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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】水酸化ニッケル粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20220614BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C01G53/04
H01M4/88 T
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020077479
(22)【出願日】2020-04-24
(62)【分割の表示】P 2016117829の分割
【原出願日】2016-06-14
(65)【公開番号】P2020121923
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2020-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博文
(72)【発明者】
【氏名】木道 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】米里 法道
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-096802(JP,A)
【文献】米国特許第03721729(US,A)
【文献】特開2014-19624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/04
H01M 4/86-4/96
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の硫酸ニッケル水溶液に対して、アルカリ成分としてアルカリ金属の水酸化物と濃度0.4~0.8mol/Lの炭酸ナトリウムとを含有するアルカリ水溶液で中和することにより作製される水酸化ニッケル粒子であって、硫黄品位0.5~2質量%、塩素品位50質量ppm以下、及び総アルカリ金属の品位10質量ppm以下であり、熱処理温度850℃以上950℃未満での熱処理により、硫黄品位100質量ppm以下、レーザー散乱法で測定したD90が0.2~1μmの微細な酸化ニッケル粉末を生成する際の中間原料として使用される水酸化ニッケル粒子。
【請求項2】
レーザー散乱法で測定したD90が5~60μmである、請求項1に記載の水酸化ニッケル粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化ニッケル粒子及びその製造方法、並びに該水酸化ニッケル粒子を中間原料として作製される、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料として好適な不純物品位の低い微細な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化ニッケル微粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル微粉末は、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料等の多様な用途に用いられている。
【0003】
例えば、電子部品用材料としての用途では、酸化ニッケル微粉末を酸化鉄や酸化亜鉛等の他の材料と混合した後、焼結することにより作製されるフェライト部品等が広く用いられている。上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、使用する原料としては一般に微細なものが好適に用いられる。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応を均一に進ませることができる。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが効率向上の重要な要素となる。
【0004】
また、環境及びエネルギーの両面から新しい発電システムとして期待されている固体酸化物形燃料電池では、その電極材料として酸化ニッケル微粉末が用いられている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極からなる単セルが複数セル積層された構造を有しており、燃料極には例えばニッケル又は酸化ニッケルと、安定化ジルコニアからなる固体電解質とを混合したものが通常用いられている。この燃料極は、発電時に水素や炭化水素等の燃料ガスにより還元されてニッケルメタルとなり、ニッケルと固体電解質と空隙からなる三相界面が燃料ガスと酸素の反応場となる。そのため、上記のフェライト部品の場合と同様に、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが発電効率向上の重要な要素となる。
【0005】
ところで、粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積を用いることがあり、粒径と比表面積には下記式1の関係があることが知られている。下記式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、下記式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
【0006】
[式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
【0007】
近年、フェライト部品はますます高機能化する傾向にあり、また、酸化ニッケル微粉末の用途はフェライト部品以外の電子部品や上記した固体酸化物形燃料電池等に広がっており、これに伴い酸化ニッケル微粉末にはその不純物元素の品位を低減することが求められている。不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましい。
