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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】磁気装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/10 20060101AFI20220613BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20220613BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20220613BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20220613BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
H01L43/10
G11B5/39
H01L27/105 447
H01F10/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018053095
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019165158
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】310024033
【氏名又は名称】エスケーハイニックス株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK hynix Inc.
【住所又は居所原語表記】2091, Gyeongchung-daero,Bubal-eub,Icheon-si,Gyeonggi-do,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】李 永ミン
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ジェヒョン・リ
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和也
(72)【発明者】
【氏名】及川 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一
(72)【発明者】
【氏名】磯田 大河
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-239120(JP,A)
【文献】特開2005-072436(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069091(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0053113(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/10
G11B 5/39
H01L 21/8239
H01F 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子を備え、
前記磁気抵抗効果素子は、
第1強磁性体と、
導電体と、
前記第1強磁性体と、前記導電体との間に設けられた酸化物と、
を含み、
前記酸化物は、希土類元素の第1酸化物と、前記希土類元素よりも共有結合半径が小さい元素の第2酸化物と、を含
前記酸化物は、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)のいずれか1つを更に含む、
磁気装置。
【請求項2】
前記第1酸化物内の前記希土類元素は、
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)のいずれか1つを含む、
請求項1記載の磁気装置。
【請求項3】
前記第2酸化物内の前記元素は、
ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、及びタンタル(Ta)のいずれか1つを含む、
請求項1記載の磁気装置。
【請求項4】
前記第1強磁性体は、
ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)のいずれか1つを更に含む、
請求項記載の磁気装置。
【請求項5】
前記酸化物は、前記第1酸化物及び前記第2酸化物を含む単一の層を形成する、
請求項1記載の磁気装置。
【請求項6】
前記酸化物は、前記第1酸化物を含む第1層と、前記第2酸化物を含む第2層と、を形成する、
請求項1記載の磁気装置。
【請求項7】
前記第1層は、前記第2層と、前記第1強磁性体と、の間に設けられた、
請求項記載の磁気装置。
【請求項8】
前記第2層は、前記第1層と、前記第1強磁性体と、の間に設けられた、
請求項記載の磁気装置。
【請求項9】
前記磁気抵抗効果素子は、前記酸化物との間に前記第1強磁性体を挟むシード材を更に含む、
請求項1記載の磁気装置。
【請求項10】
前記シード材は、
酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、及びLSMO(Lanthanum-strontium-manganese oxide)のいずれか1つを含む、
請求項記載の磁気装置。
【請求項11】
前記導電体は、非磁性体を含む、請求項1記載の磁気装置。
【請求項12】
前記導電体は、第2強磁性体を含む、請求項1記載の磁気装置。
【請求項13】
前記磁気抵抗効果素子を含むメモリセルを更に備える、請求項1記載の磁気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気素子を有する磁気装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9508926号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い垂直磁気異方性及び磁気抵抗効果を得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の磁気装置は、磁気抵抗効果素子を備える。上記磁気抵抗効果素子は、第1強磁性体と、導電体と、酸化物と、を含む。上記酸化物は、上記第1強磁性体と、上記導電体との間に設けられる。上記酸化物は、希土類元素の第1酸化物と、上記希土類元素よりも共有結合半径が小さい元素の第2酸化物と、を含上記酸化物は、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)のいずれか1つを更に含む

【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係る磁気装置の構成を説明するためのブロック図。
図2】第1実施形態に係る磁気装置のメモリセルの構成を説明するための断面図。
図3】第1実施形態に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図4】第1実施形態に係る磁気装置の酸化物層内に含まれ得る希土類元素を説明するためのテーブル。
