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特許7085571フッ素濃度を感知するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】フッ素濃度を感知するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/036 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
G01N29/036
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019565515
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018041522
(87)【国際公開番号】W WO2019014276
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】15/648,845
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513192029
【氏名又は名称】サイマー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ダフィー,トーマス パトリック
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502134(JP,A)
【文献】特開昭59-145957(JP,A)
【文献】特表2011-513744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0028664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、
前記レーザガスのサンプルを保持するための前記レーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、
基準周波数を有する周波数信号を生成するための周波数発生装置と、
前記ガスサンプルにおいて音波を生成するために、前記周波数信号を受け取り基準周波数で変調された放射で前記ガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射源と、
前記ガスセル内に位置する、且つ前記音波を増幅するように配置された音響共振器と、 前記ガスセル内に位置して前記基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つ圧電クォーツ音叉が振動する周波数を示す電気信号を生成するために前記圧電クォーツ音叉の少なくとも一部を振動させるような方法で、前記音波にさらされる圧電クォーツ音叉と、
前記電気信号を受信するように配置された、且つ前記基準周波数における前記電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するための回路と、
増幅された電気信号を生成するために前記電気信号を受信するように配置された前置増幅回路と、
前記増幅された電気信号を受信するように配置された、且つ前記基準周波数における前記電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するためのロックイン増幅器と、
前記電気信号を受信するように配置された、且つ前記出力信号に少なくとも部分的に基づいて、前記サンプルガスにおけるF2の濃度を決定し、前記サンプルガスにおけるF2の濃度の指示を生成するように適合されたレーザコントローラと、
前記レーザコントローラに応答可能に接続され、前記指示を受信するように配置され、且つ前記レーザコントローラからの前記指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスを前記レーザチャンバに供給するように適合されたガス供給システムと、
を含む装置。
【請求項2】
フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、
前記レーザガスのサンプルを保持するための前記レーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、
基準周波数を有する周波数信号を生成するための周波数発生装置と、
前記周波数信号を受信するように、且つ前記ガスサンプルにおいて音波を生成するために、前記基準周波数で変調された放射で前記ガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射源と、
前記ガスセル内に位置する、且つ前記音波を増幅するように配置された音響共振器と、
前記ガスセル内に位置して前記基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つ圧電クォーツ音叉が振動する周波数を示す電気信号を生成するために前記圧電クォーツ音叉の少なくとも一部を振動させるような方法で、前記音波にさらされる圧電クォーツ音叉と、