【0008】
例えば、特許文献1にはフェライト部品の原料段階におけるフェライト粉の硫黄成分の含有量がS換算で300~900ppmであり、塩素成分の含有量がCl換算で100ppmであるフェライト材料が開示されている。このフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これにより作製されたフェライト磁心や積層チップ部品は、耐湿性と温度特性に優れていると記載されている。
【0009】
酸化ニッケル微粉末は電子部品材料としての用途、特にフェライト部品の原料として用いる場合は、硫黄の含有量を単に低減するだけでなく、硫黄の含有量を所定の範囲内に厳密に制御することも要求されている。従来、そのような要求を満たす酸化ニッケル微粉末を製造する方法として、原料に硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。
【0010】
例えば特許文献2には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度950~1000℃で焙焼する第1段焙焼と、焙焼温度1000~1200℃で焙焼する第2段焙焼とで処理して酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、450~600℃の仮焼による脱水工程と、1000~1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。
【0012】
さらに、特許文献4には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら最高温度900~1250℃で焙焼する酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
【0013】
上記の特許文献2や特許文献3の製造方法によれば、不純物品位の低い酸化ニッケル微粉末が得られるものの、熱処理を2回行うため製造コストが高くなってしまう。また、特許文献2~4のいずれの製造方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、逆に粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるため、微細な粒径と低い硫黄品位とを共に満たす酸化ニッケル粉末を得るのは困難である。さらに、加熱する際にSOxを含む排ガスが大量に発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題を抱えている。
【0014】
この排ガス処理の問題を抑えた酸化ニッケル微粉末の製造方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を晶析させ、これを焙焼する方法が提案されている。この製造方法では、水酸化ニッケル粒子の焙焼の際に、陰イオン成分由来の排ガスの発生が少ないため、排ガス処理は不要となるか若しくは簡易な設備でよく、その分製造コストを抑えることが可能になると考えられる。
【0015】
例えば特許文献5には、塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケル粒子を500~800℃で熱処理して酸化ニッケル粉末とし、得られた酸化ニッケル粉末に水を加えてスラリー化した後、湿式ジェットミルを用いて解砕すると同時に洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な粒径の酸化ニッケル微粉末を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2002-198213号公報
【文献】特開2001-032002号公報
【文献】特開2004-123488号公報
【文献】特開2004-189530号公報
【文献】特開2011-042541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記した特許文献5の製造方法では、原料に塩化ニッケルを用いていることから硫黄の低減は可能であるが、硫黄品位を所定の範囲内に制御することは困難であった。また、湿式解砕を要件としているため、解砕後の乾燥時に凝集するおそれがある上、乾燥工程にコストがかかることが問題になる。
【0018】
本発明は、上述した従来の技術が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、酸化ニッケル微粉末の中間原料としての水酸化ニッケル粒子及びその製造方法、並びにこの水酸化ニッケル粒子から作製される、電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な、不純物品位、特に塩素品位とナトリウム等の総アルカリ金属品位が低く且つ硫黄品位が所望の範囲内に制御された微細な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、発明者らは熱処理時に除害処理を要する排ガスが大量に発生しない製造方法として、ニッケル塩水溶液を中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法に着目して鋭意研究を重ねた結果、原料としての硫酸ニッケル水溶液を特定のアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケル粒子を得た後、得られた水酸化ニッケル粒子を所定の条件で熱処理することで、不純物品位、特に硫黄品位とナトリウム品位が低い微細な酸化ニッケル微粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の水酸化ニッケル粒子は、原料の硫酸ニッケル水溶液に対して、アルカリ成分としてアルカリ金属の水酸化物と濃度0.4~0.8mol/Lの炭酸ナトリウムとを含有するアルカリ水溶液で中和することにより作製される水酸化ニッケル粒子であって、