(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】非浸透媒体用前処理液及び画像記録用基材
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220613BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20220613BHJP
B41M 5/50 20060101ALI20220613BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220613BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 110
B41M5/52 110
B41M5/50 120
B41M5/00 120
C09D11/54
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020523583
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018919
(87)【国際公開番号】W WO2019235141
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018108055
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾人
(72)【発明者】
【氏名】宮戸 健志
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136914(WO,A1)
【文献】特開2018-035294(JP,A)
【文献】特開2005-001387(JP,A)
【文献】特表2008-519138(JP,A)
【文献】特開2013-001854(JP,A)
【文献】特開2010-023339(JP,A)
【文献】特開2009-137055(JP,A)
【文献】特開2011-079304(JP,A)
【文献】特開2011-026564(JP,A)
【文献】特開2008-126413(JP,A)
【文献】特開2012-126123(JP,A)
【文献】米国特許第04775594(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00ー5/52
C09D 11/00-11/54
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、樹脂と、有機酸と、を含み、
前記有機酸の含有量に対する前記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、
前記有機酸が下記一般式1で表される化合物であり、
前記樹脂が粒子であり、
前記樹脂がアニオン性基を有し、
前記アニオン性基がスルホン酸基又はスルホン酸塩であり、
前記樹脂はガラス転移温度が40℃~60℃である非浸透
記録媒体用前処理液。
【化1】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上である。R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、アミノ基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記有機酸が、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、オキサル酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、2-オキソグルタル酸、アジピン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピメリン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸及び4-オキソオクタン二酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項3】
前記一般式1中のl+m+nが3~5である請求項1又は請求項2に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項4】
前記一般式1のmが0であり、かつ、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素原子である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項5】
前記有機酸のpKaが4.0~6.0である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項6】
前記非浸透
記録媒体用前処理液のpHが2~4である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項7】
前記有機酸の含有量に対する前記樹脂の含有量の比が、質量基準で2未満である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非浸透
記録媒体用前処理液。
【請求項8】
非浸透媒体を含み、
前記非浸透媒体上に樹脂と、下記一般式1で表される化合物である有機酸と、を有し、かつ、前記有機酸の含有量に対する前記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、
前記樹脂が粒子であり、
前記樹脂がアニオン性基を有し、
前記アニオン性基がスルホン酸基又はスルホン酸塩であり、
前記樹脂はガラス転移温度が40℃~60℃である画像記録用基材。
【化2】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上である。R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、アミノ基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項9】
非浸透媒体に対し、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の非浸透媒体用前処理液を付与する工程を有する画像記録用基材の製造方法。
【請求項10】
非浸透媒体に対し、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の非浸透媒体用前処理液を付与する工程と、
前記非浸透媒体の前記非浸透媒体用前処理液が付与された面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程と、
を有する画像記録方法。
【請求項11】
請求項8に記載の画像記録用基材の、前記樹脂と、前記有機酸と、を有する面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程を有する画像記録方法。
【請求項12】
着色剤及び水を含むインク組成物、並びに、
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の非浸透媒体用前処理液
を含むインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非浸透媒体用前処理液、画像記録用基材、画像記録用基材の製造方法、画像記録方法及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
画像を記録する画像記録方法としては、近年、様々な方法が提案されている。
例えば、インクジェット法を利用した記録方法は、インクジェットヘッドに設けられたノズルからインクを液滴状に吐出することにより、多種多様な基材に対して高品位の画像を記録できること等の理由から広く利用されている。
インクジェット法を利用した画像記録方法には種々の形態が提案されている。
例えば、水及び着色剤を含むインクと、インク中の成分を凝集させる凝集剤を含む前処理液と、を併用したインクセットを使用する方法が知られている。この方法では、インクと前処理液とを接触させることにより、例えば、解像度に優れた画像を記録することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、少なくとも顔料を含む水性インクジェットインキと共に用いられる前処理液であって、上記前処理液は、無機金属塩および/または有機金属塩と、有機アミンを、いずれも溶解状態で含み、上記水性インクジェットインキと上記前処理液のpHの差が0以上2以下である前処理液が記載されている。
【0004】
例えば特許文献2には、水性樹脂と、コロイダルシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンのいずれかと、水溶性有機溶剤と水と有機酸(例えば、マロン酸)とを含有する前処理液が記載されている。
【0005】
例えば特許文献3には、ポリウレタン構造を有するカチオンまたはノニオン性樹脂と、塩基により中和されていない有機酸と、水と、を少なくとも含有するインクジェット記録インク用の処理液が記載されている。
【0006】
例えば特許文献4には、有機酸性化合物、水溶性高分子化合物、水及び水溶性溶剤を含む処理液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-128117号公報
【文献】特開2014-073672号公報
【文献】特開2017-114934号公報
【文献】特開2017-065117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~特許文献3に記載の技術では、長尺状の非浸透媒体に前処理液を付与し、前処理液の付与面にインクを付与して画像を記録し、例えば、画像が記録された非浸透媒体(本明細書中、画像記録媒体ともいう。)をロール状に巻きとった際に、インクが存在しない非画像記録部分に存在する前処理液に含まれる成分(例えば有機酸)が、画像記録面と接する画像記録媒体の裏面に転写してしまう場合がある。
【0009】
本開示の実施形態が解決しようとする課題は、画像記録面からの前処理液に含まれる成分の被接触体への転写が抑制され、かつ、精細な画像が得られる非浸透媒体用前処理液、画像記録用基材及びインクセットを提供することである。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、画像記録面からの前処理液に含まれる成分の被接触体への転写が抑制され、かつ、精細な画像が得られる画像記録用基材の製造方法及び画像記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 水と、樹脂と、有機酸と、を含み、上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、上記有機酸が下記一般式1で表される化合物である非浸透媒体用前処理液である。
