(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】回収二水石膏のセメント原料としての使用方法
(51)【国際特許分類】
C04B 11/26 20060101AFI20220608BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20220608BHJP
C04B 18/16 20060101ALI20220608BHJP
C01F 11/46 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C04B11/26
C04B7/52
C04B18/16
C01F11/46 D
(21)【出願番号】P 2019006755
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀田 卓秀
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152070(JP,A)
【文献】特開2010-013304(JP,A)
【文献】特開2009-092392(JP,A)
【文献】特開2009-034573(JP,A)
【文献】特開2002-255598(JP,A)
【文献】特開平10-045442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 38/10
C01F 11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃石膏ボード由来の石膏を加熱して半水及び/又はIII型無水の石膏粉末とし、当該石膏粉末を水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応により製造した回収二水石膏を
大気中で3カ月以上保管してセメント用原料として使用する方法であって、
当該
大気中で3カ月以上保管した回収二水石膏に対して2.5質量倍の水を加えて5分間撹拌後、ろ過して回収した洗液の起泡性を、JIS K 2234に規定される泡立ち性で評価した際の泡の体積が5ml以下となるように改質した後に使用することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
廃石膏ボード由来の石膏を加熱して半水及び/又はIII型無水の石膏粉末とし、当該石膏粉末を水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応により製造した回収二水石膏を
大気中で3カ月以上保管してセメント用原料として使用する方法であって、
大気中で3カ月以上保管した回収二水石膏の使用に先立ち、当該回収二水石膏に対して水を加えて撹拌後、ろ過して回収した洗液の起泡性
が、JIS K 2234に規定される泡立ち性で評価した際の泡の体積が5ml以下となっていることを確認した後に使用することを特徴とする前記方法。
【請求項3】
廃石膏ボード由来の石膏を加熱して半水及び/又はIII型無水の石膏粉末とし、当該石膏粉末を水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応により製造した回収二水石膏
を大気中で3カ月以上保管した後に、セメント用原料としての使用の可否の判定方法であって、
当該判定は、
大気中で3カ月以上保管した回収二水石膏に対して水を加えて撹拌後、ろ過して回収した洗液の起泡性
が、JIS K 2234に規定される泡立ち性で評価した際の泡の体積で行うことを特徴とする前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回収二水石膏の使用方法に関する。詳しくは、廃石膏ボード由来の石膏を改質して大粒径化の回収二水石膏とした後、当該回収二水石膏をさらに改質して、セメント用原料として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは、石膏芯材の両面を紙で張り合わせた複合材料であり、年間約500万トン生産されている。それに対して、解体現場等で発生する廃石膏ボードは、年間約100万トン排出され、その排出量は今後さらに増加することが予想されている。
【0003】
上記廃石膏ボードを破砕し分離された石膏芯材のリサイクル率が低いことから、廃石膏ボードの大半は、最終処分場に埋立て処分されており、今後の廃石膏ボード排出量の増加、国内の最終処分場の逼迫、環境負荷の点から、新たな廃石膏ボードのリサイクル方法が求められている。
【0004】
従来廃石膏ボードをリサイクルする方法の一つとして、廃石膏ボードを粉砕し、ボード紙と分離した石膏をセメント用原料として使用する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
これら技術においては、石膏ボードに添加されている界面活性剤が石膏に含まれており、該界面活性剤がモルタル圧縮強度等の低下を招く原因となるため、界面活性剤により発生した泡を消泡剤や吸着剤を添加して消泡している。
【0006】
また、廃石膏をセメント用原料として使用するに際して、上記界面活性剤を除去するために、600~1100℃で加熱する技術も提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
一方、廃石膏ボードをリサイクルする別の方法として、廃石膏ボードを破砕等により粉末化すると共に、加熱により半水及び/又はIII型無水とし、これを水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応により回収二水石膏とする方法が多数提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献4~8等)。
【0008】
