(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】結晶積層体、半導体デバイスおよび半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/265 20060101AFI20220608BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220608BHJP
C30B 31/22 20060101ALI20220608BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220608BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20220608BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20220608BHJP
【FI】
H01L21/265 601A
C30B29/38 D
C30B31/22
C23C16/34
H01L21/20
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2017105756
(22)【出願日】2017-05-29
【審査請求日】2020-02-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業「高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証」に係る委託業務、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 丈洋
(72)【発明者】
【氏名】三島 友義
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-100801(JP,A)
【文献】特開2010-111576(JP,A)
【文献】特開2011-230955(JP,A)
【文献】特開2009-246033(JP,A)
【文献】特表2014-527709(JP,A)
【文献】〇林 賢太郎,柘植 博史,太田 博,堀切 文正,成田 好伸,吉田 丈洋,中村 徹,三島 友義,p<SP>+</SP>薄層を用いた自立GaN基板上JBSダイオード,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] The 64th JSAP Spring Meeting, 2017 [Extended Abstracts],公益社団法人応用物理学会
【文献】A. S. Barker,Infrared Lattice Vibrations and Free-ElectronDispersion in GaN,PHYSICAL REVIEW B,1973年01月15日,Volume 7 ,Number 2,p.743-750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
C30B 29/38
C30B 31/22
C23C 16/34
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In
xAl
yGa
1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、
前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなり、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を含む結晶層と、を備え、
前記結晶基板が含有する
BおよびFeの
それぞれの濃度は、1×10
15at・cm
-3未満であり、
2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板による前記光の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm
-1以上4.6cm
-1以下の範囲内に収まるよう構成されている結晶積層体。
【請求項2】
前記結晶基板中における真性キャリアの濃度が、少なくとも常温以上1250℃以下の温度条件下において、1×10
17cm
-3未満である請求項1に記載の結晶積層体。
【請求項3】
前記n型不純物が添加されることで前記結晶基板中に発生する自由電子の濃度が、常温の温度条件下において、1×10
18cm
-3以上2.5×10
18cm
-3以下である請求項1または2に記載の結晶積層体。
【請求項4】
前記結晶基板が含有する前記n型不純物の濃度が、1×10
18at・cm
-3以上2.5×10
18at・cm
-3以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶積層体。
【請求項5】
前記結晶基板が含有するOの濃度が1×10
17at・cm
-3以下であり、前記結晶基板が含有するSiおよびGeの合計濃度が1×10
18at・cm
-3以上2.5×10
18at・cm
-3以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶積層体。
【請求項6】
In
xAl
yGa
1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、
前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長することでなり、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を含む結晶層と、を備え、
前記結晶基板が含有する
BおよびFeの
それぞれの濃度は、1×10
15at・cm
-3未満であり、