増幅された電気信号を生成するために前記電気信号を受信するように配置された前置増幅回路と、
前記増幅された電気信号を受信するように配置された、且つ前記基準周波数における前記電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するためのロックイン増幅器と、
前記電気信号を受信するように配置された、且つ前記電気信号に少なくとも部分的に基づいて、前記サンプルガスにおけるF2の濃度を決定し、F2を含むガスを前記レーザチャンバに追加することが必要であるという指示を生成するように適合されたレーザコントローラと、
前記レーザコントローラに応答可能に接続された、且つ前記レーザコントローラからの前記指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスを前記レーザチャンバに供給するように適合されたガス供給システムと、
を含む装置。
【請求項3】
レーザガスのサンプルをレーザチャンバからガスセルに追加するステップと、
前記ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射で前記ガスサンプルの少なくとも一部を照射するステップであって、前記音波が、前記ガスセル内に位置し、前記基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有し、且つ前記音波にさらされる圧電クォーツ音叉における振動を誘発し、前記圧電クォーツ音叉が、前記振動を示す電気信号を生成するステップと、
前記電気信号を受信するように配置された前置増幅回路を用いて増幅された電気信号を生成するステップと、
前記増幅された電気信号を受信するように配置されたロックイン増幅器を用いて、前記基準周波数における前記電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するステップと、
前記出力信号に少なくとも部分的に基づいてレーザガスの前記サンプルにおけるF2の濃度を決定し、且つ前記サンプルガスにおけるF2の濃度の指示を生成するステップと、
前記指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスを前記レーザチャンバに供給するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]
本出願は、2017年7月13日に出願された米国非仮出願第15/648,845号の優先権を主張し、その米国非仮出願は、参照によりその全体において本明細書で援用される。
【0002】
[0002] 本開示は、エキシマレーザに関し、特にエキシマレーザにおけるレーザガスの組成を監視するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] エキシマレーザは、よく知られている。エキシマレーザの1つの重要な使用法は、集積回路リソグラフィ用の光源としての使用法である。集積回路リソグラフィ用にかなりの数で現在提供されているエキシマレーザの1つのタイプが、193nmの波長で紫外線光を生成するArFレーザである。同様のエキシマレーザであるKrFレーザは、248nmの紫外線光を供給する。これらの波長の両方とも、電磁スペクトルにおいて深紫外線(「DUV」)部分に存在すると考えられる。
【0004】
[0004] これらのレーザは、典型的には、パルスモードで動作する。レーザビームは、2つの電極間のレーザガスを通した放電によって生成された利得媒体を含むレーザチャンバにおいて生成される。ArFレーザ用に、レーザガスは、典型的には約3~4%のアルゴン、0.1%のフッ素、及び96~97%のネオンである。KrFレーザ用に、レーザガスは、典型的には約1%のクリプトン、0.1%のフッ素、及び約99%のネオンである。
【0005】
[0005] フッ素は、最も反応的な元素であり、それは、放電中にイオン化された場合に、更に一層反応性になる。これらのレーザチャンバにおいて、フッ素とほどほどに相性がよいニッケルコートアルミニウムなどの材料を利用するためには、特別の注意が払われなければならない。更に、レーザチャンバは、レーザチャンバ壁の内部にパッシベーション層を作成するために、フッ素で前処理されてもよい。しかしながら、この特別の注意を用いてさえ、フッ素は、壁及び他のレーザコンポーネントと反応して金属フッ化物の汚染物質を生成し、且つフッ素ガスの比較的規則的な減少に帰着する。減少の速度は、多くの要因に依存するが、しかしレーザの耐用年数における特定の時における所与のレーザに関し、減少の速度は、レーザが動作している場合に、主としてパルス繰り返し数及び負荷率に依存する。レーザが動作していない場合に、減少速度は、かなり低減される。減少の速度は、ガスが循環されていない場合に、更に低減される。この減少を埋め合わせるために、新しいフッ素又はフッ素を含むガス混合物が、典型的には一定の間隔で注入される。これらのレーザの動作におけるこれらや他の詳細は、2001年5月29日に出願された「フッ素監視装置を備えたフッ素制御システム(Fluorine Control System with Fluorine Monitor)」なる名称の米国特許第6,240,117号に見い出すことができ、その特許の開示全体が、これによって参照により援用される。