硫黄品位0.5~2質量%、塩素品位50質量ppm以下、及び総アルカリ金属の品位10質量ppm以下であり、熱処理温度850℃以上950℃未満での熱処理により、硫黄品位100質量ppm以下、レーザー散乱法で測定したD90が0.2~1μmの微細な酸化ニッケル粉末を生成する際の中間原料として使用されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フェライト部品などの電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な、不純物品位が低く且つ微細な酸化ニッケル微粉末を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る水酸化ニッケル粒子の製造方法、及びこれにより得た水酸化ニッケル粒子を中間原料とする酸化ニッケル微粉末の製造方法について説明する。水酸化ニッケル粒子の製造方法は、ニッケル塩水溶液を炭酸ナトリウムを含有したアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケル粒子を得るものであり、酸化ニッケル微粉末の製造方法は、上記の製造方法で得た水酸化ニッケル粒子を非還元性雰囲気中において850℃以上950℃未満で熱処理して酸化ニッケル粉末を形成する熱処理工程と、この熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕して酸化ニッケル微粒子を得る解砕工程とからなる。
【0023】
上記水酸化ニッケル粒子の製造方法では、原料のニッケル塩水溶液に硫酸ニッケルを使用することが重要である。硫酸ニッケルを使用することによって、他のニッケル塩を用いた場合に比べ、後段の熱処理工程の温度を高温化しても微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが可能となり、よって、微細で且つ硫黄品位が制御された酸化ニッケル微粉末が得られる。本発明者らは、このように硫黄成分の効果により、熱処理温度が粒径に影響を及ぼすのを抑えることができ、その結果、熱処理温度を特定の範囲に制御することで微細な粒径を維持したまま酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を制御できることを見出した。しかも、この方法は塩化ニッケルを用いないため、原料に不可避的に含まれる不純物以外は実質的に塩素を含有しない酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0024】
上記方法で微細な粒径の酸化ニッケル微粉末が得られる明確な理由は不明であるが、硫酸ニッケルの分解温度は848℃と高温であるため、中和により晶析した水酸化ニッケル粒子中の表面や界面に硫酸塩として硫黄成分が巻きこまれ、これが酸化ニッケル粉末の焼結を高温まで抑制していると考えられる。また、この硫酸ニッケルの分解温度よりも高温で熱処理すれば硫黄成分は揮発するため、熱処理後の酸化ニッケル粉末の硫黄品位を低減することができる。
【0025】
上記熱処理により水酸化ニッケル粒子内の水酸基が脱離して酸化ニッケル粉末が生成されるが、その際、熱処理温度を適切に設定することによって粒径の微細化と硫黄品位の制御が可能になる。具体的には、水酸化ニッケルの熱処理温度を、850℃以上950℃未満、好ましくは860以上900℃以下とすることで、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を100質量ppm以下、比表面積を2m/g以上4m/g未満に抑制することができる。以下、かかる本発明の実施形態に係る水酸化ニッケル粒子の製造方法と酸化ニッケル微粉末の製造方法について工程毎に詳細に説明する。
【0026】
1.水酸化ニッケル粒子の製造方法
本発明の実施形態の水酸化ニッケルの製造方法は、原料としての硫酸ニッケル水溶液を、炭酸ナトリウムを含有したアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケル粒子を得る中和工程からなる。この原料として用いる硫酸ニッケルは、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末が電子部品用、あるいは固体酸化物形燃料電池の電極用として用いられることから、腐食を防止するため、原料中に含まれる不純物が合計100質量ppm未満であることが望ましい。
【0027】
また、硫酸ニッケル水溶液中のニッケル濃度は、生産性を考慮すると、50~150g/Lが好ましい。この濃度が50g/L未満では生産性が悪くなる。一方、150g/Lを超えると硫酸ニッケル水溶液中の陰イオン濃度が高くなりすぎ、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
【0028】
中和に用いるアルカリ水溶液には、反応液中に残留するニッケルの量を考慮して、アルカリ金属の水酸化物をアルカリ成分として含有しており、さらに炭酸ナトリウムを含有しているものを用いる。このアルカリ金属の水酸化物には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムがより好ましい。尚、アルカリは固体の状態で硫酸ニッケル水溶液に添加することが考えられるが、本発明の実施形態では取扱いの容易さから水溶液を用いている。
【0029】
本発明の実施形態では、中和に用いるアルカリ水溶液に含有させるアルカリ成分としての炭酸ナトリウムは、特定の濃度で含有させることを要件にしている。これにより、詳細は不明ではあるが、晶析した水酸化ニッケル粒子の界面や表面に巻き込まれる硫黄成分やナトリウム等のアルカリ金属成分の量を低減することができる。すなわち、炭酸ナトリウムをアルカリ成分として少量含有させると、水酸化ニッケル粒子中の硫黄品位は一旦増加するが、炭酸ナトリウムの混合割合を増加させるに従い、硫黄品位は低下していく。一方、水酸化ニッケル粒子中のナトリウム等のアルカリ金属の品位は、炭酸ナトリウムを少量含有させることで低下させることができるが、炭酸ナトリウムの混合割合を高くしすぎると逆にナトリウム等のアルカリ金属の品位は高くなる。
