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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】シリカ-チタニア複合酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/20 20060101AFI20220608BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C01B33/20
C08K3/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018207067
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020070223
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慶二
(72)【発明者】
【氏名】上野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】青木 博男
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036168(JP,A)
【文献】特表2013-518801(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114956(WO,A1)
【文献】特開2016-044192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(1)~(4)を全て満足することを特徴とするシリカ-チタニア複合酸化物粒子。
(1)含有されるSiとTiの合計に対するTiモル比が0.01~17mol%
(2)結晶型が非晶質
(3)波長589nmでの屈折率が1.47~1.61
(4)遠心沈降法により得られる質量基準粒度分布の累積10質量%径(D10)、累積25質量%径(D25)、累積50質量%径(D50)、累積75質量%径(D75)及び累積90質量%径(D90)が以下の関係にある
(D90-D50)/D50が0.3~0.5
(D75-D50)/(D50-D25)が1.0~1.3
(D90-D50)/(D50-D10)が1.0~1.7
【請求項2】
窒素吸着BET1点法による比表面積が25~150m/gであることを特徴とする請求項1に記載のシリカ-チタニア複合酸化物粒子。
【請求項3】
1次粒子が球状であることを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載のシリカーチタニア複合酸化物粒子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか1項記載のシリカ-チタニア複合酸化物粒子を含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシリカ-チタニア複合酸化物粒子に関する。詳しくは、結晶型が非晶質で、チタニア相の局所的な相分離がなく均一で、粒子径分布が多分散である、シリカ-チタニア複合酸化物粒子に関する。本発明は、特に、光学材料のフィラーや添加材として、好適に使用できる新規なシリカ-チタニア複合酸化物粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化による省エネルギー化を目指して、金属やガラス製部材から樹脂への置き換えが進められている。一般に樹脂単独では機械的特性が劣るため、フィラーなどを加えることで特性を向上させている。光学材料については、透明な樹脂に対して、樹脂材料とフィラーの屈折率を合わせることで樹脂の透明性を保つことができるため、屈折率を調整できるフィラーが望まれている。
【0003】
シリカ-チタニア複合酸化物は、熱膨張係数が低く、チタニアの含有率を変えることにより屈折率の微調整が可能であるなどの優れた性質を持っている。一方、シリカ-チタニア複合酸化物は成分のシリカとチタニアが粒子内で分相する結果、これを充填した樹脂複合材料が白濁するといった問題がある。
【0004】
従来、気相反応によるシリカ-チタニア複合酸化物粒子の製造方法としては四塩化ケイ素ガスと四塩化チタンガスを火炎中で火炎加水分解する方法(特許文献1、2参照)、シリカ粉末と金属酸化物粉末とを可燃性液体に分散してなるスラリーを噴霧燃焼する方法(特許文献3参照)、ケイ素アルコキシドとチタンアルコキシドを加水分解、重縮合させる方法(ゾルゲル法)(特許文献4参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、四塩化ケイ素ガスと四塩化チタンガスを火炎中で火炎加水分解する方法では、原料中に含まれる塩素分が粒子内外に残存する為、電子材料用途として利用できない。また、合成された複合酸化物のチタン成分がルチル結晶もしくはアナタ-ゼ結晶となり分相している為、屈折率の調整は困難である。シリカ粉末と金属酸化物粉末とを可燃性液体に分散してなるスラリーを噴霧燃焼する方法では、シリカ及び金属酸化物の融点が異なる為、原料粉体の粒度分布が広くなり、樹脂中で光散乱が大きくなり透過率が低下してしまう。一方、ゾルゲル法では、単分散の粒子ができるという特徴より、用途によっては充填した樹脂複合材料中で構造色が発現し透明性を失うことがある。また、固液分離、乾燥、焼成といった工程が必要であるため、安価な製造プロセスではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5300854号公報
【文献】特許第4188676号公報
