(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】撹拌装置および撹拌翼の摩耗判断方法
(51)【国際特許分類】
B01F 35/212 20220101AFI20220614BHJP
B01F 27/113 20220101ALI20220614BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20220614BHJP
C22B 23/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
B01F35/212
B01F27/113
B01F23/50
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2017206959
(22)【出願日】2017-10-26
【審査請求日】2020-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晃徳
(72)【発明者】
【氏名】河野 弘明
(72)【発明者】
【氏名】宮内 正道
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健一
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-072650(JP,A)
【文献】特公昭50-040021(JP,B1)
【文献】特開平07-256078(JP,A)
【文献】特開昭62-043538(JP,A)
【文献】特開平08-108171(JP,A)
【文献】実開昭57-035827(JP,U)
【文献】特開2000-185223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-35/95
C22B 23/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状物を撹拌する撹拌翼と、
該撹拌翼を備えた撹拌軸と、
該撹拌軸の回転動作を制御する制御部と、
前記撹拌軸を回転させる原動機を含むとともに、前記撹拌軸を反応容器の外側で支持する外側構成部と、
前記外側構成部の外表面の複数の位置をそれぞれ測定する複数の測定器と、が備えられており、
前記測定器のいずれもが、変位計であり、
前記変位計のいずれもが、基礎部に固定されており、
前記基礎部のいずれもが、前記外側構成部の振動が伝わらないように構成されて
おり、
前記測定器のうち少なくとも1つが、前記撹拌軸の軸側面方向において、前記原動機が位置する、前記外側構成部の外表面を測定している、
ことを特徴とする撹拌装置。
【請求項2】
複数の前記測定器のうち少なくとも2つが、
前記撹拌軸の軸方向の異なる位置を測定するように設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記変位計が接触式変位計である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記変位計が非接触式変位計である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記測定器による測定値を表示する表示部が備えられ、
前記制御部が、前記表示部に前記測定値を表示させる、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の撹拌装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記測定器で測定した測定値が、
あらかじめ定められた値を超えたときに前記撹拌軸の回転を停止させる、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌装置および撹拌翼の摩耗判断方法に関する。さらに詳しくは、容器に貯留された液状物を撹拌する撹拌翼が備えられた撹拌装置、およびこの撹拌翼の摩耗判断法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ニッケルとコバルトの混合硫化物(Mixed Sulfide、以下本明細書ではMSと称することがある)を製造するためのニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法で使用されているオートクレーブが開示されている。