2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm
-1以上4.6cm
-1以下の範囲内に収まるよう構成されている半導体デバイス。
【請求項7】
In
xAl
yGa
1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなる結晶層と、を備え、2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm
-1以上4.6cm
-1以下である結晶積層体を用意する工程と、
C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を前記結晶層の主面に対してイオン注入する工程と、
前記結晶積層体に対して赤外線を照射して前記結晶積層体を加熱する工程と、
を行う工程を有する半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記結晶積層体を加熱する工程は、前記結晶積層体の被支持面を3以上の位置で支持し、前記結晶積層体の前記被支持面側に存在する支持板と、前記結晶積層体と、を互いに離間させた状態で行う請求項7に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶積層体、半導体デバイスおよび半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子や高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する際、その過程において、III族窒化物の単結晶からなる結晶基板と、この基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなる結晶層と、を備える結晶積層体が用いられる場合がある。結晶層に対してMg等の不純物をイオン注入した後、結晶層に生じた結晶ダメージを回復させたり、イオン注入した不純物を活性化させたりする目的で、アニール処理(活性化アニール)が行われる場合がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、イオン注入後のアニール処理を短時間かつ正確に行うことが可能となる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、
前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなり、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物がイオン注入される結晶層と、を備え、
2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板による前記光の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm-1以上4.6cm-1以下の範囲内に収まるよう構成されている結晶積層体、および、それに関連する技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、イオン注入後のアニール処理を短時間かつ正確に行うことができ、最終的に製造される半導体デバイスの特性を高めたり、製造歩留まりを向上させたりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)はGaN基板10と結晶層11とが積層されてなる結晶積層体20の平面図を、(b)はその断面図を示す図である。
【
図3】(a)は種結晶基板5上にGaN結晶膜6を厚く成長させた様子を示す図であり、(b)は厚く成長させたGaN結晶膜6をスライスすることで複数のGaN基板10を取得した様子を示す図である。
【
図4】(a)はGaN基板10の主面上に結晶層11を成長させて結晶積層体20を得た状態を、(b)は結晶層11の主面上にマスクパターン11mを形成した後、結晶層11の一部であるイオン注入領域11pに対してイオン注入を行う様子を、(c)はイオン注入後の結晶層11の主面上に保護膜12を形成した様子を、(d)は結晶積層体20の裏面側を3点で保持した状態で結晶積層体20に対して赤外線を照射して結晶積層体20を加熱する様子を、(e)はアニール処理後の結晶積層体20から保護膜12を除去した様子をそれぞれ示す図である。
【
図5】GaN結晶による光の吸収係数と、GaN結晶中に存在する自由キャリアの濃度と、の関係を示す図である。
【
図6】自由電子濃度に対する、波長2000nmでの吸収係数の関係を示す図である。
【
図7】真性半導体として構成されたノンドープGaN結晶の温度と、GaN結晶中に発生する真性キャリアの濃度と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の一実施形態>
(1)結晶積層体20の構成
本実施形態における結晶積層体(積層体とも称する)20は、GaNの単結晶(GaN結晶、或いは、GaN単結晶とも称する)からなる円板状の結晶基板(基板、或いは、ウエハとも称する)10と、基板10の主面上に形成された結晶層(エピ層とも称する)11と、を備えている。
図1(a)、
図1(b)に、積層体20の平面図、側面図をそれぞれ示す。
【0009】
