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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20220610BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20220610BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
H01R4/18 A
H01R13/52 301F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018090865
(22)【出願日】2018-05-09
(65)【公開番号】P2019197653
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】竹下 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】達川 永吾
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘哲
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-228419(JP,A)
【文献】特開2011-113708(JP,A)
【文献】特開2012-079654(JP,A)
【文献】特開2018-067372(JP,A)
【文献】特開2016-204476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/027-43/28
H01R 4/00-4/22
H01R 13/40-13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する複数の素線からなる導線とを具備し、
前記端子の圧着部に前記被覆導線を圧着する工程と、
前記被覆導線が圧着された前記端子を、所定の温度に設定された第1温度制御部に配置する工程と、
前記被覆部から前記導線が露出する部位の少なくとも一部に防食材を塗布する工程と、
前記防食材の塗布後直ちに、前記被覆導線が圧着された前記端子を、前記第1温度制御部よりも低い温度に設定された第2温度制御部に配置し、前記端子および前記防食材を所定の温度に冷却する工程と、
前記防食材の温度が所定温度以下となった後に前記防食材を硬化させる工程と、
を具備し、
前記第2温度制御部は、冷却部材単体、ヒータ単体、またはヒータと冷却部材の併用によって温度制御されることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
前記防食材は、前記被覆部から前記導線が露出する部位の全体に塗布されることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
前記第1温度制御部と前記第2温度制御部との設定温度差が、40℃~80℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項4】
前記第1温度制御部の設定温度における前記防食材の粘度が、300mPa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項5】
前記第2温度制御部の設定温度における前記防食材の粘度が、300mPa・s超であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項6】
前記防食材が、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車等に用いられる端子付き電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を防食材で被覆する方法が提案されている。図6は、防食材で接続部が被覆された端子付き電線100を示す断面図である。端子付き電線100は、端子101と被覆導線111が接続されて構成される。
【0007】
被覆導線111は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線113と、導線113を被覆する被覆部115からなる。また、端子101は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子101は、端子本体103と圧着部とが連結されて構成される。
【0008】
端子101の圧着部は、被覆導線111の先端側に被覆部115から露出する導線113を圧着する導線圧着部107と、被覆導線111の被覆部115を圧着する被覆圧着部109と、導線圧着部107と被覆圧着部109の間のバレル間部108からなる。また、被覆圧着部109から導線圧着部107にかけて、被覆部115から露出する導線113は、防食材117で覆われる。
【0009】
図7(a)は、X部における防食材117の塗布直後の状態を示す概念図である。被覆導線111と端子101の圧着部とを圧着した後、防食材117が塗布される。ここで、図7(a)に示すように、被覆部115の先端部においては、圧着部と導線113との間に隙間105が形成される。しかし、防食材117の粘度が高いと、防食材117が導線113の各素線間を通って隙間105まで浸透することができず、隙間105を防食材117で埋めることができない。この場合には、被覆部115と圧着部との隙間から水が導線圧着部107へ浸入するおそれがある。
