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特許7087349リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220614BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220614BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALN20220614BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220614BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017217552
(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公開番号】P2019091531
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼介
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143490(JP,A)
【文献】特開2008-103204(JP,A)
【文献】特開2017-084513(JP,A)
【文献】特開2017-188211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物の酸素以外の成分は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、
前記被覆層はTi化合物を含み、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたりのTi量は、7.0μmol以上60μmol以下であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb))の商は、0.07以上0.30以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質全体100質量%とした炭素含有量は、0.05質量%以上0.40質量%以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記炭素含有量は、0.08質量%以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物の比表面積が0.1m/g以上1.0m/g以下である、請求項1~4の何れか1項に記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を持つ層状岩塩型化合物粒子である請求項1~5の何れか1項に記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
少なくとも、請求項1~6の何れか1項に記載の前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いた正極と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
少なくとも、前記リチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル複合水酸化物を晶析反応により調製する前駆体晶析工程と、
前記前駆体晶析工程で得られた前記ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る酸化焙焼工程と、
前記酸化焙焼工程で得られた前記ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成し、リチウムニッケル複合酸化物を得るリチウムニッケル複合酸化物合成工程と、
前記リチウムニッケル複合酸化物合成工程で得られた前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部にTi化合物を含む前記被覆層を形成する被覆工程とを有し、
前記被覆工程は、前記Ti化合物のTi量が前記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1m あたり7.0μmol以上60μmol以下となるようTi化合物を添加し、
前記被覆工程で得られた前記リチウムニッケル複合酸化物の酸素以外の成分は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表されることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
記リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb))の商は、0.07以上0.30以下である、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記リチウムニッケル複合酸化物合成工程は、酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃以下の温度で焼成する、請求項8又は9に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、その少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質とリチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの携帯情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度や耐久性を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用電源あるいは電力貯蔵用の大型二次電池として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、その負極および正極に用いられる活物質には、リチウムを放出および吸蔵することが可能な材料が使用される。このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。その中でも、リチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する二次電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これらの中でも、埋蔵量の少ない資源であるコバルトを用いずに、高い電池容量を備えた二次電池を実現できるリチウムニッケル複合酸化物はエネルギー密度の高い材料として、近年、注目を集めている。
【0005】
しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物は他のリチウム遷移金属複合酸化物に比べ、充放電を繰り返すに従い電池容量が減少していくという問題、すなわち、サイクル特性に劣るという問題と、充放電を繰り返した際のガス発生による電池の膨張が大きいという問題がある。
【0006】
この電池容量の減少とガス発生が起こる原因の一つとしては、充電状態におけるLi1-xNiOと電解液の反応があげられる。Li1-xNiOから酸素が脱離し電気化学的に不活性なNiO相が形成されることで容量が低下する。また、脱離した酸素は電解液を酸化しCOが発生し電池が膨張する。これらの反応はいずれも活物質の表面近傍で起こりやすいため、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池のサイクル特性を改善し、ガス発生を抑制するためには、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面状態を制御することが重要であると考えられる。
【0007】
例えば、特許文献1には、Li以外の全金属元素中でNiが60~90物質量%を占める高Ni組成の層状岩塩型化合物粒子の表面を酸化チタンと酸化アルミニウムの混合物により被覆することで電池内でのガス発生を抑制できることが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、Niが全遷移金属の80物質量%以上を占める高Ni組成の層状岩塩型化合物粒子にチタン酸リチウムを被覆することで、サイクル特性の向上効果が得られることを開示している。
【0009】
また、特許文献3~5には、リチウム含有複合酸化物の表面に均一にTiを含む酸化物の被覆層を形成することで、サイクル特性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5181554号公報
【文献】特開2013-137947号公報
【文献】特許第5761098号公報
【文献】特許第5831457号公報
【文献】特開2016-81855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の提案では、いずれも容量、サイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみ防止についての両立を検討した報告はない。特に、Li以外の金属元素中でNiが60物質量%以上を占める高Ni組成の粒子については検証されておらず、高Ni組成に特有のガス発生問題については不明であった。
【0012】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウムニッケル複合酸化物は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、前記被覆層はTi化合物を含み、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたりのTi量は、7.0μmol以上60μmol以下であることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0015】