【0030】
そこで、本発明の実施形態では、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.4~0.8mol/Lにしている。この炭酸ナトリウム濃度が0.4mol/L未満では、水酸化ニッケル粒子の硫黄品位が、炭酸ナトリウムを含有させずに中和させた水酸化ニッケル粒子よりも高くなることがあり、逆に0.8mol/Lを超えると、水酸化ニッケル粒子のナトリウム等のアルカリ金属の品位が、炭酸ナトリウムを含有させずに中和させた水酸化ニッケル粒子よりも高くなることがある。ナトリウム等のアルカリ金属は、後述する熱処理工程において高融点の硫酸塩を形成し、硫黄成分の分解や揮発を阻害する方向に働くので、水酸化ニッケル粒子のアルカリ金属の品位が高いと、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が高くなりやすい。
【0031】
上記中和反応の晶析により得られる水酸化ニッケル粒子は、硫黄品位を2質量%以下にすることができる。この硫黄品位の下限については特に限定はないが、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度が0.4mol/L以上0.8mol/L未満の範囲では0.5質量%以上にすることができる。この硫黄品位は、炭酸ナトリウム濃度等を適宜調整することで好適には1.0~2.0質量%に、より好適には1.2~1.8質量%にすることができる。また、上記の水酸化ニッケル粒子は、ナトリウム等の総アルカリ金属の品位が10質量ppm以下となり、原料に硫酸ニッケルを用いることで、塩素品位は50質量ppm以下となる。尚、総アルカリ金属の品位とは、ナトリウムやカリウム等アルカリ金属元素を合計した品位のことである。
【0032】
上記中和反応の晶析により得られる水酸化ニッケル粒子は、さらにレーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)を60μm以下にすることができる。このD90は、前述した熱処理温度等を適宜調整することで好適には50μm以下にすることができる。上記の水酸化ニッケル粒子のD90の下限値については特に限定はないが、上記中和反応による晶析では通常は5μmが下限となる。
【0033】
均一な特性の水酸化ニッケル粒子を高い生産性で得るためには、反応槽内において十分に撹拌されている液に、予め調製しておいたニッケル塩水溶液としての硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液とをいわゆるダブルジェット方式で添加する連続晶析法が有効である。即ち、反応槽内にニッケル塩水溶液及びアルカリ水溶液のうちのいずれか一方を準備し、もう一方を添加して中和するのではなく、反応槽内において十分に攪拌されている液中に、好適には攪拌を継続しながらニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とを同時並行的に且つ連続的に反応層内で乱流状態となるように添加し、混合して反応液とする方式を採用することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水に上記アルカリ成分を添加し、所定のpHに調整したものを用いるのが好ましい。
【0034】
中和反応時は、反応液のpHを8.3~9.0の範囲内に調整することが好ましく、この範囲内でpHをほぼ一定に保つことが特に好ましい。このpHが8.3より低いと、水酸化ニッケル粒子中に残存する硫酸イオンなどの陰イオン成分の濃度が増大し、これは後段の熱処理工程の際に、大量のSOxとなって炉体をいためるため好ましくない。逆に、pHが9.0より高くなると、得られる水酸化ニッケル粒子が微細になりすぎ、後段の濾過が困難になることがある。また、後段の熱処理工程で焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になることがある。
【0035】
上記した好適な中和条件であるpH9.0以下では反応後の水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、上記の中和による晶析後に、pHを10程度まで上げることによって、その後、濾過した濾液中のニッケル成分を低減することができる。中和反応時のpHは、その変動幅が設定値を中心として絶対値で0.2以内となるように一定に制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物の増大や酸化ニッケル微粉末の比表面積低下を招くおそれがある。
【0036】
中和反応時の液温は、通常の条件で特に問題なく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために、50~70℃とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル粒子中への硫黄の過度の含有を防止することができる。また、水酸化ニッケル粒子中へのナトリウムなどの不純物の巻き込みも抑制でき、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物を低減させることができる。
【0037】
この液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が不十分になって、水酸化ニッケル中への硫黄及び不純物の巻き込みが多くなるおそれがある。逆に、液温が70℃を超えると、水の蒸発量が増加し、水溶液中の硫黄等の不純物濃度が高くなって、生成した水酸化ニッケル粒子中の硫黄等の不純物品位が高くなるおそれがある。
【0038】
