(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】水素搬送装置、および水素搬送方法
(51)【国際特許分類】
B64D 5/00 20060101AFI20220610BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220610BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
B64D5/00
B64C39/02
B64C27/08
(21)【出願番号】P 2018217947
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】能見 基彦
【審査官】岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-121598(JP,A)
【文献】米国特許第4364532(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0021491(KR,A)
【文献】特開平04-066391(JP,A)
【文献】特開2002-264899(JP,A)
【文献】特開2017-171032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0313410(US,A1)
【文献】国際公開第03/004352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 5/00
B64C 39/02
B64C 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素が充填される少なくとも1つのガス袋と、
少なくとも1つのドローンと、
前記ドローンに電力を供給するバッテリーと、前記ドローンの動作を制御する制御部とが配置される機械室と、
前記ドローンに電力を供給するために前記機械室から前記ドローンまで延びる電力ケーブルと、を備え、
前記ドローンは、前記ガス袋と前記機械室とを少なくとも含む牽引部に前記電力ケーブルを介して連結されており、
前記制御部は、前記牽引部が水素の大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設まで所定の飛行経路に沿って移動するように、前記ドローンの動作を制御することを特徴とする水素搬送装置。
【請求項2】
前記ガス袋の容量は、該ガス袋に充填される水素の浮力が前記牽引部の総重量と同じか、または若干小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水素搬送装置。
【請求項3】
前記機械室は、前記牽引部が前記ドローンによって牽引されているときに、前記機械室に揚力が発生する形状を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の水素搬送装置。
【請求項4】
前記機械室は、略涙滴形状である断面形状を有していることを特徴する請求項3に記載の水素搬送装置。
【請求項5】
前記ガス袋は、前記牽引部が前記ドローンによって牽引されているときに、前記ガス袋に揚力が発生する形状を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水素搬送装置。
【請求項6】
前記ガス袋は、略涙滴形状である断面形状を有していることを特徴とする請求項5に記載の水素搬送装置。
【請求項7】
前記機械室の両側面からそれぞれ延びるアームと、
前記アームの先端に連結され、前記電力ケーブルに連結される自在継手と、
前記バッテリーから前記アームを通って前記自在継手まで延びる機械室ケーブルと、をさらに備え、
前記自在継手は、その内部に、前記電力ケーブルと前記機械室ケーブルとの両方に電気的に接続された回転コネクタを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の水素搬送装置。
【請求項8】
前記ドローンは、
ドローン本体と、
前記ドローン本体に連結された連結軸を有し、前記ドローン本体を前記連結軸を中心に回転可能に支持するジンバル機構であって、前記電力ケーブルに連結されるジンバル機構と、
前記電力ケーブルから前記ジンバル機構を通って前記ドローンまで延びる電力ラインと、
前記電力ラインに電気的に接続され、かつ前記連結軸と同軸上に配置された回転コネクタとを備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の水素搬送装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の水素搬送装置を飛行させることにより、水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設まで搬送することを特徴とする水素搬送方法。
【請求項10】
前記水素搬送装置は、水素が充填される複数のガス袋を有しており、
前記複数のガス袋のうちの一部のガス袋に充填された水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設に搬送し、
残りのガス袋に充填された水素を別の小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設に搬送することを特徴とする請求項9に記載の水素搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を低コストで搬送することが可能な水素搬送装置および水素搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、反応性に富む物質である。さらに、水素は、単位質量あたりの熱量が大きい、および燃焼時に水のみが生成されるという利点を有する。すなわち、水素は、高いエネルギー効率を有する一方で、利用時に温室効果ガス(例えば、二酸化炭素)を排出しないという利点を有する。そのため、水素は、様々な工業分野(例えば、石油精製、半導体製造、金属製造、ガラス製造、および食品製造など)で広く利用されている。さらに、水素は、技術革新が大きく進んでいる燃料電池技術(例えば、燃料電池車など)への利用が期待されており、今後、水素の活用がますます拡大していくものと考えられる。すなわち、今後は、石油などの化石燃料に代わる主要なエネルギー源として水素を使用する所謂「水素社会」が構築されていくものと考えられる。
【0003】
水素社会を実現するためには、日本全国の需要地に、水素の供給拠点(例えば、水素ガスステーション)を設ける必要がある。本明細書では、各家庭および/または工場などに水素を供給する拠点を総称して、「小規模貯蔵施設」と称する。さらに、水素の大規模貯蔵施設(例えば、水素製造プラント、または輸入水素を貯蔵する港湾設備など)から、各小規模貯蔵施設までの間の中継拠点として、中規模貯蔵施設を設けることも考えられる。そのため、大規模貯蔵施設から、各小規模貯蔵施設(または、中規模貯蔵施設)に水素を搬送する搬送手段を検討する必要が生じてきた。
【0004】