【0010】
このような問題に鑑み、低粘度の防食材を塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0011】
また、防食材を塗布した後に、防食材を加熱して粘度を下げる方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2017-228419号公報
【文献】特開2016-225171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図7(b)は、粘度の低い防食材117を塗布した際の状態を示す概念図である。図7(b)に示すように、防食材117を塗布すると、直ちに素線間を通過して(図中矢印Y)、隙間105まで浸透する。したがって、隙間105を埋めることができる。
【0014】
しかし、図7(c)に示すように、防食材117の粘度が低いと、防食材117は、導線113の各素線間の微小な隙間に毛細管現象によって浸透していく。このため、一度隙間105に浸透した防食材117が時間とともに吸い上げられて、素線間へ流れていく(図中矢印Z)。この結果、隙間105における防食材117の量が不足し、隙間105における導線113を防食材117で十分に被覆することができなくなる。
【0015】
なお、特許文献2のように、加熱によって防食材117の粘度を下げた場合には、その後、防食材117の温度の低下に伴い、防食材の粘度は上昇する。しかし、端子101および導線113を加熱した後に、全体の温度が低下するまでは時間を要し、製造のタクトタイムが増加する。このため、より短時間で製造する方法が求められている。
【0016】
また、特許文献2は、防食材117が低粘度である時間が長いため、その間における防食材117の流出を防ぐことはできない。特に、端子付き電線の加熱と防食材の塗布を繰り返すことで、端子付き電線が配置される部位の温度が徐々に上昇するため、冷却の際の温度勾配が安定せず、防食材117の粘度を十分に制御することができない。
【0017】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、短時間で製造することが可能であり、導線の裏側の隙間も防食材で被覆することが可能な端子付き電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した目的を達するために本発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する複数の素線からなる導線とを具備し、前記端子の圧着部に前記被覆導線を圧着する工程と、前記被覆導線が圧着された前記端子を、所定の温度に設定された第1温度制御部に配置する工程と、前記被覆部から前記導線が露出する部位の少なくとも一部に防食材を塗布する工程と、前記防食材の塗布後直ちに、前記被覆導線が圧着された前記端子を、前記第1温度制御部よりも低い温度に設定された第2温度制御部に配置し、前記端子および前記防食材を所定の温度に冷却する工程と、前記防食材の温度が所定温度以下となった後に前記防食材を硬化させる工程と、を具備し、前記第2温度制御部は、冷却部材単体、ヒータ単体、またはヒータと冷却部材の併用によって温度制御されることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0019】
前記防食材は、前記被覆部から前記導線が露出する部位の全体に塗布されることが望ましい。
【0020】
前記第1温度制御部と前記第2温度制御部との設定温度差が、40℃~80℃であることが望ましい。
【0021】
前記第1温度制御部の設定温度における前記防食材の粘度が、300mPa・s以下であることが望ましい。
【0022】
前記第2温度制御部の設定温度における前記防食材の粘度が、300mPa・s超であることが望ましい。
【0023】
前記防食材が、紫外線硬化樹脂であることが望ましい。
【0024】
本発明によれば、端子を所定の温度に加熱することで、塗布した防食材の粘度を下げることができ、防食材を効率よく導線の裏側まで浸透させることができる。このため、導線裏側の隙間においても、導線を防食材で被覆することができる。また、その後直ちに、冷却温度に設定された第2温度制御部に端子を配置することで、端子を速やかに一定の速度で冷却することができ、防食材の粘度を上昇させることができるため、防食材の流出を抑制することができる。
【0025】
この際、防食材を被覆部から露出する導線の全体に塗布することで、より高い防食性を確保することができる。
【0026】
また、第1温度制御部と第2温度制御部との設定温度差を40℃~80℃の範囲とすることで、防食材の粘度の差を有効に利用することができるとともに、防食材の劣化も抑制することができる。
【0027】
また、防食材の粘度が300mPa・s以下となるように第1温度制御部の温度を設定することで、確実に防食材を導線に浸透させることができる。
【0028】
