(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ガラス板
(51)【国際特許分類】
C03C 17/30 20060101AFI20220614BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20220614BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C03C17/30 B
C03C15/00 Z
C03C19/00 A
(21)【出願番号】P 2019525623
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2018023264
(87)【国際公開番号】W WO2018235808
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017120170
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】三代 均
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】玉田 稔
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋平
(72)【発明者】
【氏名】和田 直哉
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/095288(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/119453(WO,A1)
【文献】特開2010-070445(JP,A)
【文献】国際公開第2016/005216(WO,A1)
【文献】特表2015-530607(JP,A)
【文献】特表2016-505347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有し、
前記第1の主面にアンチグレア部と非アンチグレア部とを有し、
前記アンチグレア部および前記非アンチグレア部の粗さ曲線の要素の平均長さ(RSm)が、それぞれ1μm以上であり、前記アンチグレア部のRSmと、前記非アンチグレア部のRSmとの差が100μm以下であ
り、
前記アンチグレア部と前記非アンチグレア部とのガラス板の板厚方向における高さの差の絶対値が20μm以下である、ガラス板。
【請求項2】
可視光領域の透過光のヘイズ率が、前記アンチグレア部において2%以上40%以下、前記非アンチグレア部において2%未満である請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記非アンチグレア部の算術平均表面粗さ(Ra)が100nm未満である請求項1
または2に記載のガラス板。
【請求項4】
前記アンチグレア部の算術平均表面粗さ(Ra)が20nm以上である請求項1乃至
3の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項5】
前記非アンチグレア部の輪郭度が10mmあたり、0.5mm以下である請求項1乃至
4の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項6】
前記非アンチグレア部と前記第2の主面との平行度が20mmあたり、10μm以下である請求項1乃至
5の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項7】
前記非アンチグレア部と前記第2の主面との平面度が20mmあたり、10μm以下である請求項1乃至
6の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項8】
前記非アンチグレア部が、可視光透過性のインクの塗布により形成されている請求項1乃至
7の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項9】
前記第1の主面に、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成されている請求項1乃至
8の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項10】
前記第1の主面に、低反射膜及び含フッ素有機ケイ素化合物被膜がこの順に積層されている請求項1乃至
8の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項11】
前記アンチグレア部は、前記第1の主面に凹部を有し、
前記非アンチグレア部は、前記凹部に可視光透過性のインクが塗布されて形成されており、
前記凹部間の境界をなす凸部が、前記インクから表出している、請求項1乃至10の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項12】
前記非アンチグレア部が、カメラの前面に設けられる領域、指紋センサーが設けられる領域、または、センシングのための可視光もしくは電波が透過する領域として用いられる、請求項1乃至11の何れか一項に記載のガラス板。
【請求項13】
カバーガラスを備える表示装置であって、
前記カバーガラスが、請求項1乃至11の何れか一項に記載のガラス板であり、
前記非アンチグレア部が、カメラの前面に設けられる領域、指紋センサーが設けられる領域、または、センシングのための可視光もしくは電波が透過する領域として用いられる、表示装置。
【請求項14】
請求項1乃至12の何れか一項に記載のガラス板を製造する方法であって、
前記第1の主面にアンチグレア処理が施されたガラス板の前記第1の主面の一部に可視光透過性のインクを印刷して前記非アンチグレア部を形成する、ガラス板の製造方法。
【請求項15】
前記インクが、樹脂を含み、顔料および/または染料を含まない、請求項
14に記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)装置等の表示装置の表示面側には、該表示装置の保護のため、ガラスで構成されたカバーが配置される。しかしながら、表示装置上にこのようなガラス板を設置した場合、ガラス板を介して表示装置の表示画を視認しようとした際に、しばしば、周辺に置かれているものの映り込みが発生する場合がある。ガラス板にそのような映り込みが生じると、表示画の視認者は、表示画を視認することが難しくなる上、不快な印象を受けるようになる。
【0003】
そこで、このような映り込みを抑制するため、例えば、ガラス板の表面に、凹凸形状を形成するアンチグレア処理を施すことが試みられている。