上記中和反応の終了後は、晶析により得た水酸化ニッケル粒子を含むスラリーを濾過して該水酸化ニッケル粒子を濾過ケーキの形態で回収する。回収した濾過ケーキは、次の熱処理工程で処理する前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、洗浄に用いる洗浄液としては水が好ましく、純水が特に好ましい。洗浄時の水酸化ニッケルと水の混合割合は特に限定はなく、ニッケル塩に含まれる陰イオン特に硫酸イオン、及びナトリウム等のアルカリ金属成分が、十分に除去できる混合割合とすればよい。具体的には、水酸化ニッケルに対する洗浄液の量は、残留陰イオン及びアルカリ金属等の不純物が十分に低減でき且つ水酸化ニッケル粒子を良好に分散させるために、50~150gの水酸化ニッケルに対して洗浄液1Lを混合することが好ましく、100g程度の水酸化ニッケルに対して洗浄液1Lを混合するのがより好ましい。
【0039】
レパルプ洗浄の洗浄時間については、上記の洗浄液の量や温度などの洗浄条件に応じて適宜定めることができ、残留不純物が十分に低減される時間とすればよい。尚、1回の洗浄で陰イオン及びアルカリ金属等の不純物が十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。特に、ナトリウム等のアルカリ金属は次工程の熱処理ではほとんど除去できないため、この洗浄によって十分に除去することが好ましい。例えば洗浄液に純水を用い、洗浄後の洗浄液の導電率を測定して所定の導電率以下となるまで洗浄を繰り返すことで、不純物を十分に除去することができる。
【0040】
2.酸化ニッケル微粉末の製造方法
本発明の実施形態に係る酸化ニッケル微粉末の製造方法は、熱処理工程と解砕工程とからなる。先ず、熱処理工程では上記の中和工程で得た水酸化ニッケル粒子を熱処理することで酸化ニッケルが生成される。この熱処理は、非還元性雰囲気中において、850℃以上950℃未満の温度範囲で行う。熱処理温度をこの範囲に設定することにより、硫黄品位と比表面積を容易に制御できる。この熱処理温度が950℃以上では、硫黄成分の分解が進行して前述したように焼結の抑制効果が不十分となると共に温度による焼結促進が顕著になる。その結果、熱処理によって得られる酸化ニッケル粉末の焼結が顕著になって結合力が増すので、後段の解砕工程において酸化ニッケル粉末の焼結体の解砕が困難になり、解砕できたとしても微細で良好な比表面積を有する酸化ニッケル微粉末が得られない。
【0041】
逆に、上記水酸化ニッケル粒子の熱処理温度が850℃未満の場合は、硫酸塩等の硫黄成分の分解及び揮発が不十分となり、水酸化ニッケル中に硫黄成分が過度に残留するため、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が100質量ppmを超えるおそれがある。この熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定はないが、経済性を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により水蒸気が発生するため、この水蒸気を効率よく排出することができる程度に十分な流速を有する気流中で行うことが好ましい。尚、熱処理を行う装置には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
【0042】
熱処理時間は、処理温度及び処理量等の熱処理条件に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が2m/g以上、4m/g未満となるように設定すればよい。前述したように、硫黄成分の効果により熱処理後の酸化ニッケルは微細であって、ほとんど焼結しておらず、焼結していても弱く結合しているに過ぎない。そのため、容易に解砕することができ、粉砕により最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積に対して約1.5~2.5m/g増加する程度である。従って、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積で判断して処理条件を設定することができる。すなわち、解砕前の酸化ニッケル粉末の比表面積が0.5~1.5m/gとなるような条件で熱処理することが好ましい。
【0043】
次に、解砕工程では、上記熱処理工程の際に形成され得る酸化ニッケル粉末の焼結体の解砕が行われる。上記熱処理工程では水酸化ニッケル粒子中の水酸基が離脱して酸化ニッケル粉末が形成される。その際、粒径の微細化が起こると共に、硫黄成分により抑制されてはいるものの、高温の影響で酸化ニッケル粉末の焼結がある程度進行する。この焼結体を破壊するため、この解砕工程では熱処理後の酸化ニッケル粉末に対して解砕処理を行い、これにより酸化ニッケル微粉末を得る。
【0044】
一般的な解砕方法としては、ビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いた解砕装置やジェットミル等の解砕メディアを用いないで流体エネルギーを利用した解砕装置があるが、本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、後者の解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易になるものの、解砕メディアを構成するジルコニア等の成分が不純物として混入するおそれがあるからである。特に、電子部品用の酸化ニッケル微粉末を作製する場合は、解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。
【0045】
尚、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕すれば上記のジルコニア品位の問題が解消するが、この場合は解砕メディアを構成する他の成分が不純物として混入し、結果的に不純物品位の高い酸化ニッケル微粉末になるおそれがある。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアでは強度や耐摩耗性で十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いることなく解砕を行う方法が望ましい。
