(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220614BHJP
H01F 1/055 20060101ALI20220614BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220614BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220614BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220614BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20220614BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20220614BHJP
C22C 19/07 20060101ALN20220614BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/055 170
B22F3/24 K
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
C22C9/00
C22C21/00 N
C22C19/07 C
C22C28/00 B
C22C28/00 A
C22C19/07 E
(21)【出願番号】P 2018158918
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018054745
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】槙 智仁
(72)【発明者】
【氏名】三野 修嗣
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020182(WO,A1)
【文献】国際公開第01/20620(WO,A1)
【文献】特開2014-063850(JP,A)
【文献】特開2009-054716(JP,A)
【文献】特開2009-120409(JP,A)
【文献】特開2009-185391(JP,A)
【文献】特開2007-329331(JP,A)
【文献】特開2016-207985(JP,A)
【文献】特開2012-212782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む)-T(TはFeを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)-B系焼結磁石素材を用意する工程と、
R-M(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む、MはAl、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niから選ばれる1種以上)合金粉末を用意する工程と、
前記R-M合金粉末の粒子表面に平均厚さが0.5μm以上3μm以下のR-OH層を形成する工程と、
前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を前記R-T-B系焼結磁石素材の表面に塗布する工程と、
前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を塗布した前記R-T-B系焼結磁石素材に熱処理を行う工程と、
を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-OH層を形成する工程は、R-M合金粉末を温度20℃以上150℃以下、相対湿度60%以上100%以下の雰囲気にさらすことにより形成する、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータなどに用いられるR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む。TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)は家電・産業用モータ、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)の駆動用モータや電動パワーステアリング(EPS)用モータなどの製品で使用され、これらの小型化・高性能化に貢献している。これらに使用される永久磁石には高温環境下でも減磁の少ない高耐熱材料が必要とされている。耐熱性を向上させる一つの方法としては保磁力向上があり、一般にはDyやTbといった重希土類元素を添加することで保磁力を増大させ、高温での不可逆熱減磁を抑制することが行われている。しかしながら重希土類元素を多く添加すると飽和磁気分極が低下し、残留磁束密度Brの低下につながる。また重希土類元素は資源リスクの高い原料であることからその使用量を削減することが求められている。
【0003】
そこで近年、より少ない重希土類元素によってR-T-B系焼結磁石のHcJを向上させることが検討されている。例えば、重希土類元素のフッ化物または酸化物や、各種の金属MまたはM合金をそれぞれ単独、または混合して焼結磁石の表面に存在させ、その状態で熱処理することにより、保磁力上昇に寄与する重希土類元素を磁石内に拡散させることが提案されている。この手法により重希土類元素削減に加えて残留磁束密度Brの低下が抑制される。
【0004】
また、重希土類元素を含まない場合でも、例えば、Ndを含む合金を拡散させる(特許文献1及び2)ことでR-T-B系焼結磁石の粒界組織を改質し、保磁力HcJを向上させることが提案されている。
【0005】
