(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】錯化剤の組み合わせを含有する水溶液
(51)【国際特許分類】
C11D 7/32 20060101AFI20220613BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20220613BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20220613BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20220613BHJP
C11D 3/33 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
C11D7/32
C11D7/22
C11D7/26
C11D17/08
C11D3/33
(21)【出願番号】P 2017547067
(86)(22)【出願日】2015-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2015077194
(87)【国際公開番号】W WO2016083253
(87)【国際公開日】2016-06-02
【審査請求日】2018-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-31
(32)【優先日】2014-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】レイノーソ ガルシア,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ビール,マルクス クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ベックー,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】レッツェルター,ナタリー,ゾフィー
(72)【発明者】
【氏名】ムルクンデ,ロハン ゴヴィンド
(72)【発明者】
【氏名】フュールスケッター,フランク
(72)【発明者】
【氏名】グーダル,ケヴィン,ジョージ
【合議体】
【審判長】蔵野 雅昭
【審判官】木村 敏康
【審判官】門前 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性製剤であって、
(A)ナトリウムで少なくとも部分的に中和されたメチルグリシン二酢酸(MGDA)から選択される錯化剤
、
(B)ナトリウムで少なくとも部分的に中和されたグルタミン酸二酢酸(GLDA)
から選択される少なくとも1種のMGDA以外の錯化剤、
(C)N原子がアルカリ金属カチオンで部分的に又は完全に中和されたCH
2COOH基で部分的に又は完全に置換されたポリアミンから選択されるポリマー、及び
、
(D)モノ-及びジカルボン酸から選択される有機酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種
、
を含有し、錯化剤(A)及び錯化剤(B)の含有量の合計が
45質量%~
55質量%の範囲であり、錯化剤(A)と錯化剤(B)との質量比が4:1~1:4の範囲にあり、及び
ポリマー(C)が、アルカリ金属カチオンで部分的に又は完全に中和されたCH
2COOH基で部分的に又は完全に置換されたポリアルキレンイミン及びポリビニルアミンから選択され、及び
前記水性製剤が、室温で1質量%の水溶液で決定した9.5~12の範囲のpH値を有する
ことを特徴とする水性製剤。
【請求項2】
塩(D)が、ギ酸カリウム及び酢酸カリウムから選択される、請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
前記水性製剤が、1質量%の水溶液で決定した、10.5~11のpH値を有する、請求項1又は2のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項4】
錯化剤(A)と錯化剤(B)との前記質量比が1.5:1~1:1.5の範囲にある、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項5】
前記水性製剤が、25℃でDIN 53018-1:2008-09に従って決定した、100~400mPa・sの範囲の動的粘度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項6】
前記製剤が、40~70%の範囲の全固形分を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項7】
錯化剤(B)が
、ナトリウムで少なくとも部分的に中和されたL-グルタミン酸
二酢酸(L-GLDA)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の水性製剤