【0006】
[0006] 幾つかの現在のシステムにおいて、レーザ性能の間接測定が、F2消費を推定するために用いられる。かかる間接測定は、製造環境においてこれらのエキシマレーザの長期の信頼できる動作を提供するために一般に効果的である。しかしながら、様々な要因(変化する動作点、汚染物質生成)が、推定におけるエラーにつながり、ガス寿命にわたる性能のドリフト及び結局は許容できない誤り率を引き起こす可能性がある。
【0007】
[0007] ガスにおけるF2濃度の直接測定は、これらの困難を回避することになろう。直接的なF2測定は、化学センサを用いて可能であるが、しかしそれらは、典型的には遅く、且つ正確な示度を確立するために、ガスの大きなサンプル体積(又は連続的なフロー)を必要とする。チャンバにおけるガスのかなりの割合のサンプリングは、サンプリングが行われている間に、ガスの全体的な消費を増加させ、且つ性能における変化につながることになろう(即ち、F2測定が行われる場合に、チャンバ圧力は相当に低下する)。加えて、頻繁で時間のかかる較正が必要である。
【0008】
[0008] 従って、ArF及びKrFエキシマレーザなどのフッ素ベースのエキシマレーザにおけるフッ素減少を判定するための装置及び方法の必要性が存在する。この必要性は、2つのチャンバが、同一の充電電圧を受け取り、従ってフッ素消費の推定をより困難にする2重チャンバ設計及びパルス電力アーキテクチャを有するレーザにおいて特に切実である。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 以下は、実施形態の基本的な理解を提供するために、1つ又は複数の実施形態の単純化された概要を提示する。この概要は、全ての考えられる実施形態の広範囲な概説ではなく、全ての実施形態の主要な又は肝要な要素を識別するようにも、何れかの又は全ての実施形態の範囲に制限を設定するようにも意図されていない。その唯一の目的は、後で提示される一層多くの詳細な説明に対する前置きとして、簡略化された形式で1つ又は複数の実施形態の幾つかの概念を提示することである。
【0010】
[0010] 一態様によれば、フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、レーザガスのサンプルを保持するためのレーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射源と、ガスセルに位置して基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つトランスデューサが振動する周波数を示す電気信号を生成するためにトランスデューサの少なくとも一部を振動させるような方法で、音波にさらされるトランスデューサと、電気信号を受信するように配置された、且つ基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するための回路と、を含む装置が開示される。放射源は、パルスレーザ又は外部的に変調される連続波レーザであり得るレーザであってもよい。放射源は、LEDであってもよい。トランスデューサは、圧電クォーツ音叉を含んでもよい。装置はまた、ガスセルに位置する、且つ音波を増幅するように配置されたトランスデューサに音響的に結合された音響共振器を更に含んでもよい。装置はまた、前置増幅回路を含んでもよい。回路は、ロックイン増幅器を含んでもよい。放射源は、約180nm~約410nmの波長を有する、又は約360nm~約397nmの波長を有するレーザを含んでもよい。放射源は、約360nm~約375nmの波長を有する連続波レーザを含んでもよい。装置はまた、電気信号を受信するように配置された、且つ電気信号に少なくとも部分的に基づいて、サンプルガスにおけるF2の濃度を決定するように適合されたレーザコントローラを含んでもよい。装置はまた、レーザコントローラに応答可能に接続された、且つレーザコントローラによって決定されるようなサンプルガスにおけるF2の濃度に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバに供給するように適合されたガス供給システムを含んでもよい。
【0011】