特許文献1には、R1i-M1j(R1はY及びScを含む希土類元素、M1はAl、Si、C、P、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上、15<j≦99、iは残部。) かつ金属間化合物相を70体積%以上含む合金の粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し拡散させる方法が開示されている。特許文献2には、R-T-B系焼結磁石の表面に粘着剤を塗布し、Dy及びTbの少なくとも一方である重希土類元素の合金または化合物の粉末を付着させて熱処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-263179号公報
【文献】国際公開第2018/030187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に記載されているようなR-M合金粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し拡散させる方法について検討したところ、熱処理後の焼結体表面に高さ0.1~0.5mmの凸部が複数個発生する場合があることがわかった。さらに調べたところ、凸部はR-M合金が溶解して生じた液相とR-T-B系焼結磁石から生じた液相が混ざった組成であり、前記液相の混合物が凝固して盛り上がった金属溜りであることがわかった。金属溜りがあると後工程において加工精度が低下するため、金属溜りを取り除く工程が増加し生産性が低下する問題が発生する。
【0008】
また、R-M合金または化合物の粉末は酸化しやすく、粉末が活性であることから発熱して燃える危険性があり、R-T-B系焼結磁石の製造工程において粉末の取り扱いに注意する必要があった。
【0009】
本開示の実施形態は、磁気特性を低下させることなく金属溜りの発生を抑え、また粉末を燃えにくくして取り扱いを容易にすることを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む)-T(TはFeを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)-B系焼結磁石素材を用意する工程と、R-M(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む、MはAl、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niから選ばれる1種以上)合金粉末を用意する工程と、前記R-M合金粉末の粒子表面に平均厚さが0.5μm以上3μm以下のR-OH層を形成する工程と、前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を前記R-T-B系焼結磁石素材の表面に塗布する工程と、前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を塗布した前記R-T-B系焼結磁石素材に熱処理を行う工程とを含む。
【0011】
ある実施形態において、前記R-OH層を形成する工程は、R-M合金粉末を温度20℃以上150℃以下、相対湿度60%以上100%以下の雰囲気にさらすことにより形成する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によると、磁気特性を低下させることなく金属溜りの発生を抑えることができ、また粉末を燃えにくくして取り扱いを容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】R-M合金粉末の断面におけるR-M合金とR-OH外殻層及びR-OH外殻層の厚さを示す模式図である。
【
図2】水酸化処理したR-M合金粉末の断面図である。
【
図3】金属溜り発生頻度とR-OH層の平均厚さの関係図である。
【
図4】拡散熱処理後のR-T-B系焼結磁石の保磁力増加量ΔH
cJとR-OH層の平均厚さの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは検討の結果、R-T-B系焼結磁石素材の表面にR-M合金粉末を塗布し、熱処理をしてR及びMを焼結磁石素材内に拡散させる方法において、R-M合金粉末を湿潤雰囲気にさらすことでR-M合金粉末の粒子表面にR-OH層(水酸化膜層)を形成しておくと、金属溜りの発生を抑制できることを見出した。そして、R-OH層(水酸化膜層)の厚さを特定範囲にすることにより、磁気特性を低下させることなく金属溜りの発生を抑えることができることを見出した。また、R-OH層の形成により粉末を燃えにくくして取り扱いを容易にすることができることもわかった。
【0015】
<R-T-B系焼結磁石素材>
まず、拡散の対象となるR-T-B系焼結磁石素材を用意する。R-T-B系焼結磁石素材としては、公知の磁石素材を使用することができる。R-T-B系焼結磁石素材は、例えば以下の組成を有する。
希土類元素R:12~17原子%(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む)、
B(Bの一部はCで置換されてもよい)5~8原子%、
添加元素M´(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、及びBiからなる群から選択された少なくとも1種):0~5原子%、
T(Feを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)及び不可逆不純物:残部。
【0016】
ここで希土類元素RはNd及びPrの少なくとも一方を必ず含むが、例えば、La及びCeの少なくとも一方を含んでもよく、例えば、Dy及びTbの少なくとも一方を含んでもよい。