【0004】
アンチグレア処理には、例えば、ガラス板表面をエッチングする(例えば、特許文献1参照。)、ガラス板表面に凹凸形状を有する膜を形成する(例えば、特許文献2参照。)等の手段が記載されている。
【0005】
LCD(Liquid Crystal Display)装置等が普及する中、新たな機能が要求されてきている。たとえば、自動車や電車などの運転手の居眠り対策として運転者の状態をカメラで監視するシステムなどがインストルメントパネル、特に運転者の前に設置されるメーター等を収納するクラスター等に搭載されることがあり、その場合、カバーとなるガラス板のうち、カメラ視野に当たる部分にはアンチグレア処理が不要となってきた。
【0006】
このようなアンチグレア処理が施された部位と施されていない部位とを備えたガラス板では、ガラス板上に異なる部位が存在することで、指で触った時のさわり心地が悪い、境界が目立つため外観が悪くなる等の問題が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/119453号
【文献】米国特許第8003194号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アンチグレア部と、非アンチグレア部とを有し、手触り感、および外観に優れたガラス板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係るガラス板は、第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有し、前記第1の主面にアンチグレア部と非アンチグレア部とを有し、前記アンチグレア部および前記非アンチグレア部の粗さ曲線の要素の平均長さ(RSm)が、それぞれ1μm以上であり、前記アンチグレア部のRSmと、前記非アンチグレア部のRSmとの差が100μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施の形態によれば、手触り感、および外観に優れた、アンチグレア部と、非アンチグレア部とを有するガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態のガラス板の一態様を模式的に表した斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるA-A´線に沿ってアンチグレア部と非アンチグレア部を含む領域を切断した断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態のガラス板の別の一態様を模式的に表した斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3におけるB-B´線に沿ってアンチグレア部と非アンチグレア部を含む領域を切断した断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の別の実施形態のガラス板の一態様を模式的に表した斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5におけるC-C´線に沿ってアンチグレア部と非アンチグレア部を含む領域を切断した断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の別の実施形態のガラス板の一態様を模式的に表した斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7におけるD-D´線に沿ってアンチグレア部と非アンチグレア部を含む領域を切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
本明細書において、特に断りが無い限り、AGとの用語はアンチグレアを意味し、非AGとの用語は非アンチグレアを意味する。
【0013】
本実施形態のガラス板について
図1を用いて説明する。
図1は本実施形態のガラス板を模式的に表した斜視図である。
図1に示すガラス板10Aにおいて、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。本実施形態のガラス板10Aは、第1の主面に、アンチグレア(AG)部20と、非アンチグレア(非AG)部30とを有する。
【0014】
本願明細書では、アンチグレア性の指標の一つとして、可視光領域の透過光のヘイズ率を用いる。以下、本明細書において、ヘイズ率と記載した場合、可視光領域の透過光のヘイズ率を指す。
【0015】
本実施形態のガラス板10Aでは、AG部20が非AG部30よりもヘイズ率が高い。AG部20のヘイズ率は2%以上40%以下であることが好ましい。ヘイズ率が2%以上であれば、光の映りこみを、防眩加工が施されていない基板に比べて目視で確認して有意に抑制できるが、40%より大きいと光を乱反射するようになり、表示装置のカバー部材やタッチパネルと一体化した基板として用いた場合に、表示装置の表示の視認性を低下させる可能性がある。
AG部20のヘイズ率は、2%以上35%以下がより好ましく、3%以上30%以下がさらに好ましい。
一方、非AG部30のヘイズ率は0.01%以上2%未満であることが好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。ヘイズが2%未満であると防眩効果が認められず、ガラス板を通して見ても視界が良好となる。ヘイズ率0.01%未満にするためには、徹底した製造工程のクリーン化が必要である。ヘイズ率0.01%以上とすることにより、製造コストを低減できる。
【0016】
上記のAG部20は、ガラス板の第1の主面の表面に表面処理を施して、凹凸形状を形成することによって形成できる。
【0017】
図2は、
図1におけるA-A´線に沿ってAG部20と非AG部30を切断した断面図である。
図2において、AG部20では、ガラス板10Aの第1の主面に微細な凹部12が多数形成されて凹凸形状をなしている。一方、非AG部30では、この凹部12に可視光透過性のインク40が塗布されて、凹部間の境界をなす凸部がわずかに表出している。
【0018】
本実施形態のガラス板では、非AG部30が平坦面ではなく、凹部12間の境界をなす凸部が第1の主面から表出していることにより、ガラス板10Aの第1の主面に、防汚膜、低反射膜等の各種機能膜を形成することが容易になる。また、各種機能膜を形成した際に、光学特性にぶれが生じにくい。
さらに各種機能膜を形成しない場合も、AG部20と、非AG部30とで手触り感に差が生じにくい。
【0019】
