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特許7087848ビスフェノールの製造方法、及びポリカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法、及びポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20220614BHJP
   C07C 37/84 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 64/06 20060101ALI20220614BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20220614BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C37/84
C08G64/06
C07C39/16
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018165427
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020037530
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸恵
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-187862(JP,A)
【文献】特開2017-200913(JP,A)
【文献】特開2018-115154(JP,A)
【文献】特開2005-162675(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒及びチオールの存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させてビスフェノールを得る反応工程と、得られたビスフェノールを洗浄する洗浄工程と、ビスフェノールを析出させる晶析工程とを有するビスフェノールの製造方法において、
該洗浄工程は、ビスフェノールを含有する有機相(O1)と脱塩水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O2)と水相(W1)とに相分離し、該水相(W1)を除去して該ビスフェノールを含有する有機相(O2)を得る第1工程と、
該第1工程で得られたビスフェノールを含有する有機相(O2)と脱塩水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O3)と水相(W2)とに相分離し、該水相(W2)を除去して該ビスフェノールを含有する有機相(O3)を得る水洗を行う第2工程とを有し、
前記水相(W1)のpHが8.5以上であり、
前記第2工程は、前記水相(W2)の電気伝導度が10μS/cm以下となるように必要に応じて前記水洗を繰り返す工程であり、
該洗浄工程を経た前記有機相(O3)を前記晶析工程に供することを特徴とするビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記酸触媒が硫酸又は塩化水素である請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンである請求項1又は2に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法によりビスフェノールを製造し、次いで、前記製造したビスフェノールを用いポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルコールとアルデヒド又はケトンからビスフェノールを製造する方法と、得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。また、20倍重量のトルエンにテトラメチルビスフェノールFを溶解した溶液を1倍量の純水で抽出した際の水相の電気伝導度が25℃において10μS/cm以下であるテトラメチルビスフェノールFの製造方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-138443号公報
【文献】特開2002-187862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリカーボネート樹脂の製造では、原料のビスフェノールに対して非常に少量の触媒を使用する。そのため、原料ビスフェノールに含まれる微量の酸成分や塩基性成分がポリカーボネート樹脂を製造する重合反応に影響を与えることから、原料ビスフェノールに含まれる微量の酸成分や塩基性成分の量を管理することが重要である。また、原料ビスフェノールの色調は、得られるポリカーボネート樹脂の色調に影響を与えるため、ビスフェノールの色調についても管理する必要がある。
【0005】
本発明者らが特許文献1や特許文献2に記載の方法で2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造し、得られた2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを用いた溶融重合反応によりポリカーボネート樹脂を製造したところ、該溶融重合反応は期待通りの時間よりも長くなったり、目標の分子量にすることができなかったりするなどの問題があった。また、得られたビスフェノールの色調については、溶融色差(ハーゼン色数)が高く、これを用いて得られたポリカーボネート樹脂の色調も劣る(ペレットYIが高い)結果となった。
【0006】
このように、従来法では、ポリカーボネート樹脂の製造原料として重合反応を効率よく行うことができ、またそれ自体色調が良好で、色調の良好なポリカーボネート樹脂を製造可能なビスフェノールを得ることは容易ではなく、その改善が求められていた。
【0007】
本発明は、色調が良好で、ポリカーボネート樹脂の原料として重合反応を効率よく進行させることができ、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができるビスフェノールの製造方法と、このビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、酸触媒及びチオール助触媒を用いて製造したビスフェノールを洗浄工程と晶析工程で精製するに当たり、洗浄に用いる水相のpHと電気伝度度を制御することで、溶融色差のよいビスフェノールを製造することができ、この方法で製造されたビスフェノールを用いることで、重合時間が短く、効率のよい重合反応で、ペレットYIが低いポリカーボネート樹脂を製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[4]に存する。
【0010】
[1] 酸触媒及びチオールの存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させてビスフェノールを得る反応工程と、得られたビスフェノールを洗浄する洗浄工程と、ビスフェノールを析出させる晶析工程とを有するビスフェノールの製造方法において、該洗浄工程は、ビスフェノールを含有する有機相(O1)と脱塩水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O2)と水相(W1)とに相分離し、該水相(W1)を除去して該ビスフェノールを含有する有機相(O2)を得る第1工程と、該第1工程で得られたビスフェノールを含有する有機相(O2)と脱塩水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O3)と水相(W2)とに相分離し、該水相(W2)を除去して該ビスフェノールを含有する有機相(O3)を得る第2工程とを有し、前記水相(W1)のpHが8.5以上であり、前記水相(W2)の電気伝導度が10μS/cm以下であり、該洗浄工程を経た前記有機相(O3)を前記晶析工程に供することを特徴とするビスフェノールの製造方法。