現状利用可能な水素の搬送手段の例としては、高圧の水素ガスを貯蔵可能な容器を搭載可能なトレーラー、および液化水素を貯蔵可能な容器を搭載可能なトレーラーが挙げられる。あるいは、大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設まで延びる水素ガスパイプラインを設備することも考えられる。中規模貯蔵施設は、水素ガスパイプラインの途中に設ければよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧縮水素ガスまたは液化水素の貯蔵容器を搭載するトレーラーを用いて、水素を搬送する場合は、該トレーラーは、幹線道路を含む既設の道路を走行する必要がある。大量の水素を搬送するためのトレーラーは、非常に大きいため、該トレーラーが走行不能な道路が必ず存在する。そのため、トレーラーは、大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設までの最短距離を移動することができない。また、トレーラーの運転手を確保する必要もある。したがって、トレーラーによる水素の搬送コストは比較的高くなる。
【0007】
さらに、トレーラーが大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設まで到達するまでに、該トレーラーは人口密集地(例えば、市街地)を走行しなければならない。そのため、万が一、トレーラーに事故が発生すると、多大な人的被害が生じるリスクがある。
【0008】
水素ガスパイプラインを設備する場合には、該水素ガスパイプラインのための広大な用地を確保する必要があり、さらに、膨大な建設コストが必要となる。また、水素ガスの安定搬送を確保するためには、多くの作業員を確保しなければならず、加えて、水素ガスパイプラインの定期的なメンテナンスを施す必要がある。そのため、水素ガスパイプラインによる水素の供給は、現実的には、広大な用地の確保、設備コスト、および運転コストなどの多くの問題を有している。
【0009】
そこで、本発明は、水素を低コストで搬送することが可能な水素搬送装置および水素搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、水素が充填される少なくとも1つのガス袋と、少なくとも1つのドローンと、前記ドローンに電力を供給するバッテリーと、前記ドローンの動作を制御する制御部とが配置される機械室と、前記ドローンに電力を供給するために前記機械室から前記ドローンまで延びる電力ケーブルと、を備え、前記ドローンは、前記ガス袋と前記機械室とを少なくとも含む牽引部に前記電力ケーブルを介して連結されており、前記制御部は、前記牽引部が水素の大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設まで所定の飛行経路に沿って移動するように、前記ドローンの動作を制御することを特徴とする水素搬送装置が提供される。
【0011】
一態様では、前記ガス袋の容量は、該ガス袋に充填される水素の浮力が前記牽引部の総重量と同じか、または若干小さくなるように設定されている。
一態様では、前記機械室は、前記牽引部が前記ドローンによって牽引されているときに、前記機械室に揚力が発生する形状を有している。
一態様では、前記機械室は、略涙滴形状である断面形状を有している。
【0012】
一態様では、前記ガス袋は、前記牽引部が前記ドローンによって牽引されているときに、前記ガス袋に揚力が発生する形状を有している。
一態様では、前記ガス袋は、略涙滴形状である断面形状を有している。
【0013】
一態様では、前記水素搬送装置は、前記機械室の両側面からそれぞれ延びるアームと、前記アームの先端に連結され、前記電力ケーブルに連結される自在継手と、前記バッテリーから前記アームを通って前記自在継手まで延びる機械室ケーブルと、をさらに備え、前記自在継手は、その内部に、前記電力ケーブルと前記機械室ケーブルとの両方に電気的に接続された回転コネクタを有する。
一態様では、前記ドローンは、ドローン本体と、前記ドローン本体に連結された連結軸を有し、前記ドローン本体を前記連結軸を中心に回転可能に支持するジンバル機構であって、前記電力ケーブルに連結されるジンバル機構と、前記電力ケーブルから前記ジンバル機構を通って前記ドローンまで延びる電力ラインと、前記電力ラインに電気的に接続され、かつ前記連結軸と同軸上に配置された回転コネクタとを備えている。
【0014】
一態様では、上記水素搬送装置を飛行させることにより、水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設まで搬送することを特徴とする水素搬送方法が提供される。
【0015】
一態様では、前記水素搬送装置は、水素が充填される複数のガス袋を有しており、前記複数のガス袋のうちの一部のガス袋に充填された水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設に搬送し、残りのガス袋に充填された水素を別の小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設に搬送する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無人の移動体であるドローンが大規模貯蔵施設でガス袋に充填された水素を所定の飛行経路に沿って小規模貯蔵施設または中規模貯蔵施設に自動で搬送する。したがって、搬送に携わる人員(例えば、トレーラーの運転手など)を確保する必要がなく、水素を最短距離で搬送することができる。その結果、低コストで水素を搬送することができる。さらに、水素搬送装置の飛行経路を、山岳部(または、海上)などの人口密集地を避けて設定することにより、水素搬送装置の落下によって発生する人的被害のリスクを最低限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る水素搬送装置を用いて、水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵設備まで搬送している様子を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す水素搬送装置を拡大して示す模式図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2に示す水素搬送装置の機械室を模式的に示す平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す機械室の断面形状を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、別の実施形態に係る機械室を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、自在継手の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、X軸回転コネクタ、Y軸回転コネクタ、およびZ軸回転コネクタの一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、ドローンの一例を示す上面図である。
【
図8】
図8は、電力ケーブルから
図7に示すドローンに電力を送る配線構造の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、小規模貯蔵施設の上方まで飛行してきた水素搬送装置が該小規模貯蔵施設に着陸する様子を示す模式図である。
【
図10】
図10は、水素搬送装置が、水素の一部を小規模貯蔵施設に搬送した後で、別の小規模貯蔵施設に移動する様子を示す模式図である。
【
図11】
図11(a)は、別の実施形態に係る水素搬送装置を示す模式図であり、