このとき、本発明の一態様では、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb))の商は、0.07以上0.30以下としてもよい。
【0016】
このようにすれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能をさらに高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0017】
このとき、本発明の一態様では、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質全体100質量%とした炭素含有量は、0.05質量%以上0.40質量%以下としてもよい。
【0018】
このようにすれば、被覆層に含まれる有機成分の分解等に起因する二酸化炭素の発生を十分に抑制し、電池の膨張等が生じることを防げることができ、ガス発生による電池の膨らみをさらに抑えることができる。
【0019】
このとき、本発明の一態様では、前記炭素含有量は、0.08質量%以下としてもよい。
【0020】
このようにすれば、さらに被覆層に含まれる有機成分が減り、分解等に起因する二酸化炭素の発生を十分に抑制し、電池の膨張等が生じることを防げることができる。
【0021】
このとき、本発明の一態様では、前記リチウムニッケル複合酸化物の比表面積が0.1m/g以上1.0m/g以下としてもよい。
【0022】
このようにすれば、リチウムイオンの放出/吸蔵が十分に促進し、充放電時の二次電池の内部抵抗を低くすることができ、上記機能をさらに高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0023】
このとき、本発明の一態様では、前記リチウムニッケル複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を持つ層状岩塩型化合物粒子としてもよい。
【0024】
このようにすれば、「R-3m」構造の層状岩塩型酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物粒子を含む正極活物質を二次電池とした場合に、特に内部抵抗を抑制することができる。
【0025】
本発明の一態様では、少なくとも、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いた正極と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを備えたことを特徴とする。
【0026】
このようにすれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0027】
本発明の一態様では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
少なくとも、前記リチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル複合水酸化物を晶析反応により調製する前駆体晶析工程と、前記前駆体晶析工程で得られた前記ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る酸化焙焼工程と、前記酸化焙焼工程で得られた前記ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成し、リチウムニッケル複合酸化物を得るリチウムニッケル複合酸化物合成工程と、前記リチウムニッケル複合酸化物合成工程で得られた前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部にTi化合物を含む前記被覆層を形成する被覆工程とを有し、前記被覆工程は、前記Ti化合物のTi量が前記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたり7.0μmol以上60μmol以下となるようTi化合物を添加し、前記被覆工程で得られた前記リチウムニッケル複合酸化物は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表されることを特徴とする。また、本発明の一態様では、前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb))の商は、0.07以上0.30以下であることを特徴とする。また、本発明の一態様では、前記リチウムニッケル複合酸化物合成工程は、酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃以下の温度で焼成することを特徴とする。
【0028】
このようにすれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法の概略を示す工程図である。
図2図2は、電池特性の評価に使用したコイン型二次電池の概略断面図である。
図3図3は、電池特性の評価に使用したラミネート型電池を示す図であり、(A)はラミネートセルの概略説明図であり、(B)はラミネートセルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、当該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部が特定量のチタン化合物を含む被覆層とを有することにより、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させることが可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0032】
なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について、下記の順に説明する。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
1-1.リチウムニッケル複合酸化物の粒子
1-2.被覆層
1-3.正極活物質の特性
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
2-1.前駆体晶析工程
2-2.酸化焙焼工程
2-3.リチウムニッケル複合酸化物合成工程
2-4.被覆工程
3.リチウムイオン二次電池
3-1.正極
3-2.負極
3-3.セパレータ
3-4.非水系電解液
3-5.二次電池の形状、構成
3-6.二次電池の特性
【0033】
<1.リチウムイオン二次電池用正極活物質>
【0034】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という。)は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、当該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する。上記リチウムニッケル複合酸化物の酸素以外の成分は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表される。
【0035】
そして、上記被覆層はTi化合物を含み、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたりのTi量は、7.0μmol以上60μmol以下であることを特徴とする。以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)について具体的に説明する。
【0036】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも一部を被覆した被覆層とを有することができる。以下にリチウムニッケル複合酸化物の粒子、および被覆層について説明する。
<1-1.リチウムニッケル複合酸化物の粒子>
【0037】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:yとなるように含むことができる。
【0038】
上述のリチウムニッケル複合酸化物中の各元素の物質量比を表す式中、リチウム(Li)の物質量比を示すtの値は0.95以上1.20以下とすることができ、0.98以上1.10以下が好ましく、1.00以上1.10以下がより好ましい。
【0039】
上記tの値を0.95以上とすることで、当該リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の内部抵抗を抑制し、出力特性を向上させることができる。また、tの値を1.20以下とすることで、当該リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量を高くすることができる。すなわち、tの値を上述の範囲とすることで、当該リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の出力特性、および容量特性を向上させることができる。
【0040】
上述のリチウムニッケル複合酸化物のニッケル(Ni)は、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の高容量化に寄与する元素である。
【0041】
上述のリチウムニッケル複合酸化物のコバルト(Co)は、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の不可逆容量の低減に寄与する元素である。コバルトの含有量を示すxの値は0を超えて0.22以下とすることができ、0.10以上0.22以下が好ましく、0.10以上0.20以下がより好ましい。
【0042】
上記のxの値を0超とすることで、当該リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池において、充電容量と放電容量の差分である不可逆容量を低減することができる。また、xの値を0.22以下とすることで高い電池容量を得ることができる。
【0043】
