(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】低電気伝導率を有するポリマー分散液とフィロケイ酸塩とを含有する酸素バリアコーティング用の水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/06 20060101AFI20220610BHJP
C09D 125/10 20060101ALI20220610BHJP
C09D 125/14 20060101ALI20220610BHJP
C09D 131/04 20060101ALI20220610BHJP
C09D 127/06 20060101ALI20220610BHJP
C09D 127/08 20060101ALI20220610BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20220610BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220610BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220610BHJP
C08F 2/16 20060101ALI20220610BHJP
C08F 12/08 20060101ALI20220610BHJP
C08F 20/18 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C09D133/06
C09D125/10
C09D125/14
C09D131/04
C09D127/06
C09D127/08
C09D7/62
C09D5/02
B65D65/40 D
C08F2/16
C08F12/08
C08F20/18
(21)【出願番号】P 2018559349
(86)(22)【出願日】2017-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2017060177
(87)【国際公開番号】W WO2017194330
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-04-28
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イーネス ピーチュ
(72)【発明者】
【氏名】コンラート ロシュマン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ トーンハウザー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティナ ゲオルギエヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ブロイ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ファイヒト
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-343793(JP,A)
【文献】特開2014-084354(JP,A)
【文献】特開2005-225140(JP,A)
【文献】特開2013-059930(JP,A)
【文献】特開平09-227118(JP,A)
【文献】特表2013-517215(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0131432(KR,A)
【文献】国際公開第2010/129028(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/025058(WO,A1)
【文献】米国特許第05925428(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0130362(US,A1)
【文献】米国特許第06410635(US,B1)
【文献】特表2009-508671(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102304314(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/06
B65D 65/40
C08F 2/16
C08F 12/08
C08F 20/18
C09D 5/02
C09D 7/62
C09D 125/10
C09D 125/14
C09D 127/06
C09D 127/08
C09D 131/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性コーティング組成物であって、
(a)ラジカル重合付加ポリマーの少なくとも1つの水性分散液、及び
(b)少なくとも1種のフィロケイ酸塩
を含み、
ここで、前記水性ポリマー分散液は、固形物濃度2.5質量%及び20℃で測定して、0.6mS/cmを下回る電気伝導率を有し、
分散されている前記ポリマーが
、
アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される
全モノマーに対して80質量部以上の少なくとも1種のアクリレートモノマーのアクリルコポリマー、
スチレン-アクリルコポリマー、
ビニル-アクリルコポリマー、
スチレン-ブタジエンコポリマー、
酢酸ビニルコポリマー、
塩化ビニルコポリマー及び
塩化ビニリデンコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーであり、かつ
前記フィロケイ酸塩が、アミノ基及びアンモニウム基から選択される少なくとも1個の基を有する少なくとも1種の有機化合物で表面変性されている、
前記水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記水性組成物が、
(a)固形物含量に対して、10~90質量%の前記ポリマー;及び
(b)固形物含量に対して、5~75質量%の前記フィロケイ酸塩
を含有する、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記組成物が、一成分組成物であり、前記ポリマーのための架橋剤を含有していない、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリマー分散液が、有機溶剤中又はバルクで重合され、ついで水中に分散されているポリマー二次分散液であるか;又は前記ポリマー分散液が、乳化重合又は懸濁重合により水中で重合され、ついで前記ポリマー分散液中のイオン性成分の量を低下させているポリマー一次分散液である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
分散されている前記ポリマーが、ビニル芳香族化合物、共役脂肪族ジエン、エチレン性不飽和酸、エチレン性不飽和カルボキサミド、エチレン性不飽和カルボニトリル、飽和C
1~C
20カルボン酸のビニルエステル、アクリル酸又はメタクリル酸と一価C
1~C
20アルコールとのエステル、飽和カルボン酸のアリルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジン、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ハロゲン化ビニル、炭素原子2~8個及び二重結合1又は2個を有する脂肪族炭化水素、又はそれらの混合物からなる群から選択される、1種以上のエチレン性不飽和のフリーラジカル重合性モノマーのフリーラジカル開始重合によって得られる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記ポリマーが、
(i)19.8~80質量部の少なくとも1種のビニル芳香族化合物と、19.8~80質量部の少なくとも1種の共役脂肪族ジエンと、0.1~10質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸と、0~20質量部の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマーとのコポリマー、ここで、モノマーの質量部の合計は100であり;
(ii)19.8~80質量部の少なくとも1種のビニル芳香族化合物と、19.8~80質量部の、アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される、少なくとも1種のアクリレートモノマーと、0.1~10質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸と、0~20質量部の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマーとのコポリマー、ここで、モノマーの質量部の合計は100であり;
(iii)酢酸ビニルと、アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される少なくとも1種の(メタ)アクリレートモノマーとのコポリマー;
(iv)エチレン-酢酸ビニルコポリマー;
(v
)アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される
全モノマーに対して80質量部以上の少なくとも1種のアクリレートモノマーのアクリレートコポリマー
から選択される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記ポリマーは、少なくとも60質量%がブタジエン又はブタジエンとスチレンとの混合物からか、又は少なくとも60質量%がC
1~C
20アルキル(メタ)アクリレート又はC
1~C
20アルキル(メタ)アクリレートとスチレンとの混合物から構成される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記ビニル芳香族化合物が、スチレン、メチルスチレン及びそれらの混合物から選択され;前記共役脂肪族ジエンが、1,3-ブタジエン、イソプレン及びそれらの混合物から選択され;かつ前記エチレン性不飽和酸が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸及びそれらの塩からなる群の1種以上の化合物から選択される、請求項5又は6に記載の水性コーティング組成物。
【請求項9】
分散されている前記ポリマーと前記フィロケイ酸塩との質量比が、95:5~50:50である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項10】
前記フィロケイ酸塩が、剥離した有機変性スメクタイトから選択される、請求項1から9までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項11】
前記フィロケイ酸塩が、400を超えるアスペクト比を有する天然又は合成のフィロケイ酸塩である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項12】
前記フィロケイ酸塩が、1000を超えるアスペクト比を有する天然又は合成のフィロケイ酸塩である、請求項11に記載の水性コーティング組成物。
【請求項13】
前記フィロケイ酸塩が、10000を超えるアスペクト比を有する天然又は合成のフィロケイ酸塩である、請求項11に記載の水性コーティング組成物。
【請求項14】
前記フィロケイ酸塩が、式
[M
n/原子価]
層間[M
I
mΜ
II
o]
八面体[Si
4]
四面体O
10Y
2
の合成スメクタイトであり、ここで
Mは、酸化状態1~3の金属カチオン又はH
+であり、
M
Iは、酸化状態2又は3の金属カチオンであり、
M
IIは、酸化状態1又は2の金属カチオンであり、
Yは、モノアニオンであり、
酸化状態3の金属原子M
Iについてのmは、2.0以下であり、
かつ酸化状態2の金属原子M
