(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ゼオライト触媒の処理方法及び低級オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 38/10 20060101AFI20220614BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20220614BHJP
B01J 29/50 20060101ALI20220614BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20220614BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20220614BHJP
C07C 11/08 20060101ALI20220614BHJP
C07C 1/24 20060101ALI20220614BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
B01J38/10 B
B01J29/70 Z
B01J29/50 Z
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/08
C07C1/24
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018085253
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2017087660
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【氏名又は名称】高田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】原 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由美子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-118521(JP,A)
【文献】特表2016-527076(JP,A)
【文献】特開2011-078962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 11/04
C07C 11/06
C07C 11/08
C07C 1/24
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料とゼオライト触媒とを接触させて低級オレフィンを生成する反応を経たゼオライト触媒を、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させる工程を含
み、ゼオライト触媒を構成するゼオライトの外表面酸量が、ゼオライトの全酸量に対して8%以下である、ゼオライト触媒の処理方法。
【請求項2】
前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが酸素8員環構造ゼオライトである、請求項1に記載のゼオライト触媒の処理方法。
【請求項3】
前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、請求項1又は2に
記載のゼオライト触媒の処理方法。
【請求項4】
前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、アルミノケイ酸塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載のゼオライト触媒の処理方法。
【請求項5】
前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、International Zeolite Association(
IZA)で規定されるコードでCHA又はERIであるゼオライトである、請求項1~4のいずれか1項に記載のゼオライト触媒の処理方法。
【請求項6】
前記水素を含むガスに接触させる工程において接触温度が250℃以上800℃以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のゼオライト触媒の処理方法。
【請求項7】
メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を、ゼオライト触媒と接触させる工程を含む、低級オレフィンの製造方法であって、請求項1~
6のいずれか1項に記載のゼオライト触媒の処理方法を実施する工程を含む、低級オレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト触媒の処理方法、ならびに低級オレフィンの製造方法に関し、詳しくは、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を接触させて低級オレフィンを生成する反応を経たゼオライト触媒に、水素ガスを含むガスを接触させるゼオライト触媒の処理方法、ならびに該ゼオライト触媒の処理方法を利用する、低級オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレンやプロピレン、ブテン類等の低級オレフィンを製造する方法としては、ナフサのスチームクラッキング法や減圧軽油の流動接触分解法が挙げられ、主にナフサのスチームクラッキング法が実施されている。しかし、スチームクラッキング法では、エチレンが主成分として生産され、各オレフィンの製造割合を大きく変えることが難しい。また、近年ではメタノール及び/又はジメチルエーテルを原料としたMTO(メタノール to オレフィン)プロセスが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、メタノールやジメチルエーテルを原料として、低級オレフィンを製造する方法として、8員環細孔のCHA型シリコアルミノリン酸塩(SAPO-34)を活性成分とする触媒を用いて、エチレン及びプロピレンを主成分とする低級オレフィンを高収率で製造する方法が開示されている。一方、当該低級オレフィンを製造する際に、時間経過とともにゼオライト触媒の活性が低下する場合がある。そのため、特許文献2には、触媒活性を回復させる方法として、例えば、オキシジェネートから低級オレフィンを製造する反応において、コークの蓄積したゼオライト触媒を、酸素を含有するガスで燃焼再生させる方法が開示されている。また、特許文献3には、メタノール等のオキシジェネート原料の転換反応において、触媒の再生前にゼオライト触媒細孔内に残存するコーク以外の軽沸炭化水素成分を回収する方法(ストリッピング)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5,914,433号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0215840号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0034178号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、上記の公知の方法には諸種の課題があり、必ずしも満足するものではないことが判明した。すなわち、特許文献2では、酸素を含有するガスでの燃焼再生により、触媒活性を賦活させる方法が開示されているが、燃焼時には酸素に加えて、ゼオライト触媒に蓄積した軽沸炭化水素成分やコークの燃焼により一酸化炭素や二酸化炭素、水を生成するため、触媒中に残存している軽沸炭化水素成分やコーク成分を付加価値の低い成分として損失することになるという問題に加えて、高温下で水蒸気がゼオライト触媒と接触することになるため、ゼオライト触媒の永久劣化が起こりやすいという問題がある。
【0006】
また、特許文献3のように、燃焼再生処理の前にストリッピング工程を導入することにより、コーク以外の軽沸炭化水素成分を一部回収することができるとされているが、工程数や設備数が増えるため、エネルギーコストが増大する傾向にある。また、ストリッピングガスとしては、メタノール転換反応のような水を生成するような系では、ゼオライト活
性点上に、生成した軽沸炭化水素成分や水に加えて、未反応のメタノールやジメチルエーテルが吸着し易いため、効率的なストリッピングを行うためには、ゼオライト活性点への吸着能の高い水(水蒸気)がストリッピングガスとして最も好ましく用いられている。これにより、ストリッピングにより回収された軽沸炭化水素成分と水(水蒸気)を含むガスを、メタノール転換反応器出口の生成物ガスと混合させて、同一のプロセスにより、分離精製することができる。一方、上述の通り、水蒸気がゼオライト触媒と接触するため、触媒の永久劣化による活性低下が起こりやすいという問題がある。
【0007】
上述の通り、従来のMTOプロセスにおいて、ゼオライト触媒中の軽沸炭化水素成分を回収するストリッピングと、ゼオライト触媒中のコーク除去による再生を同時に行う方法は知られていなかった。そこで、本発明はプラント建設コストおよび製造コストの低減の観点から、ゼオライト触媒中の炭化水素成分を効率的にストリッピング回収し、同時に、水蒸気等によるゼオライト触媒の永久劣化を引き起こすことなく触媒活性を回復するゼオライト触媒の処理方法ならびに該ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を、ゼオライト触媒と接触させて低級オレフィンを生成する反応を経た後の触媒を、特定の処理を施すことにより、ゼオライト触媒の永久劣化を引き起こすことなく、低級オレフィンを効率良く、安定に製造することができることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料とゼオライト触媒とを接触させて低級オレフィンを生成する反応を経たゼオライト触媒を、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させる工程を含むゼオライト触媒の処理方法。
[2]前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが酸素8員環構造ゼオライトである、[1]に記載のゼオライト触媒の処理方法。
[3]前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含む、[1]又は[
2]に記載のゼオライト触媒の処理方法。
[4]前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、アルミノケイ酸塩である、[1]~[3]のいずれかに記載のゼオライト触媒の処理方法。
[5]前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトが、International Zeolite Association(IZA)で規定されるコードでCHA又はERIであるゼオライトである、[1]~
[4]のいずれかに記載のゼオライト触媒の処理方法。
[6]前記ゼオライト触媒を構成するゼオライトの外表面酸量が、ゼオライトの全酸量に対して8%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のゼオライト触媒の処理方法。[7]前記水素を含むガスに接触させる工程において接触温度が250℃以上800℃以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のゼオライト触媒の処理方法。
[8]メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を、ゼオライト触媒と接触させる工程を含む、低級オレフィンの製造方法であって、[1]~[7]のいずれかに記載の処理方法を実施する工程、を含む低級オレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料をゼオライトを含む触媒と接触させて低級オレフィン製造する方法において、前記反応を経てゼオライト細孔内に蓄積した炭化水素成分を効率的に追い出すことができ、かつ、触媒活性を回復することができる。その結果、長時間の低級オレフィン製造後でも、収率を維持することがで
