IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許7087885計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法
<>
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図1
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図2
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図3
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図4
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図5
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図6
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図7
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図8
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図9
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図10
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図11
  • 特許-計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】計測システムおよび穴付きシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20220614BHJP
   G01B 11/12 20060101ALI20220614BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20220614BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
G01B11/06 101Z
G01B11/12 Z
B23Q17/20 A
B23Q17/24 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018181455
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020051892
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正浩
(72)【発明者】
【氏名】内海 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂吉
(72)【発明者】
【氏名】大室 佑介
(72)【発明者】
【氏名】茅山 真士
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/045051(WO,A1)
【文献】特開2016-061631(JP,A)
【文献】特開2014-074633(JP,A)
【文献】特開平11-316123(JP,A)
【文献】特開2016-045107(JP,A)
【文献】特表2014-508047(JP,A)
【文献】特開平06-185924(JP,A)
【文献】特開2015-148592(JP,A)
【文献】特開平04-093150(JP,A)
【文献】特開2000-258130(JP,A)
【文献】特開平10-019767(JP,A)
【文献】米国特許第06289600(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
G01B 11/12
B23Q 17/20
B23Q 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置の主軸に固定された穴付き被測定物を対象に、距離測定する計測システムであって、前記計測システムは:
測定器と、
計測制御装置と、
前記計測制御装置に接続する測距装置と、
を有し、
前記測定器は:
前記加工装置の工具軸、刃物台、または芯押し台に固定するためのベースと、
2で 前記ベースに接続された第1のロッドと、
前記ベースに接続された第2のロッドと、
前記第1のロッドに固定され、前記測距装置に接続された第1の光ファイバの端から射出する測定光を前記被測定物に照射する、第1の測定ヘッドと、
前記第2のロッドに固定され、前記測距装置に接続された第2の光ファイバの端から射出する測定光を前記被測定物に照射する、第2の測定ヘッドと、
を有し、
前記第1の測定ヘッド及び前記第2の測定ヘッドは、測定光を透過する保護窓を有し、
前記測距装置は、前記測定光の光源を有し、前記第1の測定ヘッド及び前記第2の測定ヘッドから戻る前記測定光の反射又は散乱光に基づいて、OCT法、FMCW法、TOF法、Phase Shift法、又は光コム測距法を使用して、前記被測定物までの距離を測定し、
前記計測制御装置は:
(1)前記測距装置から、前記第1の測定ヘッドの保護窓から前記被測定物の穴の内周面までの距離Iを取得し、
(2)前記測距装置から、前記第2の測定ヘッドの保護窓から前記被測定物の外周面までの距離Oを取得し、
(3)前記距離I、距離O、及び前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔、に基づいて前記被測定物の肉厚を算出
(4)前記第1の測定ヘッド又は第2の測定ヘッドのいずれか一方の保護窓から、他方の測定ヘッドの保護窓までの距離を測定した距離を取得し、