。
【請求項8】
前記製剤がリン酸塩を含有しない、請求項1から
7のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項9】
前記製剤が可塑剤を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項10】
請求項1から
9の少なくとも一項に記載の水溶液の製造方法であって、錯化剤(A)の水溶液を固体錯化剤(B)、ポリマー(C)及び塩(D)と組み合わせる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から
9の少なくとも一項に記載の水溶液の製造方法であって、錯化剤(A)の水溶液を錯化剤(B)、ポリマー(C)の水溶液及び塩(D)の水溶液と組み合わせる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1から
9の少なくとも一項に記載の水溶液を、パイプ又は容器での輸送に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(A)アルカリ金属で少なくとも部分的に中和されたメチルグリシン二酢酸(MGDA)から選択される錯化剤、並びに、
(B)アルカリ金属で少なくとも部分的に中和されたグルタミン酸二酢酸(GLDA)、及び、任意に、
(C)N原子がアルカリ金属カチオンで部分的に又は完全に中和されたCH2COOH基で部分的に又は完全に置換されたポリアミンから選択されるポリマー、及び、任意に、
(D)モノ-及びジカルボン酸から選択される有機酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種、
から選択される少なくとも1種のMGDA以外の錯化剤、
を含有し、(A)及び(B)の含有量が40%~60%の範囲である水性製剤に関し、錯化剤(A)と錯化剤(B)との質量比が10:1~1:10の範囲にある。
【背景技術】
【0002】
メチルグリシン二酢酸(MGDA)及びグルタミン酸二酢酸(GLDA)、並びにそれらのそれぞれのアルカリ金属塩のような錯化剤は、Ca2+及びMg2+などのアルカリ土類金属イオンに対して有用な金属イオン封鎖剤である。そのため、それらは推奨され、様々な目的、例えば洗濯洗剤、自動食器洗浄(ADW)の製剤、特にいわゆる無リン酸塩洗濯洗剤及び無リン酸塩ADW製剤に使用されている。このような錯化剤を輸送するために、多くの場合には、顆粒などの固体又は水溶液が利用されている。
【0003】
多くの産業的使用者は、可能な限り高濃度の水溶液中で錯化剤を得ることを望んでいる。要求される錯化剤の濃度が低いほど、より多くの水が輸送される。前記水は輸送費を増加させ、後で除去しなければならない。約40質量%のMGDA溶液及び45質量%のGLDA溶液も室温で製造及び貯蔵することができるが、局所又は一時的により冷たい溶液は、それぞれの錯化剤の沈殿、及び不純物による核生成をもたらす可能性がある。前記沈殿は、パイプ及び容器中の沈着、及び/又は製剤中の不純物又は不均一性をもたらす可能性がある。
【0004】
顆粒及び粉末は、輸送される水の量を無視することができるので有用であるが、殆どの混合及び製剤方法では、余分な溶解工程が必要である。
【0005】
MGDA及びGLDAの高濃度水溶液は、特定の状況下で製造することができる。しかしながら、多くの場合、それらの粘度は改善の余地がある。MGDAの水溶液は、極めて低い粘度を有し、多くの操作において、例えば処理の間にこのような溶液の飛散を避けるために、より高い粘度が望ましい。一方、GLDAの高濃度水溶液は、室温で高い粘度を示す。GLDAとMGDAの単なる組み合わせは問題を解決しない。
【0006】
それぞれの錯化剤の溶解性を高める添加剤が考慮されてもよいが、そのような添加剤は、それぞれの錯化剤の特性に悪い影響を与えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、0~50℃の範囲の温度で安定な錯化剤の高濃度水溶液を提供することを目的とする。さらに、本発明は、0~50℃の範囲の温度で安定な錯化剤の高濃度水溶液を製造する方法を提供することを目的とする。そのような方法もそのような水溶液も、それぞれの錯化剤の特性に悪い影響を与える添加剤の使用を必要としないべきである。
【0008】
したがって、冒頭に定義された製剤が見出され、以下では(本)発明の水性製剤とも呼ばれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水溶液は、
(A)アルカリ金属で少なくとも部分的に中和されたメチルグリシン二酢酸(MGDA)から選択される錯化剤、並びに、
(B)アルカリ金属で少なくとも部分的に中和されたグルタミン酸二酢酸(GLDA)、及び、任意に、