【0011】
【0012】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上であり、l+m+nは2以上である。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、アミノ基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
<2> 上記有機酸が、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、オキサル酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、2-オキソグルタル酸、アジピン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピメリン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸及び4-オキソオクタン二酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である<1>に記載の非浸透媒体用前処理液である。
<3> 上記一般式1中のl+m+nが3~5である<1>又は<2>に記載の非浸透媒体用前処理液である。
<4> 上記一般式1のmが0であり、かつ、R1~R4が水素原子である<1>~<3>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<5> 上記有機酸のpKaが4.0~6.0である<1>~<4>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<6> 上記樹脂が粒子である<1>~<5>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<7> 上記樹脂がアニオン性基を有する<1>~<6>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<8> 上記アニオン性基がスルホン酸基又はスルホン酸塩である<7>に記載の非浸透媒体用前処理液である。
<9> 非浸透媒体用前処理液のpHが2~4である<1>~<8>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<10> 上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で2未満である<1>~<9>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液である。
<11> 非浸透媒体を含み、上記非浸透媒体上に樹脂と、上記一般式1で表される化合物である有機酸と、を有し、かつ、上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満である画像記録用基材である。
<12> 非浸透媒体に対し、<1>~<10>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液を付与する工程を有する画像記録用基材の製造方法である。
<13> 非浸透媒体に対し、<1>~<10>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液を付与する工程と、上記非浸透媒体用前処理液が付与された面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程と、を有する画像記録方法である。
<14> <11>に記載の画像記録用基材の、上記樹脂と、上記有機酸と、を有する面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程を有する画像記録方法である。
<15> 着色剤及び水を含むインク組成物、並びに、<1>~<10>のいずれか1つに記載の非浸透媒体用前処理液を含むインクセットである。
【発明の効果】
【0013】
本開示の実施形態によれば、画像記録面からの前処理液に含まれる成分の被接触体への転写が抑制され、かつ、精細な画像が得られる非浸透媒体用前処理液、画像記録用基材及びインクセットを提供することができる。
また、本開示の他の実施形態によれば、画像記録面からの前処理液に含まれる成分の被接触体への転写が抑制され、かつ、精細な画像が得られる画像記録用基材の製造方法及び画像記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】画像記録の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【
図2】実施例における、画質の評価に用いた文字画像における文字を概念的に示す図である。
【
図3】実施例における、画質の評価基準の詳細を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「画像記録」又は「画像の記録」とは、前処理液(又は前処理液の固形分を含む処理層)及びインクを用い、非浸透媒体上に画像を描くことを意味する。
本開示において、「画質」とは、画像の精細性を指す。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
≪非浸透媒体用前処理液≫
本開示に係る非浸透媒体用前処理液(以下、単に「前処理液」ともいう。)は、水と、樹脂と、有機酸と、を含み、上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、上記有機酸が下記一般式1で表される化合物である。
【0017】
【0018】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上であり、l+m+nは2以上である。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、カルボキシ基、アミノ基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0019】
前処理液に凝集剤として有機酸を含むことで、得られる画像記録物の画像の精細さを向上させることができる。
しかし、画像の精細さを向上させる等の目的で、非浸透媒体に、前処理液を付与した上からインクを付与して画像を記録する場合に、インクが存在しない非画像記録部分に存在する前処理液に含まれる成分(例えば有機酸)が、画像記録面と接触する被接触体に転写してしまう場合がある。これは特に、前処理液中の有機酸の含有量を増加させた場合に顕著となる。非接触体は、例えば、画像が記録された長尺状の非浸透媒体をロール状に巻きとった場合の、画像記録媒体の裏面である。
本開示の前処理液は、樹脂と、有機酸と、を含み、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比を質量基準で0超4未満とし、かつ、有機酸の構造が一般式1で表される。これによって、樹脂と有機酸の親和性を向上させることができ、前処理液の転写を抑制することができる。また、上記一般式1はカルボキシ基を少なくとも2つ有することで、インクの凝集速度に優れるため、より画質を向上させることができる。
【0020】
<有機酸>
本開示における有機酸は、下記一般式1で表される化合物である。
【0021】
【0022】
一般式1中、lは1以上であり、mは0又は1であり、nは1以上であり、l+m+nは2以上である。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基(OH)、カルボキシ基(COOH)、アミノ基(NH2)又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
R1~R4における炭素数1~4のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が挙げられる。
【0023】
上記R1~R4は、それぞれ独立に、インクの凝集性の観点から、水素原子又はカルボキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0024】
l及びnは、1~3が好ましく、mは、0が好ましい。
【0025】
一般式1中、l+m+nは3~8であることが好ましい。l+m+nが3以上であることで、有機酸をより疎水的にすることができ、転写抑制性がより良好となる。l+m+nが8以下であることで、有機酸が疎水的になりすぎず、前処理液の保存安定性を良好に保つことができる。
上記同様の観点からl+m+nは、3~5であることがより好ましい。
また一般式1中、mは0であることが好ましく、mが0である場合にl+nは3~5であることが好ましい。
【0026】
一般式1としては、mが0であり、かつ、R1~R4が水素原子であることが好ましい。
なお、上記一般式1中のカルボキシ基は、前処理液中において、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
【0027】
本開示で用いることができる有機酸としては、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、オキサル酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、2-オキソグルタル酸、アジピン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピメリン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、4-オキソオクタン二酸等が挙げられる。
中でも、画質、転写抑制性及び前処理液の保存安定性の観点からグルタル酸、ピメリン酸、プロパントリカルボン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸が好ましく、グルタル酸、ピメリン酸、プロパントリカルボン酸がより好ましく、グルタル酸、ピメリン酸がさらに好ましく、グルタル酸が特に好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0028】
