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特許7085634化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物
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  • 特許-化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物 図1
  • 特許-化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物 図2
  • 特許-化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-08
(45)【発行日】2022-06-16
(54)【発明の名称】化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09B 31/14 20060101AFI20220609BHJP
   C07C 245/10 20060101ALI20220609BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20220609BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20220609BHJP
   D06P 1/04 20060101ALI20220609BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20220609BHJP
   G03G 9/09 20060101ALI20220609BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C09B31/14 CSP
C07C245/10
C09B67/20 E
C09B67/20 K
C09B67/46 A
D06P1/04
C09D11/322
G03G9/09
B41M5/00 120
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020549242
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037378
(87)【国際公開番号】W WO2020067063
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2018180576
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019059182
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤江 賀彦
(72)【発明者】
【氏名】水村 理俊
(72)【発明者】
【氏名】植田 幹
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第01359058(GB,A)
【文献】特開2001-270252(JP,A)
【文献】BREDERECK, K. et al.,Influencing the ortho/para ratio by azo coupling with 1-naphthylamine in nonaqueous media,Dyes and Pigments,1987年,8(4),265-279
【文献】LEGRADI, L.,Mechanism of adsorption indication. VIII. Azo dyes as adsorption indicators. Effect of substituents on the mechanism of adsorption indication,Acta Chimica Academiae Scientiarum Hungaricae,68(4),1971年,297-311
【文献】TROGER, J. et al.,o-Chloro- and o-bromobenzeneazo-α-naphthalenehydrazinosulfonic acids,Journal fuer Praktische Chemie,1926年,114,269-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 31/14
C07C 245/10
C09B 67/20
C09B 67/46
D06P 1/04
C09D 11/322
G03G 9/09
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
一般式(1)中、R及びRは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、Rはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項2】
前記R及び前記Rが各々独立に、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表す請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記Rと前記Rが異なる請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記Rがフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基を表す請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
下記一般式(3)で表される化合物。
【化2】
一般式(3)中、R11及びR12は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、R13はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R11及びR12は互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項6】
前記R11及び前記R12が各々独立に、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表す請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記R11と前記R12が異なる請求項5又は6に記載の化合物。
【請求項8】
