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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
G03G15/20 535
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017251149
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117295
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】藤江 健吾
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏基
(72)【発明者】
【氏名】林 裕美子
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-133326(JP,A)
【文献】特開2017-068284(JP,A)
【文献】特開2015-049270(JP,A)
【文献】特開2014-153480(JP,A)
【文献】特開2006-133322(JP,A)
【文献】特開2015-022190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する加熱源であるハロゲンヒータと、
前記定着ベルトの内周側に配置されたニップ形成部材と、
前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に接触することにより前記定着ベルトとの
間にニップ部を形成する対向回転体とを備え、
前記定着ベルトが、静止した状態では周方向の張力が付与されない状態で支持される定
着装置において、
前記ニップ部を除き、前記定着ベルトが前記ニップ部に対して進入する側であって、前
記定着ベルトの回転方向におけるニップ部の中央位置から、前記定着ベルトの回転方向と
は反対方向に前記定着ベルトの周長の4分の1周分進んだ位置までの範囲を入口側とした
とき、
前記定着ベルトの内周側に配置された第一部材と、前記定着ベルトの外周側に配置され
た第二部材とが、前記ニップ部以外の箇所で且つ前記入口側に前記定着ベルトを介して互
いに接触しており、
前記ハロゲンヒータは、前記入口側の前記反対方向側であって、前記ニップ部の中央位置
を基準に前記定着ベルトの周長を二等分した場合の前記入口側の領域内に配置されている
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する加熱源であるハロゲンヒータと、
前記定着ベルトの内周側に配置されたニップ形成部材と、
前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に接触することにより前記定着ベルトとの
間にニップ部を形成する対向回転体とを備え、
前記定着ベルトが、静止した状態では周方向の張力が付与されない状態で支持される定
着装置において、
前記ニップ部を除き、前記定着ベルトが前記ニップ部に対して進入する側であって、前
記定着ベルトの回転方向におけるニップ部の中央位置から、前記定着ベルトの回転方向と
は反対方向に前記定着ベルトの周長の4分の1周分進んだ位置までの範囲を入口側とした
とき、
前記定着ベルトの内周側に配置された第一部材と、前記定着ベルトの外周側に配置され
た第二部材とが、前記ニップ部以外の箇所で且つ前記入口側に前記定着ベルトを介して互
いに接触しており、
前記ハロゲンヒータは、前記第一部材の内部に設けられることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
前記第二部材は、回転可能なローラ部材である請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第一部材及び前記第二部材のいずれか一方は、回転しないパッド部材である請求項
1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ベルトは、熱可塑性樹脂で形成された基材を有する請求項1から3のいずれか
1項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装
置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられる定着装置として、定着ベルトが複数のローラ等に掛け渡されずに張力が付与されない状態で支持されたフリーベルト方式と称される定着装置が知られている。
【0003】
一般的に、フリーベルト方式の定着装置は、定着ベルトと、定着ベルトを加熱する加熱源と、定着ベルトの内周側に配置されたニップ形成部材と、定着ベルトを介してニップ形成部材に接触することにより定着ベルトとの間にニップ部を形成する対向回転体とを備えている(特許文献1参照)。
【0004】