(5)前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔を校正する、
ことを特徴とした計測システム。
【請求項2】
請求項記載の計測システムであって、
前記測距装置が出力する、前記第1の測定ヘッド及び前記第2の測定ヘッドからの距離は、各測定ヘッドの保護窓の外側表面からの距離である、
ことを特徴とする計測システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の計測システムであって、
前記計測制御装置は、
(1)乃至(3)の前に、前記主軸を所定の回転数で回転させる、又は前記主軸を所定の回転角まで回転させるための指示を、前記加工装置のNC制御装置または加工装置の作業者に送信し、
(1)乃至(3)の時に、前記加工装置が有する主軸の回転軸に沿って前記工具軸、刃物台、または芯押し台を移動させる指示を、前記加工装置のNC制御装置または加工装置の作業者に送信する、
ことを特徴とした計測システム。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかの請求項に記載の計測システムであって、
前記第1の測定ヘッドは、複数方向に測定光を照射し、
前記測距装置は、各照射方向毎に前記被測定物の穴の内周面までの距離を測定し、
前記計測制御装置は、前記複数の照射方向の距離にr誤差の評価値が最小となるようにフィッティングして、前記被測定物の穴の内径を計算する、
ことを特徴とした計測システム。
【請求項5】
チャックに固定された穴付き被測定物を対象に、距離測定する計測システムであって、前記計測システムは:
測定器と、
計測制御装置と、
前記計測制御装置に接続する測距装置と、
を有し、
前記測定器は:
移動機構に固定するためのベースと、
前記ベースに接続された第1のロッドと、
前記ベースに接続された第2のロッドと、
前記第1のロッドに固定され、前記測距装置に接続された第1の光ファイバの端から射出する測定光を前記被測定物に照射する、第1の測定ヘッドと、
前記第2のロッドに固定され、前記測距装置に接続された第2の光ファイバの端から射出する測定光を前記被測定物に照射する、第2の測定ヘッドと、
を有し、
前記第1の測定ヘッド及び前記第2の測定ヘッドは、測定光を透過する保護窓を有し、
前記測距装置は、前記測定光の光源を有し、前記第1の測定ヘッド及び前記第2の測定ヘッドから戻る前記測定光の反射又は散乱光に基づいて、OCT法、FMCW法、TOF法、Phase Shift法、又は光コム測距法を使用して、前記被測定物までの距離を測定し、
前記計測制御装置は:
(1)前記測距装置から、前記第1の測定ヘッドの保護窓から前記被測定物の穴の内周面までの距離Iを取得し、
(2)前記測距装置から、前記第2の測定ヘッドの保護窓から前記被測定物の外周面までの距離Oを取得し、
(3)前記距離I、距離O、及び前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔、に基づいて前記被測定物の肉厚を算出
(4)前記第1の測定ヘッド又は第2の測定ヘッドのいずれか一方の保護窓から、他方の測定ヘッドの保護窓までの距離を測定した距離を取得し、
(5)前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔を校正する、
ことを特徴とした計測システム。
【請求項6】
加工装置を用いた、穴付きシャフトの製造方法であって、
(A)測定光を照射する第1の測定ヘッドと、前記第1の測定ヘッドを固定する第1のロッドと、測定光を照射する第2の測定ヘッドと、前記第2の測定ヘッドを固定する第2のロッドと、を有する測定器を、前記加工装置の工具軸、刃物台、又は芯押し台に固定し、
(B)前記第1のロッドを前記加工装置の主軸に固定された前記穴付きシャフトの穴に挿入前に、前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔の校正値を測定し、
)前記第1の測定ヘッドから戻る前記測定光の反射又は散乱光に基づいて、OCT法、FMCW法、TOF法、Phase Shift法、又は光コム測距法を使用して、前記第1の測定ヘッドから前記穴付きシャフトの穴の内周面までの距離Iを測定し、
)前記第2の測定ヘッドから戻る前記測定光の反射又は散乱光に基づいて、OCT法、FMCW法、TOF法、Phase Shift法、又は光コム測距法を使用して、前記第2の測定ヘッドから前記穴付きシャフトの外周面までの距離測定し、
)加工中の前記穴付きシャフトの複数の断面位置に於いて、前記距離I、前記距離O、及び前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔の校正値、に基づいて内径、外径、及び肉厚、各々の分布を算出し、
)複数の断面位置の前記内径、前記外径、及び肉厚分布に基づいて、加工中の前記シャフトの内周の中心軸と外周の中心軸との偏芯量を算出し、
)前記偏芯量ずらした方向に、前記穴付きシャフトに第1の外周面及び第2の外周面を偏芯旋削あるいは偏芯ターンミルで加工し、
)前記第1の外周面を、前記加工装置の主軸が備えるチャックで把持し、
)前記第2の外周面を、前記加工装置が備える前記振れ止めで受け、
)前記主軸の回転軸に沿って、前記穴付きシャフトの外周面を加工する、
ことを特徴とした穴付きシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空(貫通穴とも言う)シャフトや、止まり穴付きシャフト等の穴付きシャフトの物体の測定方法、計測システム、及び当該物体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空シャフト、または止まり穴付きシャフトの内周軸心と外周軸心とを精度良く一致させる用途が生じた場合には、軸端はマイクロメータなどで測定することは出来ても、軸の中心部には測定機器が入らずに、肉厚を超音波で測定するなど手間を掛けて軸心の一致度を計測する必要があった。