Iについてのmは、3.0以下であり、
oは、1.0以下であり、かつ
層電荷nは、0.01以上から2.0以下までである、請求項1から13までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項15】
前記ビニル芳香族化合物が、スチレン又はメチルスチレンであり、前記共役脂肪族ジエンが、ブタジエンであり、前記エチレン性不飽和酸が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、かつ前記少なくとも1種のアクリレートモノマーが、アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される、請求項6に記載の水性コーティング組成物。
【請求項16】
アルキル基中に炭素原子1~20個を有する前記アルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、プロピルヘプチルアクリレート又はそれらの混合物から選択される、請求項6に記載の水性コーティング組成物。
【請求項17】
請求項1から16までのいずれか1項に記載の水性コーティング組成物でコーティングされている、ポリマーフィルムであって、前記ポリマーフィルムがラミネートの一部であってよい、前記ポリマーフィルム。
【請求項18】
コーティングされている前記フィルムの酸素透過速度が、25℃及び90%相対湿度で測定して、未コーティングの前記フィルムの酸素透過速度の70%未満である、請求項17に記載のポリマーフィルム。
【請求項19】
コーティングされている前記フィルムの酸素透過速度が、25℃及び90%相対湿度で測定して、未コーティングの前記フィルムの酸素透過速度の40%未満である、請求項17に記載のポリマーフィルム。
【請求項20】
前記ポリマーフィルムの材料が、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、生分解性の脂肪族-芳香族コポリエステル、金属化ポリエチレンテレフタレート、金属化延伸ポリプロピレン及びポリアミドから選択され、かつ乾燥後の前記コーティング層の厚さが、0.2~50μmである、請求項17から19までのいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項21】
請求項17から20までのいずれか1項に記載のポリマーフィルムを含む、包装。
【請求項22】
高められた酸素バリア性を有するポリマーフィルムを形成する方法であって、
請求項1から16までのいずれか1項に記載の水性組成物をポリマーフィルムの少なくとも片面に適用し、かつ前記組成物を乾燥させて、バリアコーティングを前記ポリマーフィルム上に形成させる
ことを含む、前記方法。
【請求項23】
酸素バリア性を提供するための、請求項1から16までのいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電気伝導率を有するラジカル重合付加ポリマーの水性分散液と、フィロケイ酸塩とを含む水性コーティング組成物に関する。該組成物は、酸素バリア性をポリマーフィルムに提供するのに使用することができる。
【0002】
酸化を受けやすいか又は酸素に感受性である製品が包装される場合に、使用される包装材料が、ガスバリア性、例えば酸素バリア性又は水蒸気バリア性を有する、すなわち、最小限の酸素及び水蒸気浸透を示すか又は最小限の酸素及び水蒸気透過度を有することが重要である。包装材料として使用される、例えばポリオレフィン、例えばポリエチレン、又は延伸ポリプロピレン、又はポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート製のポリマーフィルムは一般に、それらが未コーティングの形態で使用される場合に、相対的に高い酸素透過度を有する。したがって、これらの包装材料の酸素バリア性を増大させるために多様な措置が提案されてきた。
【0003】
本発明の対象は、バインダー樹脂としてポリマーエマルションをベースとし、機能性充填剤としてフィロケイ酸塩を含み、配合しやすいガスバリアコーティング組成物を提供することであった。該配合物は好ましくは、外部架橋剤を添加する必要がない及び/又は該コーティングを高められた温度(例えば≧80℃)で硬化させる必要がなく、周囲温度又は僅かに高められた温度でフィルム形成する、貯蔵安定な一成分(1K)系であるべきである。
外部架橋剤の添加、すなわち2K系の配合物は、ポットライフの問題のために限定された適用範囲となる。高い硬化温度は、該コーティングが適用されるプラスチック基材に、その軟化点に近すぎるために、差し支える恐れがある。生じたコーティングは、酸素に対して―高い相対湿度でさえ―並びに水蒸気に対して、優れたバリアを提供すべきである。
【0004】
従来のポリマーエマルションバインダーを使用し、かつ機能性充填剤として粘土を含み、酸素及び/又は水蒸気の透過を妨げるように設計されたガスバリア組成物は、主に文献において公知であるが、しかし幾つかの欠点をもち、それらの欠点は上記で概説された課題を解決しない。より正確には、その著者の誰も、電気伝導率の測定により決定されるような低いバックグラウンド塩を有するポリマーエマルションを使用する重要性を取り扱わないが、我々は、この電気伝導率が、改善された優れたガスバリア性能にとって決定的であることを目下見出した。
【0005】
欧州特許出願公開第2195390号明細書(EP 2195390)(SUN Chem.)には、水溶性シリケートを、ポリマーエマルション及びクレーと組み合わせて含む多成分配合物が開示されており、ここで、該水ガラスは、プラスチック基材上の酸素バリアコーティングの製造のための主成分(全固形分の>70質量%)である。該ポリマーエマルションのための多種多様で異なる化学物質が記載されている(とりわけスチレン-アクリル、アクリルコポリマー及びスチレン-ブタジエン)のに対して、それらの塩含量についての詳細は示されていない。さらに、表2に示されたように、エマルションポリマー及びクレーのみを有する配合物が、少しもバリア性を生じないのに対し、シリケート+クレーのみがバリア性を生じる。この知見は、表3において裏付けられ、ここでは、幾分多くエマルションに富む配合物が、増加した粘土添加量でさえ、劣ったOTR値を示す。結論として、バリアコーティングのための単一の又は実質的なバインダーとしてのポリマーエマルションの使用は推奨されない。
【0006】
欧州特許出願公開第2271491号明細書(EP 2271491)(Meadwestvaco Corp.)には、ポリマーエマルション及び変性粘土をベースとする配合物においてバリア性を提供する独創的な活性化合物が、変性剤であるリシン自体であり、その際に該粘土充填剤は僅かな役割を果たすに過ぎないことが記載されている。ポリマーバインダーとして、変性されたスチレン-ブタジエン、スチレン-アクリレート及びビニル-アクリルをベースとする分散液がその実施例において使用され;詳細は、殊にそれらの塩含量について、示されていない。
【0007】
欧州特許出願公開第2470718号明細書(EP 2470718)(BASF SE)には、厚紙又は紙基材上に水蒸気バリアコーティングを製造するためのスチレン-アクリル並びにスチレン-ブタジエンエマルションポリマーの使用が記載されており、それらの塩含量についての詳細は開示されていない。粘土添加量がかなり有意であっても(50質量%)、WVTRの低下は限定されるに過ぎない(ブランクの約50%)。
【0008】
国際公開第2015/173588号(WO 2015/173588)(Imerys Minerals Ltd.)には、水分バリアとしての粘土充填コーティング用のバインダー樹脂として、殊に熱帯条件下での、ポリマーエマルション、例えばスチレン-ブタジエン又はスチレン-アクリルの主要な有用性が記載されている。詳細は、殊に使用されるポリマーエマルションの塩含量について、示されていない。
【0009】
InMat Inc.の多様な一連の刊行物は、バリアコーティングとしての、粘土充填剤と組み合わされた、弾性ポリマーエマルション(Latex 2004, 19, 207-214; Polymer 2006, 47, 3083-3093; 欧州特許出願公開第991530号明細書(EP 991530);欧州特許出願公開第1512552号明細書(EP 1512552)及び欧州特許出願公開第1660575号明細書(EP 1660575))又は熱可塑性ポリマーエマルション(米国特許第8367193号明細書(US 8367193);欧州特許出願公開第1660573号明細書(EP 1660573);欧州特許出願公開第1907488号明細書(EP 1907488);欧州特許出願公開第2066740号明細書(EP 2066740);国際公開第2010/129028号(WO 2010/129028)及び国際公開第2010/129032号(WO 2010/129032))をベースとする配合物の使用を取り扱う。多くの異なる態様に光があてられており、殊に、該バインダー樹脂用の多数の化学物質―例えばブチルゴム、ポリイソプレン、ポリエステル、スチレン-ブタジエン及びアクリレート―が記載されているけれども、該エマルションバインダーのバックグラウンド塩の重要な役割には触れていない。
【0010】
科学文献にも、エマルションポリマー及び粘土充填剤をベースとし、酸素及び/又は水蒸気に対するバリアコーティングが取り扱われている、すなわち、PTS研究報告書AIF15268, www.ptspaper.de; Tappi Journal 2013, 14, 45-51; Polymer Chemistry 2013, 4, 4386-4395; Progress in Organic Coatings 2014, 77, 646-656。それら全てが、バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエン及び/又は(スチレン-)アクリル分散液のいずれかをそれらの研究のために使用するが、しかし他方で、その著者の誰も、使用されるエマルションポリマーの塩含量についての詳細を示していないか又はバリア性へのその重要性を記載していない。
【0011】
本発明の対象は、架橋剤を必要とせず、かつ高められた温度での硬化を必要としない、良好なガスバリア性を、殊に酸素及び水蒸気に対して有するポリマーフィルムの製造を可能にする、さらに改良されたガスバリア組成物及び方法を提供することであった。
【0012】
本発明は、
(a)ラジカル重合付加ポリマーの少なくとも1つの水性分散液、及び
(b)少なくとも1種のフィロケイ酸塩
を含み、ここで、該水性ポリマー分散液は、固形物濃度2.5質量%及び20℃で測定して、0.6mS/cmを下回る電気伝導率を有する、水性コーティング組成物を提供する。
【0013】
本発明は、酸素バリア性を、例えばポリマーフィルムに、提供するための該水性組成物の使用も提供する。
【0014】
本発明は、本発明による水性コーティング組成物でコーティングされた、ポリマーフィルムも提供する。本発明は、本明細書に記載されたような本発明による使用によって得ることができる酸素バリアコーティングを含むコーティングされたポリマーフィルムも提供し、ここで、該ポリマーフィルムの少なくとも片面は、本発明による水性組成物でコーティングされている。
【0015】
該酸素バリア性は、実施例に記載された透過度試験により測定することができる。酸素バリア性という用語は、酸素透過速度(OTR)が、未コーティングの基材と比較して低下されていることを意味する。本発明によりコーティングされたポリマーフィルムの酸素透過速度は、25℃及び90%相対湿度で測定して、未コーティングの該ポリマーフィルムの値の、好ましくは70%未満、特に50%未満、又は40%未満、例えば10~30%である。
【0016】