きる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明は、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を、ゼオライトを含む触媒と接触させて低級オレフィンを生成する反応を経て炭化水素含有量が増加したゼオライト触媒を、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させる該ゼオライト触媒の処理方法及び低級オレフィンの製造方法に関する。なお、本発明において、ゼオライト触媒とは、ゼオライトを含む触媒を意味する。以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<1.ゼオライト触媒>
ゼオライトとは、四面体構造をもつTO4単位(Tは中心原子)がO原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を指す。具体的には国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下これを「IZA」ということがある。)の構造委員会データ集に記載のあるケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が含まれる。
【0014】
ここで、ケイ酸塩には、例えばアルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が含まれる。
リン酸塩には、例えばアルミノリン酸塩、ガロリン酸塩、ベリロリン酸塩等が含まれる。
ゲルマニウム塩には、例えばアルミノゲルマニウム塩等が、ヒ酸塩には、例えばアルミノヒ酸塩等が含まれる。
さらに、アルミノリン酸塩には、例えばT原子をSiで一部置換したシリコアルミノリン酸塩や、Ga、Mg、Mn、Fe、Co、Znなど2価や3価のカチオンを含むものが含まれる。
【0015】
ゼオライトの平均細孔径は特に限定されず、通常0.55nm以下、好ましくは0.50nm以下、より好ましくは0.45nm以下、さらに好ましくは0.40nm以下である。 ここで、平均細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示す。平均細孔径が0.55nm以下とは、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その平均直径が0.55nm以下であることをさすが、細孔の形状が楕円形の場合は、短径が0.55nm以下であることを意味する。
【0016】
平均細孔径が0.55nm以下のゼオライトを用いることにより、メタノールを原料として、高収率で低級オレフィンを製造することができる。すなわち、平均細孔径が上記範囲であれば、ゼオライト結晶内で低級オレフィンをより選択的に生成させることができ、かつ、後述の水素雰囲気下での炭化水素の除去が効率的に進行すると考えられる。
【0017】
上記の観点から、本発明において、ゼオライトは、酸素8員環構造ゼオライトであることが好ましい。
【0018】
酸素8員環構造ゼオライトとしては、IZAが定める構造コード(Framework Type Code)で、例えば、好ましくはAEI、AFX、CHA、ERI、KFI、LEV、SAS、SAV、SZR、PAU、RHO、LTAなどが挙げられる。
【0019】
ゼオライトのフレームワーク密度(単位:T/nm3)は特に限定されず、通常20.0以下、好ましくは18.0以下、より好ましくは17.0以下、さらに好ましくは16.0以下であり、通常12.0以上、好ましくは14.0以上、より好ましくは14.5以上である。
ここで、フレームワーク密度(単位:T/nm3)とは、ゼオライトの単位体積(1nm3)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。
【0020】
これらの観点から、酸素8員環構造ゼオライトは、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含むゼオライトであることが好ましく、さらに好ましくは、AEI、AFX、CHA、ERI、KFI、LEV、SAVであり、より好ましくはAEI、AFX、CHA、又はERIであり、殊更好ましくはAEI、CHA、又はERIであり、特に好ましくはCHA又はERIであり、最も好ましくは、ERIである。
【0021】
酸素8員環構造ゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。上記のとおり、ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0022】
ゼオライトは、通常プロトン交換型が用いられるが、その一部がLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に交換されていてもよい。なお、この場合、ゼオライトに後述するイオン交換処理を施せばよい。
【0023】
これらイオン交換サイト以外に、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に金属担持されていてもよい。ここで、金属担持は、通常、平衡吸着法、蒸発乾固法、ポアフィリング法等の含浸法で行うことができる。
【0024】
ゼオライトがケイ酸塩の場合、SiO2/M2O3(ただし、前記モル比の分母はAl2O3、Ga2O3、B2O3およびFe2O3の合計量を表す)モル比は通常5以上であり、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であり、通常100未満、好ましくは80以下、より好ましくは60以下であり、さらに好ましくは40以下である。なお、前記の比率は、ゼオライト中のSi原子が全てSiO2として含まれ、ゼオライト中に含まれる前記MがすべてM2O3として含まれると仮定して求める値である。SiO2/M2O3モル比が上記範囲にあることで、強酸点及び弱酸点由来の酸量が十分得られ、高いメタノール吸着能、高いメタノール転化活性及びオレフィン相互変換活性が得られる。またコーク付着による触媒の失活、ケイ素以外のT原子の骨格からの脱離、酸点当たりの酸強度の低下といった現象を防ぐことができる。本発明のゼオライトのSiO2/M2O3モル比は、通常、ICP元素分析や蛍光X線分析で測定できる。蛍光X線分析は、標準試料中の分析元素の蛍光X線強度と分析元素の原子濃度との検量線を作成し、この検量線により、蛍光X線分析法(XRF)でゼオライト試料中のケイ素原子、アルミニウム、ガリウム、鉄原子の含有量を求めることができる。なお、ホウ素元素の蛍光X線強度は比較的小さいため、ホウ素原子の含有量はICP元素分析で測定することが好ましい。
【0025】
ゼオライトがリン酸塩の場合、シリコアルミノリン酸塩の(Al+P)/Siモル比あ
るいは2価の金属をもつメタロアルミノリン酸塩の(Al+P)/M(但し、Mは2価の金属を示す。)モル比は、通常は5以上、好ましくは10以上であり、通常500以下、好ましくは100以下である。なお、2価の金属は、具体的には、Ga、Mg、Mn、Fe、Co又はZnが挙げられる。前記下限以上とすることにより触媒の耐久性の低下を防ぐことができ、また前記上限以下とすることにより、触媒活性が低下を防ぐことができる。
【0026】
本発明のゼオライトの全酸量(以下、全酸量という)は、ゼオライトの結晶細孔内に存在する酸点の量と、ゼオライトの結晶外表面酸点の量(以下、外表面酸量という)の総和である。全酸量は、特に限定されるものではないが、通常0.01mmol/g以上、好ましくは0.10mmol/g以上、より好ましくは0.20mmol/g以上、さらに好ましくは0.30mmol/g以上である。また、通常2.0mmol/g以下、好ましくは1.5mmol/g以下、より好ましくは1.0mmol/g以下、さらに好ましくは0.80mmol/g以下である。全酸量を上記の範囲とすることで、メタノールの転化活性が担保されるとともに、ゼオライトの細孔内部におけるコーク生成が抑制され、分子の結晶内拡散性が上昇することで、低級オレフィンの生成を促進することができることができる。なお、ここでの全酸量は、アンモニア昇温脱離(NH3-TPD)における脱離量から算出される。具体的には、前処理としてゼオライトを真空下500℃で30分間乾燥させた後、前処理したゼオライトを100℃で過剰量のアンモニアと接触させて、ゼオライトにアンモニアを吸着させる。得られたゼオライトを、100℃で真空乾燥、または、100℃で水蒸気と接触させることにより、該ゼオライトから余剰アンモニアを除く。次いでアンモニアの吸着したゼオライトを、ヘリウム雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱して、100-600℃におけるアンモニア脱離量を質量分析法で測定する。ゼオライト当たりのアンモニア脱離量を全酸量とする。但し、本発明における全酸量は、TPDプロファイルをガウス関数によって波形分離し、そのピークトップを240℃以上に有する波形の面積の合計とする。この「240℃」は、ピークトップの位置の判断のみに用いる指標であって、240℃以上の部分の面積を求めるという趣旨ではない。ピークトップが240℃以上の波形である限り、当該「波形の面積」は、240℃以外の部分も含む全面積を求める。240℃以上にピークトップを有する波形が複数ある場合には、それぞれの面積の和とする。なお、本発明の全酸量には、ピークトップを240℃未満に有する弱酸点由来の酸量は含めないものとする。これは、TPDプロファイルにおいて、弱酸点由来の吸着と物理吸着との区別が容易ではないためである。
【0027】
ゼオライトの外表面酸量は、特に限定されるものではないが、通常、ゼオライトの全酸量に対して8%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0%である。外表面酸量が大きすぎる場合には、外表面酸点で起こる副反応により低級オレフィンの収率が低下する傾向がある。これは、外表面酸点で目的物以外の炭化水素を生成する反応が進行するためと推測される。また、前記ゼオライトの細孔内で生成した低級オレフィンが外表面酸点で更に反応してしまうことも選択率低下の一因であると推測される。
なお本発明のゼオライトの外表面酸量の値は、国際公開2010/128644号パンフレットに記載の方法で測定することができる。
なお、前記ゼオライトの外表面酸量等は、特に限定はされないが、シリル化処理、水蒸気処理、熱処理、酸処理、イオン交換処理等により調整することができる。
【0028】
<シリル化処理>
ゼオライトをシリル化処理する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜用いることができ、具体的には液相シリル化や気相シリル化等を行うことができる。
【0029】
ゼオライトは、シリル化処理により、通常、外表面の酸点が被覆され、不活性化される
ことにより、外表面酸量が低下するものと考えられる。外表面酸量が低下すると、前記ゼオライトの外表面で起こる副反応が抑制される。具体的には、メタノールの転化反応により、ゼオライト細孔内で生成した低級オレフィンがゼオライトの外表面の酸点と接触することで、目的物以外の成分が生成する反応を抑制する効果があると考えられる。また、外表面酸点のシリル化では、前記ゼオライトが有する細孔を構成する酸点にもシリル基が結合するため、外表面開口部の細孔径が僅かに縮小し、結晶外への分子拡散を抑制する効果もあると考えられる。これにより、より大きい分子である炭素数5以上の炭化水素の生成を抑制することができ、低級オレフィンの選択率が向上するものと考える。
以下、シリル化処理を、液相シリル化を例に取り、具体的に説明する。
【0030】
シリル化剤としては、特に限定されるものではなく、通常はゼオライトの外表面をシリル化することができ、かつゼオライトの細孔内をシリル化することができないものを使用する。具体的には、シリコーン類、クロロシラン類、アルコキシシラン類、シロキサン類、シラザン類などが使用できる。これらのうち、気相シリル化には通常クロロシラン類、液相シリル化には通常アルコキシシラン類が用いられ、より好ましいシリル化剤は、反応性が高く、取り扱いが比較的容易であるという点で、アルコキシシラン類である。