このオートクレーブ内では、内部に貯留された液状物であるスラリーが、撹拌機により撹拌されることで、内部で行われる浸出反応が促進されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示されている撹拌機は、容器の上部から垂下した撹拌軸を備え、この撹拌軸には、スラリーを撹拌するための撹拌翼が備えられている。この撹拌機が、長期間にわたり使用された場合、スラリー内の固体粒子により撹拌翼が摩耗する。この摩耗により撹拌翼がアンバランスとなり、このアンバランスにより撹拌軸を駆動するための減速機などを収めた駆動部分に振動が生じ、そのまま運転を継続すると駆動部分を固定するための容器の蓋上部の支持部分と駆動部分の接合部に亀裂や破損が発生する。さらには支持部分、すなわち撹拌機が備えられているオートクレーブの台座の溶接部に振動による繰返し応力がかかるため、高圧容器であるオートクレーブが破損する可能性もある。
特許文献1で開示されたオートクレーブはニッケル酸化鉱石を原料としたHPAL法に用いられるものであるが、それとは別に、上記MSを原料とした加圧浸出法による硫酸ニッケルの製造プロセスにオートクレーブが用いられている。MSを原料として硫酸ニッケルを製造するプロセスでは、原料を含むスラリーをオートクレーブに装入し、空気との反応により原料中の金属を加圧浸出する。オートクレーブ内でスラリーを撹拌するのにタービン翼が用いられる。
一般に、金属含有固形物を含むスラリーなど、摩耗性を有するスラリーを撹拌するには、パドル翼が用いられる。一方、気液反応の場合にはタービン翼が用いられる。タービン翼は液体を回転軸近傍から吸引して半径方向外側に吐出する流れを形成する。タービン翼の回転軸近傍に反応用の気体を供給すれば、その気体は微細化され、液体中に分散する。これにより、気液接触面積が増加して反応効率が向上する。
タービン翼でスラリーを撹拌すると、スラリーに含まれる固形分との摩擦によりタービン翼が摩耗する。そのため、タービン翼の補修や交換を頻繁に行う必要がある。しかも、タービン翼は気体をせん断するために、パドル翼に比べて高速回転で運転される。そのため、タービン翼はより摩耗しやすい環境にある。
このように、オートクレーブに摩耗しやすい気液反応用のタービン翼を有する攪拌機が備わっている場合、撹拌翼の摩耗はより深刻な問題を引き起こす。すなわち、破損に至らない場合でも、撹拌翼の摩耗により撹拌が正常に行われず、オートクレーブ内の反応が正常に行われないという問題がある。
さらに、撹拌機の撹拌翼は、一般的に目視できないスラリーの中で稼働しているため、摩耗を直接確認するためには、容器の中にあるスラリーを排出して開放する必要があるなど、確認作業のためだけに、撹拌機が使用されている容器の操業を停止する必要がある。この停止により、生産能力が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、撹拌装置の運転者が、操業を停止することなく、その撹拌翼の摩耗状態を知ることができる撹拌装置、および撹拌翼の摩耗判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の撹拌装置は、液状物を撹拌する撹拌翼と、該撹拌翼を備えた撹拌軸と、該撹拌軸の回転動作を制御する制御部と、前記撹拌軸を回転させる原動機を含むとともに、前記撹拌軸を反応容器の外側で支持する外側構成部と、前記外側構成部の外表面の複数の位置をそれぞれ測定する複数の測定器と、が備えられており、前記測定器のいずれもが、変位計であり、前記変位計のいずれもが、基礎部に固定されており、前記基礎部のいずれもが、前記外側構成部の振動が伝わらないように構成されており、前記測定器のうち少なくとも1つが、前記撹拌軸の軸側面方向において、前記原動機が位置する、前記外側構成部の外表面を測定していることを特徴とする。
第2発明の撹拌装置は、第1発明において、複数の前記測定器のうち少なくとも2つが、前記撹拌軸の軸方向の異なる位置を測定するように設けられていることを特徴とする。
第3発明の撹拌装置は、第1発明または第2発明において、前記変位計が接触式変位計であることを特徴とする。
第4発明の撹拌装置は、第1発明または第2発明において、前記変位計が非接触式変位計であることを特徴とする。
第5発明の撹拌装置は、第1発明から第4発明のいずれかにおいて、前記測定器による測定値を表示する表示部が備えられ、前記制御部が、前記表示部に前記測定値を表示させることを特徴とする。
