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特許7086091植物の生産方法、及び、植物加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】植物の生産方法、及び、植物加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220610BHJP
   A01G 22/25 20180101ALI20220610BHJP
   A01G 22/60 20180101ALI20220610BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G22/25 Z ZAB
A01G22/60 ZBP
A01G7/00 601Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019545112
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035353
(87)【国際公開番号】W WO2019065592
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017189867
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017234031
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】若田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】松山 沙織
(72)【発明者】
【氏名】細川 隆史
(72)【発明者】
【氏名】油屋 吉宏
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-086076(JP,A)
【文献】特開2016-106621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
A01G 22/25
A01G 22/60
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物を生長させる工程と、
生長させた前記植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程と、を有し、前記植物がサツマイモである、植物の生産方法。
【請求項2】
前記培養液が、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオンを含有する、請求項1に記載の植物の生産方法。
【請求項3】
サツマイモ及び春菊からなる群から選択される少なくとも1種の植物を生長させる工程と、
生長させた前記植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程と、を有する植物の生産方法であって、
前記培養液が、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオンを含有する、植物の生産方法。
【請求項4】
前記培養液が、1種の前記金属イオンを含有する場合、前記金属イオンの含有率が、前記培養液の全質量に対して、1.0質量ppm以下であり、
前記培養液が、2種以上の前記金属イオンを含有する場合、前記金属イオンのそれぞれの含有率が、前記培養液の全質量に対して、1.0質量ppm以下である、請求項2又は3に記載の植物の生産方法。
【請求項5】
前記培養液が、Mnイオンを含有し、Mnイオンの含有率が、前記培養液の全質量に対して、50質量ppbを超え、1.0質量ppm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項6】
前記培養液が、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含有し、
前記培養液が、1種の前記イオンを含有する場合、前記培養液の全質量に対する前記イオンの含有率が1.0質量ppm以上であり、
前記培養液が、前記イオンを2種以上含有する場合、前記培養液の全質量に対する前記イオンのそれぞれの含有率が、1.0質量ppm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項7】
サツマイモ及び春菊からなる群から選択される少なくとも1種の植物を生長させる工程と、
生長させた前記植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程と、を有する植物の生産方法であって、
前記培養液が、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含有し、
前記培養液が、1種の前記イオンを含有する場合、前記培養液の全質量に対する前記イオンの含有率が1.0質量ppm以上であり、
前記培養液が、前記イオンを2種以上含有する場合、前記培養液の全質量に対する前記イオンのそれぞれの含有率が、1.0質量ppm以上である、植物の生産方法。
【請求項8】
前記培養液が、1種の前記イオンを含有する場合、前記イオンの含有率が前記培養液の全質量に対して、1.0~300質量ppmであり、
前記培養液が、2種以上の前記イオンを含有する場合、前記イオンのそれぞれの含有率が、前記培養液の全質量に対して、1.0~300質量ppmである、請求項6又は7に記載の植物の生産方法。
【請求項9】
前記培養液が、
B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオンと、
、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の生産方法により得られた植物の根部を除去して葉茎部を得て、前記葉茎部を、水分を供給しない状態で乾燥させて、植物加工品を得る、植物加工品の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥の際の温度が20~35℃であり、相対湿度が30~95%である、請求項10に記載の植物加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生産方法、及び、植物加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物由来のポリフェノール化合物の様々な生理機能が注目されている。植物が含有するこれらのポリフェノール化合物を効率的に利用するために、ポリフェノール化合物を多く含有する植物の生産方法の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、「サツマイモ以外のイモ類、ヒルガオ科植物、及びキク科植物からなる群より選ばれる生長したポリフェノール化合物含有植物体の根部を除去する根部除去工程と、根部を除去した植物体を、水の存在下、20℃~40℃で、24時間以上保存する保存工程と、を含む、根部除去工程に供する植物体よりもポリフェノール化合物量が増加したポリフェノール化合物含有植物体の生産方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開第2016-106621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載されたポリフェノール化合物含有植物体の生産方法について検討したところ、得られる植物におけるカフェオイルキナ酸化合物の含有率に更なる向上の余地があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、カフェオイルキナ酸化合物の含有率が高い植物を得るための、植物の生産方法の提供を課題とする。また、本発明は、植物加工品の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
[1] サツマイモ以外のイモ類、ヒルガオ科植物、及び、キク科植物からなる群から選択される少なくとも1種の植物を生長させる工程と、生長させた植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程と、を有する植物の生産方法。
[2] 培養液が、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオンを含有する、[1]に記載の植物の生産方法。
