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特許7085855ナッツ様風味組成物の製造方法及び食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】ナッツ様風味組成物の製造方法及び食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20220610BHJP
【FI】
A23L27/10 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018025583
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019140916
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】中屋 圭子
(72)【発明者】
【氏名】里見 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061015(JP,A)
【文献】特開2007-151484(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-78870(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-0949259(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤唐辛子を、
最高到達品温が140℃~160℃で、加熱価が8分~30分となるように加熱する工程を含み、
前記加熱価が、前記赤唐辛子の品温(A)[℃]に対して10^{(A-150)/30}で求められる値を加熱時間[分]で積分した値で定義されることを特徴とする、
ナッツ様風味組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造されたナッツ様風味組成物を用いることを特徴とする、食品の製造方法。
【請求項3】
加熱価が8分未満の赤唐辛子をさらに用いることを特徴とする、請求項2に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナッツ様風味組成物の製造方法及び食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、香辛料の風味増強や殺菌等のため様々な加熱方法が検討されている。例えば、特許文献1には、赤唐辛子を半密閉式の加熱機で約10分間かけて80~98℃の品温まで加熱して殺菌する方法が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-226069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、香辛料の風味増強や殺菌等のため様々な加熱方法が検討されているが、本発明者らは赤唐辛子について更に研究を積み重ねた結果、赤唐辛子を通常の焙煎や殺菌等で行われているような条件とは異なる特定の条件で加熱すると、従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味が生成されることを新たに見出した。そこで本発明は、特有のナッツ様の風味があるナッツ様風味組成物の製造方法及びこのナッツ様風味組成物を用いた食品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示すナッツ様風味組成物の製造方法及び食品の製造方法を提供するものである。
〔1〕赤唐辛子を、最高到達品温が135℃~170℃で、加熱価が8分~30分となるように加熱する工程を含み、
前記加熱価が、前記赤唐辛子の品温(A)[℃]に対して10^{(A-150)/30}で求められる値を加熱時間[分]で積分した値で定義されることを特徴とする、ナッツ様風味組成物の製造方法。
〔2〕前記〔1〕に記載の方法により製造されたナッツ様風味組成物を用いることを特徴とする、食品の製造方法。
〔3〕加熱価が8分未満の赤唐辛子をさらに用いることを特徴とする、前記〔2〕に記載の食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、従来の赤唐辛子にはなく、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味とも異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様の風味があるナッツ様風味組成物を製造することができる。また、このナッツ様風味組成物を用いることにより、特有のナッツ様の風味を有する食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本明細書に記載の「赤唐辛子」とは、香辛料の1種であり、ナス科の多年草(温帯では一年草)であるトウガラシ(学名:Capsicum annuum)の果実を乾燥させたものである。
【0008】
本発明の製造方法により得られる「ナッツ様風味組成物」は、特定の条件で加熱した赤唐辛子を含むものであり、従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味が生成された組成物である。本発明の製造方法により製造されるナッツ様風味組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、粉末状、粗砕状等であってもよいし、水、油、又は糖液等を含む液状又はペースト状のものであってもよい。
【0009】
本発明のナッツ様風味組成物の製造方法は、赤唐辛子を加熱処理する工程を含む。赤唐辛子を加熱処理する条件は、赤唐辛子の最高到達品温(赤唐辛子が加熱処理中に到達した最も高い品温)が135℃~170℃、好ましくは140℃~160℃で、加熱価が8分~30分、好ましくは8分~25分、より好ましくは8分~20分となるように加熱する。この条件で赤唐辛子を加熱処理することにより、従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味が生成されたナッツ様風味組成物を製造することができる。なお、170℃より高い品温又は30分より高い加熱価で加熱した場合、強い焦げ臭で特有のナッツ様の風味がマスキングされてしまい好ましくない。品温が135℃よりも低い温度で加熱価を8分~30分のナッツ様風味組成物を製造する場合、必然的に加熱時間が非常に長くなり、特有のナッツ様風味、特に鋭い風味が弱くなるため好ましくない。また、加熱価が8分未満の場合、ナッツ様の風味を生成することができない。
