IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電荷輸送性材料及びその利用 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】電荷輸送性材料及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220614BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220614BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 A
H05B33/02
C08L101/12
C08G61/12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018567372
(86)(22)【出願日】2018-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2018002760
(87)【国際公開番号】W WO2018147114
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017021375
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
(72)【発明者】
【氏名】浅野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】高井良 啓
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】舟生 重昭
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188023(WO,A1)
【文献】特開2017-079309(JP,A)
【文献】特開2017-135179(JP,A)
【文献】特開2011-223015(JP,A)
【文献】特開2013-023491(JP,A)
【文献】特開2017-069324(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/02
C08L 101/12
C08G 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性ポリマーを含有する電荷輸送性材料であって、
前記電荷輸送性材料を用いて形成した有機膜の表面自由エネルギーの非極性成分が40.0mJ/m以上であり、前記表面自由エネルギーは、Owens-Weldt法に基づき、極性成分と非極性成分の二成分の和として表され、
前記電荷輸送性ポリマーが、下式(T-I)で表される1価の構造単位を含む、電荷輸送性材料。
(式中、Aは炭素数7~20の多環構造のシクロアルキル基を表す)
【請求項2】
前記式(T-I)で表される構造単位におけるAが、炭素数7~16の多環構造を有するシクロアルキル基を表す、請求項1に記載の電荷輸送性材料。
【請求項3】
前記式(T-I)で表される構造単位におけるAが、炭素数7~12の多環の架橋構造を有するシクロアルキル基を表す、請求項1又は2に記載の電荷輸送性材料。
【請求項4】
前記式(T-I)で表される構造単位が、下式(T2)又は(T3)で表される構造単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料。
【請求項5】
前記電荷輸送性ポリマーが、電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料。
【請求項6】
前記電荷輸送性ポリマーが、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、及びピロール構造からなる群から選択される少なくとも1種を含む構造単位を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料。
【請求項7】
前記電荷輸送性ポリマーが、少なくとも1つの重合性官能基を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料。
【請求項8】
前記電荷輸送性ポリマーが、下式(T1)で表される1価の構造単位をさらに含む、請求項7に記載の電荷輸送性材料
【請求項9】
正孔注入層材料として使用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料、又は請求項10に記載のインク組成物を用いて形成された有機膜を有する、有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電荷輸送性材料、又は請求項10に記載のインク組成物を用いて形成された有機膜を有する、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
フレキシブル基板をさらに有する、請求項12に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
前記フレキシブル基板が樹脂フィルムを含む、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【請求項16】
請求項12~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【請求項17】
請求項16に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電荷輸送性材料、該材料を含むインク組成物に関する。また、本開示は、上記電荷輸送性材料、又は上記インク組成物を用いて形成された有機膜を有する、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の一例として、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう)、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。
【0004】
有機エレクトロニクス素子の中でも、有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0005】
有機EL素子は、使用される有機材料から、低分子型有機EL素子及び高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子では、有機材料として高分子材料が用いられ、低分子型有機EL素子では、低分子材料が用いられる。
高分子型有機EL素子では、印刷、インクジェット等の湿式プロセスによる成膜が可能である。そのため、主に真空系で成膜が行われる低分子型有機EL素子と比較して、高分子型有機EL素子は、大画面化及び低コスト化が容易であり、今後の大画面有機ELディスプレイ等への適用が期待されている。
【0006】
高分子型有機EL素子では、湿式プロセスに適した高分子材料の開発が進められている(例えば、特許文献1)。しかし、従来の高分子材料を用いて作製した有機膜を含む有機EL素子は、駆動電圧、発光効率、及び発光寿命において、充分に満足できるものではなく、さらなる改善が望まれている。
【0007】
有機EL素子の特性を向上させる一手段として、多層化による機能分離が知られている。湿式プロセスによる有機膜の多層化では、有機膜に対して、上層を形成するインク(以下、上層インクという)が塗布される。そのため、上記有機膜は、上層インクの溶媒に対して耐性(以下、耐溶媒性ともいう)を有する必要がある。
また、各種有機エレクトロニクス素子の特性を向上させる観点から、有機膜は膜厚が均一であることが好ましい。
均一な膜厚を有する有機膜を形成するためには、有機膜を構成するインクのぬれ性が重要と考えられる。インクのぬれ性が悪い場合、乾燥後の有機膜の膜厚が面内で均一にならないことから、所望とする特性を得ることが困難となる。例えば、有機EL素子では、均一な発光を得ることが困難となるため、改善が求められている。
【0008】
これに対し、ぬれ性を改善する様々な方法が検討されている。例えば、表面張力の低い溶媒を使用してインクを調製する方法が知られている(例えば、特許文献2)。また、インクが塗布される下地層(以下、下層という)の表面に対して表面処理を行う方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-279007号公報
【文献】特開2013-131573号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「ぬれと超撥水、超親水技術、そのコントロール」、技術情報協会、2007年、第3章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、湿式プロセスによる有機膜の多層化において、インクを構成する溶媒によってぬれ性を改善する方法の場合、溶媒は、表面張力が低いことに加えて、インクを構成する他成分(膜材料)の溶解性や吐出性等のプロセス対応性も考慮して選択する必要があり、これらの全ての要求を満足する上では改善の余地があった。
また、下層に対して表面処理を行う方法によれば、有機膜が多層化されるほど、下層となる有機膜の表面処理を繰り返すことになるため、表面処理によって有機膜が本来有する電荷輸送性等の特性が低下するという問題があった。
上記のとおり、下層に対するインクのぬれ性、及び該インクから形成された有機膜の上層インクとのぬれ性の双方を改善する、より簡便な方法の要求があった。
【0012】
したがって、本開示は、上記に鑑み、湿式プロセスによる成膜時に、下層に対して優れたぬれ性を有し、かつ上層インクとのぬれ性にも優れる有機膜を形成し得る、電荷輸送性ポリマーを含む電荷輸送性材料、及び該電荷輸送性材料を含むインク組成物を提供する。また、本開示は、上記電荷輸送性材料又は上記インク組成物を用いて、均一な膜厚の有機膜を有する、有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、炭素数7以上の脂環式構造と、カルボニル含有基とを有する電荷輸送性ポリマーを用いることで、下層に対して優れたぬれ性を有し、かつ上層インクとのぬれ性にも優れる有機膜を形成可能であることを見出した。また、ITO等の親水性電極に対する成膜時に優れたぬれ性を得ることができることを見出した。