前記R13がフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基を表す請求項5~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物を含有する着色組成物。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物と、請求項5~8のいずれか1項に記載の化合物とを含有する請求項9に記載の着色組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項9若しくは10に記載の着色組成物を含有するインク。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項9若しくは10に記載の着色組成物を含有するトナー。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項9若しくは10に記載の着色組成物を含有する着色樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項9若しくは10に記載の着色組成物を含有する繊維染色用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀初頭頃に開発された、C.I.(カラーインデックス)ソルベントブラック3(以下、「ソルベントブラック3」と呼ぶ)は、慣用名で「スダンブラックB」と呼ばれている油溶性の黒色ジスアゾ化合物である。
1934年には、脂肪染色法、すなわち、血球や組織内の脂質の証明法として、脂溶性(油溶性)色素を用いて、色素が脂質に溶解するという性質を利用した、血球や組織内脂肪の染色法が、Lisonらにより発表され、今日でも広くスダンブラックB染色法として用いられている(非特許文献1)。
1952年には、Bermanらが、ソルベントブラック3の化学構造式を発表し(非特許文献2)、その後、インクジェットインク、トナー、オイル着色、筆記具、繊維染色や皮革染色等の、さまざまな産業分野への応用が提案されるようになった(例えば、特許文献1~7)。
このように現在、ソルベントブラック3は産業上の重要な、油溶性黒色染料に位置づけられている。
また、特許文献8及び9には、ソルベントブラック3とは異なるジスアゾ化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開昭55-25463号公報
【文献】日本国特開昭50-139745号公報
【文献】英国特許第1029182号明細書
【文献】日本国特開昭53-14896号公報
【文献】米国特許第3679454号明細書
【文献】日本国特公昭49-20054号公報
【文献】日本国特公平1-44218号公報
【文献】日本国特開2015-044993号公報
【文献】中国特許第1546575号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Histochemistry、第54巻、p.27-37
【文献】Histochemistry、第54巻、p.237-250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ソルベントブラック3は、熱に対する安定性に劣る問題があった。すなわち、ソルベントブラック3は、各種用途での使用条件やその製造条件において、染料の分解に起因したさまざまな課題を抱えており、その改良が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、油溶性黒色染料として用いることができ、かつソルベントブラック3よりも熱に対する安定性が優れる化合物、上記化合物を含有する着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物、並びに上記化合物の製造に有用な中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ね、下記の手段によって上記課題を解決できることを見出した。
本発明の一般式(1)で表される化合物がソルベントブラック3よりも熱に対する安定性に優れる理由については明らかになっていないが、本発明者らは以下のように推測している。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、アゾ基に対してオルト位(R)にハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を有している。これらの基が、一般式(1)中のアゾ基と相互作用(ハロゲン結合等)、若しくはアゾ基を立体的に保護することで、一般式(1)で表される化合物の熱に対する安定性が、ソルベントブラック3に対して大幅に向上したものと考えられる。
また、本発明の一般式(3)で表される化合物がソルベントブラック3よりも熱に対する安定性に優れる理由については、以下のように推測している。
本発明の一般式(3)で表される化合物は、アゾ基に対してオルト位(R13)にハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を有している。これらの基が、一般式(3)中のアゾ基と相互作用(ハロゲン結合等)、若しくはアゾ基を立体的に保護することで、一般式(3)で表される化合物の熱に対する安定性が、ソルベントブラック3に対して大幅に向上したものと考えられる。
さらに、一般式(3)で表される化合物は、もう一方のアゾ基に対してオルト位にアミノ基(-NH-)を有している。これにより、アゾ基とアミノ基が水素結合を形成し、一般式(3)で表される化合物の熱に対する安定性がさらに向上したものと考えられる。
【0008】
本発明は、下記<1>~<14>に係るものであるが、本明細書には参考のため下記<15>についても記載した。
<1>
下記一般式(1)で表される化合物。
【0009】
【化1】
【0010】
一般式(1)中、R及びRは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、Rはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
<2>
上記R及び上記Rが各々独立に、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表す<1>に記載の化合物。
<3>
上記Rと上記Rが異なる<1>又は<2>に記載の化合物。
<4>
上記Rがフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基を表す<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物。
<5>
下記一般式(3)で表される化合物。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(3)中、R11及びR12は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、R13はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R11及びR12は互いに結合して環を形成していてもよい。
<6>
上記R11及び上記R12が各々独立に、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表す<5>に記載の化合物。
<7>
上記R11と上記R12が異なる<5>又は<6>に記載の化合物。
<8>
上記R13がフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基を表す<5>~<7>のいずれか1項に記載の化合物。
<9>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の化合物を含有する着色組成物。
