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特許7087383熱電変換材料、熱電変換モジュール、および熱電変換材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換モジュール、および熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/26 20060101AFI20220614BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20220614BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01L35/26
H01L35/14
H01L35/34
C22C38/00 304
C22C28/00 A
C22C30/00
C22C33/02 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017253442
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019121628
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西出 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】早川 純
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/065081(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/185852(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163262(WO,A1)
【文献】特開2017-212414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0214456(US,A1)
【文献】特表2013-518450(JP,A)
【文献】特開2010-166016(JP,A)
【文献】特開2008-192652(JP,A)
【文献】特開2015-122476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/26
H01L 35/14
H01L 35/34
C22C 38/00
C22C 28/00
C22C 30/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相と粒界相からなり、
前記主相はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、
前記粒界相はCu,Ag,Auから選ばれた少なくとも一つの元素とLa,Bi,Nbから選ばれた少なくとも一つの元素からなる金属Nを含み、
前記粒界相の体積比率が2~10%であり、
前記Fe TiSi系フルホイスラ合金の結晶粒の平均粒径は1μm未満であり、
前記粒界相の平均厚さが1~10nmの範囲であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
前記Fe TiSi系フルホイスラ合金の結晶粒の平均粒径は30~100nmである、
請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記粒界相の体積比率が7~9%である、
請求項1または2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記FeTiSi系フルホイスラ合金が、Fe,Ti,V,Si,Alを含み、
TiがVより多く含有され、
SiがAlより多く含有される、
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記FeTiSi系フルホイスラ合金に、炭素(C)、酸素(O)および窒素(N)から選択される少なくとも一つの元素が固溶しており、その含有量が1000ppm以下である、
請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の熱電変換材料。
【請求項6】
熱電変換部と、
前記熱電変換部に電気的および熱的に接触する第1電極および第2電極を備え、
前記熱電変換部の少なくとも一部は熱電変換材料により形成され、
前記熱電変換材料は、
主相と粒界相からなり、
前記主相はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、
前記粒界相はCu,Ag,Auから選ばれた少なくとも一つの元素とLa,Bi,Nbから選ばれた少なくとも一つの元素からなる金属Nを含み、
前記粒界相の体積比率が2~10%であり、
