(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】半導体装置、および、構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20220607BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20220607BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20220607BHJP
H01L 21/3063 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/306 L
(21)【出願番号】P 2019205235
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2021-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】市川 磨
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
(72)【発明者】
【氏名】福原 昇
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-287714(JP,A)
【文献】特開2014-207287(JP,A)
【文献】特開2013-033829(JP,A)
【文献】特開2008-109162(JP,A)
【文献】特開2012-175088(JP,A)
【文献】特開2011-077122(JP,A)
【文献】特開2018-152410(JP,A)
【文献】特開2012-156263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/812
H01L 29/778
H01L 21/338
H01L 21/3063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されており、
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)が、0.4nm以下である、半導体装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されており、
前記III族窒化物層の表面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記表面の算術平均粗さ(Ra)と、
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)と、
の差が、0.2nm以下である、半導体装置。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されており、
前記障壁層の上面と直交し、前記凹部の底面と交差する断面を、透過型電子顕微鏡で観察した場合に、前記断面内の、前記底面に沿った長さ30nm以上の範囲において、前記凹部の底面の高さの最大値と最小値との差が、0.2nm以下である、半導体装置。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されており、
前記凹部の底面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度が、前記III族窒化物層の表面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する、半導体装置。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されており、
前記凹部の底面におけるハロゲン元素の濃度が、1×10
15/cm
3未満であるとともに、前記第1層に遷移金属が導入されていない、半導体装置。
【請求項6】
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部が除去されることで形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1層の上面から前記凹部の底面までの厚さは、1nm以下である、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記凹部は、前記第2層の厚さの一部が除去されることで形成され、
前記凹部の底面から前記第1層の上面までの厚さは、1nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記凹部の側面は、上方側が前記凹部の底面の外側に傾斜したテーパ形状を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記凹部の側面の、前記凹部の底面の法線方向に対する傾斜角度は、30°以上である、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1層を構成する窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム組成と、前記第2層を構成する窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム組成と、は同等である、請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項12】
III族窒化物で構成された第1層、および、前記第1層上に形成され、n型不純物が添加されたIII族窒化物で構成された第2層、を含む積層構造と、
前記積層構造に形成された凹部と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、構造体、
の製造方法であって、
前記第2層の導電性よりも前記第1層の導電性を低くすることによって、前記第1層に遷移金属およびフッ素のいずれも導入することなく、前記第1層をエッチングストッパとする光電気化学エッチングにより、前記第2層をエッチングすることで、前記凹部を形成する、構造体の製造方法。
【請求項13】
III族窒化物で構成された第1層、および、前記第1層上に形成され、n型不純物が添加されたIII族窒化物で構成された第2層、を含む積層構造と、
前記積層構造に形成された凹部と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、構造体、
の製造方法であって、
前記第1層をエッチングストッパとする光電気化学エッチングにより、前記第2層をエッチングすることで、前記凹部を形成し、前記凹部の形成の後、前記光電気化学エッチングの溶け残り部分である凸部を除去する平坦化エッチングを行う、構造体の製造方法。
【請求項14】
前記第1層は、i型層である、請求項12または13に記載の構造体の製造方法。
【請求項15】
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)が、0.4nm以下となるように、前記凹部を形成する、請求項12~14のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項16】
前記
積層構造の表面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記表面の算術平均粗さ(Ra)と、
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)と、
の差が、0.2nm以下となるように、前記凹部を形成する、請求項12~15のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項17】
前記
第2層の上面と直交し、前記凹部の底面と交差する断面を、透過型電子顕微鏡で観察した場合に、前記断面内の、前記底面に沿った長さ30nm以上の範囲において、前記凹部の底面の高さの最大値と最小値との差が、0.2nm以下となるように、前記凹部を形成する、請求項12~16のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項18】
前記凹部の底面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度が、前記
積層構造の表面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有するように、前記凹部を形成する、請求項12~17のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項19】
前記凹部の底面におけるハロゲン元素の濃度が、1×10
15/cm
3未満となるように、前記凹部を形成する、請求項12~18のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、および、構造体の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)等の半導体装置を製造するための材料として用いられている。III族窒化物を用いたHEMTをノーマリーオフ化するための技術として、ゲート電極が形成される領域に凹部(ゲートリセス)を形成する技術が提案されている。