<10>
<1>~<4>のいずれか1項に記載の化合物と、<5>~<8>のいずれか1項に記載の化合物とを含有する<9>に記載の着色組成物。
<11>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の化合物、又は<9>若しくは<10>に記載の着色組成物を含有するインク。
<12>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の化合物、又は<9>若しくは<10>に記載の着色組成物を含有するトナー。
<13>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の化合物、又は<9>若しくは<10>に記載の着色組成物を含有する着色樹脂組成物。
<14>
<1>~<8>のいずれか1項に記載の化合物、又は<9>若しくは<10>に記載の着色組成物を含有する繊維染色用組成物。
<15>
下記一般式(2)で表される化合物。
【0013】
【化3】
【0014】
一般式(2)中、Rはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、油溶性黒色染料として用いることができ、かつソルベントブラック3よりも熱に対する安定性が優れる化合物、上記化合物を含有する着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物、並びに上記化合物の製造に有用な中間体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】化合物(1-3)のH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトル(重クロロホルム中)を示す図である。
図2】化合物(1-36)のテトラヒドロフラン希薄溶液中の吸収スペクトルを示す図である。
図3】実施例26で得られた染色布の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一種を表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一種を表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの少なくとも一種を表す。
【0018】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0019】
【化4】
【0020】
一般式(1)中、R及びRは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、Rはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0021】
一般式(1)中、R及びRは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表す。
及びRが表すアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
及びRが表すアルキル基の炭素数は1~12であり、1~8が好ましく、1~5がより好ましい。
及びRが表すアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルボニルオキシ基)、アルキルアミノカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルアミノカルボニルオキシ基)、シアノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルバモイル基)、アリールカルバモイル基(好ましくは炭素数7~11のアリールカルバモイル基、より好ましくはフェニルカルバモイル基)、アリール基(好ましくは炭素数6~10のアリール基、より好ましくはフェニル基)などが挙げられる。
及びRが表すアルキル基は、置換基を有していない(すなわち、無置換のアルキル基である)ことが好ましい。
【0022】
及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。
及びRが互いに結合して環を形成する場合、RとRとでアルキレン基を形成する。このアルキレン基の炭素数は2~12であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。このアルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては、特に限定されないが、例えばアルキル基が有してもよい置換基として前述したものが挙げられる。
【0023】
及びRは、熱に対する安定性の観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表すことが好ましく、更に溶解性と製造コストの観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基を表すことがより好ましく、無置換の炭素数1~8のアルキル基を表すことがより一層好ましく、無置換の炭素数1~5のアルキル基を表すことが特に好ましい。
さらに溶解性の観点では、RとRが異なることが特に好ましい。
【0024】
一般式(1)中のRはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。
がハロゲン原子を表す場合、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
が炭素数2~12のアルコキシカルボニル基を表す場合、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基がより好ましい。
が炭素数2~12のアシル基を表す場合、炭素数2~8のアシル基が好ましく、炭素数2~5のアシル基がより好ましい。また、炭素数2~12のアシル基としては、例えば、炭素数2~12のアルキルカルボニル基、炭素数6~12のアリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基等)などが挙げられ、炭素数2~12のアルキルカルボニル基が好ましい。
【0025】
は、耐熱性の観点で、好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基であり、より好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基であり、更に好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルキルカルボニル基であり、特に好ましくは塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基であり、最も好ましくは、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又はアセチル基である。
【0026】
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、下記化合物(1-25)~(1-30)、(1-52)は、一般式(1)中のR及びRが互いに結合して環を形成している化合物である。Phはフェニル基を表す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