[3] 培養液が、1種の金属イオンを含有する場合、金属イオンの含有率が、培養液の全質量に対して、1.0質量ppm以下であり、培養液が、2種以上の金属イオンを含有する場合、金属イオンのそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して、1.0質量ppm以下である、[2]に記載の植物の生産方法。
[4] 培養液が、Mnイオンを含有し、Mnイオンの含有率が、培養液の全質量に対して、50質量ppbを超え、1.0質量ppm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の植物の生産方法。
[5] 培養液が、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含有し、培養液が、上記イオンを1種含有する場合、培養液の全質量に対する上記イオンの含有率が1.0質量ppm以上であり、培養液が、上記イオンを2種以上含有する場合、培養液の全質量に対する上記イオンのそれぞれの含有率が、1.0質量ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の植物の生産方法。
[6] 培養液が、1種の上記イオンを含有する場合、上記イオンの含有率が培養液の全質量に対して、1.0~300質量ppmであり、培養液が、2種以上の上記イオンを含有する場合、上記イオンのそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して、1.0~300質量ppmである、[5]に記載の植物の生産方法。
[7] 培養液が、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオンと、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の植物の生産方法。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の生産方法により得られた植物の根部を除去して葉茎部を得て、葉茎部を、水分を供給しない状態で乾燥させて、植物加工品を得る、植物加工品の製造方法。
[9] 乾燥の際の温度が20~35℃であり、相対湿度が30~95%である、[8]に記載の植物加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カフェオイルキナ酸化合物の含有率が高い植物を得るための、植物の生産方法を提供できる。また、本発明によれば、植物加工品の製造方法も提供することができる。カフェオイルキナ酸化合物の含有率は、単位質量(乾物重)の植物に含まれるカフェオイルキナ酸化合物の質量を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[植物の生産方法]
上記植物の生産方法は、サツマイモ以外のイモ類、ヒルガオ科植物、及び、キク科植物からなる群から選択される少なくとも1種の植物を生長させる工程(以下、「工程1」ともいう。)と、生長させた植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程(以下、「工程2」ともいう。)と、を有する植物の生産方法である。
このような構成を有する植物の生産方法により生産される植物は、カフェオイルキナ酸化合物(以下、「CQA」ともいう。)の含有率が高い。
【0012】
CQAはコーヒー類、大麦若葉、及び、サツマイモ類等に含有されることが知られ、その生理機能から機能性食品等への応用の期待が高まっている。一方、植物中におけるCQA(中でも特に生理活性が高い、トリカフェオイルキナ酸(TCQA))はその含有率が低く、利用上の課題となっていた。上記植物の生産方法によれば、従来と比較して、CQA(特にTCQA)含有率の高い植物を生産できる。これにより得られる植物によれば、食経験に裏付けられた安全性、及び、消費者がもつ安心感の点で、機能性食品、化粧品、及び、医薬品等への応用が容易となる。
【0013】
〔工程1〕
工程1は、サツマイモ以外のイモ類、ヒルガオ科植物、及び、キク科植物からなる群から選択される少なくとも1種の植物を生長させる工程である。
【0014】
サツマイモ以外のイモ類としては、特に制限されないが、ジャガイモ、キャッサバ、タロイモ、サトイモ、及び、ヤムイモ等が挙げられる。
ヒルガオ科植物としては、特に制限されないが、サツマイモ、ヒルガオ、アサガオ、ヨルガオ、ヨウサイ、ルコウソウ、ネナシカズラ、エボルブルス、及び、エンサイ等が挙げられる。
キク科植物として、特に制限されないが、キクイモ、ノコギリソウ、ゴボウ、ヨモギ、アスター、バッカリス、ヒナギク、キンセンカ、エゾギク、ベニバナ、ヤグルマギク、ネモフィラ、シュンギク、マーガレット、イソギク、チコリ、ムルチコーレ、チョウセンアザミ、アレチノギク、キバナコスモス、タンポポ、ダリア、ムラサキバレンギク、ヒメジョオン、フジバカマ、ツワブキ、ガーベラ、ハハコグサ、ミヤコワスレ、ヒマワリ、ヨメナ、レタス、センボンヤリ、カミツレ、シネラリア、フキ、ヤーコン、アキノキリンソウ、ノゲシ、ウルシニア、ヒャクニチソウ、及び、アーティチョーク等が挙げられる。
【0015】
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、植物としては、ヒルガオ科植物及びキク科植物からなる群から選択される植物が好ましく、ヒルガオ科植物がより好ましく、サツマイモが更に好ましい。
サツマイモとしては、例えば、ベニアズマ、ベニハルカ、ベニコマチ、紅赤、鳴門金時、シロユタカ、シロサツマ、コガネセンガン、ムラサキマサリ、アヤムラサキ、スイオウ、シモンイモ、及び、タマアカネ等が挙げられるが特に制限されない。また、高系14号に由来するその他の品種も使用できる。また、未だ品種登録されていない種々の系統のサツマイモも使用できる。
【0016】
上記植物を生長させる方法としては特に制限されず、植物の種類に応じた公知の方法が使用できる。植物を生長させる方法としては、土耕栽培、又は、養液栽培が挙げられる。
養液栽培としては、固形培地耕栽培、噴霧耕栽培、又は、水耕栽培が挙げられる。
植物を生長させる方法としては、植物の種類に応じて、例えば、ジャガイモ:「農家が教えるジャガイモ・サツマイモつくり」、別冊 現代農業、農文協、2013年10月号、pp92-96;サツマイモ:同誌、pp152-175;アーティチョーク:野菜の上手な育て方大辞典(2014)、監修 北条雅章、成美堂出版、pp8-9;シュンギク:同誌、pp34-35;レタス:同誌、pp80-81;ゴボウ:同誌、pp168-169;サトイモ:同誌、pp170-171;ヤーコン:同誌、pp186-187;エンサイ:同誌、pp212-213等が挙げられるが、上記に制限されない。
【0017】
なかでも、植物がより大きく生長し、結果としてCQAの収量(植物の単位本あたりに含まれるCQAの質量を表し、単位はmg/本である。)をより多くできる観点から、植物の生長に際しては、水及び肥料の存在下、十分な光照射の下で育成することが好ましい。なかでも、植物としてサツマイモを使用する場合、CQAはその葉に多く含まれるため、葉の1枚あたりの大きさをより大きく、また、植物1本あたりの葉の枚数をより多くするような公知の条件下で育成することがより好ましい。
なお、本明細書において「生長」とは、植物が十分に大きくなった状態、具体的には、以下の状態を意味する。例えば、サツマイモの場合には、サツマイモの地上部が4葉(4節)以上展開した状態、又は地上部が20cm以上に伸長した状態を意味する。よもぎ及び春菊の場合には、地上部が10cm以上に生育した状態を意味する。アーティチョーク及びレタスの場合には、本葉が4枚~5枚以上出た状態を意味する。ゴボウの場合には、本葉が3枚~4枚以上出た状態を意味する。サトイモの場合には、本葉が3枚以上出た状態を意味する。ジャガイモの場合には、地上部が10cm以上に生育した状態を意味する。ヤーコンの場合には、地上部が10cm以上に生育した状態を意味する。エンサイの場合には、地上部が10cm以上に生育した状態を意味する。
【0018】
工程1において植物を生長させるための条件は、特に制限されず、植物ごとに適宜調整可能である。調整する条件としては、例えば、温度、湿度、光(太陽光でも、人工光でもよい)、CO(空気中のCOをそのまま利用してもよいし、そこから更に雰囲気中のCO含有率を増加させてもよい)、水(土壌への散水でも、養液栽培でもよい)、及び、必要に応じた栄養分(窒素、リン酸、カリ等を使用可能であり、更に、市販の肥料も使用できる。)等が挙げられる。植物の生長には、これらの条件を適宜組み合わせて調整すればよい。
【0019】
