない澱粉及び/又は米粉の1種又は2種以上及び増粘多糖類を0.01質量部以上2質量部以下含むことにより、冷めたドーナツでも容易に均一に被覆でき、十分な付着性を有する半透明なグレーズが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、寒天、糖類、加工澱粉及び水を含み、ゲル状を呈することで、様々な味付けができ、保湿性に優れ、口当たりが良く、なめらかでしなやかなベーカリー食品用被覆剤が開示されている。
【0005】
ところで、ベーカリー製品を糖でコーティングして保存すると、ベーカリー製品中の水分がコーティング材へ移行することでコーティング材が潮解し、所謂、「泣き」が生じることが問題となっている。特に、密閉された容器や袋等で保存すると、より「泣き」が生じやすくなる。
【0006】
このような「泣き」の問題を解決する技術として、例えば、特許文献3では、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水を含み、トレハロースの含有量が60~80質量%であり、増粘多糖類の含有量が0.05~0.4質量%であり、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分の含有量が10質量%以下とすることにより、加水の必要がないスラリー状で、上掛け後に包装しても「泣き」が生じにくく、流通・保管中に状態変化(分離・糖結晶の成長)が少ない、アイシング材が開示されている。
【0007】
また、特許文献4では、イソマルツロースとゼラチンと砂糖とを含み、イソマルツロースの含有量が50~95質量%、ゼラチンの含有量が0.002~2質量%とすることにより、ベーカリー食品に施された後時間が経っても泣きやべたつきの生じにくいグレーズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-16305号公報
【文献】特開2010-178668号公報
【文献】特開2015-2691号公報
【文献】特開2015-142557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、ベーカリー製品の糖コーティング技術において、保存中の「泣き」を改善する技術は、様々に開発されつつあり、使用する糖の種類や配合の検討によって、一定の泣き改善効果は上げられている。しかしながら、これまでの技術では、「泣き」自体は改善されるものの、味や外観(見た目のてり感、艶感等)が、従来の糖主体のコーティング材に比べて悪化するという新たな問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明では、味や外観を損なうことなく、保存中の「泣き」の改善が可能なベーカリー製品の糖コーティング技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、ベーカリー製品の糖コーティング技術について鋭意研究を行った結果、コーティングの構造を工夫することで、味や外観を損なうことなく、保存中の「泣き」を改善することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本技術では、まず、糖を主体とする、異なる糖組成の層が、2層以上積層されたベーカリー製品用コーティング材を提供する。
通常、ベーカリー製品をコーティングする場合、なるべく簡便な方法を用いることが重要視される中、本技術では、敢えて、異なる糖組成の層で2層以上にコーティングすることで、味や外観を損なうことなく、保存中の「泣き」を改善することに成功した。
本技術に係るベーカリー製品用コーティング材は、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を80.0~95.0質量%含有し、前記ベーカリー製品の少なくとも一部を被覆する第1の層を備えることができる。
また、スクロースを主体とし、前記第1の層に積層される第2の層を備えることもできる。
【0013】
本技術では、次に、糖を主体とする第1のコーティング材用組成物と、
糖を主体とし、前記第1のコーティング材用組成物とは異なる糖組成からなる第2のコーティング材用組成物と、からなり、
前記第1のコーティング材用組成物からなる第1の層と、前記第2のコーティング材用組成物からなる第2の層と、を積層するための、ベーカリー製品用コーティング材用組成物を提供する。
【0014】
本技術では、更に、前記ベーカリー製品用コーティング材、又は、前記ベーカリー製品用コーティング材用組成物からなるベーカリー製品用コーティング材によって、少なくとも一部が被覆された、ベーカリー製品を提供する。
【0015】
本技術では、加えて、糖を主体とする第1のコーティング材で、ベーカリー製品の少なくとも一部を被覆する被覆工程と、
糖を主体とし、前記第1のコーティング材とは異なる糖組成からなる第2のコーティング材を、前記第1のコーティング材に積層する積層工程と、
を少なくとも有するベーカリー製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、ベーカリー製品のコーティング材の味や外観を損なうことなく、コーティング材の「泣き」を改善することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
<コーティング材>
本技術に係るコーティング材は、糖を主体とする、異なる糖組成の層が、2層以上積層されていることを特徴とする。各層は、どちらも糖を主体とするが、その糖組成が異なることを特徴とする。各層の組成は、特に限定されず、目的に応じて自由に設計することができる。例えば、泣きに強いコーティング層と、味や外観が優れたコーティング層とを2層以上に積層させることで、味や外観を損なうことなく、泣きに強いコーティング材を得ることができる。