シリコーン類としては、具体的にはジメチルシリコーン、ジエチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、エチルハイドロジェンシリコーン、フェニルハイドロジェンシリコーン、メチルエチルシリコーン、フェニルエチルシリコーン、ジフェニルシリコーン、メチルトリフルオロプロピルシリコーン、エチルトリフルオロプロピルシリコーン、テトラクロロフェニルメチルシリコーン、テトラクロロフェニルエチルシリコーン、テトラクロロフェニルハイドロジェンシリコーン、テトラクロロフェニルシリコーン、メチルビニルシリコーン及びエチルビニルシリコーン等が用いられる。
【0031】
クロロシラン類としては、具体的には、テトラクロロシラン、トリクロロシラン、トリクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン、トリクロロエチルシラン、ジクロロジエチルシラン、クロロトリエチルシラン等が用いられる。
アルコキシシラン類としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等;の4級アルコキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシエチルシラン等;の3級アルコキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン等;の2級アルコキシシラン、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン等;の1級アルコキシシランが用いられる。好ましくは2級以上のアルコキシシランであり、より好ましくは3級以上のアルコキシシランであり、さらに好ましくは4級アルコキシシランである。
【0032】
シロキサン類としては、具体的には、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン等が挙げられ、ヘキサメチルジシロキサンが好ましい。
シラザン類としては、具体的には、ヘキサメチルジシラザン、ジプロピルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン、テトラフェニルジメチルジシラザン等が挙げられ、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0033】
前記ゼオライトに対するシリル化剤の量は、特に限定されるものではないが、前記ゼオライト1モルに対して、通常0.001モル以上、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.1モル以上である。また、通常5モル以下であり、好ましくは3モル以下、より好ましくは1モル以下である。シリル化剤の量を上記の範囲とすることで、外表面酸点のシリル化被覆が効率的に進行し、かつ過度なシリル化被覆による触媒活性低下を抑制
できる点で好ましい。なお、上記シリル化剤の量は、シリル化剤に含まれるSi原子のモル数で表すこととし、分子内に複数のSi原子を有するシリル化剤では、そのSi原子の合計のモル数をシリル化剤のモル数として扱うことにする。
【0034】
液相シリル化を行う場合、溶媒を使用することができ、溶媒としては、特に限定されないが、へキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素や水を使用することができる。また、水溶媒で液相シリル化を行なう場合は、シリル化反応を促進するために、硫酸や硝酸等の酸を添加した酸性水溶液を使用することができる。
【0035】
液相シリル化を行う場合、前記液相シリル化反応を行なう溶液中のシリル化剤の濃度は、特に限定されるものではないが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、通常80質量%以下であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。シリル化剤の濃度を上記の範囲とすることで、シリル化剤同士の縮合を抑制し、かつシリル化速度を維持できる点で好ましい。
【0036】
液相シリル化を行なう場合の前記ゼオライトに対する溶媒の量は、特に制限されるものではないが、前記ゼオライト1gに対して、通常1g以上、好ましくは3g以上、より好ましくは5g以上である。また、通常100g以下、好ましくは80g以下、より好ましくは50g以下である。溶媒の量を上記の範囲とすることで、スラリーの十分な撹拌効率を得るとともに、一定の生産性を確保することができる点で好ましい。
【0037】
液相シリル化を行う場合、シリル化処理に供するゼオライトに特定の範囲の水分を付与しておいてもよい。前記ゼオライトが含有する水分は、ゼオライトが元々含有しているものであっても、人為的に水分を供給して、特定の範囲に調整してもよい。通常、本発明のゼオライトは水熱合成により得られたものを焼成し、さらに必要に応じてアンモニウム型へ変換してから焼成することによりプロトン型に変換したものを使用する。したがって、通常シリル化処理前のゼオライトの水分含有量は、通常非常に少ないと想定され、そのままシリル化処理に供してもよいし、ゼオライトに特定の水分含有量となるように水分を供給し、水分含有量を調整して使用してもよい(以下、調湿処理ということがある)。
【0038】
前記水分含有量は、特に制限されるものではないが、ゼオライト中に含まれる水分重量を乾燥ゼオライトの重量に対する質量%で表し、通常30質量%以下、好ましくは25質量%以下であり、下限としては完全乾燥状態の0質量%である。水分含有量を上記の範囲とすることで、外表面酸点のシリル化被覆が効率的に進行し、かつ過度なシリル化による細孔閉塞を防ぐことができる点で好ましい。
【0039】
前記調湿処理方法は、所定の水分量に調整することができれば、特に限定されるものではない。例えば、ゼオライトを適当な相対湿度を有する大気中に放置する方法、ゼオライトを、密閉容器(デシケーター等)中に、水または無機塩の飽和水溶液とともに共存させ、飽和水蒸気雰囲気下で放置する方法、ゼオライトに、適当な水蒸気圧のガスを流通させる方法等が挙げられる。なお、前記の方法においては、より均一な調湿を行うために、ゼオライトを混合または攪拌しながら調湿処理を行ってもよい。
【0040】
シリル化処理をする温度は、使用するシリル化剤や溶媒の種類により適宜調整され、特に限定されるものではないが、通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。また、通常140℃以下、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。シリル化処理温度を上記の範囲とすることで、前記ゼオライト細孔内の水分の吐出が抑制されるため、外表面酸点のシリル化被覆が効率的に進行し、
かつシリル化速度を維持できる点で好ましい。
【0041】
シリル化剤を添加してからシリル化温度まで昇温するのに要する時間は、特に限定されるものではなく、シリル化温度にてシリル化剤を添加してもよいが、通常0.01時間以上、好ましくは0.05時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、昇温に要する時間の上限は特にない。シリル化温度が高い場合、昇温に要する時間を上記の範囲とすることで、前記ゼオライトの細孔内からの水分の吐出が抑制されるため、溶液中のシリル化剤の加水分解及び重合反応が抑制され、前記ゼオライトのシリル化が効率的に進行する点で好ましい。
【0042】
シリル化の処理時間は、反応温度にもよるが、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは1時間以上であり、触媒の性能を阻害しない限りにおいて処理時間の上限は特にない。処理時間を上記の範囲とすることで、前記ゼオライトの外表面酸点のシリル化被覆が進行し、外表面酸量が十分に減少する点で好ましい。
【0043】
<水蒸気処理>
水蒸気処理方法は、特に限定されるものではないが、本発明の効果を損なわない範囲において水蒸気を含む気体に接触させることができる。具体的には水蒸気、空気又は不活性ガスで希釈した水蒸気、メタノール及び/又はジメチルエーテルとともに水蒸気を含む反応雰囲気、または水蒸気を生成する反応雰囲気等に接触させる方法などが挙げられる。水蒸気を生成する反応とは、メタノール及び/又はジメチルエーテルの脱水反応のように脱水が起こって水蒸気を生成する反応のことである。なお、条件によって水蒸気が部分的に液体の水として存在しても構わないが、前記ゼオライトに一様な水蒸気処理効果を与えるために、全体が水蒸気の状態で存在していることが好ましい。
【0044】
前記ゼオライトは水蒸気処理により、その骨格を形成するケイ素以外のT原子の骨格からの脱離が結晶全体で起こるため、前記の外表面酸量だけでなく、前記全酸量も減少すると考えられる。この全酸量の減少により、ゼオライトの細孔内部におけるコーク生成が抑制され、分子の結晶内拡散性が向上する。このため、プロピレンよりも大きい分子の直鎖ブテンの生成が相対的に促進されるものと推測される。
なお、過度な水蒸気処理を行うと、分子の結晶内拡散性が必要以上に上昇し、ペンテンやヘキセン等の炭素数5以上の炭化水素分子の生成量が増加する傾向がある。
【0045】
水蒸気処理温度は、特に限定されるものではないが、通常500℃以上であり、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上である。また通常1000℃以下であり、好ましくは900℃以下、より好ましくは800℃以下である。水蒸気処理温度を上記の範囲とすることで、骨格構造の崩壊を起こさずに、短い処理時間で効率的にケイ素以外のT原子を骨格から除去することができる点で好ましい。
【0046】
水蒸気処理に用いる水蒸気(スチーム)は、空気や、ヘリウム、窒素等の不活性ガスで希釈して使用することができる。その際の水蒸気濃度は、特に限定されるものではないが、前記ゼオライトを水蒸気処理する際に用いる気体全体に対して通常5体積%以上、好ましくは20体積%以上、より好ましくは35体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上であり、通常100体積%以下、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは70体積%以下である。
上限は特に制限されず、100体積%の水蒸気を用いることができる。水蒸気濃度を上記範囲にすることで、短い処理時間で効率的に前記T原子を骨格から除去することができる点で好ましい。
【0047】
水蒸気処理の圧力(希釈ガスを含む全圧)は特に制限されるものではないが、通常50
kPa(絶対圧、以下同様)以上、好ましくは75kPa以上、より好ましくは100kPa以上であり、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下である。水蒸気処理の圧力を上記圧力範囲にすることで、短時間で効率的に前記T原子を骨格から除去することができる点で好ましい。
【0048】
水蒸気の分圧は特に制限されるものではないが、通常0.01MPa以上(絶対圧、以下同様)、好ましくは0.03MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上であり、通常3MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下、さらに好ましくは0.2MPa以下である。水蒸気の分圧を上記圧力範囲にすることで、短時間で効率的に前記T原子を骨格から除去することができる点で好ましい。
【0049】
水蒸気処理時間は、特に限定されるものではないが、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは1時間以上である。また触媒活性を著しく阻害しない限りにおいては処理時間の上限はない。水蒸気処理温度及び水蒸気濃度により、処理時間は適宜調整することができる。
【0050】