前記Fe TiSi系フルホイスラ合金の結晶粒の平均粒径は1μm未満であり、
前記粒界相の平均厚さが1~10nmの範囲である、
熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換材料、及びそれを用いた熱電変換モジュールと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Fe、Ti、及びSiを用いたフルホイスラ合金からなる熱電変換材料であって、Sn、Cu、Vなどを含む熱電変換材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/185852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、熱電変換モジュールの熱電変換効率は、無次元の性能指数ZTに依存する。ここで、ZTは性能指数Zに絶対温度Tを掛けた無次元性能指数であり、Z=S/(κρ)(Sはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率)である。従って、熱電変換モジュールの出力を向上させるためには、熱電変換材料のゼーベック係数Sを増加させ、電気抵抗率ρを減少させ、熱伝導率κを減少させることが必要である。
【0005】
しかし、従来の熱電変換材料では、電気抵抗率ρを低減するために低抵抗の合金と複合材料を形成しても熱伝導率κが増加してしまい、結果として高ZT化できないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、熱電変換材料の電気抵抗率ρを低減しつつ熱電変換材料の熱伝導率κを減少させ、性能指数を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、主相と粒界相からなり、主相はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、粒界相はFeTiSiに難固溶性の金属Nを含み、粒界相の体積比率が2~10%であることを特徴とする熱電変換材料である。
【0008】
本発明の他の一側面は、熱電変換部と、熱電変換部に電気的および熱的に接触する第1電極および第2電極を備え、前記熱電変換部の少なくとも一部は熱電変換材料により形成され、前記熱電変換材料は、主相と粒界相からなり、前記主相はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、前記粒界相はFeTiSiに難固溶性の金属Nを含み、前記粒界相の体積比率が2~10%であることを特徴とする熱電変換モジュールである。
【0009】
本発明の他の一側面は、アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金の原料粉末と、金属Nを含む原料粉末を準備する仕込み工程、前記原料粉末を熱処理する熱処理工程、前記熱処理後に生成物を冷却する冷却工程を含み、前記FeTiSi系フルホイスラ合金からなる熱電変換材料の主相の間に、前記金属Nを析出させて粒界相を形成し、該粒界相の体積比率を2~10%とすることを特徴とする熱電変換材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気抵抗率ρを低減しつつ熱電変換材料の熱伝導率κを減少させ、性能指数を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の熱電変換材料の組織模式図。
図2】実施例の熱電変換材料と、従来のFeVAl系フルホイスラ合金の、平均結晶粒径(横軸)と、性能指数ZT(縦軸)および、結晶粒径に依存する熱伝導率κの関係を示すグラフ図。
図3】実施例の熱電変換モジュールの斜視図。
図4】実施例の熱電変換モジュールの斜視図。
図5】実施例のFeTiVSi系熱電変換材料の材料組織のTEM像。
図6】実施例のFeTiVSi系熱電変換材料の、STEM-EDXによるカラムマッピング図。
図7】実施例のFeTiVSi系熱電変換材料の、STEM像およびSTEM-EDXマッピングの比較図。
図8A】実施例の熱電変換材料と比較例の、結晶粒径とゼーベック係数の特性を比較するグラフ図。
図8B】実施例の熱電変換材料と比較例の、結晶粒径と電気抵抗率の特性を比較するグラフ図。
図8C】実施例の熱電変換材料のCu体積比と熱伝導率との関係を示すグラフ図。
図8D】実施例の熱電変換材料のCu体積比と性能指数との関係を示すグラフ図。
図9】実施例の熱電変換材料のCuに対するLa添加による熱伝導率の効果を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0013】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0014】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことはいうまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