該電気伝導率は、脱イオン水での希釈後に各ポリマー分散液の固形物含量2.5%及び温度20℃で測定される(詳細については実施例参照)。該ポリマー分散液の電気伝導率は、0.6mS/cmを下回り、好ましくは0.5mS/cm以下、より好ましくは0.3mS/cm以下又は0.1mS/cm以下である。
【0017】
本発明は、本発明によるポリマーフィルムを含む包装も提供する。
【0018】
本発明は、
本発明による水性組成物をポリマーフィルムの少なくとも片面に適用し、かつ前記組成物を乾燥させて、バリアコーティングを該ポリマーフィルム上に形成させる
ことを含む、高められた酸素バリア性を有するポリマーフィルムを形成する方法も提供する。
【0019】
“一成分組成物”という用語は、架橋剤と組み合わせて使用されない組成物を記載し、該架橋剤は典型的に、いわゆる二成分組成物の場合にコーティング基材へのそれらの適用直前に添加される。
【0020】
該水性組成物中のポリマー(a)の量は、固形物含量に対して、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~90質量%及びよりいっそう好ましくは50~85質量%である。
【0021】
該水性組成物中のフィロケイ酸塩(b)の量は、固形物含量に対して、好ましくは5~75質量%、より好ましくは5~50質量%又は5~30質量%、最も好ましくは10~30質量%である。
【0022】
分散されたラジカル重合付加ポリマー(a)の、フィロケイ酸塩(b)に対する質量比は、好ましくは95:5~50:50、より好ましくは95:5~60:40及びよりいっそう好ましくは90:10~70:30である。
【0023】
低電気伝導率を有するラジカル重合ポリマーエマルションの製造のためには、2つの主要な合成経路がある、すなわち、塩又は塩生成種の使用を回避する方法及び/又は原料の入念な選択によるか又は、選択的に、追加の工程としてのその後の過剰のイオン性種の除去によるかのいずれかである。
【0024】
ラジカル重合付加ポリマーの水性分散液は、ポリマー一次分散液であってよく、又はポリマー二次分散液であってよい。ポリマー二次分散液は、そのモノマーが、有機溶剤中で又はバルクで、すなわち溶剤不含で、重合されており、引き続き、生じたビニルポリマーが水中に分散された、ポリマー分散液である。ポリマー一次分散液は、そのモノマーが、乳化重合又は懸濁重合により水中で直接重合されている、ポリマー分散液である。ポリマー一次分散液は典型的には、相対的に多量のイオン性化合物を含有し、このことは相対的に高い電気伝導率をまねく。この種類の化合物は、例えば、イオン性乳化剤、開始剤系のイオン性成分(例えば過硫酸塩からの硫酸水素ナトリウム)、又は該乳化重合が実施されている間に形成される他のイオン性二次生成物である。
【0025】
したがって、該ポリマー分散液中のイオン性成分の量を低下させることが必要でありうる。水溶性のイオン性化合物を水から除去する方法は公知である。イオン性化合物を水性ポリマー分散液から除去するのに適した方法は、国際公開第2005/047342号(WO 2005/047342)に記載されている。該イオン性化合物は、例えば、該ポリマー分散液をイオン交換樹脂で処理することによるか、ダイアフィルトレーションによるか又は透析により、除去することができる。適した1つの方法は、例えば、欧州特許出願公開第571069号明細書(EP-A-571 069)に記載されたような方法である。その方法によれば、該水性ポリマー分散液は、イオン交換樹脂で処理される。アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の混合物を使用して、両方の種類のイオンを捕捉することが好ましい。適した別の方法の例は、透析のそれである。透析において、該ポリマー粒子は、半透膜により保持されるのに対し、水溶性の該イオン性化合物は、該膜を通って拡散する。塩不含の脱イオン水の連続的な供給が濃度勾配を維持する。透析装置は商業的に入手可能である。該イオン性化合物を除去するのに同様に適しているダイアフィルトレーションにおいて、加圧下の水が、該分散液を通過する。該分散粒子に対して不浸透性である膜を通過した後に、水溶性の該イオン性化合物を含有する水は除去される。
【0026】
該ラジカル重合付加ポリマーのガラス転移温度Tgは、好ましくは50℃を下回る範囲内及びより好ましくは-30~+30℃の範囲内である。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定法(ASTM D 3418-08、2回目の加熱曲線の“中点温度”、加熱速度20℃/分)により決定される。化学的に異なる少なくとも2種のビニル(コ)ポリマーからなる、いわゆる“多相ポリマー”の場合に、少なくとも1つの相のTgは、上記で概説された条件に従う。
【0027】
該水性分散液中に分散された該ポリマー粒子の平均サイズは、好ましくは400nm未満、より具体的には300nm未満である。特に好ましくは、該平均粒子サイズは、60~250nmである。平均粒子サイズはここでは、該粒子サイズ分布のd50に対応する“体積メディアン”を意味する―すなわち、全ての該粒子の全体積の50体積%が、該体積メディアンよりも小さい直径を有する。該粒子サイズ分布は、ハイドロダイナミックフラクショネーションにより決定することができる(実施例参照)。
【0028】
該ラジカル重合付加ポリマーは、連鎖移動剤組成物の存在又は不在下での1種以上のエチレン性不飽和のフリーラジカル重合性モノマーのフリーラジカル開始重合によって得ることができる。
【0029】
該ラジカル重合付加ポリマーは、好ましくは、アクリルコポリマー、スチレン-アクリルコポリマー、ビニル-アクリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、酢酸ビニルコポリマー(例えばエチレン-酢酸ビニルコポリマー)、塩化ビニルコポリマー及び塩化ビニリデンコポリマーからなる群から選択される、少なくとも1種のポリマーである。
【0030】
該ラジカル重合付加ポリマーは、好ましくは、ビニル芳香族化合物、共役脂肪族ジエン、エチレン性不飽和酸、エチレン性不飽和カルボキサミド、エチレン性不飽和カルボニトリル、飽和C1~C20カルボン酸のビニルエステル、アクリル酸又はメタクリル酸と一価C1~C20アルコールとのエステル、飽和カルボン酸のアリルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジン、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ハロゲン化ビニル、炭素原子2~8個及び二重結合1又は2個を有する脂肪族炭化水素、又はそれらの混合物からなる群から選択される、1種以上のエチレン性不飽和のフリーラジカル重合性モノマーのフリーラジカル開始重合によって得ることができる。
【0031】
該ポリマーは、好ましくは少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも60質量%及びよりいっそう好ましくは少なくとも80%又は少なくとも90質量%が、いわゆる主モノマーからなる。主モノマーは、C1~C20アルキル(メタ)アクリレート、炭素原子を20個まで有するカルボン酸のビニルエステル、炭素原子を20個まで有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、炭素原子1~10個を有するアルコールのビニルエーテル、炭素原子2~8個及び二重結合1又は2個を有する脂肪族炭化水素、又はそれらの混合物から選択される。
【0032】
例は、C1~C10アルキル部分を有するアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートを包含する。アルキル(メタ)アクリレートの混合物も特に適している。炭素原子1~20個を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えば、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル及び酢酸ビニルを包含する。有用なビニル芳香族化合物は、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-ブチルスチレン、4-n-ブチルスチレン、4-n-デシルスチレン及び好ましくはスチレンを包含する。ニトリルの例は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルである。ハロゲン化ビニルは、塩素置換、フッ素置換又は臭素置換のエチレン性不飽和化合物、好ましくは塩化ビニル及び塩化ビニリデンである。ビニルエーテルの具体的な例は、ビニルメチルエーテル及びビニルイソブチルエーテルである。炭素原子1~4個を有するアルコールのビニルエーテルが好ましい。炭素原子2~8個及びオレフィン性二重結合1又は2個を有する炭化水素の具体的な例は、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン及びクロロプレンである。
【0033】
好ましい主モノマーは、アルキル基中に炭素原子1~10個、殊に炭素原子1~8個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレート(それらのポリマーを、アクリルコポリマーとも呼ぶ);ビニル芳香族化合物、殊にスチレン、及び該(メタ)アクリレートとスチレンとの混合物(それらのポリマーを、スチレン-アクリルコポリマーとも呼ぶ);二重結合2個を有する炭化水素、より具体的にはブタジエン、又はそのような炭化水素とビニル芳香族化合物、より具体的にはスチレンとの混合物(それらのポリマーを、スチレン-ブタジエンコポリマーとも呼ぶ);二重結合1個を有する炭化水素、より具体的にはエチレン、及びそのような炭化水素と炭素原子1~20個を有するカルボン酸のビニルエステル、より具体的には酢酸ビニルとの混合物(それらのポリマーを、エチレン-酢酸ビニルコポリマーとも呼ぶ)である。ポリブタジエンバインダーの場合に、ブタジエンの、ビニル芳香族化合物(より具体的にはスチレン)に対する質量比は、例えば、10:90~90:10、より具体的には20:80~80:20であってよい。
【0034】
極めて特に好ましいのは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、スチレン、ブタジエン及びこれらのモノマーの混合物である。
【0035】
該主モノマーに加えて、該ポリマーは、さらなるモノマー、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基を有するモノマーを含んでいてよい。カルボン酸基が好ましい。具体的な例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸又はフマル酸及びアコニット酸である。該ポリマー中のエチレン性不飽和酸のレベルは、一般に10質量%以下、例えば0.1質量%~10質量%又は0.2~5質量%である。さらなるモノマーは、例えば、ヒドロキシル基を有するモノマー、より具体的にはアルキル基中に炭素原子1~10個を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;及びアミド、例えば(メタ)アクリルアミドを包含する。挙げられる追加のさらなるモノマーは、フェニルオキシエチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及びアルキル基中に炭素原子1~10個を有するアミノアルキル(メタ)アクリレート、例えば2-アミノエチル(メタ)アクリレートを包含する。さらなるモノマーとして、架橋性モノマーも挙げられる。
【0036】
特に該ポリマーは、少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも80質量%、及び極めて好ましくは少なくとも95質量%の、アルキル基中に炭素原子1~20個を有する少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートから合成される。
