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特許7087362p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20220614BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01L35/14
H01L35/34
C22C38/00 302Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017231454
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019102629
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】西出 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/185852(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163262(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/014126(WO,A1)
【文献】特開2015-122476(JP,A)
【文献】特開2013-021089(JP,A)
【文献】特開2015-216280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/34
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を含み、フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下となるようにSiの一部をAlで置換し、
Tiの一部を置換する元素がTaであり、Taの置換量が0.5at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合と、Siの一部を置換する元素がSnであり、Snの置換量が1.0at%以上2.0at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合から選択することを特徴とするp型熱電変換材料。
【請求項2】
複数の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の間を電気的に接続する電極とを有する熱電変換モジュールであって、
前記熱電変換素子は、
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金からなり、フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下となるようにSiの一部をAlで置換し、
Tiの一部を置換する元素がTaであり、Taの置換量が0.5at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合と、Siの一部を置換する元素がSnであり、Snの置換量が1.0at%以上2.0at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合から選択するp型熱電変換材料を含むp型熱電変換素子と、
前記p型熱電変換素子と接続したn型熱電変換素子とを有することを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記n型熱電変換素子は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を有するn型熱電変換材料を含む前記熱電変換素子であることを特徴とする請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記p型熱電変換素子と、前記n型熱電変換素子と、前記p型熱電変換素子と前記n型熱電変換素子とを接続する電極とを有する熱電変換素子対が、複数配列していることを特徴とする請求項または請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
Fe原料粉末、M1原料粉末、Ti原料粉末、M2原料粉末、Si原料粉末、Al原料粉末及びM3原料粉末を混合してFe、M1、Ti、M2、Si、Al及びM3を含む混合物を生成し、
該混合物をアモルファス化してアモルファス化された合金とし、
前記アモルファス化された合金を加熱して、
(Fe-M1)-(Ti-M2)-(Si-Al-M3)の一般式で示されるFe-Ti-Si系フルホイスラー合金のp型熱電変換材料を製造する方法であり、フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下となるようにSiの一部をAlで置換し、