また、防食材の粘度が300mPa・s超となるように第2温度制御部の温度を設定することで、確実に防食材の流出を抑制することができる。
【0029】
また、防食材が紫外線硬化樹脂であれば、紫外線の照射によって容易に防食材を硬化させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、短時間で製造することが可能であり、導線の裏側の隙間も防食材で被覆することが可能な端子付き電線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10を示す断面図。
図3】(a)~(c)は、防食材17の塗布工程を示す図。
図4】端子(防食材)の温度変化を示す概念図。
図5】端子付き電線10の試験方法を示す図。
図6】従来の端子付き電線100を示す断面図。
図7】防食材117を塗布した状態を示す概念図であって、(a)は、防食材117の粘度が高い場合の概念図、(b)、(c)は、防食材117の粘度が低い場合の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は断面図である。なお、図1は、防食材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0033】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0034】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0035】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0036】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0037】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0038】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0039】
本発明では、少なくとも、被覆部15から露出する導線13の全体が、防食材17で覆われることが望ましい。すなわち、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が防食材17で覆われており、導線13は、防食材17によって外部に露出しないことが望ましい。
【0040】
なお、防食材17は、例えば、ウレタンアクリレートなどの紫外線硬化樹脂であることが望ましい。
【0041】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、端子1の圧着部5に被覆導線11を圧着により接続する。次に、図3(a)に示すように、被覆導線11が圧着された端子1を、所定の温度に設定された第1温度制御部19aに配置する。すなわち、被覆導線11が圧着された端子1が、所定の温度に昇温される。なお、第1温度制御部19aの設定温度としては、後述する防食材17の粘度が、300mPa・s以下となるように温度設定することが望ましい。また、第1温度制御部19aの設定温度としては、110℃未満であることが望ましい。110℃以上となると、防食材17を塗布した際に劣化する恐れがある。なお、第1温度制御部19aの温度制御は、例えばヒータによって±5℃程度の範囲で制御される。
【0042】
次に、図3(b)に示すように、所定温度に加熱された被覆導線11が圧着された端子1に対し、被覆部15から導線13が露出する部位の少なくとも一部に防食材17を塗布する。より具体的には、少なくとも、バレル間部8における導線13の露出部に、防食材17を塗布する。なお、前述したように、導線13が露出する部位の全体に防食材17を塗布することが望ましい。防食材17の塗布は、短時間に塗布を行うため、ジェットディスペンサ等が用いられる。
【0043】
防食材17を塗布すると、その後直ちに、図3(c)に示すように、被覆導線11が圧着された端子1を、第2温度制御部19bに移動させて配置する。例えば、防食材17が塗布された側(上面)と反対側の面(裏面)が第2温度制御部19bと接触するように端子1を第2温度制御部19bに配置する。第2温度制御部は、第1温度制御部よりも低い温度に設定されている。すなわち、被覆導線11が圧着された端子1および防食材17が、所定の温度に冷却される。なお、第2温度制御部19bの温度制御は、例えば冷却部材(ヒートシンクやファンなど)単体、ヒータ単体、またはヒータと冷却部材の併用によって±5℃程度の範囲で制御される。
【0044】
図4は、上述した工程における端子1(防食材17)の温度変化を示す概念図であり、縦軸は温度、横軸は時間である。前述したように、防食材17を塗布する前に、端子1等は第1温度制御部19aによって設定温度T1に昇温される。この状態で、防食材17が塗布されるため、防食材17も直ちにT1に昇温される。
【0045】
防食材17の塗布が完了した時点(図中t1)から直ちに、端子1等が第2温度制御部19bによって設定温度T2に冷却される。この際、第1温度制御部19aと第2温度制御部19bとの設定温度差(図中ΔT)としては、40℃~80℃であることが望ましく、より望ましくは60℃~80℃である。