【0011】
[2] 前記酸触媒が硫酸又は塩化水素である[1]に記載のビスフェノールの製造方法。
【0012】
[3] 前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンである[1]又は[2]に記載のビスフェノールの製造方法。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のビスフェノールの製造方法により、溶融色差の良好なビスフェノールを得ることが可能であり、得られたビスフェノールを用いて、重合時間が短く、効率のよい重合反応で、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
〔ビスフェノールの製造方法〕
まず、本発明のビスフェノールの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明のビスフェノールの製造方法は、硫酸等の酸触媒を用いると共に助触媒(反応促進剤)としてチオールを用いて、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを縮合させることによりビスフェノールを製造し(反応工程)、製造されたビスフェノールを洗浄工程と晶析工程で精製するに当たり、洗浄工程における洗浄水の水相のpHと電気伝導度を制御することを特徴とする。
【0017】
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
一般式(1)中、R~Rとしては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。R~Rとしては、例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0020】
これらのうちRとRは立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから好ましくは水素原子である。また、R~Rは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であることがより好ましく、R,Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基で、R,Rは水素原子であることがさらに好ましい。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物として、具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、ベンジルフェノール、フェニルフェノールなどが挙げられる。
【0022】
中でも、フェノール、クレゾール、およびキシレノールからなる群から選択されるいずれかであることが好ましく、クレゾールまたはキシレノールがより好ましく、クレゾールがさらに好ましい。
【0023】
[ケトン又はアルデヒド]
本発明の製造方法に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0024】
【化2】
【0025】
一般式(2)中、RとRとしては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0026】
とRは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していてもよく、RとRとが隣接する炭素原子と一緒に結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキリデン基を形成してもよい。なお、シクロアルキリデン基とは、シクロアルカンの1つの炭素原子から2個の水素原子を除去した2価の基である。
【0027】
とRとが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されるシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0028】
上記一般式(2)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。中でも、アセトンが好ましい。
【0029】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比((芳香族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドとのモル数))は、低いとケトン又はアルデヒドの自己縮合反応生成物が多く副生することから、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましい。また、該モル比が高いと、未反応の芳香族アルコールを回収するための時間を要することから、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0030】
[酸触媒]
本発明の製造方法で用いられる酸触媒としては、硫酸、塩酸、塩化水素ガス、リン酸、p-トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸などが挙げられる。
【0031】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比((酸触媒のモル数/ケトンのモル数)又は(酸触媒のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合は、縮合反応の進行とともに副生する水によって酸触媒が希釈されて反応に時間を要する。また、多い場合は、ケトン又はアルデヒドの多量化が進行する場合ある。これらのことから、縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下である。
【0032】
酸触媒は、硫酸、塩酸、及び塩化水素ガスからなる群より選ばれるいずれか1つであることが好ましく、より好ましくは硫酸及び/又は塩化水素ガスである。特に、反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないという観点から、酸触媒としては硫酸が好ましい。
【0033】
硫酸は、化学式HSOで表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈された硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば、希硫酸とは、質量濃度が90質量%未満の硫酸水溶液である。
用いる硫酸の濃度(硫酸水溶液の濃度)が低いと、水の量が多くなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しにくくなり、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい場合がある。そのため、用いる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。また、用いる硫酸の濃度の上限は、通常99.5質量%以下又は99質量%以下である。
【0034】
[チオール]
本発明においては、ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを縮合させる反応に、助触媒としてチオールを用いる。
助触媒としてチオールを用いることで、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造において、24体の生成を抑え、44体の選択率を上げる効果と共に、ポリカーボネート樹脂製造時の重合活性を高め、得られるポリカーボネート樹脂の色調を良好なものとするという効果が得られる。このポリカーボネート樹脂製造時の重合活性の向上、得られるポリカーボネート樹脂の色調の改善効果が奏される理由の詳細は明らかではないが、チオールを用いることで、ポリカーボネート樹脂を製造する重合反応に対する阻害物の生成を抑制すると共に、色調悪化物の生成を抑制することができることによると推定される。