【0017】
上記組成のR-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造される。R-T-B系焼結磁石素材は、焼結上がりの状態でもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。R-T-B系焼結磁石素材の形状及び大きさは任意である。
【0018】
<R-M合金粉末>
次にR-M合金粉末(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む、MはAl、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niから選ばれる1種類以上)を用意する。R-M合金粉末のRはNd及びPrの少なくとも一方を必ず含むが、例えば、La及びCeの少なくとも一方を含んでもよく、例えば、Dy及びTbの少なくとも一方を含んでもよい。RはR-M合金粉末全体の25原子%以上であり、好ましくはR-M合金粉末全体の50原子%以上である。MはAl、Cu、Ga、Fe、Coから選ばれる1種類以上であることが好ましい。
【0019】
R-M合金粉末の作製方法は特に限定されない。鋳造法で作製したインゴットを粉砕してもよく、公知のアトマイズ法で作製してもよい。
【0020】
そして、前記R-M合金粉末に対し、粉末粒子表面にR-OH層を形成させる。これにより金属溜りを抑制することができる。R-OH層を形成させる方法は、R-M合金粉末を湿潤雰囲気にさらすことで行われる。R-M合金粉末の粒子表面のR成分が雰囲気中の水分と反応し、R-M合金粉末の外殻部にのみR-OH層が形成される。粉末粒子表面にR-OH層が均一に形成されていても、粉末粒子の中心部であるR-M合金の融点よりも高い温度に加熱することでR-M合金が溶解し、R-OH層を通り抜けてR-T-B系焼結磁石素材に拡散することが可能である。また、R-OH層が形成されることにより、R-M合金粉末が安定化して燃えにくくなり、R-T-B系焼結磁石の製造工程において粉末の取り扱いが容易になる。湿潤雰囲気にさらす方法は、例えば恒温恒湿槽内で温度20度以上150℃以下、相対湿度60%以上100%以下の雰囲気中に保持することで行われる。前記R-OH層を形成する工程は、例えば、前記雰囲気に2時間~200時間さらすことにより形成される。
【0021】
R-M合金粉末の粒子表面に形成されるR-OH層(R-OHの外殻層)とR-M合金粉末の粒子の中心部におけるR-M合金は、電子顕微鏡などを用いてR-M合金粉末の断面組織を観察することにより、組成差によるコントラストの違いから見分けることができる。
【0022】
図1は、R-M合金粉末の断面におけるR-OH層と中心部のR-M合金を模式的に示した図である。R-M合金1の周囲にR-OH層2が存在し、R-OH層の厚さdは、R-M合金粉末の粒子表面からの深さ方向の厚さである。R-OH層の厚さdは、温度、湿度及び保持時間によって変化し、高温、高湿、長時間であるほど厚さが増す。R-OH層の平均厚さは0.5μm以上である。平均厚さが0.5μm未満の場合、金属溜りを抑制する効果が得られない可能性がある。また、R-OH層の厚さは3μm以下である。R-OH層が厚くなりすぎると、R-OH層形成後にR-M合金からなる中心部の割合が減少し、R-T-B系焼結磁石素材に拡散する液相成分が少なくなる。そのため、R-T-B系焼結磁石素材に付着させるR-M合金粉末の総量を増やす必要が生じ効率の低下を招く。
【0023】
R-M合金粉末の粒度は、例えば500μm以下である。粒度の下限は、10μm以上が望ましい。粒度が小さすぎると、R-OH層形成後にR-M合金からなる中心部の割合が減少し、R-T-B系焼結磁石素材に拡散する液相が少なくなる。そのため、R-T-B系焼結磁石素材に付着させるR-M合金粉末の総量を増やす必要が生じ効率の低下を招く。
【0024】
<塗布工程>
前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を前記R-T-B系焼結磁石の表面に塗布する。塗布する形態はどのようなものでもよい。例えば、流動浸漬法を用いることにより、粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材に粉末状のR-M合金粉末を付着させる方法、R-M合金粉末を収容した処理容器内にR-T-B系焼結磁石素材をディッピングする方法、R-T-B系焼結磁石素材にR-M合金粉末を振りかける方法、などがあげられる。また、R-M合金粉末を収容した処理容器に振動、揺動、回転を与えたり、処理容器内でR-M合金粉末を流動させてもよい。
【0025】
使用可能な粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルビニリデン)、PVP(ポリビニルピロリドン)などがあげられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~100℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。
【0026】
R-T-B系焼結磁石の表面に粘着剤を塗布する方法は、どのようなものでもよい。塗布の具体例としては、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。
【0027】
前記R-OH層を形成したR-M合金粉末を塗布した前記R-T-B系焼結磁石に熱処理を行うことによって、R-M合金粉末中のR成分及びM成分を前記R-T-B系焼結磁石の内部に拡散させる。拡散のための熱処理温度は、R-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下(例えば1000℃以下)である。また、R-M合金粉末の融点よりも高い温度(例えば500℃以上)である。前記熱処理の後、必要に応じてさらに400℃~700℃で10分~72時間の熱処理を行ってもよい。