水蒸気処理は、その細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。有機物が細孔内部に存在することで、特に強い水蒸気処理を行なった場合に、細孔内部の酸点の極端な減少を防ぎつつ、外表面酸点の大幅な減少をはかることができる。
前記有機物としては、特に限定されないが、ゼオライトの水熱合成時に使用する構造規定剤、及び反応によって生成するコーク等が挙げられる。これら有機物は、水熱合成後のゼオライト(以下、焼成前ゼオライトということがある)に水蒸気処理を行った後、空気焼成等の燃焼工程を経て除去することもでき、または空気等の酸素含有ガスで希釈した水蒸気で処理することにより、有機物を除去しながら水蒸気処理することもできる。
【0051】
前記ゼオライトを水蒸気処理に供する前に、アルカリ土類金属を含む化合物と物理混合することも可能である。アルカリ土類金属を添加することにより、ゼオライトの強酸点を中和し、強酸点で生成するコークの生成を抑制できることがある。アルカリ土類金属を含む化合物としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、中でも炭酸カルシウムが好ましい。
アルカリ土類金属を含む化合物の量は、特に限定されないが、前記ゼオライトに対して通常、0.5質量%以上、好ましくは3質量%以上、通常30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0052】
<熱処理>
熱処理する方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、前記ゼオライトを、空気及び不活性ガスから選ばれる少なくとも1つの雰囲気下で高温処理する方法や、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む混合ガス雰囲気下で高温処理する方法などが挙げられる。これにより、ゼオライトの全酸量を減少させることができる。
【0053】
熱処理温度は特に限定されるものではないが、通常600℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上であり、通常1200℃以下、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下である。熱処理温度を上記の範囲とすることで、骨格構造の崩壊を起こさずに、短い処理時間で効率的に前記T原子を骨格から除去することができる点で好ましい。
【0054】
熱処理の際に使用するガス種としては、ヘリウム、窒素、空気等を使用することができる。
熱処理も水蒸気処理同様に、細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。ヘリウムや窒素等の不活性ガスを用いた場合、熱処理により有機物が炭化する場合があるが
、空気での焼成により、除去することができる。
【0055】
なお、熱処理は上記のゼオライトを製造する際に行われる焼成と同時に行っても別個に分けて行ってもよい。熱処理は骨格内の前記T原子の脱離等を目的とするため比較的高温で行われ、特に限定はされないが、具体的には、上記の焼成と熱処理を別個に行なう場合であれば、熱処理は、通常、焼成よりも高い温度で行なわれる。
熱処理の時間は、特に限定されるものではないが、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1.0時間以上である。また触媒活性を著しく阻害しない限りにおいては処理時間の上限はなく、熱処理温度により、処理時間は適宜調整することができる。
【0056】
<酸処理>
本発明のゼオライトの酸処理の方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、酸性水溶液を用いる方法が挙げられる。
前記酸性水溶液に用いる酸の種類としては、特に限定されるものではないが、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸、シュウ酸、マロン酸などのジカルボン酸などを使用することができる。これらのうち好ましいのは、硫酸、硝酸、塩酸である。
【0057】
前記酸性水溶液の酸の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常0.01M以上、好ましくは0.1M以上、より好ましくは1M以上であり、通常10M以下であり、好ましくは8M以下であり、より好ましくは6M以下である。酸の濃度を上記の範囲とすることで、骨格構造の崩壊を起こさずに、短い処理時間で効率的に全酸量を低減することができる点で好ましい。
【0058】
ゼオライトに対する酸性水溶液の量としては、特に制限されるものではないが、ゼオライト1gに対して、酸性水溶液の総量で通常3g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上であり、通常100g以下、好ましくは80g以下、より好ましくは50g以下である。酸性水溶液の量を上記の範囲とすることで、スラリーの十分な撹拌効率を得るとともに、一定の生産性を確保することができる点で好ましい。
【0059】
酸処理の温度としては、特に限定されるものではないが、常圧においては通常室温から100℃、耐圧容器内では100℃以上で行うことも可能であり、通常40℃以上、好ましく60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下である。酸処理の温度を上記の範囲とすることで、骨格構造の崩壊を抑制しながら、短い処理時間で効率的に全酸量を低減することができる点で好ましい。
【0060】
酸処理の処理時間は、特に限定されるものではなく、酸の濃度や反応温度にもよるが、通常0.01時間以上、好ましくは0.1時間以上であり、触媒の性能を阻害しない限りにおいて処理時間の上限は特にない。酸の濃度や反応温度により、処理時間は適宜調整することができる。
酸性水溶液中に、シリル化剤を添加することにより、酸処理とシリル化処理を同時に行うこともできる。その際に用いるシリル化剤は、前記シリル化剤と同じである。
【0061】
<イオン交換処理>
ゼオライトのカウンターカチオンは、通常、ナトリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(NH4)あるいはプロトン(H)である。これらのカウンターカチオンはイオン交換可能であり、適宜、金属イオン交換して使用することができる。
交換する金属としては、特に限定されるものではないが、リチウム、ナトリウム、カリ
ウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムであり、より好ましくはナトリウム、カリウム、カルシウムであり、さらに好ましくはカルシウムである。
【0062】
イオン交換することで、ゼオライトの酸量を調整することができ、さらには、ケージ空間容積を調整することができるため、反応時のコーク蓄積を抑制することができる。また熱的/水熱的安定性が高くなり劣化を抑制することができる点でも好ましい。金属イオン交換の方法は、特に限定されるものではないが、既知のイオン交換法によって行うことができる。イオン交換法に用いる際の、ゼオライトのカチオンは特に限定されず、通常、ナトリウム型、アンモニウム型、あるいはプロトン型が用いられる。
【0063】
金属源としては、通常、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩等が用いられ、好ましくは硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩であり、より好ましくは硝酸塩である。
用いる溶媒としては、金属源が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、通常、水が用いられる。
【0064】
金属源溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、通常0.1M以上、好ましくは0.5M以上、より好ましくは1M以上であり、また上限は、通常10M以下、好ましくは8M以下、より好ましくは6M以下である。金属源の溶解度見合いで濃度を調整することが望ましい。
【0065】
イオン交換を行う温度は、室温から溶媒の沸点程度である。処理時間は、イオン交換が十分平衡に達する時間であればよく、通常1~6時間程度である。金属の交換率を高めるため、イオン交換を複数回繰り返すことも可能である。
【0066】
所定の時間処理した懸濁液からのゼオライトの分離は、通常の固液分離操作、例えば濾過や遠心分離によって行う。
【0067】
イオン交換後のゼオライトを乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、例えば空気中、不活性ガス中、真空中などで行われる。乾燥温度は、通常、室温から溶媒の沸点程度である。
【0068】
イオン交換後のゼオライトは、適宜焼成を行って使用する。焼成温度は金属源の分解温度よりも高温であればよく、通常200℃~600℃、好ましくは300℃~500℃である。焼成温度が低すぎると金属源が残留しやすく、焼成温度が高すぎるとゼオライトの構造崩壊や、金属のシンタリングが進行し易くなる。
【0069】
また、上記以外にも、金属元素の担持処理、又はゼオライトを成形する際にバインダーと前記ゼオライトの外表面酸点を結合させる、といった方法により外表面酸量を調整することもできる。
【0070】
本発明のゼオライトの平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、通常0.03μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。上記範囲とすることで、触媒反応におけるゼオライト結晶内の拡散性及び触媒有効係数が十分高くなり、ゼオライト結晶性が十分なものとなり、耐水熱安定性が高い点で好ましい。
なお、本発明における平均一次粒子径とは、一次粒子の粒子径に相当する。したがって、光散乱法などで測定される凝集体の粒子径とは異なる。平均一次粒子径は、走査型電子
顕微鏡(以降、「SEM」と略記する。)又は透過型電子顕微鏡(以降、「TEM」と略記する。)による粒子の観察において、粒子を任意に20個以上測定し、その一次粒子の粒子径を平均して求められる。該粒子が長方形の場合、該粒子の長辺・短辺を計測して(奥行は計測せず)、その和の平均、つまり(長辺+短辺)÷2を算出して、該粒子の一次粒子径とする。
【0071】
(BET比表面積)
本発明のゼオライトのBET比表面積は、特に限定されるものではないが、通常300m2/g以上、好ましくは400m2/g以上、より好ましくは500m2/g以上であり、通常1000m2/g以下、好ましくは800m2/g以下、より好ましくは750m2/g以下である。上記範囲にあることで、細孔内表面に存在する活性点が十分多く、触媒活性が高くなるため好ましい。なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた測定方法によって測定できる。吸着ガスとして窒素を使用し、1点法(相対圧:p/p0=0.30)でBET比表面積を求められる。
【0072】
本発明のゼオライトの細孔容積は、特に限定されるものではないが、通常0.1ml/g以上、好ましくは0.2ml/g以上であり、通常3ml/g以下、好ましくは2ml/g以下である。上記範囲にあることで、細孔内表面に存在する活性点が十分多く、触媒活性が高くなるため好ましい。細孔容積は相対圧法により得られる窒素の吸着等温線から求める値であることが好ましい。
【0073】
本発明のゼオライトは、一般的に水熱合成法により調製することが可能である。例えば、ケイ酸塩であれば、水にアルミニウム源、ガリウム源、ホウ素源、及び鉄源から選ばれる少なくとも1種類と、ケイ素源やアルカリ水溶液等を加えて均一なゲルを生成させ、これに必要に応じて構造規定剤を加えて攪拌し、原料ゲルを調製する。得られた前記原料ゲルを、密閉容器中で加熱し、自圧下反応させることにより、結晶化させる。このときの反応温度は特に限定されないが、通常100~200℃に保持して結晶化させる。結晶化の際に、必要に応じて種結晶を添加してもよく、製造性の面では種結晶を添加する方が、反応時間を短縮できる点や結晶粒子を微粒子化できる点で好ましい。次いで結晶化した固形成分を濾過および洗浄した後、固形分を乾燥し、引き続き焼成することによって、アルカリ(土類)金属型のゼオライトとして得ることができる。前記の乾燥温度は限定されないが、通常100~200℃である。また前記の焼成温度は限定されないが、通常400~700℃である。その後、酸性溶液やアンモニウム塩溶液でイオン交換し、焼成することにより、H型のゼオライトを得ることができる。