Tiの一部を置換する元素がTaであり、Taの置換量が0.5at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合と、Siの一部を置換する元素がSnであり、Snの置換量が1.0at%以上2.0at%以下であり、かつ相対密度が88%以上の場合から選択するフルホイスラー合金のp型熱電変換材料を製造することを特徴とするp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項6】
前記アモルファス化された合金を、450℃以上800℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合物のアモルファス化を、メカニカルアロイング法により行うことを特徴とする請求項または請求項に記載のp型熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型熱電変換材料、熱電変換モジュール及びp型熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排熱エネルギーを電力に変換する技術として、熱電変換モジュールが知られており、300℃以下の温度域での排熱回収に適応可能な熱電変換材料の代表的なものとして、FeVAl系フルホイスラー合金やBi-Te系半導体が挙げられる。中でもFe-V-Al系フルホイスラー合金は、Bi-Te系半導体と比較して、毒性が低く環境負荷の小さい材料として知られている。
【0003】
一般に、熱電変換モジュールは、n型の熱電変換材料とp型の熱電変換材料とが組み合わされて使用される。このため、熱電変換モジュールにおいて高い熱電変換特性を得るためには、n型とp型の双方において、高い性能指数ZTを得ることが求められる。現状では、p型の熱電変換材料の性能指数ZTは、n型と比較して低いため、その値の向上が求められている。
【0004】
特許文献1では、毒性が低く、かつTe等の高コストな元素を含む材料を用いることなく作製でき、高い性能指数ZTを得られる熱電変換材料として、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金が提案されている。
特許文献2では、フルホイスラー合金をp型の熱電変換材料として適用したときの性能指数ZTとして、これまでで最も高い値である性能指数ZT=0.20を示すFe-V-Al系フルホイスラー合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2016/185852A1号公報
【文献】特開2015-216280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、Fe:Ti:Si=2:1:1を中心とする組成比を有するFe-Ti-Si系フルホイスラー合金において、n型でZT=1.0の高い熱電変換特性が記載されているが、その後の発明者の検討によれば、p型では必ずしも十分な熱電変換特性が得られるものでないことが分かった。
特許文献2に記載されたFe-V-Al系フルホイスラー合金は、上記したように、従来のp型のフルホイスラー合金と比較すると高い性能指数ZTを示すものの、n型の熱電変換材料の性能指数ZTと比較すると、その値は約1/5の値に留まっており、必ずしも十分な熱電変換特性を得られるものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い熱電変換特性を得られるp型熱電変換材料、熱電変換モジュール、及びp型熱電変換材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るp型熱電変換材料の好ましい一例としては、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金を含み、Siの一部をAlで置換し、Fe、またはTi、またはSiの一部を下記元素で置換し、前記下記元素のそれぞれの置換量が0.2at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上であり、前記Feまたは前記Tiの一部を置換する元素は、Zr、Nb、Mo、Ag、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Hf、Ta、Wを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択し、前記Siの一部を置換する元素は、In、Sn、Sb、Biを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択する。
【0009】
