IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多孔質炭素基材の裁断方法 図1
  • 特許-多孔質炭素基材の裁断方法 図2
  • 特許-多孔質炭素基材の裁断方法 図3
  • 特許-多孔質炭素基材の裁断方法 図4
  • 特許-多孔質炭素基材の裁断方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】多孔質炭素基材の裁断方法
(51)【国際特許分類】
   D06H 7/02 20060101AFI20220614BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220614BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220614BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20220614BHJP
   H01M 4/133 20100101ALN20220614BHJP
【FI】
D06H7/02
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M8/18
H01M4/133
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018056567
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167650
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】龍野 宏人
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-139495(JP,A)
【文献】特開2016-091997(JP,A)
【文献】特開2009-083310(JP,A)
【文献】特開2015-096464(JP,A)
【文献】特開2011-065926(JP,A)
【文献】特開2008-087130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06H 1/00-7/24
H01M 4/00-4/62,
4/86-4/88,
8/00-8/0297,
8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維が樹脂炭化物により結着されたシート状の多孔質炭素基材をカット台上で裁断する方法であって、
前記カット台は、複数のエア吸引孔を有し、前記多孔質炭素基材が接する面からエアを吸引するエア吸引機構を有し、
前記エア吸引機構によりエアを吸引しつつ、前記カット台上で多孔質炭素基材を裁断する、多孔質炭素基材の裁断方法。
【請求項2】
前記カット台のエア吸引面が傾斜しており、前記カット台上で裁断した前記多孔質炭素基材を滑り落として下流側に送る、請求項1に記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
【請求項3】
前記カット台のエア吸引面が水平になっており、前記カット台上で裁断した前記多孔質炭素基材を引っ張って下流側に送る、請求項1に記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
【請求項4】
前記多孔質炭素基材をロール状に巻き回したロール状物から前記多孔質炭素基材を巻き出して前記カット台上で裁断する、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素基材の裁断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維長の短い炭素繊維が分散され、樹脂炭化物で結着された多孔質炭素基材は、リチウムイオン電池、燃料電池、レドックスフロー電池等の電池の電極等に広く用いられている。
多孔質炭素基材は、通常、長尺のシートとして製造され、紙管等に巻き回されてロール状物とされる(特許文献1)。また、例えば多孔質炭素基材を燃料電池用ガス拡散層(GDL)として使用する場合に、撥水処理やコーティング処理(MPL処理)を行う際には、それらの処理はロール・ツー・ロール工程で実施される。
【0003】
