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特許7084683液体の精製方法、薬液又は洗浄液の製造方法、フィルターメディア、及び、フィルターデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】液体の精製方法、薬液又は洗浄液の製造方法、フィルターメディア、及び、フィルターデバイス
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/64 20060101AFI20220608BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220608BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B01D71/64
B01D61/14 500
B01D69/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2016019176
(22)【出願日】2016-02-03
(65)【公開番号】P2016155121
(43)【公開日】2016-09-01
【審査請求日】2018-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2015033425
(32)【優先日】2015-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
(72)【発明者】
【氏名】越山 淳
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】三崎 仁
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/175011(WO,A1)
【文献】特開2014-94501(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094528(WO,A1)
【文献】特開平9-57069(JP,A)
【文献】特開2000-229286(JP,A)
【文献】特開2005-81226(JP,A)
【文献】特許第5641042(JP,B2)
【文献】特開平11-117060(JP,A)
【文献】特開2012-15448(JP,A)
【文献】特開2000-155426(JP,A)
【文献】特開2011-255347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82, C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の精製方法であって、
前記液体の一部又は全部を液体状態で、孔径が1~200nmである連通孔を有し、かつ以下の方法により測定される不変化率が70~99.5%である、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により通液させることを含み、
前記多孔質膜が、アルカリ金属水酸化物の溶液及び有機アルカリ溶液からなる群より選択される少なくとも1つによるケミカルエッチングによる、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成するイミド結合開環工程を経たものであり、
前記多孔質膜により、前記液体に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が前記液体から除去され、
前記元素が、金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つである、
液体の精製方法。
不変化率(%)=(X2)÷(X1)×100
(式中、X2は、イミド結合の一部が開環して上記カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものとなったポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質体(ただし、当該多孔質体を作成するためのワニスがポリアミド酸を含む場合、焼成工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値であり、X1は、X2を求めた多孔質体と同一のポリマーを用いて、得られた未開環のポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質体について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値である。)
【請求項2】
前記X2の値で表されるイミド化率が、1.2~2である、請求項1に記載の液体の精製方法
【請求項3】
液体の精製方法であって、
前記液体の一部又は全部を液体状態で、孔径が1~200nmである連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により通液させることを含み、
前記多孔質膜が、アルカリ金属水酸化物の溶液及び有機アルカリ溶液からなる群より選択される少なくとも1つによるケミカルエッチングによる、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成するイミド結合開環工程を経たものであり、
前記多孔質膜を構成するポリイミド及び/又はポリアミドイミドが、下記式(3)~(5)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つを有し、
前記多孔質膜により、前記液体に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が前記液体から除去され、
前記元素が、金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つである、
液体の精製方法。
【化1】
(上記式中、Xは同一若しくは異なって、水素原子又は陽イオン成分を表し、Arはアリール基を表し、Yはジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基を表す。)
【請求項4】
液体の精製方法であって、
前記液体の一部又は全部を液体状態で、孔径が1~200nmである連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により通液させることを含み、
前記多孔質膜が、アルカリ金属水酸化物の溶液及び有機アルカリ溶液からなる群より選択される少なくとも1つによるケミカルエッチングによる、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成するイミド結合開環工程を経たものであり、
前記多孔質膜により、前記液体に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が前記液体から除去され、
前記元素が、金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つである、
液体の精製方法。
【請求項5】
前記差圧が、流液圧、真空、及び、不活性ガス若しくは非反応性ガスによる陽圧からなる群より選択される少なくとも1つを利用することにより加えられる、請求項1~4の何れか1項に記載の液体の精製方法。
【請求項6】
前記連通孔は、平均球径が50~2000nmである略球状孔が相互に連通した構造を含む、請求項1~5の何れか1項記載の液体の精製方法。
【請求項7】
前記略球状孔は、内面に更に凹部を有している、請求項6記載の液体の精製方法。
【請求項8】
前記液体は、半導体製造に用いられる薬液又は洗浄液である、請求項1~7の何れか1項記載の液体の精製方法。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項記載の液体の精製方法を用いる、薬液又は洗浄液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる液体の精製方法、該精製方法を用いる薬液又は洗浄液の製造方法、該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含むフィルターデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいて、高性能・高機能化や低消費電力化の要求が高まるにつれ、回路パターンの微細化が進行しており、それに伴い製造歩留まりの低下を引き起こす汚染金属の除去の要請が非常に高くなっている。そのため、基板に疎水性を付与するための保護膜形成用薬液、シリコンウエハの洗浄液等の薬液中に鉄、亜鉛等の汚染金属が含まれないことが望ましい。
【0003】
半導体デバイスの製造工程において用いられるこのような薬液は、予め鉄、亜鉛等の汚染金属を除去するため、フィルターデバイス等により清浄化される。フィルターデバイスは、通常、多孔質膜を用いたフィルターメディアを備えている。
【0004】
金属イオン等の不純物を除去するため、多孔質膜としてはナノ・パーティクル等の微小物質をも除去可能なものが望ましい。半導体デバイス等の用途に使用される薬液や樹脂材料から不純物を除去し得るフィルター膜として、ナイロン、ポチエチレン、ポリプロピレン、PTFE等が一般的であり、例えば、ナイロン等のフィルター膜を用いることで、有機系の不純物も除去されることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4637476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ナイロンからなる膜は、酸耐性が弱いため、酸で洗浄することが難しく、フィルター自体に混入又は付着する不純物除去が難しいという問題があった。またポリエチレンからなる膜は半導体デバイスの製造工程に用いられる薬液から除去されるべき、鉄、亜鉛等の不純物の除去率が低いという問題があった。
【0007】
フィルターメディアに用いられる多孔質膜は、産業上、ある程度の流速で処理できることが求められるが、流速を速くすると、金属等の不純物除去性能が悪化する傾向があり、流速と不純物除去性能との両立は容易でなかった。ポリエチレンからなる膜等においては、流速を速くすると、膜が破れるという問題もあった。また、フィルターメディアは産業上何度も繰り返し使用されるから、応力、破断伸度が高い等、耐久性のある多孔質膜が好ましい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属等の不純物除去性能に優れ、好ましくは流速との両立も可能であり、また、応力、破断伸度等にも優れたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる液体の精製方法、該精製方法を用いる薬液又は洗浄液の製造方法、該多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該多孔質膜を含むフィルターデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドによる応力、破断伸度等を損なうことなく、少なくともその多孔質構造により金属等の不純物除去性能に優れ、流速を速くしても不純物除去性能を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一の態様は、液体の精製方法であって、上記液体の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含む、液体の精製方法である。
【0011】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の液体の精製方法を用いる、薬液又は洗浄液の製造方法である。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の液体の精製方法に用いられる上記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディアである。