【0037】
適したラジカル重合付加ポリマーは、例えば、少なくとも60質量%が、ブタジエンから又はブタジエンとスチレンとの混合物から;又は少なくとも60質量%が、アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキル(メタ)アクリレート又はそれらとスチレンとの混合物から構成される。
【0038】
好ましいポリマーは、
(i)(a1)19.8~80質量部の少なくとも1種のビニル芳香族化合物、好ましくはスチレン又はメチルスチレンと、(a2)19.8~80質量部の少なくとも1種の共役脂肪族ジエン、好ましくはブタジエンと、(a3)0.1~10質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸、好ましくはアクリル酸及び/又はメタクリル酸と、(a4)0~20質量部の、(a1)~(a3)とは異なる少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマーとのコポリマー、ここで、モノマー(a1)~(a4)の質量部の合計は100であり;
(ii)(b1)19.8~80質量部の少なくとも1種のビニル芳香族化合物、好ましくはスチレン又はメチルスチレンと、(b2)19.8~80質量部の、アルキル基中に炭素原子1~10個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレート、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、プロピルヘプチルアクリレート又はそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のアクリレートモノマーと、(b3)0.1~10質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸、好ましくはアクリル酸及び/又はメタクリル酸と、(b4)0~20質量部の、(b1)~(b3)とは異なる少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマーとのコポリマー、ここで、モノマー(b1)~(b4)の質量部の合計は100であり;
(iii)酢酸ビニルと、アルキル基中に炭素原子1~10個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートから選択される少なくとも1種の(メタ)アクリレートモノマーとのコポリマー;
(iv)エチレン-酢酸ビニルコポリマー;及び
(v)80質量部以上、好ましくは少なくとも90質量部の、アルキル基中に炭素原子1~20個を有するアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレート、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、プロピルヘプチルアクリレート又はそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のアクリレートモノマーと、0又は15質量部以下の、該アクリレートモノマーとは異なる、少なくとも1種のさらなるモノマーとのアクリレートコポリマー
である。
【0039】
さらに好ましいラジカル重合付加ポリマーは、モノマーとして、
(A1)19.8~80質量部、好ましくは25~70質量部の、少なくとも1種のビニル芳香族化合物、殊にスチレン、
(B1)19.8~80質量部、好ましくは25~70質量部の、少なくとも1種の共役脂肪族ジエン、殊にブタジエン、
(C1)0.1~15質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸、殊に(メタ)アクリル酸及び/又はイタコン酸、及び
(D1)0~20質量部、好ましくは0.1~15質量部の、前記モノマー(A1)~(C1)以外の少なくとも1種のさらなるモノエチレン性不飽和モノマー
を用いて製造されるポリマーであり、
ここで、モノマー(A1)~(D1)の質量部の合計は100である。
【0040】
さらに好ましいラジカル重合付加ポリマーは、モノマーとして、
(A2)19.8~80質量部、好ましくは25~70質量部の、少なくとも1種のビニル芳香族化合物、殊にスチレン、
(B2)19.8~80質量部、好ましくは25~70質量部の、アルキル基中に炭素原子1~18個を有するアクリル酸のアルキルエステル及びメタクリル酸のアルキルエステルから選択される少なくとも1種のモノマー、
(C2)0.1~15質量部の少なくとも1種のエチレン性不飽和酸、殊に(メタ)アクリル酸及び/又はイタコン酸、及び
(D2)0~20質量部、好ましくは0.1~15質量部の、前記モノマー(A2)~(C2)以外の少なくとも1種のさらなるモノエチレン性不飽和モノマー
を用いて製造されるポリマーであり、
ここで、モノマー(A2)~(D2)の質量部の合計は100である。
【0041】
群(A1)及び(A2)のモノマーは、ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α-メチルスチレン及び/又はビニルトルエン及びそれらの混合物である。この群のモノマーのうち、スチレンが好ましい。該重合において使用される全モノマー混合物の100質量部は、例えば、群(A1)又は(A2)の少なくとも1種のモノマー19.8~80質量部及び好ましくは25~70質量部を含む。
【0042】
群(B1)のモノマーの例は、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、ジメチル-1,3-ブタジエン及びシクロペンタジエンである。この群のモノマーのうち、1,3-ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましい。該乳化重合において全体で使用されるモノマー混合物100質量部は、例えば、群(B1)の少なくとも1種のモノマー19.8~80質量部、好ましくは25~70質量部及び殊に25~60質量部を含む。
【0043】
群(C1)及び(C2)のモノマーの例は、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸及びビニルホスホン酸及びそれらの塩である。使用されるエチレン性不飽和カルボン酸は、好ましくは、その分子中に炭素原子3~6個を有するα,β-モノエチレン性不飽和モノカルボン酸及びジカルボン酸である。それらの例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸及びビニル乳酸である。有用なエチレン性不飽和スルホン酸は、例えばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート及びスルホプロピルメタクリレートを包含する。特に好ましいのは、アクリル酸及びメタクリル酸、殊にアクリル酸である。(C1)及び(C2)酸基を有するモノマーの群は、該重合において、遊離酸として並びに適した塩基での部分的又は完全な中和後に、使用することができる。水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液又はアンモニアは好ましくは中和剤として使用される。該重合において使用されるモノマー混合物100質量部は、例えば、群(C1)/(C2)の少なくとも1種のモノマー0.1~15質量部、好ましくは0.1~10質量部又は1~8質量部を含む。
【0044】
群(B2)の有用なモノマーは、アクリル酸及びメタクリル酸と一価C1~C18アルコールとのエステル、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチルアクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート類、ペンチルメタクリレート類、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートを包含する。該重合中に使用される全モノマー混合物100質量部は、例えば、群(B2)の少なくとも1種のモノマー19.8~80質量部及び好ましくは25~70質量部を含む。
【0045】
群(D2)のモノマーは、その他のモノエチレン性不飽和化合物である。それらの例は、エチレン性不飽和カルボキサミド、例えばより具体的にはアクリルアミド及びメタクリルアミド、エチレン性不飽和カルボニトリル、例えばより具体的にはアクリロニトリル及びメタクリロニトリル、飽和C1~C18カルボン酸のビニルエステル、好ましくは酢酸ビニル、飽和カルボン酸のアリルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジン、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート、N,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、塩化ビニル及び塩化ビニリデンである。群(D1)の有用なモノマーは、群(D2)のモノマー並びにアクリル酸及びメタクリル酸と一価C1~C18アルコールとのエステル、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチルアクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート類、ペンチルメタクリレート類、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートを包含する。この群のモノマーは、任意に、該ポリマーを変性するのに使用される。該乳化重合において使用されるモノマー混合物100質量部は、例えば、群(D1)又は(D2)の少なくとも1種のモノマー0~20質量部又は0.1~15質量部及び殊に0.5~10質量部を含む。
【0046】
本発明の一実施態様において、さらなるモノマー(D1)及び(D2)は、0.1~15質量部の量で各々使用され;該ビニル芳香族化合物は、スチレン、メチルスチレン及びそれらの混合物から選択され;該共役脂肪族ジエンは、1,3-ブタジエン、イソプレン及びそれらの混合物から選択され;及び該エチレン性不飽和酸は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、ビニルホスホン酸及びそれらの塩からなる群の1種以上の化合物から選択される。
【0047】
該乳化重合は典型的に、その反応条件下でフリーラジカルを形成する開始剤を使用する。開始剤は、例えば、重合されうるモノマーを基準として、2質量%までの量で、好ましくは0.9質量%以上で、例えば1.0質量%~1.5質量%の範囲内で使用される。適した重合開始剤は、例えば、過酸化物、ヒドロペルオキシド、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、レドックス触媒及びアゾ化合物、例えば2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩を包含する。さらに適した開始剤の例は、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルピバレート、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ビス(o-トリル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、tert-ブチルペルアセテート、tert-ブチルペルマレエート、tert-ブチルペルイソブチレート、tert-ブチルペルピバレート、tert-ブチルペルオクトエート、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2’-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチロアミジン)二塩酸塩である。開始剤は、好ましくは、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド及び過酸化水素からなる群から選択される。水溶性開始剤、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム及び/又はペルオキソ二硫酸アンモニウムを使用することが特に好ましい。該重合は、高エネルギー線、例えば電子ビームによって又はUV光での照射によって開始することもできる。