一般式(1)で表される化合物は、好ましくは一般式(2)で表される化合物を中間体として製造される。一般式(1)で表される化合物の製造方法については後述する。
【0032】
[一般式(3)で表される化合物]
本発明の一般式(3)で表される化合物について説明する。
【0033】
【化5】
【0034】
一般式(3)中、R11及びR12は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、R13はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R11及びR12は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0035】
一般式(3)中、R11及びR12は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表す。
11及びR12が表すアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
11及びR12が表すアルキル基の炭素数は1~12であり、1~8が好ましく、1~5がより好ましい。
11及びR12が表すアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルボニルオキシ基)、アルキルアミノカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルアミノカルボニルオキシ基)、シアノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルバモイル基)、アリールカルバモイル基(好ましくは炭素数7~11のアリールカルバモイル基、より好ましくはフェニルカルバモイル基)、アリール基(好ましくは炭素数6~10のアリール基、より好ましくはフェニル基)などが挙げられる。
11及びR12が表すアルキル基は、置換基を有していない(すなわち、無置換のアルキル基である)ことが好ましい。
【0036】
11及びR12は互いに結合して環を形成していてもよい。
11及びR12が互いに結合して環を形成する場合、R11とR12とでアルキレン基を形成する。このアルキレン基の炭素数は2~12であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。このアルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては、特に限定されないが、例えばアルキル基が有してもよい置換基として前述したものが挙げられる。
【0037】
11及びR12は、熱に対する安定性の観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表すことが好ましく、更に溶解性と製造コストの観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基を表すことがより好ましく、無置換の炭素数1~8のアルキル基を表すことがより一層好ましく、無置換の炭素数1~5のアルキル基を表すことが特に好ましい。
さらに溶解性の観点では、R11とR12が異なることが特に好ましい。
【0038】
一般式(3)中のR13はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。
13がハロゲン原子を表す場合、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
13が炭素数2~12のアルコキシカルボニル基を表す場合、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基がより好ましい。
13が炭素数2~12のアシル基を表す場合、炭素数2~8のアシル基が好ましく、炭素数2~5のアシル基がより好ましい。また、炭素数2~12のアシル基としては、例えば、炭素数2~12のアルキルカルボニル基、炭素数6~12のアリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基等)などが挙げられ、炭素数2~12のアルキルカルボニル基が好ましい。
【0039】
13は、耐熱性の観点で、好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基であり、より好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数2~12のアシル基であり、更に好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルキルカルボニル基であり、特に好ましくは塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基であり、最も好ましくは、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又はアセチル基である。
【0040】
一般式(3)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
【表5】
【0042】
一般式(3)で表される化合物は、好ましくは一般式(2)で表される化合物を中間体として製造される。一般式(3)で表される化合物の製造方法については後述する。
【0043】
[一般式(2)で表される化合物]
本発明の一般式(2)で表される化合物について説明する。一般式(2)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物を合成する際の材料(中間体)として用いることができる。
【0044】
【化6】
【0045】
一般式(2)中、Rはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。
【0046】
一般式(2)中のRは、一般式(1)中のRと同義であり、具体例及び好ましい範囲も同様である。
【0047】
一般式(2)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。Phはフェニル基を表す。
【0048】
【表6】
【0049】
一般式(2)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、好ましい製造方法は、以下に記載する一般式(1)で表される化合物の好ましい製造方法において説明する。
【0050】
一般式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、
1,8-ジアミノナフタレンにケトン化合物(X)を縮合して中間体(CP)を合成する工程(第1工程)、
o-置換アニリン(Y)をジアゾ化剤を用いてジアゾニウム塩を形成させた後に1-ナフチルアミンとカップリングして一般式(2)で表される化合物を合成する工程(第2工程)、