【0035】
助触媒として用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸や、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン(デカンチオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ペンタデシルメルカプタンなどのアルキルチオールやメルカプトフェノールなどのアリールチオールなどが挙げられる。
【0036】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比((チオール助触媒のモル数/ケトンのモル数)又は(チオール助触媒のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ないとチオール助触媒を用いることによるビスフェノールの反応選択性改善の効果が得られず、多いとビスフェノールに混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン及びアルデヒドに対するチオール助触媒のモル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。また、その上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0037】
チオール助触媒は、ケトン又はアルデヒドと予め混合してから反応に供することが好ましい。チオールとケトン又はアルデヒドとの混合方法は、チオールにケトン又はアルデヒドを混合してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオールを混合してもよい。また、チオールとケトン又はアルデヒドとの混合液と、酸触媒との混合方法は、チオールとケトン又はアルデヒドとの混合液に酸触媒を混合してもよく、酸触媒にチオールとケトン又はアルデヒドとの混合液を混合してもよいが、酸触媒にチオールとケトン又はアルデヒドとの混合液を混合する方が好ましい。更に、反応槽に酸触媒と芳香族アルコールを供給した後に、チオールとケトン又はアルデヒドとの混合液を反応槽に供給して混合する方がより好ましい。
【0038】
[有機溶媒]
本発明のビスフェノールの製造方法では、生成してくるビスフェノールを溶解ないし分散させるために通常有機溶媒を使用する。
有機溶媒としては、ビスフェノールの生成反応を阻害しない範囲で特に限定されず、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる(ここで、基質となる芳香族アルコール、および、生成物であるビスフェノールは、有機溶媒から除かれる。)。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0039】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。芳香族炭化水素は、ビスフェノールの製造に使用した後、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可能である。芳香族炭化水素を再利用する場合は、沸点が低いものが好ましい。好ましい芳香族炭化水素のひとつは、トルエンである。
【0040】
脂肪族アルコールは、アルキル基とヒドロキシル基が結合したアルキルアルコールである。脂肪族アルコールは、アルキル基と1個のヒドロキシル基が結合した1価の脂肪族アルコールでもよく、アルキル基と2個以上のヒドロキシル基が結合した多価の脂肪族アルコールであってもよい。また、アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、無置換であっても、アルキル基の炭素原子の一部が酸素原子によって置換されていてもよい。
【0041】
脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなり後述の硫酸モノアルキルを生成させにくくなることから、炭素数12以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0042】
また、脂肪族アルコールは、アルキル基と1個のヒドロキシル基が結合したアルコールであることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基と1個のヒドロキシル基が結合したアルコールであることがより好ましく、炭素数1~5のアルキル基と1個のヒドロキシル基が結合したアルコールであることが更に好ましい。
【0043】
具体的な脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどを挙げることができる。好ましい脂肪族アルコールのひとつは、メタノールである。
【0044】
脂肪族炭化水素としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの炭素数5~18の直鎖状炭化水素、イソオクタンなどの炭素数5~18の分岐鎖状炭化水素、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサンなどの炭素数5~18の環状炭化水素などが挙げられる。
【0045】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比((ケトンの質量/有機溶媒の質量)又は(アルデヒドの質量/有機溶媒の質量))は、多すぎると、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとが反応しにくく、反応に長時間を要する。少なすぎると、ケトン又はアルデヒドの多量化が促進されたり、生成してくるビスフェノールが固化する場合がある。これらのことから、仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する有機溶媒の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましい。また、その上限は、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。
【0046】
生成してくるビスフェノールを有機溶媒に完全に溶解させずに分散させた方が、ビスフェノールが分解しにくい。また、反応終了後、反応液からビスフェノールを回収する際の損失(例えば、晶析時の濾液への損失)を低減できることからも、ビスフェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が低い溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香族炭化水素を主成分として含むことが好ましく、有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
【0047】
また、酸触媒が硫酸を含む場合、有機溶媒が脂肪族アルコールを含むことで、硫酸と脂肪族アルコールが反応して硫酸モノアルキルが生成し、この硫酸モノアルキルによっても触媒作用を得ることができるという効果が得られる。このため、酸触媒が硫酸を含む場合、有機溶媒は、脂肪族アルコールを含む有機溶媒であることが好ましい。また、脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなり硫酸モノアルキルを生成させにくくなることから、炭素数が8以下のアルキルアルコールが好ましい。