定着ベルトが加熱源によって加熱され、定着ベルトと対向回転体とが回転している状態で、画像が転写された用紙等の記録媒体がニップ部に進入すると、記録媒体上の画像がニップ部で加熱されると共に加圧されることにより記録媒体に定着される。
【0005】
上記のようなフリーベルト方式の定着装置においては、薄肉の定着ベルトを用いることで、厚肉の定着ローラを用いる場合に比べて低熱容量化され、熱エネルギーの低減やファーストプリント時間の短縮などが図れる利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような定着ベルトは薄肉のため、熱に対する耐久性(耐熱性)の面で課題があり、定着ベルトに変形が生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱する加熱源であるハロゲンヒータと、前記定着ベルトの内周側に配置されたニップ形成部材と、前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に接触することにより前記定着ベルトとの間にニップ部を形成する対向回転体とを備え、前記定着ベルトが、静止した状態では周方向の張力が付与されない状態で支持される定着装置において、前記ニップ部を除き、前記定着ベルトが前記ニップ部に対して進入する側であって、前記定着ベルトの回転方向におけるニップ部の中央位置から、前記定着ベルトの回転方向とは反対方向に前記定着ベルトの周長の4分の1周分進んだ位置までの範囲を入口側としたとき、前記定着ベルトの内周側に配置された第一部材と、前記定着ベルトの外周側に配置された第二部材とが、前記ニップ部以外の箇所で且つ前記入口側に前記定着ベルトを介して互いに接触しており、前記ハロゲンヒータは、前記入口側の前記反対方向側であって、前記ニップ部の中央位置を基準に前記定着ベルトの周長を二等分した場合の前記入口側の領域内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、定着ベルトの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置であるプリンタの概略構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図3】定着ベルトの端部支持構造を示す斜視図である。
図4】ニップ部周辺の拡大図である。
図5】内側ベルト矯正部材をパッド部材で構成した実施形態を示す図である。
図6】外側ベルト矯正部材をパッド部材で構成した実施形態を示す図である。
図7】両ベルト矯正部材をパッド部材で構成した実施形態を示す図である。
図8】両ベルト矯正部材をニップ部の出口側に配置した実施形態を示す図である。
図9】内側ベルト矯正部材の内部に加熱源を配置した実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置であるプリンタの概略構成図である。まず、図1を参照して、プリンタの全体構成について説明する。
【0012】
図1に示すプリンタ100は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の異なる色の画像を形成する4つの画像形成部1Y,1M,1C,1Bkと、記録媒体としての用紙Pを供給する記録媒体供給手段としての給紙装置7と、給紙装置7から供給された用紙Pを搬送する搬送手段としての搬送ベルト13と、搬送ベルト13によって搬送される用紙Pに対して画像を転写する転写手段としての4つの転写ローラ14と、用紙Pに画像を定着させる定着装置9と、用紙Pを装置外へ排出する排出手段としての一対の排紙ローラ19とを備えている。なお、用紙Pには、普通紙、厚紙、薄紙、はがき、封筒、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ等が含まれる。また、記録媒体は、用紙P以外に、OHPシートやOHPフィルム等のシートであってもよい。
【0013】
4つの画像形成部1Y,1M,1C,1Bkは、異なる色の現像剤(トナー)を収容している以外は同様に構成されている。具体的に、各画像形成部1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電装置3と、感光体2の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置4と、感光体2上の静電潜像を可視画像化する現像装置5と、感光体2の表面をクリーニングするクリーニング装置6等を備えている。
【0014】
続いて、図1を参照しつつ、本実施形態に係るプリンタの画像形成動作について説明する。
【0015】
画像形成動作が開始されると、各画像形成部1Y,1M,1C,1Bkの感光体2が回転駆動され、各帯電装置3によって各感光体2の表面が所定の極性に一様に帯電される。次に、読取装置やコンピュータ等から得られた、所望のフルカラー画像をイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの色情報に分解した単色の画像情報に基づいて、各露光装置4が各感光体2の帯電面を露光し、各感光体2上に静電潜像が形成される。そして、各感光体2上に形成された静電潜像に、各現像装置5からトナーが供給され、静電潜像がトナー画像として現像(可視像化)される。