多孔質炭素基材の使用においては、トムソン刃等を備える一般の裁断機により、ロール状物から引き出した多孔質炭素基材を用途に応じた形状に裁断し、枚葉の多孔質炭素基材とする。しかし、従来の裁断機では、裁断時に多孔質炭素基材が割れやすく、炭素繊維や樹脂炭化物の切粉(カーボンが砕けたもの)が生じやすい。裁断後の多孔質炭素基材に切粉が残存すると、例えば多孔質炭素基材を電極基材として使用する場合、電解質膜との接合時に膜を傷付ける等の不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-285194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シート状の多孔質炭素基材を切粉の残存を抑制しつつ裁断できる、多孔質炭素基材の裁断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]炭素繊維が樹脂炭化物により結着されたシート状の多孔質炭素基材をカット台上で裁断する方法であって、
前記カット台は、前記多孔質炭素基材が接する面からエアを吸引するエア吸引機構を有し、
前記エア吸引機構によりエアを吸引しつつ、前記カット台上で多孔質炭素基材を裁断する、多孔質炭素基材の裁断方法。
[2]前記カット台のエア吸引面が傾斜しており、前記カット台上で裁断した前記多孔質炭素基材を滑り落として下流側に送る、[1]に記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
[3]前記カット台のエア吸引面が水平になっており、前記カット台上で裁断した前記多孔質炭素基材を引っ張って下流側に送る、[1]に記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
[4]前記多孔質炭素基材をロール状に巻き回したロール状物から前記多孔質炭素基材を巻き出して前記カット台上で裁断する、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質炭素基材の裁断方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質炭素基材の裁断方法によれば、シート状の多孔質炭素基材を、切粉の残存を抑制しつつ裁断できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の多孔質炭素基材の裁断方法に用いる裁断装置の一例を示した模式図である。
図2図1の裁断装置において第1コンベアを回動させて枚葉の多孔質炭素基材を回収する様子を示した模式図である。
図3】シート状の多孔質炭素基材を裁断する様子を示した平面図である。
図4】本発明の多孔質炭素基材の裁断方法に用いる裁断装置の他の例を示した模式図である。
図5】本発明の多孔質炭素基材の裁断方法に用いる裁断装置の他の例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多孔質炭素基材の裁断方法は、炭素繊維が樹脂炭化物により結着されたシート状の多孔質炭素基材を、多孔質炭素基材が接する面からエアを吸引するエア吸引機構を有するカット台上で裁断する方法である。本発明においては、エア吸引機構によりエアを吸引しつつ、カット台上で多孔質炭素基材を裁断する。
【0010】
(多孔質炭素基材)
多孔質炭素基材は、炭素繊維が樹脂炭化物により結着されたシート状の多孔質基材である。多孔質炭素基材においては、複数の炭素繊維がシート内でそれらの繊維方向がランダムな方向に向くように分散された状態で樹脂炭化物により結着されている。
【0011】
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維を例示できる。なかでも、PAN系炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
炭素繊維の平均繊維長は、2~30mmが好ましく、2~12mmがより好ましい。すなわち、炭素繊維は、炭素短繊維であることが好ましい。炭素繊維の平均繊維長が前記範囲の下限値以上であれば、充分な強度が得られやすい。炭素繊維の平均繊維長が前記範囲の上限値以下であれば、炭素繊維の分散性に優れる。
なお、炭素繊維の平均繊維長は、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で炭素繊維を50倍以上に拡大して観察し、無作為に選択した50本の短繊維の繊維長を計測し、それらの値を平均したものである。
【0013】
炭素繊維の平均繊維径は、3~20μmが好ましく、3~9μmがより好ましい。炭素繊維の平均繊維径が前記範囲の下限値以上であれば、炭素繊維の分散性に優れるため、面方向に均一な炭素繊維シートが得られる。炭素繊維の平均繊維径が前記範囲の上限値以下であれば、平滑性の高い炭素繊維シートが得られる。
なお、炭素繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で炭素繊維断面を50倍以上に拡大して観察し、無作為に選択した50本の単繊維の繊維径を計測し、それらの値を平均したものである。偏平な断面の炭素繊維の場合、即ち、断面に長径と短径がある場合には、長径をその繊維の繊維径とする。