【0048】
連鎖移動剤の量は、該重合において使用されるモノマーを基準として、例えば0.01%~5%の範囲及び好ましくは0.1質量%~1質量%の範囲内である。該連鎖移動剤は好ましくは該モノマーと一緒に添加される。しかしながら、それらは、その初期装入物中に部分的に又は完全に存在していてもよい。それらは、異なる回数で該モノマーに段階的に添加することもできる。
【0049】
該水性媒体中の該モノマーの分散を増大させるために、分散剤として慣用される保護コロイド及び/又は乳化剤を使用することができる。適した保護コロイドの詳細な説明は、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, XIV/1巻, Makromolekulare Stoffe, Georg-Thieme-Verlag, Stuttgart, 1961, 411~420頁に示されている。適した乳化剤は、その数平均分子量が典型的に2000g/molを下回るか又は好ましくは1500g/molを下回る表面活性物質を包含するのに対し、該保護コロイドの数平均分子量は、2000g/molを上回り、例えば2000~100000g/molの範囲内及びより具体的には5000~50000g/molの範囲内である。適した乳化剤は、例えば、3~50の範囲内のエトキシル化度を有するエトキシル化C8~C36脂肪アルコール、3~50の範囲内のエトキシル化度を有するエトキシル化モノ-、ジ-及びトリ-C4~C12-アルキルフェノール、スルホコハク酸のジアルキルエステルのアルカリ金属塩、C8~C12アルキルスルフェートのアルカリ金属及びアンモニウム塩、C12~C18アルキルスルホン酸のアルカリ金属及びアンモニウム塩及びC9~C18アルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属及びアンモニウム塩を包含する。カチオン活性乳化剤は、例えば、少なくとも1個のアミノ又はアンモニウム基及び少なくとも1個のC8~C22アルキル基を有する化合物である。乳化剤及び/又は保護コロイドが、該モノマーを分散させる助剤として使用される場合には、それらの使用される量は、該モノマーを基準として、例えば、0.1質量%~5質量%の範囲内である。
【0050】
有用な保護コロイドは、例えば分解デンプン、殊にマルトデキストリンを包含する。該分解デンプンを製造するための有用な出発デンプンは、あらゆる天然デンプン、例えばトウモロコシ(コーン)、コムギ、エンバク、オオムギ、コメ、ミレット、バレイショ、豆類、タピオカ、モロコシ又はサゴからのデンプンを包含する。また興味深いのは、高アミロペクチン含量を有するそれらの天然デンプン、例えばワキシートウモロコシデンプン及びワキシーバレイショデンプンである。これらのデンプンのアミロペクチン含量は、90%を上回り、通常95~100%の範囲内である。エーテル化又はエステル化により化学的に変性されたデンプンは、本発明のポリマー分散液を製造するのに使用することもできる。そのような製品は、公知であり、かつ商業的に入手可能である。それらは、例えば、天然デンプン又は分解天然デンプンを無機酸又は有機酸、それらの無水物又は塩化物でエステル化することにより製造される。特に興味深いのは、リン酸化及びアセチル化された分解デンプンである。デンプンをエーテル化する最も普通の方法は、デンプンをアルカリ性水溶液中で有機ハロゲン化合物、エポキシド又はスルフェートで処理することにある。公知のデンプンエーテルは、アルキルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、カルボキシアルキルエーテル及びアリルエーテルである。デンプンと2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとの反応生成物も有用である。特に好ましいのは、分解天然デンプン、より具体的にはマルトデキストリンに分解された天然デンプンである。さらに適したデンプンは、カチオン変性されたデンプン、すなわち、アミノ基又はアンモニウム基を有するデンプン化合物を包含する。該分解デンプンは、例えば、0.07dl/g未満又は0.05dl/g未満の固有粘度ηiを有する。該分解デンプンの固有粘度ηiは、好ましくは0.02~0.06dl/gの範囲内である。該固有粘度ηiは、DIN EN1628に従って23℃の温度で決定される。
【0051】
本発明の一実施態様において、該乳化重合は、シード粒子の存在下で実施される。そうすると初期装入物は、ポリマーシード、殊にポリスチレンシード、すなわち、20~40nmの粒径を有する微細ポリマー、好ましくはポリスチレンの水性分散液を含む。
【0052】
該乳化重合は、水性媒体中で行われる。該水性媒体は、例えば完全にイオン不含の水、さもなければ水と混和性溶剤、例えばメタノール、エタノール又はテトラヒドロフランとの混合物を含んでいてよい。所望の個々の重合温度に達すると直ちに又は該重合温度に達した後1~15分、好ましくは5~15分の期間内に、該モノマーの計量供給による添加が開始される。それらのモノマーは、例えば、その反応器中へ連続的に、例えば60分~10時間以内、通常2~4時間以内に圧送することができる。好ましくは、該初期装入物中の反応混合物は、該重合が進行する必要な温度に加熱される。これらの温度は、例えば、80~130℃及び好ましくは85~120℃である。該重合は、加圧下で、例えば15barまでの圧力で、例えば2~10barで、実施することもできる。モノマー添加は、バッチ、連続的又は段階的な操作の形態を取ることができる。
【0053】
該重合が終了した後に、さらなる開始剤が、任意に該反応混合物に添加されてよく、かつ後重合が、該主重合と同じ温度で、さもなければより低温又はより高温で、実施されてよい。該重合反応を完了させるには、たいていの場合に、全てのモノマーの添加後に、該反応混合物を該重合温度で、例えば1~3時間撹拌することで十分である。該重合におけるpHは、例えば、1~5の範囲内であってよい。重合後に、該pHは、好ましくは、例えば6~7の値に調節される。
【0054】
さらに、本発明の水性コーティング組成物は、ポリマー二次分散液を含む組成物である。“二次分散(液)”という用語は、最初に均質な有機媒体中で重合され、その後、一般に外部乳化剤を添加せずに、中和しながら水性媒体中に再分散される水性分散液をいう。
【0055】
該二次分散ポリマーの製造は原則的に、有機相中での従来のフリーラジカル重合法によって実施することができる。該ポリマー(P)は、好ましくは、欧州特許出願公開第0947557号明細書(EP-A 0 947 557)(p. 31.2 - p. 41.15)又は欧州特許出願公開第1024184号明細書(EP-A 1 024 184)(p. 21.53 - p. 41.9)に既に記載された種類の多段階操作において製造される。この操作において、最初に、酸基を含まないか又は低い酸基含量を有する疎水性モノマー混合物を計量供給し、ついで、該重合中の後の時点で、酸基を有する、より親水性のモノマー混合物を計量供給する。
【0056】
該共重合は、好ましくは40~180℃で、より好ましくは80~160℃で実施される。該重合反応に適した開始剤(I)は、有機過酸化物、例えば、ジ-tert-ブチルペルオキシド、又はtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート及びアゾ化合物を包含する。使用される開始剤量は、所望の分子量に依存する。操作上の信頼性及び取り扱いのより容易さの理由のために、過酸化物開始剤を、既に明記されたタイプの適した有機溶剤中の溶液の形態で使用することも可能である。本発明の方法における該開始剤(I)の添加の速度は、該モノマーフィード(M)の終了まで継続するように制御することができる。
【0057】
該フリーラジカル重合は、溶剤なしで、又はその反応容器に装入される有機溶剤又は有機溶剤/水混合物の存在下で、実施することができる。有機溶剤は、モノマーの質量を基準として、好ましくは0~75%、より好ましくは0~30%又は5~20質量%の量で使用することができる。一実施態様において、該有機溶剤量は、最終的な該水性分散液中の0質量%~5質量%以下、好ましくは0.1質量%~5質量%以下の有機溶剤含量となるように好ましくは選択される。該二次分散ポリマーの重合は好ましくは、有機溶剤中で、かつ水を遮断して行われる。適した有機溶剤は、バインダー技術において公知であるあらゆる溶剤を包含し、好ましくは、水性分散液中の助溶剤として典型的に使用されるものである。有機溶剤の例は、アルコール、エーテル、エーテル基を有するアルコール、エステル、ケトン、N-メチルピロリドン、無極性炭化水素、又はこれらの溶剤の混合物である。さらに、該コポリマーを、欧州特許出願公開第1024184号明細書(EP-A 1 024 184)の方法により、疎水性コポリマーをその初期装入物として使用して、製造することが可能である。多段階重合法の代わりに、本発明の方法を連続的に実施することが同様に可能であり(勾配重合)、すなわち、モノマー混合物が、組成を変えながら添加され、その際に該親水性(酸官能性)モノマーの割合は、開始時よりも、該フィードの終了に向かって高くなる。
【0058】
該二次分散コポリマー(P)の数平均分子量Mnは、その操作パラメーター、例えば、モノマー/開始剤モル比、反応時間又は温度の具体的な選択を通じて制御することができ、かつ一般的に、500g/mol~30000g/mol、好ましくは10000g/mol~30000g/molにある。
【0059】
水中への該コポリマー(P)の分散前、分散中又は分散後に、存在する該酸基は、適した中和剤の添加により、それらの塩型へ少なくとも相応して変換される。適した中和剤は、有機アミン又は水溶性無機塩基、例えば、水溶性金属水酸化物、金属炭酸塩又は金属炭酸水素塩、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。適したアミンの例は、ブチルジエタノールアミン、N-メチルモルホリン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチル-イソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブタノールアミン、モルホリン、2-アミノメチル-2-メチルプロパノール又はイソホロンジアミンである。混合物中で、相応して、アンモニアを使用することも可能である。特に好ましいのは、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン及びエチルジイソプロピルアミンである。該中和剤は、該酸基の理論中和度が合計で40%~150%、好ましくは60%~120%であるような量で添加される。該中和度はここでは、中和する該成分の添加される塩基性基の、該コポリマーの酸官能基に対する比である。本発明の水性ポリマー分散液のpHは、好ましくは6~10、より好ましくは6.5~9である。
【0060】
該ポリマー分散液中の固形物の含量は、該分散液の全質量を基準として、好ましくは10質量%以上から90質量%以下まで、好ましくは40質量%~60質量%の範囲内である。
【0061】
