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特許7086202生体物質非接着性材料、組成物および化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】生体物質非接着性材料、組成物および化合物
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20220610BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20220610BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220610BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220610BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20220610BHJP
   C07C 233/18 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L31/10
A61L31/14
C12M3/04 Z
C07C233/18 CSP
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020548381
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035630
(87)【国際公開番号】W WO2020066608
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2018181808
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】滋野井 悠太
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-251532(JP,A)
【文献】特開2013-054079(JP,A)
【文献】特開2010-280751(JP,A)
【文献】特開2005-307198(JP,A)
【文献】特開平05-009221(JP,A)
【文献】特開昭60-190424(JP,A)
【文献】特開2017-057350(JP,A)
【文献】特表2011-513566(JP,A)
【文献】特表2016-508776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
C12M 3/04
C07C 233/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーを含み、医療器具のコーティング用途または細胞培養容器のコーティング用途に用いるための、生体物質非接着性材料。
【化1】
式(1)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、R32は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR32は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、R33は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR33は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、mは3~8の整数を表す。
【請求項2】
前記R33がエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項1に記載の生体物質非接着性材料。
【請求項3】
前記式(1)で表されるモノマーが式(2)で表されるモノマーである、請求項1または2に記載の生体物質非接着性材料。
【化2】
式(2)中の各記号の意味は、式(1)中の同一の記号と同じである。
【請求項4】
前記R31が水素原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体物質非接着性材料。
【請求項5】
式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーを含む生体物質非接着性材料。
【化3】
式(1)中、R 31 は水素原子またはメチル基を表し、複数のR 31 は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、R 32 はトリメチレン基を表し、R 33 は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR 33 は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、mは3~8の整数を表す。
【請求項6】
前記mが3または4である、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体物質非接着性材料。
【請求項7】
前記生体物質非接着性材料における生体物質が細胞およびタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の生体物質非接着性材料。
【請求項8】
式(1)で表されるモノマーと、溶媒とを含み、医療器具のコーティング用途または細胞培養容器のコーティング用途に用いるための生体物質非接着性材料を形成するための組成物。
【化4】
式(1)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、R32は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR32は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、R33は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR33は互いに同じであってもよいし異なっていてもよく、mは3~8の整数を表す。
【請求項9】
式(3)で表わされる化合物。
【化5】
式(3)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、mは3~5の整数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質非接着性材料、組成物および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、および、注射器等の多くの医療器具は、一般的に、その外表面に各種コーティング(塗膜)が施されている。このようなコーティングが施されることにより、医療器具を体内に容易に挿入できる、または、体内からの体液のドレナージを容易に行うことができる、等の効果が得られる。
