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  • 特許-撹拌装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/91 20220101AFI20220609BHJP
   B01F 27/87 20220101ALI20220609BHJP
   B01F 27/113 20220101ALI20220609BHJP
   C01G 53/10 20060101ALI20220609BHJP
   B01D 9/02 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
B01F27/91
B01F27/87
B01F27/113
C01G53/10
B01D9/02 601C
B01D9/02 603E
B01D9/02 609B
B01D9/02 605
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017227075
(22)【出願日】2017-11-27
(65)【公開番号】P2019093365
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大田 浩和
(72)【発明者】
【氏名】小黒 茂則
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙之
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-160018(JP,A)
【文献】実開昭51-127990(JP,U)
【文献】特開2013-081931(JP,A)
【文献】特開2005-194153(JP,A)
【文献】実開昭59-082537(JP,U)
【文献】特開2014-024688(JP,A)
【文献】特開2014-118490(JP,A)
【文献】特開平11-090199(JP,A)
【文献】特開2010-023036(JP,A)
【文献】米国特許第05711902(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/00-04
B01F 27/00-96
C01G 53/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケルを晶析させるための晶析装置内の溶液の撹拌に用いられる、ダブルプロペラ型の撹拌装置であって、
前記晶析装置は、晶析槽と、外筒と、前記外筒の内部に設けられたドラフトチューブとを備えた晶析缶を含み、前記撹拌装置は、前記晶析缶内に備えられ、
撹拌する前記溶液が装入された容器に対し、鉛直方向に挿入される、軸の材質がステンレス又はチタンコーティングステンレスであるとともに軸の直径が280mm~350mmである撹拌軸と、
前記撹拌軸の下部に設けられ、ダブルプロペラ型の構造を有する撹拌羽根とを備え、
前記撹拌羽根の下部に軸受を有さず、
前記撹拌羽根は、前記撹拌軸の回転に伴って前記溶液の上昇流を生じさせる上向き羽根と、前記撹拌軸の回転に伴って前記溶液の下降流を生じさせる下向き羽根とにより構成され、前記上向き羽根と前記下向き羽根とは、前記撹拌軸の回転軸と直交する方向に同心円状直列配置されており、
前記上向き羽根は、前記ドラフトチューブの内側に、前記下向き羽根はドラフトチューブの外側に、それぞれ配置されており、
前記円筒形状の外筒の内径(R)は、前記撹拌羽根の端部間の長さをWとしたとき、W+10mm<R≦W+20mm の式を満たし、
前記撹拌羽根を、撹拌動力55KW、回転数50rpmの条件で回転させたとき、該撹拌羽根の水平方向へのたわみ幅が合計で10mm以下である、
撹拌装置。
【請求項2】
請求項に記載の晶析装置を使用し、該晶析装置にニッケル濃度が90g/L~185g/Lの硫酸ニッケル溶液を装入して硫酸ニッケルの結晶を析出させる
硫酸ニッケルの晶析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルプロペラ型の撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図2に示すような晶析装置1’が用いられている。晶析装置1’は、晶析缶10と、その晶析缶10の内部に挿入される撹拌装置50とにより構成されており、晶析缶10内に装入された被処理液Lを、撹拌装置50におけるダブルプロペラ型の撹拌羽根52の回転により撹拌することで晶析反応を生じさせる(例えば、特許文献1、2等を参照)。
【0003】
特に、ダブルプロペラ型の撹拌羽根52(52a,52b)を備えた撹拌装置50によれば、被処理液Lが、晶析缶10の内側において上方に、晶析缶10の外側において下方に流れて、晶析缶10の内部を循環するようになる。このような撹拌装置50による撹拌によって、晶析缶10内において被処理液L中の結晶が安定して析出し成長する。