図2に示すAG部20は、例えば、物理的或いは化学的な表面処理により、ガラス板10Aの第1の主面に微細な凹部12を多数形成することにより、第1の主面を凹凸形状としたものである。上記の目的で実施する表面処理としては、たとえば、ガラス板10Aの第1の主面にフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合溶液、あるいは、フッ化水素酸とフッ化カリウムの混合溶液等に、被処理体であるガラス板10Aの第1の主面を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することでできる。特に、フッ化水素酸等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理面にマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じ難いため、ガラス板10Aの第1の主面に微細な凹部12を多数形成する表面処理方法として好ましく利用できる。
【0020】
また、このような化学的処理による方法以外にも、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉、酸化アルミニウム粉等を加圧空気でガラス板10Aの第1の主面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉、酸化アルミニウム粉等を水に分散させ、加圧空気でガラス板10Aの第1の主面に吹きつけるいわゆるウェットブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉、酸化アルミニウム粉等を付着させたブラシを水で湿らせたもので磨く等の物理的な表面処理方法も、ガラス板10Aの第1の主面に微細な凹部12を形成するための表面処理方法として利用できる。
【0021】
このようにして、ガラス板10Aの第1の主面に微細な凹部12を多数形成した後に、表面形状を整えるために、ガラス板10Aの第1の主面を化学的にエッチングしてもよい。こうすることで、エッチング量によりヘイズ率を所望の値に調整でき、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またギラツキを抑えることができる。
【0022】
エッチングとしては、フッ化水素酸を主成分とする溶液に、被処理体であるガラス板を浸漬する方法が好ましく用いられる。フッ化水素酸以外の成分としては、塩酸、硝酸、クエン酸などを含有してもよい。これらを含有することで、ガラスに入っているアルカリ成分とフッ化水素とが反応して析出反応の局所的発生を抑えることができ、エッチングを面内均一に進行させることができる。
【0023】
図2では、ガラス板10Aの第1の主面に多数の凹部12を形成して、第1の主面を凹凸形状にしているが、本実施形態のガラス板はこれに限定されない。
【0024】
図3は、本実施形態の別の一態様のガラス板を模式的に表した斜視図である。
図3に示すガラス板10Bにおいて、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。ガラス板10Bは、第1の主面に、AG部20と、非AG部30とを有する。
図3はガラス板10Bの第1の主面に微細な凸部13を多数形成したものであって、AG部20および非AG部30のヘイズ率は、ガラス板10Aについて記載した範囲と同様である。
【0025】
図4は、
図3におけるB-B´線に沿ってAG部20と非AG部30を切断した断面図である。
図4に示すAG部20は、表面処理により、ガラス板10Bの第1の主面に微細な凸部13を多数形成することにより、第1の主面を凹凸形状としたものである。上記の目的で実施する表面処理としては、第1の主面にシリカを主成分とする微粒子を含有する塗布液を塗布する方法が挙げられる。本明細書中において、シリカを主成分とするとは、SiO
2を50質量%以上含むことを意味し、より好ましくは90質量%以上含む。
シリカを主成分とする微粒子は、シリカ以外の成分を少量含んでもよい。その成分としては、Li、B、C、N、F、Na、Mg、Al、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Y、Zr、Nb、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pt、Au、Biおよびランタノイド元素からなる群より選ばれる1つもしくは複数のイオンおよび/または酸化物等の化合物が挙げられる。
また、シリカを主成分とする微粒子は、中実粒子であってもよく、中空粒子であってもよい。
【0026】
図4に示す非AG部30では、ガラス板10Bの第1の主面に設けられた凸部13間の境界をなす凹部12に可視光透過性のインク40が塗布されており、凸部13の上部のみがわずかに第1の主面から表出している。なお、
図4では、インク40が他の構成要素との識別を容易にするため黒色で示されているが、可視光透過性のインクである。
【0027】
図5は、本実施形態の別の一態様のガラス板を模式的に表した斜視図である。
図5に示すガラス板10Cにおいて、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。ガラス板10Cは、第1の主面に、AG部20と、非AG部30とを有する。AG部20および非AG部30のヘイズ率は、ガラス板10Aについて記載した範囲と同様である。
【0028】
図6は、
図5におけるC-C´線に沿ってAG部20と非AG部30を切断した断面図である。
図6に示すガラス板10CのAG部20は、ガラス板10Aに施した表面処理と同様の方法によって、ガラス板10Cの第1の主面に凹凸形状を形成したものである。一方、本実施形態の非AG部30は、領域全体にわたって、可視光透過性のインク40がガラス板10Cの表面を覆っており、凹部12間の境界をなすガラス板10Cの表面の凸部13が表出していない。また、非AG部30は、図示しないが、ガラス板10Cの表面の凹凸に倣って多少の凹凸を有する。
【0029】
本実施形態のガラス板では、非AG部30において、領域全体が可視光透過性のインク40で覆われていることが以下の理由から好ましい。ガラス板10C表面の凹部12のみに可視光透過性のインクを塗布する場合と比べて、可視光透過性のインクの膜厚を厚くすることができ、表面形状の制御が容易である。とくに、粗さ曲線の要素の平均長さ(RSm)と、算術平均表面粗さ(Ra)を所望の範囲に制御することができる。また、非AG部30の領域全体が可視光透過性のインク40で覆われていることにより、表面反射率を均一にすることができ、非AG部にカメラを内蔵する場合には、カメラ視野の明るさの均一性を向上できる。