前処理液に含まれる有機酸は、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の有機酸であることがより好ましい。
【0029】
有機酸のpKaは、2.5~6.0であることが好ましく、4.0~6.0であることがより好ましい。
有機酸のpKaが2.5以上であることで、前処理液の保存安定性を良好に保持することができ、かつ、転写抑制性を向上させることができる。
また、有機酸のpKaが6.0以下であることで、インクに含まれる顔料の凝集性に優れ、より画質を良好にすることができる。
上記の観点から、有機酸のpKaは3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。
本開示において、pKaは、分子構造からソフトウェアまたは既知の値を用いて算出される値である。たとえば、Marvin Sketch(Chem Axon社製)を用いた計算値として算出することができる。なお、Marvin Sketchでは算出が不可能な場合は、“pKa Data Compiled by R. Williams”に記載の値を用いて部分構造の値を割り当てて算出することができる。
【0030】
有機酸の含有量は、特に制限はないが、インク凝集速度の観点から、前処理液の全質量に対して、1質量%~20質量%が好ましい。有機酸の含有量としては、前処理液の全質量に対して、1.5質量%~10質量%がより好ましく、2質量%~5質量%がさらに好ましい。
【0031】
<樹脂>
本開示の前処理液は、樹脂を含む。これによって、前処理液の付与によって形成される層と非浸透媒体との密着性を向上することができる。
本開示における樹脂は、水溶性樹脂又は水不溶性樹脂のいずれでもよく、水不溶性であることが好ましい。
また、本開示における樹脂は、粒子であることが好ましい。
本明細書中において、「水不溶性」とは、25℃の水100gに対する溶解量が1.0g未満(好ましくは0.5g未満)である性質を指す。また、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して5g以上(好ましくは10g以上)溶解する性質を指す。
樹脂は、1種類の樹脂のみを含んでもよいし、複数の樹脂を含んでもよい。
【0032】
(ガラス転移温度)
本開示において用いられる樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上であることが好ましく、40℃~60℃であることがより好ましい。これによって、樹脂による膜の硬さが向上し、前処理液に含まれる成分(例えば有機酸)の転写を抑制することができる。
本開示において、種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合には、後述するFOX式により求められた値を、樹脂のガラス転移温度という。
本開示において、樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法は、JIS K 7121(1987年)又はJIS K 6240(2011年)に記載の方法に準じて行なう。本明細書におけるガラス転移温度は、補外ガラス転移開始温度(以下、Tigと称することがある)を用いている。
ガラス転移温度の測定方法をより具体的に説明する。
ガラス転移温度を求める場合、予想される樹脂のTgより約50℃低い温度にて装置が安定するまで保持した後、加熱速度:20℃/分で、ガラス転移が終了した温度よりも約30℃高い温度まで加熱し,示差熱分析(DTA)曲線又はDSC曲線を作成する。
補外ガラス転移開始温度(Tig)、すなわち、本明細書におけるガラス転移温度Tgは、DTA曲線又はDSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度として求める。
【0033】
本開示において、種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合、樹脂のTgは下記の方法により求められる。
1つ目の樹脂のTgをTg1(K)、樹脂における樹脂成分の合計質量に対する1つ目の樹脂の質量分率をW1とし、2つ目のTgをTg2(K)とし、樹脂における樹脂成分の合計質量に対する2つ目の樹脂の質量分率をW2とした場合に、樹脂のTg0(K)は、以下のFOX式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)
また、樹脂が3種の樹脂を含むか、含まれる樹脂種の異なる3種の樹脂が前処理液に含有される場合、樹脂のTgは、n個目の樹脂のTgをTgn(K)、樹脂における樹脂成分の合計質量に対するn個目の樹脂の質量分率をWnとした場合に、上記と同様、以下の式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)・・・+(Wn/Tgn)
【0034】
(水接触角)
本開示において用いられる樹脂は、水接触角が20°以上であることが好ましい。これによって、樹脂を疎水的な樹脂に特定することができるため、有機酸との親和性がより向上し、前処理液の転写をより抑制させることができる。
上記の観点から、樹脂は水接触角が25°~45°であることがより好ましい。
【0035】
樹脂の水接触角は、下記の方法により測定する。
測定対象である樹脂を用い、下記組成の水接触角測定用溶液(樹脂が水不溶性である場合は、水接触角測定用分散液)を調製する。その後、調製した水接触角測定用溶液をポリエチレンテレフタレート(PET、FE2001 厚み12μm フタムラ化学(株)製)に液体塗布量で1.7μmになるように塗布し、80℃30秒間乾燥し膜を作製する。作製した膜に対し接触角計ドロップマスターDM700(協和界面科学(株)製)を用いて、JIS R3257に記載の方法に準拠し、1分後の接触角を測定する。液滴量は2μLとする。
【0036】
-水接触角測定用溶液(水接触角測定用分散液)-
・樹脂:固形分として15質量%
・界面活性剤:テイカパワーBN2070M 0.7質量%
・プロピレングリコール:10質量%
・水:残部
また、本開示において、固形分とは、各成分の水、有機溶剤等の溶媒を除いた残部をいう。
種類の異なる複数の樹脂が前処理液に含有される場合、上記水接触角測定用溶液中の各樹脂の含有量は、樹脂の全質量が、上述の固形分として15質量%となるように、前処理液中の各樹脂の含有質量分率に従って決定される。
例えば、前処理液中の樹脂の全質量に対し、第一の樹脂が20質量%、第二の樹脂が80質量%含まれる場合には、上記水接触角測定用溶液には、第一の樹脂を固形分として3質量%、第二の樹脂を固形分として12質量%含有させて測定する。
【0037】
-脂環式構造又は芳香環式構造-
本開示において用いられる樹脂は、ガラス転移温度及び水接触角を向上させる観点から、構造中に脂環式構造又は芳香環式構造を有することが好ましく、芳香環式構造を有することがより好ましい。
上記脂環式構造としては、炭素数5~10の脂環式炭化水素構造が好ましく、シクロヘキサン環構造、ジシクロペンタニル環構造、ジシクロペンテニル環構造、又は、アダマンタン環構造が好ましい。
上記芳香環式構造としては、ナフタレン環又はベンゼン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
脂環式構造又は芳香環式構造の量としては、特に限定されず、樹脂のガラス転移温度及び水接触角が上記範囲内となる量であることが好ましい。中でも、例えば、樹脂100gあたり0.01mol~1.5molであることが好ましく、0.1mol~1molであることがより好ましい。
【0038】
-イオン性基-
本開示に用いられる樹脂は、後述する水分散性を有する樹脂粒子とすることが好ましい観点から、構造中にイオン性基を有することが好ましい。
イオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基、アミノ基、第四級アンモニウム基、又はこれらの塩等が挙げられる。中でも、好ましくは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、又はこれらの塩であり、より好ましくは、カルボキシ基、スルホン酸基、又はこれらの塩であり、更に好ましくは、スルホン酸基又はその塩である。
イオン性基としては、アニオン性基であってもカチオン性基であってもよいが、導入の容易性、画質、密着性及び転写抑制性の観点から、アニオン性基が好ましい。アニオン性基としては、スルホン酸基又はその塩が好ましい。
【0039】
イオン性基の量としては、特に限定されず、樹脂が水分散性を有する樹脂粒子となる量であれば好ましく使用可能であるが、例えば樹脂100gあたり0.001mol~1.0molであることが好ましく、0.01mol~0.5molであることがより好ましい。
【0040】
(含有量)
本開示において用いられる前処理液は、樹脂を、前処理液の全質量に対し、1質量%~25質量%含有することが好ましく、2質量%~20質量%含有することがより好ましく、3質量%~15質量%含有することが更に好ましい。
【0041】
本開示において、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比は、質量基準で0超4未満である。有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が質量基準で0超であることで、樹脂の含有量に対する有機酸の含有量が過大になりすぎず、転写抑制性及び前処理液の保存安定性を向上させることができる。
有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が質量基準で4未満であることで、樹脂の含有量に対する有機酸の含有量が少なくなりすぎず、良好な画質を保持することができる。
上記の観点から、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が、質量基準で0超2未満であることが好ましい。
【0042】
〔樹脂粒子〕
樹脂としては、水溶性の樹脂又は樹脂粒子のいずれも用いることができるが、樹脂粒子であることが好ましい。また、水分散性を有する樹脂粒子がより好ましい。
本開示において、水分散性とは、20℃の水に撹拌後、20℃で60分間放置しても沈殿が確認されないことをいう。
本開示で用いられる樹脂粒子に含まれる樹脂としては、特に制限はないが、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。
樹脂として、上記の樹脂から選ばれる複数の樹脂の複合粒子であってもよい。中でも、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の複合粒子が好ましい。
