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特許7087669ガラス積層体用接着剤、ガラス積層体用フッ素樹脂シート及びガラス積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ガラス積層体用接着剤、ガラス積層体用フッ素樹脂シート及びガラス積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 127/16 20060101AFI20220614BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20220614BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220614BHJP
   C09J 127/18 20060101ALI20220614BHJP
   C09J 127/20 20060101ALI20220614BHJP
   C09J 133/12 20060101ALI20220614BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20220614BHJP
【FI】
C09J127/16
B32B17/10
B32B27/30 D
C09J127/18
C09J127/20
C09J133/12
C09J7/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018097361
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019203048
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣田 雅則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆信
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀行
(72)【発明者】
【氏名】寺倉 京介
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-089559(JP,A)
【文献】特開平10-109379(JP,A)
【文献】特開昭59-059764(JP,A)
【文献】特表2009-503198(JP,A)
【文献】特開平03-203640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)40~80質量%とアクリル樹脂(B)60~20質量%とを含み、105℃における該フッ素樹脂(A)の複素弾性率が0.1×10Pa・s以上40×10 Pa・s以下であり、
該アクリル樹脂(B)は、そのモノマー成分の90質量%以上がメチルメタクリレートであることを特徴とする、ガラス積層体用接着剤。
【請求項2】
前記フッ素樹脂(A)が、フッ化ビニリデン30~60質量%と、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの合計で70~40質量%とを重合してなるものである、請求項1に記載のガラス積層体用接着剤。
【請求項3】
前記フッ素樹脂(A)が、フッ化ビニリデン30~60質量%、テトラフルオロエチレン30~70質量%及びヘキサフルオロプロピレン0~30質量%を重合してなるものである、請求項1又は2に記載のガラス積層体用接着剤。
【請求項4】
フッ素樹脂シート(C)の少なくとも片面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤を含む層を有する、ガラス積層体用フッ素樹脂シート。
【請求項5】
前記フッ素樹脂シート(C)は、フッ化ビニリデンを含むモノマー成分を重合してなるものである、請求項4に記載のガラス積層体用フッ素樹脂シート。
【請求項6】
ガラス、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤を含む層及びフッ素樹脂シート(C)の少なくとも3層をこの順に有する、ガラス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス積層体用接着剤、該接着剤を含むガラス積層体用フッ素樹脂シート及びこれらを用いて得られるガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、透明性、強度を有する材料であるが耐衝撃性が弱く、それを補う方法として、プラスチックシートと貼り合わせた安全ガラスが一般に用いられている。しかし、一般のプラスチックシートでは、ガラスが割れたときの破片の飛散を防止することができるが、火災時にはプラスチックシートが燃焼するので、難燃性を満足させることはできない。そこで、防火・防炎性を有し、かつ通常時に割れても破片飛散防止性を有するガラスとして、ガラス板にフッ素樹脂シートを接着した防火安全ガラスが提案されている。
【0003】