一般式(2)で表される化合物をジアゾ化剤を用いてジアゾニウム塩を形成させた後に、中間体(CP)とカップリングさせて一般式(1)で表される化合物(ジスアゾ化合物)を合成する工程(第3工程)、をこの順に含む方法により製造されることが好ましい。
具体的なスキームを以下に示す。
【0051】
【化7】
【0052】
これらの合成に必要な原材料は、すべて試薬として入手することができる。例えば、1,8-ジアミノナフタレンは富士フイルム和光純薬(株)製試薬(カタログ番号043-00795)、1-ナフチルアミンは東京化成(株)製試薬(カタログ番号N0052)、ケトン化合物(X)は富士フイルム和光純薬(株)製試薬(カタログ番号037-02316、066-02122、143-01505、及びA10895など)、o-置換アニリン(Y)は富士フイルム和光純薬(株)製試薬(カタログ番号037-02316、060-02125、及び025-02492など)として入手することができる。
【0053】
第1工程において溶媒を用いても、無溶媒で反応してもよい。溶媒を用いる場合は水、メタノール、またはエタノールを好ましく用いることができる。また、第1工程において触媒を用いてもよく、濃硫酸を好ましく用いることができる。
【0054】
第2工程で用いることのできるジアゾ化剤としては、亜硝酸ナトリウム、ニトロシル硫酸、亜硝酸エステル類(例えば亜硝酸イソアミル)などが挙げられる。安価に入手可能である点で亜硝酸ナトリウムが好ましい。
第2工程のジアゾ化において用いることのできる溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸などが挙げられるが、安価に製造する点において水が好ましい。
また、第2工程のジアゾ化では通常、強酸を使用する。強酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、または硫酸を好ましく用いることができる。強酸の使用量はo-置換アニリンのモル数に対して、通常2.1~10モル当量、好ましくは2.1~4モル当量である。
第2工程のジアゾ化で、未反応のジアゾ化剤を失活させるためにアミド硫酸や尿素を用いてもよい。
第2工程のカップリング反応で用いる溶媒としては、水、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸、プロピオン酸、及びそれらの混合が挙げられる。反応基質により異なるがアセトン、メタノールなどを好ましく用いることができる。
第2工程のカップリング反応において、pHを調製するために塩基を併用してもよい。塩基としては、水酸化ナトリウムや酢酸ナトリウムを用いることができるが、塩基を併用しなくとも、通常は十分に反応が進行する。
【0055】
第3工程で用いることのできるジアゾ化剤、ジアゾ化溶媒、ジアゾ化に必要な強酸、未反応のジアゾ化剤の失活剤、カップリング溶媒は、第2工程で挙げたものと同じものを用いることができる。
【0056】
上記一般式(2)で表される化合物は、一般式(3)で表される化合物を合成する際の材料(中間体)としても用いることができる。
一般式(3)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記一般式(1)で表される化合物の製造方法と同様の方法が挙げられる。
【0057】
一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物は、色素であり、種々の用途に用いることができる。一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物の用途としては、例えば、着色組成物、インク(例えば、インクジェットインクなど)、トナー、着色樹脂組成物(例えばペレットなど)、及び繊維染色用組成物などが挙げられる。
特に、一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物は、油溶性黒色染料として用いることができ、かつソルベントブラック3よりも熱に対する安定性が優れるため、従来ソルベントブラック3が用いられていた用途に加え、より高温になる条件下でも好適に用いることができる。例えば、インクジェットインクはサーマル方式では瞬間的に高温の熱がかかる。また、トナーは作成時に色素と樹脂とを溶融混練するため、色素には高い耐熱性が要求される。着色プラスチックなどの着色樹脂組成物も、トナーと同様に、色素と樹脂とを溶融混練するため、色素には高い耐熱性が要求される。さらに、繊維染色用組成物も染色条件が高温になる場合があり、この場合には、用いる色素には高い耐熱性が要求される。
本発明は、一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物の少なくともいずれか1種を含有する着色組成物、インク(例えば、インクジェットインクなど)、トナー、着色樹脂組成物(例えばペレットなど)、及び繊維染色用組成物にも関するものであるが、色素として一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物の少なくともいずれか1種を含有すること以外は、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物のそれぞれの分野で公知の技術(例えば、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物のそれぞれの調製に際して使用できる添加剤、溶媒、樹脂などの他の成分、調製方法、処理方法など)を適用することができる。特に、従来ソルベントブラック3が用いられていた、着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物のそれぞれの分野で公知の技術を好ましく適用することができる。
【0058】
本発明の着色組成物は、一般式(1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物とを含有することが、耐熱性と溶剤への溶解性の観点から好ましい。
本発明の着色組成物における、一般式(1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の含有量比としては、(一般式(1)で表される化合物の含有量)/(一般式(3)で表される化合物の含有量)が、100質量%/0質量%~40質量%/60質量%が好ましく、95質量%/5質量%~50質量%/50質量%がより好ましく、90質量%/10質量%~60質量%/40質量%がさらに好ましい。
本発明のインク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物は、それぞれ、本発明の一般式(1)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、又は上記本発明の着色組成物(好ましくは一般式(1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物とを含有する着色組成物)を含有することが好ましい。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<合成例1:化合物(1-3)の合成>
化合物(1-3)を以下のスキームに従い合成した。
【0061】
【化8】
【0062】
〔中間体(CP3)の合成〕