【0004】
さて、晶析装置1’等に用いられていた従来の撹拌装置50においては、撹拌軸51が2つの軸受により保持されている。具体的には、撹拌軸51は、晶析缶10等の外部(槽外)であって撹拌軸51の上部に配置される槽外軸受30と、槽内であって被処理液L中に配置される液中軸受53とにより保持されている。
【0005】
このような撹拌装置50では、安定した撹拌処理を実行するために、定期的に軸受のメンテナンスが必要となる。特に、撹拌装置50における液中軸受53に関しては、磨耗が生じた場合に、撹拌軸51の振れが大きくなり、最終的には撹拌羽根52(具体的には下向き羽根52b)と晶析缶10(具体的には外筒10b)とが接触し、あるいはメカニカルシール35の破損が生じて被処理液Lの漏れを引き起こす等して、突発停止に至ることがある。そのため、定期的な点検や交換等の作業を行うことによって、突発停止の発生を防ぐことが重要となる。
【0006】
液中軸受53のメンテナンスは、通常、運転時には行うことができない。そのため、例えば6ヶ月~12ヶ月の周期で撹拌装置50の運転を停止した上で行う必要がある。しかしながら、定期点検等に際しては、例えば、晶析缶10内の液抜きや、内部足場の仮設、晶析缶10内の洗浄作業等の作業工程を実行するため、最低でも5日~7日の運転停止期間が必要となり、撹拌装置50を設けた晶析装置1’等の装置の稼働率低下の主要因となっている。なお、液中軸受53の定期点検や交換作業は、狭く、暗い場所での過酷な作業となり、安全性をより高めることも必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-29017号公報
【文献】特開2004-154618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ダブルプロペラ型の撹拌装置において、その撹拌装置を設ける晶析装置等の装置の稼働率低下を抑制して、効率的な操業を行うことができる撹拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の第1の発明は、ダブルプロペラ型の撹拌装置であって、撹拌する溶液が装入された容器に対し、鉛直方向に挿入される撹拌軸と、前記撹拌軸の下部に設けられ、ダブルプロペラ型の構造を有する撹拌羽根とを備え、前記撹拌羽根の下部に軸受を有さず、前記撹拌羽根を、撹拌動力55KW、回転数50rpmの条件で回転させたとき、該撹拌羽根の水平方向へのたわみ幅が合計で10mm以下である、撹拌装置である。
【0010】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、硫酸ニッケルを晶析させるための晶析装置内の溶液の撹拌に用いられる、撹拌装置である。
【0011】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明に係る撹拌装置を晶析缶内に備えている、晶析装置である。
【0012】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明に係る晶析装置を使用し、該晶析装置にニッケル濃度が90g/L~185g/Lの硫酸ニッケル溶液を装入して硫酸ニッケルの結晶を析出させる、硫酸ニッケルの晶析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る撹拌装置によれば、当該撹拌装置を設ける晶析装置等の装置の稼働率低下を抑制して、効率的な操業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る撹拌装置の構成を示す図であり、当該撹拌装置を晶析装置に適用したときの模式図である。
図2】従来の撹拌装置の構成を示す図であり、当該撹拌装置を晶析装置に適用したときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0016】
本実施の形態に係る撹拌装置は、ダブルプロペラ型の撹拌装置であって、撹拌する溶液(被処理液)が装入された容器に対して鉛直方向に挿入される撹拌軸と、その撹拌軸の下部に設けられてダブルプロペラ型の構造を有する撹拌羽根とを備えている。
【0017】
そして、本実施の形態に係る撹拌装置においては、撹拌羽根の下部に軸受(以下、「液中軸受」ともいう)を有しておらず、その撹拌羽根を、撹拌動力55KW、回転数50rpmの条件で回転させたとき、撹拌羽根の水平方向へのたわみ幅が合計で10mm以下であることを特徴としている。
【0018】