図5】第1実施形態に係る磁気装置の酸化物層内に含まれ得る拡散調整用元素を説明するためのテーブル。
図6】第1実施形態に係る磁気装置における磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための模式図。
図7】第1実施形態に係る磁気装置における磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための模式図。
図8】第1実施形態に係る磁気装置における磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための模式図。
図9】第1実施形態の第1変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図10】第1実施形態の第2変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図11】第1実施形態の第3変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図12】第1実施形態の第4変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図13】その他の変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図14】その他の変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図15】その他の変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図16】その他の変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
図17】その他の変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する構成要素については、共通する参照符号を付す。また、共通する参照符号を有する複数の構成要素を区別する場合、当該共通する参照符号に添え字を付して区別する。なお、複数の構成要素について特に区別を要さない場合、当該複数の構成要素には、共通する参照符号のみが付され、添え字は付さない。
【0008】
1.第1実施形態
第1実施形態に係る磁気装置について説明する。第1実施形態に係る磁気装置は、例えば磁気抵抗効果(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)素子を記憶素子として用いた、垂直磁化方式による磁気記憶装置(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)を含む。
【0009】
以下の説明では、磁気装置の一例として、上述の磁気記憶装置について説明する。
【0010】
1.1 構成について
まず、第1実施形態に係る磁気装置の構成について説明する。
【0011】
1.1.1 磁気装置の構成について
図1は、第1実施形態に係る磁気装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、磁気装置1は、メモリセルアレイ11、カレントシンク12、センスアンプ及び書込みドライバ(SA/WD)13、ロウデコーダ14、ページバッファ15、入出力回路16、及び制御部17を備えている。
【0012】
メモリセルアレイ11は、行(row)及び列(column)に対応付けられた複数のメモリセルMCを備えている。そして、例えば、同一行にあるメモリセルMCは、同一のワード線WLに接続され、同一列にあるメモリセルMCの両端は、同一のビット線BL及び同一のソース線/BLに接続される。
【0013】
カレントシンク12は、ビット線BL及びソース線/BLに接続される。カレントシンク12は、データの書込み及び読出し等の動作において、ビット線BL又はソース線/BLを接地電位とする。
【0014】
SA/WD13は、ビット線BL及びソース線/BLに接続される。SA/WD13は、ビット線BL及びソース線/BLを介して動作対象のメモリセルMCに電流を供給し、メモリセルMCへのデータの書込みを行う。また、SA/WD13は、ビット線BL及びソース線/BLを介して動作対象のメモリセルMCに電流を供給し、メモリセルMCへのデータの読出しを行う。より具体的には、SA/WDの書込みドライバが、メモリセルMCへのデータの書込みを行い、SA/WD13のセンスアンプが、メモリセルMCからのデータの読出しを行う。
【0015】
ロウデコーダ14は、ワード線WLを介してメモリセルアレイ11と接続される。ロウデコーダ14は、メモリセルアレイ11のロウ方向を指定するロウアドレスをデコードする。そして、デコード結果に応じてワード線WLを選択し、選択されたワード線WLにデータの書込み及び読出し等の動作に必要な電圧を印加する。
【0016】
ページバッファ15は、メモリセルアレイ11内に書込まれるデータ、及びメモリセルアレイ11から読出されたデータを、ページと呼ばれるデータ単位で一時的に保持する。
【0017】
入出力回路16は、磁気装置1の外部から受信した各種信号を制御部17及びページバッファ15へと送信し、制御部17及びページバッファ15からの各種情報を磁気装置1の外部へと送信する。
【0018】
制御部17は、カレントシンク12、SA/WD13、ロウデコーダ14、ページバッファ15、及び入出力回路16と接続される。制御部17は、入出力回路16が磁気装置1の外部から受信した各種信号に従い、カレントシンク12、SA/WD13、ロウデコーダ14、及びページバッファ15を制御する。
【0019】
1.1.2 メモリセルの構成について
次に、第1実施形態に係る磁気装置のメモリセルの構成について図2を用いて説明する。以下の説明では、半導体基板20に平行な面をxy平面として定義し、当該xy平面に垂直な軸をz軸として定義する。x軸及びy軸は、xy平面内で互いに直交する軸として定義される。図2は、第1実施形態に係る磁気装置1のメモリセルMCをxz平面で切った場合の断面図の一例を示している。
【0020】
図2に示すように、メモリセルMCは、半導体基板20上に設けられ、選択トランジスタ21及び磁気抵抗効果素子22を含む。選択トランジスタ21は、磁気抵抗効果素子22へのデータ書込み及び読出し時において、電流の供給及び停止を制御するスイッチとして設けられる。磁気抵抗効果素子22は、積層された複数の膜を含み、電流を膜面に垂直な方向に流すことによって抵抗値を低抵抗状態と高抵抗状態とに切替わることが出来る。磁気抵抗効果素子22は、その抵抗状態の変化によってデータを書込み可能であり、書込まれたデータを不揮発に保持し、読出し可能である記憶素子として機能する。
【0021】