【0016】
また、画像形成動作が開始されると、給紙装置7から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、回転する搬送ベルト13によって搬送され、各転写ローラ14の位置で各感光体2上のトナー画像が用紙Pに重なり合うように転写される。これにより、用紙P上にカラー画像が形成される。また、トナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナーは各クリーニング装置6によって除去される。
【0017】
その後、用紙Pは、定着装置9へと搬送され、用紙P上のトナー画像が定着された後、排紙ローラ19によって装置外に排出される。
【0018】
以上の説明は、用紙上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つの画像形成部1Y,1M,1C,1Bkのいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの画像形成部を使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0019】
以下、本実施形態に係る定着装置の構成について説明する。
【0020】
図2に示すように、定着装置9は、無端状の定着ベルト20と、定着ベルト20を加熱する加熱源としてのハロゲンヒータ21と、定着ベルト20の内周側に配置されたニップ形成部材22と、ニップ形成部材22を支持する支持部材としてのステー24と、定着ベルト20を介してニップ形成部材22に加圧される対向回転体としての加圧ローラ23等を備えている。加熱源は、ハロゲンヒータに限らず、カーボンヒータ等の他の加熱源を用いることも可能である。また、対向回転体は、ニップ形成部材22に対して加圧されて接触する場合に限らず、加圧されずに接触する構成とすることも可能である。
【0021】
定着ベルト20は、複数のローラ等によって張力が付与された状態で支持されるベルトとは異なり、回転せずに静止した状態では周方向の張力が付与されない、いわゆるフリーベルト方式で支持されている。
【0022】
具体的に本実施形態では、図3に示すように、定着ベルト20は、その両端部に配置された一対のベルト支持部材25によって回転可能に支持されている。ベルト支持部材25は、定着ベルト20の内径よりも小さい外径の略円筒状又はC字状に形成された支持部25aを有しており、一対の支持部25aが定着ベルト20の端部内周側に挿入されることで、定着ベルト20の両端部が内周側から支持される。このように、定着ベルト20がその内径よりも小さい外径の支持部25aによって支持されることで、定着ベルト20が静止した状態では、基本的に定着ベルト20は周方向の張力は付与されない状態で支持される。
【0023】
また、図3に示すように、各ベルト支持部材25は、定着ベルト20の外径よりも大きい外径の規制部25bを有する。この規制部25bは、定着ベルト20に軸方向の寄り力が発生した場合に、定着ベルト20の軸方向の移動を規制する部分として機能する。
【0024】
さらに、本実施形態では、図3に示すように、定着ベルト20の両端面とこれに対向する各規制部25bとの間に、リング部材26が配置されている。リング部材26は、摺動性を有する部材で構成されており、定着ベルト20に軸方向の寄り力が発生した場合に、定着ベルト20の端面と接触することで、定着ベルト20の摩耗を防止する。また、リング部材26は、ベルト支持部材25の支持部25aの外周側に回転可能に装着されており、定着ベルト20がリング部材26に接触した際にリング部材26が定着ベルト20と一緒に回転することで、定着ベルト20の摩耗をより効果的に防止することが可能である。
【0025】
上記の如く構成された定着装置9において、画像形成動作の開始に伴い定着装置9の電源スイッチが投入されると、ハロゲンヒータ21に電力が供給され、定着ベルト20が加熱される。また、同時に加圧手段によって加圧ローラ23が定着ベルト20側へ付勢され、定着ベルト20と加圧ローラ23との間にニップ部Nが形成される。この状態で、加圧ローラ23が回転駆動することにより、これに伴って定着ベルト20が従動回転する。
【0026】
そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度(定着温度)に到達した状態で、回転する定着ベルト20と加圧ローラ23との間(ニップ部N)に、未定着トナー画像が担持された用紙Pが進入することで、未定着トナー画像が加熱及び加圧されて用紙Pに定着される。
【0027】