【0010】
ここで、本明細書に記載の「加熱価」とは、赤唐辛子の品温(A)[℃]に対して10^{(A-150)/30}で求められる値を加熱時間[分]で積分した値[分]のことをいう。例えば、赤唐辛子の品温が160℃で一定になるように5分間加熱した場合、加熱価は、10^{(160-150)/30}×5=約10.7分と計算される。なお、上記式中の「^」はべき乗を表す。
【0011】
赤唐辛子の品温の測定方法としては、赤唐辛子の品温を測定できる方法であれば特に限定されないが、例えば、熱電対を用いて測定する方法等がある。
【0012】
赤唐辛子の加熱処理は、本技術分野で通常使用され得る任意の処理方法を採用することができ、例えば、直火型釜、ハイブリッド釜、オイル式釜、蒸気式釜、及び過熱水蒸気等のいずれの加熱媒体を採用してもよい。また、赤唐辛子の加熱処理は、例えば、開放された状態、閉鎖された状態のいずれの状態を採用してもよいが、閉鎖された状態が好ましい。閉鎖された状態で加熱することにより、特有のナッツ様の風味成分を生成する基質や、加熱により生成した特有のナッツ様風味成分が外部に逃げるのを抑制し、特有のナッツ様風味を強くすることができる。閉鎖された状態で加熱する方法としては、焙煎機内に赤唐辛子を投入した後に蓋を閉じた状態で加熱する方法や、赤唐辛子をステンレスバットで挟み込んでオーブンで加熱する方法、過熱水蒸気渦流混合システム内に赤唐辛子を投入した後に水蒸気の出口をフィルター等でふさいだ状態で加熱する方法等を採用してもよい。このような方法を採用することにより、風味成分や風味成分を生成する基質が外部に逃げるのを抑えることができる。なお、本明細書に記載の「閉鎖された状態」とは、完全に外部と遮断されている必要はなく、風味成分や風味成分を生成する基質が外部に逃げるのを抑えることができればよい。
【0013】
本発明のナッツ様風味組成物の製造方法は、赤唐辛子を加熱する工程以外の工程を含んでもよい。その他の工程としては、赤唐辛子を砕く工程、ナッツ様風味組成物を熟成する工程等を採用してもよい。なお、赤唐辛子を砕く工程は、赤唐辛子を粗挽きする処理であってもよいし、粉末状に粉砕する処理であってもよい。
【0014】
別の態様では、本発明は、前記製造方法で得られたナッツ様風味組成物を用いた食品の製造方法に関する。
本発明の製造方法により製造される食品は、特に限定されないが、例えば、カレールウ、カレーソース、カレーフィリング、麻婆豆腐、一味、七味、又はシーズニング等であってもよい。ナッツ様風味組成物を食品に添加することで、食品に特有のナッツ様の風味を加えることができる。
また、本発明の製造方法により製造される食品は、ナッツ様風味組成物と従来からある加熱価8未満の赤唐辛子及び/又は焙煎した赤唐辛子(焙煎唐辛子)を併用してもよい。併用することで、赤唐辛子本来の柑橘風味と、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味と異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様の風味が一体となった風味豊かな食品を得ることができる。
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例
【0016】
<1>ナッツ様風味組成物の製造及び評価
〔実施例1〕
赤唐辛子約100gを粉砕して赤唐辛子パウダーを得た。赤唐辛子パウダーを焙煎機に投入し、蓋をして閉鎖された状態で、赤唐辛子パウダーの品温が150℃に達温するまで100分間かけて加熱した後に焙煎機から取り出してナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0017】
〔実施例2〕
赤唐辛子約100gを粉砕して赤唐辛子パウダーを得た。赤唐辛子パウダーを2枚のステンレスバットで挟み込み、閉鎖された状態で、オーブン内で150℃、60分間かけて加熱した後にオーブンから取り出してナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0018】
〔実施例3〕
赤唐辛子約100gを粉砕して赤唐辛子パウダーを得た。赤唐辛子パウダーを閉鎖された状態で、ゲージ圧で1kg/cmの蒸気圧で、過熱水蒸気渦流混合システム(G-Labo製)を用いて150℃に調整した過熱水蒸気を用いて、150℃、12分間かけて加熱した後に過熱水蒸気渦流混合システムから取り出してナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0019】
〔実施例4〕
70分間加熱したこと以外は、実施例2と同様にしてナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は22分であった。
【0020】
〔実施例5〕
78分間加熱したこと以外は、実施例2と同様にしてナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は28分であった。
【0021】
〔実施例6〕
閉鎖された状態の代わりに開放された状態で加熱したこと以外は実施例3と同様にしてナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0022】
〔実施例7〕
赤唐辛子パウダーの代わりに赤唐辛子を砕かずに果実の状態で加熱したこと以外は実施例3と同様にしてナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0023】
〔実施例8〕
赤唐辛子パウダーの代わりに目開き20mmの篩を全通するように粗挽きした赤唐辛子を加熱したこと以外は実施例3と同様にしてナッツ様風味組成物を得た。なお、加熱価は12分であった。