なお、光源として人工光を使う場合には、例えば蛍光灯、及び、LED(light emitting diode)等が使用できる。また、これらの中でも特に植物栽培用、又は、植物育成用等の用途で市販されているものがあり、これらを利用することも好ましい。また、近年の植物工場では光熱費の削減、及び、光源長寿命化等の観点から、LED照明も広く利用されている。この場合の光源としては特に白色光である必要はなく、目的に応じてR(Red)光とB(Blue)光の組合せの利用例も多い。更にこれらにG(Green)光又は近赤外光を必要に応じて加えたものも利用できる。
【0020】
工程1において植物を生長させるための条件は、植物の種類により異なるが、日長時間としては、6~24時間が好ましく、8~16時間がより好ましい。また、雰囲気温度としては、10~40℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。また、湿度としては特に制限されず、植物を生長させる温度において、30~100%が好ましい。雰囲気中のCOの含有率としては、400~2000質量ppmが好ましく、1000~1500質量ppmがより好ましい。光合成光量子束密度としては、50~500μmol/m/secが好ましく、80~450μmol/m/secがより好ましい。なお、上記各条件は、植物の種類により適宜選択可能である。
【0021】
工程1の期間としては特に制限されず、既に説明した「生長した」状態に植物が到達するまでの期間であればよい。典型的には、7~60日程度になることが多く、例えば、サツマイモの苗を生長させた場合、工程1としては、10~40日が好ましい。
【0022】
一般に、CQAは、葉茎部、特に葉においてその含有量が多い。従って、工程1では、植物を生長させることにより、十分な量の葉を得ることが好ましい。一般に、葉の収量としては、生長させた植物から根と茎を除去した上で、残った葉を乾燥処理し、得られた乾燥葉の収量の植物1本当たりの平均値(g/本)として表すことができる。すなわち、植物1本から取得できる葉の乾物重の合計(g/本)として表すことができる。葉の収量も植物の種類、栽培条件、及び、栽培期間等によって異なるが、例えば、サツマイモの水耕栽培の場合であれば、1g/本以上が好ましく、2g/本以上がより好ましく、3g/本以上が更に好ましい。
【0023】
〔工程2〕
工程2は、生長させた植物を、硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いて養液栽培する工程である。すなわち、工程1で生育させた植物を引き続き栽培する工程である。
本明細書において、養液栽培とは、土壌を用いず、植物の生育に必要な養分を含む培養液を植物に供給する栽培方法を意味し、固形培地を用いる固形培地耕、並びに、固形培地を用いない水耕及び噴霧耕を含む。なかでも植物に与える養分をより制御しやすい観点から、水耕が好ましい。工程2における養液栽培は、培養液として硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない培養液を用いたものであれば、その方法は特に制限されず、公知の方法が使用できる。以下では、そのうち水耕による場合を例に説明するが、本発明の実施形態に係る工程2としては以下に制限されない。
【0024】
工程2で使用する培養液は硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない。硝酸イオン及びリン酸イオンを実質的に含有しない、とは、イオンクロマトグラフを用いて測定した場合に、培養液の全質量に対して、硝酸イオン及びリン酸イオンの含有率のいずれもが、10質量ppm未満であることを意味し、5.0質量ppm未満が好ましく、1.0質量ppm未満がより好ましい。一般に、養液栽培(典型的には水耕栽培)において使用される培養液(いわゆる液体肥料)には、硝酸イオンが100~1000質量ppm程度、リン酸イオンが30~200質量ppm程度含有されていることが多い。すなわち、本工程で使用される培養液は、一般的な上記液体肥料と比較して、硝酸イオン及びリン酸イオンの含有率が1/10~1/1000程度である。
工程2において植物の生長に必要な硝酸イオン、及び、リン酸イオンの供給を制限することによって、植物中で、CQAの産生(そのうち、特にTCQAの産生)が促進されたものと推測される。
なお、培養液の溶媒としては通常、水が用いられることが多い。この場合、培養液中の水の含有率としては特に制限されないが、培養液の全質量に対して90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0025】
上記培養液としては、純水、蒸留水、及び、水道水を必要に応じて成分調整したものを使用できる。なお、本明細書において、水道水とは、一般的な水道水質基準を満たす水道水(例えば、Mnイオンの含有率が水道水の全質量中50質量ppb以下である)を意味する。
【0026】
より優れた本発明の効果が得られる点で、培養液は、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moからなる群から選択される少なくとも1種の金属の金属イオン(以下「第1イオン」という。)を含有することが好ましい。なお、更に優れた本発明の効果が得られる点で、培養液は、第1イオンとして、B、Mn、Zn、Cu、及び、Moのそれぞれのイオンを含有することが更に好ましい。
【0027】
培養液中における第1イオンの含有率としては特に制限されないが、培養液中に1種の第1イオンが含有される場合、第1イオンの含有率としては、培養液の全質量に対して10質量ppm以下が好ましく、1.0質量ppm以下がより好ましい。培養液中に2種以上の第1イオンが含有される場合、第1イオンのそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して、10質量ppm以下が好ましく、1.0質量ppm以下がより好ましい。
なお、本明細書において、培養液がある第1イオンを含有する状態とは、培養液が、その第1イオンを培養液の全質量に対して、20質量ppb以上含有することを表し、50質量ppb以上が好ましく、50質量ppbを超えるのがより好ましい。
培養液が少なくとも1種(又は2種以上)の第1イオンを含有し、その(又はそれぞれの)含有率が1.0質量ppm以下であると、得られる植物中におけるCQA(特にTCQA)の含有量がより多くなる。
【0028】
培養液は、第1イオンの内、少なくともMnイオンを含有することが好ましく、この場合のMnイオンの含有率は、培養液の全質量に対して、50質量ppbを超えて、1.0質量ppm以下が好ましい。培養液中のMnイオンの含有率が上記範囲内であると、より優れた本発明の効果が得られる。
【0029】
また、より優れた本発明の効果が得られる点で、培養液は、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clからなる群から選択される少なくとも1種のイオン(以下「第2イオン」ともいう。)を含有することが好ましく、2種以上の第2イオンを含有することがより好ましい。
なお、更に優れた本発明の効果が得られる点で、培養液は、第2イオンとして、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clのそれぞれのイオンを含有することが更に好ましい。
【0030】
培養液中における第2イオンの含有率としては特に制限されないが、培養液中に1種の第2イオンが含有される場合、第2イオンの含有率としては、0.1質量ppm以上が好ましく、1.0質量ppm以上がより好ましく、5.0質量ppm以上が更に好ましく、500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下が更に好ましく、150質量ppm以下が特に好ましい。また、培養液中に2種以上の第2イオンが含有される場合、少なくとも1種の含有率が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの第2イオンの含有率が上記範囲内であることがより好ましい。
培養液中における少なくとも1種の第2イオンの含有率が、1.0~300質量ppmであると、より優れた本発明の効果が得られ、培養液中における全ての第2イオンの含有率が1.0~300質量ppmであると、更に優れた本発明の効果が得られる。
なお、本明細書において、培養液がある第2イオンを含有する状態とは、実施例に記載した方法で測定したとき、その含有率が定量下限値以上(例えば、Mg2+であれば0.1質量ppm以上)であることを表す。
【0031】