また、リチウムニッケル複合酸化物は、上記金属元素に加えて、添加元素である元素Mを含有してもよい。上述の元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素を用いることができる。元素Mは、正極活物質を用いて構成される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
【0044】
元素M自身は酸化還元反応に寄与しないものがあるので、元素Mの含有量を示すyの値は0.15以下とすることができ、0.10以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。リチウムニッケル複合酸化物は、元素Mを含有しなくても良いことから、元素Mの含有量を示すyの下限値は0とすることができる。
【0045】
リチウムニッケル複合酸化物粒子は、X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンから、「R-3m」構造の層状岩塩型結晶構造に帰属されるピークが検出されることが好ましい。特に、回折パターンから、「R-3m」構造の層状岩塩型結晶構造に帰属されるピークのみが検出されることがより好ましい。これは、「R-3m」構造の層状岩塩型酸化物は、当該リチウムニッケル複合酸化物粒子を含む正極活物質を二次電池とした場合に、特に内部抵抗を抑制することができ好ましいからである。
【0046】
ただし、層状岩塩型の結晶構造を持つリチウムニッケル複合酸化物を単相では得られず、不純物相が混入する場合がある。このように不純物相が混入する場合であっても、これらの「R-3m」構造の層状岩塩型構造以外の不純物相に帰属されるピークの強度は、「R-3m」構造の層状岩塩型構造に帰属されるピーク強度を上回らないことが好ましい。
【0047】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、単独の一次粒子、またはそれらの混合物であることが好ましい。ここで一次粒子および二次粒子はSEMやTEMなどの電子顕微鏡で確認することができる。それぞれの粒子の内部には、1つ以上の一次粒子により囲まれた空間、空隙があってもよい。
【0048】
リチウムニッケル複合酸化物は、比表面積が0.1m/g以上1.0m/g以下であることが好ましく、0.1m/g以上0.5m/g以下であることがより好ましい。二次電池の充放電中にリチウムニッケル複合酸化物で起こるリチウムイオンの放出/吸蔵は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と電解液の界面、すなわちリチウムニッケル複合酸化物の表面を通して起こる。そのため、正極活物質が含むリチウムニッケル複合酸化物の比表面積を0.1m/g以上とすることで、係るリチウムイオンの放出/吸蔵が十分に促進し、充放電時の二次電池の内部抵抗を低くすることができるため好ましい。また、上述の通り正極活物質と電解液との界面で起こる副反応で電解液が分解する場合があるが、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の比表面積を1.0m/g以下とすることで、過度の電解液の分解を抑制できる。
【0049】
本発明の一実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の比表面積は、例えば窒素吸着を利用したBET法により、測定することができる。
【0050】
本発明の一実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の体積平均粒径は、2μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上15μm以下であることがより好ましく、3μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。これは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の体積平均粒径が2μm以上20μm以下の場合、当該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を含む正極活物質を正極に用いた二次電池では容量当たりの電池容量を十分に大きくすることができ、かつ高安全性、高出力等の優れた電池特性が得られるからである。ここで、体積平均粒径はレーザー光回折散乱式の粒度分布計等を用いて測定することができる。
<1-2.被覆層>
【0051】
被覆層はチタンを含む化合物、すなわちチタン化合物を含み、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも一部を被覆している。被覆層は、チタン化合物のみから構成することもできる。
【0052】
被覆層と、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とは、明確な境界を有しているとは限らない。このため、被覆層とは、本実施形態の正極活物質の表面側の領域において、被被覆物質であるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、すなわち中心領域よりも、チタン濃度が高い部位、領域のことを指す。被覆層は部分的にリチウムニッケル複合酸化物と固溶していてもよい。
【0053】
被覆層のチタンの含有量は特に限定されないが、被覆されるリチウムニッケル複合酸化物の比表面積に応じて、その含有量を調整することが好ましい。具体的には被覆層は例えば、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面積1m当り、7.0μmol以上60μmol以下の割合でチタンを含有することが好ましく、7.0μmol以上30μmol以下の割合でチタンを含有することがより好ましい。
【0054】
これは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面積1m当りのチタン含有量を7.0μmol以上とすることで、当該被覆層をリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面全体に均一に配置できていることを示すからである。
【0055】
また、被覆層を設けることでサイクル特性を向上し、電池の膨れを抑制することができるが、同時に内部抵抗が増加する恐れもある。そして、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面積1m当りのチタン含有量を60μmol以下とすることで、被覆層が、リチウムニッケル複合酸化物のリチウムの放出/吸蔵の反応の障害になることを抑制し、内部抵抗を低減できるため好ましいからである。
【0056】
被覆層のチタンの含有量の評価、算出方法は特に限定されるものではないが、例えばまず得られた正極活物質1g中のチタン含有量(μmol/g)を化学分析等の方法で測定する。例えばICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)等により測定することができる。また、チタン化合物による被覆処理を施す前のリチウムニッケル複合酸化物の粒子の比表面積(m/g)を窒素吸着によるBET法等により測定する。そして、得られた正極活物質1g中のチタン含有量(μmol/g)を、被覆処理前のリチウムニッケル複合酸化物の粒子の比表面積(m/g)で割ることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面積1m当りのチタン含有量(μmol/m)を算出できる。
【0057】
被覆処理前のリチウムニッケル複合酸化物がチタンを含有する場合、被覆に用いられたチタン量として、被覆処理前後のチタン含有量の差分を用いることが好ましい。
【0058】
なお、被覆層のチタンと、リチウムニッケル複合酸化物とが反応して、被覆処理に用いたチタンの一部がリチウムニッケル複合酸化物に固溶していても良い。例えば、被覆処理後に熱処理を行い、その際の条件により、被覆層のチタンをリチウムニッケル複合酸化物に固溶させることができる。
【0059】
被覆層のチタンがリチウムニッケル複合酸化物に固溶することで、チタンが固溶していないリチウムニッケル複合酸化物の粒子が電解液と直接接触することを防ぎ、界面反応の機会を減少させるだけにとどまらず、高電位化で起きるリチウムニッケル複合酸化物と電解液との反応自体を抑制する効果がある。ただし、正極活物質について、サイクル特性の向上効果も充分に発揮できるように、固溶の程度については調整することが好ましい。
【0060】
被覆層のリチウムニッケル複合酸化物に対する固溶の程度はX線光電子分光法(XPS:X―ray Photoelectron Spectroscopy)による半定量分析と上述のICPによる化学分析から導出される、表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と、正極活物質全体の中のNi、Co、Mの物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb)の商(以下、被覆金属表面量)から知ることができる。
【0061】
そして、本発明の一実施形態に係る正極活物質は、表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と、正極活物質全体のNi、Co、Mの物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb)の商を0.07以上0.30以下とすることが好ましい。このようにすれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能をさらに高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0062】
XPSは特性上、測定対象の表面からの深度1nm以上5nm以下の情報を選択的に得ることができるため、試料の表層の組成比を知ることができる。被覆金属表面量は0.07以上0.3以下であることが好ましい。被覆金属表面量を0.07以上とすることで、被覆層として存在する、すなわちリチウムニッケル複合酸化物粒子に拡散せず被覆層として存在するチタンが十分に確保されており、活物質と電解液の間の副反応を抑制するのに十分に均一な被覆層が形成されていることを意味するからである。