選択トランジスタ21は、ワード線WLとして機能する配線層23に接続されたゲートと、当該ゲートのx方向に沿う両端において半導体基板20の表面に設けられた1対のソース領域又はドレイン領域24と、を含む。選択トランジスタ21のうち、半導体基板20内に含まれる領域は、活性領域ともいう。活性領域は、例えば、他のメモリセルMCの活性領域と電気的に接続されないように、図示しない素子分離領域(STI:Shallow trench isolation)によって互いに絶縁される。
【0022】
配線層23は、半導体基板20上の絶縁層25を介してy方向に沿って設けられ、例えば、y方向に沿って並ぶ他のメモリセルMCの選択トランジスタ21(図示せず)のゲートに共通接続される。配線層23は、例えばx方向に並ぶ。
【0023】
選択トランジスタ21の一端は、ソース領域又はドレイン領域24上に設けられるコンタクトプラグ26を介して磁気抵抗効果素子22の下面上に接続される。磁気抵抗効果素子22の上面上にはコンタクトプラグ27が設けられる。磁気抵抗効果素子22は、コンタクトプラグ27を介してビット線BLとして機能する配線層28に接続される。配線層28は、x方向に延び、例えばx方向に並ぶ他のメモリセルMCの磁気抵抗効果素子22(図示せず)の他端に共通接続される。
【0024】
選択トランジスタ21の他端は、ソース領域又はドレイン領域24上に設けられるコンタクトプラグ29を介してソース線/BLとして機能する配線層30に接続される。配線層30は、x方向に延び、例えばx方向に並ぶ他のメモリセルMCの選択トランジスタ21(図示せず)の他端に共通接続される。
【0025】
配線層28及び30は、例えばy方向に並ぶ。配線層28は、例えば配線層30の上方に位置する。なお、図2では省略されているが、配線層28及び30は、互いに物理的及び電気的な干渉を避けて配置される。選択トランジスタ21、磁気抵抗効果素子22、配線層23、28、及び30、並びにコンタクトプラグ26、27、及び29は、層間絶縁膜31によって被覆される。
【0026】
なお、磁気抵抗効果素子22に対してx方向又はy方向に沿って並ぶ他の磁気抵抗効果素子22(図示せず)は、例えば同一の階層上に設けられる。すなわち、メモリセルアレイ11内において、複数の磁気抵抗効果素子22は、例えば半導体基板20の広がる方向に沿って並ぶ。
【0027】
1.1.3 磁気抵抗効果素子について
次に、第1実施形態に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成について図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子について、xy平面に垂直な平面で切った断面を示す断面図の一例である。
【0028】
図3に示すように、磁気抵抗効果素子22は、例えば、下地層(Under layer)として機能する非磁性層110と、酸化物層120と、記憶層(Storage layer)として機能する強磁性層130と、トンネルバリア層(Tunnel barrier layer)及びシード層(Seed layer)として機能する非磁性層140と、参照層(Reference layer)として機能する強磁性層150と、酸化物層160と、シフトキャンセル層(Shift cancelling layer)として機能する強磁性層170と、キャップ層(Capping layer)として機能する非磁性層180と、を含む。図3以降の図では、非磁性層110、酸化物層120、強磁性層130、非磁性層140、強磁性層150、酸化物層160、強磁性層170、及び非磁性層180はそれぞれ、「UL」、「REX-O」、「SL」、「TB/SEED」、「RL」、「REX-O」、「SCL」、及び「CAP」とも示される。
【0029】
磁気抵抗効果素子22は、例えば、半導体基板20側から非磁性層110、酸化物層120、強磁性層130、非磁性層140、強磁性層150、酸化物層160、強磁性層170、及び非磁性層180の順に、z軸方向に複数の膜が積層される。磁気抵抗効果素子22は、強磁性層130、150、及び170の磁化方向(magnetization orientation)がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、垂直磁化型MTJ素子である。
【0030】
非磁性層110は、導電性を有する非磁性体の層であり、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、窒化マグネシウム(MgN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化シリコン(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化タンタル(TaN)、窒化タングステン(WN)、窒化クロム(CrN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化チタン(TiN)、及び窒化バナジウム(VN)等の窒素化合物又は酸素化合物の少なくともいずれか1つを含む。また、非磁性層110は、上述の窒素化合物又は酸素化合物の混合物を含んでも良い。つまり、非磁性層110は、2種類の元素からなる二元化合物に限らず、3種類の元素からなる三元化合物、例えば、窒化チタンアルミニウム(AlTiN)等を含んでも良い。窒素化合物及び酸素化合物は、それらに接する磁性層のダンピング定数上昇を抑制し、書き込み電流低減の効果が得られる。さらに高融点金属の窒素化合物または酸素化合物を用いることで、下地層材料の磁性層への拡散を抑制できMR比の劣化を防ぐことができる。ここで高融点金属とは、鉄(Fe)、コバルト(Co)より融点が高い材料であり、例えば、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、及びバナジウム(V)である。
【0031】
酸化物層120は、酸化物を含む層であり、希土類元素(RE:Rare-earth element)の酸化物を含む。希土類元素の酸化物(以下、単に「希土類酸化物(RE-O:Rare-earth oxide)」とも言う。)は、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)の少なくともいずれか1つの酸化物を含む。酸化物層120内に含まれる希土類元素は、結合(例えば、共有結合(covalent bonding))の格子間隔が他の元素と比較して大きい結晶構造を有する。このため、酸化物層120は、隣り合う強磁性層130が不純物を含む非晶質(アモルファス状態である)である場合、高温環境(例えば、アニーリング処理)下において、当該不純物を酸化物層120内に拡散させる機能を有する。すなわち、酸化物層120は、アニーリング処理によって、アモルファス状態の強磁性層130から不純物を取り除き、高配向な結晶状態にする機能を有する。アニーリング処理の詳細については、後述する。
【0032】