しかし、フッ素樹脂シートはガラス等の他材料との接着性に乏しいので、強固な接着を達成しようとすると、接着剤を用いることが必要となるが、従来、合わせガラスを製造するための中間膜として用いられているポリビニルブチラール、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の材料をフッ素樹脂シートとガラスとの接着に適用しても、透明性が良好でしかも強固な接着を達成することはできなかった。
【0004】
この問題を解決し、ガラスの持つ高度の透明性を損なわずに強固な接着を達成するための提案がこれまでになされている。例えば、特許文献1では、フッ素樹脂成分40~80重量%と、アクリル樹脂成分60~20重量%とを含む接着剤が提案されており、接着強度については、常態強度とボイル後強度について評価がなされており、ボイル後強度が常態強度に比べ低下するものの良好とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-109379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にボイル後強度については、例えば合わせガラスの場合、耐環境性、長期耐久性等の信頼性に関わる指標であり、さらなる改良が望まれていた。
本発明はこのような状況下でなされたものであり、透明性を維持し、ガラスや樹脂シート等の中間膜等と強固に接着可能な、ガラス積層体用接着剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するための手段として、特定の複素弾性率を有するフッ素樹脂とアクリル樹脂とを含む接着剤により、透明性を維持したままガラスとの接着性をより向上させることを可能とした接着剤を提供するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] フッ素樹脂(A)40~80質量%とアクリル樹脂(B)60~20質量%とを含み、105℃における該フッ素樹脂(A)の複素弾性率が0.1×10Pa・s以上であることを特徴とする、ガラス積層体用接着剤。
【0009】
[2] 前記フッ素樹脂(A)が、フッ化ビニリデン30~60質量%と、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの合計で70~40質量%とを重合してなるものである、[1]に記載のガラス積層体用接着剤。
【0010】
[3] 前記フッ素樹脂(A)が、フッ化ビニリデン30~60質量%、テトラフルオロエチレン30~70質量%及びヘキサフルオロプロピレン0~30質量%を重合してなるものである、[1]又は[2]に記載のガラス積層体用接着剤。
【0011】
[4] フッ素樹脂シート(C)の少なくとも片面に、[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤を含む層を有する、ガラス積層体用フッ素樹脂シート。
【0012】
[5] ガラス、[1]~[3]のいずれか1項に記載の接着剤を含む層及びフッ素樹脂シート(C)の少なくとも3層をこの順に有する、ガラス積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性とガラスとの良好な接着性を兼ね備えた接着剤を提供することができる。
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の接着剤は、フッ素樹脂(A)40~80質量%とアクリル樹脂(B)60~20質量%とを含み、105℃における該フッ素樹脂(A)の複素弾性率が0.1×10Pa・s以上である。該フッ素樹脂(A)の複素弾性率が上記範囲であることにより、ボイル後の接着強度を向上させることができる。
【0015】
フッ素樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の含有割合は、好ましくはフッ素樹脂(A)が45~75質量%、アクリル樹脂(B)が55~25質量%であり、より好ましくはフッ素樹脂(A)が50~75質量%、アクリル樹脂(B)が50~25質量%であり、さらに好ましくはフッ素樹脂(A)が55~70質量%、アクリル樹脂(B)が45~30質量%である。フッ素樹脂(A)を40質量%以上(アクリル樹脂(B)が60質量%以下)とすることにより、後述のフッ素樹脂シート(C)等の樹脂シートとの接着性が良好となり、またフッ素樹脂(A)を80質量%以下(アクリル樹脂(B)が20質量%以上)とすることにより、後述のガラスとの接着性が良好となる。
【0016】
[フッ素樹脂(A)]
フッ素樹脂(A)は、105℃における複素弾性率が0.1×10Pa・s以上である。複素弾性率を0.1×10Pa・s以上とすることにより、接着層が変形しにくくなり、例えば合わせガラスの場合、耐環境性、長期耐久性等の信頼性が向上する。この耐環境性、長期耐久性は、具体的には、ボイル後の接着強度(ボイル強度)の低下のしにくさにより評価できる。複素弾性率は、好ましくは0.5×10Pa・s以上、より好ましくは1×10Pa・s以上、さらに好ましくは10×10Pa・s以上であり、好ましくは40×10Pa・s以下、より好ましくは30×10Pa・s以下、さらに好ましくは25×10Pa・s以下である。
なお、複素弾性率は、JIS K7244-10(2005)に準拠し、0.1%のねじり変形を1Hzの周波数で与えた時の応力を計測して算出される値をいう。