該有機溶剤は、該水性分散液の全質量を基準として、好ましくは5質量%未満、より好ましくは4質量%未満、より好ましくは2質量%未満の量で、存在する。該固形物含量は、DIN-EN ISO 3251に規定されたように決定される。減らすべき又は回避すべき有機溶剤は、アセトン及び100℃を下回る沸点を有するその他の溶剤を包含する。
【0062】
該水性コーティング組成物は好ましくは、該ポリマーのための架橋剤、殊にイソシアネート架橋剤を含有しない、一成分組成物である。
【0063】
該水性組成物は、少なくとも1種のフィロケイ酸塩を含有する。フィロケイ酸塩は、ケイ酸塩鉱物のサブグループである。フィロケイ酸塩は、Si2O5又は2:5比を有するシリケート四面体の平行シートにより形成される、シートシリケート材料(層状ケイ酸塩)である。該四面体層は、八面体層と交互に重なっている。該八面体層中で、カチオンは、八面体配位中の水酸化物イオン及び/又は酸素により取り囲まれている。実際の層自体は、通常は負に帯電され、かつ該電荷は、各層のすきまの追加のカチオンにより部分的に相殺される。これらの追加のカチオンは、該八面体層中の前記カチオンから区別すべきである。多くのフィロケイ酸塩は、水中に良好に膨潤しうる及び/又は分散されうる。このプロセスは、剥離(exfoliation)(又は同義的に層剥離(delamination))と呼ばれる。
【0064】
該フィロケイ酸塩は、天然又は合成であってよい。それらは、好ましくは少なくとも50、より好ましくは400を超える、又は1000を超える、及び最も好ましくは10000を超えるアスペクト比を有する。フィロケイ酸塩のバリア作用の様式は、それらの高いアスペクト比(幅の、厚さに対する比)による。その出発粘土材料は、公知の方法で剥離及び層剥離することができる層状構造であり、この方法は―理想化される場合に―好ましくは10nm以上、理想的には、単一粘土層に対応する約1nmの厚さを有する個々のプレートレットをもたらす。
【0065】
該層電荷は、化学式単位あたり好ましくは0.01~2.0、好ましくは0.3~0.95及び理想的には0.4~0.6である。
【0066】
該フィロケイ酸塩は、変性されていてよく、又は未変性であってよい。変性フィロケイ酸塩が好ましい。
【0067】
該フィロケイ酸塩は、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリナイト、雲母、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、バーミキュライト、フルオロバーミキュライト、ハロイサイト、ボルコンスコアイト、スコナイト(suconite)、マガディアイト、ソーコナイト、スチベンサイト(stibensite)、スチプルジャイト(stipulgites)、アタパルジャイト、イライト、ケニヤアイト、スメクタイト、アレバルダイト、白雲母、パリゴルスカイト、セピオライト、シリナイト、グローマンタイト(grumantite)、レブダイト(revdite)、ゼオライト、フラー土、天然又は合成のタルク及び雲母、又は合成起源のもの、例えばパームチットから選択されていてよい。最も好ましいのは、剥離した有機変性スメクタイトである。
【0068】
これらのフィロケイ酸塩は、個々のシリケート層又はシートを向かい合わせて積み重ねたパケットから構成される。該シートの厚さは、典型的に約1nmであり、かつ該シートの最大長さは、典型的に50~1000nm又はよりいっそう長く、その際に50~1000のアスペクト比となる。Breu et al.(Nanoscale 2012, 4, 5633-5639)により記載されたように、10000を超えるアスペクト比は、合成粘土について実現することができる。
【0069】
好ましいのは、モンモリロナイト(ケイ酸アルミニウムマグネシウム)、ヘクトライト(ケイ酸マグネシウムリチウム)粘土であり、ここで、合成フルオロヘクトライトが最も好ましい。好ましいのは、剥離したスメクタイトタイプでもある。
【0070】
好ましい合成フィロケイ酸塩は、合成スメクタイトである。好ましい合成スメクタイトは、式
[Mn/原子価]層間[MI
mΜII
o]八面体[Si4]四面体O10Y2
のものであり、ここで
Mは、酸化状態1~3の金属カチオン、又はH+であり、
MIは、酸化状態2又は3の金属カチオンであり、
MIIは、酸化状態1又は2の金属カチオンであり、
Xは、ジアニオンであり、かつ
Yは、モノアニオンであり、
酸化状態3の金属原子MIについてのmは、≦2.0であり、
かつ酸化状態2の金属原子MIについてのmは、≦3.0であり、
oは、≦1.0であり、かつ
層電荷nは、0.01~2.0、好ましくは0.3~0.95及び理想的には0.4~0.6である。
【0071】
Mは好ましくは、酸化状態1又は2を有する。Mは、特に好ましくはLi+、Na+、Mg2+、又はそれらのイオンの2種以上の混合物である。Mは、最も特に好ましくはNa+又はLi+である。
MIは、好ましくはMg2+、Al3+、Zn2+、Fe2+、Fe3+又はそれらのイオンの2種以上の混合物である。
MIIは、好ましくはLi+、Mg2+又はそれらのカチオンの混合物である。
Yは、好ましくはOH-又はF-、特に好ましくはF-である。
【0072】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、Mは、Li+、Na+、H+又はそれらのイオンの2種以上の混合物であり、MIはMg2+であり、MIIはLi+であり、かつYはF-である。
【0073】
適した合成層状ケイ酸塩の合成手順は、M. Stoter et al., Langmuir 2013, 29, 1280-1285に記載されている。高アスペクト比を有し、適しており、かつ好ましいフィロケイ酸塩を製造する方法は、国際公開第2011/089089号(WO 2011/089089)に記載されている。合成フィロケイ酸塩は、例えば国際公開第2011/089089号(WO 2011/089089)又は国際公開第2012/175431号(WO 2012/175431)に記載されたように、高温溶融合成、引き続き剥離及び/又は層剥離により高アスペクト比を有するフィロケイ酸塩プレートレットを得ることによって製造することができる。この方法によって、400よりも大きい平均アスペクト比を有するフィロケイ酸塩プレートレットを得ることができる。この方法により得ることができる該フィロケイ酸塩プレートレットのさらなる利点は、色が多少黄褐色である天然モンモリロナイト及びバーミキュライトとは異なり、それらのプレートレットが無色であることである。このことは、無色の複合材料をそれらから製造することを可能にする。
【0074】
適したフィロケイ酸塩は、水熱的に製造することもでき、例えば水熱的に製造されたスメクタイト、例えばOptigel(登録商標) SHであってもよい。ヘクトライトを、水熱処理により合成的に製造することは周知である。例えば、米国特許第3954943号及び同第3586478号明細書は、水熱法によるフッ素含有ヘクトライトの合成を教示する。国際公開第2014/164632号(WO 2014/164632)は、水熱製造による適した合成亜鉛ヘクトライトを教示する。
【0075】
好ましくは、該フィロケイ酸塩は、アミノ基及びアンモニウム基から選択される少なくとも1個の基を有する、少なくとも1種の有機化合物で表面変性される。異なるタイプのカチオン変性が、層剥離した該フィロケイ酸塩の表面の金属カチオン(例えばナトリウムカチオン)を置換するのに使用することができる。該表面変性は、層剥離又は剥離した該フィロケイ酸塩の安定化及びポリマー(a)及び(b)との相溶化を提供することができる。
【0076】
カチオン変性は、有機部分が、該フィロケイ酸塩をイオン交換法にかける処理により、該フィロケイ酸塩に強固に接続されていることを意味し、それにより、該フィロケイ酸塩中に存在する無機カチオンは、カチオン性塩の基、例えば第四級アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム等に結合された有機基、又はカチオン性アミン塩を有する有機化合物のいずれかを含む有機カチオンにより置換されるが、しかしこれらに限定されない。
【0077】
該フィロケイ酸塩は、例えば米国特許第5578672号明細書に記載されたような方法により、有機分子又はポリマー分子をその無機層間でイオン交換することにより親油性にされる。例として、米国特許第6117932号明細書に記載された親油性粘土が挙げられる。好ましくは、該粘土は、好ましくは炭素原子4個以上を有するオニウムイオンとのイオン結合により有機物質で変性される。炭素原子の数が4個未満である場合には、該有機オニウムイオンは、親水性すぎるかもしれず、ひいては該ポリマーマトリックスとの相溶性は減少しうる。有機オニウムイオンの例として、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウム(ステアリルアンモニウム)イオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン及びアンモニウムラウレートイオンが挙げられる。該ポリマーとのできる限り大きい接触表面を有する粘土を使用することが推奨される。
【0078】
カチオン変性に使用される有機オニウムイオン又はそれらの前駆物質の他の例は、アミノ酸、例えばグリシン、アラニン、リシン、オルニチン又はそれらの誘導体;例えばL-リシン一塩酸塩又はN,N,N-トリメチルグリシン塩酸塩(=ベタイン)から;アミノアルコール、例えばエタノールアミン、N,N’-ジメチルエタノールアミン、N,N’-ジメチルアミノエトキシエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(=TRIS)から;又はアルコキシル化アミン又はアミド、例えばエトキシル化エチレンジアミン(例えばMazeen(登録商標) 184、Tetronic(登録商標) 90R4、Tetronic (登録商標)904又はTetronic(登録商標) 1107)、エトキシル化脂肪アミン(例えばLutensol(登録商標) FA 12、Lutensol(登録商標) FA 12K)、エトキシル化脂肪酸アミド(例えばLutensol(登録商標) FSA 10)又はポリエーテルアミン、例えばJeffamine(登録商標) M-シリーズからのJeffamine(登録商標) M-600、M-1000、M-2005又はM-2070又はBASFからのポリアミンD-230、D-400、D-2000、T-403又はT-5000から選択されていてよい。好ましい変性剤は、ベタイン、TRIS、リシン、アルコキシル化エチレンジアミン又はエトキシル化脂肪アミンである。
【0079】
該フィロケイ酸塩のカチオン交換容量は、好ましくは、100gあたり50~200ミリ当量である。有機オニウムイオンの割合は、該粘土の該イオン交換容量の有利に0.3~3、好ましくは0.3~2当量である。
【0080】
本発明の一実施態様は、上記のような水性組成物でコーティングされたポリマーフィルム、特に、上記のような水性組成物の使用によって得ることができる酸素バリアコーティングを含むポリマーフィルムであり、ここで、該ポリマーフィルムの少なくとも片面が、
(a)ラジカル重合付加ポリマーの少なくとも1つの水性分散液、及び
(b)少なくとも1種のフィロケイ酸塩
を含む水性組成物でコーティングされており、
ここで、該水性ポリマー分散液が、固形物濃度2.5質量%及び20℃で測定して、0.6mS/cmを下回る電気伝導率を有する。
【0081】
コーティングされた該フィルムの酸素透過速度は、好ましくは、25℃及び90%相対湿度で測定して、未コーティングの該フィルムの酸素透過速度の70%未満、及びより好ましくは、25℃及び90%相対湿度で測定して、未コーティングの該フィルムの酸素透過速度の60%未満、又は50%未満、又は40%未満又は好ましくは30%以下、例えば10~30%である。
【0082】