【0019】
より具体的には、例えば、泣きに強いコーティング層として、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を主体とする層(以下、「第1の層」とする)を採用することができる。この場合、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖の配合量は特に限定されないが、第1の層に使用される水以外の組成中、80.0~95.0質量%含有させることが好ましい。80.0質量%以上とすることで、ベーカリー製品からの水分の移行を優位に抑制することができる。また、95.0質量%以下とすることで、コーティング作業の作業性を向上させることができる。なお、主体となる糖以外に、他の公知の糖を、一種又は二種以上自由に選択して含有させることも可能である。
【0020】
この第1の層は、泣きに強いコーティング層であるため、ベーカリー製品に直接接する第1層目に用いることが好ましい。トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を主体とする第1の層を、ベーカリー製品に直接接する第1層目に使用することにより、ベーカリー製品からの水分移行を防止することができ、保存中の泣きを改善することが可能である。また、ベーカリー製品の水分がコーティング材に移行しにくいため、ベーカリー製品の食感等の品質が保存中に劣化するのを防止することもできる。
【0021】
また、例えば、味や外観が優れたコーティング層として、スクロースを主体とする層(以下、「第2の層」という)を採用することができる。この場合、スクロースの配合量は特に限定されないが、第2の層に使用される水以外の組成中、85.0~99.9質量%含有させることが好ましい。85.0質量%以上とすることで、コーティング材の味や外観を良好に保つことができる。また、99.9質量%以下とすることで、コーティング材のてり感や艶感を向上させることができる。
【0022】
この第2の層は、味や外観が優れているため、最表層に用いることが好ましい。例えば、トレハロース、イソマルツロースから選ばれる一種の糖を主体とする第1の層を、ベーカリー製品に直接接する第1層目に使用し、第2層目に、スクロースを主体とする層を積層することで、第1の層によって保存中の泣きが改善され、かつ、第2の層によって味や外観の優れたコーティング材を形成することができる。
【0023】
各層には、公知のコーティング材に用いることができる材料を、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、糖(トレハロース、イソマルツロース、グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、粉末水あめ、デキストリン等)、寒天、増粘剤(ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアガム、タマリンドガム等)、澱粉、加工澱粉、ゼラチン、食物繊維、油脂、乳化剤、香料、着色料等が挙げられる。例えば、前記第1の層に水あめを用いることで、流動状のコーティング材用組成物の粘度調整を行うことができる。また、前記第2の層に増粘剤を用いることで、コーティング材のてり感や艶感が向上し、より良好な外観とすることができる。
【0024】
また、特に第2の層には、所望の味や外観にするために、各種香料、着色料、チョコレート、ナッツ、ドライフルーツ等を添加することも可能である。
【0025】
本技術のコーティング材の具体的態様については、ベーカリー製品の一部又は全部をコーティングや被覆、上掛けする形態であれば特に限定されない。例えば、グレーズ、アイシング、フォンダン等の形態が挙げられる。
【0026】
<ベーカリー製品用コーティング材用組成物>
本技術に係るベーカリー製品用コーティング材用組成物は、第1のコーティング材用組成物と、第2のコーティング材用組成物と、からなる。第1のコーティング材用組成物及び第2のコーティング材用組成物は、どちらも糖を主体とするが、その糖組成が異なることを特徴とする。また、ベーカリー製品へのコーティングの際、第1のコーティング材用組成物からなる第1の層と、第2のコーティング材用組成物からなる第2の層と、が積層されることを特徴とする。
【0027】
なお、第1のコーティング材用組成物からなる第1の層及び第2のコーティング材用組成物からなる第2の層は、それぞれ、前述した本技術に係るコーティング材の第1の層及び第2の層に該当し、各層の特性や用いる材料も同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0028】
本技術に係るベーカリー製品用コーティング材用組成物における第1のコーティング材用組成物及び第2のコーティング材用組成物は、各々、第1の層及び第2の層を個々に形成するものであるため、第1のコーティング材用組成物及び第2のコーティング材用組成物は、個々に分かれた形態である。その他の形態については、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、自由な形態に設計することが可能である。例えば、前述した本技術に係るコーティング材の第1の層及び第2の層に用いることができる成分を、それぞれ別々に混合した状態(所謂、ミックス製品)で流通させることが可能であり、具体的な形態としては、粉末状、顆粒状、水分を含有する流動状等を挙げることができる。この中でも特に、粉末状や顆粒状の形態が、保存安定性が高い点で好ましい。