【0003】
III族窒化物をエッチングする新たな技術として、光電気化学(PEC)エッチングが提案されている(例えば非特許文献1参照)。PECエッチングは、一般的なドライエッチングと比べてダメージが少ないウェットエッチングであり、また、中性粒子ビームエッチング(例えば非特許文献2参照)、アトミックレイヤーエッチング(例えば非特許文献3参照)等のダメージの少ない特殊なドライエッチングと比べて装置が簡便である点で好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Murata et al., “Photo-electrochemical etching of free-standing GaN wafer surfaces grown by hydride vapor phase epitaxy”, Electrochimica Acta 171 (2015) 89-95
【文献】S. Samukawa, JJAP, 45(2006)2395.
【文献】T. Faraz, ECS J. Solid Stat. Scie.&Technol., 4, N5023 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、III族窒化物を用いて形成された半導体装置(HEMT)における凹部(ゲートリセス)を、PECエッチングにより形成するための好適な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、半導体装置
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
窒化アルミニウムガリウムで構成された第1層、および、前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層、を含む積層構造と、
前記積層構造に形成された凹部と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、構造体、の製造方法であって、
前記第1層をエッチングストッパとする光電気化学エッチングにより、前記第2層をエッチングすることで、前記凹部を形成する、構造体の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
III族窒化物を用いて形成された半導体装置(HEMT)における凹部(ゲートリセス)を、PECエッチングにより形成するための好適な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態によるHEMTを例示する概略断面図であり、
図1(b)は、一実施形態のHEMTの材料として用いられるウエハを例示する概略断面図である。
【
図2】
図2(a)は、一実施形態によるエッチング対象物を例示する概略断面図であり、
図2(b)は、PECエッチング工程を例示する、PECエッチング装置の概略断面図である。
【
図3】
図3(a)は、PECエッチング工程が終了した状態を示す、一実施形態によるエッチング対象物を例示する概略断面図であり、
図3(b)は、平坦化エッチング工程を例示する、平坦化エッチング装置の概略断面図である。
【
図4】
図4は、平坦化エッチング工程が終了した状態を示す、一実施形態によるエッチング対象物を例示する概略断面図である。
【
図5】
図5(a)は、実験例におけるPECエッチングのエッチング時間とエッチング深さとの関係を示すグラフであり、
図5(b)は、実験例におけるエピ層表面のAFM像である。
【
図6】
図6(a)は、実験例における未平坦化底面のAFM像であり、
図6(b)は、実験例における平坦化底面のAFM像である。
【
図7】
図7は、実験例による凹部が形成されたエピ層を、TEMで観察した断面像である。
【
図8】
図8は、障壁層近傍におけるAl組成およびn型不純物濃度(Si濃度)のSIMSプロファイルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本発明の一実施形態による半導体装置200について説明する。半導体装置200は、具体的には、高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。半導体装置200を、HEMT200ともいう。以下説明するように、本実施形態によるHEMT200は、ゲート電極212の配置される凹部(ゲートリセス)110として、光電気化学(PEC)エッチングにより形成された凹部110を有することを、1つの特徴とする。
【0011】
まず、HEMT200、および、HEMT200の材料として用いられるIII族窒化物積層基板100(以下、ウエハ100ともいう)の構造について説明する。
図1(a)は、HEMT200を例示する概略断面図であり、
図1(b)は、ウエハ100を例示する概略断面図である。なお、
図1(a)は、ウエハ100の面内に多数形成されたHEMT200の1つ分を、例示している。
【0012】
ウエハ100は、基板10と、基板10上にエピタキシャル成長されることで形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層60(以下、エピ層60ともいう)と、を有する。
【0013】
基板10としては、例えば、半絶縁性の炭化シリコン(SiC)基板が用いられる。ここで、「半絶縁性」とは、例えば、比抵抗が105Ωcm以上である状態をいう。なお、導電性基板上に厚膜の半絶縁性エピ層が形成されたもの(例えば、n型導電性窒化ガリウム(GaN)基板上に、厚さ10μmの炭素(C)ドープ半絶縁性GaN層が形成されたもの)を、半絶縁性の基板10としても良い。基板10としては、SiC基板に限らず、他の基板(サファイア基板、シリコン(Si)基板、(半絶縁性の)GaN基板、等)が用いられてもよい。エピ層60の積層構造は、基板10の種類、得たいHEMT200の特性、等に応じ、適宜選択されてよい。
【0014】
基板10としてSiC基板を用いる際の、エピ層60としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)で構成された核生成層20、窒化ガリウム(GaN)で構成された厚さチャネル層30、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)で構成された障壁層40、および、GaNで構成されたキャップ層50の積層構造が用いられる。なお、キャップ層50は、省略されてもよい。
【0015】
HEMT200を構成するエピ層60は、少なくとも、チャネル層30と、チャネル層上に形成された障壁層40と、を有する。障壁層40は、チャネル層30上に形成されることで、チャネル層30の上面近傍に、HEMT200のチャネルとなる2次元電子ガス(2DEG)を形成する。
【0016】
本実施形態による障壁層40は、AlGaNで構成された下層41と、下層41上に(下層41の直上に)形成され、n型不純物が添加されたAlGaNで構成された上層42と、を含む積層構造を有する。
【0017】
下層41は、非導電性の層として構成されており、好ましくは、不純物(特に、導電性不純物)が意図的には添加されていないi型のAlGaNで構成されている。以下、下層41を、i型層41ともいう。下層41は、少なくとも、上層42と比べてn型不純物濃度が低いAlGaNで構成されている。i型層41の導電性を抑制するために、i型層41のn型不純物濃度は、5×1016/cm3未満であることが好ましく、1×1016/cm3未満であることがより好ましい。ここで、下層41について「非導電性」とは、上層42よりも低い導電性を有することを意味し、好ましくは、n型不純物濃度が上述のように抑制されていることを意味する。
【0018】
上層42は、導電性の層として構成されており、好ましくは、n型不純物が添加されることで導電性を有するn型のAlGaNで構成されている。以下、上層42を、n型層42ともいう。n型層42の適切な導電性を得るために、n型層42のn型不純物濃度は、1×1017/cm3以上であることが好ましい。また、n型層42の結晶性低下を抑制するために、n型層42のn型不純物濃度は、1×1019/cm3未満であることが好ましい。
【0019】
なお、ここで、i型層41のn型不純物濃度とは、例えば、i型層41における、シリコン(Si)濃度とゲルマニウム(Ge)濃度とを合算した濃度として規定される。また、n型層42のn型不純物濃度とは、例えば、n型層42における、Si濃度とGe濃度とを合算した濃度として規定される。i型層41のn型不純物濃度は、例えば、i型層41の全厚さにおけるn型不純物濃度の平均濃度として規定される。また、n型層42のn型不純物濃度は、例えば、n型層42の全厚さにおける平均濃度として規定される。
【0020】