【0003】
中空シャフトの内径を測定できる装置としては、特許文献1に開示されるような、ロッドの先端に保持された測定ヘッドをワークに挿入して、光学的にレーザとカメラを用いて対象物の内断面形状を測定する測定ヘッド、あるいは、接触式の変位計を旋回して内断面を走査できる測定ヘッドを走査する手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-164273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、中空シャフトの内径のみを測定しており、中空シャフトの肉厚を測定できなかった。
【0006】
なお、従来の方法として外周より超音波を入れて内周で反射した超音波の伝播時間で肉厚を直接測定する技術では、超音波の伝播速度が材質のバラつきによって変動するため、0.1mmオーダの誤差を持つという課題があった。さらに、超音波を材料に導入するためには表面を滑らかに加工する必要があり、肉厚測定のために余分な工程が必要となるという課題もあった。
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み、精度よく穴付きシャフトの肉厚を計測可能なシステム及び穴付きシャフトの製造方法を提供することを目的とする。その他の目的は実施例にて明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の計測システムは、測定器と、計測制御装置と、前記計測制御装置に接続する測距装置と、を有する。前記測定器は、前記加工装置の工具軸、刃物台、または芯押し台に固定するためのベースと、前記ベースに接続された第1及び第2のロッドと、各ロッドに固定され、測定光を前記被測定物に照射する、第1と第2の測定ヘッドと、を有する。そして前記計測制御装置は、(1)前記測距装置から、前記第1の測定ヘッドから前記被測定物の穴の内周面までの距離Iを取得し、(2)前記測距装置から、前記第2の測定ヘッドから前記被測定物の外周面までの距離を取得し、(3)前記距離I、距離O、及び前記第1の測定ヘッドと前記第2の測定ヘッドとの間隔、に基づいて前記被測定物の肉厚を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精度よく穴付きシャフトの肉厚を計測可能なシステムと、精度よく穴付きシャフトを製造する方法と、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における、計測システムの構成を示した図である。
図2】本発明における、計測システムの測定ヘッド部を拡大した図である。
図3】本発明における、計測システムの測定ヘッド部の別の構成例を拡大した図である。
図4】本発明における、計測システムの測定ヘッド部とワークとの各種距離の定義を示す図である。
図5】本発明における、測距装置の出力データの例を示す図である。
図6】本発明における測定動作の流れを示す図である。
図7】本発明における、内径・外形・肉厚の分布の解析・表示方法の一例を示した図である。
図8】本発明における、内径・外形・肉厚の分布の解析・表示方法の別の例を示した図である。
図9】本発明における、計測システムにおいて内径・外径を測定する場合の課題について示した図である。
図10】本発明における、計測システムにおいて内径・外径を正確に求めるために、タッチプローブを併用した実施例を示した図である。
図11】本発明における、計測システムにおいて内径・外径を正確に求めるために、内周用測定ヘッド内に追加の測定光を増設した実施例を示した図である。
図12】本発明における、計測システムの測定結果を用いて、外周を加工する方法の実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例を図面を用いて説明する。なお、以下の例では内部に貫通穴を有する中空シャフトを例として説明するが、止まり穴等の他の穴を有する被測定物を対象としてもよい。
【実施例1】
【0012】
図1に本発明における、加工装置201に設置した計測システムの全体構成を示す。計測システムは、測定器100、測距装置101、計測制御装置102、より構成されるシステムである。なお、測定器100は、後述する通り、測定ヘッド106及び107、ロッド104及び105、及びベース103より構成される。測距装置101は測定光を生成し、2本の光ファイバ110を介して測定器ベース103のコネクタ109に測定光を送る。測定器ベース103は光ファイバ108を介して測定ヘッド106と測定ヘッド107に測定光を送る。測定ヘッド106は外周用、測定ヘッド107は内周用の測定ヘッドであり、被測定物300(図1では中空シャフトの断面の例を示す)の外周部と内周部にそれぞれ測定光を照射して、被測定物300で反射して戻ってきた光を再び集光して光ファイバ108、コネクタ109、光ファイバ110を介して、測距装置101に戻す。
【0013】
外周用測定ヘッド106は外周用ロッド104によって、及び内周用測定ヘッド107は内周用ロッド105によって、測定器ベース103に対してそれぞれ保持されており、全体でひとつの測定器100を構成する。測定器100は加工装置201(例えば旋盤)の工具軸(刃物を保持して移動する往復台)あるいは芯押し台204に取り付けられて水平に保持される。加工装置201の主軸(旋削軸)202にはチャック203を介して、被測定物300である例えば中空シャフトが取り付けられる。必要に応じて振れ止め205によって被測定物300を下方と左右方向から支えることもある。なお、加工装置201が刃物台を有する旋盤である場合、測定器100を刃物台に取り付けてもよい。以後の説明では測定器は芯押し台4に取り付けられている場合を対象に説明する。
【0014】