【0024】
〔比較例1〕
赤唐辛子パウダーの品温が100℃に達温するまで50分間加熱し、その後品温を維持するようにして10分間加熱したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。なお、加熱価は0.1分であった。
【0025】
〔比較例2〕
赤唐辛子パウダーの品温が130℃に達温するまで90分間加熱したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。なお、加熱価は5分であった。
【0026】
〔比較例3〕
赤唐辛子約100gを粉砕して赤唐辛子パウダーを得た。赤唐辛子パウダーをステンレスバットに挟み込み、閉鎖された状態で、145℃のオーブンに投入し、120分間加熱した後にオーブンから取り出して組成物を得た。なお、加熱価は40分であった。
【0027】
得られた各組成物に関して、赤唐辛子本来の「柑橘風味」、従来の赤唐辛子にはなかった「特有のナッツ様の風味」及び「焦げ臭さ」について評価した。各評価は、以下の基準に基づいて行った。
[評価基準(柑橘風味)]
柑橘風味を強い順から、「◎」、「○」、「△」、「×」と規定した。
◎:赤唐辛子本来の柑橘風味が強い
○:赤唐辛子本来の柑橘風味がある
△:赤唐辛子本来の柑橘風味が弱い
×:赤唐辛子本来の柑橘風味がない
[評価基準(特有のナッツ様の風味)]
ナッツ様の風味を強い順から、「◎」、「○」、「△」、「×」と規定した。
◎:従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味が強い
○:従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味がある
△:従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味が弱い
×:従来の赤唐辛子にはなかった特有のナッツ様の風味がない
[評価基準(焦げ臭さ)]
焦げ臭さを弱い順から、「◎」、「○」、「△」、「×」と規定した。
◎:焦げ臭さを全く感じない
○:かすかに焦げ臭さを感じる
△:焦げ臭さを感じるが弱い
×:焦げ臭さを感じる
【0028】
各組成物の、加熱温度及び加熱時間、及び「柑橘風味」、「特有のナッツ様の風味」及び「焦げ臭さ」の評価結果を、表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1~3、7、8の組成物では、赤唐辛子本来の柑橘風味がない一方で、従来の赤唐辛子にはなく、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味とも異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様の風味が強かった。一方、実施例4の組成物では、特有のナッツ様の風味が強かったものの、焦げ臭さをかすかに感じ、さらに、実施例5の組成物では、焦げ臭さを弱く感じた。また、実施例6の組成物では、特有のナッツ様の風味を感じるものの弱かった。一方、比較例、1、2の組成物では、柑橘風味がある又は弱い一方で、特有のナッツ様の風味が全くなかった。比較例3の組成物では、柑橘風味や特有のナッツ様の風味がなく、さらに焦げ臭さを感じた。
【0031】
<2>カレールウの調製
〔実施例9〕
ラード34.5質量部と小麦粉37質量部を120℃になるまで炒めた。そこにターメリック2質量部、コリアンダー2質量部、実施例1のナッツ様風味組成物0.1質量部、比較例1の組成物(焙煎唐辛子)0.9質量部、及びクミン2質量部を加え、3分間炒めた。次に、グラニュー糖6.5質量部、食塩7.5質量部、グルタミン酸ナトリウム6.5質量部、核酸調味料0.7質量部、カラメル色素0.3質量部を入れ、混合した後、60℃まで冷却し、これをトレイに充填した。次に、これを-10℃、40分間の条件で冷却処理を施して固化し、固形カレールウを得た。
【0032】
<3>カレーソースの調製及び評価
〔実施例10〕
上記<2>で調製したカレールウ1質量部を25℃の水5質量部に撹拌混合しながら混合物の温度が95℃に達するまで加熱調理してカレーソースを得た。
このカレーソースは、赤唐辛子本来の柑橘風味と、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味と異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様が一体となり風味豊かなものであった。
【0033】
<4>麻婆豆腐ソースの調製及び評価
〔実施例11〕
ラード9質量部でにんにく2質量部と豆板醤6質量部を80℃で3分間炒めた。そこに甜麺醤6質量部、酒5質量部、醤油6質量部、鶏がらスープ53.9質量部を加え95℃達温まで加熱した。その後、予め水7質量部と片栗粉4質量部とを溶いて調整した水溶き片栗粉11質量部を入れて再度95℃達温まで加熱し、花椒パウダー1質量部、実施例1のナッツ様風味組成物0.1質量部を加え、混合して麻婆豆腐ソースを得た。
麻婆豆腐ソースは、従来の赤唐辛子にはなく、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味とも異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様の風味を有するものであった。
【0034】
<5>麻婆豆腐ソースの調製及び評価
〔実施例12〕
ラード9質量部でにんにく2質量部と豆板醤6質量部を80℃で3分間炒めた。そこに甜麺醤6質量部、酒5質量部、醤油6質量部、鶏がらスープ53質量部を加え95℃達温まで加熱した。その後、予め水7質量部と片栗粉4質量部とを溶いて調整した水溶き片栗粉11質量部を入れて再度95℃達温まで加熱し、花椒パウダー1質量部、実施例1のナッツ様風味組成物0.1質量部、比較例1の組成物(焙煎唐辛子)0.9質量部を加え、混合して麻婆豆腐ソースを得た。
麻婆豆腐ソースは、赤唐辛子本来の柑橘風味と、ゴマ、アーモンド、カシューナッツ等のもつ風味と異なる、鋭く広がりのある特有のナッツ様の風味が一体となり風味豊かなものであった。