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特許7087860粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法、並びに、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法
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  • 特許-粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法、並びに、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法 図1
  • 特許-粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法、並びに、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法 図2
  • 特許-粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法、並びに、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法、並びに、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20220614BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
G01N15/02 B
G01N1/28 V
G01N1/28 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018169574
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020041908
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 大河
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-203118(JP,A)
【文献】特開平07-294412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/02
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属元素の水酸化物粒子を含む粉体の粒度分布および/または粒子形状を、画像解析法により測定する際に用いられる測定用試料の作製方法であって、
測定対象粉体の粒子径測定を行い、前記測定対象粉体に含まれる粒子の最大粒子径をrmax(μm)としたとき、
1.5r max (μm)以上、3.0r max (μm)以下の目開きを有する網を選択して、前記画像解析法を用いた粒度分布測定に用いる装置の測定用プレート上に設置し、
前記測定用プレート上に設置された網上へ前記測定対象粉体を載せ、
前記測定対象粉体を、前記網の開孔部を介して落下させることにより、前記測定用プレート上に前記測定対象粉体を分散させることを特徴とする、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法。
【請求項2】
前記測定対象粉体の粒子径測定を、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定することを特徴とする、請求項1に記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法。
【請求項3】
前記網として篩を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法にて作製された測定用試料を用い、画像解析法により測定対象粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定を行うことを特徴とする、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定に用いる測定用試料の作製方法、並びに、作製された当該測定用試料を用いた、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法に係る。
【背景技術】
【0002】
粉体の物理的特性の把握を目的として、粒度分布測定装置は広く用いられている。中でも、測定対象粉体の粒子形状を測定、評価することも可能な、画像解析法を用いた乾式粒度分布計が広く用いられている。
当該画像解析法を用いた乾式粒度分布計においては、当該乾式粒度分布計に装備された測定用プレート(本発明において、単に「測定用プレート」と記載する場合がある。)上に存在する測定対象粉体の粒子を専用のCCDカメラで撮影し、撮影画像から粒子の大きさや数、粒子形状を測定するという測定フローにより画像解析を実施する。従って、測定用プレート上に存在する測定対象粉体の粒子には、均一、且つ粒子同士の重なりがない様、十分に分散していることが望まれる。
【0003】
上述の要請を満足する為、従来の技術において、所定の分散チャンバーを用い、当該チャンバー上に、例えばフィルムを介して測定対象粉体を貯留しておく。一方、当該チャンバー内の底部には測定用プレートを載置する。そして、当該チャンバー内部を減圧することによって、当該チャンバーの内外に、チャンバー内部を低圧側とする気圧差を設定する方法がある。
そして、前記フィルムが減圧により破れることで、当該チャンバー上に貯留された測定対象粉体を、気圧差によりチャンバー内に飛散させる。この結果、当該チャンバー内に飛散した測定対象粉体の粒子は、前記載置された測定用プレート上に、均一、且つ粒子同士の重なりなく分散することを目論むものである。
【0004】