【0013】
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の液体の精製方法に用いられる上記ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含む、フィルターデバイスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属除去性能に優れ、好ましくは流速との両立も可能であり、また、応力、破断伸度等にも優れたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を用いる液体の精製方法、該精製方法を用いる薬液又は洗浄液の製造方法、該多孔質膜からなるフィルターメディア並びに該多孔質膜を含むフィルターデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本明細書において、例えば「ポリイミド及び/又はポリアミドイミド」等のように「P及び/又はQ」との記載、また、例えば「カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び/又は-NH-結合」等のように「P、Q及び/又はR」との記載は、それぞれ「P及びQからなる群より選択される少なくとも1つ」、「P、Q及びRからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味し、「及び/又は」を用いる他の記載もこれに準じる。ここでP、Q及びRは任意の用語である。
【0016】
[液体の精製方法]
本発明の第一の態様である液体の精製方法は、該液体の一部又は全部を、連通孔を有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含む。
【0017】
<ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜>
本発明の液体の精製方法において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、連通孔を有する。連通孔は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔(以下、単に「孔」と略称することがある。)が形成しているものであってよく、かかる孔は、後述の内面に曲面を有する孔であることが好ましく、後述の略球状孔であることがより好ましい。ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜においては、かかる個々の孔同士が隣接して形成される部分が連通孔となり、かかる孔が相互に連通した構造を有し、通常、かかる孔が複数繋がって全体として、精製される液体の流路を形成していることが好ましい。「流路」は、通常、個々の「孔」及び/又は「連通孔」が連続することにより形成されている。個々の孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法においてポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔であるともいえる。また、連通孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法においてポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子同士が接していた部分に、該微粒子が後工程で除去されることにより形成される、隣接する個々の孔同士であるともいえる。
【0018】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、好ましくは、該多孔質膜の外部表面に開口を有する連通孔が該多孔質膜の内部を連通して多孔質膜の反対側(裏側)の外部表面にも開口を有するように、該多孔質膜を通過させる流体の流路が確保されるような連通孔を有する。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜がかかる連通孔を有することは、例えば、ガーレー透気度により表すことができ、ガーレー透気度としては、例えば30~1000秒とすることができる。
【0019】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜のガーレー透気度は、例えば1000秒以内とすることができ、600秒以内が好ましく、500秒以内が更に好ましく、300秒以内であることが最も好ましい。低いほど好ましいので下限は特に設定されないが、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を通過する流体の流速をある程度高く維持しつつ金属除去等の処理を効率よく行う点で、例えば、30秒以上が好ましい。ガーレー透気度が1000秒以内であれば、多孔質の程度が十分高いため、本発明において液体の精製の効果を高めることができる。
【0020】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、孔径が1~200nmである連通孔を含むものであることが好ましい。かかる連通孔の孔径は、3~180nmが好ましく、5~150nmがより好ましく、10~130nmが更に好ましい。かかる連通孔の孔径は、連通孔の直径である。1つの連通孔は、後述の製造方法より、通常2つの隣り合う粒子から形成されるので、該直径は、例えば、連通孔を構成する個々の孔が2つ分連続する方向を長手方向とすると、該長手方向に垂直な方向における直径である場合がある。かかる連通孔の孔径は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔の孔径の分布がブロードな方が、かかる個々の孔同士が隣接して形成される連通孔自体の径が小さくなる傾向にあり、また、連通孔の孔径を小さくする観点では、多孔質膜の空隙率が例えば60~90%、好ましくは60~80%、より好ましくは70%程度の範囲である。また、後述のイミド結合開環工程を行わない場合も連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
【0021】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、連通孔を有するので、かかる多孔質膜に流体を通過させると、流体が多孔質膜の内部を通過できる。該ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、好ましくは内面に曲面を有する個々の孔が連通孔により連続してなる流路を内部に有するので、流体が多孔質膜の内部を通過できるのみならず、個々の孔の曲面に接触しながら通過することにより、孔の内面に対する接触面積が増加することとなり、多孔質膜における孔に、流体に存在する金属粒子等の微小な物質が吸着しやすいものと考えられる。
【0022】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、上記のように、内面に曲面を有する孔を含有する多孔質膜であることが好ましく、多孔質膜における孔の多く(好ましくは実質的に全部)が曲面で形成されていることがより好ましい。本明細書において、孔について「内面に曲面を有する」とは、多孔質をもたらす孔の少なくとも内面が、該内面の少なくとも一部に曲面を有することを意味する。
【0023】
本発明における多孔質膜における孔は、少なくともその内面の実質的にほぼ全部が曲面であることが好ましく、このような孔を以下、「略球状孔」ということがある。本明細書において「略球状孔」とは、その内面が略球状の空間を形成している孔を意味する。略球状孔は、好適には、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において用いる微粒子が略球状である場合に形成される孔であるともいえる。本明細書において「略球状」とは、真球を含む概念であるが必ずしも真球のみに限定されず、実質的に球状であるものを含む概念である。本明細書において「実質的に球状である」とは、粒子の長径を短径で除した値で表される真球度によって定義される真球度が1±0.3以内であるものを意味する。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が有する略球状孔は、かかる真球度が1±0.1以内であるものが好ましく、1±0.05以内であるものがより好ましい。
【0024】
多孔質膜における孔が内面に曲面を有することにより、本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に流体を通過させる際に該流体が多孔質膜における孔の内部に十分に行き渡り、孔の内面に十分接触することができ、場合によっては該内面の曲面に沿って対流を起こしている可能性も考えられる。このようにして、本発明における多孔質膜における孔ないし孔の内面に存在し得る凹部に、流体に存在する金属粒子等の微小な物質が吸着しやすいものと考えられる。略球状孔は、内面に更に凹部を有していてもよい。該凹部は、例えば、略球状孔の内面に開口を有する、該略球状孔よりも孔径が小さい孔により形成されている場合がある。
【0025】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、例えば平均孔径が100~2000nmの多孔質膜であってよく、平均孔径は、好ましくは200~1000nm、より好ましくは300~900nmである。本明細書において、平均孔径は、後述のケミカルエッチング処理を行ったものはポロメーターにより平均の連通孔のサイズ変化量を求め、その値から実際の平均孔径を求める値であるが、ポリアミドイミドのように上述のケミカルエッチングを行わないものは、多孔質膜の製造に使用した微粒子の平均粒径を平均孔径とすることができる。
【0026】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、平均球径が50~2000nmである略球状孔が相互に連通した構造を含むものであることが好ましい。かかる略球状孔の平均球径は、好ましくは100~1000nm、より好ましくは200~800nmである。かかる略球状孔の平均球径は、上述の多孔質膜における平均孔径と同様の方法により求めることができる。
【0027】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、後述の方法により求める空隙率が例えば50~90質量%、好ましくは、55~80質量%である多孔質膜であってよい。
【0028】
本発明の液体の精製方法において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、樹脂を含有するものであり、実質的に樹脂のみからなるものであってもよく、具体的には、95質量%以上、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上が樹脂であるものである。本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に含有される樹脂としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが好ましく、ポリイミドを含有する樹脂がより好ましく、ポリイミドのみであってもよい。本明細書において、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを「ポリイミド系樹脂」ということがある。