第6発明の撹拌装置は、第1発明から第5発明のいずれかにおいて、前記制御部は、前記測定器で測定した測定値が、あらかじめ定められた値を超えたときに前記撹拌軸の回転を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、撹拌装置が、撹拌軸の外側構成部の外表面の位置を測定する測定器を備えていることにより、撹拌翼の摩耗により生じる、外側構成部の振動を検知することができ、撹拌装置を停止することなく撹拌翼の摩耗状態を把握できる。撹拌翼の摩耗状態を把握できるので、撹拌が正常に行われているかどうかを判断でき、また、摩耗状態の確認のために操業を停止する必要がなくなる。これにより生産能力を向上させることができる。
また、測定器が変位計であることにより、測定された加速度の値から変位を積分で求める必要がなくなり、より低周波の振動を覚知できる。
加えて、変位計が基礎部に支持され、この基礎部が、撹拌装置の外側構成部の振動が伝わらないように構成されていることにより、外側構成部の変位の測定の精度が向上し、高精度に撹拌翼の摩耗状況を把握できる。
第3発明によれば、変位計が接触変位計であることにより、測定器を安価にできるので、撹拌装置のコストを抑えることができる。
第4発明によれば、変位計が非接触式変位計であることにより、変位に合わせて動作する測定子がないので、特に高周波領域で、振動を正確に把握できる。
第5発明によれば、測定値を表示する表示部が備えられていることにより、撹拌装置の運転者が容易に振動の状況を確認できる。
第6発明によれば、制御部が、測定値があらかじめ定められた値を超えたときに撹拌軸の回転を停止させることにより、撹拌翼の摩耗が大きくなり振動が大きくなり過ぎる前に撹拌軸を停止でき、撹拌装置の破損を自動的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る撹拌装置の要部説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る撹拌装置の正面図である。
【
図3】図(A)は、
図2の撹拌装置の撹拌翼の平面図である。図(B)は図(A)の撹拌翼のB-B矢視断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る撹拌装置の要部説明図である。
【
図6】実施例における撹拌装置での測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。まず、本実施形態の撹拌装置が用いられている反応容器について説明した後、第1実施形態および第2実施形態の撹拌装置について説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための撹拌装置を例示するものであって、本発明は撹拌装置を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0010】
〔反応容器〕
図2に示すように、本発明に係る撹拌装置10は、オートクレーブなどの反応容器40に設けられることがある。本発明に係る撹拌装置10は、反応容器40内の液状物を撹拌するために用いられる。液状物とは、液体単体を含む液体状物質を意味し、金属含有固形物を含むスラリー41などを含む。本発明に係る撹拌装置10は、摩耗性を有する液状物を撹拌するのに好適に用いられる。この撹拌装置10は、特に、金属含有固形物を含むスラリー41に、酸化剤として空気、酸素、酸素富化空気、塩素ガスなどの気体を吹き込んで、固形物に含まれる金属を液中に浸出させる工程において、スラリー41を撹拌するのに好適に用いられる。ここで、「金属含有固形物」とは金属を含有する鉱物などを意味する。なお、
図2では、後述する測定器30については記載を省略している。
【0011】
撹拌装置10が用いられている工程の例として、ニッケルを含む硫化物、例えばニッケルとコバルトの混合硫化物を原料として硫酸ニッケルを製造するプロセスにおける加圧浸出工程が挙げられる。このプロセスでは、原料を水およびニッケル水溶液でレパルプして得た原料スラリーを加圧浸出工程に供給する。加圧浸出工程では原料スラリーをオートクレーブに供給し、原料スラリーに空気を吹き込みつつ、高温高圧下で原料に含まれるニッケルなどの金属を空気との反応により液中に浸出させる。オートクレーブから排出されたスラリーは降圧、冷却された後、不純物が除去され、硫酸ニッケル水溶液または硫酸ニッケル結晶が得られる。
【0012】