【0014】
炭素繊維の引張弾性率は、200~600GPaが好ましく、200~450GPaがより好ましい。
炭素繊維の引張弾性率は、単繊維引張り試験で求められる。単繊維引張り試験では、炭素繊維から単繊維を1本取り出し、万能試験機を用いて試長5mm、引張り速度0.5mm/分の試験条件にて単繊維の弾性率を測定する。同一の炭素繊維から50本の単繊維を選び、それらの弾性率を測定し、平均した値を炭素繊維の引張弾性率とする。
【0015】
炭素繊維の引張強度は、3000~7000GPaが好ましく、3500~6500GPaがより好ましい。
炭素繊維の引張強度は、単繊維引張り試験で求められる。単繊維引張り試験では、炭素繊維から単繊維を1本取り出し、万能試験機を用いて試長5mm、引張り速度0.5mm/分の試験条件にて単繊維の強度を測定する。同一の炭素繊維から50本の単繊維を選び、それらの強度を測定し、平均した値を炭素繊維の引張強度とする。
【0016】
炭素繊維は、例えば数千本~数万本の炭素繊維フィラメントの束にサイズ剤を含浸させ、乾燥して集束した炭素繊維束を、ロービングカッターやギロチンカッター等を用いて連続的あるいは非連続的に所定の長さに切断することで得られる。
【0017】
多孔質炭素基材における炭素繊維の目付は、10~140g/mが好ましく、25~100g/mがより好ましい。炭素繊維の目付が前記範囲の下限値以上であれば、充分な強度が得られやすい。炭素繊維の目付が前記範囲の上限値以下であれば、炭素繊維を均一に分散させやすい。
【0018】
多孔質炭素基材中の炭素繊維の含有量は、多孔質炭素基材の総質量に対して、40~80質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。炭素繊維の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、充分な強度が得られやすい。炭素繊維の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、樹脂炭化物の含有量を相対的に増やせるため、炭素繊維同士を充分に結着しやすくなる。
【0019】
樹脂炭化物は、樹脂が炭化されたものである。多孔質炭素基材の製造時に使用するバインダ樹脂やバインダ繊維が炭素化処理されたものが樹脂炭化物として多孔質炭素基材に含まれる。
バインダ樹脂としては、炭素繊維との結着力を有し、かつ炭素化するものであればよく、フェノール樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂を例示できる。バインダ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
フェノール樹脂としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプのフェノール樹脂を例示できる。酸性触媒下におけるフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂をレゾールタイプの流動性フェノール樹脂に溶解混入させたものを使用してもよい。この場合、硬化剤として例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプとすることが好ましい。
フェノール樹脂としては、市販品を用いてもよい。
【0021】
フェノール類としては、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロールを例示できる。フェノール類としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラールを例示できる。アルデヒド類としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
フェノール樹脂としては、水分散性フェノール樹脂、又は水溶性フェノール樹脂を用いてもよい。
水分散性フェノール樹脂としては、特開2004-307815号公報、特開2006-56960号公報等に記載のレゾール型フェノール樹脂乳濁液、あるいは水系ディスパージョンとも呼ばれる水分散性フェノール樹脂が挙げられる。
水溶性フェノール樹脂としては、特開2009-84382号公報等に記載の水溶性が良好なレゾール型フェノール樹脂が挙げられる。
【0023】
多孔質炭素基材中の樹脂炭化物の含有量は、多孔質炭素基材の総質量に対して、20~60質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。樹脂炭化物の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、炭素繊維同士を充分に結着しやすい。樹脂炭化物の含有量が前記範囲の下限値以下であれば、相対的に炭素繊維の含有量を増やせるため、充分な強度が得られやすい。