【0017】
105℃におけるフッ素樹脂(A)の複素弾性率を1×10Pa・s以上とする方法としては、例えば、フッ素樹脂(A)の製造に用いるモノマー成分の種類や割合を調整、具体的には、モノマー成分としてフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンを採用し、フッ化ビニリデンに対するテトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレン成分等の割合を増やして結晶性や融点を高めるようにする方法が挙げられるが、透明性や接着層の形成加工性を損ねないように組成比等を調整する必要がある。その他に、フッ素樹脂(A)製造の際に架橋剤を添加することによって架橋構造を形成しやすくしたり、ベンゼン環及びナフタレン環等の芳香環、シクロペンタン及びシクロヘキサン等の脂環、イミド結合等の高極性結合、ハロゲン等の高極性基等を、フッ素樹脂(A)に導入したりする方法等が挙げられる。また、核剤の添加によって結晶を分散化させる方法も有効である。これらの方法の中でも、フッ素樹脂(A)を構成するモノマー成分の組成比を調整する方法が好ましい。
【0018】
フッ素樹脂(A)としては、フッ素を含むものであれば特に制限はないが、フッ化ビニリデンを含むモノマー成分を重合して得られるものが好ましく用いられる。具体的には、モノマー成分として、フッ化ビニリデン30~60質量%と、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの合計で70~40質量%とを含むものを重合して得られるものが好適である。より好ましくは、フッ化ビニリデン33~55質量%と、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの合計で67~55質量%、さらに好ましくはフッ化ビニリデン35~50質量%と、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの合計で65~50質量%とを重合してなるものである。
【0019】
さらに具体的には、これらモノマー成分の割合は、フッ化ビニリデンが30~60質量%、テトラフルオロエチレンが30~70質量%、ヘキサフルオロプロピレンが0~30質量%であることが好ましい。より好ましい割合は、フッ化ビニリデンが33~55質量%、テトラフルオロエチレンが33~60質量%、ヘキサフルオロプロピレンが0~27質量%、さらに好ましい割合は、フッ化ビニリデンが35~50質量%、テトラフルオロエチレンが45~65質量%、ヘキサフルオロプロピレンが0質量%以上20質量%未満である。
フッ素樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマー成分を含んでいてもよい。
【0020】
フッ素樹脂(A)の融点は、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは105℃以上であり、好ましくは145℃以下、より好ましくは140℃以下である。なお、融点は、DSC測定により、窒素雰囲気下10℃/分で200℃まで昇温後1分間保持し、10℃/分で20℃まで降温後1分間保持し、再度10℃/分で200℃まで昇温した際に観測される融解ピークのピークトップ温度をいう。融解ピークが2以上観測される場合は、高温側の融解ピークのピークトップ温度を融点とする。
【0021】
[アクリル樹脂(B)]
アクリル樹脂(B)としては、特に制限はないが、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、ラウリル又はステアリル等のエステルを含むモノマー成分を重合して得られるものが挙げられる。
中でも、モノマー成分の90質量%以上がメチルメタクリレートであるモノマー成分を重合して得られるものがより好ましい。メチルメタクリレート成分を90質量%以上とすることにより、ガラスとの接着性が良好となる傾向にある。また、メチルメタクリレートと他のモノマー成分とを混合して用いる場合は、その他のモノマー成分としては、メチルアクリレ-ト、ブチルアクリレ-ト、ブチルメタクリレ-ト、イソブチルメタクリレ-ト等を好ましく用いることができる。さらに、ガラスとの接着性をより向上させるために、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸等の酸モノマーを加えてもよい。
【0022】
本発明では、フッ素樹脂(A)とアクリル樹脂(B)との相溶性がよいことが透明性や接着強度の面から好ましい。その点で、アクリル樹脂と相溶性のよいフッ化ビニリデンをモノマー成分として重合して得られるフッ素樹脂を用いることが好ましい。また、両樹脂成分に上述したような共重合成分を含有させたり、両成分の分子量を調整したりすることにより相溶性を調整することもできる。フッ素樹脂(A)の数平均分子量は40000~150000、アクリル樹脂(B)の数平均分子量は2000~50000の範囲が好適である。
【0023】
本発明の接着剤は、ガラス積層体用の接着剤として用いられる。用いる際は、ガラスに直接本発明の接着剤を塗布等して使用してもよいし、後述のフッ素樹脂シート(C)の片面又は両面に塗布等により形成して使用してもよい。ガラス積層体の加工性の点から、フッ素樹脂シート(C)の片面又は両面に、本発明の接着剤を含む層を形成して、ガラス積層体用の接着シートとして用いることが好ましい。