【0063】
一方、被覆層を設けることでサイクル特性を向上し、電池の膨れを抑制することができるが、同時に内部抵抗が増加する恐れもある。被覆金属表面量を0.3以下とすることで、被覆層が、リチウムニッケル複合酸化物のリチウムの放出/吸蔵反応の障害になることを確実に防ぐことができ、内部抵抗を抑制できるため、好ましいからである。被覆金属表面量が0.14以上0.3以下の場合、特に高いサイクル特性と低い内部抵抗を両立することができるため、より好ましい。
【0064】
<1-3.正極活物質の特性>
ここまで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、被覆層とについて説明したが、本発明の一実施形態に係る正極活物質は以下の特性を有することが好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は前述したように、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、被覆層とのみから構成されていることが好ましいが、製造の際に不純物が混入する場合もある。特に水分と炭素は被覆処理によって増大する可能性のある不純物である。水分と炭素とは、サイクル特性に影響を及ぼす恐れがあることから、所定の範囲内に制御されていることが好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、炭素含有量が0.05質量%以上0.4質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがさらに好ましい。炭素含有量を0.4質量%以下とすることで、当該正極活物質を用いた二次電池の充放電中の、例えば被覆層に含まれる有機成分の分解等に起因する二酸化炭素の発生を十分に抑制し、電池の膨張等が生じることを防げるからである。ただし、炭素は、空気中の二酸化炭素等に起因してほぼ不可避的に本実施形態の正極活物質に混入するため、炭素含有量を0.05質量未満とすることは困難である。このため、炭素含有量の下限値は0.05質量%とすることが好ましい。上記の炭素含有量は、例えば赤外線吸収法等により評価することができる。
【0067】
また、本発明の一実施形態に係る正極活物質は、水分量(水分含有量)が、0.2質量%以下であることが好ましい。水分量を0.2質量%以下とすることで、当該正極活物質を用いた二次電池において、電解液の電解質の加水分解反応をより確実に抑制することができる。
【0068】
電解液の電解質が加水分解すると、フッ化水素等の酸性成分が生じ、当該酸性成分が正極活物質と反応して劣化を引き起こす。しかしながら、上述の様に本発明の一実施形態に係る正極活物質の水分量を0.2質量%以下とすることで電解液の電解質の加水分解反応をより確実に抑制し、係る劣化を抑制できるため、好ましい。本発明の一実施形態に係る正極活物質の水分量は、加熱温度を300℃としたカールフィッシャー法により評価する。
【0069】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質によれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0070】
<2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法の概略を示す工程図である。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、当該リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0071】
そして図1に示すように、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、少なくとも、前駆体晶析工程S1と、酸化焙焼工程S2と、リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3と、被覆工程S4を有する。以下、工程ごとに詳細に説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、製造方法を限定するものではない。
【0072】
<2-1.前駆体晶析工程S1>
ニッケルマンガン複合水酸化物を得るための前駆体晶析工程S1は、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル複合水酸化物を晶析反応により調製する。
【0073】
具体的には例えば、各元素の物質量比が、Ni:Co:M=1-x-y:x:yとなるように、各元素の水溶性の原料を用いて混合水溶液を作製し、アルカリ金属水溶液等と共に反応槽で反応させて、ニッケル複合水酸化物を得ることができる。
【0074】
なお、上述の式中のx、yについては、リチウムニッケル複合酸化物の粒子において説明したx、yと同様の好適な範囲とすることができる。
【0075】
前駆体晶析工程S1は、ニッケルを含有する金属化合物、コバルトを含有する金属化合物、および場合によってはさらに元素Mを含有する金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、原料混合水溶液を作製する(原料混合水溶液調製)。
【0076】
前記原料混合水溶液の各金属の物質量比が最終的に得られるニッケル複合水酸化物の物質量比と同様となる。そのため、目的とするニッケル複合水酸化物粒子中における各金属の物質量比と同じ比となるように、原料混合水溶液の各金属の物質量比を、水に溶解させる金属化合物の割合で調節して調製することが好ましい。金属化合物は水溶性であればよく硫酸塩、塩化物、硝酸塩などを用いることができるが、コストの観点から硫酸塩が好ましい。なお、元素Mなどで水溶性の好適な金属化合物が見出されない場合は、原料混合水溶液には加えずに後述する酸化焙焼工程S2や、リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3で添加しても良い。
【0077】
次に、反応槽に水を入れ、アルカリ性物質と、アンモニウムイオン供給体を適量加えて初期水溶液を調製する(初期水溶液調製)。この際、初期水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.2以上12.2以下、アンモニア濃度が2g/L以上15g/L以下となるように調製することが好ましい。
【0078】
前駆体晶析工程S1を行い、ニッケル複合水酸化物を調製する際、用いた原料混合水溶液に含まれる金属化合物を構成するアニオンに起因する不純物がニッケル複合水酸化物に混入することがある。しかしながら、初期水溶液のpH値を11.2以上とすることで、係る原料の金属化合物を構成するアニオンに起因する不純物の混入を抑制することができ好ましい。また、初期水溶液のpH値を12.2以下とすることで、得られるマンガンニッケル複合水酸化物粒子について、微粒子化することを抑制し、最適なサイズとすることができる。
【0079】
また、初期水溶液のアンモニア濃度を2g/L以上とすることで、得られるニッケル複合水酸化物の粒子が球状となり易くすることができるため好ましい。そして、初期水溶液のアンモニア濃度を15g/L以下とすることで、アンモニア錯体を形成するニッケルの溶解度が過度に上昇することを防止し、得られるニッケル複合水酸化物の物質量比をより確実に目標の物質量比とすることができるため、好ましい。
【0080】
なお、初期水溶液を調製する際に用いるアルカリ性物質としては特に限定されるものではないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選択された1種類以上であることが好ましい。添加量を容易に調整できることから、水溶液の形態で添加することが好ましい。また、アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されるものではないが、炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0081】
前駆体晶析工程S1では、初期水溶液に、上記原料混合水溶液を滴下し、反応水溶液とすることができるが、係る反応水溶液についてもpH値、およびアンモニア濃度について、前述の好適な範囲を維持することが好ましい。
【0082】
反応槽内の雰囲気は非酸化性雰囲気、例えば酸素濃度が1容量%以下の雰囲気にすることが好ましい。これは、非酸化性雰囲気、例えば酸素濃度を1容量%以下の雰囲気とすることで、原料化合物等が酸化されることを抑制でき好ましいからである。例えば酸化されたコバルトが微粒子として析出すること等を防止することができる。
【0083】
前駆体晶析工程S1での反応槽内の温度は40℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、45℃以上55℃以下に維持されていることがより好ましい。なお、反応槽を係る温度域に維持するため、反応槽内に配置される初期水溶液や反応水溶液についても同様の温度範囲内に維持されていることが好ましい。
【0084】
反応槽は反応熱や撹拌のエネルギーにより、自然に温度が上がるため、40℃以上とすることで、冷却に余分にエネルギーを消費することが無いため好ましい。また、反応槽の温度を60℃以下とすることで、初期水溶液や、反応水溶液からのアンモニアの蒸発を抑制することができ、目標のアンモニア濃度を維持することが容易になるため好ましい。
【0085】
そして、前駆体晶析工程S1では、反応槽に初期水溶液を入れ、温度等の調整をした後、原料混合水溶液を反応槽に一定速度で連続的に滴下して反応させることで、前駆体であるニッケル複合水酸化物粒子の晶析反応を進めることができる(晶析)。
【0086】