本発明に係る熱電変換モジュールの好ましい一例としては、複数の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の間を電気的に接続する電極とを有する熱電変換モジュールであって、前記熱電変換素子は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金からなり、Siの一部をAlで置換し、Fe、またはTi、またはSiの一部を下記元素で置換し、前記下記元素のそれぞれの置換量が0.2at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上であり、前記Feまたは前記Tiの一部を置換する元素は、Zr、Nb、Mo、Ag、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Hf、Ta、Wを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択し、前記Siの一部を置換する元素は、In、Sn、Sb、Biを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択するp型熱電変換材料を、含むp型熱電変換素子と、p型熱電変換素子と接続したn型熱電変換素子とを有する。
【0010】
本発明に係るp型熱電変換材料の製造方法の好ましい一例としては、Fe原料粉末、M1原料粉末、Ti原料粉末、M2原料粉末、Si原料粉末、Al原料粉末及びM3原料粉末を混合してFe、M1、Ti、M2、Si、Al及びM3を含む混合物を生成し、該混合物をアモルファス化してアモルファス化された合金とし、前記アモルファス化された合金を加熱して、下記一般式(1)で示されるフルホイスラー合金のp型熱電変換材料を製造することにある。
【0011】
(Fe-M1)-(Ti-M2)-(Si-Al-M3)……式(1)
ここで、一般式(1)で示されるフルホイスラー合金は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金であり、Siの一部をAlで置換し、Fe、またはTi、またはSiの一部を下記元素で置換し、前記下記元素のそれぞれの置換量が0.2at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上であり、前記Feまたは前記Tiの一部を置換する元素は、Zr、Nb、Mo、Ag、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Hf、Ta、Wを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択し、前記Siの一部を置換する元素は、In、Sn、Sb、Biを有する群から少なくとも1つ以上の元素を選択する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い熱電変換特性を得られるp型熱電変換材料、熱電変換モジュール、及びp型熱電変換材料の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例に係る熱電変換モジュールの構成を示す断面図である。
図2】p型熱電変換材料におけるTa量と熱伝導率κとの関係を示す図である。
図3】p型熱電変換材料におけるTa量と性能指数ZTとの関係を示す図である。
図4】p型熱電変換材料におけるTa量と結晶化発熱量Qとの関係を示す図である。
図5】p型熱電変換材料におけるSn量と熱伝導率κとの関係を示す図である。
図6】p型熱電変換材料におけるSn量と性能指数ZTとの関係を示す図である。
図7】試料番号1-5についての組成、ZT、相対密度、VECを示す表である。
図8】比較例についての組成、ZTを示す表である。
図9】試料番号6-8についての組成、ZT、相対密度、VECを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施例に係るp型熱電変換材料は、Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金を有する。フルホイスラー合金は一般式E1E2E3で表される。本発明者らは、E1にFe元素、E2にTi元素、E3にSi元素を用いたFe-Ti-Si系フルホイスラー合金のp型の熱電変換特性について検討している。Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金はその組成比がFe:Ti:Si=2:1:1からずれてもp型、n型で高い熱電特性を持つ。本発明者らの検討の結果、Fe、TiまたはSiの一部を、周期表においてそれぞれの元素より1周期以上大きい元素で置換したとき、下記一般式(1)で示されるフルホイスラー合金において、特に高い熱電変換性能を得られることを見出した。
【0015】
(Fe-M1)-(Ti-M2)-(Si-Al-M3)……式(1)
Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金からなり、Siの一部がAlで置換され、かつFeの一部が元素M1で置換され、またはTiの一部が元素M2で置換され、またはSiの一部がM3で置換され、それぞれの置換量が0.2at%以上2.5at%以下であり、かつ相対密度が88%以上である。相対密度はフルホイスラー合金の理想密度に対する試料の密度とし、理想密度は各組成におけるフルホイスラー合金の格子定数と原子量から計算した。
【0016】