【0029】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜(以下、「ポリイミド系樹脂多孔質膜」又は「多孔質膜」と略称することがある。)に含有されるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよい。該ポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び/又は-NH-結合を、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの主鎖末端以外に有することが好ましい。
【0030】
本明細書において、「塩型カルボキシ基」とは、カルボキシ基における水素原子が陽イオン成分に置換した基を意味する。本明細書において、「陽イオン成分」とは、完全にイオン化した状態である陽イオン自体であってもよいし、-COOとイオン結合して事実上電荷のない状態である陽イオン構成要素であってもよいし、これら両者の中間的な状態である部分電荷を有する陽イオン構成要素であってもよい。「陽イオン成分」がn価の金属MからなるMイオン成分である場合、陽イオン自体としてはMn+と表され、陽イオン構成要素としては「-COOM1/n」において「M」で表される要素である。
【0031】
本発明において「陽イオン成分」とは、後述のケミカルエッチング液に含有される化合物として挙げた化合物がイオン解離した場合の陽イオンが挙げられ、代表的にはイオン成分又は有機アルカリイオン成分が挙げられる。例えば、アルカリ金属イオン成分がナトリウムイオン成分の場合、陽イオン自体としてはナトリウムイオン(Na)であり、陽イオン構成要素としては「-COONa」において「Na」で表される要素であり、部分電荷を有する陽イオン構成要素としてはNaδ+である。本発明において陽イオン成分としては特に限定されず、無機成分、NH 、N(CH 等の有機成分の何れであってもよい。無機成分としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の金属元素が挙げられる。有機成分、なかでも、有機アルカリイオン成分としては、NH 、例えばNR (4つのRはそれぞれ同一又は異なって、有機基を表す。)で表される第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。上記Rとしての有機基としてはアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。第四級アンモニウムカチオンとしては、N(CH 等が挙げられる。
【0032】
本発明において、「塩型カルボキシ基」及び「陽イオン成分」がどのような状態であるかは特に限定されず、通常、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが存在する環境、例えば水溶液中であるか、有機溶媒中であるか、乾燥しているか、等に依存してよい。陽イオン成分がナトリウムイオン成分である場合、例えば、水溶液中であれば、-COOとNaとに解離している可能性があり、有機溶媒中であるか又は乾燥していれば、-COONaが解離していない可能性が高い。
【0033】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよいが、これらの少なくとも1つを有する場合、通常、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基と-NH-結合とを両方有する。ポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基に関していえば、カルボキシ基のみを有してもよいし、塩型カルボキシ基のみを有してもよいし、カルボキシ基及び塩型カルボキシ基の両方を有してもよい。ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との比率は、同一のポリイミド及び/又はポリアミドイミドであっても、例えば、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドが存在する環境に応じて変動し得るし、陽イオン成分の濃度にも影響される。
【0034】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、ポリイミドの場合は、通常、-NH-結合と等モルであり、特に、後述のポリイミド多孔質膜の製造方法においてポリイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に-NH-結合も形成され、該形成されるカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、該形成される-NH-結合と等モルである。ポリアミドイミドの場合は、ポリアミドイミドにおけるカルボキシ基及び塩型カルボキシ基の合計モル数は、-NH-結合と必ずしも等モルではなく、後述のケミカルエッチング等のイミド結合開環工程の条件次第である。-NH-結合は、好ましくはアミド結合(-NH-C(=O)-)の一部である。
【0035】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、具体的には、下記式(3)~(6)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよい。ポリイミドである場合、下記式(3)及び/又は(4)で表される構成単位を有するものであってよく、ポリアミドイミドである場合、下記式(5)及び/又は(6)で表される構成単位を有するものであってよい。
【化1】
【化2】
【0036】
上記式中、Xは同一若しくは異なって、水素原子又は陽イオン成分である。Arはアリール基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(1)で表される繰り返し単位又は芳香族ポリイミドを構成する式(2)で示される繰り返し単位においてそれぞれカルボニル基が結合しているArで表されるアリール基と同じであってよい。Yはジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(1)で表される繰り返し単位又は芳香族ポリイミドを構成する式(2)で示される繰り返し単位においてそれぞれNが結合しているArで表されるアリール基と同じであってよい。
【0037】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、一般のポリイミド及び/又はポリアミドイミドが有するイミド結合([-C(=O)]-N-)の一部が開環して、ポリイミドの場合は上記式(3)及び/又は(4)で表される構成単位、ポリアミドイミドの場合は上記式(5)で表される構成単位をそれぞれ有することとなったものであってもよい。
もっともポリアミドイミドの場合、一般のポリアミドイミドが有するイミド結合の開環によらずに元々有しているアミド結合(-NH-C(=O)-)を有することのみによっても本発明の目的を達成することができることを本発明者らは見出した。とはいえポリアミドイミドにおいても、ポリアミドイミドが本来有するイミド結合の一部が開環して上記(5)で表される構成単位を有することが好ましい。
【0038】
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミドは、イミド結合の一部を開環させることで、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜としてもよい。イミド結合の一部を開環させる場合の、不変化率は、以下のように求める。
(1)後述のイミド結合開環工程を行わないポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜(ただし、当該多孔質膜を作成するためのワニスがポリアミド酸を含む場合、焼成工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X1)を求める。
(2)前記値(X1)を求めた多孔質膜と同一のポリマー(ワニス)を用いて、得られたポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜に対し、後述のイミド結合開環工程を行った後のポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X2)を求める。
(3)不変化率(%)=(X2)÷(X1)×100
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜について、不変化率は、60%以上であることが好ましく、70%~99.5%であることがより好ましく、80~99%であることが更に好ましい。
ポリアミドイミドを含む多孔質膜の場合は、イミド結合の開環によらずに元々有しているアミド結合(-NH-C(=O)-)を構成する-NH-結合を含むため、不変化率は100%であってもよい。
【0039】
また、本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜がポリイミド多孔質膜である場合は、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値をイミド化率とすると、ポリイミドの場合は上記説明における(X2)が、1.2以上であるものが好ましく、1.2~2であるものがより好ましく、1.3~1.6であるものが更に好ましく、1.30~1.55であるものが更により好ましく、1.35~1.5未満が特に好ましい。また、(X1)についてのイミド化率は、本発明においては、1.5以上のものを用いることが好ましい。イミド化率は、相対的に数字が大きいほど、イミド結合の数が多い、即ち、上述の開環したイミド結合が少ないことを表す。
【0040】
<ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法>
本発明におけるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(以下、「イミド結合開環工程」ということがある。)を含む方法により製造することができる。イミド結合開環工程において、上述のように、イミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に、理論上これらの基と等モルの-NH-結合も形成される。イミド結合開環工程は、後述のケミカルエッチングにより行うことが好ましい。
【0041】
もっとも、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜が含有する樹脂が実質的にポリアミドイミドからなる場合、イミド結合開環工程を施さなくても既に-NH-結合を有しており、良好な吸着力を有し、また、そのために流体の流速を遅くする必要も特にない点で、イミド結合開環工程は必ずしも必要ではないが、本発明の目的をより効果的に達成するためには、イミド結合開環工程を施すことが好ましい。
【0042】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部からカルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(イミド結合開環工程)を含むものであってもよい。
【0043】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする成形膜(以下、「ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜」と略称することがある。)を作製したのち、イミド結合開環工程を行うことが好ましい。イミド結合開環工程を施す対象である、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜としては、多孔質であってもよいし非多孔質であってもよく、また、その形状は特に限定されないが、得られるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜は、多孔質であることが好ましく、及び/又は、膜等の薄い形状であることが好ましい。