【0074】
具体的に、CHA型ゼオライトとしては、米国特許第4544538号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することができる。また、ERI型ゼオライトとしては、米国特許第7344694号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することができる。
【0075】
前記構造規定剤として用いられるカチオンは、本発明のゼオライトの形成を阻害しないアニオンを伴うものである。前記アニオンは、特に限定はされないが、具体的には、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩が含まれる。中でも、水酸化物イオンは特に好適に用いられる。
【0076】
また、構造規定剤として、リン含有系構造規定剤又は窒素系構造規定剤を使用することもできる。リン含有系構造規定剤としては、例えばテトラエチルホスホニウム水酸化物、テトラエチルホスホニウムブロミドのような物質が挙げられる。しかし、リン化合物は、合成ゼオライトから焼成により構造規定剤を除去する際に、有害物質である五酸化二リン等を発生する可能性があるため、好ましくは窒素系構造規定剤である。
【0077】
水熱合成及び焼成後、得られたゼオライトに適宜、上述したような、シリル化処理、水蒸気処理、熱処理、酸処理及びイオン交換から選ばれる少なくとも1つの処理を施すことが好ましい。このうち、好ましくはシリル化処理、水蒸気処理、熱処理、イオン交換から選ばれる少なくとも1つの処理を施したものであり、より好ましくはシリル化処理、水蒸気処理、イオン交換から選ばれる少なくとも1つの処理を施したものであり、さらに好ましくはシリル化処理、水蒸気処理から選ばれる少なくとも1つの処理を施したものであり、特に好ましくはシリル化処理を施したものである。
【0078】
ゼオライトは触媒活性成分であるために、ゼオライトをそのままゼオライト触媒として反応に用いてよいし、反応に不活性な物質やバインダーを用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して反応に用いてもよい。
該反応に不活性な物質やバインダーとしては、アルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゾル、石英、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0079】
ゼオライト触媒の全酸量及び外表面酸量は、上述のゼオライトの全酸量及び外表面酸量と同様の方法にて測定することができる。ゼオライト触媒の全酸量は、特に限定されるものではないが、通常0.01mmol/g以上、好ましくは0.10mmol/g以上、より好ましくは0.20mmol/g以上、さらに好ましくは0.30mmol/g以上である。また、通常2.0mmol/g以下、好ましくは1.5mmol/g以下、より好ましくは1.0mmol/g以下、さらに好ましくは0.80mmol/g以下である。ゼオライト触媒の全酸量を上記の範囲とすることで、メタノールの転化活性が担保されるとともに、ゼオライトの細孔内部におけるコーク生成が抑制され、低級オレフィンの生成を促進することができる点で好ましい。
【0080】
ゼオライト触媒の外表面酸量は、特に限定されるものではないが、通常、触媒の全酸量に対して8%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0%である。外表面酸量が大きすぎる場合には、外表面酸点で起こる副反応により低級オレフィンの選択性が低下する傾向がある。
なお、ゼオライト触媒の全酸量及び外表面酸量を調整するには、酸点を有さないシリカやアルミナ等バインダーとして用いることが好ましい。
なお、アルミナ等の、酸点を有するバインダーを使用した場合には、触媒の全酸量及び外表面酸量の測定方法では、ゼオライトの酸量と共にバインダーの酸量も含んだ合計値として測定される。その場合はバインダー由来の酸量を別法により求め、触媒の酸量からその値を差し引くことによって、バインダー由来の酸量を含まないゼオライトのみの酸量を求めることが可能である。前記バインダーの酸量は、27Al-NMRにおいてゼオライトの酸点に由来する4配位Alのピーク強度からゼオライトの酸量を求め、アンモニア昇温脱離法により求まる触媒の酸量からその値を差し引く方法で求められる。
【0081】
ゼオライト触媒の平均粒子径は、ゼオライトの合成条件や造粒・成型条件により異なるが、通常、平均粒子径として、通常0.01μm~500μmであり、好ましくは0.1~100μmである。ゼオライト触媒の平均粒子径が大きくなり過ぎると、触媒の有効係数が低下する傾向があり、小さすぎると取り扱い性が劣るものとなる。この平均粒子径は、SEM観察等により求めることができる。
【0082】
<2.低級オレフィンの製造方法>
上述の通り、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料を、ゼオライト触媒と接触させることで、低級オレフィンを生成することができる。なお、本発明において、低級オレフィンとは、炭素数2以上4以下のオレフィンを意味する。本発明は、エチレン製造及びプロピレン製造において適した方法であり、特に、エチレン製造に適した方法であ
る。
【0083】
原料であるメタノール及びジメチルエーテルの製造由来は特に限定されない。例えば、石炭および天然ガス、ならびに製鉄業における副生物由来のCO/水素の混合ガスの水素化反応により得られるもの、植物由来のアルコール類の改質反応により得られるもの、発酵法により得られるもの、再循環プラスチックや都市廃棄物等の有機物質から得られるもの等が挙げられる。このとき各製造方法に起因するメタノールおよびジメチルエーテル以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したものを用いてもよい。
なお、反応原料としては、メタノールのみを用いてもよく、ジメチルエーテルのみを用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。メタノールとジメチルエーテルを混合して用いる場合、その混合割合に制限はない。
【0084】
低級オレフィン製造に使用する反応器としては、メタノール及び/又はジメチルエーテル供給原料が反応域において気相であれば特に限定されないが、固定床反応器、移動床反応器や流動床反応器が選ばれる。エチレン、プロピレン、ブテン類を併産する場合は、転化率の変動に伴い、各低級オレフィンの選択率が変動する傾向にあるため、各低級オレフィンを一定の割合で製造するためには、流動床反応器が好ましい。
また、バッチ式、半連続式または連続式のいずれの形態でも行われ得るが、連続式で行うのが好ましく、その方法は、単一の反応器を用いた方法でもよいし、直列または並列に配置された複数の反応器を用いた方法でもよい。
なお、流動床反応器に前述の触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と
混合して充填してもよい。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量には特に限定されない。なお、粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
また、反応器には、反応に伴う発熱を分散させることを目的に、反応基質(反応原料)を分割して供給してもよい。
【0085】
(基質濃度)
反応器に供給する全供給成分中の、メタノールとジメチルエーテルの合計濃度(基質濃度)は特に制限はないが、メタノールとジメチルエーテルの和は、全供給成分中、通常5モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さら好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上であり、通常95モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。基質濃度を上記範囲にすることで、芳香族化合物やパラフィン類の生成を抑制することができ、低級オレフィンの収率を向上させることができる。また反応速度を維持できるため、触媒量を抑制することができ、反応器の大きさも抑制可能となる。
従って、このような好ましい基質濃度となるように、必要に応じて以下に記載する希釈剤で反応基質を希釈することが好ましい。
【0086】
反応器に供給するメタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料中の、メタノールおよびジメチルエーテルの合計の割合としては、特に制限はないが、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、上限は100質量%である。前記の割合を上記の範囲とすることで、原料のメタノール及び/又はジメチルエーテルからの低級オレフィンへの炭素導入率が高くなり、安価なメタノール、ジメチルエーテルを使用した場合、安価に低級オレフィンを製造することができる。
【0087】
(希釈剤)
反応器内には、メタノール及び/又はジメチルエーテルの他に、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、および、それらの混合物など、反応に不活性な気体を存在させることができるが、この中でもヘリウム、窒素、水(水蒸気)が共存しているのが、分離が良好であることから好ましい。
このような希釈剤は、反応原料に含まれている不純物をそのまま希釈剤として使用してもよいし、別途調製した希釈剤を反応原料と混合して用いてもよい。
また、希釈剤は反応器に入れる前に反応原料と混合してもよいし、反応原料とは別に反応器に供給してもよい。
【0088】
(重量空間速度)
ここで言う重量空間速度とは、触媒(触媒活性成分)の重量当たりの反応原料であるメタノール及び/又はジメチルエーテルの流量であり、ここで触媒の重量とは触媒の造粒・成形に使用する不活性成分やバインダーを含まない触媒活性成分の重量である。また、流量はメタノール及び/又はジメチルエーテルの合計の流量(重量/時間)である。
【0089】
重量空間速度は、特に限定されるものではないが、通常0.01Hr-1以上、好ましくは0.1Hr-1以上、より好ましくは0.2Hr-1以上、さらに好ましくは0.5Hr-1以上であり、通常50Hr-1以下、好ましくは20Hr-1以下、より好ましくは10Hr-1以下、さらに好ましくは5.0Hr-1以下である。重量空間速度を前記範囲に設定することで、反応器出口ガス中の未反応のメタノール及び/又はジメチルエーテルの割合を減らすことができ、芳香族化合物やパラフィン類等の副生成物を減らすことができるため、低級オレフィンの収率を向上させることができる点で好ましい。また、一定の生産量を得るのに必要な触媒量を抑えることができ、反応器の大きさを抑えられるため好ましい。
【0090】
(反応温度)
反応温度は、メタノール及び/又はジメチルエーテルが触媒と接触して低級オレフィンを生成する温度であれば、特に制限されるものではないが、通常250℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは325℃以上、さらに好ましくは350℃以上であり、通常600℃以下、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは450℃以下である。反応温度を上記範囲にすることで、芳香族化合物やパラフィン類の生成を抑制することができるため、低級オレフィンの収率を向上させることができる。また、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化活性を高いレベルで維持することができるため、長時間にわたって高い低級オレフィン収率で製造することができる。さらに、ゼオライトがケイ酸塩の場合、ゼオライト骨格からの脱アルミニウムが抑制されるため、触媒寿命を維持できる点で好ましい。なお、ここでの反応温度とは、触媒層出口の温度をさす。