【0029】
<ベーカリー製品>
本技術に係るベーカリー製品は、前述した本技術に係るベーカリー製品用コーティング材、又は、前述した本技術に係るベーカリー製品用コーティング材用組成物からなるベーカリー製品用コーティング材によって、一部又は全部が被覆されていることを特徴とする。
【0030】
本技術に係るベーカリー製品としては、穀粉を含む生地を加熱調理して得られるものであれば、特に限定されず、例えば、パン類、ドーナツ類、及び菓子類が挙げられる。パン類としては、例えば、ロールパン、菓子パン、デニッシュペストリー、バラエティブレッド、調理パン、蒸しパン、揚げパン等が挙げられる。ドーナツ類としては、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、クルーラー等が挙げられる。菓子類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ワッフル、カステラ、バームクーヘン、クッキー、ビスケット等が挙げられる。この中でも、前述した本技術に係るベーカリー製品用コーティング材の泣き防止効果がより発揮される製品としては、より水分が高い蒸しパン、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、クルーラー、スポンジケーキ、カステラ、バームクーヘンである。即ち、これらの製品に、前述した本技術に係るベーカリー製品用コーティング材を、より好適に用いることができる。
【0031】
本技術に係るベーカリー製品は、常温、冷蔵、又は冷凍した状態で、保存、流通させることが可能である。本技術に係るベーカリー製品を被覆するコーティング材は、前述の通り、2層以上で構成されているため、例えば、冷凍や解凍、冷蔵を行う場合にも、コーティング材によるベーカリー製品からの水分の移行が抑制されるので、温度変化によるコーティング材の泣きの発生を優位に防止することができる。また、ベーカリー製品の水分がコーティング材に移行するのを防止できるため、温度変化によるベーカリー製品の食感等の品質が劣化するのを防止することもできる。
【0032】
<ベーカリー製品の製造方法>
本技術に係るベーカリー製品の製造方法は、(1)被覆工程と、(2)積層工程と、を少なくとも行う方法である。また、必要に応じて、一般的なベーカリー製品の製造に必要な工程(生地作製、発酵、ベンチタイム、分割、形成、油ちょう、焼成等の工程)を行う事も可能である。即ち、一般的なベーカリー製品の製造に必要な工程を行って製造されたベーカリー製品に、(1)被覆工程と、(2)積層工程と、を行って、コーティング材による被覆を行っても良いし、予め製造されたベーカリー製品を用いて、(1)被覆工程及び(2)積層工程によるコーティングを行っても良い。以下、本技術に係るベーカリー製品の製造方法の必須工程である(1)被覆工程及び(2)積層工程について、詳細に説明する。
【0033】
(1)被覆工程
被覆工程は、糖を主体とする第1のコーティング材で、ベーカリー製品の少なくとも一部を被覆する工程である。被覆する方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の被覆方法を自由に選択して用いることができる。例えば、ベーカリー製品の表面の一部又は全部に、流動状の第1のコーティング材用組成物を付着させることで、被覆することが可能である。具体的な付着方法としては、例えば、塗布、浸漬、上掛け、掛け流し、滴下、絞り出し等が挙げられる。
【0034】
ベーカリー製品の表面の一部又は全部に、流動状の第1のコーティング材用組成物を付着させた後、第1のコーティング材を固体化させる。固体化させることで、後述する積層工程に用いる第2のコーティング材と第1のコーティング材が混ざってしまうのを防止することができ、その結果、第1のコーティング材及び第2のコーティング材のそれぞれの機能を、十分に発揮させることができる。
【0035】
固体化の方法も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の方法を自由に選択して用いることができる。例えば、放冷、自然乾燥、風乾燥、冷却乾燥等が挙げられる。
【0036】
なお、第1のコーティング材は、前述した本技術に係るコーティング材の第1の層及び前述した第1のコーティング材用組成物からなる第1の層に該当し、その特性や用いる材料も同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0037】
(2)積層工程
積層工程は、糖を主体とする第2のコーティング材を、前記第1のコーティング材に積層する工程である。第1のコーティング材用組成物及び第2のコーティング材用組成物は、どちらも糖を主体とするが、その糖組成は異なることを特徴とする。
【0038】
積層する方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の積層方法を自由に選択して用いることができる。例えば、ベーカリー製品の前記第1のコーティング材で被覆された部分に、流動状の第2のコーティング材用組成物を付着させることで、被覆することが可能である。具体的な付着方法としては、例えば、塗布、浸漬、上掛け、掛け流し、滴下、絞り出し等が挙げられる。
【0039】
ベーカリー製品の前記第1のコーティング材で被覆された部分に、流動状の第2のコーティング材用組成物を付着させた後、第2のコーティング材を固体化させる。固体化させることで、保存や流通の際に、コーティング材が変形したり、コーティング材同士が結着したりする問題を改善することができる。
【0040】