【0003】
例えば、特許文献1においては、アクリルアミド系官能基を多数有する多官能重合性化合物を含む親水性コーティング配合物が開示されており、良好な耐摩耗性を有する強固で均一なコーティングを提供できる旨が述べられている。なお、特許文献1の実施例欄においては、多官能重合性化合物(PEG(polyethylene glycol)1500ジアクリルアミド)が具体的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2011-513566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記のような各種医療器具に施される塗膜(コーティング)においては、特許文献1に記載されるような耐摩耗性以外に、様々な特性が求められる。
例えば、細胞の非接着性および基材密着性が求められる。
【0006】
しかし、特許文献1に記載された耐摩耗性コーティングは、後述する比較例5によって示されるとおり、細胞の非接着性および基材密着性のいずれにも改善の余地が認められた。
【0007】
そこで、本発明は、細胞の非接着性および基材密着性のいずれにも優れた生体物質非接着性材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、組成物および化合物を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、後述する式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーを含む生体物質非接着性材料は、細胞の非接着性および基材密着性のいずれにも優れることを知得し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[10]である。
[1] 後述する式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーを含む生体物質非接着性材料。
[2] 上記R33がエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種である、上記[1]に記載の生体物質非接着性材料。
[3] 上記式(1)で表されるモノマーが後述する式(2)で表されるモノマーである、上記[1]または[2]に記載の生体物質非接着性材料。
[4] 上記R31が水素原子である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の生体物質非接着性材料。
[5] 上記R32がトリメチレン基である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の生体物質非接着性材料。
[6] 上記mが3または4である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の生体物質非接着性材料。
[7] 上記生体物質非接着性材料における生体物質が細胞およびタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の生体物質非接着性材料。
[8] 医療器具のコーティング用途または細胞培養容器のコーティング用途に用いられる、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の生体物質非接着性材料。
[9] 式(1)で表されるモノマーと、溶媒とを含む、生体物質非接着性材料を形成するための組成物。
[10] 式(3)で表わされる化合物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞の非接着性および基材密着性のいずれにも優れた生体物質非接着性材料を提供できる。
また、本発明によれば、組成物および化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される範囲には、「~」の両端を含むものとする。例えば、「A~B」と表される範囲には、AおよびBを含む。
【0012】
本明細書において、固形分とは、溶媒成分を除いた組成物に含まれる成分を意図し、その性状が液状であっても固形分として計算する。
【0013】
本明細書において「生体物質」とは、生体を構成する物質および生体に関与する物質を広く包含する意味である。例えば、タンパク質、細胞、細胞が集まった組織、ペプチド、ビタミン、ホルモン、血球、抗原、抗体、細菌、およびウイルス等を含む意味である。
また、本明細書において、「生体物質非接着性」とは、全く付着しないことはもとより、付着が見られても、適用の前後で付着性に改善(付着量の減少)が見られればよいことを意味する。したがって、付着の防止のみならず、付着の抑制も概念として含む意味である。
【0014】
本発明が作用効果を奏する推定メカニズムについて説明する。
生体物質の接着は、部材表面に吸着された生体組織液中のタンパク質を介して行われている。また、吸着によってタンパク質の構造が変化し、各種細胞が足場として認識しうる細胞接着部位が露出することによって細胞の接着が可能となることが知られている。本発明の特性が得られる理由としては、硬化膜中の式(1)で表される化合物に由来する構造が親水的であることにより、タンパク質が表面に吸着することを抑制しているためと考えている。また、一般的に多官能モノマーは硬化収縮を起こし、クラックが発生し易いため、医療器具や細胞培養容器のように屈曲部のある構造体へのコートには適さないことが多いが、式(1)で表される化合物に由来する適切な長さのアルキレンオキシ基のおかげで、膜が適度に柔軟になりクラックの発生を抑制できたと考えられる。そのため、膜の均一性が高まり、水の浸入を抑制でき、基材密着性(耐水性)が向上したと考えられる。
【0015】
[化合物]
本発明は式(3)で表される化合物を提供する。
【0016】
〈式(3)で表される化合物〉
【0017】
【化1】
【0018】
式(3)中、各記号の意味は以下のとおりである。
31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R31は水素原子であることが好ましい。
mは3~5の整数を表し、3または4であることが好ましい。
【0019】
式(3)で表される化合物の具体例を例示するが、これらに制限されるものではない。
【0020】
【化2】
【0021】
〈式(3)で表される化合物の合成方法〉
式(3)で表わされる化合物の合成方法は、特に制限されるものではないが、例えば、以下のScheme1またはScheme2に従って合成することができる。