【0024】
多孔質炭素基材は、必要に応じて炭素繊維及び樹脂炭化物以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、カーボン粉を例示できる。多孔質炭素基材がカーボン粉を含有することで、導電性の向上が期待できる。
カーボン粉としては、黒鉛粉、カーボンブラック、ミルドファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、コークス、活性炭、非晶質炭素を例示できる。カーボン粉としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
黒鉛粉は、高結晶性のグラファイト構造からなり、その一次粒子の平均粒径は一般に数μm~数百μmである。
黒鉛粉としては、熱分解黒鉛、球状黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛を例示でき、導電性発現の点から、熱分解黒鉛、球状黒鉛又は鱗片状黒鉛が好ましい。
【0026】
カーボンブラックは、一般に平均粒径が数十μmの一次粒子が互いに融着してストラクチャーを形成し、さらにストラクチャー同士がファンデアワールス力により結合した構造体(アグロメート)として存在する。カーボンブラックは、単位質量当たりの粒子数が黒鉛粉に比べて著しく多く、ある臨界濃度以上でアグロメートが3次元ネットワーク状に連なって巨視的な導電経路を形成する。
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックを例示できる。
【0027】
ミルドファイバーは、バージンの炭素繊維を粉砕したものでもよく、炭素繊維強化熱硬化性樹脂成形品、炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品、プリプレグ等のリサイクル品を粉砕したものでもよい。ミルドファイバーの原料となる炭素繊維は、PAN系炭素繊維でもよく、ピッチ系炭素繊維でもよく、レーヨン系炭素繊維でもよい。
【0028】
(裁断装置)
以下、本発明の多孔質炭素基材の裁断方法に使用する裁断装置の一例を示して説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
本実施形態の裁断装置100は、図1に示すように、基材供給部110と、ニップロール112と、カット台114と、裁断機116と、第1コンベア118と、第2コンベア120と、製品回収部122と、残部回収部124と、を備えている。
裁断装置100では、基材供給部110、ニップロール112、カット台114、第1コンベア118、第2コンベア120、及び残部回収部124がこの順に設けられている。カット台114の上方に裁断機116が設けられている。第1コンベア118の下流側の下方に製品回収部122が設けられている。
【0030】
基材供給部110は、長尺のシート状の多孔質炭素基材CSが紙管等にロール状に巻き回されたロール状物200を設置した状態で、そのロール状物200から多孔質炭素基材CSを巻き出せるようになっている。
【0031】
裁断機116は、カット台114上でシート状の多孔質炭素基材CSを裁断するものである。裁断機116としては、カット台114上で多孔質炭素基材CSを所望の形状に裁断できるものであればよく、例えば、トムソン刃、レーザー照射手段等を備える裁断機が挙げられる。
この例の裁断機116は、図3に示すように、シート状の多孔質炭素基材CSの長さ方向に間隔を開けて、多孔質炭素基材CSを矩形状の4つの角がそれぞれ丸みを帯びた形状に打ち抜くように裁断する。これにより、矩形状の4つの角がそれぞれ丸みを帯びた形状の多孔質炭素基材である製品210と、はしご状(枠状)の多孔質炭素基材の残部212とが形成される。
【0032】
カット台114は、シート状の多孔質炭素基材CSを裁断する台である。カット台114は、基材供給部110から巻き出されて供給されてくる多孔質炭素基材CSが上面114aに接するようになっている。多孔質炭素基材CSがカット台114の上面114aで裁断機116により裁断されるようになっている。
【0033】
カット台114は、多孔質炭素基材CSが接する上面114aからエアを吸引するエア吸引機構を備えている。エア吸引機構を稼働させることで、カット台114の上面114aがエア吸引面となる。供給された多孔質炭素基材CSをカット台114の上面114aに接触させた状態で、エアを吸引しつつ裁断機116で多孔質炭素基材CSを裁断できるようになっている。
【0034】