【0044】
ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜は、上述のように、イミド結合開環工程を施す際に非多孔質であってもよいが、その場合、イミド結合開環工程の後に多孔質化することが好ましい。
ポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜をイミド結合開環工程の前であるか後であるかに関わりなく多孔質化する方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜(以下、「ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜」ということがある。)から該微粒子を取り除いて多孔質化する微粒子除去工程を含む方法が好ましい。
【0045】
本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法としては、(a)微粒子除去工程の前に、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜にイミド結合開環工程を施してもよいし、又は、(b)微粒子除去工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド及び/又はポリアミドイミド成形膜にイミド結合開環工程を施してもよいが、得られるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、後者の(b)の方法が好ましい。
【0046】
以下に、本発明において用いるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の製造方法を、好ましい態様である膜(多孔質膜)の形態をとる場合を主に例にとり、詳述する。膜はワニスを用いて好適に製造することができる。
【0047】
[ワニスの製造]
ワニスの製造は、予め微粒子が分散した有機溶剤とポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した有機溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることで製造でき、最終的に、その粘度を300~2000cP(0.3~2Pa・s)とすることが好ましく、400~1800cP(0.4~1.8Pa・s)の範囲がより好ましい。ワニスの粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0048】
上記ワニスには、微粒子を、焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミド系樹脂の比率が1~4(質量比)となるように樹脂微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合でき、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率は1.1~3.5(質量比)であることが好ましい。更に、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の体積比率が1.1~5となるように、微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合するとよい。また、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率を1.1~4.5(体積比)とすることが、更に好ましい。微粒子/ポリイミド系樹脂の質量比又は体積比が下限値以上であれば、多孔質膜として適切な密度の孔を得ることができ、上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜をすることができる。なお、本明細書において、体積%及び体積比は、25℃における値である。
【0049】
<微粒子>
本発明で用いられる微粒子の材質は、ワニスに使用する有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されることなく使用することができる。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)、炭酸カルシウム等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエチレン等の有機高分子微粒子(樹脂微粒子)が挙げられる。
【0050】
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造の際使用することの好ましいものとして、無機材料ではコロイダルシリカ等のシリカ又は有機高分子微粒子のPMMA等を挙げることができる。なかでもこれらの球状粒子を選択することが、内面に曲面を有する微小な孔を形成するためには好ましい。
【0051】
本発明で用いられる樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じ特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーであり、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れも、加熱時に、単量体、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。使用される樹脂微粒子の分解温度は200~320℃であることが好ましく、230~260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0052】
これら解重合性ポリマーのうち、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)、あるいはこれを主成分とする共重合ポリマーが孔形成時の取り扱い上好ましい。
【0053】
本発明で用いられる微粒子は、形成される多孔質膜における孔の内面に曲面を有しやすい点で、真球率が高いものが好ましい。使用する微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、50~2000nm、好ましくは200~1000nmのものを用いることができる。微粒子を取り除いて得られるポリイミド系樹脂多孔質膜が、分離材又は吸着材として流体を通過させる際に多孔質膜における孔の内面に流体を万遍なく接触させることができ、流体に含まれる金属粒子等の微小物質の吸着を効率よく行うことができ、好ましい。また、粒径分布指数(d25/75)が1~6であればよく、1.6~5が好ましく、2~4の範囲がより好ましい。下限値を1.6以上とすることで、膜内部に粒子を効率的に充填させることができるため、流路を形成しやすく、流速が向上するため好ましい。また、サイズの異なる孔になり、対流の仕方がかわって吸着率が向上すると考えられる。もっとも、微粒子の粒径分布指数(d25/75)は1以上であれば1.6未満であっても流速及び吸着率が良好であり、破断伸度は向上しやすい。なお、d25、d75は、粒度分布の累積度数がそれぞれ25%、75%の粒子径の値であり、本明細書においては、d25が粒径の大きい方となる。
【0054】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスに用いる微粒子(B1)と第二のワニスに用いる微粒子(B2)とは、同じものを用いてもよいし、互いに異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。また、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、(B1)が100~1000nm(より好ましくは100~600nm)、(B2)が500~2000nm(より好ましくは700~2000nm)のものを用いることが好ましい。(B1)の微粒子の粒径に(B2)より小さいものを用いることで、得られる多孔質ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の孔の開口割合を高く均一にすることができ、且つ、多孔質ポリイミド系樹脂多孔質膜全体を(B1)の微粒子の粒径とした場合よりも多孔質膜(膜)の強度を高めることができる。
【0055】
本発明では、ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、上記微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドと微粒子とを一層均一に混合でき、更には、成形又は成膜した前駆体膜中の微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られるポリイミド系樹脂多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、且つ、ポリイミド系樹脂多孔質膜の透気度が向上するように、該多孔質膜の表裏面を効率よく連通させる連通孔を形成することが可能となる。
【0056】
本発明で用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0057】
<ポリアミド酸>
本発明に用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50~1.50モル用いるのが好ましく、0.60~1.30モル用いるのがより好ましく、0.70~1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0058】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0059】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-へキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0060】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0061】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0062】
フェニレンジアミンはm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等である。
【0063】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0064】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1~6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0065】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(p-アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ぺンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0066】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0067】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0068】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5-ジアミノナフタレン及び2,6-ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0069】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンを挙げることができる。