【0091】
(反応圧力)
反応圧力は特に制限されるものではないが、通常0.01MPa(絶対圧、以下同様)以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上であり、通常5MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.7MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下、特に好ましくは0.4MPa以下、最も好ましくは0.3MPa以下である。反応圧力を上記範囲にすることで芳香族化合物やパラフィン類等の副生成物の生成を抑制することができ、低級オレフィンの収率を向上させることができる。また反応速度も維持できる。
【0092】
(原料分圧)
メタノール及びジメチルエーテルの合計の分圧は特に制限されるものではないが、通常
0.005MPa以上(絶対圧、以下同様)、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.02MPa以上、さらに好ましくは0.03MPa以上、特に好ましくは0.05MPa以上であり、通常3MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下、さらに好ましくは0.3MPa以下、特に好ましくは0.1MPa以下である。原料の分圧を上記範囲にすることで芳香族化合物やパラフィン類等の副生成物の生成を抑制することができ、低級オレフィンの収率を向上させることができる。
【0093】
(転化率)
本発明において、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化率は特に制限されるものではないが、通常転化率は90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上であり、通常100%以下である。本発明は、転化率が上記範囲になるように調整することで、芳香族化合物やパラフィン類の副生、および細孔内へのコークの蓄積を抑制することができ、低級オレフィンの収率を向上させることができる。また、生成物中からのメタノール及び/又はジメチルエーテルの分離効率を高めることができる。
【0094】
通常、反応時間の経過とともにコークの蓄積が進行し、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化率は、低下する傾向にあるため、一定時間反応させた触媒は、再生処理に供する必要がある。上記の転化率の範囲で運転する方法としては、特に制限されない。
例えば、固定床反応器で反応を行う場合には、複数個の反応器を並列に備え、転化率が上記の好ましい範囲から低下した際には、触媒と反応原料との接触を停止し、該触媒を再生工程に供する。固定床反応器においては、反応時間及び再生時間を適宜調整する、すなわち、運転における反応工程と再生工程とを切り替える時間を適宜調整することにより、上記の好ましい範囲の転化率で連続的に運転することができる。
また、流動床反応器で反応を行う場合には、反応器に対して触媒の再生器を付設し、反応器から抜き出した触媒を連続的に再生器に送り、再生器において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら、反応を行うことが好ましい。触媒の反応器内での滞留時間と再生器内での滞留時間を適宜調整することにより、上記の好ましい範囲の転化率で連続的に運転することができる。
【0095】
(炭化水素成分)
メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化によって、その一部が結晶の内部/外表面に、ストリッピング処理により回収可能な軽沸炭化水素成分、再生処理による除去が必要なコーク(多環芳香族などの重質成分)として蓄積する。なお、該反応中に、ゼオライト触媒の活性成分であるゼオライトに対する炭化水素含有量(軽沸炭化水素成分及びコークの含有量の合計)が増加しすぎると、触媒活性が低下する傾向がある。そのため、当該反応中、ゼオライト触媒の活性成分であるゼオライトに対する炭化水素含有量の割合は、30質量%以下に保つことが好ましく、25質量%以下に保つことがより好ましく、20質量%以下に保つことがさらに好ましく、15質量%以下に保つことが特に好ましい。すなわち、ゼオライト触媒のゼオライトに対する炭化水素含有量が、上記の範囲よりも大きくなった際に、該ゼオライト触媒に後述のゼオライト触媒の処理工程を施すことが好ましい。なお、ゼオライトに対する炭化水素含有量の割合は、後述する、ゼオライト触媒の再生処理により調整することができる。一方、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化活性を保ちつつ、パラフィン類の副生を抑制して、低級オレフィンの収率を向上させるために、ゼオライトに対する炭化水素含有量の割合は、0.1質量%以上に保つことが好ましく、3.0質量%以上に保つことがさらに好ましく、5.0質量%以上に保つことが特に好ましい。
【0096】
なお、ここでの炭化水素含有量は、熱重量分析(TG)により求めることができる。具体的には、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化反応により炭化水素成分が蓄積
したゼオライトを、ヘリウム等の不活性ガス流通下(50cc/min)、200℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、30分間保持することで、吸着水を除去する。続いて、空気流通に切り替え(50cc/min)、600℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、60分間保持する。このときの200℃以上の温度領域での酸化燃焼による重量減少を炭化水素含有量とする。
【0097】
前記コークの含有量(コーク含有量)としては、適度な触媒活性と高い低級オレフィン選択率を得るためには、ゼオライト触媒の活性成分であるゼオライトに対して、25質量%以下に保つことが好ましく、20質量%以下に保つことがより好ましく、15質量%以下に保つことがさらに好ましく、また0.1質量%以上に保つことが好ましく、1.0質量%以上に保つことがさらに好ましく、3.0質量%以上に保つことが特に好ましい。
前記コーク含有量は、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化反応によりコークが蓄積したゼオライトを、ヘリウム等の不活性ガス流通下(50cc/min)、550℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、30分間保持することで、吸着水及び軽沸炭化水素成分を除去する。続いて、空気流通に切り替え(50cc/min)、600℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、60分間保持する。このときの550℃以上の温度領域での酸化燃焼による重量減少をコーク含有量とする。
【0098】
(反応生成物)
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物である、エチレン、プロピレン及びブテン類の低級オレフィン、副生成物及び希釈剤を含む混合ガスが得られる。前記混合ガス中の低級オレフィンの濃度は、特に限定されないが、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下である。
反応条件によっては反応生成物中に未反応原料としてメタノール及び/又はジメチルエーテルが含まれるが、メタノール及び/又はジメチルエーテルの転化率が100%になるような反応条件で反応を行うのが好ましい。それにより、反応生成物と未反応原料との分離が容易に、好ましくは不要になる。副生成物としては炭素数が5以上のオレフィン類、パラフィン類、芳香族化合物および水が挙げられる。本発明では、所望により、低級オレフィン以外の成分をも分離・回収してもよい。所望の成分を分離・回収した残分には、軽質パラフィン、C5以上のオレフィン、芳香族化合物、スチーム等を含む。この残分の少なくとも一部を、前述した原料ガスの一部に混合して、いわゆるリサイクルガスとして用いることができる。
【0099】
本発明において、低級オレフィンの合計の収率は特に制限されるものではないが、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%以上であり、上限は特に制限されないが、通常100%である。低級オレフィンの合計の収率が上記範囲にあることで、反応器出口における目的生成物の収率が十分なものとなり、原料コスト及び分離・精製の負荷を低減することができる点で好ましい。
【0100】
なお、低級オレフィンの中でも、ブテン類の直鎖ブテンの比率(以下、直鎖ブテン/ブテン類)は、特に制限されるものではないが、通常60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。直鎖ブテン/ブテン類比率が、上記範囲にあることで、直鎖ブテンの分離・精製工程における負荷を低減することができる点で好ましい。
【0101】
転化率は次の式により算出される値である。
メタノール転化率(%)=〔[反応器入口メタノール(mol/Hr)-反応器出口メタノール(mol/Hr)]/反応器入口メタノール(mol/Hr)〕×100
ジメチルエーテル転化率(%)=〔[反応器入口ジメチルエーテル(mol/Hr)-反応器出口ジメチルエーテル(mol/Hr)-反応器出口メタノール(mol/Hr)
÷2]/反応器入口ジメチルエーテル(mol/Hr)〕×100
【0102】
本明細書における選択率とは、以下の各式により算出される値である。下記の各式において、エチレン、プロピレン、ブテン、C5+、パラフィンおよび芳香族化合物等の炭化水素の「由来カーボン流量(mol/Hr)」とは、各炭化水素を構成する炭素原子のモル流量を意味する。原料にジメチルエーテルを用いた場合には、次の式の反応器出口原料由来カーボンモル流量に、ジメチルエーテルとメタノールの合計カーボンモル流量を用いて算出する。
尚、パラフィンは炭素数1から4のパラフィンの合計、芳香族化合物はベンゼン、トルエン、キシレンの合計、C5+は前記芳香族化合物を除いた炭素数5以上の炭化水素の合計である。
・エチレン選択率(%)=〔反応器出口エチレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・プロピレン選択率(%)=〔反応器出口プロピレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・ブテン選択率(%)=〔反応器出口ブテン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・C5+選択率(%)=〔反応器出口C5+由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・パラフィン選択率(%)=〔反応器出口パラフィン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・芳香族化合物選択率(%)=〔反応器出口芳香族化合物由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
・ジメチルエーテル選択率(%)=〔反応器出口ジメチルエーテル由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)-反応器出口メタノール由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100(ただし、原料にメタノールを用いた場合のみ使用)
なお、本明細書における収率とは、前記原料転化率と、生成した各成分の選択率の積により求められ、具体的にエチレン収率、プロピレン収率、ブテン収率は、それぞれ次の式で表される。