(C)N原子がアルカリ金属カチオンで部分的に又は完全に中和されたCH2COOH基で部分的に又は完全に置換されたポリアミンから選択されるポリマー、及び、任意に、
(D)モノ-及びジカルボン酸から選択される有機酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種、
から選択される少なくとも1種のMGDA以外の錯化剤、
を含有し、錯化剤(A)と錯化剤(B)との質量比が10:1~1:10の範囲にあり、(A)及び(B)の含有量が40%~60%の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましくは、本発明の水性製剤は溶液である。すなわち、目視検査により、本発明の水性製剤は、きれいで透明であり、例えば、室温で本発明による水性製剤の0.5cm厚の層を示す。
【0011】
この明細書において、「アルカリ金属で中和され」及び「アルカリ金属カチオンで中和され」という用語は、交互に使用されている。
【0012】
この明細書において、錯化剤(A)は、メチルグリシン二酢酸のリチウム塩、カリウム塩、及び好ましくはナトリウム塩から選択される。錯化剤(A)は、それぞれのアルカリ金属で、部分的に、又は好ましくは完全に中和することができる。好ましい実施態様において、MGDA1分子当たり平均2.7~3個のCOOH基が、アルカリ金属、好ましくはナトリウムで中和される。特に好ましい実施態様において、錯化剤(A)はMGDAのトリナトリウム塩である。
【0013】
錯化剤(A)は、MGDAのアルカリ金属塩、L-MGDAのアルカリ金属塩及びD-MGDAのアルカリ金属塩などの純粋な鏡像体、及び鏡像異性的に濃縮された異性体の混合物のラセミ混合物から選択することができる。
【0014】
如何にも、少量の錯化剤(A)が、アルカリ金属以外のカチオンを有してもよい。したがって、少量、例えば合計で0.01~5モル%の錯化剤(A)は、アルカリ土類金属カチオン、例えばMg2+、Ca2+、又はFe+2若しくはFe+3カチオンを有することが可能である。
【0015】
この明細書において、錯化剤(B)は、グルタミン酸二酢酸のリチウム塩、カリウム塩、及び好ましくはナトリウム塩から選択される。錯化剤(B)は、それぞれのアルカリ金属で、完全に、又は好ましくは部分的に中和することができる。好ましい実施態様において、GLDA1分子当たり平均3.5~4個のCOOH基が、アルカリ金属、好ましくはナトリウムで中和される。特に好ましい実施態様において、1分子当たり平均3.5~3.8個のCOOH基を有するGLDAは、ナトリウムで中和される。
【0016】
如何にも、少量の錯化剤(B)が、アルカリ金属以外のカチオンを有してもよい。したがって、少量、例えば合計で0.01~5モル%の錯化剤(B)は、アルカリ土類金属カチオン、例えばMg2+、Ca2+、又はFe+2若しくはFe+3カチオンを有することが可能である。
【0017】
錯化剤(B)は、GLDAのアルカリ金属塩、L-GLDAのアルカリ金属塩及びD-GLDAのアルカリ金属塩などの純粋な鏡像体、及び鏡像異性的に濃縮された異性体の混合物のラセミ混合物から選択することができる。好ましい実施態様において、錯化剤(B)は、アルカリ金属で少なくとも部分的に中和される、実質的にL-グルタミン酸(L-GLDA)である。「実質的にL-グルタミン酸」とは、錯化剤(B)が、アルカリ金属でそれぞれ少なくとも部分的に中和された、95質量%を超えるL-GLDA、及び5質量%未満のD-GLDAを含有することを意味する。
【0018】
本発明の一実施態様において、錯化剤(B)は、検出可能な量のD-GLDAを含有しない。鏡像体の分析は、光の偏光を測定すること(旋光測定)により、又は好ましくはクロマトグラフィー、例えばキラルカラムを用いたHPLCにより行うことができる。
【0019】
好ましくは、錯化剤(A)及び(B)の両方は、ナトリウムで少なくとも部分的に中和される。
【0020】
錯化剤(A)と錯化剤(B)との質量比は、10:1~1:10の範囲にある。本発明の一実施態様において、錯化剤(A)と錯化剤(B)との質量比は、4:1~1:4、好ましくは2:1~1:2、さらにより好ましくは1.5:1~1:1.5の範囲にある。
【0021】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、好ましくは室温で、1質量%の水溶液で決定した、9.5~12、好ましくは10.5~11の範囲のpH値を有する。上記pH値を有する本発明による水性製剤は、種々のポリマーを含む多くの材料に無害である。特に、10.5~11の範囲のpH値を有する本発明による水性製剤は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを溶解又は膨潤させない。