【0014】
本発明の実施形態は以下に関する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、種々の実施形態を含む。
一実施形態は、電荷輸送性ポリマーを含有する電荷輸送性材料であって、上記電荷輸送性ポリマーは、以下(I)又は(II)の少なくとも1つを満たす、電荷輸送性材料に関する。
(I)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基、及びカルボニル含有基を有する1価の置換基を互いに独立して有する。
(II)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる1価の置換基を有する。
ここで、上記(I)及び上記(II)において、上記1価の置換基の各々は、上記電荷輸送性ポリマーの少なくとも1つの末端に存在することが好ましい。
また、上記(I)及び上記(II)において、上記炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基の各々は、炭素数7~20のシクロアルキル基であることが好ましい。
また、上記(I)及び上記(II)において、上記カルボニル含有基の各々は、下式(a)~(i)で表される2価の連結基の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化1】
[式中、Rは、水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基である(但し、炭素数7以上の環状のアルキル基は除く)。]
上記電荷輸送性材料の上記電荷輸送性ポリマーは、上記(II)を満たすことが好ましい。
上記電荷輸送性材料の上記電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する2価の構造単位と、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位とを含有することが好ましい。
上記電荷輸送性材料の上記電荷輸送性ポリマーは、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、及びピロール構造からなる群から選択される少なくとも1種を含む構造単位を有することが好ましい。
上記電荷輸送性材料の上記電荷輸送性ポリマーは、少なくとも1つの重合性官能基を有することが好ましい。
上記電荷輸送性材料は、正孔注入層材料として使用されることが好ましい。
他の一実施形態は、上記実施形態の電荷輸送性材料と、溶媒とを含む、インク組成物に関する。
他の一実施形態は、上記実施形態の電荷輸送性材料、又は上記実施形態のインク組成物を用いて形成された有機膜を有する、有機エレクトロニクス素子に関する。
他の一実施形態は、上記実施形態の電荷輸送性材料、又は上記実施形態のインク組成物を用いて形成された有機膜を有する、有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
上記有機エレクトロルミネセンス素子は、フレキシブル基板をさらに有することが好ましい。
上記有機エレクトロルミネセンス素子の上記フレキシブル基板は、樹脂フィルムを含むことが好ましい。
他の一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子に関する。
他の一実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置に関する。
他の一実施形態は、上記実施形態の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた表示装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、湿式プロセスによる有機膜の多層化において、下層に対して優れたぬれ性を有し、かつ上層インクとのぬれ性にも優れる有機膜を形成し得る、電荷輸送性ポリマーを含む電荷輸送性材料、及び該電荷輸送性材料を含むインク組成物を提供することができる。また本開示によれば、上記電荷輸送性材料又は上記インク組成物を使用することによって、均一な膜厚の有機膜を有する、有機エレクトロニクス素子、及び、有機EL素子、並びに、それを用いた表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
本願の開示は、2017年2月8日に出願された日本国特許出願番号第2017-021375号の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】有機EL素子の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に記載する実施形態に限定されない。
<電荷輸送性材料>
一実施形態において、電荷輸送性材料は、後述する特定の電荷輸送性ポリマーを含有する。電荷輸送性材料は、上記特定の電荷輸送性ポリマーの2種以上を含有しても、さらに他の電荷輸送性ポリマーを含んでもよい。
【0018】
[電荷輸送性ポリマー]
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、1種以上の電荷輸送性の構造単位を有し、上記電荷輸送性ポリマーの分子内に、炭素数7以上の脂環式構造と、カルボニル含有基とを有する。具体的には、電荷輸送性ポリマーは、以下(I)又は(II)の少なくとも1つを満たす。
(I)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基、及びカルボニル含有基を有する1価の置換基を互いに独立して有する。
(II)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる1価の置換基を有する。
【0019】
上記電荷輸送性ポリマーを含有する電荷輸送性材料を使用してインクを調製し、湿式プロセスによって有機膜を形成した場合、下層に対するインクのぬれ性が良好となる。また、上記インクから成形された上記有機膜に上層インクを塗布した場合、優れたぬれ性を得ることができる。すなわち、上記電荷輸送性ポリマーを使用することによって、下層へのインクの塗布時、及び得られる有機膜に対する上層インクの塗布時のぬれ性を、それぞれ改善することができるため、湿式プロセスによって、均一な膜厚を有する多層の有機膜を簡便に得ることができる。
【0020】
まずは、上記(I)を満たす実施形態について説明する。上記(I)において、炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)は、以下のとおりである。
[炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)]
炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)(以下、置換基(A)という)は、環を構成する炭素の数が7以上の飽和又は不飽和の脂環式化合物から水素原子を1個取り除いた構造を有する1価の置換基を含む。上記脂環式化合物において、環を構成する炭素原子に結合する水素原子の一部は、有機基Rで置換されていてもよい(但し、有機基Rは後述するカルボニル含有基を含まない)。上記有機基Rの一例として、アルキル基、アミノ基、ヒドロキシル基等が挙げられる。上記アルキル基は、直鎖又は分岐であることが好ましい。上記アルキル基の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
【0021】
上記置換基(A)において、脂環式構造の環を構成する炭素数は7~20が好ましく、7~16がより好ましく、7~12がさらに好ましい。脂環式構造の環を構成する炭素数が上記範囲内の場合、脂環式構造が熱的に安定であり、上層インクとのぬれ性をより向上することができる。なお、上記炭素数は、環を構成する炭素の数のみを意味し、上記有機基R(置換基)を構成する炭素の数は含まれない。
【0022】
上記置換基(A)において、脂環式構造は、単環構造であっても、多環構造であってもよい。上記脂環式構造が多環構造である場合、それらは、二環、又は三環であることが好ましい。
【0023】
一実施形態において、上記置換基(A)は、上記脂環式化合物の環を構成する炭素原子に結合する水素原子の1個を取り除いた構造を有する1価の置換基(A1)(以下、置換基(A1)という)であることが好ましい。上記置換基(A1)は、より具体的には、それぞれ環を構成する炭素数が7~20である、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基、からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記置換基(A1)は、環を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが上記有機基Rによって置換された構造を有してもよい。
【0024】
置換基(A1)の具体例は、以下のとおりである。
シクロアルキル基は、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、ビシクロウンデカン、デカヒドロナフタレン、ノルカラン(ビシクロ-[4.1.0]-ヘプタン)、ノルボルナン(ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン)、ビシクロ-[2.2.2]-オクタン、ビシクロ-[3.3.0]-オクタン、ビシクロ-[4.3.0]-ノナン、テトラヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン)、アダマンタン(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン)、ツイスタン(トリシクロ[4.4.0.03,8]デカン)等のシクロアルカンから誘導される、1価の基である。