【0043】
-体積平均粒径-
樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~300nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~150nmであることが更に好ましい。
本開示において、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定する。測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」
(日機装(株)製)が挙げられる。
【0044】
-重量平均分子量-
樹脂粒子の重量平均分子量(Mw)は、1000~300000であることが好ましく、2000~200000であることがより好ましく、5000~100000であることが更に好ましい。
本開示において、重量平均分子量は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCは、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標) Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0045】
-具体例-
樹脂粒子の具体例としては、ペスレジンA124GP、ペスレジンA645GH、ペスレジンA615GE(以上、高松油脂(株)製)、Eastek1100、Eastek1200(以上、Eastman Chemical社製)、プラスコートRZ570、プラスコートZ687、プラスコートZ565、プラスコートRZ570、プラスコートZ690(以上、互応化学工業(株)製)、バイロナール(登録商標)MD1200(東洋紡(株)製)、EM57DOC(ダイセルファインケム社製)、スーパーフレックス300(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0046】
〔水溶性樹脂〕
樹脂は、水溶性樹脂であってもよい。
水溶性樹脂としては特に限定はなく、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリエステル等の公知の水溶性樹脂を用いることができる。
また、水溶性樹脂としては、合成品を用いることができる。
また、水溶性樹脂としては、特開2013-001854号公報の段落0026~0080に記載された水溶性樹脂も好適である。
【0047】
水溶性樹脂の重量平均分子量には特に限定はないが、例えば10,000~100,000とすることができ、好ましくは20,000~80,000であり、より好ましくは30,000~80,000である。
なお、水溶性樹脂の重量平均分子量は上述の方法により測定することができる。
【0048】
<水>
前処理液は、水を含有する。
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。
水の含有量は、前処理液の全質量に対して、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0049】
<水溶性溶剤>
前処理液は、水溶性溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
水溶性溶剤としては、公知のものを特に制限なく用いることができる。
水溶性溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等のアルカンジオールなどの多価アルコール類;特開2011-42150号公報の段落0116に記載の、糖類や糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素原子数1~4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン;等が挙げられる。
中でも、前処理液に含まれる成分の転写の抑制の観点から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体であることが好ましく、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0050】
水溶性溶剤の前処理液における含有量としては、塗布性などの観点から、前処理液全体に対して3質量%~20質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがより好ましい。
【0051】
また、本開示において用いられる前処理液は、基材との密着性の観点から、溶解パラメータ(SP値)が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え10質量%未満であることが好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え5質量%未満であることがより好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないか、又は、前処理液の全質量に対し、SP値が13以下の水溶性有機溶剤の含有量が0質量%を超え2質量%未満であることが更に好ましく、SP値が13以下の水溶性有機溶剤を含まないことが特に好ましい。
本開示におけるSP値は、沖津法(沖津俊直著「日本接着学会誌」29(5)(1993))によって算出するものとする。具体的には、SP値は以下の式で計算されるものである。なお、ΔFは文献記載の値である。
SP値(δ)=ΣΔF(Molar Attraction Constants)/V(モル容積)
また、本開示におけるSP値の単位は(cal/cm3)1/2である。
【0052】
<界面活性剤>
前処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでもよい。
界面活性剤は、表面張力調整剤又は消泡剤として用いることができる。表面張力調整剤又は消泡剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。中でも、インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0053】
界面活性剤としては、特開昭59-157636号公報の第37~38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003-322926号、特開2004-325707号、特開2004-309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0054】
前処理液における界面活性剤の含有量としては特に制限はないが、前処理液の表面張力が50mN/m以下となるような含有量であることが好ましく、20mN/m~50mN/mとなるような含有量であることがより好ましく、30mN/m~45mN/mとなるような含有量であることが更に好ましい。
【0055】
<その他の添加剤>
前処理液は、必要に応じ、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。
前処理液に含有され得るその他の成分としては、固体湿潤剤、コロイダルシリカ、無機塩、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0056】
<前処理液の物性>
前処理液は、インクの凝集速度の観点から、25℃におけるpHが2~4であることが好ましい。
前処理液のpHが2以上であると、非浸透媒体のザラツキがより低減され、画像部の密着性がより向上する。
前処理液のpHが4以下であると、凝集速度がより向上し、非浸透媒体上におけるインクによるドット(インクドット)の合一がより抑制され、画像のザラツキがより低減される。
前処理液のpH(25℃)は、2.5~3.5がより好ましい。
本開示において、pHはpHメーター(型番:HM-31、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて25℃で測定される値である。
【0057】
前処理液の粘度としては、インクの凝集速度の観点から、0.5mPa・s~10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~5mPa・sの範囲がより好ましい。粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0058】
前処理液の25℃における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、30mN/m~45mN/mであることが更に好ましい。前処理液の表面張力が範囲内であると、非浸透媒体と前処理液との密着性が向上する。前処理液の表面張力は、Automatic Surface
Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法によって測定されるものである。
【0059】
<非浸透媒体>
本開示に係る前処理液は、非浸透媒体に付与することにより用いられる。
本開示において非浸透媒体とは、ブリストー法による、接触時間900ms(ミリ秒)における水の吸収量(「900ms吸水量」ともいう。)が4ml/m2未満である媒体をいう。
非浸透媒体は、紙を含まない媒体であり、樹脂基材であることが好ましい。
【0060】
〔樹脂基材〕
非浸透媒体として使用される樹脂基材としては、特に限定されないが、例えば熱可塑性樹脂からなる基材が挙げられる。
樹脂基材としては、例えば、上記熱可塑性樹脂をシート状に成形した基材が挙げられる。
上記樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド又はポリ塩化ビニルを含むことが好ましい。
樹脂基材は、透明な樹脂基材であっても、着色された樹脂基材であってもよいし、少なくとも一部に金属蒸着処理等がなされていてもよい。
本開示に係る樹脂基材の形状は、特に限定されないが、シート状の樹脂基材であることが好ましく、画像記録物の生産性の観点から、シート状の樹脂基材を巻き取ることによりロールが形成可能な樹脂基材であることがより好ましい。
また、本開示に係る前処理液は、前処理液に含まれる成分の転写が抑制される等の観点から、特に、軟包装用の樹脂基材に対する画像記録において好適に使用可能である。
【0061】
上記樹脂基材は、表面処理がなされていてもよい。