【文献】特許第3525677号公報
【文献】特開2008-37700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、非晶質であり、粒子内においてシリカ成分とチタニア成分との極めて均一な組成を実現でき、樹脂へ充填した組成物において、極めて高い透明性を発揮することが可能で、また、多分散の球状粒子であることより、樹脂への充填性と分散性に優れた、シリカ-チタニア複合酸化物粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明等は上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、このようなシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合物の燃焼によって生成させた後、当該燃焼火炎中および火炎近傍にて成長、凝集せしめることで得られることを見出し、当該シリカ-チタニア複合酸化物粒子を合成するための条件をさらに調整することで、前記課題を達成したシリカ-チタニア複合酸化物粒子を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の条件を全て満足することを特徴とするシリカ-チタニア複合酸化物粒子である。
【0010】
(1)含有されるSiとTiの合計に対するTiモル比が0.01~17mol%
(2)結晶型が非晶質
(3)波長589nmでの屈折率が1.47~1.61
(4)遠心沈降法により得られる質量基準粒度分布の累積10質量%径(D10)、累積25質量%径(D25)、累積50質量%径(D50)、累積75質量%径(D75)及び累積90質量%径(D90)が以下の関係にある
(D90-D50)/D50が0.3~0.5
(D75-D50)/(D50-D25)が1.0~1.3
(D90-D50)/(D50-D10)が1.0~1.7
【0011】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子においては、窒素吸着BET1点法による比表面積が25~150m/gであることが、さらに好適な様態である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、非晶質であり、粒子内においてシリカ成分とチタニア成分との極めて均一な組成を実現でき、樹脂へ充填した組成物において、極めて高い透明性を発揮することが可能で、光学材料のフィラーや添加材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
図2】実施例2で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
図3】実施例3で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
図4】実施例4で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
図5】実施例5で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
図6】実施例6で製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、シリカ-チタニア複合酸化物粒子にかかわる。即ち、本発明の粒子は、シリカ(SiO)とチタニア(TiO)が三次元的に架橋して構成されているものである。
【0015】
本発明において、複合酸化物粒子に含まれるTiの割合(Tiモル比)は、SiとTiとの合計を100mol%とした際に、0.01~17mol%である。0.01mol%より少ないとTi含有の効果が殆ど得られず、実質的にシリカと同じ物性になる。一方、17mol%を超えるとシリカとチタニアが粒子内で分相しやすく、粒度分布が幅広くなる。好ましくは、5~15mol%である。
【0016】
複合酸化物粒子におけるTiモル比は、蛍光X線分析により把握することができる。
【0017】
さらに当該本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、
(A)結晶型が非晶質で、
(B)屈折率が所定の範囲内にあり、
(C)多分散の粒子である、
という特性を有する。以下、これらについて説明する。
【0018】
(A)結晶型
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、結晶型が非晶質である。シリカ-チタニア複合酸化物内に生成し得る結晶相として、アナターゼ型チタニアとルチル型チタニアが挙げられるが、シリカ-チタニア複合酸化物において結晶相が確認されることは、成分のシリカとチタニアが粒子内で分相していることを意味する。分相した場合は、粒子内で屈折率が変化するため、樹脂に充填した際に白濁が起こり、透明性を発揮することができない。
【0019】
シリカ-チタニア複合酸化物粒子の結晶型は、XRD測定によって特定される。
【0020】
(B)屈折率
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、波長589nm(ナトリウムのD線)での屈折率が1.47~1.61の範囲にある。好ましくは1.49~1.55である。当該屈折率はTiの割合が多いほど高くなる。
【0021】
なお当該屈折率は25℃におけるものである。但し、シリカ-チタニア複合酸化物粒子は熱的に安定であり、10℃程度であれば温度が変化しても、事実上屈折率は変化しない。
【0022】
上記屈折率は、屈折率の異なる液体にシリカ-チタニア複合酸化物粒子を分散させ、589nmでの透過率が最も高い液体の屈折率と等しいものとして把握できる。