図11(b)は、
図11(a)に示す水素搬送装置の機械室を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図11(a)に示す水素搬送装置が小規模貯蔵施設に着陸する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1乃至
図12において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、一実施形態に係る水素搬送装置を用いて、水素を大規模貯蔵施設から小規模貯蔵設備まで搬送している様子を示す模式図である。
図2は、
図1に示す水素搬送装置を拡大して示す模式図である。
図3(a)は、
図2に示す水素搬送装置の機械室を模式的に示す平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す機械室の断面形状を説明するための模式図である。
【0019】
図1に示す水素搬送装置100は、大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300(例えば、水素ステーション)まで水素を運ぶ搬送装置である。
図1に示す大規模貯蔵施設200は、水素製造プラントであるが、本発明は、この例に限定されない。例えば、大規模貯蔵施設200は、輸入水素を貯蔵する港湾設備であってもよい。図示はしないが、水素搬送装置100は、水素を大規模貯蔵施設200から中規模貯蔵施設まで搬送してもよい。中規模貯蔵施設は、大規模貯蔵施設200と小規模貯蔵施設300との間に設けられる水素の貯蔵施設であり、例えば、各都道府県、または各市町村に設けられた水素供給の地域拠点である。
【0020】
図1および
図2に示すように、水素搬送装置100は、水素が充填される複数の(図示した例では3つの)ガス袋8a,8b,8cと、ガス袋8a,8b,8cが連結されるベース9と、ベース9に連結される機械室20と、機械室20に連結される複数の(図示した例では2つの)ドローン1と、を備える。図示した例では、水素搬送装置100は、複数のガス袋8a,8b,8cを備えるが、本発明はこの例に限定されない。例えば、水素搬送装置100は、1つのガス袋のみを有していてもよい。すなわち、水素搬送装置100は、少なくとも1つのガス袋を備えていればよい。以下の説明では、特に区別する必要のない場合は、ガス袋8a,8b,8cを「ガス袋8」と総称する。
【0021】
ガス袋8は、袋連結具(例えば、ワイヤ)38を介してベース9の上面に連結される。機械室20は、該機械室20の上面から延びる機械室連結具(例えば、ワイヤ)39を介してベース9の下面に連結される。各ドローン1は、電力ケーブル5を介して機械室20に連結されている。各ドローン1を機械室20に連結する構成の例については後述する。
図1および
図2に示す水素搬送装置100は、複数のドローン1を有しているが、本発明は、この例に限定されない。例えば、水素搬送装置100は、1つのドローン1のみを備えていてもよい。すなわち、水素搬送装置100は、少なくとも1つのドローン1を備えていればよい。
【0022】
本明細書において、ドローンは、空中を移動する無人移動体の総称である。図示した例では、ドローン1は、電力によって回転する複数の回転翼1Rを備えた所謂「マルチコプター」である。一実施形態では、ドローン1は、電力によって回転する複数のロータ(図示せず)を備えていてもよい。ドローン1の詳細な構成については後述するが、ドローン1は、電力ケーブル5を介して機械室20に連結されている。本実施形態では、ガス袋8、袋連結具38、ベース9、機械室連結具39、および機械室20は、ドローン1によって牽引される牽引部101を構成する。
【0023】
図3(a)に示すように、機械室20は、各ドローン1の動作を制御する制御部53と、各ドローン1に供給される電力を蓄えるバッテリー(蓄電池)54と、制御部53からの指令を各ドローン1に無線で伝える送受信部55と、を備える。一実施形態では、制御部53からの指令を電力ケーブル5を介して各ドローン1に伝えてもよい。この場合、送受信部55を省略してもよい。
【0024】
本実施形態では、制御部53は、複数の計測器(例えば、ジャイロセンサー、加速度センサー、気圧センサー、高度計、およびGPS(全て図示せず))と、牽引部101の所定の飛行経路などを予め記憶する記憶部(図示せず)と、各ドローン1の動作指令値を演算する処理部(図示せず)と、を備えている。
【0025】
制御部20の記憶部は、牽引部101の飛行経路、飛行高度、および移動速度を予め記憶している。制御部53の処理部は、ジャイロセンサー、加速度センサー、気圧センサー、高度計、およびGPSなどの計測器の測定値に基づいて、牽引部101の移動経路、移動高度、および移動速度が記憶部に予め記憶された移動経路、移動高度、および移動速度に一致するように、各ドローン1の動作を制御する指令値を演算するように構成されている。制御部53は、処理部によって演算された指令値を送受信部55を介して各ドローン1に送信し、各ドローン1は受信した指令値に基づいて飛行する。
【0026】
図1に仮想線(点線)で示されるように、水素搬送装置100は、牽引部101の飛行経路に沿って設けられた複数の中継点102からの指令に基づいて飛行してもよい。
図1には、1つの中継点102のみが示される。この場合、水素搬送装置100と複数の中継点102は、水素を大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300(または、中規模貯蔵施設)まで搬送する水素搬送システムを構成する。制御部53の処理部は、ジャイロセンサー、加速度センサー、気圧センサー、高度計、およびGPSなどの計測器の測定値を、送受信部55を介して中継点102に送信する。中継点102は、制御部53から送られた測定値に基づいて、牽引部101の移動経路、移動高度、および移動速度が予め定められた移動経路、移動高度、および移動速度に一致するように、各ドローン1の動作を制御する指令値を制御部53に送信する。中継点102から送信された指令値は、送受信部55を介して制御部53の記憶部に格納されるとともに、各ドローン1に送られる。各ドローン1は受信した指令値に基づいて飛行する。一実施形態では、各ドローン1は、中継点から送信される指令値を直接受信してもよい。
【0027】
本実施形態では、ガス袋8には、大気圧よりも若干高い圧力を有する水素ガスが充填される。ガス袋8の容量は、該ガス袋8に充填される水素の浮力が牽引部101の総重量と同じか、または若干小さくなるように設定されている。このような構成により、ガス袋8に水素を充填しても、牽引部101が水素の浮力により上昇していくことが防止される。さらに、ガス袋8に水素を充填する際、またはガス袋8から水素を放出する際の安全性を向上させるために、ガス袋8は、絶縁性材料から構成されるのが好ましい。これにより、ガス袋8に充填されるか、またはガス袋8から放出される水素が静電気により発火することが効果的に防止される。
【0028】
牽引部101は、ガス袋8に充填された水素の浮力と、飛行するドローン1によって牽引部101に作用する牽引力を利用して、大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300(または中規模貯蔵施設)まで搬送される。上述したように、水素は、該水素の浮力が牽引部101の総重量と同じか、または若干小さくなるようにガス袋8に充填される。したがって、ドローン1は、わずかな牽引力で牽引部101を地上から空中に浮上させ、かつ空中から地上に降下させることができる。さらに、ドローン1は、空中に浮上した牽引部101をわずかな牽引力で移動させることができる。その結果、各ドローン1の消費電力量を低減できるので、各ドローン1の飛行距離を増大させることができる。