熱電変換モジュールの最大出力は、熱電変換材料の無次元の性能指数ZTに依存する。このため、熱電変換材料の性能は、下記式(2)の無次元の性能指数ZTで評価される。
ZT=(S/ρκ)T……式(2)
なお、以下では、「無次元の性能指数ZT」を、単に「性能指数ZT」と示す。式(2)において、Sはゼーベック係数であり、ρは電気抵抗率であり、κは熱伝導率であり、Tは温度である。従って、熱電変換モジュールの最大出力Pを向上させるためには、熱電変換材料のゼーベック係数Sを増加させ、電気抵抗率ρを減少させ、熱伝導率κを減少させることが望ましい。
【0017】
上記一般式(1)は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金において、価電子数4であるSiの一部を価電子数3であるAlで置換することにより、熱電変換材料全体の価電子数が減少し、キャリアとなるホールがドープされた状態となる。
フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下であると、価電子帯におけるエネルギーに対する状態密度変化が最も大きい位置にフェルミレベルを制御することができる。そのため、フルホイスラー合金の単位格子あたりの総価電子数VECが23.8以上24.1以下となるようにAl置換量を調整することで、p型として高い性能指数ZTを得ることができる。
【0018】
また、上記一般式(1)は、Fe-Ti-Si系フルホイスラー合金におけるSiの一部を上述のようにAlで置換したFe-Ti-(Si-Al)系フルホイスラー合金において、主な構成元素であるFe、またはTi、またはSiを、周期表においてそれらより1周期以上大きい、すなわち、5周期以降の元素M1、またはM2、またはM3で0.2at%以上2.5at%以下の範囲で置換する。
【0019】
そのことによって、従来のFe-Ti-(Si-Al)系フルホイスラー合金と比較して、構成元素間の原子量差が増加する。構成元素間の原子量差が増加するとフォノン散乱が促進され、格子によるエネルギー伝播が抑制される。これにより、熱電変換材料中の熱伝導を抑制し、即ち、熱伝導率κを減少させることができ、性能指数ZTを増加することができる。
【0020】
上記一般式(1)において元素M1,M2、M3のそれぞれの置換量が0.2at%未満である場合、フルホイスラー合金の熱伝導率κが十分に下がらないため、高い性能指数ZTを得難くなる。また上記一般式(1)において元素M1,M2、M3の置換量の合計が2.5at%超である場合、フルホイスラー合金の相安定性が低下し結晶性が低下し、その結果、ゼーベック係数Sは減少するため、高い性能指数ZTを得難くなる。
【0021】
上記一般式(1)において、低コスト化や毒性の有無などの観点から、元素M1は、Zr、Nb、Mo、Ag、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Hf、Ta、Wからなる群から少なくとも1つ以上の元素を選択する。それによって構成元素間の原子量差が増加し、性能指数ZTを増加することができる。
【0022】
元素M2は、Zr、Nb、Mo、Ag、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Hf、Ta、Wからなる群から少なくとも1つ以上の元素を選択する。それによって構成元素間の原子量差が増加し、性能指数ZTを増加することができる。
【0023】
元素M3は、In、Sn、Sb、Biからなる群から少なくとも1つ以上の元素を選択する。それによって構成元素間の原子量差が増加し、性能指数ZTを増加することができる。
【0024】
上記一般式(1)において、フルホイスラー合金の相安定性や結晶性などの観点から、主な構成元素であるFe、Ti,Siと原子半径差の小さい元素M1が好ましい。具体的には、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、Wからなる群から少なくとも1つ以上の元素からなることがより好ましい。
【0025】
上記一般式(1)において、フルホイスラー合金の相安定性や結晶性などの観点から、主な構成元素であるFe、Ti,Siと原子半径差の小さい元素M2が好ましい。具体的には、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、Wからなる群から少なくとも1つ以上の元素からなることがより好ましい。
【0026】
上記一般式(1)において、フルホイスラー合金の相安定性や結晶性などの観点から、主な構成元素であるFe、Ti,Siと原子半径差の小さい元素M3が好ましい。具体的には、In、Sn、Sb、Biからなる群から少なくとも1つ以上の元素からなることがより好ましい。
【0027】
上記一般式(1)において、フルホイスラー合金の電子状態に与える影響などの観点から、元素M2がTaであることがより好ましく、元素M3はSnであることがより好ましい。
【0028】