【0023】
(C)多分散粒子
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は多分散であり、具体的には、遠心沈降法により得られる質量基準粒度分布から算出される累積50質量%径(以下、D50)及び累積90質量%径(以下、D90)の関係において、(D90-D50)/D50が0.3~0.5の範囲にある。
【0024】
この値が0.5を超える場合は粗大粒子の割合が多いことを意味し、粒子による散乱が多くなるため、樹脂に充填した際に白濁が起こり、透明性を発揮することができない。また0.3より小さい場合は単分散に近づくことを意味し、用途によっては充填した樹脂複合材料中で構造色が発現し透明性を失うことがある。
【0025】
また、累積10質量%径(以下、D10)、累積25質量%径(以下、D25)及び累積75質量%径(以下、D75)についても、(D75-D50)/(D50-D25)が1.0~1.3、(D90-D50)/(D50-D10)が1.0~1.7の範囲にあることが必要である。この範囲より大きい場合は微粉の割合が少ないことを意味し、小さい場合は微粉の割合が多いことを意味し、どちらも樹脂に充填した際に充填性が悪くなる。
【0026】
上記特性(A)~(C)を全て満足する本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、光学材料のフィラーや添加材として用いた場合、極めて高い透明性を発揮する。
【0027】
なお上記特性(A)~(C)に示す特性を全て満たすシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、従来製造された例はなく、後述する製造方法により、本発明者等によって初めて提供されたものである。
【0028】
例えば、四塩化ケイ素ガスと四塩化チタンガスを火炎中で火炎加水分解する方法では(A)と(B)を充足できず、シリカ粉末と金属酸化物粉末とを可燃性液体に分散してなるスラリーを噴霧燃焼する方法やゾルゲル法では(C)を充足できない。
【0029】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、前記特性を有するものであれば、その他の特性は特に制限されるものではないが、以下のような物性を有することが好ましい。
【0030】
透明性には粒子による散乱も影響する点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、窒素吸着BET1点法による比表面積(SBET)が25~150m/gであることが好適である。またD50は、10~120nmであることが好ましく、30~100nmであることがより好ましい。
【0031】
さらに、樹脂への充填性の向上、流動性の向上などの点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、1次粒子が球状であることが好適である。
【0032】
また色調は目視で白色であることがより好ましい。
【0033】
(シリカ-チタニア複合酸化物粒子の製造方法)
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子の製造方法は特に制限されないが、本発明者等の検討によれば、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合物の燃焼反応を利用する方法により製造することができる。
【0034】
シロキサン化合物としては、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の炭化水素基置換シロキサンが挙げられる。チタンアルコキシドとしては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-s-ブトキシチタン、テトラ-t-ブトキシチタンなどの有機チタン化合物が挙げられる。前記シロキサン化合物のうち一種類、あるいは複数種類と前記チタンアルコキシドのうち一種類、あるいは複数種類とを混合して使用することができる。
【0035】
ここで述べる製造方法によれば、製造されるシリカ-チタニア複合酸化物粒子におけるTiモル比は、原料混合物におけるTiモル比と概ね一致するから、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合割合は、目的値に一致するように各化合物におけるSi含有量、Ti含有量を考慮して用いればよい。
【0036】
シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合物の燃焼反応を利用する方法においては、本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子を製造する際のバーナの形状は特に限定されないが、同心円多重管バーナであることが、点火の容易さや燃焼安定性等の点で好ましい。同心円多重管バーナは、中心および中心管から同心円状に広がる複数の環状管より構成される。
【0037】
以下、中心管および2本の環状管から構成される同心円3重管バーナを用いた方法を詳述する。
【0038】
上記3重管バーナの中心管には、気化したシロキサン化合物とチタンアルコキシドと酸素を予め混合し導入する。この際、シロキサン、チタンアルコキシド、酸素の他に、窒素などの不活性ガスを混合してもよい。また、酸素源として空気を利用してもよい。
【0039】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子を得るためには、燃焼火炎は拡散火炎でないこと、中心管には原料と酸素と、窒素等の不活性ガスとのみの構成であることが必須である。上記以外のガスを導入すると粒度分布が幅広くなる。