また、以下の実施の形態において、A~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0017】
<1.熱電変換材料の構成>
発明者等は、本実施の形態の熱電変換材料として、主相と粒界相からなり、主相はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、粒界相はFeTiSi系フルホイスラ合金に難固溶性の金属合金Nからなり、粒界相の体積比率が2~10%となることを特徴とする熱電変換材料を採用した。ここで、主相とは相比率が最も高い相のことをいい、多くの場合当該材料の特性に最も大きな影響を与える基軸材料である。また、金属合金Nは本明細書中では便宜上「金属合金N」と表記しているが、金属Nとも表記しても良く、単一金属であることを妨げるものではない。また半金属等を添加することを妨げるものではない。ここで金属合金Nは具体的にはCuなどのFeTiSi系フルホイスラ合金に難固溶性の元素からなる合金である。
【0018】
図1は当該材料の組織模式図を示す。FeTiSi系フルホイスラ合金の主相101の間に、金属合金Nの粒界相102が存在する。このように複合構造を形成する上で、ゼーベック係数Sが高い主相101を選定し、電気抵抗率ρの低い粒界相102を選択することが望ましい。そうすることでゼーベック係数Sは主相の物性から高い状態を維持でき、電気抵抗率ρは粒界相の金属合金Nの物性により低減できる。さらに熱伝導率κは、粒径がナノスケールであること(条件1)、および、粒界相がナノスケールであること(条件2)、からフォノンの散乱が促進され、低く保つことができる。
【0019】
前述の特徴と原理を発現せしめる構成として、主相101には組成式FeTiSiで表されるフルホイスラ合金、すなわちFeTiSi系フルホイスラ合金を採用した。つまり、本実施の形態の熱電変換材料は、鉄(Fe)、チタン(Ti)およびシリコン(Si)を主成分として含有するフルホイスラ合金からなる。
【0020】
ここで、フルホイスラ合金が、鉄、チタンおよびシリコンを主成分として含有する、とは、鉄の含有量が25at%(原子%)を超え、チタンの含有量が12.5at%(原子%)を超え、シリコンの含有量が12.5at%(原子%)を超えることを、本明細書では意味するものとする。
【0021】
すなわち、E1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラ合金において、全てのE1サイトのうち50%を超えるE1サイトが鉄原子により占有されていることを、意味する。また、全てのE2サイトのうち50%を超えるE2サイトがチタン原子により占有され、全てのE3サイトのうち50%を超えるE3サイトがシリコン原子により占有されていることを、意味する。
【0022】
また、粒界相にはFeTiSiに難固溶性の金属合金Nを含んでいる。金属合金Nは後述のように望むべき冶金的性質として、FeTiSiから析出して形成される必要がある。そのため、FeTiSiに難固溶性な元素を選択する必要がある。また電気抵抗率が低いことが望ましく、特にs電子による電気伝導が支配的な金属合金が好適である。したがって、金属合金Nとしては、Cu,Ag,Au,La,Bi,Nbの中の少なくとも一つの元素を主成分とする合金が望ましい。ここで、主成分とは50%以上をCu,Ag,Au,La,Bi,Nbから選ばれた少なくとも一種で構成されていることを指す。ここで成分比率は合金中の成分元素の重量比である。
【0023】
図2に、図1に構造を示す本実施例の熱電変換材料と、従来のFeVAl系フルホイスラ合金の、平均結晶粒径(横軸)と、性能指数ZT(縦軸)および、結晶粒径に依存する熱伝導率κの関係を模式的に比較して示す。
【0024】
特許文献1の図2で説明されているように、従来のFeVAl系フルホイスラ合金の特性202では、結晶粒の平均粒径を小さくして熱伝導率κを小さくすると、電気抵抗率ρは大きくなってしまい、Z=S/(κρ)における出力因子S/ρは小さくなり、結果としてZTが減少する。
【0025】
一方、本実施例のFeTiSi系フルホイスラ合金を主相とし、粒界相を金属合金Nとした熱電変換材料では、図2の特性201に示す通り、FeVAl系フルホイスラ合金の特性202と異なり、結晶粒の平均粒径を200nm程度以下まで小さくして熱伝導率κを小さくしても、出力因子S/ρは維持されるか、または、大幅に上昇することにより、ZTが上昇する。
【0026】
また、このFeTiSi系フルホイスラ合金は、p型の熱電変換材料になる場合、および、n型熱電変換材料になる場合のいずれにおいても、前述の様な高い出力因子S/ρを有する。
【0027】