【0024】
[フッ素樹脂シート(C)]
本発明においては、前述したように、フッ素樹脂シート(C)の少なくとも片面、好ましくは両面に本発明の接着剤を含む層を有するシートを、ガラス積層体用の接着シートとして用いることが好ましい。このようなフッ素樹脂シートを接着シートとして用いることにより、ガラス積層体の加工性が向上し、気泡の混入の少ない外観仕上がりとなりやすく、好ましい。
【0025】
フッ素樹脂シート(C)としては、フッ素を含むものであれば特に制限はないが、モノマー成分が、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素系モノマーの単独重合体又は共重合体、上記含フッ素系モノマーに、エチレン、アルキルビニルエーテル等のビニルモノマー等が併用された共重合体、あるいはこれらの混合物からなるものが挙げられる。具体的には、テトラフルオロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド等が挙げられる。
【0026】
防火ガラスを得ようとするときは、難燃性を確保するためにフッ素の含有量が55質量%以上、好ましくは60質量%以上のフッ素樹脂シート(C)を選定することが好ましい。フッ素樹脂シート(C)として、前述の接着剤中のフッ素樹脂(A)と共通の成分、好ましくはフッ化ビニリデンを含むものを用いれば、接着剤との接着性がより高くなり好ましい。特に好ましいフッ素樹脂シート(C)としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの3元共重合体が挙げられる。この3元共重合体の好ましい共重合比は、フッ化ビニリデン20~40質量%、テトラフルオロエチレン20~60質量%、ヘキサフルオロプロピレン5~20質量%の範囲である。この共重合体のシートは、結晶性が低く透明性が良好で、柔軟で耐衝撃性に優れ、また融点が比較的低いので、ガラスとの熱融着に適している。
【0027】
フッ素樹脂シート(C)の厚さは特に制限されないが、ガラスと積層したときの耐衝撃性に及ぼす影響等を考慮すると、50~2000μmの範囲が好ましい。フッ素樹脂シート(C)の成形は一般に知られている方法によればよく、例えば、フッ素樹脂を有機溶剤に溶解して、剥離性基材の上に均一に塗布した後、有機溶剤を乾燥除去して基材から剥がしてシート化する方法、フッ素樹脂の水系ディスパージョンを剥離性の基材上に均一に塗布した後、水を乾燥する方法、あるいは、押出成形法、カレンダー成形法等の熱可塑成形によりシート化する方法等が可能である。中でも、生産性の点から、押出成形法を採用することが好ましい。
このフッ素樹脂シート(C)には、各種添加剤をフッ素樹脂シートの特性、特に透明性を損なわない範囲内で添加することができる。
【0028】
[ガラス]
ガラスとしては、特に制限はなく、従来公知のものを使用することができ、例えば、金属網をガラス板全面に亘って肉厚の略中間に埋設した網入りガラス、ガラス板をガラスの軟化点以上の温度で加熱した後冷却空気を高圧で吹き付けることにより、ガラス板の表面層に圧縮応力を付与させて強化した風冷強化ソーダ石灰ガラスや風冷強化硼珪酸ガラスが挙げられる。また、上記以外にも、SiO-Al-B系ガラスやSiO-Al-LiO系ガラスをイオン交換処理して強化した防火ガラス等も挙げられる。
これら防火ガラスは、その片面又は両面に、必要に応じて、熱線反射層、酸化防止層、防曇層等の機能層が形成されていてもよい。
このような防火ガラスは、一般に入手可能であり、例えば、日本電気硝子(株)製の「ファイアライト」等が挙げられる。
【0029】
[ガラス積層体]
本発明の接着剤を用いて、ガラスと中間膜等の他の部材と接着することにより本発明のガラス積層体を製造することができる。好ましくは、ガラス、接着剤を含む層及びフッ素樹脂シート(C)の少なくとも3層をこの順に有するガラス積層体である。
このようなガラス積層体を得るには、前述したように、ガラスの表面に本発明の接着剤を含む層(以下、「接着剤層」という場合がある。)を形成し、フッ素樹脂シート(C)と加熱圧着して融着させる方法、又はフッ素樹脂シート(C)表面に前記接着層を形成し、これをガラスに加熱圧着して融着させる方法によることが好ましい。
【0030】
接着層を形成する方法としては、特に制限はないが、前述のフッ素樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)を含む接着剤を有機溶剤に溶解させ、ガラス又はフッ素樹脂シート(C)の表面に均一に塗布してその後加熱して乾燥させ、直接被膜を形成する方法や、上記接着剤溶液をポリエチレンテレフタレート等の剥離性の基材上に均一に塗布し乾燥させ、その後フッ素樹脂シート(C)との熱融着により転写して形成する方法等が採用可能である。
なお、この接着剤溶液中には、第3成分として紫外線吸収剤、顔料、可塑剤、界面活性剤、シランカップリング剤、衝撃改良剤等を、接着性、透明性を損なわない範囲で添加することが可能である。
【0031】