シクロアルケニル基は、シクロヘプテン、シクロヘキサジエン(1,3-シクロヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン等)、シクロオクタジエン(1,5-シクロオクダジエン等)、シクロヘプタトリエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン等のシクロアルケンから誘導される、1価の基である。
シクロアルキニル基は、シクロオクチン等のシクロアルキンから誘導される、1価の基である。
【0025】
中でも、上記置換基(A1)は、炭素数7~20のシクロアルキル基であることが好ましい。上記炭素数は7~16がより好ましく、7~12がさらに好ましい。シクロアルキル基は、単環構造、又は多環構造を有して良いが、耐熱性向上の観点から多環構造を有することがより好ましい。多環構造のシクロアルキル基は、架橋構造を有するものであってもよい。このような観点から、炭素数7~20のシクロアルキル基の中でも、テトラヒドロジシクロペンタジエン、アダマンタン等の多環の架橋構造を有するシクロアルカンから誘導される1価の基がさらに好ましい。
【0026】
[カルボニル含有基を有する1価の置換基(C)]
上記(I)を満たす電荷輸送性ポリマーにおいて、カルボニル含有基を有する1価の置換基(C)(以下、置換基(C)という)は、電荷輸送性ポリマーの分子内に、上記置換基(A)とから独立して存在する。本実施形態において、置換基(C)は、一般式「-X-R1」で表される。ここで、式中、Xは、カルボニル含有基を表す。R1は、先に説明した炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)以外の1価の有機基である。例えば、有機基R1は、炭素数1~22個の直鎖又は分岐のアルキル基であってよい。
【0027】
[カルボニル含有基]
カルボニル含有基は、少なくともカルボニル(C=O)を含有する2価の連結基を意味する。より具体的には、上記置換基(C)は、一般式「-X-R1」において、Xとして下式(a)~(i)で表される2価の連結基の少なくとも1種を含む1価の置換基(C1)(以下、置換基(C1)という)であることが好ましい。
【0028】
【化2】
【0029】
式中、Rは、水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基を表す(但し、炭素数7以上の環状のアルキル基は除く)。上記アルキル基は直鎖又は分岐であることが好ましい。一実施形態において、上記Rは、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、1~4の直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0030】
一実施形態において、上記置換基(C1)は、一般式「-X-R1」において、Xが式(c)(エステル結合)であり、R1が炭素数1~22の直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましい。上記アルキル基の炭素数は、1~18が好ましく、1~12がより好ましく、1~8がさらに好ましい。
【0031】
次に、上記(II)を満たす実施形態について説明する。上記(II)を満たす電荷輸送性ポリマーは、炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる1価の置換基を含む。
すなわち、本実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、一般式「-X-A」で表される1価の置換基を含む。ここで、式中、Xは、カルボニル含有基を表し、先に示した式(a)~(i)で表される2価の連結基の少なくとも1種を含むことが好ましく、式(c)で表されるエステル結合であることがより好ましい。
また、式中、Aは、炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基を表し、上記実施形態において説明した1価の置換基(A)と同様である。
一実施形態において、カルボニル含有基と脂環式構造とは、直接結合していることが好ましい。すなわち、電荷輸送性ポリマーは、一般式「-X-A1」で表される1価の置換基を含むことが好ましく、式中、A1は、上記(I)を満たす実施形態において上述した1価の置換基(A1)と同様である。式中、A1は、炭素数7~20のシクロアルキル基であることが好ましく、多環構造を有するシクロアルキル基がより好ましい。
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、上記(I)及び(II)の双方を満たすものであってもよい。
【0032】
以上のように、電荷輸送性ポリマーは、少なくとも、(I)互いに独立して存在する、上記置換基(A)と上記置換基(C)とを有するか、又は(II)一般式「-X-A」で表される1価の置換基(以下、置換基CAという)を有する。
上記(I)又は上記(II)における各置換基は、電荷輸送性ポリマーを構成する末端の構造単位に存在しても、又はその他の構造単位に存在してもよく、その導入位置は特に限定されない。
一実施形態において、上記置換基(A)と上記置換基(C)、又は上記置換基(CA)は、少なくとも、それぞれ電荷輸送性ポリマーを構成する末端の構造単位に存在することが好ましい。一実施形態において、上記置換基(A)及び上記置換基(C)は、それぞれ別の構造単位に存在してもよい。例えば、上記置換基(A)及び上記置換基(C)の一方が電荷輸送性ポリマーを構成する末端の構造単位に存在し、他方がその他の構造単位に存在してもよい。
【0033】
後述する表面自由エネルギーの観点から、炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)又は上記置換基(CA)は、電荷輸送性ポリマーの少なくとも1つの末端に存在することが好ましい。上記有機基(A)又は上記置換基(CA)は、電荷輸送性ポリマーを構成するモノマー化合物の合成が容易であるという観点からも、末端を構成する構造単位における置換基として導入されることが好ましい。
【0034】
湿式プロセスで有機膜を形成し、その有機膜に上層を形成するインクを塗布して多層化を行う場合、上層インクとのぬれ性に影響を与える一因子として、有機膜の表面自由エネルギーが挙げられる。ここで、有機膜とは、ポリマーを用いて得られる乾燥膜又は硬化膜を意味する。すなわち、ポリマーを構成する構造単位が重合性官能基を有する場合には硬化膜を、重合性官能基を含まない場合には乾燥膜を、それぞれ意味する。本明細書においては、硬化膜及び乾燥膜をまとめて、有機膜又は膜と称す。また、本明細書において表面自由エネルギーは、以下のように規定される。
【0035】
[表面自由エネルギー]
表面自由エネルギーは、次の式(1)のとおり、Owens-Weldt法に基づき、極性成分と非極性成分の二成分の和として表される表面自由エネルギーである。
[式1]
表面自由エネルギー(γ)=極性成分(γ)+非極性成分(γ) (1)
【0036】
Youngの式により、接触角と表面自由エネルギーとの関係は、次の式(2)で表すことができる。ここで、添え字Lは溶液を、添え字Sは固体を示し、添え字SLは固体/液体界面を示し、θは接触角を示す。
[式2]
γS = γLS + γLcosθ (2)
【0037】
液体と固体のように2つの物質が接触する結果、減少するそれぞれの表面自由エネルギーは、下記式(3)で表されるように、対応する表面自由エネルギーの幾何平均の和として表すことができると仮定する。添え字p及びdは、それぞれ表面自由エネルギーの極性成分及び非極性成分を表す。
[式3]
上記式(2)と(3)からγLSを消去すると、下記式(4)が得られる。
[式4]
【0038】
上記式(4)から、既知の溶媒の接触角を測定して、膜の表面自由エネルギーを計算することができる。すなわち、ポリマー膜上に、水とジヨードメタンとの2種類の液滴を滴下し、それぞれの接触角を測定する。水は極性成分が51.0mJ/m、非極性成分が21.8mJ/mであり、ジヨードメタンは極性成分が1.3mJ/m、非極性成分が49.5mJ/mである。
したがって、2つの接触角を入れて連立方程式を解くことで、ポリマー膜の表面自由エネルギー(極性成分、非極性成分)を算出することができる。
【0039】
より詳細には、連立方程式は次の式(5)と(6)に示される。
[式5]
γLM(1+COSθ)/2=(γsp・γLpM0.5+(γsd・γLdM0.5 (5)
[式6]
γLW(1+COSθ)/2=(γsp・γLpW0.5+(γsd・γLdW0.5 (6)
ただし、式(5)及び式(6)中、
γLpM:ジヨードメタンの表面自由エネルギーの極性成分、
γLdM:ジヨードメタンの表面自由エネルギーの非極性成分、
γLM:ジヨードメタンの表面自由エネルギー(=γLpM+γLdM)、
θ:ポリマー膜上でのジヨードメタンの接触角、
γLpW:水の表面自由エネルギーの極性成分、
γLdW:水の表面自由エネルギーの非極性成分、
γLW:水の表面自由エネルギー(=γLpW+γLdW)、
θ:ポリマー膜上での水の接触角、
γsp:ポリマー膜の表面自由エネルギーの極性成分、
γsd:ポリマー膜の表面自由エネルギーの非極性成分、
をそれぞれ表す。
【0040】
表面自由エネルギーを向上させるためには、先に説明した極性成分及び非極性成分のいずれかを向上させる必要がある。極性成分は、酸塩基、双極子分極、及び水素結合による相互作用を高めることで向上できる。一方、非極性成分は、有機膜の結晶性、又は有機膜の密度を高めることで向上できる。
【0041】
一実施形態では、インクとのぬれ性を良好にする観点から、有機膜の表面自由エネルギーの非極性成分を高めることが好ましい。