また、酸化物層120は、上述の希土類酸化物が含まれる層内に、当該希土類酸化物よりも共有結合半径(covalent radius)の小さい拡散調整用元素(X:Diffusivity adjusting element)の酸化物を更に含む。拡散調整用元素の酸化物(以下、単に「拡散調整用酸化物(X-O:Diffusivity adjusting oxide)」とも言う。)は、容易に酸化し得る元素を含む。具体的には、例えば、拡散調整用酸化物は、容易に酸化し得る元素であるナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、及びタンタル(Ta)の少なくともいずれか1つの酸化物を含み得る。このような拡散調整用元素が混在する構造を有することにより、酸化物層120は、希土類酸化物のみからなる結晶構造よりも格子間隔が小さくなる。このため、酸化物層120は、アニーリング処理の際に、強磁性層130内の不純物を酸化物層120内に拡散させつつ、当該不純物よりもある程度大きい物質(例えば、強磁性体130内の強磁性体)の拡散を防止する機能を有する。希土類元素と拡散調整用元素との具体的な組み合わせの詳細については、後述する。
【0033】
また、酸化物層120は、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)の少なくともいずれか1つを不純物として更に含んでいてもよい。
【0034】
なお、酸化物層120は、非磁性層140よりも寄生抵抗が小さいことが望ましい。より好ましくは、酸化物層120の寄生抵抗は、非磁性層140の1割以下であることが望ましく、例えば、数nm(ナノメートル)(例えば、2nm)よりも薄い層であることが望ましい。
【0035】
強磁性層130は、導電性を有し、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する強磁性体を含む層であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)の少なくともいずれか1つを含む。また、強磁性層130は、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)の少なくともいずれか1つを不純物として更に含んでいてもよい。より具体的には、例えば、強磁性層130は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含んでもよい。強磁性層130は、半導体基板20側、強磁性層150側のいずれかの方向に向かう磁化方向を有する。強磁性層130の磁化方向は、強磁性層150と比較して容易に反転するように設定される。
【0036】
非磁性層140は、非磁性体を含む層であり、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、及びLSMO(Lanthanum-strontium-manganese oxide)の少なくともいずれか1つを含む。非磁性層140は、隣り合う強磁性層130及び150の結晶化処理において、強磁性層130及び150との界面から結晶質の膜を成長させるための核となるシード材として機能する。結晶化処理の詳細については、後述する。
【0037】
強磁性層150は、導電性を有し、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する強磁性体を含む層であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)の少なくともいずれか1つを含む。また、強磁性層150は、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)の少なくともいずれか1つを不純物として更に含んでいてもよい。より具体的には、例えば、強磁性層150は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含んでもよい。又は、強磁性層150は、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)の少なくともいずれか1つを含んでもよい。強磁性層150の磁化方向は、固定されており、強磁性層130側又は強磁性層170側のいずれかを向く(図3の例では、強磁性層170側を向いている)。なお、「磁化方向が固定されている」とは、強磁性層130の磁化方向を反転させ得る大きさの電流によって、磁化方向が変化しないことを意味する。強磁性層130、非磁性層140、及び強磁性層150は、非磁性層140がトンネルバリア層として機能することにより、磁気トンネル接合を構成している。
【0038】
酸化物層160は、例えば、酸化物層120と同様の構成を有する。このため、酸化物層160は、アニーリング処理の際に、強磁性層150及び170内の不純物を酸化物層120内に拡散させつつ、当該不純物よりもある程度大きい物質の拡散を防止する機能を有する。また、酸化物層160は、上述した強磁性層150内の不純物の少なくとも1つを更に含んでいてもよい。なお、酸化物層160は、酸化物層120と同様、非磁性層140よりも寄生抵抗が小さいことが望ましい。
【0039】
強磁性層170は、導電性を有し、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する強磁性体を含む層であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)の少なくともいずれか1つを含む。また、強磁性層150は、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)の少なくともいずれか1つを不純物として更に含んでいてもよい。より具体的には、例えば、強磁性層150は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含んでもよい。又は、強磁性層150は、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)の少なくともいずれか1つを含んでもよい。強磁性層170は、強磁性層150及び170の間に設けられた図示しない非磁性層(例えば、ルテニウム(Ru)の層)によって、強磁性層150と反強磁性的に結合される。このため、強磁性層170の磁化方向は、強磁性層150の磁化方向と反平行な方向(図3の例では、強磁性層150側)に固定される。強磁性層170の磁化方向を反転させるために必要な磁界の大きさは、例えば、強磁性層150よりも大きな値が設定される。また、強磁性層170からの漏れ磁場は、強磁性層150からの漏れ磁場が強磁性層130の磁化方向に与える影響を低減させる。
【0040】
非磁性層180は、導電性を有する非磁性体の層であり、例えば、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)の少なくともいずれか1つを含む。
【0041】
第1実施形態では、このような磁気抵抗効果素子22に直接書込み電流を流し、この書込み電流によって強磁性層130の磁化方向を制御するスピン注入書込み方式が適用され得る。磁気抵抗効果素子22は、強磁性層130及び150の磁化方向の相対関係が平行か反平行かによって、低抵抗状態及び高抵抗状態のいずれかを取ることが出来る。
【0042】