加工装置201の主軸202の回転軸210(以後、単に回転軸210と呼ぶことがある)と内周用測定ヘッド107の中心(被測定物300の内周部へ挿入される内周用測定ヘッド107のxy断面の中心)が略一致するように、測定器100は工具軸あるいは芯押し台204によって図のxy方向の位置が調整される。測定器100は更に工具軸あるいは芯押し台204によって図の-z方向に移動され、内周用測定ヘッド107が被測定物300の内側に、外周用測定ヘッド106が被測定物300の上外側に振れ止め205を避けて挿入される。
【0015】
外周用測定ヘッド106、内周用測定ヘッド107が被測定物300の適当な位置まで挿入された状態で、被測定物300が主軸202の回転により回転させられる。回転中に外周用測定ヘッド106、内周用測定ヘッド107によって被測定物300の外周および内周の表面までの距離を測定することによって、その位置での内径振れ、外径振れ、肉厚の角度分布を測定することが実現できる。このとき、被測定物300の計測を行いたい位置がN断面あった場合には、図に示した括弧付き数字の(1)、(2)、(3)、…… 、(N)のような場所でヘッドを挿入した状態で上記の動作を行えばよい。
【0016】
ここで上記の加工装置201の制御(例えば、中空シャフトの位置(より具体的には回転角)や、芯押し台の位置)はNC制御装置220(NC:Numerical Control)によって行われる。計測制御装置102はNC制御装置220から得られる加工装置201の各軸の位置データを監視しながら、測距装置101が計測して出力する測定距離データを取り込んで、計測データ処理を行なう。作業者の手作業によって中空シャフトの回転角を変更させたり、測定器100の位置を変更してもよいが、NC制御装置220の安定した動作を利用したほうがより計測精度が高くなる。更に、計測制御装置102では得られた内形および外形の偏芯などの計測データを元に、補正・仕上げ加工用のNCデータを生成することが可能となる。
【0017】
≪距離測定方法≫
ここで、距離を測定するための方法としては、さまざまな方法が活用できるが、ひとつは光が測定対象に当たって返ってくるのに要する時間を測定する方法がある。たとえば、OCT(Optical Coherence Tomography)、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)といった方法が挙げられる。さらには、TOF(Time Of Flight)法のようなパルスあるいはバースト状の光を照射して、パルスあるいはバーストが受光されるまでの時間を測定する方法、Phase Shift法、光コム測距法のような連続的に強度変調された光を照射して、受光した信号の位相を測定する方法が使用できる。
【0018】
他には、焦点ずれを測定する方法もある。後述する白色共焦点法のほかに、非点収差法、ナイフエッジ法、コノスコピックホログラフィ法が使用できる。
【0019】
さらに他には、レーザ光を物体に照射して、物体表面で散乱して光った点の位置を斜めから測定することで、三角測量によって距離を測定する、いわゆる光切断法もある。
【0020】
≪測定ヘッド≫
以下、図2を用いて外周用測定ヘッド106、内周用測定ヘッド107について詳述する。光ファイバ108から伝送された光は光ファイバ端120から空間に射出する。射出した光はレンズ121によって集光光に変換される。この光は反射ミラー122で折り曲げられて、保護窓123を通って被測定物300に照射される。被測定物の表面で反射・散乱された光は元来た光路を保護窓123、反射ミラー122、レンズ121と戻って、光ファイバ端120から光ファイバ108に戻る。上記の説明は、外周用測定ヘッド106の測定光150、及び内周用測定ヘッド107の測定光151において共に同じである。なお、反射ミラー122の導入により、光ファイバ端120から伸びる光ファイバ108は概ねロッド104と平行に伸ばせるため、曲げる必要がない。その結果として外周用測定ヘッド106及び内周用測定ヘッド107の高さを小さくすることができ、結果として穴の径が小さな中空シャフトの測定が可能となる。しかし、反射ミラーは省略し、光ファイバ108を曲げることで、光ファイバ端120から紙面の上下方向に光を照射させてもよい。
【0021】
ここで、実施例1ではレンズ121としてレーザ用のレンズを用いて、測定光としてレーザを用い、OCT、FMCW、TOF、Phase Shift法、光コム測距法などを用いて被測定物300の表面の位置の変化を距離として検出することができる。
【0022】
他の方法として、レンズ121として色収差の大きいレンズを用いて、測定光として広帯域光を用いると、焦点距離が波長によって異なり、被測定物300に照射された測定光のうち、再びファイバ端120から測距装置101に戻るのは、ちょうどワークの表面で焦点の合った波長成分だけとなる。測距装置を分光器で構成して戻ってきた光の波長を検出することで距離を求めることが可能となる。
【0023】
更に他の測距方法を図3を用いて説明する。外周用測定ヘッド106、及び内周用測定ヘッド107の内部を次のように構成する。レーザダイオードなどの高輝度発光素子140から出射した光は、レンズ141で収束光に変換されて測定光150あるいは151として、被測定物300に照射される。被測定物300の表面で散乱した光はレンズ142で集光されてリニアイメージセンサ143に結像する。結像位置は被測定物300に光が当たる位置までの距離に応じて変化するので、距離を測定することが可能となる。
【0024】
図3では被測定物300が無かった場合の外径側測定光150’が点線として描かれている。図3に示すように、被測定物300が無いと、測定光150’は内径側測定ヘッド107の保護窓123の表面で散乱して、点線の経路152でリニアイメージセンサ143上に結像するため、図3に於いて左下に向いているリニアイメージセンサ143における結像位置は左側にシフトする。このように三角測量の原理で距離を測定する方式は一般には光切断法と呼ばれる。なお、この構成の場合は測距装置101と測定ヘッド106、107を結ぶものは光ファイバ108、110ではなく、代わりに電気配線108’で高輝度発光素子140の駆動信号と、リニアイメージセンサ143の駆動・読み取り信号をやり取りすることとなる。