反応容器40にはスラリー41を撹拌する撹拌装置10が設けられている。撹拌装置10は、液状物であるスラリー41を撹拌する撹拌翼12と、この撹拌翼12を備えた撹拌軸11と、この撹拌軸11を、反応容器40の外側で回転自在に支持する外側構成部14とを含んで構成されている。
【0013】
反応容器40には原料となるスラリー41に空気を吹き込む配管42が設けられている。配管42の端部は撹拌翼12の直下に配置されている。そのため、空気は撹拌翼12の直下に吹き込まれる。
【0014】
撹拌装置10を動作させると、撹拌翼12が回転し、原料となるスラリー41を撹拌できる。また、配管42から供給された空気が撹拌翼12の回転により微細化され、原料となるスラリー41中に分散する。これにより、浸出反応が促進され、原料に含まれる金属が液中に浸出する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1には、本発明の第1実施形態に係る撹拌装置10の要部説明図を示す。撹拌装置10を構成する外側構成部14は、撹拌軸11を反応容器40の外側で支持するとともに、撹拌軸11を駆動するための回転装置17などの機械要素を含んで構成されている。回転装置17は、誘導電動機と、インバータとを含んで構成されており、インバータにより回転数が制御され、立ち上げ立ち下げ時に撹拌軸11などに過大な負荷がかからないようになっている。この回転装置17を構成する誘導電動機の回転数は、減速機18により減速されている。そして、減速機18の回転は、チェーンカップリングなどの継手19により撹拌軸11に伝達されている。反応容器40は、撹拌翼12を直接確認することが不可能な密閉容器、または直接確認が困難な開放容器である。このような容器である場合、本実施形態の撹拌装置10を好適に用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る撹拌装置10は、外側構成部14の外表面の位置を測定する測定器30を含んで構成されている。測定器30は、本実施形態では変位計であるダイヤルゲージ31である。このダイヤルゲージ31は基礎部33により支持されている。なお、位置を測定する測定器30は、外側構成部14の外表面の位置を測定できるものであれば特に限定されない。例えば、測定器30には、加速度計から得られた加速度の値を2回積分して変位とする振動計、または変位計が含まれる。また変位計には本実施形態で用いた接触式変位計であるダイヤルゲージ31、または非接触式のレーザ変位計32(
図5参照)もしくは渦電流式変位計などが含まれる。
【0017】
測定器30が変位計、すなわち加速度計から得られた加速度の値を2回積分して変位とする振動計ではないことから、積分が困難になる低周波領域の振動を覚知できる。また、変位計が接触変位計であることにより、測定器30を安価にできるので、撹拌装置10のコストを抑えることができる。
【0018】
本実施形態では、測定器30は、外側構成部14の水平方向の振動を3カ所測定するとともに、外側構成部14の鉛直方向の振動を1カ所測定している。具体的には、水平方向の3カ所は、もっとも高い場所が誘導電動機の外表面、次に高い場所が継手19の水平位置に当たる部材の外表面、もっとも低い場所が、撹拌軸11のための軸受の水平位置に当たる部材の外表面である。これらは、撹拌翼12がアンバランスとなった際に振動が発生すると予想される個所である。また、鉛直方向は、減速機18等が固定されている部材の外表面である。この測定器30の個数、または測定箇所は任意であり、水平方向または鉛直方向のみが測定されている場合、または水平方向の1カ所のみが測定されている場合もある。
【0019】
ダイヤルゲージ31を支持している基礎部33は、例えばマグネットベースである。ダイヤルゲージ31は、複数のスチールロッドを介して基礎部33に固定されている。反応容器40から独立して立設された作業座等の構造部から、共通の支柱を立てて、その支柱から適宜な位置にアームを伸ばすようにしても良い。そして基礎部33は、撹拌装置10を構成する外側構成部14から振動が伝わらないように構成されている。
【0020】
「振動が伝わらないように構成されている」とは、外側構成部14が振動していても基礎部33が振動しないことを意味する。例えば反応容器40が建屋から独立して立設されている場合は、反応容器40が撹拌装置10の回転により振動したとしても、この反応容器40が備えられている建屋は振動しない。この場合、基礎部33が建屋の柱などに固定されている場合は、「振動が伝わらないように構成されている」状態となる。また、基礎部33が吸振用部材を介して反応容器40に固定されているような場合は、「振動が伝わらないように構成されている」状態となる。