このように、硫酸と脂肪族アルコールを反応させ、硫酸モノアルキルを生成させることにより、酸触媒の酸強度を制御し、原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色を抑制することができる。このため、副生成物の生成が抑制され、かつ、着色が低減されたビスフェノールを簡便かつ効率よく製造することが可能となる。
【0048】
硫酸と脂肪族アルコールとを反応させ、硫酸モノアルキルを生成させ、その触媒作用も利用する場合、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比(脂肪族アルコールのモル数/硫酸のモル数)が少ないと原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色が顕著となる。一方、多いと硫酸濃度が低下し、反応が遅くなる。これらのことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0049】
以上のことから、有機溶媒は、例えば芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを含むものとすることができ、有機溶媒中に芳香族炭化水素を1~95質量%含み、脂肪族アルコールを0.1~10質量%含むものとすることができる。
【0050】
[ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとの縮合反応]
本発明のビスフェノールの製造方法では、以下に示す反応式(3)に従って、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合により、以下の一般式(4)で表されるビスフェノールが製造される。
【0051】
【化3】
(式中、R~Rは、一般式(1)及び(2)におけるものと同義である。)
【0052】
【化4】
(式中、R~Rは、一般式(1)及び(2)におけるものと同義である。)
【0053】
上記一般式(4)で表されるビスフェノールとして、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0054】
この中でも、本発明のビスフェノールの製造方法は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンの製造に好適であり、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)の製造に好適である。
【0055】
反応液の調製方法は、特に限定されず、芳香族アルコール、有機溶媒、ケトン又はアルデヒドとを混合した混合液に、酸触媒を供給する方法や、酸触媒、芳香族アルコール、有機溶媒とを混合した混合液に、ケトン又はアルデヒドを供給する方法が挙げられる。
【0056】
ケトン又はアルデヒドの自己縮合による多量化を抑制するためには、芳香族アルコール、酸触媒および有機溶媒を含有する溶液とケトン又はアルデヒドを含有する溶液とを混合することが好ましい。この場合、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液は、ケトン又はアルデヒド単独でもよいが、チオールや有機溶媒を含んでもよい。ケトン又はアルデヒドを含有する溶液は、チオールを含有することが好ましい。
【0057】
本発明のビスフェノールの製造方法において、ビスフェノールの生成反応は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合反応である。縮合反応の反応温度は、高温の場合ケトン又はアルデヒドの多量化が進行しやすく、低温の場合は反応に要する時間が長時間化する。これらのことから、反応温度の下限は、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-20℃以上、更に好ましくは-15℃以上である。また、反応温度の上限は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0058】
本発明のビスフェノールの製造方法において、縮合反応の反応時間は、製造するビスフェノールの種類や反応温度等の反応条件により適宜調整される。反応時間が長い場合、生成したビスフェノールが分解することから、好ましくは30時間以下、より好ましくは25時間以下、更に好ましくは20時間以下である。また、反応時間の下限は、通常0.5時間以上であり、1時間以上であってもよい。
なお、反応時間は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの混合時間も含むものである。例えば、芳香族アルコールと酸触媒とを混合した混合溶液に、ケトン又はアルデヒドを1時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は2時間である。
また、反応は、用いる酸触媒と同等量以上の水や塩基を加えて酸触媒濃度を低下させることで停止させることが可能である。
【0059】
[精製工程]
本発明のビスフェノールの製造方法において、縮合反応によって得られた前記ビスフェノールは、洗浄工程で洗浄した後、晶析工程で析出させて精製する。
即ち、縮合反応後、反応液から得られたビスフェノールを含有する有機相を脱塩水で洗浄し、洗浄後の有機相を冷却して晶析させる。洗浄は以下の通り複数回行う。晶析についても複数回行ってもよい。
また、縮合反応に芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留により余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させてもよい。
なお、通常、本発明に係る精製工程に先立ち、後述の粗精製工程を行って反応により得られたビスフェノールを粗精製し、粗精製ビスフェノールを本発明に係る精製工程に供する。
【0060】
<洗浄工程>
本発明に係る洗浄工程では、反応工程から得られたビスフェノール、好ましくは後述の粗精製工程を経たビスフェノールを含有する有機相(O1)と脱塩水を混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O2)と水相(W1)とに相分離させ、水相(W1)を除去し、ビスフェノールを含有する有機相(O2)を得る第1工程(第1水洗工程)と、第1工程で得られたビスフェノールを含有する有機相(O2)と脱塩水を混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(O3)と水相(W2)とに相分離させ、水相(W2)を除去し、ビスフェノールを含有する有機相(O3)を得る第2工程(第2水洗工程)とを少なくとも行い、水相(W1)のpHが8.5以上となるように第1工程を行い、水相(W2)の電気伝導度が10μS/cmとなるように第2工程を行う。
ここで、脱塩水とは、イオン交換処理した水、純水等の電気伝導度2μS/cm以下の水である。
【0061】
第1工程における水相(W1)のpHの測定条件については以下の通りである。
通常、洗浄工程でビスフェノールを含有する有機相を洗浄した後、晶析工程で温度を下げてビスフェノールを析出させることから、洗浄時の温度は室温(20~30℃)以上である。温度によってpHは変化することから、その測定温度は、室温(20~30℃)が好ましく、例えば25℃が好ましい。また、pHは、洗浄槽内で油水混合時に測定してもよく、洗浄槽内で油水混合後に静置分離して得られた水相について測定してもよく、洗浄後に洗浄槽から抜き出した水相について測定してもよいが、測定温度を下げやすい観点より、洗浄、静置分離後に洗浄槽から抜き出した水相のpHを測定することが好ましい。
【0062】
水相のpHが7よりも低い場合、水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどの塩基物質を用いて洗浄を行い、再び水洗を行うことができる。塩基性物質を用いて洗浄を行った後に得られた有機相について、再び水洗を行い、その水相のpHが8.5以上となるようにする。ここで、水相(W1)の塩基性が弱い(pHが低い)と洗浄効果が低く、本発明の効果を得ることができないことから、pH8.5以上、好ましくは9以上とする。一方で、水相(W1)の塩基性が強い(pHが高い)と、ビスフェノールがビスフェノール塩となり、水洗でのロス量が増加することから、水相(W1)のpHの上限は通常14以下であり、13以下が好ましく、12以下がより好ましい。