【0046】
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、酸化ニッケル粉末と共に流動させる流体としてガス(気体)や溶媒(液体)を用い、その流動により粉体の粒子同士を衝突させる方法や、溶媒などの液体により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法等がある。粉体の粒子同士を衝突させる解砕装置としては、例えば、乾式ジェットミルや湿式ジェットミルがあり、前者にはナノグラインディングミル(登録商標)や、クロスジェットミル(登録商標)、後者にはアルティマイザー(登録商標)、スターバースト(登録商標)等がある。また、溶媒によりせん断力を与える解砕装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕装置としては、例えば、ナノメーカー(登録商標)等がある。
【0047】
上記解砕方法のうち、粉体の粒子同士を衝突させる方法が、不純物混入のおそれが少なく、比較的大きな解砕力が得られることから特に好ましい。このように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が事実上ない微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが可能となる。尚、湿式解砕では解砕後に行う乾燥処理の際に酸化ニッケル微粉末が再凝集するおそれがあるので、このような再凝集が生じるおそれのない乾式解砕が好ましい。本発明の実施形態の製造方法では、硫酸ニッケルを原料とするため、洗浄による塩素除去を行う必要がない。従って乾燥工程の不要な乾式解砕を採用することができるため、製造コストを抑えることができる。
【0048】
本解砕工程で採用する解砕条件には特に限定はなく、通常の条件の範囲内で適宜調整することにより容易に所望の粒度分布を有する酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0049】
3.酸化ニッケル微粉末の物性
上記した方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、原料から不純物として混入する以外に塩素が混入する工程を含まないので、塩素品位が極めて低い。加えて、硫黄品位が制御されると共に、ナトリウム等の総アルカリ金属品位が低く、比表面積が大きい。具体的には、硫黄品位が100質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、総アルカリ金属の品位が20質量ppm以下である。また、比表面積は2m/g以上、4m/g未満である。従って、電子部品用、特にフェライト部品用の材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料として好適である。尚、固体酸化物形燃料電池の電極用材料としては、硫黄品位が100質量ppm以下であることが好ましいとされている。
【0050】
また、本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。さらに、解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
【0051】
本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法で作製した酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90を1μm以下にすることができる。このD90は好ましくは前述した熱処理温度等を適宜調整することで好適には0.2~0.8μmに、より好適には0.4~0.6μmにすることができる。尚、酸化ニッケル微粉末は電子部品等の製造工程において、他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなることがあり、レーザー散乱法で測定したD90も小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末の比表面積で評価を行う方がより確実である。
【0052】
本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、大量のSOxを含む排ガスが発生することがない。従って、これを除害処理するための高価な設備が不要である。さらに熱処理の回数が1回で済むので、製造コストを低く抑えることができる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0053】
[実施例1]
邪魔板とオーバーフロー口とを有する攪拌機構付きの容量4Lの反応槽に、純水に炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを添加してpH8.5に調整したアルカリ水溶液4Lを張り込み、十分に攪拌した。尚、アルカリ水溶液(炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウム)中の炭酸ナトリウムの濃度は0.4mol/Lに調整した。次に、純水に硫酸ニッケルを溶解してニッケル濃度120g/Lのニッケル水溶液を調製した。
【0054】
さらに、別の純水にアルカリ成分として炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを添加して炭酸ナトリウムの濃度が0.4mol/Lの添加用アルカリ水溶液(反応槽に最初に張り込んだ炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウム濃度は同一)を調製した。これらニッケル水溶液と添加用アルカリ水溶液とを、前述の反応槽内のアルカリ水溶液に同時並行的且つ連続的に添加し、混合して反応液とし、反応液のpHを8.5を中心としてその変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整しながら連続晶析法により水酸化ニッケル粒子を晶析させた。