・エチレン収率(%)=原料転化率(%)×エチレン選択率(%)/100
・プロピレン収率(%)=原料転化率(%)×プロピレン選択率(%)/100
・ブテン収率(%)=原料転化率(%)×直鎖ブテン選択率(%)/100
【0103】
(生成物の分離)
反応器出口ガスとしての、反応生成物である低級オレフィン、未反応原料、副生成物及び希釈剤を含む混合ガスは、公知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行えばよい。
【0104】
この分離・精製方法の一つの態様として、反応器出口のガスを冷却・圧縮し、凝縮した大部分の水分を除去する工程を含み、水分を除去した後の一部水分を含んだ炭化水素流体をモレキュラーシーブ等で乾燥し、その後蒸留により各オレフィンおよびパラフィンを精製する工程を含む方法が適用される。上記方法において、圧縮した炭化水素流体を一つの蒸留塔に供給してもいが、多段階の圧縮機を設置し、凝縮しやすい炭化水素と凝縮しにく
い炭化水素を粗分離し、これらを別々の蒸留塔に供給して蒸留を行ってもよい。
【0105】
低級オレフィン以外の成分(オレフィン、パラフィン等)、特に炭素数5以上の炭化水素の一部または全ては、上記分離・精製された後に反応原料と混合するか、または直接反応器に供給することでリサイクルしてもよい。また、副生成物のうち、反応に不活性な成分は希釈剤として再利用することができる。
【0106】
<3.ゼオライト触媒の処理方法>
低級オレフィンの製造方法において、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料の転化に伴い、ゼオライト触媒中の炭化水素含有量(軽沸炭化水素成分およびコークの含有量)が増加する傾向がある。特に、ゼオライト触媒中のコーク含有量が増加すると、ゼオライト触媒の活性が低下し、低級オレフィンの収率が低下する傾向がある。従って、本発明においては、軽沸炭化水素成分およびコークが蓄積したゼオライト触媒を、水素を含むガスにより処理することで、触媒活性を回復しながら、低級オレフィンを収率高く製造することが可能となる。
【0107】
従来、水素を含むガスによるゼオライト触媒の再生方法としては、日本国特許第5545114号に記載されるように、エチレンを原料とするプロピレン製造において、コークを除去して触媒活性を回復させることができることが報告されている。エチレン原料からプロピレンを生成する場合の反応機構としては、エチレンの二量化によるヘキセン生成、続く分解によるプロピレン2分子生成の反応機構や、プロピルナフタレンからのプロピレン生成の機構が提唱されている(Journal of Catalysis 314(2014)10‐20)。ここで開示されているように、エチレンを原料とした場合には、反応性の高いヘキセンやナフタレン誘導体等が中間体となるため、水素ガスによる再生処理が適用できると考えられる。一方、かかるエチレンからプロピレンを製造する触媒の再生方法をメタノールからオレフィンを製造する触媒に適用することは、メタノールからオレフィンを製造する際に水が多く発生し、これがゼオライト活性点上へ吸着して、水素再生を阻害すると考えられることや、水とメタノールを含んだゼオライトを再生のためメタノールからオレフィンを製造するときより高い温度にさらすことでゼオライト自身が構造崩壊してしまうと考えられること、さらには凝縮成分であるメタノールや水と水素が混合した状態では、その後の分離・精製プロセスの負荷が非常に大きくなることから、実用上適さないと考えられていた。
【0108】
一方、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを生成する反応の場合、詳細な反応機構は不明だが、ポリメチルベンゼン中間体が生成する反応機構が提唱されている(Chem.Eur.J.15(2009)10803-10808)。通常、ベンゼン環は芳香族性が高く、安定性が非常に高いとされるため、ニッケルやパラジウム等の水素化活性金属を含まない状態のゼオライト触媒では分解困難であると考えられ、従来のゼオライト触媒の再生方法では、酸素を含むガスによる燃焼再生が行われてきた。
さらに、メタノール及び/又はジメチルエーテルを原料とした場合、低級オレフィンの生成とともに、多量の水が副生するため、水(水蒸気)のような吸着能の高いガスによるストリッピングが効果的であり、ストリッピングガスとしては、水素やメタン等の吸着能の低いガスではなく、水(水蒸気)が好適に用いられてきた。
【0109】
また、水(水蒸気)を用いたストリッピングにより回収された軽沸炭化水素成分と水(水蒸気)を含むガスは、生成物ガスと同一のプロセスにより分離精製することができるため、エネルギーコスト低減が可能であり、従来好適に用いられている。これに対して、水素やメタン等の沸点の低いガスを用いた場合、低沸点成分のガス量が増加し、分離精製系の負荷、特に深冷分離ユニットの負荷が大きくなり易いため、通常ストリッピングガスと
して好適には用いられない。
従って、従来、メタノール及び/ジメチルエーテルを原料とした低級オレフィンの製造方法におけるゼオライト触媒の再生方法において、日本国特許第5545114号に記載されるような水素を含むガスによるゼオライト触媒の再生工程を適用しても、ゼオライト触媒の触媒活性の大幅な回復が期待できないと考えられていた。
【0110】
しかしながら、本発明において、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを生成する反応において、炭化水素含有量が増加したゼオライト触媒を水素を含むガスにより処理することにより、予想外に、ゼオライト触媒中の軽沸炭化水素成分を効果的にストリッピングすることができ、さらに、コーク除去により触媒活性を大幅に回復することができることを見出した。水素を含むガスでの処理では、通常のストリッピング回収に加えて、同一ガスでの触媒再生が可能であるため、ストリッピング設備と再生器を同一設備として組み込むことも可能となり、プラント建設コストおよび低級オレフィンの製造コストを大幅に低減することが可能となる。
【0111】
炭化水素含有量が増加した触媒とは、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを生成させる反応において、前記反応によって、触媒中に含まれる炭化水素成分の量が増加した触媒を意味する。
具体的には、前記反応により生成した、ストリッピング可能な軽沸炭化水素と、再生除去が必要なコークを含有する。
【0112】
水素を含むガスによる処理方法は、前記触媒を、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させるものである。本方法では、触媒中に含まれる軽沸炭化水素成分を効率的に回収し、かつコーク除去により、低級オレフィンの収率を著しく回復させることができる。
【0113】
水素を含むガスによる処理を行う装置は、水素を含むガスと触媒とが以下の条件のもとに接触し得るものであれば特に制限はないが、固定床の場合は低級オレフィン製造用反応器から触媒を抜き出さずに水素を含むガスを流す方法が好ましく用いられる。また、触媒を、上記反応器から抜きだして、反応器とは別の反応器に充填してから水素ガスに接触させて再生してもよい。
【0114】
移動床、流動床の場合は、前記反応器とは別に水素を含むガスと触媒を接触させるための装置を付設し、該反応器から抜き出した触媒を連続的に該装置に送り、該装置において水素ガスにより処理し、その後触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。すなわち、反応器に収納された低級オレフィンを生成する反応を経たゼオライト触媒を、反応器に付設された水素含有ガス流通装置に移送する工程、前記流通装置において前記ゼオライト触媒と水素を含むガスとを接触させる工程、及び水素を含むガスと接触させたゼオライト触媒を前記反応器に移送し、低級オレフィンを生成する反応に供する工程、を含むことが好ましい。
【0115】
水素を含むガスに接触させるときの圧力は特に制限されるものではないが、通常0.01MPa(絶対圧、以下同様)以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上であり、通常5MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.7MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下、特に好ましくは0.4MPa以下、最も好ましくは0.3MPa以下である。
上述の通り、水素を含むガスは、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上であるが、好ましくは0.03MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上、さらに好ましくは0.10MPa以上であり、通常4MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、0.7MPa以下がさらに好ましく、0.4MPa以下が特に好ましく、0.3MPa以
下が最も好ましい。水素分圧を上記の範囲とすることにより、ゼオライト細孔内部の軽沸炭化水素成分を効率的にストリッピングすることができ、さらに水素化分解によりコークを効率的に除去することができ、かつ、高圧水素を製造するための設備・エネルギーを削減することができる。
【0116】
本発明の水素を含むガスに含まれる水素の製造方法は特に限定されず、例えば、メタンおよびメタノールの水蒸気改質による得られるもの、炭化水素の部分酸化で得られるもの、炭化水素を二酸化炭素で改質することにより得られるもの、石炭のガス化によって得られるもの、IS(Iodine-Sulfur)プロセスに代表される水の熱分解によって得られるもの、光電気化学反応より得られるもの並びに水の電気分解で得られるもの等、各種の製造方法により得られるものを任意に用いることができる。
【0117】
水素以外のガスが任意に混合されているものを用いてもよく、精製した水素を用いてもよい。
【0118】
水素以外のガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、パラフィン類、メタン等の炭化水素類等が含まれていてもよい。このうち、反応性が低い点で、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、およびパラフィン類、メタンが好ましい。
【0119】
水素を含むガスによる処理に用いた後のガスには、水素の他に、水や炭化水素成分(オレフィン、パラフィン等)が含まれるが、これをそのままリサイクル使用してもよいし、水素以外のガスを一部または全部除去したものをリサイクル使用してもよい。
【0120】
水素を含むガスの空間速度は、特に限定されるものではないが、通常0.001Hr-1以上、好ましくは0.01Hr-1以上、より好ましくは0.1Hr-1以上であり、通常20Hr-1以下、好ましくは10Hr-1以下、より好ましくは5Hr-1以下、さらに好ましくは0.1Hr-1以下である。重量空間速度を前記範囲に設定することで、水素処理により回収される軽沸炭化水素成分の分離精製負荷を抑えることができる。また、水素ガスの使用量を抑えることができるため、製造コストを低減することができる。
【0121】
前記空間速度を前記の範囲とすることで、水素を含むガス中の触媒からストリッピングされる軽沸炭化水素成分の濃度上昇が抑えられ、再生後の反応において高い低級オレフィン収率が得られるため好ましい。また、水素使用量が抑えられるため、プロセスコストを低減することができる。
【0122】
空間速度とは、触媒(触媒活性成分)の重量当たりの水素の流量である。また、触媒の重量とは、触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない活性成分(ゼオライト)の重量である。
【0123】
水素を含むガス中の水素濃度としては、特に限定されるものではないが、通常10体積%以上、好ましくは30体積%以上、より好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上であり、通常100体積%以下である。前記の範囲とすることで、コークの水素化分解を効率的に進めることができる。