i型層41を構成するAlxGa1-xNにおけるAl組成xは、例えば0.1≦x≦0.3であり、同様に、n型層42を構成するAlyGa1-yNにおけるAl組成yは、例えば0.1≦x≦0.3である。i型層41のAl組成xと、n型層42のAl組成yとは、i型層41とn型層42との界面に不要な2DEGが形成されることを抑制する点等から、少なくともi型層41とn型層42との界面近傍において同等であることが好ましい。i型層41のAl組成xと、n型層42のAl組成yとが、少なくともi型層41とn型層42との界面近傍において同等とは、Al組成xとAl組成yとの差が(当該差の絶対値が)、好ましくは0.01以下であることをいう。なお、当該界面近傍における、i型層41のAl組成x、n型層42のAl組成yは、例えば、それぞれ、当該界面から1nm分の厚さにおける平均Al組成として規定される。
【0021】
障壁層40の全体的な厚さ、すなわち、i型層41とn型層42とを合わせた層の厚さは、2DEGが適切に高い濃度で形成されるように、例えば10nm以上であることが好ましい。また、障壁層40の全体的な厚さは、チャネル層30上にヘテロエピタキシャル成長された障壁層40の結晶性が悪化しないように、例えば100nm以下であることが好ましい。
【0022】
後述のように、凹部110の底面111は、i型層41の上面近傍に配置される。つまり、i型層41の厚さは、ゲートリセスである凹部110の下方の、障壁層40の残し厚に概ね対応する。i型層41の厚さは、HEMT200のノーマリーオフ化が図られるような薄さに適宜設定され、例えば10nm以下であることが好ましい。また、i型層41の厚さは、凹部110の下方の、障壁層40の残し厚が安定的に確保されるような厚さに適宜設定され、例えば2nm以上であることが好ましい。なお、i型層41の配置部分は、例えば2次イオン質量分析(SIMS)を用いて、例えば以下のように判定されてもよい。例えば、障壁層40におけるバルクの(上下の界面近傍でない部分の)Al組成に対し、チャネル層30側でAl組成が半分になる位置が、i型層41とチャネル層(GaN層)30との境界、つまりi型層41の下端と判定されてよい。また、例えば、n型層42とi型層41との界面近傍で、n型層42側から減少するn型不純物濃度が、5×10
16/cm
3を下回る位置が、n型層42とi型層41との界面(境界)、つまりi型層41の上端と判定されてよい。
図8に、障壁層40近傍におけるAl組成およびn型不純物濃度(ここではSi濃度)のSIMSプロファイルの一例を示す。障壁層40を「AlGaN」と示し、i型層41を「i-AlGaN」と示し、n型層42を「n-AlGaN」と示す。
【0023】
n型層42の厚さは、ゲートリセスである凹部110の深さ、つまり、ソース電極211およびドレイン電極213の下方における障壁層40の厚さと、ゲート電極212の下方における障壁層40の厚さとの差、に概ね対応する。n型層42の厚さは、当該差が適切となる厚さに適宜設定され、例えば5nm以上であることが好ましい。また、n型層42の厚さは、障壁層40の全体の厚さが、過度に厚くならないように(上述のように例えば100nm以下となるように)適宜設定され、例えば90nm以下であることが好ましい。
【0024】
キャップ層50は、導電性の層として構成されており、例えば、n型不純物が添加されることで導電性を有するGaNで構成されている。キャップ層50の厚さは、必要に応じて適宜設定され、例えば5nmである。
【0025】
障壁層40およびキャップ層50の積層構造において、i型層41は非導電性の層として構成され、n型層42およびキャップ層50の積層部分は、導電性の層として構成されている。
【0026】
本実施形態では、エピ層60の表面61が、エピ層60を構成するIII族窒化物のc面で構成されている態様が例示される。ここで「c面で構成されている」とは、表面61に対して最も近い低指数の結晶面が、エピ層60を構成するIII族窒化物結晶のc面であることを意味する。エピ層60を構成するIII族窒化物は転位(貫通転位)を有し、表面61に、転位が所定の密度で分布している。
【0027】
HEMT200は、ウエハ100のエピ層60(少なくとも、HEMT200において動作電流が流れる動作層となるチャネル層30および障壁層40)と、ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213と、を有する。また、本実施形態によるHEMT200は、エピ層60に形成された、より具体的には障壁層40に形成された、凹部110を有する。
【0028】
凹部110は、エピ層60の表面(上面)61に形成されており、(エピ層60がキャップ層50を有する場合は、キャップ層50の全厚さが除去されるとともに、)障壁層40の一部の厚さが除去されることで、形成されている。凹部110は、n型層(障壁層40の上層)42の厚さの全部または一部が除去されることで形成されており、凹部110の下方に、i型層(障壁層40の下層)41の厚さの少なくとも一部が、配置されている。
【0029】
詳細は後述するように、凹部110は、PECエッチングにより障壁層40をエッチングすることで形成される。当該PECエッチングにおいて、i型層41をエッチングストッパとして、n型層42をエッチングすることで、底面111がi型層41の上面近傍に配置された凹部110が形成される。
図1(a)は、典型的な(理想的な)態様として、凹部110の底面111の深さ方向の位置がi型層41の上面の位置と一致している態様を、つまり、n型層42の全厚さが除去されることで凹部110が形成されており、凹部110の下方に、i型層41の全厚さが配置されている態様を、例示している。
【0030】
ゲート電極212は、凹部110の底面111上に形成されている。ソース電極211およびドレイン電極213は、エピ層60の表面61上に形成されている。ゲート電極212は、例えば、ニッケル(Ni)層上に金(Au)層が積層されたNi/Au層により形成される。ソース電極211およびドレイン電極213のそれぞれは、例えば、チタン(Ti)層上にAl層が積層され、さらにAl層上にAu層が積層されたTi/Al/Au層により形成される。
【0031】
HEMT200は、さらに、保護膜220と、素子分離領域230と、を有してよい。保護膜220は、ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213の上面上に開口を有するように、形成される。素子分離領域230は、隣接するHEMT200間(個々の素子間)を分離する。素子分離領域230として、例えば素子分離溝が形成され、素子分離溝は、その底面がチャネル層30の上面よりも深い位置に配置されるように、つまり、隣接する素子間で、2DEGが素子分離溝230により分断されるように、形成される。なお、素子分離溝に限らず、例えばイオン注入により、素子分離領域230を形成してもよい。
【0032】
次に、HEMT200の製造方法について、例示的に説明する。HEMT200の製造方法では、PECエッチングにより凹部110を形成する工程(以下、PECエッチング工程ともいう)が行われる。
【0033】
PECエッチング工程に先立ち、PECエッチング処理の対象物となる構造体150(以下、エッチング対象物150ともいう)を準備する。
図2(a)は、エッチング対象物150を例示する概略断面図である。
【0034】
エッチング対象物150は、ウエハ100のエピ層60上に、カソードパッド160およびマスク170が設けられた構造を有する。本実施形態では、カソードパッド160を、HEMT200のソース電極211およびドレイン電極213(の少なくとも一方)として利用する態様、換言すると、HEMT200のソース電極211およびドレイン電極213(の少なくとも一方)を、カソードパッド160として利用する態様、を例示する。エッチング対象物150は、具体的には例えば、エピ層60の表面61上にソース電極211およびドレイン電極213が形成された段階の部材に、PECエッチング用のマスク170が形成された構造を有する。
【0035】
マスク170は、エピ層60の表面61上に形成され、凹部110を形成すべき領域62(以下、被エッチング領域62ともいう)に開口を有するとともに、カソードパッド160(ソース電極211およびドレイン電極213)の上面を露出させる開口を有する。マスク170は、非導電性材料、例えば、レジスト、酸化シリコン等で形成される。
【0036】
カソードパッド160は、導電性材料で形成された導電性部材であって、被エッチング領域62と電気的に接続された、ウエハ100の(エピ層60の)導電性領域の表面、の少なくとも一部と接触するように設けられている。
【0037】
図2(b)は、PECエッチング工程を示す、PECエッチング装置300の概略断面図である。PECエッチング装置300は、エッチング液301を収容する容器310と、紫外(UV)光321を出射する光源320と、を有する。
【0038】
PECエッチング工程では、エッチング対象物150がエッチング液301に浸漬され、被エッチング領域62、および、カソードパッド160(カソードパッド160の少なくとも一部、例えば上面)がエッチング液301と接触した状態で、エピ層60の表面61に、エッチング液301を介してUV光321を照射する。
【0039】
このようにして、被エッチング領域62を構成するIII族窒化物をPECエッチングすることで、凹部110を形成する。より具体的には、(キャップ層50が存在する場合はキャップ層50の全厚さ、および、)障壁層40の一部の厚さをPECエッチングすることで、凹部110を形成する。