p型熱電変換材料は、相対密度が88%以上である。相対密度を88%以上とすることにより、合金粉末間の電流経路が確保され、電気抵抗率が低減される。また、相対密度を88%以上とすることにより、熱電変換モジュールとしての信頼性の確保に必要な、機械的強度を得ることができる。
【0029】
相対密度が88%未満であると、電気抵抗率が増加し、性能指数ZTが低下し易くなる。また、相対密度が88%未満であると、機械的強度が低下し、熱電変換材料が破損し易くなる。
【0030】
上記一般式(1)に示す組成を有するフルホイスラー合金は、L2型結晶構造を有することで、p型熱電変換材料として優れた熱電変換特性を得られるため好ましい。
【0031】
以上説明した実施例に係るp型の熱電変換材料によれば、p型の熱電変換材料として適用したときの性能指数ZTとして、従来のFeVAl系のフルホイスラー合金が示す最大の値である、0.20超の性能指数ZTを得ることができる。
【0032】
なお、実施例に係るp型熱電変換材料であることは、組成分析、密度測定により容易に確認することが出来る。
【0033】
次に、実施例に係るp型熱電変換材料の製造方法について説明する。
まず、Fe原料粉末、M1原料粉末、Ti原料粉末、M2原料粉末、Si原料粉末、Al原料粉末、M3原料粉末を、目的組成に応じた割合で準備する。具体的には、最終的に得られる焼結物が、上記一般式(1)で表される組成範囲を満たすように、Fe原料粉末、M1原料粉末、Ti原料粉末、M2原料粉末、Si原料粉末、Al原料粉末、M3原料粉末を準備する。
【0034】
次に、上記した各原料粉末を混合して、Fe、M1、Ti、M2、Si、Al、M3を含む混合物を生成し、得られた混合物を、例えば、広い組成範囲でアモルファス構造が作成可能なメカニカルアロイング法によりアモルファス化してアモルファス化された合金とする。なお、原料粉末の混合物をアモルファス化する他の方法として、ロール超急冷法やアトマイズ法等を用いることも可能である。
【0035】
また、アモルファス化した合金が、粉末体として得られていない場合には、例えば水素脆化し、酸化が防止される環境下で粉砕する方法を用いてもよい。次に、アモルファス化した合金を、例えば加圧成形等の方法により成型する。成型時の圧力は、例えば40MPa~5GPaとすることができる。
【0036】
アモルファス化された合金において、後述するようにフルホイスラー合金に結晶化する際の結晶化発熱量が160J/g以上であるときには、従来のFe-V-Al系のフルホイスラー合金が示す最大の値である、0.20超の性能指数ZTを得ることができるため好ましい。
【0037】
次に、アモルファス化された合金を、450℃以上800℃以下の温度で加熱して、焼結させる。これにより、L2型結晶構造を有するフルホイスラー合金を得る。上記したように、原料粉末を一旦アモルファス化した後に、450℃以上800℃以下の温度で熱処理することで、L2型結晶構造を有するフルホイスラー合金を得ることができる。
【0038】
これは、Fe-Ti-Si系のL2型結晶構造が準安定構造であるため、高エネルギー状態のアモルファス構造を経ることで、L2型結晶構造を、中間生成物として作製可能となるためである。焼結温度は、フルホイスラー合金が十分に結晶化し、また異相が析出しない550℃以上750℃以下であることが好ましい。また焼結温度は、フルホイスラー合金の相対密度が大きくなり、また結晶粒径が粗大化しすぎない600℃以上700℃以下であることがより好ましい。
【0039】
加熱温度が450℃未満であると、L2型結晶構造が得られない。一方、加熱温度が800℃を超えると、L2型結晶構造が熱分解して、他の安定合金が形成されることがある。この場合、得られた焼結体を、熱電変換材料として使用することが困難となる。
【0040】
上記した加熱温度の保持時間は、特に限定されないが、概ね1~600分間とすることができる。加熱処理は、加圧成型と加熱とを同時に行うことが可能な、放電プラズマ焼結法又はホットプレス法などを用いることもできる。
【0041】
保持時間が長すぎると試料が酸化して熱電特性が低下する可能性があり、保持時間が短すぎるとフルホイスラー合金が形成されない可能性がある。保持時間は、温度むらの低減、また酸化防止の観点から5~400分間であることが好ましい。また保持時間は、均一なL2型結晶構造化、またその結晶粒径が粗大化しすぎない10~200分間であることがより好ましい。
【0042】
<熱電変換モジュール>
次に、実施例に係るp型熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールについて説明する。
図1は、実施例に係る熱電変換モジュールの構成を示す断面図である。図1に示す熱電変換モジュールは、上部基板14aと下部基板14bとの間に、p型熱電変換素子11と、p型熱電変換素子11に隣接するn型熱電変換素子12とが設けられている。
【0043】
p型熱電変換素子11は、p型熱電変換材料を含んで形成されており、n型熱電変換素子12は、n型熱電変換材料を含んで形成されている。p型熱電変換素子11は、少なくともその一つが、上記した実施例に係るp型熱電変換材料により形成されている。