本発明者らは、電荷輸送性ポリマーの分子内に特定の脂環式構造を導入した場合、有機膜の表面自由エネルギーの非極性成分が高くなることを見出した。これは、例えば、電荷輸送性ポリマーに上記置換基(A)又は置換基(CA)を導入した場合、ポリマーの末端に存在する脂環式構造を有する置換基同士が配向することによって有機膜の結晶性が向上するためと考えられる。
【0042】
一実施形態において、上層インクとのぬれ性を改善する観点から、有機膜の表面自由エネルギーの非極性成分は40mJ/m以上であることが好ましく、41mJ/m以上であることがより好ましく、41.5mJ/mであることがさらに好ましい。
また、極性成分の表面自由エネルギーと、非極性成分の表面自由エネルギーとの和は、42mJ/m以上であることが好ましく、42.5mJ/m以上であることがより好ましく、42.6mJ/m以上であることがさらに好ましい。
一方、一実施形態において、上記極性成分の表面自由エネルギーと、非極性成分の表面自由エネルギーとの和は、50mJ/m以下であることが好ましく、49mJ/m以下であることがより好ましく、48mJ/m以下であることがさらに好ましい。
有機膜を形成するインク材料として使用する電荷輸送性ポリマーに、上記置換基(A)又は上記置換基(CA)として脂環式構造を導入することによって、有機膜の表面自由エネルギーを適切に調整することが容易となる。電荷輸送性ポリマーは、上記置換基(A)又は上記置換基(CA)において、種類の異なる脂環式構造を含んでいてもよい。
【0043】
表面自由エネルギーの非極性成分を高める観点から、電荷輸送性ポリマーに含まれる上記置換基(A)又は上記置換基(CA)の割合は、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。電荷輸送性ポリマーが、上記置換基(A)及び上記置換基(CA)の双方を有する場合、上記割合は合計量を意味する。
一方、上層インクへの耐溶媒性を確保する観点からは、上記割合は、全構造単位を基準として、99.9モル%以下が好ましく、99.5モル%以下がより好ましく、99モル%以下がさらに好ましい。ここで、上記モル%は、例えば、分子内に上記置換基(A)を1つ含むモノマー化合物の場合、ポリマーを構成する各種モノマー化合物の合計量に対する、上記置換基(A)を含有するモノマー化合物の割合から算出される。なお、分子内に上記置換基を2つ含むモノマー化合物の場合、上記割合を2倍にした量となる。
【0044】
一実施形態において、電荷輸送性材料を含むインク組成物を、正孔注入層を形成する材料として使用する場合、ITO等の親水性電極に対してインク組成物が塗布される。正孔注入層に使用される材料の多くは疎水性であるが、本開示によれば、インク組成物中の電荷輸送性ポリマーがカルボニル含有基を含むことによって、ITO等の親水性電極との親和性を向上させることが容易となる。その結果、親水性電極とインク組成物とのぬれ性が改善され、均一な有機膜を得ることが容易となる。
【0045】
上記カルボニル含有基は、上記置換基(C)又は置換基(CA)として、電荷輸送性ポリマーの少なくとも1つの末端に導入されることが好ましい。上記置換基(C)又は上記置換基(CA)は、電荷輸送性ポリマーを構成するモノマー化合物の合成が容易であるという観点からも、末端に存在することが好ましい。具体的には、上記置換基(C)又は上記置換基(CA)は、電荷輸送性ポリマーの主鎖又は側鎖を構成する構造単位の置換基として存在してもよいが、電荷輸送性ポリマーの末端を構成する構造単位の置換基として存在することがより好ましい。
【0046】
上塗インクのぬれ性を改善する観点から、電荷輸送性ポリマーに含まれる上記置換基(C)又は置換基(CA)の割合は、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。電荷輸送性ポリマーが、上記置換基(C)及び置換基(CA)の双方を有する場合、上記割合は合計量を意味する。
【0047】
一方、上層インクへの耐溶媒性を確保する観点の観点からは、上記割合は、全構造単位を基準として、99.9モル%以下が好ましく、99.5モル%以下がより好ましく、99モル%以下がさらに好ましい。ここで、上記モル%は、例えば、分子内に置換基(C)を1つ含むモノマー化合物の場合、ポリマーを構成する各種モノマー化合物の合計量に対する、上記置換基(C)を含有するモノマー化合物の割合から算出される。なお、分子内に上記置換基(C)を2つ含むモノマー化合物の場合、上記割合を2倍にした量となる。
【0048】
以上のように、電荷輸送性材料を含むインク組成物において、炭素数7以上の脂環式構造と、カルボニル含有基とを有する電荷輸送性ポリマーを使用することによって、下層に対するインクのぬれ性、及び有機膜の上層インクとのぬれ性をそれぞれ向上することが可能となる。
一実施形態において、上記電荷輸送性材料及び該電荷輸送性材料を含むインク組成物は、正孔注入層材料として好適に使用することができる。本実施形態によれば、下層となるITO等の親水性電極に対して優れたぬれ性が得られ、かつ成膜後に得られる有機膜によって、上層を形成する正孔輸送層用インクとの優れたぬれ性を得ることもできる。このことにより、湿式プロセスによる多層化において、均一な膜厚を有する有機膜を形成することが可能となり、さらに各種素子特性の向上が可能となる。
【0049】
以下、電荷輸送性ポリマーの構造についてより具体的に説明する。
[電荷輸送性ポリマーの構造]
電荷輸送性ポリマーは電荷を輸送する能力を有する1種以上の構造単位を含む。電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと、末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含むことが好ましく、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bをさらに含むことがより好ましい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0050】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、構造単位L及び構造単位Tと、必要に応じて構造単位Bとを含み、ポリマー分子内に、(I)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)、及びカルボニル含有基を有する1価の置換基(C)を互いに独立して有するか、又は(II)炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基と、カルボニル含有基とが直接結合してなる1価の置換基(CA)を有していればよい。
【0051】
より具体的な実施形態として、電荷輸送性ポリマーは、式「-Ar-A」で表される構造部位と、式「-Ar-C」で表される構造部位との双方を含むことが好ましい。他の実施形態として、電荷輸送性ポリマーは、式「-Ar-X-A」で表される構造部位を少なくとも含むことが好ましい。式中、Arは、電荷輸送性ポリマーを構成する構造単位に含まれるアリーレン又はヘテロアリーレンを表わし、A、C、及びXは、先に説明したとおりである。
【0052】
一実施形態において、表面自由エネルギーの調整及びポリマー合成時の簡便さの観点から、ポリマーの末端を構成する構造単位Tに、上記置換基(A)と上記置換基(C)との組合せ、又は上記置換基(CA)を有することが好ましく、置換基(CA)を有することがより好ましい。ここで、Aは、上述したA1であることが好ましい。また、Cは、上述したC1であることが好ましい。
【0053】
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例としては、以下が挙げられるが、電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0054】
(直鎖状の電荷輸送性ポリマーの例)
【化3】
【0055】
(分岐構造を有する電荷輸送性ポリマーの例)
【化4】
【0056】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。
構造単位Lは、例えば、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、及びベンゾトリアゾール構造が挙げられる。なお、構造単位Lは、上記構造を2種以上有してもよい。
【0057】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造を含むことが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造を含むことがより好ましい。
他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造を含むことが好ましい。
【0058】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。但し、構造単位Lは、以下に限定されない。
【化5】
【0059】
【化6】
【0060】
上記構造単位中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。一実施形態において、Rは、先に説明した炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)、カルボニル含有基を有する1価の置換基(C)、及び炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる、式「-X-A」で表される1価の置換基(CA)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0061】