【0063】
第2工程における水相(W2)の電気伝導度の測定については以下の通りである。
電気伝導度は、測定温度によって変化することから、pHの測定時と同様、その測定温度は、室温(20~30℃)が好ましく、例えば25℃が好ましい。また、電気伝導度は、洗浄槽内で油水混合時に測定してもよく、洗浄槽内で油水混合後に静置分離して得られた水相について測定してもよく、洗浄後に洗浄槽から抜き出した水相について測定してもよいが、測定温度を下げやすい観点より、洗浄、静置分離後に洗浄槽から抜き出した水相の電気伝導度を測定することが好ましい。
第2工程における水相(W2)の電気伝導度は10μS/cm以下となるように洗浄を行うが、第2工程における水相(W2)の電気伝導度は好ましくは9μS/cm以下であり、より好ましくは8μS/cm以下である。
【0064】
本発明のビスフェノールの製造方法において、洗浄工程ではビスフェノールを含む有機相の水洗で、まず得られた水相のpHがpH8.5以上の塩基性となり、その後必要に応じて水洗を繰り返すことで、得られた水相の電気伝導度が10μS/cm以下となったところで、晶析工程に供することが好ましい。
【0065】
第1水洗工程の水相(W1)のpHが上記下限以上となり、第2水洗工程の水相(W2)の電気伝導度が上記上限以下となるように脱塩水による洗浄を行うことで、生成ビスフェノール中の副生成物や残留触媒、残留チオール等の不純物を高度に除去して、色相が良好であり、ポリカーボネート樹脂の原料ビスフェノールとして用いた場合、重合反応効率が高く、色相に優れたポリカーボネート樹脂を製造することができるビスフェノールを得ることができる。特に、助触媒としてチオールを用いる縮合反応では、チオールから酸性のチオニウムが生成し、これがビスフェノールに含まれて、ポリカーボネート樹脂製造時の重合反応を阻害するが、本発明に従って、水相(W1)のpHと水相(W2)の電気伝導度を管理した洗浄工程を行うことで、チオニウムを効率的に除去し、チオニウムによる重合阻害を防止することができる。
【0066】
なお、この洗浄工程に供する有機相(O1)は、ビスフェノール濃度が5~70質量%、特に10~60質量%程度となるように有機溶媒に溶解ないし分散させたものであることが好ましい。有機相(O1)のビスフェノール濃度が上記下限以上であればビスフェノールの回収効率を損なうことがなく、また、上記上限以下であれば洗浄効率を高めることができる。ここで、用いる有機溶媒としては、縮合反応に用いる反応溶媒と同様のものを用いることができ、好ましくはトルエンである。
【0067】
また、1回の水洗操作に用いる脱塩水の量は、水洗に供する有機相に対して0.001~100質量倍、特に0.01~10質量倍とすることが、洗浄効率、作業効率の観点から好ましい。
【0068】
洗浄工程における温度は、溶媒を蒸発させることなく後述の晶析工程で冷却することでビスフェノールを効率的に析出させることができるように、90~50℃、特に85~55℃であることが好ましい。また、1回の洗浄時間(有機相に脱塩水を加えて混合する時間)は通常1~120分程度である。
【0069】
<晶析工程>
前述の洗浄工程で得られた有機相(O3)は、主としてビスフェノールと有機溶媒とからなるものであり、晶析工程で冷却することで高純度の精製ビスフェノールを析出させることができる。
【0070】
この晶析工程における冷却温度は、洗浄工程から得られる有機相(O3)の温度より10~120℃低く、40~-20℃、特に30~-10℃程度とすることが好ましい。洗浄後の有機相(O3)をこのような温度に冷却することでビスフェノールを効率よく析出させることができる。
【0071】
晶析工程で析出させたビスフェノールは、濾過、遠心分離、デカンテーション等より固液分離することで回収することができる。
【0072】
なお、回収したビスフェノールを再度有機溶媒に溶解させて析出させる晶析工程を複数回行ってもよいが、本発明では、前述の洗浄工程において、ビスフェノールを高度に精製することができることから、通常晶析工程は1回の晶析操作でよい場合が多い。
【0073】
晶析工程で析出させ、固液分離して回収したビスフェノールは、必要に応じて加熱、減圧、風乾などにより脱溶媒処理を行い、実質的に溶媒を含まないビスフェノールを得てもよい。
また、取り扱い性向上のために粉砕、分級などを行って粉体性状を制御してもよい。
【0074】
[粗精製工程]
上記の精製工程に先立ち、本発明のビスフェノールの製造方法では、縮合反応により生成したビスフェノールを含む反応液をアルカリで中和するなどして酸触媒を除去する酸触媒の除去工程、酸触媒の除去後、ビスフェノールを濃縮する濃縮工程、濃縮させたビスフェノールに有機溶媒を加えて洗浄に供する有機相(O1)とする有機相調整工程などを行ってもよい。ここで用いる有機溶媒としては、縮合反応に用いる反応溶媒と同様のものを用いることができ、洗浄工程に供する有機相(O1)のビスフェノール濃度は5~70質量%、特に10~60質量%程度であることが好ましい。有機相(O1)のビスフェノール濃度が上記下限以上であればビスフェノールの回収効率を損なうことがなく、また、上記上限以下であれば洗浄効率を高めることができる。
【0075】
[ビスフェノールの用途]
本発明のビスフェノールの製造方法により得られるビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」と称する場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0076】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることから、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0077】
〔ポリカーボネート樹脂の製造方法〕
次に、本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。
【0078】
本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造する方法である。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料としたポリカーボネート樹脂の製造方法の一例を説明する。
【0079】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上である。また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0080】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0081】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0082】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられるエステル交換触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、更に好ましくは0.10μモル以上である。また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、更に好ましくは20μモル以下である。
【0083】
エステル交換触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0084】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、エステル交換触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0085】