【0046】
ここで、防食材17は温度によって粘度が変化する。防食材17の粘度が300mPa・sとなる温度をT3とすると、T1≧T3>T2の関係となる。すなわち、第1温度制御部19aによって設定温度T1では、防食材17は、粘度が300mPa・s以下であり、第2温度制御部19bの設定温度T2における防食材17の粘度は、300mPa・s超となる。
【0047】
前述したように、防食材17の塗布した時点(t1)から、防食材17の粘度が300mPa・s超となる時点(t2)までの時間(図中A)が長すぎると、防食材17の流出が生じる。このため、この時間Aを安定して所定の時間に設定することで、効率よく防食材17を導線13の裏側まで塗布することができる。
【0048】
なお、通常、粘度が300mPa・s以下の防食材17は、塗布後数秒(例えば1~3秒以内)で導線13の裏側まで浸透する。このため、防食材17の塗布後1~3秒後に粘度を300mPa・s超とすることが望ましい。したがって、時間Aが1~3秒程度となるように、防食材17の材質に応じて、T1およびT2を設定すればよい。なお、防食材17を塗布してから端子1等を第2温度制御部19bへ移動するまでの時間や冷却の遅れ時間も考慮すると、本発明において、「防食材17の塗布後直ちに」とは、例えば塗布後1秒以内であることが望ましい。
【0049】
防食材17の粘度が上昇して流出が抑制された後、防食材17を紫外線の照射等によって硬化させる。なお、紫外線の照射は、端子1等を第2温度制御部19bに配置した状態で行ってもよい。すなわち、防食材17は、温度T2になってから硬化させてもよいが、温度T3を下回った状態となった段階で硬化させてもよい。このようにすることで、製造のタクトタイムを短くすることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態によれば、低粘度の防食材17を塗布して導線13に浸透させた後、防食材17の粘度を上げて、防食材17が素線間に吸い上げられて流出することを抑制することができる。このため、確実に導線13の裏側まで、防食材17で被覆することができる。
【0051】
また、防食材17を塗布する前に端子1等を加熱しておくため、防食材17の加熱時間は不要である。また、第2温度制御部19bによって、確実に所定の温度に冷却することができる。特に、第1温度制御部19aと第2温度制御部19bの温度差を40℃~80℃とすることで、安定して所定の温度勾配で防食材17を冷却することができる。このため、短時間で防食材17の塗布から硬化までを行うことができる。
【実施例
【0052】
次に、本発明に従う端子付き電線及び比較としての端子付き電線を試作し、各試料について試験を行ったので以下に説明する。
【0053】
(No.1)
まず、前述したように、端子に導線を圧着し、被覆部から露出する導線の全体に防食材を塗布して硬化させた。この際、従来のように、防食材を塗布後に、端子等を70℃まで加熱し、その後自然に室温の20℃まで冷却した後、防食材を硬化させた。なお、防食材としては、ウレタンアクリレートの紫外線硬化樹脂とした。
【0054】
(No.2)
No.1に対して、前述の実施形態の様に、80℃に設定された第1温度制御部19aに端子等を配置した後、防食材を塗布し、その後直ちに、設定温度20℃の第2温度制御部に配置し、温度が20℃まで下がってから防食材を硬化させた。
【0055】
それぞれの端子付き電線について、樹脂の浸透性と防食性能を評価した。樹脂の浸透性は、導線の裏側の隙間において、導線の全体を被覆する樹脂の被覆厚が50μm以上であるものを「〇」とし、一部に50μm未満の部位があるものを「△」とし、一部に樹脂が浸透しておらず導線が露出する部位があったものを「×」とした。
【0056】
また、防食性能は、正圧でのシール性(初期とサーマルショック試験後)によって評価した。正圧でのシール性は、端子付き電線の被覆導線から端子に向かって空気を送り、後端部から空気が漏れるか否かについて評価した。図5には、実験方法の概要を示す。実験は、水を入れた水槽21中に端子付き電線の一端(端子1)を入れ、被覆導線11の端部から端子1に向かってレギュレータ22によって加圧空気を送った。なお、エア圧は30kPaとした。
【0057】
サーマルショック試験は、それぞれの端子付き電線に対し、120℃×30分~-40℃×30分を500サイクルとした。サーマルショック試験後の端子付き電線についても正圧でのシール性を評価した。サーマルショック試験後の正圧試験において、エアリークの見られなかったものを「〇」とし、サーマルショック試験前の正圧試験においてはエアリークが見られなかったが、サーマルショック試験後の正圧試験において、エアリークが見られたものを「△」とし、サーマルショック試験前の正圧試験において、エアリークが見られたものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、No.1は、加熱時間と冷却時間が長く、防食材の塗布から硬化までの時間が160秒要した。これに対し、No.2は、防食材塗布前に加熱が完了しており、防食材塗布後の冷却時間も短いため、防食材硬化までの時間が40秒で済んだ。なお、前述したように、本実施例では、端子等が20℃まで冷却された後に防食材を硬化させたが、防食材の硬化は、これよりも早く(前述した温度T3以下となった段階で)行うことができ、No.2では、防食材の塗布後5秒~10秒程度でも防食材を硬化させることができる。このように、本発明によれば、極めて短時間に端子付き電線を得ることができる。