【0040】
ここで、PECエッチングの機構について説明するとともに、エッチング液301、カソードパッド160等について、より詳しく説明する。PECエッチング機構は、まず、GaNのエッチングを例として説明する。
【0041】
PECエッチングのエッチング液301としては、被エッチング領域62(凹部110が形成され始めた後は底面111を意味する)を構成するIII族窒化物が含有するIII族元素の酸化物の生成に用いられる酸素を含み、さらに、電子を受け取る酸化剤を含む、アルカリ性または酸性のエッチング液301が用いられる。
【0042】
当該酸化剤として、ペルオキソ二硫酸イオン(S2O8
2-)が例示される。以下、S2O8
2-をペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)から供給する態様を例示するが、S2O8
2-は、その他例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na2S2O8)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム、(NH4)2S2O8)等から供給するようにしてもよい。
【0043】
エッチング液301の第1例としては、水酸化カリウム(KOH)水溶液とペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)水溶液とを混合した、PECエッチングの開始時点でアルカリ性を示すものが挙げられる。このようなエッチング液301は、例えば、0.01MのKOH水溶液と、0.05MのK2S2O8水溶液と、を1:1で混合することで調製される。KOH水溶液の濃度、K2S2O8水溶液の濃度、および、これらの水溶液の混合比率は、必要に応じ適宜調整されてよい。なお、KOH水溶液とK2S2O8水溶液とが混合されたエッチング液301は、例えばKOH水溶液の濃度を低くすることにより、PECエッチングの開始時点で酸性を示すようにすることもできる。
【0044】
第1例のエッチング液301を用いる場合のPECエッチング機構について説明する。PECエッチングされるべき表面61に波長365nm以下のUV光321が照射されることによって、被エッチング領域62を構成するGaN中に、ホールと電子とが対で生成される。生成されたホールによりGaNがGa
3+とN
2とに分解され(化1)、さらに、Ga
3+が水酸化物イオン(OH
-)によって酸化されることで酸化ガリウム(Ga
2O
3)が生成する(化2)。そして、生成されたGa
2O
3が、アルカリ(または酸)に溶解される。このようにして、GaNのPECエッチングが行われる。なお、生成されたホールが水と反応して、水が分解されることで、酸素が発生する(化3)。
【化1】
【化2】
【化3】
【0045】
また、K
2S
2O
8が水に溶解することでペルオキソ二硫酸イオン(S
2O
8
2-)が生成し(化4)、S
2O
8
2-にUV光321が照射されることで硫酸イオンラジカル(SO
4
-*ラジカル)が生成する(化5)。ホールと対で生成された電子が、SO
4
-*ラジカルとともに水と反応して、水が分解されることで、水素が発生する(化6)。このように、本実施形態のPECエッチングでは、SO
4
-*ラジカルを用いることで、GaN中にホールと対で生成された電子を消費させることができるため、PECエッチングを良好に進行させることができる。なお、(化6)に示されるように、PECエッチングの進行に伴い、硫酸イオン(SO
4
2-)が増加することで、エッチング液301の酸性は強くなっていく(pHは低下していく)。
【化4】
【化5】
【化6】
【0046】
エッチング液301の第2例としては、リン酸(H3PO4)水溶液とペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8)水溶液とを混合した、PECエッチングの開始時点で酸性を示すものが挙げられる。このようなエッチング液301は、例えば、0.01MのH3PO4水溶液と、0.05MのK2S2O8水溶液と、を1:1で混合することで調製される。H3PO4水溶液の濃度、K2S2O8水溶液の濃度、および、これらの水溶液の混合比率は、必要に応じ適宜調整されてよい。H3PO4水溶液およびK2S2O8水溶液は、ともに酸性であるため、H3PO4水溶液とK2S2O8水溶液とが混合されたエッチング液301は、任意の混合比率で酸性である。なお、K2S2O8水溶液自体が酸性を示すため、エッチング開始時点で酸性であるエッチング液301として、K2S2O8水溶液のみを用いてもよい。この場合、K2S2O8水溶液の濃度は、例えば0.025Mとすればよい。
【0047】
エッチング液301が、PECエッチングの開始時点から酸性であることは、マスク170としてレジストの使用を容易にする観点から好ましい。レジストマスクは、エッチング液301がアルカリ性であると、剥離しやすいからである。なお、マスク170として酸化シリコンを使用する場合は、エッチング液301が酸性でもアルカリ性でも特に問題ない。
【0048】
第2例のエッチング液301を用いる場合のPECエッチング機構は、第1例のエッチング液301を用いる場合について説明した(化1)~(化3)が、(化7)に置き換わったものと推測される。つまり、GaNと、UV光321の照射で生成されたホールと、水と、が反応することで、Ga
2O
3と、水素イオン(H
+)と、N
2と、が生成する(化7)。そして、生成されたGa
2O
3が、酸に溶解される。このようにして、GaNのPECエッチングが行われる。なお、(化4)~(化6)に示したような、ホールと対で生成された電子がS
2O
8
2-により消費される機構は、第1例のエッチング液301を用いる場合と同様である。
【化7】
【0049】
(化1)および(化2)、または、(化7)から理解されるように、PECエッチングが生じる被エッチング領域62(凹部110の底面111)は、ホールが消費されるアノードとして機能すると考えられる。また、(化6)から理解されるように、被エッチング領域62と電気的に接続された導電性部材であるカソードパッド160の、エッチング液301と接触する表面は、電子が消費される(放出される)カソードとして機能すると考えられる。
【0050】
カソードパッド160が設けられていないと、カソードとして機能する領域の確保が困難となり、PECエッチングを進行させることが困難となる。本実施形態では、カソードパッド160を設けることで、PECエッチングを良好に進行させることができる。また、マスク170がカソードパッド160の上面に開口を有することで、つまり、カソードパッド160の上面の広い領域をカソードとして機能させることで、PECエッチングをより良好に進行させることができる。
【0051】
(化5)に示すように、S2O8
2-からSO4
-*ラジカルを生成する手法としては、UV光321の照射、および、加熱の少なくとも一方を用いることができる。UV光321の照射を用いる場合、S2O8
2-による光吸収を大きくしてSO4
-*ラジカルを効率的に生成させるために、UV光321の波長を、200nm以上310nm未満とすることが好ましい。つまり、UV光321の照射により、エピ層60においてIII族窒化物中にホールを生成させるとともに、エッチング液301においてS2O8
2-からSO4
-*ラジカルを生成させることを、効率的に行う観点からは、UV光321の波長を、200nm以上310nm未満とすることが好ましい。S2O8
2-からSO4
-*ラジカルを生成することを、加熱で行う場合は、UV光321の波長を、(365nm以下で)310nm以上としてもよい。
【0052】
UV光321の照射によりS
2O
8
2-からSO
4
-*ラジカルを生成させる場合、エピ層60の(ウエハ100の)表面61からエッチング液301の上面までの距離(ウエハ配置深さ)L(
図2(b)参照)は、例えば、1mm以上100mm以下とすることが好ましい。距離Lが、例えば1mm未満と過度に短いと、ウエハ100の上方のエッチング液301において生成されるSO
4
-*ラジカルの量が、距離Lの変動により不安定になる可能性がある。なお、距離Lが短いと、液面の高さの制御が難しくなることから、距離Lは、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。また、距離Lが、例えば100mm超と過度に長いと、ウエハ100の上方のエッチング液301において、PECエッチングに寄与しない、無駄に多くのSO
4
-*ラジカルが生成されるため、エッチング液301の利用効率が低下する。
【0053】
エピ層60の(ウエハ100の)表面61は、エッチング液301の表面と平行に(水平に)配置されることが好ましい。また、UV光321は、エピ層60の表面61に、垂直に照射されることが好ましい。ウエハ100の面内に多数の素子を形成するために、ウエハ100の全面にわたって、互いに離隔した複数の被エッチング領域62が配置される。エピ層60の表面61を、エッチング液301の表面と平行に配置し、また、エピ層60の表面61に、UV光321を垂直に照射することで、各被エッチング領域62への光照射条件の均一性を高めることができる。