以上説明した、気圧差を用いた粒子の減圧分散の他にも、例えば、特許文献1には、粒子を液体溶媒に分散させ、スラリー状にしたものを測定用プレート上に塗布して、測定対象粉体の粒子を測定用プレート上に、均一、且つ粒子同士の重なりなく分散する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-080883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、例えばアルカリ金属元素の水酸化物のように脆性の高い粒子を含む粉体を測定対象粉体とし、上述した気圧差を用いる粒子の減圧分散方法を適用した場合、粒子の破砕が生じてしまうことを知見した。
一方、当該アルカリ金属元素の水酸化物のように水等の溶媒に対する溶解性の高い粒子の場合は、当該測定対象粉体を液体溶媒に分散させ、スラリー状にしたものを測定用プレート上に塗布する方法も適応が困難であった。
【0007】
本発明は、上述の状況の下で為されたもので、その解決しようとする課題は、脆性が高く、溶解性も高い粒子を含む粉体であっても、当該粒子の破砕を生じることなく、均一、且つ粒子同士の重なりなく測定用プレート上に分散させる、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定に用いる測定用試料の作製方法、並びに、作製された当該測定用試料を用いた、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の課題を解決するため研究を行った。
そして、測定対象粉体に含まれる粒子の最大粒子径(本発明において「rmax」と記載する場合がある。また、本発明において単位は(μm)を用いている。)を超える目開き(開孔部)を有する網を選択し、当該選択された網を測定用プレート上に設置する。
そして、前記測定用プレート上に設置された網上へ前記測定対象粉体を載せ、前記測定対象粉体に含まれる粒子を、前記開孔部を介して前記測定用プレート上に分散させることで、粒子の破砕を生じさせることなく、均一、且つ粒子同士の重なりなく分散させることが出来るとの画期的な知見を得て、本発明を完成した。
尚、測定対象粉体に含まれる粒子における最大粒子径は、あらかじめ、適宜な方法により測定対象粉体の粒度分布測定を行って、把握しておけば良い。
【0009】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
粉体の粒度分布および/または粒子形状を、画像解析法により測定する際に用いられる測定用試料の作製方法であって、
測定対象粉体の粒子径測定を行い、前記測定対象粉体に含まれる粒子の最大粒子径をrmax(μm)としたとき、
max(μm)を超える目開きを有する網を選択して、前記画像解析法を用いた粒度分布測定に用いる装置の測定用プレート上に設置し、
前記測定用プレート上に設置された網上へ前記測定対象粉体を載せ、
前記測定対象粉体を、前記網の開孔部を介して落下させることにより、前記測定用プレート上に前記測定対象粉体を分散させることを特徴とする、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法である。
第2の発明は、
前記網の選択の際、1.5rmax(μm)以上、3.0rmax(μm)以下の目開きを有する網を選択することを特徴とする、第1の発明に記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法である。
第3の発明は、
前記測定対象粉体の粒子径測定を、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定することを特徴とする、第1または第2の発明に記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状測の測定用試料の作製方法である。
第4の発明は、
前記網として篩を用いることを特徴とする、第1から第3の発明のいずれかに記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法である。
第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法にて作製された測定用試料を用い、画像解析法により測定対象粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定を行うことを特徴とする、粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定用試料の作製方法によれば、測定対象粉体の粒子を、粒子の破砕を生じることなく、均一で、且つ粒子同士の重なりなく測定用プレート上に分散させることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る粒度分布および/または粒子形状測定方法の操作フロー図である。
図2】本発明に係る網と測定対象粉体に含まれる粒子との関係を示す模式図である。
図3】測定対象粉体の粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について、図1に示す作業フローを参照しながら説明する。
【0013】
1.測定対象粉体に含まれる粒子の最大粒子径の把握
本発明においては、後述する網の選択に備えて、あらかじめ測定対象粉体に含まれる粒子の粒度分布を把握し、当該測定対象粉体に含まれる粒子のrmax(μm)を把握する。
【0014】
測定対象粉体に含まれる粒子のrmax(μm)を把握する方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択すれば良い。
本発明の適用対象となる測定対象粉体は、脆性が高く、溶解性も高い粒子である場合があるので、当該粒子のrmax(μm)測定方法としては、公知の乾式の分散手段を用いたレーザー回折・散乱法、篩分け法による乾式粒度分布測定等を、好ましく用いることが出来る。
これら従来の技術に係る測定方法によれば、測定対象粉体に含まれる粒子の脆性が高い場合、当該粒子が破砕され、その粒度分布が変化してしまうことが考えられる。しかし、本発明のこの段階においては、測定対象粉体に含まれる粒子の最大粒子径rmax(μm)を把握することが目的なので、測定対象粉体の粒子の一部が破砕されていても、当該目的は達成出来る。