さらに好適な形態を述べると、上記(条件1)と(条件2)で原理を述べたとおり、主相、粒界相はある程度微細化されていることが、熱伝導率κを低く保つ上で望ましい。したがって、(条件1)によると好適には、FeTiSi系フルホイスラ合金の結晶粒の平均粒径は、1μm未満である。これにより、結晶粒の平均粒径が1μmを超える場合に比べ、性能指数ZTを向上させることができる。性能指数ZTをより向上させるためには、結晶粒の平均粒径が30~200nmであることが、より好ましい。また、性能指数ZTをさらに向上させるためには、結晶粒の平均粒径が30~140nmであることが、さらに好ましい。また、さらに理想的には、平均粒径が30~100nmであることが好ましい。
【0028】
同様の理由で、(条件2)によると好適には、金属合金Nは層状として粒界に存在させることが望ましい。金属合金Nが難固溶性であり、体積比率2~10%であれば、実施例で示すような粒径がおおよそ50nm程度の主相に対しては金属合金Nの厚みは1~10nmとなる。すなわち、厚みが1~10nmの範囲である金属合金Nの層が存在することにより、熱伝導率κと電気抵抗率ρをともに低減できる。層の厚みは二粒子粒界相では、対向する結晶粒と金属合金の境界の最短距離と定義できる。層の厚みは例えば透過型電子顕微鏡(TEM)像により観測することができる。熱電変換材料全体としての特性を向上させるためには、金属合金Nの平均厚さが1~10nmの範囲に含まれるように構成することが望ましい。
【0029】
金属合金Nであるが、電気抵抗率ρが低いことから必然的に電子熱伝導率が高い。そのため金属合金N自体の熱伝導率κは高い。したがって金属合金Nの含有体積比が10%を超えると、金属合金Nの物性値が支配的になり、それに伴い熱伝導率が上昇してしまう。その結果、性能指数ZTが著しく低下するおそれがある。そのため、金属合金Nの含有体積比は、10%以下であることが好ましい。一方、金属合金Nの含有体積比として2%未満となると、粒界相の配置や厚みなどの要因によって熱伝導率κと電気抵抗率ρをともに低減できる効果が期待できないことがあるため、2%以上であることが好ましい。
【0030】
<2.熱電変換材料の製法>
これまで述べた実施例について、それを得る望ましい手法について述べる。例えば、アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を熱処理することにより、結晶粒の平均粒径が1μm未満の微細な結晶粒からなる熱電変換材料を製造することができる。また、アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を製造する方法として、メカニカルアロイングや、原料を溶解した後に超急冷する方法等を用いることができる。
【0031】
アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を熱処理する工程において、熱処理する温度が高いほど、また、熱処理する時間が長いほど、製造される熱電変換材料の結晶粒の平均粒径は、大きくなる。熱処理する温度と時間とを適宜設定することにより、結晶粒の平均粒径を制御することができる。例えば、熱処理する温度は、550~700℃であることが好ましく、熱処理する時間は、3分以上10時間以下とすることが好ましい。
【0032】
また、結晶粒の平均粒径が30~140nmの範囲に含まれるためには、アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa~5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結する方法が望ましい。この焼結の際、550~700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3~180分間保持し、その後、室温まで冷却することが好ましい。
【0033】
FeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を前述の方法で熱処理した場合、金属合金Nは主相のFeTiSi系フルホイスラ合金の結晶には固溶しない。そのため、アモルファス化されたFeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料粉末を熱処理すると、金属合金Nは主相とは別々に析出し、粒界相として結晶化する。また、この際、金属合金Nが主相のFeTiSi系フルホイスラ合金の結晶成長を抑制するため、FeTiSi系フルホイスラ合金の結晶粒を微細化することができる。したがって、金属合金Nは、結晶粒径制御用合金とも称される。
【0034】
また、炭素(C)、酸素(O)または窒素(N)等の元素が、主相としてのフルホイスラ合金に固溶した場合、主相の析出温度より低い温度で合金や化合物が形成される。そのため、炭素、酸素または窒素等の元素が主相に固溶することにより、上記結晶粒径制御用元素と同様に、結晶粒を微細化することができる。これらの炭素、酸素または窒素等の元素の含有量(添加量)が1000ppm以下であることが、好ましい。