[0011] 別の態様によれば、フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、レーザガスのサンプルを保持するためのレーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、基準周波数を有する周波数信号を生成するための周波数発生装置と、周波数信号を受信するように、且つガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射と、ガスセルに位置する、且つ音波を増幅するように配置された音響共振器と、ガスセルに位置して基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つ圧電クォーツ音叉が振動する周波数を示す電気信号を生成するために圧電クォーツ音叉の少なくとも一部を振動させるような方法で、音波にさらされる圧電クォーツ音叉と、増幅された電気信号を生成するために電気信号を受信するように配置された前置増幅回路と、増幅された電気信号を受信するように配置された、且つ基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するためのロックイン増幅器と、電気信号を受信するように配置された、且つ電気信号に少なくとも部分的に基づいて、サンプルガスにおけるF2を含むガスの濃度を決定し、F2を含むガスをレーザチャンバに追加することが必要であるという指示を生成するように適合されたレーザコントローラと、レーザコントローラに応答可能に接続された、且つレーザコントローラからの指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバに供給するように適合されたガス供給システムと、を含む装置が開示される。
【0012】
[0012] 別の態様によれば、レーザガスのサンプルをレーザチャンバからガスセルに追加するステップと、ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するステップであって、音波が、ガスセルに位置する、且つ基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有するトランスデューサにおける振動を誘発し、トランスデューサが、振動を示す電気信号を生成するステップと、基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を電気信号に基づいて生成するステップと、を含む方法が開示される。照射ステップは、レーザ又はLEDを用いて実行されてもよい。方法は、電気信号に少なくとも部分的に基づいて、レーザガスのサンプルにおけるF2の濃度を決定し、且つF2を含むガスをレーザチャンバに追加することが必要であるという指示を生成するステップを更に含んでもよい。方法は、指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバに供給するステップを更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】[0013]クォーツ増強光音響分光検出器用の代替構成を示す図である。
図1B】[0013]クォーツ増強光音響分光検出器用の代替構成を示す図である。
図1C】[0013]クォーツ増強光音響分光検出器用の代替構成を示す図である。
図1D】[0013]クォーツ増強光音響分光検出器用の代替構成を示す図である。
図2】[0014]レーザガスにおけるF2の測定された個数濃度に基づいて、レーザチャンバにガスを供給するためのシステム用の全体的な広い概念の概略的な一定の縮尺ではない図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0015] ここで様々な実施形態が、図面に関連して説明され、図面では、同様の参照数字が、全体を通して同様の要素を指すために用いられる。以下の説明において、説明のために、多数の特定の詳細が、1つ又は複数の実施形態の完全な理解を促進するために明らかにされる。しかしながら、以下で説明される何れかの実施形態が、以下で説明される特定の設計詳細を採用せずに実施され得ることが、幾つか又は全ての実例において明白であり得る。他の実例において、周知の構造及び装置は、1つ又は複数の実施形態の説明を容易にするために、ブロック図の形式で示されている。
【0015】
[0016] 一態様によれば、開示されるのは、ガスにおいてフッ素個数密度を測定するための分光技術---クォーツ増強光音響分光法又はQEPAS---の使用法である。この目的のためのQEPASは、光が通過するガスにおける(小さな)温度変化をもたらす、フッ素含有ガスのサンプルによる光ビームの吸収を伴う。光の強度又は周波数の変調は、温度における変調をもたらす。今度は、この変調された温度は、ガスにおける圧力及び密度、即ち音波における変調をもたらす。音波は、変調周波数と共振する小さなクォーツ音叉を用いて検出される。音叉及びビームは、音波が、音叉腕の非対称変位をもたらし、クォーツにおける圧電効果を通して電気信号を生成するように位置する。換言すれば、音響共振器及びビームは、ビームが、圧電信号を生成するために相異なる方向に(例えば反対に)音叉腕を移動させる音波を生成するような方法で、互いに配置される。この信号は、増幅され、その大きさは、変調周波数における信号成分の位相敏感検出を用いて正確に測定される。基本QEPAS技術の詳細な再検討が、Kosterev et al., Applications of Quartz Tuning Forks in Spectroscopic Gas Sensing, Review of Scientific Instruments No. 76, 0439105:1-043105:9 (2005)に見い出され得る。この技術を用いれば、1立方センチメートル未満のサンプル体積を用いて、数秒の内で安定した示度をもたらすことが可能である。