【0029】
図2に示すように、牽引部101の総重量を調整するための複数のベースバラスト51をベース9に搭載するのが好ましい。ベースバラスト51に代えて、またはベースバラスト51に加えて、牽引部101の総重量を調整するための複数の機械室バラスト65(
図3(a)参照)を機械室20に搭載してもよい。
【0030】
機械室20は、牽引部101がドローン1に牽引されているときに、該機械室20に揚力を発生させる構造を有するのが好ましい。これにより、牽引部101を飛行させるために各ドローン1が負担する牽引力をさらに低減させることができる。本実施形態では、
図3(b)に示すように、機械室20の断面は、飛行機の翼形(airfoil)と同様の略涙滴形状を有する。より具体的には、機械室20は、丸められた断面形状を有する前縁部20aと、鋭くとがった断面形状を有する後縁部20bとを有し、前縁部20aから所定の中間点20cまでの断面積は、徐々に大きくなり、所定の中間点20cから後縁部20bまでの断面積は、徐々に小さくなる。中間点20cで、機械室20の鉛直方向における幅が最大となる。このような翼形の断面形状を有する機械室20には、その下面を流れる空気の流速と、その上面を流れる空気の流速の差に起因する揚力を発生させることができる。
【0031】
図4は、別の実施形態に係る機械室20の平面図である。
図4に示す機械室20は、上記制御部53、バッテリー54、送受信部55、および機械室バラスト65が配置される機械室本体20dと、該機械室本体20dの両側面からそれぞれ延びる翼部20eとを備える。翼部20eの断面は、上述した略涙滴形状(すなわち、飛行機の翼形(airfoil))を有する。このような構成でも、牽引部101がドローン1に牽引されているときに、機械室20に揚力を発生させることができる。
【0032】
図3(a)に示すように、機械室20の両側面には、それぞれ、アーム67が固定されており、各アーム67の先端には、ドローン1に電力を供給するための電力ケーブル5が連結されている。アーム67は、電力ケーブル5がベース9に衝突して、ドローン1の自由な飛行が妨害されないように、ベース9の外縁(
図3(b)の仮想線(2点鎖線)参照)よりも外側に突出している。
【0033】
本実施形態では、アーム67の先端には、自在継手10が取り付けられており、電力ケーブル5は、自在継手10を介してアーム67に連結される。
図4に示す機械室20も、機械室本体20dの両側面に、アーム67がそれぞれ固定されており、電力ケーブル5は、自在継手10を介してアーム67に連結される。
図3(a)および
図4に示すように、バッテリー54から延びる機械室ケーブル2がアーム67の内部空間を通って自在継手10に連結される。機械室ケーブル2は、バッテリー54に蓄えられた電力を自在継手10まで供給するための電力ケーブルである。バッテリー54に蓄えられた電力は、機械室ケーブル2、自在継手10、および電力ケーブル5を介してドローン1に供給される。
【0034】
図5は、自在継手10の一例を示す模式図である。自在継手10は、X軸を中心に回転可能なX軸回転継手12と、Y軸を中心に回転可能なY軸回転継手15と、Z軸を中心に回転可能なZ軸回転継手18を有している。X軸回転継手12は、アーム67(
図3(a)および
図4参照)に連結され、Y軸回転継手15はX軸回転継手12に連結され、Z軸回転継手18はY軸回転継手15および電力ケーブル5に連結されている。X軸回転継手12は、アーム67の先端に固定された第1X軸シャフト12Aと、第1X軸シャフト12Aと同軸上に連結された第2X軸シャフト12Bを備えている。第1X軸シャフト12Aおよび第2X軸シャフト12Bの中心軸はX軸に一致し、第1X軸シャフト12Aおよび第2X軸シャフト12Bは、X軸を中心に互いに相対的に回転可能となっている。
【0035】
Y軸回転継手15は、第2X軸シャフト12Bに接続された第1Y軸シャフト15Aと、第1Y軸シャフト15Aに回転可能に連結された第2Y軸シャフト15Bを備えている。第1Y軸シャフト15Aは、第2X軸シャフト12Bと一体に構成されてもよく、または別体として構成されてもよい。第1Y軸シャフト15Aと第2Y軸シャフト15Bは、ピボット軸16によって互いに回転可能に連結されている。このピボット軸16の軸心は、Y軸に一致する。したがって、第1Y軸シャフト15Aおよび第2Y軸シャフト15Bは、Y軸を中心に互いに相対的に回転可能となっている。
【0036】
Z軸回転継手18は、第2Y軸シャフト15Bに接続された第1Z軸シャフト18Aと、第1Z軸シャフト18Aと同軸上に連結された第2Z軸シャフト18Bを備えている。第1Z軸シャフト18Aは、第2Y軸シャフト15Bと一体に構成されてもよく、または別体として構成されてもよい。第1Z軸シャフト18Aおよび第2Z軸シャフト18Bの中心軸はZ軸に一致し、第1Z軸シャフト18Aおよび第2Z軸シャフト18Bは、Z軸を中心に互いに相対的に回転可能となっている。電力ケーブル5は、第2Z軸シャフト18Bの中心に接続されており、第2Z軸シャフト18Bと同軸に配置されている。すなわち、電力ケーブル5は、Z軸回転継手18と同軸上に配置されている。
【0037】
X軸回転継手12の回転軸心であるX軸は、Y軸回転継手15の回転軸心であるY軸と垂直であり、Y軸は、Z軸回転継手18の回転軸心であるZ軸と垂直である。したがって、X軸回転継手12、Y軸回転継手15、およびZ軸回転継手18を備えた自在継手10は、アーム67に対する電力ケーブル5の自由な回転および自由な傾動を許容する。その結果、電力ケーブル5の先端に接続されるドローン1は、アーム67に対して自在に移動することができるので、ドローン1は、空中で安定した姿勢を維持することができ、安定して飛行することができる。
【0038】
自在継手10は、該自在継手10内に配置されたX軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41をさらに備えている。X軸回転コネクタ21は、X軸回転継手12内に配置され、Y軸回転コネクタ31はY軸回転継手15内に配置され、Z軸回転コネクタ41はZ軸回転継手18内に配置されている。X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41は、電力ケーブル5と、バッテリー54から延びる機械室ケーブル2との両方に電気的に接続されている。すなわち、X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41は、自在継手10の自由な動きを許容しつつ、電力ケーブル5とバッテリー54との電気的接続を維持することができる回転コネクタである。
【0039】
図6は、X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41の一例を示す模式図である。X軸回転コネクタ21はX軸回転継手12と同軸上に配置され、Y軸回転コネクタ31はY軸回転継手15と同軸上に配置され、Z軸回転コネクタ41はZ軸回転継手18と同軸上に配置されている。すなわち、X軸回転コネクタ21はX軸上に配置され、Y軸回転コネクタ31はY軸上に配置され、Z軸回転コネクタ41はZ軸上に配置されている。