表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、インクを付与して画像を記録する前に、予め樹脂基材の表面にコロナ処理を施すと、樹脂基材の表面エネルギーが増大し、樹脂基材の表面の湿潤及び樹脂基材へのインクの接着が促進される。コロナ処理は、例えば、コロナマスター(信光電気計社製、PS-10S)等を用いて行なうことができる。コロナ処理の条件は、樹脂基材の種類、インクの組成等、場合に応じて適宜選択すればよい。例えば、下記の処理条件としてもよい。
・処理電圧:10~15.6kV
・処理速度:30~100mm/s
【0062】
樹脂基材の前処理液が付与される面の水接触角は、10°~150°であることが好ましく、30°~100°であることがより好ましい。
樹脂基材の前処理液が付与される面の表面自由エネルギーは、10mNm-1以上であることが好ましく、30mNm-1以上であることがより好ましい。
【0063】
≪画像記録用基材≫
本開示に係る画像記録用基材は、非浸透媒体を含み、上記非浸透媒体上に樹脂と、上記一般式1で表される化合物である有機酸と、を有し、かつ、上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満である。
本開示に係る画像記録用基材における上記非浸透媒体、上記樹脂、及び上記有機酸は、上述の本開示に係る前処理液における上記非浸透媒体、上記樹脂、及び上記有機酸と同義であり、好ましい態様も同様である。
また、本開示に係る画像記録用基材は、上述の本開示に係る前処理液に含まれる上記界面活性剤、上記その他の添加剤を、上記非浸透媒体上に更に有してもよい。
「非浸透媒体上に有する」とは、非浸透媒体上の少なくとも一部に有していればよく、また、非浸透媒体がシート状の媒体であれば、少なくとも一方の面上に有していればよい。
【0064】
本開示に係る画像記録用基材における、非浸透媒体上の上記樹脂の含有量は、0.01g/m2~1.0g/m2であることが好ましく、0.03g/m2~0.5g/m2であることがより好ましい。
本開示に係る画像記録用基材における、非浸透媒体上の上記有機酸の含有量は、0.01g/m2~1.0g/m2であることが好ましく、0.03g/m2~0.5g/m2であることがより好ましい。
本開示に係る画像記録用基材における、非浸透媒体上の上記水溶性樹脂の含有量は、0.01g/m2~1.0g/m2であることが好ましく、0.03g/m2~0.5g/m2であることがより好ましい。
本開示に係る画像記録用基材における、非浸透媒体上の上記界面活性剤の含有量は、1mg/m2~0.3g/m2であることが好ましく、5mg/m2~0.1g/m2であることがより好ましい。
また、本開示に係る画像記録用基材における、非浸透媒体上の上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比は、質量基準で0超4未満である。これによって、転写をより抑制することができる。
上記と同様の観点から、非浸透媒体上の上記有機酸の含有量に対する上記樹脂の含有量の比は、質量基準で2未満がより好ましい。
【0065】
≪画像記録用基材の製造方法≫
本開示に係る画像記録用基材の製造方法は、非浸透媒体に対し、本開示に係る前処理液を付与する工程(前処理工程)を有する。
【0066】
<前処理工程>
〔前処理液の付与方法〕
前処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、後述する画像記録工程におけるインクジェット法と同様である。
【0067】
本開示における一実施形態としては、非浸透媒体上に、インクを付与する前に、予めインク中の成分を凝集させるため前処理液を付与しておき、非浸透媒体上に付与された前処理液に接触するようにインクを付与して画像化する態様が挙げられる。これにより、インクジェット記録の高速化、高画質化が達成されやすい。
【0068】
前処理液の付与量としては、インクを凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、前処理液の乾燥後の付与量が0.05g/m2以上となる量とすることができる。中でも、前処理液の乾燥後の付与量が0.05g/m2~1.0g/m2となる量が好ましい。
前処理液の乾燥後の付与量が0.05g/m2以上であれば、前処理液に含まれる成分の転写が抑制されやすい。また、前処理液の乾燥後の付与量が1.0g/m2以下であれば、非浸透媒体と樹脂との密着性に優れやすく、画像の剥離が起こりにくい。
【0069】
また、前処理工程において、前処理液の付与前に基材を加熱してもよい。
加熱温度としては、基材の種類や前処理液の組成に応じて適宜設定すればよいが、基材の温度を20℃~50℃とすることが好ましく、25℃~40℃とすることがより好ましい。
【0070】
<表面処理工程>
本開示に係る画像記録用基材の製造方法は、非浸透媒体を表面処理する工程(「表面処理工程」ともいう。)を更に含んでもよい。
表面処理工程としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
<乾燥工程>
本開示に係る画像記録用基材の製造方法は、乾燥工程を含んでもよい。
上記乾燥としては、加熱乾燥が好ましい。
非浸透媒体と前処理液の密着性の観点から、画像の加熱温度は、前処理液に含まれる樹脂のTgよりも高い温度であることが好ましい。
加熱乾燥を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。
画像の加熱乾燥を行うための方法としては、例えば、記録媒体(非浸透媒体)の画像記録面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、記録媒体の画像記録面に温風又は熱風をあてる方法、記録媒体の画像記録面又は画像記録面とは反対側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、これらの複数を組み合わせた方法、等が挙げられる。
【0072】
画像の加熱乾燥時の加熱温度は、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましい。
加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、例えば100℃が挙げられ、90℃が好ましい。
画像の加熱乾燥の時間には特に制限はないが、3秒~60秒が好ましく、5秒~30秒がより好ましく、5秒~20秒が特に好ましい。
【0073】
(画像記録方法)
本開示に係る画像記録方法の第一の態様は、非浸透媒体に対し、本開示に係る前処理液を付与する工程(前処理工程)と、上記非浸透媒体の前処理液が付与された面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程(画像記録工程)と、を有する。
本開示に係る画像記録方法の第二の態様は、本開示に係る画像記録用基材の、樹脂と有機酸とを有する面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する工程(画像記録工程)を有する。
本開示に係る画像記録方法の第一の態様における前処理工程は、上述の本開示に係る画像記録用基材の製造方法における前処理工程と同義であり、好ましい態様も同様である。
本開示に係る画像記録方法の第二の態様における画像記録用基材としては、上述の本開示に係る画像記録用基材の製造方法により予め製造された画像記録用基材を用いてもよいし、購入等の手段により本開示に係る画像記録用基材を入手して用いてもよい。
以下、本開示に係る画像記録方法の第一の態様に含まれる画像記録工程及び第二の態様に含まれる画像記録工程について説明する。
【0074】
<画像記録工程>
本開示に係る画像記録方法の第一の態様は、上記非浸透媒体の上記前処理液が付与された面に、着色剤及び水を含むインク組成物(本明細書中、単に「インク」ともいう。)をインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程を有する。
本工程では、非浸透媒体上に選択的にインクを付与でき、所望の可視画像を記録できる。
【0075】
インクジェット法による画像記録は、エネルギーを供与することにより、所望とする非浸透媒体上にインクを吐出し、着色画像を記録する。なお、本開示に好ましいインクジェット法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法が適用できる。
【0076】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
【0077】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを非浸透媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、非浸透媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に非浸透媒体を走査させることで非浸透媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と非浸透媒体との複雑な走査制御が不要になり、非浸透媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本開示に係る画像記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦性の向上効果が大きい。
【0078】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1pl(ピコリットル)~10plが好ましく、1.5pl~6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効である。
【0079】
〔インク組成物〕
以下、本開示において用いられるインク組成物について説明する。
本開示において用いられるインク組成物は、着色剤及び水を含むことが好ましく、水性インク組成物であることが好ましい。本開示において、水性インク組成物とは、水を、インクの全質量に対し、50質量%以上含むインク組成物をいう。
また、本開示におけるインク組成物は、有機溶剤の含有量が、インク組成物の全質量に対し、50質量%未満であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
更に、本開示におけるインク組成物は、重合性化合物を含まないか、重合性化合物の含有量が0質量%を超え、10質量%以下であることが好ましく、重合性化合物を含まないことがより好ましい。