ニップ部Nを通過した用紙Pは、ニップ部Nの用紙搬送方向下流側で定着ベルト20から分離される。このとき、溶融するトナーによって用紙Pが定着ベルト20に貼り付くのを防止するため、図4に示すように、ニップ形成部材22の用紙搬送方向下流側には凸状の曲面部22aが設けられている。ニップ形成部材22は、樹脂又は金属で形成されるが、ニップ形成部材22に対する定着ベルト20の摺動性を向上させるために、ニップ形成部材22の定着ベルト20側の面(定着ベルト20に対して接触する面)に、樹脂コーティング層又は樹脂フィルムや繊維シート等の摺動部材を設けてもよい。
【0028】
以下、定着ベルト20の構成について詳しく説明する。
【0029】
定着ベルト20は、一般的に、厚さが1mm以下に設定され、直径は15mm以上120mm以下である。本実施形態では、定着ベルト20の直径が、30mm程度に設定されている。
【0030】
定着ベルト20は、基材と、基材の外周面に設けられた弾性層と、弾性層の外周面に設けられた離型層で構成されている。なお、基材の外周面に弾性層を設けず、離型層のみ設ける構成であってもよい。
【0031】
基材は、小型化や低熱容量化を図るには、直径が20mm以上30mm以下、厚さが20μm以上100μm以下であることが望ましい。
【0032】
弾性層は、光沢ムラのない均一な画像を得るために、定着ベルト20の表面に柔軟性を与える目的で設けられる。弾性層は、ゴム硬度が5°以上50°以下(JIS-A)、厚さが50μm以上500μm以下であることが望ましい。また、弾性層は、定着温度に対する耐熱性から、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等で形成されることが望ましい。
【0033】
離型層は、定着ベルト20に対する用紙分離性や紙粉固着防止性を得るために設けられる。離型層に用いられる材料としては、各種フッ素系樹脂、もしくは、これらの樹脂混合物、耐熱性樹脂にフッ素系樹脂を分散させたものが挙げられる。フッ素系樹脂としては、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)などが挙げられる。
【0034】
弾性層を上記のような材料から成る離型層により被覆すると、シリコーンオイル等を使用しなくても、トナー離型性が得られ、紙粉固着防止が可能となる。しかしながら、上記のような離型性を有する樹脂は、ゴム材料のような弾性を一般的に有しないので、弾性層上に離型層を厚く形成すると、定着ベルト20の表面の柔軟性が低下し、形成される画像に光沢ムラが発生する可能性がある。離型性と柔軟性とを両立させるためには、離型層の厚さが、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましい範囲は10μm以上30μm以下である。
【0035】
また、必要に応じて、各層間にプライマー層を設けてもよい。また、ニップ形成部材に対する摺動時の耐久性を向上させる目的で、基材の内周面に、例えばフッ素系樹脂のPFAやPTFEから成る層を設けてもよい。
【0036】
以下、加圧ローラ23の構成について詳しく説明する。
【0037】
加圧ローラ23は、直径が20mm以上30mm以下に設定されている。加圧ローラ23は、金属製の円筒部材から成る芯金と、芯金の外周面に設けられた連続気泡を有する発泡弾性層と、発泡弾性層の外周面に設けられたソリッド弾性層と、ソリッド弾性層の外周面に設けられた離型層とで構成されている。なお、加圧ローラ23の両端部の通紙領域外には、定着ベルト20に接触してこれを従動回転させるために、摩擦力確保を目的としたグリップ層が設けられている。
【0038】
連続気泡を有する発泡弾性層は、断熱性に優れているために、ニップ部Nを加熱する際に必要な時間を短縮する効果が大きい。このような発泡弾性層には、発泡シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)が使用される。発泡シリコーンゴムは、例えばシリコーンパウンドに発泡剤、架橋剤、連通化剤を練り、発泡加硫させて得ることができる。また、発泡シリコーンゴムは、液状シリコーンゴムに水、吸水ポリマー、硬化触媒を添付撹拌し、金型内で硬化させることでも形成することができる。
【0039】
上記のような発泡シリコーンゴムにおいて、発泡倍率が1.5以上3以下の範囲であれば、低熱容量と十分な強度とを確保できるので好ましい。
【0040】
また、上記発泡シリコーンゴムの製法のうち後者の方法においては、沸点が室温よりも高い液状化合物を配した発泡性シリコーン組成物を発泡させて得られる、いわゆる水発泡シリコーンによって発泡シリコーンゴムを形成することが好ましい。このような水発泡シリコーンを得る製法は、例えば特開2003-96223号公報等で公開されている。この製法によれば、形成される気泡が微細となるので、加熱時の熱膨張によるローラ外径の増加や破泡による硬化低下を防止でき、耐久性が向上するので好ましい。
【0041】
上記ソリッド弾性層は、厚さが0.2mm以上2mm以下であることにより、芯金近傍の耐破泡性と高い接着強度とを得ることができる。
【0042】