【0016】
[0017] この技術の利用には2つの主なアプローチが存在する。図1Aに示されている第1のアプローチにおいて、高ビーム品質のレーザからのビーム10は、典型的には、クォーツ音叉20の腕の間に集中される。音叉の両側にそれぞれ配置された、且つビーム10が通るたいてい小さなチューブ30及び40は、音響信号の大きさを増加させる音響共振器として用いられる。光源、例えばLEDからの光として使用される一層低いビーム品質のレーザと共に用いられる第2の技術において、ビーム10は、音叉20の腕の平面と平行に走る、図1Bに示されているような一層大きなチューブ50の中を通して集中される。音叉20における腕の間の空間近くに位置するチューブ50の小さなスリット60は、腕の間の領域へと音波を放出する。このバージョンは、「オフビームQEPAS」と名付けられる。「オフビームQEPAS」用の他の可能な配置が、図1C及び1Dに示されている。追加の情報が、Liu et al., Trace gas detection based on off-beam quartz enhanced photoacoustic spectroscopy: Optimization and performance evaluation. Review of Scientific Instruments 81, No. 10 (2010): 103103において入手可能である。追加の情報がまた、2007年7月17日出願で「クォーツ増強光音響分光法(Quartz Enhanced Photoacoustic Spectroscopy)」なる名称の米国特許第7,245,380号において入手可能であり、その特許の明細は、参照によって援用される。
【0017】
[0018] F2用に、285nmでピークに達する、210~500nmに生じる広範な連続吸収帯域を用いることができる。エキシマレーザガスにおけるF2の典型的な濃度に関し、285nmのピーク波長における吸収は、典型的には約7×10―4/cmである。この吸収は、極めて弱いが、QEPAS技術は、吸収係数が桁違いに低い種を測定するためにうまく用いられてきた。このレベルで測定するために、1.2Wの光パワーが、762nmにおいて必要とされた。かかる高いパワーは、スペクトルのUV部分において容易に利用可能ではないが、しかし優れた信号を保証するために、光源は、光源波長における光パワー及び吸収係数の積を最適化するように選択されるべきである。
【0018】
[0019] この波長範囲における吸収を励起するために、多数のダイオード励起固体レーザ、ダイオードレーザ、及びLED光源のどれでも、商業的に入手可能である。例えば、従来のQEPAS用の適切なレーザが、以下の表に示されているように、Midvale Utah(ユタ州ミッドヴェール)のOpto Engine及び/又はChangchum PRC(中華人民共和国長春)のChangchum New Industries Optoelectronics Technology Co., Ltd.から入手可能である。
【0019】
【表1】
【0020】
[0020] 約180nm~約410nmの範囲、より好ましくは約360nm~約397nmの範囲、及び更により好ましくは約360nm~約375nmの範囲における波長を有する放射を用いることが好まれる。連続波(CW)レーザを用いることがまた好まれる。従って、約1mw~約200mw以上の範囲及びより好ましくは約150mw~200mwの範囲におけるパワーを備えた約360nm~約397nm、より好ましくは約360nm~約375nmの波長を有するCWレーザを用いることが現在好まれる。
【0021】
[0021] オフビームQEPASで使用するための適切な高出力LEDダイオードレーザは、例えば、次の表に示されているように、Newton, New Jersey(ニュージャージー州ニュートン)のThorlabs, Inc.(ソーラボ社)から入手可能である。
【0022】
【表2】
【0023】
[0022] このリストから、例えば、項目#M365P1(波長365nm及びパワー1150mW)は、それが吸収ピークの近くのパワー及びWLの最良の組み合わせを提供するので、優れた選択になるであろう。
【0024】