【0070】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0071】
カルド型フルオレンジアミン誘導体の例としては、9,9-ビスアニリンフルオレン等を挙げることができる。
【0072】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2~15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0073】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0074】
本発明で使用されるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0075】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。なかでも、前記含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤の組み合わせが好ましい。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0077】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。また、成膜性等の観点から、γ-ブチロラクトン等のラクトン系極性溶剤を添加した混合溶剤としてもよく、有機溶剤全体に対し1~20質量%添加されていることが好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0078】
重合温度は一般的には-10~120℃、好ましくは5~30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3~24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000~100000cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000~70000cPの範囲である。
【0079】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0080】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチルー1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0081】
本発明で用いられる、有機溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、有機溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中Arはアリール基を示す。
【化3】
【化4】
【0082】
<ポリアミドイミド>
本発明に用いるポリアミドイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0083】
また、本発明に用いるポリアミドイミドは、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとを反応させて得られるものや、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを特に限定されることなく使用できる。
【0084】
上記任意の無水トリメッと酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0085】
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0086】
上記任意のジアミンとしては、前記ポリアミド酸の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0087】
<有機溶剤>
ワニスに用いられる有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したものが挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
ワニス中の全成分のうち、混合溶剤(S)の含有量は、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~85質量%となる量である。ワニスにおける固形分濃度が好ましくは5~50質量%、より好ましくは15~40質量%となる量である。
【0089】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスにおけるポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を19:81~45:65とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に65以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以内であれば粒子同士が凝集することもなく分散するため、ポリイミド系樹脂成形膜の基板側面に孔を均一に形成することができる。また、第二のワニスにおける、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を20:80~50:50とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に50以上であれば、粒子単体が均一に分散し、また、80以内であれば粒子同士が凝集することもなく、また、表面にひび割れ等が生じることもないため、安定して応力、破断伸度等の機械的特性の良好なポリイミド系樹脂多孔質膜を形成することができる。
【0090】
上記の体積比については、第二のワニスは、上記第一のワニスよりも微粒子含有比率の低いものであることが好ましく、上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜、及びポリイミド系樹脂多孔質膜の強度や柔軟性を担保することができる。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、製造コストの低減を図ることができる。
【0091】
上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性等を目的とし、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤等、適宜、公知の成分を必要に応じて含有させることができる。
【0092】
[未焼成複合膜の製造]
ポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜の成形は、成膜の場合、基板上へ上記のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~100℃)、より好ましくは常圧下60~95℃(更に好ましくは65~90℃)で乾燥して行う。塗布膜厚は、例えば、1~500μmであり、5~50μmが好ましい。なお、基板上には必要に応じて離型層を設けてもよい。また、未焼成複合膜の製造において、後述のポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の製造(焼成工程)の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0093】
上記離型層は、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行って作製することができる。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥したポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜を基板より剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存する。この残存した離型剤は、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の濡れ性や不純物混入に影響し得るため、これを取り除いておくことが好ましい。
【0094】
そこで、上記基板より剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては、洗浄液に未焼成複合膜を浸漬した後取り出す方法、シャワー洗浄する方法等の公知の方法から選択することができる。更に、洗浄後の未焼成複合膜乾燥するために、洗浄後の未焼成複合膜を室温で風乾する、恒温槽中で適切な設定温度まで加温する等、公知の方法が制限されることなく適用できる。例えば、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0095】
一方、未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や未焼成複合膜の洗浄工程を省くことができる。
【0096】
また、2層状の未焼成複合膜として形成する場合、まず、ガラス基板等の基板上にそのまま、上記第一のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~90℃)、より好ましくは常圧10~100℃(更に好ましくは10~90℃)で乾燥して、膜厚1~5μmの第一未焼成複合膜の形成を行う。
【0097】
続いて、形成した第一未焼成複合膜上に、上記第二のワニスを塗布し、同様にして、0~80℃(好ましくは0~50℃)、より好ましくは常圧10~80℃(更に好ましくは10~30℃)で乾燥を行い、膜厚5~50μmの第二未焼成複合膜の形成を行い、2層状の未焼成複合膜を得る。
【0098】
[ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
上記乾燥後の未焼成複合膜(又は2層状の未焼成複合膜、以下同様)に加熱による後処理(焼成)を行ってポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜)とすることができる。ワニスにポリアミド酸を含む場合、焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。なお、焼成工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、焼成工程は行われなくてもよい。
【0099】
焼成温度は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド系樹脂の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120~400℃が好ましく、更に好ましくは150~375℃である。
【0100】
焼成を行うには、必ずしも乾燥工程と明確に工程を分ける必要はなく、例えば、375℃で焼成を行う場合、室温~375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥-熱イミド化法を用いることもできる。その際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0101】
できあがったポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、例えば膜の場合、マイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均厚さが好ましいかは、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜又はポリイミド系樹脂多孔質膜の用途によって異なるが、例えば、分離材、吸着材等に使用する場合は、薄い方が好ましく、例えば1μm以上であってもよく、5~500μmであることが好ましく、8~100μmであることが更に好ましい。