【0060】
また、N0.1は、防食材塗布後に加熱を開始し、その後の冷却も遅いため、防食材が低粘度である時間が長い。このため、防食材が素線間に流出し、樹脂浸透性が×となった。このため、防食性能も×となった。一方、No.2は、先に端子等を加熱した状態で防食材を塗布し、防食材の塗布後直ちに冷却させたため、防食材の流出を抑制することができた。このため、短時間に製造することができるとともに、樹脂浸透性および防食性能が○となった。
【0061】
(No.3~16)
次に、より望ましい条件を評価するため、前述したNo.2に対して、第1温度制御部の設定温度T1と、第2温度制御部の設定温度T2を変更して樹脂浸透性および防食性能を評価した。なお、防食材としては、20℃における粘度が3100mPa・sであり、70℃おける粘度が230mPa・sの樹脂を選択した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
No.3~No.16の全てにおいて、防食材塗布から防食材硬化までの時間は、No.2と同様に、No.1と比較して極めて短時間に製造することができた。特に、No.3~No.9は、設定温度が適切であり、樹脂浸透性および防食性能が〇となった。一方、No.10、11は、温度差ΔTが40℃と小さ目であったため、冷却勾配がやや小さく、十分に樹脂を浸透させた後直ちに樹脂の粘度を高める効果がやや小さく、樹脂浸透性および防食性能が△評価であったが、サーマルショック試験前においては、防食性能も合格であった。
【0064】
一方、No.12は、T1が110度と高すぎたため、樹脂の劣化による割れが生じ、これにより、樹脂浸透性および防食性能が×評価となった。また、No.13~16は、温度差ΔTが30℃と小さすぎたため、冷却勾配が小さく、十分に樹脂を浸透させた後直ちに樹脂の粘度を高める効果を得ることができなかった。特に、No.15、16は、T1が低すぎるため、T1において粘度が300mPa・sを超えてしまい、十分に樹脂を浸透させることができなかった。このため、No.13~16は、樹脂浸透性および防食性能が×評価であった。
【0065】
(No.17~30)
次に、防食材として、20℃における粘度が480mPa・sであり、70℃おける粘度が50mPa・sの樹脂を選択して同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
前述と同様に、No.17~No.30の全てにおいて、防食材塗布から防食材硬化までの時間は、No.1と比較して極めて短時間に製造することができた。特に、No.17~No.21は、設定温度が適切であり、樹脂浸透性および防食性能が〇となった。一方、No.22~25は、温度差ΔTが40~50℃と小さ目であったため、冷却勾配がやや小さく、十分に樹脂を浸透させた後直ちに樹脂の粘度を高める効果がやや小さく、樹脂浸透性および防食性能が△評価であったが、サーマルショック試験前においては、防食性能も合格であった。
【0068】
一方、No.26は、T1が高すぎたため、樹脂の劣化による割れが生じ、これにより、樹脂浸透性および防食性能が×評価となった。また、No.27~30は、温度差ΔTが30℃と小さすぎたため、冷却勾配が小さく、十分に樹脂を浸透させた後直ちに樹脂の粘度を高める効果を得ることができなかった。特に、No.27、28は、T2が高すぎて、T2でも樹脂の粘度が300mPa・s以下であるため、樹脂の流出を抑制することができなかった。このため、No.17~30は、樹脂浸透性および防食性能が×評価であった。
【0069】
このように、T1とT2の温度差ΔTは、40~80℃であることが望ましく、特に望ましくは、60~80℃である。また、この際に適用可能な樹脂として、望ましくは、20℃における粘度が480~3100mPa・sであって、70℃における粘度が50~230mPa・sを満たす樹脂を適用することができる。なお、防食材の粘度は、オリゴマー成分とモノマー成分の比率によって調整することができる。
【0070】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0071】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10………端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………防食材
19a………第1温度制御部
19b………第2温度制御部
21………水槽
22………レギュレータ
100………端子付き電線
101………端子
103………端子本体
105………圧着部
107………導線圧着部
108………バレル間部
109………被覆圧着部
111………被覆導線
113………導線
115………被覆部
117………防食材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7