本発明のビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造において、重合反応温度は80~400℃、特に150~350℃とすることが好ましい。また、重合時間は、原料の比率や、所望とするポリカーボネート樹脂の分子量等によって適宜調整されるが、重合時間が長いと色調悪化などの品質悪化が顕在化するため、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましい。重合時間の下限は、通常0.1時間以上、或いは0.3時間以上である。
【0086】
本発明のビスフェノールは、重合活性に優れるため、分子量の大きなポリカーボネート樹脂を効率的に製造することができる。また、本発明のビスフェノールは色相が良好であるため、透明性に優れたポリカーボネート樹脂を製造することができる。例えば、粘度平均分子量(Mv)10,000~100,000で、ペレットYI20以下の透明性に優れたポリカーボネート樹脂を短時間で製造することができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0088】
[原料及び試薬]
以下の実施例および比較例において、オルトクレゾール、トルエン、水酸化ナトリウム、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、アセトン、炭酸水素ナトリウム、エチルメルカプタン、及び炭酸セシウムは、富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
塩化水素ガスは、住友精化株式会社の製品を使用した。
【0089】
[分析・測定]
<クレゾールとビスフェノールCの定量分析>
クレゾールとビスフェノールCの定量分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC-2010A
Imtakt ScherzoSM-C18 3μm 150mm×4.6mmID
分析温度:40℃
溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1mL:1mLの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
低圧グラジェント法:
分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化させ、
分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持
流速0.8mL/分
検出波長:280nm
【0090】
<pHの測定>
pHの測定は、株式会社堀場製作所製pH計pH METER ES-73を用いて、フラスコから取り出した25℃の水相に対して実施した。
【0091】
<電気伝導度>
電気伝導度の測定は、株式会社堀場製作所製電気伝導度計COND METER D-71を用いて、フラスコから取り出した25℃の水相に対して実施した。
【0092】
<ビスフェノールCの溶融色差>
ビスフェノールCの溶融色差は、日電理化硝子社製試験管P-24(24mmφ×200mm)にビスフェノールCを20g入れ、190℃で30分間溶融させ、日本電色工業社製SE6000を用い、そのハーゼン色数を測定した。このハーゼン色数は50以下であることが好ましい。
【0093】
<粘度平均分子量(Mv)>
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.8
【0094】
<ペレットYI>
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。
シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。
YIは、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。このペレットYIは20以下であることが好ましい。
【0095】
[実施例1]
(1)第1の混合液の調製
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン320g、メタノール12g、オルトクレゾール230g(2.13モル)を入れ、内温を10℃以下とした。その後、撹拌しながら98質量%硫酸95gを0.3時間かけてゆっくり加えた後、5℃以下まで冷やした。
【0096】
(2)第2の混合液の調製
500mLの三角フラスコに、トルエン50g、アセトン65g(1.12モル)、ドデカンチオール5.4gを混合し、第2の混合液(滴下液)を調製した。
【0097】
(3)反応液の調製
第1の混合液の内温を5℃以下にした後、前記滴下ロートを用いて第2の混合液を、前記内温が10℃以上にならないように、1時間かけて供給し、反応液を調製した。
【0098】
(4)反応
内温10℃で、調製した反応液を2.5時間撹拌した。
【0099】
(5)粗精製
反応終了後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液190gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置し、下層の水相を抜き出した。得られた第1の有機相に脱塩水400gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去した。得られた第2の有機相に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。得られた第3の有機相に更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。得られた第4の有機相を抜出し、その質量を測定したところ、666gであった。
【0100】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが5.8質量%(5.8質量%×有機相の質量666g÷オルトクレゾールの分子量108g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=16.8モル%)、ビスフェノールCが31.4質量%(31.4質量%×有機相の質量666g×2÷ビスフェノールCの分子量256g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=76.7モル%)生成していた。
【0101】
(6)精製
得られた第4の有機相を80℃から20℃まで冷却して、20℃で維持させ、ビスフェノールCを析出させた。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキを得た。
【0102】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1リットルのセパラブルフラスコに、前記粗ビスフェノールC211g全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、第5の有機相(有機相(O1))を得た。得られた第5の有機相(O1)に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第1の水相(W1))を除去した。なお、第1の水相(W1)のpHは、9.7であった。第1の水相(W1)を除去して得られた第6の有機相(有機相(O2))に、脱塩水200gを加え、30分混合した後静置し、下層の水相(第2の水相)を除去した。下層を除去して得られた第7の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合した後静置し、下層の水相(第3の水相(W2))を除去した。なお、第3の水相(W2)の電気伝導度は、1.7μS/cmであった。