【0102】
[微粒子除去工程(ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の多孔質化)]
ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、微細孔を有するポリイミド系樹脂多孔質膜を再現性よく製造することができる。例えば、微粒子として、シリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水(HF)等によりシリカを溶解除去することで、多孔質とすることが可能である。また、微粒子が樹脂微粒子の場合は、上述のような樹脂微粒子の熱分解温度以上で、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱し、樹脂微粒子を分解させてこれを取り除くことができる。
【0103】
[イミド結合開環工程]
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法は、上述のようにイミド結合開環工程を含むものであってよいが、具体的には、(a)微粒子除去工程の前に、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜にイミド結合開環工程を施すか、又は、(b)微粒子除去工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド系樹脂成形膜にイミド結合開環工程を施すことを含む方法により行うことができる。上記製造方法としては、前者の(a)の方法であっても、ポリイミド系樹脂成形膜の外表面及びその近傍に存在するイミド結合を開環することができ、本発明の目的を達成することができるが、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、後者の(b)の方が好ましい。
【0104】
上記イミド結合開環工程は、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組合せた方法により行うことができる。ケミカルエッチング法としては特に限定されず、例えば従来公知の方法を用いることができる。
【0105】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0106】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01~20質量%である。
【0107】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング等が使用できる。
【0108】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後の何れのイミド結合開環工程にも適用可能であるので好ましい。なお、微粒子除去工程後にケミカルエッチング法を行う場合は、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の連通孔を形成しやすく、開孔率を向上させることができる。
【0109】
また、イミド結合開環工程として、ケミカルエッチング法を行う場合は、余剰のエッチング液成分を除去するため、再度ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄工程を行ってもよい。
ケミカルエッチング後の洗浄としては、水洗単独でもよいが、酸洗浄及び/又は水洗を組み合わせることが好ましい。
また、ポリイミド系樹脂多孔質膜の表面の有機溶媒への濡れ性向上及び残存有機物除去のため、ポリイミド系樹脂多孔質膜の再度焼成工程を行ってもよい。焼成条件は、[ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の製造(焼成工程)]における焼成条件と同様、適宜設定すればよい。
【0110】
[液体の具体的な精製方法]
本発明の液体の精製方法は、該液体の一部又は全部を、上述のポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜の一方の側から他方の側へ差圧により透過させることを含む。
【0111】
本発明の液体の精製方法において、該液体の一部又は全部を、上述のポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側から他方の側へ透過させる方法としては、通常、ポリイミド系樹脂多孔質膜を分離材ないし吸着材として用いて、該液体の一部又は全部をろ過することにより行うことができる。分離材ないし吸着材として用いられるポリイミド系樹脂多孔質膜は、後述のフィルターデバイスに組み込まれていてもよい。
【0112】
ポリイミド系樹脂多孔質膜を本発明の液体の精製方法において使用する形式については、平面状又はポリイミド系樹脂多孔質膜の相対する辺を合わせたパイプ状が挙げられる。パイプ状のポリイミド系樹脂多孔質膜は更にヒダ状にすることが供給液と接触する面積が増えるため好ましい。ポリイミド系樹脂多孔質膜は、後述のとおり供給液と濾液とが混在しないように適宜封止処理が施される。
【0113】
液体の精製は、上述のポリイミド系樹脂多孔質膜を用いて、差圧なし、即ち、重力による自然濾過によっても行うことができるが、差圧により行うことが好ましい。差圧としては、ポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側と他方の側との間に圧力差を設けるものであれば特に限定されないが、通常、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(供給液側)に圧力を加える加圧(陽圧)、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(濾液側)を負圧にする減圧(陰圧)等が挙げられ、加圧が好ましい。
【0114】
加圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過させる前の液体(本明細書において「供給液」ということがある)が存在する、ポリイミド系樹脂多孔質膜の側(供給液側)に圧力を加えるものであり、例えば、供給液の循環若しくは送液で生じる流液圧の利用又はガスの陽圧を利用することにより圧力を加えるものが好ましい。流液圧は、例えば、ポンプ(送液ポンプ、循環ポンプ等)等の積極的な流液圧付加方法により発生させることができ、具体的に、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、定量ポンプ、ケミカルポンプ、プランジャーポンプ、べローズポンプ、ギアポンプ、真空ポンプ、エアーポンプ、液体ポンプ等が挙げられる。流液圧としては、例えば、重力のみに従ってポリイミド系樹脂多孔質膜に液体を透過させる際に該液体によりポリイミド系樹脂多孔質膜に加えられる圧力であってもよいが、上記積極的な流液圧付加方法により圧力が加えられるものが好ましい。加圧に用いるガスとしては、供給液に対し不活性又は非反応性のガスが好ましく、具体的には、窒素、又はヘリウム、アルゴン等の希ガス等が挙げられる。電子材料、特に、半導体等の製造分野においては、加圧が好ましく、その場合、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過した液体を集める側は減圧しない大気圧でよく、加圧としては、ガスによる陽圧が好ましい。なお、上記加圧方法において、加圧バルブ又は加圧弁若しくは三方弁等の弁を介してもよい。
減圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を透過した液体を集める側(濾液側)を減圧するものであり、例えば、ポンプによる減圧であってもよいが、真空にまで減圧することが好ましい。
ポンプによる供給液の循環若しくは送液を行う場合、通常、ポンプは、供給液漕(又は循環漕)とポリイミド系樹脂多孔質膜との間に配置される。
【0115】
加圧は、流液圧とガスの陽圧との両方を利用するものであってもよい。また、差圧は、加圧と減圧とを組合せてもよく、例えば、流液圧と減圧との両方を利用するもの、ガスの陽圧と減圧との両方を利用するもの、流液圧及びガスの陽圧と減圧とを利用するものであってもよい。差圧を設ける方法を組み合せる場合、製造の簡便化等の点で、流液圧とガスの陽圧との組合せ、流液圧と減圧との組合せが好ましい。本発明においては、ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いるので、差圧を設ける方法として、例えば、ガスによる陽圧等の1つの方法であっても、不純物除去性能に優れた精製を行うことができる。
【0116】
差圧を設けることによりポリイミド系樹脂多孔質膜の前後に付与される圧力差は、使用するポリイミド系樹脂多孔質膜の膜厚、空隙率若しくは平均孔径、又は所望の精製度、流量、流速、又は供給液の濃度若しくは粘度等により適宜設定すればよいが、例えば、いわゆるクロスフロー方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して平行に供給液を流す)の場合は、例えば3MPa以下であり、いわゆるデッドエンド方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して交差するように供給液を流す)の場合、例えば、1MPa以下である。下限値は特に限定されず、例えば、10Paである。
【0117】
本発明の液体の精製方法において、液体の一部又は全部をポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側から他方の側へ透過させる際、液体が溶質を含む場合は希釈液により供給液を適宜希釈してもよい。
【0118】
本発明の液体の精製方法において、供給液を透過させる前に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄又は供給液に対する濡れ性向上又はポリイミド系樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のためにメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜に接触させて通液させてもよい。
供給液を透過させる前の上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触においては、上記溶液にポリイミド系樹脂多孔質膜を含浸ないし浸漬させてもよく、ポリイミド系樹脂多孔質膜を溶液と接触させることによって、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させることができる。供給液を透過させる前の上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触は、上述の差圧により行ってもよく、特に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させる場合、加圧下により行ってもよい。
【0119】
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有していてもよい、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする多孔質膜であり、上述のように多孔質の程度の高い多孔質膜であるので、分離材、吸着材として好適に使用することができる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、連通孔を有する多孔質膜であり、上述のように、好ましくは、内面に曲面を有する孔が形成している連通孔を有する多孔質膜であり、より好ましくは、略球状孔が相互に連通した構造を含む連通孔を有する多孔質膜であるので、該多孔質膜に液体を透過させると、液体に含有される常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部が該液体から除去されることが可能となる。