なお、より優れた本発明の効果が得られる点で、培養液は、K、Mg2+、Ca2+、SO 2-、及び、Clを含有することが好ましく、それぞれの培養液の全質量に対する含有率は、Kが、5.0質量ppm以上が好ましく、Mg2+が、5.0質量ppm以上が好ましく、Ca2+が、15質量ppm以上が好ましく、SO 2-が、10質量ppm以上が好ましく、Clが、5.0質量ppm以上が好ましい。
【0032】
培養液は、第1イオンを1種以上と、第2イオンを1種以上含有するのが好ましく、第1イオンの全部と、第2イオンを1種以上含有するのがより好ましく、第1イオンの全部と第2イオンの全部を含有するのが更に好ましい。なお、この場合におけるそれぞれの第1イオン、及び、それぞれの第2イオンの培養液中における含有量としては既に説明したとおりである。
【0033】
培養液を調製する方法は特に制限されない。純水、蒸留水、及び、水道水等を精製してその後、例えば、第1イオン及び第2イオンの含有率が上記の範囲となるようにイオン源となる成分を添加するなどして作製できる。
水道水を用いて培養液を調製する場合、水道水中に含まれるイオンを培養液の成分として利用して培養液を調製してもよいし、イオンをいったん取り除いてから、再度同様の成分を加えて所望の培養液を調製してもよい。
【0034】
工程2の養液栽培は、公知の方法で実施できる。土耕栽培により工程1を実施した場合には、生長した植物を養液栽培用の装置に移植し、上記の所定の培養液を供給すればよい。また、養液栽培により工程1を実施した場合には、工程1で使用していた水及び肥料に代えて上記培養液を植物に供給すればよい。
【0035】
工程2におけるその他の条件(空気中のCO含有率、日照、日長、温度、及び、湿度等)は特に制限されず、工程1で説明したのと同様でよい。特に日長については、17時間未満が好ましく15時間以下がより好ましい。上記生産方法においては、工程2における日長を17時間未満とした場合に、CQAの含有率が高い植物をより効率よく生産できる。
【0036】
工程2の期間としては特に制限されないが、植物中においてより多くのCQAが産生される点で、一般に5日間以上が好ましく、7日間以上がより好ましく、10日間以上が更に好ましい。また、より効率よくCQAを回収できる点で、特に制限されないが、一般に30日間以下が好ましく、25日間以下がより好ましい。
【0037】
上記工程1及び工程2を有する上記植物の生産方法によれば、CQA(特に、TCQA)の含有量の多い植物が得られる。
本明細書においてCQAとは、カフェオイルキナ酸化合物を意味し、カフェオイルキナ酸化合物としては、モノカフェオイルキナ酸(3-O-カフェオイルキナ酸、4-O-カフェオイルキナ酸、5-O-カフェオイルキナ酸、及び、1-O-カフェオイルキナ酸)、ジカフェオイルキナ酸(3,4-O-ジカフェオイルキナ酸、3,5-O-ジカフェオイルキナ酸、4,5-O-ジカフェオイルキナ酸、1,3-O-ジカフェオイルキナ酸、1,4-O-ジカフェオイルキナ酸、及び、1,5-O-ジカフェオイルキナ酸)、トリカフェオイルキナ酸(3,4,5-O-トリカフェオイルキナ酸、1,4,5-O-トリカフェオイルキナ酸、1,3,5-O-トリカフェオイルキナ酸、及び、1,3,4-O-トリカフェオイルキナ酸)、並びに、テトラカフェオイルキナ酸(1,3,4,5-O-テトラカフェオイルキナ酸)が挙げられる。
【0038】
上記植物の生産方法によれば、CQAの含有率の高い植物が得られるが、なかでも、特にトリカフェオイルキナ酸(TCQA)の含有率の高い植物を得られる点で有用である。TCQAはCQAのなかでも特に強い生理活性を有することが知られているが、TCQAを含有する植物は限られており、また、その植物中における含有率は非常に少ない。一方上記植物の生産方法によれば、TCQAの含有率が多い植物を得ることができ、有用である。
【0039】
上記植物の生産方法により得られた植物は、単位質量あたりのCQAの含有率が高く、また、単位本あたりのCQAの収量も多い。従って、上記植物からは、多くのCQA(特にTCQA)を回収できる。回収されたCQAは、例えば食品等に添加すれば、生理機能を有する食品を製造できる。上記植物の生産方法により得た植物からCQAを回収する方法としては特に制限されない。植物からCQAを抽出する方法としては、例えば、植物、又は、植物の乾燥物をそのままで、又は、粉砕してから、水、有機溶剤又はこれらの混合物を加えて撹拌する等により、抽出液を得て、この抽出液を、目的に応じて、濃縮、乾固、又は、精製すればよい。
この場合、植物のCQAの含有率が高いほど、1回の抽出操作で得られるCQAの量が多くなり、単位量のCQAの回収に必要なコストがより少なくなる。例えば、植物のCQA含有率が0.01質量%程度である場合と、植物のCQA含有率が0.1質量%程度である場合とでは、同じ生産設備で1回に得られるCQAの量は理論的に約10倍となる。同じ生産設備であれば1回の稼働経費はほぼ同等である。従って、植物におけるCQA含有量が多いと、より低いコストで、CQAを回収できる。
【0040】
また、上記植物の生産方法により得られた植物、特にその葉は、CQA(特にTCQA)の含有率が高いため、そのまま、又は、他の材料と混合する等して、機能性食品としても使用できる。
また、上記植物の生産方法により得られた植物は、乾燥させて利用してもよい。一般に乾燥させることにより植物中の成分が濃縮されるため好ましい。更に、乾燥させた植物から、CQAを抽出して使用してもよい。CQAの抽出方法として特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0041】
一般に、CQAの植物中における含有率は、乾物重に対して0.1~2.0質量%程度であることが多い。一方、上記植物の生産方法により得られる植物のCQA含有率は、植物の全質量(乾物重)に対して、4.0質量%以上が好ましく、6.0質量%以上がより好ましく、8.0質量%以上が更に好ましい。また、TCQAであれば、その含有率は、植物の全質量(乾物重)に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上が更に好ましい。また、ジカフェオイルキナ酸化合物(DCQA)であれば、その含有率は、植物の全質量(乾物重)に対して、2.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、6.0質量%以上が更に好ましい。
【0042】
上記生産方法により得られた植物は、CQAの含有率が高い。その含有率は、例えばサツマイモであれば、通常の方法で生産されたサツマイモと比較して、DCQAは1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2.0倍以上が更に好ましい。TCQAは5.0倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、30倍以上が更に好ましい。CQAは、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましく、2.5倍以上が更に好ましい。
【0043】
[植物加工品の製造方法]
上記植物加工品の製造方法は、上記で説明した生産方法により得られた植物の根部を除去して葉茎部を得て、上記葉茎部を、水分を供給しない状態で乾燥させて、植物加工品を得る、植物加工品の製造方法である。なお、本明細書において、「植物加工品」とは、上記製造方法により製造された物を意味する。
【0044】
植物から、その根部を除去する方法としては、特に制限されず、植物の根部と葉茎部とを分離して、葉茎部を得ればよい。なお、本明細書において、葉茎部とは、植物の葉部と茎部とを合わせたものを意味し、土耕栽培により生育した植物においては、地上部と同義である。
葉茎部を得る方法としては、例えば、刃物等で根部を切断する、及び、根部を手で折り取る等が挙げられる。刃物等で切断する場合、切断位置は、植物の種類により適宜調整すればよい。
切断位置を茎の途中とする場合、鋭利な剪定ばさみ、剪定ナイフ、鎌、バリカン、及び、チェーンソー等の刃物を用いて、茎に対して直交又は茎に対して傾斜角度を持って切断する形態が挙げられる。傾斜角度を持って茎を切断する場合、その傾斜角度は、特に制限されない。
なお、上記植物加工品の製造工程において、根部除去後に、葉茎部から、新たに根が発生することは、本発明の効果を得るための妨げになるものではない。
【0045】
(乾燥工程)
上記植物加工品の製造方法は、水分を供給しない状態で葉茎部を乾燥させる乾燥工程を有する。水分を供給しない状態で葉茎部を乾燥させる方法としては特に制限されないが、例えば、養液栽培等の装置から取り出し、温度及び湿度が管理された空間で乾燥する方法が挙げられる。本明細書において「水分を供給しない」とは、植物の生長に必要な水分を供給しないことを意味し、具体的には、培養液を供給しないことを意味する。