【0022】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、40~60%、好ましくは45~55%の錯化剤(A)及び(B)の含有量を有する。「錯化剤(A)及び(B)の含有量」という用語は、錯化剤(A)及び(B)の含有量の合計を指す。それは、滴定による総Fe3+結合能力を測定することにより決定することができる。
【0023】
本発明による水溶液は、ポリマー(C)をさらに含んでもよい。ポリマー(C)は、N原子がアルカリ金属で部分的に又は完全に中和されたCH2COOH基で部分的に又は完全に置換されたポリアミンから選択される。
【0024】
ポリマー(C)に関する「ポリアミン」という用語は、1繰り返し単位当たり少なくとも1つのアミノ基を含有するポリマー及びコポリマーを指す。前記アミノ基は、NH2基、NH基、及び好ましくは第3級アミノ基から選択されてもよい。ポリマー(C)において、塩基ポリアミンがカルボキシメチル誘導体に変換された、かつN原子がアルカリ金属で部分的に又は完全に中和されたCH2COOH基で、完全に、又は好ましくは部分的に(例えば、50~95モル%、好ましくは70~90モル%)置換されるので、第3級アミノ基が好ましい。この明細書において、95モル%超えるから100モル%までのN原子がCH2COOH基で置換されるこのようなポリマー(C)は、CH2COOH基で完全に置換されると見なされる。例えばポリビニルアミン又はポリアルキレンイミンからのNH2基は、1N原子当たり1つ又は2つのCH2COOH基(単数又は複数)で、好ましくは1N原子当たり2つのCH2COOH基で置換することができる。
【0025】
ポリマー(C)においてCH2COOH基潜在的総数(1NH基当たり1つのCH2COOH基、及び1NH2基当たり2つのCH2COOH基を仮定する)で割ったCH2COOH基数は、この明細書において、「置換度」とも称される。
【0026】
置換度は、例えば、ポリマー(C)のアミン価(アミン値)、及びCH2COOH置換のポリマー(C)に変換する前のそのそれぞれのポリアミンを決定することにより、好ましくはASTM D2074-07に従って決定することができる。
【0027】
ポリアミンの例としては、ポリビニルアミン、ポリアルキレンポリアミン、及び特にポリアルキレンイミン、例えばポリプロピレンイミン及びポリエチレンイミンが挙げられる。
【0028】
この明細書の範囲内で、ポリアルキレンポリアミンは、好ましくは、1分子当たり少なくとも6つの窒素原子及び少なくとも5つのC2~C10-アルキレンユニット、好ましくはC2~C3-アルキレンユニットを含むポリマー、例えば、ペンタエチレンヘキサアミン、及び特に1分子当たり6個~30個のエチレンユニットを有するポリエチレンイミンを意味すると理解される。この明細書の範囲内で、ポリアルキレンポリアミンは、1種以上の環状イミンの単独重合又は共重合により、好ましくは少なくとも1種の環状イミンと(コ)ポリマーとのグラフト結合により得られる高分子材料を意味すると理解される。例としては、エチレンイミンとグラフト結合されたポリビニルアミン、及びエチレンイミンとグラフト結合されたポリイミドアミンが挙げられる。
【0029】
好ましいポリマー(C)は、ポリアルキレンイミン、例えばポリエチレンイミン及びポリプロピレンイミンであり、ポリエチレンイミンが好ましい。ポリアルキレンイミン、例えばポリエチレンイミン及びポリプロピレンイミンは、直鎖、実質的に直鎖又は分岐状であり得る。
【0030】
本発明の一実施態様において、ポリエチレンイミンは、高度分岐のポリエチレンイミンから選択される。高度分岐のポリエチレンイミンは、それらの高い分岐度(DB)を特徴とする。分岐度は、例えば13C-NMR分光法により、D2Oで決定することができ、下記のように、
DB=D+T/D+T+L
(式中、D(分岐)は第3級アミノ基の割合に対応し、L(直鎖)は第2級アミノ基の割合に対応し、T(末端)は第1級アミノ基の割合に対応する)
定義される。
【0031】
この明細書の範囲内で、高度分岐のポリエチレンイミンは、0.25~0.90の範囲のDBを有するポリエチレンイミンである。
【0032】
本発明の一実施態様において、ポリエチレンイミンは、600~75000g/mol、好ましくは800~25000g/molの範囲の平均分子量MWを有する高度分岐のポリエチレンイミン(ホモポリマー)から選択される。
【0033】
本発明の他の実施態様において、ポリエチレンイミンは、エチレンイミンのコポリマー、例えば、エチレンイミンと、1分子当たり2個のNH2基を有するエチレンイミン以外のジアミン(例えば、プロピレンイミン)の少なくとも1つ、又は1分子当たり3個のNH2基を有する化合物(例えば、メラミン)の少なくとも1種とのコポリマーから選択される。
【0034】
本発明の一実施態様において、ポリマー(C)は、Na
+
で部分的に又は完全に中和されたCH2COOH基で部分的に又は完全に置換された分岐状ポリエチレンイミンから選択される。
【0035】