【0040】
X軸回転コネクタ21は、バッテリー54から延びる機械室ケーブル2の正極電線2aおよび負極電線2bにそれぞれ接続された2つのX軸回転端子23と、これらX軸回転端子23にそれぞれ接触する2つのX軸静止端子24を備えている。2つのX軸静止端子24は、2つのXY電線27にそれぞれ接続されている。X軸回転コネクタ21とY軸回転コネクタ31は2つのXY電線27によって電気的に接続されている。
【0041】
本実施形態では、X軸回転端子23は、リング形状を有しており、X軸静止端子24は、X軸回転端子23に接触する金属ブラシから構成される。2つのX軸回転端子23は、X軸に沿って並列に配置されており、X軸を中心に回転可能である。バッテリー54の正極電線2aおよび負極電線2bは、X軸回転端子23とともに回転可能となっている。このような構成を有するX軸回転コネクタ21にはスリップリングを使用することができる。
【0042】
X軸回転端子23がX軸を中心に回転しているとき、X軸静止端子24はX軸回転端子23に対して相対的に静止したままで、X軸回転端子23と接触した状態を維持している。したがって、X軸回転コネクタ21は、機械室ケーブル2の正極電線2aおよび負極電線2bがX軸回転端子23とともに回転しつつ、一方のXY電線27と正極電線2aとの電気的接続、および他方のXY電線27と負極電線2bとの電気的接続を維持することができる。
【0043】
Y軸回転コネクタ31は、上記2つのXY電線27にそれぞれ接続された2つのY軸回転端子33と、これらY軸回転端子33にそれぞれ接触する2つのY軸静止端子34を備えている。2つのY軸静止端子34は、2つのYZ電線37にそれぞれ接続されている。Y軸回転コネクタ31とZ軸回転コネクタ41は2つのYZ電線37によって電気的に接続されている。
【0044】
本実施形態では、Y軸回転端子33は、リング形状を有しており、Y軸静止端子34は、Y軸回転端子33に接触する金属ブラシから構成される。2つのY軸回転端子33は、Y軸に沿って並列に配置されており、Y軸を中心に回転可能である。2つのXY電線27は、Y軸回転端子33とともに回転可能となっている。このような構成を有するY軸回転コネクタ31にはスリップリングを使用することができる。
【0045】
Y軸回転端子33がY軸を中心に回転しているとき、Y軸静止端子34はY軸回転端子33に対して相対的に静止したままで、Y軸回転端子33と接触した状態を維持している。したがって、Y軸回転コネクタ31は、2つのXY電線27がY軸回転端子33とともに回転しつつ、2つのXY電線27と2つのYZ電線37とのそれぞれの電気的接続を維持することができる。
【0046】
Z軸回転コネクタ41は、上記2つのYZ電線37にそれぞれ接続された2つのZ軸静止端子43と、これらZ軸静止端子43にそれぞれ接触する2つのZ軸回転端子44を備えている。2つのZ軸回転端子44は、電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bにそれぞれ接続されている。
【0047】
本実施形態では、Z軸回転端子44は、リング形状を有しており、Z軸静止端子43は、Z軸回転端子44に接触する金属ブラシから構成される。2つのZ軸回転端子44は、Z軸に沿って並列に配置されており、Z軸を中心に回転可能である。電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bは、Z軸回転端子44とともに回転可能となっている。このような構成を有するZ軸回転コネクタ41にはスリップリングを使用することができる。
【0048】
Z軸回転端子44がZ軸を中心に回転しているとき、Z軸静止端子43はZ軸回転端子44に対して相対的に静止したままで、Z軸回転端子44と接触した状態を維持している。したがって、Z軸回転コネクタ41は、電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bがZ軸回転端子44とともに回転しつつ、一方のYZ電線37と電力ケーブル5の正極電線5aとの電気的接続、および他方のYZ電線37と電力ケーブル5の負極電線5bとの電気的接続を維持することができる。
【0049】
図6に示す構成によれば、電力は、バッテリー54から、機械室ケーブル2、X軸回転コネクタ21、XY電線27、Y軸回転コネクタ31、YZ電線37、Z軸回転コネクタ41、および電力ケーブル5を経由して、ドローン1に供給される。X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41の組み合わせは、ドローン1に連結された電力ケーブル5がアーム67に対してあらゆる方向に傾いても、電力ケーブル5と機械室ケーブル2(すなわち、バッテリー54)との電気的接続を維持することができる。さらに、X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41は、X軸回転継手12、Y軸回転継手15、およびZ軸回転継手18と同軸上にそれぞれ配置されているので、X軸回転コネクタ21、Y軸回転コネクタ31、およびZ軸回転コネクタ41は、自在継手10の動きを妨げない。したがって、ドローン1は、その姿勢が電力ケーブル5によって妨げられることなく、長時間飛行を続けることができる。
【0050】
図7は、ドローン1の一例を示す上面図である。
図7に示すように、ドローン1は、ドローン本体35と、ドローン本体35を回転可能に支持するジンバル機構36と、を有し、電力ケーブル5は、ジンバル機構36に連結される。ドローン本体35は、複数の(図示した例では、4つの)回転翼1Rと、これら回転翼1Rにそれぞれ連結された複数のモータ(図示せず)を備えている。
【0051】
ドローン本体35は、ジンバル機構36に回転可能に連結されている。ジンバル機構36は、電力ケーブル5に連結された第1支持構造体45と、第1支持構造体45に連結された第2支持構造体46と、第1支持構造体45と第2支持構造体46とを連結する第1連結軸63と、第2支持構造体46とドローン本体35とを連結する第2連結軸64を備えている。第1連結軸63および第2連結軸64は、互いに異なる方向に延びている。本実施形態では、第1支持構造体45および第2支持構造体46は環状であり、第2支持構造体46は第1支持構造体45の内側に配置されている。一実施形態では、第1支持構造体45および第2支持構造体46は、半環状、四角形、またはその他の形状を有してもよい。
【0052】
本実施形態では、2つの第1連結軸63が一直線上に並び、2つの第2連結軸64が一直線上に並んでおり、第1連結軸63と第2連結軸64は互いに垂直である。各第1連結軸63は、第1支持構造体45に固定されており、第1支持構造体45と一体に回転可能である。各第1連結軸63は、第2支持構造体46に設けられた軸受(図示せず)によって回転可能に支持されている。各第2連結軸64は、第2支持構造体46に固定されており、第2支持構造体46と一体に回転可能である。各第2連結軸64は、ドローン本体35に設けられた軸受(図示せず)によって回転可能に支持されている。
【0053】
一実施形態では、各第1連結軸63は第2支持構造体46に固定されてもよく、かつ各第1連結軸63は第1支持構造体45に設けられた軸受(図示せず)によって回転可能に支持されてもよい。一実施形態では、各第2連結軸64はドローン本体35に固定されてもよく、かつ各第2連結軸64は第2支持構造体46に設けられた軸受(図示せず)によって回転可能に支持されてもよい。