【0040】
混合する酸素の量は、RO=(シロキサン化合物とチタンアルコキシドに混合する酸素量)/(化学量論的にシロキサン化合物とチタンアルコキシドが完全燃焼するに必要な酸素量)、及びO濃度=(中心管に導入した酸素量)/(中心管に導入した酸素量+中心管に導入した窒素量)を指標に調整することができる。
【0041】
より厳密には、上記ROは、下記式(1)によって定義される。
【0042】
RO=NO0/NDO0 式(1)
O0:中心管導入酸素量(Nm/h)
DO0:中心管に導入する可燃性物質が化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm/h)
【0043】
上記NDO0は、中心管に導入する可燃性物質、具体的にはシロキサン化合物及びチタンアルコキシドの導入量を以下のように定義し、かつ、シロキサン化合物及びチタンアルコキシドの化学構造に依存して要求される酸素量を係数として用いることにより算出できる。
【0044】
:中心管導入シロキサン量(Nm/h)
:中心管導入チタンアルコキシド量(Nm/h)
【0045】
例えば、シロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサンである場合、当該化合物はC24Siであるから、化学量論的に完全燃焼すると8CO+12HO+4SiOとなり、よって必要な酸素量(O量)は16モル倍である。また同様に、チタンアルコキシドがテトラ-i-プロポキシチタンである場合には、完全燃焼に必要な酸素量は18モル倍である。よって、これら化合物を原料とした場合のNDO0は以下のようになる。
【0046】
DO0=16N+18N
【0047】
なおNDO0は中心管に導入する可燃性物質全てを完全燃焼させるために必要な酸素量であるから、仮にシロキサン化合物及びチタンアルコキシド以外の可燃性ガスを導入した場合には、その寄与も考慮する必要がある。例えば、水素ガスを導入した場合には以下のようになる。
【0048】
RO=NO0/NDO=NO0/(16N+18N+0.5NH0
H0:中心管導入水素量(Nm/h)
【0049】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子を製造する際には、上記ROが0.2~2.0であることが好ましい。ROが0.2~2.0の範囲とすることにより、予め混合された酸素によって進行する粒子成長と、未燃焼の原料が第2環状管より導入される酸素と反応し進行する粒子成長が同時に進行するため、多分散の粒子が得られる。
【0050】
一方、ROが2.0より大きい場合は予め混合された酸素によって進行する粒子成長が大部分となり、粒度分布が幅狭くなる。ROが0.2より小さい場合は、原料の未燃焼が発生する。
【0051】
またO濃度は20~80%であることが好ましい。O濃度が80%より大きい場合は、火炎の逆火が発生する虞があり、燃焼が不安定である。O濃度が20%より小さい場合は不活性ガスにより粒子成長が阻害されるため、粒度分布が幅狭くなる。
【0052】
中心管の外側にある第1環状管には、燃焼補助火炎形成のため水素や炭化水素などの可燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガス、および/または酸素などの支燃性ガスを混合してもよい。第1環状管における可燃性ガスの量は、火炎が形成できる程度であれば適宜設定して良く、中心管における組成とは異なり得られる複合酸化物粒子の物性に影響を与えないが、安定した火炎を形成しやすい点で、好ましくは、下記式で定義される補助燃料比RSFLが0.005~0.5となるようにすることが望ましい。0.5より大きい場合は格別な効果はなく、経済的に不利になる。0.005より小さい場合は燃焼が不安定となり、火炎が形成されない。
【0053】
SFL=NDO1/NDO0
DO1:第1環状管に導入する可燃性物質が化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm/h)
【0054】
例えば、第1環状管に導入する可燃性ガスが水素ガスであり、その導入量を
H1:第1環状管導入水素量(Nm/h)
と定義した場合、NDO1は0.5NH1となる。そして、前記と同様にシロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサン、チタンアルコキシドがテトラ-i-プロポキシチタンである場合には、
SFL=0.5NH1/NDO0
=0.5NH1/(16N+18N+0.5NH0
=NH1/(32N+36N+NH0
となる。
【0055】
第1環状管の外側にある第2環状管には、燃焼補助火炎形成のため酸素などの支燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガスを混合しても良い。第2環状管における支燃性ガスの量は、火炎が形成できる程度であれば適宜設定して良く、中心管における組成とは異なり得られる複合酸化物粒子の物性に影響を与えないが、好ましくは、下記式で定義される支燃性酸素比Rcmbtsが0.1~2.0となるように供給することが望ましい。2.0より大きい場合は格別な効果はなく、経済的に不利になる。0.1より小さい場合は燃焼が不安定となり、火炎が形成されない。
【0056】
cmbts=NO2/NDO0
O2:第2環状管導入酸素量(Nm/h)
=0.21×第2環状管導入空気量(Nm/h)
【0057】