上記離型層は、耐熱性とトナーの付着防止とを考慮し、フッ素系樹脂等で形成されるのが望ましい。例えば、フッ素系樹脂として、PFAやPTFEを用いるのが一般的である。離型層の厚さは、表面硬度が上がるのを抑制するために、0.1mm以下とすることが好ましい。
【0043】
本実施形態のように、薄肉の定着ベルトを備える定着装置であれば、定着ベルトの加熱に必要な熱エネルギーを低減することができ、ファーストプリント時間の短縮が図れる利点がある。一般的に、定着ベルトの基材としては、ニッケル等の金属材料、あるいはポリイミド等の樹脂材料が用いられている。
【0044】
ところで、このようなベルト式の定着装置のさらなる高速機種(例えば、1分間に100枚程度の通紙速度)への展開を検討した場合、定着ベルトに対する用紙分離性の確保のために、ニップ部出口側のベルト曲率をさらに大きくする必要がある。しかしながら、そうすると、定着ベルトの曲げ負荷が増大するため、定着ベルトの基材が金属材料で形成されている場合は、定着ベルトが曲げ負荷に耐えきれず、定着ベルトが経時的に破断する虞がある。斯かる課題に対しては、定着ベルトの基材にポリイミド等の繰り返し曲げに強い樹脂材料を用いることで、曲げ負荷に対する定着ベルトの耐久性を向上させることが可能である。しかしながら、ポリイミド等の樹脂材料は、一般的に成形の際に長時間熱処理が必要となるため、エネルギーの大量消費による製造コストや環境負荷の課題がある。これに対して、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の熱可塑性樹脂は、押出成形によって成形することができるため、製造エネルギーを大幅に削減することが可能である。しかしながら、PEEK等の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が定着ベルトの定着温度よりも低いため、定着ベルトの基材として用いられると、定着ベルトが熱によって変形してしまう懸念があった。
【0045】
そこで、本実施形態に係る定着装置においては、コストと曲げ負荷に対する耐久性の面で優れる一方で耐熱性に課題のあるPEEK等の熱可塑性樹脂を、定着ベルトの基材として用いることができるようにするため、下記のような対策を講じている。
【0046】
図2に示すように、本実施形態に係る定着装置9においては、熱による定着ベルト20の変形を抑制する手段として、定着ベルト20の内周側に配置された第一部材としての内側ベルト矯正部材31と、定着ベルト20の外周側に配置された第二部材としての外側ベルト矯正部材32とが設けられている。内側ベルト矯正部材31と外側ベルト矯正部材32とは、定着ベルト20を介して互いに接触している。本実施形態では、両ベルト矯正部材31,32が互いに加圧されて定着ベルト20を挟持するように構成されているが、両ベルト矯正部材31,32は互いに加圧されないで接触する場合であってもよい。
【0047】
両ベルト矯正部材31,32は、ニップ部N以外の箇所で定着ベルト20を介して互いに接触している。本実施形態では、両ベルト矯正部材31,32が、ニップ部Nの入口側に配置され、入口側で互いに接触している。ここで、ニップ部Nの入口側とは、定着ベルト20がニップ部Nに対して進入する側であって、図2に示すように、定着ベルト20の回転方向におけるニップ部Nの中央位置Aから、定着ベルト20の回転方向とは反対方向にベルト周長の4分の1周分進んだ位置Bまでの範囲をいう(ただし、ニップ部Nを除く)。
【0048】
また、本実施形態では、両ベルト矯正部材31,32が、回転可能なローラ部材40で構成されている。従って、定着ベルト20が回転すると、これに伴って両ベルト矯正部材31,32も回転する。本実施形態では、内側ベルト矯正部材31が、外側ベルト矯正部材32よりも大径のローラ部材で構成されているが、両ベルト矯正部材31,32の径の大小関係はこれに限定されるものではない。反対に、内側ベルト矯正部材31が、外側ベルト矯正部材32よりも小径のローラ部材で構成されていてもよいし、両ベルト矯正部材31,32が同じ径のローラ部材で構成されていてもよい。
【0049】
このように、本実施形態に係る定着装置9においては、定着ベルト20の内周側と外周側とにそれぞれベルト矯正部材31,32が設けられていることで、熱による定着ベルト20の変形が生じたとしても、その変形を抑制することができる。すなわち、定着ベルト20が一対のベルト矯正部材31,32の間を通過するときに、両ベルト矯正部材31,32によって定着ベルト20が内周側と外周側から押さえられることで、定着ベルト20の変形を矯正することができる。
【0050】
通常、ニップ部Nに用紙が進入すると、定着ベルト20の熱は用紙によって奪われるため、ニップ部Nの出口側では入口側に比べて定着ベルト20の温度が低くなる傾向にある。反対に、ニップ部Nの入口側では、用紙によって熱が奪われる前の状態であるため、定着ベルト20の温度は高い傾向にある。従って、定着ベルト20はニップ部Nの入口側で熱の影響を受けやすい。しかも、本実施形態では、ハロゲンヒータ21が、ニップ部Nの中央位置Aを基準にベルト周長を二等分した場合の入口側の領域内に配置されているので(図2参照)、特にニップ部Nの入口側で定着ベルト20が熱の影響を大きく受けることになる。