前述のように、反応水溶液についてもpH値、およびアンモニア濃度が初期水溶液について説明した場合と同様の好適な範囲にあることが好ましい。このため初期水溶液、もしくは反応水溶液に混合水溶液を滴下する際においても、アンモニウムイオン供給体や、アルカリ性物質も初期水溶液、もしくは反応水溶液に一定速度で滴下することが好ましい。そして、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で11.2以上12.2以下に、アンモニア濃度を2g/L以上15g/L以下に維持されるように制御することが好ましい。
【0087】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口より回収されたこのニッケル複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、乾燥することで、前駆体である粉末状のニッケル複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0088】
<2-2.酸化焙焼工程S2>
次に、酸化焙焼工程S2について説明する。酸化焙焼工程S2では、上記前駆体晶析工程S1で得られたニッケル複合水酸化物を酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る。酸化焙焼工程S2では、酸素含有雰囲気中で焼成し、その後室温まで冷却することで、ニッケル複合酸化物を得ることができる。
【0089】
酸化焙焼工程S2における焙焼条件は特に限定されないが、酸素含有雰囲気中、例えば空気雰囲気中、500℃以上700℃以下の温度で、1時間以上12時間以下焼成することが好ましい。これは、焼成温度を500℃以上とすることで、ニッケル複合水酸化物粒子を完全にニッケル複合酸化物へ転化でき好ましいからである。また、焼成温度を700℃以下とすることで、ニッケル複合酸化物の比表面積が過度に小さくなることを抑制でき好ましいからである。
【0090】
焼成時間を1時間以上とすることで、焼成容器内の温度を均一にすることができ、反応を均一に進行させることができ、好ましい。また、12時間よりも長い時間焼成を行っても、得られるニッケル複合酸化物に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は12時間以下とすることが好ましい。
【0091】
熱処理の際の酸素含有雰囲気中の酸素濃度は、空気雰囲気の酸素濃度以上、すなわち酸素濃度が20体積%以上であることが好ましい。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0092】
なお、例えば前駆体晶析工程S1で元素Mを含む化合物を共沈できなかった場合、例えば酸化焙焼工程S2に供するニッケル複合水酸化物に対して、元素Mを含む化合物を目的とした組成比と同じになるように加えて焼成してもよい。加える元素Mを含む化合物としては特に限定されず、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸化物、もしくはその混合物等を用いることができる。
【0093】
酸化焙焼工程終了後、ニッケル複合酸化物粒子に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。
【0094】
<2-3.リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3>
リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3は、上記酸化焙焼工程S2で得られた上記ニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る。
【0095】
リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3ではまず、酸化焙焼工程S2で得られたニッケル複合酸化物に、この複合酸化物に含まれる成分金属元素の物質量の総和に対して、リチウムの物質量が95%以上120%以下となるようにリチウム化合物を加えて混合することにより、リチウム混合物を得ることができる(リチウム混合物調製)。
【0096】
加えるリチウム化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、または炭酸リチウム、もしくはその混合物等を用いることができる。リチウム化合物としては、特に融点が低く反応性が高い水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0097】
次に、得られたリチウム混合物を酸素含有雰囲気中で焼成した後、室温まで冷却し、リチウムニッケル複合酸化物を得ることができる(焼成)。焼成条件は特に限定されないが、例えば700℃以上800℃以下の温度で、1時間以上24時間以下焼成することが好ましい。
【0098】
なお、酸素含有雰囲気としては、酸素を80体積%以上含む雰囲気であることが好ましい。これは、雰囲気中の酸素濃度を80体積%以上とすることで、得られるリチウムニッケル複合酸化物中のLiサイトへNi原子が混合するカチオンミキシングを特に抑制することができ好ましいからである。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0099】
そして、焼成温度を700℃以上とすることで、リチウムマンガンニッケル複合酸化物の結晶構造を十分に成長させることができ好ましい。また、焼成温度を800℃以下とすることで、上述のカチオンミキシングを抑制することができるため、好ましい。
【0100】
焼成時間は、1時間以上とすることで焼成容器内の温度を均一にすることができ、反応を均一に進行させることができるため好ましい。また、24時間よりも長い時間焼成を行っても、得られるリチウムニッケル複合酸化物に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は24時間以下とすることが好ましい。
【0101】
なお、リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3の後、得られるリチウムニッケル複合酸化物に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。
【0102】
<2-4.被覆工程S4>
被覆工程S4は、上記リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3で得られた上記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部にTi化合物を含む被覆層を形成する。
【0103】
被覆工程S4は、上記Ti化合物のTi量が上記リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたり7.0μmol以上60μmol以下となるようTi化合物を添加する。
【0104】
被覆工程S4では、まずリチウムニッケル複合酸化物合成工程S3で得られたリチウムニッケル複合酸化物の比表面積を測定し、目標とする被覆層のチタン表面量に応じて、液状の被覆剤を調製することができる(被覆剤調製)。
【0105】
被覆剤はチタンや、チタン化合物を含有すれば特に限定されない。被覆剤は、均一な被覆のために、チタン化合物が溶媒に溶解したものや、常温で液状であったり、低温の熱処理で融解したりする低融点のチタン化合物等を好ましく用いることができる。
【0106】
チタン化合物としては例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトシキドなどのアルコキシド類やチタンアセチルアセトネート、タンラクテートアンモニウム塩などのキレート類等から選択される1種類以上が挙げられる。被覆剤としては特に、容易に調製することができ、不純物の混入を抑制できる、金属チタンを過酸化水素とアンモニアとの混合水溶液に溶解したものを好ましく用いることができる。
【0107】
被覆工程S4では次に、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、被覆剤とを混合することができる。混合には一般的な混合器を用いることができる(混合物調製)。そして、混合後に乾燥を行い(乾燥)、さらに必要に応じて熱処理を行い、チタン化合物を被覆層として固定することができる(熱処理)。
【0108】
上記の乾燥では、被覆剤の溶媒等を除去できる程度の温度で乾燥を行うことができる。例えば80℃以上300℃未満で乾燥を行うことができる。
【0109】
上記の熱処理の熱処理条件は特に限定されてないが、酸素含有雰囲気、例えば空気雰囲気中、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上5時間以下熱処理を行うことが好ましい。熱処理後は、室温まで冷却し、最終生成物である被覆層を有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子である正極活物質を得ることができる。
【0110】
熱処理の際の酸素含有雰囲気中の酸素濃度は、空気雰囲気の酸素濃度以上、すなわち酸素濃度が20体積%以上であることが好ましい。熱処理の際の酸素含有雰囲気を空気雰囲気の酸素濃度以上とすることで、得られる正極活物質内に酸素欠陥が生じることを特に抑制することができ、好ましいからである。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0111】
熱処理の際の最高温度は、300℃以上とすることで被覆剤に含まれていた不純物が正極活物質内に残留することを特に抑制できるため好ましい。また、最高温度を600℃以下とすることで、被覆層の成分が過度に正極活物質内に拡散されることを抑制し、被覆層の形態を保つことができるため好ましい。なお、熱処理の際の最高温度は、目標に設定した被覆層のチタン表面量等に応じて、被覆層が十分にその厚みを維持できるように選択することが好ましい。
【0112】
熱処理の処理時間を1時間以上とすることで、被覆剤に含まれていた不純物が正極活物質内に残留することを特に抑制できるため好ましい。また、5時間よりも長い時間焼成を行っても、得られる正極活物質に大きな変化は見られないことから、エネルギー効率の観点から、処理時間は5時間以下とすることが好ましい。