このように、ダブルプロペラ型の撹拌装置において、液中軸受を有しておらず、詳しくは後述するが晶析缶外部の軸受(槽外軸受)のみによって撹拌軸を保持してたわみ(振れ)を抑制した撹拌装置であることにより、撹拌装置の定期的な点検や交換等の作業回数を減らすことができ、当該撹拌装置を設けた装置の稼働率低下を抑制して効率的な操業を行うことができる。また、従来の撹拌装置のように、液中軸受の磨耗に起因する撹拌軸の振れの増大等の不具合を無くすことができ、撹拌装置とその撹拌装置を適用した晶析装置等の他の装置との接触や、接触による損壊を防ぐことができる。
【0019】
ここで、ダブルプロペラ型の撹拌装置とは、撹拌羽根(回転羽根)として、撹拌軸の回転に伴って溶液の上昇流を生じさせる上向きプロペラ(上向き羽根)と、撹拌軸の回転に伴って溶液の下降流を生じさせる下向きプロペラ(下向き羽根)との2種類のプロペラにより構成されており、例えば晶析缶(晶析装置)に用いられる撹拌装置として広く用いられている。
【0020】
この上向き羽根と下向き羽根は、撹拌軸の回転軸と直交する方向に同心円状に直列配置されていることが好ましい。本実施の形態に係る撹拌装置においては、撹拌軸に上向き羽根が連結され、上向き羽根の撹拌軸と対向する側面、すなわち撹拌軸の回転軸と直交する同心円の外側に下向き羽根が連結されている。このような構造の撹拌装置を回転させて溶液を撹拌すると、回転軸外周では下向き羽根により下降流が生じ、回転軸に近い位置では上向き羽根により上向流が生じることになる。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る撹拌装置の構成の一例を示す模式図であり、その撹拌装置を晶析装置に適用したときの模式図である。晶析装置とは、目的成分が溶解している原料溶液等の被処理液を、加熱によりその水分を蒸発させて濃縮し、目的成分を結晶化(晶析)させるための装置である。
【0022】
例えば、その晶析装置1は、硫酸ニッケルを含有する溶液(硫酸ニッケル溶液)を被処理液として、溶液中の水分を蒸発させて硫酸ニッケルの結晶を析出させる方法に適用することができる。具体的には、硫酸ニッケル溶液を晶析装置1内に装入し、晶析装置1に設けられた撹拌装置20により撹拌処理を施しながら、その晶析装置1内に収容した溶液を加熱することにより水分を蒸発させて硫酸ニッケルの結晶を析出させる。なお、硫酸ニッケル結晶を析出させる処理において、原料の硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度としては、特に限定されないが、90g/L~185g/Lであることが好ましく、121g/L~140g/Lであることをより好ましい。また、晶析反応においては、晶析装置1内の圧力(晶析缶の内部圧力)を7.5kPa程度とする。
【0023】
晶析装置1は、図1に示すように、晶析缶10と、晶析缶10の内部に挿入されるダブルプロペラ型の撹拌装置20とにより構成されている。
【0024】
[晶析缶]
晶析缶10は、被処理液Lが装入されて晶析反応が行われる反応場となる反応容器であり、例えば円筒形状に構成されている。晶析缶10には、図示しない熱交換器が設けられており、その熱交換器により晶析缶10内の被処理液Lが加熱されるとともに、液温が一定に保持される。なお、熱交換器としては、特に限定されず、例えばシェルアンドチューブ型熱交換器等を用いることができる。また、被処理液の保持温度としては、例えば40℃~60℃程度とすることができる。
【0025】
具体的に、晶析缶10は、晶析槽10aと、外筒10bとを備えており、図1に示すように、外筒10bの少なくとも一部が晶析槽10aの内部に配置されている。晶析槽10aの内部に配置される外筒10bは、その底部が開放されており、晶析槽10a内に装入された被処理液Lはその外筒10bの底部から外筒10b内にも入り込むようになっている。なお、晶析槽10aと外筒10bとは一体に形成されていてもよい。
【0026】
(晶析槽)
晶析槽10aには、例えばその槽璧面に被処理液供給口11が設けられており、その被処理液供給口11から被処理液Lが供給される。被処理液供給口11から供給された被処理液Lは、晶析槽10a内に徐々に満たされるようになるとともに、底部が開放した外筒10b内にも徐々に装入されていく。また、晶析槽10aには、底部に結晶回収口13が設けられており、その結晶回収口13から晶析槽10aに底部に蓄積された目的成分の結晶が排出され回収される。
【0027】
(外筒)
外筒10bは、例えば円筒形状を有するものであり、上述したように、その一部が晶析槽10aの内部に配置されて、晶析缶10を構成している。外筒10bには、後述するダブルプロペラ型の撹拌装置20が鉛直方向に挿入され、撹拌装置20の撹拌羽根22が外筒10bの内部に位置するようになっている。また、外筒10bの内部の少なくとも一部には、ドラフトチューブ12が設けられている。
【0028】