【0051】
斯かる事情を考慮し、本実施形態では、両ベルト矯正部材31,32を、熱による定着ベルト20の変形の生じやすい入口側に配置している。これにより、熱による定着ベルト20の変形を効果的に抑制することができる。また、定着ベルト20がニップ部Nに進入する直前で変形を抑制することができるので、変形が抑制された状態で定着ベルト20がニップ部Nへ進入することができ、定着ベルト20の変形に伴う不良画像の発生を確実に防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、両ベルト矯正部材31,32が回転可能なローラ部材40で構成され、定着ベルト20の回転に伴って両ベルト矯正部材31,32も回転するため、定着ベルト20の回転負荷が軽減される。これにより、定着ベルト20を円滑に回転させることができる。特に、外側ベルト矯正部材32が回転可能なローラ部材40であることで、定着ベルト20の外周面の摩耗を抑制できる。このように、画像定着性に影響を与える定着ベルト20の外周面の摩耗が抑制されることで、良好な画像を長期に亘って提供できるようになる。
【0053】
また、図5図6に示す実施形態のように、内側ベルト矯正部材31と外側ベルト矯正部材32とのいずれか一方を、回転しないパッド部材50で構成してもよい。特に、図5に示す実施形態のように、内側ベルト矯正部材31をパッド部材50で構成した場合は、パッド部材50と定着ベルト20の内周面との間に潤滑剤を供給して定着ベルト20の摺動性を向上させることもできる。すなわち、この場合、潤滑剤は画像定着性に影響を与える定着ベルト20の外周面でなく内周面に供給されるので、潤滑剤を供給しても画像定着性に影響を与えることなく摺動性を向上させることができる。
【0054】
さらに、図7に示す実施形態のように、内側ベルト矯正部材31と外側ベルト矯正部材32との両方をパッド部材50で構成することも可能である。
【0055】
また、上記実施形態では、内側ベルト矯正部材31及び外側ベルト矯正部材32が、ニップ部Nの入口側に配置されているが、図8に示す実施形態のように、ニップ部Nの出口側に、内側ベルト矯正部材31及び外側ベルト矯正部材32が配置された構成としてもよい。上述のように、ニップ部Nの出口側では入口側に比べて定着ベルト20への熱の影響は小さい傾向にあるが、出口側に一対のベルト矯正部材31,32を配置することで、出口側での熱による定着ベルト20の変形を抑制することができる。また、ここでいうニップ部Nの出口側とは、定着ベルト20がニップ部Nから排出される側であって、定着ベルト20の回転方向におけるニップ部Nの中央位置Aから、定着ベルト20の回転方向にベルト周長の4分の1周分進んだ位置Cまでの範囲をいう(ただし、ニップ部Nを除く)。また、図8では、両ベルト矯正部材31,32がいずれも回転可能なローラ部材40で構成されているが、両ベルト矯正部材31,32の少なくとも一方が上記のような回転しないパッド部材50であってもよい。
【0056】
また、図9に示す実施形態のように、内側ベルト矯正部材31の内部にハロゲンヒータ21等の加熱源を配置してもよい。この場合、内側ベルト矯正部材31の内部空間を加熱源の設置スペースとして利用することで、省スペース化が図られ、定着装置9の小型化を図れるようになる。また、図9に示す実施形態において、内側ベルト矯正部材31及び外側ベルト矯正部材32は、回転可能なローラ部材40であってもよいし、回転しないパッド部材50であってもよい。さらに、上記図8に示すような両ベルト矯正部材31,32をニップ部Nの出口側に配置した構成において、内側ベルト矯正部材31の内部に加熱源を設けてもよい。
【0057】
以下、本発明の効果を確認する試験について説明する。
【0058】
<実施例>
本発明の実施例は、上述の内側ベルト矯正部材と外側ベルト矯正部材とを備える図2と同様の定着装置を、図1と同様のプリンタに搭載して構成した。
【0059】
本実施例では、内側ベルト矯正部材として、直径4mmのSUS製のローラに1mmのシリコーンゴムを被覆したものを用い、外側ベルト矯正部材として、直径2mmのSUS製のローラに1mmのシリコーンゴムを被覆したものを用いた。また、両ベルト矯正部材を、定着ベルトを介して互いに圧接するように固定した。
【0060】
定着ベルトとしては、基材と、弾性層と、離型層とが、外周側へ順次積層されたベルト部材を用いた。基材を、押出成形によって無端状に形成された直径30mm、厚さ40μmのPEEKとし、弾性層を、厚さ100μmのシリコーンゴムとし、離型層を、厚さ25μmのPFAとした。
【0061】
加圧ローラとしては、芯金と、発泡弾性層と、ソリッド弾性層と、離型層とが、外周側へ順次積層されたローラ部材を用いた。発泡弾性層を、上述の水発泡シリコーン製造法によって成形された発泡倍率2.0の発泡シリコーンゴムとし、ソリッド弾性層を、厚さ0.1mmのシリコーンゴムとし、離型層を、厚さ0.007mmのPFAとした。