【0030】
図7は、本実施形態の別の一態様のガラス板を模式的に表した斜視図である。
図7に示すガラス板10Dにおいて、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。ガラス板10Dは、第1の主面に、AG部20と、非AG部30とを有する。AG部20および非AG部30のヘイズ率は、ガラス板10Aについて記載した範囲と同様である。
【0031】
図8は、
図7におけるD-D´線に沿ってAG部20と非AG部30を切断した断面図である。
図8に示すガラス板10DのAG部20は、ガラス板10Bに施した表面処理と同様の方法によって、ガラス板10Dの第1の主面の表面に凹凸形状を形成できる。一方、本実施形態の非AG部30は、領域全体にわたって、可視光透過性のインク40がガラス板10Dの表面を覆っており、凸部13が表出していない。また、非AG部30は、図示しないが、ガラス板10Dの表面の凹凸に倣って多少の凹凸を有する。
【0032】
本実施形態のガラス板では、非AG部30において、領域全体が可視光透過性のインク40で覆われていることが以下の理由から好ましい。凸部13間の境界をなす凹部12のみに可視光透過性のインクを塗布する場合と比べて、可視光透過性のインクの膜厚を厚くすることができ、表面形状の制御が容易である。とくに、粗さ曲線の要素の平均長さ(RSm)と、算術平均表面粗さ(Ra)を所望の範囲に制御することができる。また、非AG部30の領域全体が可視光透過性のインク40で覆われていることにより、表面反射率を均一にすることができ、非AG部にカメラを内蔵する場合には、カメラ視野の明るさの均一性を向上できる。
【0033】
ガラス板10A、10B、10C、10Dにおいて、非AG部30を形成する目的でガラス板10A、10B、10C、10Dの第1の主面に塗布されるインクは可視光透過性のインクである限り特に限定されず、無機系でも有機系であってもよい。
無機系のインクとしては例えば、SiO2、ZnO、B2O3、Bi2O3、Li2O、Na2O、及びK2Oからなる群より選択される1種以上、CuO、Al2O3、ZrO2、SnO2、及びCeO2からなる群より選択される1種以上、Fe2O3、及びTiO2を含む組成物であってもよい。
【0034】
有機系のインクとしては樹脂を溶剤に溶解した種々のインクを使用できる。例えば、樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、オレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリウレタンポリエール等の樹脂を選択して用いるようにしてよい。前記した樹脂は透明であることが好ましい。
これらインクの溶媒としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤を用いてもよい。例えば、アルコール類としては、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等を使用でき、エステル類としては酢酸エチル、ケトン類としてはメチルエチルケトンを使用できる。また、芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等を用いることができ、脂肪族炭化水素系溶剤としてはヘキサン等を使用できる。なお、これらは例として挙げたものであり、その他、種々のインクを使用できる。
これらインクは、可視光透過性を損なわない限り、顔料や染料といった着色剤を含んでいてもよいが、これらの着色剤を含まないことが好ましい。
【0035】
ガラス板10A,10B,10C,10Dの第1の主面に可視光透過性のインクを塗布する手段は特に限定されないが、第1の主面に可視光透過性のインクを印刷することが好ましい。印刷方法としては、例えば、スプレー印刷やスクリーン印刷を使用できる。
【0036】
本実施形態において、ガラス板10の板厚方向における高さに着目した場合、AG部20と、非AG部30とのガラス板10A、10B、10C、10Dの板厚方向における高さの差の絶対値hが20μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、AG部20と、非AG部30とのガラス板10A、10B、10C、10Dの板厚方向における高さの差の絶対値hとは、AG部20において高さが最も高い部位と、非AG部30において高さが最も低い部位との高さの差を指す。AG部20における高さが最も高い部位を基準として、非AG部30において高さが最も低い部位が前記最も高い部位よりも高い場合は負の値で、非AG部30において高さが最も低い部位が前記最も高い部位よりも低い場合は正の値で、算出され、この絶対値を前記高さの差の絶対値hとする。
【0037】
高さの差の絶対値hが20μm超だと、指で触った時のさわり心地が悪くなり手触り感が悪化する。また境界が目立つため外観が悪くなる。これに対し、高さの差の絶対値hが20μm以下であることにより、AG部20と非AG部30とを第1の主面に有しているにもかかわらず、手触り感、および外観を良好にできる。
高さの差の絶対値hは10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
高さの差の絶対値hは、非AG部形成のプロセスを安定化させるため、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
なお、ガラス板10A、10Bにおける非AG部30では、凹部12間の境界をなす凸部13のみがわずかに第1の主面から表出する。ガラス板10C、10Dにおける非AG部30では、領域全体が可視光透過性のインク40で覆われている。いずれの場合においても、高さの差の絶対値hは0μm超である。
【0038】
本実施形態では、AG部20および非AG部30の表面性状を特定するのに、これらの部位における粗さ曲線の要素の平均長さ(RSm)と、算術平均表面粗さ(Ra)を用いる。
本実施形態において、AG部20および非AG部30におけるRSmがそれぞれ1μm以上である。すなわち、AG部20について測定したRSmが1μm以上であり、かつ非AG部30について測定したRSmが1μm以上である。AG部20および非AG部30におけるRSmがそれぞれ1μm以上であることが好ましい理由は以下に記載する通りである。
【0039】
RSmが1μm未満である場合、ガラス板表面に指で触れた際、指とガラス板表面とが面接触となり、抵抗が大きくなり、その結果、指ざわり性が損なわれるおそれがある。一方、RSmが1μm以上であれば、指とガラス板表面とが点接触となり、指がガラス板の抵抗を感じにくくなる。