【0021】
測定器30を支持する基礎部33が、撹拌装置10の外側構成部14と振動が伝わらないように構成されていることにより、外側構成部14の位置の測定の精度が向上し、高精度に撹拌翼12の摩耗状況を把握できる。
【0022】
つぎに、
図3により、本発明の第1実施形態に係る撹拌装置10を構成する撹拌翼12を説明する。
図3(A)は撹拌装置10の撹拌翼12平面図であり、
図3(B)は、
図3(A)のB-B矢視での撹拌翼12の断面図である。本実施形態の撹拌翼12はタービン型であり、固定部20、円盤部21、複数の翼板22などを含んで構成されている。これら各構成部材の母材は特に限定されないが、例えばステンレス鋼である。
【0023】
固定部20は撹拌装置10の撹拌軸11に固定される部材である。固定部20が撹拌軸11に固定されることにより、撹拌翼12が撹拌軸11に取り付けられる。固定部20は円筒形の部材である。固定部20の内部に撹拌軸11の先端部が挿入され、固定部20が撹拌軸11に固定される。
【0024】
固定部20の撹拌軸11への固定手段は特に限定されない。例えば、固定部20と撹拌軸11との双方に形成された凹状のキー溝に、角柱状のキーが差し込まれる。これにより、固定部20が撹拌軸11に対して回り止めされる。また、固定部20と撹拌軸11とを割りピンにより固定すれば、固定部20が撹拌軸11に対して軸方向にずれないよう固定される。
【0025】
円盤部21は円形平板状の部材である。また、翼板22は矩形平板状の部材である。複数の翼板22が円盤部21の半径方向に沿って放射状に設けられている。複数の翼板22は撹拌翼12の重量バランスがとれるように等角度間隔で設けられる。翼板22の数は特に限定されないが、本実施形態の撹拌翼12は6つの翼板22を有する。
【0026】
翼板22は円盤部21の外周部に、円盤部21と交差するよう設けられている。すなわち、翼板22は固定部20から離間した位置に配置されている。また、翼板22は円盤部21を貫通して設けられている。
【0027】
翼板22は円盤部21の上下面に対して傾斜して設けられている。すなわち、撹拌翼12は傾斜タービン型である。翼板22と円盤部21とのなす角は特に限定されないが、例えば45°である。
【0028】
撹拌翼12は
図3に示す矢印の方向に回転する。すなわち、撹拌翼12は平面視において時計回りに回転する。なお、撹拌翼12の回転方向はこの逆(平面視において反時計回り)でもよい。
【0029】
本実施形態の撹拌翼12には耐摩耗加工が施されている場合がある。耐摩耗加工は、例えば、耐摩耗材を溶射することで行われる。
図2、
図3においてドットでハッチングされた領域に耐摩耗層が形成されている。
【0030】
耐摩耗材としては特に限定されないが、耐摩耗合金、セラミックスなどが挙げられる。耐摩耗合金としてコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金が挙げられる。このような合金はステライト(登録商標)として知られている。耐摩耗材としてコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金を用いれば、十分な耐摩耗性が得られる。翼板22には、翼板22の回転方向を向いた面の全体、外縁、および一対の側縁などに耐摩耗層が形成されている。なお耐摩耗加工は施されない場合もある。
【0031】
図4に、本実施形態に係る撹拌装置10の制御ブロック図を示す。撹拌装置10には、撹拌軸11の回転動作を制御する制御部15が備えられている。この制御部15からの出力信号により、回転装置17は回転させられる。回転装置17は、本実施形態では誘導電動機とインバータとを含んで構成されており、制御部15からの出力信号にしたがってインバータが、その出力信号に対応した周波数を出力し、誘導電動機が回転する。
【0032】
制御部15には、測定器30からの出力信号が入力される。本実施形態では測定器30の測定部はダイヤルゲージ31であり、ダイヤルゲージ31内のスピンドルの直線動作の動作量に対応した電圧値がダイヤルゲージ31から出力される。
【0033】
制御部15には、表示部16が電気的に接続されている。例えば表示部16は、液晶画面であり、制御部15からの信号により、測定器30の測定結果を表示する。測定結果の表示方法は特に限定されないが、例えば、数秒おきに発生する振幅の最大値を数値で表示したり、振幅の最大値をグラフで表示したりする方法がある。
