(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220606BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
H01L21/66 J
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2018100234
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2020-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕士
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】棚田 一也
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-73049(JP,A)
【文献】特開2010-153433(JP,A)
【文献】特開2017-92372(JP,A)
【文献】特開2005-292054(JP,A)
【文献】特開2012-74719(JP,A)
【文献】特開2010-16312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 21/304
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシリコン膜を形成したウェーハに入射し、透過した赤外レーザーの偏光度の変化に基づいて前記ウェーハの外周歪みを評価する方法において、前記ウェーハの最外周からの評価除外領域の幅を0.6mm以上1.2mm以下と
し、前記ポリシリコン膜の研磨を行わずに前記ウェーハの外周歪みを評価することを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記評価除外領域の幅は0.6mm以上1.0mm以下である請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記評価除外領域の幅は0.8mm以上1.0mm以下である請求項1又は2に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶膜を形成したウェーハに入射し、透過した赤外レーザーの偏光度の変化に基づいて該ウェーハの外周歪みを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置を用いて、研磨後のウェーハ上にエピタキシャル層を成層する場合、ウェーハとサセプタの接触部にかかる熱応力などによってウェーハ外周部に歪みが生じる。この歪みの評価方法として、ウェーハの裏面から赤外レーザーを入射し、ウェーハ透過後の偏光度の変化から歪みを検出する手法が用いられている。本評価において、ウェーハに歪みがある場合入射光の偏光度は大きくなるため、その偏光度の変化から歪みを検出できる。これまで、エピタキシャルウェーハで本測定を行う際、ウェーハのエッジ部では光の散乱が多くなるため、ウェーハの最外周から0.5mmまでの領域を除外して評価を行っていた。
【0003】
なお、下記特許文献1ではエピタキシャルウェーハの裏面の歪みを低減させるエピタキシャルウェーハの製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、多結晶膜(Poly膜)を成長させたウェーハにおいても枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置を用いて成長を行うため、その成長過程においてエピタキシャルウェーハと同様の原理でウェーハの外周部に歪みが生じる。この多結晶膜を成長させたウェーハの歪み評価においてもエピタキシャルウェーハと同様の評価方法を用いるが、多結晶膜成長ウェーハは多結晶膜の結晶方位が不規則であることなどから、特にエッジ部でのノイズの影響を受けやすく、従来の評価方法の適用が困難であった。そのため、これまでは歪みの評価を行うために、多結晶膜成長をした後に多結晶膜の研磨を行い、多結晶膜表面を平滑化していた。この研磨を行った後に歪みを評価する方法はノイズの除去に有効であり、高精度に歪みの評価をすることができていた。
【0006】
しかし、この従来の手法は多結晶膜成長後に研磨工程が追加されるため、外周歪み評価が行われるまでに時間がかかり、条件調整時や製品品質確認に時間的ロスが生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した従来の評価手法の問題を鑑みなされたものであり、多結晶膜を形成したウェーハの外周歪みの評価において、外周部のノイズの影響を低減した評価を効率的に実施できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、多結晶膜を形成したウェーハに入射し、透過した赤外レーザーの偏光度の変化に基づいて前記ウェーハの外周歪みを評価する方法において、前記ウェーハの最外周からの評価除外領域の幅を0.6mm以上1.2mm以下とすることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、評価除外領域の幅を上記範囲にすることで、外周部のノイズの影響を低減でき、多結晶膜付きのウェーハの外周歪み評価を効率的に実施できる。