【0046】
乾燥の際の温度、及び、湿度としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する植物加工品が得られる点で、乾燥の際の温度は、20~35℃が好ましく、25~30℃がより好ましい。相対湿度は、30~95%が好ましく、50~90%がより好ましい。温度及び湿度が上記範囲内であると、CQAの含有率がより高い植物加工品が得られる。
また、乾燥工程の日数としては、3~16日が好ましく、3~15日がより好ましく、4~12日が更に好ましく、5~10日が特に好ましい。
【0047】
乾燥の際の温度が20℃以上であると、植物中におけるCQAの産生反応の進行がより早くなり、より優れた本発明の効果を有する植物加工品が得られる。一方、乾燥の際の温度が35℃以下だと、植物中のCQA分解酵素の活性がより低いため、結果的に精製したCQAがより分解しにくく、CQAの含有率がより高い植物加工品が得られる。
【0048】
乾燥の際の湿度が30%以上であると、CQAの産生と植物の乾燥とがよりバランスよく進行しやすい。また、乾燥の際の湿度が95%以下であると、植物に対する乾燥ストレスがより大きくなりやすく、植物中におけるCQAの産生がより促進され、結果として、CQAの含有率がより高い植物加工品が得られる。
なお、乾燥方法としては特に制限されないが、例えば、水蒸気を含有する空間に葉茎部を放置する方法等が挙げられる。
【0049】
乾燥工程において、葉茎部に光照射してもよい。葉茎部に光照射するための光源は、特に制限されず、太陽光、蛍光灯、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、及び、LED等が挙げられる。
1日当たりの光照射時間は、5~24時間が好ましく、8~16時間がより好ましく、10時間~14時間が更に好ましい。
【実施例
【0050】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0051】
[試験例1:比較例1、実施例1]
第2工程を有する植物の生産方法によれば本発明の効果が得られることを確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、サツマイモの苗を以下の栽培条件のもと生長させた。すなわち、水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に、純水10L、液体肥料(ハイポニカ液肥 協和化学株式会社製)のA液8ml、同B液8mlを入れ、サツマイモの苗6株を植え付けた。この際の苗の平均質量は2.0g/本(新鮮重)であった。栽培は、30℃、及び、湿度50%の条件下、雰囲気中のCOの含有率は通常の大気下と同様の条件で実施した。すなわち、COを追加供給しなかった。照明用の光源はLED(昭和電工製 DPT″RB120Q33 40型)を使用し、光合成光量子束密度300μmol/m/sec(R光/B光の比は2/1)として、タイマーを用いて点灯12時間、消灯12時間のサイクルで14日間栽培した。第1工程終了時点での植物(サツマイモ)の平均質量は28.0g/本(新鮮重)であった。なお、この栽培方法について、表1には、「水耕,30℃,50%,LED300μmol」と記載した。
【0052】
第1工程終了時のサツマイモの葉のDCQA含有率は、乾物重の2.73質量%、TCQAは含まれておらず、総CQA含有率は乾物重の3.60質量%、サツマイモ1本あたりの、葉の平均収量は1.26g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例1に示した。
【0053】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに純水10Lを入れ、同じ温湿度、光条件にて更に栽培を14日間継続した。
第2工程終了時のサツマイモの平均質量は31.8g/本(新鮮重)だった。回収したサツマイモ1本あたりの、葉の平均収量は1.35g/本(乾物重)だった。サツマイモの葉のDCQA含有率は乾物重の3.87質量%、TCQA含有率は乾物重の0.25質量%、総CQA含有率は乾物重の6.03質量%と比較例1と比較して大きく向上した。結果は表1の実施例1に示した。なお、上記の栽培方法を表1には、「30℃,50%,LED300μmol」と記載した。
【0054】
試験例1の結果から、第2工程を有する実施例1の生産方法により生産されたサツマイモは本発明の効果を有していることがわかった。一方で、第2工程を有さない、比較例1の生産方法により生産されたサツマイモは、本発明の効果を有さないことがわかった。
【0055】
[試験例2:比較例2、実施例2~7]
第2工程で使用する培養液の成分の違いが、本発明の効果に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、試験例1の第1工程と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。なお、試験例2は、試験例1とは実施した日時が異なる。第1工程終了後のサツマイモの葉中のDCQA含有率は乾物重の2.47質量%、TCQA含有率は乾物重の0.01質量%、総CQA含有率は乾物重の3.15質量%、葉の収量は1.60g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例2に示した。
【0056】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、試験例1の第2工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を14日間継続した(実施例4については13日間継続した)。第2工程終了後のサツマイモの葉中のTCQA含有率等の測定結果を表1の実施例2~7に示した。
なお、各培養液は、水道水を原水として用い、イオン交換樹脂を用いて純水を製造し、上記純水に、Na(OH)・8HO、MnCl・4HO、ZnSO・7HO、CuSO・5HO、NaMoO・2HO、KCl、又は、CaClを適宜溶解させ培養液中の各イオンの含有率が、表2に記載したとおりになるようにした。なお、培養液中の各イオンの含有率は、後述する方法により測定した。
なお、原水として用いた水道水、及び、調製後の培養液中に含まれる各成分について、表2に示した。
【0057】
試験例2の結果から、培養液が第1イオンを含有する実施例3の生産方法により生産されたサツマイモは、実施例2の生産方法により生産されたサツマイモと比較して、葉により多くのDCQA、及び、より多くの総CQA含まれ、また、葉の収量もより多かった。
また、培養液が第2イオンを含有する実施例4の生産方法により生産されたサツマイモは、実施例2の生産方法により生産されたサツマイモと比較して、葉により多くのDCQA、及び、より多くの総CQAが含まれ、また、葉の収量もより多かった。
また、培養液が第1イオン及び第2イオンを含有する実施例5~7の生産方法により生産されたサツマイモは、実施例2の生産方法により生産されたサツマイモと比較して、葉により多くのDCQA、より多くのTCQA、及び、より多くの総CQAが含まれ、また、葉の収量がより多かった。
【0058】
[試験例3:比較例3、実施例8~11]
第2工程で使用する培養液の成分の違いの影響を確認するため、更に植物加工品の製造を実施するため、かつ、乾燥工程の条件が植物加工品のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、試験例1と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。なお、試験例3は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。第1工程終了後のサツマイモの葉中のDCQA含有率は乾物重の2.50質量%、TCQA含有率は乾物重の0.01質量%、総CQA含有率は乾物重の3.36質量%、葉の収量は1.66g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例3に示した。
【0059】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、試験例1の第2工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を14日間継続した(実施例9については、15日間継続した。)。第2工程終了後のサツマイモ葉のTCQA含有率等を、表1の実施例8及び実施例10に示した。