【0054】
エピ層60の表面61へのUV光321の照射は、ウエハ100およびエッチング液301を静止させた状態で、つまり、エッチング液301を撹拌することなく、行われることが好ましい。これにより、各被エッチング領域62に供給されるSO4
-*ラジカルの供給状態が、エッチング液301の動きに起因してばらつくことを抑制でき、SO4
-*ラジカルを、各被エッチング領域62へ拡散により適切に供給することができる。これにより、各被エッチング領域62における、エッチング条件の均一性(離隔した被エッチング領域62間での均一性)、および、エッチングの平坦性を高めることができる。なお、必要に応じ、エピ層60の表面61へのUV光321の照射の前に、エッチング液301の静止を待つ静止待ち工程を設けてもよい。
【0055】
本願発明者は、PECエッチングに用いるマスクの縁が導電性材料で構成されていると、PECエッチングで形成される凹部の縁の形状が、マスクの縁に沿わない乱れた形状となりやすく、マスクの縁が非導電性材料で構成されていることで、PECエッチングで形成される凹部の縁の形状を、マスクの縁に沿った形状に制御しやすい、という知見を得ている。したがって、被エッチング領域62を画定するマスク端は(つまり、凹部110の縁は)、非導電性材料で構成されたマスク170により画定されることが好ましい。カソードパッド160は、(平面視で)凹部110の縁から離れた位置に(凹部110の縁を画定しない位置に)配置されることが好ましい。凹部110の縁の形状を良好に制御する観点から、(平面視での)マスク170の縁と、カソードパッド160の縁と、の距離D
OFF(
図2(a)参照)は、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
【0056】
PECエッチングは、例示したGaN以外のIII族窒化物に対しても行うことができる。III族窒化物が含有するIII族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)のうちの少なくとも1つであってよい。III族窒化物におけるAl成分またはIn成分に対するPECエッチングの考え方は、Ga成分について(化1)および(化2)、または、(化7)を参照して説明した考え方と同様である。つまり、UV光321の照射によりホールを生成させることで、Alの酸化物またはInの酸化物を生成させ、これらの酸化物をアルカリまたは酸に溶解させることで、PECエッチングを行うことができる。UV光321の(光321の)波長は、エッチングの対象とするIII族窒化物の組成に応じて、適宜変更されてよい。GaNのPECエッチングを基準として、Alを含有する場合は、より短波長の光を用いればよく、Inを含有する場合は、より長波長の光も利用可能となる。つまり、加工したいIII族窒化物の組成に応じて、当該III族窒化物がPECエッチングされるような波長の光を、適宜選択して用いることができる。
【0057】
本実施形態のエッチング対象物150において、アノードである被エッチング領域62(凹部110の底面111)と、カソードであるカソードパッド160とは、導電性である、キャップ層50およびn型層42を介して、面内方向に導通することができる。被エッチング領域62とカソードパッド160とが、キャップ層50およびn型層42を介して導通することで、キャップ層50がPECエッチングされ、キャップ層50の全厚さがエッチングされた後、さらに、n型層42を介して導通することで、n型層42がPECエッチングされる。
【0058】
PECエッチングが進行して、n型層42が全厚さエッチングされた時点で、被エッチング領域62(凹部110の底面111)とカソードパッド160との間の導通が妨げられることにより、凹部110の下方に、非導電性のi型層41が残った状態で、PECエッチングが停止する。このように、本実施形態では、i型層41をエッチングストッパとすることで、PECエッチングを自動的に停止させることにより、凹部110の形成を終了させることができる。
【0059】
図3(a)は、PECエッチング工程が終了した状態を示す、エッチング対象物150の概略断面図である。上述のように、エピ層60の表面61に、転位が所定の密度で分布している。転位においては、ホールのライフタイムが短いため、PECエッチングが生じにくい。このため、凹部110の底面111の、転位に対応する位置には、PECエッチングの溶け残り部分として、凸部182が形成されやすい。つまり、PECエッチング工程では、凹部110の底面111において、(転位が無くPECエッチングが進行した部分である)平坦部181と、平坦部181に比べてPECエッチングがされにくいことで平坦部181に対して隆起した凸部182と、が形成される。凸部182は、PECエッチングの溶け残り部分であるため、その高さは、最大でも凹部110の深さ以下である。
【0060】
PECエッチング工程で形成された凹部110には、このように、PECエッチングの溶け残り部分である凸部182が形成されやすい。そこで、PECエッチング工程の後に、好ましくは、凸部182を除去することで底面111の平坦性を向上させるためのエッチング(以下、平坦化エッチング工程ともいう)を行う。平坦化エッチング工程では、具体的には、平坦化エッチングにより凸部182を(平坦部181に対して選択的に)エッチングすることで、凸部182を低くする。
【0061】
平坦化エッチングとしては、例えば、酸性またはアルカリ性のエッチング液を用いる(PECエッチングではない)ウェットエッチングが用いられる。平坦化エッチングのエッチング液としては、例えば、塩酸(HCl)水溶液、塩酸(HCl)と過酸化水素(H2O2)との混合水溶液(塩酸過水)、硫酸(H2SO4)と過酸化水素(H2O2)との混合水溶液(ピラニア溶液)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液、フッ化水素水溶液(フッ酸)、水酸化カリウム(KOH)水溶液、等が用いられる。
【0062】
SiC基板、サファイア基板、Si基板等の、異種基板である基板10上にヘテロエピタキシャル成長されたエピ層60は、例えば1×108/cm2以上の、高い転位密度を有する。よって、異種基板である基板10を用いる場合、PECエッチング工程のPECエッチングで凸部182が形成されやすいため、平坦化エッチング工程により底面111の平坦化を行うことが、特に好ましい。
【0063】
図3(b)は、平坦化エッチング工程を示す、平坦化エッチング装置400の概略断面図である。平坦化エッチング装置400は、エッチング液401を収容する容器410を有する。平坦化エッチング工程では、凹部110がエッチング液401と接触するように、エッチング対象物150をエッチング液401に浸漬することで、凸部182をエッチングする。これにより、凹部110の底面111が平坦化される。平坦化エッチングは、PECエッチングではない。このため、平坦化エッチング工程では、エピ層60の表面61にUV光を照射しない(エピ層60の表面61へのUV光の照射を要しない)。
【0064】
GaN等のIII族窒化物のc面(+c面)をエッチングすることは、難しいことが知られているが、PECエッチングは、III族窒化物を結晶方位によらずエッチングできるため、c面であってもエッチングできる。PECエッチング工程のPECエッチングは、c面であるエピ層60の表面61の上方からUV光321を照射しながら行われることで、エピ層60を構成するIII族窒化物を、表面61に対して垂直な方向から(つまり、エピ層60の厚さ方向に)エッチングする。
【0065】
これに対し、平坦化エッチングは、例えば、塩酸過水等のエッチング液を用いた、PECエッチングでない通常のウェットエッチングとして行われる。通常のウェットエッチングでは、III族窒化物のc面はエッチングが困難であるため、凹部110の底面111のうち、c面で構成されている平坦部181はエッチングされない。しかし、底面111の凸部182は、c面以外の結晶面を含んで構成されているため、通常のエッチングによりエッチングすることができる。したがって、平坦化エッチングによって、凹部110の底面111の平坦部181に対し、凸部182を選択的にエッチングすることができる。平坦化エッチングは、c面以外の結晶面、つまりc面と交差する結晶面をエッチングするものであり、凸部182を、c面に対して垂直ではない方向から(つまり、エピ層60の厚さ方向と交差する方向(横方向)に)エッチングする。
【0066】
平坦化エッチングにより凸部182をエッチングすることで、凸部182を低くして底面111を平坦に近づけること、つまり、凸部182を、平坦部181を構成するc面に近づけること、ができる。凸部182がエッチングされてc面に近づくと、エッチングが進行しにくくなる。このため、本実施形態の平坦化エッチング工程では、凸部182が過剰にエッチングされることが抑制され、底面111がほぼ平坦となった状態で、平坦化エッチングを終了させることが容易である。
【0067】