【0035】
なお、FeTiSi系フルホイスラ合金と金属合金Nの原料をアモルファス化する方法として、ロール急冷またはアトマイズ等の方法を用いることができる。アモルファス化したものが粉末で得られていない場合は、水素脆化し酸化が防止されるような環境下で粉砕する方法を用いてもよい。
【0036】
原料の成型の方法として、加圧成型等の各種の方法を用いることができる。焼結を磁場中で行い、磁場配向させた焼結体を得ることもできる。また、加圧成型と焼結を同時に行うことができる放電プラズマ焼結を用いることもできる。
【0037】
<3.熱電変換モジュール>
図3および図4により、本実施の形態の熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールについて説明する。図3は、上部基板を取り付ける前の状態を示し、図4は、上部基板を取り付けた後の状態を示す。
【0038】
本実施の形態の熱電変換材料は、例えば図3および図4に示す熱電変換モジュール10に搭載することができる。熱電変換モジュール10は、p型熱電変換部11と、n型熱電変換部12と、複数の電極13と、上部基板14と、下部基板15と、を有する。また、熱電変換モジュール10は、複数の電極13として、電極13aと、電極13bと、電極13cと、を有する。
【0039】
p型熱電変換部11とn型熱電変換部12とは、電極13aと電極13cとの間に、互いに直列に接続されている。電極13aと電極13cとして図示されている以外の電極は電極13bであり、p型熱電変換部11とn型熱電変換部12とは、電極13bを介して直列に接続されている。電極13aおよび13cは、下部基板15に形成されている。p型熱電変換部11の電極13a側は、下部基板15と熱的に接触し、p型熱電変換部11の電極13b側は、上部基板14と熱的に接触している。n型熱電変換部12の電極13b側は、上部基板14と熱的に接触し、n型熱電変換部12の電極13c側は、下部基板15と熱的に接触している。これにより、電極13aと電極13cとの間で、p型熱電変換部11の両端の間に発生する熱起電力と、n型熱電変換部12の両端の間に発生する熱起電力とが打ち消されずに足し合わされるため、熱電変換モジュール10により、大きな熱起電力を発生させることができる。
【0040】
p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12の各々は、熱電変換材料を含む。また、p型熱電変換部11およびn型熱電変換部12の各々に含まれる熱電変換材料として、本実施の形態の熱電変換材料を用いることができる。ただし、p型熱電変換部11として、FeNbAlまたはFeSなど、FeTiSi系フルホイスラ合金とは異なる組成を有するフルホイスラ合金からなる熱電変換材料を用いることもできる。
【0041】
一方、上部基板14および下部基板15の各々の材料として、窒化ガリウム(GaN)または窒化珪素(Si-N)、酸化アルミニウム等を用いることができる。また、電極13の材料として、銅(Cu)または金(Au)等を用いることができる。より好適には応力を緩和する部材の組み合わせを選定することが望ましい。
【0042】
以下、本実施の形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
本実施例による熱電変換材料は、以下の構成で表されるp型またはn型のフルホイスラ合金からなる。具体的には、フルホイスラ合金からなる主相と金属あるいは半金属からなる粒界相から構成されている。フルホイスラ合金はFeTiSi系フルホイスラ合金であり、その粒径は30nmから100nm程度である。また、主相の結晶粒の粒界にある粒界相の構造は主相に隣接する層状構造を含んでおり、その厚みは1~10nmで、体積比は2~10%であることが好ましい。
【0044】
前述のFeTiSi系フルホイスラ合金とは、FeとTiとSiを主成分とし、原子量比がFe:Ti:Si=50(at%):25(at%):25(at%)近傍で組成調整され、フルホイスラ合金の結晶構造を有する合金のことを言う。例えばFe、Ti、Siの比率が非化学量論比となっているFe:Ti:Si=48(at%):25(at%):27(at%)の合金などもその範疇に入れて定義する。また、ゼーベック係数の絶対値を最大化せしめるために元素置換した合金についても同様にFeTiSi系フルホイスラ合金と表記する。たとえばn型のFeTiSi系フルホイスラ合金では、特許文献1で示唆されているように、ゼーベック係数の絶対値を最大化せしめるためVなどをTiに対し適量置換することがあるが、その場合もFeTiSi系フルホイスラ合金と表記する。
【0045】