【0054】
第1支持構造体45は、第1連結軸63によって第2支持構造体46に連結されている。第2支持構造体46は、第2連結軸64によってドローン本体35に連結されている。第2連結軸64は、ドローン本体35に連結されており、第1連結軸63は、第2支持構造体45および第2連結軸64を介してドローン本体35に連結されている。第1支持構造体45と第2支持構造体46は第1連結軸63を中心に互いに相対的に回転可能であり、第2支持構造体46とドローン本体35は第2連結軸64を中心に互いに相対的に回転可能である。ドローン本体35は、第1連結軸63を中心に回転可能であり、かつ第2連結軸64を中心に回転可能である。したがって、ドローン本体35は第1支持構造体45に対してあらゆる方向に回転(傾動)可能である。このような構成を有するジンバル機構36は、電力ケーブル5に対するドローン1の姿勢の自由度を向上させることができる。
【0055】
ドローン1が離陸、着陸時、あるいは飛行中の特定の作業において、ジンバル機構36がドローン本体35に対して大きく傾いていると、ジンバル機構36がドローン本体35の動作を阻害する場合がある。例えば、ドローン1の着陸時に第1支持構造体45の一部がドローン本体35の図示しないランディングギア(着陸脚)よりも下にあると、ランディングギアよりも先に第1支持構造体45が着陸面に接地することになる。このとき、ランディングギアではなく第1支持構造体45がドローン1の重量を支えることになり、十分な強度がないと第1支持構造体45が破損する危険もある。またランディングギアが着陸面に接地した際に着陸面からの反力で第1支持構造体45が急回転し、ドローン1の転覆や電力ケーブル5の切断などさまざまな様態の事故が発生する危険がある。
【0056】
このような事故を防ぐため、本実施形態のドローン1は、ドローン本体35に対するジンバル機構の相対的な回転を制限する第1ロック機構71および第2ロック機構72を備えている。第1ロック機構71は、第2支持構造体46に対する第1支持構造体45の相対的な回転を制限し、第2ロック機構72は、ドローン本体35に対する第2支持構造体46の相対的な回転を制限するように構成されている。第1ロック機構71または第2ロック機構72のいずれか一方のみを設けてもよい。
【0057】
第1ロック機構71は、第2支持構造体46に固定されている。第1ロック機構71は、第1連結軸63を保持(ロック)することにより、第2支持構造体46に対する第1連結軸63および第1支持構造体45の相対的な回転を制限するように構成されている。第2ロック機構72は、ドローン本体35に固定されている。第2ロック機構72は、ドローン本体35内に配置されてもよい。第2ロック機構72は、第2連結軸64を保持(ロック)することにより、ドローン本体35に対する第2連結軸64および第2支持構造体46の相対的な回転を制限するように構成されている。
【0058】
第1ロック機構71および第2ロック機構72は、通常は作動していないが、自動で、または操縦者の遠隔操作により動作し、ジンバル機構36の回転を制限(防止)し、あるいは回転を止めることができる。例えば、ドローン1の離陸あるいは着陸時に、第1支持構造体45および第2支持構造体46がドローン本体35と平行になるようにロックがかかり、これによりランディングギアが第1支持構造体45および第2支持構造体46に邪魔されることなく接地、離地できるようにすることが可能である。
【0059】
図8は、電力ケーブル5から
図7に示すドローン1に電力を送る配線構造の一例を示す模式図である。
図8では、ジンバル機構36は模式的に描かれている。
図8に示すように、ドローン1は、電力ケーブル5からジンバル機構36を通ってドローン本体35まで延びる電力ラインを備えている。より具体的には、電力ラインは、電力ケーブル5の正極電線5aに電気的に接続された第1正極電力ライン75と、電力ケーブル5の負極電線5bに電気的に接続された第1負極電力ライン76と、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76にそれぞれ電気的に接続された第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79と、第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79にそれぞれ電気的に接続された第3正極電力ライン83および第3負極電力ライン84を備えている。
【0060】
第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79は、2つの第1回転コネクタ80a,80bを介して第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76にそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、第2正極電力ライン78は、一方の第1回転コネクタ80aを介して第1正極電力ライン75に接続され、第2負極電力ライン79は、他方の第1回転コネクタ80bを介して第1負極電力ライン76に接続されている。
【0061】
2つの第1回転コネクタ80a,80bは、ジンバル機構36の2つの第1連結軸63内にそれぞれ配置されており、これら2つの第1連結軸63と同軸上に配置されている。一方の第1回転コネクタ80aは、第1正極電力ライン75に接続された第1静止端子81aと、この第1静止端子81aに接触している第1回転端子82aを備えている。他方の第1回転コネクタ80bは、第1負極電力ライン76に接続された第1静止端子81bと、この第1静止端子81bに接触している第1回転端子82bを備えている。本実施形態では、第1回転端子82a,82bは、リング形状を有しており、第1静止端子81a,81bは、第1回転端子82a,82bに接触する金属ブラシから構成される。2つの第1回転端子82a,82bは、第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79にそれぞれ接続されている。第1回転コネクタ80a,80bにはスリップリングを使用することができる。
【0062】
第1回転端子82aがその軸心を中心に回転しているとき、第1静止端子81aは第1回転端子82aに対して相対的に静止したままで、第1回転端子82aと接触した状態を維持している。したがって、第1回転コネクタ80aは、第2正極電力ライン78が第1回転端子82aとともに回転しつつ、第1正極電力ライン75と第2正極電力ライン78との電気的接続を維持することができる。同様に、第1回転端子82bがその軸心を中心に回転しているとき、第1静止端子81bは第1回転端子82bに対して相対的に静止したままで、第1回転端子82bと接触した状態を維持している。したがって、第1回転コネクタ80bは、第2負極電力ライン79が第1回転端子82bとともに回転しつつ、第1負極電力ライン76と第2負極電力ライン79との電気的接続を維持することができる。
【0063】