【0025】
上記の距離測定方法はいずれも光で非接触で距離を測定できるため、細長いロッド104、105で保持された測定ヘッドが、接触式の測定器と異なり接触によって撓まないので好適である。中でも光切断法以外の距離測定方法はヘッドの構造が非常に単純で軽量・コンパクトに作り易く、配線も光ファイバ一本と軽いので、細長いロッドの先端で保持することと、狭い被測定物300の内部に挿入することの観点からより好適である。
【0026】
以上のような構成により、細長い被測定物(中空シャフト)の内周と外周の表面の位置を内外から同時に測定することが可能となった。なお、上記説明したように測定ヘッド106、107は軽量コンパクトに構成することはできるが、保持ロッド104、105は長大なので、撓みを低減するために中空のパイプで構成することが望ましい。なかでも、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)のような繊維強化樹脂を用いると、弾性率と比重の比である比強度がステンレス材などと比べて高く、振動減衰性も高いのでより好ましい。以上、実施例1では二種類の測定ヘッド106、107の構造について説明したが、実施例1及び以後説明する実施例2以降では、図2に示す測定ヘッド106、107の構造を例又は拡張の基礎として説明する。ただし、実施例1及び実施例2以降は図3に示す測定ヘッド106、107を採用してもよく、また別な構造の測定ヘッド106、107を採用してもよい。
【0027】
≪測距装置≫
測距装置101のハードウェア構成は、上記した距離測定方法の違いに依って、種々の構成が考えられる。なお、図2等のように測定用ヘッド106、107に光ファイバで光を送る場合は、測距装置101がレーザ光源を有する。図示は省略するが、例えばOCTを採用した場合には、レーザ光源からの光をハーフミラーで分割し、一方のレーザ光は、光ファイバ、測定ヘッドを経由して被測定物で反射して、再び測距装置101へ戻ってくる。もう一方のレーザ光は参照ミラーで反射されて、戻ってきたレーザ光と重ね合わされて光検出器により干渉ビート信号を取り出す。AD変換をして、例えばFPGAに実装された論理機能により、ビート信号の周波数より距離を変換して(言い方を変えれば距離を測定して)、距離データを計測制御装置102へ出力する。
【0028】
≪計測制御装置≫
計測制御装置102のハードウェア構成は、図示は省略するが、プロセッサ(CPU)、メモリ、補助記憶装置、入力装置、出力装置、及び通信インターフェースを有する汎用的な計算機が用いられる。補助記憶装置に格納されたプログラムの実行により、中空シャフト、または止まり穴付きシャフトの内外周の形状を光学的に測定する処理、及び内周と外周の同軸度の高いシャフトに仕上げるための補正・仕上げ加工用のNCデータを生成する処理のための複数の機能を実現する。なお、プロセッサ(CPU)、メモリが実現する各機能を複数の集積回路に分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。なお、計測制御装置は、NC制御装置220であってもよく、又図1の通り別な装置であってもよい。なお、計測制御装置102は、上記処理を行う一部の処理として、NC制御装置220に主軸202の回転角や回転数の変更指示や、測定器100の位置を変更するための芯押し台204の位置変更指示を、送信してもよい。また、計測制御装置は、これら指示を作業者に送信(例えば表示したり、メール送信することが考えられる)してもよい。
【0029】
さらに測距装置101の信号処理について図5を用いて説明する。上記したどの測定原理を用いても、距離と検出された反射・散乱光強度の関係を示す図5のようなデータが得られる。図5(A)のように、保護窓123の内側、外側、被測定物300で反射・散乱光強度が高くなる。強度データは距離に対して離散的になるので、ピークのデータだけを用いると距離の分解能が低くなる。そのため、ピークの周りのデータ点を少なくとも3点選んで補間を行うことで測定距離分解能を向上することができる。例えば、ピークの周りの3点のデータに対して2次関数を当てはめてその頂点の位置を求めることで、距離を補間する。あるいは、ある閾値を越したデータ点の重心を求めることで距離を補間する。という方法を採ることができる。また、データ点は反射・散乱光強度そのものを用いてもいいし、その平方根を用いてもいいし、対数も用いてもよい。
【0030】
また、測定される距離には測距装置101自体や、光ファイバ端120と反射ミラー122の間の温度による熱膨張などに起因する、距離のオフセットの変動が含まれる。なお、距離のオフセットの変動にはこれら以外にもロッドや測定ヘッドの剛性及び質量の個体差も関係する。これらに対処するために、被測定物300の距離のほかに、自測定ヘッドの保護窓123の表面での反射・散乱によるピークを検出して、距離を求め、これを被測定物300の距離データから引くことで、保護窓123の表面からの距離を正確に測定することが可能となる。保護窓の表面は測定ヘッド内側と外側の2ヶ所存在するが、概略位置は予め判っていて大きくは変動しないため、窓の外側を基準にする場合は(本実施例では窓の外側を基準にする)、これに対応するピークの周りの測定データを用いて被測定物距離と同様の補間処理を行うことにより、基準距離を算出できる。余分な反射光を無くすために基準として使用しない側の窓表面だけ仕様波長に合わせた反射防止コーティングを施しておいてもよい。また、基準距離となる窓の位置は急には変動しないために、窓表面の距離データを時間平均することで基準距離の精度を上げてもよい。なお、窓の内側を基準にして基準距離を算出することでもよいが、窓の外側は測定器100の外観で正確に場所を確認できる点において、基準としてより好ましい。