重合性化合物としては、カチオン性重合性化合物及びラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0080】
-着色剤-
着色剤としては、特に限定されず、インクジェット用インクの分野で公知の着色剤が使用可能であるが、有機顔料又は無機顔料が好ましい。
【0081】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
着色剤としては、特開2009-241586号公報の段落0096~0100に記載の着色剤が好ましく挙げられる。
【0082】
着色剤の含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1質量%~25質量%が好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、5質量%~20質量%が更に好ましく、5質量%~15質量%が特に好ましい。
【0083】
-水-
インク組成物は、水を含有することが好ましい。
水の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0084】
-分散剤-
本開示において用いられるインク組成物は、上記着色剤を分散するための分散剤を含有してもよい。分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
分散剤としては、例えば、特開2016-145312号公報の段落0080~0096に記載の分散剤が好ましく挙げられる。
【0085】
着色剤(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0086】
-樹脂粒子-
本開示におけるインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含有してもよい。樹脂粒子を含有することにより、主にインク組成物の記録媒体(非浸透媒体)への定着性及び耐擦過性をより向上させることができる。また、樹脂粒子は、既述の有機酸と接触した際に凝集又は分散不安定化してインク組成物を増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有する。このような樹脂粒子は、水及び含水有機溶媒に分散されているものが好ましい。
樹脂粒子としては、例えば、特開2016-188345号公報の段落0062~0076に記載の樹脂粒子が好ましく挙げられる。
得られる画像の耐擦性の観点から、インク組成物に含まれる樹脂粒子のTgは、上述の樹脂のTgよりも高いことが好ましい。
【0087】
-水溶性有機溶媒-
本開示に用いられるインク組成物は、水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含有することが好ましい。水溶性有機溶媒は、乾燥防止又は湿潤の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。
また、上記水溶性有機溶媒の1気圧(1013.25hPa)における沸点は、80℃~300℃が好ましく、120℃~250℃がより好ましい。
【0088】
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。このような水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類が挙げられる。
このうち、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
乾燥防止剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。乾燥防止剤の含有量は、インク組成物中に10~50質量%の範囲とするのが好ましい。
【0089】
水溶性有機溶媒は、上記以外にも粘度の調整のために用いられる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶媒の具体例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。この場合も、水溶性有機溶媒は1種単独で用いるほか、2種以上を併用してもよい。
【0090】
-その他の添加剤-
本開示において用いられるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0091】
本開示に係る画像記録方法の第二の態様における画像記録工程は、上記画像記録用基材における、上記樹脂と、上記有機酸と、を含む面に、着色剤及び水を含むインク組成物をインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程を含む。
本開示に係る画像記録方法の第二の態様における画像記録工程の詳細は、本開示に係る画像記録方法の第一の態様における画像記録工程の詳細と同様である。
【0092】
<乾燥工程>
本開示に係る画像記録方法の第一の態様は、乾燥工程を含んでもよい。
乾燥工程は、前処理工程後画像記録工程前、及び、画像記録工程後のいずれか一方又は両方のタイミングで行うことが可能である。
上記乾燥としては、加熱乾燥が好ましい。
非浸透媒体と前処理液の密着性の観点から、画像の加熱温度は、前処理液に含まれる樹脂のTgよりも高い温度であることが好ましい。
インク組成物が樹脂粒子を含む場合、画像の耐擦性の観点から、画像の加熱温度は、樹脂粒子のTgよりも低い温度であることが好ましい。
また、インク組成物が樹脂粒子を含む場合、非浸透媒体と前処理液の密着性と、画像の耐擦性の両立の観点から、画像の加熱温度は、前処理液に含まれる樹脂のTgよりも高く、かつ、インク組成物に含まれる樹脂粒子のTgよりも低い温度であることが好ましい。
画像の加熱乾燥を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。
画像の加熱乾燥を行うための方法としては、例えば、記録媒体(非浸透媒体)の画像記録面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、記録媒体の画像記録面に温風又は熱風をあてる方法、記録媒体の画像記録面又は画像記録面とは反対側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、これらの複数を組み合わせた方法、等が挙げられる。
【0093】
画像の加熱乾燥時の加熱温度は、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましい。
加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、例えば100℃が挙げられ、90℃が好ましい。
画像の加熱乾燥の時間には特に制限はないが、3秒~60秒が好ましく、5秒~30秒がより好ましく、5秒~20秒が特に好ましい。
【0094】
また、本開示に係る画像記録方法の第二の態様は、画像記録工程後に乾燥工程を含んでもよい。上記乾燥工程の詳細は、本開示に係る画像記録方法の第一の態様に含まれる乾燥工程の詳細と同様である。
【0095】
<インクジェット記録装置>
本開示に係る画像記録方法に用いることができる画像記録装置には、特に制限はなく、特開2010-83021号公報、特開2009-234221号公報、特開平10-175315号公報等に記載の公知の画像記録装置を用いることができる。
【0096】
以下、本開示に係る画像記録方法の第一の態様に用いることができる画像記録装置の一例について、
図1を参照して説明する。
次に、本開示に係る画像記録方法の第一の態様を実施するのに好適なインクジェット記録装置の一例を
図1を参照して具体的に説明する。
図1に記載の装置には、前処理液の付与を行う手段が記載されているが、これらの手段を用いないか、又は、これらの手段が省略された装置を用いることにより、本開示に係る画像記録方法の第二の態様を実施することも可能である。
図1は、インクジェット記録装置全体の構成例を示す概略構成図である。
【0097】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、記録媒体(非浸透媒体)の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、前処理液を塗布するローラ材として、アニロックスローラ20及びこれに当接する塗布ローラ22を備えた前処理液付与部12と、付与された前処理液を乾燥させる加熱手段(不図示)を備えた前処理液乾燥ゾーン13と、各種インクを吐出するインク吐出部14と、吐出されたインクを乾燥させるインク乾燥ゾーン15とが配設されている。
【0098】
このインクジェット記録装置に供給された記録媒体は、記録媒体が装填されたケースから記録媒体を供給する供給部11、記録媒体がロール状に巻きつけられたロールから記録媒体を供給する供給部などから、搬送ローラ(
図1中の、例えば搬送ローラ41~46)によって、前処理液付与部12、前処理液乾燥ゾーン13、インク吐出部14、インク乾燥ゾーン15と順に送られて集積部16に集積される。集積部においては、記録媒体をロール状に巻き取ってもよい。搬送は、搬送ローラによる方法のほか、ドラム状部材を用いたドラム搬送方式やベルト搬送方式、ステージを用いたステージ搬送方式などを採用してもよい。
【0099】
複数配置された搬送ローラのうち、少なくとも1つのローラはモータ(不図示)の動力が伝達された駆動ローラとすることができる。モータで回転する駆動ローラを定速回転することにより、記録媒体は所定の方向に所定の搬送量で搬送されるようになっている。
【0100】
前処理液付与部12には、前処理液が貯留された貯留皿に一部を浸漬させて配されたアニロックスローラ20と、アニロックスローラ20に当接された塗布ローラ22と、が設けられている。アニロックスローラ20は、記録媒体の記録面と対向配置された塗布ローラ22に予め定められた量の前処理液を供給するためのローラ材である。アニロックスローラ20から適量が供給された塗布ローラ22によって記録媒体の上に前処理液が均一に塗布されるようになっている。
塗布ローラ22は、対向ローラ24と対をなして記録媒体を搬送可能に構成されており、記録媒体は、塗布ローラ22と対向ローラ24との間を通って前処理液乾燥ゾーン13に送られる。
【0101】