【0060】
(植物加工品の製造)
第2工程終了後のサツマイモの茎の培養液に浸っていない部分(葉茎部であり、「地上部」と同義である)をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例9及び実施例11に示した。
【0061】
試験例3の結果から、実施例9及び実施例11の製造方法により製造した植物加工品は、第2工程において使用した培養液が同一である、実施例8及び10の生産方法により生産されたサツマイモの葉と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がより高かった。
また実施例10の生産方法により生産されたサツマイモ葉、及び実施例11の製造方法により製造した植物加工品は、第2工程において使用した培養液が異なる、実施例8の生産方法により生産されたサツマイモの葉、及び実施例9の製造方法により製造した植物加工品、と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がより高く、また、葉の収量がより多かった。
【0062】
[試験例4:比較例4~6、実施例12~15]
第2工程の有無の影響を確認するため、植物加工品の製造を実施するため、及び、乾燥工程の条件が植物加工品のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、試験例1と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。なお、試験例4は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。第1工程終了後のサツマイモ葉中のDCQA含有率は乾物重の2.82質量%、TCQA含有率は乾物重の0.02質量%、総CQA含有率は乾物重の3.62質量%、葉の収量は1.12g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例4に示した。また、同様にして、第1工程における栽培日数を26日としたものを比較例5に示した。比較例4と同様にして得られたサツマイモをもとに第2工程を実施せずに植物加工品を製造したものを比較例6に示した。
【0063】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、試験例1の第2工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を13日又は14日間継続した。第2工程終了後のサツマイモ葉のTCQA含有率等を、表1の実施例12及び実施例14に示した。
【0064】
(植物加工品の製造)
第2工程終了後のサツマイモの茎の培養液に浸っていない部分(葉茎部、「地上部」と同義である)をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例13及び実施例15に示した。
【0065】
試験例4の結果から、実施例13及び実施例15の製造方法により製造した植物加工品は、第2工程において使用した培養液が同一である実施例12及び14の生産方法により生産されたサツマイモの葉と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がより高かった。
また比較例5の生産法により生産されたサツマイモ葉は、第1工程の栽培日数を増やしたことで比較例4に比べてDCQA、総CQAの含有率がより高くなり、葉の収量も増加しているが、第2工程を含めた栽培日数がほぼ同等の実施例12及び実施例14の生産法により生産されたサツマイモ葉に比べてDCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率はいずれも低く、特にTCQA含有率には大きな差があった。
また比較例6の製造方法により製造された植物加工品は、第2工程を有する実施例13及び実施例15の製造方法により製造された植物加工品に比べて、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率は何れも低かった。
【0066】
[試験例5:実施例16~23]
植物加工品の製造における、乾燥工程の条件が植物加工品のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、試験例1と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。なお、試験例5は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。
【0067】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、第1工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を13日間継続した。
【0068】
(植物加工品の製造)
第2工程終了後のサツマイモの葉茎部をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例16~23に示した。
【0069】
[試験例6:実施例24~30]
植物加工品の製造における、乾燥工程の条件が植物加工品のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、試験例1と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。なお、試験例6は、上記試験例とは実施した日時が異なる。
【0070】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、第1工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を15日間継続した。
【0071】
(植物加工品の製造)
第2工程終了後のサツマイモの葉茎部をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例24~30に示した。
【0072】
[試験例7:実施例31~33]
第1工程及び第2工程における温湿度条件が植物のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
<実施例31>
(第1工程)
第1工程として、サツマイモの苗を以下の栽培条件のもと生長させた。すなわち、水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に、純水10L、液体肥料(ハイポニカ液肥 協和化学株式会社製)のA液8ml、同B液8mlを入れ、サツマイモの苗を植え付けた。照明用の光源として蛍光灯(東芝製植物栽培用蛍光灯:ビオルクスFL40SBR)を使用し、光合成光量子束密度300μmol/m/secとして、点灯12時間、消灯12時間のサイクルで14日間栽培した。
なお、照明点灯時の12時間は温度30℃、湿度70%、照明消灯時の12時間は温度25℃、湿度90%条件とした。上記以外は、上記試験例1と同様の条件で栽培した。
表1には、「水耕,昼:30℃,70%,夜:25℃,90%,蛍光灯300μmol」と記載した。
なお、試験例7は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。
【0073】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに純水10Lを入れ、上記第1工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を15日間継続した。得られたサツマイモの葉のTCQA含有率(乾物重に対する質量%)等の結果は表1の実施例31に示した。なお、上記の栽培方法を表1には、「昼:30℃,70% 夜:25℃,90% 蛍光灯300μmol」と記載した。
【0074】
<実施例32>
(第1工程)
第1工程として、サツマイモの苗を以下の栽培条件のもと生長させた。すなわち、水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に、純水10L、液体肥料(ハイポニカ液肥 協和化学株式会社製)のA液8ml、同B液8mlを入れ、サツマイモの苗を植え付けた。照明用の光源として蛍光灯(東芝製植物栽培用蛍光灯:ビオルクスFL40SBR)を使用し、光合成光量子束密度450μmol/m/secとして、点灯12時間、消灯12時間のサイクルで14日間栽培した。なお、栽培中の温度は35℃、湿度は70%とし、COガスを供給して雰囲気中のCO含有率を1500ppm(体積基準)とした。上記以外は、上記試験例1と同様の条件で栽培した。表1には、「水耕,35℃,50%,蛍光灯450μmol,CO:1500ppm」と記載した。