基板10は、例えば、レーザダイオード、LED、高速トランジスタ等の半導体デバイスを作製する目的で好適に用いられるが、直径Dが25mm未満となると半導体デバイスの生産性が低下しやすくなることから、それ以上の直径とするのが好ましい。また、厚さTが150μm未満となると基板10の機械的強度が低下する等して自立状態の維持が困難となることから、150μm以上の厚さであって、例えば400μm程度の厚さとするのが好ましい。また、基板10の主面における転位密度は、例えば、5×106個/cm2以下である。但し、ここに示した寸法等はあくまで一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。基板10は、例えば、GaN単結晶からなる種結晶基板上に、ハイドライド気相成長法(以下、HVPE法)を用いてGaN単結晶をエピタキシャル成長させ、この厚く成長させた結晶インゴットをスライスして自立化させる工程を経ることにより取得することができる。また、基板10は、サファイヤ基板等の異種基板上に設けられたGaN層を下地層として用い、ナノマスク等を介してGaN層を厚く成長させた結晶インゴットを異種基板から剥離させ、この結晶インゴットから、異種基板側のファセット成長した結晶を除去することによって取得することもできる。
【0010】
エピ層11は、基板10の主面上に、GaNの単結晶をエピタキシャル成長させることによって形成することができる。エピ層11の厚さは、例えば3μm以上30μm以下の範囲内の所定の厚さとすることができる。エピ層11中のn型不純物濃度は、例えば、基板10中のn型不純物濃度よりも低く、例えば、1.0×1015at・cm-3以上5.0×1016at・cm-3以下の範囲内の所定の濃度とすることができる。但し、ここに示した寸法等はあくまで一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。エピ層11は、基板10の主面上に、例えば、有機金属気相成長法(以下、MOVPE法)やHVPE法といった公知の気相成長法や、Naフラックス法やアモノサーマル法といった公知の液相成長法を用いて成長させることができる。なお、後述するように、エピ層11のうち少なくとも一部の領域には、炭素(C)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)およびアンチモン(Sb)からなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物が、イオン注入されることになる。本明細書では、エピ層11のうちイオン注入が行われ得る予定領域、或いは、イオン注入が既に行われた領域を総称して、イオン注入領域と称することにする。なお、イオン注入領域の形状制御や導電特性の制御の観点からは、p型不純物は、MgおよびZnの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0011】
基板10は、温度が約1200℃であるときの黒体輻射の温度に相当する2000nmの波長の光(赤外線)を照射したときの光の吸収係数が、常温、すなわち20~30℃の範囲内の温度条件下において、例えば、1.8cm-1以上4.6cm-1以下、好ましくは2.2cm-1以上3.7cm-1以下の範囲内に収まるよう構成されている。これは、基板10が、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)および酸素(O)からなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物(ドーパント)を、例えば、1×1018at・cm-3以上2.5×1018at・cm-3以下、好ましくは1.2×1018at・cm-3以上2.0×1018at・cm-3以下の濃度で含有しているためである。n型不純物が添加されることで基板10中に発生する自由電子(自由キャリア)の濃度は、常温の温度条件下において、結晶格子中に組み込まれドナーとして活性化されたn型不純物の濃度と同様の濃度となり、例えば、1×1018cm-3以上2.5×1018cm-3以下、好ましくは1.2×1018cm-3以上2.0×1018cm-3以下の濃度となる。
【0012】
自由キャリアを有するGaN結晶に対し、例えば700~2500nmの波長を有する赤外線を照射すると、自由キャリアによる赤外線の吸収(自由キャリア吸収)が起こり、その運動エネルギーの増加等に伴ってGaN結晶が加熱される。発明者等は、サンプル1~3として、常温の温度条件下における自由キャリア濃度がそれぞれ2.0×10
18cm
-3、1.2×10
18cm
-3、1.0×10
17cm
-3となるようにSi濃度を調整したn型のGaN結晶を作製し、これら各サンプルについて吸収係数の波長依存性を測定した。
図5にその結果を示す。
図5の横軸は照射光の波長(nm)を、縦軸は自由キャリア吸収による吸収係数(cm
-1)をそれぞれ示している。
図5によれば、サンプル1~3のGaN結晶に対して2000nmの波長の光を照射したときの吸収係数は、それぞれ、3.7cm
-1、2.2cm
-1、0.2cm
-1になることが分かった。また、サンプル1~3において、自由電子濃度に対する、波長2000nmでの吸収係数の関係を、
図6に示す。
図6によれば、サンプル1~3のGaN結晶に対して2000nmの波長の光を照射したときの吸収係数は、自由キャリア濃度に比例することが分かった。すなわち、サンプル1,2のようにn型不純物濃度(自由キャリア濃度)が調整されたGaN結晶では、自由キャリア吸収による吸収係数が1.8cm
-1以上4.6cm
-1以下の適正な範囲内に収まり、赤外線照射を行った場合に実用的な昇温レートで加熱できることが分かった。これに対し、サンプル3のようにn型不純物濃度(自由キャリア濃度)が調整されたGaN結晶では、自由キャリア吸収による吸収係数がサンプル1,2のそれらと比較して桁違いに低くなってしまい、赤外線照射を行っても実用的な昇温レートで加熱することは困難であることが分かった。
【0013】
なお、不純物が添加されていない場合でも、真性半導体としてのGaN結晶中には、加熱による励起に伴って、真性キャリア、すなわち、自由電子とホールとの対が発生する。発明者等は、真性半導体としてのGaN結晶中に発生する真性キャリアの濃度についても計算により推定した。
図7にその結果を示す。