上記のようにして製造したシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、金属フィルター、セラミックフィルター、バックフィルター等によるフィルター分離やサイクロン等による遠心分離で燃焼ガスと分離させて、回収すればよい。
【0058】
上記のような製造方法は、水を主とする液体媒体中で粒子成長を行わせる湿式法に対比して乾式法、あるいは原料の燃焼によるため燃焼法とも呼ばれるが、極めて高い温度での燃焼を経由しているため、製造される粒子はゾルゲル法や沈降法などの湿式法と比べて、一般的に表面OH基の数が少ないことが特徴である。
【0059】
上記のようにして製造した本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、そのまま樹脂に配合し或いは溶媒に分散することもできるが、表面処理剤により表面処理して使用に供することもできる。
【0060】
即ち、本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、その用途に応じて、シリル化剤、シリコーンオイル、シロキサン類、金属アルコキシド、脂肪酸及びその金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理剤によって表面処理されていてもよい。
【0061】
具体的なシリル化剤として、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等のシラザン類等が挙げられる。
【0062】
また、シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、末端反応性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0063】
また、シロキサン類としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0064】
また、金属アルコキシドとしては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-i-プロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-s-ブトキシアルミニウム、トリ-t-ブトキシアルミニウム、モノ-s-ブトキシジ-i-プロピルアルミニウム、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-s-ブトキシチタン、テトラ-t-ブトキシチタン、テトラエトキシジルコニウム、テトラ-i-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、ジメトキシ錫、ジエトキシ錫、ジ-n-ブトキシ錫、テトラエトキシ錫、テトラ-i-プロポキシ錫、テトラ-n-ブトキシ錫、ジエトキシ亜鉛、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムイソプロポキシド等が挙げられる。
【0065】
また、更に脂肪酸及びその金属塩を具体的に例示すれば、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ヘプタデシル酸、アラキン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの長鎖脂肪酸が挙げられ、その金属塩としては亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウム等の金属との塩が挙げられる。
【0066】
上記表面処理剤を使用した表面処理の方法は公知の方法が何ら制限無く使用できる。例えば、シリカ-チタニア複合酸化物粒子を攪拌下に表面処理剤を噴霧するか、蒸気で接触させる方法が一般的である。
【0067】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、その屈折率が制御され非晶質であることを利用して、例えば、金属やガラスの代替樹脂や光半導体封止材、反射防止膜等のフィラーや添加剤として使用することができる。
【0068】
金属やガラスの代替樹脂に使用する場合には、用いる樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シクロオレフィン樹脂、アセチルセルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。
【実施例
【0069】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
なお、以下の実施例および比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
【0071】
(1)XRD測定
結晶構造はX線回折装置(株式会社リガク製smartLab)を用いて測定した。測定条件はCuKα線を用い、スキャン範囲2θ=10~90°、スキャンスピ-ド1°/min、ステップ幅0.02°とした。
【0072】
(2)XRF測定
シリカ-チタニア複合酸化物粒子中のシリカ含有量とチタニア含有量を蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX PrimusII)を用いて測定した。含有量は酸化物換算した値を用いた。
【0073】
(3)屈折率測定