[0023] 要約すると、放射源は、約360nm~約397nmの波長を有する連続波レーザを含んでもよい。放射源はまた、高出力LEDであってもよい。また放射源強度又は波長は、音叉の共振周波数で変調される能力を有しなければならない。例えば、レーザが用いられる場合に、レーザは、それ自体、変調された放射を放出するパルスレーザであってもよく、又は連続波レーザが、或る外部の方法、例えばチョッパーホイール若しくは音響光学変調器の使用によって変調され得る。本明細書で用いられるように、どちらの実例においても、放射は変調される。最後に、200nm以下までの波長もまた、かかる源のコンパクトなバージョンが入手可能な場合には、作動するであろう。
【0025】
[0024] センサが組み込まれるエキシマレーザ装置は、電気信号を受信するために配置された、且つ電気信号に少なくとも部分的に基づいて、サンプルガスにおけるF2の濃度を決定するように適合されたレーザコントローラを更に含んでもよい。次に、レーザコントローラは、サンプルが取得される基となるレーザチャンバにF2含有ガスを供給するような或る措置を講ずるために、測定されたF2濃度を用いてもよい。
【0026】
[0025] 検討中の遷移の上部状態が反発的であるので、効率は、適切であると予想することができる。即ち、F2分子は、2つのF原子間に強い反発力を伴う2つのF原子へと崩壊する。従って、吸収された光子エネルギは、2つの原子の運動エネルギに大部分は変換される。全体としてガスへのこのエネルギの熱化は、チャンバガス混合物に典型的な密度において急速に進むはずである。
【0027】
[0026] 図2は、本発明の実施形態の一態様によるシステムの概略図である。図示のように、F2センサは、光源70を含む。上記のように、この光源70は、例えばレーザ又はLEDとして実現されてもよい。光源が、CWレーザである場合に、その出力は、変調器150によって変調されてもよい。光源70からの光ビーム10は、レンズ80によってガスセル90に合焦される。ガスセル90は、圧電クォーツ音叉20と、音響微小共振器として働く小さなチューブ30及び40と、を含む。ガスセル90においてガスによって吸収されなかった光は、ガスセル90の外に進み、且つガスセル90から熱的に分離されたビームダンプ100に入る。ガスは、バルブ130を含むガス入口120を通ってレーザチャンバ110からガスセル90の中に導入される。ガスは、ガス出口140を通ってガスセル90から出される。
【0028】
[0027] 光源70の強度は、周波数発生装置160の管理下で、周波数変調器150によって基準周波数において変調される。基準周波数は、圧電クォーツ音叉20の共振周波数に対応する。F2感知用に、強度変調が好まれる。何故なら、吸収帯域が広すぎて、周波数変調が好まれるようにできないからである。圧電クォーツ音叉20は、音波に応答して電流源として働く。トランスインピーダンス前置増幅器170は、圧電クォーツ音叉20からの電流を前置増幅器信号に変換する。トランスインピーダンス前置増幅器170からの前置増幅器信号は、ロックイン増幅器180にルーティングされる。ロックイン増幅器180は、周波数発生装置160によって供給された変調(基準)周波数と位相干渉性の前置増幅器信号の一部に比例した信号を出力する。ロックイン増幅器180の出力は、ガスサンプルにおけるF2個数密度に比例するが、レーザ制御システムにおけるレーザコントローラ190にルーティングされる。レーザコントローラ190は、例えばF2を含むガスをレーザチャンバ110に追加することが必要な場合を決定するために、F2個数密度に関する情報を用いる。F2を含むガスをレーザチャンバ110に追加することが必要であるとレーザコントローラ190が決定した場合に、レーザコントローラ190は、以下で説明される方法で、F2を含むガスをレーザチャンバ110に供給するようにガス供給部200を制御する制御信号を生成する。
【0029】
[0028] ガスセル90をレーザガスシステムに統合するための多数の可能な機構が存在する。上記の例におけるような別個の入口及び出口ポートは、必要ではない。また、主発振器用のチャンバ(MOチャンバ)及びパワーリング増幅器用のチャンバ(PRAチャンバ)などの多数のチャンバ構成を備えたレーザにおいて、各チャンバ用の別個のセンサが使用され得る。ガスボックスマニホールドなど、両方のチャンバと流体連通するポートに接続された単一のセンサを用いることもまた可能である。これは、MO及びPRAチャンバのどちらにおけるサンプリングも可能にし、且つセルにおけるコンポーネントがレーザガスを汚染するリスクを最小化するようにセル体積をレーザガスから容易に分離できるようにするのと同様に、測定間にガスセルを空にするか、又は不活性ガス若しくは不活性ガスの組み合わせでガスセルを充填できるようにするであろう。加えて、マニホールドへの接続は、センサの較正を容易にする。
【0030】