図7の横軸はGaN結晶の温度(℃)を、縦軸は真性キャリアの濃度(cm
-3)をそれぞれ示している。
図7によれば、少なくとも1250℃以下の温度条件下において、GaN結晶中に発生する真性キャリアの濃度は1×10
17cm
-3未満であること、すなわち、上述のサンプル3のGaN結晶が有する、n型不純物起因の自由キャリアの濃度よりも小さいことが分かった。
【0014】
これらの測定結果から、n型のGaN結晶による赤外線の吸収係数は、少なくとも常温以上1250℃以下の温度条件下において、n型不純物が添加されることにより発生する自由キャリアのみを考慮すれば充分であり、真性キャリアの影響については考慮の必要がないことが分かる。すなわち、本実施形態の基板10が有する吸収係数は、少なくとも常温以上1250℃以下の温度条件下において、基板10中に添加されるn型不純物の量によってその殆どが決定されることが分かった。言い換えれば、基板10の吸収係数を上述の範囲内に収めるには、基板10中に添加されるn型不純物の量を精緻に制御することが非常に重要であることが分かった。
【0015】
このような要求に応えるため、本実施形態では、n型不純物として用いることのできるSi、GeおよびOのうち、添加量の制御が比較的難しいOの濃度を極限まで低下させつつ、基板10のn型不純物の添加量を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度により決定するようにしている。これにより、基板10中の自由キャリア濃度が、SiおよびGeの合計濃度とほぼ等しくなる。具体的には、基板10に添加するOの濃度を1×1017at・cm-3未満の大きさにまで低減させつつ、基板10に添加するSiおよびGeの合計濃度を1×1018at・cm-3以上2.5×1018at・cm-3以下の大きさとしている。O濃度を上述のように低下させるには、後述する結晶成長手法を採用することが非常に有効であることを、発明者等は確認済みである。この手法によれば、基板10に添加されるOおよび炭素(C)の各濃度を5×1015at・cm-3未満の大きさにまで低減させることができ、さらには、ボロン(B)および鉄(Fe)の各濃度を1×1015at・cm-3未満の大きさにまで低減させることが可能であることが分かっている。また、この方法によれば、これら以外の元素の各濃度も、SIMS測定における検出下限値未満の濃度にまで低減させることが可能であることが分かっている。なお、基板10中の自由キャリア濃度がSiおよびGeの合計濃度とほぼ等しくなることから、SiおよびGe以外の不純物の実際の濃度は、1×1014at・cm-3未満であると考えることもできる。
【0016】
(2)半導体デバイスの製造方法
続いて、半導体デバイスの製造工程の一部として行われるいくつかの工程、すなわち、基板10および積層体20の製造工程、イオン注入工程、アニール工程等について、順に説明する。
【0017】
(HVPE装置の構成)
まず、基板10の製造に用いるHVPE装置200の構成について、
図2を参照しながら詳しく説明する。
【0018】
HVPE装置200は、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、インナーカバー204が設けられているとともに、そのインナーカバー204に囲われる位置に、種結晶基板(以下、種基板ともいう)5が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。
【0019】
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、インナーカバー204内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232b、インナーカバー204内へ後述するドーピングガスを供給するガス供給管232c、インナーカバー204内へパージガスとして窒素(N2)ガスおよび水素(H2)ガスの混合ガス(N2/H2ガス)を供給するガス供給管232d、および、成膜室201内へパージガスとしてのN2ガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232a~232eには、上流側から順に、流量制御器241a~241e、バルブ243a~243eがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。ノズル249cから供給されるドーピングガスは、ドーピング原料ガスとN2/H2ガス等のキャリアガスとの混合ガスである。ドーピングガスについては、ドーピング原料のハロゲン化物ガスの熱分解を抑える目的でHClガスを一緒に流してもよい。ドーピングガスを構成するドーピング原料ガスとしては、例えば、シリコン(Si)ドープの場合であればジクロロシラン(SiH2Cl2)ガスまたはシラン(SiH4)ガス、ゲルマニウム(Ge)ドープの場合であればテトラクロロゲルマン(GeCl4)ガス,ジクロロゲルマン(GeH2Cl2)ガスまたはゲルマン(GeH4)ガスを、それぞれ用いることが考えられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0020】
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、ポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周には、ガス生成器233a内やサセプタ208上の種基板5等を領域別に所望の温度に加熱するゾーンヒータ207a,207bが設けられている。また、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ(ただし不図示)が設けられている。
【0021】