前述の粒界相は、FeTiSi系フルホイスラ合金に難固溶性の元素からなる金属合金Nからなる。その一例としてCu系合金がある。周知の状態図からFeとCuが固溶しないことは知られているが、同様の性質がFeTiSi系フルホイスラ合金とCu系合金の間で確認され、前述の粒界を形成できる。他の例としては、La,Bi,Nb等の重元素とCuの合金が適用可能であり、低熱伝導率化が果たせる。このようなCu系合金と同様の性質はAg,Auでも確認され,Ag-La合金、Au-La合金等でも好ましい効果が得られる。
【0046】
以下の方法により、本実施例の熱電変換材料を作製した。まず、主相のFeTiSi系フルホイスラ合金については、Fe,Ti,Siが主成分であるが、Tiを一部Vで置換したFeTiVSiを採用した。具体的にはE1E2E3で表されるL2型結晶構造を有するフルホイスラ合金からなる熱電変換材料において、E1サイト、E2サイトおよびE3サイトの各サイトの主成分となる原料として、鉄(Fe)、チタン(Ti)およびシリコン(Si)を用いた。また、E2サイトまたはE3サイトの各サイトで主成分を置換する原料としてバナジウム(V)を用いた。また、粒界相の金属合金NはCuとCu-La合金の2種類を採用した。そして、作製される熱電変換材料が所望の組成となるように、各原料を秤量した。このとき置換する元素Vは主成分として含まれるTiの量を超えず、TiがVより多く含まれることが好ましい。ほかの主成分の元素の置換として、SiをAlに置換することなどが考えられるが、それについても同様にSiがAlより多く含まれることが好ましい。この構成により、主成分である元素に対して金属Nが難固溶性である関係を維持できるため好ましい。
【0047】
次に、この原料を、不活性ガス雰囲気中において、ステンレス鋼からなる容器の中に入れ、10mmの直径を有するステンレス鋼からなるボールと混合した。次に、遊星ボールミル装置を用いたメカニカルアロイングを行い、200~500rpmの公転回転速度で20時間以上実施し、アモルファス化した合金粉末を得た。このアモルファス化した合金粉末を、カーボンからなるダイス、または、タングステンカーバイドからなるダイスに入れ、不活性ガス雰囲気中において、40MPa~5GPaの圧力下でパルス電流をかけながら焼結した。この焼結の際、550~700℃の範囲の目標温度まで昇温した後、その目標温度で3~180分間保持し、その後、室温まで冷却することにより、熱電変換材料を得た。
【0048】
得られたFeTiVSi系熱電変換材料の結晶粒の平均粒径を、透過型電子顕微鏡(TEM)とX線回折(X‐ray diffraction:XRD)法によって評価した。また、得られた熱電変換材料の熱拡散率を、レーザーフラッシュ法により測定し、得られた熱電変換材料の比熱を、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)によって測定し、測定された熱拡散率および比熱から、熱伝導率κを求めた。また、電気抵抗率ρおよびゼーベック係数Sを、熱電特性評価装置ZEM(アルバック理工社製)を用いて測定した。
【0049】
図5に得られたFeTiVSi系熱電変換材料の材料組織のTEM像を示す。TEM像から50nm程度の微細な結晶粒を有することが分かる。さらに走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)のカラムマッピングにてFeTiSi系フルホイスラ合金が所望の結晶構造を有することを確認した。
【0050】
図6に本実施例のFeTiVSi系熱電変換材料の、STEM-EDXによるカラムマッピング結果を示す。図6は(110)方向から観察した格子像である。図6(a)はSTEM像であり、ここでは高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡像(HAADF-STEM像)を示した。また、図6(b)はSi,Ti,Feの配置を示す。図6(c)はSi,Tiの配置を示す。図6(d)はFeの配置を示す。図6(e)はSiの配置を示す。図6(f)はTiの配置を示す。図6(g)はVの配置を示す。
【0051】
図6から、Fe、Ti、Si、VがそれぞれL2構造の定義どおりの位置に配置していることがわかる。より具体的にはFe原子から成る原子列AとTi、Siが交互に並んだ原子列Bからなり、さらに原子列Aと原子列Bは交互に配列していることがわかる。また、Tiの位置にVも配置されていることがわかる。これから、前述のゼーベック係数の改善のためのV置換が正しく行われていることがわかり、本熱電変換材料のゼーベック係数の絶対値が大きいことが予想できる。
【0052】
図7により、本実施例のFeTiVSi系熱電変換材料において、金属合金Nの構成元素であるCuが元素粒界に存在することを、STEM像(図7(a))およびSTEM-EDXマッピング(図7(b))の比較により説明する。図7(b)では、Cuが存在する領域のコントラストが明るく(白く)表示されている。右上のスケール0-125はコントラストの指標(任意単位)である。図7(a)および図7(b)は、熱電変換材料の同じ領域を観測したものであるが、結晶粒の界面位置にCu元素が層構造をなして存在すること分かる。このことから前述の粒界層の存在により、低電気抵抗率と低熱伝導率の両立が期待できる。