この明細書の範囲内で、ポリマー(C)は、共有結合修飾の形態で、具体的に、合計で100モル%以下、好ましくは合計で50~98モル%(パーセンテージは、ポリマー(C)中の第1級及び第2級アミノ基の窒素原子の合計に基づく)のポリマー(C)の第1級及び第2級アミノ基の窒素原子が、少なくとも1種のカルボン酸(例えば、Cl-CH2COOH)又は少なくとも1当量のシアン化水素酸(若しくはその塩)及び1当量のホルムアルデヒドと反応されたように使用される。したがって、この明細書の範囲内で、前記反応(修飾)は、例えばアルキル化であり得る。最も好ましくは、100モル%以下、好ましくは合計で50~99モル%のポリマー(C)の第1級及び第2級アミノ基の窒素原子は、例えばストレッカー合成により、ホルムアルデヒド及びシアン化水素酸(又はその塩)と反応された。一般的には、ポリマー(C)の主成分を形成し得るポリアルキレンイミンの第3級窒素原子は、CH2COOH基を持たない。
【0036】
ポリマー(C)は、例えば少なくとも500g/molの平均分子量(Mn)を有する。ポリマー(C)の平均分子量は、例えばASTM D2074-07に従って、アルキル化の前及び後のそれぞれのポリアミンのアミン価(アミン値)の決定、並びにCH2COOH基のそれぞれの価の計算により決定され、500~1,000,000g/mol、特に好ましくは800~50,000g/molの範囲にある。分子量は、それぞれの過ナトリウム塩を指す。
【0037】
本発明による水溶液において、ポリマー(C)のCH2COOH基は、アルカリ金属カチオンで部分的に又は完全に中和される。中和されていないCOOH基は、例えば遊離酸であり得る。好ましくは、90~100モル%のポリマー(C)のCH2COOH基は、中和形態である。
【0038】
好ましくは、ポリマー(C)の中和されたCH2COOH基は、錯化剤(A)と同様のアルカリ金属で中和される。
【0039】
ポリマー(C)のCH2COOH基は、任意タイプのアルカリ金属カチオンで、好ましくはK+で、特に好ましくはNa+で部分的に又は完全に中和されてもよい。
【0040】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、40~70%、好ましくは48~60%の範囲の全固形分を有する。固形分は、滴定によってFe3+の結合能力を測定することにより決定される。塩(D)の添加は、計算に考慮される。
【0041】
本発明による水溶液は、
(D)ジ-及び好ましくはモノカルボン酸から選択される有機酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種、
をさらに含有する。
【0042】
ジカルボン酸の例としては、酒石酸、アジピン酸、グルタミン酸、マレイン酸、フマル酸及びリンゴ酸が挙げられる。ジカルボン酸の塩は、モノ-及び好ましくはジアルカリ金属塩から選択されてもよい。
【0043】
モノカルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸及び乳酸が挙げられ、酢酸及びギ酸が好ましい。
【0044】
好適なアルカリ金属は、リチウム、ルビジウムであり、好ましくはナトリウムであり、特に好ましくはカリウムである。
【0045】
塩(D)の好ましい例としては、酢酸カリウム及びギ酸カリウムが挙げられる。
【0046】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、それぞれの水溶液の全固形分に基づいて、
10~50質量%、好ましくは12.5~40質量%、より好ましくは20~35質量%の範囲の錯化剤(A)、
10~50質量%、好ましくは12.5~40質量%、より好ましくは20~35質量%の範囲の錯化剤(B)、
0~5質量%、好ましくは0.05~1質量%、さらにより好ましくは0.1~0.5質量%の範囲のポリマー(C)、及び
0~30質量%、好ましくは1~10質量%の範囲の塩(D)
を含有する。
【0047】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、それぞれ25℃でDIN 53018-1:2008-09に従って決定される、100~400mPa・s、好ましくは200~350mPa・sの範囲の動的粘度(dynamic viscosity)を有する。決定の好ましい手段はスピンドル31である。
【0048】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、25℃でDIN EN 1557:1997-03に従って決定される、15~400、好ましくは15~360の範囲のヘイズンによる色数を有する。
【0049】
本発明の一実施態様において、本発明による水性製剤は、リン酸塩を含有しない。この明細書において、「リン酸塩を含有しない」という用語は、0.5質量%以下のトリポリリン酸ナトリウム(「STPP」)(これに制限しない)を含む無機リン酸塩を含有する製剤を指す。パーセンテージは、それぞれの本発明による水性製剤の全固形分に関し、重量法により決定することができる。