他の実施形態において、Rは、それぞれ独立に、-R、-OR、-SR、-SiR、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択することができる。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基(但し、炭素数7個以上の環状アルキル基は除く);又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。
アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アルキル基は、さらに、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、さらに、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい(但し、炭素数7以上の環状アルキル基は除く)。
Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基であることが好ましい。Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、アリーレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0062】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0063】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、6価以下が好ましく、3価又は4価がより好ましい。
構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び縮合多環式芳香族炭化水素構造が好ましい。
【0064】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。但し、構造単位Bは、以下に限定されない。
【化7】
【0065】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。
Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、さらに1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。
Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、構造単位LにおけるRが挙げられる。すなわち、一実施形態において、構造単位中、ベンゼン環及びArは、上述した炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)、カルボニル含有基を有する1価の置換基(C)、及び炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる式「-X-A」で表される1価の置換基(CA)の少なくとも1種を有してよい。
【0066】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。構造単位Tが構造単位Lと同じ構造を有していてもよい。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよい。
【0067】
構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。但し、構造単位Tは、以下に限定されない。
【化8】
【0068】
Rは、構造単位LにおけるRと同様であり、一実施形態において、Rは、上述した炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基(A)、カルボニル含有基を有する1価の置換基(C)、及び炭素数が7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる式「-X-A」で表される1価の置換基(CA)の少なくとも1種であってよい。
【0069】
電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、Rの少なくとも1つが、重合性官能基を含む基であることが好ましい。電荷輸送性ポリマーの末端部に重合性官能基を有する場合、得られる有機膜の耐溶媒性を高めることが容易となる。
一実施形態において、置換基(A)、置換基(C)、及び置換基(CA)の少なくとも1つと、重合性官能基とは、それぞれ独立した置換基として存在してよい。すなわち、上記置換基の構造に重合性官能基は含まれない。他の実施形態において、置換基(A)、置換基(C)、及び置換基(CA)は、それぞれ重合性官能基の構造を併せ持っていてもよい。
【0070】
(重合性官能基)
一実施形態において、重合反応により硬化させ、溶媒への溶解度を変化させる観点から、電荷輸送性ポリマーは、重合性官能基を少なくとも1つ有することが好ましい。「重合性官能基」とは、熱又は光の少なくとも一方を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0071】
重合性官能基としては、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。
重合性官能基としては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、又はオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。
【0072】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、重合性官能基を含まない、上記置換基(A)、上記置換基(C)、及び上記置換基(CA)の少なくとも1つを有する構造単位T1と、重合性官能基を含む構造単位T2とを有することが好ましい。一実施形態において、上記電荷輸送性ポリマーを含む電荷輸送性材料を使用することによって、下層に対するぬれ性に優れるインク組成物を形成することができる。また、上記インク組成物を使用することによって、上層インクとのぬれ性に優れる有機膜を形成することができ、さらに優れた硬化性を得ることが容易である。
より具体的には、構造単位T1は、先に示した構造(t)において、少なくとも1つのRが、重合性官能基を含まない、上記置換基(A)、上記置換基(C)、及び上記置換基(CA)の少なくとも1つである構造を有する。Rは、重合性官能基を含まない置換基(CA)であることがより好ましい。
一方、構造単位T2は、構造(t)において、少なくとも1つのRが、ビニル基、オキセタン基、及びエポキシ基からなる群から選択される重合性官能基である構造を有する。Rは、オキセタン基であることがより好ましい。
【0073】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性官能基とが、アルキレン鎖で連結されていることが好ましい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。さらに、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。重合性官能基としては、例えば、国際公開第2010/140553号に記載された重合性官能基を好適に用いることができる。
【0074】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0075】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0076】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、充分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0077】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、仕込み量を用いて求めた値を採用することが好ましい。
【0078】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶媒への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、5,000~40,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましく、14,000~25,000がさらに好ましい。
【0079】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶媒への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下がさらに好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、35,000~200,000が好ましく、40,000~100,000がより好ましく、46,000~70,000がさらに好ましい。
【0080】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0081】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、充分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましい。
【0082】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Tの割合は、充分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