【0010】
また、前記多結晶膜の研磨を行わずに前記ウェーハの外周歪みを評価する。これによって、外周歪み評価が行われるまでの時間を短くでき、多結晶膜付きのウェーハの外周歪み評価を効率的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置の概略図である。
【
図3】ウェーハの平面図であり、歪みの測定除外領域と、測定領域とを示した図である。
【
図4】ポリシリコン膜無しのウェーハでの歪み量(基準歪み量)と、測定除外領域幅を0.8mmとしたときのポリシリコン膜付きのウェーハでの歪み量(評価対象歪み量)との相関を示す近似直線を示した図である。
【
図5】ポリシリコン膜無しのウェーハでの歪み量(基準歪み量)と、測定除外領域幅を0.5mmとしたときのポリシリコン膜付きのウェーハでの歪み量(評価対象歪み量)との相関を示す近似直線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、
図1を参照して枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置の構成を説明する。
図1のエピタキシャルウェーハ製造装置1は、シリコン単結晶基板等のウェーハWが1枚ずつ投入されて、投入された1枚のウェーハWの主表面上にシリコン単結晶膜やポリシリコン膜等の膜を気相成長させる装置である。詳しくは、エピタキシャルウェーハ製造装置1は、処理対象となるウェーハWが投入される反応炉2と、反応炉2内に配置されて投入されたウェーハWを水平に支持するサセプタ3と、反応炉2を囲むように配置されて反応炉2内を加熱する加熱部6とを含んで構成される。
【0013】
サセプタ3は例えば炭化ケイ素(SiC)によりコーティングされた黒鉛から円盤状に形成される。サセプタ3の上面には、ウェーハWを水平に載置するための、ウェーハWの径よりも数ミリ程度大きい凹形状(平面視で円状)のポケット部3aが形成されている。ポケット部3aの深さは、ウェーハWの厚さと同程度となっている。
図1の例では、ポケット部3aは、ウェーハWの外周部は接触するがそれ以外の部分は接触しないように底面が段差形状に形成されているが、ウェーハWの裏面の全部がポケット部3aの底面に接触するように形成されてもよい。サセプタ3はその中心軸線回りに回転可能に設けられる。
【0014】
反応炉2の一端側には、反応炉2内のウェーハWの主表面上に各種ガスを供給するためのガス供給口4が形成されている。また、反応炉2の、ガス供給口4と反対側には、ウェーハWの主表面上を通過したガスを排出するためのガス排出口5が形成されている。加熱部6は、例えば反応炉2の上下それぞれに設けられたハロゲンランプとすることができる。
【0015】
次に、
図2を参照して、エピタキシャルウェーハ等のウェーハの歪みを測定する装置の構成を説明する。
図2の測定装置10は、SIRD(Scanning Infrared Depolarization)を原理とした装置として構成されている。詳しくは、測定装置10は、測定対象のウェーハWの歪み測定部位に赤外レーザー31を入射するレーザー発生部11と、赤外レーザー31が入射されたウェーハWから透過してくる光32の偏光成分(P偏光成分、S偏光成分)を検出する検出部12と、検出部12で検出した偏光成分に基づいて偏光度の変化(偏光変位量)を算出し、その偏光度の変化に基づいて歪みの位置及び歪み量の算出等の処理を行う処理部13とを備えている。
【0016】
次に、本実施形態の歪み評価の手順を説明する。先ず、歪みの評価対象のウェーハを準備する。準備するウェーハとして例えば表面に多結晶膜としてのポリシリコン膜を形成したウェーハを準備する。ポリシリコン膜は例えば
図1に例示する枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置1を用いて形成すればよい。この場合、例えばシリコン単結晶基板として構成されたウェーハWをサセプタ3のポケット部3aに載置した状態で、加熱部6によりウェーハWを所定温度に加熱しつつ、ガス供給口4からポリシリコン膜の原料となるガス(例えばトリクロロシラン)及びキャリアガス(例えば水素ガス)を反応炉2内に供給して、ウェーハWの表面に所定膜厚のポリシリコン膜を成長させる。これにより、表面にポリシリコン膜を有したウェーハWが得られる。
【0017】
次に、ポリシリコン膜を有したウェーハWの外周部における歪みの位置及び歪み量を、
図2の測定装置10により測定する。このとき、ポリシリコン膜を成長させる工程後、ポリシリコン膜の研磨等のウェーハWに対する処理を行わずに、歪み測定を行う。
【0018】
歪み測定においては、サセプタ3と接触する裏面外周部に歪みが発生しやすいので、赤外レーザー31をウェーハWの裏面外周部に入射する。また、ウェーハWの最外周(エッジ部)20(
図3参照)近傍は光の散乱が多くなるため、最外周20から所定幅の領域21は測定除外領域(評価除外領域)とする。測定除外領域21の、ウェーハWの径方向における幅は0.6mm以上1.2mm以下とする。これによって、後述の実施例で示すように、外周歪みを高精度に測定できる。
【0019】
また、ウェーハWにおける歪み測定領域22(