AG部20のRSmは、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、AG部20のRSmは、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。
非AG部30のRSmは5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、非AG部30のRSmは、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、60μm以下が特に好ましい。
【0040】
本実施形態において、AG部20におけるRSmと、非AG部30におけるRSmとの差が100μm以下である。
両者のRSmの差が上記範囲であることが好ましい理由は以下に記載する通りである。
RSmの差が100μm超では、AG部と非AG部での光の散乱性が顕著に異なり、これらが見た目において顕著な差異が生じる。その結果、ガラス板のデザイン性を損なうおそれがある。RSmの差を100μm以下とすることによって、AG部と非AG部での光の散乱性の差異を低減できる。また、AG部と非AG部での手触り感の差異を低減できる。
両者のRSmの差は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。なお、RSmの差の下限は、1μm以上が好ましい。
【0041】
非AG部30は、例えば、本実施形態のガラス板が携帯用電子機器のカバーガラスに使用する場合には、カメラの前面に設けられる領域や指紋センサーが設けられる領域、その他のセンサー用の保護部材として使用する場合には、センシングのための可視光や電波が透過する領域に設けられるものである。そのため、本実施形態では、非AG部30はRaが100nm未満であることが、カメラ機能、指紋センサー機能等に支障となることがないため好ましく、40nm未満であることがより好ましく、20nm未満であることがさらに好ましく、15nm未満であることが特に好ましい。また、非AG部30のRaは、3nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、7nm以上がさらに好ましい。
一方、AG部20はRaが20nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。Raが20nm以上であれば、AG部の防眩性能を十分に発揮できる。
【0042】
本実施形態において、AG部20と、非AG部30との境界は、平滑な線であることが外観上好ましい。そのため、AG部20と、非AG部30との境界をなす非AG部30の輪郭度が10mmあたり、0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。
なお、本明細書における輪郭度は、JISB-0621(2001)の線の輪郭度に準ずる。
【0043】
上述したように、非AG部30は、例えば、本実施形態のガラス板の用途により、カメラの前面に設けられる領域や指紋センサーが設けられる領域、センシングのための可視光や電波が透過する領域に設けられる。そのため、非AG部30と、第2の主面との平行度や平面度が低いと、ガラス板10の外観が悪化する、非AG部30の光学特性が悪化する等の問題が生じる。
本実施形態において、非AG部30と、第2の主面との平行度が20mmあたり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。
非AG部30と、第2の主面との平行度は、非AG部形成のプロセスを安定化させるため、20mmあたり、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
本実施形態において、非AG部30と、第2の主面との平面度が20mmあたり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。
非AG部30と、第2の主面との平面度は、非AG部形成のプロセスを安定化させるため、20mmあたり、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
なお、本明細書における平行度、および平面度は、JISB-0621(2001)の平行度、平面度に準ずる。
【0044】
上述したように、本実施形態における非AG部30は、可視光透過性のインク40を塗布して形成されるため、非AG部30は可視光透過性が良好である。具体的には、非AG部30は、可視光透過率が88%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、92%以上であることが特に好ましい。
【0045】
本実施形態において、ガラス板10A、10B、10C、10Dの第1の主面に各種機能膜が形成されていてもよい。この目的で形成する機能膜の一例としては、防汚膜が挙げられる。防汚膜は、例えば、含フッ素有機ケイ素化合物をガラス板の第1の主面上に被膜形成できる。被膜の形成に用いる含フッ素有機ケイ素化合物としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与するものであれば特に限定されず使用できる。例えば、市販されているポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素有機ケイ素化合物として、KP-801(信越化学工業株式会社製の商品名)、KY-178(信越化学工業株式会社製の商品名)、KY-130(信越化学工業株式会社製の商品名)、KY-185(信越化学工業株式会社製の商品名)、オプツ-ル(登録商標)DSXおよびオプツールAES(ダイキン工業株式会社製、いずれも商品名)、S-550(旭硝子株式会社製の商品名)などが好ましく使用できる。含フッ素有機ケイ素化合物被膜の膜厚は特に限定されないが、1~20nmであることが好ましく、2~10nmであることがより好ましい。
【0046】
本実施形態のガラス板10A、10B、10C、10Dは含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成するうえで好ましい特性を有する。
AG部20と非AG部30との板厚方向における高さの差の絶対値hが大きいと、AG部20と非AG部30との境界において含フッ素有機ケイ素化合物の凝集が発生する可能性が高まる。含フッ素有機ケイ素化合物が凝集すると境界において含フッ素有機ケイ素化合物の疎水基同士が結合してしまい、防汚剤としての機能が損なわれるおそれがある。加えて、含フッ素有機ケイ素化合物が凝集することによる外観の低下も懸念される。