【0103】
第3の水相(W2)を除去して得られた第8の有機相(O3)を、80℃から10℃まで冷却してビスフェノールCを析出させた。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットの精製ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC 193gを得た。
【0104】
得られたビスフェノールCの溶融色差:ハーゼン色数APHAは21であった。
【0105】
(6)重合
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、前記ビスフェノールC100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶融した。
【0106】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0107】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は170分であった。
【0108】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネート樹脂をストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は24800であり、ペレットYIは7.4であった。
【0109】
[比較例1]
実施例1において、ドデカンチオール5.4gの供給を省略した以外は、実施例1の(1)~(4)と同様に実施した。
【0110】
(5)粗精製
反応収量後、25%水酸化ナトリウム水溶液190gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置し、下層の水相を抜き出した。得られた第1の有機相に脱塩水400gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去した。得られた第2の有機相に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。得られた第3の有機相に更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。得られた第4の有機相を抜出し、その質量を測定したところ、659gであった。
【0111】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが10.2質量%(10.2質量%×有機相の質量659g÷オルトクレゾールの分子量108g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=29.6モル%)、ビスフェノールCが21.3質量%(21.3質量%×有機相の質量659g×2÷ビスフェノールCの分子量256g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=52.2モル%)生成していた。
【0112】
(6)精製
得られた第4の有機相を80℃から20℃まで冷却して、20℃で維持させ、ビスフェノールCを析出させた。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキを得た。
【0113】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1リットルのセパラブルフラスコに、前記粗ビスフェノールC152g全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、第5の有機相(有機相(O1))を得た。得られた第5の有機相(O1)に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第1の水相(W1))を除去した。なお、第1の水相(W1)のpHは、9.7であった。第1の水相(W1)を除去して得られた第6の有機相(有機相(O2))に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第2の水相)を除去した。下層を除去して得られた第7の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第3の水相(W2))を除去した。なお、第3の水相(W2)の電気伝導度は、3.7μS/cmであった。
【0114】
第3の水相(W2)を除去して得られた第8の有機相(O3)を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットの精製ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC 127gを得た。
【0115】
得られたビスフェノールCの溶融色差:ハーゼン色数APHAは134であった。
【0116】
(6)重合
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、前記ビスフェノールC100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶融した。
【0117】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0118】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了しようとしたが、280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)が240分間となっても所定の撹拌動力まで上がらなかったことから、断念した。次に反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は琥珀色をしていた。
【0119】
実施例1及び比較例1について、ビスフェノールの製造する反応におけるチオールの使用の有無、第3の水相(W2)の電気伝導度、得られたビスフェノールCの量、所定の撹拌動力の到達可否、得られたビスフェノールCの溶融色差、ポリカーボネート樹脂の製造方法の色調を以下の表1に纏めた。
【0120】
この結果より、ビスフェノールを製造する縮合反応にチオールをしなかった場合、得られるビスフェノールCの量が少なく、その色調(溶融色差)も悪化し、第3の水相(W2)の電気伝導度を10μS/cm以下に下げても、ポリカーボネート樹脂の重合反応で所定の撹拌動力まで到達できず(重合活性が低い)、得られたポリカーボネート樹脂の色調も悪化することが分かる。
一方、チオールを使用した場合、得られるビスフェノールCの量は多くなり、その色調(溶融色差)も改善され、第3の水相(W2)の電気電導度を10μS/cm以下に下げることで、所定のトルクまでの撹拌動力の到達が可能となり、目標の分子量を有し、色調が良好なポリカーボネート樹脂が得られることが分かる。
これらの結果より、ビスフェノール製造の縮合反応系にチオールを供給することで、ビスフェノールを製造する縮合反応において、ポリカーボネート樹脂を製造する重合反応に対する阻害物の生成を抑制すると共に、色調悪化物の生成を抑制することができると推定される。
【0121】
【表1】
【0122】
[実施例2]
実施例1において、第5~7の有機相に供給する脱塩水200gを、それぞれ100gに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
その結果、第1の水相(W1)のpHは、10.1であった。また、第3の水相(W2)の電気伝導度は、6.2μS/cmであった。
更に得られたビスフェノールCの溶融色差:ハーゼン色数APHAは25であった。
また、得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は24700であり、ペレットYIは10.6であった。
【0123】