フッ素樹脂シート(C)に接着剤層を形成する場合、フッ素樹脂シートの表面にしわが入るおそれがある場合は、ポリエチレンテレフタレート等の剥離性の基材をフッ素樹脂シートの背面に積層して「腰」を持たせ接着層を形成したのち、剥離性の基材を剥離させる方法が好ましく採用でき、フッ素樹脂シート(C)の形成の際に剥離性の基材を使用すれば、それがそのまま利用できる。
【0032】
フッ素樹脂シート(C)の表面に接着層を形成するにあたっては、フッ素樹脂シート(C)と接着層との接着性を向上させるため、フッ素樹脂シート(C)の表面を予めコロナ放電処理、プラズマ放電処理、ナトリウム-アンモニア処理等の方法によりエッチングあるいは酸化することもできる。
【0033】
本発明の接着剤によれば、ガラスとフッ素樹脂シート等の中間膜とを強固に、かつ透明性を維持して積層することができるため、得られる積層体は、高い信頼性が求められる防火安全ガラス等に好適に用いることができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0035】
[フッ素樹脂シート(C)の製造]
フッ化ビニリデン40質量%、テトラフルオロエチレン40質量%、ヘキサフルオロプロピレン20質量%のモノマー成分を重合して得られた共重合フッ素樹脂を押出機により押出して、厚さ500μmのフッ素樹脂シート(C)を得た。
【0036】
(実施例1)
接着剤として、フッ化ビニリデン40質量%、テトラフルオロエチレン60質量%のモノマー成分を重合して得られたフッ素樹脂(A)(融点135℃)と、メチルメタクリレ-ト95質量%、エチルメタクリレ-ト5質量%のモノマー成分を重合して得られたアクリル樹脂(B)とを質量比で70:30でブレンドし、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランを(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し1質量部配合したものを用いた。この接着剤を、酢酸ブチルとメチルイソブチルケトン(質量比75:25)の混合溶剤に溶解したものを上記フッ素樹脂シート(C)にコーターで塗布し、120℃の加熱炉で30秒間加熱して溶剤を乾燥除去し、フッ素樹脂シート(C)の片面に厚さ0.5μmの接着層を有するフッ素樹脂シートを得た。なお、105℃におけるフッ素樹脂(A)の複素弾性率は20×10Pa・sであった。
【0037】
(実施例2)
フッ素樹脂(A)として、フッ化ビニリデン40質量%、テトラフルオロエチレン40質量%及びヘキサフルオロプロピレン20質量%のモノマー成分を重合して得られたフッ素樹脂(融点112℃)を用い、アクリル樹脂(B)として、メチルメタクリレ-ト100質量%のモノマー成分を重合して得られたアクリル樹脂を用い、両者の含有割合を質量比で55:45とした以外は実施例1と同様にして、フッ素樹脂シートを得た。なお、105℃におけるフッ素樹脂(A)の複素弾性率は1.0×10Pa・sであった。
【0038】
(比較例1)
フッ素樹脂(A)として、フッ化ビニリデン61質量%、テトラフルオロエチレン24質量%、ヘキサフルオロプロピレン15質量%のモノマー成分を重合して得られたフッ素樹脂(融点89℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、フッ素樹脂シートを得た。なお、105℃におけるフッ素樹脂(A)の複素弾性率は2×10Pa・sであった。
【0039】
[フッ素樹脂シートの評価]
上記記載の実施例及び比較例で製造した各フッ素樹脂シートについて、以下のようにして、(a)接着性と(b)透明性の評価を行った。
【0040】
(a)接着性
1)試料の作製
厚さ5mm(150mm×50mm)のファイアライト(日本電気硝子(株)製、結晶化ガラス板)と、上記記載の方法で得られたフッ素樹脂シートとを、接着層がガラス面に向くように重ねて、熱プレス機で145℃、127N/cmの条件で30分間加圧・加熱を行って貼り合わせた。
【0041】
2)常態強度
上記1)記載の方法で貼り合わされたフッ素樹脂シートの表面に18mmの間隔で2本のノッチを入れて、そのノッチ間のフッ素樹脂シートをノッチ方向に平行に、23℃において180゜の角度で速度5mm/分で剥がし、その時の接着強度(N)を常態強度とした。
【0042】
3)ボイル強度
上記1)記載の方法で貼り合わされたフッ素樹脂シートの表面に18mmの間隔で2本のノッチを入れて、得られたノッチ入りフッ素樹脂シートを100℃の沸騰水中に2時間漬けて取り出し、上記2)に記載の方法と同様にして接着強度を測定し、ボイル強度とした。
【0043】
(b)透明性
上記(a)接着性の評価と同様の方法で作製したガラスとフッ素樹脂シートとの積層体の全光線透過率(波長400~700nmでの最大測定値)を測定し評価した。
【0044】
実施例及び比較例についての評価結果を、下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す結果から明らかなように、フッ素樹脂(A)の複素弾性率が0.1×10Pa・s以上の接着層を設けたガラス積層体は、ボイル強度の低下が小さいことがわかる(実施例1、2)。
一方、フッ素樹脂(A)の複素弾性率が本発明の範囲よりも低い場合は、ボイル強度の低下が大きく、接着性に劣ることがわかる(比較例1)。