3Lの三ツ口フラスコに、1,8-ナフタレンジアミン(富士フイルム和光純薬(株)製)158g(1モル)とメタノール1400mLを加え、次いで、氷冷下で濃硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)57g(0.6モル)を内温40℃以下に保ちながらゆっくりと滴下した。この懸濁液に、ケトン化合物(X)に相当する2-ペンタノン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)100g(1.16モル)を注入した後、内温55℃で1時間反応させた。反応液を室温(25℃)まで冷却し、ここへ水冷下、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1500mLゆっくりと滴下した。室温で15分間撹拌した後に、吸引ろ過を行い、水/メタノール=1/1(v/v)1000mL、次いで水1000mL、最後に水/メタノール=1/1(v/v)1000mLでかけ洗いを行い、得られた粉末を50℃の送風乾燥器で24時間乾燥させ、中間体(CP3)の淡褐色粉末を得た(収量210g、収率93%)。
【0063】
〔化合物(2-1)の合成〕
1Lの三ツ口フラスコに、o-置換アニリン(Y)に相当するo-クロロアニリン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)71.4g(0.56モル)と水560mLを加え、次いで、氷冷下で濃塩酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)140mL(1.68モル)を内温10℃以下に保ちながらゆっくりと滴下した。この溶液に、亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)38.64gを水69.6gに溶解させた水溶液を内温0~5℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~5℃で15分間反応させた。ここへアミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)5.44gを添加し、内温0~5℃で15分間反応させ、ジアゾニウム塩溶液とした。
別途、3Lの三ツ口フラスコに、1-ナフチルアミン(MAHATME DYE CHEM PVT LTD製)76.2g(0.53モル)にアセトン1,904mLを加えた後に、内温を15℃まで冷却した。この溶液に、先に調製したジアゾニウム塩溶液を、内温15~20℃に保ちながら注意深く滴下した後に、内温15~20℃で30分間反応させた。反応液から析出している結晶を吸引ろ過によりろ取し、アセトン/水=1/1(v/v)1000mLでかけ洗いを行った。この結晶のウエットケーキをアセトン/酢酸エチル=1/1(v/v)1500mLに加え、45~50℃に加温し15分間撹拌した後、熱時ろ過して、アセトン/酢酸エチル=1/1(v/v)500mLでかけ洗いを行った後、40℃の送風乾燥器で6時間乾燥させることで、化合物(2-1)の塩酸塩を深緑色結晶として得た(収量142g、収率85%)。
【0064】
〔化合物(1-3)の合成〕
1Lの三ツ口フラスコに、化合物(2-1)の塩酸塩29.8g(0.094モル)、水172mL、酢酸(富士フイルム和光純薬(製)、試薬特級)120mL、プロピオン酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)172mLを加え、内温を5℃まで冷却した。ここへ注意深く濃塩酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)22.4mL(0.269モル)を内温10℃以下で滴下し、次いで、亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)6.48g(0.094モル)を水25.6mLに溶解させた水溶液を内温0~5℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~5℃で1時間反応させた[ジアゾニウム塩溶液]。
別途、2Lの三ツ口フラスコに、中間体(CP3)21.28g(0.094モル)、アミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)128mL、及び水128mLを加えて内温を5℃に冷却した。先に調製したジアゾニウム塩溶液を内温を5~10℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~10℃で30分間反応させ、次いで15~20℃で30分間反応させた。ここへアセトン576mLを滴下し、析出している結晶を吸引ろ過でろ取し、アセトン/水=1/1(v/v)でかけ洗いを行った。得られたウエットケーキを酢酸エチル3000mL/水1200mLに加えて撹拌し、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH8まで中和した。その後、セライトろ過によって不溶物を除去し、酢酸エチル層のみをロータリーエバポレータを用いて濃縮して得られた残渣をメタノールで再結晶することで、化合物(1-3)の深緑色光沢結晶を得た(収量30.6g、収率64%)。MS(mass spectrometry)(m/z):520([M+1]、100%)。化合物(1-3)の融点は105℃であった。
図1に、化合物(1-3)のH-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を示した。
【0065】
ケトン化合物(X)に相当する2-ペンタノン、及びo-置換アニリン(Y)に相当するo-クロロアニリンの少なくとも1種を変更した以外は、上記と同様にして、化合物(1-1)、(1-2)、(1-4)、(1-5)、(1-8)、(1-9)、(1-17)、(1-20)、(1-21)、(1-27)、(1-31)、(1-34)、(1-36)、(1-38)、(1-40)、(1-48)、(1-50)、(1-59)、(1-61)、(1-62)、及び(1-64)を合成した。
なお、化合物(1-1)、(1-2)、(1-4)、(1-5)、(1-8)、(1-9)、(1-17)、(1-20)、(1-21)、(1-27)、(1-61)、(1-62)、及び(1-64)の合成では、化合物(2-1)を中間体として用いた。
化合物(1-31)の合成では、化合物(2-2)を中間体として用いた。
化合物(1-34)の合成では、化合物(2-3)を中間体として用いた。
化合物(1-36)の合成では、化合物(2-4)を中間体として用いた。
化合物(1-38)の合成では、化合物(2-5)を中間体として用いた。
化合物(1-40)の合成では、化合物(2-6)を中間体として用いた。
化合物(1-48)、及び(1-50)の合成では、化合物(2-12)を中間体として用いた。
化合物(1-59)の合成では、化合物(2-15)を中間体として用いた。
【0066】
<合成例2:化合物(3-7)の合成>
化合物(3-7)を以下のスキームに従い合成した。
【0067】
【化9】
【0068】