【0022】
【化3】
【0023】
なお、Scheme1およびScheme2中、mは3~5の整数を表し、R31は水素原子またはメチル基を表す。
【0024】
[組成物]
また、本発明は、式(1)で表されるモノマーと、溶媒とを含む、生体物質非接着性材料を形成するための組成物(以下「本発明の組成物」という場合がある。)を提供する。生体物質非接着性材料については後述する。
【0025】
〈式(1)で表されるモノマー〉
本発明の組成物が含む式(1)で表されるモノマーについて説明する。
【0026】
【化4】
【0027】
式(1)中、各記号の意味は以下のとおりである。
31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R31は水素原子であることが好ましい。
【0028】
32は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR32は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R32は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、エチレン基またはトリメチレン基であることがより好ましく、トリメチレン基であることがさらに好ましい。
【0029】
33は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR33は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R33は、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、エチレン基またはトリメチレン基であることがより好ましく、エチレン基であることがさらに好ましい。
【0030】
mは3~8の整数を表し、3~5の整数であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。
【0031】
式(1)で表されるモノマーとしては、式(2)で表されるモノマーが好ましい。
【0032】
【化5】
【0033】
式(2)中、各記号の意味は、式(1)中の同一の記号と同じである。
【0034】
式(1)で表されるモノマーの具体例を例示するが、これらに制限されるものではない。
【0035】
【化6】
【0036】
〈式(1)で表されるモノマーの含有量》
本発明の組成物において、式(1)で表されるモノマーの含有量は、特に制限されないが、本発明の組成物の固形分中、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがいっそう好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられ、99質量%以下の場合が多い。
【0037】
〈溶媒〉
本発明の組成物が含む溶媒について説明する。
本発明の組成物が含む溶媒は、特に制限されないが、例えば、水、有機溶剤(例えば、酢酸エチルおよび酢酸n-ブチル等のエステル類;トルエンおよびベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサンおよびn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;メタノールおよびブタノール等のアルコール類等)、およびこれらの混合溶剤が挙げられる。
なかでも、塗工時の面状ムラが起きにくい観点から、メタノールおよびエタノール等のアルコール溶剤が好ましい。
【0038】
溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物中の溶媒の含有量(複数種存在する場合はその合計)は、特に制限されないが、本発明の組成物の全質量に対して、10質量%~95質量%であることが好ましく、30質量%~90質量%であることがより好ましく、50質量%~80質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
〈式(1)で表されるモノマーおよび溶媒以外の成分〉
本発明の組成物は、式(1)で表されるモノマーおよび溶媒以外の成分を含んでもよい。
このような成分としては、式(1)で表されるモノマー以外のモノマー、重合開始剤、およびその他の添加剤が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0040】
《式(1)で表されるモノマー以外のモノマー》
本発明の組成物は、式(1)で表されるモノマーに加えて、さらに、式(1)で表されるモノマー以外のモノマーを含んでもよい。
【0041】
式(1)で表されるモノマー以外のモノマーは、特に制限されないが、市販の単官能モノマー、多官能モノマー、および後述するベタインモノマーからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、ベタインモノマーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
本発明の組成物が式(1)で表されるモノマー以外のモノマーを含む場合の、式(1)で表されるモノマー以外のモノマーの含有量は、特に制限されないが、本発明の組成物の固形分中、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがいっそう好ましい。下限は特に制限されないが、0質量%が挙げられる。
【0043】
(共重合可能なモノマー)
本発明の組成物は、基材密着性がより向上する点で、式(1)で表されるモノマーと共重合可能なモノマー(以後、単に「共重合可能なモノマー」ともいう)を含んでいてもよい。
上記共重合可能なモノマーとしては特に制限されず、エチレン性不飽和基を有するモノマーが挙げられ、例えば、(メタ)アクリレート系モノマー;(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸、クロトン酸およびイタコン酸等の、カルボキシル基を含むエチレン性不飽和基を有するモノマー(カルボン酸基含有モノマー);ベタイン構造を有するモノマー等が挙げられる。なお、エチレン性不飽和基を有するモノマーにおけるエチレン性不飽和結合の分子内の数は特に制限されないが、1~8個が好ましく、1~4個がより好ましく、1または2個がさらに好ましい。
上記共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー、または、ベタイン構造を有するモノマー等が好ましい。
【0044】
・(メタ)アクリレート系モノマー