磁気抵抗効果素子22に、図3における矢印a1の方向、即ち強磁性層130から強磁性層150に向かう書込み電流を流すと、強磁性層130及び150の磁化方向の相対関係は、平行になる。この平行状態の場合、磁気抵抗効果素子22の抵抗値は最も低くなり、磁気抵抗効果素子22は低抵抗状態に設定される。この低抵抗状態は、「P(Parallel)状態」と呼ばれ、例えばデータ“0”の状態と規定される。
【0043】
磁気抵抗効果素子22に図3における矢印a2の方向、即ち強磁性層150から強磁性層130に向かう書込み電流を流すと、強磁性層130及び150の磁化方向の相対関係は、反平行になる。この反平行状態の場合、磁気抵抗効果素子22の抵抗値は最も高くなり、磁気抵抗効果素子22は高抵抗状態に設定される。この高抵抗状態は、「AP(Anti-Parallel)状態」と呼ばれ、例えばデータ“1”の状態と規定される。
【0044】
1.1.4 希土類元素と拡散調整用元素の組合せについて
次に、第1実施形態に係る酸化物層における希土類元素と拡散調整用元素の具体的な組合せについて、図4及び図5を用いて説明する。
【0045】
図4は、第1実施形態に係る磁気装置の酸化物層内に含まれ得る希土類元素の共有結合半径を説明するためのテーブルである。図5は、第1実施形態に係る磁気装置の酸化物層内に含まれ得る拡散調整用元素の共有結合半径を説明するためのテーブルである。図4及び図5では、原子番号、元素記号、及び共有結合半径が対応付けられて具体的に示される。
【0046】
図4に示すように、酸化物層120及び160内に含まれ得る希土類元素の共有結合半径(単位:ピコメートル(pm))は、例えば、以下のとおりである。
【0047】
原子番号21のスカンジウム(Sc)の共有結合半径は、170pmである。原子番号39のイットリウム(Y)の共有結合半径は、190pmである。原子番号57のランタン(La)の共有結合半径は、207pmである。原子番号58のセリウム(Ce)の共有結合半径は、204pmである。原子番号59のプラセオジム(Pr)の共有結合半径は、203pmである。原子番号60のネオジム(Nd)の共有結合半径は、201pmである。原子番号61のプロメチウム(Pm)の共有結合半径は、199pmである。原子番号62のサマリウム(Sm)の共有結合半径は、198pmである。原子番号63のユウロピウム(Eu)の共有結合半径は、198pmである。原子番号64のガドリニウム(Gd)の共有結合半径は、196pmである。原子番号65のテルビウム(Tb)の共有結合半径は、194pmである。原子番号66のジスプロシウム(Dy)の共有結合半径は、192pmである。原子番号67のホルミウム(Ho)の共有結合半径は、192pmである。原子番号68のエルビウム(Er)の共有結合半径は、189pmである。原子番号69のツリウム(Tm)の共有結合半径は、190pmである。原子番号70のイッテルビウム(Yb)の共有結合半径は、187pmである。原子番号71のルテチウム(Lu)の共有結合半径は、187pmである。
【0048】
図5に示すように、酸化物層120及び160内に含まれ得る拡散調整用元素の共有結合半径は、例えば、以下のとおりである。
【0049】
原子番号11のナトリウム(Na)の共有結合半径は、166pmである。原子番号12のマグネシウム(Mg)の共有結合半径は、141pmである。原子番号13のアルミニウム(Al)の共有結合半径は、121pmである。原子番号14のケイ素(Si)の共有結合半径は、111pmである。原子番号20のカルシウム(Ca)の共有結合半径は、176pmである。原子番号22のチタン(Ti)の共有結合半径は、160pmである。原子番号23のバナジウム(V)の共有結合半径は、153pmである。原子番号24のクロム(Cr)の共有結合半径は、139pmである。原子番号25のマンガン(Mn)の共有結合半径は、139pmである。原子番号30の亜鉛(Zn)の共有結合半径は、122pmである。原子番号38のストロンチウム(Sr)の共有結合半径は、195pmである。原子番号40のジルコニウム(Zr)の共有結合半径は、175pmである。原子番号41のニオブ(Nb)の共有結合半径は、164pmである。原子番号72のハフニウム(Hf)の共有結合半径は、175pmである。原子番号73のタンタル(Ta)の共有結合半径は、170pmである。
【0050】
図4及び図5を参照すると、例えば、図4に示された希土類元素からスカンジウム(Sc)が選択された場合、図5に示された拡散調整用元素からナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、及びニオブ(Nb)のうちの少なくとも1つを選択し得る。
【0051】
また、例えば、図4に示された希土類元素からイットリウム(Y)が選択された場合、図5に示された拡散調整用元素からストロンチウム(Sr)を除く全ての元素のうちの少なくとも1つを選択し得る。
【0052】
また、例えば、図4に示された希土類元素からガドリニウム(Gd)が選択された場合、図5に示された拡散調整用元素の全ての元素のうちの少なくとも1つを選択し得る。
【0053】
1.2. 磁気抵抗効果素子の製造方法について
次に、第1実施形態に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の製造方法について説明する。以下の説明では、磁気抵抗効果素子22内の各構成要素のうち、強磁性層130(記憶層SL)の製造方法について説明するものとし、その他の構成要素については、その説明を省略する。
【0054】
図6図7、及び図8は、第1実施形態に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための模式図である。図6図8では、強磁性層130がアニーリング処理によってアモルファス状態から結晶状態となる過程が示される。なお、非磁性層140より上層に積層される強磁性層150、酸化物層160、強磁性層170、及び非磁性層180については、簡単のため、図示を省略している。
【0055】
図6に示すように、非磁性層110、酸化物層120、強磁性層130、及び非磁性層140がこの順に積層される。酸化物層120は、希土類元素の酸化物と、拡散調整用元素の酸化物と、を含む。酸化物層120は、例えば、希土類元素と、拡散調整用元素と、が、例えば、Co-sputter法によって成膜される。酸化物層120は、拡散調整用元素の酸化物が含まれることにより、アモルファス状態のように振る舞うことができる。強磁性層130は、不純物を含むアモルファス状態の層として積層される。非磁性層140は、例えば、立方晶(Cubical crystal)又は正方晶(Tetragonal crystal)の結晶構造を有する。
【0056】
なお、図6以降の図では、便宜的に、希土類元素が直径の大きな“○”で表され、拡散調整用元素が直径の小さな“○”内を斜線でハッチングしたもので表される。また、非磁性層110内の導電体が“△”で表され、強磁性層130内の強磁性体が“□”で表され、積層時に強磁性層130内に含まれる不純物が“×”で表される。
【0057】