1Lの三ツ口フラスコに、上記化合物(2-1)の塩酸塩29.8g(0.094モル)、水172mL、酢酸(富士フイルム和光純薬(製)、試薬特級)120mL、プロピオン酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)172mLを加え、内温を5℃まで冷却した。ここへ注意深く濃塩酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)22.4mL(0.269モル)を内温10℃以下で滴下し、次いで、亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)6.48g(0.094モル)を水25.6mLに溶解させた水溶液を内温0~5℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~5℃で1時間反応させた[ジアゾニウム塩溶液]。
別途、2Lの三ツ口フラスコに、上記中間体(CP3)21.28g(0.094モル)、アミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)128mL、及び水128mLを加えて内温を5℃に冷却した。先に調製したジアゾニウム塩溶液を内温を5~10℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~10℃で30分間反応させ、次いで15~20℃で30分間反応させた。ここへアセトン576mLを滴下し、析出している結晶を吸引ろ過でろ取し、アセトン/水=1/1(v/v)でかけ洗いを行った。得られたウエットケーキを酢酸エチル3000mL/水1200mLに加えて撹拌し、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH8まで中和した。その後、セライトろ過によって不溶物を除去し、酢酸エチル層のみをロータリーエバポレータを用いて濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムにかけ、化合物(3-7)を得た(収量5.4g、収率11%)。
MS(mass spectrometry)(m/z):520([M+1]、100%)。化合物(3-7)の融点は152℃であった。NMR(DMSO-d):0.88(t、3H)、1.43(m、5H)、1.72(m、2H)、6.60(d、1H)、6.94(d、1H)、6.96(d、1H)、7.20(s、1H)、7.36(t、1H)、7.57-7.61(t、2H)、7.77(d、1H)、7.79(d、1H)、7.84(m、2H)、7.97(d、1H)、8.04(d、1H)、8.17(d、1H)、8.82(d、1H)、9.07(d、1H)、9.90(brs、1H)
【0069】
ケトン化合物(X)に相当する2-ペンタノン、及びo-置換アニリン(Y)に相当するo-クロロアニリンの少なくとも1種を変更した以外は、上記と同様にして、化合物(3-1)~(3-6)、(3-8)~(3-10)を合成した。
なお、化合物(3-1)、(3-8)、(3-9)、及び(3-10)の合成では、化合物(2-1)を中間体として用いた。
化合物(3-2)の合成では、化合物(2-2)を中間体として用いた。
化合物(3-5)の合成では、化合物(2-4)を中間体として用いた。
化合物(3-4)の合成では、化合物(2-5)を中間体として用いた。
化合物(3-3)の合成では、化合物(2-6)を中間体として用いた。
化合物(3-6)の合成では、化合物(2-12)を中間体として用いた。
【0070】
<極大吸収波長の評価>
各化合物のテトラヒドロフラン溶液中(濃度1×10-6mol/L、光路長10mm)における吸収スペクトルの吸収極大波長とモル吸光係数を下記表7に示す。
また、図2に、化合物(1-36)のテトラヒドロフラン希薄溶液中の吸収スペクトルを示した。
【0071】
【表7】
【0072】
<熱に対する安定性(耐熱性)の評価>
各化合物の熱に対する安定性を以下の手順により評価した。各化合物の粉末10mgをテトラヒドロフラン500mLに溶解させ、吸収スペクトルを測定して、基準となる吸光度(A)を求めた。一方で、4cm四方のアルミカップに各化合物の粉末10mgをはかり取り、オーブンに入れて180℃で5分間加熱した。加熱後の粉末全量を、テトラヒドロフラン500mLに溶解させ、吸収スペクトルを測定して加熱試験後の吸光度(A)を求めた。各化合物の残存率を以下の式により算出して、熱に対する安定性を評価した。結果を表8に示す。
化合物の残存率(%)=A/A×100
【0073】
【表8】
【0074】
OIL BLACK HBB(商品名、オリヱント化学(株)製)の主成分ソルベントブラック3(下記化合物)
【0075】
【化10】
【0076】
比較化合物Aは下記化合物である。
【0077】
【化11】
【0078】
比較化合物Bは下記化合物である。
【0079】
【化12】
【0080】
Meはメチル基を表す。
【0081】
表8の結果から明らかなように、本発明の一般式(1)で表される化合物はソルベントブラック3(OIL BLACK HBB)と比較して熱に対する安定性が優れることが分かる。また、化合物(1-31)と比較化合物A及び比較化合物Bとの比較において、特定の位置(アゾ基に対してオルト位、一般式(1)におけるR)に置換基を有する本発明の化合物は熱に対する安定性が優れることが分かる。
【0082】
[実施例23]
<インクジェットインクの作成>
本発明の化合物(化合物(1-9))5.63g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム7.04gを、下記有機溶媒(S-1)4.22g、下記有機溶媒(S-2)5.63gおよび酢酸エチル50ml中に70℃にて溶解させた。この溶液中に500mlの脱イオン水をマグネチックスターラーで撹拌しながら添加し、水中油滴型の粗粒分散物を作製した。
次に、この粗粒分散物を、マイクロフルイダイザー(MICROFLUIDEX Inc社製)にて60MPaの圧力で5回通過させることで微粒子化を行い、さらにでき上がった乳化物をロータリーエバポレータにて酢酸エチルの臭気が無くなるまで脱溶媒を行った。こうして得られた化合物(1-9)の微細乳化物に、ジエチレングリコール140g、グリセリン50g、サーフィノール465(商品名、AirProducts&Chemicals社製)7g、脱イオン水900mlを添加してインクジェットインクを作製した。
【0083】
【化13】
【0084】
【化14】
【0085】
得られたインクジェットインクをインクジェットプリンタ(マテリアルプリンタDMP-2850、商品名、富士フイルム(株)製)のカートリッジに詰め、同機にてインクジェットペーパー画彩写真仕上げPro(商品名、富士フイルム(株)製)に画像を記録した。インク吐出安定に優れ、得られた画像は、黒色として優れた分光特性を有し、インクジェットインクとして優れた性質を示すことがわかった。
【0086】
[実施例24]
<トナーの作成>
本発明の化合物(化合物(1-36))3g、トナー用樹脂〔スチレン-アクリル酸エステル共重合体;ハイマーTB-1000F(商品名、三洋化成(株)製)〕100gをボールミルで混合粉砕後、150℃に加熱して熔融混和を行い、冷却後ハンマーミルを用いて粗粉砕し、次いでエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕した。さらに分級して1~20μmの粒子を選別してトナーとした。