【0028】
<実施例>
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
まず公知の方法で、組成比Nd=13.4、B=5.8、Al=0.5、Cu=0.1、Co=1.1、残部=Fe(原子%)のR-T-B系焼結磁石を作製した。これを機械加工することにより、大きさが5mm×20mm×30mmのR-T-B系焼結磁石素材を得た。得られたR-T-B系焼結磁石素材の磁気特性をBHトレーサーによって測定したところ、HcJは1035kA/m、Brは1.45Tであった。
【0030】
次に、組成比Nd=37、Tb=33、Cu=30(原子%)のR-M合金粉末をガスアトマイズ法により作製して用意した。得られたR-M合金粉末の粒度は106μm以下であった。続いて、前記R-M合金粉末に対して恒温恒湿槽内で温度80℃、相対湿度90%の雰囲気中で20h(時間)、48h及び168hの間、ぞれぞれ保持し、R-M合金粉末に対して水酸化処理を行った。
【0031】
水酸化処理した合金粉末の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、R-OH層の厚さを測定した。
図2は、水酸化処理したR-M合金粉末の断面における反射電子像(組成コントラスト像)である。
図2の反射電子像が示すように、水酸化処理した(48h及び168h)R-M合金粉末の表面には、明るいコントラストのR-M合金を取り囲むように暗いコントラストのR-OH層が形成された。
【0032】
次にR-OH層の平均厚さを測定した。測定方法は、R-OH層の厚さを1個の粉末粒子につき20か所測定し、その平均値をR-OH層の平均厚さとした。平均厚さは、20hは0.5μm、48hは1.3μm、168hは2.3μmとなり、恒温恒湿槽内での保持時間が長時間になるほど、R-OH層の平均厚さは大きくなった。
【0033】
次に、R-T-B系焼結磁石素材にディッピング法により粘着剤としてPVAをR-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材に水酸化処理したR-M合金粉末を付着させた。処理容器にR-M合金粉末を広げ、粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材の全面に付着させた。
【0034】
拡散のための熱処理は、450℃で2時間の予備熱処理後、900℃で10時間行った。その後、更に490℃で3時間の熱処理を行った。
【0035】
熱処理完了後、目視にてR-T-B系焼結磁石素材表面における金属溜りの発生の有無を確認した。1個のR-T-B系焼結磁石素材に金属溜りが1か所でも発生した場合は有り、1か所も発生しなかった場合を無しとし、全個数に対する金属溜り有りの割合を発生頻度として求めた。
【0036】
図3に金属溜り発生頻度とR-OH層の平均厚さの関係を示す。
図3に示すように、水酸化処理を行わなかった(R-OH層の平均厚さが0μm)ときは金属溜りが100%であったのに対し、20hの水酸化処理を行った(R-OH層の厚さが0.5μm)ときは金属溜りが40%となり大幅に低減されている。さらに水酸化処理を48h(R-OH層の厚さが1.3μm)及び168h(R-OH層の厚さが2.3μm)の場合は金属溜りが発生しなかった。
【0037】
図4に未拡散のR-T-B系焼結磁石の保磁力に対する拡散熱処理後のR-T-B系焼結磁石の保磁力増加量ΔH
cJとR-OH層の平均厚さの関係を示す。水酸化処理によってR-OH層が形成されてもΔH
cJの減少は見られなかった。
【実施例2】
【0038】
実施例1と同様の方法でR-T-B系焼結磁石素材を準備した。次に、組成比Nd=46、Tb=33、Cu=21(原子%)のR-M合金粉末をガスアトマイズ法により作製して用意した。得られたR-M合金粉末の粒度は106μm以下であった。続いて、前記R-M合金粉末に対して恒温恒湿槽内で温度80℃、相対湿度90%の雰囲気中で168hの間保持し、R-M合金粉末に対して水酸化処理を行った。水酸化処理したR-M合金粉末の表面に形成されたR-OH層の平均厚さは2.3μmであった。
【0039】
次に、実施例1と同様の方法でR-T-B系焼結磁石素材にディッピング法により粘着剤としてPVAをR-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材に水酸化処理したR-M合金粉末を付着させた。処理容器にR-M合金粉末を広げ、粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材の全面に付着させた。
【0040】
拡散のための熱処理は、450℃で2時間の予備熱処理後、900℃で10時間行った。その後、さらに、490℃で3時間の熱処理を行った。
【0041】
熱処理完了後、目視にてR-T-B系焼結磁石素材表面の金属溜りの発生の有無を確認したところ、水酸化処理を行った場合は金属溜りが発生しなかった。また、水酸化処理を行ってもΔHcJの減少は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法によって得られるNd-Fe-B系焼結磁石は、家電・産業用モータ、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)の駆動用モータや電動パワーステアリング(EPS)用モータなどの製品で使用され得る。
【符号の説明】
【0043】
1・・・R-M合金、2・・・R-OH層