次に、図7に示すように、図6において積層された各層に対して、アニーリング処理が行われる。具体的には、各層に対して外部から熱が加えられることにより、強磁性層130が非晶質から結晶質へ変換される。ここで、非磁性層140は、強磁性層130の結晶構造の配向を制御する役割を果たす。すなわち、強磁性層130は、非磁性層140をシード材として結晶構造を成長させる(結晶化処理)。これにより、強磁性層130は、非磁性層140の結晶面と同じ結晶面に配向される。
【0058】
強磁性層130が結晶構造となることに伴い、強磁性層130内に含まれる不純物“×”が酸化物層120内に拡散される。酸化物層120内に含まれる希土類元素及び拡散調整用元素の格子間隔は、不純物“×”の拡散を妨げない程度に大きいため、不純物“×”は、速やかに強磁性層130から酸化物層120へ拡散する。これにより、強磁性層130の結晶化をより促進させることが出来る。
【0059】
一方、アニーリング処理によって加えられる熱により、強磁性層130内に含まれる強磁性体“□”も同様に、強磁性層130外へ拡散しようとする。酸化物層120内に含まれる希土類元素の格子間隔は、強磁性体“□”の拡散を妨げない程度に大きい。しかしながら、酸化物層120内に含まれる拡散調整用元素の格子間隔は、強磁性体“□”の拡散を妨げ得る程度に小さい。これにより、強磁性層130から酸化物層120への強磁性体“□”の拡散が抑制される。このため、強磁性層130の結晶化が妨げられることを防止することができる。
【0060】
また、アニーリング処理によって加えられる熱により、非磁性層110内に含まれる導電体“△”も同様に、非磁性層110外へ拡散しようとする。酸化物層120内に含まれる希土類元素の格子間隔は、導電体“△”の拡散を妨げない程度に大きい。しかしながら、酸化物層120内に含まれる拡散調整用元素の格子間隔は、導電体“△”の拡散を妨げ得る程度に小さい。これにより、非磁性層110から酸化物層120への導電体“△”の拡散が抑制される。このため、酸化物層120を介して強磁性層130へ導電体“△”が拡散することを抑制することができ、ひいては、強磁性層130の結晶化が妨げられることを防止することができる。
【0061】
そして、図8に示すように、アニーリング処理が終了する。酸化物層120は、強磁性層130からほとんどの不純物“×”を抜き取る一方、強磁性層130の結晶化に必要な強磁性体“□”については強磁性体130の外部に拡散することを抑制する。更に、酸化物層120は、非磁性層110からの導電体“△”の拡散を抑制することにより、強磁性層130に新たな不純物が流入することを抑制する。これにより、強磁性層130は、良質に結晶化することができる。なお、強磁性層130には、不純物“×”が残らないことが望ましいが、少量の不純物“×”が残留してもよい。この場合、強磁性層130と、酸化物層120とには、同様の不純物“×”が含まれ得る。
【0062】
また、上述の通り、酸化物層120は、拡散調整用元素が含まれることにより、アニーリング処理を経てもアモルファス状態を維持する。これにより、酸化物層120の界面の平坦性及び均質性を維持することができる。このため、酸化物層120より上層の界面の平坦性及び均質性が損なわれることを抑制することができる。
【0063】
なお、図示を省略した酸化物層160においても、当該酸化物層160上に設けられる強磁性層150及び170に対して、酸化物層120上に設けられる強磁性層130と同様の効果を奏することができる。すなわち、アニーリング処理の際に、酸化物層160は、強磁性層150及び170内に含まれる不純物の拡散は許容しつつ、強磁性層150及び170内に含まれる強磁性体の拡散は抑制する。このため、強磁性層150及び170は、良質に結晶化することができる。
【0064】
以上で、磁気抵抗効果素子22の製造が終了する。
【0065】
1.3. 本実施形態に係る効果について
第1実施形態によれば、磁気抵抗効果素子は、磁性材料の拡散を防止しつつ、高い垂直磁気異方性及び磁気抵抗効果を得ることができる。本効果につき、以下に説明する。
【0066】
第1実施形態では、磁気抵抗効果素子22は、非磁性層110と、強磁性層130と、非磁性層110と強磁性層130との間に設けられた酸化物層120と、を含む。酸化物層120は、希土類元素の酸化物と、拡散調整用元素の酸化物と、を含む。拡散調整用元素の共有結合半径は、希土類元素の共有結合半径よりも小さくなるように選択される。これにより、拡散調整用元素は、希土類元素の格子間隔の隙間を埋めるように配置される。このため、希土類元素の酸化物のみからなる層よりも、元素の拡散を抑制する効果が高まる。具体的には、例えば、酸化物層120は、強磁性層130内のボロン(B)のような共有結合半径が比較的小さい不純物が拡散することは許容するが、共有結合半径が当該不純物より大きい、鉄(Fe)やコバルト(Co)のような強磁性体が拡散することを抑制することができる。したがって、アニーリング処理の際に、強磁性体130から不純物を取り除くと共に、強磁性体の拡散を抑制することができ、ひいては、強磁性体130を良質な結晶質にすることができる。
【0067】
また、酸化物層120は、非磁性体110内のモリブデン(Mo)やタングステン(W)のような導電体が拡散することを抑制することができる。このため、当該導電体が酸化物層120を介して強磁性体130に拡散することを抑制することができる。したがって、強磁性体130は、高い磁気抵抗効果および垂直磁気異方性を得ることが出来る。
【0068】
また、磁気抵抗効果素子22は、強磁性層150と、強磁性層170と、強磁性層150と強磁性層170との間に設けられた酸化物層160と、を含む。酸化物層160は、酸化物層120と同様、希土類元素の酸化物と、当該希土類元素の共有結合半径よりも小さい共有結合半径となる拡散調整用元素の酸化物と、を含む。これにより、酸化物層160は、強磁性層150及び170内のボロン(B)のような不純物が拡散することは許容するが、共有結合半径が当該不純物より大きい、鉄(Fe)やコバルト(Co)のような強磁性体が拡散することを抑制することができる。したがって、アニーリング処理の際に、強磁性体150及び170から不純物を取り除くと共に、強磁性体の拡散を抑制することができ、ひいては、強磁性体150及び170を良質な結晶質にすることができる。
【0069】
また、磁気抵抗効果素子22は、強磁性層130と強磁性層150との間に非磁性層140が設けられる。これにより、アニーリング処理において、強磁性層130及び150は、非磁性層140をシード材として結晶を成長させることが出来る。このため、強磁性層130及び150は、アモルファス状態から高配向な結晶状態へと変換されることが出来、ひいては、高い界面磁気異方性を得ることが出来る。
【0070】
また、酸化物層120及び160は、非磁性層140よりも寄生抵抗が小さくなるように設計される。これにより、磁気抵抗効果素子22に流す書込み電流が過度に大きくなることを抑制することが出来る。このため、磁気抵抗効果素子22を磁気記憶装置に適用し易くすることが出来る。
【0071】