上記トナー10gに対しキャリヤ鉄粉(EFV250/400、商品名、日本鉄粉(株)製)900gを均一に混合し現像剤とした。この現像剤を用いて乾式普通紙電子写真複写機〔NP-5000、商品名、キヤノン(株)製〕で複写を行った。トナー作成における熔融混和における熱分解が軽減された。また得られた複写印刷物は、優れた黒色の分光特性を有し、トナーとして優れた性質を示すことがわかった。
【0087】
[実施例25]
<着色樹脂組成物の作成>
ヘンシェルミキサーを用いて、ポリブチレンテレフタレート(ウィンテックポリマー株式会社製商品名、ジュラネックス2002、融点225℃)100g、本発明の化合物(化合物(1-48))1gをブレンドしたものを二軸押出機(装置:株式会社日本製鋼所製TEX28V、スクリュー速度:200rpm(rotations per minute))に供給し、190℃のシリンダ温度にて混練を行い、着色樹脂ペレット(着色樹脂組成物)を得た。押出機のトルクが安定しており押出を連続でき、また排出されたストランドを安定してペレタイザーまで搬送できた。熱分解による汚染は観測されなかった。
【0088】
[比較例4]
実施例25の化合物(1-48)をOIL BLACK HBB(オリエント化学株式会社製、商品名)に変更した以外は実施例25と同様にして、着色樹脂ペレットを得た。熱分解が原因と考えられる褐色成分が揮散し設備の汚染が確認された。
【0089】
[実施例26]
<繊維染色用組成物の作成>
本発明の化合物(例示化合物(1-1))3g、分散助剤としてデモールN(商品名、花王(株)製)5g、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝水溶液(pH4.5)500mLをよく撹拌して繊維染色用組成物を作成した。この繊維染色用組成物を60℃に加温した染浴を準備した。ここにポリエステル布帛(ポリエステルブロード、色染社製)を、繊維染色用組成物の質量:ポリエステル布帛の質量=30:1で浸して染め始め、30分かけて90℃に加温し、さらに30分かけて130℃まで加圧加温して、同温度で60分間染色した。得られた染色布に対して付着している未染着染料を除去するために、水酸化ナトリウム2g、サンモールRC-700(商品名、日華化学(株)製)1g、ハイドロサルファイトソーダ2g、水1Lを混合した還元洗浄液中で、浴比30:1で80℃10分間洗浄後、さらに水洗して、乾燥させることで、深みのある青みの黒色の染色布を得た。得られた布の反射スペクトルを図3に示す。
【0090】
<極大吸収波長の評価2>
各化合物のテトラヒドロフラン溶液中(濃度1×10-6mol/L、光路長10mm)における吸収スペクトルの吸収極大波長とモル吸光係数を下記表9に示す。
【0091】
【表9】
【0092】
比較化合物Cは下記化合物である。
【0093】
【化15】
【0094】
比較化合物Dは下記化合物である。
【0095】
【化16】
【0096】
<熱に対する安定性(耐熱性)の評価2>
各化合物の熱に対する安定性を以下の手順により評価した。各化合物の粉末10mgをテトラヒドロフラン500mLに溶解させ、吸収スペクトルを測定して、基準となる吸光度(A)を求めた。一方で、4cm四方のアルミカップに各化合物の粉末10mgをはかり取り、オーブンに入れて200℃で5分間加熱した。加熱後の粉末全量を、テトラヒドロフラン500mLに溶解させ、吸収スペクトルを測定して加熱試験後の吸光度(A2)を求めた。各化合物の残存率を以下の式により算出して、熱に対する安定性を評価した。結果を表10に示す。
化合物の残存率(%)=A2/A×100
【0097】
【表10】
【0098】
表10の結果から明らかなように、本発明の一般式(3)で表される化合物はソルベントブラック3に相当する比較化合物Cや、ソルベントブラック3の位置異性体である比較化合物Dと比較して熱に対する安定性が優れることが分かる。
【0099】
<一般式(3)で表される化合物を含む着色組成物の調製>
化合物(3-1)0.10gと化合物(1-1)0.90gを酢酸エチル9gに加え40℃で一時間撹拌させて完全に溶解させて着色組成物(1)を得た。
一般式(1)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、及びその配合量を、下記表11のように変更した以外は着色組成物(1)と同様にして、着色組成物(2)~(11)を得た。
【0100】
<熱に対する安定性(耐熱性)の評価3>
各組成物の熱に対する安定性を以下の手順により評価した。各着色組成物0.10gを2.5cm×2.5cmのガラス基板に塗布し、40℃で1時間乾燥させた。得られたガラス基板をテトラヒドロフラン500mLに浸して着色組成物を溶解させ、基準となる吸光度(A01)を求めた。他方、同様に作成したガラス基板をオーブンに入れて200℃で5分間加熱し、テトラヒドロフラン500mLに浸して溶解させ、吸収スペクトルを測定して加熱試験後の吸光度(A3)を求めた。各着色組成物の残存率を以下の式により算出して、熱に対する安定性を評価した。結果を表11に示す。
化合物の残存率(%)=A3/A01×100
【0101】
【表11】
【0102】
以上から、一般式(3)で表される化合物を含む着色組成物、並びに、一般式(1)で表される化合物及び一般式(3)で表される化合物を含む着色組成物は、ソルベントブラック3を含むOIL BLACK HBBよりも熱安定性が高いことが分かる。
【0103】
<化合物の溶解性試験>
着色組成物(7)~(10)の着色組成物の溶解度を以下のように測定した。各着色組成物のテトラヒドロフラン溶液を10質量%、15質量%、及び20質量%となるように5.0gずつバイアル瓶に調製した。蓋をして40℃の湯浴で30分間振とうした。得られた着色溶液を1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過した。ろ過出来たものをA、ろ過できなかったものをBとした。
【0104】
【表12】
【0105】
上記表12に示した結果より、一般式(1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物を併用した場合(着色組成物(7)~(9))は、色素の濃度を高くした場合であっても、溶解性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、油溶性黒色染料として用いることができ、かつソルベントブラック3よりも熱に対する安定性が優れる化合物、上記化合物を含有する着色組成物、インク、トナー、着色樹脂組成物、及び繊維染色用組成物、並びに上記化合物の製造に有用な中間体を提供することができる。
【0107】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年9月26日出願の日本特許出願(特願2018-180576)、及び2019年3月26日出願の日本特許出願(特願2019-059182)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2
図3