該コーティング法に使用される水性組成物は、さらなる添加剤又は助剤、例えばレオロジーを調節するための増粘剤、湿潤助剤、又はバインダーを含んでいてよい。好ましいポリマーフィルム基材は、包装に適したポリマーフィルムである。
【0083】
好ましいポリマーフィルムは、延伸ポリプロピレン又はポリエチレン製であり、ここで、該ポリエチレンは、エチレンから、高圧重合法又は低圧重合法のいずれかにより製造することができる。適した他のポリマーフィルムの例は、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート製、及びポリアミド、ポリスチレン及びポリ塩化ビニル製のフィルムである。一実施態様において、該ポリマーフィルムは、生分解性であり、例えば生分解性の脂肪族-芳香族コポリエステル及び/又はポリ乳酸製であり、ここで、例は、Ecoflex(登録商標)フィルム又はEcovio(登録商標)フィルムである。適したコポリエステルの例は、アルカンジオール、特にC2~C8アルカンジオール、例えば1,4-ブタンジオールと、脂肪族ジカルボン酸、特にC2~C8ジカルボン酸、例えばアジピン酸、及び芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸とから形成されるものである。好ましいポリマーフィルム材料は、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、生分解性の脂肪族-芳香族コポリエステル、金属化ポリエチレンテレフタレート、金属化延伸ポリプロピレン及びポリアミドから選択される。
【0084】
該ポリマーフィルムの厚さは、5~200μmの範囲内、ポリアミド製のフィルムの場合に5~50μm、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムの場合に10~100μm、延伸ポリプロピレンの場合に10~100μm、ポリ塩化ビニルのフィルムの場合に約100μm、及びポリスチレン製のフィルムの場合に約30~75μmであってよい。
【0085】
好ましくは、該ポリマーフィルム上の該酸素バリアコーティングは、原子間力顕微鏡法(AFM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)により分析できる細孔を含まない。
【0086】
本発明の対象の一つは、高められた酸素バリア性を有するポリマーフィルムを形成する方法であって、該方法は、
- 上記のような本発明による水性組成物を、該ポリマーフィルムの少なくとも片面に適用し、かつ
- 前記組成物を乾燥させて、バリアコーティングを該ポリマーフィルム上に形成させる
ことを含む。
【0087】
該水性組成物は、典型的なコーティング機により、プラスチック製のバッキングフィルムに適用することができる。ウェブの形態の材料が使用される場合には、該水性組成物は通常、トラフから、アプリケーターロールによって適用され、かつエアナイフを用いて均一にされる。該コーティングを適用するのに適した他の可能性は、リバースグラビア法、又はスプレー法、又はロールを使用するスプレッダーシステム、又は当業者に公知のその他のコーティング法を使用する。該水性組成物は、マルチコーティング法において適用することもでき、ここで、第一コーティングに、第二の又はより多くのコーティングが続けられる。
【0088】
適した他のコーティング法は、公知の凹版印刷及び凸版印刷法である。その印刷インキユニットにおいて異なるインキを使用する代わりに、該方法はここでは例として、印刷法を該水性ポリマー溶液の適用に使用する。挙げられる印刷法は、当業者に公知の凸版印刷法としてフレキソ印刷法、凹版印刷の例としてグラビア法、及び平台印刷の例としてオフセット印刷である。最新のデジタル印刷、インクジェット印刷、電子写真及びダイレクトイメージングを使用することもできる。
【0089】
ポリマーフィルム上の付着のさらなる改善を達成するために、該バッキングフィルムを、予めコロナ処理にかけることができる。該シート材料に適用される量の例は、1m2あたり好ましくは0.2~50g(ポリマー、固形物)、好ましくは0.5~20g/m2又は1~15g/m2である。
【0090】
ポリマーフィルム上の付着のさらなる改善を達成するために、プレコーティング又はプライマーを、該ポリマーフィルム上に、該基材上への該酸素バリアのコーティング前に適用することができる。そのようなプライマーは、ポリウレタン分散液、ポリウレタン溶液、無溶剤型又は溶剤型の反応性ポリウレタン、ポリエチレンイミン、ポリアクリレートをベースとしていてよく、又は当業者に公知のその他のプライマーであってよい。
【0091】
該水性コーティング組成物が該シート基材に適用されると、該溶剤/水は、蒸発される。このためには、例として、連続操作の場合に、該材料は、赤外照射装置を有していてよい乾燥トンネルを通過することができる。コーティングされ、かつ乾燥された該材料は、ついで冷却ロールを通り過ぎ、かつ最終的に巻き取られる。乾燥した該コーティングの厚さは、好ましくは0.2~50μm、特に好ましくは0.5~20μm、最も好ましくは0.7~5μmである。
【0092】
該水性コーティング組成物でコーティングされた基材は、特に高湿度環境において、優れた酸素バリア作用を示す。コーティングされた該基材は、例えば包装の手段として、好ましくは食品を包装するのに、使用することができる。該コーティングは、極めて良好な機械的性質を有し、かつ、例えば、並外れた耐屈曲性を示す。
【0093】
該酸素バリアコーティングは、その他の物質に対するバリアコーティングとして使用することもできる。そのような物質は、二酸化炭素、窒素、ビスフェノールA(BPA)、鉱油、脂肪、アルデヒド、グリース、可塑剤、光開始剤又は香気物質であってよい。
【0094】
コーティングされた該ポリマーフィルムの特定の追加の表面特性又は特定のコーティング特性、例えば良好な印刷適性、又はさらに改善されたシーリング及び非ブロッキング特性、又は良好な耐水性を得るために、コーティングされた該基材を、これらの所望の追加の特性を提供するトップコート層でオーバーコーティングすることが有利でありうる。本発明による水性コーティング組成物でプレコーティングされた基材は、容易にオーバーコーティングすることができる。該オーバーコーティング法のために、上記で挙げた方法の1つを繰り返してよく、又は繰り返しのコーティングが、連続法において、該フィルムをその間に巻き取り及び巻き出しを全く行わずに実施することができる。したがって、該酸素バリア層の位置は、該系の内部であってよく、そうするとその表面特性は、該トップコート層により決定される。該トップコート層は、該酸素バリア層への良好な付着を有する。その良好な耐湿性のために、該酸素バリア層が相対的に高い湿度レベルでさえも有効であることを保証するための追加の水分保護コーティングを適用することは、特に不要である。
【0095】
一実施態様において、本発明のポリマーフィルムは、該酸素バリアコーティングに加えて、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ワックス、エポキシ樹脂、UV硬化性アクリレート及びポリウレタンからなる群から選択される材料製の、少なくとも1つの追加の層を含む。
【0096】
本発明の一実施態様において、上記のような本発明のポリマーフィルムは、ラミネートの一部であり、例えば、少なくとも1つの追加の材料で積層される。少なくとも1つの追加の該材料は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、生分解性の脂肪族-芳香族コポリエステル、金属化ポリエチレンテレフタレート、金属化延伸ポリプロピレン、ポリアミド、紙及び板紙から選択される。
【0097】
本発明のさらなる対象は、上記のような本発明によるポリマーフィルム又はラミネートを含む包装である。
【0098】
本発明のさらなる対象は、酸素バリア性を提供するための、上記のような本発明による水性組成物の使用である。
【実施例】
【0099】
粒子サイズの測定
該粒子サイズを、Matec Instrument Companies製のCHDF-3000 High Resolution Particle Sizerを用いてハイドロダイナミックフラクショネーション(HDC)により決定する。ポリスチレンビーズを充填したカートリッジPL0850-1020カラムタイプを使用し、かつ約1ml/分の流量で操作する。濾過した試料を溶離剤溶液で約0.5AU/μlの吸光度に希釈する。該試料は、サイズ排除原理によって、その流体力学的直径に応じて溶離される。該溶離剤は、ドデシルポリ(エチレングリコールエーテル)23(Brij(登録商標) 35)0.2g/L、ドデシル硫酸ナトリウム0.5g/L、リン酸二水素ナトリウム0.24g/L、及びアジ化ナトリウム(質量で)0.2g/Lを、脱イオン水中に含有する。そのpHは約5.5~6である。その溶離時間は、ポリスチレン校正ラテックスを用いて校正される。測定を20nm~1200nmの範囲で行う。検出を、UV検出器を用いて254nmの波長で実施する。
【0100】
ガラス転移温度の測定:
該ガラス転移温度は、ASTM D 3418-08に従って示差走査熱量測定法により測定される。コンディショニングのために、該ポリマーを取り出し、一晩乾燥させ、ついで真空乾燥器中で120℃で1時間乾燥させる。測定では、該試料を150℃に加熱し、急速に冷却し、ついで20℃/分で150℃までの加熱の際に測定する。報告される値は、その中点温度である。
【0101】
酸素バリア作用の測定:
該測定方法は、ASTM D3985 - 05に基づいており、クーロメトリックセンサを用いる。各試料を2回測定し、かつその平均結果を計算する。酸素透過速度(OTR)は、ポリマーフィルム上のコーティングについて、それぞれ75%又は90%の相対湿度(RH又はr.h.)レベル及び25℃の温度で決定される。測定は、合成空気(酸素21%)を用いて行われ;結果は、酸素100%に外挿される。OTRは、0.0005cm3 m-2 日-1 bar-1の検出下限を有するMocon OX-TRAN 2/21 XL機器で得られる。
【0102】
キャリヤー材料:
Bleher Folientechnik(ディツィンゲン、独国)製の36μmの厚さを有するPET(ポリエチレンテレフタレート)のポリマーフィルム、片面コロナ処理。
未コーティングの該プラスチックフィルムのOTR:33cm3 m-2 日-1 bar-1。
【0103】
ポリマー分散液の伝導率の測定:
これらの調査の範囲内で使用されるポリマーエマルションの伝導率、したがって、塩含量を決定するために、各分散液を蒸留水でそれぞれのポリマー分散液の固形物含量2.5%に希釈した。ついで、20℃の温度で、該試料を、そのセンサプローブで、その読みが一定になるまで、静かに撹拌した。測定を、WTW GmbH(ヴァイルハイム、独国)製の電気的測定トランスデューサー、型式Cond 330i、WTW GmbH製のTetraCon(登録商標) 325 センサプローブ利用(セル定数:0.475cm-1、動作範囲:1μS/cm~2S/cm)で実施した。伝導率値を記録する前に、該装置をKCl標準(0.01M及び0.1M)及び空気に対して校正した。各試料を2回測定し、かつその平均結果を計算する。
【0104】
ラジカル重合付加ポリマーの水性分散液:
Joncryl(登録商標) DFC 3030 アニオン安定化されたアクリルコポリマー、
NH3で中和、固形物含量47%
BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)から商業的に入手可能
国際公開第2006/115729号(WO 2006/115729)の例1に記載
Joncryl(登録商標) DFC 3040 アニオン安定化されたスチレン-アクリルコポリマー、
NH3で中和、固形物含量45%
BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、独国)から商業的に入手可能