本実施形態では、AG部20と、非AG部30とのガラス板10A,10B,10C,10Dの板厚方向における高さの差の絶対値hが20μm以下であるため、ガラス板10A,10B,10C,10Dの第1の主面に含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成した際に、AG部20と非AG部30との境界において、含フッ素有機ケイ素化合物の凝集が発生する可能性が低く、上記の問題が生じにくい。
【0047】
また、上記の目的で形成する機能膜の別の一例としては、低反射膜が挙げられる。低反射膜の材料は特に限定されるものではなく、反射を抑制できる材料であれば各種材料を利用できる。例えば低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とすることができる。
【0048】
高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
十分な反射防止性能とするためには、低反射膜は複数の膜(層)が積層された積層体であることが好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上6層以下の膜が積層されていることが好ましく、2層以上4層以下の膜が積層されていることがより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層と低屈折率層との層の数の総計が上記範囲であることが好ましい。
【0049】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されるものではなく、要求される反射防止の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化タンタル(Ta2O5)から選択された1種以上を好ましく利用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)を好ましく利用できる。高屈折率層としては生産性や、屈折率の程度から、特に酸化ニオブを好ましく利用できる。このため、低反射膜は、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体であることがより好ましい。膜厚としては40nm以上500nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以上300nm以下である。
【0050】
ガラス板10A、10B、10C、10Dの第1の主面に、含フッ素有機ケイ素化合物被膜と、低反射膜の両方を形成してもよい。この場合、第1の主面側から、低反射膜、および含フッ素有機ケイ素化合物被膜の順に積層させる。
【0051】
(実施例)
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例1~6が実施例であり、例7~11は比較例である。
【0052】
(1)試料作製
[例1]
以下の手順により、本実施形態のガラス板を製造した。
本例では、ガラス板として強化していないアルミノシリケートガラス(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mmを用いた。
【0053】
まず、耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のAG部を形成しない側の主面に貼合した。
次いで、以下の手順でアンチグレア処理を行い、ガラス板にAG部を形成した。
ガラス板を、3質量%のフッ化水素酸溶液に3分浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に付着した汚れを除去するとともに、前加工としてガラス板の厚みを10μm除去した。さらに、ガラス板を8質量%フッ化水素酸と8質量%フッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に対してフロスト処理を行い、ガラス板の主面に微細な凹部を多数形成した。フロスト処理後のガラス板を、10質量%のフッ化水素酸溶液に3分間浸漬(エッチング時間4分)することで、ヘイズ率を15%に調整した。
【0054】
その後、保護フィルムを剥がし、ガラス板を、450℃に加熱した硝酸カリウムの溶融塩に1時間浸漬し、その後、ガラス板を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷した。これにより、ガラス板の化学強化処理を行った。
【0055】
次に、ガラス板のアンチグレア処理を行った側の主面に、可視光透過性のインク(株式会社セイコーアドバンス製、商品名:HF-GV3 RX01-800メジューム)を、スクリーン印刷機を用いてスクリーン印刷法でφ10mmの円形状となるように1層塗布した。可視光透過性のインクを塗布した後、150℃で30分間保持して硬化させて、ガラス板の主面に非AG部を形成した。
例1のガラス板は、アンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0056】
[例2]
アンチグレア処理を以下のように行ったこと以外は、例1と同様にしてガラス板を得た。
ガラス板を、3質量%のフッ化水素酸溶液に3分浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に付着した汚れを除去するとともに、前加工としてガラス板の厚みを10μm除去した。さらに、ガラス板を8質量%フッ化水素酸と8質量%フッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に対してフロスト処理を行い、ガラス板の主面に微細な凹部を多数形成した。フロスト処理後のガラス板を、10質量%のフッ化水素酸溶液に2分間浸漬(エッチング時間3分)することで、ヘイズ率を25%に調整した。
次に、可視光透過性インクをスクリーン印刷で2層だけ塗布すること以外は、例1と同様にしてガラス板の主面に非AG部を形成した。
例2のガラス板は、アンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0057】
[例3]
例1と同様の方法で化学強化したガラス板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mm)を用いた。このガラス板に対して、以下の手順でスプレーアンチグレア処理を実施した。