ドラフトチューブ12は、例えば円筒形状を有しており、外筒10bの周壁と同軸的に配置されている。また、ドラフトチューブ12の底部は、晶析槽10aの内部底面から離間した位置に配置されており、晶析槽10a内に装入された被処理液がドラフトチューブ12を介して外筒10b内に入り込むようになっている。このドラフトチューブ12は、上側ドラフトチューブ12aと、その上側ドラフトチューブ12aの下方に存在する下側ドラフトチューブ12bとからなっている。
【0029】
また、ドラフトチューブ12には、上側ドラフトチューブ12aと下側ドラフトチューブ12bとの隙間に、撹拌羽根が位置するように撹拌装置20が挿入されている。撹拌装置20は、ダブルプロペラ型の撹拌羽根22を有しており、被処理液Lを上昇流とする上向き羽根22aがドラフトチューブ12の内側に、被処理液Lを下降流とする下向き羽根22bがドラフトチューブ12の外側に、それぞれ配置されている。
【0030】
このような晶析缶10においては、晶析槽10a及び外筒10bに装入された被処理液Lは、撹拌装置20の撹拌羽根22(上向き羽根22a)の回転により、図1中の実線矢印に示すように上昇流となってドラフトチューブ12の内側を上昇し、水分の蒸発と共に結晶化が進行する。そして、結晶が生成すると、その結晶を含有した被処理液Lは、撹拌装置20の撹拌羽根22(下向き羽根22b)の回転により、図1中の点線矢印に示すように下降流となってドラフトチューブ12の外側を下降し、晶析槽10aの底部に結晶が蓄積されていく。このように、晶析缶10においては、撹拌装置20の撹拌羽根22の回転により被処理液Lが循環するようになっており、被処理液Lに含まれる目的成分の結晶化と結晶の成長が生じる。
【0031】
ここで、円筒形状の外筒10bの内径(図1中のR)は、撹拌羽根22の端部間の長さをW(図1中のW)としたとき、下記関係式(1)を満たす長さであることを好ましい。
W+10mm<R≦W+20mm ・・・関係式(1)
【0032】
詳しくは後述するが、撹拌装置20においては、撹拌羽根22の下部に液中軸受を有しておらず、その撹拌羽根22を所定の条件で回転させたときの撹拌羽根22の水平方向へのたわみ幅が合計で10mm以下であることを特徴としている。そして、上述したように撹拌羽根22は、外筒10bの内部に位置するように配置される。そのため、外筒10bの内径Rを、撹拌羽根22の端部間の長さWに、所定の条件での撹拌羽根22の回転により水平方向に生じる荷重に基づくたわみ幅の上限値10mmを加算したときの長さを超える長さ(W+10mm<R)とすることによって、外筒10bの内壁と撹拌羽根22の端部とが接触することを防ぐことができる。
【0033】
なお、所定の撹拌条件とは、容積が30m~50mの撹拌装置20内に、スラリー状の硫酸ニッケル溶液を収容し、その硫酸ニッケル溶液中において、撹拌羽根を、撹拌動力55KW、回転数50rpmで回転させたときの条件である。
【0034】
一方で、撹拌羽根22の端部間の長さWに対して外筒10bの内径が大きすぎると、撹拌羽根22の端部と外筒10bの内壁までの隙間が大きくなり、撹拌羽根22による撹拌作用、特に下向き羽根22bによる下降流が有効に生じなくなり、結晶の回収率が低下する可能性がある。このことから、外筒10bの内径Rとしては、撹拌羽根22の端部間の長さWに20mm程度を加算したときの長さ以下の長さ(R≦W+20mm)とすることが好ましく、これにより、外筒10bの内壁と撹拌羽根22の端部との接触を防ぎながら、撹拌羽根22による撹拌作用を有効に生じさせることができる。
【0035】
[撹拌装置]
撹拌装置20は、晶析缶10、特に晶析缶10を構成する外筒10bの内部において鉛直方向に挿入され、晶析缶10内の被処理液Lを撹拌する装置である。上述したように、撹拌装置20は、被処理液Lを上昇流とする上向き羽根22aと、被処理液Lを下降流とする下向き羽根22bとからなるダブルプロペラ型の撹拌羽根22を備えている。
【0036】
より具体的に、撹拌装置20は、撹拌軸21と、撹拌軸21の軸方向の下端に設けられた撹拌羽根22とにより構成されている。また、撹拌装置20は、晶析缶10の外部(槽外)に配置された槽外軸受30により撹拌軸21が支持されており、中間軸31を介して、駆動電動機32と減速機33とに接続されている。このような撹拌装置20においては、駆動電動機32と減速機33とかなる駆動装置34により、撹拌軸21が所定の速度で回転し、その撹拌軸21の回転駆動により撹拌羽根22が旋回する。なお、撹拌軸21と、その撹拌軸21を支持する槽外軸受30との間には、メカニカルシール35が設けられており、晶析缶10内の被処理液Lが駆動装置34側に侵入することを防止している。
【0037】
ここで、この撹拌装置20においては、撹拌軸21の下端に設けられた撹拌羽根22の下部に、軸受(液中軸受)を有しておらず、撹拌軸21に対していわゆる片持梁構造となるように構成されていることを特徴としている。
