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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】Co-Fe-B系合金ターゲット材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220608BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220608BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220608BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20220608BHJP
   B22F 3/15 20060101ALN20220608BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C38/00 304
C22C19/07 G
C22C1/04 B
C22C33/02 B
B22F3/10 E
B22F3/10 F
B22F3/15 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020074715
(22)【出願日】2020-04-20
(62)【分割の表示】P 2016010266の分割
【原出願日】2016-01-22
(65)【公開番号】P2020143372
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2015184846
(32)【優先日】2015-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/080009(WO,A3)
【文献】国際公開第2016/140113(WO,A3)
【文献】特開2012-207274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 38/00
C22C 19/07
C22C 1/04
C22C 33/02
B22F 3/10
B22F 3/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度が5μm以下である微粉の量が10%以下であり、粒度が30μm以下である微粉の量が18%以上40%以下である粉末の固化成形体であり、
at.%で、Bを10~50%含有しており、残部がCo及びFeの少なくとも1種と不可避的不純物であり、水素含有量が10ppm以下であるスパッタリングターゲット材。
【請求項2】
粉末を準備する工程、
及び
上記粉末を焼結する工程
を含むスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
上記粉末において、粒度が5μm以下である微粉の量が10%以下であり、粒度が30μm以下である微粉の量が18%以上40%以下であり、
上記スパッタリングターゲット材が、at.%で、Bを10~50%含有しており、残部がCo及びFeの少なくとも1種と不可避的不純物であり、水素含有量が10ppm以下である製造方法。
【請求項3】
横4mm、縦3mm、長さ25mmのTPを三点曲げ試験に供して得られる抗折強度が200MPa以上である請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
上記スパッタリングターゲット材の、横4mm、縦3mm、長さ25mmのTPを三点曲げ試験に供して得られる抗折強度が、200MPa以上である、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MTJ素子作製用をはじめ、HDD用合金等や磁気記録用媒体等の薄膜製造などに用いるCoFeB系スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は磁気トンネル接合(MTJ)素子を有する。磁気トンネル接合(MTJ)素子はCoFeB/MgO/CoFeBのような構造を有し、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)などの特徴を示す。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ)素子のCoFeB薄膜は、CoFeBターゲットのスパッタリングにより形成される。CoFeBスパッタリングターゲット材として、例えば特開2004-346423(特許文献1)に開示されているように、アトマイズ粉末を焼結して作製することを特徴としたスパッタリングターゲット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-346423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1のようにアトマイズ粉末を焼結してスパッタリングターゲット材を作製することは、有効な手法ではあるが、単に特許文献1に記載された方法のみでは、良好なターゲット材とはならない。すなわち、単純にアトマイズした粉末を焼結するだけではスパッタリングターゲット材の強度が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、スパッタリングターゲット材中の水素含有量を低減させることでスパッタリングターゲットの機械強度低下が改善されることを見出し、発明に至った。