2. 変形例等
上述の第1実施形態で述べた形態に限らず、種々の変形が可能である。
【0072】
2.1 第1変形例
第1実施形態では、酸化物層120が希土類酸化物と拡散調整用酸化物とを含む単一の層として形成される場合について説明したが、これに限られない。例えば、酸化物層120は、希土類酸化物を含む層と、拡散調整用酸化物を含む更なる層と、を含む複数の層として形成されてもよい。
【0073】
以下では、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0074】
図9は、第1実施形態の第1変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図である。図9は、第1実施形態において説明した図3に対応する。
【0075】
図9に示すように、酸化物層120は、希土類酸化物層121と、拡散調整用酸化物層122と、を含む。酸化物層160は、希土類酸化物層161と、拡散調整用酸化物層162と、を含む。希土類酸化物層121及び拡散調整用酸化物層122、並びに希土類酸化物層161及び拡散調整用酸化物層162は、この順にz軸方向に積層される。図9以降の図では、希土類酸化物層121及び161は、「RE-O」とも示され、拡散調整用酸化物層122及び162は、「X-O」とも示される。
【0076】
希土類酸化物層121及び161は、希土類酸化物を含む層である。希土類酸化物は、例えば、第1実施形態において示された酸化物層120及び160内の希土類酸化物と同様の構成を含み得る。希土類酸化物層121及び161を構成する希土類元素は、他の元素と比較して共有結合の格子間隔が大きい結晶構造を有する。このため、希土類酸化物層121は、アニーリング処理の際に、強磁性層130内の不純物を希土類酸化物層121内に拡散させる機能を有する。同様に、希土類酸化物層161は、強磁性層150及び170内の不純物を希土類酸化物層161内に拡散させる機能を有する。
【0077】
拡散調整用酸化物層122及び162は、拡散調整用元素の酸化物を含む層である。拡散調整用酸化物は、例えば、第1実施形態において示された酸化物層120及び160内の拡散調整用酸化物と同様の構成を含み得る。拡散調整用酸化物層122及び162内に含まれる拡散調整用元素の共有結合半径は、希土類元素の共有結合半径よりも小さい。これにより、拡散調整用酸化物層122及び162は、希土類酸化物層121及び161よりも格子間隔が小さい結晶構造を有する。このため、拡散調整用酸化物層122は、アニーリング処理の際に、強磁性層130内の不純物を拡散調整用酸化物層122内に拡散させつつ、当該不純物よりもある程度大きい物質(例えば、強磁性体130内の強磁性体)の拡散を防止する機能を有する。同様に、拡散調整用酸化物層162は、アニーリング処理の際に、強磁性層150及び170内の不純物を拡散調整用酸化物層162内に拡散させつつ、当該不純物よりも共有結合半径が大きい物質(例えば、強磁性体150及び170内の強磁性体)の拡散を防止する機能を有する。
【0078】
以上のように構成することにより、強磁性層130は、希土類酸化物層121及び拡散調整用酸化物層122によって不純物の拡散が許容されると共に、拡散調整用酸化物層122によって強磁性体の拡散が抑制される。これにより、強磁性層130は、アニーリング処理によって良質に結晶化することができる。
【0079】
同様に、強磁性層150及び170は、希土類酸化物層161及び拡散調整用酸化物層162によって不純物の拡散が許容されると共に、拡散調整用酸化物層162によって強磁性体の拡散が抑制される。これにより、強磁性層150及び170は、アニーリング処理によって良質に結晶化することができる。
【0080】
2.2 第2変形例
また、第1実施形態の第1変形例では、拡散調整用酸化物層が希土類酸化物層の上面上に設けられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、拡散調整用酸化物層は、希土類酸化物層の下面上に設けられてもよい。
【0081】
以下では、第1実施形態の第1変形例と異なる点についてのみ説明する。
【0082】
図10は、第1実施形態の第2変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図である。図10は、第1実施形態において説明した図3に対応する。
【0083】
図10に示すように、拡散調整用酸化物層122及び希土類酸化物層121、並びに拡散調整用酸化物層162及び希土類酸化物層161は、この順にz軸方向に積層される。
【0084】
以上のように構成することにより、強磁性層130は、希土類酸化物層121及び拡散調整用酸化物層122によって不純物の拡散が許容されると共に、拡散調整用酸化物層122によって強磁性体の拡散が抑制される。これにより、強磁性層130は、アニーリング処理によって良質に結晶化することができる。
【0085】
同様に、強磁性層150及び170は、希土類酸化物層161及び拡散調整用酸化物層162によって不純物の拡散が許容されると共に、拡散調整用酸化物層162によって強磁性体の拡散が抑制される。これにより、強磁性層150及び170は、アニーリング処理によって良質に結晶化することができる。
【0086】
2.3 第3変形例
また、第1実施形態の第1変形例及び第2変形例では、拡散調整用酸化物層及び希土類酸化物層が1層ずつ設けられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、拡散調整用酸化物層及び希土類酸化物層は、複数の層が積層されて設けられてもよい。
【0087】
以下では、第1実施形態の第1変形例と異なる点についてのみ説明する。
【0088】
図11は、第1実施形態の第3変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図である。図11は、第1実施形態の第1変形例において説明した図9に対応する。
【0089】
図11に示すように、酸化物層120は、希土類酸化物層121、及び拡散調整用酸化物層122に加え、拡散調整用酸化物層123を更に含む。拡散調整用酸化物層123、希土類酸化物層121、及び拡散調整用酸化物層122は、この順にz軸方向に積層される。拡散調整用酸化物層123は、必ずしも拡散調整用酸化物層122と同様の構成を含むことを要しないが、第1実施形態において示された拡散調整用酸化物として含まれ得る元素のうちの少なくとも1つを含む。
【0090】
同様に、酸化物層160は、希土類酸化物層161、及び拡散調整用酸化物層162に加え、拡散調整用酸化物層163を更に含む。拡散調整用酸化物層163、希土類酸化物層161、及び拡散調整用酸化物層162は、この順にz軸方向に積層される。拡散調整用酸化物層163は、必ずしも拡散調整用酸化物層162と同様の構成を含むことを要しないが、第1実施形態において示された拡散調整用酸化物として含まれ得る元素のうちの少なくとも1つを含む。
【0091】