上述したHVPE装置200の構成部材、特に各種ガスの流れを形成するための各部材については、後述するような低不純物濃度の結晶成長を行うことを可能にすべく、例えば、以下に述べるように構成されている。
【0022】
具体的には、
図2中においてハッチング種類により識別可能に示しているように、気密容器203のうち、ゾーンヒータ207a,207bの輻射を受けて結晶成長温度(例えば1000℃以上)に加熱される領域であって、種基板5に供給するガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いることが好ましい。具体的には、高温領域を構成する部材として、例えば、炭化ケイ素(SiC)コートグラファイトからなる部材を用いることが好ましい。その一方で、比較的低温領域では、高純度石英を用いて部材を構成することが好ましい。つまり、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、高純度石英を用いず、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成する。詳しくは、インナーカバー204、サセプタ208、回転軸215、ガス生成器233a、各ノズル249a~249c等を、SiCコートグラファイトで構成する。なお、気密容器203を構成する炉心管は石英とするしかないので、成膜室201内には、サセプタ208やガス生成器233a等を囲うインナーカバー204が設けられているのである。気密容器203の両端の壁部や排気管230等については、ステンレス等の金属材料を用いて構成すればよい。
【0023】
例えば、「Polyakov et al. J. Appl. Phys. 115, 183706 (2014)」によれば、950℃で成長することにより、低不純物濃度のGaN結晶の成長が実現可能なことが開示されている。ところが、このような低温成長では、得られる結晶品質の低下を招き、熱物性、電気特性等において良好なものが得られない。
【0024】
これに対し、本実施形態の上述したHVPE装置200によれば、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成している。これにより、例えば、1050℃以上というGaN結晶の成長に適した温度域においても、石英やステンレス等に起因するSi、O、C、Fe、Cr、Ni等の不純物が結晶成長部へ供給されることを遮断することができる。その結果、高純度で、かつ、熱物性および電気特性においても良好な特性を示すGaN結晶を成長させることが実現可能である。
【0025】
なお、HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0026】
(基板10の製造工程)
続いて、上述のHVPE装置200を用いて種基板5上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させ、その後、成長させた結晶をスライスして基板10を取得するまでの一連の処理について、
図2を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0027】
基板10の製造工程は、搬入ステップと、結晶成長ステップと、搬出ステップと、スライスステップと、を有している。
【0028】
(搬入ステップ)
具体的には、先ず、反応容器203の炉口を開放し、サセプタ208上に種基板5を載置する。サセプタ208上に載置する種基板5は、後述する基板10を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなる板状のものである。
【0029】
サセプタ208上への種基板5の載置にあたっては、サセプタ208上に載置された状態の種基板5の表面、すなわちノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)が、GaN結晶の(0001)面、すなわち+C面(Ga極性面)となるようにする。
【0030】
(結晶成長ステップ)
本ステップでは、反応室201内への種基板5の搬入が完了した後に、炉口を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのH2ガス、或いは、H2ガスおよびN2ガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH3ガスの供給を開始し、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスをそれぞれ供給する。
【0031】
これにより、
図3(a)に断面図を示すように、種基板5の表面上にc軸方向にGaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶6が形成される。このとき、SiH
2Cl
2ガスを供給することで、GaN結晶6中に、n型不純物としてのSiを添加することが可能となる。
【0032】
なお、本ステップでは、種基板5を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種基板5の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNH3ガスの供給を開始するのが好ましい。また、GaN結晶6の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0033】