[比較例2]
実施例1において、(5)粗精製における2回の1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gの洗浄を省略した以外は、実施例1と同様に実施した。
その結果、第1の水相(W1)のpHは、3.4であった。また、第3の水相(W2)の電気伝導度は、5.2μS/cmであった。
更に得られたビスフェノールCの溶融色差:ハーゼン色数APHAは65であった。
また、得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は23700であり、ペレットYIは33.2であった。
【0124】
実施例1、2及び比較例2について、第1の水相(W1)のpH、第3の水相(W2)の電気伝導度、得られたビスフェノールCの溶融色差、得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)、ペレットYIについて、以下の表2に纏めた。
【0125】
表2より、第1の水相(W1)のpHが8.5以上(塩基性)であり、第3の水相(W2)の電気伝導度が10μS/cm以下の時、ビスフェノールCの溶融色差が良好で、同一の重合時間で得られるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)が高く、重合時間は短く(重合活性がよい)、ペレットYIも低くなることが分かる。
比較例2では、チオールを用いても、第1の水相(W1)のpHが低いため(酸性)、チオールがチオニウム(酸性物質)となり、重合が阻害されていると推定される。
【0126】
【表2】
【0127】
[比較例3]
実施例1において、得られた第7の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第3の水相)を除去する操作を省略し、第7の有機相を用いて80℃から10℃まで冷却したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果、第1の水相(W1)のpHは、9.5であった。また、第2の水相(W2)の電気伝導度は、22.1μS/cmであった。更に得られたビスフェノールCの溶融色差:ハーゼン色数APHAは30であった。
また、得られたビスフェノールCを用いて実施例1と同様に重合反応を実施したが、重合が進行せず、ポリカーボネート樹脂を得られなかった。
この結果より、第1の水相(W1)のpHが9.5と塩基性であっても、第2の水相(W2)の電気伝導度が22.1μS/cmではポリカーボネート樹脂製造原料として重合活性が得られないことが分かる。
【0128】
[実施例3]
(1)混合液の調製
塩化水素吹き込み管、温度計、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でオルトクレゾール620g(5.7モル)、アセトン55g(0.9モル)及びエチルメルカプタン25gを入れ、内温を30℃にし、混合液を調製した。
【0129】
(2)反応
前記混合液に、塩化水素ガスをバブリングさせて、12時間反応させて反応液を得た。
【0130】
(3)未反応のオルトクレゾール留去
前記反応液を、2Lのフラスコに移し、減圧下、加熱して、反応液から未反応のオルトクレゾールを留去し、残渣を得た。
【0131】
(4)粗精製
得られた残渣にトルエン400g加え、温度計、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し替えた。内温を80℃まで昇温し、得られた第1の有機相に脱塩水400gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去した。得られた第2の有機相に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。得られた第3の有機相に更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下層を抜き出した。
【0132】
(6)精製
得られた第4の有機相を80℃から20℃まで冷却して、20℃で維持させ、ビスフェノールCを析出させた。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキを得た。
【0133】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1リットルのセパラブルフラスコに、前記粗ビスフェノールC156g全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、第5の有機相(有機相(O1))を得た。得られた第5の有機相(O1)に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第1の水相(W1))を除去した。なお、第1の水相(W1)のpHは、9.1であった。第1の水相(W1)を除去して得られた第6の有機相(O2)に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第2の水相)を除去した。得られた第7の有機相(有機相(O3))に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下層の水相(第3の水相(W2))を除去した。なお、第3の水相(W2)の電気伝導度は、0.8μS/cmであった。
【0134】
第3の水相(W2)を除去して得られた第8の有機相(O3)を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットの精製ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC 126gを得た。
【0135】
(6)重合
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、前記ビスフェノールC100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶融した。
【0136】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0137】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は165分であった。
【0138】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネート樹脂をストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は25800であり、ペレットYIは6.3であった。
【0139】
[比較例4]
実施例3において、(5)粗精製の2回の1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gの洗浄を省略した以外は、実施例3と同様に実施した。
その結果、第1の水相(W1)のpHは、4.5であった。また、第3の水相(W2)の電気伝導度は、15.7μS/cmであった。
また、得られたビスフェノールCを用いて実施例3と同様に重合反応を実施したが、重合は進行せず、ポリカーボネート樹脂は得られなかった。
【0140】
実施例1、3及び比較例4について、ビスフェノールCを製造する触媒、第1の水相(W1)のpH、第3の水相(W2)の電気伝導度、得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)、ペレットYIについて、以下の表3に纏めた。
【0141】
表3より、ビスフェノールを製造する縮合反応の触媒に塩化水素を用いた場合でも、第1の水相(W1)のpHが8.5以上(塩基性)であり、第3の水相(W2)の電気伝導度が10μS/cm以下の時、ポリカーボネート樹脂製造の重合時間は短く(重合活性がよい)、ペレットYIも小さくなることが分かる。
【0142】
【表3】