【0034】
測定値を表示する表示部16が備えられていることにより、撹拌装置10の運転者が容易に振動の状況を確認できる。
【0035】
第1実施形態の撹拌装置10の使用方法について説明する。撹拌装置10の運転者は、
図2で示された反応容器40に、
図1で示すように測定器30を設定する。撹拌装置10の運転者は、図示していない入力部から制御部15に撹拌軸11の回転信号を出力し、制御部15が撹拌軸11を運転者の指令通りに動作させ、反応容器40内の液状物を撹拌する。表示部16は、測定器30の測定数値が表示され、運転者は表示部16により撹拌装置10の外側構成部14の振動の大きさを覚知し、その数値により撹拌翼12が摩耗しているか否かを判断することができる。
【0036】
本実施形態の撹拌装置10では、制御部15は、測定器30で測定した測定値があらかじめ定められた値を超えたときに、回転装置17に向けて回転停止の指令を出力し、撹拌軸11の回転を停止させることができる。このあらかじめ定められた数値は、運転者が適宜決定することができるが、例えば、回転初期時の振動の値を2倍にした値などをあらかじめ定められた値とすることができる。
【0037】
例えば、複数ある測定器30からの測定信号を、1秒などのサンプリング周期で制御部15が受け、この測定信号を数分間の間で平均化する。複数ある測定器30のうち、もっとも値が大きくなる測定器30の値を判断の基準とし、もっとも値が大きくなる測定器30の平均値があらかじめ定められた値を超えると、撹拌翼12の摩耗が進んでいるとして、制御部15が回転装置17の回転を停止させる。
【0038】
制御部15が、測定値があらかじめ定められた値を超えたときに撹拌軸11の回転を停止させることにより、撹拌翼12の摩耗が大きくなり振動が大きくなり過ぎる前に撹拌軸11を停止でき、撹拌装置10の破損を自動的に防止できる。
【0039】
本実施形態に係る撹拌装置10によれば、撹拌装置10が撹拌軸11の外側構成部14の外表面の位置を測定する測定器30を備えていることにより、撹拌翼12の摩耗により生じる、外側構成部14の振動を検知することができ、操業を停止することなく、撹拌翼12の摩耗状態を把握できる。撹拌翼12の摩耗状態を把握できるので、撹拌が正常に行われているかどうかを判断でき、また、摩耗状態の確認のために操業を停止する必要がなくなる。これにより生産能力を向上させることができる。
【0040】
〔第2実施形態〕
図5には、本発明の第2実施形態に係る撹拌装置10の要部説明図を示す。第1実施形態の撹拌装置10との相違点は、測定器30の種類が異なる点である。第2実施形態に係る撹拌装置10では、変位計としてレーザ変位計32が用いられている。レーザ変位計32は、三角測距を検出原理としたセンサであり、受光素子にPSDまたはCMOSなどを使用したものが挙げられる。測定箇所は、第1実施形態と同じく4カ所であるが、特にこれに限定されることはない。
【0041】
測定器30である変位計が非接触式変位計であることにより、変位に合わせて動作する測定子がないので、特に高周波領域で、振動を正確に把握できる。
【0042】
〔実施例〕
撹拌装置10の運転者は、撹拌装置10を、MSを原料として硫酸ニッケルを製造するプロセスにおける、空気との反応により原料中の金属を加圧浸出するためのオートクレーブに備えつけ、測定器30を
図1で示したようにセットした。変位計はダイヤルゲージ31である。
【0043】
オートクレーブ内は、内部温度150~200℃、内部圧力1.5~2.0MPaの高温高圧とし、撹拌装置10の撹拌翼12の回転数は150~200rpmとした。また撹拌翼12の材質は、母材がステンレス鋼とし、耐摩耗処理を施した。
【0044】
撹拌装置10の運転者は、この状態の運転を約2か月行い、1時間毎に5分間の間で測定した全振幅の値の1日平均値を記録した。全振幅は、測定時間における最大値と最小値との差である。この記録データのうち、
図1の最上部のものを
図6に示した。
図6の縦軸は全振幅、横軸は経過日数である。経過日数が35日を超えたあたりから振幅が増え始めているのが分かる。55日の運転後に、反応容器40から撹拌装置10の撹拌翼12を取り出したところ、翼板22や円盤部21の外周等に摩耗があり、撹拌翼12の交換が必要な状態であった。
【符号の説明】
【0045】
10 撹拌装置
11 撹拌軸
12 撹拌翼
14 外側構成部
15 制御部
16 表示部
30 測定器
31 ダイヤルゲージ
32 レーザ変位計
33 基礎部
40 反応容器