前処理液付与部12の記録媒体搬送方向の下流側には、前処理液乾燥ゾーン13が配置されている。前処理液乾燥ゾーン13は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、記録媒体の前処理液付与面とは反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送機構の下方)にヒータ等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の前処理液付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0102】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら前処理液を付与することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
また、溶媒除去ローラ等を用いて溶媒除去を行なってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を記録媒体から取り除く方式も用いられる。
【0103】
インク吐出部14は、前処理液乾燥ゾーン13の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク吐出部14には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、特色インク(A)、及び特色インク(B)の各色インクを貯留するインク貯留部の各々と繋がる記録用ヘッド(インク吐出用ヘッド)30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bが配置されている。不図示の各インク貯留部には、各色相に対応する顔料と樹脂粒子と水溶性溶剤と水とを含有するインクが貯留されており、画像の記録に際して必要に応じて各インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bに供給されるようになっている。
上記特色インク(A)、及び特色インク(B)としては、ホワイトインク、オレンジインク、グリーンインク、パープルインク、レッドインク、ブルーインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク等が挙げられる。
本開示に係るインクジェット記録装置では、インク吐出用ヘッド30A及び30Bは、省略されていてもよい。また、インク吐出用ヘッド30A及び30Bに加え、その他の特色インク吐出用ヘッドを備えていてもよい。
また、インク吐出用ヘッド30A及び30Bの位置は、
図1中では便宜上イエロー(Y)インク吐出用ヘッド30Yの後に記載してあるが、特に限定されず、特色インクの明度等を考慮して適宜設定すればよい。
例えば、イエローインク吐出用ヘッド30Yとマゼンタインク吐出用ヘッド30Mの間に位置する態様や、マゼンタインク吐出用ヘッド30Mとシアンインク吐出用ヘッド30Cの間に位置する態様等が考えられる。
また、30Bはホワイトインク吐出用ヘッドであることが好ましい。
【0104】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから、それぞれ画像に対応するインクを吐出する。これにより、記録媒体の記録面上に各色インクが付与され、カラー画像が記録される。
【0105】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bはいずれも、記録媒体上に記録される画像の最大記録幅(最大記録幅)にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたフルラインヘッドとなっている。記録媒体の幅方向(記録媒体搬送面において搬送方向と直交する方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行なうシリアル型のものに比べて、記録媒体に高速に画像記録を行なうことができる。本開示においては、シリアル型での記録、又は比較的高速記録が可能な方式、例えば1回の走査で1ラインを形成するシングルパス方式での記録のいずれを採用してもよいが、本開示に係る画像記録方法によればシングルパス方式でも再現性の高い高品位の画像が得られる。
【0106】
ここでは、インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、全て同一構造になっている。
【0107】
前処理液の付与量とインクの付与量とは、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、前処理液とインクとが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、前処理液の付与量を変えてもよい。
【0108】
インク乾燥ゾーン15は、インク吐出部14の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク乾燥ゾーン15は、前処理液乾燥ゾーン13と同様に構成することができる。
【0109】
また、インクジェット記録装置には、供給部から集積部までの搬送路に、記録媒体に加熱処理を施す加熱手段を配置することもできる。例えば、前処理液乾燥ゾーン13の上流側や、インク吐出部14とインク乾燥ゾーン15との間、などの所望の位置に加熱手段を配置することで、記録媒体を所望の温度に昇温させることにより、乾燥、定着を効果的に行なうことが可能である。
【0110】
(インクセット)
本開示に係るインクセットは、着色剤及び水を含むインク組成物、並びに、本開示に係る非浸透媒体用前処理液を含む。
本開示に係るインクセットにおけるインク組成物は、上述の本開示に係る画像記録方法において用いられるインク組成物と同義であり、好ましい態様も同様である。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
本実施例において、pHはpHメーター(型番:HM-31、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて25℃で測定した。
本実施例においてpKaは、分子構造からMarvin Sketch(Chem Axon社製)を用いた計算値として算出した。なお、Marvin Sketchでは算出が不可能な場合は、“pKa Data Compiled by R. Williams”に記載の値を用いて部分構造の値を割り当てて算出した。
本実施例において、体積平均粒径は、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」を用いて測定した。
本実施例において、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標) Super Multipore HZ-H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0113】
(実施例1~実施例11、比較例1~比較例3)
<前処理液の調製>
下記の組成に従って各成分を混合し、各実施例又は比較例における前処理液1~11及び比較用前処理液1~3を調製した。
【0114】
-前処理液の組成-
・樹脂:表1に記載の種類及び量
・有機酸:表1に記載の種類及び量
・有機溶剤:プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬(株)製、SP値=17.2(cal/cm3)1/2)、5質量%
・界面活性剤:オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) 0.1質量%
・消泡材:TSA-739(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、TSA-739(15質量%)、エマルジョン型シリコーン消泡剤)、0.01質量%
・イオン交換水:合計量が100質量%となる量
【0115】
<インク組成物の調製>
下記「マゼンタインクの組成」に記載の各成分を混合し、マゼンタインクを調製した。
また、下記「シアンインクの組成」に記載の各成分を混合し、シアンインクを調製した。
【0116】
<マゼンタインクの組成>
・Projet Magenta APD1000(FUJIFILM Imaging
Colorants社製、マゼンタ顔料分散液、顔料濃度:14質量%):30質量%
・PG(プロピレングリコール):20.0質量%
・オルフィンE1010(界面活性剤、日信化学工業(株)製):1.0質量%
・下記のポリマー粒子B-01(樹脂粒子):8質量%
・イオン交換水:全体で100質量%とした場合の残量
【0117】
<シアンインクの組成>
・Projet Cyan APD1000(FUJIFILM Imaging Colorants社製、シアン顔料分散液、顔料濃度:12質量%):20質量%
・PG(プロピレングリコール;水溶性溶剤):20.0質量%
・オルフィンE1010(界面活性剤、日信化学工業(株)製):1.0質量%
・下記のポリマー粒子B-01(樹脂粒子) 8質量%
・イオン交換水:全体で100質量%とした場合の残量
【0118】
〔ポリマー粒子B-01の合成〕
ポリマー粒子B-01は、以下のようにして作製した。
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン560.0gを仕込んで87℃まで昇温した。次いで反応容器内の還流状態を保ちながら(以下、反応終了まで還流状態を保った)、反応容器内のメチルエチルケトンに対し、メチルメタクリレート220.4g、イソボルニルメタクリレート301.6g、メタクリル酸58.0g、メチルエチルケトン108g、及び「V-601」(富士フイルム和光純薬(株)製の重合開始剤;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート))2.32gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、1時間撹拌した後に、この1時間撹拌後の溶液に対し、下記工程(1)の操作を行った。
工程(1) … 「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加え、2時間撹拌を行った。
【0119】
続いて、上記工程(1)の操作を4回繰り返し、次いで、さらに「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加えて3時間撹拌を続けた(ここまでの操作を、「反応」とする)。
反応終了後、溶液の温度を65℃に降温し、イソプロパノール163.0gを加えて放冷することにより、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=38/52/10[質量比])共重合体を含む重合溶液(固形分濃度41.0質量%)を得た。