【0050】
本発明による水性製剤は、錯化剤(A)又は錯化剤(B)又は他の固体のような固体沈殿物を有する傾向が極めて低い。したがって、それらは、本発明によるそれぞれの水性製剤の凝固点に近い温度でさえも、残渣のないパイプ及び/又は容器に貯蔵及び輸送することができる。さらに、それらは有利なレオロジー特性が原因で、容易にポンプ輸送及び輸送することができる。この明細書において、パイプ又は容器での輸送は、好ましくは、錯化剤(A)又は錯化剤(B)を製造するプラントの部分を指すものでもなく、錯化剤(A)又は錯化剤(B)を製造するそれぞれの製造プラントの部分を形成する貯蔵庫を指すものでもない。容器は、例えば、タンク、ボトル、カート、道路コンテナ(road container)、及びタンク車から選択することができる。パイプは、例えば5cm~1mの範囲の任意の直径を有することができ、錯化剤(A)及び(B)のアルカリ溶液に対して安定な任意の材料で製造することができる。パイプでの輸送は、輸送システム全体の一部を形成するポンプを含むこともできる。
【0051】
好ましくは、本発明による水性製剤は、固体ポリマー、特に加水分解性変化に対して敏感であるポリマーに損害しない。このようなポリマーは、本発明による水性製剤と密接した状態で貯蔵することができる。このようなポリマーの例としては、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0052】
好ましくは、本発明による水性製剤は、少なくとも1種の可塑剤を含む。可塑剤は、ポリマーからなる容器中の水性製剤の貯蔵安定性を向上する。可塑剤は、容器を構成するポリマーの軟化剤として機能するように選択される。ポリビニルアルコールからなる容器中に貯蔵される水性製剤に使用するための好ましい可塑剤は、例えば、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール及びそれらの混合物である。可塑剤の好ましい量は、水性製剤の総質量に基づいて、0.01質量%~1.0質量%である。
【0053】
本発明の他の態様は、以下本発明の方法とも称される、本発明による水性製剤の製造方法である。本発明の方法は、錯化剤(A)を錯化剤(B)と組み合わせる工程を含む。ポリマー(C)を添加する実施態様において、ポリマー(C)を固体として、好ましくは水溶液として添加することが可能である。塩(D)を添加する実施態様において、塩(D)を固体として、好ましくは水溶液として添加することが可能である。錯化剤(A)、錯化剤(B)、及び必要なら、1種以上の塩(D)及び/又はポリマー(C)の成分の添加順番は限定していない。しかしながら、好ましくは、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れ、その後に錯化剤(B)を添加し、その後に、任意に、1種以上の塩(D)を添加すること、又は、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れ、その後に任意の塩(D)を添加し、その後に錯化剤(B)を添加すること、又は、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れ、その後に錯化剤(B)及び任意に1種以上の塩(D)を同時に添加すること(いずれの場合にも任意にポリマー(C)を添加してもよい)である。1つの好ましい実施態様において、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れ、その後に、固体錯化剤(B)及び固体塩(D)及び任意にポリマー(C)を添加する。他の好ましい実施態様において、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れる。その後、錯化剤(B)、及び任意に1種以上の塩(D)、及び任意にポリマー(C)の水溶液を添加する。別の好ましい実施態様において、錯化剤(B)の水溶液を容器に入れる。その後、固体錯化剤(A)を添加し、次に、任意に1種以上の塩(D)の水溶液、及び任意にポリマー(C)の水溶液を添加する。
【0054】
塩(D)は、それ自体として添加すること、またはその場で生成することができる。塩(D)のその場での合成は、それぞれの酸、例えばそれぞれのカルボン酸又はジカルボン酸、及びアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加することによって達成することができる。例えば、ギ酸カリウムは、固体又は水溶液として添加することができ、又は、ギ酸カリウムは、ギ酸及び水酸化カリウムを添加することによって合成することができる。
【0055】