【0075】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに表1に記載した培養液10Lを入れ、上記と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を15日間継続した。得られたサツマイモの葉のTCQA含有率(乾物重に対する質量%)等の結果は表1の実施例32に示した。なお、上記の栽培方法を表1には、「35℃,50%,蛍光灯450μmol,CO:1500ppm」と記載した。
【0076】
<実施例33>
(植物加工品の製造)
実施例32の第2工程終了後のサツマイモの葉茎部をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例33に示した。
【0077】
[試験例8:比較例7、実施例34、35]
第1工程における栽培方法が植物のCQA含有率に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、以下の栽培条件のもと、サツマイモを栽培した。すなわち、ゴールデン粒状培養土(アイリスオーヤマ社製)を入れたポットにサツマイモ苗を植え付けて、温度30℃、湿度45%の条件下、照明用の光源として蛍光灯(東芝製植物栽培用蛍光灯:ビオルクスFL40SBR)を使用し、光合成光量子束密度70mol/m/secとした以外は試験例1と同様にして栽培した。第1工程終了後のサツマイモの葉のTCQA含有率は乾物重の0.11質量%、総CQA含有率は乾物重の2.47質量%、葉の収量は0.24g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例7に示した。なお、試験例8は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。
【0078】
(第2工程)
第1工程終了後のサツマイモから、所定の生長状態にある部分を定期的に採取し(そのため、表1の第1工程の日数の欄には「継続」と記載した。)、表1に記載した培養液を入れた水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に植えつけた。これを、温度30℃、湿度50%の条件のもと、照明用の光源としてLEDを使用し、光合成光量子束密度300mol/m/secとして試験例1の第2工程と同様の条件で栽培した。
第2工程終了後のサツマイモの葉のTCQA含有率等を、表1の実施例34及び実施例35に示した。
【0079】
[試験例9:比較例8、実施例36、37]
以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
第1工程として、以下の栽培条件のもと、コガネセンガン(サツマイモ一般品種、表1中では、単に「コガネセンガン」と記載した。)を栽培した。すなわち、コガネセンガンの苗を、水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に、純水10L、液体肥料(ハイポニカ液肥 協和化学株式会社製)のA液8ml、同B液8mlを入れ、植え付けた。次に、温度30℃、湿度60%の条件のもと、照明用の光源として蛍光灯(東芝製植物栽培用蛍光灯:ビオルクスFL40SBR)を使用し、光合成光量子束密度140μmol/m/secとした以外は試験例1と同様の条件で栽培した。第1工程終了後のコガネセンガンの葉中のDCQA含有率は乾物重の2.22質量%、TCQA含有率は乾物重の0.02質量%、総CQA含有率は乾物重の2.86質量%、葉の収量は2.11g/本(乾物重)と低かった。結果は表1の比較例8に示した。
なお、上記の栽培方法を表1には、「水耕,30℃,60%,蛍光灯140μmol」と記載した。
【0080】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のコガネセンガンについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに純水10Lを入れ、上記と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を14日間継続した。得られたコガネセンガンの葉中のTCQA含有率等の結果は表1の実施例36に示した。なお、上記の栽培方法を表1には、「30℃,60%,蛍光灯140μmol」と記載した。
【0081】
(植物加工品の製造)
上記第2工程終了後のコガネセンガンの葉茎部をハサミで切断して、葉茎部を表1に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表1に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表1の実施例37に示した。
【0082】
[試験例10:比較例9、実施例38、39]
以下の条件で試験を実施した。
(第1工程)
屋外の一般圃場で、温湿度、光量等の調整は行わずに自然環境下で栽培され、所定の生長状態にあった春菊を調達した。上記春菊中のDCQA含有率は乾物重の0.43質量%、TCQAは含まれておらず、総CQA含有率は乾物重の0.61質量%、葉の収量は0.54g/本と低かった。結果は表1の比較例9に示した。なお、上記栽培方法を表1には、「土耕,屋外圃場」と記載した。
【0083】
(第2工程)
次に、上記春菊を、表1に記載した培養液10Lを入れた水耕栽培器(ホームハイポニカ601 共和株式会社製)に植え付けた。次に、上記春菊を温度23℃、湿度70%の条件のもと、照明用の光源として蛍光灯(東芝製植物栽培用蛍光灯:ビオルクスFL40SBR)を使用し、光合成光量子束密度100μmol/m/secとした以外は試験例1と同様の条件で6日間栽培した。得られた春菊の葉のTCQA含有率(乾物重に対する質量%)等の結果は表1の実施例38及び実施例39に示した。
【0084】
[測定方法]
本実施例において、各成分の測定は以下の方法により実施した。
<培養液中のイオンの含有量>
培養液(及び水道水)に含まれるイオンの含有量は、第1イオン及びFeイオンについてはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によって測定した。ICP発光分光分析の測定条件は以下のとおりである。
スプレーチャンバ:ガスサイクロン
プラズマガス流量:15 L/min
補助ガス流量:0.2 L/min
ネブライザガス流量:1 L/min
繰り返し回数:3回
サンプル遅延時間:30S
【0085】
上記以外のイオンについては、イオンクロマトグラフィーによって測定した。イオンクロマトグラフィーの測定条件は、以下のとおりである。なお、各成分の検量線から、培養液中の各成分の含有量を求めた。
カラム:shodex YS-50
遊離液:4mM HNO
流速:0.8 mL/min
カラム温度:40℃
【0086】
<植物及び植物加工品中のCQAの含有率>
植物及び植物加工品中に含まれるCQAは、以下の方法で植物及び植物加工品から測定用の抽出液を得て、上記抽出液をHPLC(high performance liquid chromatography)測定して求めた。
【0087】
(抽出方法)
得られた植物又は植物加工品の葉及び葉柄をハサミで切断して、葉及び葉柄部を更にハサミで裁断し、真空乾燥器中、80℃条件で8時間乾燥処理して、葉の乾燥物(乾燥葉)を得た。その後、真空乾燥して得られた乾燥葉を手でもみほぐして粉砕し乾燥葉の粉末を得た。次に乾燥葉の粉末50mgを精秤し、EtOH/水=80/20vol比の混合溶媒2.5mlを加えて、80℃で1時間、加熱抽出して粗抽出液を得た。得られた粗抽出液にEtOH/水=80/20vol比の混合溶媒7.5mlを加え、フィルター濾過して抽出液を得た。
【0088】
(測定方法)
上記抽出液を検体とし、下記の条件でHPLC測定した。検量線からCQA(DCQA、TCQA、及び、総CQA)の含有率を算出した。
カラム:東ソー製TSK gel ODS 100V
流速:0.3 mL/min、
展開溶媒:A液:0.1% HPOO、B液:0.1% HPO MeCNを使用し、B液濃度10% (0 min)から40% (15 min)のグラジエント溶出とした。
カラム温度:40℃、