【0083】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、充分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0084】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。 また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0085】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~5が好ましく、100:5~10がより好ましく、100:10~20がさらに好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80がさらに好ましい。一実施形態において、構造単位Tは、T1とT2との合計を意味する。
【0086】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、仕込み量を用いて求めた値を採用することが好ましい。
【0087】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0088】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0089】
[ドーパント]
電荷輸送性材料は、ドーパントをさらに含有してもよい。ドーパントは、電荷輸送性材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得る化合物であればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングでは、ドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングでは、ドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。
正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。電荷輸送性材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0090】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、例えば、FeCl、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr;プロトン酸としては、例えば、HF、HCl、HBr、HNO、HSO、HClO等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、AlCl、NbCl、TaCl、MoF;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF (ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF (テトラフルオロホウ酸イオン)、PF (ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして上記プロトン酸の共役塩基を有する塩;ハロゲン化合物としては、例えば、Cl、Br、I、ICl、ICl、IBr、IF;π共役系化合物としては、例えば、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)などが挙げられる。
また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。上記の中でも、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等が好ましく、イオン化合物がより好ましく、オニウム塩がさらに好ましい。オニウム塩とは、ヨードニウム及びアンモニウム等のオニウムイオンを含むカチオン部と、対するアニオン部とからなる化合物を意味する。
【0091】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、Li、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、LiF、CsCO等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩、金属錯体、電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0092】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合は、有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0093】
[他の任意成分]
電荷輸送性材料は、電荷輸送性の低分子化合物、他のポリマー等をさらに含有してもよい。
【0094】
[含有量]
電荷輸送性ポリマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、電荷輸送性材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0095】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、電荷輸送性材料の電荷輸送性を向上させる観点から、電荷輸送性材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。
また、成膜性を良好に保つ観点から、電荷輸送性材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0096】
<インク組成物>
一実施形態において、インク組成物は、上記実施形態の電荷輸送性材料と該材料を溶解又は分散し得る溶媒とを含有する。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0097】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。上記の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、又は芳香族エーテルが好ましい。一実施形態において、正孔注入層を形成するためのインク組成物を構成する溶媒は、芳香族炭化水素が好ましく、中でもトルエンがより好ましい。
【0098】
[重合開始剤]
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、インク組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、上記イオン化合物を使用することができる。一実施形態において、先に説明したオニウム塩を好適に使用することができる。具体例として、パーフルオロアニオンと、ヨードニウムイオン又はアンモニウムイオン等のカチオンとの塩が挙げられる。
【0099】
[添加剤]
インク組成物は、さらに、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0100】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対する電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
また、溶媒の含有量は、溶媒に対する電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0101】
<有機層>
一実施形態において、有機層は、上記実施形態の電荷輸送性材料又はインク組成物を用いて形成された層である。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0102】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0103】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、0.1nm以上が好ましく、1nm以上がより好ましく、3nm以上がさらに好ましい。
また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0104】
<有機エレクトロニクス素子>
一実施形態において、有機エレクトロニクス素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有することが好ましい。
【0105】
[有機EL素子]
一実施形態において、有機EL素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、有機層を発光層又は他の機能層として有することが好ましく、機能層として有することがより好ましく、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有することがさらに好ましい。
【0106】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、上記実施形態の有機層からなる正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
【0107】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため、ポリマーが好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0108】
上記蛍光材料としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレン-ベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物などが挙げられる。
【0109】
上記燐光材料としては、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。
Ir錯体としては、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)(ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。