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ1,3-プロピレンジオールジアクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルスルホキシド、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ウレタンジメタクリレート、およびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
・(メタ)アクリルアミド系モノマー
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、および以下に示す式(A-1)~(A-4)で表される多官能(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0046】
【化7】
【0047】
・ベタインモノマー
ベタインモノマーとしては特に制限されず、例えば、スルホベタイン構造、ホスホベタイン構造、およびカルボキシベタイン構造等のベタイン構造を含むモノマーが挙げられる。また、発明の組成物が含み得るベタインモノマーの骨格は特に制限されないが、アクリレート系モノマー、またはアクリルアミド系モノマーが好ましい。ベタインモノマーとしては、例えば、国際公開2017/018146号公報等に記載されたものが挙げられる。
上記ベタインモノマーとしては、なかでも、生体適合性がより優れる点で、下記式(C)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【化8】
【0049】
式(C)中、R30は、水素原子、またはアルキル基を表す。
30で表されるアルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、および環状のいずれであってもよい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、およびシクロへキシル基等が挙げられる。
アルキル基は、置換基を有していてもよい。
30としては、なかでも、水素原子、または炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
30は、酸素原子、またはNR-を表す。
は、水素原子、またはアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基としては、上述したR30で表されるアルキル基と同義であり、好適態様も同じである。Rとしては、なかでも、水素原子が好ましい。
31は、下記式(I)で表される1価の基、下記式(II)で表される1価の基、または下記式(III)で表される1価の基を表す。
【0050】
【化9】
【0051】
式(I)中、L31およびL32は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
31およびL32としては特に制限されないが、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基(直鎖状、分岐鎖状、および環状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。)が好ましい。上記アルキレン基の炭素数は、なかでも、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、2~4が特に好ましい。
【0052】
32およびR33は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。
32およびR33で表されるアルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、および環状のいずれであってもよい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびi-プロピル基が挙げられる。
アルキル基は、置換基を有していてもよい。アルキル基が有し得る置換基としては特に制限されない。
*は結合位置を表す。
【0053】
式(II)中、L33およびL34は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
33およびL34で表される2価の連結基としては、上述した式(I)中のL31およびL32で表される2価の連結基と同義であり、好適態様も同じである。
34~R36は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。
34~R36で表されるアルキル基としては、上述した式(I)中のR32およびR33で表されるアルキル基と同義であり、好適態様も同じである。
*は結合位置を表す。
【0054】
式(III)中、L35およびL36は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
35およびL36で表される2価の連結基としては、上述した式(I)中のL31およびL32で表される2価の連結基と同義であり、好適態様も同じである。
37およびR38は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。
37およびR38で表されるアルキル基としては、上述した式(I)中のR32およびR33で表されるアルキル基と同義であり、好適態様も同じである。
*は結合位置を表す。
【0055】
式(C)中のR31としては、なかでも、生体適合性がより優れる点で、式(I)で表される基、または式(II)で表される基が好ましい。
【0056】
上記ベタインモノマーは、公知の方法により合成できる。
【0057】
以下に、ベタインモノマーの具体例を例示するが、本発明はこれに制限されない。
【0058】
【化10】
【0059】
《重合開始剤》
重合開始剤(以下「開始剤」という場合がある。)は特に制限されないが、熱重合開始剤または光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、例えば、アルキンフェノン系光重合開始剤、メトキシケトン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、ヒドロキシケトン系光重合開始剤(例えば、Omnirad(登録商標)184;1,2-α-ヒドロキシアルキルフェノン)、アミノケトン系光重合開始剤(例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン(Omnirad(登録商標)907))、オキシム系光重合開始剤、およびオキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤(Omnirad(登録商標)754)等が挙げられる。