国際公開第2006/115729号(WO 2006/115729)の例2に記載
ビニル-A アニオン安定化されたスチレン-アクリルコポリマー、
NaOHで中和、固形物含量53%
詳細な製造手順は以下に示される
ビニル-B アニオン安定化されたスチレン-アクリルコポリマー、
NaOHで中和、固形物含量52%
詳細な製造手順は以下に示される
ビニル-C アニオン安定化されたスチレン-ブタジエンコポリマー、
NaOHで中和、固形物含量56%
詳細な製造手順は以下に示される。
【0105】
ビニル-A
水188.35部、エトキシル化脂肪アルコールの硫酸ヘミエステル(32%水溶液、ナトリウム塩)13.28部、エトキシル化脂肪アルコール(20%水溶液)5.00部、スルホン化フェノキシドデシルベンゼン(45%水溶液、二ナトリウム塩)21.11部、アクリル酸7.50部、スチレン7.50部、n-ブチルアクリレート485.00部及び水酸化ナトリウム(25%水溶液)8.00部から構成される、モノマーエマルションを製造する。その開始剤溶液を製造するために、過硫酸ナトリウム2.0部を水38.00部中に溶解させた。1.5Lガラス反応器に、水138.70部及びポリスチレンシードラテックス(直径約23nm、固形物33%)8.33部を装入し、窒素でフラッディングし、85℃に加熱した。その重合温度に達した際に、該開始剤溶液25%を5分以内に添加し、150rpmでさらに2分間撹拌した。その後、該モノマーエマルション及び該開始剤溶液の残部を、一様な速度で3時間にわたって各々計量供給し、30分の後重合保持時間が続いた。残存モノマーをさらに枯渇させるために、化学的脱臭を、該反応混合物に9.55% tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液15.70部及び6.21%アセトン重亜硫酸塩水溶液40.23gを、同時に2時間の期間にわたって供給することにより実施した。該反応混合物を室温に冷却した後に、水酸化ナトリウム(5%水溶液)50.00部を、中和のために添加した。
【0106】
ビニル-B
分散液ビニル-Aと同様に、コモノマー組成が異なるより高いTgのエマルションポリマーを製造した。それぞれのモノマーエマルションは、水188.35部、エトキシル化脂肪アルコールの硫酸ヘミエステル(32%水溶液、ナトリウム塩)13.28部、エトキシル化脂肪アルコール(20%水溶液)5.00部、スルホン化フェノキシドデシルベンゼン(45%水溶液、二ナトリウム塩)21.11部、アクリル酸7.50部、スチレン60.00部、n-ブチルアクリレート432.50部及び水酸化ナトリウム(25%水溶液)8.00部から構成される。
【0107】
ビニル-C
水281.44部、エトキシル化トリデシルアルコール(20%水溶液)220.00部、ピロリン酸ナトリウム(3%水溶液)88.00部及びアクリルアミド(50%水溶液)110.00部から構成される、第一モノマー溶液を製造する。スチレン1379.40部及びtert-ドデシルメルカプタン17.60部から構成される、第二モノマー溶液を製造する。3段MIG撹拌機を備えた6.0L金属反応器に、水1034.80部及びポリスチレンシードラテックス(直径約23nm、固形物33%)42.07部を装入し、窒素でフラッディングし、95℃に加熱し;90℃で、過硫酸ナトリウム(7%水溶液)18.07部をゆっくりと添加し、かつ200rpmで撹拌した。該重合温度に達した際に、同時に複数のフィードを開始し、その際にこれらは該重合容器に入れる前に予備混合されている:第一モノマー溶液を2.5時間にわたって計量供給し、第二モノマー溶液並びにブタジエン765.560部を4.5時間にわたって計量供給し、かつ過硫酸ナトリウム(7%水溶液)343.36部を、5.5時間にわたって添加した。最後のフィードが終了した際に、該反応器を後重合のために95℃でさらに1時間維持した。その後、該混合物を、水酸化ナトリウム(5%水溶液)22.00部で中和し、かつ85℃に冷却した。残存モノマーをさらに枯渇させるために、化学的脱臭を、該反応混合物に10% tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液66.00部及び13.1%アセトン重亜硫酸塩水溶液47.02gを同時に1.5時間の期間にわたって供給することにより実施した。該反応混合物を室温に冷却した。
【0108】
フィロケイ酸塩:
Na-hect 合成ナトリウムフルオロヘクトライト
L-hect L-リシンで変性されたヘクトライト
変性剤:
L-リシン:(S)-2,6-ジアミノヘキサン酸一塩酸塩C
6H
14N
2O
2・HCl、
試薬グレード≧98%、Sigma-Aldrich GmbH、独国。
【化1】
【0109】
実施例において使用されるフィロケイ酸塩のタイプは、化学式単位(p.f.u.)あたり0.5の層電荷を有する剥離したスメクタイトタイプである。使用されるフィロケイ酸塩の合成手順は、M. Stoter, D. A. Kunz, M. Schmidt, D. Hirsemann, H. Kalo, B. Putz, J. Senker, J. Breu, Langmuir 2013, 29, 1280-1285に記載されている。該フィロケイ酸塩は、合成ナトリウムフルオロヘクトライト(Na-hect)であり、かつ127meq/100gのカチオン交換容量を有する。該化学式は、
[Na0.5・xH2O]層間[Mg2.5Li0.5]八面体[Si4]四面体O10F2
である。
【0110】
ナトリウムフルオロヘクトライトの変性:
カチオン変性を、層剥離した該層状ケイ酸塩の表面のナトリウムカチオンを置換するのに使用した。変性は、層剥離した該層状ケイ酸塩の安定化及び該懸濁液内の及び塗膜形成の乾燥工程における該層状ケイ酸塩と該ポリマーマトリックスとの相溶化を提供する。
【0111】
例1:層剥離したNa-hectの変性(L-hect)
50ml遠心分離管中で、Na-hect 0.25gを蒸留水30ml中に懸濁させた。該Na-hectの表面変性のために、CEC(カチオン交換容量)の125%の変性剤L-リシン(蒸留水5ml中に溶解)を添加し、かつオーバーヘッド式シェーカー中へ12h配置した。その後、変性された該Na-hectを10000rpmで遠心分離し、分離した上澄みを廃棄し、変性された該Na-hectを蒸留水中に再懸濁させ、再びCECの125%の変性剤L-リシン(蒸留水5ml中に溶解)を添加し、かつオーバーヘッド式シェーカー中へ12h配置して、Na-hectの完全な表面変性を確実にした。再び、変性された該Na-hectを10000rpmで遠心分離し、かつ分離した上澄みを廃棄し、生じた完全変性粘土(=L-hect)を、分離した上澄みの伝導率が25μs/cmを下回るまで、蒸留水で洗浄した。
【0112】
例2:一般的な手順
ポリマー分散液中への変性フィロケイ酸塩Na-hectの懸濁によるコーティング配合物の製造及びバリアフィルムの製造
撹拌しながら、例1において合成されたリシン変性粘土(=L-hect)を、必要な量のポリマー分散液に添加して、最終的な固体材料中にフィロケイ酸塩20質量%(無機材料、すなわち変性剤なしでの基準とする)を有する懸濁液を製造した(変性剤の該量は、ポリマーの側で計算された)。その最終固形物含量を、それぞれの量の蒸留水の添加により2.5質量%に調節して、すぐに使用できる配合物を得て、これを、予熱したPET基材(70℃)のコロナ処理された面上に、ドクターブレード塗布(18mm/s、スリット幅60μm)によって適用した。生じたコーティングフィルムを、最初に周囲条件で、ついで80℃で48h乾燥させ、1~2μm(約1.6μm)の乾燥フィルム厚さを有していた。引き続き、該コーティングを、その酸素バリア性について分析した。その結果は第1表に見出される。
【0113】
例3~7:
“低伝導率”のポリマーエマルション中への変性フィロケイ酸塩Na-hectの懸濁によるコーティング配合物の製造及びバリアフィルムの製造
第一工程において、Joncryl(登録商標) 3030、Joncryl(登録商標) 3040並びにビニルエマルションポリマーであるビニル-A~ビニル-Cを、透析によって後処理して、過剰の“バックグラウンド塩”を除去した。このためには、該試料を、約20%の固形物含量に希釈し、かつ蒸留水(κ=0.01mS/cm)に対して、Whatman(登録商標) Nuclepore(商標)トラックエッチフィルターメンブレン(#111503、直径76mm、孔径0.05μm)を有するMerck Millipore(ダルムシュタット、独国)製の350ml Amicon(登録商標)撹拌式セルを使用して、その溶離液の電気伝導率κが一定の低いレベルを維持するまで、透析した。その後、それぞれの透析されたエマルションポリマーを使用して、例2に概説された一般的な手順に従った。
【0114】
比較例C2:
粘土不含のポリマーエマルションをベースとするバリアフィルム
受理状態のビニルエマルションポリマーJoncryl(登録商標) 3030、3040及びビニル-A~ビニル-Cを蒸留水で希釈して、ドクターブレード塗布(18mm/s、スリット幅60μm)によるそれぞれのドローダウンが、例3~7に匹敵する乾燥フィルム厚さ(約1.6μm)を生じるようにした。
【0115】
比較例C3~C7:
“高伝導率”のポリマーエマルション中への変性フィロケイ酸塩Na-hectの懸濁によるコーティング配合物の製造及びバリアフィルムの製造
“受理状態の”Joncryl(登録商標) 3030、Joncryl(登録商標) 3040並びにビニルエマルションポリマーであるビニル-A~ビニル-Cを使用して、すなわち追加の後処理なしで“バックグラウンド塩”のそれらの本来のレベルで、例2に概説された一般的な手順に従った。
【0116】
第1表:ポリマーエマルションをベースとするコーティングの酸素バリア性
未コーティングのポリマーフィルムのOTR=33.0[cm
3 m
-2 日
-1 bar
-1]
【表1】
【0117】
第1表中のデータから分かるように、評価される全ての化学物質のニートポリマーフィルムは、必ずしも未コーティングの該PET基材の範囲内のOTR値を有するバリア性能を示さない。高アスペクト比の粘土充填剤20質量%の導入により、それぞれの粘土不含のポリマーフィルムに比べて、酸素透過速度(OTR)の実質的な低下により実証されるように、バリア性が改善される。試料の各対、すなわち例C-3対3について、最終的なナノコンポジットフィルムのバリア性が、対応するポリマー分散液の伝導率と相関関係にある、すなわち2.5%分散液の伝導率が高い場合には、OTR値も高いことが観察されるという明らかな傾向がある。したがって、粘土充填バリアコーティング用の適したバインダー樹脂として国際公開第2006/115729号(WO 2006/115729)の実験の部に記載された2つのJoncryl(登録商標)グレードは、>1.0mS/cmの高い伝導率を示し、かつ我々の試験構成において中程度の酸素バリア性を示すに過ぎない。粘土添加量20質量%でのOTR(75%相対湿度)値は、65~80%レベル、すなわちOTR(75%相対湿度)>20cm3 m-2 日-1 bar-1のままである。それらの伝導率を、≦0.6mS/cm、好ましくは≦0.5mS/cmのあるしきい値未満にすると、O2バリアは有意に改善される。同じことは、エマルションポリマーであるビニル-A~-Cに当てはまり、ここで、それぞれの場合に透析された低い伝導率の試料は、75%相対湿度に対して90%相対湿度のより苛酷な試験条件ですら、その本来の対照物よりも低いOTR値を示す。分散された該ポリマーの親水基のために、水の取り込み及びより低いOTR値が、より低い湿度(75%相対湿度)での測定に比べてより高い湿度(90%相対湿度)で予測される。意外なことに、全ての低い伝導率の試料3~7のOTR値は、90%相対湿度の高い湿度レベルですら、それらの高い伝導率の対照物C-3~C-7よりも低いOTR値を示す。