【0120】
本明細書において、「常温で固体の元素」とは、常温、例えば室温、具体的には20℃において固体である単体を構成する元素を意味する。例えば、元素がFeである場合、Fe元素の単体である、金属としての鉄が常温で固体であるので、本発明における「常温で固体の元素」に該当する。「常温で固体の元素」は、通常、金属元素、半金属元素、一部の非金属元素が挙げられる。金属元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属;Be、Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の周期律表の3~11族に属する遷移金属;Zn、Al、Ga、Sn等の周期律表の12~15族に属する金属等が挙げられる。半金属元素としては、例えば、B、Si、Ge、As、Sb、Te、Po等が挙げられる。一部の非金属元素としては、C、P、S、I等が挙げられる。本発明において「常温で固体の元素」としては、金属元素、半金属元素が好ましく、金属元素がより好ましく、鉄及び/又は亜鉛が更に好ましい。
【0121】
本明細書において、「常温で固体の元素を含む不純物」とは、上記「常温で固体の元素」を含む不純物を意味し、該元素の単体であってもよいし、該元素を含む複数の元素からなる化合物であってもよい。
【0122】
本発明の液体の精製方法は、例えば、半導体等の電子材料の製造分野において薬液等から除去するニーズが高い点で、上記不純物が金属元素を含む金属不純物である場合、特に好適に適用することができる。本発明においてポリイミド系樹脂多孔質膜を用いることにより、処理前の液体に存在する金属粒子等の微小な物質が、該多孔質膜が有する孔及び/又は連通孔に吸着しやすいものと考えられる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、また、更に、カルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有するものであってもよく、これらの基が備える電荷又はクーロン力により、流体に含まれる金属粒子、例えば金属イオンや金属凝集体(例えば、金属酸化物の凝集体、金属と有機物との凝集体)を吸引しやすく、多孔質膜における孔及び/又は多孔質膜への吸着を助長することができるものと考えられ、また、イオン交換膜としても機能することができるものと考えられる。
【0123】
本発明の液体の精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、上記のとおり多孔質の程度が高く、連通孔を有する多孔質膜であるので、分離及び/又は吸着により、常温で固体の元素を含む不純物の一部又は全部を処理前の液体から取り除くものと考えられる。本明細書において、「分離」とは、ろ過、単離、除去、捕捉、精製及び篩いからなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよく、例えば排水処理にも利用可能である。本発明の液体の精製方法は、ポリイミド系樹脂多孔質膜が有する孔及び/又は連通孔等に微小物質を吸着することにより、該微小物質を含有していた液体から該微小物質を分離する処理のように、分離と吸着との両方を行うこととなる処理にも好適に使用することができる。
【0124】
本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、上述のように、好ましくは数百ナノメートル単位の平均孔径を有する孔を含有する多孔質膜であるので、例えばナノメートル単位の微小物質をも、多孔質膜における孔及び/又は連通孔に吸着ないし捕捉することができる。そのため、該ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いる本発明の液体の精製方法は、非常に精緻な不純物除去が要求される電子材料、特に、半導体製造分野においても適用することができ、例えば半導体製造に用いられる薬液又は洗浄液等の各種液体から不純物の分離及び/又は吸着を行う各種精製方法に好適に適用することができる。このような薬液又は洗浄液としては、特に限定されないが、例えば、基板を改質するための保護膜形成用薬液、シリコンウエハの洗浄液等の薬液、レジスト組成物等の感光性材料を含む薬液、及び樹脂溶液等の感光性材料の原料薬液の中に含まれる不純物、例えば鉄、亜鉛等の汚染金属を非常に高い除去率で除去することができる。
【0125】
本発明の液体の精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、例えば、フィルターメディアその他の濾材として使用することができ、具体的には、単独で用いてもよいし、濾材として用いて他の機能層(メンブレン)を付与してもよいし、また、他の濾材に組み合わせるメンブレンとして用いてもよく、例えば、フィルターデバイス等に用いられるメンブレンとして使用することもできる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜と組み合わせて用いることができる機能層としては特に限定されず、例えば、ナイロン膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜又はこれらを修飾した膜等の化学的又は物理化学的な機能を備えるもの等が挙げられる。
【0126】
本発明の液体の精製方法において、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、例えば半導体製造分野において用いられる金属フィルター等のフィルターメディアとして使用することができ、また、該フィルターメディアと他の濾材とを含む積層体としても使用することができ、フィルターデバイスとしても使用することができる。フィルターデバイスとしては特に限定されないが、フィルターデバイスにおいて、ポリイミド系樹脂多孔質膜は、供給液と濾過液とが交差するように配置される。液体流路との関係においては、流路と並行に配置してもよいし交差するように配置してもよい。供給液が濾過液と分離されるように、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通液する前後の領域は、適宜シーリングされる。例えば、シーリングの方法として、本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜を、必要に応じて、光(UV)硬化による接着若しくは熱による接着(アンカー効果による接着(熱溶着等)を含む))、若しくは接着剤を用いた接着等により加工してもよく、又は本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜と他の濾材(フィルタ)とを例えば組み込み法等により接着して用いることができ、これらのポリイミド系樹脂多孔質膜を更に、ポリエチレン、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂等からなる外側容器に備えて用いることができる。
【0127】
上述の、本発明の第三の態様であるフィルターメディアは、本発明の液体の精製方法に用いられるポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜からなるフィルターメディア、及び、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質膜を含むフィルターデバイスもまた、本発明の一つである。
【0128】
本発明の液体の精製方法は、半導体製造分野に用いられる上述の薬液等に含まれる金属を除去するために好適に使用することができ、金属としては、特に鉄、亜鉛の除去率が高く、後述のメタル除去率が鉄については例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更により好ましくは98%以上とすることができ、亜鉛については例えば45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上とすることができるが、純水に含有される亜鉛については例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上とすることができ、イミド結合開環工程を経たポリイミド系樹脂多孔質膜を用いる場合、例えば95%以上、好ましくは98%以上とすることもできる。メタル除去率の上限は、高いほど好ましいので特に設定されないが、鉄については例えば100%未満、通常、液体が有機溶剤の場合は99.5%以下、液体が純水の場合は99%以下とすることができ、亜鉛については例えば100%以下とすることができ、場合により99%以下となることもある。
【0129】
また、本発明の液体の精製方法は、半導体製造分野に用いられる上述の薬液等に含まれる金属等の不純物を除去するために使用する場合、薬液等の流体の流速を高く維持して不純物除去を行うこともでき、その場合の流速としては特に限定されないが、例えば、室温において0.08MPaで加圧した場合の純水の流速が1ml/分以上であればよく、好ましくは3ml/分以上、より好ましくは5ml/分以上、特に好ましくは、10ml/分以上である。上限は特に限定されず、例えば、50ml/分以下とすることができる。本発明の液体の精製方法は、このように流速を高く維持しながら、不純物の除去率も高く維持することができる。
【0130】
本発明の液体の精製方法は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とするポリイミド系樹脂多孔質膜を用いるので、薬液等の流体の流速を高く維持することができ、また、薬液等の液体を常時循環しながらポリイミド系樹脂多孔質膜を透過させる、循環型の精製にも好適に適用することができる。本発明におけるポリイミド系樹脂多孔質膜は、応力、破断伸度等の機械的特性にも優れており、例えば、応力は、例えば10MPa以上が好ましく、より好ましくは15MPa以上、更に好ましくは15~50MPaとすることができ、また、破断伸度は、例えば10%GL以上、好ましくは15%GL以上とすることができる。破断伸度の上限は、例えば50%GL、好ましくは45%GL、より好ましくは40%GLとすることができるが、空隙率を下げると、破断伸度が高くなる傾向がある。
【0131】
[薬液又は洗浄液の製造方法]
本発明の第二の態様である、薬液又は洗浄液の製造方法は、本発明の第一の態様の液体の精製方法を用いる。本発明の第一の態様の液体の精製方法が上述のように精製効果に優れた方法であるので、かかる液体の精製方法を用いる、本発明の第二の態様の製造方法は、不純物の含有量が低減された薬液又は洗浄液を製造することができる。
【実施例
【0132】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例3及び実施例4は、それぞれ参考例3及び参考例4と読み替えるものとする。後記の表1においても同様である。
【0133】
実施例及び比較例では、以下に示すテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、ポリアミド酸、ポリアミドイミド、有機溶剤、分散剤及び微粒子を用いた。なお、シリカ(1)の粒径分布指数(d25/75)は約3.3であり、シリカ(2)の粒径分布指数(d25/75)は約1.5である。
・テトラカルボン酸二無水物:ピロメリット酸二無水物
・ジアミン:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