その他の開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤(例えば、V-50、V-601)、過硫酸塩系重合開始剤、過硫酸物系重合開始剤、およびレドックス系重合開始剤等が挙げられる。
【0060】
重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物が重合開始剤を含む場合の組成物中の重合開始剤の含有量(複数種存在する場合はその合計)は、特に制限されないが、固形分に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
《その他の添加剤》
その他の添加剤としては、例えば、重合禁止剤、バインダ樹脂、多官能アミン、多官能チオール、界面活性剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機または有機の充填剤、および金属粉等が挙げられる。
バインダ樹脂としては特に制限されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、およびキトサン系樹脂等が挙げられる。
【0062】
[生体物質非接着性材料]
本発明の生体物質非接着性材料は、式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーを含む。
【0063】
〈式(1)で表されるモノマー〉
【0064】
【化11】
【0065】
式(1)中、各記号の意味は以下のとおりである。
31は水素原子またはメチル基を表し、複数のR31は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R31は水素原子であることが好ましい。
【0066】
32は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR32は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R32は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、エチレン基またはトリメチレン基であることがより好ましく、トリメチレン基であることがさらに好ましい。
【0067】
33は直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、複数のR33は互いに同じであってもよいし異なっていてもよい。R33は、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、プロピリデン基、およびイソプロピリデン基からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、エチレン基またはトリメチレン基であることがより好ましく、エチレン基であることがさらに好ましい。
【0068】
mは3~8の整数を表し、3~5の整数であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。
【0069】
式(1)で表されるモノマーとしては、式(2)で表されるモノマーが好ましい。
【0070】
【化12】
【0071】
式(2)中、各記号の意味は、式(1)中の同一の記号と同じである。
【0072】
式(1)で表されるモノマーの具体例を例示するが、これらに制限されるものではない。
【0073】
【化13】
【0074】
〈ポリマー中における式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位の含有量〉
本発明の生体物質非接着性材料において、ポリマー中における式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位の含有量は、特に制限されないが、ポリマー中の全繰り返し単位に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがいっそう好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0075】
〈生体物質非接着性材料中のポリマーの含有量〉
本発明の生体物質非接着性材料において、式(1)で表されるモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーの含有量は、特に制限されないが、本発明の生体物質非接着性材料の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがいっそう好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0076】
〈生体物質非接着性材料の製造方法〉
本発明の生体物質非接着性材料を製造する方法は、特に制限されない。
例えば、上述した本発明の組成物を用いる方法が挙げられる。一例として、膜状の生体物質非接着性材料を製造する際には、本発明の組成物を、医療器具または細胞培養容器の表面に配置して、表面に硬化膜前駆体膜を形成し、これを硬化させて硬化膜である生体物質非接着性材料を形成する方法が挙げられる。
【0077】
〈生体物質非接着性材料の形態〉
本発明の生体物質非接着性材料の形態は特に制限されないが、膜状の場合が多い。
【0078】
本発明の組成物を基材表面に配置する方法は、特に制限されないが、バーコーター、スピンコーティング、ディッピング、またはペインティング等による方法が挙げられる。
基材表面は、本発明の組成物を配置する前に、プラズマ処理およびオゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。また、医療器具の表面は、コーティングされていてもよい。
本発明の硬化物(硬化膜)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、上述した本発明の組成物を基材上に塗布し、その後、加熱または光照射(光としては、例えば、紫外線、可視光線およびX線等が挙げられる。)することで硬化させる方法が挙げられる。
【0079】
基材の材質としては特に制限されず、例えば、金属材料、セラミック材料、およびプラスチック材料等が挙げられる。
上記プラスチック材料の種類としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、ポリアミド、シクロオレフィン、ナイロン、およびポリエーテルサルフォン等が挙げられる。
また、金属材料の種類としては、金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、アマルガム合金、銀パラジウム合金、金銀パラジウム合金、チタン、ニッケルチタン合金、および白金等が挙げられる。