【0007】
その発明の要旨とするところは
(1)at.%で、Bを10~50%含有し残部がCoとFeの少なくとも1種、不可避的不純物からなり水素含有量が20ppm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット材。
(2)at.%で、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Re,Ru,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Agから選ばれる1種類以上の元素を20%以下含む前記(1)に記載のスパッタリングターゲット材にある。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、本発明は機械強度に優れたスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る成分組成として、Bをat.%で10~50%とした理由は、10%未満ではスパッタ時、十分な非晶質とならず、また、50%を超えると本発明の効果に関係なく、スパッタリングターゲット材の強度が低下するため、その範囲を10~50%とした。好ましくは20~50%とした。
【0010】
CoとFeは、磁性を付与するもので、CoとFeの合計含有量が50%以上とする。また、水素の含有量は20ppm以下とする。水素は粉末中に不可避的に存在する元素であるが、残存する量が20ppmを超えると強度が低下することから、20ppmとした。望ましくは10ppm以下とする。なお、その他の不純物は1000ppmまで含んでもよい。また、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Re,Ru,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Agから選ばれる1種類以上の元素の添加量が20%以下であれば、同様に効果を発揮する。望ましくは12at.%以下、さらに望ましくは10at.%以下とする。
【0011】
上記水素の含有量を20ppm以下とするためには、Bを10~50%含有し、残部がCoとFeの少なくとも1種、不可避的不純物からなるCo-Fe-B系合金のアトマイズ粉末を500μm以上の粗粉を除去し、次いで、粒度条件A,B,Cのいずれか処理した後、焼結することにある。ここで、粒度条件A,B,Cとは、5μm以下の粉末の量が10%以下、30μm以下の粉末が40%以下となる粉末粒度(粒度条件A)とする。また、5μm以下の粉末の量が8%以下、30μm以下の粉末が35%以下となる粉末粒度(粒度条件B)とする。さらに、5μm以下の粉末の量が5%以下、30μm以下の粉末が30%以下となる粉末粒度(粒度条件C)と定義する。
【0012】
上述した粒度条件A,B,Cとした理由は、いずれも、ガスアトマイズ粉末中の500μm以上の粗粉を除いた粉末中の微細粉末を除くための条件を3区分の粒度条件で定めたものである。これは、粒度分布を2条件で定めたもので、粒度条件Aは、1条件は5μm以下の粉末の量が10%以下、2条件はより粒度の大きい30μm以下の粉末を40%以下とする。また、粒度条件Bは、1条件は粒度条件Aと同様、5μm以下の粉末の量が8%以下、2条件は30μm以下の粉末を35%以下とする。さらに、粒度条件Cは、粒度条件A,Bと同様、5μm以下の粉末の量を5%とし、2条件は30μm以下の粉末を30%以下とする。すなわち、粒度条件A,B,Cは、粒度5μm以下を10%以下、8%以下、5%以下と規制し、また、粒度30μm以下を40%以下、35%以下、30%以下と割合を段々と少なく規制した。この3区分の粒度条件での水素含有量および抗折強度を示している。
【0013】
上記、ガスアトマイズ粉末の500μm以上の成形に向かない粗粉を除去した後、粒度条件A,B,Cのいずれかを処理にすることにより、微粉を除去することにある。なお、成形に向かない粗粉の除去は500~250μmの間であればどの粒度で除去してもよい。この微粉を除去による方法で作製した固化成形体は水素の含有量を20ppm以下とすることが可能となる。これを、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工し、スパッタリングターゲット材とした場合に、スパッタリングターゲット材の強度が向上する。
【実施例
【0014】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲット材について実施例によって具体的に説明する。表1、2、5、6に示す成分組成について、溶解原料を秤量し、減圧Arガス雰囲気あるいは真空雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解したあと、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、ガスアトマイズした。このガスアトマイズ粉末の500μm以上の成形に向かない粗粉を除去し、次に微粉を除去するために、粒度条件A,B.Cのいずれか処理をした後、それぞれを110℃の炉に入れて水分乾燥を実施した粉末を原料として、外径220mm、内径210mm、長さ200mmのSC製の缶に脱気装入した粉末充填ビレットを表1または表2に示すそれぞれの条件で焼結し焼結体を作製した。
【0015】