【0044】
p型熱電変換素子11とn型熱電変換素子12とは、上部基板14aと下部基板14bとの間に、互いに交互に配列されており、π型の構造を一組の熱電変換素子対15として、上部基板14a上に形成された上部電極13a及び下部基板14b上に形成された下部電極13bにより、電気的に直列に接続されている。
【0045】
具体的には、p型熱電変換素子11は、上部電極13aにより、図1中上側の面においてn型熱電変換素子12と接続されている。また、p型熱電変換素子11は、図1中下側の面において、下部電極13bにより、上部電極13aにより接続されたn型熱電変換素子12と反対側に設けられたn型熱電変換素子12と接続されている。
【0046】
上部電極13aと、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12との間、並びに下部電極13bと、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12との間は、それぞれ導電性材料により接続されている。これらの構造には、応力緩和構造を設けてもよいし、その他の付属品を付けることも可能である。
【0047】
以上説明した構造により、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12と、上部電極13a及び下部電極13bとは、熱的に接触するように接合されており、上部電極13a及び下部電極13bと、上部基板14a及び下部基板14bとは、熱的に接触するように接合されている。
【0048】
図1に示す熱電変換モジュールは、例えば上部基板14aを加熱するか又は高熱部に接触させることで、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12において、同一の方向に温度勾配を発生させることができる。このとき、ゼーベック効果の原理より、p型熱電変換素子11及びn型熱電変換素子12では、温度勾配に対して逆向きに熱起電力が発生する。これにより、大きい熱起電力を発生させることができる。
【0049】
従って、温度勾配が印加された状態で、電極の両端(例えば図1では、図中右端の下部電極13bと図中左端の下部電極13b)を接続することで、電気エネルギーを効率よく取り出すことができる。
【0050】
n型熱電変換素子12としては、n型熱電変換材料として、Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金を用いてもよいし、Fe-V-Al系フルホイスラー合金を用いてもよいし、Bi-Te系半導体を用いてもよい。
【0051】
中でも、Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金をn型熱電変換材料として用いた場合には、高い機械的特性や高い性能指数ZTを得られる温度領域が、上記した実施例に係るp型熱電変換材料において高い機械的特性や高い性能指数ZTを得られる温度領域と、略同程度となる。
【0052】
このため、熱電変換モジュールとしての出力特性や信頼性を向上させ、かつコストを低減する観点から、n型熱電変換素子として、Fe-Ti-Si系のフルホイスラー合金を用いることが好ましい。
【0053】
<実験例1>
以下に、実施例に係るp型熱電変換材料を、実験例1により詳細に説明する。
まず、以下の方法により、実施例に係るp型熱電変換材料として、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラー合金を作製した。
【0054】
E1サイト、E2サイト及びE3サイトの各サイトの主成分を構成する原料粉末としては、それぞれ、Fe、Ti及びSiを主成分とする原料粉末を用いた。また、E2サイトに添加する成分の原料粉末として、Taを主成分とする原料粉末を、E3サイトに添加する成分の原料粉末として、Alを主成分とする原料粉末を用いた。これらの原料粉末を、最終的に得られる熱電変換材料が図7の組成となるように秤量した。
【0055】
次に、これらの原料粉末を、不活性ガス雰囲気中において、ステンレス鋼製の容器に入れ、直径10mmのステンレス鋼製ボール又はクロム鋼製ボールと混合した。次に、この混合物について、遊星ボールミル装置を用いたメカニカルアロイングを行い、アモルファス化した合金粉末を得た。
【0056】
メカニカルアロイングは、350rpmの公転回転速度で20時間以上実施した。次に、アモルファス化した合金粉末を、カーボン製のダイス又はタングステンカーバイド製のダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、1.5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら加熱して、焼結させた。
【0057】