また、セラミック材料の種類としては、ハイドロキシアパタイト等が挙げられる。
なお、基材の形状は特に制限されず、板状であっても、立体形状であってもよい。
【0080】
本発明の組成物を塗布する方法は特に制限されないが、例えば、浸漬、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、スピンコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、およびリップコート、並びに、ダイコーター等による押出しコート法等の方法が挙げられる。
【0081】
加熱する方法は特に制限されず、例えば、送風乾燥機、オーブン、赤外線乾燥機、および加熱ドラム等を用いる方法が挙げられる。
加熱の温度は特に制限されないが、30℃~150℃が好ましく、40℃~120℃がより好ましい。
加熱の時間は特に制限されないが、通常、1分間~6時間である。塗布装置中で乾燥する場合には1分間~20分間であり、また、塗布後の加熱(例えば、巻き取り形態での加熱)の際の加熱温度は、室温~50℃が好ましい。
【0082】
光照射する方法としては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、Deep-UV(ultraviolet)光、LED(light emitting diode)ランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、およびカーボンアーク灯等による方法が挙げられる。光照射のエネルギーは特に制限されないが、0.1J/cm~10J/cmが好ましい。
硬化膜の厚みは、特に制限されないが、0.05μm~500μmであることが好ましく、0.1μm~100μmであることがより好ましく、1μm~50μmであることがさらに好ましい。
【0083】
[用途]
本発明の生体物質非接着性材料の用途は特に制限されないが、医療器具のコーティング用途または細胞培養容器のコーティング用途に用いられることが好ましい。
本発明の生体物質非接着性材料を適用する医療器具は特に制限されないが、例えば、人工血管、血液透析膜、カテーテル、血液フィルター、血液保存パック、人工臓器、血栓回収デバイス、義歯、および、義歯床等が挙げられる。
本発明の生体物質非接着性材料を適用する細胞培養容器は特に制限されないが、例えば、細胞培養マイクロプレート、細胞培養ディッシュ、細胞培養チューブ、および、細胞培養フラスコ等が挙げられる。
また、生体物質非接着性材料における生体物質は、細胞およびタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【実施例
【0084】
以下では、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0085】
[合成例1]
〈モノマー(1-1)の合成〉
モノマー(1-1)は、Kimuraら(Polyacrylamide pseudo crown ethers via hydrogen bond-assisted cyclopolymerization, Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, 2016, October 15, 54(20): 3294-3302)の方法に従って合成した。
【0086】
[合成例2]
〈モノマー(2-1)の合成〉
トリエチレングリコール(11.4g、76.0mmol)と、アクリロニトリル(20.3g、382mmol)と、触媒としての水酸化カリウム(35mg、0.62mmol)とを混合して反応溶液を得た。得られた反応溶液を40℃で24時間撹拌した。撹拌後の反応溶液に酢酸エチル(50mL)を加えた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチルのみ)に供することで精製し、中間体(M1-1)(19.4g、収率99%)を得た。
【0087】
約0.9mol/L ボラン-テトラヒドロフランコンプレックス(400mL、360mmol)を加熱還流させたところへ、中間体(M1-1)(18.5g、72.2mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に希釈した溶液を滴下した。滴下終了後、反応溶液を還流下で5時間撹拌した。反応溶液を0℃まで降温した後、メタノール(125mL)および濃塩酸(6mL)加え、反応をクエンチした。反応溶液をセライトろ過し、得られたろ液を濃縮乾固することで、中間体(M2-1)(25.9g)を得た。得られた粗体は精製せずに次の反応に用いた。
【0088】
上記反応で得られた粗生成物の中間体(M2-1)(25.9g、理論最大含量は72.2mmol)と、アセトニトリル(40mL)と、水(80mL)と、炭酸水素ナトリウム(29.1g、347mmol)と、4-ヒドロキシTEMPO(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)(10mg、6μmol)とを混合し、0℃に降温した。この反応溶液へ3-クロロプロピオニルクロリド(22.0g、172mmol)を滴下した。反応溶液を30℃まで昇温し、30分間撹拌した。
【0089】
反応溶液を静置後、水層を除去し、有機層を得た。この有機層を10℃まで降温し、5mol/Lに調整した水酸化ナトリウム水溶液(60mL)を加え、40℃に昇温した後、2時間撹拌した。反応溶液を静置後、水層を除去し、有機層に塩酸を加え、pH9~10に調整した。得られた有機層に4-ヒドロキシTEMPO(10mg、6μmol)を加え、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチルのみ~酢酸エチル/メタノール=7:3)に供することで精製し、モノマー(2-1)(10.1g、収率38%)を得た。得られたモノマー(2-1)について、H NMR(Nuclear Magnetic Resonance)により、目的物であることを確認した。
【0090】
H NMR(DMSO-d,400MHz) δ:1.65(4H,m),3.16(4H,q),3.40(4H,t),3.43-3.54(12H,m),5.56(2H,dd),6.02-6.24(4H,m),8.05(2H,s).
【0091】
【化14】
【0092】
[合成例3]
〈モノマー(2-2)の合成〉
モノマー(2-2)の合成は下記のルートに従い、モノマー(2-1)と同様に合成した。得られたモノマー(2-2)について、H NMRにより、目的物であることを確認した。
【0093】