なお、PECエッチング工程で用いたマスク170は、平坦化エッチング工程で除去されてもよいし、マスク170を除去するマスク除去工程を別途設けることで、除去されてもよい。
【0068】
図4は、平坦化エッチング工程が終了した状態を示す、エッチング対象物150の概略断面図である。凸部182が除去されることで、凹部110の底面111が平坦化されている。
【0069】
平坦化エッチング工程が終了した後、HEMT200を完成させるための、その他の工程を行う(
図1(a)参照)。その他の工程として、凹部110の底面111の上にゲート電極212を形成する工程、素子分離領域230を形成する工程、保護膜220を形成する工程、等を行う。このようにして、HEMT200が製造される。
【0070】
なお、素子分離領域230(本例では素子分離溝)が形成されていない状態のエッチング対象物150(
図2(a)参照)を、つまり、PECエッチング工程の後に素子分離溝を形成する態様を、例示したが、PECエッチング工程の前に素子分離溝を形成することで、素子分離領域230が形成された状態のエッチング対象物150を用いてもよい。
【0071】
図4を参照して、HEMT200が有する凹部110の特徴について、例示的にさらに説明する。上述のように、本実施形態による、凹部110を形成するPECエッチングでは、i型層41をエッチングストッパとしている。このため、典型的には(理想的には)、n型層42の全厚さが除去されて、凹部110の下方に、i型層41の全厚さが配置されている態様で、凹部110が形成される。
【0072】
ただし、実際のPECエッチングにおいては、誤差が生じ得るため、凹部110の下方に配置された障壁層40の厚さが、i型層41の全厚さと厳密に一致していなくともよく、凹部110の底面111は、i型層41の上面近傍に配置される。
【0073】
例えば、凹部110の底面111は、i型層41の上面に達していてよい。このような場合は、n型層42の厚さの全部が除去されることで、底面111に、i型層41が露出した態様の凹部110が、形成される。底面111は、i型層41の上面の近傍で、当該上面以下の位置に配置される。より具体的には、i型層41の上面から凹部110の底面111までの厚さ(深さ)TL(
図4参照)は、(0nm以上であって、)好ましくは1nm以下である。
図4に、i型層41の上面より下方に位置する場合の底面111を、破線で示す。
【0074】
また例えば、凹部110の底面111は、i型層41の上面に達していなくてよい。このような場合は、n型層42の厚さの一部が除去されることで、底面111に、n型層42が露出した態様の凹部110が、形成される。底面111は、i型層41の上面の近傍で、当該上面よりも上の位置に配置される。より具体的には、凹部110の底面111からi型層41の上面までの厚さ(深さ)TU(
図4参照)は、(0nm超であって、)好ましくは1nm以下である。
図4に、i型層41の上面より上方に位置する場合の底面111を、破線で示す。
【0075】
また、PECエッチング(および平坦化エッチング)により形成された凹部110の底面111は、高い平坦性を有する。例えば、凹部110の底面111の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡(AFM)で観察することにより測定される、底面111の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは0.4nm以下、より好ましくは0.3nm以下である。
【0076】
また例えば、エピ層60の表面61の1000nm角の領域を、AFMで観察することにより測定される、表面61の算術平均粗さ(Ra)と、凹部110の底面111の1000nm角の領域を、AFMで観察することにより測定される、底面111の算術平均粗さ(Ra)と、の差(当該差の絶対値)は、好ましくは0.2nm以下であり、より好ましくは0.1nm以下である。
【0077】
また例えば、障壁層40の上面と直交し、(平面視における凹部110の縁と直交するように、)凹部110の底面111と交差する断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した場合に、当該断面内の、底面111に沿った長さ30nm以上の範囲において、底面111の高さの(凹部110の下方に配置されている障壁層40の厚さの)最大値と最小値との差(最大値-最小値)は、好ましくは0.2nm以下、より好ましくは0.1nm以下である。
【0078】
また、PECエッチング(および平坦化エッチング)により形成された凹部110の側面112は、上方側が凹部110の底面111の(平面視における)外側に傾斜したテーパ形状を有する。凹部110の側面112の、凹部110の底面111の法線方向に対する傾斜角度θ(
図4参照)は、例えば30°以上であり、また例えば40°以上である。傾斜角度θは、例えば、凹部110の底面111の高さから、凹部110の縁(エピ層60の表面61)の高さまでの、側面112の平均角度として規定される。
【0079】
HEMTにゲートリセスとなる凹部を形成する従来の方法として、ドライエッチングが知られている。しかし、当該凹部を形成するドライエッチングに起因して、ゲートリセスの底面を構成するIII族窒化物の結晶性が低下し、また、ドライエッチングに用いられるハロゲン元素が当該凹部の底面に残留する。このような、結晶性低下、および、ハロゲン元素の残留は、HEMTの性能低下を招来する。
【0080】
本実施形態による凹部110は、ウェットエッチングであるPECエッチング(および平坦化エッチング)で形成されている。このため、凹部110の底面111における、エッチングに起因する結晶性低下は、ドライエッチングを用いた場合に想定される結晶性低下と比べて、抑制されている。これにより、凹部110の底面111におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、(エッチングが施されていない領域である)エピ層60の表面61におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、好ましくは90%以上の強度を有する。
【0081】
また、本実施形態において、凹部110の底面111における、ハロゲン元素の残留は、ドライエッチングを用いた場合に想定されるハロゲン元素の残留と比べて、抑制されている。凹部110を形成するウェットエッチングであるPECエッチング(および平坦化エッチング)に起因するハロゲン元素の濃度は、例えば、2次イオン質量分析(SIMS)測定において、好ましくは検出下限以下になると考えられる。凹部110の底面111におけるハロゲン元素(例えば塩素(Cl))の濃度は、好ましくは1×1015/cm3未満であり、より好ましくは5×1014/cm3未満であり、さらに好ましくは2×1014/cm3未満である。
【0082】
このように、本実施形態によるHEMT200では、凹部110を形成するエッチングに起因する、結晶性の低下、および、ハロゲン元素の残留、が抑制されている。このため、凹部110を形成するエッチングに起因する、HEMT200の性能低下を抑制することができる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、III族窒化物を用いて形成された半導体装置(HEMT)200における凹部(ゲートリセス)110を、PECエッチングにより形成するための好適な技術が提供される。より具体的には、障壁層40をi型層41とn型層42とを含む積層構造で構成し、i型層41をエッチングストッパとするPECエッチングを行うことで、凹部110を形成することができる。
【0084】
<実験例>
次に、PECエッチングおよび平坦化エッチングに係る実験例について説明する。本実験例では、以下のような基板およびエピ層を有するウエハを用いた。基板としては、半絶縁性のSiC基板を用いた。エピ層としては、AlNで構成された核生成層、GaNで構成され厚さ0.75μmのチャネル層、AlGaNで構成され厚さ24nmの障壁層、および、GaNで構成され厚さ5nmのキャップ層の積層構造を形成した。キャップ層の上面から、障壁層の下面までの厚さ(深さ)は、29nmとなる。障壁層としては、Al組成0.22で厚さが5nmのi型AlGaNで構成された下層(i型層)と、Al組成0.22で厚さが19nmのn型AlGaNで構成された上層(n型層)と、の積層構造を形成した。当該上層(n型層)に、n型不純物として、Siを1×1018/cm3の濃度で添加した。
【0085】
エピ層に、PECエッチングにより凹部を形成した。PECエッチングは、エッチング液として0.025MのK2S2O8水溶液を用い、波長260nmのUV光を3.8mW/cm2の強度で照射しながら、120分間行った。ウエハ配置深さLは5mmとした。マスクは酸化シリコンで形成し、カソードパッドはチタンで形成した。
【0086】
PECエッチングの後、平坦化エッチングにより凹部の底を平坦化した。平坦化エッチングは、エッチング液として塩酸過水(例えば、30%のHClと30%のH2O2とを1:1で混ぜたもの)を用い、10分間行った。
【0087】