【0053】
本実施例のFeTiVSi系熱電変換材料では、結晶粒の界面にCuが偏析する。偏析の状態は、上記のようにSTEM-EDXによる組成分析に基づき、結晶粒内部と粒界相でのCu濃度を比較し、結晶粒内部よりも粒界相に特定の元素が偏析していることで検証可能である。たとえば、STEM-EDXにより、結晶粒内部と粒界相の任意の2点を測定して濃度が2倍以上異なっていれば、有意な元素の偏在が確認できる。ただし、局所的なばらつきは考えられるので、例えば結晶粒内から数nm例えば5nm四方の領域を切り出して平均値を測定し、粒界相内から同じく数nm例えば5nm四方の領域を切り出して平均値を測定し、平均値同士で比較することで、より客観的な評価が可能である。
【0054】
図8A図8Dに、本実施例のFeTiVSi系熱電変換材料の、熱電変換特性を測定した結果を示す。
【0055】
図8Aは、本実施例の金属合金NとしてCuを添加したFeTiVSi系熱電変換材料の特性(四角形のプロット)と、Cuを添加しないFeTiVSi系熱電変換材料の特性(円形のプロット)を比較したものである。組成以外の製造プロセス条件は同じである。横軸は結晶粒径を示し、縦軸はゼーベック係数を示す。ここで、結晶粒径は、XRDで観測できるXRDプロファイルにおける主相のメインピークの半値全幅とシェラーの式から算出している。図8Aから前述の電子構造を有するために結晶粒径を100nm以下となっている本熱電変換材料において、高いゼーベック係数である120μV/K<|S|<170μV/Kを有することが分かる。
【0056】
図8Bは、本実施例の金属合金NとしてCuを添加したFeTiVSi系熱電変換材料の特性(四角形のプロット)と、Cuを添加しないFeTiVSi系熱電変換材料の特性(円形のプロット)を比較したものである。組成以外の製造プロセス条件は同じである。横軸は結晶粒径を示し、縦軸は電気抵抗率を示す。図8Bから電気抵抗率は結晶粒径の減少に伴い増加する傾向はあるが、金属合金Nの存在により5μΩmから10μΩm程度の低い電気抵抗率を有することが分かる。
【0057】
図8Cは、本実施例の金属合金NとしてCuを添加したFeTiVSi系熱電変換材料における、金属合金Nの体積比率と熱伝導率の関係を示す。金属合金Nの体積比率であるが、Cuを添加したFeTiVSi系熱電変換材料をXRD測定して得られるXRDプロファイルにおける主相のメインピークの積分強度と金属合金Nのメインピークの積分強度の比率から算出した。図示されたとおり、金属合金NであるCuの体積比率が増加するに伴い、熱伝導率が減少し、その後増加することが分かる。図からCuの体積比2~10%で低い熱伝導率を得られていることが分かる。また、Cuの体積比3~9%でさらに低い熱伝導率が得られている。
【0058】
図8Dは、図8Aから図8Cに示す熱電変換特性を総合し、金属合金Nの体積比率と性能指数ZTの関係をグラフ化したものである。図8Dに示す通り、本実施例の熱電変換材料は金属合金Nの体積比率7%近傍で、最大値ZT=0.91を有する事がわかった。また既存材料であるFeVAl系フルホイスラ合金のZTである0.2と比較すると、優れたZTを得られるCuの体積比は2~10%であることが分かる。また、Cuの体積比3~9%でさらに高いZTが得られ、4~9%でさらに高いZTが得られている。また、X線分光分析の結果、Cuの体積比を変化させても、主相成分のピークに変化が見られないことが分かった。
【実施例2】
【0059】
金属合金Nとして、Cu系合金にLa,Bi,Nb等の重元素を添加した場合の効果について説明する。
【0060】
図9にLa添加の効果を示す。横軸は金属合金Nとして含まれるCuとLaの重量比を示す。金属合金NであるCuについてLaを75%添加した場合、図9に示す通り重元素であるLaの効果で熱伝導率が減少し、その結果ZTが上昇することがわかった。右の横軸は、Laの添加なしの場合のZTを1としたときの、ZTの改善効果ΔZTである。
【0061】
金属合金Nとして、Cu系合金と同様Ag-La合金、Au-La合金でも好ましい効果が得られる。
【0062】
前述のFeTiSi系フルホイスラ合金のV置換量であるが、Vの含有量が1.0~4.2at%の場合にそのZTが高い水準を示すことがわかった。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、熱電変換材料に適用して有効である。
【符号の説明】
【0065】
10 熱電変換モジュール
11 p型熱電変換部
12 n型熱電変換部
13、13a、13b、13c 電極
14 上部基板
15 下部基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9