当該回収二水石膏は、例えば再度、石膏ボード製造の原料にされることが多いが、セメント用原料とすることも提案されている(例えば、特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】勝本浩志他、「セッコウボード廃材から大形板状二水セッコウの作製」、平成13年度日本大学理工学部学術講演会論文集、2001年11月13日発行、p.1250-1251
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-111464号公報
【文献】特開平10-45442号公報
【文献】特開平10-36149号公報
【文献】特開2010-013304号公報
【文献】特開2012-131704号公報
【文献】国際公開第2012/176688号パンフレット
【文献】特開2008-081329号公報
【文献】国際公開第2010/013807号パンフレット
【文献】特開2014-152070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら本発明者等の検討によれば、上記回収二水石膏においても界面活性剤は完全に取り除かれておらず、よって、このような回収二水石膏をそのままセメント用原料とすると、やはり硬化体の強度に影響を及ぼすおそれがある。従って、本発明の目的は、前記晶析反応により得た回収二水石膏をセメント用原料として使用する際、該回収二水石膏に含まれる界面活性剤による強度の低下を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、前記回収二水石膏を長期間保持することにより、モルタル圧縮強度の低下が抑制されることを見いだし、さらに検討をすすめ、該強度低下の抑制効果は起泡性と相関があることを見いだし本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、廃石膏ボード由来の石膏を加熱して半水及び/又はIII型無水の石膏粉末とし、当該石膏粉末を水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応により製造した回収二水石膏をセメント用原料として使用する方法であって、
当該回収二水石膏に対して2.5質量倍の水を加えて5分間撹拌後、ろ過して回収した洗液の起泡性を、JIS K 2234に規定される泡立ち性で評価した際の泡の体積が5ml以下となるように改質した後に使用することを特徴とする前記方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強度を低下させることなく、廃石膏ボード由来の石膏より製造した回収二水石膏を大量にセメント用原料として使用することが可能である。
【0015】
従って、本発明の方法によれば、今後大量に排出される廃石膏ボードを大量にリサイクルすることが可能となり、その経済的効果および環境面における効果が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、廃石膏ボード由来の石膏を晶析反応により回収二水石膏とした後、当該回収二水石膏をセメント原料として使用する方法である。以下順を追って説明する。
【0017】
なお本発明において、「石膏をセメント原料として使用する」とは、クリンカー粉末と石膏粉末を主な構成成分とするセメントの製造において、当該石膏粉末として用いることを意味する。
【0018】
(晶析反応による回収二水石膏の製造方法)
本発明において、廃石膏ボード由来の石膏より回収二水石膏を製造する方法は、廃石膏ボード由来の石膏を加熱して半水及び/又はIII型無水の石膏粉末とし、当該石膏粉末を水へ溶解後、二水石膏として析出させる晶析反応によればよく、公知の方法を適宜採用することができる。
【0019】
当該方法を簡単に説明すると、まず廃石膏ボードから半水及び/又はIII型無水の石膏粉末を得る。半水及び/又はIII型無水とするのは水に溶けやすくするためである。必要な熱コストを考慮すると半水石膏とすることが好ましい。半水及び/又はIII型無水とするには加熱する必要があり、該加熱温度は、100℃~300℃が好ましく、150℃~200℃が特に好ましい。
【0020】
水への溶解のために、石膏は粉末とする。半水及び/又はIII型無水石膏としてから粉末化しても良いし、逆の手順でも良いし、同時に行ってもよく、最終的に半水及び/又はIII型無水の石膏粉末が得られればよい。
【0021】
粉末度は通常は0.5~30μm程度、好ましくは1~20μm程度であればよい。
【0022】
晶析反応は、上記の半水及び/又はIII型無水の石膏粉末と水を接触させることにより、該石膏をいったん水へ溶解させた後、二水石膏として析出させることにより行う。この際の反応温度は90℃以下とする。好ましくは50~80℃である。また二水石膏の種結晶を反応系に存在させておくと、効率的に二水石膏の析出が起きる。反応系のスラリー濃度は25~50質量%が好ましく、30~40質量%が特に好ましい。
【0023】
析出した二水石膏をろ過等により回収すれば、回収二水石膏が得られる。このようにして得た回収二水石膏は、通常はレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定した体積平均粒径が35~50μm程度の粉末である。
【0024】
(起泡性の低減方法)
上記回収二水石膏をそのままセメント用の原料として使用するとモルタル圧縮強度等が、排煙脱硫石膏等の他の石膏(以下、「通常石膏」という)を用いた場合に比べて低くなる傾向がある。そのため本発明では当該強度低下を抑制するため、回収二水石膏の改質を行う。
【0025】
当該改質は、回収二水石膏に対して2.5質量倍の水を加えて5分間撹拌後、ろ過して回収した洗液をJIS K 2234に記載の泡立ち性で評価した際の泡の体積で評価され、具体的には、当該泡の体積が5ml以下であれば、セメント用原料として通常石膏と比べて遜色なく使用できる。好ましくは3ml以下である。この際の泡立ちは、主に廃石膏ボードに含まれていた界面活性剤が回収二水石膏にも混入しているためであると考えられるが、その他の有機成分も幾分は寄与している可能性がある。