なお、第2のコーティング材は、前述した本技術に係るコーティング材の第2の層及び前述した第2のコーティング材用組成物からなる第2の層に該当し、その特性や用いる材料も同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【実施例
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
<実験例1>
実験例1では、ベーカリー製品を1層のコーティング材で被覆した場合と、コーティング材を2層で被覆した場合とで、保存によるコーティング材への影響を調べた。なお、ベーカリー製品の一例として、ドーナツを用いた。
【0043】
(1)コーティング材でコーティングされたベーカリー製品の製造
<実施例1~3、参考例4、5、実施例6、および7>
下記表1に記載の配合のコーティング材用組成物を、下記表1に記載の量の水に溶き、50℃に保持した。イーストドーナツをフライし、ドーナツの表面が70℃になった時点で、1層目のコーティング材をドーナツ表面に付着させた。常温で45分間放冷した後、2層目のコーティング材を、1層目のコーティング材上に付着させた。常温で45分間放冷し、コーティング材を固体化させて、実施例1~3、参考例4、5、実施例6、および7に係るベーカリー製品を製造した。
【0044】
<比較例1~4>
下記表2に記載の配合のコーティング材用組成物を、下記表2に記載の量の水に溶き、50℃に保持した。イーストドーナツをフライし、ドーナツの表面が70℃になった時点で、コーティング材をドーナツ表面に付着させた。常温で1時間放冷し、コーティング材を固体化させて、比較例1~4に係るベーカリー製品を製造した。
【0045】
前記で製造した実施例1~3、参考例4、5、実施例6、および7及び比較例1~4に係るベーカリー製品を、密閉容器に入れて、25℃で8時間保存後、下記の評価基準に基づいて、10名の専門パネルにより、コーティング材の泣き、外観(てり・艶)の評価を行った。10名の専門パネルの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。また、同時に、味の評価も行った。
【0046】
[泣き]
5:泣きが見られない
4:泣きはほとんど見られず、表面がやや濡れているが、密閉容器を開けるとすぐ乾き、ベーカリー製品の上にコーティング材はほぼ残っている
3:泣きがやや発生していて、密閉容器を開けても乾くのにしばらく時間がかかるが、ベーカリー製品の上にコーティング材は残っている
2:泣きが発生していて、密閉容器を開けても乾きにくく、ベーカリー製品の上にコーティング材はほとんど残っていない
1:泣きが発生して、ベーカリー製品の上にコーティング材は残っていない
【0047】
[外観(てり・艶)]
3:てり・艶があり見た目良好
2:ややてり・艶がある
1:てり・艶がない
【0048】
(3)結果
結果を下記表1及び2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、本実施例で使用した各材料は、以下の通りである。
トレハロース:トレハ微粉(株式会社林原製)
イソマルツロース:粉末パラチノースPST-NP(三井製糖株式会社製)
粉末水あめ:L-SPD(昭和産業株式会社製)
増粘剤:ネオソフトXRS(太陽化学株式会社製)
ゼラチン:ゼラチンAP-200F(株式会社ニッピ製)
【0051】
【表2】
【0052】
(4)考察
表1に示す通り、実施例1~3、参考例4、5、実施例6、および7は、泣きの発生も少なく、てり・艶の外観や味も良好であった。一方、表2に示す通り、比較例1は、泣きの発生はないが、てり・艶の外観が不良で、味も砂糖とは異質で甘さが足りない結果であった。比較例2及び3は、てり・艶の外観や味の評価は良好であったが、泣きが発生していた。比較例4は、泣きに強いトレハロースと、砂糖の主成分であるスクロースとを、ほぼ1:1で用いた例であるが、固体化しなかったため、泣き、てり・艶の外観、味の評価ができなかった。
【0053】
<実験例2>
実験例2では、コーティング材でコーティングされたベーカリー製品について、冷凍保存及び解凍による影響を調べた。
【0054】
(1)冷凍ベーカリー製品の製造
<実施例8~10>
下記表3に記載の配合のコーティング材用組成物(前記表1の実施例3、6及び7と同一組成)を、下記表3に記載の量の水に溶き、50℃に保持した。イーストドーナツをフライし、ドーナツの表面が70℃になった時点で、1層目のコーティング材をドーナツ表面に付着させた。常温で45分間放冷した後、2層目のコーティング材を、1層目のコーティング材上に付着させた。常温で15分間放冷して固体化させ、密閉容器に入れて-35℃にて急速冷凍を行った。
【0055】
(2)評価
前記で製造した実施例8~10に係る冷凍ベーカリー製品を一晩冷凍保存した。その後、密閉状態のまま解凍を行い、25℃にて8時間保存後、前記の評価基準に基づいて、10名の専門パネルにより、コーティング材の泣き、外観(てり・艶)の評価を行った。10名の専門パネルの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。また、同時に、味の評価も行った。
【0056】
(3)結果
結果を下記表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(4)考察
表3に示す通り、実施例8~10は、泣きの発生も少なく、てり・艶の外観や味も良好であり、前記実施例3、6及び7の結果と、ほぼ同等であった。この結果から、本技術に係るコーティング材を用いれば、冷凍保存、解凍を経た場合であっても、味や外観を損なうことなく、保存中の泣きを改善することが可能であることを確認できた。