本ステップでは、ゾーンヒータ207a,207bの温度は、ガス生成器233aを含む反応室201内の上流側の部分を加熱するヒータ207aでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む反応室201内の下流側の部分を加熱するヒータ207bでは例えば1000~1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208は1000~1200℃の所定の温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ(ただし不図示)はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000~1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータを用いた温度制御を実施しても構わない。
【0034】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
SiH2Cl2ガスの分圧:2.5×10-5~1.0×10-4kPa
【0035】
また、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスを供給する際は、ガス供給管232a~232bのそれぞれから、キャリアガスとしてのN2ガスを添加してもよい。N2ガスを添加してノズル249a~249bから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種基板5の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを添加するようにしてもよい。
【0036】
(搬出ステップ)
種基板5上に所望の厚さのGaN結晶6を成長させたら、反応室201内へNH3ガス、N2ガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、反応室201内へH2ガスの供給、ゾーンヒータ207a、207bによる加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNH3ガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(主面上にGaN結晶6が形成された種基板5)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から外部へ搬出する。
【0037】
(スライスステップ)
その後、搬出した結晶インゴットを例えばGaN結晶6の成長面と平行な方向にスライスすることにより、
図3(b)に示すように、1枚以上の基板10を得ることができる。基板10の各種組成や各種物性等は、上述した通りであるので説明を割愛する。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。基板10の厚さは250μm以上、例えば400μm程度の厚さとする。その後、基板10の表面(+c面)に対して所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、基板10の裏面(-c面)はラップ面あるいはミラー面とする。
【0038】
(積層体20の製造工程)
基板10を作製したら、
図4(a)に示すように、基板10の主面上にGaNの単結晶をエピタキシャル成長させることによりエピ層11を形成し、基板10とエピ層11とが積層されてなる積層体20を作製する。エピ層11の形成は、上述したように、MOVPE法やHVPE法といった公知の気相成長法や、Naフラックス法やアモノサーマル法といった公知の液相成長法を用いて行うことができる。なお、HVPE法を用いる場合に、基板10を作製する際に用いたHVPE装置200を用い、上述の結晶成長手法を用いて行うことも可能である。エピ層11の厚さは、例えば3μm以上20μm以下の範囲内の厚さとする。本実施形態におけるエピ層は、一例として、Si、GeおよびO等のn型不純物や、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSb等のp型不純物を含まない層、すなわち、ノンドープのGaN層として形成されている。
【0039】
(イオン注入工程)
積層体20を作製したら、
図4(b)に示すように、フォトリソグラフィー等の公知の手法を用い、エピ層11の主面上にマスクパターン11mを形成する。その後、マスクパターン11mによって覆われていないエピ層11の露出した部分、すなわち、イオン注入領域11pに対して、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を注入する。p型不純物の注入は、公知のイオン注入法を適宜用いることができる。マスクパターン11mの形状や寸法、p型不純物の種類、注入深さ、注入量等の諸条件は、作製しようとする半導体デバイスの仕様に基づいて適宜選択することができる。
【0040】
(保護膜12形成工程)
イオン注入が完了したら、アッシング等の公知の手法を用いてマスクパターン11mを除去する。その後、化学気相成長法(CVD法)等の公知の成膜手法を用い、
図4(c)に示すように、エピ層11の主面全域を連続に覆う保護膜12を形成する。保護膜12は、例えば、シリコン窒化膜(SiN膜)やアルミニウム窒化膜(AlN膜)により構成することができ、その厚さは20~50nmの範囲内の厚さとすることができる。
【0041】
(アニール工程)
保護膜12の形成が完了したら、赤外線ヒータや赤外線ランプを具備した熱処理炉(図示せず)内へ積層体20を搬入し、積層体20に対して赤外線を照射して、基板10内において上述の自由キャリア吸収を生じさせ、これにより、積層体20を加熱する。
【0042】
アニール処理は、例えば、開始温度からアニール温度までの昇温を3~30秒の範囲内の時間で行い、アニール温度での保持を20秒~3分の範囲内の時間行い、その後、アニール温度から停止温度までの降温を1~10分の範囲内の時間で行うといった処理手順、処理条件で行う。停止温度および開始温度は、それぞれ、例えば500~800℃の範囲内の温度とする。アニール温度は、例えば1100℃以上1250℃以下の範囲内の温度とする。アニール処理の雰囲気は、N2ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とし、その圧力は、例えば100~250kPaの範囲内の圧力とする。