上記共重合体は、重量平均分子量(Mw)が63000であり、酸価が65.1(mgKOH/g)であった。
【0120】
次に、得られた重合溶液317.3g(固形分濃度41.0質量%)を秤量し、ここに、イソプロパノール46.4g、20質量%無水マレイン酸水溶液1.65g(水溶性酸性化合物、共重合体に対してマレイン酸として0.3質量%相当)、及び2モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液40.77gを加え、反応容器内の液体の温度を70℃に昇温した。
次に、70℃に昇温された溶液に対し、蒸留水380gを10ml/分の速度で滴下し、水分散化を行った(分散工程)。
その後、減圧下、反応容器内の液体の温度を70℃で1.5時間保つことにより、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で287.0g留去した(溶剤除去工程)。得られた液体に対し、プロキセルGXL(S)(アーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)製)を0.278g(ポリマー固形分に対してベンゾイソチアゾリン-3-オンとして440ppm)添加した。
得られた液体を、1μmのフィルターでろ過し、ろ液を回収することにより、固形分濃度26.5質量%のポリマー粒子B-01の水性分散物を得た。
【0121】
(評価)
<前処理液に含まれる成分の転写(ブロッキング)の評価>
各実施例又は比較例において、ポリエステルフィルム、FE2001(樹脂基材、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フタムラ化学(株)製、厚み25μm)を500mm/秒で搬送し、表1に記載の前処理液をワイヤーバーコーターで約1.7g/m2(液体塗布量;乾燥塗布量として0.1g/m2~0.2g/m2)となるように塗布し、膜面温度が80℃の温風で20秒間乾燥後、面圧が50kPaになるようにロール状に巻取り、室温(25℃)で1日間放置した。その後巻取りをほどき、塗布面が接触した基材裏面への前処理液の転写の有無を目視により確認し、また、下記測定方法に従い転写量を評価した。
具体的には、巻き取った基材から、巻取りの終端部から長さ方向に1000mの位置にA4サイズ(樹脂基材の長さ方向に29.7cm、樹脂基材の幅方向に21cm)の長方形状の領域を切り出し、切り出した基材における前処理液に含まれる成分の転写量を下記方法により測定し、転写量の算術平均値を算出した。
長さ方向の切り出し位置は、上記1000mの位置でA4サイズの領域の長さ方向の中心となるようにした。
幅方向の切り出し位置は、切り出したA4サイズの領域の幅方向の中心が、基材の幅方向の中心となるようにした。
【0122】
〔転写量の測定方法〕
FABES Forschungs社製MigraCell(登録商標) MC150を用いて測定を行った。
具体的には、上述の切り出した長方形状の基材を、前処理液塗布面の逆側の面が抽出面となるように、MC150にセットし、溶媒(メタノール/水=1:1(体積比))を20mL加えて蓋をして1日間放置した。セットした位置は、上記長方形状の基材の中央とMC150における抽出領域の中央とが目視で重なる位置とした。
上記放置の終了後に、溶媒を取り出し乾燥させた溶媒の乾燥物の質量を抽出面積(2.0dm2)で除算することにより樹脂基材の単位面積当たりの抽出量(転写量、mg/dm2)を算出した。
【0123】
-評価基準-
評価基準は下記1~5の5段階評価とし、評価結果は表1に記載した。
5:転写は視認できず、転写量が0.01mg/dm2以下であった。
4:転写は視認できず、転写量が0.01mg/dm2を超え、0.5mg/dm2以下であった。
3:転写は視認できず、転写量が0.5mg/dm2を超え、5mg/dm2以下であった。
2:部分的に転写物が視認できた。
1:全面に転写物が視認できた。
【0124】
<画質の評価>
各実施例又は比較例において、非浸透媒体としてポリエステルフィルム、FE2001(樹脂基材、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フタムラ化学(株)製、厚み25μm)を用い、表1に記載の前処理液をワイヤーバーコーターで約1.7g/m
2となるように塗布し、50℃で2秒間乾燥させた。その後、上記のマゼンタインク及びシアンインクを用いて下記の画像記録条件により、
図2に記載の文字(unicode:U+9DF9)を2pt、3pt、4pt、5ptにてそれぞれ出力し、下記評価基準により評価した。ptはフォントサイズを表すDTP(Desktop Publishing)ポイントを意味し、1ptは1/72inchである。評価結果は表1に記載した。
【0125】
〔画像記録条件〕
・ヘッド:1,200dpi(dot per inch、1 inchは2.54cm)/20inch幅ピエゾフルラインヘッドを4色分配置したヘッドを用いた。
・吐出液滴量:各2.4pLとした。
・駆動周波数:30kHz(基材搬送速度635mm/秒)とした。
-評価基準-
5: 2pt文字が再現可能であった。
4: 3pt文字が再現可能であったが、2ptの文字は再現できなかった。
3: 4pt文字が再現可能であったが、3pt以下の文字は再現できなかった。
2: 5pt文字が再現可能であったが、4pt以下の文字は再現できなかった。
1: 5pt文字が再現できなかった。
なお、上記「再現可能」とは、0.5m離れた場所から目視して、
図2に記載の文字のうち、
図3に記載の符号111で表される横線と、
図3に記載の符号112で表された横線とが、それぞれ分離して記録されていることが確認できることをいう。
【0126】
<保存安定性の評価>
上記で得られた前処理液を30mlポリエチレン製ボトルに25g入れ、次いでこのポリエチレン製ボトルを、50℃に設定した恒温槽中で2週間保存した。
上記保存の前後において前処理液の粘度を測定し、下記式に従ってΔ粘度を算出した。
Δ粘度(%)=((50℃2週間保存後の前処理液の粘度)-(保存前の前処理液の粘度))×100/(保存前のインクの粘度)
【0127】
粘度の測定は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて、前処理液の温度25℃の条件で行った。
【0128】
得られたΔ粘度に基づき、以下の評価基準により、保存安定性を評価した。
Δ粘度が小さいほど、前処理液の保存安定性に優れることを示す。また、Δ粘度が大きいほど、前処理液の保存安定性に劣る。
【0129】
-評価基準-
5: Δ粘度 ≦ 5%
4: 5% < Δ粘度 ≦ 10%
3: 10% < Δ粘度 ≦ 15%
2: 15% < Δ粘度 ≦ 25%
1: 25% < Δ粘度
【0130】
【0131】
表1中、各成分の添加量(質量%)は、各成分の固形分量を表す。また、「樹脂/有機酸」比は、質量基準である。
表1中、「-」は、該当する成分が含まれないことを表す。また、表1に記載の略語の詳細は下記の通りである。
・A615GE:ペスレジンA615GE(高松油脂(株)製、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の複合粒子、体積平均粒径40nm)
・A-1:下記合成方法により得られた水溶性樹脂(アクリル樹脂)
・SF300:スーパーフレックス300(第一工業製薬(株)製、ポリウレタン樹脂、体積平均粒径15nm)
【0132】
(A-1の合成)
撹拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(62質量%水溶液、東京化成工業社製)1.5gと水310gを加え、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。加熱された三口フラスコ中の混合溶液に、水20gに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPSANa)の50質量%水溶液(Aldrich社製)79.7gを溶解した溶液Aと、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA;富士フイルム和光純薬社製)6.9g及びスチレン(St;富士フイルム和光純薬社製)15.4gを混合した溶液Bと、水40gに過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)6.0gを溶解した溶液Cと、を3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、さらに3時間反応させることにより、水溶性樹脂A-1の水溶液(水溶性樹脂の固形分量:10質量%)410gを合成した。
水溶性樹脂A-1の重量平均分子量は、15000であった。
【0133】
表1に示す通り、有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が、質量基準で0超4未満であり、有機酸が一般式1で表される化合物である実施例は、画質、転写及び保存安定性のすべてに優れていた。
中でも、l+m+nが3~5である実施例1~実施例5は、l+m+nが2である実施例6と比較して、より転写の発生が抑えられていた。
一般式1のmが0であり、かつ、R1~R4が水素である実施例1~実施例5は、mが1であるか、又は、R1~R4が水素でない実施例8及び実施例9と比較して、転写及び保存安定性により優れていた。
pKaが4.0~5.0の範囲にある、実施例1~実施例7は、pKaが4.0より小さい実施例8及び実施例9と比較して、保存安定性により優れていた。
樹脂が粒子である実施例1は、樹脂が粒子でない実施例11と比較して、転写により優れていた。
樹脂がアニオン性基であるスルホン酸基を有する実施例1は、樹脂がアニオン性基を有しない実施例10と比較して、転写により優れていた。
前処理液のpHが2~3の範囲にある実施例1~8、10、及び11は、実施例9と比較して、転写及び保存安定性に優れていた。
一方、樹脂が一般式1に該当しない比較例1は、転写及び保存安定性が劣っていた。有機酸の含有量に対する樹脂の含有量の比が質量基準で4以上である比較例2及び比較例3は、画質劣っていた。
【符号の説明】
【0134】
11 供給部
12 前処理液付与部
13 前処理液乾燥ゾーン
14 インク吐出部
15 インク乾燥ゾーン
16 集積部
20 アニロックスローラ
22 塗布ローラ
24 対向ローラ
30K、30C、30M、30Y、30A、30B インク吐出用ヘッド
41,42,43,44,45,46 搬送ローラ
111 11画目
112 12画目