特定の実施態様において、錯化剤(A)の水溶液を容器に入れる。その後、ポリマー(C)の水溶液を添加し、次に錯化剤(B)の水溶液を添加する。その後、それぞれのカルボン酸又はジカルボン酸を添加し、その後、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加することにより塩(D)をその場で生成する。
【0056】
本発明の一実施態様において、本発明の方法は、30~85℃、好ましくは25~50℃の範囲の温度で行われてもよい。本発明の他の実施態様において、錯化剤(A)の水溶液は、室温又はわずかにより高い温度、例えば21~29℃の温度で、錯化剤(B)及び塩(D)の水溶液と組み合わせることができる。
【0057】
本発明の方法は、任意の圧力、例えば500ミリバール~25バールの範囲の圧力で行うことができる。標準圧が好ましい。
【0058】
本発明の方法は、任意のタイプの容器、例えば撹拌タンク反応器又はポリマー(C)の投与手段を備えたパイプ、又はビーカー、フラスコ若しくはボトル中で行うことができる。
【0059】
水の除去は、例えば、膜の使用により、又は蒸発により達成することができる。水の蒸発は、20~65℃の範囲の温度で、撹拌しながら、又は攪拌しないで、水を留去することにより行うことができる。
【0060】
必要なら、pH値の調整のために、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、又はジカルボン酸、例えばアジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸若しくはフマル酸、又は上記酸のうちの少なくとも2種の混合物を添加することができる。酢酸又はギ酸の添加が好ましい。他の実施態様において、pH値は、塩基、例えばNaOH又はKOHの添加により調整されてもよい。
【0061】
本発明の方法は、高速混合を支持する条件下で、例えば攪拌下で行われてもよい。
【0062】
本発明の他の態様は、本発明による水性製剤を、パイプ又は容器中の輸送に使用する方法に関する。この明細書において、パイプ又は容器中の輸送は、好ましくは、錯化剤(A)又は錯化剤(B)を製造するプラントの部分を指すものでもなく、錯化剤(A)又は錯化剤(B)を製造するそれぞれの製造プラントの部分を形成する貯蔵庫を指すものでもない。容器は、例えば、タンク、ボトル、カート、道路コンテナ、及びタンク車から選択することができる。パイプは、例えば5cm~1mの範囲の任意の直径を有することができ、錯化剤(A)及び(B)のアルカリ溶液に対して安定な任意の材料で製造することができる。パイプでの輸送は、輸送システム全体の一部を形成するポンプを含むこともできる。
【0063】
本発明による水溶液は、ホームケア利用、例えば食器自動洗浄に使用することができる。
【0064】
さらに、以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0065】
この明細書において、パーセンテージは、特に明記しない限り、質量%を指す。
【0066】
以下の物質を使用した:
錯化剤(A.1):40質量%の水溶液(pH値:13)として、又は粉末(それぞれ1質量%の水溶液のpH値:13、残留水分:15質量%)として用意した、MGDAの三ナトリウム塩、
錯化剤(B.1):L-GLDAの四ナトリウム塩、47%水溶液、
塩(D.1):50%のKOH水溶液及び濃縮したギ酸を添加することによりその場で生成した、ギ酸カリウム、
ポリマー(C.1):ポリエチレンイミン、N原子をCH2COOH基でアルキル化し、置換度は80.0モル%、COOH基をNaOHで完全に中和し、分岐状であり、ポリマー(B.1)のアミン価及びそのそれぞれのポリエチレンイミンのアミン価(それぞれASTM D2074-07,2007版に従って決定した)の決定、並びにCH2COOH基のそれぞれの数の計算により決定した、Mn=50,000g/mol。分子量はそれぞれのナトリウム塩を指し、全てのCOOH基を中和した。ポリマー(C.1)は、40質量%の水溶液として利用した。
【0067】
I.本発明により、錯化剤(A)及び(B)を含有する水性製剤の調製
I.1 (A.1)、(B.1)、(C.1)及び(D.1)を含有する水溶液の調製
250mlのフラスコに錯化剤(A.1)の40%溶液60gを入れた。その後、ポリマー(C.1)の40%水溶液0.3gを添加し、1分間攪拌した。その後、錯化剤(B.1)の47%水溶液51.1gを添加し、1分間攪拌した。その後、KOHの50%水溶液10.67gを添加し、1分間攪拌し、その後、15分以内に6.02gの濃縮したギ酸を添加し、従って、そこでギ酸カリウム(D.1)を生成させた。これで得た製剤を1時間攪拌し、その後、標準圧及び90℃で、空気下で蒸発させることにより、28.09gの水を除去した。
【0068】
これで得た本発明の製剤は、370mPa・sの粘度(25℃)及び1.47kg/lの密度(23℃)を有していた。
【0069】
これで得た本発明の製剤は、-7℃で、曇りなしに、3週間以上保存することができた。