【0124】
水素を含むガスによる処理を行う温度(以下、「水素処理温度」と称することがある)としては、特に限定されるものではないが、通常250℃以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは450℃以上、特に好ましくは500℃以上であり、通常800℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは650℃以下、さらに好ましくは600℃以下である。水素処理温度を前記の範囲とすることで、細
孔内の軽沸炭化水素成分の吸着能が低下し、拡散性が向上するため、ストリッピング効果が得られやすい。また、同時に水素化分解によるコークの除去も進みやすくなる。
【0125】
水素を含むガスによる処理を行う時間としては、特に限定されるものではないが、通常10秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上であり、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。水素ガスの濃度や処理温度によっても適切な時間は変わるため、適宜調整することが好ましい。水素を含むガスによる処理を行う装置が流動床装置である場合には、上記の処理時間は、該装置内の触媒の滞留時間を意味する。
【0126】
水素を含むガスによる処理の前後での、触媒中の炭化水素含有量(軽沸炭化水素成分及びコークの含有量の合計)の変化率としては、特に限定されるものではないが、通常60%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であり、通常0.1%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。炭化水素含有量の変化率を前記の範囲とすることで、各低級オレフィンを一定の割合で、長時間にわたって安定に製造することができるため好ましい。
なお、前記炭化水素含有量の変化率は、以下の各式により算出される値である。
【0127】
炭化水素含有量の変化率(%)=[水素処理前の炭化水素含有量(質量%)-水素処理後の炭化水素含有量(質量%)]/水素処理前の炭化水素含有量(質量%)×100
【0128】
また、水素を含むガスによる処理の前後での、ゼオライト触媒中のコーク含有量の変化率としては、特に限定されるものではないが、通常60%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であり、通常0.1%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。コーク含有量の変化率を前記の範囲とすることで、各低級オレフィンを一定の割合で、長時間にわたって安定に製造することができるため好ましい。
なお、前記コーク含有量の変化率は、以下の各式により算出される値である。
【0129】
コーク含有量の変化率(%)=[水素処理前のコーク含有量(質量%)-水素処理後のコーク含有量(質量%)]/水素処理前のコーク含有量(質量%)×100
【実施例】
【0130】
以下に実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0131】
<触媒調製例1>
水酸化カリウム(キシダ化学製)0.79g、ヘキサメトニウムブロミド(東京化成工業製)1.4gを順に、水10.7gに溶解し、H-Y型ゼオライト(SiO2/Al2O3比 10、東ソー製HSZ‐350HUA)2.9gを加えた。さらにさらに加えたSiO2に対して2質量%のCHA型ゼオライト(SiO2/Al2O3比25、平均一次粒子径約200nm)0.048gを種結晶として加えてさらに撹拌することにより混合物を得た。前記混合物を100mlのオートクレーブに仕込み、自圧下、15rpmで回転させながら、180℃で1日間、水熱合成反応に供した。得られた生成物を濾過、水洗した後、100℃で乾燥させ、白色粉末3.3gを得た。生成物のXRDパターンから、得られた生成物がERI相であることを確認した。ICP元素分析より、SiO2/Al2O3比は10.0であった。水熱合成により得られたERI型ゼオライト(焼成前ゼオライト)を、空気流通下580℃で6時間焼成を行い、K含有ERI型ゼオライトを得た(触媒1)。
【0132】
<触媒調製例2>
水酸化ナトリウム(キシダ化学製)2.09gおよび25重量%のN,N,N‐トリメチル‐1‐アダマンタンアンモニウムハイドロキサイド水溶液(セイケム製,25質量%)47.3gを順次、水89.6gに溶解し、次に水酸化アルミニウム(Aldrich製,酸化アルミニウム換算で50~57重量%)4.27gを加え混合した後に、シリカ源としてコロイダルシリカSI‐30(SiO2 30重量%,Na 0.3重量%,日揮触媒化成製)111gを加えて十分攪拌した。さらに加えたSiO2に対して10重量%のCHA型ゼオライト(SiO2/Al2O3比25、平均一次粒子径約200nm)を種結晶として加えてさらに攪拌した。次いで、このゲルを1000mlのオートクレーブに仕込み、自圧下、250rpmで攪拌しながら、160℃で20時間、水熱合成を行った。生成物を濾過、水洗した後、乾燥させた。生成物のXRDパターンから、得られた生成物がCHA相であることを確認した。XRF分析より、SiO2/Al2O3比は22であった。
水熱合成により得られたCHA型ゼオライト(焼成前ゼオライト)を、空気流通下580℃で6時間焼成を行い、Na含有CHA型ゼオライトを得た。次いで、1Mの硝酸アンモニウム水溶液で80℃、1時間のイオン交換を2回行い、100℃で乾燥した後、空気流通下、500℃で6時間焼成し、プロトン型のCHA型ゼオライトを得た。
次いで、プロトン型のCHA型ゼオライト2.0gに対して、溶媒としてトルエン20ml、シリル化剤としてテトラエトキシシラン5mlを加えて、攪拌しながら70℃で4時間加熱処理を行った。反応終了後、濾過によって固液を分離し、固形分を100℃で乾燥させることにより、シリル化されたプロトン型のCHA型ゼオライトを得た(触媒2)。
【0133】
<触媒調製例3>
触媒2を650℃で、常圧にて50%水蒸気(水蒸気/空気=50/50(体積/体積))流通下、5時間処理することにより、水蒸気処理及びシリル化されたプロトン型のCHA型ゼオライトを得た(触媒3)。
【0134】
<実施例1>
触媒1を用いて、メタノールを原料とする、低級オレフィンの合成反応を行った。反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英反応管に、上記触媒200mgと石英砂300mgの混合物を充填した。メタノール及び窒素を、メタノールの重量空間速度が0.25Hr‐1で、メタノール30体積%と窒素70体積%となるように反応器に供給し、350℃、0.1MPa(絶対圧)で低級オレフィンの合成反応を実施し、反応器出口ガスをガスクロマトグラフィーにより分析を行った。反応開始12.1時間後の反応成績、及びゼオライト触媒中の炭化水素含有量を表1に示した。
上記反応終了後の炭化水素含有触媒に対して、100体積%の水素ガスを、水素の空間速度がゼオライト質量基準で100mmol/(g‐zeo・hr)となるよう反応器に供給し、500℃、0.1MPa(絶対圧)の条件で1.0時間処理した。処理後の触媒中の炭化水素含有量を表1に示した。次いで、水素処理後の触媒を用いて、再び上記の反応条件にて、低級オレフィンの合成反応を実施した。反応成績を表1に示した。
なお、触媒中に含まれる炭化水素含有量は、別途上記と同様の反応操作を行い、下記の方法により測定した。ヘリウムガス流通下(50cc/min)、200℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、30分間保持した後、空気流通に切り替え(50cc/min)、600℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、60分間保持し、200℃以上の温度領域での酸化燃焼による重量減少を炭化水素の含有量とした。
炭化水素含有量=(200℃以上の温度領域での重量減少÷充填ゼオライト量)×100
【0135】
表1のとおり、低級オレフィン合成反応12.1時間後のメタノール転化率は88.6%、低級オレフィン収率は37.7%、触媒中の炭化水素含有量は22.2質量%であった。続く水素処理により、触媒中の炭化水素含有量は15.0質量%まで減少した。水素処理後の低級オレフィン合成反応では、2.1時間後のメタノール転化率は99.7%、低級オレフィン収率は75.9%であった。水素処理後の低級オレフィン収率の最高値は75.9%であった(水素処理前の最高値79.9%)。
【0136】
<実施例2>
触媒1の代わりに、触媒2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、低級オレフィンの合成反応を行い反応開始9.6時間後の反応成績、及び触媒中の炭化水素含有量を表1に示した。上記反応終了後の炭化水素含有触媒に対して、実施例1と同様の操作を行い、水素ガス処理及び低級オレフィンの合成反応を実施した。反応成績を表1に示した。
【0137】
表1のとおり、低級オレフィン合成反応9.6時間後のメタノール転化率は31.3%、低級オレフィン収率は24.5%、触媒中の炭化水素含有量は23.3質量%であった。続く水素処理により、触媒中の炭化水素含有量は16.5質量%まで減少した。水素処理後の低級オレフィン合成反応では、2.1時間後のメタノール転化率は100.0%、低級オレフィン収率は84.6%であった。水素処理後の低級オレフィン収率の最高値は93.8%であった(水素処理前の最高値93.3%)。
【0138】
【0139】
<実施例3>
触媒3を用いて、メタノールを原料とする、低級オレフィンの合成反応を行った。反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英反応管に、上記触媒200mgと石英砂300mgの混合物を充填した。メタノール及び窒素を、メタノールの重量空間速度が0.50Hr-1で、メタノール50体積%と窒素50体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPa(絶対圧)で低級オレフィンの合成反応を実施した。触媒再生は、反応終了後の炭化水素含有触媒に対して、100体積%の水素ガスを、水素の空間速度がゼオライト質量基準で100mmol/(g-zeo・hr)となるよう反応器に供給し、500℃、0.1MPa(絶対圧)の条件で1.0時間処理した。反応工程と水素再生工程を繰り返し実施した反応結果を表2に示した。
【0140】
【0141】
<比較例1>
実施例2の反応条件にて、再生処理ガスとして窒素を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。反応成績を表3に示した。
【0142】
【0143】
上記の実施例1及び2の結果から、低級オレフィン収率の低下した触媒に対して、水素ガスで処理することにより、ゼオライト触媒内の軽沸炭化水素成分を効率的にストリッピングすることができ、さらにコーク成分の除去により、実施例1では37.7%から75.9%、実施例2では24.5%から84.6%へと低級オレフィン収率を大幅に回復させられることが明らかとなった。また低級オレフィン収率の最高値としても、水素処理前後で同等レベルであることが確認された。また、実施例3より、水素処理による触媒再生は、繰り返し適用することが可能であり、低級オレフィンの収率を高いレベルで維持できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、メタノールを含む原料から低級オレフィンを合成する反応において、炭化水素含有量の多い低級オレフィン収率が低下した触媒に対して、適宜水素ガスによる処理を行うことにより、触媒中の炭化水素含有量を減少させることができ、かつ、メタノールを含む原料からの低級オレフィン合成反応における触媒活性を回復することができ、低級オレフィン収率を高いレベルで維持することができるため、工業化プロセスにおいて有用である。