【0038】
従来の撹拌装置においては、例えば図2に示すように、撹拌軸51の軸方向の下端に設けられた撹拌羽根52の下部に、撹拌軸51を支持するための液中軸受53が設けられていることが一般的であった。なお、図2は、従来の撹拌装置50の構成を示す図であって、図1と同様に晶析装置1’に適用したときの図であり、撹拌装置50以外の構成は図1と共通するため符号も同じものを用いて示している。
【0039】
これに対して、本実施の形態に係る撹拌装置20においては、液中軸受を有しておらず、槽外軸受30のみによって撹拌軸21が支持されている。そして、このような撹拌装置20において、撹拌羽根22を、撹拌動力55KW、回転数50rpmの条件で回転させたとき、その撹拌羽根22の水平方向への荷重によるたわみ幅が合計で10mm以下であることを特徴としている。
【0040】
「たわみ幅」とは、撹拌羽根22の回転による撹拌軸21のたわみの程度を表すものであり、静止時における撹拌羽根22の端部に位置に対する、その端部の水平方向への振れの大きさ(長さ)をいう。一般に、撹拌装置においては、撹拌羽根の回転によって水平方向に荷重がかかり、例えば図1のように撹拌装置を正面視したとき、撹拌羽根がたわむことによって水平方向に振れる。本実施の形態に係る撹拌装置20においては、上述した回転条件で撹拌羽根22を回転させたときのたわみ幅が合計で10mm以下である。つまり、撹拌装置20においては、撹拌羽根22の下部に液中軸受を有していない片持梁構造となっているにもかかわらず、たわみ幅が合計で10mm以下であって水平方向への振れが有効に抑制されている。
【0041】
なお、たわみ幅の「合計」とは、撹拌装置20を正面視したときの、水平方向へ振れる、右方向の振れの大きさと左方向の振れの大きさとの合計を意味する。また、撹拌動力55KW、回転数50rpmの回転条件は、一般的な晶析反応における撹拌装置の撹拌条件に相当する条件である。
【0042】
撹拌羽根22の下部に液中軸受を有していない構造において、上述した回転条件でたわみ幅の合計が10mm以下となることを実現する具体的な態様は、特に限定されないが、撹拌装置20を構成する撹拌軸21の太さ(軸の直径)を調整することによって実現することができる。具体的には、撹拌装置20のサイズにも依存するため特に限定されないが、例えば、280mm~350mm程度の直径を有する撹拌軸とすることができる。なお、図2に示したように、同様のサイズであって、液中軸受53を備えている従来の撹拌装置50においては、その撹拌軸51の直径としては180mm~200mm程度であった。このように、撹拌軸21の直径を従来に比して1.3倍~1.8倍程度の割合で太くすることによって、液中軸受を有さない構造においてたわみ幅を有効に抑えることができる。
【0043】
あるいは、撹拌軸21の材質を、より高い強度や剛性を有するものとすることによっても実現することができる。例えば、ステンレスや、ステンレスにチタン等をコーティングしたもの等に構成することができる。このように、撹拌軸21をより強度や剛性の高い材質で構成することによって、液中軸受を有さない構造においてたわみ幅を有効に抑えることができる。
【0044】
このような撹拌装置20を備えた晶析装置1によれば、撹拌装置の定期的な点検等の回数を減らすことができ、操業効率を高めることができる。また、従来の撹拌装置(例えば図2参照)のように、液中軸受の磨耗に起因する撹拌軸の振れの増大等の不具合を無くすことができ、撹拌装置とその撹拌装置を適用した晶析装置等の他の装置との接触や、接触による損壊を防ぐことができる。
【実施例
【0045】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
図1に示すような撹拌装置20を備えた晶析装置1を用いて、硫酸ニッケルの晶析を行った。具体的には、ニッケル濃度が125g/L以上の硫酸ニッケル溶液を晶析装置1内に装入し、内部圧力を7.5kPaとし、外部に設けた熱交換器によりスラリーを加熱することによって、硫酸ニッケルの結晶を析出させた。
【0047】
その結果、得られた硫酸ニッケルには、液中軸受の磨耗に起因する不純物の混合はなく、良好な結果を得ることができた。また、晶析操作中においても、撹拌装置が外筒10bに接触する等の不具合も生じず、稼働率の低下も起こらなかった。
【符号の説明】
【0048】
1 晶析装置
10 晶析缶
10a 晶析槽
10b 外筒
11 被処理液供給口
12 ドラフトチューブ
12a 上側ドラフトチューブ
12b 下側ドラフトチューブ
20 撹拌装置
21 撹拌軸
22 撹拌羽根
22a 上向き羽根
22b 下向き羽根
30 槽外軸受
31 中間軸
32 駆動電動機
33 減速機
34 駆動装置
35 メカニカルシール
図1
図2