以上のように構成することにより、拡散調整用酸化物層123は、隣り合う非磁性層110からの導電体の拡散を直接抑制することができるため、非磁性層110内の導電体が希土類酸化物層121内に拡散することを抑制できる。拡散調整用酸化物層122は、隣り合う強磁性層130からの強磁性体の拡散を直接抑制することができるため、強磁性層130内の強磁性体が希土類酸化物層121内に拡散することを抑制できる。
【0092】
2.4 第4変形例
また、第1実施形態の第3変形例では、2つの拡散調整用酸化物層の間に希土類酸化物層が設けられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、2つの希土類酸化物層の間に拡散調整用酸化物層が設けられてもよい。
【0093】
以下では、第1実施形態の第2変形例と異なる点についてのみ説明する。
【0094】
図12は、第1実施形態の第4変形例に係る磁気装置の磁気抵抗効果素子の構成を説明するための断面図である。図12は、第1実施形態の第2変形例において説明した図10に対応する。
【0095】
図12に示すように、酸化物層120は、希土類酸化物層121、及び拡散調整用酸化物層122に加え、希土類酸化物層124を更に含む。希土類酸化物層121、拡散調整用酸化物層122、及び希土類酸化物層124は、この順にz軸方向に積層される。希土類酸化物層124は、必ずしも希土類酸化物層124と同様の構成を含むことを要しないが、第1実施形態において示された希土類酸化物として含まれ得る元素のうちの少なくとも1つを含む。
【0096】
同様に、酸化物層160は、希土類酸化物層161、及び拡散調整用酸化物層162に加え、希土類酸化物層164を更に含む。希土類酸化物層161、拡散調整用酸化物層162、及び希土類酸化物層164は、この順にz軸方向に積層される。希土類酸化物層164は、必ずしも希土類酸化物層164と同様の構成を含むことを要しないが、第1実施形態において示された希土類酸化物として含まれ得る元素のうちの少なくとも1つを含む。
【0097】
以上のように構成することにより、希土類酸化物層161及び164はそれぞれ、強磁性層150及び170と隣り合うため、拡散調整用酸化物層162が強磁性層150又は170と隣り合う場合よりも不純物の拡散をより促すことができる。このため、強磁性層150及び170の結晶化をより促進させることができる。
【0098】
3. その他
上述の第1実施形態及び各変形例で述べた磁気抵抗効果素子22は、記憶層SLが半導体基板20側に設けられるボトムフリー型である場合について説明したが、参照層RLが半導体基板20側に設けられるトップフリー型であってもよい。
【0099】
磁気抵抗効果素子22がトップフリー型に構成される場合の断面図の一例を図13図17に示す。図13図17はそれぞれ、図3、及び図9図12に示された磁気抵抗効果素子22をトップフリー型に構成した場合の断面図である。
【0100】
より具体的には、図13では、酸化物層内に希土類酸化物及び拡散調整用酸化物が含まれる場合が示される。すなわち、図13に示される磁気抵抗効果素子22は、下地層として機能する非磁性層110、シフトキャンセル層として機能する強磁性層170、酸化物層160、参照層として機能する強磁性層150、トンネルバリア層及びシード層として機能する非磁性層140、記憶層として機能する強磁性層130、酸化物層120、及びキャップ層として機能する非磁性層180がこの順に積層される。
【0101】
また、図14及び図15では、酸化物層が希土類酸化物層と拡散調整用酸化物層との2つの層を含む場合が示される。すなわち、図14に示される磁気抵抗効果素子22は、図13において説明されたトップフリー型の磁気抵抗効果素子22について、強磁性層170と強磁性層150との間において希土類酸化物層161及び拡散調整用酸化物層162がこの順に積層され、強磁性層130と非磁性層180との間において希土類酸化物層121及び拡散調整用酸化物層122がこの順に積層される。また、図15に示される磁気抵抗効果素子22は、図13において説明されたトップフリー型の磁気抵抗効果素子22について、強磁性層170と強磁性層150との間において拡散調整用酸化物層162及び希土類酸化物層161がこの順に積層され、強磁性層130と非磁性層180との間において拡散調整用酸化物層122及び希土類酸化物層121がこの順に積層される。
【0102】
また、図16では、酸化物層内において、希土類酸化物層が拡散調整用酸化物層に挟まれる場合が示される。すなわち、図16に示される磁気抵抗効果素子22は、図13において説明されたトップフリー型の磁気抵抗効果素子22について、強磁性層170と強磁性層150との間において拡散調整用酸化物層163、希土類酸化物層161、及び拡散調整用酸化物層162がこの順に積層され、強磁性層130と非磁性層180との間において拡散調整用酸化物層123、希土類酸化物層121、及び拡散調整用酸化物層122がこの順に積層される。
【0103】
また、図17では、酸化物層内において、拡散調整用酸化物層が希土類酸化物層に挟まれる場合が示される。すなわち、図17に示される磁気抵抗効果素子22は、図13において説明されたトップフリー型の磁気抵抗効果素子22について、強磁性層170と強磁性層150との間において希土類酸化物層161、拡散調整用酸化物層162、及び希土類酸化物層164がこの順に積層され、図13において説明されたトップフリー型の磁気抵抗効果素子22について、強磁性層130と非磁性層180との間において希土類酸化物層121、拡散調整用酸化物層122、及び希土類酸化物層124がこの順に積層される。
【0104】
更に、上述の第1実施形態及び各変形例では、磁気抵抗効果素子を備える磁気装置の一例として、MTJ素子を備える磁気記憶装置について説明したが、これに限られない。例えば、磁気装置は、センサやメディア等の垂直磁気異方性を有する磁気素子を必要とする他のデバイスを含む。当該磁気素子は、例えば、図3において説明した非磁性層110、酸化物層120、強磁性層130、及び非磁性層140を少なくとも含む素子である。なお、非磁性層110は、導電体であればよく、非磁性体に限らず強磁性体であってもよい。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0106】
1…磁気装置、11…メモリセルアレイ、12…カレントシンク、13…センスアンプ及び書込みドライバ、14…ロウデコーダ、15…ページバッファ、16…入出力回路、17…制御部、20…半導体基板、21…選択トランジスタ、22…磁気抵抗効果素子、23,28,30…配線層、24…ソース領域又はドレイン領域、25…絶縁層、26,27,29…コンタクトプラグ、31…層間絶縁膜、110,140,180…非磁性層、120,160…酸化物層、121,124…希土類酸化物層、122,123…拡散調整用酸化物層、130,150,170…強磁性層。
図1
図2
図3
図4
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図10
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図17