【0031】
更に、被測定物300が無い場合は、図5(B)のように相手側測定ヘッドが、図3の点線の測定光路150’で示したように、検出される。そこで、この距離を自測定ヘッドの窓表面の距離を求めるときと同様に算出することで、測定ヘッド106、107間の距離を測定できる。長大な保持ロッド104、105の温度などの環境による変形によって測定ヘッド106、107間の距離は経時的に変化しうるので、図1に示した括弧付き数字の(0)で示した位置において、被測定物となる中空シャフト300の外側の位置で、被測定物の測定の前に測定を行うことによって、測定ヘッド間106、107の距離の変動に起因する測定される肉厚の誤差を抑えることが可能となる。これら距離(正確には距離S)の測定処理(校正処理という場合もある)は、測定器100を加工装置201から外すことなく行える、つまり測定器100の取り付け、取り外し誤差を気にせずに校正処理を行うことができるということである。
【0032】
次に図4を用いて上記の測距処理について詳述する。外周用測定ヘッド106と内周用測定ヘッド107の保護窓の外側表面間の距離Sは、被測定物300が無い状態で測距処理することで求められる。被測定物が在る状態の測距データは、外周用測定ヘッド106の窓123の外側表面から被測定物300の外周面までの距離Oが外周用測定ヘッド106によって得られる。また、内周用測定ヘッド107によって、内周用測定ヘッド107の窓123の外側表面から被測定物300の内周面までの距離Iが得られる。すると、測定したい被測定物300の肉厚Tは、T=S-O-Iによって計算できる。回転軸210と内径測定ヘッド107の保護窓外側表面までの距離をΔとすると(内周用測定ヘッド107の中心を回転軸210と略一致するように、測定器100を-z方向に移動して被測定物300の穴に挿入しているので、Δの値は内周用測定ヘッド107の形状から概略値が決められる。)、回転軸210から被測定物300の内周面までの距離Icは、Ic=I+Δ、回転軸210から被測定物300の外周面までの距離Ocは、Oc=S+Δ-Oによって計算できる。
【0033】
被測定物300を回転軸210の周りで回転させながら、回転角θの関数としてO(θ)とI(θ)を計測する。この結果から計算できるT(θ)が肉厚分布である。Oc(θ)、Ic(θ)をそれぞれ極座標でプロットして、それぞれ外周断面形状と内周断面形状が得られる。この様子を図7に示す。この例では、図1に示す(1)、(2)、(3)の3断面で計測した結果を重ねてグラフに表示している(3断面の形状に多少の差異がある例を示している。)。なお、誤差を強調するためにIc(θ)、Oc(θ)、T(θ)をそのまま極座標でプロットする代わりに、基準距離からの誤差Ic(θ)-Io、Oc(θ)-Oo、T(θ)-Toをプロットしてもよい。これらのグラフは計測制御装置102のディスプレイでユーザにわかりやすく表示してもよい。
【0034】
図7の内径と外径のデータにそれぞれr誤差の評価値が最小となるように円をフィッティングして(最小二乗法による円の近似)、その中心位置と直径を求めることで、偏芯量とその方向と径が求められる。また、内径と外径のそれぞれの一回転での最大値と最小値の差によって、内周振れと外周振れが計算できる。
【0035】
さらに、上記求めた各断面の円の中心位置を、横軸を断面の座標((1)、(2)、(3)、……等)として、縦軸を中心位置のX座標あるいは、Y座標としてプロットしたものが図8のグラフである。これを見ることで、内周円筒と外周円筒がそれぞれどのように偏芯して傾いているかを見ることができる。これらのグラフは計測制御装置102のディスプレイでユーザにわかりやすく表示してもよい。
【0036】
図6に計測制御装置102の測定処理のフローの一例を説明する。
測定開始S501すると、まず断面番号(図1に示す測定位置を表す括弧付き番号を指す。測定したい断面位置のZ座標が断面番号ごとに予め定義されている。断面番号0は特別に測定ヘッド間の距離Sを校正するために、被測定物300の外側の位置が定義されている。)を0にセットする(S502)。
【0037】
S503において、計測制御装置102は、工具軸あるいは芯押し台204を-z方向に移動制御して、測定器100の測定ヘッド106、107を(0)の位置に位置決める。位置決め後、測距装置101による外周用測定ヘッド106と内周用測定ヘッド107の保護窓の外側表面間の距離Sの測定を行う。計測制御装置102は距離Sの校正値を記録する。
S504において、断面番号を1にセットする。
【0038】
S505において、計測制御装置102は、工具軸あるいは芯押し台204を-z方向に移動制御して、測定器100の測定ヘッド106、107を、断面番号の変数値に対応して予め定義されているZ座標の位置に位置決める。
【0039】
S506において、計測制御装置102は、加工装置201の主軸202の定速回転を開始する。
S507において、計測制御装置102は、所定のサンプルタイムごとに(または、所定の回転角間隔δθごとに)、主軸202の回転角θに対応させて、測距装置101から得られる外周用測定ヘッド106の窓の外側表面から被測定物300の外周面までの距離O、および内周用測定ヘッド107の窓の外側表面から被測定物300の内周面までの距離Iを記録する。
S508において、S507で(θ、O、I)を記録する毎に、主軸202の1回転に相当する(θ、O、I)データが記録されたかを判定する。記録された場合には計測制御装置102は主軸202の回転を終了してS509へ移行し、未だ記録されていなければ再びS507へ移行する。
【0040】
S509において、断面番号が予定している測定断面数Nに達しているか判定して(予定しているN箇所の全ての断面で1回転の測定が終了したかを判定する。)、達していなければS510へ移行し、達していればS511へ移行する。