このようなカット台114を用いて裁断を行うことで、多孔質炭素基材CSの裁断時に切粉が生じても、切粉が吸引されて裁断後の製品(多孔質炭素基材)210から取り除かれる。また、エアの吸引により裁断時の多孔質炭素基材CSが上面114aに引き付けられるため、多孔質炭素基材CSの予期せぬ動きが抑制され、より安定して裁断を行うことができる。
【0035】
エア吸引機構としては、特に限定されず、例えば、カット台114の上面114aに複数のエア吸引孔が形成され、真空ポンプ等の吸引手段により各エア吸引孔からエアを吸引するような機構が挙げられる。
【0036】
エア吸引孔は、切粉の吸引除去が容易な点から、カット台114の上面114aにおける、多孔質炭素基材CSの裁断位置(刃やレーザーが当てられる位置)に対応する部分に形成されていることが好ましい。
複数のエア吸引孔は、カット台114の上面114aの全面に形成してもよく、部分的に形成してもよい。カット台114の上面114aの全面に均等にエア吸引孔を形成すれば、裁断形状を変更しても安定して切粉の吸引除去が行えるため、様々な裁断形状に対応できる。
【0037】
エア吸引孔の開口端の形状は、特に限定されず、円形状等が挙げられる。
エア吸引孔1つあたりの開口面積は、適宜設定でき、例えば、1~200mmとすることができる。
エア吸引孔の数は、特に限定されず、例えば、100cmあたり、25~20000個とすることができる。
複数のエア吸引孔の配置パターンは、特に限定されず、千鳥状、格子状等が挙げられる。
【0038】
この例のカット台114は、多孔質炭素基材CSが接するエア吸引面である上面114aが、上流側から下流側に向かうにしたがって低くなるように傾斜している。これにより、この例では、カット台114上で多孔質炭素基材CSを裁断した後にエアの吸引を停止することで、裁断により生じた製品210が、傾斜した上面114a上を滑り落ちて下流側に送られるようになっている。
【0039】
カット台114の上面114aの水平方向に対する傾斜角度は、5~45°が好ましく、10~30°がより好ましい。傾斜角度が前記範囲の下限値以上であれば、裁断後の多孔質炭素基材が滑り落ちやすくなる。傾斜角度が前記範囲の上限値以下であれば、裁断後の急激な滑落、及びそれに伴う多孔質炭素基材端部の損傷等を防ぐことができる。
【0040】
第1コンベア118及び第2コンベア120は、多孔質炭素基材CSの裁断後の製品210及び多孔質炭素基材の残部212を下流側に搬送できるものであればよい。
この例の第1コンベア118は、図2に示すように、側面視において、上流側に設けられた回動軸118aを中心として下側に回動するようになっている。
【0041】
製品回収部122は、所望の形状に裁断した枚葉の製品210を回収する部分である。製品回収部122の態様は、特に限定されず、例えば、梱包材を配置する態様等が挙げられる。
【0042】
残部回収部124は、多孔質炭素基材の残部212を回収する部分である。この例の残部回収部124は、多孔質炭素基材の残部212を巻き取る巻取機である。なお、残部回収部124は、巻取機には限定されず、例えば、多孔質炭素基材の残部212を振り込み式で回収するものであってもよい。
【0043】
(裁断方法)
以下、本発明の多孔質炭素基材の裁断方法の一例として、裁断装置100を用いる方法について説明する。
図1に示すように、基材供給部110に設置したロール状物200からシート状の多孔質炭素基材CSを巻き出し、ニップロール112を介してカット台114の上面114aへと送る。図1及び図3に示すように、エア吸引機構により上面114aの各エア吸引孔からエアを吸引しつつ、カット台114の上面114aに送られてきた多孔質炭素基材CSを裁断機116により間欠的に裁断し、複数の枚葉の製品210を形成する。裁断時に多孔質炭素基材CSから生じた切粉は、エアの吸引によって各エア吸引孔に吸い込まれて除去されるため、各々の製品210から取り除かれる。
【0044】
カット台114において裁断する多孔質炭素基材CSが接する上面114aの吸引仕事率は、50W~400Wが好ましく、100W~350Wがより好ましく、150W~300Wがさらに好ましい。吸引仕事率が前記範囲の下限値以上であれば、多孔質炭素基材の内部で生じた切粉も吸引除去しやすく、製品に切粉が残存することを抑制しやすい。吸引仕事率が前記範囲の上限値以下であれば、強力な吸引による多孔質炭素基材の破断を防ぐことができる。
【0045】
裁断装置100では、カット台114の上面114aが傾斜している。そのため、裁断により生じた製品210に対応する部分のエアの吸引を停止することで、製品210を下流側に引っ張らなくても、製品210がカット台114の上面114aを滑り落ちて下流側の第1コンベア118まで到達する。
【0046】