図5(a)は、PECエッチングのエッチング時間とエッチング深さとの関係を示すグラフである。横軸がエッチング時間を示し、縦軸がエッチング深さを示す。エッチング開始から40分程度までは、エッチング時間に比例してエッチング深さが深くなっている。エッチング開始から40分程度経過した後は、エッチング深さが一定となっている。つまり、エッチング開始から40分程度で、PECエッチングが自動的に停止したことがわかる。
【0088】
PECエッチングが停止した深さ(24nm程度)と、障壁層(「AlGaN」と示す)の下面の深さ(29nm)と、の差は、5nm程度である。このことから、障壁層の下層(「i-AlGaN」と示す)がエッチングストッパとなり、障壁層の上層(「n-AlGaN」と示す)の概ね全厚さが除去された時点で、障壁層の下層の上面近傍において、PECエッチングが停止していると理解される。
【0089】
PECエッチングが施される前のエピ層の表面(以下、エピ層表面という)、PECエッチングにより形成され平坦化エッチングが施されていない凹部の底面(以下、未平坦化底面という)、および、PECエッチング後に平坦化エッチングが施された凹部の底面(以下、平坦化底面という)、のそれぞれに対し、1000nm角の領域を、AFMで観察した。
【0090】
図5(b)は、エピ層表面のAFM像である。エピ層表面の、AFM測定で得られた算術平均粗さ(Ra)は、0.14nmである。エピ層は高い結晶性を有することが望まれるため、エピ層表面のRaは、好ましくは0.4nm以下であり、より好ましくは0.3nm以下であり、さらに好ましくは0.2nm以下である。
【0091】
図6(a)は、未平坦化底面のAFM像である。未平坦化底面には、転位に対応する位置に、凸部が観察される。未平坦化底面に分布する複数の凸部の高さが、一定ではない傾向が見られる。最大の凸部の高さは、10nmを超えている。
【0092】
未平坦化底面の、AFM測定で得られたRaは、0.22nmである。エピ層表面のRaが例えば0.14nmであるのに対し、未平坦化底面のRaは例えば0.22nmである。未平坦化底面は、凸部を有しているものの、そのRaは、エピ層表面のRaに対し例えば2倍以下であり、それほど増加していない。この理由は、未平坦化底面の大部分の面積を占める平坦部が高い平坦性を有するように、つまり、エピ層表面が有していた高い平坦性を平坦部においてほぼ損ねないように、PECエッチングが行われたためといえる。未平坦化底面のRaは、好ましくは0.4nm以下であり、より好ましくは0.3nm以下である。
【0093】
図6(b)は、平坦化底面のAFM像である。平坦化底面では、未平坦化底面で観察される凸部が明確には観察されず、凹部の底面が平坦化されていることがわかる。平坦化底面には、凸部が形成されていたと推測される位置、つまり、転位に対応する位置が、明るい領域として、平坦部とは区別されて観察される。
【0094】
平坦化底面の、AFM測定で得られたRaは、0.24nmである。未平坦化底面のRaが例えば0.22nmであるのに対し、平坦化底面のRaが例えば0.24nmとやや大きくなっているが、このような差は、未平坦化底面の測定領域と、平坦化底面の測定領域とが、異なることに起因する誤差と考えられ、未平坦化底面のRaと、平坦化底面のRaとは、同程度と考えられる。未平坦化底面と、平坦化底面とは、Raのみで明確に区別することは難しいといえる。平坦化底面のAFM像から、平坦化エッチングにより、平坦部の平坦性を低下させずに、凸部を選択的にエッチングできていることがわかる。平坦化底面のRaは、好ましくは0.4nm以下であり、より好ましくは0.3nm以下である。
【0095】
最終的に得られる凹部の底面である平坦化底面は、このように高い平坦性を有する。エピ層表面のRaと、平坦化底面のRa(あるいは未平坦化平面のRa)と、の差は(当該差の絶対値は)、(0nm以上であって、)好ましくは0.2nm以下であり、より好ましくは0.1nm以下である。
【0096】
図7は、凹部が形成されたエピ層を、TEMで観察した断面像である。当該断面像は、障壁層の上面と直交し、(平面視における凹部の縁と直交するように、)凹部の底面と交差する断面像である。
図7において、チャネル層を「GaN」、障壁層の下層(i型層)を「i-AlGaN」、障壁層の上層(n型層)を「n-AlGaN」、キャップ層を「GaN cap」と示している。
図7の左側部分が、凹部の側面部分の断面像を示し、
図7の右側部分が、凹部の底面部分の断面像を示す。
【0097】
凹部の底面の平坦性は、TEMによる観察からも確認される。底面部分の断面像は、底面の面内方向について長さ35nm程度の(30nm以上の)範囲を示す。凹部の下方に配置されている障壁層の厚さ(障壁層の残し厚)は、5か所測定して4か所が4.9nm、1か所が4.8nmである。このことより、当該範囲における障壁層の残し厚の最大値と最小値との差、換言すると、当該範囲における凹部の底面(障壁層の残し厚部分の上面)の高さの最大値と最小値との差は、0.1nmと小さく、障壁層の残し厚の高い均一性、つまり、凹部の底面の高い平坦性が得られていることがわかる。このように、凹部の底面部分のTEMによる断面像の、底面に沿った長さ30nm以上の範囲において、凹部の底面の高さの、または、障壁層の残し厚の、最大値と最小値との差(最大値-最小値)は、0.2nm以下であることが好ましく、0.1nm以下であることがより好ましい。
【0098】
側面部分の断面像より、凹部の側面は、上方側が凹部の底面の(平面視における)外側に傾斜したテーパ形状を有することがわかる。側面の傾斜角度を、凹部の底面の法線方向からの傾斜角度で示す(
図4参照)。本例では、側面の上方部分での傾斜角度と比べて、側面の下方部分での傾斜角度が大きくなるような(90°に近づくような)、傾斜角度の変化が観察される。側面の上方部分の傾斜角度は、45°程度であり、凹部の底面の高さから凹部の縁の高さまでの傾斜角度を平均した、側面の全体的な傾斜角度は、45°以上といえる。凹部の側面のテーパ形状の1つの特徴としては、傾斜角度が、例えば30°以上、また例えば40°以上であることが挙げられる。
【0099】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
【0100】
例えば、上述の実施形態では、カソードパッド160を、HEMT200のソース電極211およびドレイン電極213の少なくとも一方として用いる態様を例示したが、カソードパッド160は、HEMT200のソース電極211またはドレイン電極213とは別の導電性部材であってもよい。
【0101】
また例えば、上述の実施形態では、平坦化エッチングとして、酸性またはアルカリ性のエッチング液を用いる(PECエッチングではない)ウェットエッチングを用いる態様、つまり、凸部182を化学的にエッチングする態様を例示したが、平坦化エッチングは、底面111が平坦化されるように凸部182がエッチングされれば、その機構は特に限定されない。そのため、平坦化エッチングは、化学的なエッチング以外の他の機構によるエッチングで行ってもよい。複数の機構によるエッチングを組み合わせることで、平坦化エッチングをより効果的に行ってもよい。
【0102】
平坦化エッチングは、例えば、凸部182を機械的に除去することで行われてもよく、機械的な平坦化エッチングとしては、例えば、バブリング洗浄を用いてもよく、また例えば、スクラブ洗浄を用いてもよい。バブリング洗浄のエッチング液(洗浄液)としては、例えば、上述の実施形態で例示した塩酸過水が挙げられる。塩酸過水で凸部182をエッチングする際、気泡が激しく発生する。このため、気泡発生による衝撃で、凸部182を破壊し除去することができる。塩酸過水は、凸部182を化学的かつ機械的にエッチングするエッチング液といえる。なお、平坦化エッチングを行う際に、エッチング液401に流れ(動き)を生成させること、および、エッチング液401に振動(例えば超音波振動)を与えること、の少なくとも一方を行うことで、凸部182を機械的にエッチングする作用を高めてもよい。
【0103】
また例えば、上述の実施形態では、凹部110を形成するPECエッチングを終了させた後に、凹部110の底面111を平坦化する平坦化エッチングを行う態様を例示したが、凹部110を形成するPECエッチングを終了させる前に、つまり、凹部110を途中の深さまで形成した段階で、平坦化エッチングを実施し、その後再びPECエッチングを実施して凹部110をさらに深くしてもよい。つまり、PECエッチング工程と、平坦化エッチング工程と、を交互に繰り返してもよく、平坦化エッチング工程は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0104】
なお、上述の実施形態では、HEMT200の障壁層40にPECエッチングにより凹部(ゲートリセス)110を形成する技術を例示したが、当該技術は、半導体装置に限らない構造体を形成するための技術として、利用されてもよい。つまり、当該技術は、上述の障壁層40と同様な、下層(i型層)と上層(n型層)とを含む積層構造に、下層(i型層)をエッチングストッパとするPECエッチングを施すことで、当該積層構造に凹部が形成された構造体、を得るための技術として、広く利用されてよい。なお、当該「凹部」とは、当該積層構造において、PECエッチングが施された領域を意味する。