【0043】
上述の処理手順、処理条件でアニール処理を行うことで、イオン注入されることでエピ層11が受けた結晶ダメージを回復させることができる。また、イオン注入したp型不純物をエピ層11の結晶格子中に組み込んで、アクセプタとして活性化させることもできる。
【0044】
なお、このアニール処理は、
図4(d)に示すように、保持板300の上面に複数(例えば3本)設置した凸部300p等を用いて積層体20の被支持面(図中下側の面)を支持し、保持板300と積層体20とを互いに離間させた状態、すなわち、積層体20を浮かせた状態で行うのが好ましい。この場合、積層体20の加熱は、保持板300からの熱伝達ではなく、主に、赤外線の輻射によって行われるようになる。これに対し、積層体20の加熱を保持板300からの熱伝達によって行う場合(或いは熱伝達を組み合わせて行う場合)、積層体20の裏面状態や保持板300の表面状態によっては、積層体20をその面内全域にわたって均一に加熱することが困難となる。また、アニール処理の進行に伴って積層体20に反りが生じ、積層体20と保持板300との接触具合が徐々に変化し、これにより、積層体20の加熱条件がその面内全域にわたって不均一になる場合もある。本実施形態のように、積層体20の加熱を、主に輻射によって行うようにした場合、このような課題を解消することが可能となる。なお、熱伝達による影響を排除するため、凸部300pと積層体20との間の接触面積が、積層体20の被支持面の5%以下、好ましくは3%以下の大きさとなるように、凸部300pの形状や寸法を適正に選択することが好ましい。
【0045】
(保護膜の除去工程)
アニール処理が完了したら、
図4(e)に示すように、エッチングなどの公知の手法を用いて積層体20から保護膜12を除去する。その後、結晶成長、フォトリソグラフィー、熱処理、エッチング等のさまざまな処理が積層体20に対して行われ、半導体デバイスの製造が完了する。
【0046】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0047】
(a)2000nmの波長の光に対する基板10の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm-1以上4.6cm-1以下の範囲内に収まることから、赤外線を用いた結晶のアニール処理を、短時間かつ正確に行うことが可能となる。例えば、500℃→1250℃→500℃の昇降温を伴うアニール処理を、数十秒から数分以内といった短時間のうちに、正確かつ再現性よく行うことが可能となる。これにより、イオン注入後のアニール処理を経ることで製造される半導体デバイスの特性を高めることができ、また、その製造歩留まりを良好なものとすることが可能となる。
【0048】
なお、常温下での吸収係数が1.8cm-1未満となると、上述の昇降温処理を短時間で正確に行うことが難しくなり、アニール処理の実施中に、積層体20がダメージを受けてしまう場合がある。例えば、積層体20が1100℃以上の温度条件下に長時間晒されることで、基板10からN成分が脱離してしまい、基板10の導電特性(n型特性)を維持することが困難となる場合がある。また、アニール処理の処理時間が長くなることで、エピ層11にイオン注入されたp型不純物が拡散してしまい、イオン注入領域11p(p型チャネル)の形状制御や導電特性の制御が困難となる場合もある。また、吸収係数が常温の温度条件下において1.8cm-1未満であるということは、基板10が含有するn型不純物の量、すなわち、基板10の導電性が過小となることを意味しており、積層体20を用いて例えばその厚み方向に電流を流すような構造の半導体デバイスを作成することは困難となる場合がある。本実施形態のように常温下での吸収係数を1.8cm-1以上の大きさとすることで、上述した各種課題を解消することが可能となる。
【0049】
また、常温下での吸収係数が4.6cm-1を超えるということは、これを実現するために基板10が含有するn型不純物の量が2.5×1018at・cm-3を超え、過大となることを意味し、基板10の結晶性等に悪影響が出てしまう場合がある。例えば、基板10中に添加されるn型不純物の濃度が過大となると、基板10の欠陥密度が増加し、基板10上へのエピタキシャル成長が困難となったり、積層体20を用いて作製された半導体デバイスの特性が低下したり、寿命が短くなったりする場合がある。本実施形態のように、基板10の吸収係数を4.6cm-1以下の大きさとすることで、上述した課題を解消することが可能となる。
【0050】
(b)上述したように、GaN結晶からなる基板10による赤外線の吸収効率は、少なくとも常温以上1250℃以下の温度条件下において、GaN結晶中にn型不純物が添加されることで発生する自由キャリアのみを考慮すれば充分であり、真性キャリアについては考慮の必要がない。言い換えれば、基板10における赤外線の吸収係数は、少なくとも上述の温度条件下において、GaN結晶中に添加されるn型不純物の量によってそのほとんどが決定される。このことから、本実施形態によれば、アニール処理を行う際の処理条件の設計が容易であり、短時間のアニール処理を正確かつ再現性よく行うことが容易となる。
【0051】
(c)基板10を製造する際、n型不純物として用いることのできるSi、GeおよびOのうち、添加量の制御が比較的難しいOの濃度を極限まで低下させつつ、基板10に対するn型不純物の総添加量を、主に、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計添加量により決定するようにしている。これにより、基板10による赤外線の吸収係数を上述の範囲内に収めることが、再現性よく正確に行えるようになる。