[0029] 半導体フォトリソグラフィ用に使用されるレーザにおいて、F2濃度における柔軟性を可能にするために、チャンバのガス混合物は、2つの供給部、即ち純粋な不活性ガス(Ne、Ar又はKr、及び時にはXe)を供給する1つの供給部、並びにチャンバにおける所望の濃度よりはるかに高い濃度(典型的には1%)で同じ不活性ガス+F2を含む別の供給部からのガスを混合することによって典型的に取得される。これらのガス供給の相異なる割合を選択することによって、例えば約0.15%、約0.5%、約2%だが、好ましくは約0%~約1%の範囲のターゲット値にF2濃度中を「合わせる」ことが可能である。典型的な用途において、供給の比率は、約0.1%のF2を達成するために、約10:1である。純粋不活性供給は、「バイミックス(bimix)」と呼ばれ、一方でF2含有供給は、「トライミックス(trimix)」と呼ばれる。換言すれば、F2を含まず、代わりに例えばAr及びNeなどの不活性ガスの組み合わせを含む供給ガスが、「バイミックス」である。Ar濃度は、例えば約10%か、約5%か、又は約1%であるが、Neなどの別の不活性ガスとのバランスが取られ、好ましくは約3%~約4%の範囲であり得る。ガスセルは、0ppm及び1000ppmの信号レベルを確立するために、各補給においてバイミックス及び新しいレーザガス混合物で交互に充填することが可能である。
【0031】
[0030] 従って、上記のシステムは、レーザ特性から推測される測定ではなく、レーザガスにおけるF2濃度の直接測定を可能にする。F2を測定するQEPAS装置の使用によって、高い信号対雑音比及び高ノイズ除去がもたらされる。高ノイズ除去は、音叉共振が、非常に鋭い(「高Q」)という事実ゆえに、且つ音叉が、腕の反対運動用に、その結果例えばセル壁により吸収される光ビームによって生成された音波用にのみ圧電信号を生成するからである。システムはまた、例えば約5cc又は約2ccだが、しかし好ましくは約1cc未満の小さなサンプル体積を用いて、1秒程度の応答時間を可能にする。
【0032】
[0031] 従って、この技術は、現在利用可能な技術より速くてよりコンパクトになるであろう測定を可能にする。従来方法と比較して、それは、はるかに少ないサンプル体積しか必要とせず、且つ従ってより多くのノイズを排除できるようにする一層高いQを備えた共振を可能にする。QEPAS技術はまた、ビーム又は窓、セル壁等からの散乱光の吸収によって生成されたスプリアス信号の影響をそれほど受けない。
【0033】
[0032] レーザガスにおけるF2の測定された個数濃度に基づいてレーザチャンバにガスを補給する方法が、以下で説明される。ステップS10において、レーザチャンバにおけるガスのサンプルが取得される。ステップS20において、サンプルの少なくとも一部が、ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射で照射され、音波が、今度は、ガスセルに位置する、且つ基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有するトランスデューサにおいて振動を誘発する。言及したように、サンプルは、レーザ又はLEDで照射されてもよい。ステップS30において、トランスデューサは、振動を示す電気信号を生成することによって、振動を電気信号に変換する。ステップS40において、基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号が生成される。
【0034】
[0033] ステップS50において、フッ素を含むガスをレーザチャンバにおけるガスに追加することが必要かどうかが、出力信号に基づいて決定される。ガスの追加が必要であることが、ステップS50において決定された場合に、ガスは、ステップS60において追加され、次にステップS70においてプロセスが終了する。ガスの追加が必要ではないことが、ステップS50で決定された場合に、プロセスは、ステップS70で終了する。
【0035】
[0034] 上記の説明は、1つ又は複数の実施形態の例を含む。もちろん、前述の実施形態を説明するためのコンポーネント又は方法論の全ての考えられる組み合わせを説明することは不可能であるが、しかし当業者は、様々な実施形態の多くの更なる組み合わせ及び並び換えが可能であることを認識し得る。従って、説明された実施形態は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に入る全てのかかる変更、修正及び変形を包含するように意図されている。更に、用語「含む(includes)」が、詳細な説明又は特許請求の範囲の何れかにおいて用いられる限り、かかる用語は、「含む(comprising)」が、請求項において遷移語として用いられた場合に解釈されるような用語「含む(comprising)」と類似の方法で、包括的になるように意図されている。更に、説明された態様及び/又は実施形態の要素は、単数形で説明又は請求され得るが、単数形に対する制限が、明示的に言明されない限り、複数形が考えられる。加えて、何れかの態様及び/又は実施形態の全て又は一部は、別段の言明がない限り、何れかの他の態様及び/又は実施形態の全て又は一部と共に利用されてもよい。
【0036】
[0035] 実施形態は、以下の条項を用いて更に説明され得る。
1.
フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、
レーザガスのサンプルを保持するためのレーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、
ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射源と、
ガスセルに位置して基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つトランスデューサが振動する周波数を示す電気信号を生成するためにトランスデューサの少なくとも一部を振動させるような方法で、音波にさらされるトランスデューサと、
電気信号を受信するように配置された、且つ基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するための回路と、
を含む装置。
2.
放射源が、レーザである、条項1に記載の装置。
3.
放射源が、約180nm~約410nmの波長を有するレーザを含む、条項2に記載の装置。
4.
放射源が、パルスレーザである、条項2に記載の装置。
5.
放射源が、外部的に変調される連続波レーザである、条項2に記載の装置。
6.
放射源が、約360nm~約397nmの波長を有する連続波レーザを含む、条項2に記載の装置。
7.
放射源が、約360nm~約375nmの波長を有する連続波レーザを含む、条項6に記載の装置。
8.
放射源が、LEDを含む、条項1に記載の装置。
9.
トランスデューサが、圧電クォーツ音叉を含む、条項1に記載の装置。
10.
ガスセルに位置する、且つ音波を増幅するように配置されたトランスデューサに音響的に結合された音響共振器を更に含む、条項1に記載の装置。
11.
回路が、前置増幅回路を含む、条項1に記載の装置。
12.
回路が、ロックイン増幅器を含む、条項1に記載の装置。
13.
電気信号を受信するように配置された、且つ電気信号に少なくとも部分的に基づいて、サンプルガスにおけるF2の濃度を決定するように適合されたレーザコントローラを更に含む、条項1に記載の装置。
14.
レーザコントローラに応答可能に接続された、且つレーザコントローラによって決定されるようなサンプルガスにおけるF2の濃度に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバ供給するように適合されたガス供給システムを更に含む、条項13に記載の装置。
15.
フッ素を含むレーザガスを保持するように適合されたレーザチャンバと、
レーザガスのサンプルを保持するためのレーザチャンバと選択的に流体連通するガスセルと、
基準周波数を有する周波数信号を生成するための周波数発生装置と、
周波数信号を受信するように、且つガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するように配置された放射源と、
ガスセルに位置する、且つ音波を増幅するように配置された音響共振器と、
ガスセルに位置して基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有する、且つ圧電クォーツ音叉が振動する周波数を示す電気信号を生成するために圧電クォーツ音叉の少なくとも一部を振動させるような方法で、音波にさらされる圧電クォーツ音叉と、
増幅された電気信号を生成するために電気信号を受信するように配置された前置増幅回路と、
増幅された電気信号を受信するように配置された、且つ基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を生成するためのロックイン増幅器と、
電気信号を受信するように配置された、且つ電気信号に少なくとも部分的に基づいて、サンプルガスにおけるF2の濃度を決定し、F2を含むガスをレーザチャンバに追加することが必要であるという指示を生成するように適合されたレーザコントローラと、
レーザコントローラに応答可能に接続された、且つレーザコントローラからの指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバに供給するように適合されたガス供給システムと、
を含む装置。
16.
レーザガスのサンプルをレーザチャンバからガスセルに追加するステップと、
ガスサンプルにおいて音波を生成するために、基準周波数で変調された放射でガスサンプルの少なくとも一部を照射するステップであって、音波が、ガスセルに位置する、且つ基準周波数とほぼ同じ共振周波数を有するトランスデューサにおける振動を誘発し、トランスデューサが、振動を示す電気信号を生成するステップと、
基準周波数における電気信号の周波数成分の大きさを示す出力信号を電気信号に基づいて生成するステップと、
を含む方法。
17.
上記照射ステップが、レーザを用いて実行される、条項16に記載の方法。
18.
上記照射ステップが、LEDを用いて実行される、条項16に記載の方法。
19.
電気信号に少なくとも部分的に基づいて、レーザガスのサンプルにおけるF2の濃度を決定し、且つF2を含むガスをレーザチャンバに追加することが必要であるという指示を生成するステップを更に含む、条項16に記載の方法。
20.
指示に少なくとも部分的に基づいて、F2を含むガスをレーザチャンバに供給するステップを更に含む、条項19に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2