ガラス板の表面を炭酸水素ナトリウム水で洗浄した後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。次に、ガラス板を表面温度が80℃になるようにオーブンで加熱し、中空シリカ微粒子分散液をスプレー法にて、スプレー圧力:0.4MPa、塗布液量:7mL/分、ノズル移動速度:750mm/分、スプレーピッチ:22mm、ノズル先端とガラス板との距離:115mm、液滴径:6.59μmで塗布して、ガラス板の主面に微細な凸部を多数形成した。塗布量は、凸部の高さが10μmとなる量とした。
【0058】
次に、ガラス板のスプレーアンチグレア処理を行った側の主面に、例2と同様にして可視光透過性のインクを塗布し、硬化させて、ガラス板の主面に非AG部を形成した。
例3のガラス板は、スプレーアンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0059】
[例4]
スプレーアンチグレア処理の条件を以下に変更すること以外は例3と同様にしてガラス板を得た。
ガラス板の表面を炭酸水素ナトリウム水で洗浄した後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。次に、ガラス板を表面温度が80℃になるようにオーブンで加熱し、中空シリカ微粒子分散液をスプレー法にて、スプレー圧力:0.4MPa、塗布液量:7mL/分、ノズル移動速度:500mm/分、スプレーピッチ:22mm、ノズル先端とガラス板との距離:115mm、液滴径:6μmで塗布して、ガラス板の主面に微細な凸部を多数形成した。塗布量は、凸部の高さが10μmとなる量とした。
例3と同様にして、可視光透過性のインクを塗布し、硬化させて、ガラス板の主面に非AG部を形成した。
例4のガラス板は、スプレーアンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0060】
[例5]
本例では、強化していないガラス板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mm)を用いた。
このガラス板の一方の主面に、次のようにしてアンチグレア処理を行った。まず、AG部を形成する側の主面に、ウェットブラスト装置(マコー株式会社製、装置名:W8MN-Q062 Jr.TypeII)を用いて、ウェットブラスト処理を実施した。砥粒にはホワイトアルミナ粒子(#2000)を使用し、圧力は0.25MPaとした。次に、耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のAG部を形成しない側の主面に貼合した後、10質量%フッ化水素酸溶液に浸漬し、深さ43μmを目標としてエッチングした。
その後、保護フィルムを剥がし、ガラス板を、450℃に加熱した硝酸カリウムの溶融塩に1時間浸漬し、その後、ガラス板を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷した。これにより、ガラス板の化学強化処理を行った。
【0061】
次に、ガラス板のアンチグレア処理を行った側の主面に、可視光透過性のシリコーン系インクを、スクリーン印刷機を用いてスクリーン印刷法でφ10mmの円形状となるように1層塗布した。可視光透過性のインクを塗布した後、200℃で60分間保持して硬化させて、ガラス板の主面に非AG部を形成した。
例5のガラス板は、アンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0062】
[例6]
アンチグレア処理を以下のように行ったこと以外は、例5と同様にしてガラス板を得た。まず、AG部を形成する側の主面に、ウェットブラスト装置(マコー株式会社製、装置名:W8MN-Q062 Jr.TypeII)を用いて、ウェットブラスト処理を実施した。砥粒にはホワイトアルミナ粒子(#1500)を使用し、圧力は0.25MPaとした。次に、耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のAG部を形成しない側の主面に貼合した後、10質量%フッ化水素酸溶液に浸漬し、深さ38μmを目標としてエッチングした。
次に、例5と同様にしてガラス板の化学強化処理を行い、次に、例5と同様にして可視光透過性のインクを塗布し、硬化させて、ガラス板の主面に非AG部を形成した。
例6のガラス板は、アンチグレア処理を行った側の主面のうち、可視光透過性のインクを塗布した部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0063】
[例7]
耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のAG部を形成する側の主面のほぼ中央部にφ20mmに切り出した保護フィルムを貼った状態で例1と同様の手順でアンチグレア処理、および化学強化処理を実施した。
【0064】
次いで、このガラス板を、3質量%のフッ化水素酸溶液に3分浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に付着した汚れを除去するとともに、前加工としてガラス板の厚みを10μm除去した。さらに、ガラス板を8質量%フッ化水素酸と8質量%フッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬し、ガラス板の保護フィルムを貼合していない側の主面に対してフロスト処理を行った。フロスト処理後のガラス板を、10%フッ化水素酸溶液に3分間浸漬(エッチング時間4分)することで、ヘイズ率を15%に調整した。
例7のガラス板は、アンチグレア処理を施した側の主面のうち、φ20mmの保護フィルムを貼った中央部が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0065】
[例8]
例1と同様の手順でアンチグレア処理を実施した後、アンチグレア処理を施した面のほぼ中央部を、φ5mmの円錐形形状の研磨砥石、ヌープ硬度が3000の酸化セリウムの研磨砥粒を用いて研磨を行い、φ20mmの範囲を15μmの深さでアンチグレア処理を施した面の除去を行った。その後、例1と同様に化学強化を行った。
例8のガラス板は、アンチグレア処理を施した側の主面のうち、研磨を行った部分が非AG部で、非AG部以外の部分がAG部である。
【0066】
[例9]
例1と同様の手順でアンチグレア処理を実施した後、アンチグレア処理を施した面のほぼ中央部のφ20mmの範囲を除き、保護フィルムを貼り、#10000のセラミックス砥粒を用いてテープで研磨を行い12μmの深さでアンチグレア処理を施した面の除去を行った。その後、例1と同様に化学強化を行った。