Pt錯体としては、赤色発光を行うPtOEP(2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィリン白金)等が挙げられる。
【0110】
発光層が上記燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、さらにホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が挙げられる。
ポリマーとしては、上記実施形態の電荷輸送性材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0111】
熱活性化遅延蛍光材料としては、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0112】
[正孔注入層、正孔輸送層]
上記電荷輸送性材料を用いて形成された有機層を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として使用することが好ましく、少なくとも正孔注入層として使用することがより好ましい。有機EL素子が、上記電荷輸送性材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、さらに正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。また、有機EL素子が、上記電荷輸送性材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。
【0113】
正孔注入層及び正孔輸送層に用いることができる公知の材料としては、芳香族アミン系化合物(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(α-NPD)等の芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、チオフェン系導電性ポリマー(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等)などが挙げられる。
【0114】
一実施形態において、正孔注入層を形成するために、トリフェニルアミン構造を有する電荷輸送性ポリマーを含む電荷輸送性材料を使用することが好ましい。この場合、正孔の移動に関するエネルギー準位を考慮して、正孔輸送層を形成する材料として、上記電荷輸送性材料を好適に使用することができる。
特に限定するものではないが、正孔注入層の材料が重合開始剤を含み、かつ正孔輸送層の材料が電荷輸送性ポリマーとして、重合性官能基を有する分岐ポリマーを含む実施形態では、正孔輸送層を良好に硬化させることが可能である。
また、硬化後の有機膜からなる正孔輸送層に、上層インクを塗布することによって有機膜をさらに積層し、発光層等の他の層を形成することも可能となる。
【0115】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレン等の縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体などが挙げられる。また、上記実施形態の電荷輸送性材料も使用できる。
【0116】
[陰極]
陰極材料としては、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0117】
[陽極]
陽極材料としては、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0118】
[基板]
基板としては、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましい。また、フレキシブル性を有するフレキシブル基板が好ましい。具体的には、石英ガラス、光透過性の樹脂フィルム等が好ましい。
【0119】
樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0120】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0121】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため、好ましい。
【0122】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0123】
<表示素子、照明装置、表示装置>
一実施形態において、表示素子は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。
例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0124】
また、一実施形態において、照明装置は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。さらに、一実施形態において、表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして上記実施形態である照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とできる。
【0125】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0126】
1.電荷輸送性ポリマーの調製
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba)、73.2mg、80μmol)を秤取り、トルエン(16mL)を加え、30分間撹拌した。同様に、サンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、トルエン(4mL)を加え、5分間撹拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間撹拌し触媒とした。全ての溶媒は30分以上、窒素バブルにより脱気した後、使用した。
【0127】
<電荷輸送性ポリマー1>
三口丸底フラスコに、下記モノマーT1(4.0mmol)、下記モノマーL1(5.0mmol)、下記モノマーB1(2.0mmol)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(Alfa Aesar社製「アリコート336」)(0.03g)、水酸化カリウム(1.12g)、純水(5.54mL)、及びトルエン(50mL)を加え、先に調製したPd触媒トルエン溶液(1.0mL)を加えた。この混合物を2時間、加熱還流した。なお、ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。また、全ての溶媒は30分以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0128】
【化9】
【0129】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を吸引ろ過により回収し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、80℃で2時間にわたって撹拌した。撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物をろ過して取り除き、メタノールから再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。得られた電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量は13,600であり、重量平均分子量は72,800であった。
【0130】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L-6050 (株)日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 (株)日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成(株)
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業(株)
流速 :1mL/分
カラム温度 :室温(23℃)
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0131】
<電荷輸送性ポリマー2>
三口丸底フラスコに、上記モノマーL1(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、上記モノマーT1(1.0mmol)、下記モノマーT2(3.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー2の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー2の数平均分子量は14,800であり、重量平均分子量は46,200であった。
【化10】
【0132】
<電荷輸送性ポリマー3>
三口丸底フラスコに、上記モノマーL1(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、上記モノマーT1(1.0mmol)、下記モノマーT3(3.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー3の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー3の数平均分子量は24,700であり、重量平均分子量は49,100であった。
【化11】
【0133】