一方、表3および表7の原料粉末欄に示す成分組成について溶解原料を秤量し、表1、2、5、6に示す成分組成の場合と同様、減圧Arガス雰囲気あるいは真空雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解したあと、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、ガスアトマイズした。なお、表7に示す原料粉末の内、純Ti、純B、純V、純Crは市販されている、粉末サイズが-150μm以下の粉末を使用した。このガスアトマイズ粉末の500μm以上の成形に向かない粗粉を除去し、かつ成形に用いる粉末中に占める、粉末粒度を粒度条件A,B,Cのいずれか処理することにより、微粉を除去し、110℃の炉に入れて水分乾燥を実施した粉末を原料として、表3に示す混合比の割合での粉末を、V型混合器で30分まぜることで表3に示す組成とし、外径220mm、内径210mm、長さ200mmのSC製の缶に脱気装入した。上記の粉末充填ビレットを表3に示す条件で焼結し焼結体を作製した。上記の方法で作製した固化成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工し、スパッタリングターゲット材とした。
【0016】
次に、表4に示す成分組成について、溶解原料を秤量し、減圧Arガス雰囲気あるいは真空雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解したあと、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、ガスアトマイズした。このガスアトマイズ粉末の500μm以上の成形に向かない粗粉を除去した粉末を原料として、外径220mm、内径210mm、長さ200mmのSC製の缶に脱気装入した。上記の粉末充填ビレットを表4に示す条件で焼結し焼結体を作製した。上記の方法で作製した固化成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工し、スパッタリングターゲット材とした。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
【表5】
【0022】
【表6】
【0023】
【表7】

表1~3に示すNo.1~32、および表5~7に示すNo.40~87、No.91~106は本発明例であり、表4に示すNo.33~39、および表6に示すNo.88~90は比較例である。
【0024】
なお、粉末の粒度はレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック)にて測定し、確認した。また、成形方法は、HIP、ホットプレス、SPS、熱間押し出し等方法は問わない。評価方法としては、水素含有量は不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法によって測定した。機械強度は横4mm、縦3mm、長さ25mmのTPをワイヤーで割り出したものを、三点曲げ試験によって評価した。三点曲げ試験の条件は、支点間距離20mmで実施し、縦方向に圧下しその時の応力(N)を測定し、次の式に基づき、三点曲げ強度とした。三点曲げ強度(MPa)=(3×応力(N)×支点間距離(mm))/(2×試験片の幅(mm)×(試験片厚さ(mm)。この三点曲げ強度を抗折強度(MPa)で表示した。
【0025】
本発明に係るNo.1~26、No.40~90は、表1、2および表5、6に示す成分組成についてのスパッタリングターゲット材であり、表3、表7に示すNo.27~32、およびNo.91~106は、複数の原料粉末から製造されたスパッタリングターゲット材である。いずれも本発明の条件であるBを10~50%含有し残部CoとFeの少なくとも1種、不可避的不純物からなり、かつ水素含有量を20ppm以下の条件を満足することから、抗折強度200MPa以上を達成することが出来た。
【0026】
一方、表4に示す比較例No.33は、粒度5μm以下の粉末量が11%と多いためにH含有量が高くなり、抗折強度150MPaと低い。比較例No.34は、B成分組成が低く、かつ粒度30μm以下の粉末量が41%と多いために、水素含有量が30ppmと高くなり、抗折強度180MPaと低い。同様に、比較例No.35、37は、粒度5μm以下の粉末量が12%、13%多いために、いずれも水素含有量が高くなり、抗折強度130MPa、150MPaと低い。
【0027】
比較例No.36、38は、粒度30μm以下の粉末量が42%、43%多いために、いずれも水素含有量が高くなり、抗折強度160MPa、140MPaと低い。比較例No.39は、粒度5μm以下、30μm以下の粉末量が14%、45%とそれぞれ多いために、水素含有量が高くなり、抗折強度100MPaと低く強度の極めて悪いことが分かる。表6に示す比較例No.88~90は、T,,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Re,Ru,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Agから選ばれる1種類以上の元素が20%を超えて含まれているので、発明の効果なく強度が脆いことが分かる。
【0028】
以上述べたように、本発明により、スパッタリングターゲット中の水素含有量を低減させることで、スパッタリングターゲットの機械強度が改善された、MTJ素子作製用をはじめ、HDD用合金等や磁気記録用媒体等の薄膜製造などに用いるCoFeB系スパッタリングターゲット材を提供することを可能とした極めて優れた効果を奏するものである。