・ポリアミド酸溶液:ピロメリット酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの反応物(固形分21.9質量%(有機溶剤:N,N-ジメチルアセトアミド))
・有機溶剤(1):N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)
・有機溶剤(2):ガンマブチロラクトン
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子:シリカ(1):平均粒径700nmのシリカ
シリカ(2):平均粒径300nmのシリカ
・エッチング液(1):
メタノール:水(質量比3:7)の混合液のNaOH 1.1質量%溶液
・エッチング液(2):
メタノール:水(質量比4:6)の混合液の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH) 1.0質量%溶液
【0134】
<実施例1~4> ポリイミド多孔質膜
[シリカ分散液の調製]
有機溶剤(1)23.1質量部及び分散剤0.1質量部の混合物に、表1に示す平均粒径を有するシリカ(1)又はシリカ(2)を23.1質量部添加し、撹拌してシリカ分散液を調製した。
【0135】
[ワニスの調製]
ポリアミド酸溶液41.1質量部に、シリカ分散液の調製で得たシリカ分散液を42.0質量部添加し、更に有機溶剤(1)及び(2)をワニス全体における溶剤組成が有機溶剤(1):有機溶剤(2)=90:10となるようにそれぞれ追加し、撹拌してワニスを調製した。なお、得られたワニスにおけるポリアミド酸とシリカとの体積比は40:60(質量比は30:70)である。
【0136】
[未焼成複合膜の成膜]
上記のワニスを、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにアプリケーターを用い成膜した。90℃で5分間プリベークして、膜厚40μmの未焼成複合膜を製造した。水に3分間浸漬したのち、2本のロール間に未焼成複合膜を通して、未焼成複合膜をプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm、ロール温度は80℃、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。基材から未焼成複合膜を剥離して未焼成複合膜を得た。
【0137】
[未焼成複合膜のイミド化]
上記未焼成複合膜を表1に記載した温度で各15分間加熱処理(焼成)を施すことにより、イミド化させ、ポリイミド-微粒子複合膜を得た。
【0138】
[ポリイミド多孔質膜の形成]
上記で得たポリイミド-微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、ポリイミド多孔質膜を得た。
【0139】
[ケミカルエッチング]
実施例1及び2において、イミド結合開環工程として、ポリイミド多孔質膜をケミカルエッチング液(1)に2分間浸漬してイミド結合開環工程を施し、ポリイミド多孔質膜を得た。その後、表1に示す温度及び時間で再焼成を行った。
実施例3及び4においては、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチング及びその後の再焼成を行わなかった。
【0140】
<比較例1~2> 他の樹脂の多孔質膜
比較例1としてポリアミド(ナイロン)製多孔質膜(孔サイズ:約10nm以下、膜厚約75μm)、比較例2としてポリエチレン製多孔質膜(孔サイズ:約10nm以下、膜厚約50μm)をそれぞれ用意した。
【0141】
<評価>
上記により用意した各多孔質膜について下記評価を行った。
【0142】
[イミド化率]
イミド結合開環工程としてケミカルエッチング処理を行った多孔質膜については上述のように表1に示す温度で15分間再焼成したのち、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値(前述のX2)を求めた。各多孔質膜と同様のワニスにより作成した多孔質膜(実質的にイミド化反応が完結した、ケミカルエッチング処理を行わない膜)について測定した値(前述のX1)を求め、不変化率(%)を求めた。各不変化率とX2との値について、それぞれ表1に併記する。
【0143】
[応力及び破断伸度]
用意した各多孔質膜を3cm×3mmの大きさに切り出して短冊状のサンプルを得た。このサンプルの破断時の応力(MPa;引張強度)及び破断伸度(%GL)を、EZ Test(島津製作所社製)を用いて評価した。結果を表1に表す。
【0144】
[メタル除去率及び流速]
用意した各多孔質膜を直径47mmの円形に切り取ってろ材として用い、ハウジングセットした後、200mLのイソプロピルアルコールを通液させた。その後、鉄及び亜鉛を純水(DIW)又はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)に添加して調製した金属不純物含有液を、該液の鉄、亜鉛の各含有量(A)を測定したのち、0.08MPaで窒素加圧しながら通液し、各金属不純物含有液の通液にかかった時間を測定し流速(ml/分)を求めた。結果を表1に表す。
通液後の液の鉄、亜鉛の各含有量(B)を測定し、下記式で表される値をメタル除去率(%)とし、以下の基準で評価した。結果を表1に表す。
(A-B)/B×100
但し、ポリエチレン製多孔質膜は、0.08MPaでは膜が破れてメタル除去率を計算できなかったので、0.04MPaで窒素加圧して通液した際のメタル除去率(%)を参考値として示す。
【0145】
[ガーレー透気度]
上記の各多孔質膜に対して、厚さ約40μmのサンプルを、5cm角に切り出した。ガーレー式デンソメーター(東洋精機社製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。結果を表1に表す。
【0146】
[耐溶剤性]
実施例1~4と同じ各ポリイミド多孔質膜の試験片を用意し、酢酸ブチルとシクロヘキサノンに室温で24時間浸漬した後の影響を確認した。具体的に、浸漬前の引張強度を100%とした場合の浸漬後の引張強度の低下率を求めた。引張強度は、上述の破断時の応力の測定方法と同様にして測定した。引張強度の低下率はいずれの溶媒でも1%未満であり、溶剤による影響がほとんどないことが確認できた。
【0147】
【表1】
【0148】
表1から、各実施例は概ねメタル除去率が比較例よりも優れており、特に、ナイロン製多孔質膜を用いた比較例1よりも遥かに優れることがわかった。また、各実施例は、加圧条件を下げた比較例2のポリエチレン製多孔質膜のメタル除去率と同等以上のメタル除去率であったことからも、メタル除去率が高い膜であることが確認できた。
また、各実施例は、DIWでは比較例1と同等以上、PGMEでは比較例2よりも速い流速であり、水系と溶剤系の何れにも適用可能な流速範囲であることが確認できた。
各実施例は、比較例よりも薄い膜厚で高い除去率と適正な流速を有していることから、フィルターメディア又はフィルターデバイスにポリイミド系樹脂多孔質膜を使用する際、メディアの薄膜化やデバイスの小型化が可能であり、ポリイミド系樹脂多孔質膜をヒダ状に加工する場合も何重にもヒダ化できるため、より高い除去性能を有するフィルターデバイスを作成することが可能となる。
実施例1及び実施例2と実施例3及び実施例4とから、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチングを行う方が、純水及びPGMEにおけるメタル除去率が向上することがわかった。
【0149】
各実施例のメタル除去率は、純水の場合はFe及びZnはほぼ同等であるが、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチングを行う場合、Znの方がFeよりも若干高く、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチングを行わない場合、逆にFeの方がZnよりも若干高いことがわかった。
実施例1及び実施例3と、実施例2及び実施例4とから、イミド結合開環工程としてのケミカルエッチングによりイミド化率を下げると、メタル除去率(吸着率)を良好に維持したまま、流速の向上が可能になることがわかった。
【0150】
ナイロン製多孔質膜を用いた比較例1では、特にPGMEにおける流速を高くすることができたが、メタル除去率は遥かに低いことがわかった。
ポリエチレン製多孔質膜を用いた比較例2では、上述の[流速]に関して記載したように0.08MPaの窒素加圧で膜が破れてしまったので、表1に示すPGMEにおけるFeのメタル除去率は、0.04MPaの窒素加圧下としたため、流速は2ml/分よりも更に遅くなり、かかる遅い流速ゆえに他の速い流速で行った各実施例よりも有利な条件となりFeの除去が進んだものと推察される。
以上のように従来のナイロン製多孔質膜を用いた比較例1及びポリエチレン製多孔質膜を用いた比較例2では、速い流速と高いメタル除去率との両立が不可能であることがわかった。
【0151】
また、耐溶剤性の試験から、ポリイミド多孔質膜は酢酸ブチルとシクロヘキサノンへの耐性があることが確認できた。一般的に、酢酸ブチルはポリエチレン系フィルターへの使用が敬遠されており、シクロヘキサノンは、ポリエチレン系フィルター及びナイロン系のフィルターにおいて使用が敬遠されているため、これらの溶剤を精製する場合にポリイミド多孔質膜をフィルターメディアとして適用できる可能性がある。
【0152】
<実施例5>
実施例2と同様のポリイミド多孔質膜を備えるフィルターデバイスを用意した。
【0153】
<実施例6>
ケミカルエッチング液としてエッチング液(2)を用いた他は、実施例2と同様にしてポリイミド多孔質膜を得た。得られたポリイミド多孔質膜の前述のX2のイミド化率は、1.51であった。ガーレー透気度は230秒であった。そのポリイミド多孔質膜を備えるフィルターデバイスを用意した。
【0154】
<比較例3>
ポリアミド(ナイロン)製多孔質膜(孔サイズ:約20nm)を備えるフィルターデバイス(Pall社製、Dispo)を用意した。
【0155】
<評価>
実施例5及び6並びに比較例3により用意した各フィルターデバイスについて、表2に示す通液対象を用いて、下記評価を行った。
[メタル除去率]
以下の樹脂溶液及び化学増幅型レジスト組成物を調製し、メタル除去率を評価した。メタル除去率は、上述のメタル除去率の評価と同様の式により求めた。通液前の樹脂溶液又は化学増幅型レジスト組成物の鉄含有量を(A)とし、用意した各フィルターデバイスによる通液後の液の鉄不純物量を(B)とした。ろ過条件は、いずれの場合も、室温で濾過圧1.0kgf/cm(9.8N/cm)とした。
【0156】
・樹脂溶液(1)~(3)
下記高分子化合物(1)~(3)をそれぞれ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:プロピレングリコールモノメチルエーテル=60:40(質量比)の混合溶剤に溶解した4質量%の樹脂溶液。
【0157】
【化5】
[Mw:7000、 l:m:n=40:40:20(モル比)]
【0158】
【化6】
[Mw:7000、 l:m:n=40:40:20(モル比)]
【0159】
【化7】
[Mw:7000、 l:m:n:o:p=35:27:18:13:7(モル比)]
【0160】
・化学増幅型レジスト組成物(1)
上記高分子化合物(1)100質量部と、下記酸発生剤(1)3.6質量部と、トリ-n-オクチルアミン0.4質量部とを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:プロピレングリコールモノメチルエーテル=60:40(質量比)の混合溶剤と、混合し、高分子化合物(1)の固形分濃度が約7%になるように調製して化学増幅型レジスト組成物(以下、「レジスト(1)」ということがある。)を得た。
【0161】
【化8】
【0162】
【表2】
【0163】
表2から、各実施例は、通液対象が樹脂溶液やレジスト組成物の場合でも、メタル除去率が比較例よりも遥かに優れることがわかった。