検出:UV(ultraviolet)検出器 (330 nm)
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
なお、表1は、表1(その1)-1~表1(その1)-3、及び、表1(その2)-1~表1(その2)-3に分割され、それぞれの実施例に係る栽培条件及び結果は上記分割された各表の対応する各行にわたって記載されている。
例えば、試験例1の実施例1であれば、結果は表1(その1)-1~表1(その1)-3にわたって記載されている。すなわち、実施例1では植物としてサツマイモを用い、第1工程の栽培条件が、「水耕,30℃,50%,LED300μmol」であり、日数が14日間、第2工程で使用した培養液は純水で、栽培条件は、「30℃,50%,LED300μmol」であり、日数が14日間であり、乾燥工程は実施せず、結果として葉に含まれるDCQAは葉の乾物重に対して3.87質量%、TCQAは0.25質量%、総CQAは6.03質量%であり、葉の収量が植物1本につき乾物重で1.35gだったことを表わしている。その他の実施例及び比較例についても上記と同様である。
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
表2には、水道水及び各培養液の成分を記載した。各培養液(及び水道水)の成分は、表2(その1)~表2(その3)の各行にわたって記載されている。すなわち、純水であれば、リン酸イオン、硝酸イオン、NH 、及び、Feイオンは、いずれも定量下限値未満であり、Naの含有率が0.1質量ppmであり、第1イオンとして、Bイオン、Mnイオン、Znイオン、Cuイオン、及び、Moイオンはいずれも定量下限値未満であり、第2イオンとして、Clは定量下限値未満であり、SO 2-が0.1質量ppmであり、Kが0.1質量ppmであり、Mg2+が定量下限値未満であり、Ca2+が0.1質量ppmだったことを表わしている。上記以外の培養液等についても同様である。なお、表中、「<(数値)」とあるのは、その測定方法において、定量下限値未満であったことを表す。また、表2中の各数値は、培養液の全質量に対する各成分の質量ppmを表す。
【0100】
[試験例11及び12:比較例10、実施例40~47]
第2工程で使用する培養液の成分の違いが本発明の効果に与える影響を確認するために、以下の条件で試験を実施した。なお、TCQA等の測定方法は既に説明したとおりである。また、試験例11及び12は、上記各試験例とは実施した日時が異なる。
【0101】
(第1工程)
実施例1に係る第1工程として説明した栽培方法における、栽培温度を30℃から25℃に変更し、栽培期間を14日から15日に変更したこと以外は試験例1の第1工程と同様の栽培条件でサツマイモ苗を生長させた。第1工程終了後のサツマイモの葉中のDCQA含有率は乾物重の2.10質量%、TCQA含有率は乾物重の0.01質量%、総CQA含有率は乾物重の2.82質量%、葉の収量は1.46g/本(乾物重)と低かった。結果は表3の比較例10に示した。
【0102】
(第2工程)
次に、上記第1工程終了後のサツマイモについて、水耕栽培器内の液体肥料を全量廃棄し、代わりに、表1の培養液欄に記載した培養液を入れ、第1工程と同じ温湿度、光条件にて更に栽培を14日間継続した。第2工程終了後のサツマイモの葉中のTCQA含有率等の測定結果を表1の実施例40~43に示した。
なお、各培養液は、既に説明した方法により調整したもので、各成分が、表4に記載したとおりになるようにした。なお、培養液中の各イオンの含有率の測定方法は既に説明したとおりである。また、原水として用いた水道水は表2に記載したとおりである。
【0103】
試験例11の結果から、培養液が2種以上の第1イオンを含有し、第1イオンのそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して、1.0質量ppm以下である実施例41の生産方法により生産されたサツマイモは、実施例42の生産方法により生産されたサツマイモと比較して、葉により多くのDCQA、より多くのTCQA、及び、より多くの総CQA含まれ、また、葉の収量もより多かった。
また、試験例11の結果から、培養液が2種以上の第2イオン(ここでは、Cl、SO 2-、K、及び、Ca2+)を含有し、このうちCl、K、及び、Ca2+のそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して1.0~300質量ppmである実施例41の生産方法により生産されたサツマイモは、実施例43の生産方法により生産されたサツマイモと比較して、葉により多くのDCQA、より多くのTCQA、及び、より多くの総CQA含まれ、また、葉の収量もより多かった。
【0104】
(植物加工品の製造)
第2工程終了後のサツマイモの茎の培養液に浸っていない部分(葉茎部であり、「地上部」と同義である)をハサミで切断して、葉茎部を表3に記載した温度、及び、湿度に調整した恒温器に載置して、表3に記載した期間乾燥させて植物加工品を製造した。製造した植物加工品のTCQA含有率等を表3の実施例44~47に示した。
【0105】
試験例12の結果から、実施例44~47の製造方法により製造した植物加工品は、第2工程において使用した培養液が同一である、実施例40~43の生産方法により生産されたサツマイモの葉と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がそれぞれより高かった。
また、第2工程における培養液が第1イオンを含有する実施例47の製造方法により製造した植物加工品は、実施例44の植物加工品と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がそれぞれより高かった。
また、第2工程における培養液が、2種以上の第2イオン(ここでは、Cl、SO 2-、K、及び、Ca2+)を含有し、このうちCl、K、及び、Ca2+のそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して1.0~300質量ppmである実施例45の製造方法により製造した植物加工品は、実施例47の植物加工品と比較してDCQA、及び、総CQAの含有率がそれぞれより高かった。
また、第2工程における培養液が第1イオンを含有し、それぞれの含有率が1.0質量ppm以下であり、かつ、培養液が2種以上の第2イオン(ここでは、Cl、SO 2-、K、及び、Ca2+)を含有し、このうちCl、K、及び、Ca2+のそれぞれの含有率が、培養液の全質量に対して1.0~300質量ppmである、実施例45の製造方法により製造した植物加工品は実施例46の製造方法により製造した植物加工品と比較して、DCQA、TCQA、及び、総CQAの含有率がそれぞれより高かった。
【0106】
【表10】
【0107】
【表11】
【0108】
【表12】
【0109】
なお、表3は、表3-1~表3-3に分割され、それぞれの実施例に係る栽培条件及び結果は上記分割された各表の対応する各行にわたって記載されている。
より具体的には、試験例11の実施例40であれば、植物としてサツマイモを用い、第1工程の栽培条件が、「水耕,25℃,50%,LED300μmol」であり、日数が15日間、第2工程で使用した培養液は純水で、栽培条件は、「25℃,50%,LED300μmol」であり、日数が14日間であり、乾燥工程は実施せず、結果として葉に含まれるDCQAは葉の乾物重に対して3.65質量%、TCQAは0.14質量%、総CQAは5.46質量%であり、葉の収量が植物1本につき乾物重で2.21gだったことを表わしている。その他の実施例及び比較例についても上記と同様である。
【0110】
【表13】
【0111】
【表14】
【0112】
【表15】
【0113】
表4には、各培養液の成分を記載した。各培養液の成分は、表4(その1)~表4(その3)の各行にわたって記載されている。すなわち、純水であれば、リン酸イオン、硝酸イオン、NH 、及び、Feイオンは、いずれも定量下限値未満であり、Naの含有率が0.1質量ppmであり、第1イオンとして、Bイオン、Mnイオン、Znイオン、Cuイオン、及び、Moイオンはいずれも定量下限値未満であり、第2イオンとして、Clは定量下限値未満であり、SO 2-が0.1質量ppmであり、Kが0.1質量ppmであり、Mg2+が定量下限値未満であり、Ca2+が0.1質量ppmだったことを表わしている。上記以外の培養液等についても同様である。なお、表中、「<(数値)」とあるのは、その測定方法において、定量下限値未満であったことを表す。また、表4中の各数値は、培養液の全質量に対する各成分の質量ppmを表す。