【0113】
被覆工程S4後に得られる正極活物質に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。
【0114】
なお、熱処理については実施しなくても良い。すなわち、混合物調製まで実施し、正極活物質を製造することもできる。熱処理を行わなかったとしても、液状の被覆剤を用いることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、均一に、かつ強固に被覆層を形成することができるからである。上記の熱処理を実施しない場合でも必要に応じて、被覆剤の溶媒や、水分等を低減、除去するために乾燥を行うことが好ましい。
【0115】
以上のように、リチウムニッケル複合酸化物合成工程S3で得られたリチウムニッケル複合酸化物の酸素以外の成分は、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(式中、MはMg、Al、Ca、Si、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb)の商は、0.07以上0.30以下であることを特徴とする。
【0116】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0117】
<3.リチウムイオン二次電池>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、前述の正極活物質を正極に用いる。以下、本発明の一実施形態に係る二次電池について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本発明の一実施形態に係る二次電池は、上述の正極活物質を用いた正極と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを備えた構成を有することができる。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0118】
<3-1.正極>
正極は、シート状の部材であり、例えば、前述の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、例えばアルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥して形成できる。また、正極は正極合材を成型し、形成することもできる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0119】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、必要に応じて溶剤を添加し、混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている前述の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0120】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0121】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0122】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0123】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0124】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般のリチウムイオン二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0125】
ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0126】
<3-2.負極>
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。また、負極は例えば金属リチウム等のリチウムを含有する物質により構成されたシート状の部材とすることもできる。
【0127】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0128】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることで調製できる。負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0129】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種類以上を用いることができる。係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0130】
<3-3.セパレータ>
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0131】
<3-4.非水系電解液>
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0132】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0133】
<3-5.二次電池の形状、構成>
次に、本実施形態の二次電池の部材の配置、構成の例について説明する。以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本実施形態の二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状をとる場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して二次電池とすることができる。
【0134】
<3-6.二次電池の特性>
上述の正極活物質を用いた本発明の一実施形態に係る二次電池は、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させることができる。
【0135】
具体的には、本実施形態の正極活物質を正極に用いて、2032型コイン電池を構成し、電流密度を0.13mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電した場合の放電容量である、初期放電容量が180mAh/g以上であることが好ましく、185mAh/g以上であることがより好ましい。
【0136】
サイクル特性は容量維持率によって評価する。容量維持率は、例えば以下の手順により評価を行うことができる。例えば負極が黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとを混合した負極合材ペーストが銅箔に塗布されて形成されたシートであるコイン型電池を構成する。そして、当該コイン型電池について、25℃に保持された恒温槽内で電流密度を0.33mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行う。次に、60℃に保持された恒温槽内で電流密度を2.7mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを200サイクル繰り返す。
【0137】
そして、コンディショニング後の1サイクル目で得られた放電容量で、コンディショニング後の200サイクル目で得られた放電容量を割った割合を容量維持率とすることができる。
【0138】
また、前述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、容量維持率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0139】
電池の膨らみはラミネートセルの高電圧保持試験後の電池の厚みで評価できる。サイクル試験と同じ構造のラミネート型電池をコンディショニングし、4.3Vまで0.27mA/cmで充電し、4.3Vに保持したまま電流値が1/10になるまで充電を続ける。充電後の電池を3日間、60℃で保持した後、電池を常温に戻し、電池の短辺の10mmがはみ出るようにSUSプレートで電池をはさみ、SUSプレートを3.9kNで加圧する。電池のSUSプレートからはみ出した部位の中央の厚みを電池の膨張の度合いとすることができる。
【0140】
また、前述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、電池のふくらみが0.20mm以下であることは好ましく、0.15mm以下であることが好ましい。
【0141】
本発明の一実施形態に係る二次電池の用途は特に限定されるものではなく、各種電源が要求される用途に好適に用いることができる。本発明の一実施形態に係る二次電池は特に、上記特性を有するため常に高いサイクル特性や、高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適に用いることができる。また、本実施形態の二次電池はサイクル特性に優れ、小型化が可能であることから、繰り返し充放電がなされ、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源としても好適である。
【実施例
【0142】
次に、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用活物質、非水系二次電池用正極活物質の製造方法及び非水系電解質二次電池について、実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質に含有される金属の分析方法及び正極活物質の各種評価方法は、以下の通りである。
【0143】
(実施例1)
1.リチウムニッケル複合酸化物の粒子の製造
以下の工程を実施することで、正極活物質の製造を行った。
【0144】
(a)前駆体晶析工程