【0015】
2.メッシュの選択
測定対象粉体に粒子の破砕を生じることなく、均一、且つ、粒子同士の重なりなく測定用プレート上に、測定対象粉体の粒子を分散させる為、本発明においては所定の目開き(開孔部)を有する網を用いる。
当該網におけるメッシュの選択について図2を参照しながら説明する。
当該図2において、粒子が破砕されなかった場合は、測定対象粉体における最大粒子径を有する粒子10のrmax(μm)は、粒子径11のことである。粒子が破砕された場合は、測定対象粉体における最大粒子径を有する粒子10のrmax(μm)は、粒子径11とは一致せずに小さくなり、実粒子径rrmaxが粒子径11となる。一方、メッシュを構成する線材21は、開孔部22を形成するが、本発明においては目開きの大きさを示す単位にμmを用い、当該開孔部における目開きの大きさを「R(μm)」符号23で示す。
【0016】
当該メッシュの選択においては、通常の篩の選択とは異なり、rmax(μm)を超える目開きR(μm)を有する網を選択する。そして、当該網の目開きは1.5rmax(μm)≦R(μm)≦3.0rmax(μm)であることが好ましく、1.5rmax(μm)≦R(μm)≦2.0rmax(μm)であることがさらに好ましい。
網の目開きが1.5rmax以上であれば、特に粒子の脆性が高い場合、測定されたrmaxに対して、破砕されていない粒子の長径(実粒子径)rrmaxが大きくても開孔部を通過することが出来る。網の目開きが3.0rmax以下であれば、粒子は均一に分散することが出来る。また二次凝集塊が開孔部を通過することを抑止出来るからである。
【0017】
上述したように、本発明における網の使用目的や選択基準は、通常の篩の使用目的や選択とは異なる。しかし、網それ自体としては、本発明が求める目開きR(μm)を有する通常の篩を用いることが便宜である。
【0018】
3.選択されたメッシュを有する網による測定対象粉体の分散操作
測定用プレートの上方に選択されたメッシュを有する網を設置し、当該網上に測定対象粉体を載置する。そして、当該網を搖動、または、網上に載置された測定対象粉体を柔らかな刷毛等を用いて軽く掃き撫ぜることにより、測定対象粉体を、網の開孔部を介して落下させ、測定用プレート上に前記測定対象粉体を分散させる。
このとき、網として通常の篩を用いている場合、測定用プレートのプレート径より小さな径を有する篩いを用いることが便宜である。
【実施例
【0019】
実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は当該実施例に限定される訳ではない。
【0020】
(実施例1)
測定対象粉体として、水酸化リチウムの結晶を含む粉体を準備した。
準備した測定対象粉体に含まれる粒子のrmax(μm)を、Microtrac社製粒度分布測定装置を用いて測定した。そして測定の結果、測定対象粉体のrmax(μm)は400(μm)であることが判明した。
【0021】
画像解析法を用いた乾式粒度分布計として、ジャスコインターナショナル社製VD-400nanoを準備した。当該乾式粒度分布計に装備された測定用プレートのプレート径は、10cmであった。
そこで、rmax(μm)=400(μm)の2.5倍の目開きを有し、外径が15cmの篩を網として選択した(ケニス株式会社製ステンレス篩(16メッシュ))。
【0022】
選択した篩を測定用プレートの上方に設置し、測定対象粉体の0.1gを当該篩上に載置した。そして、当該篩を、測定用プレートの上方に1cm程度浮かせ、載置した測定対象粉体が全量通過する迄、当該篩を軽く搖動して、測定対象粉体の粒子を測定用プレート上に分散させた。
【0023】
測定対象粉体の粒子が分散した測定用プレートを、画像解析法を用いた乾式粒度分布計に装填し、測定対象粉体の粒度分布を測定した。
得られた測定対象粉体の粒度分布の測定結果を、図3のグラフに実線で示す。
尚、図3のグラフは縦軸に頻度、横軸に粒子形状を円形と見なしたときの粒子径をとったものである。
【0024】
図3のグラフより、測定対象粉体の粒子は粒子径90μmおよび10μmに二山のピークを有する粒度分布を有していることが判明した。
【0025】
(比較例1)
実施例1と同様の測定対象粉体を準備した。
画像解析法を用いた乾式粒度分布計として、実施例1と同様のジャスコインターナショナル社製VD-400nanoを準備した。
測定対象粉体を、減圧分散装置(ジャスコインターナショナル社製分散器)を用いて、当該乾式粒度分布計に装備された測定用プレートに減圧分散させた。
得られた測定対象粉体の粒度分布の測定結果を、図3のグラフに破線で示す
図3のグラフより、測定対象粉体の粒子は粒子径9μmに一山のピークを有し、80μmにわずかなショルダーを有しているとの結果が得られた。
【0026】
(まとめ)
図3のデータを検討すると、実施例1では観測出来ていた粒子径90μmのピークが、比較例1では殆ど観測出来なかった。このことから、測定対象粉体を、従来の技術に係る減圧分散装置を用いて分散操作を行った場合は粉体粒子が破砕されて、本来の粒度分布が測定出来ていないのではないかと考えられた。
そこで、比較例1に係る分散操作前後における測定対象粉体の50倍の顕微鏡像を観察した。両者を比較すると、分散操作後の測定対象粉体の粒子は、分散操作前に較べて尖った形状をしており、比較例1に係る減圧分散操作によって破砕が起こったと考えられた。
これに対し、粒度分布が正確に測定出来ている実施例1においては、網による分散操作の前後において、測定対象粉体の粒子形状に殆ど変化は見られなかった。
【0027】
以上より、本発明に係る測定対象粉体の粒度分布および/または粒子形状の測定に用いる測定用試料の作製方法、並びに、作製された当該測定用試料を用いた、粒度分布および/または粒子形状の測定方法によれば、従来の技術に係る方法に較べて、粒度分布や粒子形状が正確に観測出来ているものと考えられた。
図1
図2
図3