【0055】
このようにして、水酸化ニッケル粒子の沈殿物を連続的に生成させ、オーバーフローにより回収した。尚、ニッケル水溶液は5mL/分の流量で添加することによって、水酸化ニッケル粒子の滞留時間を約3時間に調整した。この時、ニッケル水溶液と添加用アルカリ水溶液は、供給ノズルからの供給先である反応槽内の反応液との混合部分において、各々乱流状態になっていた。また、この中和反応中、反応槽内では液温を60℃に調整し、攪拌翼を700rpmで回転させて撹拌した。
【0056】
上記のオーバーフローにより回収した水酸化ニッケル粒子を含むスラリーに対してヌッチェによる濾過と保持時間30分の純水レパルプを10回繰り返して、水酸化ニッケル粒子を含む濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを、送風乾燥機を用いて130℃の大気中にて24時間乾燥し、水酸化ニッケル粒子を得た。
【0057】
次に、得られた水酸化ニッケル粒子から3つの熱処理用試料を500gずつ採取し、これらを別々に大気焼成炉で熱処理した。熱処理条件は、1つめは860℃、2つめは880℃、3つめは900℃とし、いずれも大気中で5時間かけて熱処理した。このようにして3種類の酸化ニッケル粉末を得た(熱処理工程)。得られた3種類の酸化ニッケル粉末からそれぞれ分取した300gずつの熱処理用試料の各々に対して、ナノグラインディングミル(登録商標、徳寿工作所製)にてプッシャーノズル圧力1.0MPa、グラインディング圧力0.9MPaにて解砕処理を行った(解砕工程)。
【0058】
[実施例2]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.5mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0059】
[実施例3]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.6mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0060】
[実施例4]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.7mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0061】
[実施例5]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.8mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0062】
[比較例1]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0063】
[比較例2]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を0.3mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0064】
[比較例3]
アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を1.2mol/Lとした以外は実施例1と同様にして水酸化ニッケル粒子と、これを中間原料とする3種類の酸化ニッケル微粉末とを得た。
【0065】
上記の実施例1~5及び比較例1~3で得た水酸化ニッケル粒子及び3種類の酸化ニッケル微粉末に対して塩素品位、硫黄品位及びナトリウム品位を分析し、粒径を測定した。さらに酸化ニッケル微粉末については比表面積を測定した。尚、塩素品位の分析は、試料を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。硫黄品位の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS-3000)によって行った。ナトリウム品位の分析は、硝酸に溶解した後、原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z-2300)により評価することによって行った。試料の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0066】
得られた水酸化ニッケル粒子の硫黄品位、塩素品位、ナトリウム品位及びD90を下記表1に、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位、塩素品位、ナトリム品位、比表面積、及びD90を下記表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記表1の結果から分るように、水酸化ニッケル粒子では、全ての実施例において、硫黄品位が0.5~2.0質量%の範囲内であり、塩素品位は50質量ppm未満、ナトリウム品位は10質量ppm以下となっている。これに対して、比較例1~3では、硫黄品位が2.0質量%を超えているか、ナトリウム品位が10質量ppmを超えているかのいずれかであり、後述する酸化ニッケル微粉末の物性値が電子部品材料として好適な範囲内となっていない。
【0070】
一方、上記表2の結果から分るように、酸化ニッケル微粉末では、全ての実施例において、硫黄品位が100質量ppm以下に制御されている上、塩素品位は50質量ppm未満、ナトリウム品位が20質量ppm未満となっている。また、比表面積が2.0m/g以上と非常に大きくなり、D90が1μm以下と微細な酸化ニッケル微粉末が得られていることが分る。これに対して、比較例1~3では、硫黄品位、塩素品位、比表面積値、及びD90のうちのいずれかが、電子部品材料として好適な範囲内となっていない。