はじめに、反応槽(5L)内に、純水を2.5L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、酸素濃度が1容量%以下である窒素雰囲気とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、pH値が液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lとなるように初期水溶液を調製した(初期水溶液調製)。
【0145】
同時に、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸アルミニウムを、ニッケルとコバルトとアルミニウムの物質量比が、Ni:Co:Al=0.82:0.15:0.03となるように純水に溶解して、2.0mol/Lの原料混合水溶液を調製した(原料混合水溶液調製)。
【0146】
この原料混合水溶液を、反応槽の初期水溶液に対して10ml/minで滴下し、反応水溶液とした。この際、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も一定速度で初期水溶液に滴下し、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lに維持されるように制御した。係る操作により、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」という)を晶析させた(晶析)。
【0147】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口からのオーバーフローとして回収された複合水酸化物を含むスラリーをろ過し、イオン交換水で水溶性の不純物を洗浄除去した後、120℃一昼夜乾燥することで、粉末状の複合水酸化物を得た。
【0148】
(b)酸化焙焼工程
上記で作製した複合水酸化物を、雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM-50100M)を用いて、酸素濃度が20体積%である空気雰囲気下、600℃、2時間焼成した後、室温まで冷却し、ニッケル複合酸化物粒子を得た。
【0149】
(c)リチウムニッケル複合酸化物合成工程
上記ニッケル複合酸化物に、この複合酸化物に含まれるニッケル、コバルト、アルミニウムの物質量の総和に対して、リチウムの物質量の比が1.02となるように秤量した水酸化リチウム一水和物を加えて、ターブラーシェーカーミキサ(株式会社ダルトン製、T2F)を用いて混合することにより、リチウム混合物を得た(リチウム混合物調製)。
【0150】
上記リチウム混合物をアルミナ製匣鉢に装入し、雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM-50100M)を用いて、酸素濃度90体積%の酸素-窒素混合ガス雰囲気中、750℃で、10時間焼成した後、室温まで冷却した(焼成)。これにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子を得た。
【0151】
2.リチウムニッケル複合酸化物の粒子の評価
(a)化学組成
ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いた定量分析により、リチウムニッケル複合酸化物は、各金属元素の物質量比が、Li:Ni:Co:Al=1.02:0.82:0.15:0.03で表されるものであることを確認した。
【0152】
(b)結晶構造
このリチウムニッケル複合酸化物の粒子の結晶構造を、XRD(PANALYTICAL社製、X‘Pert、PROMRD)を用いて測定したところ、回折パターンにR-3m構造に帰属されるピークが検出される層状岩塩型の結晶構造であることが確認された。
【0153】
(c)比表面積
このリチウムニッケル複合酸化物のBET比表面積を、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ)を用いて測定した。その結果、比表面積は0.29m/gであることを確認した。
【0154】
(d)体積平均粒子径
このリチウムニッケル複合酸化物の体積平均粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した。その結果、11.9μmであることを確認した。
【0155】
3.正極活物質の製造
上記リチウムニッケル複合酸化物に対して、以下の被覆工程を実施することで正極活物質の製造を行った。被覆を施すリチウムニッケル複合酸化物の全表面積をリチウムニッケル複合酸化物の質量と比表面積から算出した。そして、上記全表面積に対して、1mあたりのチタンの物質量が7.0μmolになるように秤量したスポンジ状のチタン金属を、スポンジ状チタン1gあたり83mlの30質量%過酸化水素水に入れ、ウォーターバスで反応容器の温度が20℃以上25℃以下の範囲になるように冷却しつつ、撹拌しながらスポンジ状チタン1gあたり23mlの25質量%アンモニア水を滴下して、スポンジ状チタンを溶解した(被覆剤調製)。
【0156】
1Lあたりのチタンの含有量が0.36gになるようにイオン交換水で希釈したスポンジ状チタン溶液と、スポンジ状チタン溶液1mlあたり3.6gのリチウムマンガンニッケル複合酸化物とを自公転式撹拌装置(倉敷紡績株式会社製、型式:KK-400W)で混合した(混合物調製)。
【0157】
スポンジ状チタン溶液と混合されたリチウムマンガンニッケル複合酸化物を120℃で乾燥させ(乾燥)、その後雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、型式:BM-50100M)を用いて、空気雰囲気下、300℃で、5時間焼成した(熱処理)。その後、室温まで冷却し、被覆層を有するリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として得た。
【0158】
4.正極活物質の評価
このようにして得られた前記正極活物質に対して、以下の評価を行った。
【0159】
(a)組成
ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いた分析により、この正極活物質は、Tiを0.01質量%含み、被覆処理前の比表面積から求めた、被覆層のチタン表面量は7.0μmol/mであることがわかった。
【0160】
(b)表面分析
得られた正極活物質を、XPS(アルバック・ファイ製、VersaProbeII)を用いて測定し、得られたNi3/2スペクトル、Ti3/2スペクトルのピーク面積から算出された半定量値から正極活物質表面のNiとTiの物質量を得て、上記の組成分析の結果と共に、表面に存在するTiとNiの物質量比(Tis/Nis)と正極活物質全体の中のNi、Co、の物質量の総和とNiの物質量の比(Nib/(Nib+Cob+Mb)を求めた。両者の商である被覆金属表面量、(Tis/Nis)/(Nib/(Nib+Cob+Alb))(物質量比)は0.07であった。
【0161】
(c)炭素含有量
得られた正極活物質の炭素含有量を、炭素分析装置(LECO社製 型式:CS-600)を用いて、高周波燃焼赤外吸収法で測定したところ、0.13質量%であった。
【0162】
(d)水分量
得られた正極活物質の水分量を、カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社製 型式:MKC210)を用いて気化温度が300℃の条件で測定したところ、0.01質量%であった。
【0163】
5.二次電池の作製
得られた正極活物質の容量の評価には、図2に示す構造の2032型コイン電池10(以下、「コイン型電池」という)を使用した。コイン型電池1は、ケースと、ケース内に収容された電極と、ウェーブワッシャー6から構成されている。
【0164】
ケースは、中空かつ一端が開口された正極缶7と、この正極缶7の開口部に配置される負極缶8とを有しており、負極缶8を正極缶7の開口部に配置すると、負極缶8と正極缶7との間に電極を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0165】
また、電極は、正極2、セパレータ4および負極8とからなり、この順で並ぶように積層されており、正極2が正極缶7の内面に接触し、負極3が負極缶8の内面に接触するようにケースに収容されている。なお、ケースはガスケット5を備えており、このガスケット5によって、正極缶7と負極缶8との間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。
【0166】
また、ガスケット5は、正極缶7と負極缶8との隙間を密封してケース内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。このようなコイン型電池1を、以下のようにして作製した。
【0167】
初めに、得られた正極活物質20.0gと、アセチレンブラック2.35gと、ポリフッ化ビニリデン1.18gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーをAl箔上に1cmあたり正極活物質が5.0mg存在するように塗布したのち、120℃で30分間、大気中で乾燥し、NMPを除去した。正極活物質が塗布されたAl箔を幅66mmの短冊状に切り取り、荷重1.2tでロールプレスし正極2を作製した。正極2を直径13mmの円形に打ち抜き、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0168】
次に、正極2を用いて、コイン型電池1を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この際、負極3には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム箔を用いた。
【0169】