S510において、断面番号を1増加させて、S505へ移行する。
【0041】
S511において、計測制御装置102は、記録している全ての断面ごとの(θ、O、I)データ、距離Sの校正値に基づいて、被測定物300のN個の断面位置における内径、外径、肉厚分布のデータ処理を行い、例えば図7、8に示すグラフを表示装置などに出力する。
S512において、測定処理を終了する。
【実施例2】
【0042】
次に図9図10を用いて、内径と外径の値をより正確に測定する実施例を説明する。加工装置201の工具軸/芯押し台204を用いて測定器100を-Z方向に移動させて測定を行うが、工具軸/芯押し台204の-Z方向移動に伴い、わずかにピッチングあるいはヨーイングをおこす(α)。αが通常問題とならない傾きであっても、測定ヘッド106、107を保持するロッド104、105が長いため、図9に誇張して図示したように測定ヘッド106、107のY方向位置が若干変化する。変化量はロッド104、105の長さをLとするとLαに相当する。Lが1000mm以上あると、たとえばαが100マイクロラジアンでも、Lαは0.1mmの変位となる。これは、図4で定義した、回転軸210と内周用測定ヘッド107の保護窓123の表面とのオフセットΔの値が、-Z方向の移動に伴って変動することを意味する。この様子を図9の下部のグラフに図示した。Δが変動しても、肉厚分布や外周振れ・内周振れ、偏芯の値には影響はないが、外径・内径の測定値には影響して誤差につながる。
【0043】
そこで図10に示すように別の方法によってΔを校正する方法を考案した。ここでは測定器100の代わりにタッチプローブ206(測定子を被測定物にタッチした時点の空間上の位置を出力するように構成されている。)を工具軸204に保持させる。これによって被測定物300の外周表面の位置を測定し、この値が図4で定義した外周用測定ヘッド106によって測定した被測定物300の外周表面の位置Oc=S+Δ-Oと等しくなるように、Δを決めればよい。SとOの値は既知であるのでΔの値はZの位置毎に一意に決められる。タッチプローブは、好ましくは本発明の測定器100によって断面を測定する位置(1)~(N)それぞれのZ位置に移動させてOcを測定する。
【0044】
工具軸204の-Z方向移動時のΔの変化が少ないときは、例えば、被測定物300の両端でタッチプローブ測定によってΔを計測して、両端におけるΔの直線補間によって中間の位置ZのΔを求めてもよい。あるいは、被測定物300の両端と真ん中の3点でΔを計測して、これらから2次関数補間によって中間の位置ZのΔを求めてもよい。さらにZ軸上の測定位置によるΔの変化が必要な計測測定精度に対して小さいときは、測定器100の外周用ロッド104、内周用ロッド105の経時変形や、測定器100の工具軸/芯押し台204による把持のバラつきなどの位置Zによって変化しないΔの値のみ校正を行えばよい。この場合は、タッチプローブによる測定は被測定物300の外周上の一点のみでよい。あるいは、図1の(1)で示すような、被測定物300の端部に近い位置の内周面をタッチプローブでタッチして、これがIc=I+Δと等しくなるようにΔの値を決定してもよい。
【0045】
上記はタッチプローブ206でΔの校正用の測定を行ったが、別の実施例として、タッチプローブの代わりに内外径測定装置と同様な、光学式の非接触変位計で構成された測定ヘッドを用意して、タッチプローブ206と同様に工具軸204に短く保持させて、タッチプローブの代わりに距離測定させればよい。
【0046】
あるいは別の実施例として、タッチプローブでOcを測定するのではなく、マイクロメータなどで作業者が外径を測定して、この値と、相当するZ座標における、Oc(θ)のデータに円をフィッティングして求められた外径の値が等しくなるように、Δの値を決定してもよい。すなわち、{(マイクロメータで測定した外径)-(円フィッティングで求めた外径)}/2 の値だけ、Δの値に加算補正すればよい。(1)~(N)の全点でΔの校正を実行してもよいが、手間を短縮するために両端だけΔの値を校正して補間を行なってもよいし、両端と真ん中の3点でΔを計測して、これらから2次関数補間によって中間の位置ZのΔを求めてもよい。あるいは、ΔがZ軸上の位置に依らないとしてよい場合は、一箇所だけの外径あるいは内径を測定して、その値と、円フィットした外径あるいは内径の値が等しくなるようにΔの値を決定してもよい。
【実施例3】
【0047】
実施例2では、タッチプローブやマイクロメータといった別の測定器の測定結果を用いて、内径・外径の測定値のオフセットを校正していたが、測定器100自体を用いて内径・外径の測定値のオフセットを校正する実施例を図11に示す。
【0048】
内周用測定ヘッド107の光ファイバ108、光ファイバ端120、レンズ121、ミラー122、および保護窓123の組を2組以上にして、追加の測定光151’を放射状に出射できるようにする。図11(C)-1は2組の場合の構成、図11(C)-2は4組の場合の構成、図11(C)-3は3組の場合の構成である。
【0049】
図11(A)は2組の場合の全体構成図で、この場合は、外周用が1、内周用が2で計3チャンネルの光ファイバ108をコネクタ109で中継して測距装置101に3チャンネルの光ファイバ110で接続している。内周用の測定光151’を増やした本数分だけ、光ファイバ108、110、コネクタ109を増やすこととなる。なお、図11(A)ではコネクタ109と光ファイバ110を測定光の本数だけ用意しているが、複数の光ファイバチャンネルをまとめて接続できるコネクタやケーブルを用いてもよいことは言うまでもない。
【0050】
図11(C)-1の場合、内径の測定値は測定光151と151’の測距値の和と、保護窓123の表面間の距離を足したもので得られる。このときの前提は、内周用測定ヘッド107の左右方向(x方向)の位置が、内周の中心と略一致していることである。中心位置のずれによる内径測定値の誤差が無視できない場合は、測定器保持部/工具軸/芯押し台204で測定器100を左右(x方向)に移動させながら測定して、内径の計算値が最も大きくなる位置で測定を行うようにする。