H NMR(DMSO-d,400MHz) δ:1.66(4H,m),3.17(4H,q),3.41(4H,t),3.45-3.53(16H,m),5.56(2H,dd),6.02-6.24(4H,m),8.05(2H,s).
【0094】
【化15】
【0095】
[合成例4]
〈モノマー(2-7)の合成〉
合成例1で得られた中間体(M2-1)(5g、18.9mmol)と、テトラヒドフラン(60mL)と、メタクリロイルクロリド(4.35g、41.6mmol)とを混合し、0℃に降温した。この反応溶液に、トリエチルアミン(4.40g、43.5mmol)を滴下した後、室温まで昇温し、3時間撹拌した。反応溶液に水を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過してろ液を回収して、ろ液を減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチルのみ~酢酸エチル/メタノール=7:3)に供することで精製して、モノマー(2-7)(3.7g、収率49%)を得た。得られたモノマー(2-7)について、H NMRにより、目的物であることを確認した。
【0096】
【化16】
【0097】
[実施例1~8、比較例1~6]
〈硬化性組成物の調製〉
表1に示す各成分を溶剤(メタノール)に溶解させ、固形分濃度が20質量%の硬化性組成物(実施例1~8、比較例1~6)を調製した。なお、硬化性組成物において、固形分とは、溶剤以外の全ての成分を意味する。
【0098】
実施例および比較例で用いた化合物(モノマー)は以下のとおりである。
モノマー(1-1) 合成例1で合成したもの
モノマー(2-1) 合成例2で合成したもの
モノマー(2-2) 合成例3で合成したもの
モノマー(2-7) 合成例4で合成したもの
【0099】
モノマー(A) 式(A)で表される化合物(東京化成工業社製)
【0100】
【化17】
【0101】
モノマー(B) 式(B)で表される化合物(合成方法は後述する)
【0102】
【化18】
【0103】
モノマー(C) 式(C)で表される化合物(合成方法は後述する)
【0104】
【化19】
【0105】
モノマー(B)およびモノマー(C)は、いずれも、ペンタエリレングリコール、ヘキサエチレングリコールを原料に用い、Mabuchiら(Improvement of solid material for affinity resins by application of long PEG spacers to capture the whole target complex of FK506, Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2015, July 15, 25(14): 2788-2792)の方法を参考に合成したものである。
【0106】
モノマー(D) 式(D)で表される化合物
【0107】
【化20】
【0108】
モノマー(D)は、特開2017-57350号公報に記載の方法に準じて合成したものである。
【0109】
モノマー(E) 式(E)で表される化合物
【0110】
【化21】
【0111】
モノマー(E)は、特表2011-513566号公報の段落0080に記載の方法に準じて合成したものである。なお、上記モノマー(E)中のnは、約33であった。
【0112】
MPC 2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン(東京化成工業社製)
【0113】
SB 下記式で表されるスルホベタインモノマー
【0114】
【化22】
【0115】
実施例および比較例で用いたSBは、国際公開番号WO2016/067795号を参考に合成したものである。
【0116】
実施例および比較例で用いた重合開始剤は以下のとおりである。
Omnirad(登録商標)2959(IGMレジンズ社製)
【0117】
〈細胞付着性の評価〉
ポリスチレン製96ウェルマイクロプレート(Evergreen Scientific社製)のウェル面に、プラズマ処理装置(IP-200,泉工業社製)を用いて、酸素プラズマ(130V,120s)による表面処理を施した。
表面処理を施したポリスチレン製96ウェルマイクロプレートの表面に、上記で調製した硬化性組成物を塗布し、乾燥させて硬化膜前駆体膜を形成した。
その後、紫外線露光機(ECS-401G,アイグラフィック社製;光源は高圧水銀ランプ)を用いて、2J/cmの露光量となるように硬化膜前駆体膜を露光し、硬化させて、細胞付着性評価用サンプルを作製した。
マウス由来繊維芽細胞(3T3)を用いて、作製した細胞付着性評価用サンプル1で細胞付着性を評価した。
細胞付着性評価用サンプルを用い、ダルベッコ改変イーグル培地に、播種密度1.0×10個/cmになるよう分散させ、COインキュベーターを使用して、5%CO存在下、37℃で72時間培養した。
その後、細胞付着性評価用サンプルを取り出し、位相差顕微鏡(倒立型リサーチ顕微鏡,オリンパス社製)を用いて細胞が付着しているか否かを確認した。拡大倍率は4倍とした。
この作業を細胞付着性評価用サンプルの96ウェル中20ウェルに対して実施し、細胞が付着していたウェルの個数により、以下の評価基準に従って細胞付着性を評価した。
A:0~1個
B:2~3個
C:4~6個
D:7個以上
各評価結果を表1に示す。
【0118】
〈基材密着性(耐水性)の評価〉
ポリスチレンシートの表面に、プラズマ処理装置(IP-200,泉工業社製)を用いて、酸素プラズマ(130V,120秒)による表面処理を施した。
表面処理を施したポリスチレンシートの表面に、上記で調製した硬化性組成物を塗布し、乾燥させて硬化膜前駆体膜を形成した。
その後、紫外線露光機(ECS-401G,アイグラフィック社製;光源は高圧水銀ランプ)を用いて、2J/cmの露光量となるように硬化膜前駆体膜を露光し、硬化させて、基材密着性評価用サンプルを作製した。
作製した基材密着性評価用サンプルをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に、37℃で72時間浸漬した。基材密着性評価用サンプルをPBSから引き上げ、ポリスチレンシート上に残った硬化膜(以下、「残存硬化膜」ともいう。)の面積から基材密着性を評価した。ポリスチレンシートの面積に対する残存硬化膜の面積を被膜率として百分率で表し、以下の評価基準に従って基材密着性を評価した。
A:被膜率が95%以上
B:被膜率が80%以上、95%未満
C:被膜率が80%未満
各評価結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例1~8は、細胞付着性および基材密着性が良好であった。
なかでも、実施例2および4は、細胞付着性および基材密着性のいずれもA評価であり、特に優れていた。