<電荷輸送性ポリマー4>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL2(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、上記モノマーT1(1.0mmol)、上記モノマーT2(3.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー4の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー4の数平均分子量は19,300であり、重量平均分子量は68,700であった。
【化12】
【0134】
<電荷輸送性ポリマー5>
三口丸底フラスコに、上記モノマーL1(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、上記モノマーT1(1.0mmol)、下記モノマーT4(3.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー5の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー5の数平均分子量は14,400であり、重量平均分子量は46,400であった。
【化13】
【0135】
<電荷輸送性ポリマー6>
三口丸底フラスコに、下記モノマーL3(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、上記モノマーT1(4.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー6の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー6の数平均分子量は21,100であり、重量平均分子量は53,200であった。
【化14】
【0136】
<電荷輸送性ポリマー7>
三口丸底フラスコに、上記モノマーL2(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、下記モノマーT5(4.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー7の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー7の数平均分子量は17,000であり、重量平均分子量は32,000であった。
【化15】
【0137】
<電荷輸送性ポリマー8>
三口丸底フラスコに、上記モノマーL1(5.0mmol)、上記モノマーB1(2.0mmol)、下記モノマーT6(4.0mmol)及びトルエン(50mL)を加え、さらに、先に調製したPd触媒溶液(1.0mL)を加えた。以降、電荷輸送性ポリマー1の合成と同様にして、電荷輸送性ポリマー8の合成を行った。得られた電荷輸送性ポリマー8の数平均分子量は22,200であり、重量平均分子量は61,100であった。
【化16】
【0138】
電荷輸送性ポリマー1~8の調製に使用したモノマーを以下の表1にまとめる。
【表1】
【0139】
注記:表中、添え字の(CA)は、構造単位内に炭素数7以上の脂環式構造を有する1価の置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる置換基を有することを示す。また、添え字の(C)は、構造単位内にカルボニル含有基を有する置換基を有することを示す。
【0140】
2.電荷輸送性ポリマーを含む電荷輸送性材料(インク組成物)の評価
(実施例1~3、及び比較例1~5)
先に調製した電荷輸送性ポリマー1~8を用い、以下に記載する各種評価を行った。
<ITO基板への成膜性評価>
表2に示すように、先に調製した電荷輸送性ポリマー1~8を用い、各ポリマー10mgを1.094mLのトルエンに溶解し、ポリマー溶液を得た。また、下記イオン化合物1(1.0mg)をトルエン500μLに溶解し、イオン化合物溶液を得た。得られたポリマー溶液と、イオン化合物溶液51μLとを混合し、各インク組成物を調製した。
【0141】
【化17】
各インク組成物を、室温(25℃)でITO基板上に滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートして有機膜を形成した。次いで、ホットプレート上で、ITO基板を210℃、30分間にわたって加熱した後、有機膜の透明性を目視により観察した。
一般に、下層に対するインクのぬれ性が低い場合、塗布時に下層表面でインクが充分に広がらず、塗布後に得られる有機膜は凹凸形状を有することになる。したがって、下層に対するインクのぬれ性が低い場合、面内で均一な厚さを有する有機膜を形成することは困難である。厚さが不均一である有機膜は、表面で光が散乱するため、透明性が低下する。このような観点から、有機膜の透明性を観察し、以下の基準に従い成膜性(ぬれ性)を評価した。
評価基準:
成膜性A:有機膜に濁りが見られず透明である。
成膜性B:有機膜に濁りが見られる。
【0142】
<インク組成物の溶解度変化(残膜率)の評価>
表2に示すように、先に調製した電荷輸送性ポリマー1~8を用い、各ポリマー10mgを1.094mLのトルエンに溶解し、ポリマー溶液を得た。また、上記イオン化合物1(1.0mg)をトルエン500μLに溶解し、イオン化合物溶液を得た。
得られたポリマー溶液と、イオン化合物溶液(51μL)とを混合し、塗布溶液(インク組成物)を調製した。インク組成物を、室温(25℃)で石英ガラス基板上に滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートし、有機膜を形成した。次いで、ホットプレート上で、石英ガラス基板を210℃で、30分間にわたって加熱し、有機膜を硬化させた。
その後、石英ガラス基板をピンセットで掴んで、トルエン(25℃)を満たした200mLビーカーに浸漬し、石英ガラス基板を、石英ガラス基板の厚み方向に10秒間に10往復振動させた。浸漬前後の有機膜のUV-visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、以下の式1に従い、有機膜(硬化膜)の残膜率を求めた。
(式1)
残膜率(%)=浸漬後の有機膜のAbs/浸漬前の有機膜のAbs×100
【0143】
吸光度の測定条件には、分光光度計((株)日立製作所製 U-3310)を用い、有機膜について300~500nmの波長範囲での極大吸収波長における吸光度を求めた。
【0144】
<表面自由エネルギーの測定>
先に調製した電荷輸送性ポリマー1~8を用い、各ポリマー10mgを1.094mLのトルエンに溶解し、ポリマー溶液を得た。また、上記イオン化合物1(1.0mg)をトルエン500μLに溶解し、イオン化合物溶液を得た。
得られたポリマー溶液とイオン化合物溶液(51μL)とを混合し、塗布溶液(インク組成物)を調製した。インク組成物を、室温(25℃)で石英ガラス基板上に滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートし、有機膜を形成した。次いで、ホットプレート上で、石英ガラス基板を210℃で、30分間にわたって加熱し、有機膜を硬化させた。
得られた各有機膜に、室温環境下で、ディスペンサーを用いて、純水、およびジヨウドメタンの液滴を形成した。3個の液滴を形成し、これを真横からCCDカメラで画像を取得し、接触角を測定し、平均値を求めた。
得られた値を所定の式(先に説明した式(5)及び式(6))に代入し、各有機膜の表面自由エネルギーの極性成分(mJ/m)と非極性成分(mJ/m)を計算した。これらの測定結果を表2に示す。
【0145】
<上層の成膜性評価>
残膜率測定時と同様の方法を用いITO基板上に第1の有機膜(正孔注入層)を形成した。次に、正孔輸送層材料として、10mgの電荷輸送性ポリマー8を、1.094mLのトルエンに溶解したポリマー溶液(インク)を得た。上記インクを、第1の有機膜の上にそれぞれ滴下し、3000rpmで60秒間にわたってスピンコートを行い、120℃で、10分間にわたって加熱することによって、膜厚40nmの第2の有機膜(正孔輸送層)を積層した。
【0146】
積層した第2の有機膜の表面を目視で観察し、その透明性から以下の基準に従い成膜性(ぬれ性)を評価した。
評価基準:
成膜性A:有機膜に濁りが見られず透明である
成膜性B:有機膜に濁りが見られる。
【0147】
【表2】
【0148】
表2に示されるとおり、炭素数7以上の脂環式構造を有する置換基とカルボニル含有基とが直接結合してなる置換基(CA)を有する電荷輸送性ポリマーを含むインク組成物(実施例1~3)は、ITO基板へのぬれ性が良好であり、成膜性に優れている。
また、得られた有機膜の表面自由エネルギー(和)はいずれも42mJ/m以上であり、非極性成分は41mJ/m以上であることから、上層インクとのぬれ性を向上させることが可能となる。さらに、上記インク組成物から得られる有機膜の残膜率が高いことから、有機膜は耐溶媒性に優れ、湿式プロセスによる多層化が容易となる。実際に、有機膜に対し正孔輸送層材料のインクを塗布し上層を形成したところ、良好に多層化を行うことができ、表2に示されるように、成膜性に優れる結果となった。
これに対し、炭素数7以上の脂環式構造を有する置換基と、カルボニル含有基を含む置換基との組合せを持たない電荷輸送性ポリマー(比較例1~5)では、ITO基板へのぬれ性と、上層インクとのぬれ性との双方を改善することは困難であった。より具体的には、比較例1~3では、ITO基板への成膜性は良好であったが、得られた有機膜の表面自由エネルギー(和)がいずれも42mJ/m以下であり、上層の成膜性に劣る結果となった。また、比較例4及び5では、下層のITO基板に対する成膜性、及び上層の成膜性の双方において劣る結果となった。
【0149】
以上のように、実施例によって本発明の実施形態の効果を示した。しかし、本発明によれば、実施例で用いた電荷輸送性ポリマーに限らず、本発明の範囲を逸脱しない限り、その他の電荷輸送性ポリマーを用いた場合であっても、先の実施例と同様に優れた特性を有する電荷輸送性材料を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0150】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板
図1