粒子の屈折率は、液浸法によって測定した。即ち、異なる屈折率の溶媒(トルエン、1-ブロモナフタレン、1-クロロナフタレン、ジヨ-ドメタン、イオウ入りジヨードメタンなど)を適当に配合することにより任意の屈折率の混合溶媒を作り、その中に粒子を分散させて25℃において最も透明な粒子分散溶液の屈折率を粒子の屈折率とした。溶媒の屈折率はアッベの屈折率計を用いて25℃で589nmの波長の光を用いて測定した。分散液の透明性は、分散液の吸光度を紫外可視分光光度計(日本分光製V-650)で測定した。セルは光路長1cmの石英セルを使用し、測定温度25℃、波長589nmにおける吸光度が最も小さくなる粒子分散溶液の屈折率を試料の屈折率とした。
【0074】
(4)粒度分布
(測定サンプルの調製)
測定サンプルであるシリカ-チタニア複合酸化物の粒子濃度0.25質量%水懸濁液を、以下のように調製した。シリカ-チタニア複合酸化物粒子0.05gと蒸留水20mlをガラス製のサンプル管瓶(アズワン社製、内容量30ml、外径約28mm)に入れ、超音波細胞破砕器(BRANSON社製Sonifier II Model 250D、プローブ:1/4インチ)のプローブチップ下面が水面下15mmになるように試料入りサンプル管瓶を設置し、出力20W、分散時間3分の条件でシリカーチタニア複合酸化物粒子を蒸留水に分散し、測定サンプルであるサンプル濃度0.25質量%水懸濁液を調製した。
【0075】
(粒度分布測定)
CPSInstruments Inc.製のディスク遠心式粒度分布測定装置(DC24000)を用いて、質量基準粒度分布を測定した。なお測定条件は、回転数18000rmp、温度32℃、シリカーチタニア真密度を2.2g/cmとした。
【0076】
得られた質量基準粒度分布からD10とD25とD50とD75とD90を算出した。それぞれ、累積10質量%径と累積25質量%径とメジアン径と累積75質量%径と累積90質量%径である。
【0077】
(5)BET比表面積
柴田科学社製BET比表面積測定装置SA-1000を用い、窒素吸着BET1点法により測定した。これをSBETと記す。
【0078】
(6)電子顕微鏡観察
試料粉末を0.03g秤取し、30mlのエタノールに添加した後、超音波洗浄器を用いて、5分間分散させてエタノール縣濁液を得た。この縣濁液をシリコンウェハ上に滴下した後、乾燥させて、日立ハイテクノロジーズ製電界放射型走査電子顕微鏡S-5500を用いて、SEM観察を行った。
【0079】
実施例1
シロキサン化合物としてオクタメチルシクロテトラシロキサンを、チタンアルコキシドとしてテトラ-i-プロポキシチタンを原料として用いて3重管バーナで燃焼させ、乾式シリカ-チタニア複合酸化物粒子を製造した。
【0080】
オクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラ-i-プロポキシチタンは、Tiモル比が5.0となるように混合し、加熱気化させて酸素および窒素と混合し、473Kで中心管に導入した。当該中心管におけるROは1.0、O濃度は25.0vol%となるように各ガスの比率は調整した。
【0081】
第1環状管にはRSFLが0.40でかつ体積比2:1となるよう水素と窒素を423Kで導入した。第2環状管にはRcmbtsが0.80となる量の空気を423Kで導入した。これらの条件は表1に示す。なお、表中のRDTは下記で定義され、中心管にシロキサン化合物及びチタンアルコキシド以外の可燃性物質が導入されない場合には1であり、他の可燃性物質が含まれた場合には、その割合に応じて1未満の値をとる。
【0082】
RDT=NDOM/NDO0
DOM:中心管に導入するシロキサン化合物及びチタンアルコキシドが化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm/h)
上記条件にて得られた粒子の物性を表1に示す。
【0083】
実施例2~6及び比較例1~2
製造条件を表1又は表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして粒子の製造を行った。得られた粒子の物性も合わせて表1又は表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
比較例3~4
表2記載の条件に変更して実施例1と同様にして粒子の製造を行った。実施例1~6と異なる点は中心管に水素も供給することである(そのため、RDTが1未満である)。得られた粒子の物性を合わせて表2に示す。
【0087】
表1に示すように、中心管に水素を供給せずに製造を行うことにより、シリカ成分とチタニア成分が非晶質状態で均一に存在し、Tiモル比を変えることで屈折率を制御することができ、多分散のシリカ-チタニア複合酸化物粒子が得られる。
【0088】
比較例1は参考としてシリカのみの結果を示している。比較例2は粒度分布が幅広くなっていることが分かる。この原因について検討すると、R. C. DeVriesらの報告より (Trans. Brit. Ceram. Soc., 53, 525(1954))、シリカとチタニアの相図においてチタニア20mol%は均一な1相の領域ではなく、2相の領域であることから、粒子成長が不均一となり粒度分布が幅広くなると考えられる。R. C. DeVriesらの報告から、17mol%までは均一なシリカ-チタニア複合酸化物粒子が得られると考えられる。
【0089】
比較例3~4は、特開2017-36168号公報に開示された中心管に水素を供給する方法で製造を行ったものである。このような条件では、粒度分布が幅広くなってしまっている。これは水素の燃焼により水蒸気が発生することによって、粒子が凝集しやすくなったためであると考えられる。
【0090】
また、図1図6に示したように、実施例にて得られたシリカ-チタニア複合酸化物粒子は、すべて1次粒子が球状であることが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6