【0052】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0053】
例えば、基板10やエピ層11は、GaNに限らず、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶により構成してもよい。また、基板10と構成する結晶と、エピ層11を構成する結晶とは、組成が同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0054】
また例えば、基板10に添加するn型不純物としては、Siに限定されない。すなわち、基板10に添加するn型不純物としてGeを用いてもよく、また、Oを用いてもよく、さらにはこれらを任意に組み合わせてもよい。
【0055】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0056】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、
前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなり、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を含む結晶層と、を備え、
2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板による前記光の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm-1以上4.6cm-1以下の範囲内に収まるよう構成されている結晶積層体が提供される。
【0057】
(付記2)
好ましくは、付記1に記載の結晶積層体であって、
前記結晶基板中における真性キャリアの濃度が、少なくとも常温以上1250℃以下の温度条件下において、1×1017cm-3未満である。
【0058】
(付記3)
好ましくは、付記1または2に記載の結晶積層体であって、
前記n型不純物が添加されることで前記結晶基板中に発生する自由電子の濃度が、常温の温度条件下において、1×1018cm-3以上2.5×1018cm-3以下である。
【0059】
(付記4)
好ましくは、付記1~3のいずれかに記載の結晶積層体であって、
前記結晶基板が含有する前記n型不純物の濃度が、1×1018at・cm-3以上2.5×1018at・cm-3以下である。
【0060】
(付記5)
好ましくは、付記1~4のいずれかに記載の結晶積層体であって、
前記結晶基板が含有するOの濃度が1×1017at・cm-3以下(好ましくは5×1015at・cm-3以下)であり、前記結晶基板が含有するSiおよびGeの合計濃度が1×1018at・cm-3以上2.5×1018at・cm-3以下である。
【0061】
(付記6)
本発明の他の態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、
前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長することでなり、C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を含む結晶層と、を備え、
2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm-1以上4.6cm-1以下の範囲内に収まるよう構成されている半導体デバイスが提供される。
【0062】
(付記7)
本発明のさらに他の態様によれば、
InxAlyGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、Si、GeおよびOからなる群より選択される少なくともいずれかのn型不純物を含有する結晶基板と、前記結晶基板の主面上にIII族窒化物の結晶がエピタキシャル成長してなる結晶層と、を備え、2000nmの波長の光を照射したときの前記結晶基板の吸収係数が、常温の温度条件下において、1.8cm-1以上4.6cm-1以下である結晶積層体を用意する工程と、
C、Mg、Fe、Be、Zn、VおよびSbからなる群より選択される少なくともいずれかのp型不純物を前記結晶層の主面に対してイオン注入する工程と、
前記結晶積層体に対して赤外線を照射して前記結晶積層体を加熱する工程と、
を行う工程を有する半導体デバイスの製造方法が提供される。
【0063】
(付記8)
付記7に記載の方法であって、
前記結晶積層体を加熱する工程を、前記結晶積層体の被支持面を3以上の位置で支持し、前記結晶積層体の前記被支持面側に存在する支持板と、前記結晶積層体と、を互いに離間させた状態で行う。
【0064】
(付記9)
付記7または8に記載の方法であって、
前記結晶積層体を用意する工程は、反応容器内に種結晶基板とIII族元素を含む原料とを搬入し、所定の結晶成長温度に加熱された前記種結晶基板に対して前記原料のハロゲン化物と窒化剤とを供給することで、前記種結晶基板上に前記III族元素の窒化物の結晶を成長させる結晶成長工程を有し、
前記結晶成長工程では、
前記反応容器内のうち少なくとも前記結晶成長温度に加熱される領域であって、前記種結晶基板に供給されるガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、少なくともその表面が石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いる。
【0065】
(付記10)
付記9に記載の方法であって、好ましくは、
前記高温領域を構成する部材として、炭化ケイ素コートグラファイトからなる部材を用いる。
【符号の説明】
【0066】
10・・・基板(結晶基板)、11・・・エピ層(結晶層)、20・・・結晶積層体