図3参照)は、ウェーハWの外周部に含まれる領域とし、具体的には、測定除外領域21の内周側の境界線から径方向に所定幅(例えば4mmの幅)の領域とする。歪み測定領域22は、ウェーハWの円周方向に全周に亘る領域(つまりリング状の領域)としてもよいし、円周方向の一部領域としてもよい。そして、赤外レーザー31の入射位置を、歪み測定領域22内でスキャン(走査)することで、歪み測定領域22における歪み位置及び歪み量を評価する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0021】
表面に多結晶膜を成長させたウェーハの外周歪み測定において、多結晶膜を有したウェーハと、多結晶膜を研磨によって除去したウェーハとの外周歪み量及び外周歪み位置の一致率について調査した。
【0022】
具体的には、直径300mmのシリコン単結晶基板を準備して、
図1と同様の枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置を用いて、準備したシリコン単結晶基板の表面にポリシリコン膜を3μm成長させた。ポリシリコン膜のソースガスはトリクロロシラン、キャリアガスは水素ガスとした。
【0023】
得られたポリシリコン膜付きのウェーハに対して、研磨等の処理を行わずに、
図2と同様の測定装置を用いて外周歪みを測定した。この際、測定除外領域21(
図3参照)の幅を0.5mm(比較例1)、0.6mm(実施例1)、0.8mm(実施例2)、1.0mm(実施例3)、1.2mm(実施例4)、1.4mm(比較例2)とした。また、歪み測定領域22(
図3参照)の幅は、測定除外領域21の幅にかかわらず同じ値とし、具体的には4mmとした。そして、歪み測定領域22における歪みの位置及び歪み量を測定した。このときに検出された歪みを評価対象歪みとする。
【0024】
その後、歪み測定後のウェーハに対して表面のポリシリコン膜を研磨によって除去した。そして、ポリシリコン膜除去後のウェーハに対して測定除外領域幅を0.5mmとし、歪み測定領域幅を4mmとして、歪みの位置及び歪み量を測定した。このときに検出された歪みを基準歪みとする。
【0025】
そして、ポリシリコン膜付きのウェーハの歪み測定においてどの程度ノイズの影響があるかを確認するために、測定除外領域幅ごとに、同一位置に検出された基準歪みと評価対象歪みの組み合わせを抽出した。そして、抽出した各組み合わせを1つの点として、各組み合わせに係る点を、基準歪み量を第1座標軸、評価対象歪み量を第2座標軸とした直交座標面内に表したときに得られる近似直線のR2乗値(決定係数)を求めた。
【0026】
さらに、基準歪みの検出点の個数をX、各測定除外領域幅において基準歪みと同一位置に検出された評価対象歪みの検出点の個数をYとしたときに、Y/Xを歪み位置の一致率として求めた。なお、この一致率は、従来の測定方法(測定除外領域幅を0.5mmとしてポリシリコン研磨後に測定)を用いたときの歪み検出点に対する、ポリシリコン膜付きのウェーハでの歪み検出点の一致率を示している。
【0027】
結果を表1に示す。表1では、測定除外領域幅ごとに、R2乗値及び一致率を示している。また、実施例2である測定除外領域幅を0.8mmとしたときの上記近似直線を
図4に示す。また、比較例1である測定除外領域幅を0.5mmとしたときの上記近似直線を
図5に示す。
【0028】
【0029】
表1、
図4に示すように、測定除外領域幅が0.6mm~1.2mmの範囲(実施例1~4)ではR2乗値と一致率の両方が大きい値を示しており、具体的には、R2乗値は0.80より大きい値を示し、一致率は80%より大きい値を示している。特に、測定除外領域幅が0.6mm~1.0mmの範囲(実施例1~3)では、R2乗値は0.90より大きい値を示し、0.8mm~1.0mmの範囲(実施例2、3)ではR2乗値は0.95より大きい値を示している。また、一致率で見ると、測定除外領域幅が0.6mm~1.0mmの範囲(実施例1~3)では85%以上を示した。このように、測定除外領域幅を0.6mm~1.2mmとすると、ポリシリコン膜のエッジ部でのノイズの影響を低減でき、従来の手法(測定除外領域幅を0.5mmとしてポリシリコン研磨後に測定)と同程度の歪み測定精度を確保でき、つまり高精度に歪み量を評価できる。また、ポリシリコン膜を研磨する必要がないので、効率的に歪み評価が可能である。
【0030】
一方、表1、
図5に示すように、測定除外領域幅が0.5mm(比較例1)では、一致率は大きい値を示しているものの、R2乗値は0.80より小さい値を示し、ポリシリコン膜のエッジ部でのノイズの影響が大きいといえる。
【0031】
また、表1に示すように、測定除外領域幅が1.4mm(比較例2)では、ノイズが除去されると同時に外周歪みで検出できないものが出てきてしまうため、一致率が80%未満となり、これに伴いR2乗値も悪化した。以上より、測定除外領域幅を0.6mmより小さい値又は1.2mmより大きい値とした場合、ポリシリコン膜を付けたままでは、歪みの正確な評価は困難である。
【0032】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであったとしても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0033】
1 枚葉式エピタキシャルウェーハ製造装置
10 測定装置
11 レーザー発生部
12 検出部
13 処理部
20 ウェーハの最外周
21 測定除外領域(評価除外領域)
22 歪み測定領域