例9のガラス板は、アンチグレア処理を施した側の主面のうち、保護フィルムを貼らなかったφ20mmの中央部がAG部で、AG部以外が非AG部となる。
【0067】
[例10]
耐酸性の保護フィルムを、ガラス板のAG部を形成する側の主面のほぼ中央部にφ20mmに切り出した保護フィルムを貼った状態で例3と同様の手順でスプレーアンチグレア処理、および化学強化処理を実施した。
例10のガラス板は、スプレーアンチグレア処理を施した側の主面のうち、φ20mmの保護フィルムを貼った中央部が非AG部で、非AG部以外がAG部となる。
【0068】
[例11]
例1と同様の手順でアンチグレア処理、および化学強化を実施した後、ガラス板のアンチグレア処理を行った側の主面に、φ10mmの円形に加工した透明フィルムを貼り付けて非アンチグレア(AG)部を形成した。
例11のガラス板は、ガラス板のアンチグレア処理を行った側の主面のうち、透明フィルムを貼り付けた部が非AG部で、非AG部以外がAG部となる。
【0069】
(2)評価方法
上記の例1~11で作製したガラス板の特性評価方法について以下に説明する。
【0070】
(表面形状の測定)
例1~11で作製したガラス板について、AG部および非AG部を有する側の表面形状を、表面粗さ・輪郭形状測定器(株式会社東京精密製、商品名SURFCOM)にて測定して平面プロファイルを得た。そして、得られた平面プロファイルから、JIS B 0601(2001)に基づいて、AG部と非AG部との高さの差の絶対値h、AG部および非AG部のRaおよびRSmを得た。
【0071】
(ヘイズ率)
例1~11で作製したガラス板について、AG部および非AG部における透過へイズ率(%)の測定を行った。ヘイズ率の測定は、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製、商品名:HZ-V3)を用いて行った。
【0072】
(輪郭度)
例1~11で作製したガラス板について、CNC画像測定システム(株式会社ニコンインストルメント製、型式:CNC画像測定システムNEXIV VMR-10080)を用いて、非AG部の輪郭度の測定を行った。
【0073】
(平行度)
例1~11で作製したガラス板について、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:レーザー変異計LK-GD500)を用い、Cut Off:0.8~8mmとして、非AG部と第2の主面(AG部が形成された側の主面に対向する主面)との平行度の測定を行った。
【0074】
(平面度)
例1~11で作製したガラス板について、表面粗さ・輪郭形状測定器(株式会社東京精密製、商品名:SURFCOM)を用い、Filter:2RC、Cut Off:0.8~8mm、Control length:20mmとして、非AG部と前記第2の主面との平面度の測定を行った。
【0075】
(触り心地)
例1~11で作製したガラス板について、AG部および非AG部が形成された第1の主面の触り心地を10人による、1:とても良い、2:良い、3:問題ない、4:悪い、5:非常に悪い、の5段階評価の平均値で評価した。
【0076】
(映像度)
例1~11で作製したガラス板について、非AG部を通してみた際の映像度を10人による、○:良い、△:少し悪い、×:悪い、の3段階評価の平均値で評価した。
【0077】
(指紋拭取りテスト)
例1~11で作製したガラス板について、AG部および非AG部が形成された第1の主面に以下の手順で含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成した。
まず、含フッ素有機ケイ素化合物被膜材料として(信越化学工業株式会社製、商品名:KY-185)を加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行って、含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物とした。
次いで、上記含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物が入った加熱容器を270℃まで加熱した。270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。そして、真空チャンバ内に設置したガラス板の第1の主面に対して、前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物を供給し、成膜を行った。
【0078】
成膜の際には、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、ガラス板上に形成した含フッ素有機ケイ素化合物被膜の膜厚が10nmになるまで成膜を行った。含フッ素有機ケイ素化合物被膜の膜厚が10nmになった時点でノズルから原料の供給を停止し、その後真空チャンバから取り出した。取り出されたガラス板は、ホットプレートに膜面を上向きにして設置し、大気中で150℃、60分間熱処理を行った。
【0079】
その後、上記の手順で形成した含フッ素有機ケイ素化合物被膜に対して以下の手順により指紋拭き取り性の確認を行った。各試料の段差部に同等の押しつけ力で、人口汗を使用して指紋を付けた。その後、エタノールを付けたガーゼを用い、指紋が消えるまでの拭き取り回数を確認する拭き取り試験を実施した。10回以内で指紋を拭き取れた場合○とし、11回~50回の拭き取りで取れたものを△とし、50回拭き取りを実施しても取れなかった場合は×とした。
【0080】
例1~11の評価結果を下記表に示す。
【表1】
【表2】
【0081】
表1、2から分かるように、AG部と非AG部のRSmがいずれも1μm以上で、AG部と非AG部のRSmの差が100μm以下の例1~6は、触り心地、指紋拭き取りテスト、映像度が良好であった。これに対して、非AG部のRSmが1μm未満の例7、10および11は触り心地がおよび指紋拭き取りテストの結果が悪かった。また、非AG部のRSmが1μm以上であっても、AG部と非AG部のRSmの差が100μm超の例8および9は、は触り心地がおよび指紋拭き取りテストの結果が悪かった。
【0082】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年6月20日出願の日本特許出願2017-120170に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0083】
10A、10B、10C、10D ガラス板
12 凹部
13 凸部
20 アンチグレア部
30 非アンチグレア部
40 インク