裁断後、製品210及び多孔質炭素基材の残部212を、第1コンベア118及び第2コンベア120により搬送する。また、図2に示すように、搬送中に第1コンベア118を間欠的に回動させることで、多孔質炭素基材の残部212から製品210を分離して滑り落とし、製品回収部122で回収する。多孔質炭素基材の残部212は引き続き第2コンベア120により搬送し、残部回収部124において巻き取って回収する。
【0047】
以上説明したように、本発明の多孔質炭素基材の裁断方法では、多孔質炭素基材が接する面からエアを吸引するエア吸引機構を有するカット台を用いて、エア吸引機構によりエアを吸引しつつ、カット台上で多孔質炭素基材を裁断する。これにより、裁断時に多孔質炭素基材から切粉が生じても、前記切粉を吸引により除去することができるため、製品に切粉が残存することを抑制できる。
【0048】
なお、本発明の多孔質炭素基材の裁断方法は、前記した裁断装置100を用いる方法には限定されない。
本発明の多孔質炭素基材の裁断方法は、エア吸引面が水平になっているカット台を用いて、カット台上で裁断した多孔質炭素基材を引っ張って下流側に送る方法であってもよい。例えば、図4に例示した裁断装置100Aを用いる方法であってもよい。図4における図1と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
【0049】
裁断装置100Aは、カット台114の代わりにカット台114Aを備える以外は、裁断装置100と同じである。
カット台114Aは、シート状の多孔質炭素基材CSが接する、エア吸引面である上面114aが水平である以外は、カット台114と同じである。
【0050】
裁断装置100Aを用いる場合も、エア吸引機構により上面114aの各エア吸引孔からエアを吸引しつつ、カット台114の上面114aに送られてきた多孔質炭素基材CSを裁断機116により間欠的に裁断し、複数の枚葉の製品210を形成する。裁断時に多孔質炭素基材CSから生じた切粉は、エアの吸引によって各エア吸引孔に吸い込まれて除去されるため、各々の製品210から取り除かれる。
【0051】
裁断装置100Aでは、裁断後の多孔質炭素基材の残部212を残部回収部124により引っ張って巻き取ることにより、製品210がカット台114の上面114a上で裁断された部分に嵌まったまま状態で多孔質炭素基材の残部212とともに下流側に引っ張られ、第1コンベア118まで到達する。
そして、第1コンベア118及び第2コンベア120により搬送しつつ、第1コンベア118を間欠的に回動させて製品210を製品回収部122で回収し、多孔質炭素基材の残部212を残部回収部124で回収する。
【0052】
裁断装置100及び裁断装置100Aを用いる方法は、第1コンベア118を回動させることで製品210を多孔質炭素基材の残部212から分離するものであったが、多孔質炭素基材の残部212を引き上げて製品210と分離するものであってもよい。
例えば、図5に例示した裁断装置100Bを用いる方法であってもよい。図5における図1と同じ部分には同符号を付して説明を省略する。
【0053】
裁断装置100Bは、以下に示す態様以外は裁断装置100と同じである。
2つの第1コンベア118及び第2コンベア120の代わりに1つのコンベア126を備えている。コンベア126上から裁断後の多孔質炭素基材の残部212を上方に引き上げて巻き取るように残部回収部124が備えられている。コンベア126の下流側の下方に製品回収部122が設けられている。
【0054】
裁断装置100Bでは、裁断後の製品210及び多孔質炭素基材の残部212がコンベア126に到達し、搬送されている途中のガイドロール128の部分で多孔質炭素基材の残部212が上方へと引き上げられ、残部回収部124で巻き取られて回収される。これにより、コンベア126上の製品210が多孔質炭素基材の残部212から分離され、コンベア126の下流側の製品回収部122で回収される。
【0055】
本発明の多孔質炭素基材の裁断方法は、ロール状物から巻き出した長尺のシート状の多孔質炭素基材を裁断する方法には限定されず、枚葉のシート状の多孔質炭素基材をカット台上で所望の形状に裁断する方法であってもよい。
【0056】
本発明の多孔質炭素基材の裁断方法は、例えば長尺の多孔質炭素基材を長手方向に間隔をあけて、裁断後に多孔質炭素基材の残部が生じないように幅方向に沿って間欠的に裁断する方法であってもよい。この場合には、残部回収部を備えていない裁断装置を使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
100…裁断装置、110…基材供給部、112…ニップロール、114…カット台、114a…上面、116…裁断機、118…第1コンベア、120…第2コンベア、122…製品回収部、124…残部回収部、200…ロール状物、210…製品、212…多孔質炭素基材の残部、CS…多孔質炭素基材。
図1
図2
図3
図4
図5