【0105】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0106】
(付記1)
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された(好ましくはi型の窒化アルミニウムガリウムで構成された)第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された(n型の)窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、半導体装置。
【0107】
(付記2)
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部が除去されることで形成されている、付記1に記載の半導体装置。
【0108】
(付記3)
前記第1層の上面から前記凹部の底面までの厚さは、1nm以下である、付記2に記載の半導体装置。
【0109】
(付記4)
前記凹部は、前記第2層の厚さの一部が除去されることで形成され、
前記凹部の底面から前記第1層の上面までの厚さは、1nm以下である、付記1に記載の半導体装置。
【0110】
(付記5)
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)が、好ましくは0.4nm以下、より好ましくは0.3nm以下である、付記1~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0111】
(付記6)
前記III族窒化物層の表面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記表面の算術平均粗さ(Ra)と、
前記凹部の底面の1000nm角の領域を、原子間力顕微鏡で観察することにより測定される、前記底面の算術平均粗さ(Ra)と、
の差が、好ましくは0.2nm以下であり、より好ましくは0.1nm以下である、付記1~5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0112】
(付記7)
前記障壁層の上面と直交し、前記凹部の底面と交差する断面を、透過型電子顕微鏡で観察した場合に、前記断面内の、前記底面に沿った長さ30nm以上の範囲において、前記凹部の底面の高さの(前記凹部の下方に配置されている前記障壁層の厚さの)最大値と最小値との差が、好ましくは0.2nm以下、より好ましくは0.1nm以下である、付記1~6のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0113】
(付記8)
前記凹部の側面は、上方側が前記凹部の底面の外側に傾斜したテーパ形状を有する、付記1~7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0114】
(付記9)
前記凹部の側面の、前記凹部の底面の法線方向に対する傾斜角度は、30°以上(または40°以上)である、付記8に記載の半導体装置。
【0115】
(付記10)
前記凹部の底面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度が、前記III族窒化物層の表面におけるフォトルミネッセンス発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する、付記1~9のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0116】
(付記11)
前記凹部の底面におけるハロゲン元素の濃度が、好ましくは1×1015/cm3未満、より好ましくは5×1014/cm3未満、さらに好ましくは2×1014/cm3未満である、付記1~10のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0117】
(付記12)
前記第2層のn型不純物濃度は、1×1017/cm3以上1×1019/cm3未満である付記1~11のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0118】
(付記13)
前記第1層を構成するAlxGa1-xNにおけるアルミニウム組成xは、0.1≦x≦0.3であり、前記第2層を構成するAlyGa1-yNにおけるアルミニウム組成yは、0.1≦x≦0.3である、付記1~12のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0119】
(付記14)
前記第1層を構成する窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム組成と、前記第2層を構成する窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム組成と、は同等である、付記1~13のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0120】
(付記15)
前記第1層の厚さは、2nm以上10nm以下である、付記1~14のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0121】
(付記16)
前記第2層の厚さは、5nm以上90nm以下である、付記1~15のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0122】
(付記17)
ソース電極と、ゲート電極と、ドレイン電極と、を有し、
前記ゲート電極は、前記凹部の底面上に形成されている、付記1~16のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0123】
(付記18)
基板と、
前記基板上に形成され、III族窒化物で構成されたIII族窒化物層と、
前記III族窒化物層に形成された凹部と、
を有し、
前記III族窒化物層は、
チャネル層と、
前記チャネル層上に形成され、前記チャネル層に2次元電子ガスを形成する障壁層と、
を有し、
前記障壁層は、
窒化アルミニウムガリウムで構成された(好ましくはi型の窒化アルミニウムガリウムで構成された)第1層と、
前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された(n型の)窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、半導体装置、の製造方法であって、
前記第1層をエッチングストッパとする光電気化学エッチングにより、前記第2層をエッチングすることで、前記凹部を形成する、半導体装置の製造方法。
【0124】
(付記19)
前記光電気化学エッチングの溶け残り部分である凸部を除去する平坦化エッチングを行う、付記18に記載の半導体装置の製造方法。
【0125】
(付記20)
窒化アルミニウムガリウムで構成された(好ましくはi型の窒化アルミニウムガリウムで構成された)第1層、および、前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された(n型の)窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層、を含む積層構造と、
前記積層構造に形成された凹部と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、構造体。
【0126】
(付記21)
窒化アルミニウムガリウムで構成された(好ましくはi型の窒化アルミニウムガリウムで構成された)第1層、および、前記第1層上に形成され、n型不純物が添加された(n型の)窒化アルミニウムガリウムで構成された第2層、を含む積層構造と、
前記積層構造に形成された凹部と、
を有し、
前記凹部は、前記第2層の厚さの全部または一部が除去されることで形成され、前記凹部の下方に、前記第1層の厚さの少なくとも一部が配置されている、構造体、の製造方法であって、
前記第1層をエッチングストッパとする光電気化学エッチングにより、前記第2層をエッチングすることで、前記凹部を形成する、構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0127】
10…基板、20…核生成層、30…チャネル層、40…障壁層、41…(障壁層の)下層(i型層)、42…(障壁層の)上層(n型層)、50…キャップ層、60…エピ層、61…(エピ層の)表面、62…被エッチング領域、100…ウエハ、110…凹部、111…(凹部の)底面、112…(凹部の)側面、150…エッチング対象物、160…カソードパッド、170…マスク、181…(凹部の底面の)平坦部、182…(凹部の底面の)凸部、200…半導体装置(HEMT)、211…ソース電極、212…ゲート電極、213…ドレイン電極、220…保護膜、230…素子分離領域、300…PECエッチング装置、301…エッチング液、310…容器、320…光源、321…光、400…平坦化エッチング装置、401…エッチング液、410…容器