第3正極電力ライン83および第3負極電力ライン84は、2つの第2回転コネクタ90a,90bを介して第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79にそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、第3正極電力ライン83は、一方の第2回転コネクタ90aを介して第2正極電力ライン78に接続され、第3負極電力ライン84は、他方の第2回転コネクタ90bを介して第2負極電力ライン79に接続されている。
【0064】
2つの第2回転コネクタ90a,90bは、ジンバル機構36の2つの第2連結軸64内にそれぞれ配置されており、これら2つの第2連結軸64と同軸上に配置されている。一方の第2回転コネクタ90aは、第2正極電力ライン78に接続された第2静止端子91aと、この第2静止端子91aに接触している第2回転端子92aを備えている。他方の第2回転コネクタ90bは、第2負極電力ライン79に接続された第2静止端子91bと、この第2静止端子91bに接触している第2回転端子92bを備えている。本実施形態では、第2回転端子92a,92bは、リング形状を有しており、第2静止端子91a,91bは、第2回転端子92a,92bに接触する金属ブラシから構成される。2つの第2回転端子92a,92bは、第3正極電力ライン83および第3負極電力ライン84にそれぞれ接続されている。第2回転コネクタ90a,90bにはスリップリングを使用することができる。
【0065】
第2回転端子92aがその軸心を中心に回転しているとき、第2静止端子91aは第2回転端子92aに対して相対的に静止したままで、第2回転端子92aと接触した状態を維持している。したがって、第2回転コネクタ90aは、第3正極電力ライン83が第2回転端子92aとともに回転しつつ、第2正極電力ライン78と第3正極電力ライン83との電気的接続を維持することができる。同様に、第2回転端子92bがその軸心を中心に回転しているとき、第2静止端子91bは第2回転端子92bに対して相対的に静止したままで、第2回転端子92bと接触した状態を維持している。したがって、第2回転コネクタ50bは、第3負極電力ライン84が第2回転端子92bとともに回転しつつ、第2負極電力ライン79と第3負極電力ライン84との電気的接続を維持することができる。
【0066】
このように、電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bは、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76にそれぞれ接続され、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76は、2つの第1回転コネクタ80a,80bを経由して第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79にそれぞれ接続され、第2正極電力ライン78および第2負極電力ライン79は、2つの第2回転コネクタ90a,90bを経由して第3正極電力ライン83および第3負極電力ライン84にそれぞれ接続され、第3正極電力ライン83および第3負極電力ライン84は、ドローン本体35に接続される。
【0067】
本実施形態によれば、第1回転コネクタ80a,80bおよび第2回転コネクタ90a,90bは、ジンバル機構36の動作を妨げることなく、ジンバル機構36内での送電を可能とする。機械室20に配置されたバッテリー54から、機械室ケーブル2、自在継手10、電力ケーブル5、およびジンバル機構36を介して電力がドローン本体35に供給されるので、ドローン1は、バッテリーを搭載することが不要であり、ドローン1自体をコンパクトにすることができる。
【0068】
図7に示すように、電力ケーブル5は、第3回転コネクタ95を経由して第1支持構造体45に連結されていてもよい。第3回転コネクタ95は、ジンバル機構36の第1支持構造体45に固定されている。第3回転コネクタ95は、第1支持構造体45が電力ケーブル5に対して回転することを許容しつつ、電力を送ることが可能な装置である。このような第3回転コネクタ95にはスリップリングを使用することができる。
【0069】
図8に示すように、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76は、第3回転コネクタ95を介して電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bにそれぞれ電気的に接続されている。第3回転コネクタ95は、電力ケーブル5の正極電線5aおよび負極電線5bにそれぞれ接続された2つの第3静止端子96と、これら2つの第3静止端子96にそれぞれ接触している2つの第3回転端子97を備えている。本実施形態では、第3回転端子97は、リング形状を有しており、第3静止端子96は、第3回転端子97にそれぞれ接触する金属ブラシから構成される。2つの第3回転端子97は、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76にそれぞれ接続されている。
【0070】
第3回転端子97はその軸心を中心に回転しているとき、第3静止端子96は第3回転端子97に対して相対的に静止したままで、第3回転端子97と接触した状態を維持している。したがって、第3回転コネクタ95は、第1正極電力ライン75および第1負極電力ライン76が第3回転端子97とともに回転しつつ、電力ケーブル5の正極電線5aと第1正極電力ライン75との電気的接続、および電力ケーブル5の負極電線5bと第1負極電力ライン76との電気的接続を維持することができる。本実施形態によれば、ジンバル機構36に対する電力ケーブル5のねじれが防止され、ドローン1の姿勢の自由度がより高められる。
【0071】
図9は、小規模貯蔵施設300の上方まで飛行してきた水素搬送装置100が該小規模貯蔵施設300に着陸する様子を示す模式図である。
図9に示すように、小規模貯蔵施設300の上方まで飛行してきた水素搬送装置100は、該小規模貯蔵施設300の上方で待機する。このとき、ドローン1は、牽引部101が地上に落下しないように、該牽引部101を鉛直方向に引き上げるように動作する。より具体的には、ドローン1は、該ドローン1に連結される電力ケーブル5が鉛直方向に延びる位置まで移動して、電力ケーブル5を介して牽引部101を支持する。これにより、地上から見た牽引部101の鉛直方向の位置が維持される。次いで、機械室20に配置された制御部53は、牽引部101が地上にゆっくりと降下するように、ドローン1の動作を制御する。上述したように、水素は、該水素の浮力が牽引部101の総重量と同じか、または若干小さくなるようにガス袋8に充填されているので、各ドローン1の動作を、牽引部101の姿勢(すなわち、牽引部101の傾き)および牽引部101の水平方向の位置が維持されるように制御するだけで、牽引部101をゆっくりと地上(すなわち、小規模貯蔵施設300)まで降下させることができる。
【0072】
水素搬送装置100が小規模貯蔵施設300に降下した後で、ガス袋8から水素を放出して、小規模貯蔵施設300に貯蔵する。これにより、大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300までの水素の搬送が完了する。水素を放出したガス袋8は、折りたたまれて、運搬手段(例えば、トラック、貨物列車、および船舶など)によって大規模貯蔵施設200に返される。ドローン1、機械室20、ベース9、および連結具38,39は、運搬手段によって大規模貯蔵施設200に返されてもよいし、ドローン1を飛行させて、自動で大規模貯蔵施設200に返してもよい。