【0062】
ニップ形成部材としては、アルミニウム製の板金にフッ素樹脂系のコーティングを施したものを用いた。また、高線速でも定着ベルトから用紙を確実に分離できるように、用紙搬送方向下流側の曲面部の曲率半径を1mmとした。また、ニップ形成部材を支持するステーとして、SUS304製のステーを用いた。
【0063】
<比較例1>
比較例1では、内側ベルト矯正部材と外側ベルト矯正部材とを備えていない定着装置を用いた。また、定着ベルトとして、基材がニッケルで形成されたものを用いた。その他の構成は、上記本発明の実施例と同様の構成とした。
【0064】
<比較例2>
比較例2では、定着ベルトとして、上記本発明の実施例と同様に基材がPEEKで形成されたものを用いているが、内側ベルト矯正部材と外側ベルト矯正部材とを備えていない定着装置を用いた。それ以外は、上記本発明の実施例と同様の構成とした。
【0065】
<試験方法>
本試験では、上記本発明の実施例、比較例1及び比較例2に対して、用紙を多数枚通紙し定着処理を行った場合の耐久性の評価と画像品質の評価とを行った。通紙枚数は1分間に100枚を想定し、600mm/secの線速で定着ベルトを回転させた。本試験の結果を下記表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、本発明の実施例では、600000枚以上通紙しても、定着ベルトの回転不良や不良画像などの不具合は生じなかった。これに対して、比較例1では、通紙枚数が200000枚に至る前に定着ベルトが破損して回転不良が発生し、比較例2においては、通紙枚数が1000枚に至る前の早い段階で、画像不良が発生した。
【0068】
比較例1において定着ベルトが破損したのは、定着ベルトの基材がニッケルであったため、定着ベルトが曲げ負荷に経時的に耐えきれなくなったことが原因と考えられる。また、比較例2において画像不良が発生したのは、定着ベルトの基材がPEEKであったため、定着ベルトが熱によって変形したことが原因と考えられる。
【0069】
これに対して、本発明の実施例では、定着ベルトの基材が比較例2と同様のPEEKであるにもかかわらず、熱によって変形することがなく600000枚以上に渡って良好な画像を提供することができた。これは、一対のベルト矯正部材によって、熱による定着ベルトの変形が抑制されたためと考えられる。また、定着ベルトに破損が生じなかったのは、比較例1のようなニッケル製の基材よりも曲げ負荷に対する耐久性に優れるPEEKを基材として用いていたからと考えられる。
【0070】
以上のように、本発明によれば、定着ベルトの基材として、ガラス転移温度が定着温度よりも低いPEEK等の熱可塑性樹脂を用いたとしても、一対のベルト矯正部材を設けることで、熱による定着ベルトの変形を抑制することができ、定着ベルトの変形に伴う不良画像の発生を防止できるようになる。このように、本発明によれば、定着ベルトの基材にPEEK等の低コストで曲げ負荷に対する耐久性に優れる熱可塑性樹脂を用いることが可能となるので、画像形成速度の高速化に対応して定着ベルトの曲率を大きくした構成においても、定着ベルトの破損の虞を低減することができ、低コストで信頼性の高い定着装置及び画像形成装置を提供することができるようになる。
【0071】
また、本発明では、PEEK以外の熱可塑性樹脂として、例えば、PPSU(ポリフェニルスルホン樹脂)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、TPI(熱可塑性ポリイミド)等も、定着ベルトの基材として用いることができる。
【0072】
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。上述の実施形態では、カラープリンタに搭載された定着装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明に係る画像形成装置はモノクロプリンタであってもよい。また、本発明は、プリンタのほか、複写機、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機に搭載される定着装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
9 定着装置
20 定着ベルト
21 ハロゲンヒータ(加熱源)
22 ニップ形成部材
23 加圧ローラ(対向回転体)
31 内側ベルト矯正部材(第一部材)
32 外側ベルト矯正部材(第二部材)
40 ローラ部材
50 パッド部材
100 プリンタ(画像形成装置)
N ニップ部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【文献】特開2006-220950号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9