加熱処理は、660℃まで昇温した後、その目標温度(660℃)で30分間保持して行った。その後、得られた焼結体を室温まで冷却して、熱電変換材料(試料1~試料5)を得た。得られた試料2~試料5は、いずれも、その相対密度を88%以上とした。
【0058】
[評価方法]
次に、得られた各熱電変換材料のゼーベック係数S及び電気抵抗率ρを、熱電特性評価装置(「ZEM-2」、アドバンス理工株式会社製)により測定し、熱伝導率κをレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(「LFA447 Nanoflush」、ネッチジャパン株式会社製)により測定して、各試料の性能指数ZTを算出した。
【0059】
また、示差走査熱量計(「Thermo Plus DSC8270」、株式会社リガク製)による測定を行い、各試料の結晶化発熱量を算出した。示差走査熱量計を用いた測定は、Arフロー雰囲気中で昇温速度10℃/分、測定温度範囲を室温から900℃の条件下で行った。結晶化発熱量Qは、フルホイスラー合金の結晶化に伴う発熱ピークの積分値を試料重量で割り、J/gの単位で算出した。相対密度はアルキメデス法により求めた。
【0060】
これらの評価結果を図2図4に示す。なお、図2、または図3において、特許文献2(特開2015-216280号)に示された従来のFe-V-Al系のp型フルホイスラー合金の最大の性能指数(性能指数ZT=0.20)を示した試料における熱伝導率κ、または性能指数ZTを、比較例として図中破線で示した。また、その比較例の組成と性能指数ZTを図8に示した。
【0061】
[評価結果]
図2では、Ta量を0at%から2.5at%まで増加させ、その分Ti量を減少させたときの熱伝導率κを示している(試料1~試料5)。また価電子帯におけるエネルギーに対する状態密度変化が最も大きい位置にフェルミレベルを制御しp型として高い性能指数ZTを得るため、Al量は総価電子数VECが23.8以上、24.1以下になるように添加した。
【0062】
図2に示すように、Ta量を増加させると、熱伝導率κが大幅に減少し、従来のp型フルホイスラー合金の最大性能指数ZTが得られた試料(比較例)のκより小さい値が得られている。
【0063】
また図3では、Ta量を0at%から2.5at%まで増加させ、その分Ti量を減少させたときの性能指数ZTを示している(試料1~試料5)。図3に示すように、Ta量が0.2at%以上2.5at%以下の組成領域では、従来(比較例)のp型フルホイスラー合金の最大性能指数ZTである0.20を超える性能指数ZTを得られている。
【0064】
このような、Ta添加における性能指数ZTの向上の主な要因は、図2に示したように、Ta量の増加により熱伝導率κが減少したことである。一方で、Ta量が2.5at%を超えると、結晶性の低下によりゼーベック係数が減少し、性能指数ZTも従来のp型フルホイスラー合金の値を下回る。
【0065】
熱電変換材料の結晶性は、示差走査熱量計を用いて得られるホイスラー合金の結晶化発熱量の大きさによって評価することが出来る。
【0066】
図4では、試料1~試料5における結晶化発熱量QとTa量の関係を示している。結晶化発熱量QはTa量の増加に伴い減少し、Ta量が2.8at%以上で160J/g未満となり大幅に結晶性が低下する。このことから高い性能指数ZTを得るには結晶化発熱量Qが160J/g以上であることが望ましい。
【0067】
<実験例2>
次に、実験例2について説明する。実験例2では、実験例1で用いたTaに替えてE3サイトにSnを添加し、最終的に得られる熱電変換材料が図9の組成となるように秤量し、実験例1と同じ作製プロセスを用いて熱電変換材料を得た(試料6~試料8)。得られた試料6~試料8は、いずれも、その相対密度を88%以上とした。
【0068】
なお、図9の試料6~試料8は、Sn量を1.0at%から3.0at%まで増加させ、その分Si量を減らしたものである。得られた熱電変換材料について、実験例1と同様の手法及び同様の条件にて、熱伝導率κ及び性能指数ZTを評価した。評価結果を図5図6に示す。
【0069】
[評価結果]
図5に示すように、Sn量を増加させると、熱伝導率κが大幅に減少し、従来(比較例)のp型フルホイスラー合金の最大性能指数ZTが得られた試料のκより小さい値が得られている。
【0070】
また図6では、参照例としての試料1(Ta置換なし、Sn置換なし)と試料8の性能指数ZT、および試料6~試料7の性能指数ZTを示している。また、図6に示すように、Sn量が0.2at%以上2.5at%以下の組成領域では、従来(比較例)のp型フルホイスラー合金の最大性能指数ZTである0.20を超える性能指数ZTを得られている。このような、Sn添加における性能指数ZTの向上の主な要因は、図5に示したように、Sn量の増加により熱伝導率κが減少したことであると言える。
【符号の説明】
【0071】
11…p型熱電変換素子、12…n型熱電変換素子、13a…上部電極、13b…下部電極、14a…上部基板、14b…下部基板、15…熱電変換素子対
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9