【0073】
水素搬送装置100が複数のガス袋8を有している場合は、
図10に示すように、一部のガス袋(例えば、ガス袋8b)に充填された水素を小規模貯蔵施設300に貯蔵し、その後、残りのガス袋(例えば、ガス袋8a,8c)を有する水素搬送装置100を別の小規模貯蔵施設300’に移動させてもよい。この場合、ガス袋8bに充填された水素の浮力に相当するベースバラスト51および/または機械室バラスト65の一部が水素搬送装置100から取り除かれる。取り除かれたベースバラスト51および/または機械室バラスト65は、ガス袋8bとともに、運搬手段によって大規模貯蔵施設200まで返される。
【0074】
本実施形態に係る水素搬送装置100によれば、無人の移動体であるドローン1が大規模貯蔵施設200でガス袋8に充填された水素を所定の飛行経路に沿って小規模貯蔵施設300または中規模貯蔵施設に自動で搬送する。水素搬送装置100は、機械室20に搭載された制御部53の記憶部に記憶された飛行経路に沿って飛行することができる。したがって、搬送に携わる人員(例えば、トレーラーの運転手など)を確保する必要がなく、水素を大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300までの最短距離で搬送することができる。その結果、低コストで水素を搬送することができる。
【0075】
さらに、
図1に示すように、水素搬送装置100の移動経路を、山岳部400(および/または海上)などの人口密集地を避けて設定することができる。また、水素は、該水素の浮力が牽引部101の総重量と同じか、または若干小さくなるようにガス袋8に充填されている。そのため、万が一、ドローン1に故障が発生したり、バッテリー54の蓄電量がドローン1の飛行を維持できない程度まで低下しても、水素搬送装置100はゆっくりと地上まで落下するので、水素搬送装置100の落下によって発生する人的被害のリスクを最低限に抑えることができる。
【0076】
図11(a)は、別の実施形態に係る水素搬送装置100を示す模式図であり、
図11(b)は、
図11(a)に示す水素搬送装置100の機械室20を模式的に示す平面図である。特に説明しない本実施形態の構成は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図11(b)には、ガス袋8が仮想線(2点鎖線)で描かれている。
【0077】
図11(a)に示す水素搬送装置100は、機械室20が直接ガス袋8に連結されている。より具体的には、この水素搬送装置100は、上記ベース9を有しておらず、機械室20は、該機械室20の上面から延びる機械室連結具(例えば、ワイヤ)39を介してガス袋8の下面に連結される。したがって、本実施形態では、ドローン1によって牽引される牽引部101は、ガス袋8、機械室連結具39、および機械室20によって構成される。
【0078】
図示はしないが、機械室20をガス袋8の下面(または上面)に直接連結してもよい。この場合、機械室連結具39がさらに省略され、牽引部101は、ガス袋8および機械室20のみによって構成される。
【0079】
機械室20は、上述した制御部53、バッテリー54、送受信部55、および機械室バラスト65を収容している。機械室20の側面からは、アーム67が延びており、ドローン1に電力を供給するための電力ケーブル5がアーム67の先端に連結されている。図示した例では、電力ケーブル5は、上述した自在継手10を介してアーム67に連結されており、機械室20に配置されたバッテリー54から延びる機械室ケーブル2が自在継手10に連結されている。ドローン1の構成は、
図7および
図8を参照して説明されたドローン1と同一の構成を有している。
【0080】
水素が充填されたガス袋8は、牽引部101がドローン1に牽引されているときに、該ガス袋8に揚力を発生させる構造を有するのが好ましい。そのため、
図11(a)に示すように、ガス袋8の断面は、
図3(b)を参照して説明された飛行機の翼形(airfoil)と同様の略涙滴形状を有する。より具体的には、水素が充填されたガス袋8は、丸められた断面形状を有する前縁部と、鋭くとがった断面形状を有する後縁部とを有し、前縁部から所定の中間点までの断面積は、徐々に大きくなり、所定の中間点から後縁部までの断面積は、徐々に小さくなる。中間点で、ガス袋8の鉛直方向における幅が最大となる。このような翼形の断面形状を有するガス袋8には、ドローン1が牽引部101を牽引する際に揚力が発生する。これにより、牽引部101を飛行させるために各ドローン1が負担する牽引力を低減させることができる。
【0081】
本実施形態でも、機械室20は、
図3(b)を参照して説明された飛行機の翼形(airfoil)と同様の略涙滴形状を有していてもよいし、
図4を参照して説明された翼部20eを有していてもよい。これにより、牽引部101を飛行させるために各ドローン1が負担する牽引力を低減させることができる。
【0082】
図12は、
図11(a)に示す水素搬送装置100が小規模貯蔵施設300に着陸する様子を示す模式図である。
図12に示すように、小規模貯蔵施設300の上方まで飛行してきた水素搬送装置100は、該小規模貯蔵施設300の上方で待機する。このとき、ドローン1は、牽引部101が地上に落下しないように、該牽引部101を鉛直方向に引き上げるように動作する。より具体的には、ドローン1は、該ドローン1に連結される電力ケーブル5が鉛直方向に延びる位置まで移動して、電力ケーブル5を介して牽引部101を支持する。これにより、地上から見た牽引部101の鉛直方向の位置が維持される。このとき、電力ケーブル5がガス袋8に衝突しないように、機械室20の側面から延びるアーム67は、水素が充填されたガス袋8の外縁(
図11(b)の仮想線(2点鎖線)参照)よりも外側に突出している。
【0083】
次いで、機械室20に配置された制御部53は、牽引部101が地上にゆっくりと降下するように、ドローン1の動作を制御する。上述したように、水素は、該水素の浮力が牽引部101の総重量と同じか、または若干小さくなるようにガス袋8に充填されているので、ドローン1を、牽引部101の水平方向の姿勢が維持されるように制御するだけで、牽引部101をゆっくりと地上まで(すなわち、小規模貯蔵施設300)まで降下させることができる。
【0084】
水素搬送装置100が小規模貯蔵施設300に降下した後で、ガス袋8に充填された水素を放出して、小規模貯蔵施設300に貯蔵する。これにより、大規模貯蔵施設200から小規模貯蔵施設300までの水素の搬送が完了する。水素を放出したガス袋8は、折りたたまれて、運搬手段(例えば、トラック、貨物列車、および船舶など)によって大規模貯蔵施設200に返される。ドローン1、機械室20、および機械室連結具39は、運搬手段によって大規模貯蔵施設200に返されてもよいし、ドローン1を飛行させて、自動で大規模貯蔵施設200に返してもよい。
【0085】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 ドローン
2 機械室ケーブル
5 電力ケーブル
8 ガス袋
9 ベース
10 自在継手
20 機械室
35 ドローン本体
36 ジンバル機構
38 袋連結具
39 機械室連結具
45 第1支持構造体
46 第2支持構造体
53 制御部
54 バッテリー
55 送受信部
63 第1連結軸
64 第2連結軸
100 水素搬送装置
101 牽引部
200 大規模貯蔵施設
300 小規模貯蔵施設