サイクル特性と電池の膨張の評価には、図3(A)及び(B)に示すラミネート型電池100を用いた。このようなラミネート型電池100は、以下のようにして作製した。コインセルと同様の方法で正極110を作製し、50mm×30mmの長方形に切り抜き、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。次に正極110を用いて、ラミネート型電池100を露点-80℃に管理されたドライルームで作製した。この際、負極120には平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとの混合物である負極合材ペーストが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
【0170】
また、セパレータ130には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を、電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。そしてラミネートフィルム140で封止し、ラミネート型電池100を完成させた。
【0171】
6.二次電池の評価
作製したコイン型の二次電池の性能を示す初期放電容量、内部抵抗、サイクル特性は、以下のように評価した。
【0172】
(a)初期放電容量
初期放電容量は、負極にリチウム箔を用いたコイン型電池を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.13mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量(初期放電容量)を測定することにより評価した。測定結果は190mAh/gであった。
【0173】
(b)サイクル特性
サイクル特性は、200サイクル充放電を行った時の容量維持率を測定することにより評価した。具体的には、黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとの混合物が銅箔に塗布されたシートを用いて作製した負極を用いたラミネート型電池をまず、25℃に保持された恒温槽内で、電流密度0.33mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行った。次に、60℃に保持された恒温槽内で、電流密度2.7mA/cmとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電するサイクルを200サイクル繰り返し、各サイクルの放電容量を測定することにより評価した。
【0174】
そして、実施例1のラミネート型電池のコンディショニング後の1サイクル目で得られた放電容量で、コンディショニング後の200サイクル目で得られた放電容量を割った割合である容量維持率は92%であった。
【0175】
サイクル試験と同じ構造のラミネート型電池をコンディショニングした後に、4.3Vまで0.27mA/cmで充電し、4.3Vに保持したまま電流値が1/10になるまで充電を続けた。充電後の電池を3日間、60℃で保持した。その後、電池を常温に戻し、電池の短辺の10mmがはみ出るようにSUSプレートで電池をはさみ、SUSプレートを3.9kNで加圧した。電池のSUSプレートからはみ出した部位の中央の厚みをダイヤルゲージで測り、電池の膨張の度合いとした。そして、実施例1のラミネート型電池の保持試験後の電池の厚みは0.12mmであった。
【0176】
上記で得られた電池の放電容量評価、容量維持率評価及び電池の膨らみ評価の判定方法は、下記の三段階評価(1,2,3,4)で判定した。
放電容量(mAh/g)
1:179以下、2:180~184、3:185~189、4:190以上
(三段階評価の数字が大きいほど、高性能を示す。以下同様。)
容量維持率(%)
1:81以下、2:82~86、3:87~91、4:92以上
電池の膨らみ(mm)
1:0.21以上、2:0.17~0.20、3:0.13~0.16、4:0.12以下
そして、各評価の合計を総合評価とし、総合評価が11以上を◎、9~10を○、7~8を△、6以下を×として判定した。以上の評価結果を表1~2に示す。
【0177】
(実施例2)
「3.正極活物質の製造」の被覆工程を実施する際に、被覆剤調製で、目標とする被覆層のチタン表面量を14μmol/mとした点以外は実施例1と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。
【0178】
(実施例3)
「3.正極活物質の製造」の被覆工程を実施する際に、被覆剤調製で、目標とする被覆層のチタン表面量を29μmol/mとした点以外は実施例1と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。
【0179】
(実施例4)
「3.正極活物質の製造」の被覆工程を実施する際に、被覆剤調製で、目標とする被覆層のチタン表面量を58μmol/mとした点以外は実施例1と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。
【0180】
(実施例5)
「3.正極活物質の製造」の被覆工程を実施する際に、被覆に用いる被覆剤をエタノールで希釈したテトラブトキシドチタンとした以外は実施例3と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。
【0181】
(比較例1)
実施例1における被覆工程を実施しなかった点以外には実施例1と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。なお、被覆工程を実施しなかったため、「1.リチウムニッケル複合酸化物の粒子の製造」で得られたリチウムニッケル複合酸化物が、正極活物質となる。
【0182】
(比較例2)
「3.正極活物質の製造」の被覆工程を実施する際に、被覆剤調製で、目標とする被覆層のチタン表面量を159μmol/mとした点以外は実施例1と同様の条件でリチウムニッケル複合酸化物の粒子、正極活物質、および当該正極活物質を用いた二次電池を得た。以上の評価結果を表1~表2に示す。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
表1に示すように、実施例1~5で得られた正極活物質を用いた二次電池は、総合判定で○若しくは◎となり放電容量、容量維持率及び電池の膨らみ防止に優れていた。実施例で得られた正極活物質の酸素以外の成分はいずれも、Li:Ni:Co:M=t:1-x-y:x:y(0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、Ti化合物の被覆層を有し、当該リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたりのTi量が、7.0μmol以上60μmol以下であった。そうすることで、高容量でサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑えることができたものと考えられる。
【0186】
また、(Tis/Nis)/(Nib/(Nib+Cob+Mb))が0.07以上0.30以下である実施例1~3は、総合判定が◎となり、上記の範囲外である実施例4よりも優れた結果となった。
【0187】
さらに、炭素含有量が0.40質量%以下である実施例1~3は、炭素含有量が0.40質量%より多い実施例5と比べ、総合判定が優れた結果となった。
【0188】
一方、比較例1の正極活物質では、Ti化合物を添加していないため、容量維持率評価及び電池の膨らみ評価が1となり、実施例より劣っている。比較例2ではTi化合物を添加したが、リチウムニッケル複合酸化物の表面積1mあたりのTi量が、7.0μmol~60μmolを越え、その量が過剰であったためと考えられる。比較例の総合判定では×又は△となり、実施例の結果より劣る結果となった。
【0189】
以上より、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池用正極活物質は、容量及びサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本実施形態では、容量及びサイクル特性に優れ、ガス発生による電池の膨らみを抑え、上記機能を高次元で両立できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で得ることができる。このリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、常に高容量・高寿命を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
【0191】
また、本発明の一実施形態に係る二次電池は、従来のリチウムコバルト系酸化物あるいはリチウムニッケル系酸化物の正極活物質を用いた電池との比較においても、安全性に優れており、さらに容量、サイクル特性及びガス発生による電池の膨らみ防止の点で優れている。そのため、小型化、高寿命化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。
【0192】
また、本発明の一実施形態に係る正極活物質及びそれを用いた二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源や定置型蓄電池としても用いることができる。
【0193】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0194】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。またリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0195】
S1 前駆体晶析工程、S2 酸化焙焼工程、S3 リチウムニッケル複合酸化物合成工程、S4 被覆工程
1 コイン電池、2 正極(評価用電極)、3 負極(リチウム金属)、4 セパレータ、5 ガスケット、6 ウェーブワッシャー、7 正極缶、8 負極缶
100 ラミネート型電池、110 正極、120 負極、130 セパレータ、140 ラミネートフィルム
図1
図2
図3