【0026】
より具体的に泡立ち性の評価方法を述べると以下の通りである。まず回収二水石膏に対して加える水は、水道水やイオン交換水、蒸留水等を用いることができ、JIS K 2234では評価に50mlの液を必要とするため、それ以上の洗液を回収できる量とすればよい。
【0027】
5分間の間、充分に撹拌した後、ろ過して洗液を回収する。ろ過は吸引ろ過或いは自然ろ過でよく、ろ紙は定量分析用5種Bを用いればよいが、他のろ紙でも結果に違いが生じることは通常はない。
【0028】
ろ過により回収した洗液50mlを栓付100mlメスシリンダーに入れ、栓をして100回上下に振とうし、静置して10秒後のメスシリンダー内に発生した泡の体積をメスシリンダーの目盛を読み取って評価する。
【0029】
なお、上記評価において、泡の体積が5ml以下か否かで使用の可否を決定するのは、回収二水石膏に対して2.5質量倍の水を加えて撹拌した場合であり、回収二水石膏をセメント用原料として使用できるか否かの判断手法としては、事情に応じて適宜アレンジしてもよい。
【0030】
即ち、水の割合を少なくしていけば、泡の体積は大きくなる傾向があり、逆に水の割合を多くしていけば、泡の体積は少なくなる傾向にある。従って、二水石膏に対する水の割合を変えた場合には、使用可否の判断基準となる泡の体積をそれに応じて変更することができ、この基準値は、簡単な実験で容易に決定できる。
【0031】
またその他にも、上記JIS K 2234で規定される方法との相関がとれれば、該方法をアレンジしてよく、一例として、メスシリンダーの容量を変更したり、あるいはメスシリンダー以外の容器を使用してもかまわない。
【0032】
本発明における回収二水石膏を上記したような起泡性の少ないものとするための改質方法は特に限定されるものではなく、例えば、回収二水石膏を繰り返し洗浄する方法、高温で界面活性剤等の有機物を分解する方法、微生物により有機物を分解させる方法、長時間保管する方法等を採用することができる。
【0033】
これらのなかでも、簡便さやコストの点で、回収二水石膏を長時間保管する方法が好ましい。なお、長時間の保管により起泡性が低下する原因は不明であるが、自然界に存在する微生物が回収二水石膏に付着等し、当該微生物の生分解により界面活性剤等の有機物が分解されたことによるものと推測される。従って、この保管は密閉された空間よりも、解放された大気中で行うことが好ましい。
【0034】
保管時の温度は、生分解の場合、微生物の酵素によって分解が起こるため、微生物の生育に適し、タンパク質である酵素の変成が起こらない20℃~40℃が好ましい。
【0035】
当該長期間の保管による改質における回収二水石膏の保管期間は、上記のような条件下では3ヶ月以上とすることが好ましく、特に好ましくは5ヶ月以上放置することが好ましい。
【0036】
また、ろ過等により回収した二水石膏は表面に水分が付着しているが、保管に際しては特別に乾燥等を行う必要はなく、水分が付着したまま保管してかまわない。ただし、長期保管による改質効果を確認する際には、二水石膏の量を正確にするため、乾燥してから前記した水での洗浄を行う必要がある。当該乾燥は二水石膏の結晶水が脱離するよりも低い温度で行う。具体的には、 40~ 50℃程度で行えば良い。
【0037】
なお、回収二水石膏はその製法上、前記したように粉末で得られ、上記改質は得られた粉末のままの状態で行えばよいが、必要に応じてさらなる微細化を行った後に改質してもよい。また泡立ち性の評価は、改質実施後の状態で評価する。
【0038】
上記のようにして改質した回収二水石膏は、公知の方法でセメント用原料として使用される。具体的にはクリンカーと混合して粉砕したり、あるいは粉砕したクリンカーと混合してセメントとできる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
特許文献4記載の方法により、廃石膏ボードを破砕および粉砕してボード紙と分離した廃石膏粉末を使用して、前記晶析反応によりレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定した体積平均粒径で45μmの回収二水石膏を製造した。
【0041】
当該回収二水石膏を乾燥工程を経ることなく、屋内にて大気解放条件にて3ヶ月間保管した。3ヶ月間保管したものでも、未だ表面に若干の水分が付着していたため、40℃に設定した熱風乾燥機で5時間乾燥を行った。その後、乾燥させた回収二水石膏に対して2.5質量倍の水を加えて得たスラリーを200mlビーカー内で、マグネティックスターラーを使用して300rpmで5分間撹拌した後、該スラリーを吸引ろ過して洗液を得た。得られた洗液50mlを栓付100mlメスシリンダーに移し、上下に100回振とうした後、静置して10秒後の泡の高さをメスシリンダーの目盛から読み取って測定し、界面活性剤による起泡性を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
また、この3ヶ月間の大気中保管を行った回収二水石膏を普通ポルトランドセメントクリンカー100質量部に対して3.5質量部配合し、ボールミルで混合粉砕して、ブレーン比表面積3200cm2/gの普通ポルトランドセメントを得た。該セメントを使用して、JIS R 5201に従い、モルタル圧縮強度を測定した。この結果も併せて表1に示す。
【0043】
比較例1
屋内での保管期間を1日とした以外は実施例1と同様の操作を行った。泡立ち性の評価結果、モルタル圧縮強度を表1に示す。
【0044】
実施例1と比較して泡立ちが多く発生し、泡の体積は実施例1より大きい結果となった。モルタル圧縮強度は実施例1と比較して低下していた。
【0045】
参考例
クリンカーに配合する石膏として、排煙脱硫石膏を使用した以外は実施例1と同様の操作でモルタル圧縮強度の評価を行った。結果を表1に示す。その結果、実施例1と同等のモルタル圧縮強度であった。
【0046】