【0051】
図11(C)-2、図11(C)-3の場合、それぞれの測定光(151、151’)による測距値と保護窓123の表面と内周用測定ヘッド107の中心との半径距離を足したデータが測定光の本数分得られる。すなわち各測定光の方向と、測定ヘッドの中心から測定光が内周に照射された位置までの半径距離が得られる。これらのデータを極座標でプロットしたものに円をフィッティングすると、内径値が正確に得られる。
【0052】
こうして得た各測定位置(1)、(2)、……、(N)における内径値を用い、この内径の半径がIc=I+Δと等しくなるようにΔの値を決定することが可能となる。この値を用いて外周用測定ヘッド106の測定データから外径を計算すれば、外径も正確に算出することが可能となる。
【実施例4】
【0053】
次に図12を用いて、本発明の計測システムによる測定結果を活用した加工の実施例を説明する。図1で説明した構成との共通箇所については図の説明は省略するが、工具軸204には工具290が把持されている。工具290は刃物(バイト)でも、回転工具でもよい。バイトを用いる場合には旋削加工、回転工具を用いる場合にはターンミル加工と呼ばれる。
【0054】
図12(A)は、ワーク(本実施例では中空シャフト)300の外周に対して内周が上方に偏芯しており、偏芯量がワークの右のほうで大きくなっている場合を模式的に示している。こうした状態は、ワークの外側を切削する時の主軸202の回転軸210(ワークの外周の中心軸でもある)と、ワークの内周の中心軸と、が一致していない場合に発生する。原因の一例は、内周の切削後にワーク300を主軸202に取り付け直す、または、主軸202の回転を伴わない他の切削方法を用いた場合が考えられる。本発明の計測システムを用いれば、このような外周の中心軸と内周の中心軸との偏芯の状態(例えば偏芯量(偏心の方向を含んでもよい))を正確に加工装置201上で測定することが可能となる。一般に、大部分の中空シャフト部品、および止まり穴付きシャフト部品ではこのような偏芯が無いように加工をする必要がある。本発明を用いると、内周の偏芯に合わせて内周の軸と外周の軸が同軸(つまり、中心軸が一致すること)になるように加工することが可能となるので、この実施例について説明する。
【0055】
図12(B)は、偏芯旋削あるいは偏芯ターンミルを行うことで偏芯を軽減する方法である。チャック面310の中心軸と、チャック面310に対応する内周面(チャック面を側面とした円筒を定義した場合に、当該円筒に含まれる内周面である)の中心軸が一致(又は偏芯量が軽減)するように、工具290を図の上下方向に主軸202の角度と同期して出し入れしつつ、チャック面310を加工する。触れ止め受け面311も同様に加工する。次に、チャック203でチャック面310をつかみ直して、振れ止め205で振れ止め受け面311を受ければ、主軸202の回転軸と内周の中心軸を一致させることができる。この状態でワーク300の外周全面を旋削加工あるいはターンミル加工する。このような実施例によって、内周と外周の同軸度の高いシャフト300を製作することが可能となる。
【0056】
次に図12(C)を用いて、内周と外周の同軸度の高いシャフトを製作する別の実施例について説明する。この場合の加工機201は両端チャック機構を持つ加工機である。本発明の計測システムによって得られた内周面の軸が、回転軸210と一致するようにチャック203と203’の調整量を計算して、チャックを移動させる。この状態でワーク300の外周全面を旋削加工あるいはターンミル加工する。このような実施例によっても、内周と外周の同軸度の高いシャフト300を製作することが可能となる。
【0057】
なお、図12(B)、(C)の実施例共、外周を加工出来ていなかったチャック面および振れ止め受け面を、最後に仕上げ加工する必要があるのはいうまでもない。
【実施例5】
【0058】
実施例1における図1の説明は201が加工装置であり、工具軸あるいは芯押し台204によって測定器100を移動させて、被測定物(実施例1では中空シャフト)300に挿入させて、被測定物を旋削軸202で回転させて測定するものであったが、別の実施例として、加工装置201を専用の測定装置として構成してもよい。この場合、加工装置で構成する場合と同様に、測定器保持部204で測定器100を移動させて内外径同時計測を実現してもよいが、別の構成として、測定器100を移動させるのではなく、被測定物の主軸202の方をZ方向に移動させて各断面測定を実施してもよい。
【符号の説明】
【0059】
100…測定器、
101…測距装置、
102…計測制御装置、
103…測定器ベース、
104…外周用ロッド、
105…内周用ロッド、
106…外周用測定ヘッド、
107…内周用測定ヘッド、
108…光ファイバ、
108’…配線、
109…光ファイバコネクタ、
110…光ファイバ、
120…光ファイバ端、
121…レンズ、
122…反射ミラー、
123…保護窓、
140…高輝度発光素子、
141…投影レンズ、
142…検出レンズ、
143…リニアイメージセンサ、
150…測定光(外周用)、
150’…測定光(外周用、ワークが無い時)、
151…測定光(内周用)、
151’…内径を測定する場合の追加の測定光、
152…散乱光(ワークが無い時:測定ヘッド間距離を測定時)
201…加工装置/測定装置、
202…主軸(旋削軸)、
203…チャック、
204…測定器保持部/工具軸/芯押し台、
205…振れ止め、
206…タッチプローブ、
210…回転軸、
220…NC制御装置、
290…工具、
300…被測定物/ワーク/中空シャフト、
310…チャック面、
311…振れ止め受け面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12